次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1に示す本実施形態の冷陰極蛍光管1は、液晶ディスプレイのバックライト用光源等に用いられるものであり、例えば直径3mm、長さ300mmのガラス管2と、ガラス管2内の両端に取り付けられた1対の冷陰極蛍光管用電極3(以下、単に電極3と略記することがある)とを備える。
ガラス管2は、内壁面にそれ自体周知の蛍光体が塗着されていて、内部にHgとAr,Ne等の不活性ガスとが封入されている。
冷陰極蛍光管用電極3は、例えば、一方が開口する有底筒状体であって、開口部の外径が2.1mm、肉厚が0.15mm、長さが7.0mmとなっている。冷陰極蛍光管用電極3は、薄板状としてもよいが、前記有底筒状体であることにより、電子を放出させ易くすることができる。
1対の各冷陰極蛍光管用電極3は、前記開口部をガラス管2の軸方向に互いに対向させて、ガラス管2内に取り付けられている。冷陰極蛍光管用電極3の底部には、コバール線からなり、ガラス管2に封着されてガラス管2の外方に突出する封着ピン4が接続されている。封着ピン4の冷陰極蛍光管用電極3とは反対側の端部には、ジュメット線からなる外部リード線5が接続されている。また、封着ピン4には、ガラス管2との封着用ガラスビーズ(図示せず)が取り付けられている。
冷陰極蛍光管用電極3は、Feと、全量に対して0.1〜10質量%の範囲のMoと、不可避的不純物とを含有する合金からなる。
本実施形態の冷陰極蛍光管用電極3は、該電極3を構成する合金において基となる元素をFeとしたことにより、該電極3表面及び該電極3からのスパッタ粒子とガラス管2内のHg原子との反応を抑制しHgの消耗を抑制する結果、冷陰極蛍光管1の寿命を長くすることができる。また、本実施形態の冷陰極蛍光管用電極3は、該電極3を構成する前記合金において基となる元素をFeとしたことにより、電極としての基本的な電気特性と優れた加工性とを得ることができる上に、低コスト化することができる。
しかし、冷陰極蛍光管用電極3を構成する前記合金が実質的にFeのみでは、放電特性に課題が残る。そこで、本実施形態の冷陰極蛍光管用電極3では、前記合金に前記範囲のMoを添加している。
本実施形態の冷陰極蛍光管用電極3は、前記合金が前記範囲のMoを含有することにより、放電時の管電圧を低下させて電子放出特性を向上させることができる。また、本実施形態の冷陰極蛍光管用電極3は、前記合金が前記範囲のMoを含有することにより、Fe基合金の発錆を抑制することができる。また、本実施形態の冷陰極蛍光管用電極3は、前記合金が前記範囲のMoを含有することにより、Fe基合金とHgとの反応を抑制することができる。
冷陰極蛍光管用電極3を構成する前記合金において、Moの含有量が全量に対して0.1質量%未満の場合には、電子放出特性を向上させることができず、管電圧を低くすることができない。また、Moの含有量が全量に対して0.1質量%未満の場合には、Fe基合金の発錆を抑制することができず、且つ、Fe基合金とHgとの反応を十分に抑制することもできない。
一方、前記合金において、Moの含有量が全量に対して10質量%を超える場合には、該合金中にFe2Mo、Fe3Mo3等の脆性を示す金属間化合物が形成され、あるいは、硬度が大きくなることにより加工性が低くなるために、所望の形状を備える冷陰極蛍光管用電極3を形成することができない。
また、上述したMo含有の効果をより確実に得るためには、前記合金において、Moの含有量は全量に対して1.5〜5.5質量%の範囲であることが好ましい。
また、本実施形態の冷陰極蛍光管用電極3は、Feと、全量に対して0.1〜10質量%の範囲のMoと、不可避的不純物とに加えて、全量に対して5質量%以下のRuをさらに含有する合金からなるものを用いることができる。この場合には、管電圧をさらに低くすることができ、冷陰極蛍光管1の寿命を長くすることができる。
前記合金において、Ruの含有量が全量に対して5質量%を超えると、管電圧をさらに低くすることはできない上に、コストが上昇してしまう。前記合金において、Ru添加による管電圧低下の効果を確実に得るためには、Ruの含有量を全量に対して0.1〜5質量%の範囲とするとよい。
次に、本実施形態の冷陰極蛍光管1及び冷陰極蛍光管用電極3について、実施例と比較例とを示す。
本実施例では、まず、FeとMoとからなるインゴット10kgを真空溶解炉にて溶解して溶湯を調製し、該溶湯から所定の形状のブロックを製造した。前記ブロックは、全量に対して3.4質量%のMoを含有し、残部がFe及び不可避的不純物である合金からなる。前記不可避的不純物は、前記合金の全量に対して、0.10質量%以下のCと、0.50質量%以下のSiと、0.50質量%以下のMnと、0.05質量%以下のPと、0.05質量%以下のSとを含有している。
次に、前記ブロックに対し1100℃の温度で熱間鍛造を行い、厚さ20mmの板材を得た。次に、前記厚さ20mmの板材をワイヤーカットすることにより、厚さ1mmの板材を得た。次に、前記厚さ1mmの板材を研磨することにより、前記ワイヤーカットで生じた酸化スケールを除去した。
次に、前記酸化スケールが除去された厚さ1mmの板材に対し、常温での冷間圧延と、水素雰囲気下800℃の温度での焼鈍とをこの順で繰り返し行うことにより、厚さ0.2mmの薄板材を得た。次に、前記厚さ0.2mmの薄板材を、水素雰囲気下800℃での焼鈍を10分間行った後に、常温に冷却することにより、冷陰極蛍光管用電極3に用いられる電極材料を得た。
次に、本実施例で得られた電極材料について、ビッカース硬さを測定したところ、156HVであった。結果を表1に示す。
次に、不可避的不純物を除き実質的にNiのみからなる電極材料(参考例1)について、本実施例と全く同一にして、ビッカース硬さを測定したところ、75HVであった。結果を表1に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料について、4探針法により電気抵抗率を測定したところ、19.7μΩ・cmであった。結果を表1及び図2に示す。
次に、参考例1の電極材料について、本実施例と全く同一にして、電気抵抗率を測定したところ、4.6μΩ・cmであった。結果を表1に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料から、縦20mm、横20mm、厚さ0.2mmの試験片2枚を製造した。
まず、1枚目の試験片について、大気中に2160時間放置し、発錆の有無を確認したところ、発錆は確認されなかった。
次に、2枚目の試験片について、スパッタ装置の真空チャンバー内に設置し、5.33×10−1PaのAr雰囲気下、投入電力150Wの条件で8時間連続スパッタを行った。次に、連続スパッタされた前記試験片の重量減を測定することにより、本実施例で得られた電極材料におけるスパッタ率を算出した。
次に、参考例1の電極材料について、本実施例と全く同一にして、試験片を製造し、連続スパッタされた該試験片の重量減を測定することにより、該電極材料におけるスパッタ率を算出した。参考例1の電極材料のスパッタ率を100%とするとき、本実施例の電極材料のスパッタ率は59%に相当した。結果を表1に示す。表1において、スパッタ率は、その値が小さい程、スパッタによる消耗が少なく、耐スパッタ性が優れることを意味している。
次に、本実施例で得られた電極材料から、縦15mm、横1.5mm、厚さ0.2mmの薄板状の本実施例の冷陰極蛍光管用電極3を1対製造した。
次に、本実施例で得られた冷陰極蛍光管用電極3の性能評価を行うために、内壁面に蛍光体が塗着されていないガラス管の内部に、1対の薄板状の冷陰極蛍光管用電極3を備える冷陰極管Aを製造した。冷陰極管Aは、後で冷陰極蛍光管用電極3からスパッタされた原子の有無及びHgとの反応を調べる際の便宜を考慮して、内壁面に蛍光体が塗着されていないガラス管を用いることとしたものである。
まず、冷陰極管Aを製造するために、本実施例で得られた1対の薄板状の冷陰極蛍光管用電極3の端部にコバール線からなる封着ピン4を接続し、該封着ピン4の該電極3とは反対側の端部にジュメット線からなる外部リード線5を接続した。封着ピン4には、ガラス管との封着用ガラスビーズ(図示せず)が取り付けられている。
次に、内壁面に蛍光体が塗着されていない直径3mm、長さ300mmのガラス管内の両端に、封着ピン4が接続された薄板状の冷陰極蛍光管用電極3を取り付けた。このとき、1対の冷陰極蛍光管用電極3は、封着ピン4が接続されていない側の端部が互いに対向するように、軸方向に取り付けられた。
次に、前記ガラス管の内部にHgとArガス及びNeガスとを封入した後に、封着ピン4と該ガラス管とを封着した。このとき、封着ピン4を前記ガラス管の外方に突出させることにより、冷陰極管Aを得た。
次に、得られた冷陰極管Aについて、1対の前記電極3の間に、5mA,6mA,7mA,8mAの管電流をそれぞれ印加し、それぞれの管電流に対して生じた管電圧を測定した。結果を図3に示す。
次に、不可避的不純物を除き実質的にMoのみからなる電極材料を用いた以外は、本実施例と全く同一にして、参考例2としての薄板状の冷陰極蛍光管用電極を1対製造し、1対の該電極を備える冷陰極管Bを製造した。得られた冷陰極管Bについて、1対の前記電極の間に、5mA,6mA,7mA,8mAの管電流をそれぞれ印加し、それぞれの管電流に対して生じた管電圧を測定した。結果を図3に示す。また、前記冷陰極管A(本実施例の冷陰極蛍光管用電極3を備える)に8mAの管電流を印加したときに生じた管電圧を、前記冷陰極管B(参考例2の冷陰極蛍光管用電極を備える)の管電圧に対する比として、図4に示す。
次に、前記冷陰極管Aについて、管電流を6mA一定の条件で200時間放電させた後、該冷陰極管Aを開封して冷陰極蛍光管用電極3を取り出した。次に、冷陰極蛍光管用電極3からスパッタされた原子の有無及びHgとの反応を調べるために、該電極3の表面の組成と、前記ガラス管の内壁面の組成とを、電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)により測定した。結果を表2及び表3に示す。表2は冷陰極蛍光管用電極3の表面の組成を示し、表3は前記ガラス管の内壁面の組成を示す。
次に、本実施例で得られた電極材料から、一方が開口する有底筒状体であって、開口部の外径が2.1mm、肉厚が0.15mm、長さが7.0mmである冷陰極蛍光管用電極3を2対製造した。
次に、本実施例で得られた冷陰極蛍光管用電極3を備える冷陰極蛍光管1について水銀消耗量評価を行うために、内壁面に蛍光体が塗着されているガラス管2の内部に、1対の有底筒状体の冷陰極蛍光管用電極3を備える冷陰極蛍光管1を製造した。
まず、冷陰極蛍光管1を製造するために、本実施例で得られた1対の有底筒状体の冷陰極蛍光管用電極3の端部にコバール線からなる封着ピン4を接続し、該封着ピン4の該電極3とは反対側の端部にジュメット線からなる外部リード線5を接続した。封着ピン4には、ガラス管との封着用ガラスビーズ(図示せず)が取り付けられている。
次に、内壁面に蛍光体が塗着されている直径3mm、長さ569mmのガラス管2内の両端に、封着ピン4が接続された有底筒状体の冷陰極蛍光管用電極3を取り付けた。このとき、1対の冷陰極蛍光管用電極3は、封着ピン4が接続されていない側の端部が互いに対向するように、軸方向に取り付けられた。
次に、ガラス管2の内部にHgとArガスとNeガスとを封入した。前記封入は、Arガス及びNeガスの合計圧力が5.3kPaとなるように行った。次に、封着ピン4とガラス管2とを封着した。このとき、封着ピン4を前記ガラス管の外方に突出させることにより、冷陰極蛍光管1を得た。
次に、得られたガラス管2の長さが569mmである本実施例の冷陰極蛍光管1について、管電流を8mA一定の条件で2000時間放電した。次に、蛍光管中水銀測定装置を用いてガラス管2を240℃の温度で加熱し、ガラス管2から放出された水銀量を有効水銀量として測定したところ、3.64gであった。前記有効水銀量は、前記放電の際に消耗されなかった金属水銀量に相当する。
次に、ガラス管2を900℃の温度で加熱し、ガラス管2から放出された水銀量を消耗水銀量として測定したところ、0.04gであった。前記消耗水銀量は、前記放電の際に消耗された蛍光体や管壁に付着した化合物水銀量に相当する。前記有効水銀量と前記消耗水銀量との和は、冷陰極蛍光管1の製造時にガラス管2内に封入された総水銀量に相当する。そして、次式(1)により前記放電における水銀消耗率を算出した。結果を表4に示す。
水銀消耗率(%)={消耗水銀量(g)/総水銀量(g)}×100(%)…(1)
次に、参考例1の電極材料を用いたことを除いて、本実施例と全く同一にして、有底筒状体の冷陰極蛍光管用電極を1対製造し、内壁面に蛍光体が塗着されている長さ569mmのガラス管の内部に1対の該電極を備える参考例1の冷陰極蛍光管を製造した。
次に、得られたガラス管の長さが569mmである本参考例の冷陰極蛍光管について、実施例1と全く同一にして、管電流を8mA一定の条件で2000時間放電し、該放電における水銀消耗率を算出した。結果を表4に示す。
次に、本実施例で得られた冷陰極蛍光管用電極3を備える冷陰極蛍光管1について寿命評価を行うために、ガラス管2の長さが300mmであることを除いて、ガラス管の長さが569mmである本実施例の冷陰極蛍光管1と全く同一にして、本実施例の冷陰極蛍光管1を製造した。
次に、得られたガラス管2の長さが300mmである本実施例の冷陰極蛍光管1について、管電流を8mA一定の条件で放電し、その際の中心輝度を測定した。次に、得られた結果をレーマン近似することにより、冷陰極蛍光管1の中心輝度が半減するまでに要する時間を算出した。結果を図5及び表5に示す。
次に、参考例1の電極材料を用いたことを除いて、本実施例と全く同一にして、有底筒状体の冷陰極蛍光管用電極を1対製造し、長さ300mmのガラス管の内部に1対の該電極を備える参考例1の冷陰極蛍光管を製造した。
次に、得られたガラス管の長さが300mmである本参考例の冷陰極蛍光管について、本実施例と全く同一にして、管電流を8mA一定の条件で放電した際の中心輝度を測定した。次に、得られた結果をレーマン近似することにより、冷陰極蛍光管の中心輝度が半減するまでに要する時間を算出した。結果を図5及び表5に示す。
本実施例では、全量に対して6.6質量%のMoを含有し、残部がFe及び不可避的不純物である合金を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例の電極材料を製造した。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、ビッカース硬さを測定したところ、200HVであった。結果を表1に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、電気抵抗率を測定したところ、26.0μΩ・cmであった。結果を表1及び図2に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、試験片を製造し、連続スパッタされた該試験片の重量減を測定することにより、該電極材料におけるスパッタ率を算出した。参考例1の電極材料のスパッタ率を100%とするとき、本実施例の電極材料のスパッタ率は65%に相当した。結果を表1に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料から、実施例1と全く同一にして、薄板状の冷陰極蛍光管用電極3を1対製造し、内壁面に蛍光体が塗着されていないガラス管の内部に1対の該電極3を備える冷陰極管Cを製造した。
次に、得られた冷陰極管Cについて、実施例1と全く同一にして、1対の前記電極3の間に8mAの管電流を印加し、生じた管電圧を測定した。前記冷陰極管Cにおける管電圧を、前記冷陰極管Bの管電圧に対する比として、図4に示す。
本実施例では、全量に対して9.9質量%のMoを含有し、残部がFe及び不可避的不純物である合金を用いたこと以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例の電極材料を製造した。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、ビッカース硬さを測定したところ、291HVであった。結果を表1に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、電気抵抗率を測定したところ、26.2μΩ・cmであった。結果を表1及び図2に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、試験片を製造し、連続スパッタされた該試験片の重量減を測定することにより、該電極材料におけるスパッタ率を算出した。参考例1の電極材料のスパッタ率を100%とするとき、本実施例の電極材料のスパッタ率は71%に相当した。結果を表1に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料から、実施例1と全く同一にして、薄板状の冷陰極蛍光管用電極3を1対製造し、内壁面に蛍光体が塗着されていないガラス管の内部に1対の該電極3を備える冷陰極管Dを製造した。
次に、得られた冷陰極管Dについて、実施例1と全く同一にして、1対の前記電極3の間に8mAの管電流を印加し、生じた管電圧を測定した。前記冷陰極管Dにおける管電圧を、前記冷陰極管Bの管電圧に対する比として、図4に示す。
本実施例では、全量に対して0.17質量%のMoを含有し、残部がFe及び不可避的不純物である合金を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例の電極材料を製造した。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、ビッカース硬さを測定したところ、113HVであった。結果を表1に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、電気抵抗率を測定したところ、11.0μΩ・cmであった。結果を表1及び図2に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、試験片を製造し、連続スパッタされた該試験片の重量減を測定することにより、該電極材料におけるスパッタ率を算出した。参考例1の電極材料のスパッタ率を100%とするとき、本実施例の電極材料のスパッタ率は58%に相当した。結果を表1に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料から、実施例1と全く同一にして、薄板状の冷陰極蛍光管用電極3を1対製造し、内壁面に蛍光体が塗着されていないガラス管の内部に1対の該電極3を備える冷陰極管Eを製造した。
次に、得られた冷陰極管Eについて、実施例1と全く同一にして、1対の前記電極3の間に8mAの管電流を印加し、生じた管電圧を測定した。前記冷陰極管Eにおける管電圧を、前記冷陰極管Bの管電圧に対する比として、図4に示す。
本実施例では、全量に対して1.7質量%のMoを含有し、残部がFe及び不可避的不純物である合金を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例の電極材料を製造した。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、ビッカース硬さを測定したところ、149HVであった。結果を表1に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、電気抵抗率を測定したところ、15.4μΩ・cmであった。結果を表1及び図2に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、試験片を製造し、連続スパッタされた該試験片の重量減を測定することにより、該電極材料におけるスパッタ率を算出した。参考例1の電極材料のスパッタ率を100%とするとき、本実施例の電極材料のスパッタ率は57%に相当した。結果を表1に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料から、実施例1と全く同一にして、薄板状の冷陰極蛍光管用電極3を1対製造し、内壁面に蛍光体が塗着されていないガラス管の内部に1対の該電極3を備える冷陰極管Fを製造した。
次に、得られた冷陰極管Fについて、実施例1と全く同一にして、1対の前記電極3の間に8mAの管電流を印加し、生じた管電圧を測定した。前記冷陰極管Fにおける管電圧を、前記冷陰極管Bの管電圧に対する比として、図4に示す。
本実施例では、全量に対して5.0質量%のMoを含有し、残部がFe及び不可避的不純物である合金を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例の電極材料を製造した。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、ビッカース硬さを測定したところ、175HVであった。結果を表1に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、電気抵抗率を測定したところ、23.8μΩ・cmであった。結果を表1及び図2に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、試験片を製造し、連続スパッタされた該試験片の重量減を測定することにより、該電極材料におけるスパッタ率を算出した。参考例1の電極材料のスパッタ率を100%とするとき、本実施例の電極材料のスパッタ率は57%に相当した。結果を表1に示す。
次に、本実施例で得られた電極材料から、実施例1と全く同一にして、薄板状の冷陰極蛍光管用電極3を1対製造し、内壁面に蛍光体が塗着されていないガラス管の内部に1対の該電極3を備える冷陰極管Gを製造した。
次に、得られた冷陰極管Gについて、実施例1と全く同一にして、1対の前記電極3の間に8mAの管電流を印加し、生じた管電圧を測定した。前記冷陰極管Gにおける管電圧を、前記冷陰極管Bの管電圧に対する比として、図4に示す。
〔比較例1〕
本比較例では、不可避的不純物を除き実質的にFeのみからなる金属を用いたこと以外は、実施例1と全く同一にして、本比較例の電極材料を製造した。
次に、本比較例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、ビッカース硬さを測定したところ、110HVであった。結果を表1に示す。
次に、本比較例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、電気抵抗率を測定したところ、10.1μΩ・cmであった。結果を表1及び図2に示す。
次に、本比較例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、試験片を製造し、連続スパッタされた該試験片の重量減を測定することにより、該電極材料におけるスパッタ率を算出した。参考例1の電極材料のスパッタ率を100%とするとき、本比較例の電極材料のスパッタ率は58%に相当した。結果を表1に示す。
次に、本比較例で得られた電極材料から、実施例1と全く同一にして、薄板状の冷陰極蛍光管用電極を1対製造し、内壁面に蛍光体が塗着されていないガラス管の内部に1対の該電極を備える冷陰極管Hを製造した。
次に、得られた冷陰極管Hについて、実施例1と全く同一にして、1対の前記電極の間に5mA,6mA,7mA,8mAの管電流をそれぞれ印加し、それぞれの管電流に対して生じた管電圧を測定した。結果を図3に示す。また、前記冷陰極管Hにおける管電圧を、前記冷陰極管Bの管電圧に対する比として、図4に示す。
次に、前記冷陰極管Hについて、実施例1と全く同一にして、冷陰極蛍光管用電極の表面の組成と、ガラス管の内壁面の組成とを、EPMAにより測定した。結果を表2及び表3に示す。
〔比較例2〕
本比較例では、全量に対して15.3質量%のMoを含有し、残部がNi及び不可避的不純物である合金を用いたこと以外は、実施例1と全く同一にして、本比較例の電極材料を製造した。
次に、本比較例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、ビッカース硬さを測定したところ、305HVであった。結果を表1に示す。
次に、本比較例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、電気抵抗率を測定したところ、72.6μΩ・cmであった。結果を表1に示す。
次に、本比較例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、試験片を製造し、連続スパッタされた該試験片の重量減を測定することにより、該電極材料におけるスパッタ率を算出した。参考例1の電極材料のスパッタ率を100%とするとき、本比較例の電極材料のスパッタ率は111%に相当した。結果を表1に示す。
次に、本比較例で得られた電極材料から、実施例1と全く同一にして、薄板状の冷陰極蛍光管用電極を1対製造し、内壁面に蛍光体が塗着されていないガラス管の内部に1対の該電極を備える冷陰極管Jを製造した。
次に、前記冷陰極管Jについて、実施例1と全く同一にして、冷陰極蛍光管用電極の表面の組成と、ガラス管の内壁面の組成とを、EPMAにより測定した。結果を表2及び表3に示す。
〔比較例3〕
本比較例では、全量に対して16.0質量%のMoを含有し、残部がFe及び不可避的不純物である合金を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本比較例の電極材料を製造した。
次に、本比較例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、ビッカース硬さを測定したところ、490HVであった。結果を表1に示す。
次に、本比較例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、電気抵抗率を測定したところ、33.6μΩ・cmであった。結果を表1及び図2に示す。
次に、本比較例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、試験片を製造し、連続スパッタされた該試験片の重量減を測定することにより、該電極材料におけるスパッタ率を算出した。参考例1の電極材料のスパッタ率を100%とするとき、本比較例の電極材料のスパッタ率は65%に相当した。結果を表1に示す。
次に、本比較例で得られた電極材料から、実施例1と全く同一にして、薄板状の冷陰極蛍光管用電極を1対製造し、内壁面に蛍光体が塗着されていないガラス管の内部に1対の該電極を備える冷陰極管Kを製造した。
次に、得られた冷陰極管Kについて、実施例1と全く同一にして、1対の前記電極の間に8mAの管電流を印加し、生じた管電圧を測定した。前記冷陰極管Kにおける管電圧を、前記冷陰極管Bの管電圧に対する比として、図4に示す。
〔比較例4〕
本比較例では、全量に対して23.3質量%のMoを含有し、残部がFe及び不可避的不純物である合金を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本比較例の電極材料を製造した。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、ビッカース硬さを測定したところ、493HVであった。結果を表1に示す。
次に、本比較例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、電気抵抗率を測定したところ、36.2μΩ・cmであった。結果を表1及び図2に示す。
次に、本比較例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、試験片を製造し、連続スパッタされた該試験片の重量減を測定することにより、該電極材料におけるスパッタ率を算出した。参考例1の電極材料のスパッタ率を100%とするとき、本比較例の電極材料のスパッタ率は83%に相当した。結果を表1に示す。
次に、本比較例で得られた電極材料から、実施例1と全く同一にして、薄板状の冷陰極蛍光管用電極を1対製造し、内壁面に蛍光体が塗着されていないガラス管の内部に1対の該電極を備える冷陰極管Lを製造した。
次に、得られた冷陰極管Lについて、実施例1と全く同一にして、1対の前記電極の間に8mAの管電流を印加し、生じた管電圧を測定した。前記冷陰極管Lにおける管電圧を、前記冷陰極管Bの管電圧に対する比として、図4に示す。
表1から、Moの含有量が全量に対して0.17〜9.9質量%の範囲であり、残部が実質的にFeである実施例1〜6の電極材料は、Moの含有量が全量に対して15.3質量%であり、残部が実質的にNiである比較例2の電極材料と比較して、ビッカース硬さが小さく、加工性に優れていることが明らかである。一般的に、金属材料において、ビッカース硬さが低い材料は冷間塑性加工性に優れており、ビッカース硬さが300HV以下であれば冷間加工が容易である。したがって、表1の結果から、実施例1〜6の電極材料は実施例1の冷陰極蛍光管用電極3に容易に加工することができることが明らかである。
また、表1から、Moの含有量が全量に対して15.3質量%であり、残部が実質的にNiである比較例2の電極材料のスパッタ率は、実質的にNiのみからなる参考例1の電極材料よりも大きいことが明らかである。一方、Moの含有量が全量に対して0.17〜9.9質量%であり、残部が実質的にFeである実施例1〜6の電極材料のスパッタ率は、参考例1の電極材料よりも小さいことが明らかである。したがって、実施例1〜6の電極材料は、スパッタ率が小さく、優れた耐スパッタ性を備えることが明らかである。
また、図2から、Moの含有量が全量に対して0.17〜9.9質量%の範囲であり、残部が実質的にFeである実施例1〜6の電極材料は、Moの含有量が大きくなるほど電気抵抗率が大きくなることが明らかである。特に、Moの含有量が全量に対して10質量%を超えると電気抵抗率が急上昇することから、Moを含有するFe基合金からなる電極材料において、Moの含有量は全量に対して10質量%以下とすることがよいことが明らかである。
また、図3から、Moの含有量が全量に対して3.4質量%であり、残部が実質的にFeである実施例1の冷陰極蛍光管用電極3は、実質的にFeのみからなる比較例1の冷陰極蛍光管用電極と比較して、Moの含有量が少ないにも拘わらず、管電圧が小さいことが明らかである。また、実施例1の冷陰極蛍光管用電極3は、実質的にMoのみからなる参考例2の冷陰極蛍光管用電極に近い管電圧となっていることが明らかである。
また、実施例1の冷陰極蛍光管用電極3は、実質的にMoのみからなる参考例2の冷陰極蛍光管用電極に近い管電圧となっていることが明らかである。したがって、実施例1の冷陰極蛍光管用電極3は、管電圧が小さくエネルギー効率が良好であることが明らかである。
また、図4から、管電流を8mAとするとき、Moの含有量が全量に対して0.17〜9.9質量%の範囲であり、残部が実質的にFeである実施例1〜6の冷陰極蛍光管用電極3は、実質的にFeのみからなる比較例1の冷陰極蛍光管用電極と比較して、管電圧が小さいことが明らかである。また、Moの含有量が全量に対して1.5〜5.5質量%の範囲であり、残部が実質的にFeである実施例1,5,6の冷陰極蛍光管用電極3は、管電圧が特に小さく、エネルギー効率が良好であることが明らかである。
また、冷陰極管A(実施例1の薄板状の冷陰極蛍光管用電極3を備える)においては、表2から、該電極3の表面にHg原子が存在していないことが明らかであり、表3から、ガラス管の内壁面にFe原子が3.3質量%存在し、Hg原子が存在していないことが明らかである。これは、冷陰極蛍光管用電極3の表面にMoが存在することによると考えられる。
したがって、前記冷陰極管Aにおいては、前記電極3を構成するFe原子が僅かにスパッタされるものの、該電極3の表面とガラス管の内壁面との両方にFeとHgとからなる合金(アマルガム)が形成されていないことが明らかである。これにより、冷陰極管Aは、アマルガム形成によりガラス管内のHgを消耗することがなく、該冷陰極管Aの寿命を長くすることができることが明らかである。
一方、冷陰極管H(比較例1の薄板状の冷陰極蛍光管用電極を備える)においては、表2から、該電極の表面にHg原子が2.5質量%存在することが明らかである。したがって、冷陰極管Hにおいては、前記電極の表面にFeとHgとが微量ながら反応していることが明らかである。
また、冷陰極管J(比較例2の薄板状の冷陰極蛍光管用電極を備える)においては、表3から、ガラス管の内壁面に、Mo原子が1.5質量%、Ni原子が43.33質量%、Hg原子が1.2質量%存在することが明らかである。したがって、冷陰極管Jにおいては、前記電極を構成するMo原子及びNi原子が多量にスパッタされてガラス管の内壁面に付着し、Hgに対して反応しやすいNiとHgとからなるアマルガムが形成されていることが明らかである。これにより、冷陰極管Jは、アマルガム形成によりガラス管内のHgを消耗し、該冷陰極管Jの寿命が短くなることが明らかである。
したがって、Moの含有量が全量に対して0.17〜9.9質量%の範囲であり、残部が実質的にFeである上記各実施例1〜6の冷陰極蛍光管用電極3を、内壁面にそれ自体周知の蛍光体が塗着されたガラス管2の内部に備える冷陰極蛍光管1は、アマルガム形成によりガラス管内のHgを消耗することがなく、該蛍光管1の寿命を長くすることができることが明らかである。
また、表4から、Moの含有量が全量に対して3.4質量%であり、残部が実質的にFeである実施例1の冷陰極蛍光管用電極3は、実質的にNiのみからなる参考例1の冷陰極蛍光管用電極と比較して、水銀消耗率が格段に低いことが明らかである。したがって、実施例1の冷陰極蛍光管1は、ガラス管2内のHgの消耗が非常に少なく、該蛍光管1の寿命を長くすることができることが明らかである。
本実施例では、全量に対して3.4質量%のMoと、全量に対して0.6質量%のRuとを含有し、残部がFe及び不可避的不純物である合金を用いた以外は、実施例1と全く同一にして、本実施例の電極材料を製造した。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、ビッカース硬さを測定したところ、153HVであった。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、電気抵抗率を測定したところ、22.1μΩ・cmであった。
次に、本実施例で得られた電極材料について、実施例1と全く同一にして、試験片を製造し、連続スパッタされた該試験片の重量減を測定することにより、該電極材料におけるスパッタ率を算出した。参考例1の電極材料のスパッタ率を100%とするとき、本実施例の電極材料のスパッタ率は71%に相当した。
次に、本実施例で得られた電極材料を用いたことを除いて、実施例1と全く同一にして、本実施例の有底筒状体の冷陰極蛍光管用電極3を1対製造し、内壁面に蛍光体が塗着されている長さ300mmのガラス管2の内部に1対の該電極3を備える本実施例の冷陰極蛍光管1を製造した。
次に、本実施例で得られた冷陰極蛍光管1を用いたことを除いて、本実施例と全く同一にして、管電流を8mA一定の条件で放電した際の中心輝度を測定し、得られた結果をレーマン近似することにより、冷陰極蛍光管1の中心輝度が半減するまでに要する時間を算出した。結果を図5及び表5に示す。
実施例1の冷陰極蛍光管1は、Moの含有量が全量に対して3.4質量%であり、残部が実質的にFeである冷陰極蛍光管用電極3を備えている。実施例7の冷陰極蛍光管1は、Moの含有量が全量に対して3.4質量%であり、Ruの含有量が全量に対して0.6質量%であり、残部が実質的にFeである冷陰極蛍光管用電極3を備えている。参考例1の冷陰極蛍光管は、実質的にNiのみからなる冷陰極蛍光管用電極を備えている。
図5及び表5から、実施例1の冷陰極蛍光管1は、参考例1の冷陰極蛍光管と比較して、中心輝度が半減するまでに要する時間が長く、実施例7の冷陰極蛍光管1は、実施例1の冷陰極蛍光管1と比較して、中心輝度が半減するまでに要する時間がさらに長いことが推測される。したがって、実施例7の冷陰極蛍光管1は、寿命を特に長くすることができることが明らかである。