(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる多相回転機の制御装置を車載エアコンディショナの備える3相電動機の制御装置に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に、上記電動機及びその制御システムの全体構成を示す。
図示される電動機10は、埋め込み磁石式同期電動機であり、車載エアコンディショナのブロアモータである。電動機10の3つの相(U相、V相、W相)には、インバータ12が接続されている。このインバータ12は、3相インバータであり、3つの相のそれぞれとバッテリ14の正極側又は負極側とを導通させるべく、スイッチング素子SW1,SW2とスイッチング素子SW3,SW4とスイッチング素子SW5,SW6との並列接続体を備えている。更に、インバータ12は、各スイッチング素子SW1〜SW6に並列に接続されたフリーホイールダイオードD1〜D6を備えている。そして、スイッチング素子SW1及びスイッチング素子SW2を直列接続する接続点が電動機10のU相と接続されている。また、スイッチング素子SW3及びスイッチング素子SW4を直列接続する接続点が電動機10のV相と接続されている。更に、スイッチング素子SW5及びスイッチング素子SW6を直列接続する接続点が電動機10のW相と接続されている。ちなみに、これらスイッチング素子SW1〜SW6は、本実施形態では、MOSトランジスタによって構成されている。
インバータ12の各1組のスイッチング素子SW1,SW2とスイッチング素子SW3,SW4とスイッチング素子SW5,SW6との両端には、平滑コンデンサ16及び電圧計18が接続されている。
インバータ12のうちバッテリ14の負極端子側とスイッチング素子SW2との間には、スイッチング素子SW2に直列に、同スイッチング素子SW2やダイオードD2を流れる電流を感知するシャント抵抗Ruが接続されている。また、バッテリ14の負極端子側とスイッチング素子SW4との間には、スイッチング素子SW4に直列に、同スイッチング素子SW4やダイオードD4を流れる電流を感知するシャント抵抗Rvが接続されている。更に、バッテリ14の負極端子側とスイッチング素子SW6との間には、スイッチング素子SW6に直列に、同スイッチング素子SW6やダイオードD6を流れる電流を感知するシャント抵抗Rwが接続されている。
一方、制御装置20は、上記シャント抵抗Ru,Rv,Rwの出力(シャント抵抗Ru,Rv,Rwによる電圧降下量)を取り込む。そして、制御装置20は、上記電動機10の3つの相を流れるそれぞれの電流等に基づき、ゲート駆動回路22を介してスイッチング素子SW1〜SW6を操作する。
図2に、上記制御装置20の行う処理のうち、特にスイッチング素子SW1〜SW6の操作信号の生成に関する処理を示す。
振幅設定部30は、電動機10に対する速度の指令値(速度指令値ωd)に基づき、各相の指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1の振幅Vmを設定する。ここでは、速度指令値ωdにゲインKωを乗算することで、振幅Vmを設定すればよい。
指令電圧設定部32は、振幅設定部30によって定められた振幅Vm、速度指令値ωd、及び後に詳述する位相設定部34によって設定される位相φに基づき、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1を設定する。
デューティ信号生成部36では、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1をバッテリ14の電圧VBの「1/2」で除算することで、バッテリ14の電圧VBの「1/2」で規格化されたデューティ信号Du1,Dv1,Dw1を生成する。
2相変調部38では、デューティ信号Du1,Dv1,Dw1の各相間の差を保ちつつこれらのうちの最小となるものをバッテリ14の負極電位と一致させる2相変調を行う。図3に、2相変調部38の行う処理の手順を示す。この一連の処理では、ステップS10において、デューティ信号Du1,Dv1,Dw1のオフセット補正量Δを算出する。オフセット補正量Δは、デューティ信号Du1,Dv1,Dw1の最小値に対するバッテリ14の負極側端子の電位の差である。換言すれば、デューティ信号Du1,Dv1,Dw1に対する「−1」の差である。そして、ステップS12では、デューティ信号Du1,Dv1,Dw1にオフセット量Δを加算することで、デューティ信号Du,Dv,Dwを算出する。
続くステップS14では、デューティ信号Du,Dv,Dwのうちその絶対値が1よりも大きいものがあるか否かを判断する。この処理は、デューティ信号Du,Dv,Dwにガード処理が必要か否かを判断するものである。そしてステップS14において肯定判断されるときには、ステップS16において、絶対値が「1」を超えたものについて、その絶対値を「1」に制限するガード処理を行う。なお、ステップS16の処理が完了するときや、上記ステップS14において否定判断されるときには、この一連の処理を一旦終了する。こうして算出されるデューティ信号Du,Dv,Dwが、最終的な指令電圧Vuc,Vvc,Vwcを、バッテリ14の電圧VBの「1/2」で規格化した信号である。
先の図2に示すPWM信号生成部40では、デューティ信号Du,Dv,Dwとキャリア信号との大小関係に基づき、スイッチング素子SW1〜SW6の操作信号gup,gun,gvp,gvn,gwp,gwnを生成する。特に本実施形態では、図4に示すように、上記指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1やデューティ信号Du,Dv,Dwの算出を、キャリアの周期に同期して行う。図4(a)に、本実施形態にかかるキャリアを示し、図4(b)に、デューティ信号Du,Dv,Dwの算出タイミングを示す。図示されるように、本実施形態にかかるキャリアは、上昇速度及び下降速度が互いに等しい2等辺三角形状の信号である。そして、キャリアが下限値となる都度、デューティ信号Du,Dv,Dwが算出される。
図5に、PWM信号生成部40による操作信号gun,gvn,gwnの生成態様を示す。詳しくは、図5(a)にキャリアを拡大したものを示し、また、図5(b)にU相の操作信号gunの推移を示し、図5(c)に、V相の操作信号gvnの推移を示し、図5(d)に、W相の操作信号gwnの推移を示す。図示されるように、デューティ信号Du,Dv,Dwは、キャリアが下限値から次の下限値となるまでの1周期に渡って変化しない。このため、デューティ信号Du,Dv,Dwとキャリアの大小関係は、キャリアが上限値となるタイミングに対して線対称となる。したがって、操作信号gun,gvn,gwnもキャリアが上限値となるタイミングに対して線対称となる。
スイッチング素子SW1〜SW6の操作態様は、図6に示す8個の電圧ベクトルによって表される。ここで、電圧ベクトルV0は、下側アームのスイッチング素子SW2,SW4,SW6の全てがオン状態であることを表現する。また、奇数電圧ベクトルV1,V3,V5は、1相のみ上段のスイッチング素子がオン状態であることを表現する。また、偶数電圧ベクトルV2,V4,V6は、1相のみ下段のスイッチング素子がオン状態であることを表現する。そして、電圧ベクトルV7は、上側アームのスイッチング素子SW1,SW3,SW5の全てがオン状態である状態を表現する。
先の図2に示した位相設定部34では、電動機10を流れる電流を最小としつつその生成するトルクを最大とする最大トルク制御を行うように位相φを操作する。これは、図7に示すように、電動機10の磁石に対して90度進んだ位相に電流を流すことで実現することができる。この場合、図7(a)及び図7(b)に示すように、各相の誘起電圧の位相と相電流の位相とが一致する。また、図7(c)及び図7(d)に示すように、線間(UV相間、VW相間、及びWU相間)の誘起電圧の位相と線間電流の位相とも一致する。
したがって、最大トルク制御をするためには、図8に示すように、線間誘起電圧の位相に対して線間電流の位相が遅れた場合には線間電流の位相を進め、線間誘起電圧の位相に対して線間電流の位相が進んだ場合には、線間電流の位相を遅らせればよいこととなる。
上記制御を行うべく、本実施形態では、電圧ベクトルV0において、線間電流がゼロとなるゼロクロスタイミングと、線間電流の変化量がゼロとなるゼロクロスタイミングとを一致させる。以下、これについて説明する。
電圧ベクトルV0の期間においては、各1相の等価回路は、図9にU相について例示するように、電動機10の抵抗成分R、インダクタンス成分L及び誘起電圧eU生成源の直列回路となる。このため、下記の式(c1)で定義される。
R×Iu+L(dIu/dt)+eU=0 …(c1)
同様に、V相については、下記の式(c2)が成り立つ。
R×Iv+L(dIv/dt)+eV=0 …(c2)
上記(c1)から(c2)を減算すると、
R×(Iu−Iv)+L(dIu/dt−dIv/dt)+(eU−eV)=0
すなわち
R×Iuv+L×(dIuv/dt)+eUV=0 …(c3)
上記の式(c3)において、線間電流Iuvがゼロとなるときには、下記の式が成立する。
eUV=−L×(dIuv/dt) …(c4)
上記の式(c4)によれば、線間電流がゼロとなるときの線間誘起電圧eUVを、線間電流の変化量によって表現することができる。特に、線間電流がゼロとなるときの線間誘起電圧eUVをゼロとするためには、線間電流がゼロとなるときに線間電流の変化量もゼロとなるようにすればよい。
そこで本実施形態では、先の図2に示すように、シャント抵抗Ru,Rv,Rwによる電圧降下量ru,rv,rwに基づき、線間電流の極性を検出する極性検出部42と、線間電流の変化量の極性を検出する変化極性検出部44とを備えている。そして、極性検出部42によって検出される極性の反転タイミングとしての線間電流のゼロクロスタイミングと、変化極性検出部44によって検出される極性の反転タイミングとしての線間電流の変化量のゼロクロスタイミングとに基づき、位相設定部34により、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1の位相が設定される。図10に、極性検出部42及び変化極性検出部44の行う処理の手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS20において、デューティ信号Du,Dv,Dwの最大値に基づき、電圧ベクトルV0の終了タイミングTfを算出する。すなわち、電圧ベクトルV0の期間は、デューティ信号Du,Dv,Dwの最大値がキャリアよりも小さくなる期間であるため、デューティ信号Du,Dv,Dwの最大値に基づき、電圧ベクトルV0の期間を知ることができる。このため、デューティ信号Du,Dv,Dwの最大値に基づき、電圧ベクトルV0の終了タイミングTfを算出する。
続くステップS22においては、電圧ベクトルV0期間が開始したか否かを判断する。この処理は、操作信号gun,gvn,gwnの論理値に基づき行うことができる。そして、電圧ベクトルV0期間の開始時期であると判断されるときには、ステップS24において、該当する2相の線間電流Iuv,Ivw,Iwu(線間電流I(n−1))を算出する。ここで、「該当する2相」は、電気角度で「60°」毎に切り替えられるものであり、これら各「60°」の領域には、ゼロクロスタイミングが1つずつ含まれる。このため、該当する2相は、当該領域内にゼロクロスタイミングが含まれると想定される2相とする。
線間電流I(n−1)の検出が完了すると、終了タイミングTfよりも所定時間αだけ短い規定時間となるまで待機する(ステップS26:NO)。そして、規定時間となると、上記ステップS24と同一の2相の線間電流I(n)を検出する。続くステップS30では、線間電流の極性を算出する。ここでは、ステップS24によって検出される線間電流I(n−1)とステップS28によって検出される線間電流I(n)との和の符号(極性)を、線間電流の極性とする。更に、ステップS32においては、線間電流の変化量の極性を算出する。ここでは、ステップS24によって検出される線間電流I(n−1)に対するステップS30によって検出される線間電流I(n)の差の符号(極性)によって、線間電流の変化の極性を算出する。
なお、ステップS32の処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。
図11に、上記位相設定部34の行う処理の手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS40において、線間電流の極性の反転タイミングを算出する。この処理は、線間電流のゼロクロスタイミングΦ(I=0)を算出するものである。続くステップS42においては、線間電流の変化極性の反転タイミングを算出する。この処理は、線間電流の変化量のゼロクロスタイミングΦ(dI/dt=0)を算出するものである。そして、ステップS44においては、ステップS42において算出されたゼロクロスタイミングΦ(dI/dt=0)に対するステップS40において算出されたゼロクロスタイミングΦ(I−0)の時間差ΔΦに基づき、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1の位相φを算出する。また、時間差ΔΦは、線間電流の位相と、線間電流の変化量の極性を反転させたものとの同一位相のゼロクロスタイミング間の時間差とする。これは、図12に示す理由による。
図12(a)に、線間の誘起電圧の推移を示し、図12(b)に、線間電流の推移を示し、図12(c)に、電圧ベクトルV0期間における線間電流の変化量の推移を示す。図示されるように、電圧ベクトルV0期間における線間電流の変化量は、線間の誘起電圧と位相が逆転している。これは、上記の式(c4)の結果である。このため、誘起電圧と線間電流との位相を一致させるためには、線間電流の位相と線間電流の変化量の極性を反転させたものの位相とを一致させる必要がある。なお、図12(b)では、電圧ベクトルV0期間の線間電流の挙動を模式的に太線にて表記した。
先の図11のステップS44においては、時間差ΔΦの比例積分演算に基づき位相φを算出する。ここでは、線間電流のゼロクロスタイミングΦ(I=0)が、線間電流の変化量のゼロクロスタイミングΦ(dI/dt=0)よりも遅れているときには、位相φを進角させる。これに対し、線間電流のゼロクロスタイミングΦ(I=0)が、線間電流の変化量のゼロクロスタイミングΦ(dI/dt=0)に対して進んでいるときには、位相φを遅角させる。
なお、ステップS44の処理が完了すると、この一連の処理を一旦終了する。
上記処理により、最大トルク制御を行うことができる。特に、本実施形態では、2相変調処理を施して且つ、線間電流のゼロクロスタイミングを用いることで、ゼロクロスタイミング近傍における電圧ベクトルV0の期間を伸張させることができる。このため、線間電流の変化を高精度に算出することが可能となっている。すなわち、図13(a1)に示すように2相変調を行って実際に電動機10に印加する電圧を指令電圧Vuc,Vvc,Vwcに変換することで、図13(b1)に示すように、電圧ベクトルV0の期間が、図13(a2)及び図13(b2)に示す場合と比較して伸張する。そして、これにより、図14に示すように、電圧ベクトルV0の長さを確保しつつ、電気角の1回転周期内にゼロクロスタイミングを6回検出することが可能となる。ここで、図14(a1)は、電圧ベクトルの推移例を示し、図14(b1)は、線間電流の推移を示し、図14(c1)は、電圧ベクトルV0のパルス幅を示し、図14(d1)は、指令電圧Vuc,Vvc,Vwcの推移を示す。線間電圧や線間電流は、相電圧の位相に対して「30°」ずれるために、ゼロクロスタイミング近傍において電圧ベクトルV0のパルス幅が最大となる。このため、線間電流やその変化量の極性を検出する十分な時間を確保することができる。
これに対し、図14(a2)〜図14(d2)に、相電流を用いてゼロクロスタイミングを検出する場合を示す。この場合、ゼロクロスタイミング近傍において電圧ベクトルV0のパルス幅が略ゼロとなる。このため、相電流やその変化量の極性を適切に検出することができない。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)線間電流及びその変化量のゼロクロスタイミングに基づきインバータ12のスイッチング素子SW1〜SW6を操作した。これにより、高変調率時であっても線間電流や線間電流の変化量の検出可能期間を十分に確保することができるため、変調率にかかわらずその制御性を高く維持することができる。
(2)線間電流のゼロクロスタイミングと線間電流の変化量のゼロクロスタイミングとの時間差をゼロにフィードバック制御した。これにより、最小の電流で最大のトルクを生成するトルク最大化制御を行うことができる。
(3)線間電流の変化量の符号を反転したものの位相と、線間電流の位相とを一致させた。これにより、線間の誘起電圧の位相と線間電流の位相とを一致させることができる。
(4)線間電流のゼロクロスタイミングと線間電流の変化量のゼロクロスタイミングとの時間差ΔΦに基づき、指令電圧Vuc1、Vvc1,Vwc1の位相φを可変設定した。これにより、線間電流のゼロクロスタイミングと線間電流の変化量のゼロクロスタイミングとを好適に一致させることができる。
(5)指令電圧Vuc1、Vvc1,Vwc1に2相変調処理を施した。これにより、電圧ベクトルV0期間を伸張させることができ、ひいては線間電流の変化量のゼロクロスタイミングを高精度に検出することができる。また、2相変調処理を施すことで、指令電圧Vuc1、Vvc1,Vwc1の振幅Vmの上限値を、2相変調処理を施さない場合と比較して拡大することができるため、電圧利用率を向上させることができる。
(6)インバータ12の下側アームの各相及びインバータ12の負極側入力端子間に接続されるシャント抵抗Ru,Rv,Rwによる電圧降下量ru,rv,rwに基づき、線間電流やその変化量を検出した。これにより、簡素なハードウェア構成により、線間電流やその変化量を検出することができる。
(7)電圧ベクトルV0期間内に線間電流やその変化量を検出した。これにより、下側アームの各相及びインバータ12の負極側入力端子間に接続されるシャント抵抗Ru,Rv,Rwによる電圧降下量ru,rv,rwに基づき、電気角の1回転周期内にゼロクロスタイミングを6回検出することができる。
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、線間電流のゼロクロスタイミングΦ(I=0)と線間電流の変化量のゼロクロスタイミングΦ(dI/dt=0)との時間差ΔΦに基づき、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1の電気角速度ωを可変設定する。図15に、本実施形態にかかる電気角速度ωの設定手法を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図15において、先の図11に示した処理と同一の処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
この一連の処理では、ステップS42の処理が完了するときには、ステップS44aに移行する。ステップS44aにおいては、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1の電気角速度ωを設定する。ここでは、上記時間差ΔΦの比例積分演算によって、電気角速度ωを設定すればよい。なお、これにより、線間電流のゼロクロスタイミングΦ(I=0)が線間電流の変化量のゼロクロスタイミングΦ(dI/dt=0)よりも遅れている場合には、電気角速度ωを増大させ、線間電流のゼロクロスタイミングΦ(I=0)が線間電流の変化量のゼロクロスタイミングΦ(dI/dt=0)よりも進んでいる場合には、電気角速度ωを減少させる。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(3)、(5)〜(7)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(8)線間電流のゼロクロスタイミングと線間電流の変化量のゼロクロスタイミングとの時間差ΔΦに基づき、指令電圧Vuc1、Vvc1,Vwc1の電気角速度ωを可変設定した。これにより、線間電流のゼロクロスタイミングと線間電流の変化量のゼロクロスタイミングとを好適に一致させることができる。
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、線間電流のゼロクロスタイミングΦ(I=0)と線間電流の変化量のゼロクロスタイミングΦ(dI/dt=0)との時間差ΔΦに基づき、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1の振幅Vmを可変設定する。図16に、本実施形態にかかる電気角速度ωの設定手法を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図16において、先の図11に示した処理と同一の処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
この一連の処理では、ステップS42の処理が完了するときには、ステップS44bに移行する。ステップS44bにおいては、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1の振幅値Vmを設定する。ここでは、上記時間差ΔΦの比例積分演算によって、振幅Vmを設定すればよい。なお、これにより、線間電流のゼロクロスタイミングΦ(I=0)が線間電流の変化量のゼロクロスタイミングΦ(dI/dt=0)よりも遅れている場合には、振幅Vmを増大させ、線間電流のゼロクロスタイミングΦ(I=0)が線間電流の変化量のゼロクロスタイミングΦ(dI/dt=0)よりも進んでいる場合には、振幅Vmを減少させる。
なお、ステップS44bの処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(3)、(5)〜(7)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(9)線間電流のゼロクロスタイミングと線間電流の変化量のゼロクロスタイミングとの時間差ΔΦに基づき、指令電圧Vuc1、Vvc1,Vwc1の振幅Vmを可変設定した。これにより、線間電流のゼロクロスタイミングと線間電流の変化量のゼロクロスタイミングとを好適に一致させることができる。
(第4の実施形態)
以下、第4の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図17に、本実施形態にかかる制御装置20の行う処理のうち、特にスイッチング素子SW1〜SW6の操作信号の生成に関する処理を示す。なお、図17において、先の図2に示した処理に対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
本実施形態では、回転速度算出部50を備えている。回転速度算出部50では、変化極性検出部44によって検出される線間電流の変化の極性の反転周期に基づき、電動機10の電気角速度ωを算出する。そして、速度偏差算出部52では、算出される電気角速度ωに対する指令値ωdの差Δωを算出し、振幅設定部30に出力する。振幅設定部30では、差Δωに基づき、振幅Vmを算出する。ここでは、差Δωの比例積分演算に基づき振幅Vmを算出すればよい。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(7)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(10)線間電流の変化量のゼロクロスタイミング間の時間間隔に基づき電動機10の電気角速度ωを算出し、電気角速度ωを指令値ωdにフィードバック制御した。これにより、電気角速度ωを指令値ωdに適切に制御することができる。
(11)電気角速度ωとその指令値ωdとの差Δωに基づき、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1の振幅Vmを可変設定することで、上記フィードバック制御を簡易且つ適切に行うことができる。
(第5の実施形態)
以下、第5の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、電圧ベクトルV0を挟む奇数電圧ベクトルV1,V3,V5期間において、線間電流及びその変化量を検出する。この場合、電動機10の2相が短絡された状態となっている。図18に、電圧ベクトルV1期間における電動機10等の等価回路を示す。図示されるように、この場合、短絡されているVW相間には、バッテリ14の電圧VBの影響はなく、電圧源としては、誘起電圧eV,eWのみである。このときのこれらVW相間の関係は、下記の式(c5)で定義される。
R×(Iv−Iw)+L(dIv/dt−dIw/dt)+(eV−eW)=0
すなわち、
R×Ivw+L(dIvw/dt)+eVW=0 …(d5)
この式は、上記の式(c3)と同一である。このため、奇数電圧ベクトルV1,V3,V5期間において線間電流やその変化量を検出することによっても、上記第1の実施形態と同様の制御を行うことができる。
図19に、本実施形態にかかる線間電流の変化量等の検出処理態様を例示する。図19(a)〜図19(e)は、図19の左側に示した図における破線で囲ったタイミングにおける線間電流等の検出態様を示している。詳しくは、図19(a)に、デューティ信号Du,Dv,Dwを示し、図19(b)に、操作信号gun,gvn,gwnの推移を示し、図19(c)に、電圧ベクトルの推移を示し、図19(d)に、誘起電圧を示し、図19(e)に、各相の電流の推移を示す。
図示されるように、本実施形態では、電圧ベクトルV0を挟む両側の奇数電圧ベクトル期間において、電流値I1,I2,I3,I4を検出することで、電圧ベクトルV0期間内に検出する場合と比較して、これら電流値I1,I2及び電流値I3,I4の検出タイミング間の間隔を伸張させることができる。
図20(a1)〜図20(d1)に、奇数パルス幅の推移を示す。なお、図20(a1)〜図20(d1)は、先の図14(a1)〜図14(d1)と対応している。また、比較のために、図20(a2)〜図20(d2)に、先の図14(a1)〜図14(d1)を示す。図示されるように、本実施形態では、線間電流やその変化量の検出期間の間隔を先の第1の実施形態と比較して長くすることができる。
ただし、この場合には、デューティ信号Du,Dv,Dwのうちの2相が負で交わるタイミングにおける線間電流のゼロクロスタイミングについては検出することができるものの、デューティ信号Du,Dv,Dwのうちの2相が正で交わるタイミングにおける線間電流のゼロクロスタイミングについてはこれを検出することができない。このため、力率が「1」となる制御時には、ゼロクロスタイミングを3回しか検出することができない。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(6)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(12)電動機10の全相が短絡されているときを挟んだ両側の任意の2相が短絡されているときに線間電流やその変化量を検出した。これにより、電圧ベクトルV0期間に線間電流やその変化量を検出する場合と比較して、検出が可能な期間を長くすることができる。
(第6の実施形態)
以下、第6の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、線間電流やその変化量の検出期間として、電圧ベクトルV0期間を用いるか、その両側の奇数電圧ベクトルV1,V3,V5期間を用いるかを、デューティ信号Du,Dv,Dwの値(2相変調後の指令電圧Vuc,Vvc,Vwcの振幅)に応じて切り替える。これは、図21に示すように、デューティ信号Du,Dv,Dwの値(変調率)が大きくなるほど、電圧ベクトルV0期間が短くなるためである。一方、上述したように、奇数電圧ベクトル期間におけるゼロクロスタイミングの検出可能頻度は、電圧ベクトルV0のそれと比較して半減する。このため、変調率が所定以上であるときに限って、奇数電圧ベクトルV1,V3,V5期間において、電流を検出する。ちなみに、図22は、電気角度毎の電圧ベクトル期間(パルス幅)の関係を示す。図示されるように、パルス幅は電気角度毎に異なる。このため、図21では、ゼロクロスタイミングにおけるパルス幅を示した。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(6)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(13)線間電流やその変化量の検出を行うタイミングを電圧ベクトルV0期間及び奇数電圧ベクトルV1,V3,V5期間のいずれとするかを、デューティ信号Du,Dv,Dwの値に応じて切り替えた。これにより、振幅の大小にかかわらず、線間電流の変化量のゼロクロスタイミングの検出精度を高く維持することができる。
(第7の実施形態)
以下、第7の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図23に、本実施形態にかかる電動機10の制御システムの全体構成を示す。なお、図23において、先の図1と対応する部材については便宜上同一の符号を付している。本実施形態では、インバータ12の負極側入力端子及びスイッチング素子SW2,SW4,SW6間のシャント抵抗Run,Rvn,Rwnのみならず、インバータ12の正極側入力端子及びスイッチング素子SW1,SW3,SW5間のシャント抵抗Rup,Rvp、Rwpを備える。そして、線間電流やその変化量の検出を、シャント抵抗Run,Rvn,Rwnで行うか、シャント抵抗Rup,Rvp、Rwpで行うかを切り替える。これは以下の理由による。
図24に、電圧ベクトルV0及びその両側の奇数電圧ベクトルの合計の期間(パルス幅)と、偶数電圧ベクトル期間(パルス幅)との関係を示す。図示されるように、電圧ベクトルV0及びその両側の奇数電圧ベクトルの合計の期間は、電圧ベクトルV0の期間と比較して長いとはいえ、「60°」周期で、偶数電圧ベクトル期間との長短が逆転する。このため、線間電流及びその変化量の検出可能な期間を極力長くすべく、本実施形態では、線間電流やその変化量の検出を、シャント抵抗Run,Rvn,Rwnの電圧降下量run,rvn,rwnに基づき行うか、シャント抵抗Rup,Rvp、Rwpの電圧降下量rup,rvp,rwpに基づき行うかを電気角の変化に伴って切り替える。
図25に、上記切り替え処理の手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS50において、デューティ信号Du,Dv,Dwのうち、最大の値を有するものと中間の値を有するものとの差が、中間の値を有するものと最小の値を有するものとの差よりも大きいか否かを判断する。この処理は、奇数電圧ベクトル期間と偶数電圧ベクトル期間とのいずれが長いかを判断するためのものである。そして、最大の値を有するものと中間の値を有するものとの差の方が大きいと判断されるときには、奇数電圧ベクトル期間の方が長いと考えられることから、ステップS52において、シャント抵抗Run,Rvn,Rwnの電圧降下量run,rvn,rwnに基づき電圧ベクトルV0及びその両側の奇数電圧ベクトルの合計期間にて線間電流及びその変化を検出する。これに対し、ステップS50において否定判断されるときには、偶数電圧ベクトル期間の方が長いと判断されることから、ステップS54において、シャント抵抗Rup,Rvp、Rwpの電圧降下量rup,rvp,rwpに基づき偶数電圧ベクトル期間にて線間電流及びその変化を検出する。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(6)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(14)線間電流やその変化量の検出を、シャント抵抗Run,Rvn,Rwnの電圧降下量run,rvn,rwnに基づき行うか、シャント抵抗Rup,Rvp、Rwpの電圧降下量rup,rvp,rwpに基づき行うかを電気角の変化に伴って切り替えた。これにより、線間電流やその変化量の検出可能期間として適切な期間を確保することができる。
(第8の実施形態)
以下、第8の実施形態について、先の第7の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、線間電流やその変化量の検出を、シャント抵抗Run,Rvn,Rwnの電圧降下量run,rvn,rwnに基づき行うか、シャント抵抗Rup,Rvp、Rwpの電圧降下量rup,rvp,rwpに基づき行うかに応じて、2相変調処理も変更する。図26に、本実施形態にかかる2相変調処理態様等の切り替えに関する処理の手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS60において、デューティ信号Du1,Dv1,Dw1のうち、最大の値を有するものと中間の値を有するものとの差が、中間の値を有するものと最小の値を有するものとの差よりも大きいか否かを判断する。この処理は、奇数電圧ベクトル期間と偶数電圧ベクトル期間とのいずれが長いかを判断するためのものである。そして、最大の値を有するものと中間の値を有するものとの差の方が長いと判断されるときには、奇数電圧ベクトル期間の方が長いと考えられることから、ステップS62に移行する。ステップS62では、先の図3に示した処理同様、バッテリ14の負極側電位へのシフトによる2相変調処理を行う。続くステップS64においては、先の図25のステップS52と同様、電圧ベクトルV0及びその両側の奇数ベクトルの合計期間にて線間電流及びその変化を検出する。
これに対し、ステップS60において否定判断されるときには、偶数電圧ベクトル期間の方が長いと考えられるため、ステップS66に移行する。ステップS66においては、バッテリ14の正極側電位へのシフトによる2相変調処理を行う。すなわち、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1の各2相間の差を保ちつつ、その最大となるものをインバータ12の正極側入力端子電位に引き上げるように補正を行う。そして、ステップS68においては、電圧ベクトルV7及びその両側の偶数ベクトルの合計期間にて線間電流及びその変化を検出する。
以上説明した本実施形態によれば、先の第7の実施形態の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(15)線間電流やその変化量の検出を、シャント抵抗Run,Rvn,Rwnの電圧降下量run,rvn,rwnに基づき行うか、シャント抵抗Rup,Rvp、Rwpの電圧降下量rup,rvp,rwpに基づき行うかに応じて、2相変調処理も変更した。これにより、電圧ベクトルV0及びその両側の奇数ベクトルの合計期間を用いて線間電流やその変化量を検出するときには同期間を伸張させることができ、また、電圧ベクトルV7及びその両側の偶数ベクトルの合計期間を用いて線間電流やその変化量を検出するときには、同期間を伸張させることができる。
(第9の実施形態)
以下、第9の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、最大トルク制御に代えて、最大効率制御を行う。図27に、本実施形態において、先の図2に示した位相設定部34の行う処理の手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図27において、先の図11に示した処理と対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
この一連の処理では、ステップS42の処理が完了すると、ステップS70に移行する。ステップS70においては、線間電流の変化極性の反転周期に基づき、電動機10の電気角速度ωを算出する。続くステップS72においては、電気角速度ωに基づき、目標時間差ΔΦtを算出する。この処理は、最大効率制御にとって適切な位相差を時間間隔として設定するものである。すなわち、線間電流のゼロクロスタイミングΦ(I=0)及び線間電流の変化量のゼロクロスタイミングΦ(dI/dt=0)との時間差ΔΦは、同一の位相差であっても電気角速度ωに応じて異なる時間間隔となる。このため、目標時間差ΔΦtを、電気角速度ωに応じて設定する。続くステップS74では、時間差ΔΦに対する目標時間差ΔΦtの差に基づき、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1の位相φを算出する。ここでは、時間差ΔΦに対する目標時間差ΔΦtの比例積分演算に基づき、位相φを算出する。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)、(2)〜(7)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(16)算出される電気角速度ωに基づき時間差ΔΦの目標値(目標時間差ΔΦt)を設定した。これにより、目標時間差ΔΦtを適切に定義することができる。
(第10の実施形態)
以下、第10の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図28に、制御装置20の行う処理のうち、特にスイッチング素子SW1〜SW6の操作信号の生成に関する処理を示す。なお、図28において、先の図2と対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、電圧降下量ru,rv,rwに応じて、電動機10を流れる電流のベクトルの長さを算出する電流ベクトルノルム算出部60を備えている。これは、例えば電圧降下量ru,rv,rwのうちの2つから、α軸上の電流及びβ軸上の電流を算出し、これら各軸上の電流成分の生成するベクトルの長さを算出することで行うことができる。算出される電流ベクトルノルムNIは、ハイパスフィルタ62にてフィルタ処理される。ハイパスフィルタ62は、電動機10の電気角速度よりも高周波の信号のみを透過させるものである。ここでは、速度指令値ωdに応じて、透過周波数を可変設定することができるものであることがより望ましい。ハイパスフィルタ62の出力は、補正量算出部64に取り込まれる。補正量算出部64では、ハイパスフィルタ62の出力、すなわち、電動機10を流れる電流の振幅の変化の高周波成分に応じて、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1の位相φの補正量Δφを算出する。そして、位相補正部66では、位相設定部34の設定する位相φを補正量Δφで補正する。
これにより、ゼロクロスタイミング間の期間においても位相φを制御することができるようになる。すなわち、図29に示すように、電流の位相に応じて電流の振幅が変化するため、ハイパスフィルタ62の出力には、電動機10の位相の急激な変化に関する情報が混入している。このため、これに基づき位相φを補正することで、電動機10を流れる電流の位相が急激に変化した場合でも、これを抑制することができる。
なお、位相設定部34による位相φの変更がなされるときに、補正量Δφによってその補正が相殺されることのないように、ハイパスフィルタ62の透過周波数は、十分に高い値に設定する。これにより、位相設定部34による位相の変更による電流の振幅の変化がハイパスフィルタ62を完全に透過することはないため、位相設定部34による位相の設定と、補正量Δφとの干渉を好適に抑制することができる。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(7)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(17)電流の振幅の変化量についての電動機10の電気角速度よりも高周波成分に基づき、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1の位相φを補正した。これにより、電流の振幅の変化に応じて位相の変化を把握することができ、ひいてはゼロクロスタイミング間の期間においても、電動機10の位相を制御することができる。
(第11の実施形態)
以下、第11の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図30に、本実施形態にかかる極性検出部42及び変化極性検出部44の行う処理の手順を示す。この処理は、制御装置20により、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図30において、先の図10に示した処理と対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付している。
この一連の処理では、ステップS24において、電圧ベクトルV0開始時の該当する2相の線間電流I(n−1)が検出されると、ステップS80において、該当する2相の線間電流Iの時間積分演算を行う。また、ステップS82においては、上記ステップS24において検出された線間電流I(n−1)の時間積分演算を行う。これらステップS80、S82の処理は、電圧ベクトルV0の終了タイミングTf近傍まで行われる(ステップS26)。そして、ステップS26において、電圧ベクトルV0の終了タイミングTfから所定時間αだけ前の規定時間であると判断されると、ステップS30aにおいて、上記ステップS30aにおいて検出された線間電流I(n−1)の符号として、線間電流の極性を算出する。続くステップS32aでは、上記規定時間内での線間電流I(n−1)の時間積分値に対する線間電流の時間積分値の差の符号として、線間電流の変化量の極性を算出する。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(7)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(18)線間電流の所定の時間間隔における積分値IntI1に対する上記時間間隔の始点における線間電流I(n−1)と時間間隔との積の差分に基づき、線間電流の変化量の極性を検出した。これにより、線間電流の変化量の極性の検出に際し、線間電流に混入するノイズの影響を好適に抑制することができる。
(第12の実施形態)
以下、第12の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、電動機10を、車載冷却ファンの3相回転機に適用する。この場合、車両の走行速度が増加して冷却ファンに作用する気流の速度が増加するなどすると、冷却ファンが機械的な外力によって回転される現象が生じる。この場合、電動機10は、バッテリ14からの電気的なエネルギの供給によって電動機として機能する代わりに、外部からの力学的なエネルギを電気エネルギに変換する発電機として機能する。そして、この場合には、線間電流の変化量のゼロクロスタイミングと線間電流のゼロクロスタイミングとのずれを低減すべく上記第1の実施形態に示した態様にて位相φを操作したのでは、これらゼロクロスタイミング同士を一致させることができない。以下、これについて、図31を用いて説明する。
図31に、力行制御時と回生制御時との誘起電圧、線間電流等の推移を示す。ここで、線間電流については、ゼロベクトル期間における挙動を実線で、それ以外の期間における挙動を破線で示している。
図示されるように、力行制御時と回生制御時とでは、誘起電圧と線間電流との関係が互いに相違する。換言すれば、力行制御時と回生制御時とでは、線間電流の変化量と線間電流との関係が互いに相違する。このため、線間電流のゼロクロスタイミングと、変化量のゼロクロスタイミングとを一致させる最大トルク制御を実行すべく先の第1の実施形態に例示した位相φの操作を行ったのでは、電動機10が外力によって回転される回生制御時にはゼロクロスタイミングを一致させることができない。
詳しくは、図中、下方に示すように、力行制御時においては、dq軸上の誘起電圧ベクトルに対して電流ベクトルの位相が進んでいる場合、電圧ベクトルの位相を遅らせる操作をすることで、誘起電圧ベクトルと電流ベクトルとを一致させることができる。これに対し、回生制御時には、dq軸上の誘起電圧ベクトルに対して電流ベクトルの位相が進んでいる場合、電圧ベクトルの位相を進める操作をすることで、誘起電圧ベクトルと電流ベクトルとを一致させることができる。このため、力行制御時と回生制御時とで同一の操作をしたのでは、これら双方の制御において最大トルク制御を行うことはできない。
そこで本実施形態では、力行制御時と回生制御時とのいずれの制御時であるかを判断し、これらに応じて指令電圧の操作態様を可変とする。ここでは、まず、本実施形態にかかる力行制御時と回生制御時との識別手法について、図32を用いて説明する。
図示されるように、力行制御時には、線間誘起電圧(ここではUV相の線間誘起電圧を例示)の立ち下がりのゼロクロスタイミングにおいて、残りの1相(ここではW相を例示)の相電流の極性が負となっている。これに対し、回生制御時には、線間誘起電圧の立ち下がりのゼロクロスタイミングにおいて、残りの1相の相電流の極性が正となっている。このように、線間誘起電圧のゼロクロスタイミングにおける残りの1相の相電流の極性は、力行制御時と回生制御時とで互いに逆となるため、これに基づき力行制御時であるか回生制御時であるかを識別することができる。ここで、本実施形態においては、電動機10の回転速度が所定以上となる領域、換言すれば誘起電圧が顕著となる領域にて電動機10を駆動することを想定している。このため、上記の式(c3)の関係において、線間電流の項が誘起電圧と比較して無視できるため、変化量のゼロクロスタイミング近傍におけるその極性は、誘起電圧のゼロクロスタイミング近傍における極性と逆となると考えられる。このため、変化量の立ち上がりのゼロクロスタイミングや立ち下がりのゼロクロスタイミングにおける相電流の極性に基づき、力行制御時であるか回生制御時であるかを識別することができる。
図33に、本実施形態にかかるスイッチング素子SW1〜SW6の操作信号の生成に関する処理を示す。なお、図33において、先の図2に示した処理と対応する処理については、便宜上同一の符号を付している。
図示されるように、本実施形態では、シャント抵抗Ru,Rv,Rwの電圧降下量ru,rv,rwを入力として、上記相電流の極性に基づき力行制御時であるか回生制御時であるかを判断する駆動状態検出部70を備えている。そして、位相設定部34では、駆動状態検出部70の判断結果に基づき、位相φを設定する。図34に、本実施形態にかかる位相φの設定処理の手順を示す。この処理は、制御装置20によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS90において、線間電流の変化量の極性反転タイミングであるか否かを判断する。この処理は、相電流の極性に基づき力行制御時であるか回生制御時であるかを判断するためのものである。そして、反転タイミングであると判断されるときには、ステップS92において、変化量が負から正に反転したか否かを判断する。この処理は、線間誘起電圧の極性が正から負に反転したか否かを判断するものである。すなわち、上述したように本実施形態では電動機10を所定以上の回転速度で駆動する関係上、線間電流の変化量のゼロクロスタイミングと線間誘起電圧のゼロクロスタイミングとは互いに近似して且つ、これらの前後における極性は互いに逆となると考えられる。このため、線間電流の変化量のゼロクロスタイミング前後の極性に基づき、線間誘起電圧が正から負に反転する立ち下がりのゼロクロスタイミングであるか否かを判断することができる。
続くステップS94においては、残りの1相の相電流が負であるか否かを判断する。この処理は、力行制御時であるか否かを判断するためのものである。一方、ステップS92において否定判断される場合、残りの1相の相電流が正であるか否かを判断する。この処理も、力行制御時であるか否かを判断するためのものである。すなわち、ステップS92において否定判断される場合、誘起電圧の立ち上がりゼロクロスタイミング時近傍であることから、力行制御時には残りの1相の相電流が正となる。
そして、ステップS94、S96において肯定判断される場合、ステップS98において、力行制御時であると判断する。一方、ステップS94、S96において否定判断される場合、ステップS100において、回生制御時であると判断する。そして、回生制御時であると判断される場合、ステップS102において、指令電圧の位相φを設定するためのゲインKp,Kiの符号を力行制御時のものに対して反転させる。そして、このステップS102の処理や、ステップS98の処理が完了する場合には、ステップS104において、位相φを設定する。
なお、ステップS90において否定判断される場合や、ステップS104の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
図35に、力行制御時における上記処理の態様を示す。図示されるように、線間電流の変化量のゼロクロスタイミングに対して線間電流のゼロクロスタイミングが遅れている場合には、指令電圧の位相φを進角操作する。これに対し、線間電流の変化量のゼロクロスタイミングに対して線間電流のゼロクロスタイミングが進んでいる場合には、指令電圧の位相φを遅角操作する。
一方、図36に、回生制御時における上記処理の態様を示す。図示されるように、線間電流の変化量のゼロクロスタイミングに対して線間電流のゼロクロスタイミングが進んでいる場合には、指令電圧の位相φを進角操作する。これに対し、線間電流の変化量のゼロクロスタイミングに対して線間電流のゼロクロスタイミングが遅れている場合には、指令電圧の位相φを遅角操作する。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(7)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(19)指令電圧の設定に際して、電動機10の力行制御時及び回生制御時のいずれであるかの判断結果を加味した。これにより、力行制御時及び回生制御時の双方において指令電圧を適切に設定することができる。
(20)力行制御時には、変化量のゼロクロスタイミングに対して線間電流のゼロクロスタイミングが遅れ側にずれるほど指令電圧の位相φを進ませる側に設定し、回生制御時には、変化量のゼロクロスタイミングに対して線間電流のゼロクロスタイミングが遅れ側にずれるほど指令電圧の位相φを遅らせる側に設定した。また、力行制御時には、変化量のゼロクロスタイミングに対して線間電流のゼロクロスタイミングが進み側にずれるほど指令電圧の位相φを遅れさせる側に設定し、回生制御時には、変化量のゼロクロスタイミングに対して線間電流のゼロクロスタイミングが進み側にずれるほど指令電圧の位相φを進める側に設定した。これにより、指令電圧を適切に操作することができる。
(21)変化量の変化極性(誘起電圧の立ち上がり、立ち下がり)と残りの相の相電流の極性とに基づき、力行制御時であるか回生制御時であるかを判断した。これにより、力行制御と回生制御とを的確に区別することができる。
(22)変化量のゼロクロスタイミング時におけるその変化極性及び相電流の極性に基づき、力行制御時であるか回生制御時であるかを判断した。これにより、力行制御と回生制御とをより的確に区別することができる。
(第13の実施形態)
以下、第13の実施形態について、先の第12の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図37に、本実施形態にかかる指令電圧の設定処理の手順を示す。この処理は、制御装置20によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図37において、先の図34に示した処理と同様の処理については、便宜上同一の符号を付している。
この一連の処理では、ステップS100において回生制御時であると判断される場合、ステップS102aにおいて、角速度ωの設定用のゲインKp,Kiの符号を、力行制御時のものに対して反転させる。そして、ステップS102aの処理やステップS98の処理が完了する場合には、ステップS104aにおいて、角速度ωを設定する。
これにより、変化量のゼロクロスタイミングに対して線間電流のゼロクロスタイミングが遅れ側にずれるほど、力行制御時には指令電圧の角速度ωが増大され、回生制御時には指令電圧の角速度ωが低減されることとなる。また、変化量のゼロクロスタイミングに対して線間電流のゼロクロスタイミングが進み側にずれるほど、力行制御時には指令電圧の角速度ωが低減され、回生制御時には指令電圧の角速度ωが増大されることとなる。これにより、指令電圧を適切に操作することができる。
以上説明した本実施形態によれば、先の第2の実施形態や第12の実施形態の効果に準じた効果が得られるようになる。
(第14の実施形態)
以下、第14の実施形態について、先の第12の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図38に、本実施形態にかかる指令電圧の設定処理の手順を示す。この処理は、制御装置20によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図38において、先の図34に示した処理と同様の処理については、便宜上同一の符号を付している。
この一連の処理では、ステップS100において回生制御時であると判断される場合、ステップS102bにおいて、振幅Vmの設定用のゲインKp,Kiの符号を、力行制御時のものに対して反転させる。そして、ステップS102bの処理やステップS98の処理が完了する場合には、ステップS104bにおいて、振幅Vmを設定する。
これにより、変化量のゼロクロスタイミングに対して線間電流のゼロクロスタイミングが遅れ側にずれるほど、力行制御時には指令電圧の振幅Vmが増大され、回生制御時には指令電圧の振幅Vmが低減されることとなる。また、変化量のゼロクロスタイミングに対して線間電流のゼロクロスタイミングが進み側にずれるほど、力行制御時には指令電圧の振幅Vmが低減され、回生制御時には指令電圧の振幅Vmが増大されることとなる。これにより、指令電圧を適切に操作することができる。
以上説明した本実施形態によれば、先の第3の実施形態や第12の実施形態の効果に準じた効果が得られるようになる。
(第15の実施形態)
以下、第15の実施形態について、先の第12の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、上記特許文献1に記載されているように、相電流のゼロクロスタイミングと相電流の変化量のゼロクロスタイミングとを一致させることで、最大トルク制御を行う。換言すれば、相電流のゼロクロスタイミングと相誘起電圧のゼロクロスタイミングとを一致させることで、最大トルク制御を行う。ただし、この場合であっても、力行制御時と回生制御時とで、相電流のゼロクロスタイミングと相電流の変化量のゼロクロスタイミングとがずれているときの指令電圧の操作を一致させる場合には、最大トルク制御を適切に行うことができない。このため、力行制御時であるか回生制御時であるかに応じて、指令電圧の操作態様を可変とする。
図39に、本実施形態にかかる力行制御時と回生制御時との識別手法を示す。図示されるように、力行制御時には、相誘起電圧(ここでは、U相を例示)の立ち下がりのゼロクロスタイミング時において、残りの2相の線間電流の極性は正となっている。これに対し、回生制御時には、相誘起電圧(ここでは、U相を例示)の立ち下がりのゼロクロスタイミング時において、残りの2相の線間電流の極性は負となっている。このため、上記第12の実施形態と同様の理由から、相電流の変化量のゼロクロスタイミング時における同変化量の変化極性と、残りの2相の線間電流の極性とに基づき、力行制御時であるか回生制御時であるかを判断することができる。以下では、この判断に基づく指令電圧の設定にかかる処理について説明する。
ここではまず、図40に基づき、相電流及びその変化量の極性の検出処理の手順について説明する。なお、図40において、先の図10に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付し、その説明を割愛する。
この一連の処理では、ステップS22において電圧ベクトルV0期間の開始時期であると判断される場合、ステップS24bにおいて、該当する相の相電流I(n−1)を検出する。ここで、「該当する相」とは、電気角度で「60°」毎に切り替えられるものであり、これら各「60°」の領域には、ゼロクロスタイミングが1つずつ含まれる。このため、該当する相は、当該領域内にゼロクロスタイミングが含まれると想定される相とする。
一方、ステップS26において肯定判断される場合、ステップS28bにおいて、ステップS24bにおける該当する相と同一の相について、相電流I(n)を検出する。そして、ステップS30b、S32bにおいては、それぞれ先の図10に示したステップS30、S32の処理と同様の処理によって、相電流の極性及び相電流の変化量の極性を算出する。
図41に、本実施形態にかかる位相φの設定処理の手順を示す。この処理は、制御装置20によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図41において、先の図34に示した処理と同様の処理については、便宜上同一の符号を付している。
この一連の処理では、まずステップS90aにおいて、相電流の変化量の極性反転タイミングであるか否かを判断する。この処理は、相誘起電圧の極性反転タイミングを判断するものである。そして、反転タイミングであると判断されると、先の図34のステップS92の処理と同様の処理を行う。そして、ステップS92において肯定判断される場合には、ステップS94aにおいて残りの2相の線間電流が正であるか否かを判断する。一方、ステップS92において否定判断される場合には、ステップS96aにおいて、残りの2相の線間電流が負であるか否かを判断する。これらステップS94a、S96aの処理は、いずれも力行制御時であるか否かを判断するものである。
こうした処理によれば、相電流の変化量のゼロクロスタイミングに対して相電流のゼロクロスタイミングが遅れ側にずれるほど、力行制御時には位相φが進み側に設定され、回生制御時には位相φが遅れ側に設定されることとなる。また、相電流の変化量のゼロクロスタイミングに対して相電流のゼロクロスタイミングが進み側にずれるほど、力行制御時には位相φが遅れ側に設定され、回生制御時には位相φが進み側に設定されることとなる。
以上説明した本実施形態によれば、先の第12の実施形態の効果に準じた効果を得ることができる。
(第16の実施形態)
以下、第16の実施形態について、先の第15の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図42に、本実施形態にかかる指令電圧の設定処理の手順を示す。この処理は、制御装置20によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図42において、先の図42及び図37に示した処理と同様の処理については、便宜上同一の符号を付している。
この一連の処理では、ステップS100において回生制御時であると判断される場合、ステップS102aにおいて、角速度ωの設定用のゲインKp,Kiの符号を、力行制御時のものに対して反転させる。そして、ステップS102aの処理やステップS98の処理が完了する場合には、ステップS104aにおいて、角速度ωを設定する。
これにより、変化量のゼロクロスタイミングに対して相電流のゼロクロスタイミングが遅れ側にずれるほど、力行制御時には指令電圧の角速度ωが増大され、回生制御時には指令電圧の角速度ωが低減されることとなる。また、変化量のゼロクロスタイミングに対して相電流のゼロクロスタイミングが進み側にずれるほど、力行制御時には指令電圧の角速度ωが低減され、回生制御時には指令電圧の角速度ωが増大されることとなる。これにより、指令電圧を適切に操作することができる。
以上説明した本実施形態によれば、先の第13の実施形態の効果に準じた効果が得られるようになる。
(第17の実施形態)
以下、第17の実施形態について、先の第14の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
図43に、本実施形態にかかる指令電圧の設定処理の手順を示す。この処理は、制御装置20によって、例えば所定周期で繰り返し実行される。なお、図43において、先の図38、図41に示した処理と同様の処理については、便宜上同一の符号を付している。
この一連の処理では、ステップS100において回生制御時であると判断される場合、ステップS102bにおいて、振幅Vmの設定用のゲインKp,Kiの符号を、力行制御時のものに対して反転させる。そして、ステップS102bの処理やステップS98の処理が完了する場合には、ステップS104bにおいて、振幅Vmを設定する。
これにより、変化量のゼロクロスタイミングに対して相電流のゼロクロスタイミングが遅れ側にずれるほど、力行制御時は指令電圧の振幅Vmが増大され、回生制御時には指令電圧の振幅Vmが低減されることとなる。また、変化量のゼロクロスタイミングに対して相電流のゼロクロスタイミングが進み側にずれるほど、力行制御時には指令電圧の振幅Vmが低減され、回生制御時には指令電圧の振幅Vmが増大されることとなる。これにより、指令電圧を適切に操作することができる。
以上説明した本実施形態によれば、先の第14の実施形態の効果に準じた効果が得られるようになる。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・第5の実施形態の第1の実施形態に対する変更点によって、第2〜第4の実施形態や第7〜第11の実施形態を変更してもよい。
・第2の実施形態の第1の実施形態に対する変更点によって、第3〜第4の実施形態や第6〜第11の実施形態を変更してもよい。
・第4の実施形態の第1の実施形態に対する変更点によって、第6〜第11の実施形態を変更してもよい。
・第11の実施形態において、積分区間の始点における線間電流I(n−1)を用いる代わりに、積分区間の終点における線間電流I(n)を用いてもよい。
・第4の実施形態において、回転速度をフィードバック制御すべく、振幅Vmを設定したが、これに限らず、例えば指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1の電気角速度ωを可変設定してもよい。また、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1を補正する構成としてもよい。
・第6の実施形態においては、電圧ベクトルV0及び奇数電圧ベクトルのいずれを用いるかを決定するパラメータとして指令電圧を用いたが、これに限らない。例えば電気角度に応じて切り替えを行ってもよい。
・線間電流のゼロクロスタイミングと線間電流の変化量のゼロクロスタイミングとに基づき、指令電圧Vuc1、Vvc1,Vwc1のいずれか1つのみを可変設定するものに限らず、任意の2つ又は全てを可変設定してもよい。
・上記実施形態では、第2〜第4、第9の実施形態等におけるフィードバック制御として、比例積分制御を用いたが、これに限らず、例えば比例積分微分制御であってもよい。
・第1〜第10の実施形態において、線間電流の極性を、いずれか1点での相電流同士の差の符号として検出してもよい。
・少なくとも2相が短絡される期間を延長するように指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1を変更する手段としては、上記2相変調を行う手段に限らない。例えば電圧ベクトルV0期間となったら、電流の変化量の検出を高精度に行うことのできる最小時間の間、強制的に電圧ベクトルV0期間を保持するものであってもよい。
・線間電流の変化量の検出手法としては、上記各実施形態で例示したものに限らず、例えばアナログの微分回路を用いるものであってもよい。
・第1の実施形態に対する第4〜第7(第8)、第9〜第11の実施形態の変更点によって、第12〜第14の実施形態を変更してもよい。
・上記第12〜第17の実施形態では、フィードバック制御として、比例積分制御を用いたが、これに限らず、例えば比例積分微分制御であってもよい。
・上記第12〜第17の実施形態では、最大トルク制御を実施したが、これに限らず、最大効率制御等をしてもよい。これは例えば、線間電流のゼロクロスタイミングと線間電流の変化量のゼロクロスタイミングとの差や、相電流のゼロクロスタイミングと相電流の変化量のゼロクロスタイミングとの差を目標値(≠0)に制御することで実現することができる。なお、この場合、変化量のゼロクロスタイミングは、誘起電圧のゼロクロスタイミングとはずれたものとなる。このため、上記目標値を、誘起電圧のゼロクロスタイミングと電流のゼロクロスタイミングとの差として最大効率制御を行う上で適切な値からずらすようにして適合することが望ましい。これにより、誘起電圧のゼロクロスタイミングと電流のゼロクロスタイミングとの差を、最大効率制御のために適切な値に制御することができる。
・上記第12〜第17の実施形態では、誘起電圧のゼロクロスタイミングと相関を有する線間電流(相電流)の変化量のゼロクロスタイミングにおける残りの1相の相電流(残りの2相の線間電流)の極性に基づき、力行制御と回生制御との識別を行ったが、これに限らない。例えば、所定領域における線間電流変化の変化極性と残りの1相の相電流の極性や、所定領域における相電流変化の変化極性と残りの2相の線間電流の極性とに基づき識別を行ってもよい。すなわち、例えば、先の図32に示されるように、誘起電圧のゼロクロスタイミング近傍において、線間電流の変化量の変化極性が正である際に残りの1相の相電流の極性が負なら力行制御であり、また正なら回生制御であるため、こうした現象に着目することで力行制御と回生制御とを識別することができる。
・力行制御と回生制御との識別処理としては、上記のものに限らない。例えばインバータ12の入力端子側に電流センサを備え、入力端子における電流の流動方向に基づき、力行制御と回生制御とを区別してもよい。
・電動機10を流れる電流を検出する手法としては、先の図1や、先の図23に示したシャント抵抗の電圧降下量を用いる手法に限らない。例えば、図44に示すように、インバータ12の正極側入力端子とスイッチング素子SW1、SW3,SW5との間に接続されるスイッチング素子の電圧降下量ru,rv,rwを用いる手法であってもよい。なお、この場合、キャリアが最小値となるタイミングでデューティ信号Du,Dv,Dwを更新することが望ましい。もっとも、デューティ信号Du,Dv,Dwの更新タイミングとキャリアとの関係は任意でよい。
また、図45に示すように、スイッチング素子SW2、SW4,SW6の入出力端子間の電圧降下量に基づくものであってもよい。また、これに代えて、スイッチング素子SW1,SW3、SW5の入出力端子間の電圧降下量を用いてもよく、更に、スイッチング素子SW2、SW4,SW6の入出力端子間の電圧降下量及びスイッチング素子SW1,SW3、SW5の入出力端子間の電圧降下量の双方を適宜用いることで、第7、第8の実施形態のような処理を行ってもよい。特にスイッチング素子SW1〜SW6としてMOSトランジスタを用いる場合には、その入出力端子間(ドレイン及びソース間)の電圧降下量とこれを流れる電流との関係が線形関係となるため、電流の検出が容易である。これに対し、例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等にあっては、入出力端子間(コレクタ及びエミッタ間)の電圧降下量とこれを流れる電流との関係の非線形性が強い。もっとも、上記第1〜第10の実施形態では、電流やその変化量の極性のみを検出すればよいため、IGBTのように非線形性が強い場合であっても、特に問題はない。
また、図46に示すように、任意の2相(又は3相)に、電流センサ24、26を備える構成としてもよい。
更に、図47に示すように、スイッチング素子SW2、SW4,SW6を、センス端子STつきのIGBTとし、センス端子STを流れる電流に基づき、スイッチング素子SW2、SW4,SW6の入出力端子間を流れる電流を検出してもよい。また、これに代えて、スイッチング素子SW1、SW3,SW5のみセンス端子を備えるようにしてもよい。更に、スイッチング素子SW〜SW6の全てにセンス端子を備えることで、第7、第8の実施形態のような処理を行ってもよい。なお、センス端子とは、スイッチング素子の入出力端子間を流れる電流に応じた微小電流を出力する端子である。
更に、インバータ12の正極側入力端子及び負極側入力端子の少なくとも一方に単一のシャント抵抗を備えてこれを利用してもよい。すなわち、例えば負極側入力端子にのみシャント抵抗を備える場合、電圧ベクトルV2期間に、W相の電流を検出し、これと隣接する電圧ベクトルV1期間に、V相及びW相の電流の合計の値を検出することができる。そして、電圧ベクトルV1期間への切り替え直後のW相の電流は、それ以前の電圧ベクトルV2期間におけるW相の電流と略等しいと考えられるため、これらからV相単独の電流も算出できる。これにより、VW相の線間電流を算出することができる。
・電動機10としては、車載エアコンディショナーに設けられるものに限らず、例えば車載冷却ファンに設けられるものであってもよい。更に回転機としては、電動機に限らず、発電機であってもよい。