以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態における電源システムの概略構成図である。
図1に示される電源システム100は、電動車両に載置されているものとする。このシステムによれば、バッテリ101から、リレー102、及び、インバータ103を介して、モータ104に電力が供給される。
バッテリ101は、二次電池であり、直流電力を出力する。
リレー102は、電源システム100全体の駆動又は停止を制御する。
インバータ103は、複数のスイッチング素子(絶縁ゲートバイポーラトランジスタIGBT)Tr1〜Tr6と、整流素子(ダイオード)D1〜D6とを備えている。整流素子D1〜D6は、スイッチング素子Tr1〜Tr6のそれぞれと並列に設けられる。これとともに、整流素子D1〜D6は、スイッチング素子Tr1〜Tr6の整流方向とは逆方向に電流が流れるように設けられている。また、スイッチング素子は2つずつ直列に接続されており、直列接続された2つのスイッチング素子の間と、モータ104の三相(UVW)の入力部のうちのいずれかとがそれぞれ接続されている。
具体的には、スイッチング素子Tr1及びTr2、スイッチング素子Tr3及びTr4、スイッチング素子Tr5及びTr6が、それぞれ、直列に接続されている。そして、スイッチング素子Tr1及びTr2の接続点とモータ104のU相の入力部とが接続され、スイッチング素子Tr3及びTr4の接続点とモータ104のV相の入力部とが接続され、スイッチング素子Tr5及びTr6の接続点とモータ104のW相の入力部とが接続されている。このように設けられたスイッチング素子Tr1〜Tr6がモータコントローラ111から出力されるPWM信号に応じて切り替え操作されることにより、バッテリ101からモータ104に印加される電圧のパルス幅が制御される。一般に、このような制御が、PWM電力制御と称されている。なお、以下では、スイッチング素子Trが切り替え操作されることを、単に、スイッチング素子Trの操作と称して説明する。
なお、インバータ103から電圧が印加されていない場合のモータ104の各相の入力部における電位はゼロであるものとする。また、コンデンサ105の電位差がVcapである。そのため、モータ104の各相の入力部に印加される電圧の電位は、「−Vcap/2」から「+Vcap/2」までの範囲の値であるものとする。
モータ104は、回転子に永久磁石を備える永久磁石型の三相交流モータであり、三相(UVW相)のそれぞれについて入力部を有している。モータ104は電動車両の駆動輪を駆動する駆動源であって、モータ104の回転に伴って電動車両の駆動輪が回転する。
コンデンサ105は、リレー102とインバータ103との間に配置され、インバータ103と並列に接続されている。コンデンサ105は、バッテリ101からインバータ103に入力される直流電力を平滑化する。
電流センサ106は、インバータ103からモータ104の各相の入力部へと流れる電流のそれぞれの大きさを測定する。本実施形態では、電流センサ106U、106V、106Wの3つの電流センサが、モータ104の各相の入力部への電源線に設けられている。電流センサ106U、106V、106Wは、それぞれ、測定した各相の三相交流電流Iu、Iv、Iwをモータコントローラ111にフィードバック出力する。
回転子位置センサ107は、例えばレゾルバやエンコーダなどである。回転子位置センサ107は、モータ104の回転子の近傍に設けられており、モータ104の回転子の位相θを測定する。そして、回転子位置センサ107は、測定した回転子の位相θを示す回転子位置センサ信号を、モータコントローラ111に出力する。
電圧センサ108は、コンデンサ105と並列に設けられている。電圧センサ108は、コンデンサ105の両端の電位差であるコンデンサ電圧Vcapを測定すると、コンデンサ電圧Vcapをゲート駆動回路109に出力する。
ゲート駆動回路109は、モータコントローラ111から入力されるPWM信号に応じて、インバータ103のスイッチング素子Tr1〜Tr6を操作する。また、ゲート駆動回路109は、スイッチング素子Tr1〜Tr6について、温度を測定するとともに正常に動作しているか否かを検出する。ゲート駆動回路109は、スイッチング素子Tr1〜Tr6について測定した温度や検出した状態などを示すIGBT信号を、モータコントローラ111へ出力する。ゲート駆動回路109は、電圧センサ108によって測定されたコンデンサ電圧Vcapを示すコンデンサ電圧信号をモータコントローラ111に出力する。
車両コントローラ110は、モータ104に要求するトルクである要求トルクを示すトルク指令値T*を算出すると、算出したトルク指令値T*を、モータコントローラ111に出力する。
モータコントローラ111は、モータ104への印加電圧のパルス幅を制御するために、インバータ103のスイッチング素子Tr1〜Tr6のそれぞれに対してパルス幅変調(PWM)信号を出力する。具体的には、モータコントローラ111は、電流センサ106から出力される三相交流電流Iu、Iv、Iwと、回転子位置センサ107から出力される回転子の位相θと、車両コントローラ110から出力されるトルク指令値T*とに基づいて、電圧指令値を算出する。次に、モータコントローラ111は、電圧指令値と、電圧センサ108から出力されるコンデンサ電圧Vcapとを用いて、デューティ指令値を算出する。次に、モータコントローラ111は、デューティ指令値とキャリア波とを比較し、比較結果に応じてPWM信号を生成する。次に、モータコントローラ111は、生成したPWM信号をゲート駆動回路109へ出力する。ゲート駆動回路109は、入力された各PWM信号に基づいてインバータ103のスイッチング素子Tr1〜Tr6をそれぞれ操作する。このようにすることで、モータ104への印加電圧のパルス幅が制御され、モータ104においてはトルク指令値T*のトルクを発生することができる。
なお、電源システム100においては、インバータ103、電流センサ106、及び、モータコントローラ111などによって、電力制御装置が構成されるものとする。また、モータコントローラ111は、半導体チップにより構成される。
ここで、モータコントローラ111によるスイッチング素子Trの操作頻度の変更方法について説明する。
図2は、スイッチング素子の操作頻度を変更する処理の説明図である。図2(a)には、操作頻度を変更しない場合のPWM信号生成処理が示されている。図2(b)には、キャリア波の周波数を変更して操作頻度を変更する場合の、PWM信号生成処理が示されている。図2(c)には、スイッチング素子のスイッチング操作を抑制して操作頻度を変更する場合の、PWM信号生成処理が示されている。
図2(a)〜(c)には、それぞれ、算出期間、比較処理、及び、PWM信号が記載されている。算出期間においては、モータコントローラ111がデューティ指令値の算出処理を行う期間が示されている。比較処理においては、キャリア波及びデューティ指令値が比較される。PWM信号においては、ハイレベル又はローレベルの信号が示されている。この信号のレベルに応じて、スイッチング素子Trが操作される。
また、図2(a)〜(c)のそれぞれにおいて、算出期間と比較処理との間に、矢印が示されている。この矢印は、デューティ指令値の算出が完了したタイミングから、算出したデューティ指令値とキャリア波との比較を開始するタイミングまでの間のズレを示している。
なお、周波数を変更していないキャリア波が単調に増加又は減少する期間、すなわち、最小値から最大値まで(谷から山まで)、又は、最大値から最小値まで(山から谷まで)変化する期間は、キャリア波の周期の半分に相当する。そこで、このような周波数を変更していないキャリア波が単調に増加又は減少する期間を、キャリア波の半周期と称するものとする。また、ある測定電流に応じたデューティ指令値とキャリア波との比較、及び、その比較結果に応じたスイッチング素子Trの操作が行われる期間を、操作期間と称するものとする。
まず、図2(a)を用いて、スイッチング素子Trの操作頻度を変更しない場合のPWM信号生成処理について説明する。
時刻T1は、キャリア波が最大となるタイミングである。この時刻T1において、電流センサ106は電流を測定する。そして、モータコントローラ111は、この測定電流を用いて時刻T2〜T3のデューティ指令値の算出を開始する。なお、時刻T1〜T2までの間においては、デューティ指令値とキャリア波との大きさが比較され、その比較結果に応じたPWM信号が生成される。
具体的には、デューティ指令値がキャリア波よりも大きい場合には、スイッチング素子TrがオンとなるPWM信号が生成される。一方、デューティ指令値がキャリア波より小さい場合には、スイッチング素子TrがオフとなるPWM信号が生成される。なお、デューティ指令値とキャリア波とが交差する位置に丸印が付されており、この丸印が付されたタイミングでスイッチング素子Trが操作される。
時刻T1sにおいて、モータコントローラ111は、デューティ指令値の算出処理を完了する。
時刻T2は、キャリア波が最小となるタイミングである。この時刻T2において、時刻T1での測定電流を用いて算出されたデューティ指令値とキャリア波との比較を開始する。
時刻T2よりも後においても、上述の動作が繰り返される。
したがって、図2(a)に示したように操作頻度を変更しない場合には、測定電流に応じたデューティ指令値とキャリア波との比較、及び、スイッチング素子Trの操作は、キャリア波の半周期ごとに行われる。したがって、操作期間は、キャリア波の半周期に相当する。
次に、図2(b)を用いて、従来技術であるキャリア波の周波数を変更して操作頻度を変更する場合の、PWM信号生成処理について説明する。この図でのキャリア波は、図2(a)に示されたキャリア波と比較すると、周期が3倍、すなわち、周波数が1/3倍に変更されている。
時刻T1は、キャリア波が最小となるタイミングである。この時刻T1において、デューティ指令値とキャリア波との比較処理を開始する。
同時に、図中の算出期間を参照すると、電流センサ106により電流が測定され、その測定電流を用いてデューティ指令値の算出が開始される。なお、ここで算出されたデューティ指令値は、時刻T4から始まる操作期間にてキャリア波と比較される。
時刻T1sにおいて、モータコントローラ111は、デューティ指令値の算出処理を完了する。
時刻T4は、キャリア波が最大となるタイミングである。この時刻T4において、時刻T1での測定電流を用いて算出されたデューティ指令値とキャリア波との比較処理を開始する。
時刻T4よりも後においても、上述の動作が繰り返される。
したがって、図2(b)に示したようにキャリア波の周波数を変更する場合には、周波数を変更しない場合のキャリア波の半周期の3倍の時間ごとに、測定電流に応じたデューティ指令値とキャリア波との比較、及び、スイッチング素子Trの操作が行われる。したがって、操作期間は、周波数を変更しない場合のキャリア波の半周期の3倍の時間に相当する。このように、図2(a)に示した場合と比較すると、操作期間が3倍になるため、操作頻度を1/3倍に低下させることができる。
次に、図2(c)を用いて、本願発明においてスイッチング素子Trのスイッチング操作を抑制して操作頻度を変更する場合のPWM信号生成処理について説明する。この図におけるキャリア波は、図2(a)におけるキャリア波と周期が同じである。また、この図においては、スイッチング素子Trの操作期間は、図2(b)に示された場合と同様に、図2(a)に示された場合と比較すると3倍になるものとする。なお、デューティ指令値とキャリア波とが交差しない場合には、スイッチング素子Trは操作されないものとする。
時刻T1は、キャリア波が最大となるタイミングである。この時刻T1において、電流センサ106は電流を測定する。そして、モータコントローラ111は、その測定電流を用いて時刻T2〜T4のデューティ指令値の算出を開始する。なお、時刻T1から、デューティ指令値とキャリア波との比較処理が開始されるが、時刻T1〜T2においては、デューティ指令値は常にキャリア波以上であるため、スイッチング素子の切り替え操作はされない。
時刻T1sにおいて、モータコントローラ111は、デューティ指令値の算出処理を完了する。
時刻T2は、キャリア波が最小となるタイミングである。この時刻T2において、時刻T1の測定電流を用いて算出されたデューティ指令値とキャリア波との比較処理を開始する。
同時に、時刻T2において、モータコントローラ111は、デューティ指令値の決定処理を開始する。ここで決定されたデューティ指令値は、時刻T3〜T4にてキャリア波と比較される。なお、時刻T2においては、測定電流を用いてデューティ指令値が求められるのではなく、キャリア波の勾配に応じたデューティ指令値が決定される。具体的には、時刻T2から始まるキャリア波の半周期(時刻T2〜T3)におけるキャリア波の勾配が正であるため、時刻T3〜T4のデューティ指令値としてキャリア波の最小値(ローサイド)が決定される。なお、当該半周期におけるキャリア波の勾配が負である場合には、時刻T3〜T4のデューティ指令値としてキャリア波の最大値(ハイサイド)が決定される。
時刻T2s’において、モータコントローラ111は、デューティ指令値の決定処理を完了して、キャリア波の最小値をデューティ指令値として決定する。なお、測定電流を用いてデューティ指令値を算出する時間(時刻T1〜T1’)よりも、キャリア波の勾配に応じてデューティ指令値を決定する時間(時刻T2〜T2’)の方が短い。
時刻T3は、キャリア波が最大となるタイミングである。この時刻T3においては、モータコントローラ111は、時刻T2s’にて決定されたデューティ指令値と、キャリア波との比較処理を開始する。
時刻T4は、キャリア波が最小となるタイミングである。この時刻T4においては、デューティ指令値は変更されない。同時に、時刻T4において、電流センサ106は電流を測定し、モータコントローラ111は、その測定電流に基づいてデューティ指令値の算出を開始する。
時刻T4よりも後においても、上述の動作が繰り返される。なお、本説明においては時刻T4において、デューティ指令値の設定がされていないが、例えば、半導体チップの処理上の制約などにより、キャリア波が最大又は最小となるタイミングで、何らかの値をデューティ指令値に設定する必要がある場合がある。このような場合には、時刻T4においては、時刻T3と同じ値のデューティ指令値を設定する。
したがって、図2(c)に示したようにスイッチング素子のスイッチング操作を抑制することで、キャリア波の半周期の3倍の時間ごとに、測定電流に応じたデューティ指令値とキャリア波との比較、及び、スイッチング素子Trの操作が行われることになる。したがって、操作期間は、キャリア波の半周期の3倍の時間に相当する。このように、図2(a)に示した場合と比較すると、操作期間が3倍になるため、操作頻度を1/3倍に低下させることができる。
ここで、図2(c)に示されたような、スイッチング素子の操作を抑制する場合の動作をまとめると、以下のようになる。測定電流に応じたデューティ指令値とキャリア波との比較、及び、スイッチング素子Trの操作が行われる操作期間は、電流の測定タイミング(時刻T1)から開始される。ここで、説明の便宜上、変更後の操作期間(時刻T1〜T4)の中点をまたぐ、キャリア波の半周期(キャリア波が単調に増加又は減少する期間)を、比較期間(時刻T2〜T3)と称するものとする。
この比較期間(時刻T2〜T3)においては、キャリア波と測定電流に応じたデューティ指令値との大小関係が逆転するタイミングにおいて、スイッチング素子が切り替え操作される。一方、比較期間の前後(時刻T1〜T2、T3〜T4)においては、デューティ指令値がハイサイド又はローサイドに設定されており、デューティ指令値とキャリア波との大小関係は変わらず、スイッチング素子が切り替え操作されない。したがって、変更後の操作期間(時刻T1〜T4)においては、比較期間(時刻T2〜T3)においてのみスイッチング素子Trが切り替え操作されることになる。このようにスイッチング素子Trは、変更後の操作期間ごとに切り替え操作されるため、スイッチング素子Trの操作頻度を低下させることができる。
図3は、スイッチング素子の操作頻度の変更処理の説明図である。図3は、図2と同様に、図3(a)は、操作頻度の変更しない場合のPWM信号生成処理の説明図である。図3(b)は、キャリア波の周波数を変更する場合のPWM信号生成処理の説明図である。図3(c)は、スイッチング素子の操作を抑制する場合のPWM信号生成処理の説明図である。この図においては、図2よりも長い期間のPWM信号生成処理が示されている。
図3(b)に示された周波数を変更する場合、及び、図3(c)に示されたスイッチング素子の操作を抑制する場合のそれぞれにおいて、スイッチング素子Trの操作は、キャリア波の半周期の3倍の期間ごとに行われる。
スイッチング素子の操作を抑制する時において、操作期間のうちの比較期間の前では、比較期間のキャリア波の傾きが正である場合には、デューティ指令値にキャリア波の最大値となろ、比較期間のキャリア波の傾きが負である場合には、キャリア波の最小値となる。一方、比較期間の後では、比較期間のキャリア波の傾きが正である場合には、デューティ指令値にキャリア波の最小値となり、比較期間のキャリア波の傾きが負である場合には、キャリア波の最大値となる。このようなデューティ指令値の設定動作について、図3(c)を用いて具体的に説明する。
時刻T1〜T4の操作期間を参照すると、比較期間(時刻T2〜T3)におけるキャリア波の傾きが正であるため、比較期間の後(時刻T3〜T4)において、キャリア波の最小値がデューティ指令値に設定される。そして、次の操作期間である時刻T4〜T7を参照すると、比較期間の前(時刻T4〜T5)では、デューティ指令値はキャリア波の最小値のままであり変更されていない。したがって、次の操作期間(時刻T4〜T6)の比較期間(時刻T5〜T6)の前の時間である時刻T4〜T5においては、デューティ指令値にキャリア波の最大値が設定されている。これは、比較期間(時刻T5〜T6)でのキャリア波の負の傾きに応じた値となる。
したがって、モータコントローラ111は、ある操作期間の比較期間が終了した時に、その比較期間の傾きに応じてキャリア波の最大値又は最小値の一方を、デューティ指令値に設定する。このようにすることにより、ある操作期間のうちの比較期間の後では、キャリア波の最大値又は最小値の一方がデューティ指令値に設定される。そして、このデューティ指令値は、次の操作期間の比較期間の前においても変わらずに用いられる。このようにすることで、次の操作期間の比較期間の前のデューティ指令値は、操作期間のキャリア波の傾きに応じた値となる。
ここで、図2(a)、及び、図3(a)に示した操作期間を変更しない場合と、図2(b)、及び、図3(b)に示したキャリア波の周波数を変更する場合とにおける、デューティ指令値とデューティ比との関係について説明する。なお、デューティ比とは、PWM信号における、スイッチング素子Trの操作周期に対するON区間の比率である。
図4Aは、比較処理とPWM信号の一例を示す図である。
この図の比較処理には、操作頻度を変更しない場合のキャリア波が実線で示されている。また、周波数を変更する場合のキャリア波が点線で示されている。なお、デューティ指令値は、操作頻度を変更しない場合、及び、周波数を変更する場合のそれぞれにおいて同じであり、太い実線で示されている。
また、この図のPWM信号には、操作頻度を変更しない場合のPWM信号が太い実線で示されている。また、周波数を変更する場合のPWM信号が太い点線で示されている。
操作周期を変更しない場合のデューティ比は、PWM信号のON区間の総和であり、周波数を変更する場合のデューティ比と等しい。これは、キャリア波の勾配が異なっていても、キャリア波が一定の周期で最大値と最小値との繰り返す以上、デューティ指令値がキャリア波よりも大きくなる区間の総和は、デューティ比と等しくなるためである。
したがって、図2(b)、及び、図3(b)にて示したように周波数を変更する場合においては、算出されたデューティ指令値をそのまま使用することで、デューティ比を所望の値とすることができる。
次に、図2(b)、及び、図3(b)に示した周波数を変更する場合と、図2(c)、及び、図3(c)に示したスイッチング素子の操作を抑制する場合とにおける、デューティ指令値とデューティ比との関係について説明する。
図4Bは、比較処理とPWM信号の他の一例を示す図である。
この図の比較処理には、周波数を変更する場合について、デューティ指令値が太い点線で、キャリア波が点線で示されている。なお、このデューティ指令値は、Db*であるものとする。また、スイッチング素子の操作を抑制する場合について、デューティ指令値が太い実線で、キャリア波が実線で示されている。なお、このデューティ指令値のうち時刻T2〜T3(比較期間)におけるデューティ指令値は、Dc*であるものとする。
また、この図のPWM信号には、操作頻度を変更しない場合、及び、周波数を変更する場合のPWM信号は、一致しており、太い実線で示されている。
ここで、周波数を変更する場合、及び、スイッチング素子の操作を抑制する場合において、デューティ比を等しくするためには、スイッチング素子Trの操作タイミングを一致させる必要がある。そのためには、デューティ指令値Dc*は、デューティ指令値Db*の3倍の大きさとなる必要がある。これは、スイッチング素子の操作を抑制する場合は、周波数を変更する場合と比較すると、比較期間において、キャリア波の勾配が3倍急であるためである。
したがって、スイッチング素子の操作を抑制する場合においては、算出されたデューティ指令値を操作期間の変更倍率(3倍)に応じて補正することで、デューティ比を所望の値とすることができる。
次に、図5を用いて、図1のモータコントローラ111の構成について説明する。
図5は、モータコントローラ111の構成を示すブロック図である。
電流指令値算出部501は、図1の車両コントローラ110により算出されるトルク指令値T*と、モータ104の回転速度ωとに基づいて、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出する。
なお、モータ104の回転速度ωは、以下のように求められる。
位相演算部507は、図1の回転子位置センサ107から出力される回転子位置センサ信号に基づき、回転子位相θを算出する。
そして、回転速度演算部508は、位相演算部507が算出した回転子位相θを微分演算することで回転速度(電気角速度)ωを演算する。
電流制御部502には、電流指令値算出部501から出力されるd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*と、位相変換部509からモータ104へと流れる電流の測定値であるd軸電流Id及びq軸電流Iqが入力される。電流制御部502は、これらの入力値に基づいて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。具体的には、電流制御部502は、d軸電流指令値Id*とd軸電流Idとの偏差がなくなるように、d軸電圧指令値Vd*を求める。また、電流制御部502は、q軸電流指令値Iq*とq軸電流Iqとの偏差がなくなるように、q軸電圧指令値Vq*を求める。
なお、位相変換部509は、図1の電流センサ106U、106V、106Wにより測定される三相交流電流Iu、Iv、Iwと、位相演算部507にて算出された回転子位相θとに基づいて、d軸電流Id、及び、q軸電流Iqを算出する。
なお、電流センサ106が、キャリア波の大きさを測定するタイミングと、位相変換部509から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqが変化するタイミングとは同期している。例えば、電流センサ106が、キャリア波の大きさが最大となるタイミングで、モータ104へ流れる電流を測定する場合には、キャリア波の大きさが最大となるタイミングと同期して、位相変換部509から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqが変化する。
位相変換部503は、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*と、位相演算部507から出力されるモータ104の回転子の位相θとを用いて、三相交流電圧指令値Vu0*、Vv0*、Vw0*を求める。そして、位相変換部503は、求めた三相交流電圧指令値Vu0*、Vv0*、Vw0*を電圧補正部504に出力する。
上述のようにモータ104の各相の入力部に供給される電位は「−Vcap/2」から「+Vcap/2」までの範囲である。そのため、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*は、「−Vcap/2」から「+Vcap/2」までの範囲となる。
電圧補正部504には、位相変換部503から三相交流電圧指令値Vu0*、Vv0*、Vw0*と、操作期間算出部510からスイッチング周期の変更倍率Nswが入力される。図4Bを用いて説明したように、電圧補正部504は、三相交流電圧指令値Vu0*、Vv0*、Vw0*をそれぞれNsw倍し、補正後電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*とする。
ここで、電圧指令値が大きく変更される場合には、電圧指令値が変更されてから、実際にモータ104への印加電圧に変更が反映されるまでに時間を要することがある。このように変更が反映されるまでの状態は、過渡状態と称される。電圧補正部504がこのような補正を行うことで、スイッチング素子Trの操作タイミングが所望のタイミングとなるため、このような過渡状態も含めて電流制御性能を良くすることができる。
なお、電圧補正部504による補正が行われなくてもよい。このような場合には、過渡状態での電流制御性能は劣ってしまう。しかしながら、測定電流を用いてデューティ指令値を求める以上、フィードバック制御が行われるため、過渡状態以外の定常状態における電流制御性能、すなわち、測定電流の電流指令値への追従性は、電圧補正部504による補正が行われる場合とほぼ同等となる。
ここで、操作期間算出部510による変更倍率Nswの算出方法について説明する。
操作期間算出部510には、モータコントローラ111の半導体温度と、モータ104の回転速度ωと、モータ104のトルク指令値T*とが入力される。操作期間算出部510は、これらの入力に基づいて、操作期間の変更の有無、及び、変更後の操作期間の倍率Nswを決定する。なお、操作期間が変更される場合には、変更倍率Nswには1より大きな奇数の値が設定される。
変更倍率Nswが大きいほど、スイッチング素子Trの操作頻度が小さくなるため、半導体チップの発熱量を小さくすることができる。そのため、半導体チップの温度が高いほど変更倍率Nswは大きく設定される。また、回転速度ωの絶対値が0に近いほど、モータ104における放熱が抑制されるため、変更倍率Nswは大きく設定される。また、トルク指令値T*の絶対値が大きいほど、変更倍率Nswは大きく設定される。
操作期間算出部510は、変更倍率Nswを、電圧補正部504、及び、PWM信号生成部506に出力する。
デューティ変換部505は、補正後電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と、図1のコンデンサ105のコンデンサ電圧Vcapとに基づいて、次の式(1)を用いて、デューティ指令値Du*、Dv*、Dw*を生成し、PWM信号生成部506に出力する。
PWM信号生成部506には、デューティ指令値Du*、Dv*、Dw*、及び、変更倍率Nswが入力される。
PWM信号生成部506は、変更倍率Nswが1よりも大きい奇数である場合、すなわち、3以上の奇数である場合には、デューティ指令値Du*、Dv*、Dw*に対して、図2(c)にて説明されたような処理を行う。具体的には、比較期間の前後においては、比較期間のキャリア波の勾配に応じて、デューティ指令値はハイサイド又はローサイドに設定する。なお、比較期間においては、デューティ指令値は、電圧補正部504によって変更倍率Nsw倍に補正されている。そして、PWM信号生成部506は、このようなキャリア波と、デューティ指令値Du*、Dv*、Dw*とを比較して、PWM信号を生成する。
一方、PWM信号生成部506は、変更倍率Nswが1である場合には、デューティ指令値Du*、Dv*、Dw*に対して図2(c)にて説明されたような処理を行わずに、キャリア波とデューティ指令値Du*、Dv*、Dw*とを比較してPWM信号を生成する。この場合には、中間期間において、デューティ指令値は、電圧補正部504による補正は行われていない。
第1実施形態の電力制御方法によって、以下の効果を得ることができる。
第1実施形態の電力制御方法によれば、キャリア波が単調に増加又は減少するキャリア波の半周期において、デューティ指令値とキャリア波との比較が行われる。そして、その比較結果に応じてPWM信号が生成され、生成されたPWM信号を用いてインバータ103が備えるスイッチング素子Trを操作することで、モータ104に供給する電力を制御する。
電流センサ106は、キャリア波が最大又は最小となるタイミングにおいて、モータ104に供給される電流を測定する電流測定ステップを実行する。次に、モータコントローラ111においては、測定電流、及び、モータ104の要求トルクに応じて、デューティ指令値を算出する指令値算出ステップが行われる。次に、キャリア波とデューティ指令値との大きさが比較され、比較結果に応じてPWM信号を生成するPWM信号生成ステップが行われる。
モータコントローラ111において、ある測定電流に応じたデューティ指令値とキャリア波との比較、及び、その比較結果に応じたスイッチング素子Trの操作が行われる操作期間の変更が必要であるか否かを判定する判定ステップが実行される。そして、半導体チップの温度が高く、判定ステップにおいて操作期間の変更が必要であると判定される場合には、操作期間を変更するために、抑制ステップが実行される。
抑制ステップにおいては、変更後の操作期間のうちの、その操作期間の中点をまたぐ半周期(比較期間)においてはキャリア波とデューティ指令値との比較処理が行われ、その比較結果に応じてスイッチング素子がスイッチング操作される。一方、比較期間の前後においては、スイッチング素子のスイッチング操作が抑制される。
このようにすることにより、変更後の操作期間においては、比較期間においてのみ比較が行われて、キャリア波とデューティ指令値とが交差するタイミングでスイッチング素子Trが操作される。一方、比較期間の前後においては、スイッチング素子Trの操作が抑制される。したがって、変更後の操作期間においては、比較期間においてのみスイッチング素子が操作されることになるので、スイッチング素子Trの操作頻度を低くすることができる。そのため、半導体チップの温度の上昇を抑制できるので、半導体チップを保護することができる。
また、第1実施形態の電力制御方法によれば、比較期間の前においては、比較期間のキャリア波の傾きに応じて、キャリア波の最大値又は最小値の一方が、デューティ指令値に設定される。また、比較期間の後においては、比較期間のキャリア波の傾きに応じて、キャリア波の最大値又は最小値の他方が、デューティ指令値に設定される。このようにデューティ指令値が設定されることで、キャリア波とデューティ指令値とは交差しなくなるため、スイッチング素子Trのスイッチング操作を抑制することができる。
また、第1実施形態の電力制御方法によれば、操作期間の中点をまたぐ半周期(比較期間)における比較処理には、その操作期間の開始タイミングにて測定された電流に基づいて求められたデューティ指令値が用いられる。そのため、電流の測定タイミングから、その測定電流に応じたデューティ指令値を用いてスイッチング素子の操作が行われる操作期間の開始タイミングまでの遅延時間は、変更後の操作期間の半分の時間に相当する。
一方、従来技術のようにキャリア波の周波数を低く変更する場合においては、電流の測定タイミングから、その測定電流に応じた操作期間の開始タイミングまでの遅延時間は、変更後の操作期間に相当する。そのため、本実施形態によって、電流の測定タイミングから、その測定電流に応じた操作期間の開始タイミングまでの遅延時間を短くすることができるので、モータ104の回転制御の精度を向上することができる。
あわせて、キャリア波が最大又は最小となるタイミングのうち、電流測定タイミング以外においては、電流が測定されず、デューティ指令値を算出しない。そのため、モータコントローラの処理負荷を低減することができる。
また、第1実施形態の電圧制御方法によれば、電圧補正部504において、三相交流電圧指令値Vu0*、Vv0*、Vw0*に対して操作期間の変更倍率Nswを乗ずる補正ステップを実行する。
抑制ステップが実行されることにより、比較期間におけるキャリア波の勾配が変更されるため、デューティ比が本来のデューティ指令値に応じた値とならない。そこで、このような補正ステップを行うことにより、勾配の変更が考慮されるので、デューティ比を本来のデューティ指令値に応じた値にすることができる。したがって、測定電流に応じた本来のタイミングでスイッチング素子Trを操作することができるため、モータ104の回転制御の精度を向上することができる。
また、第1実施形態の電力制御方法によれば、半導体チップの温度、モータ104の回転速度、及び、モータ104のトルク指令値のうちの少なくとも1つに応じて、操作期間を変更するか否かを判定する判定ステップが実行される。半導体チップには、安定的に動作可能な温度範囲が定められている。そのため、半導体チップの測定温度が高い場合には、操作期間が変更される。モータ104の回転速度が低い場合には、操作期間が変更される。また、モータ104のトルク指令値T*の絶対値が大きい場合には、操作期間が変更される。したがって、半導体チップの温度が安定的に動作可能な温度範囲を超えてしまうおそれがある場合には、スイッチング素子Trの操作頻度を低下させることにより半導体チップの発熱が抑制されるので、半導体チップを保護することができる。
(第2実施形態)
第1実施形態においては、変更倍率Nswが3である例を用いて説明したが、これに限らない。変更倍率Nswは他の奇数であってもよい。そのため、第2実施形態では、変更倍率Nswが5である場合について説明する。
図6は、変更倍率Nswが5である場合のPWM信号制御の説明図である。この図では、5倍に変更された操作期間(時刻T1〜T6)のPWM信号制御が示されている。
時刻T1、すなわち、キャリア波が最大となるタイミングにおいて、電流センサ106は電流を測定する。そして、モータコントローラ111は、その測定電流を用いて指令値の算出を開始する。なお、デューティ指令値は、この操作期間の比較期間(時刻T3〜T4)のキャリア波の傾きが負であるため、キャリア波の最小値(ローサイド)が設定されている。
時刻T1sにおいて、モータコントローラ111は、デューティ指令値の算出処理を完了する。
時刻T3において、測定タイミング(時刻T1)から開始される変更後の操作周期(T1〜T6)の中点をまたぐキャリア波の単位周期が比較期間(T3〜T4)となる。比較期間において、キャリア波とデューティ指令値との比較処理が行われる。
そこで、時刻T3において、モータコントローラ111は、時刻T1sにて算出処理が完了したデューティ指令値とキャリア波との比較処理を開始する。同時に、時刻T3において、モータコントローラ111は、デューティ指令値の決定処理を開始する。
時刻T3s’になると、モータコントローラ111は、デューティ指令値の決定処理を完了する。この算出処理においては、比較期間の勾配が負であるため、デューティ指令値としてキャリア波の最大値(ハイサイド)が決定される。
時刻T4、すなわち、比較期間が終了すると、モータコントローラ111は、時刻T3s’にて決定されたデューティ指令値とキャリア波との比較を開始する。
このようにすることにより、変更後の操作期間(時刻T1〜T6)においては、比較期間(時刻T3〜T4)においてのみスイッチング素子Trが操作され、比較期間の前後(時刻T1〜T3、T4〜T6)においては、スイッチング素子Trが操作されない。したがって、キャリア波の半周期の5倍の長さである操作期間ごとにスイッチング素子Trが操作されるため、操作頻度を1/5倍とすることができる。
なお、モータコントローラ111は、半導体チップの温度、モータ104の回転速度、及び、モータ104のトルク指令値のうちの少なくとも1つに応じて、変更倍率Nswを定める。具体的には、半導体チップの温度が高いほど、変更倍率Nswを大きくする。モータ104の回転速度が低いほど、変更倍率Nswを大きくする。また、モータ104のトルク指令値T*の絶対値が大きいほど、変更倍率Nswを大きくする。
ここで、変更倍率Nswが大きくなると、スイッチング素子Trの操作頻度が低下するので、モータ104の回転制御の精度が低下してしまう。そこで、このように変更倍率Nswを必要に応じた値に設定されることにより、モータ104の回転制御の精度の低下を抑制するとともに、半導体チップの温度の上昇を抑制することができる。
第2実施形態の電力制御方法によって、以下の効果を得ることができる。
第2実施形態の電力制御方法によれば、操作期間算出部510は、変更倍率Nswとして、1より大きな奇数である5を設定することができる。例えば、半導体チップの温度が急激に上昇している場合においては、スイッチング素子Trの操作頻度を大幅に小さくする必要がある。このような場合には、変更倍率Nswとして大きな値を設定することでスイッチング素子Trの操作頻度を大幅に低下させることができる。そのため、半導体チップの温度の上昇をさらに抑制できるので、半導体チップをより確実に保護することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。