以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態における電源システムの概略構成図である。
図1に示される電源システム100は、電動車両に載置されているものとする。このシステムによれば、バッテリ101から、リレー102、及び、インバータ103を介して、モータ104に電力が供給される。
バッテリ101は、二次電池であり、直流電力を出力する。
リレー102は、電源システム100全体の駆動又は停止を制御する。
インバータ103は、複数のスイッチング素子(絶縁ゲートバイポーラトランジスタIGBT)Tr1〜Tr6と、整流素子(ダイオード)D1〜D6とを備えている。整流素子D1〜D6は、スイッチング素子Tr1〜Tr6のそれぞれと並列に設けられるとともに、スイッチング素子Tr1〜Tr6の整流方向とは逆方向に電流が流れるように設けられている。また、スイッチング素子は2つずつ直列に接続されており、直列接続された2つのスイッチング素子の間と、モータ104の三相(UVW)の入力部のうちのいずれかとがそれぞれ接続されている。
具体的には、スイッチング素子Tr1及びTr2、スイッチング素子Tr3及びTr4、スイッチング素子Tr5及びTr6が、それぞれ、直列に接続されている。そして、スイッチング素子Tr1及びTr2の接続点とモータ104のU相の入力部とが接続され、スイッチング素子Tr3及びTr4の接続点とモータ104のV相の入力部とが接続され、スイッチング素子Tr5及びTr6の接続点とモータ104のW相の入力部とが接続されている。このように設けられたスイッチング素子Tr1〜Tr6がモータコントローラ111から出力されるPWM信号に応じて操作されることにより、バッテリ101からモータ104に印加される電圧のパルス幅が制御される。一般に、このような制御が、PWM電流制御と称されている。
なお、インバータ103にバッテリ101の電圧が印加されていない場合のモータ104の各相の入力部における電位はゼロであるものとする。また、コンデンサ105の電位差がVcapである。そのため、モータ104の各相の入力部に印加される電圧の電位は、「−Vcap/2」から「+Vcap/2」までの範囲の値であるものとする。
モータ104は、回転子に永久磁石を備える永久磁石型の三相交流モータであり、三相(UVW相)のそれぞれについて入力部を有している。モータ104は電動車両の駆動輪を駆動する駆動源であって、モータ104の回転に伴って電動車両の駆動輪が回転する。
コンデンサ105は、リレー102とインバータ103との間に配置され、インバータ103と並列に接続されている。コンデンサ105は、バッテリ101からインバータ103に入力される直流電力を平滑化する。
電流センサ106は、インバータ103からモータ104の各相の入力部へと流れる電流のそれぞれの大きさを測定する。本実施形態では、電流センサ106を構成する電流センサ106U、106V、106Wの3つの電流センサが、モータ104の各相の入力部への電源線に設けられている。電流センサ106U、106V、106Wは、それぞれ、測定した各相の三相交流電流Iu、Iv、Iwをモータコントローラ111にフィードバック出力する。
回転子位置センサ107は、例えばレゾルバやエンコーダなどである。回転子位置センサ107は、モータ104の回転子の近傍に設けられており、モータ104の回転子の位相θを測定する。そして、回転子位置センサ107は、測定した回転子の位相θを示す回転子位置センサ信号を、モータコントローラ111に出力する。
電圧センサ108は、コンデンサ105と並列に設けられている。電圧センサ108は、コンデンサ105の両端の電位差であるコンデンサ電圧Vcapを測定すると、コンデンサ電圧Vcapをゲート駆動回路109に出力する。
ゲート駆動回路109は、モータコントローラ111から入力されるPWM信号に応じて、インバータ103のスイッチング素子Tr1〜Tr6を操作する。また、ゲート駆動回路109は、スイッチング素子Tr1〜Tr6について、温度を測定するとともに正常に動作しているか否かを検出する。ゲート駆動回路109は、スイッチング素子Tr1〜Tr6について測定した温度や検出した状態などを示すIGBT信号を、モータコントローラ111へ出力する。ゲート駆動回路109は、電圧センサ108によって測定されたコンデンサ電圧Vcapを示すコンデンサ電圧信号をモータコントローラ111に出力する。
車両コントローラ110は、モータ104に要求するトルクである要求トルクを示すトルク指令値T*を算出すると、算出したトルク指令値T*を、モータコントローラ111に出力する。
モータコントローラ111は、モータ104への印加電圧のパルス幅を制御するために、インバータ103のスイッチング素子Tr1〜Tr6のそれぞれに対してパルス幅変調(PWM)信号を出力する。具体的には、モータコントローラ111は、電流センサ106から出力される三相交流電流Iu、Iv、Iwと、回転子位置センサ107から出力される回転子の位相θと、車両コントローラ110から出力されるトルク指令値T*とに基づいて、電圧指令値を算出する。次に、モータコントローラ111は、電圧指令値と、電圧センサ108から出力されるコンデンサ電圧Vcapとを用いて、デューティ指令値を算出する。次に、モータコントローラ111は、デューティ指令値とキャリア波とを比較し、比較結果に応じてPWM信号を生成する。次に、モータコントローラ111は、生成したPWM信号をゲート駆動回路109へ出力する。ゲート駆動回路109は、入力された各PWM信号に基づいてインバータ103のスイッチング素子Tr1〜Tr6をそれぞれ操作する。このようにすることで、モータ104への印加電圧のパルス幅が制御され、モータ104においてはトルク指令値T*のトルクを発生することができる。
なお、電源システム100においては、バッテリ101及びモータ104以外の構成、すなわち、インバータ103、電流センサ106、及び、モータコントローラ111などによって、電力制御装置が構成されるものとする。
ここで、本実施形態におけるモータコントローラ111がモータ104への印加電圧を制御する方法について、図2を用いて説明する。なお、モータ104は、ロータとステータとによって構成されており、ロータは永久磁石を備え、ステータはコイルを備えている。そして、ステータのコイルにインバータ103から電圧が印加されると、コイルにて磁束が発生する。
図2は、モータ104における印加電圧及び発生する磁束を示す図である。
図2(a)にはモータ104への印加電圧が示されており、図2(b)には印加電圧に応じてステータにて発生する磁束が示されている。
図2(a)及び(b)においては、印加電圧及び磁束それぞれの振幅及び位相が、dq平面にて示されている。図2(a)においては、印加電圧が示されるとともに、その振幅の上限が円で示されている。また、図2(b)においては、ロータの永久磁石の磁束をd軸に基準として設定した場合の、電圧が印加されたステータの磁束が示されている。なお、磁束B2と同じ大きさの磁束が点線の円で示されている。
図2(a)においては、モータ104のトルクを大きくするために、印加電圧は、V1から、V2を経て、V3へと変化するものとする。図2(b)においては、印加電圧V1、V2、及び、V3のそれぞれと対応して、モータ104のステータにて発生する磁束B1、B2、及び、B3が示されている。
図2(a)、(b)を参照すると、モータ104への印加電圧がV1である場合には、印加電圧V1に応じた電流がモータ104のステータに流れ、その電流に応じてモータ104のステータにて磁束B1が発生する。
なお、印加電圧V1とステータに流れる電流との間には、モータ104のリアクタンスに応じた位相差が生じる。そのため、図2(a)の印加電圧V1と、図2(b)の磁束B1との間に位相差が生じる。なお、ステータにて発生する磁束B1は、ロータの磁束(d軸)に対して所定の位相差がある。これは、印加電圧に対するモータ104のトルクの発生効率を高くするために、モータ104の構造に応じてステータとロータとの磁束に位相差が設けられているためである。
次に、印加電圧がV2である場合について説明する。図2(a)を参照すると、印加電圧V2は、印加電圧V1と比較すると、位相が等しく、振幅が大きい。したがって、図2(b)を参照すると、印加電圧V2に応じて発生する磁束B2は、磁束B1と比較すると、位相が等しく、振幅が大きい。なお、PWM信号制御においては、適切なパルス幅のPWM信号を生成可能なデューティ指令値の上限があるため、印加電圧の振幅にも上限がある。
次に、印加電圧がV3である場合について説明する。図2(a)を参照すると、印加電圧V2に対して位相をずらした印加電圧V3を用いることにより、発生トルクをさらに大きくすることができる。なお、図2(b)を参照すると、印加電圧V3に応じて発生する磁束B3は、モータ104の特性に応じた位相及び振幅となっており、その振幅は磁束B1よりも大きくなる。
このように、印加電圧の振幅が印加可能な範囲の最大の大きさである場合であっても、印加電圧の位相をずらすことにより、さらにモータ104のトルクを大きくすることができる。
なお、印加電圧をV1からV2に変化させるように、印加電圧の振幅を制御することを、ベクトル制御と称する。なお、ベクトル制御においては、印加電圧の位相が制御されることもありうる。また、印加電圧をV2からV3に変化させるように、印加電圧の位相のみを制御することを、位相制御と称する。すなわち、一般に、ベクトル制御においては印加電圧の振幅を大きくすることでモータ104のトルクを大きくすることが行われる。そして、印加電圧の振幅が上限値に達すると(V2)、ベクトル制御から位相制御に切り替えることで、さらにモータ104の発生トルクを大きくすることができる。
次に、図3、及び、図4を参照して、印加電圧の振幅が上限値に達したか否かを判定する処理について説明する。デューティ指令値の振幅の大きさには上限があり、その上限を超えると適切なパルス幅のPWM信号を生成できなくなる。そこで、デューティ指令値がこの範囲を超えてしまうか否かを判定することにより、印加電圧の振幅が上限値に達したか否かを判断することができる。
図3は、デューティ指令値とキャリア波との関係の一例を示す図である。なお、この図においては、モータ104のu相への入力の制御に用いるデューティ指令値Du*についてのみ説明し、モータ104のv相、w相への入力の制御に用いるデューティ指令値Dv*、Dw*については説明を省略する。
この図においては、横軸に時間が、縦軸にデューティ比が示されている。また、最大値が1(100%)となり、最小値が0(0%)となるように規格化されたキャリア波が示されている。また、モータコントローラ111により算出されたデューティ指令値Du*が太線で示されている。なお、デューティ指令値Du*は、キャリア波の大きさと同様に、0から1までの範囲内の値が設定される。
また、モータコントローラ111は、デューティ指令値Du*とキャリア波との大きさを比較して、デューティ指令値Du*がキャリア波の大きさ以上である場合には、スイッチング素子TrがOFFとなるようなPWM信号を生成する。一方、モータコントローラ111は、デューティ指令値Du*がキャリア波よりも小さい場合には、スイッチング素子TrがONとなるようなPWM信号を生成する。このようにすることにより、キャリア波の1周期に占めるスイッチング素子TrがONとなる区間の割合は、デューティ指令値Du*と等しくなる。
電流センサ106は、キャリア波が最大となるタイミング(時刻Ta)でモータ104への供給電流を測定する。例えば、電流センサ106が時刻Taにおいてモータ104に流れる電流を測定すると、モータコントローラ111は、時刻Taからの算出時間Δtだけ経過した時点である時刻Tbで、デューティ指令値Du*の算出を完了する。
算出されたデューティ指令値Du*は、デューティ指令値Du*の算出が完了した時点(時刻Tb)でのキャリア波の大きさよりも小さい。このような場合には、測定タイミング(時刻Ta)から算出時間Δtだけ経過した時点(時刻Tb)よりも後の時刻Tonにおいて、デューティ指令値Du*とキャリア波との大きさが等しくなり、PWM信号によりスイッチング素子TrはONに操作される。したがって、モータコントローラ111は、デューティ指令値Du*の算出が完了した時点(時刻Tb)においては、算出されたデューティ指令値Du*がキャリア波よりも小さいため、デューティ指令値Du*とキャリア波とを適切に比較することができる。
ここで、電流センサ106が、キャリア波が最大となるタイミング(時刻Ta)で三相交流電流Iu、Iv、Iwを測定するのは、以下の理由による。
キャリア波がデューティ指令値Du*を下回るタイミングであるTonにおいてスイッチング素子TrがONとなり、キャリア波がデューティ指令値Du*を上回るタイミングであるToffにおいてスイッチング素子TrがOFFとなる。このようなスイッチング素子Trの操作に起因して、バッテリ101からモータ104へと流れる電流に高調波のノイズが含まれてしまうことがある。
PWM電力制御方法においては、スイッチング素子Trの操作は極めて短い間隔で行われる。そのため、スイッチング素子Trの操作タイミングは、平均化されると、キャリア波が最大となるタイミングと最小となるタイミングとの中間点であるとみなすことができる。そのため、キャリア波が最大となるタイミング(時刻Ta)は、スイッチング素子Trの操作タイミング(時刻Ton及びToff)から最も時間的な隔たりがあることになる。したがって、キャリア波が最大となるタイミングにおいて電流センサ106が三相交流電流Iu、Iv、Iwを測定することにより、三相交流電流Iu、Iv、Iwに含まれる高調波のノイズを低減することができる。これにより、モータ104の回転制御の精度を高めることができる。
なお、図3においては、電流センサ106による電流の測定タイミングが、キャリア波が最大となるタイミングである場合について説明したが、これに限らない。電流センサ106が、キャリア波が最大及び最小となるタイミングで電流を測定したとしても、同様に三相交流電流Iu、Iv、Iwのノイズを低減することができる。スイッチング素子Trの操作タイミングは、平均化すれば、キャリア波が最大となるタイミングと最小となるタイミングとの中間点であるとみなすことができる。したがって、キャリア波が最大及び最小となるタイミングは、平均化されたスイッチング素子Trの操作タイミングから最も時間的な隔たりがあることになる。そのため、キャリア波が最大及び最小となるタイミングにおいて電流センサ106が電流を測定することにより、測定電流に含まれるスイッチング素子Trの操作に起因するノイズを抑制することができる。
図4は、バッテリ101からモータ104へと流れる電流に高調波のノイズが含まれてしまう場合のデューティ指令値とキャリア波との他の一例を示す図である。
この図を用いて、電流センサ106が、キャリア波が最大又は最小となる時刻Ta1及びTa2において電流を測定する場合について説明する。また、電流の測定タイミングである時刻Ta1及びTa2から、算出時刻Δtだけ経過した時刻Tb1及びTb2までの前におけるキャリア波が点線で示されている。
まず、キャリア波が最大となるタイミング(時刻Ta1)で電流が測定される場合について検討する。
モータコントローラ111は、算出時間Δt経過後の時刻Tb1以降において、デューティ指令値Du1*とキャリア波とを比較することが可能となる。この例では、算出されたデューティ指令値Du1*がキャリア波よりも大きいため、モータコントローラ111は、時刻Tb1において、スイッチング素子TrがONとなるPWM信号を生成してしまう。しかしながら、本来、デューティ指令値Du1*によってスイッチング素子TrがONとなるタイミングは、デューティ指令値Du1*とキャリア波とが同じ大きさとなる時刻Tc1となるべきである。
このように、デューティ指令値Du1*が時刻Tb1でのキャリア波よりも大きい場合には、本来のタイミングである時刻Tc1とは異なる時刻Tb1において、スイッチング素子Trが操作されてしまうため、モータ104への印加電力の制御の精度が低下してしまう。
次に、キャリア波が最小となるタイミング(時刻Ta2)で電流が測定される場合について検討する。
このような場合には、モータコントローラ111は、時刻Ta2から算出時間Δt経過後の時刻Tb2以降において、デューティ指令値Du2*とキャリア波とを比較することができる。デューティ指令値Du2*が時刻Tb2でのキャリア波よりも小さい場合には、本来のタイミングとは異なるタイミングでスイッチング素子Trが操作されてしまうため、モータ104への印加電力の制御の精度が低下してしまう。
ここで、時刻Tb1におけるキャリア波の中央値(1/2(50%))からの乖離量ΔDcは、時刻Tb2におけるキャリア波の中央値(1/2(50%))からの乖離量Δtと等しい。そこで、このような乖離量ΔDcは、算出時間Δtと、キャリア波の周波数fとを用いて、次の式のように示すことができる。
したがって、デューティ指令値Du1*が「0.5+ΔDc」よりも小さい場合には、モータコントローラ111にて求められるPWM信号によるスイッチング素子Trの制御タイミングと、本来、デューティ指令値Du1*によってスイッチング素子Trが操作されるタイミングとにズレが生じることはない。また、デューティ指令値Du2*が「0.5−ΔDc」よりも大きい場合にも、モータコントローラ111にて求められるPWM信号によるスイッチング素子Trの制御タイミングと、本来、デューティ指令値Du2*によってスイッチング素子Trが操作されるタイミングとにズレが生じることはない。
したがって、デューティ指令値Du*が「0.5−ΔDc」から「0.5+ΔDc」までの範囲であれば、モータコントローラ111にて求められるPWM信号によるスイッチング素子Trの制御タイミングと、本来のデューティ指令値Du*によってスイッチング素子TrがONとなるタイミングとにズレが生じない。そこで、この範囲の大きさである2ΔDcを上限変調率M*と定義すると、上限変調率M*は、次の式のように示すことができる。
また、上述のように、デューティ指令値Du*が、「0.5−ΔDc」から「0.5+ΔDc」までの範囲内の値であれば、モータコントローラ111にて求められるPWM信号によるスイッチング素子Trの制御タイミングと、本来、デューティ指令値Du*によってスイッチング素子Trが制御されるタイミングとにズレが生じることはない。そこで、ズレが生じないデューティ指令値Du*の範囲は、上限変調率M*を用いて、次の式のように示すことができる。
ここで、モータコントローラ111において、デューティ指令値Du*、Dv*、Dw*は、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と、コンデンサ105のコンデンサ電圧Vcapとを用いて、次の式のように示すことができる。
式(4)を用いれば、式(3)は以下のように示すことができる。
したがって、モータコントローラ111は、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*が、式(5)を満たすか否かを判定することによって、印加電圧の振幅が上限値に達したか否かを判定することができる。そして、モータコントローラ111は、印加電圧の振幅が上限値に達したと判定した場合には、電圧指令値の制御を、ベクトル制御から位相制御に切り替える。
次に、図5を用いて、図1のモータコントローラ111の構成について説明する。
図5は、モータコントローラ111の構成を示すブロック図である。
この図において、電流指令値算出部501、電流制御部502、位相変換部503などによって、ベクトル制御に用いられる第1の電圧指令値Vu1*、Vv1*、Vw1*が求められる。同時に、トルク算出部511、トルク制御部512、電圧ノルム指令値算出部513、位相変換部514などによって、位相制御に用いられる第2の電圧指令値Vu2*、Vv2*、Vw2*が求められる。そして、電圧指令値切替部521にて、ベクトル制御を行う第1の電圧指令値Vu1*、Vv1*、Vw1*、及び、位相制御を行う第2の電圧指令値Vu2*、Vv2*、Vw2*のいずれかの指令値が選択される。電圧指令値切替部521から出力される電圧指令値は、デューティ変換部522、及び、PWM信号生成部523を経て、PWM信号として出力される。
まず、ベクトル制御の関連処理について説明する。
電流指令値算出部501は、図1の車両コントローラ110により算出されるトルク指令値T*と、モータ104の回転速度ωとに基づいて、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出する。
なお、モータ104の回転速度ωは、以下のように求められる。
位相演算部504は、図1の回転子位置センサ107から出力される回転子位置センサ信号に基づき、回転子位相θを算出する。
そして、回転数演算部505は、位相演算部504が算出した回転子位相θを微分演算することで回転数(電気角速度)ωを演算する。
電流制御部502には、電流指令値算出部501から出力されるd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*と、位相変換部506からモータ104へと流れる電流の測定値であるd軸電流Id及びq軸電流Iqが入力される。電流制御部502は、これらの入力値に基づいて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出する。具体的には、電流制御部502は、d軸電流指令値Id*とd軸電流Idとの偏差がなくなるように、d軸電圧指令値Vd*を求める。また、電流制御部502は、q軸電流指令値Iq*とq軸電流Iqとの偏差がなくなるように、q軸電圧指令値Vq*を求める。
なお、位相変換部506は、図1の電流センサ106U、106V、106Wにより測定される三相交流電流Iu、Iv、Iwと、位相演算部504にて算出された回転子位相θとに基づいて、d軸電流Id、及び、q軸電流Iqを算出する。
なお、電流センサ106がキャリア波の大きさを測定するタイミングと、位相変換部506から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqが変化するタイミングとは同期している。例えば、電流センサ106が、キャリア波の大きさが最大となるタイミングで、モータ104へ流れる電流を測定する場合には、キャリア波の大きさが最大となるタイミングと同期して、位相変換部506から出力されるd軸電流Id及びq軸電流Iqが変化する。
位相変換部503は、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*と、位相演算部504から出力されるモータ104の回転子の位相θとを用いて、三相交流電圧指令値Vu1*、Vv1*、Vw1*を求める。
上述のようにモータ104の各相の入力部に供給される電位は「−Vcap/2」から「+Vcap/2」までの範囲である。そのため、三相交流電圧指令値Vu1*、Vv1*、Vw1*は、「−Vcap/2」から「+Vcap/2」までの範囲に限定される。
次に、位相制御の関連処理について説明する。
トルク算出部511は、位相変換部506から入力されるd軸電流Id、及び、q軸電流Iqに基づいて、モータ104の現在のトルクTiを算出する。
トルク制御部512は、トルク指令値T*とトルク算出部511により算出されたトルクTiに基づいて、位相制御に用いる電圧位相指令値α*を算出する。
電圧ノルム指令値算出部513は、上限変調率M*とコンデンサ電圧信号Vcapとに基づいて、次の式のように電圧ノルム指令値Va*の上限値を算出する。
図2を用いて説明したように、本実施形態で位相制御が行われる場合においては、印加電圧の振幅は上限値となる。そのため、電圧ノルム指令値算出部513は、式(6)に従って求められた電圧ノルム指令値Va*を、位相変換部514に出力する。
なお、式(6)における上限変調率M*は、以下のようにして求めることができる。
キャリア周波数算出部515は、キャリア周波数fを出力する。なお、キャリア周波数fは、モータコントローラ111の温度などに応じて変化させることができる。
上限変調率算出部516は、電流センサ106U、106V、106Wが三相交流電流Iu、Iv、Iwを測定してから、デューティ変換部522がデューティ指令値Du*、Dv*、Dw*を算出するまでの算出時間Δtを予め記憶している。なお、算出時間Δtには、電流センサ106U、106V、106Wによる電流の測定時間(AD変換などの処理時間)が含まれていてもよい。
上限変調率算出部516は、キャリア周波数算出部515から出力されるキャリア波の周波数f、算出時間Δt、及び、式(2)を用いて、上限変調率M*を算出する。
位相変換部514には、トルク制御部512から電圧位相指令値α*、電圧ノルム指令値算出部513から電圧ノルム指令値Va*、位相演算部504から位相θが入力される。位相変換部514は、これらの入力から、三相交流電圧指令値Vu2*、Vv2*、Vw2*を生成する。
なお、電圧ノルム指令値が、式(6)に示され値である場合には、位相変換部514から出力される三相交流電圧指令値Vu2*、Vv2*、Vw2*は、次の式の範囲となる。
そして、ベクトル制御から位相制御への切り替え処理について説明する。
電圧指令値切替部521は、三相交流電圧指令値Vu1*、Vv1*、Vw1*、及び、三相交流電圧指令値Vu2*、Vv2*、Vw2*のいずれかを、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*として出力する。具体的には、電圧指令値切替部521は、後述のデューティ変換部522から超過信号Eが入力されていない間は、Vu1*、Vv1*、Vw1*を出力する。一方、電圧指令値切替部521は、超過信号Eが入力されると、Vu2*、Vv2*、Vw2*に切り替えて出力する。
デューティ変換部522は、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*と、図1のコンデンサ105のコンデンサ電圧Vcapとに基づいて、上述の式(4)を用いて、デューティ指令値Du*、Dv*、Dw*を生成し、PWM信号生成部523に出力する。
また、デューティ変換部522は、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の全てが上述の式(5)を満たすか否かを判定する。なお、上述のように、この判定結果に応じて、位相制御への切り替えの要否を判断することができる。
三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*のうちのいずれか1つでも式(5)を満たさない場合には、デューティ変換部522は、位相制御への切り替えが必要であると判定し、超過信号Eを電圧指令値切替部521に出力する。
一方、三相交流電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*の全てが式(5)を満たす場合には、デューティ変換部522は、位相制御への切り替えが不要であるため、超過信号Eを電圧指令値切替部521に出力しない。
PWM信号生成部523は、キャリア周波数算出部515から出力されるキャリア周波数fに基づいて三角波のキャリア波を生成する。なお、PWM信号生成部523により生成されるキャリア波は規格化されており、最小値が0であり最大値が1であるものとする。
そして、PWM信号生成部523は、デューティ指令値Du*、Dv*、Dw*と、キャリア波との大きさを比較し、その比較結果に応じてPWM信号を生成する。
第1実施形態によって以下の効果を得ることができる。
第1実施形態の電力変換方法においては、電流センサ106によって、キャリア波の大きさが最大又は最小となる測定タイミングにおいてモータに供給される電流を測定する電流測定ステップが実行される。そして、デューティ変換部522によって、電流センサ106による測定電流、及び、モータ104の要求トルクに応じて、デューティ指令値を算出する指令値算出ステップが実行される。さらに、デューティ変換部522によって、式(5)が満たされるか否かが判定されることにより、算出されたデューティ指令値と、デューティ指令値が算出された時点でのキャリア波との大小関係を判定する判定ステップが行われる。そして、キャリア周波数算出部515によって、デューティ変換部522による判定ステップの判定結果に応じて、ベクトル制御に用いる電圧指令値Vu1*、Vv1*、Vw1*が、位相制御に用いる電圧指令値Vu2*、Vv2*、Vw2*に切り替えられる。
ベクトル制御が行われている間においては、電圧指令値(デューティ指令値)を用いて、モータ104への印加電圧のベクトルの大きさを変化させることによって、モータ104にて発生するトルクを制御する。
しかしながら、適切なパルス幅のPWM信号を生成するためには、電圧指令値は所定の範囲内の値に設定される必要があるため、モータ104への印加電圧の大きさが制限される。そこで、デューティ変換部522は、電圧指令値が式(5)を満たすか否かを判定することによって、印加電圧の振幅が上限値を超えるか否かを判定し、その判定結果に応じて、超過信号Eを電圧指令値切替部521に出力する。
電圧指令値切替部521は、超過信号Eが入力されると、デューティ変換部522に出力する電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を、ベクトル制御に用いる電圧指令値から、位相制御に用いる電圧指令値に切り替えて出力する。
位相制御においては、印加電圧の振幅が上限に達している場合であっても、位相を変化させることで、モータ104の発生トルクを増加させることができる。従って、印加電圧の振幅が上限に達している場合であっても、デューティ指令値は適切なパルス幅のPWM信号を生成できる範囲を超えないように、デューティ指令値を所定の範囲内に設定できることになる。
図4に示したように、時刻Tb1においてデューティ指令値Du1*がキャリア波を超えてしまうと、適切なPWM信号を生成することはできない。しかしながら、位相制御を用いることで、その超過分が補われるようにータ104の発生トルクを制御することができる。そのため、パルス幅を確保するためにスイッチング素子Trの操作タイミングをずらす必要がなくなる。このようにして、スイッチング素子Trの制御タイミングと、デューティ指令値が示す本来のスイッチング素子Trの制御タイミングとのズレの発生を抑制することができる。
したがって、キャリア波が最大又は最小となるタイミングにおいて三相交流電流の測定することにより、電流センサ106により測定される三相交流電流に含まれるノイズが抑制されるので、モータ104を制御する精度を向上させることができる。
(第2実施形態)
第1実施形態においては、キャリア周波数算出部515にて算出されるキャリア波の周波数が一定である場合について説明した。第2実施形態では、キャリア周波数算出部515にて算出されるキャリア波の周波数が変化する場合について説明する。
例えば、モータ104のトルク制御の精度を高めたい場合には、キャリア周波数算出部515は、キャリア周波数を高くする。一方、モータコントローラ111である半導体チップの温度が高くなった場合などには、スイッチング素子Trのスイッチング頻度を下げて温度上昇を抑制するために、キャリア周波数算出部515は、キャリア周波数を低くする。
ここで、位相制御に用いられる電圧ノルム指令値Va*は、上述のように、式(6)にて示される。また、式(6)における上限変調率M*は、式(2)に示されたように、キャリア波の周波数f、及び、位相制御が行われる場合のデューティ指令値の算出時間Δtに応じて変化する。
そのため、キャリア波の周波数fが変更後の値に切り替えられると、上限変調率M*が変化して、電圧ノルム指令値Va*が変化するので、デューティ指令値が変化する。このようなキャリア波の周波数fの切り替えに伴うデューティ指令値の急激な変化を抑制するために、デューティ変換部522においてフィルタ処理が行われる。
ここで、キャリア波の周波数が変化した時点において、適切なパルス幅のPWM信号が生成可能なデューティ指令値の大きさの範囲が変化する。しかしながら、フィルタ処理が行われることにより、キャリア波の周波数fの変化に対してデューティ指令値の変化に遅れが発生してしまう。そのため、キャリア波の周波数fが変化した直後では、デューティ指令値が適切なパルス幅のPWM信号が生成可能な範囲内の値とならず、適切なタイミングでスイッチング素子Trを操作できなくなるおそれがある。これに対して、デューティ変換部522においては、さらに、次の式に示されるように、電圧指令値の上限を制限するレートリミット処理が行われる。
図6は、フィルタ処理、及び、レートリミット処理を説明するための図である。
図6(a)においては、キャリア波の周波数fが大きく変化する場合のモータ104への印加電圧が示されている。図6(b)においては、キャリア波の周波数fが小さく変化する場合のモータ104への印加電圧が示されている。
図6(a)を参照すると、キャリア波は大きく変化しており、f1から、ftを経て、f2となる。このようなキャリア波の変化に応じて、デューティ指令値が変化して、印加電圧が変化する。
キャリア波の周波数が大きくなる場合には、キャリア波の周波数が変化したタイミングにおいて、式(8)に示されたデューティ指令値の制限範囲は広くなる。そのため、フィルタ処理に起因して電圧指令値の変化が遅れたとしても、電圧指令値が制限されることはない。したがって、モータ104への印加電圧は、キャリア波の周波数の変化に応じて、徐々に大きくなる。
図6(b)を参照すると、キャリア波は小さく変化しており、f1から、ft1、ft2、を経て、f2となる。このようなキャリア波の周波数の変化に応じて、デューティ指令値が変化して、印加電圧が変化する。
キャリア波の周波数fが小さくなる場合にはキャリア波の周波数が変化したタイミングにおいて、式(8)に示されたデューティ指令値の制限範囲が狭くなる。そして、レートリミット処理されたデューティ指令値に対して、フィルタ処理が行われることになる。したがって、図6(b)に示されるように、モータ104の印加電圧は、レートリミット処理が行われて、範囲が制限されたキャリア波ft1となり、その後、フィルタ処理が行われてキャリア波ft2となる。そして、最終的に、キャリア波f2となる。
仮に、レートリミット処理が行われない場合には、キャリア波の周波数が変化したタイミングにおいて式(8)に示されたデューティ指令値の制限範囲を超えた値になってしまう。このような場合には、デューティ指令値が算出された時点において、デューティ指令値が周波数変更後のキャリア波を上回ってしまい、本来のタイミングでスイッチング素子を操作することができなくなってしまう。したがって、このようなレートリミット処理が行われることにより、生成されるPWM信号のパルス幅を適切にすることができるため、モータ104の回転制御の精度を向上させることができる。
第2実施形態によって以下の効果を得ることができる。
第2実施形態の電力変換方法においては、位相制御に用いる電圧ノルム指令値は、キャリア波の周波数に応じて定まるため、キャリア波の周波数が変化すると、電圧ノルム指令値が変化する。電圧ノルム指令値の変化に応じて、位相制御に用いるデューティ指令値の急変するおそれがあるため、このような急変を抑制するために、フィルタ処理が行われている。
しかしながら、キャリア波の周波数が変更された時点において、適切なパルス幅のPWM信号を生成可能なデューティ指令値の範囲は変化してしまう。そのため、フィルタ処理によるデューティ指令値の変化は、適切なパルス幅のPWM信号を生成可能なデューティ指令値の範囲が変化するタイミングに対して遅れてしまい、適切なパルス幅のPWM信号を生成できなくなることがある。
そこで、デューティ指令値の大きさを、適切なパルス幅のPWM信号を生成可能な範囲である式(8)の範囲の大きさに制限する制限ステップであるレートリミット処理を行うことにより、適切なパルス幅のPWM信号を生成できるようになる。なお、式(8)の範囲は、キャリア波の周波数fとデューティ指令値の算出時間Δtとにより求まる上限変調率M*に応じた範囲である。このようにして、キャリア波の周波数の変更に伴うモータ104の回転制御の精度の低下を抑制することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。