JP2008303500A - 炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)と、カルボキシ基を含む重合体(B)とを、ブレンドして紡糸することを特徴とする炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造方法。前記重合体(B)は、カルボキシ基を含むモノマー単位を0.014質量%以上100質量%以下の割合で含有することが好ましい。前記重合体(B)と前記アクリロニトリル系重合体(A)との質量比((B)/(A))は0.0001以上2.3以下であることが好ましい。
【選択図】なし
Description
炭素繊維の製造に用いられる炭素繊維前駆体は、一般的には、重合体を有機又は無機溶媒に溶解して溶液(ドープ)とした後、湿式あるいは乾湿式紡糸を行って繊維状に賦型し、延伸、洗浄、乾燥緻密化することにより製造される。炭素繊維の製造方法としては、この炭素繊維前駆体を200〜300℃の酸化性雰囲気下で熱処理することによって耐炎化繊維とし、引き続き、少なくとも1000℃の不活性雰囲気下で炭素化(焼成)する方法が工業的に広く採用されている。
炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を用いて炭素繊維を製造するにあたり、焼成を短時間で行うために、アミン類や過酸化物を添加して炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を製造する方法が提案されている(特許文献1〜2参照。)。しかしながら、この方法はドープや炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の安定性に悪影響を及ぼし工業的に優れた方法ではない。
また、アクリロニトリル系重合体に、ニトリル基の環化縮合反応を促進する反応開始基として、カルボキシ基を導入する方法も提案されている(特許文献3参照。)。
一方、カルボキシ基は焼成段階で環構造に取り込まれ難いため、得られる炭素繊維中に欠陥点として存在し、機械的特性を低下させるおそれがあるため、アクリロニトリル系重合体中にカルボキシ基をランダムに分散させる提案もなされている(特許文献4参照。)。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、生産性や、組成設計の自由度が高く、高性能の炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を製造するのに好適な炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造方法を提供することを目的とする。
ここで、本明細書及び特許請求の範囲において、カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)とは、重合体中のアクリロニトリル単位の割合が、90質量%以上100質量%以下のものをいう。重合体中のアクリロニトリル単位の割合は95質量%以上100質量%以下がより好ましい。上記範囲において、アクリロニトリル単位が多いほど、得られる炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を焼成して炭素繊維としたときに、高強度で、品質並びに性能に優れた炭素繊維が得られる。
カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)の製造方法は特に限定されず、溶液重合、懸濁重合等公知の重合方法のうちの任意の重合方法を用いて、上述したカルボキシ基を含まないモノマーを重合させればよい。
重合に用いる重合開始剤、触媒は特に限定されず、たとえばアゾ系化合物、有機過酸化物、又は過硫酸/亜硫酸、塩素酸/亜硫酸あるいはそれらのアンモニウム塩等のレドックス触媒が挙げられる。
カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)の製造方法として、最適な方法としては、オーバーフロー式の重合容器に、モノマー、蒸留水、重合開始剤として過硫酸アンモニウム、亜硫酸水素アンモニウム及び硫酸を毎分一定量供給し、一定の温度に維持しながら攪拌を続け、オーバーフローしてきた重合スラリーから洗浄、乾燥を経てアクリロニトリル系重合体を得る方法が挙げられる。
カルボキシ基を含むモノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等が挙げられ、また、加水分解することによりカルボキシ基となる酸無水物基を含むモノマーも含まれる。酸無水物基を含むモノマーとしては無水マレイン酸等が挙げられる。これらのモノマーは、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
カルボキシ基を含むモノマーとしては、アクリル酸及び/又はメタクリル酸及び/又はイタコン酸が好ましい。
カルボキシ基を含むモノマー単位が多いほど、炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維中のカルボキシ基量を調整しやすいため、カルボキシ基を含むモノマー単位の割合は、0.1質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましい。
カルボキシ基を含むモノマー以外の成分としては、特に限定しないが、焼成時に炭素骨格へ取り込まれやすい点から、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、メタクリロニトリル等が好ましい。これらのモノマーは、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、スルホン酸基含有ビニル単量体及び硫酸基含有ビニル単量体等のニトリル基の環化縮合反応を促進する基を含む化合物を共重合することもできる。
焼成時間を短時間で進める効果と、プレカーサー中のカルボキシ基量を調整しやすさとのバランスから、(B)/(A)は、0.001以上1.5以下がより好ましく、0.002以上1以下がさらに好ましい。
ドープの溶媒としては、カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)及びカルボキシ基を含む重合体(B)を均一に溶解できるものならば特に限定されず、たとえばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、塩化亜鉛水溶液、チオシアン酸水溶液などが挙げられる。
アクリロニトリル系重合体を溶媒に溶解する方法は、特に限定されず、例えば、アクリロニトリル系重合体と溶媒とをニーダーで混合したのち、加熱することにより溶解できる。
このとき、カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)とカルボキシ基を含む重合体(B)とをブレンドした後で溶媒に溶解させてもかまわないし、カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)及びカルボキシ基を含む重合体(B)をそれぞれ別個に溶解させた後、それらの溶液を混合してもかまわない。また、いずれか一方の重合体を溶解させた溶液に他方の重合体を添加し、溶解させてもよい。たとえば、カルボキシ基を含む重合体(B)を紡糸直前で添加することにより、ドープのゲル化を抑制することも可能である。
ドープは、紡糸性の観点から、重合体濃度(カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)及びカルボキシ基を含む重合体(B)の合計の濃度)が10質量%以上であることが好ましく、17質量%以上がより好ましく、19質量%以上がさらに好ましい。アクリロニトリル系重合体濃度の上限は、紡糸性を考慮すると、30質量%以下が好ましく、27質量%以下がより好ましい。
紡糸ドラフト(紡糸工程中、どの部分で延伸をかけるか)は、アクリロニトリル系重合体濃度、延伸倍率に応じ、所望の繊度が得られるように適切に設定すればよい。
炭素繊維用前駆体繊維として用いる場合、アクリロニトリル繊維の単糸繊度は、炭素繊維の機械物性の観点から、2.0dtex以下が好ましく、1.5dtex以下がより好ましい。
凝固浴は、凝固糸引き取り及び後の延伸に充分な余裕がある条件に設定することが好ましく、これらの要件を満たすよう凝固浴濃度、温度を設定することが好ましい。
凝固浴には、ドープに用いられる溶剤を含む水溶液が好適に使用され、含まれる溶剤の濃度を適宜調節する。
凝固浴の温度は、凝固糸の緻密性の観点からは温度が低い方が好ましいが、温度を下げすぎると凝固糸の引き取り速度が低下し生産性が低下する点を考慮し、湿式紡糸では、50℃以下が好ましく、さらに好ましくは20℃以上40℃以下である。乾湿式紡糸では、30℃以下が好ましく、さらに好ましくは0℃以上20℃以下である。
湿熱延伸法における延伸浴温度は、単糸同士が融着しない範囲でできるだけ高温にすることが効果的である。この観点から、延伸浴の温度は70℃以上とすることが好ましい。湿熱延伸を多段で行う場合は、最終浴を90℃以上とすることが好ましい。
乾燥緻密化の温度は、繊維のガラス転移温度を超えた温度で行う必要があるが、実質的には含水状態から乾燥状態によって異なることもあり、100〜200℃程度の加熱ローラーによる方法が好ましい。
合計延伸倍率が低いと繊維の配向が低下して、アクリロニトリル系繊維及び炭素繊維の性能が低下する傾向があるという点で不利であり、高いと糸切れが生じる傾向があり生産上不利である。この観点から、乾燥緻密化後、さらに延伸を施すのが好ましい。この延伸の方法は加熱ローラー間で行う乾熱延伸、加熱板上で行う熱板延伸、加圧蒸気中で行うスチーム延伸等を採用することができる。特に、高い延伸倍率を実現できるスチーム延伸が好ましい。また、同じ観点からこの延伸を含む合計延伸倍率は、8倍以上20倍以下が好ましい。
実施例中において、アクリロニトリル、アクリルアミド及びメタクリル酸はそれぞれAN、AAm及びMAAと表し、%は質量%を表す。
(イ)「重合体の組成」
系重合体の組成(各モノマー単位の比率(質量比))は、1H−NMR法(日本電子社製、GSZ−400型超伝導FT−NMR)により定量した。
(ロ)「重合体の極限粘度[η]」
25℃のジメチルホルムアミド溶液を用い、ウベローデ式粘度計を用い測定した。
(ハ)「炭素繊維のストランド特性」
ストランド強度及びストランド弾性率は、JIS−R−7601に記載された試験法に準拠して測定した。
オーバーフロー式の重合容器にAN、AAmと蒸留水、そして重合開始剤の過硫酸アンモニウム、亜硫酸水素アンモニウムを毎分一定量供給し、50℃に維持しながら攪拌を続け、オーバーフローしてきた重合スラリーから洗浄、乾燥を経て重合体(A1)を得た。この重合体の組成はAN/AAm=97.5/2.5であった。また、この重合体の極限粘度[η]は1.8であった。
AN、AAmの代わりにAN、AAm、MAAを用いた以外は製造例1と同様にして重合体(B1)を得た。この重合体の組成はAN/AAm/MAA=95.7/2.5/1.8であった。また、この重合体の極限粘度[η]は1.8であった。
AN、AAm、MAAの使用量を変更した以外は製造例1と同様にしてアクリロニトリル系重合体(C1)を得た。この重合体の組成はAN/AAm/MAA=96.6/2.5/0.9であった。また、この重合体の極限粘度[η]は1.8であった。
製造例1で作製した重合体(A1)50部と、製造例2で作製した重合体(B1)50部と、ジメチルアセトアミドとを、ニーダーで混合したのち、加熱溶解して、重合体濃度21質量%のアクリロニトリル系重合体溶液(ドープ)を調製した。
このドープを、孔径0.75mm、孔数3000の紡糸口金を用いて、濃度69%のジメチルアセトアミド水溶液(浴温35℃)中に吐出して凝固繊維とし、更にこの凝固繊維を水洗槽中で脱溶媒するとともに3倍に延伸して水膨潤状態のアクリロニトリル系繊維とした。この水膨潤状態のアクリロニトリル系繊維にアミノシリコーン系油剤を付与し、表面温度130℃の加熱ロールで乾燥緻密化し、170℃の加圧蒸気中で3倍延伸を施して炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を得た。
この炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を、230℃〜270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で60分かけて通し、さらに窒素雰囲気下で300℃〜1400℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維を得た。この炭素繊維のストランド特性を表1に示す。
製造例3で作製した重合体(C1)とジメチルアセトアミドとを所定量、常温で、ニーダーで混合したのち、加熱溶解して、重合体濃度21質量%のドープを調製した。
このドープを用いて、実施例1と同様にして炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を得た。
この炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を、230℃〜270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で60分かけて通し、さらに窒素雰囲気下で300℃〜1400℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維を得た。この炭素繊維のストランド特性を表1に示す。
たとえば、本発明により製造される炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維によれば、重合体(A)と重合体(B)とのブレンドと見かけ上同じ組成の単一重合体を用いて得られる炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を用いる場合と同等の性能(たとえば強度、弾性率等)を有する炭素繊維を得ることができる。そのため、単一重合体を用いる場合に比べ、容易に高性能の炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維を製造できる。
また、重合体(A)と重合体(B)とのブレンド比率を変えるだけで、炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維中のカルボキシ基量を容易に変更できる。
また、重合体(B)により、炭素繊維製造時の焼成を短時間で行うために必要なカルボキシ基の量を確保できるため、アクリロニトリル系重合体(A)として、共重合が困難な、立体規則性を制御したポリアクリロニトリルや、超高分子量ポリアクリロニトリルなどを用いることができ、高性能な炭素繊維を得ることが可能となる。「立体規則性を制御したポリマー」とは、13C−NMR測定により定量可能なアイソタクチックトライアッド(mm)、やシンジオタクチックトリアッド(rr)が0.3を超えるようなポリマーを意味する。超高分子量ポリアクリロニトリルは、極限粘度[η]で3以上の超高分子量のものである。
Claims (1)
- カルボキシ基を含まないアクリロニトリル系重合体(A)と、カルボキシ基を含む重合体(B)とを、ブレンドして紡糸することを特徴とする炭素繊維前駆体アクリロニトリル系繊維の製造方法。
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