JP2008268919A - 鍵盤装置の鍵用素材及び鍵 - Google Patents

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Abstract

【課題】汚れがつきにくく、且つ、高湿環境下においても滑りにくく優れた演奏性を発揮できるようにする。
【解決手段】鍵用素材10は、主剤11のほか、それぞれフィラーである高吸放湿剤12、凝集抑制剤13及びその他剤14からなる。成分比率は、主剤11、高吸放湿剤12、凝集抑制剤13、その他剤14が、それぞれ、81〜60、2〜4、16〜35、1(重量%)である。高吸放湿剤12には、水分を化学的に吸着すると共に、吸放湿により体積変化を繰り返し生じる高吸放湿性微粒子であるタフチックHU720Sを紛砕して、平均粒子径が3〜5μmの粒子状としたものが適している。鍵用素材10を用いて成形したHU鍵の表面では、吸湿状態において、高吸放湿剤12が適度に凝集した部分が吸湿により体積膨張して、凸部21が多数隆起する。
【選択図】図1

Description

本発明は、鍵盤装置の鍵用素材及び鍵に関する。
旧来、ピアノ、オルガン、アコーディオン等の鍵盤装置用の鍵を構成する素材としては、象牙が理想的とされたが、環境保護等の観点から象牙を実質的に使用できなくなったため、代わりにアクリル樹脂が主に採用されてきた。しかし、アクリル樹脂を使用した鍵は、吸湿性がほとんどないため、高湿環境下で滑りやすく演奏性が良好でない。
そのため、従来、下記特許文献1に示されるように、無機の多孔質材を、主剤である樹脂に混ぜたものを鍵の素材として採用し、吸湿性を高めたものも登場した。この鍵では、鍵表面が手の汗等を吸収し、さらさらとした感触を発揮することで、演奏性を高めることができる。
特開平2−146592号公報
しかしながら、上記特許文献1の鍵では、多孔質の部分が水分だけでなく汚れも吸着してしまうため、長年の使用により鍵表面が汚れるという問題があった。
本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、汚れがつきにくく、且つ、高湿環境下においても滑りにくく優れた演奏性を発揮することができる鍵盤装置の鍵用素材及び鍵を提供することにある。
上記目的を達成するために本発明の請求項1の鍵盤装置の鍵用素材は、樹脂を主剤とする鍵盤装置の鍵用素材であって、粒子状で、水分を化学的に吸着すると共に、吸放湿により体積変化を繰り返し生じる高吸放湿性微粒子を、フィラーとして含有することを特徴とする。
好ましくは、前記高吸放湿性微粒子の平均粒子径は3〜5μmであり、前記高吸放湿性微粒子の含有量は、2〜4重量%である(請求項2)。さらに、当該鍵用素材の製造工程において前記高吸放湿性微粒子の凝集を抑制するための凝集抑制剤をフィラーとしてさらに含有する(請求項3)。また、前記高吸放湿性微粒子は、電離可能な側鎖を官能基に有するポリマーである(請求項4)。
上記目的を達成するために本発明の請求項5の鍵盤装置の鍵用素材は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の鍵用素材を用いて成形された鍵であって、相対湿度が30〜90%の範囲では、押鍵面である表面の静止摩擦係数が、0.21〜0.26の範囲内であることを特徴とする。
本発明の請求項1、5によれば、吸放湿により鍵表面に微小凸部が繰り返し出没するようにして、汚れがつきにくく、且つ、高湿環境下においても滑りにくく優れた演奏性を発揮することができる。
請求項2によれば、吸湿時に生じる微小凸部の大きさや分散状態を適切にして、高湿時の滑りにくさを適切にして優れた演奏性を発揮することができる。
請求項3によれば、高吸放湿性微粒子の凝集を抑制して、吸湿時に生じる微小凸部の大きさや分散状態を一層適切にすることができる。
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
本発明の鍵用素材は、ピアノ、オルガン、アコーディオン等の鍵盤装置を有する楽器の鍵に適用されるものである。適用される鍵は白鍵だけでなく黒鍵も含まれる。
図1(a)は、本発明の一実施の形態に係る鍵用素材10及び該鍵用素材10を用いて成形される鍵の製造工程を示すブロック図である。同図(a)に示すように、鍵用素材10は、原料計量、タンブリング(混練)、押出機のホッパ(不図示)への投入、冷却、ペレダイジング及びサーキュレーションの工程を経て製造される。鍵用素材10は、成形に用いられるペレットであり、鍵用素材10を用いて成形することで、各音高に応じた形状の鍵(不図示)が完成する。この成形としては、射出成形、押出成形等、樹脂ペレットを用いてなされる各種の成形法を採用可能である。
図1(b)は、鍵用素材10の成分表であり、数値は重量%を示す。この鍵用素材10は、主剤11のほか、それぞれフィラーである高吸放湿剤12、凝集抑制剤13及びその他剤14からなる。成分比率は、主剤11、高吸放湿剤12、凝集抑制剤13、その他剤14が、それぞれ、81〜60、2〜4、16〜35、1(重量%)である。これらすべての成分が、図1(a)に示す工程における原料計量工程で計量され、タンブリング工程で混練される。
各成分の代表例として、主剤11、高吸放湿剤12、凝集抑制剤13には、それぞれ、アクリル系樹脂(PMMA)、アクリル架橋共重合体、沈降性硫酸バリウムが採用される。その他剤14には、凝集抑制補強剤及びその他の成分が採用される。
主剤11の他の例としては、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂等も採用可能である。また、凝集抑制剤13の他の例としては、タルク、粉状セラミック等も採用可能である。その他剤14の他の例としては、凝集抑制剤13による高吸放湿剤12の凝集の抑制効果を補強するような成分が採用可能である。また、滑剤、カップリング剤、酸化防止剤、耐光剤(紫外線吸収剤、光安定剤等)等を採用可能である。ただし、その他剤14を添加することは必須でない。
高吸放湿剤12であるアクリル架橋共重合体としては、日本エクスラン工業社製の製品であるタフチック(登録商標)HUを利用可能であり、特に、高吸放湿性微粒子であるタフチックHU720Sを紛砕して、平均粒子径が3〜5μmの粒子状としたものが適している。タフチックHUは、多孔質による水分の物理的吸着ではなく、水分子が浸入すると水分子を化学的(静電的)に引きつけるという性質を有し、これによって吸湿がなされることが判明している。
タフチックHUについては、
URL:〈http://www.exlan.co.jp/products/beads/tafticHU.html〉に公表されているように、吸放湿性が高く、しかも吸放湿が繰り返し行われるという特徴がある。また、吸放湿による体積変化は、粒径の1割以下である。タフチックHUの製造は、特開平8−225610号公報等に開示されているように公知の手法で行える。
ところで、特開平8−225610号公報に開示されている高吸放湿性微粒子は、その高分子構造において、側鎖に塩型カルボキシル基(−COOM;Mは、金属イオンやアミン等の有機陽イオン)を有する。水分子が存在すると、側鎖の塩型カルボキシル基は、「−COO」と「M」とに電離し、極性を有する水分子を静電的に引き寄せる。これによって吸湿がなされると考えられる。水分子が減少して、静電的に引き寄せられていた水分子が離れていくと、再び、塩型カルボキシル基(−COOM)に戻る。これによって、放湿がなされると考えられる。
高吸放湿剤12の他の例としては、平均粒子径が3〜5μmの粒子状で、水分を化学的に吸着すると共に、吸放湿により体積変化を繰り返し生じる高吸放湿性微粒子であればよい。ただし、平均粒子径が3〜5μmを外れていても、直ちに不適切となるわけではなく、従って、3〜5μmの範囲内であることは必須ではない。
高吸放湿剤12は、高分子で構成してもよいが、高分子以外で構成してもよい。高吸放湿剤12は、高分子構造とした場合であっても、側鎖に塩型カルボキシル基を有する高分子(ポリマー)であることは限定されない。すなわち、分子構造中に電離可能な官能基を有する高分子であればよく、結局、分子構造の中に、水分子を静電的に引き寄せることが可能な部分を有している高分子であればよい。
従来、アクリル系樹脂(PMMA)や象牙を鍵素材として採用した鍵が知られているが、以下、これらに対して、鍵用素材10を用いて製造した鍵との特性を比較する。比較に用いた鍵用素材10の実施例としては、図1(b)に示すように、主剤11としてアクリル系樹脂(PMMA)を80(重量%)、高吸放湿剤12としてタフチックHU720Sを平均粒子径3〜5μmにしたものを3(重量%)、凝集抑制剤13として沈降性硫酸バリウムを16(重量%)、その他剤14として凝集抑制補強剤及びその他の成分を1(重量%)の割合で含有したものを用いた。
ここで、高吸放湿剤12の平均粒子径は、鍵用素材10で成形した成形品(サイズが幅48mm、長さが86mm、厚みが2.3mm)の研削面で計測した値で把握した。従って、各粒子の任意の断面における直径が測定される。また、粒径測定時の環境条件は、高湿(35°Cで相対湿度が90%RH)で552時間放置、室温で552時間放置、の2条件とした。観察時の倍率は1000倍、観察範囲は150μm×150μmとした。
ところで、高吸放湿剤12の平均粒子径は、混練前の状態(高吸放湿剤12単体の状態)と、成形品となった後の状態とで、次のような測定方法で測定できる。
まず、混練前の状態においては、高吸放湿剤12を乾燥させて、水分量0〜0.3%としたものを、イソプロピルアルコールへ分散させ、レーザ回折・散乱(マイクロトラック;microtrac)法の粒度分布測定装置にて測定する。装置の例としては、日機装(株)マイクロトラック粒度分布測定装置HRA等を採用することができる。
成形品となった後の状態においては、プレート状に成形した成形品の表面をバフ研磨し、マイクロスコープを使用して表面に露出して見える高吸放湿剤12の粒子の径を測定する。25個以上の粒子の径を測定し、それらの平均をとって平均粒径とする。測定環境は、常温常湿(JIS−Z8703に規定されている常温常湿状態、すなわち、温度=20±15°Cで、相対湿度=65±20%)と高湿状態(温度=35°C、相対湿度=90%)の2状態とする。それぞれの状態で放置した後に粒径を測定する。
次に、実際に測定した平均粒径を挙げる。ベース樹脂(主剤11)として、PMMAを採用し、高吸放湿剤12として平均粒径が3.6μmのタフチックHUを3重量%配合した樹脂素材を使用した。この樹脂素材を、幅48mm、長さ86mm、厚み2.3mmのプレートに成形した。このプレートの表面をバフ研磨して、上記した測定方法で平均粒径を測定した。常温常湿状態では、552時間放置した後に測定し、高湿状態でも、552時間放置した後に測定した。
その測定の結果、平均粒径は、常温常湿状態では3.5μm、高湿状態では3.5μmであった。従って、高吸放湿剤12については、成形後の平均粒径と、混練する前の高吸放湿剤12単体の平均粒径とで、大きな変化は生じないといえる。このように両状態で大差がなかったのは、次のようなことが原因と考えられる。
まず、高湿状態では、タフチックHU(高吸放湿剤12)が体積膨張してベース樹脂との判別がしやすくなるのに対し、常温常湿状態ではタフチックHUの体積膨張が微小なために、ベース樹脂との判別が難しい。そのため、常温常湿状態では径の小さな粒子を見逃してしまって、平均粒径としては実際よりも大きめに算出、把握される可能性がある。
また、高湿状態では、高吸放湿剤12の粒子は全方向に均一に体積膨張するのではなく、ベース樹脂の層が薄いプレートの表層(スキン層)方向へ突出するように体積膨張している傾向が見られる。プレートの表面から高吸放湿剤12の粒径を測定すると、体積膨張の影響を受けていない部分(径があまり変化していない部分)を測定する可能性がある。その結果、算出される平均粒径としては、高湿状態と常温常湿状態とであまり大きく変化しなかったと考えられる。
これらの背景を踏まえれば、特許請求の範囲における高吸放湿性微粒子の平均粒子径は、ベース樹脂と混練する前でも、成形後でも、どちらで測定したものであってもよい。
以降、上記実施例の鍵用素材10を用いて製造した鍵をHU鍵、従来のアクリル系樹脂(PMMA)、象牙(天然または人工象牙)を用いて製造した鍵をPMMA鍵、象牙鍵とそれぞれ呼称する。
図2は、鍵表面(押鍵面)の走査電子顕微鏡写真を示す図である。同図(a)〜(d)はそれぞれ、HU鍵の放湿状態(乾燥状態)の図、HU鍵の吸湿状態の図、成形直後のPMMA鍵の図、押出成形及び表面研削後の象牙(人工象牙)鍵の図である。なお、各図において視認される直線的な筋(斜めの線等)は、研磨やバフ掛けの跡乃至傷であり、比較において関係がない。
上記人工象牙の材質は、PMMAに繊維状の充填剤である塩基性硫酸マグネシウム(宇部マテリアルズ社製の商品であるモスハイジ(登録商標))を、20重量%混合したものである。
HU鍵の表面は、放湿状態では平坦であるのに対し(図(a))、吸湿状態では微小な凸部21が多数見られる(図(b))。図2(b)に示す凸部21は、ドーム状に隆起した部分であり、高吸放湿剤12が適度に凝集した部分が吸湿により体積膨張したために生じたものである。凸部21の配置には偏りがなく、全体に均等に配置されている。一方、PMMA鍵、象牙鍵では、凸部は見られず、平坦である(図(c)、(d))。ちなみに、PMMA鍵、象牙鍵では、高湿環境下においても凸部は見られない。
図3は、相対湿度と鍵表面の水分量との関係を示す図である。この図は、横軸に、鍵が置かれた環境の相対湿度(%)、縦軸に表面水分量(静電容量)をとる。表面水分量の測定は、各相対湿度環境に、十分な時間放置した鍵の表面に対して、人の肌等の表面水分量の測定で行われる手法と同様に、静電容量を測定することでなされる。
同図からわかるように、PMMA鍵は、相対湿度にかかわらず、表面水分量はほぼ一定であるのに対し、HU鍵は、象牙(天然象牙)鍵と同様に、相対湿度が高くなるにつれて表面水分量が多くなる。従って、HU鍵は、高湿時における鍵表面の吸湿性が象牙並に高いことがわかる。
図4は、HU鍵の表面の、長期乾湿耐候試験による光沢度低下率の変化を示す図である。同図において、横軸には乾湿のサイクルを示し、縦軸には光沢度低下率(%)を示す。乾湿のサイクルは、気温35°Cにおいて、環境の相対湿度を、湿度20%と湿度90%とにそれぞれ十分な期間(例えば、48時間)放置することを、繰り返し行うものである。横軸において、奇数が乾燥状態(湿度20%)、偶数が湿潤状態(湿度90%)を示す。初回のサイクル「1」では、鍵は成形直後で未だ吸湿していない状態である。
実際に適用した時間としては、サイクル21までの積算の湿潤状態放置時間は1372時間であり、1サイクル平均は約137時間であった。また、サイクル21までの積算の乾燥状態放置時間は1416時間であり、1サイクル平均は約142時間であった。
また、光沢度は、鍵表面での照射光の反射を一定条件で測定して得られ、表面の粗さをとらえる尺度になり得るパラメータである。各サイクルでの光沢度低下率は、{初期光沢度(サイクル「1」における光沢度)−試験後光沢度(サイクル2〜21の各々における光沢度)}×100/初期光沢度によって求められる。
同図からわかるように、光沢度低下率は、乾湿のサイクルによって繰り返し変化し、乾燥状態では低く、湿潤状態では高くなる。初回のサイクル「1」を除けば、光沢度低下率は、乾湿時ともにそれぞれほぼ一定の値に回復することから、可逆的な変化といえる。ただし、初回のサイクル「1」からサイクル「2」への変化時には、大きく光沢度低下率が上昇し、その後、サイクル「1」の状態まで回復することがない。これは、サイクル「2」への変化時に、鍵表面において、高吸放湿剤12が塑性変形を起こすまでに膨張するためであると推測される。その一方、サイクル「2」以降では、膨張及び伸縮は、弾性域内で起こるものと推測される。
図5は、HU鍵の、乾湿耐候試験による全長寸法変化を示す図である。同図において、横軸には乾湿のサイクルを示し、縦軸には鍵の長手方向における全長の寸法変化率(%)を示す。図4と同様に、横軸の乾湿のサイクルにおいて、奇数が乾燥状態(湿度20%)、偶数が湿潤状態(湿度90%)を示す。初回のサイクル「1」では、成形直後で未だ吸湿していない状態である。
また、全長の寸法変化率は、初期全長をL、{試験後全長(サイクル2〜13の各々における全長寸法)−L}をΔLとすると、ΔL×100/Lによって求められる。
同図からわかるように、全長の寸法変化率は、乾湿のサイクルによって繰り返し変化し、乾燥状態では短く、湿潤状態では長くなる。乾湿時ともにそれぞれほぼ一定の値に回復することから、可逆的な変化といえる。また、全長については、光沢度とは異なり、サイクル「5」、「11」等において明確に表れているように、初回のサイクル「1」における初期全長Lに回復している。このことから、鍵の内部においては、表面とは異なり、寸法変化が弾性域内で生じていると推測される。
図6は、異なる相対湿度に対する鍵表面の摩擦係数の測定値を示した図である。同図において、横軸には鍵が置かれる環境であって、一定温度(23°C)における相対湿度(30、50、70、90%)を示し、縦軸には静止摩擦係数μを示す。この測定においては、人間の指にみたてた人工皮革でなる測定子を荷重50gで鍵表面に押し当てて、鍵長手方向に沿って測定子を1mm/secの速度で移動させる。この動作は、軽いタッチでの押鍵操作を想定したものである。
クーロンの法則によれば、最大摩擦力F=静止摩擦係数μ×垂直抗力Nである。上記測定においては、垂直抗力Nとして荷重50gを与え、測定子を鍵長手方向に沿って引っ張る力を徐々に高くして、測定子が動き始めたときの引っ張る力を最大摩擦力Fとする。そして、上記クーロンの法則から、静止摩擦係数μを算出する。
同図に示すように、象牙(天然象牙)鍵では、押鍵面である鍵表面の静止摩擦係数μは、相対湿度が30〜90%の範囲では、0.19〜0.21の範囲内であった。また、HU鍵では、静止摩擦係数μは、相対湿度が30〜90%の範囲では、0.21〜0.26の範囲内であり、象牙に近い値であった。また、PMMA鍵では、静止摩擦係数μは、相対湿度が30〜90%の範囲では、最小が0.39(90%)で、最大が0.68(70%)であり、湿度によって大きく影響を受けると共に、全般的に象牙よりも高い値であった。
すなわち、PMMA鍵では、湿度によって静止摩擦係数μが大きく変化し、特に、PMMA鍵では、高湿時である湿度90%において他の状態に比し滑りやすくなっている。これに対し、HU鍵及び象牙(天然象牙)鍵では、静止摩擦係数μにあまり大きな変化が生じず、常に同じような感触で押鍵操作が行える。これは、高湿時には、滑りやすくなる一方で、高湿時ほど大きく隆起する凸部21が摩擦力を大きくするため、押鍵操作に対しては、結果として乾湿時の双方で同じような摩擦力を発揮するためと考えられる。
このように、この実施例の鍵用素材10で成形したHU鍵は、高湿環境下では、吸湿して凸部21を多数生じさせるので、PMMA鍵であれば滑りやすくなるところ、HU鍵では、乾燥時と同じようなさらさらした押鍵感触が維持される。しかも、吸湿状態から再び乾燥状態におかれると、凸部21がほとんど消滅するので、吸放湿が繰り返えされても、同じような押鍵感触が維持される。
HU鍵で、高湿環境においてもさらさらした押鍵感触が維持されるのは、高吸放湿性微粒子によって、表面の湿気が吸収されると共に、表面に多数発生する凸部21が演奏者の指との接触面積を見かけ上減らすことになるために、押鍵感触としては、「さらさら」としたものになるからであると考えられる。ここで、高湿時において、「さらさらした押鍵感触」といっても、滑るような感触とは異なり、演奏時に指が滑ってしまうような感触は生じにくい。これは、指を強く押し当てて演奏する際に、HU鍵の表面に生じた凹凸によって、表面がグリップされるような現象が起こるためと考えられる。
また、HU鍵における吸湿は、多孔質による物理的吸着ではなく、化学的吸着であり、しかも、上記凸部21が湿度によって出没することから、汚れが目に詰まってとれなくなるといった汚れの付着の仕方をせず、汚れが残存しにくいという利点がある。
また、押鍵面にシボ加工等によって粗さを設けた鍵では、使用当初はさらさら感があるが、長年の使用により押鍵面が摩耗すると、面粗さが滑らかになって滑りやすくなる。ところが、HU鍵では、押鍵面が摩耗しても、新たに露出した面が、高湿時に凸部21を発生させるという再生機能を有しているので、長期に亘って良好な押鍵感触を維持すること
ができる。
また、鍵用素材10でHU鍵を成形する際には、通常の樹脂鍵材と同様に各種の成形法を採用でき、特別な設備投資を必要としない。従って、低コストで且つ素材管理も容易である。
ところで、HU鍵の吸湿状態における凸部21の数や大きさを適切にするために、上記した実施例(図1(b)参照)の配合が適しているが、特に、凝集抑制剤13は、高吸放湿剤12の凝集を抑制する効果を発揮する。すなわち、図1(a)に示す原料計量から押出機投入までの工程において、高吸放湿剤12は吸湿して凝集しやすい。高吸放湿剤12が凝集しすぎると、高吸放湿剤12の凝集部が局所的に偏ったり、大きくなりすぎたりして、鍵において適切な大きさや分散度合いの凸部21を発生させることができない。
そのため、凝集抑制剤13を添加して、凝集を適度に抑制している。また、その他剤14における凝集抑制補強剤も、凝集抑制剤13と協働して高吸放湿剤12の凝集を適度に抑制する効果を有する。
また、高吸放湿剤12の平均粒子径が3〜5μmであること、高吸放湿剤12の成分比率が2〜4重量%であることも、高吸放湿剤12を適度に凝集させると共に、凝集部を鍵において適切に分散させるために必要である。
HU鍵の成形に用いた鍵用素材10に代えて、図1(b)に示す成分比率の範囲内において各成分の比率を変えてもよい。奏者による感応検査によれば、例えば、主剤11を81%、高吸放湿剤12を2%、凝集抑制剤13を16%、その他剤14を1%(各重量%)としても、押鍵感触に関し、許容できる結果が得られた。また、主剤11を60%、高吸放湿剤12を4%、凝集抑制剤13を35%、その他剤14を1%(各重量%)としても、押鍵感触に関し、許容できる結果が得られた。これら以外の比率では、押鍵感触が悪化した。
特に、高吸放湿剤12の成分比率が2〜4重量%の範囲を外れると、異常凝集等が起こりやすく、吸湿時の隆起破壊が生じやすい。また、混練時の練り込み不良により、ペレットとなった鍵用素材10内に巣や割れが生じやすい。また、高吸放湿剤12の平均粒子径が3〜5μmの範囲を外れると、吸湿時の隆起破壊等が生じやすい。これらは、押鍵感触悪化の要因となると考えられる。
本実施の形態によれば、鍵用素材10が、平均粒子径が3〜5μmの高吸放湿剤12をフィラーとして含有するので、押鍵面に、湿度に応じて凸部21が繰り返し出没する。従って、汚れがつきにくく、且つ、高湿環境下においても滑りにくく優れた演奏性を発揮することができる。また、凝集抑制剤13及び凝集抑制補強剤の適量の添加により、高湿時の凸部21のサイズや分散状態を適切にして、滑りにくさを適切にすることができる。
なお、凝集抑制剤13及び凝集抑制補強剤は、図1(a)に示す原料計量から押出機投入までの工程における高吸放湿剤12の凝集を他の方法で抑制できるならば、必須のフィラーではない。例えば、これらの工程を、極端に除湿した室内で行うか、あるいは真空に近い環境下で行うことができれば、これらのフィラーは含有量を削減できるかまたは全く不要にすることができる。
なお、鍵用素材10は、鍵盤装置の鍵以外であって、人間の指や手が接触する楽器全般の各種部分にも応用可能である。
上述したように、高吸放湿剤12はポリマーであることは必須でない。また、高吸放湿剤12として、吸湿及び放湿を繰り返して行うことが可能な有機物あるいは無機物の微粒子を採用可能である。
本発明の一実施の形態に係る鍵用素材及び該鍵用素材を用いて成形される鍵の製造工程を示すブロック図(図(a))、鍵用素材の成分表である。 鍵表面(押鍵面)の走査電子顕微鏡写真を示す図である。 相対湿度と鍵表面の水分量との関係を示す図である。 本発明の鍵用素材を用いて製造した鍵の、長期乾湿耐候試験による光沢度低下率の変化を示す図である。 同鍵の、乾湿耐候試験による全長寸法変化を示す図である。 異なる相対湿度に対する鍵表面の摩擦係数の測定値を示した図である。
符号の説明
10 鍵用素材、 11 主剤、 12 高吸放湿剤(高吸放湿性微粒子)、 13 凝集抑制剤

Claims (5)

  1. 樹脂を主剤とする鍵盤装置の鍵用素材であって、
    粒子状で、水分を化学的に吸着すると共に、吸放湿により体積変化を繰り返し生じる高吸放湿性微粒子を、フィラーとして含有することを特徴とする鍵盤装置の鍵用素材。
  2. 前記高吸放湿性微粒子の平均粒子径は3〜5μmであり、前記高吸放湿性微粒子の含有量は、2〜4重量%であることを特徴とする請求項1記載の鍵盤装置の鍵用素材。
  3. 当該鍵用素材の製造工程において前記高吸放湿性微粒子の凝集を抑制するための凝集抑制剤をフィラーとしてさらに含有することを特徴とする請求項1または2記載の鍵盤装置の鍵用素材。
  4. 前記高吸放湿性微粒子は、電離可能な側鎖を官能基に有するポリマーであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の鍵盤装置の鍵用素材。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の鍵用素材を用いて成形された鍵であって、相対湿度が30〜90%の範囲では、押鍵面である表面の静止摩擦係数が、0.21〜0.26の範囲内であることを特徴とする鍵。
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