JP2008230959A - ペロブスカイト酸化物単結晶およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】 圧電体や蛍光体等として有用なペロブスカイト酸化物において結晶の方位を揃えて結合した単結晶を得ることのできる技術を提供する。
【解決手段】 一般式MTiO3:Xで表されるペロブスカイト酸化物(Mは、Ba、Ca、SrもしくはPb、またはそれらの混合系を表し、Xは、存在するときは、PrまたはEuを表す)の単結晶を製造する方法であって、(1)上記酸化物MTiO3:Xのナノ結晶粒子、または(2)Tiのアルコキシド、上記金属Mのアルコキシド、水酸化物、ハロゲン化物、ジケトネートもしくは硝酸塩、および、Xが存在するときは、Xのアルコキシドから成る混合物を、水およびアルコールを含む媒質に分散させて70°〜200℃の温度下に水熱処理する工程を含む方法。ナノメートルサイズの結晶がエピタキシャル結合しているペロブスカイト酸化物単結晶が得られる。
【選択図】 図2
【解決手段】 一般式MTiO3:Xで表されるペロブスカイト酸化物(Mは、Ba、Ca、SrもしくはPb、またはそれらの混合系を表し、Xは、存在するときは、PrまたはEuを表す)の単結晶を製造する方法であって、(1)上記酸化物MTiO3:Xのナノ結晶粒子、または(2)Tiのアルコキシド、上記金属Mのアルコキシド、水酸化物、ハロゲン化物、ジケトネートもしくは硝酸塩、および、Xが存在するときは、Xのアルコキシドから成る混合物を、水およびアルコールを含む媒質に分散させて70°〜200℃の温度下に水熱処理する工程を含む方法。ナノメートルサイズの結晶がエピタキシャル結合しているペロブスカイト酸化物単結晶が得られる。
【選択図】 図2
Description
本発明は、圧電体や蛍光体などとして有用なペロブスカイト酸化物とその製造方法に関する。
BaTiO3やCaTiO3に代表されるペロブスカイト型構造の酸化物(複酸化物)は、圧電体(圧電性物質)などとして、また、それに特定の元素が添加(ドープ)されたものは、さらに蛍光体(蛍光物質)などとして広く利用が図られている。
従来よりこれらの複酸化物の粉体は、通常、目的の金属の酸化物や炭酸化物などを出発原料とする混合物を高温で焼成する固相反応により製造され、粉体粒子の結晶相およびサイズはある程度制御されるが、結晶の方位については全く無配向の状態で実用に供されていた。上述の複酸化物を、例えば、蛍光体として用いる場合、立方晶以外の構造をもつ蛍光体の蛍光特性は、母結晶の結晶方位に強く依存することから、最大発光を示す蛍光体デバイスの作製には、本来、サイズ及び形状の揃った単結晶蛍光体粒子をその結晶方位に揃えて配列(エピタキシャル配向)するのが有効である。しかし、如上の固相反応により得られるような無定形状の蛍光体粒子では粒子の結晶方位配向は事実上不可能であった。また、BaTiO3やCaTiO3などのペロブスカイト酸化物を圧電体として利用する場合、その結晶方位を揃えて配列することができれば、分極処理が不要であるという利点など、新しい特性を有する圧電素子が期待されるが、現状ではそのための技術は未だ達成されていない。
エピタキシャルな薄膜の作製には、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、CVD法、MOCVD法など従来から知られた各種の気相法が適しているが、大型高真空系装置が必要であり、高コスト・複合組成調整困難等の問題がある。また、アルコキシドを用いたゾル−ゲル法、化学溶液を用いた化学溶液コート法、粒子分散液を用いた電気泳動堆積(EPD)法等の液相法も知られているが、液相法では特定結晶軸の優先配向薄膜の作製は可能であるもののエピタキシャル薄膜の作製はPLZT〔(Pb、La)(Zr、Ti)O3〕(非特許文献1,2)などのわずかな例を除き、基本的に困難であり実用的なレベルにはない。
最近、水熱処理(水熱合成)による複酸化物の製造法が幾つか提案されている。例えば、特開平4−342489号公報(特許文献1)には、2段階の水熱処理により基板上にPZT〔Pb(Zr、Ti)O3〕等の複酸化物の薄膜を製造する方法が記載されているが、水熱処理は目的の複酸化物の構成元素を含むアルカリ水溶液を100〜200℃に加熱するものであり、特に水熱処理条件として新しいものではない。また、特開平11−31857号公報(特許文献2)にも、水熱合成により、表面に酸化チタン層を有する基板上にPZT等の複酸化物を製造する技術が記載されているが、水熱合成の手法は、原料水溶液と基板をオートクレーブ内で110〜180℃に加熱するという常法の域を超えないものである。
さらに、Henningsらによる文献(非特許文献3)には、水熱合成法により、典型的な複酸化物強誘電体であるBaTiO3結晶を合成することについて報告されている。この文献に報告されているように、水熱合成法による場合、溶解によるBaイオンの欠乏を防ぐため、10〜30%の過剰Baイオンを添加し、pH10程度の高塩基性(OH-イオンが過剰に存在する)領域で合成するのが一般的であり、合成される結晶はH2O脱離に起因する多数の空隙を有することが知られている。
一方、本発明者らによって開発され、過剰なH2Oを用いない高濃度の金属アルコキシドアルコール溶液を適量の水で加水分解する高濃度ゾル−ゲル法を用いると、OH-イオンや過剰なBaイオンを含まずH2O脱離に起因する空隙等の欠陥のない化学量論組成を有する超低欠陥濃度の(結晶性の高い)BaTiO3等の酸化物のナノ結晶が得られるが(非特許文献4、特許文献3)、結晶のエピタキシャルな結合までには到っていない。
T. Aoki, M. Kuwabara, 他、Applied Physics Letters, Vol. 85, No. 13 (2004) pp. 2580-2582。 桑原誠、青木剛、呉勇軍、セラミックス、Vol. 41, No. 4 (2006) pp. 277-282。 D. Hennings, S. Schreinemacher, Journal of the European Ceramic Society, Vol. 9 (1992) pp. 41-46。 H. Shimooka, M. Kuwabara, Journal of the American Ceramic Society, Vol. 78, No. 10 (1995) pp. 2849-2852。 特開平4−342489号公報
特開平11−31857号公報
特許第3841571号公報
T. Aoki, M. Kuwabara, 他、Applied Physics Letters, Vol. 85, No. 13 (2004) pp. 2580-2582。 桑原誠、青木剛、呉勇軍、セラミックス、Vol. 41, No. 4 (2006) pp. 277-282。 D. Hennings, S. Schreinemacher, Journal of the European Ceramic Society, Vol. 9 (1992) pp. 41-46。 H. Shimooka, M. Kuwabara, Journal of the American Ceramic Society, Vol. 78, No. 10 (1995) pp. 2849-2852。
本発明の目的は、圧電体や蛍光体等として有用なペロブスカイト酸化物において結晶の方位を揃えて結合した単結晶を得ることのできる技術を提供することにある。
本発明者は、ZnOやTiO2ナノ結晶粒子に見られるエピタキシャル結合現象(非特許文献5,6)についての研究過程で、水−アルコール系の水熱条件下でBaTiO3やCaTiO3などのナノ結晶粒子がエピタキシャル結合・成長することを見出し、本発明を導き出すに到った。
C. Pacholski, A. Kornowski, H. Weller, Angewandt Chemistry, International Edition, Vol. 41, No. 7 (2002) pp. 1188-1191。 R. Lee Penn, 他、Journal of Physical Chemistry B, Vol. 105, No. 11 (2001) pp. 2177-2182。
C. Pacholski, A. Kornowski, H. Weller, Angewandt Chemistry, International Edition, Vol. 41, No. 7 (2002) pp. 1188-1191。 R. Lee Penn, 他、Journal of Physical Chemistry B, Vol. 105, No. 11 (2001) pp. 2177-2182。
かくして、本発明は、一般式MTiO3:Xで表されるペロブスカイト酸化物(Mは、Ba、Ca、SrもしくはPb、またはそれらの混合系を表し、Xは、存在するときは、PrまたはEuを表す)の単結晶を製造する方法であって、(1)上記酸化物MTiO3:Xのナノ結晶粒子、または(2)Tiのアルコキシド、上記金属Mのアルコキシド、水酸化物、ハロゲン化物、ジケトネートもしくは硝酸塩、および、Xが存在するときは、Xのアルコキシドから成る混合物を、水およびアルコールを含む媒質に分散させて70°〜200℃の温度下に水熱処理する工程を含むことを特徴とする方法を提供するものである。
また、本発明は、所要のOH基濃度に調整した前記媒質に前記ナノ結晶粒子を分散させ、これに表面にシード層が形成された基板を浸漬し、前記水熱処理する工程を実施することによって、前記シード層の表面に膜状のペロブスカイト酸化物単結晶を形成するペロブスカイト酸化物単結晶の製造方法も提供している。
さらに、本発明に従えば、上記の方法で製造され、ナノメートルサイズの結晶がエピタキシャル結合していることを特徴とするペロブスカイト酸化物単結晶が提供される。
本発明は、ナノ結晶(ナノメートルサイズの結晶)のエピタキシャル(ホモエピタキシャル結合(またはエピタキシャル集合、融合))現象を利用し、特殊な水熱合成法によりペロブスカイト酸化物の単結晶を調製する新規な技術である。
本発明の対象とするペロブスカイト酸化物は、一般式MTiO3:Xで表すことができ、Xが存在しない場合も含む。Mは、Ba、Ca、Sr、またはPbを表し、したがって、Xが存在しない場合として、BaTiO3、CaTiO3、SrSiO3、PbTiO3が本発明が対象とするペロブスカイト酸化物である。さらに、Mは、Ba、Ca、SrおよびPbの混合系を表し、したがって、例えば、Ba1-xCaxTiO3、Ba1-x-yCaxSryTiO3などの構造式で表されるものも本発明の対象とするペロブスカイト酸化物に含まれる。Xは、存在するときは、PrまたはEuを表し、これらの蛍光元素が添加(ドープ)されることにより、当該ペロブスカイト酸化物は蛍光体としての機能も発揮することになる。これに含まれるものとして、例えば、CaTiO3:Pr,Ba1-xCaxTiO3:Prなどが挙げられる。なお、例示した構造式において、xやyは1より小さい数であることは勿論である。
ペロブスカイト酸化物単結晶を製造する本発明に従う水熱合成において出発原料となるのは、(1)目的のペロブスカイト酸化物MTiO3:Xのナノ結晶粒子、または(2)目的のペロブスカイト酸化物の構成元素(構成金属)のアルコキシドや塩の混合物である。
上記(1)の場合、目的のペロブスカイト酸化物のナノメートルサイズの結晶粒子であれば使用可能であるが、特に好ましいのは、高濃度ゾル−ゲル法により合成されたものである。ここで、高濃度ゾル−ゲル法とは、既述のように本発明者らによって開発されたものであり、Tiおよび他の金属のアルコキシド(好ましくは、例えば、チタンイソプロポキシド、バリウムエトキシドなど)をアルコール系混合溶媒(好ましくはメタノール/メトキシエタノール混合溶媒)に高濃度で等モル量(好ましくは、0.5〜1.2mol/L)溶解した高濃度前駆体溶液を加水分解する(好ましくは0℃において)工程を含む。この高濃度ゾル−ゲル法によって平均粒径50nm以下のペロブスカイト酸化物(例えば、BaTiO3)が得られる(上記非特許文献4、特許文献3参照)。
本発明に従う水熱合成において出発原料として上記(2)のように目的酸化物の構成元素のアルコキシドや塩の混合物を用いる場合、Tiについてはアルコキシドを用い、その他の金属Mについてはアルコキシド、水酸化物、ハロゲン化物、ジケトネートまたは硝酸塩を用いる。Xが存在するときは、Xのアルコキシドを用いる。Ti、MまたはXのアルコキシドとしては、一般に、炭素数1〜10の直鎖または分枝のアルキル基を含むものを用いるのが好ましい。また、ハロゲン化物としては、塩化物が好ましく用いられる。本発明の水熱合成において特に好ましい出発原料の例は、Tiのイソプロポキシド、金属Mのエトキシドまたは水酸化物、およびXが存在するときはXのイソプロポキシドである。
なお、水熱合成では、合成される結晶中にH2Oなどが含まれやすく、欠陥を多く含んだ結晶が生成しやすいと考えられる。既述の高濃度ゾル−ゲル法の場合と同様、水熱合成においても高濃度溶液を用いる短時間合成により欠陥の少ないナノ結晶を合成することができる。したがって、上述したTiのイソプロポキシド、金属Mのエトキシドまたは水酸化物などの出発原料は、可及的に高濃度(一般に、0.5〜2.0mol/L)で使用することが好ましい。
本発明に従いペロブスカイト酸化物単結晶を製造するには、以上に述べたような出発原料を用いて水熱合成を行う。ここで、本発明の特徴は、水−アルコール系を用いる温和な条件(70°〜200℃、1〜20時間)で水熱合成を行うことである。アルコールは、出発原料を分散し得るものであれば使用可能であるが特に好ましいのはエタノールである。水:アルコールの比率(体積比)は、1:9から9:1の間で使用可能であるが、一般的には1:1の体積比で使用するのが好ましい。出発原料をアルコール、好ましくはエタノール中に単分散させ、このアルコール単分散液に種々の体積比、好ましくは1:1になるように水を添加し、70°〜200℃の温度で適当な時間、好ましくは1時間以上、オートクレーブ容器中で熱処理する。圧力については、特に加圧することは要しないが、圧力がかかっていてもよい。なお、この水−アルコール系水熱処理で、単結晶形状の制御のため少量の酸、アルカリあるいは有機物を添加することも可能であるが、鋳型(モールド、テンプレート)を用いたパターン形成の場合、これらの添加剤の使用は必ずしも要しない。
以上に述べた本発明の水熱合成に従えば、ナノサイズ(ナノメートルサイズ)の結晶が互いに方位を揃えて結合(エピタキシャル結合)してミクロンサイズ(ミクロンメートルサイズ)まで成長したペロブスカイト酸化物の単結晶粒子が得られ、得られた単結晶は蛍光体や圧電体などとして向上した特性を示す。例えば、CaTiO3:Pr結晶の場合、通常の固相法では600℃以下の焼成では発光しないが、本発明により合成された単結晶粒子は合成したままの状態で顕著な発光特性を示すことが確認されている。
以下に、本発明の特徴を更に具体的に示すため実施例を記すが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
以下に、本発明の特徴を更に具体的に示すため実施例を記すが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
高濃度ゾル−ゲル法(非特許文献4)により、メタノールとメトキシエタノールの混合溶媒にバリウムエトキシド〔Ba(OC2H5)2〕とチタンイソプロポキシド〔Ti(OCH(CH3)2)4〕の等モル量を溶解した高濃度前駆体溶液(1.0−1.2mol/L)を加水分解してBaTIO3ナノ結晶を得た。このナノ結晶を水−エタノールの1:1溶液に分散し、この分散液を150℃、1.5時間の条件で熱処理した。水熱処理後のBaTiO3ナノ結晶の高分解能TEM像を図1に示す。このTEM像より、複数のナノ結晶の格子縞が連続しており、それらの結晶がエピタキシャル結合していることが分かる。
1.0mol/Lチタンイソプロポキシドのエタノール溶液20mlに等モル量の水酸化バリウム〔Ba(OH)2〕、を添加し、さらに20mlの蒸留水を加えた水−アルコール溶液を室温で良く混合・攪拌した後にオートクレーブ容器に入れ、150℃、1.5時間の条件で熱処理した。得られたBaTiO3ナノ結晶の透過電子顕微鏡(TEM)像を図2に示す。同図(a)は明視野像、(b)は(a)の明視野像全体の領域に対する電子回折像、(c)は暗視野像、(d)は高分解能像である。(a)の多数のBaTiO3ナノ結晶凝集体全体に対して取った電子回折パターンが単結晶的なスポット状(同図(b))であることから、個々のBaTiO3ナノ結晶の方位はほぼ揃っていることが分かる。このことは、ナノ結晶凝集体全体がほぼ同じ明るさを示す(c)の暗視野像から確認され、さらに、(b)の電子回折像に対応する格子縞が2つの粒子間で完全に連続している様子を示している(d)の高分解能TEM像からも明確に確認される。
等モル量(1.0mol/L)のチタンイソプロポキシドとカルシウムジエトキシド、〔Ca(OC2H5)2〕に0.1モル%のプラセオジムイソプロポキシド〔Pr(OCH(CH3)2)3〕を添加した混合物を、実施例2のBaTiO3の場合と同じ水−アルコール系水熱処理を行い、CaTiO3:Pr蛍光体ナノ結晶を合成した。得られたCaTiO3結晶のTEM像;(a)明視野像、(b)電子回折像、(c)暗視野像、(d)高分解能像を図3に示す。これらのTEM像から、BaTiO3ナノ結晶の場合と同様、数100nmに成長した複数のCaTiO3ナノ結晶粒子がエピタキシャル結合していることを明確に確認することができる。
参考例
図4は、本発明の方法の応用として、基板上にエピタキシャル膜を形成・成長させる1つの手法を説明するためのものである。同図(a),(b)は基板上にコートしたレジスト膜に電子描画装置を用いて規則配列した空孔を形成したパターン作製用モールドの走査型電子顕微鏡(SEM)像〔(a)は上面、(b)は側面〕を示し、(c),(d)はそのレジストモールドにBaTiO3ナノ結晶を充填する方法により作製したBaTiO3ナノ結晶ロッドの規則配列SEM像〔(c)は上面、(d)は側面〕を示す。レジストモールドに充填したBaTiO3ナノ結晶に対して実施例1と同様に水−エタノール系水熱処理を行えばよい。
図4は、本発明の方法の応用として、基板上にエピタキシャル膜を形成・成長させる1つの手法を説明するためのものである。同図(a),(b)は基板上にコートしたレジスト膜に電子描画装置を用いて規則配列した空孔を形成したパターン作製用モールドの走査型電子顕微鏡(SEM)像〔(a)は上面、(b)は側面〕を示し、(c),(d)はそのレジストモールドにBaTiO3ナノ結晶を充填する方法により作製したBaTiO3ナノ結晶ロッドの規則配列SEM像〔(c)は上面、(d)は側面〕を示す。レジストモールドに充填したBaTiO3ナノ結晶に対して実施例1と同様に水−エタノール系水熱処理を行えばよい。
本発明によれば、水熱合成によるナノ結晶のエピタキシャル結合現象を利用して、特性の向上または改変されたペロブスカイト酸化物単結晶が得られる。特に、本発明は、産業上のいろいろな分野において、以下のような更なる応用展開を図ることができる。
<応用例1>
ペロブスカイト酸化物単結晶蛍光体薄膜の作製
単結晶基板あるいはシード単結晶膜を形成した基板上に、水−アルコール系水熱条件下でPrのドープされたBaTiO3やCaTiO3などのナノ結晶粒子が基板の結晶方位に依存したエピタキシャル結合蛍光体単結晶膜を作製する。発光特性の結晶方位依存性を利用した高輝度ホトルミネッセンス(PL)および電界発光(EL)薄膜の作製が可能となる。
ペロブスカイト酸化物単結晶蛍光体薄膜の作製
単結晶基板あるいはシード単結晶膜を形成した基板上に、水−アルコール系水熱条件下でPrのドープされたBaTiO3やCaTiO3などのナノ結晶粒子が基板の結晶方位に依存したエピタキシャル結合蛍光体単結晶膜を作製する。発光特性の結晶方位依存性を利用した高輝度ホトルミネッセンス(PL)および電界発光(EL)薄膜の作製が可能となる。
ペロブスカイト酸化物単結晶薄膜の作製
以下、ペロブスカイト酸化物単結晶薄膜としてチタン酸バリウム(BaTiO3)の成膜に適用させた場合の一例について説明する。
(1)チタン酸バリウム(BaTiO3)ナノ結晶の分散液の調整
本分散液は高濃度ゾル−ゲル法により調整した。
すなわち、図5に示したように、所定量のジエトキシバリウムを2−メトキシエタノール(以後、EGMMEという)とメタノールとの混合液に添加し、略24時間撹拌した後、これに所定量のチタンイソプロポキシドを添加して、更に24時間撹拌することによって、1.1mol/Lの前駆体溶液を得た。なお、これらの操作は乾燥窒素雰囲気で行った。
以下、ペロブスカイト酸化物単結晶薄膜としてチタン酸バリウム(BaTiO3)の成膜に適用させた場合の一例について説明する。
(1)チタン酸バリウム(BaTiO3)ナノ結晶の分散液の調整
本分散液は高濃度ゾル−ゲル法により調整した。
すなわち、図5に示したように、所定量のジエトキシバリウムを2−メトキシエタノール(以後、EGMMEという)とメタノールとの混合液に添加し、略24時間撹拌した後、これに所定量のチタンイソプロポキシドを添加して、更に24時間撹拌することによって、1.1mol/Lの前駆体溶液を得た。なお、これらの操作は乾燥窒素雰囲気で行った。
体積比で純水:EGMME=4:1になるように両者を混合させた加水分解用溶液を予め用意しておき、この加水分解用溶液を用いて、−30℃で10分間前記前駆体溶液を加水分解し、次いで90℃で1時間エイジングすることによってBaTiO3のナノメータサイズの結晶(ナノ結晶)を生成させた後、これに適宜量のエタノールを添加して超音波処理することによって平均粒径が10nm程度のBaTiO3ナノ結晶の分散液を得た。なお、かかる操作によって得られた分散液の媒質は略エタノールに置換されている。
(2)シード層の作製
シード層は塗布熱分解法によって次のように作製した。
前同様の方法により前駆体溶液を調製した。図6に示したように、この前駆体溶液に所定量の無水酢酸及びPEG400を添加・混合した後に、EGMMEを加えて、前駆体溶液の濃度を0.1mol/Lとした。このとき、各成分のモル比は、Ba:Ti:無水酢酸:PEG400=1:1:0.5:4(モノマー比)である。
シード層は塗布熱分解法によって次のように作製した。
前同様の方法により前駆体溶液を調製した。図6に示したように、この前駆体溶液に所定量の無水酢酸及びPEG400を添加・混合した後に、EGMMEを加えて、前駆体溶液の濃度を0.1mol/Lとした。このとき、各成分のモル比は、Ba:Ti:無水酢酸:PEG400=1:1:0.5:4(モノマー比)である。
このようにして得られた溶液を用いたスピンコーティング法により、SrTiO3単結晶基板の表面に塗布した。すなわち、前記溶液の1滴又は2滴を前記基板上に滴下し、当該基板を500rpmで10秒間回転させた後、更に3000rpmで30秒間回転させた。そして、基板を180℃程度の温度で10分間処理して塗布膜を乾燥させた。
この基板を略400℃で30分間、次いで略1000℃で1時間熱処理することによって、基板の表面にBaTiO3をその結晶方位を揃えたエピタキシャル結合させてなるシード層を形成した。
(3)BaTiO3単結晶薄膜の作製
前同様にして調製したBaTiO3ナノ結晶分散液と所定濃度に調整したアルカリ水溶液とを、体積比が略1:1になるように混合した。
ここで、アルカリ水溶液としては、KOHまたはNaOHによってOH基の濃度が略0.01mol/L以上略1mol/L以下になるように調整した溶液を用いるのが好ましい。OH基の濃度が略1mol/Lより高くなるに連れて、作製された単結晶薄膜の表面が粗くなるという問題があり、OH基の濃度が略0.01mol/Lより低い場合、シード層の表面に単結晶薄膜が殆ど形成されないという問題がある。
前同様にして調製したBaTiO3ナノ結晶分散液と所定濃度に調整したアルカリ水溶液とを、体積比が略1:1になるように混合した。
ここで、アルカリ水溶液としては、KOHまたはNaOHによってOH基の濃度が略0.01mol/L以上略1mol/L以下になるように調整した溶液を用いるのが好ましい。OH基の濃度が略1mol/Lより高くなるに連れて、作製された単結晶薄膜の表面が粗くなるという問題があり、OH基の濃度が略0.01mol/Lより低い場合、シード層の表面に単結晶薄膜が殆ど形成されないという問題がある。
OH基は、BaTiO3ナノ結晶の表面及びシード層の表面にそれぞれOH基が結合することにより、後述する水熱処理の際に、シード層の表面にBaTiO3ナノ結晶を結合させるための糊として作用しているものと考えられる。従って、OH基の濃度が略0.01mol/Lより低い場合は、前述した糊が足りないので、単結晶薄膜が殆ど形成されないものと考えられる。
一方、OH基の濃度が略1mol/Lより高くなるに従って、BaTiO3ナノ結晶が凝集し易くなるので、作製された単結晶薄膜の表面が粗くなるものと考えられる。
従って、薄膜の生成速度と生成された薄膜の表面粗さとの関係より、アルカリ水溶液は、OH基の濃度が0.05mol/L程度以上0.1mol/L程度以下となるようにするのが更に好ましい。
従って、薄膜の生成速度と生成された薄膜の表面粗さとの関係より、アルカリ水溶液は、OH基の濃度が0.05mol/L程度以上0.1mol/L程度以下となるようにするのが更に好ましい。
このようにしてOH基の濃度が調整されたナノ結晶分散液に、前述した如くシード層を形成させた基板を浸漬させ、ナノ結晶分散液を250rpmの回転速度で撹拌しつつ、150℃で12時間、水熱処理を行うことによって、BaTiO3単結晶を互いにその結晶方位が揃ったエピタキシャル結合させると共にシード層に結合させ、シード層の表面にBaTiO3単結晶薄膜を形成させた。
図7は、0.1規定のKOH水溶液を用いて作製したBaTiO3単結晶薄膜のSEM画像図である。また、図8は、0.1規定のNaOH水溶液を用いて作製したBaTiO3単結晶薄膜のSEM画像図である。一方、図9は、1規定のKOH水溶液を用いて作製したBaTiO3単結晶薄膜のSEM画像図である。
図7から明らかなように、0.1規定のKOH水溶液を用いた場合、BaCO3の針状結晶が付着しているものの、作成されたBaTiO3単結晶薄膜は非常に平滑であり、また緻密であった。
また、図8から明らかなように、0.1規定のNaOH水溶液を用いた場合も、作成されたBaTiO3単結晶薄膜は非常に平滑であり、また緻密であった。
一方、図9から明らかなように、1規定のKOH水溶液を用いた場合、作成されたBaTiO3単結晶薄膜の表面には複数の凹凸が表れており、平滑性に欠けていた。
また、図8から明らかなように、0.1規定のNaOH水溶液を用いた場合も、作成されたBaTiO3単結晶薄膜は非常に平滑であり、また緻密であった。
一方、図9から明らかなように、1規定のKOH水溶液を用いた場合、作成されたBaTiO3単結晶薄膜の表面には複数の凹凸が表れており、平滑性に欠けていた。
次に、図7に示した薄膜が単結晶であるか否かを検討した結果について説明する。
図10は、図7に示した薄膜についてXRD測定を行った結果を示すグラフである。図10から明らかなように、100面及び200面において基板たるSrTiO3及び薄膜たるBaTiO3に係る鋭尖なピークが現れている一方、その他の領域に他のピークが現れていない。従って、当該薄膜の基板と平行な面は、単結晶性を示していた。
図10は、図7に示した薄膜についてXRD測定を行った結果を示すグラフである。図10から明らかなように、100面及び200面において基板たるSrTiO3及び薄膜たるBaTiO3に係る鋭尖なピークが現れている一方、その他の領域に他のピークが現れていない。従って、当該薄膜の基板と平行な面は、単結晶性を示していた。
図11は、図7に示した薄膜についてポールフィギュア測定を行った結果を示すグラフであり、(a)は2次元的に、(b)は3次元的に表している。
ポールフィギュア測定は、あおり角を0°から90°まで2.5°ずつ変化させ、各あおり角においてφスキャンを行うことによって実施した。
ポールフィギュア測定は、あおり角を0°から90°まで2.5°ずつ変化させ、各あおり角においてφスキャンを行うことによって実施した。
図11(a)及び(b)から明らかなように、4回対称の鋭尖な回折ピークが現れており、薄膜の基板と平行な面以外の面においても、単結晶性を示していた。
なお、本例では、ナノ結晶をアルコールに分散させ、KOH又はNaOHを用いてOH基の濃度を調整したが、本発明はKOH及びNaOHに限られるものではない。
なお、本例では、ナノ結晶をアルコールに分散させ、KOH又はNaOHを用いてOH基の濃度を調整したが、本発明はKOH及びNaOHに限られるものではない。
<応用例2>
参考例に示した方法等を用い、ペロブスカイト酸化物ナノ結晶エピタキシャル単結晶ロッドから成るサブマイクロ〜マイクロサイズのフォトニック結晶等の光学デバイス応用パターンを作製する。
参考例に示した方法等を用い、ペロブスカイト酸化物ナノ結晶エピタキシャル単結晶ロッドから成るサブマイクロ〜マイクロサイズのフォトニック結晶等の光学デバイス応用パターンを作製する。
<応用例3>
参考例に示した方法等を用い、ペロブスカイト酸化物ナノ結晶エピタキシャル単結晶膜から成るサブマイクロ〜マイクロサイズの圧電デバイス応用パターンを作製する。
参考例に示した方法等を用い、ペロブスカイト酸化物ナノ結晶エピタキシャル単結晶膜から成るサブマイクロ〜マイクロサイズの圧電デバイス応用パターンを作製する。
Claims (8)
- 一般式MTiO3:Xで表されるペロブスカイト酸化物(Mは、Ba、Ca、SrもしくはPb、またはそれらの混合系を表し、Xは、存在するときは、PrまたはEuを表す)の単結晶を製造する方法であって、(1)上記酸化物MTiO3:Xのナノ結晶粒子、または(2)Tiのアルコキシド、上記金属Mのアルコキシド、水酸化物、ハロゲン化物、ジケトネートもしくは硝酸塩、および、Xが存在するときは、Xのアルコキシドから成る混合物を、水およびアルコールを含む媒質に分散させて70°〜200℃の温度下に水熱処理する工程を含むことを特徴とするペロブスカイト酸化物単結晶の製造方法。
- アルコールがエタノールであり、水:アルコールの体積比を1:1とすることを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイト酸化物単結晶の製造方法。
- 酸化物MTiO3:Xのナノ結晶粒子が、高濃度ゾル−ゲル法により合成されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のペロブスカイト酸化物単結晶の製造方法。
- Tiのアルコキシドがチタンイソプロポキシドであり、金属Mのエトキシドまたは水酸化物、および、金属Xが存在するときは、Xのイソプロポキシドとともに用いられることを特徴とする請求項1または2に記載のペロブスカイト酸化物単結晶の製造方法。
- 所要のOH基濃度に調整した前記媒質に前記ナノ結晶粒子を分散させ、これに表面にシード層が形成された基板を浸漬し、前記水熱処理する工程を実施することによって、前記シード層の表面に膜状のペロブスカイト酸化物単結晶を形成する請求項1〜4のいずれかに記載のペロブスカイト酸化物単結晶の製造方法。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のペロブスカイト酸化物単結晶の製造方法で製造され、ナノメートルサイズの結晶がエピタキシャル結合していることを特徴とするペロブスカイト酸化物単結晶。
- 圧電体として用いられることを特徴とする請求項6に記載のペロブスカイト単結晶。
- 蛍光体として用いられることを特徴とする請求項6に記載のペロブスカイト単結晶。
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