JP2007325515A - パン用品質改良剤ならびにそれを配合してなるパンおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】パンの食感およびパン生地の伸展性や取扱い性を改良することができ、かつ食品衛生上安全なパン用品質改良剤、ならびにそれを配合してなるパンおよびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】(a)穀物蛋白質の部分分解物であって重量平均分子量が約5,000〜約200,000の範囲で、かつ分解後の重量平均分子量Mwと分解前の重量平均分子量Moとの比率(Mw/Mo)が0.02〜0.72の部分分解物、(b)アミラーゼ、リパーゼおよびアスコルビン酸オキシダーゼから選択された少なくとも1種の酵素剤、および(c)ヘミセルラーゼを有効成分として、(a)0.0001〜2グラム、(b)1〜1,000単位および(c)1〜1,000単位の割合で含有することを特徴とするパン用品質改良剤により、上記の課題を解決する。
【選択図】なし
【解決手段】(a)穀物蛋白質の部分分解物であって重量平均分子量が約5,000〜約200,000の範囲で、かつ分解後の重量平均分子量Mwと分解前の重量平均分子量Moとの比率(Mw/Mo)が0.02〜0.72の部分分解物、(b)アミラーゼ、リパーゼおよびアスコルビン酸オキシダーゼから選択された少なくとも1種の酵素剤、および(c)ヘミセルラーゼを有効成分として、(a)0.0001〜2グラム、(b)1〜1,000単位および(c)1〜1,000単位の割合で含有することを特徴とするパン用品質改良剤により、上記の課題を解決する。
【選択図】なし
Description
この発明は、パン用品質改良剤ならびにそれを配合してなるパンおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、この発明は、パンの食感を改良することができ、パン生地の取り扱い性を向上させることができる食品衛生上安全なパン用品質改良剤、それを配合してなるパンおよびその製造方法に関する。
パンの製造工程においては、酵母の発酵促進、仕込み水の水質改良、パン生地のpH調整を目的として、また、食感や風味の向上など高品質のパンをつくるために、さらに、パン生地の機械耐性や伸展性を向上させる目的で、小麦粉、食塩、糖類、脱脂粉乳などの乳製品などの原材料に各種の品質改良剤が配合されている。
このような品質改良剤として、酵素剤を用いたもの、例えば、ホスホリパーゼAを有効成分とするパンの品質改良剤(特開昭59−88040号公報:特許文献1)や、少なくとも一種のリパーゼ、少なくとも一種のヘミセルラーゼおよび少なくとも一種のアミラーゼを含むパン改質剤組成物(特許第3319823号公報:特許文献2)などが提案されている。また、本出願人は、特定の穀物蛋白質部分分解物と、アミラーゼ、リパーゼおよびアスコルビン酸オキシダーゼから選択された少なくとも1種とを有効成分として含有する小麦粉焼成品の品質改良剤を提案している(特許第3414652号公報:特許文献3)。
一方、近年、消費者のグルメ嗜好が高まるにつれて、焼き立てのパンが求められるようになってきている。こうした消費者の要望を充たすために、冷凍処理を経たパン生地(以下、「冷凍パン生地」ともいう)によるパンの製法が開発されている。この製法は、パン生地を工場で集中的に生産し、これを冷凍して配送し、販売店で解凍および焼成処理することによりパンを製造する方法であり、焼き立てのパンを販売することを可能にする。また、この製法は、パンの製造工程の途中でパン生地を冷凍することにより製造工程を中断できるため、パンの製造に係る時間的制約が低減され、さらに製造工程の合理化も達成できる。
しかしながら、その一方で、冷凍パン生地による製法は、イーストの活性を高めないようにしながらパン生地を製造するので、製造工程において生地温度が低く、発酵時間が短い。また、発酵工程の過半または全部を経た後のパン生地を冷凍する製法であるために、パン生地に与える冷凍障害が大きい。したがって、冷凍処理を経て製造されるパンは、パン体積の低下、フィッシュアイの出現、焼色の赤色化、焼色やパン形状の不均一化、内相品質の低下、風味や食味の低下など、冷凍処理を経ないで製造されるパン類と比較して、種々の問題が生じやすく、その品質が著しく劣ったものになり易い。
そこで、冷凍パン生地による製法における問題を解決するために、セルラーゼ、α−アミラーゼおよびアスコルビン酸類を含有する冷凍パン生地用改良剤(特開平11−123046号公報:特許文献4)や、麦麹粉末と、アスコルビン酸と、セルラーゼ、プロテアーゼおよび乳化剤から選ばれた少なくとも1種とを有効成分とする冷凍パン生地改良剤(特開2004−113051号公報:特許文献5)などが提案されている。
しかしながら、これらの改良剤を使用した場合であっても、パンの製造工程においてパン生地の粘度が高く、取扱い性が悪いという問題が生じていた。
この発明は、パンの食感およびパン生地の伸展性や取扱い性を改良することができ、かつ食品衛生上安全なパン用品質改良剤、ならびにそれを配合してなるパンおよびその製造方法を提供することを課題とする。
この発明の発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、特定の穀物蛋白質部分分解物と、アミラーゼ、リパーゼおよびアスコルビン酸オキシダーゼから選択される少なくとも1種の酵素剤と、ヘミセルラーゼとを含むパン用品質改良剤をパン製造原料に配合することにより、適度な粘度のパン生地が得られ、製造工程や製造機器へのパン生地の粘着も少なくなり、製造工程での取扱い性が非常に良好となることを見出した。さらに、このようなパン用品質改良剤を配合すると、冷凍処理を経てパンを製造した場合であっても、パン体積が低下することなく風味および食感の良好なパンが得られることも見出して、この発明を完成するに到った。
かくしてこの発明によれば、(a)穀物蛋白質の部分分解物であって重量平均分子量が約5,000〜約200,000の範囲で、かつ分解後の重量平均分子量Mwと分解前の重量平均分子量Moとの比率(Mw/Mo)が0.02〜0.72の部分分解物、
(b)アミラーゼ、リパーゼおよびアスコルビン酸オキシダーゼから選択された少なくとも1種の酵素剤、および
(c)ヘミセルラーゼ
を有効成分として、(a)0.0001〜2グラム、(b)1〜1,000単位および(c)1〜1,000単位の割合で含有することを特徴とするパン用品質改良剤が提供される。
(b)アミラーゼ、リパーゼおよびアスコルビン酸オキシダーゼから選択された少なくとも1種の酵素剤、および
(c)ヘミセルラーゼ
を有効成分として、(a)0.0001〜2グラム、(b)1〜1,000単位および(c)1〜1,000単位の割合で含有することを特徴とするパン用品質改良剤が提供される。
また、この発明によれば、パン製造原料中の小麦粉100グラムに対して、
(a)穀物蛋白質の部分分解物であって重量平均分子量が約5,000〜約200,000の範囲で、かつ分解後の重量平均分子量Mwと分解前の重量平均分子量Moとの比率(Mw/Mo)が0.02〜0.72の部分分解物0.0001〜2グラム、
(b)アミラーゼ、リパーゼおよびアスコルビン酸オキシダーゼから選択される少なくとも1種の酵素剤1〜1,000単位、および
(c)ヘミセルラーゼ1〜1,000単位
を配合してなるパンが提供される。
(a)穀物蛋白質の部分分解物であって重量平均分子量が約5,000〜約200,000の範囲で、かつ分解後の重量平均分子量Mwと分解前の重量平均分子量Moとの比率(Mw/Mo)が0.02〜0.72の部分分解物0.0001〜2グラム、
(b)アミラーゼ、リパーゼおよびアスコルビン酸オキシダーゼから選択される少なくとも1種の酵素剤1〜1,000単位、および
(c)ヘミセルラーゼ1〜1,000単位
を配合してなるパンが提供される。
さらに、この発明によれば、パン製造原料中の小麦粉100グラムに対して、(a)穀物蛋白質の部分分解物であって重量平均分子量が約5,000〜約200,000の範囲で、かつ分解後の重量平均分子量Mwと分解前の重量平均分子量Moとの比率(Mw/Mo)が0.02〜0.72の部分分解物0.0001〜2グラム、(b)アミラーゼ、リパーゼおよびアスコルビン酸オキシダーゼから選択された少なくとも1種の酵素剤1〜1,000単位、および(c)ヘミセルラーゼ1〜1,000単位の量でパン製造原料と前記(a)〜(c)とを混捏し、焼成処理することを特徴とするパンの製造方法が提供される。
この発明のパン用品質改良剤をパンの製造工程で配合することにより、パンの製造時のパン生地の伸展性および取扱い性が非常に良好となる。また、パン生地を冷凍処理した後に加熱処理してパンを製造した場合においても、パン体積が低下することなく風味および食感の良好なパンが得られる。さらに、このパン用品質改良剤は、食品衛生上も安全で、産業上極めて有用である。
この発明に用いる穀物蛋白質部分分解物としては、ゲル濾過法による重量平均分子量Mwが約5,000〜約200,000の範囲で、かつ分解後の重量平均分子量Mwと分解前の重量平均分子量Moとの比率(以下、「Mw/Mo」と略称する)が0.02〜0.72のものが好ましい。また、パンの品質改良効果の点から、穀物蛋白質部分分解物としては、重量平均分子量Mwが約10,000〜約180,000の範囲で、かつMw/Moが0.02〜0.56のものが好ましい。
重量平均分子量Mwが5,000未満の場合やMw/Moが0.02未満の場合には、穀物蛋白質部分分解物は実質的にアミノ酸やそのオリゴマーが主体となり、パンの品質改良効果が劣るので好ましくない。また重量平均分子量Mwが200,000を超える場合には、穀物蛋白質部分分解物の性状が未分解のものに近くなり、パンの品質改良効果が劣るので好ましくない。
この発明における穀物蛋白質部分分解物についての重量平均分子量は、分子量が1,600、6,500、16,000、65,000および88,000のポリスチレンスルホン酸ソーダを標準物質として用い、ファルマシア社製のセファデックスG−75またはG−100を担体としてゲル濾過法で測定した値である。
この発明における穀物蛋白質とは、穀物に含有される蛋白質を意味する。そして、穀物としては、麦類(例えば、小麦)、とうもろこし類、豆類(例えば、大豆)、ソバ類などが挙げられる。これらの穀物に含まれる蛋白質のうち、例えば小麦蛋白質はグルテニンとグリアジンを主成分として含み、通常、小麦グルテンと称せられる。また、とうもろこし蛋白質はゼインを主成分として含み、通常、トウモロコシグルテンと称せられる。
これらの穀物蛋白質はいずれも公知物質であり、これらの部分分解物は、分離や抽出などの常法により前記の穀物蛋白質から得ることができる。穀物蛋白質の部分分解物は、具体的には、穀物蛋白質をアルカリ、酸、酵素、還元剤または酸化剤による分解処理に付すことにより得ることができる。この分解処理は、2工程以上の組み合わせであってもよく、具体的な分解処理法としては、特開昭64−14274号公報に記載の方法などが挙げられる。
特に、この発明者の知見によれば、この発明で用いられる穀物蛋白質の部分分解物は、酸、酵素、酸化剤、還元剤の1種または2種以上による分解処理と、アルカリによる分解処理との組み合わせにより得られるものが好ましい。このような方法としては、具体的には、特公平6−91793号公報に記載の方法が挙げられ、この方法により得られる穀物蛋白質部分分解物は、従来の部分分解物とは異なり、この発明において好適に用いることができる。特に、酸による分解処理とアルカリによる分解処理とを組み合わせて得られる部分分解物が、この発明に用いる部分分解物として好ましい。
この発明で用いられるアミラーゼとしては、α−アミラーゼおよびβ−アミラーゼが挙げられる。いずれも小麦中に存在する酵素であり、でんぷん分解作用を有し、繊維産業における糊抜き、ぶどう糖・水飴・シロップ・食用デキストリン製造、パン製造、アルコール製造などに利用されており、市販のものを使用することができる。
この発明で用いられるリパーゼは、トリグリセリドを段階的にグリセリンと脂肪酸に加水分解する反応に関与する酵素である。動物では膵液中あるいは胃液中、その他血清、尿、乳汁中に存在し、植物ではヒマの種子やナタネナの種子に存在し、カビ、酵母、細菌(例えば、結核菌)などにも広く分布している。
リパーゼの中でも、ホスホリパーゼA2活性を有するものがパンの品質改良効果の点で好ましい。ホスホリパーゼA2はレシチンに関与する酵素の1種で、リン脂質の脂肪酸を加水分解する作用を有し、ブタの膵臓から生産されている市販のものを使用することができる。
この発明で用いられるアスコルビン酸オキシダーゼは、アスコルビン酸を酸化し、デヒドロアスコルビン酸を生成する酵素であり、各種植物に広く存在する。用いられるアスコルビン酸オキシダーゼの由来、形態および精製度合いは、特に限定されないが、例えば、キュウリから抽出精製された市販のものを使用することができる。
さらに、この発明で用いられるヘミセルラーゼは、ヘミセルロースのグリコシド結合を加水分解する反応を触媒する酵素であり、アスペルギルス属またはトリコデルマ属の株からの真菌ヘミセルラーゼなどを使用することができる。
この発明のパン用品質改良剤は、(a)穀物蛋白質部分分解物と(b)アミラーゼ、リパーゼおよびアスコルビン酸オキシダーゼから選択された少なくとも1種の酵素剤と(c)ヘミセルラーゼとを、(a)0.0001〜2グラム、好ましくは0.001〜0.5グラム、(b)1〜1,000単位および(c)1〜1,000単位の割合で含むものである。特に、(b)の酵素剤としてアミラーゼを単独で用いる場合には10〜100単位、リパーゼを単独で用いる場合は5〜50単位、アスコルビン酸オキシダーゼを単独で用いる場合は5〜200単位とするのが好ましく、また、(c)のヘミセルラーゼは1〜500単位とするのが好ましい。
アミラーゼは、馬鈴薯澱粉を基質として、ヨード澱粉反応呈色による Blue Valueの減少%から糊精化力を測定したものを力価(単位)として表し、1%澱粉糊液10ml(100mg澱粉)のBlue Valueを40℃、1分間に1%低下させる活性を1単位(U)としたものである。
リパーゼは、「局方」オリーブ油50.0gとアルコール系界面活性剤(アデカトールSO−120:旭電化工業株式会社製)50.0gとを精製水150mlに懸濁した懸濁液を基質として、37℃で1分間に1マイクロモルの遊離脂肪酸を生成する活性を1単位(U)としたものである。
ホスホリパーゼA2は、卵黄(約0.4%のリン脂質を含む)を基質として、pH8、40℃で1分間に1マイクロモルの遊離脂肪酸を生成する活性を1単位(U)としたものである。
アスコルビン酸オキシダーゼは、0.5ミリモルのアスコルビン酸(pH5.6)1mlと酵素溶液0.1mlとを30℃で5分間反応させたとき、1分間に1マイクロモルのアスコルビン酸を酸化する酵素量を1単位としたものである。
ヘミセルラーゼは、30℃において、1分間に1マイクロモルのキシレンが加水分解されキシロースが生成される酵素活性を示す酵素量を1単位としたものである。
本発明のパン用品質改良剤は、上記の成分(a)〜(c)を混合することにより得ることができる。これらの成分を混合する順序は特に限定されない。
該パン用品質改良剤は、上記の成分(a)〜(c)がそれぞれ粉末状である場合は、これらの粉体混合物であってもよい。また、各成分またはいずれかの成分が例えば糖液または水などの液体に溶解された液体状である場合は、これらを混合した液体混合物であってもよく、該液体混合物にでんぷん加水分解物などの賦形剤を配合した後に乾燥させて粉末状としたものであってもよい。
該パン用品質改良剤は、上記の成分(a)〜(c)がそれぞれ粉末状である場合は、これらの粉体混合物であってもよい。また、各成分またはいずれかの成分が例えば糖液または水などの液体に溶解された液体状である場合は、これらを混合した液体混合物であってもよく、該液体混合物にでんぷん加水分解物などの賦形剤を配合した後に乾燥させて粉末状としたものであってもよい。
本発明のパン用品質改良剤は、特に、冷凍処理を経て製造されるパンに配合することにより、従来の冷凍処理を経て製造されたパンにおいてみられる、冷凍処理を経ることによるパンの食感の低下を防止することができる。
本発明のパンは、パン製造原料中の小麦粉100グラムに対して、上記の成分(a)を0.0001〜2グラム、好ましくは0.001〜0.5グラム、成分(b)を1〜1,000単位、および成分(c)1〜1,000単位を配合してなるものである。特に、(b)の酵素剤としてアミラーゼを単独で用いる場合には10〜100単位、リパーゼを単独で用いる場合は5〜50単位、アスコルビン酸オキシダーゼを単独で用いる場合は5〜200単位が好ましく、また、(c)のヘミセルラーゼは1〜500単位が好ましい。
上記のパン製造原料とは、パンの製造に用いられる通常の原料を意味し、小麦粉(例えば強力粉、高蛋白小麦粉など)、イースト(例えば生イースト、ドライイースト、冷凍耐性イーストなど)、糖分(例えば上白糖、粉糖などの砂糖など)、食塩、乳成分(例えば脱脂粉乳、牛乳など)、油脂(例えばショートニング、マーガリン、バターなど)、水などが挙げられる。特に、原材料として使用する食塩の一部または全部を天然塩にすることにより、パン内層のきめがより細かくなるとともに、見た目のよいパンを製造することができる。
また、上記のパン製造原料は、本発明の効果を阻害しない限り、上記の成分以外に、大豆蛋白および小麦グルテンなどの植物性蛋白、キラヤサポニンおよびレシチンなどの他の乳化剤、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナンおよびアルギン酸などの増粘安定剤、リン酸架橋でんぷん、でんぷん加水分解物および有機酸を付加したでんぷんなどの加工でんぷんや通常のα・βタイプのでんぷん、ビタミンC、着色剤、香料などを含み得る。特に、この発明のパン用品質改良剤は、イーストフードとしての効果も有することから、ビタミンCを併用することでイーストフードの配合目的が達成できるため、好ましい実施態様である。また、冷凍処理を経る方法によりパンを製造する場合には、小麦グルテンとビタミンCを併用するのが、食感改良およびパン生地の伸展性および取扱い性向上の点で好ましい。
本発明のパンは、パン製造原料と上記の成分(a)〜(c)とを混捏し、焼成処理することにより得られる。上記のパンは、パン製造原料と上記の成分(a)〜(c)とが混捏され、焼成処理される方法であれば、中種法、ストレート法など当該技術において知られるいずれの製パン法によっても製造することができる。上記の成分(a)〜(c)をパン製造原料に加える方法としては特に限定されず、パン製造原料のいずれかに直接加えてもよいし、上記の成分(a)〜(c)を水などの液体に予め溶解させておいてパン製造原料に加えてもよい。また、パン製造原料の全体に上記の成分(a)〜(c)を加えて混合してもよいし、パン製造原料の一部分、例えば小麦粉に上記の成分(a)〜(c)を加えて混合した後に、その他のパン製造原料を加えて混合してもよい。また、上記の成分(a)〜(c)を加える順序も特に限定されない。
上記の混捏とは、パン製造原料と上記の成分(a)〜(c)とを混合して捏ねることをいう。混捏は、通常のパンの製造において用いられる条件で行うことができる。製パン法として例えば中種法を用いる場合、例えば、ミキサー(エスケーミキサー社製「SK−20」)を用いて低速で2〜10分、中速で2〜10分、高速で1〜5分混捏すればよい。
上記の焼成処理は、通常のパンの製造において用いられる条件で行うことができ、パンの大きさや種類などにより適宜選択することができる。例えば、パン生地を160〜250℃で10〜60分間保持する条件が挙げられる。本明細書において、焼成処理とは、焼くことのみならず、油で揚げることや蒸気で蒸すことも含む。
本発明のパンの製造においては、パン製造原料に上記の成分(a)〜(c)を加え、混捏した後に、発酵処理を施すことができる。本明細書において、発酵処理とは、発酵が進行する条件下に積極的に付すことを意味する。発酵処理の条件としては、通常の製パン法において用いられる条件であってよく、パンの種類によって適宜選択することができる。例えば35〜40℃、好ましくは37℃で0〜6時間、好ましくは1〜5時間が挙げられる。なお、「発酵」とは、パン製造原料中のイーストが炭酸ガスを発生することをいい、上記の発酵処理を施さなくてもパン製造原料に上記の成分(a)〜(c)を加えて混捏すれば、発酵がわずかでも進行するものと考えられる。
例えば、製パン法として中種法を用いる場合には、小麦粉およびイーストを主成分とする中種原料、または小麦粉、砂糖およびショートニングを主成分とする本捏原料の少なくとも一方に本発明のパン用品質改良剤を配合することができる。このことにより、アミラーゼ、リパーゼおよび/またはアスコルビン酸オキシダーゼならびにヘミセルラーゼの酵素反応が進行して、パンの品質改良効果が一層強化されるため、好ましい実施態様である。
例えば中種法を用いる場合、本発明のパンは、例えば次のようにして製造することができる。
中種原料を混捏し、通常、25〜35℃で2〜5時間発酵(中種発酵)させる。これを、本捏原料と混捏し、得られたパン生地を通常、25〜35℃で10〜40分間放置する(フロアタイム)。次いで、所望のパンの形状に合わせて生地を適宜分割し、通常、15〜35℃で10〜30分間放置する(ベンチタイム)。これを成型し、通常、35〜45℃で適当な大きさに生地が膨張するまで最終発酵させた後、160〜250℃で10〜60分間焼成してパンを製造することができる。
中種原料を混捏し、通常、25〜35℃で2〜5時間発酵(中種発酵)させる。これを、本捏原料と混捏し、得られたパン生地を通常、25〜35℃で10〜40分間放置する(フロアタイム)。次いで、所望のパンの形状に合わせて生地を適宜分割し、通常、15〜35℃で10〜30分間放置する(ベンチタイム)。これを成型し、通常、35〜45℃で適当な大きさに生地が膨張するまで最終発酵させた後、160〜250℃で10〜60分間焼成してパンを製造することができる。
また、例えばストレート法を用いる場合、本発明のパンは、例えば次のようにして製造することができる。
パン製造原料に上記の成分(a)〜(c)を加えて混捏し、通常、25〜35℃で10〜40分間放置する(フロアタイム)。次いで、所望のパンの形状に合わせてパン生地を適宜分割し、通常、15〜35℃で10〜30分間放置する(ベンチタイム)。これを成型し、通常、35〜45℃で適当な大きさに生地が膨張するまで最終発酵させた後、160〜250℃で10〜60分間焼成してパンを製造することができる。
パン製造原料に上記の成分(a)〜(c)を加えて混捏し、通常、25〜35℃で10〜40分間放置する(フロアタイム)。次いで、所望のパンの形状に合わせてパン生地を適宜分割し、通常、15〜35℃で10〜30分間放置する(ベンチタイム)。これを成型し、通常、35〜45℃で適当な大きさに生地が膨張するまで最終発酵させた後、160〜250℃で10〜60分間焼成してパンを製造することができる。
本発明のパンは、冷凍処理を経て製造されるものであっても、従来の冷凍処理を経て製造されたパンにみられる、冷凍処理によるパンの品質の低下を防ぐことができる。該冷凍処理とは、パン製造原料および上記の成分(a)〜(c)を混捏して得られるパン生地の一部分または全部が凍結するように処理することを意味する。
上記の冷凍処理は、パン製造原料および上記の成分(a)〜(c)を混捏した後、焼成処理を行う前のどの時期に行ってもよい。例えば、パン製造原料および上記の成分(a)〜(c)を混捏した直後に冷凍するか、混捏して得られたパン生地をフロアタイム後に分割してから冷凍するか、ベンチタイム後に成型してから冷凍するか、または最終発酵後に冷凍することができる。
冷凍処理は、パン生地を−10〜−40℃の温度条件下に保持することにより行うことができる。温度条件は、一定であってもよいが、適宜変化させることもできる。温度条件を変化させる場合、例えば−30〜−40℃の温度で1〜3時間程度保持した後に−10〜−20℃の温度で数日〜数ヶ月保持する条件を用いることもできるが、これに限定されない。冷凍処理の時間は、パンの種類および大きさにより、また所望の保存期間に応じて適宜調節することができる。
本発明のパンは、冷凍処理に付した場合、その後に解凍処理を施して製造するのが好ましい。解凍処理は、パン生地が完全に解凍されるまで例えば15〜30℃の温度に保持することにより行うことができる。
この発明を試験例により以下に説明するが、これらの試験例によりこの発明が限定されるものではない。
調製例(小麦グルテンの酸およびアルカリによる部分分解物の調製)
塩化水素換算で1gに相当する塩酸水溶液100gの入ったフラスコに小麦グルテン(和光純薬工業株式会社製、重量平均分子量Mo2,000,000)20gを加え、100℃で60分間加熱撹拌した。その後、水酸化ナトリウムで中和し、純水で総量200gにした。次いで、その100gをフラスコに取り、水酸化ナトリウムを0.5g加え、100℃で60分加熱撹拌した。これを塩酸で中和し、L−8型スプレードライヤー(大川原化工機株式会社製)を用いて噴霧乾燥して、粉末品(以下、「調製品」と略称する)を得た。調製品の重量平均分子量Mwは48,000であった。したがって、(Mw/Mo)は、0.024となる。
塩化水素換算で1gに相当する塩酸水溶液100gの入ったフラスコに小麦グルテン(和光純薬工業株式会社製、重量平均分子量Mo2,000,000)20gを加え、100℃で60分間加熱撹拌した。その後、水酸化ナトリウムで中和し、純水で総量200gにした。次いで、その100gをフラスコに取り、水酸化ナトリウムを0.5g加え、100℃で60分加熱撹拌した。これを塩酸で中和し、L−8型スプレードライヤー(大川原化工機株式会社製)を用いて噴霧乾燥して、粉末品(以下、「調製品」と略称する)を得た。調製品の重量平均分子量Mwは48,000であった。したがって、(Mw/Mo)は、0.024となる。
調製例で得られた調製品と、ホスホリパーゼA2、ヘミセルラーゼ、アミラーゼおよびアスコルビン酸オキシダーゼとを、表1の配合割合で混合して、実施例1〜3のパン用品質改良剤および比較例1〜5の改良剤を得た。表1において配合量は小麦粉100グラムに対するグラム数および括弧内は酵素の単位を意味する。
試験例1(食パンの官能評価試験)
実施例1〜3のパン用品質改良剤および比較例1〜5の改良剤を用いて、70%中種法により食パンをつくった。なお、配合は表2に示した処方を用い、工程は表3に従って行った。小麦粉(強力粉)は全量900gを用い、表2の処方は、小麦粉900gに対しての重量%で表す。実施例または比較例の各改良剤は、表1に示す割合で中種に配合した。
実施例1〜3のパン用品質改良剤および比較例1〜5の改良剤を用いて、70%中種法により食パンをつくった。なお、配合は表2に示した処方を用い、工程は表3に従って行った。小麦粉(強力粉)は全量900gを用い、表2の処方は、小麦粉900gに対しての重量%で表す。実施例または比較例の各改良剤は、表1に示す割合で中種に配合した。
焼成後、室温で90分間放冷した後、それぞれビニール袋に包装し、室温で2日間保存した食パンについて、柔らかさ、しっとり感、口溶け、弾力および総合の5項目について10名のパネラーによる官能評価試験を行った。その結果を表4に示す。なお、評価基準は10点法で、点数の高いものほど品質改良効果が良好であることを意味する。
試験例2(イーストフードを配合しない食パンの官能評価試験)
調製例で得られた調製品と、リパーゼ、ヘミセルラーゼ、ビタミンCとを表5の配合割合で混合して、実施例4〜6のパン用品質改良剤を得た。表5において配合量は小麦粉100グラムに対するグラム数および括弧内は酵素の単位を意味する。得られたパン用品質改良剤(実施例4〜6)を用いて、70%中種法により食パンをつくった。なお、配合は表2に示した処方からイーストフード=0.10%を除いた以外は表2に示した処方と同様のものを用い、工程は表3に従って行った。小麦粉は全量900gを用い、パン用品質改良剤は、表1に示す割合で中種に配合した。
調製例で得られた調製品と、リパーゼ、ヘミセルラーゼ、ビタミンCとを表5の配合割合で混合して、実施例4〜6のパン用品質改良剤を得た。表5において配合量は小麦粉100グラムに対するグラム数および括弧内は酵素の単位を意味する。得られたパン用品質改良剤(実施例4〜6)を用いて、70%中種法により食パンをつくった。なお、配合は表2に示した処方からイーストフード=0.10%を除いた以外は表2に示した処方と同様のものを用い、工程は表3に従って行った。小麦粉は全量900gを用い、パン用品質改良剤は、表1に示す割合で中種に配合した。
焼成後、室温で90分間放冷した後、それぞれビニール袋に包装し、室温で2日間保存した食パンについて、柔らかさ、しっとり感、口溶け、弾力および総合の5項目について10名のパネラーによる官能評価試験を行った。その結果を表6に示す。なお、評価基準は10点法で、点数の高いものほど品質改良効果が良好であることを意味する。
試験例3(冷凍ロールパンの官能評価試験)
実施例1〜3のパン用品質改良剤および比較例1〜5の改良剤を用いて、冷凍ロールパンをつくった。なお、配合は表7に示した処方を用い、工程は表8に従って行った。小麦粉としては強力粉と高蛋白小麦粉の合計で900gを用い、表7の処方は、小麦粉900gに対しての重量%で表す。実施例または比較例の改良剤は、表1に示す割合で配合した。
実施例1〜3のパン用品質改良剤および比較例1〜5の改良剤を用いて、冷凍ロールパンをつくった。なお、配合は表7に示した処方を用い、工程は表8に従って行った。小麦粉としては強力粉と高蛋白小麦粉の合計で900gを用い、表7の処方は、小麦粉900gに対しての重量%で表す。実施例または比較例の改良剤は、表1に示す割合で配合した。
焼成後、室温で90分間放冷した後、それぞれビニール袋に包装し、室温で2日間保存したロールパンについて、柔らかさ、しっとり感、口溶け、弾力および総合の5項目についての10名のパネラーによる官能評価を行なった。また、冷凍前のパン生地の伸展性評価も行なった。伸展性は、製パン時の官能評価、すなわちパン生地を丸める時の付着性およびまとまり、モルダー時の付着性および戻りから総合的に評価した。
これらの結果を表9および表10に示す。なお、評価基準は10点法で、点数の高いものほど品質改良効果あるいは冷凍前の生地の伸展性が良好であることを意味する。
これらの結果を表9および表10に示す。なお、評価基準は10点法で、点数の高いものほど品質改良効果あるいは冷凍前の生地の伸展性が良好であることを意味する。
Claims (6)
- (a)穀物蛋白質の部分分解物であって重量平均分子量が約5,000〜約200,000の範囲で、かつ分解後の重量平均分子量Mwと分解前の重量平均分子量Moとの比率(Mw/Mo)が0.02〜0.72の部分分解物、
(b)アミラーゼ、リパーゼおよびアスコルビン酸オキシダーゼから選択された少なくとも1種の酵素剤、および
(c)ヘミセルラーゼ
を有効成分として、(a)0.0001〜2グラム、(b)1〜1,000単位および(c)1〜1,000単位の割合で含有することを特徴とするパン用品質改良剤。 - パンが、冷凍処理を経て製造されるパンである請求項1に記載のパン用品質改良剤。
- パン製造原料中の小麦粉100グラムに対して、
(a)穀物蛋白質の部分分解物であって重量平均分子量が約5,000〜約200,000の範囲で、かつ分解後の重量平均分子量Mwと分解前の重量平均分子量Moとの比率(Mw/Mo)が0.02〜0.72の部分分解物0.0001〜2グラム、
(b)アミラーゼ、リパーゼおよびアスコルビン酸オキシダーゼから選択される少なくとも1種の酵素剤1〜1,000単位、および
(c)ヘミセルラーゼ1〜1,000単位
を配合してなるパン。 - 冷凍処理を経て製造されてなる請求項3に記載のパン。
- パン製造原料中の小麦粉100グラムに対して、(a)穀物蛋白質の部分分解物であって重量平均分子量が約5,000〜約200,000の範囲で、かつ分解後の重量平均分子量Mwと分解前の重量平均分子量Moとの比率(Mw/Mo)が0.02〜0.72の部分分解物0.0001〜2グラム、(b)アミラーゼ、リパーゼおよびアスコルビン酸オキシダーゼから選択された少なくとも1種の酵素剤1〜1,000単位、および(c)ヘミセルラーゼ1〜1,000単位の量でパン製造原料と前記(a)〜(c)とを混捏し、焼成処理することを特徴とするパンの製造方法。
- パン製造原料と前記成分(a)〜(c)とを混捏し、冷凍処理した後で焼成処理する請求項5に記載のパンの製造方法。
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