JP2007143316A - モータ制御装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】キャリア信号を変更しない非同期PWMにおいて、過変調時に発生する位相誤差を減少させ、PWM出力電圧の低周波歪み成分を減少させることができるモータ制御装置を得る。
【解決手段】モータに印可する電圧指令値とモータに印加するPWM電圧とに位相誤差が生じない変調率の値である上限変調率(kmax)を上限として、第1のモータ電圧指令値の変調率を補正して第2のモータ電圧指令値を生成することにより、キャリア信号を変更しない非同期PWMで過変調時に発生する位相誤差を減少させ、PWM出力電圧の低周波歪み成分を減少させることができる。
【選択図】図1

Description

この発明は、PWM(Pulse Width Modulation)インバータを用いて交流モータを駆動するモータ制御装置に関する。
従来のPWMインバータを用いて交流モータを駆動するモータ制御装置として、例えば「PWM制御を行い直流電圧を交流電圧に変換することで3相交流モータに印加する電圧を制御するに際して、バッテリ電圧で出力可能な正弦波状電圧の大きさに対する電圧指令値の大きさの割合を示す変調率を変調率計算部にて演算し、変調率補正係数演算部により変調率に応じた電圧指令値の補正係数を算出し、基本波電圧成分線形化部により電圧指令値の補正をして電圧指令値を生成する。そして、PWM生成部は、この電圧指令値に応じてキャリア周波数を変更してPWM制御をしてバッテリ電圧を交流電圧に変換して3相交流モータに供給する。」ようにしたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2003−309993号公報(要約、図1)
従来のPWMインバータを用いて交流モータを駆動するモータ制御装置では、高回転域で大きな出力を発生させるため、正弦波PWMで出力可能な最大電圧以上の電圧を出力できる矩形波方式に移行する場合、切り替えによるトルクショックが発生することなくシームレスに制御するために、直流電圧で出力可能な電圧の大きさに対する電圧指令値の大きさの割合を示す変調率が1を越える(以下、過変調という。)電圧指令値とPWM出力電圧との基本波成分が同じ(以下、線形化という。)となるように変調率に補正を加えると共に、モータの回転周波数及びマイコン等制御演算手段の演算タイミングに応じてキャリア信号周波数を変更するものであるが、キャリア信号周波数の変更はマイコン等制御演算手段の著しい負荷増大を招き、且つ、マイコン等制御演算手段が高価なものになる、という問題点があった。
また、マイコン等制御演算手段の負荷を低減させ、且つ、安価な構成とするために、キャリア信号の周波数の変更を行わない場合(以下、非同期PWMという。)、電圧指令の周波数とキャリア信号の周波数とが同期しないので、過変調時においては、電圧指令値とPWM出力電圧とに位相誤差を生じ、PWM出力電圧に低周波の歪み成分が重畳する、という問題点があった。
また、マイコン等制御演算手段においては、実際の電圧指令値は離散的に変化するため、電圧指令値がキャリア信号の振幅の大きさを超えて離散的に変化すると、PWMのスイッチングはキャリア周期内で発生せず、キャリア信号の所定タイミングで単一のスイッチングが発生することとなる結果、PWM出力電圧に位相誤差が生ずる、という問題点があった。
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、キャリア信号を変更しない非同期PWMにおいて、過変調時に発生する位相誤差を減少させ、PWM出力電圧の低周波歪み成分を減少させることができるモータ制御装置を得るものである。
この発明に係るPWM制御を行い直流電圧を交流電圧に変換することでモータに印加する電圧を制御するモータ制御装置は、電圧指令値に基づいてモータに印加する正弦波状電圧の指令値である第1のモータ電圧指令値を演算して求める電圧指令値演算手段と、前記直流電圧で出力可能な正弦波状電圧の大きさに対する前記第1のモータ電圧指令値の大きさの割合を示す基本変調率(k0)を求め、該基本変調率(k0)に基づいて第1のモータ電圧指令値の補正をして第2のモータ電圧指令値を求める基本波電圧線形化手段と、前記第2のモータ電圧指令値及びPWM生成キャリア信号に基づいてPWM信号を生成するPWM波形生成手段と、前記第1のモータ電圧指令値の大きさとモータに印可するPWM出力電圧の基本波成分の大きさとの関係を線形化したときに、前記モータに印可する電圧指令値とモータに印加するPWM出力電圧とに位相誤差が生じない変調率の上限値である上限変調率(kmax)を求める補償倍率リミッタ手段と、前記PWM信号に基づいて前記直流電圧を交流電圧に変換したPWM出力電圧をモータに供給するPWMインバータとを備え、前記基本波電圧線形化手段は、前記基本変調率(k0)の大きさが1を越える場合には、前記基本変調率(k0)に基づいて、前記第1のモータ電圧指令値の大きさとモータに印可するPWM出力電圧の基本波成分の大きさとの関係を線形化する第1の変調率(k1)を求め、前記上限変調率(kmax)を上限値として、前記第1の変調率(k1)に基づいて前記第1のモータ電圧指令値を補正して前記第2のモータ電圧指令値を求めるものである。
この発明は、基本変調率(k0)の大きさが1を越える場合には、基本変調率(k0)に基づいて第1の変調率(k1)を求め、上限変調率(kmax)を上限値とする第1の変調率(k1)に基づいて第1のモータ電圧指令値を補正して第2のモータ電圧指令値を求め、第2のモータ電圧指令値に基づいてPWM信号を生成することにより、過変調時に発生する位相誤差を減少させ、PWM出力電圧の低周波歪み成分を減少させることができる。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1におけるモータ制御装置の構成を示すものである。図1において、1は制御演算手段、2はPWMインバータ、3はモータ、4は電圧指令演算手段、5は基本波電圧線形化手段、6はキャリア信号生成手段、7はPWM波形生成手段、8は補償倍率リミッタ手段である。制御演算手段1はPWM信号Su,Sv,Swを介してPWMインバータ2と接続され、またPWMインバータ2の出力はU,V,W相の結線にてモータ3に接続されている。モータ3はU,V,W相に供給される交流電圧によりトルクを発生し運転する。
ω* およびV* はそれぞれPWMインバータ2が出力する交流電圧の電気角周波数および振幅の指令値を示している。また、Vu1* ,Vv1* ,Vw1* は電圧指令演算手段4が出力する第1のモータ電圧指令値、Vu2* ,Vv2* ,Vw2* は基本波電圧線形化手段5が出力する第2のモータ電圧指令値、VdcはPWMインバータ2の直流電圧情報、kmaxは補償倍率リミッタ手段8が出力する上限変調率をそれぞれ示している。
まず、このモータ制御装置における基本的なPWM方式である正弦波PWMと過変調PWMについて図2、図3、図4および図5を用いて説明する。図2は空間電圧ベクトル変調を用いた場合のモータへの相電圧指令、相電圧及び線間電圧を示す図、図3は正弦波PWMの電圧指令とPWM信号の関係を示す図、図4は過変調PWMの電圧指令とPWM信号の関係を示す図、図5は電圧指令の振幅と出力電圧基本波成分の関係を示す図である。
正弦波PWMはモータの線間電圧が図2の如く略正弦波状となるようPWMインバータ2のPWM出力電圧を発生する方法である。なおモータの相電圧波形においては3n次高調波(n:自然数)を重畳しても線間電圧に影響しないことから、例えば図2の相電圧の波形の様に3n次高調波を重畳して出力電圧を向上する方法が採られている。制御演算手段1内の第1のモータ電圧指令値Vu1* ,Vv1* ,Vw1* は例えば図2の相電圧波形と相似の波形である。正弦波PWMの場合、PWM信号の生成は例えば図3の如く生成され、電圧指令をキャリア信号と大小比較しその比較結果をPWM信号として出力する。
線間電圧が略正弦波となるためには、電圧指令とPWMデューティの線形性が常に保たれている必要があり、すなわち電圧指令の振幅はキャリア信号の振幅以下となっていなければならない。ここで電圧指令の振幅Arをキャリア信号の振幅Acで除した値kを変調率とすると、変調率1以下であることが正弦波PWMの必要条件となる。正弦波PWMにおける最大線間電圧実効値Vm1はVdc/sqrt(2)となる。
過変調PWMは図4の如く変調率が1を越えた状態を指す。電圧指令の振幅をキャリア信号の振幅よりも大きくすることで出力電圧の基本波成分を増加させ、高速・高負荷での運転が可能となる。変調率を無限大とした場合、図5の如く出力電圧の基本波成分は変調率が1の場合の約1.105倍で飽和する。即ち、正弦波PWM方式での最大出力電圧の約1.105倍の基本波成分電圧を出力でき、より大きなトルクを得られる。
なお、PWMインバータ2ではVdc以上の電圧の発生は不可能であるため、過変調PWMでは電圧指令と出力電圧との間での線形性は保たれない。正弦波PWMから過変調PWMへの移行時に上記非線形性が要因となるトルクショックを抑制するためには、変調率を補正することにより、電圧指令と出力電圧との基本波成分を線形化し、シームレスに移行制御する方法がとられている。このような変調率の補正による線形化処理についての詳細を次に説明する。
変調率が1を超える領域では、電圧指令値と出力電圧との基本波成分との関係は、例えば図5のようになる。電圧指令値と出力電圧との基本波成分が同じとなるためには、電圧指令値の変調率を変更する補正を行ない、電圧指令値と出力電圧の基本波成分が一致するようにする。
このような補正を行う変調率を求めるには図5の逆関数である図6に示すような関係にすれば良い。すなわち、電圧指令値に対するキャリア信号の振幅の割合を示す基本変調率(k0)が1よりも大きい場合には、予め保持しておいた図6に示すようなテーブルを参照して電圧指令値を補正する第1の変調率(k1)を決定する。
これにより、基本変調率(k0)が1以下の場合のみならず、基本変調率(k0)が1以上となる場合であっても電圧指令値と同一な基本波成分の出力電圧を得ることができる。
より具体的な数値にて例示すると、例えば図6において、電圧指令値を約1.10倍即ち基本変調率(k0)が約1.10の時、電圧指令値を補正する第1の変調率を5とすることで、図5に示されたように基本波成分は約1.10倍になり、電圧指令値と出力電圧の基本波成分が線形化される。
次に電圧指令およびPWM出力波形の生成実現手段の種類であるデジタル方式と、デジタル方式による離散的演算により、過変調PWM時に発生する位相誤差及びPWM出力電圧の低周波電圧誤差について説明する。
まず、電圧指令およびPWM出力波形の生成実現手段の種類について説明する。
近年、マイコン等の性能向上に伴い、上記の実現手段としてはデジタル方式が広く用いられている。デジタル方式は所定周期毎に離散的に電圧指令値を演算してこの値を保持し、三角波状のキャリア信号と、前記記憶されている電圧指令値の大小を比較し、この比較結果をPWM信号として出力する方式である。
図7はマイコンでの電圧指令演算結果を示す。図7は電圧指令の演算周期とキャリア周期は同一である例であり、キャリアの山に同期して電圧指令が更新される。過変調PWMの場合、キャリア信号の振幅よりも電圧指令の振幅が大きいため、PWMのスイッチングが発生しない区間が現れ、この区間は変調率が大きいほど増加する。このような過変調PWM時の離散的演算により発生する位相誤差について図8により説明する。
図8は過変調時のPWM信号生成過程を示す。図8のA,Bはそれぞれ位相の異なる2つの電圧指令A,Bのゼロクロス点近傍について拡大波形である。マイコン等による離散値制御の場合、実際の電圧指令は離散的に変化し、理想の電圧指令がAの場合は演算周期毎にa1,a2と変化する。
電圧指令値がキャリア信号の振幅範囲内であれば、同一周期内でPWMのスイッチング(1周期内でのON−OFF動作)が発生するが、図8の電圧指令Aの様に離散化された電圧指令がキャリア振幅の範囲内を通過してしまうと、PWMのスイッチングはキャリア周期内で発生せず、結果、キャリア信号の所定タイミングで単一のスイッチングが発生することとなる。
また、図8において位相の異なる電圧指令Bを考えたとき、前記電圧指令Aの場合と同様、離散化された電圧指令Bはキャリア振幅を通過するため、出力されるPWM波形は電圧指令AのPWM波形と同一となる。即ち、電圧指令の位相がA〜Bの間であれば全て同一のPWM波形となる。言い換えれば離散化された電圧指令値がキャリア振幅を越えて変化する場合、電圧指令とPWM出力電圧とに位相誤差が生ずる。この位相誤差は、電圧指令の周波数が高く、演算周期が長く、変調率が大きいほど拡大する。このような位相誤差が発生し始める変調率kthは、電気角周波数指令ω* と演算周期Tsとで表すことができる。次に変調率kth導出の詳細を図9により説明する。
図9は電気角位相と電圧指令値との関係を示す図である。図9において、Vdc/2〜−Vdc/2間がPWMのスイッチング可能な電圧範囲であり、キャリア信号の振幅に相当する。
図9のような、変調率Vk=1.155≒2/sqrt(3)とその倍の変調率Vk=2.309≒2・2/sqrt(3)の時の電圧指令波形を考えた場合、電圧指令値がVdc/2又は−Vdc/2を越えたところが100%デューティとなる、即ち、電圧指令値がVdc/2又は−Vdc/2の値に飽和した状態(以下、張付きという。)となり、正負いずれかの極性に張り付く。この張付き状態から他の極性の張付き状態に移行する部分、つまり、図9のステージ1とステージ4の部分にPWMのスイッチングが発生する。張付きが移行する位相角を張付き移行位相角θcng[rad]とすると、変調率kと張付き移行位相角θcngとに次式の関係がある。
Figure 2007143316
位相誤差を生じさせないためには、張付き移行時に少なくとも一回PWMのスイッチングを発生させる必要がある。従って、演算周期をTs[s]、電気角周波数指令をω* [rad/s]とすると、演算周期Ts[s]あたりに進む位相角ω* ・Ts[rad]が張付き移行位相角θcng[rad]よりも小さい必要がある。これを式に表すと次式となる。
Figure 2007143316
以上から位相誤差が生じないための変調率kの条件は、次式のようになる。
Figure 2007143316
図10は演算周期Ts固定の場合の回転速度と変調率kthの関係を示す図である。変調率kがkth以下では、PWM出力電圧に対して上記の位相誤差が発生しないため、PWM出力電圧が安定し運転も安定となる。一方、変調率kがkthを越えると位相誤差が発生し、位相誤差が大きくなるほどモータの運転が不安定となる。
位相誤差によるモータ運転の不安定が発生する可能性がある場合、モータ制御装置の信頼性確保の観点から電圧指令値又は運転周波数を所定値に制限して動作させるなどの対策を施すことが考えられるが、これらはいずれも性能の低下を伴うこととなる。電圧指令値の最大値抑制はスイッチングの発生による効率低下や騒音増加が発生し、また最大周波数の抑制は装置の速度制御範囲の縮小や能力低下をもたらす。
次に非同期PWMでの出力電圧誤差について図11により説明する。
図11は高速回転時の電圧指令およびPWM出力電圧波形を示す図である(キャリア信号の図示省略)。
非同期PWMでは電圧指令の演算周期は電圧指令の周波数と無関係であり、デジタル方式においては通常一定周期で離散的に演算される。このため、高速回転時ではたとえば図11(a)の丸印の如く、電圧指令の周期に対して演算周期が粗い結果となる。ここで変調率を無限大として考えた場合、PWM出力電圧の波形は図11(b)となる。すなわち電圧指令の演算周期と電圧指令の電圧極性にのみ依存するPWM波形となる。図11(b)はPWM出力電圧波形のパルス幅において電圧指令の演算周期の影響を受けて低周波の電圧誤差を生じ、図11(c)の如く歪み成分を伴う。このためモータには出力電圧周波数よりも低い周波数成分の電圧が印加される。これによりトルクあるいは電流が変動し運転特性に劣化が生じる。
以上のような性能低下の根源である不安定動作を回避するには、上記式(1)の関係に基づき変調率kの動作範囲に制限を設け、位相誤差を発生させないようモータ運転をする必要がある。このような過変調PWM時の位相誤差による性能低下を回避するための動作処理について図12を用いて説明する。
図12は本発明の電圧指令演算からPWM信号生成までの演算過程を示すフローチャートである。なお、図1における第1のモータ電圧指令値Vu1* ,Vv1* ,Vw1* は、図12では便宜上、電気角周波数で回転する回転座標系に変換し振幅V* と位相θによって示している。Vu1* ,Vv1* ,Vw1* と振幅V* と位相θとの関係は以下の通りである。
Figure 2007143316
まず、電圧指令演算手段4は、キャリア信号に同期して発生する割り込み処理要求に基づき第1のモータ電圧指令値を演算する(ステップs2)。次に基本波電圧線形化手段5は、PWMインバータ2の直流電圧Vdcと上記第1のモータ電圧指令の振幅V* より基本変調率(k0)を求め、この値が1を越えているか否かを判断する(ステップs3〜s4)。k0≦1である場合は出力電圧を発生可能と判断し、第2の変調率(k2)に前記基本変調率(k0)の値をセットし、ステップs11に移行する。(ステップs5)
上記ステップs4にてk0>1である場合は、まずモータに印可するPWM出力電圧の基本波成分が前記第1のモータ電圧指令値となるような第1の変調率(k1)を演算する(ステップs6)。前記ステップs6の演算は例えばテーブル参照などを用いて行う。図6は前記テーブル参照に用いるデータの例である。図6は図5の逆関数である。なお、図6では図5同様、基本変調率(k0)が所定(約1.105)以上となると電圧基本波成分が同一になるような第1の変調率が存在しない。したがってテーブル関数としては想定される第1の変調率の最大値を設定し、基本変調率が上記所定以上となる場合は前記第1の変調率の最大値を出力する様に設定する。
次に補償倍率リミッタ手段8は、電気角周波数指令ω* と演算周期Tsとから前記式(1)を用いて位相誤差が生じない変調率の上限値である上限変調率(kmax)を演算し、基本波電圧線形化手段5は、前記第1の変調率(k1)と上限変調率(kmax)を比較し第2の変調率(k2)を設定する。k1>kmaxであるならばk2はkmaxとし、k1≦kmaxならばk2はk1と同一とする(ステップs7〜s10)。
基本波電圧線形化手段5は、第1のモータ電圧指令値の変調率を第2の変調率(k2)の値に基づき補正し第2のモータ電圧指令値を演算し、第2のモータ電圧指令値と位相θとに基づき空間ベクトル変調の処理によりPWMデューティを演算する。PWM波形生成手段7は、前記PWMデューティ演算結果とキャリア信号との比較によってPWM信号に変換してPWMインバータ2の制御信号を生成する(ステップs11)。
PWMインバータ2は、前記PWM信号により生成したPWM出力電圧をモータ3に供給し、モータ3はPWM出力電圧によりトルクを発生し運転する。
上記の動作による効果を図13及び図14を用いて説明する。
図13は過変調時における、電圧指令とPWM信号との位相誤差を示す図である。図13(a)は変調率の上限制限がない従来方式の電圧指令波形及びPWM信号波形、図13(b)は本発明の電圧指令波形及びPWM信号波形である。
基本波電圧線形化手段5により、前記基本変調率(k0)の大きさが1を越える場合、前記上限変調率(kmax)を上限とする第1の変調率(k1)の値に基づき、前記第1のモータ電圧指令値Vu1* ,Vv1* ,Vw1* を補正して第2のモータ電圧指令値Vu2* ,Vv2* ,Vw2* を生成することにより、第1のモータ電圧指令値に対するPWM出力電圧の基本波成分が線形化され、且つ、第1の変調率(k1)の上限値を上限変調率(kmax)により制限しているので、電圧指令値のゼロクロス近傍でPWMのスイッチングが発生し、位相誤差が縮小される。
図14は高速回転時における出力電圧歪みを示す図である(キャリア信号は図示省略)。図14(a)は非同期PWMでの電圧指令と演算周期を示す、図14(b)は変調率を無限大とした場合、変調率の上限制御が無い従来方式の出力電圧波形、図14(c)は本発明の出力電圧波形である。図14(b)のように従来方式では出力電圧のスイッチング周期が非同期発生するため出力電圧に低周波の歪みが発生するが、本発明では、図14(c)のように第1の変調率(k1)の上限値を上限変調率(kmax)により制限しているので、図14(c)のPWM周期と示される電圧指令のゼロクロス近傍で、キャリア信号と電圧指令とが交わり、少なくとも1回PWMのスイッチングが発生するため、出力電圧における低周波の歪み成分が抑制される。尚、図14(c)の非PWM周期と示される周期は100%デューティでPWMスイッチングを行わない周期である。
以上のように本実施の形態においては、基本変調率(k0)の大きさが1を越える場合には、基本変調率(k0)に基づいて第1の変調率(k1)を求め、上限変調率(kmax)を上限値とする第1の変調率(k1)に基づいて第1のモータ電圧指令値を補正して第2のモータ電圧指令値を求め、第2のモータ電圧指令値に基づいてPWM信号を生成することにより、非同期PWMで過変調時に問題となる位相誤差による制御性劣化を抑制し、モータ制御システムを広運転範囲・高効率・低騒音に実現できる。また、キャリア信号周波数の変更を行わないため、マイコン等制御演算手段の著しい負荷増大を抑制することができ、マイコン等制御演算手段を安価に構成することができる。
また、基本変調率(k0)の大きさが1以下の場合には、基本変調率(k0)に基づいて第1のモータ電圧指令値の補正をして第2のモータ電圧指令値を求め、第2のモータ電圧指令値に基づいてPWM信号を生成することにより、正弦波PWMにより生成する所望のPWM出力電圧をモータに供給することができる。
また、補償倍率リミッタ手段は、モータに印可する電圧の周波数の指令値と、第1のモータ電圧指令生成の演算周期とに基づいて、上限変調率(kmax)を求めることにより、位相誤差が生じない変調率の上限値をモータの運転周波数と演算周期に応じて求めることができる。
なお、上記ステップs7において、上限変調率(kmax)は式(1)の演算式により求めることとしたが、この演算は必ずしも必要でなく、回転数に応じた上限変調率(kmax)のテーブルを予め作成しておき、実行時は前記テーブルを参照するようにしても良い。このような方法とすることで演算の高速化が可能である。
また、本実施の形態では相電圧指令波形の生成方法は空間電圧ベクトル変調である場合を説明したが、これに限るものではなく、単純な3相変調でも実施可能である。
本発明の活用例として、交流電動機のインバータ駆動による可変速制御が用いられている製品、一例としてエアコン・冷蔵庫用圧縮機、冷蔵庫、洗濯機などの高効率化・低騒音化・高出力化が期待できる。
この発明の実施の形態1におけるモータ制御装置の構成を示す図である。 空間電圧ベクトル変調を用いた場合のモータへの相電圧指令、相電圧および線間電圧を示す図である。 正弦波PWMの電圧指令とPWM信号の関係を示す図である。 過変調PWMの電圧指令とPWM信号の関係を示す図である。 電圧指令の振幅と出力電圧基本波成分の関係を示す図である。 第1の変調率を算出するためのテーブルデータを示す図である。 マイコンでの電圧指令演算結果を示す図である。 過変調時のPWM信号生成過程を示す図である。 電気角位相と電圧指令値との関係を示す図である。 演算周期Ts固定の場合の回転速度と変調率kthの関係を示す図である。 高速回転時の電圧指令およびPWM出力電圧波形を示す図である。 本発明の電圧指令演算からPWM信号生成までの演算過程を示すフローチャートを示す図である。 過変調領域のPWM波形を示す図である。 高速回転時における出力電圧歪みを示す図である。
符号の説明
1 制御演算手段、2 PWMインバータ、3 モータ、4 電圧指令演算手段、5 基本波電圧線形化手段、6 キャリア信号生成手段、7 PWM波形生成手段、8 補償倍率リミッタ手段。

Claims (3)

  1. PWM制御を行い直流電圧を交流電圧に変換することでモータに印加する電圧を制御するモータ制御装置において、
    電圧指令値に基づいてモータに印加する正弦波状電圧の指令値である第1のモータ電圧指令値を演算して求める電圧指令値演算手段と、
    前記直流電圧で出力可能な正弦波状電圧の大きさに対する前記第1のモータ電圧指令値の大きさの割合を示す基本変調率(k0)を求め、該基本変調率(k0)に基づいて第1のモータ電圧指令値の補正をして第2のモータ電圧指令値を求める基本波電圧線形化手段と、
    前記第2のモータ電圧指令値及びPWM生成キャリア信号に基づいてPWM信号を生成するPWM波形生成手段と、
    前記第1のモータ電圧指令値の大きさとモータに印可するPWM出力電圧の基本波成分の大きさとの関係を線形化したときに、前記モータに印可する電圧指令値とモータに印加するPWM出力電圧とに位相誤差が生じない変調率の上限値である上限変調率(kmax)を求める補償倍率リミッタ手段と、
    前記PWM信号に基づいて前記直流電圧を交流電圧に変換したPWM出力電圧をモータに供給するPWMインバータとを備え、
    前記基本波電圧線形化手段は、前記基本変調率(k0)の大きさが1を越える場合には、前記基本変調率(k0)に基づいて、前記第1のモータ電圧指令値の大きさとモータに印可するPWM出力電圧の基本波成分の大きさとの関係を線形化する第1の変調率(k1)を求め、前記上限変調率(kmax)を上限値として、前記第1の変調率(k1)に基づいて前記第1のモータ電圧指令値を補正して前記第2のモータ電圧指令値を求めることを特徴とするモータ制御装置。
  2. 前記基本波電圧線形化手段は、前記基本変調率(k0)の大きさが1以下の場合には、前記基本変調率(k0)に基づいて第1のモータ電圧指令値の補正をして第2のモータ電圧指令値を求めることを特徴とする請求項1記載のモータ制御装置。
  3. 前記補償倍率リミッタ手段は、前記モータに印可する電圧の周波数の指令値と、前記第1のモータ電圧指令値生成の演算周期とに基づいて、前記上限変調率(kmax)を求めることを特徴とする請求項1記載のモータ制御装置。
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