JP2007107078A - 被削性に優れた低炭素硫黄快削鋼 - Google Patents

被削性に優れた低炭素硫黄快削鋼 Download PDF

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Abstract

【課題】Pbフリーであっても良好な被削性(特に仕上げ面粗さ)を発揮すると共に、連続鋳造方法によって生産性良く製造することのできる低炭素硫黄快削鋼を提供する。
【解決手段】本発明の低炭素硫黄快削鋼は、C:0.02〜0.15%(質量%の意、以下同じ)、Si:0.004%以下(0%を含まない)、Mn:0.6〜3%、P:0.02〜0.2%、S:0.2〜1%、Al:0.005%以下(0%を含まない)、N:0.002〜0.03%を夫々含有し、且つ、鋼中におけるMnS中の平均O濃度が0.4%以上である。
【選択図】図2

Description

本発明は、人体に有害であるPbを使用することなく、良好な切削仕上げ面粗さを発揮する低炭素硫黄快削鋼に関するものである。
低炭素硫黄快削鋼は、自動車のトランスミッションの油圧部品の他、特に強度をそれほど必要としないネジやプリンターシャフト等の小物部品用鋼として、汎用されている。また、更なる切削仕上げ面粗さ、切屑処理性が要求される場合には、上記低炭素硫黄快削鋼に鉛(Pb)を添加した鉛−硫黄快削鋼が用いられている。
快削鋼に含まれるPbは、被削性改善に極めて有効な元素であるが、人体への有害性が指摘され、また溶製時の鉛のヒュームや切削屑等の処理の点で問題も多く、Pbを添加することなく(Pbフリー)、良好な被削性を発揮することが求められている。
低炭素硫黄快削鋼において、Pbフリーで被削性を改善するために、これまでにも様々な技術が提案されている。例えば特許文献1では、硫化物系介在物の大きさを制御することによって被削性(仕上げ面粗さおよび切屑処理性)を改善した技術が提案されている。また特許文献2には、硫化物系介在物のサイズを制御するには、鋼中酸素を適切に制御することが重要であることが示されている。更に、鋼中の酸化物系介在物を規定することによって、被削性を改善した技術も提案されている(例えば、特許文献3〜5)。
一方、鋼材の化学成分組成を適切に規定することによって、被削性を改善した技術も提案されている(例えば、特許文献6〜9)。
これまで提案されている技術は、いずれも快削鋼の被削性の向上という観点では有用なものといえるが、特にフォーミング加工における仕上げ面粗さの点で、Pb含有鋼並みの良好な被削性が得られていないのが実情である。
また、Pbフリー鋼に望まれる特性としては、上記のような被削性に加えて、生産性が良好なことも重要である。こうした観点からすれば、連続鋳造方法によって製造が可能であり、表面疵などが発生せず、しかも圧延が容易に実施できることも必要な要件となる。しかしながら、連続鋳造プロセスは鋼材の被削性を良好にする上で不利であるといわれており、連続鋳造プロセスで被削性に優れた快削鋼を生産性良く製造できることも重要な課題である。
特開2003−253390号公報 特開平9−31522号公報 特開平7−173574号公報 特開平9−71838号公報 特開平10−158781号公報 特開2000−319753号公報 特開2001−152281号公報 特開2001−152282号公報 特開2001−152283号公報
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、Pbフリーであっても良好な被削性(特に仕上げ面粗さ)を発揮すると共に、連続鋳造方法によって生産性良く製造することのできる低炭素硫黄快削鋼を提供することにある。
上記目的を達成することのできた本発明の低炭素硫黄快削鋼とは、C:0.02〜0.15%(質量%の意味、以下同じ)、Si:0.004%以下(0%を含まない)、Mn:0.6〜3%、P:0.02〜0.2%、S:0.2〜1%、Al:0.005%以下(0%を含まない)、O:0.008〜0.04%、N:0.002〜0.03%を夫々含有し、且つ、鋼中におけるMnS中の平均O濃度が0.4%以上である点に要旨を有するものである。
上記目的は、上記のような化学成分組成を有し、下記(a)または(b)の要件を満足するような低炭素硫黄快削鋼においても、達成することができる。
(a)鋼中の固溶Siが35ppm以下、固溶Alが1ppm以下であること、
(b)凝固後の鋳片において、面積が25μm以上の非金属介在物を、MnO−SiO−MnS系の三元系で規格化したときの平均組成が、MnS:60%以下、SiO:4%以下、MnO:36%以上であること、
いずれの構成を採用するにしても、化学成分組成として、(1)固溶N量を0.002〜0.02%とすることや、(2)Ti,Cr,Nb,V,ZrおよびBよりなる群から選ばれる1種以上を、合計で0.02%以下(0%を含まない)に抑制することも有用であり、これらの要件を満足することによって、本発明の低炭素硫黄快削鋼の特性を更に改善することができる。
本発明によれば、鋼中におけるMnS中の平均O濃度が0.4%以上となるように制御することによって、必ずしも溶鋼中のフリー酸素を高めなくても(即ち、高Mn高S濃度であっても)、微小クラックの生成サイトとなる有用な大型・球状MnSを多数存在させることができて、仕上げ面粗さの良好な低炭素硫黄快削鋼が実現できる。また本発明の低炭素硫黄快削鋼は、鋳造直前の脱酸操作を適切にすることによって、連続鋳造法を適用しても生産性良く製造できる。
快削鋼の仕上げ面粗さは、構成刃先の生成、大きさ、形状および均一性に大きく依存する。構成刃先とは、工具の刃先に被削材の一部が堆積し、それが事実上工具の一部(切れ刃)として振舞う現象であり、この生成挙動によっては仕上げ面粗さを低下させる。この構成刃先は、或る一定の条件の下でのみ生成するものであるが、通常実施されている切削条件は構成刃先が生成しやすい条件となっている。
こうした構成刃先は、この大きさの変動が致命的な欠陥を与えるものとされているのであるが、その一方で工具刃先を保護して工具寿命を向上させる効果もある。従って、構成刃先を完全になくすことは得策とはいえず、構成刃先を安定的に生成させ、その大きさや形状を均一化させることが必要になる。
構成刃先を安定的に生成させ、その大きさや形状を均一化させるためには、切削される部分における一次せん断域・二次せん断域において、微小クラックを多数生成させることが重要となる。こうした微小クラックを多数生成させるためには、クラック生成サイトを多数導入する必要がある。そして、微小クラックの生成サイトとなり得るものとして、MnS系介在物が有用であることは知られている。但し、全てのMnS系介在物が微小クラック生成サイトとして作用するものではなく、大型で球状の(即ち、幅の大きい)MnSが有効に働くことになる。前記の一次せん断域・二次せん断域でMnSが延伸することになるのであるが、延伸されて細くなり過ぎると、その殆どがマトリクスと同様になり、微小クラックの導入サイトとならないことになる。こうしたことから、被削材のMnS系介在物を予め大型・球状に制御しておく必要がある。
ところで、MnS系介在物を大型・球状化するには、一般に鋼中の酸素〈全酸素〉が影響を及ぼすことが知られており、鋼中の酸素が多くなるほど、硫化物径が大きくなるとされている。従って、MnS系介在物を大型・球状化するには、鋼中の酸素濃度をある程度増加させる必要がある。また、同時に微小クラック生成サイトとなるMnS系介在物を増加させるためには、従来の快削鋼(例えば、JIS SUM23,SUM24L)よりもMn濃度、S濃度を高める必要がある。しかしながら、Mn濃度やS濃度を高めると、これらは脱酸剤として働くことから、フリー酸素が減少し、全酸素濃度が減少してしまうことになる。即ち、鋼中の全酸素を上げることと、Mn濃度やS濃度を上げることとは、二律背反の関係になっており、これらを両立させることは原理的に困難である。
本発明者らは、こうした状況の下で、MnS系介在物の大型・球状化するための有効な手段について様々な角度から検討した、MnS中に平均で0.4%以上となるOが含有されると、必ずしもフリー酸素濃度を高めなくても(即ち、高Mn、高S濃度であっても)、全酸濃度を高めなくても大型・球状化したMnS系介在物が多数生成でき、これによって鋼材の仕上げ粗さを良好にできることが判明したのである。
MnS中のO濃度を0.4%以上にするには、鋼中の固溶Siを0.0035%以下(35ppm以下)、且つ固溶Alを0.0001%以下(1ppm以下)にして、鋳片の介在物組成をMnO−SiO―MnS系三元系で規格化したとき(即ち、MnO、SiOおよびMnSの合計で100%としたとき)の平均組成がMnS:60%以下、SiO:4%以下、MnO:36%以上となるように制御すれば良い。尚、MnS中のO濃度は、好ましくは0.6%以上、より好ましくは0.8%以上とするのが良いが、MnS中のO濃度をより高めるためには、更にSiを低減すると良い。
本発明者らの検討したところによれば、鋼中の固溶Nも微小クラックの生成に大きく関与することも判明しており、その量を適切に調整することによって、被削性の良好な快削鋼を実現できるのである。前述の一次せん断域・二次せん断域では、少し場所が異なると、非常に温度が異なる。そして、固溶Nが一定量存在すると、各位置での温度によって変形抵抗が異なるものとなる。この差異が、微小クラックの生成サイトとなるので、固溶Nを固定する成分、即ち窒化物を生成しやすい成分であるTi,Cr,Nb,V,Zr,Bを所定量以下に制御することは、固溶Nを確保する上で有効である。
上記のような2つの現象、即ち(1)MnS系介在物の大型・球状化、(2)固溶Nの増大、等によって構成刃先を安定的に生成させることが可能となり、その大きさや形状を均一化させることを見出し、その結果として鋼材のフォーミング加工における仕上げ面粗さが画期的に向上するものとなり、Pb快削鋼並の特性を発揮できたのである。
本発明の快削鋼では、その化学成分組成も適切に規定する必要があるが、その基本成分であるC,Si,Mn,P,S,Al,OおよびNにおける範囲限定理由は以下の通りである。
C:0.02〜0.15%
Cは、鋼の強度を確保する上で不可欠な元素であり、また所定量以上添加することによって仕上げ面粗さを改善する作用も有する。こうした効果を発揮させるためには0.02%以上含有させる必要がある。しかしながら、過剰に含有させると切削加工時の工具寿命が低下して被削性が悪くなり、また鋳造時のCOガス発生に起因する疵発生を誘発することになる。こうした観点から、C含有量は0.15%以下とするのが良い。尚、C含有量の好ましい下限は、0.05%であり、好ましい上限は0.12%である。
Si:0.004%以下(0%を含まない)
Siは、固溶強化による強度確保に有効な元素であるが、基本的には脱酸剤として作用してSiOを生成する。そしてこのSiOによって、介在物組成がMnO−SiO−MnS系になるのであるが、Siが0.004%を超えると、この介在物中のSiO濃度が高くなって、MnS中のO濃度を確保できなくなり、仕上げ面粗さが劣化することになる。こうした観点から、Si含有量は0.004%以下にする必要があり、好ましくは0.003%以下にするのが良い。
Mn:0.6〜3%
Mnは、焼入れ性を向上させて、ベイナイト組織の生成を促進し、被削性を向上させる作用がある。また強度確保の面でも有効な元素である。更に、Sと結合したMnSを形成し、或いはOと結合してMnOを形成し、MnO−MnS複合介在物を生成し、これによって被削性を向上させる作用がある。これらの作用を発揮させるためには、Mn含有量が0.6%以上とする必要があるが、3%を超えると、強度が上昇し過ぎて被削性が低下することになる。尚、Mn含有量の好ましい下限は1%であり、好ましい上限は2%である。
P:0.02〜0.2%
Pは、仕上げ面粗さを向上させる作用を発揮する。また切り屑中のクラック伝播を容易にすることによって、切り屑処理性を顕著に向上させる作用がある。こうした効果を発揮させるためには、P含有量は少なくも0.02%以上とする必要がある。しかしながら、P含有量が過剰になると、熱間加工性を劣化させるので、0.2%以下とする必要がある。尚、P含有量の好ましい下限は0.05%であり、好ましい上限は0.15%である。
S:0.2〜1%
Sは、鋼中でMnと結合し、MnSとなって切削加工時の応力集中源となり、切り屑の分断を容易にして被削性を高めるために有用な元素である。こうした効果を発揮させるためには、S含有量は0.2%以上とする必要がある。しかしながら、S含有量が過剰になって1%を超えると、熱間加工性の低下を招くことになる。尚、S含有量の好ましい下限は0.3%であり、好ましい上限は0.8%である。
Total.Al:0.005%以下(0%を含まない)
Alは固溶強化による強度の確保および脱酸に有用な元素であるが、強力な脱酸剤として働いて酸化物(Al)を形成することになる。このAlによって、介在物がMnO−Al−MnS系になるのであるが、Al含有量が0.005%を超えると、この介在物中のAl濃度が高くなり、MnS中の酸素濃度が確保できなくなり、仕上げ面粗さが悪化することになる。尚、好ましい上限は0.003%であり、より好ましくは0.001%以下とするのが良い。
O:0.008〜0.03%
Oは、Mnと結合してMnOを生成する。またMnOはSを多く含有し、MnO−MnS複合介在物が形成されることになる。そして、このMnO−MnS複合介在物は、圧延で伸延しにくく、比較的球状に近い状態で存在するので、切削加工時に応力集中源として作用する。このため、Oは積極的に添加するが、0.008%未満ではその効果が小さく、一方0.03%を超えて含有させると、鋼塊にCOガス起因の内部欠陥が発生するようになる。こうしたことから、O含有量は0.008〜0.03%の範囲とする必要がある。尚、鋼中のO含有量の好ましい下限は0.01%であり、好ましい上限は0.03%である。
N:0.002〜0.03%
Nは構成刃先の生成量に影響を与える元素であり、その含有量が仕上げ面粗さに影響を及ぼすことになる。N含有量が、0.002%未満では構成刃先の生成量が多くなり過ぎて仕上げ面粗さが劣化することになる。またNは、組織鋼中の転位上に偏析し易い性質があり、切削時に転位上へ偏析して母材を脆化させ、生成したクラックの伝播を容易にすることで切り屑破断性(切り屑処理性)も向上することになる。しかしながら、N含有量が過剰になって0.03%を超えると鋳造時に気泡(ブローホール)を発生し、鋳塊の内部欠陥や表面疵となり易いので、0.03%以下に抑える必要がある。尚、N含有量の好ましい下限は0.005%であり、好ましい上限は0.025%である。
本発明の低炭硫黄快削鋼においては、上記成分の他(残部)は基本的に鉄からなるものであるが、これら以外にも微量成分を含み得るものであり、こうした成分を含むものも本発明の技術的範囲に含まれる。また、本発明の低炭硫黄快削鋼には、不可避的に不純物(例えば、Cu,Sn,Ni等)が含まれることになるが、それらは本発明の効果を損なわない程度で許容される。
本発明の低炭硫黄快削鋼においては、必要によって、(1)固溶N量を0.002〜0.02%とすることや、(2)Ti,Cr,Nb,V,ZrおよびBよりなる群から選ばれる1種以上を、合計で0.02%以下(0%を含まない)に抑制することも有用であるが、これらの範囲限定理由は下記の通りである。
固溶N量:0.002〜0.02%
上述の如く、鋼中の固溶Nは微小クラックの生成に関与するものであり、その量を適切に調整することによって、被削性の良好な快削鋼を実現できる。こうした効果を発揮させるためには、鋼中の固溶N量を0.002%以上確保するのがよいが、0.02%を超えると疵が増加することになる。
Ti,Cr,Nb,V,ZrおよびBよりなる群から選ばれる1種以上:合計で0.02%以下(0%を含まない)
これらの元素は、Nと結合して窒化物を生成する成分であり、その量が多くなると固溶N量が減してその必要量が確保できなくなる。こうしたことから、これらの成分は合計で0.02%以下に抑制するのが良い。
本発明の低炭素硫黄快削鋼は、鋼中のMnS中の平均酸素濃度を0.4%以上とすることによって、被削性を改善するものであるが、こうした要件を満足させるためには、鋼中の固溶Siを35ppm以下、且つ固溶Alを1ppm以下に制御して、鋳片の介在物組成(非金属介在物)をMnO−SiO−MnS系三元系で規格化したとき(即ち、MnO、SiOおよびMnSの合計で100%としたとき)の平均組成がMnS:60%以下、SiO:4%以下、MnO:36%以上となるように制御すれば良い。尚、対象とする非金属介在物の大きさを、「面積が25μm以上のもの」としたのは、これより小さい非金属介在物では、クラック生成サイトとしての被削性向上効果があまりないからである。
上記のようにして介在物組成を制御すれば、MnS中のO濃度を0.4%以上にできる理由について、図面を用いて説明する。図1は、MnO−SiO−MnS三成分系の1250℃の等温断面状態図である(「鉄と鋼」 Vol.81(1995)No.12,P1109)。尚、図1において、「doubly satd.」とは、表記された2相が飽和していることを意味する。
本発明においては、脱酸力の強いAlやSiを徹底的に低減する結果、凝固した鋳片に認められる介在物は、MnO−SiO−MnS系となるのであるが、鋳片は分塊圧延前に、1250℃程度に加熱保持される。そこで、上記状態図(図1)に、仕上げ面粗さに優れるものと、優れないものをプロットしたところ、被削性に劣る化ものではSiO濃度が高くなって、逆に優れるものではSiO濃度が低くなっていることが判明したのである(後記表1、2のNo.1〜15)。
こうした結果が得られたのは、図1に示すように、本系の状態図は、SiOが多くなるとMnS飽和領域がせり出してくる形をしているので、SiOが多い場合(SiOが4%以上)は、1250℃保持中に純粋なMnS(即ち、Oを含まないMnS)が多く生成することになる。その結果、MnS中のO濃度が高くならない。
一方、MnO−SiO−MnS介在物組成が上記の介在物組成範囲内であれば、状態図上の液相介在物若しくはMnO飽和領域となり、MnS中のO濃度が高くなる(即ち、0.4%以上)ものと考えられる。その結果、分塊圧延前の加熱保持中にMnS中のO濃度が高くなり、その後の分塊圧延、棒鋼圧延、線材圧延においても、MnSが変形しにくく、大型で球状化したMnSを含有する製品を得ることができる。
発明の低炭素硫黄快削鋼を製造するに当っては、基本的には連続鋳造法によって、鋼中の固溶Siを35ppm以下、且つ固溶Alを1ppm以下に制御すれば良く、こうした製造法を採用することによって、生産性を高めることができる。但し、その製造方法は連続鋳造法に限らず、造塊法によっても製造することができる。
連続鋳造法を採用するときの具体的な製造手順は、例えば次のようにすれば良い。まず、転炉でCを吹き下げ、C濃度を0.04%以下として溶鋼中のフリー酸素(溶存酸素)の高い状況を作り出す。このときのフリー酸素は500ppm以上であることが好ましい。次いで、この溶鋼を出鋼する際に、Fe−Mn合金やFe−S合金等の合金を添加する。これらの合金は、不純物としてSiやAlを含有するが、転炉出鋼時の高酸素溶鋼にこれらを添加することによって、SiやAlが酸化され、SiOやAlとなり、またその後の溶鋼処理時にこれらが浮上分離し、スラグ中に入ることで、鋼中に残留するSiやAlは低減して目標とする濃度となる。この処理においては、成分調整のために添加するFe−Mn合金やFe−S合金等の70%以上を転炉出鋼時に添加して、Al,Siを低減し、溶鋼処理時に残りの30%以下を添加することが重要である。こうした、手順を踏むことによって、不純物であるAlやSiが系外に出やすくなり、目標とする固溶Siや固溶Alを得ることができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
3t規模の誘導炉、100tの転炉および取鍋等による溶鋼処理設備を使用して、Si,Mn,S,Al,N等の含有量を変化させて各種溶鋼を溶製した。このとき、SiおよびAlについては、添加するFe−Mn合金およびFe−S合金中のSi濃度およびAl濃度を変化させることによって調整した。このようにして得られた溶鋼を所定の鋳型に鋳造する直前に、フリー酸素プローブ(商品名「HYOP10A−C150」ヘレウスエレクトロナイト社製)を用いて測定し、フリー酸素濃度とした。
また溶鋼は、断面が300mm×430mmのブルーム連続鋳造か、或いは3t規模誘導炉の場合には、ブルーム鋳片と同様の冷却速度となるように設計した、鋳鉄製の鋳型(断面サイズ:300mm×430mm)を用いて鋳造した。
得られた鋳片(若しくは鋳塊)の表面近傍の急冷部からサンプリングし、化学分析を実施し、成分組成を測定した。その結果を、下記表1に示す。
Figure 2007107078
得られた鋳片について、1270℃で1時間加熱後分塊圧延(断面サイズ:155mm×155mm)し、その後25mmφまで圧延、酸洗して、22mmφの磨棒とし、切削試験に供した。このとき、圧延は1000℃で実施し、強制冷却により800℃から500℃までの平均冷却速度を約1.5℃/秒とした。また鋼材温度の測定は放射温度計により行った。
各鋼材について下記の方法によって、介在物組成(酸化物組成)、MnS中の平均O濃度、固溶Al、固溶Si、固溶Nを測定すると共に、下記の条件によって切削試験をおこなった。
[介在物組成の測定]
凝固後の鋳片断面(430mm×300mm)のD/4部(300mm幅の中心線において、表面から108mm部分)を研磨し、100mm(10mm×10mm)の領域内に存在する面積が25μm以上の酸硫化物を、EPMAにより組成分析を実施した。1視野(100mm)当り、200〜300個の硫化物を測定した。その結果を酸化物、硫化物換算した結果、主成分はMnS、MnO、SiO、FeOが検出されたが、FeOはマトリクスである鋼を材検出している可能性もあるため、MnO−SiO−MnSの三元系で規格化(3成分で100%となるように規格化)して平均組成を求めた。
[MnS中の平均O濃度]
画像解析装置によって、面積が25μm以上MnSを選択し、このMnSについてSEM−EDXによって平均O濃度を測定した。
[固溶Si、Al測定方法]
分析には、ims5f型二次イオン質量分析装置(CAMECA社製)を用い、以下の手順で分析を行った。各試料(試験片)について、500×500(μm)の領域でAl,Siに二次イオン像を観察し、その領域内でAl,Siが濃化していない場所を3箇所選び、下記の条件で深さ方向分析を行った。このとき、分析対象元素のSiは、電気的に陰性な元素であるので、Csイオンを照射して負イオンを検出した。はじめに試料面におけるSiの二次イオン像を観察し、Siが濃化していない領域を選択した深さ方向分析を行った。測定された二次イオン強度から濃度への変換は28Siをイオン注入した純鉄から求めた感度係数を用いて行った。AlはO イオンを照射して検出した。詳細な条件は下記の通りである。
一次イオン条件:Alの分析 O ,8eV,100nA
Siの分析 Cs,14.5eV,25nA
照射領域 :80×80(μm)
分析領域 :8μmφ
二次イオン極性:Alの分析 正
Siの分析 負
試験室真空度 :1.2×10−7Pa
スパッタ速度 :Alの分析 純鉄換算で約32.0Å/秒
Siの分析 純鉄換算で約36.6Å/秒
電子線照射 :なし
[固溶Nの測定]
固溶Nは、トータルN(不活性ガス融解熱伝導度法)と化合物N(10%アセチルアセトン+1%テトラメチルアンモニアクロリド+メタノール溶液にて溶解抽出、1μmフィルターで採取→インドフェノール吸光光度計)の差によって求めた。
切削試験条件は、下記の通りである。また、切削試験後の仕上げ面の評価および鋼片の表面疵の評価基準は下記の通りである。
[切削試験条件]
工具 :高速度工具鋼SKH4A
切削速度:100m/分
送り :0.01mm/rev
切込み :0.5mm
切削油 :塩素系の不水溶性切削油剤
切削長さ:500m
[評価基準]
仕上げ面評価:JIS B 0601(2001)に基づく、最大高さRzによ
って、表面粗さを評価した。
表面疵評価:分塊圧延した鋼片(断面サイズ:155mm×155mm)につい
て、表面疵の有無について調査し、目視検査によりグラインダによる手入れの必要性がないときを、表面疵「無し」と評価した。
切削試験結果を、介在物組成(酸化物組成)、MnS中の平均O濃度、固溶Al、固溶Si、固溶Nの測定値と共に、下記表2に示す。
Figure 2007107078
これらの結果から、明らかなように、本発明で規定する要件を満足するもの〈試験No.1〜15〉では、切削仕上げ面粗さ(最大高さRz)が微細になっており、良好な被削性が発揮できていることが分かる。
これに対して、本発明で規定する要件のいずれかを欠くもの(試験No.16〜23では、いずれかの特性が劣化していることが分かる。
また、上記結果に基づき、MnS中のO濃度と切削仕上げ面粗さ(最大高さRz)の関係を図2に、固溶Si濃度と切削仕上げ面粗さ(最大高さRz)の関係を図3に、固溶Al濃度と切削仕上げ面粗さ(最大高さRz)の関係を図4に、介在物中のSiO濃度と切削仕上げ面粗さ(最大高さRz)の関係を図5に、固溶N濃度と切削仕上げ面粗さ(最大高さRz)の関係を図6に示す。
MnO−SiO−MnS三成分系の1250℃の等温断面状態図である。 MnS中のO濃度と切削仕上げ面粗さ(最大高さRz)の関係を示すグラフである。 固溶Si濃度と切削仕上げ面粗さ(最大高さRz)の関係を示すグラフである。 固溶Al濃度と切削仕上げ面粗さ(最大高さRz)の関係を示すグラフである。 介在物中のSiO濃度と切削仕上げ面粗さ(最大高さRz)の関係を示すグラフである。 固溶N濃度と切削仕上げ面粗さ(最大高さRz)の関係を示すグラフである。

Claims (5)

  1. C :0.02〜0.15%(質量%の意味、以下同じ)、
    Si:0.004%以下(0%を含まない)、
    Mn:0.6〜3%、
    P :0.02〜0.2%、
    S :0.2〜1%、
    Al:0.005%以下(0%を含まない)、
    O :0.008〜0.04%
    N :0.002〜0.03%を夫々含有し、且つ、
    鋼中におけるMnS中の平均O濃度が0.4%以上であることを特徴とする被削性に優れた低炭素硫黄快削鋼。
  2. C :0.02〜0.15%、
    Si:0.004%以下(0%を含まない)、
    Mn:0.6〜3%、
    P :0.02〜0.2%、
    S :0.2〜1%、
    Al:0.005%以下(0%を含まない)、
    O :0.008〜0.04%
    N :0.002〜0.03%を夫々含有し、且つ、
    鋼中の固溶Siが35ppm以下、固溶Alが1ppm以下であることを特徴とする被削性に優れた低炭素硫黄快削鋼。
  3. C :0.02〜0.15%、
    Si:0.004%以下(0%を含まない)、
    Mn:0.6〜3%、
    P :0.02〜0.2%、
    S :0.2〜1%、
    Al:0.005%以下(0%を含まない)、
    O :0.008〜0.04%
    N :0.002〜0.03%を夫々含有し、且つ、
    凝固後の鋳片において、面積が25μm以上の非金属介在物を、MnO−SiO−MnS系の三元系で規格化したときの平均組成が、MnS:60%以下、SiO:4%以下、MnO:36%以上であることを特徴とする被削性に優れた低炭素硫黄快削鋼。
  4. 固溶N量が0.002〜0.02%である請求項1〜3のいずれかに記載の低炭素硫黄快削鋼。
  5. Ti,Cr,Nb,V,ZrおよびBよりなる群から選ばれる1種以上を、合計で0.02%以下に抑制したものである請求項4に記載の低炭素硫黄快削鋼。
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