JP4516203B2 - 冷間引き抜き加工後の真直性に優れた鋼材 - Google Patents

冷間引き抜き加工後の真直性に優れた鋼材 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、産業機械などで用いられる高精度、高速搬送用ローラのうち、印刷機や複写機で用いられる各種紙送りローラや紙幣送りローラ等の送給、排紙ローラ軸に使用される線材や棒鋼等の鋼材、およびその製造方法に関するものであり、殊に冷間引き抜き加工後の真直性に優れた鋼材、およびこうした鋼材を製造する為の有用な方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、複写機や印刷機の高速化や多色刷り化(カラー化)が進められるに伴って、高い紙送り精度が重要視される様になっており、こうしたことから上記産業機械で用いられる送給、排紙ローラにも高い精度が望まれている。
【0003】
上記の様な送給、排紙ローラを製造するに当たっては、まず線状圧延鋼材を冷間引き抜き加工および矯正した棒鋼を、所定に長さに切断してローラ軸部である丸棒が作製されるが、こうした製造方法においてローラ軸部の紙送り精度を高めるためにこれまで様々な技術が提案されている。
【0004】
こうした技術の一つとして、例えば特開平11−20962号には、金属製丸棒円周面に塑性加工によって複数のスパイク状突起を形成することで、紙とのグリップ性を高めて紙送り精度を高めることが開示されている。また特開平10−329971号には、金属製丸棒表面にアルミナや炭化珪素等の砥粒を固着することによって紙とのグリップ性を高めて紙送り精度を高める技術が提案されている。更に、特開平8−301496号には、金属製丸棒表面をゴムで覆うことによって、紙とのグリップ性を増加させて精度の高い送給性が達成されることが示されている。
【0005】
しかしながらこれまで提案されている上記各技術は、いずれもその表面性状を調整するという観点からなされたものであり、その素材となる丸棒の特性について検討したものではない。即ち、紙送り精度を高めるためには、そもそもローラ軸部に用いられる丸棒が真っ直であること、換言すれば冷間引き抜き加工後の真直性が高いことが基本的に重要な特性となるのであるが、こうした観点から検討された技術はこれまで殆ど提案されていないのが実状である。こうした技術として、わずかに特開平4−168244号には、機械構造用鋼中の窒素をAlによってAlNとして固定し、固溶窒素を低減することによって真直性を向上させる技術が提案されているのみである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこの様な状況の下でなされたものであり、その目的は、送給、排紙ローラで問題となっている高い紙送り精度を達成するために必要なローラ軸部の真直性(冷間引き抜き加工後の真直性)を改善した鋼材、およびこの様な鋼材を製造するための有用な方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成し得た本発明の鋼材とは、フェライト結晶粒度がJIS G 0552による粒度番号で11.0番以下であり、且つNの含有量が0.01%以下である点に要旨を有するものである。
【0008】
本発明の鋼材は主に各種快削鋼を対象とするものであるが、その基本的な化学成分組成としては、C:0.15%以下(0%を含まない)、Si:0.05%以下(0%を含む)、Mn:0.3〜2%、P:0.2%以下(0%を含む)、S:0.08〜0.5%、Al:0.05%以下(0%を含む)を夫々含有するものが挙げられ、これによって鋼材に被削性を具備することができる。
【0009】
また本発明の鋼材には、必要によって、Pb:0.4%以下(0%を含まない)、Bi:0.4%以下(0%を含まない)、Te:0.2%以下(0%を含まない)、Se:0.3%以下(0%を含まない)、Sn:0.4%以下(0%を含まない)およびIn:0.4%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含有することも有効である。
【0010】
一方、本発明の鋼材を製造するに当たっては、800℃以上の温度で熱間加工を終了した後、800〜600℃の温度範囲を冷却速度3.0℃/秒以下で冷却する様にすれば良い。
【0011】
【発明の実施の形態】
圧延鋼材を冷間引き抜き加工および矯正して得られた磨き棒鋼に曲がりが生じる主な原因は、冷間加工後の磨き棒鋼表層部に残存する残留応力に起因していると考えられた。そこで本発明者らは、上記の様な残留応力を低減するという観点から検討した。その結果、残留応力を低減する為には鋼材の加工硬化率を小さくすることが有効であり、その為にはフェライト結晶粒径を適正値にすると共に、窒素含有量を低減すれば良いことを見出し、本発明を完成した。
【0012】
送給、排紙ローラ軸用に使用される圧延鋼材には、コイル状に巻かれた線材を使用するので、コイル状に丸まった圧延鋼材内側表層部は、圧延鋼材中心部(軸心部)に比べて縮んでいる。例えば図1に示す様に、中心線長さをS、内側表層部の縮んでいる長さをεとすると(即ち、内側表層部の長さはS−ε)、外側表層部は長さεだけ伸びていることになる(即ち、外側表層部の長さはS+ε)。そして、こうした状態の圧延鋼材を延ばして冷間引き抜き加工し、塑性変形してLだけ伸びた棒鋼が得られたとしても、もともと内側表層部と外側表層部には、下記(1)式で示される量の伸びの差(2ε)が存在することになる(図2)。
(S+ε+L)−(S−ε+L)=2ε ……(1)
【0013】
従って、冷間引き抜き加工で塑性変形→弾性回復した引き抜き棒鋼の表層部には、上記した伸びの差(2ε)に起因する残留応力が生じる為に、引き抜き棒鋼に曲がりが発生するのである。そして、この様な引き抜き棒鋼を矯正機にかけて磨き棒鋼にして曲がり量を低減したとしても、鋼材の真直性を改善するための根本的な解決手段にはなり得ないのである。
【0014】
こうしたことから、上記の課題を解決するための手段としては、応力−歪み曲線の塑性変形領域の傾きdε/dσを小さくし、2εに起因する応力をできるだけ低く抑えることが肝要である。言い換えれば、加工硬化率をできるだけ小さくすることが必要である。そしてその為には、まずフェライト結晶粒径を大きくすること(フェライト結晶粒度番号を小さくすること)が重要であり、またその第2の手段として加工硬化率増大を引き起こす成分である窒素を鋼材中から極力抑制することが重要であることを見出したのである。
【0015】
本発明の鋼材は、上述した観点からフェライト結晶粒度をJIS G 0552による粒度番号で11.0番以下、Nの含有量を0.01%以下に規定したものであるが、これらの範囲限定理由は下記の通りである。
【0016】
フェライト結晶粒度:JIS G 0552による粒度番号で11.0番以下フェライト結晶粒度(フェライト粒径)は、加工硬化率を低下させるのに有効なパラメータであり、フェライト結晶粒度番号が11.0番を超えると加工硬化率が高くなり過ぎて、冷間引き抜き加工並びに矯正後磨き棒鋼の曲がり量が大きくなってしまう。尚、フェライト結晶粒度番号の好ましい上限値は、9.8番である。
【0017】
図3は、フェライト結晶粒度番号と真直性合格率の関係を示したグラフである。ここで真直性合格率とは、曲がり量50μm以下の鋼材の割合を合格としてパーセントで表したものである。この図3から明らかな様に、フェライト結晶粒度番号が11.0以下で合格率90%を達成しており、9.8番以下でほぼ100%の合格率が得られていることが分かる。
【0018】
N:0.01%以下
本発明者らが、冷間加工並びに矯正を行なった磨き棒鋼の曲がり量と鋼中の固溶N量[N]の関係について調べたところ、鋼中の固溶[N]が多いほど磨き棒鋼の曲がり量が大きくなることが判明したのである。鋼中の固溶[N]の多量な存在は、鋼材の加工硬化を増大させるので、コイル状に巻かれた鋼材を冷間引き抜き加工すると、表面加工によって鋼表層部円周方向各部位で大きく異なった残留応力が生じ、冷間引き抜き加工後に矯正加工を施しても曲がりが多く残留する要因となると考えられる。この様な磨き棒鋼の曲がりを残存させないためには、鋼中に含まれる固溶[N]は極力低減させる必要がある。本発明ではこうした観点から、鋼中のN含有量を0.01%以下と規定した。尚、N含有量は好ましくは0.008%以下とするのが良く、この範囲とすることによって本発明の効果が最大限に達成される。
【0019】
図4は、鋼中のN含有量と真直度合格率(合格率の評価は上記の通り)の関係を示したグラフである。この図4から明らかな様に、N含有量が0.01%以下で合格率90%を達成しており、0.008%以下でほぼ100%の合格率が得られていることが分かる。
【0020】
本発明の鋼材は主に各種快削鋼を対象とするものであるが、その基本的な成分であるC,Si,Mn,P,S,Alの好ましい範囲およびその理由は下記の通りである。
【0021】
C:0.15%以下(0%を含まない)
Cは、所定の強度を付与して切削後の表面性状(仕上げ面粗さ)を良好にするのに有効な元素である。しかしながら、過剰に含有させると硬くなり過ぎて、工具寿命が悪くなるので、0.15%以下にするのが良い。尚C含有量のより好ましい下限は0.05%であり、より好ましい上限は0.10%である。
【0022】
Si:0.05%以下(0%を含む)
Siはできるだけ少ない方が好ましく、その含有量が過剰になるとフェライトを固溶強化するため加工硬化し、真直性に悪影響を及ぼすことになる。またSi含有量が過剰であると、溶解時の鋼中酸素濃度が低下してMnS中の酸素濃度が低下して、MnSの形態が被削性に不利なものとなり、仕上げ面粗さが粗くなる。こうした観点から、Si含有量は0.05%以下に抑制することが好ましい。尚Si含有量のより好ましい上限は0.03%であり、更に好ましくは0.01%以下とするのが良い。
【0023】
Mn:0.3〜2%
Mnは所定の強度を付与するのに有効な元素であるが、0.3%未満であるとFeSが生成して圧延中に液相が生じるので、割れが生じ易くなる。こうした観点からMn含有量は0.3%以上とすることが好ましいが、切り屑分断性に寄与するMnSを形成する以上にMnを加えると、フェライト固溶によって加工硬化を引き起こし、真直性に悪影響を及ぼすため、S量に合わせて2%以下にするのが良い。尚Mn含有量のより好ましい下限は0.5%であり、より好ましい上限は1.5%である。
【0024】
P:0.2%以下(0%を含む)
Pは加工硬化率を上げるため、Pを含有させると冷間引き抜き加工並びに矯正した磨き棒鋼表面に残留応力が生じ易くなる。また、鋼材の硬さを高めて工具寿命を短くすることから、できるだけ少ない方が好ましい。P含有量が0.2%以下では真直性に対する実質的な悪影響が表れないので、P含有量は少なくとも0.2%以下にするのが良い。尚P含有量のより好ましい上限は、0.1%であり、この範囲ではPによる工具寿命への悪影響は殆ど現れない。
【0025】
S:0.008〜0.5%
Sは、被削性改善の為に添加されるが、0.008%未満では、仕上げ面粗さが粗くなる。S含有量は0.15%以上であることがより好ましいが、S含有量が過剰になって0.5%を超えると、表面疵が多くなってしまう。尚S含有量のより好ましい上限は、0.4%である。
【0026】
Al:0.05%以下(0%を含む)
AlはNをAlNとして固定する為に添加してもよいが、このAlNはピンチ効果として転位の移動を妨げるので、上記固溶[N]よりは小さいとは言え、冷間引き抜き加工および矯正加工を施しても曲がり量に影響を及ぼすことがある。こうした観点から、その含有量は0.05%以下とするのが良い。また、Alの含有量が0.05%を超えて過剰になると、多量のAlNが析出することによる加工硬化増加を招くばかりか、溶解時の鋼中酸素濃度が低下してMnS中の酸素濃度が低下するので、MnSの形態が被削性に不利なものとなって、仕上げ面粗さが粗くなる。尚Al含有量のより好ましい上限は0.01%であり、更に好ましくは0.005%以下とするのが良い。
【0027】
本発明の鋼材として快削鋼を適用した場合の基本的な化学成分組成は上記の通りであり、残部は実質的にFeからなるものであるが、必要によって、Pb,Bi,Te,Se,SnおよびInよりなる群から選択される1種以上を添加することも有効であり、これらはいずれも被削性向上に寄与する。これらを添加するときの各成分の範囲限定理由は下記の通りである。
【0028】
Pb:0.4%以下(0%を含まない)
Pbは被削性改善の為に添加されるが、Pb含有量が過剰になって0.4%を超えると熱間加工性が悪くなり、圧延材の表面疵が多くなってしまう。尚Pb含有量の好ましい上限は0.3%である。
【0029】
Bi:0.4%以下(0%を含まない)
Biも鋼の被削性を向上させるのに有効な元素であるが、Biを過剰に含有させて0.4%を超えると熱間加工性が悪くなり、圧延材の表面疵が多くなってしまう。尚Biの好ましい上限は0.3%である。
【0030】
Te:0.2%以下(0%を含まない)
TeはSと共にMnとの化合物Mn(Te,S)を形成し、被削性を向上させる元素であるが、Teの含有量が0.2%を超えると熱間加工性が低下し、圧延材の表面疵が生じてしまう。尚Teの好ましい上限は0.15%である。
【0031】
Se:0.3%以下(0%を含まない)
SeはSと共にMnとの化合物Mn(Se,S)を形成し、被削性を向上させる元素であるが、Seの含有量が0.3%を超えると高温硬度が高くなってかえって被削性が低下してしまう。尚Seの好ましい上限は0.2%である。
【0032】
Sn:0.4%以下(0%を含まない)
Snも被削性改善の為に有効な元素であるが、Snの含有量が過剰になって0.4%を超えると熱間加工性が悪化し、圧延材の表面疵が多くなってしまう。尚Snの好ましい上限は0.3%である。
【0033】
In:0.4%以下(0%を含まない)
Inも被削性改善の為に有効な元素であるが、Inの含有量が過剰になって0.4%を超えると熱間加工性が悪化し、圧延材の表面疵が多くなってしまう。尚Inの好ましい上限は0.3%である。
【0034】
本発明の鋼材には、上記成分以外にもCr,Ni,V,Ti,Nb等を含有させることも有効であり、これらは高強度化に寄与するが、これらの元素を含有させるときには真直性および工具寿命の観点から各々1%以下とすることが好ましい。
【0035】
尚本発明の鋼材には、上記の各種成分以外にもその特性を阻害しない程度の微量成分を含み得るものであり、こうした快削鋼も本発明の技術的範囲に含まれるものである。こうした微量成分としては、B,O等の許容成分や、Cu,Ca,Mg,As,希土類元素等の不純物、特に不可避的不純物が挙げられる。
【0036】
一方、本発明の鋼材を製造するに当たっては、800℃以上の温度で熱間加工を終了した後、800〜600℃の温度範囲を冷却速度3.0℃/秒以下で冷却する様にすれば良いが、この製造方法における各要件の規定理由は次の通りである。
【0037】
まず、熱間加工終了温度(熱間圧延仕上げ終了温度)が800℃未満では、冷却しても所望のフェライト結晶粒を得ることができない。こうしたことから本発明方法では、少なくとも熱間加工終了温度を800℃以上となる様に調整する必要があるが、フェライト結晶粒度番号を9.8番以下とする為には、好ましくは熱間加工終了温度を850℃以上とするのが良い。
【0038】
また、本発明ではフェライト結晶粒を大きくする為には、熱間加工後に800〜600℃の温度範囲を冷却速度3.0℃/秒以下で冷却する必要がある。このときの冷却速度が3.0℃/秒を超えると、フェライト結晶粒が大きくならず、冷間引き抜き加工および矯正後の磨き棒鋼の曲がり量が大きいままである。こうした観点から、上記冷却速度は3.0℃/秒以下となる様に調整する必要があるが、フェライト結晶粒度番号を9.8番以下とする為には、上記冷却速度は好ましくは1.9℃/秒以下とするのが良い。尚、冷却速度3.0℃/秒以下で冷却する温度範囲を800〜600℃としたのは、この温度域に存在するγ/α変態点近傍の冷却速度がフェライト粒粗大化に大きな影響を与えるからである。
【0039】
以下本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0040】
【実施例】
下記表1,2に示す化学成分組成の各種快削鋼を準備し、これらを下記表3,4に夫々示す熱間圧延仕上げ温度で圧延を終了すると共に、800〜600℃の温度範囲を各種冷却速度で冷却して9.5mmφの供試材とした。
【0041】
【表1】
Figure 0004516203
【0042】
【表2】
Figure 0004516203
【0043】
得られた供試材について、フェライト結晶粒度番号および真直性について調査した。このときフェライト結晶粒度番号は、各圧延材から任意に10箇所抜き取ったサンプルの横断面を、表層部から中心方向で直径の1/4深さ入った領域の粒度をJIS G 0552に準拠して測定し、その平均値を求めたものである。
【0044】
固溶[N]量は、次の様にして測定される。まず、化学分析によって鋼中N量▲1▼を測定する。次に、抽出残渣法によってAlNの量を分析してAlと結合しているN量▲2▼を求める。それらの差(▲1▼−▲2▼)が固溶[N]量となる。ここで、固溶[N]量と鋼中のN含有量との関係を実験で調べてみると、図5に示す様に、それらの間には直線的な対応関係があるが分かった。従って、磨き棒鋼の曲がりを残存させないための条件として、固溶[N]量の代りに鋼中のN含有量で規定しても良いことが分かる。尚、上記残渣法でAlN量を分析するに当たっては、まず10%のアセチルアセトン系電解液を用いて鋼材を溶かし、得られた溶液をメッシュサイズ0.2μmのフィルターで吸収濾過して残渣を抽出した。この残渣を用いて中和滴定法でAlNを定量した。
【0045】
次に、真直性については、前述した真直度合格率によって評価したが、この真直度合格率は次の手順で算出した。まず9.5mmφの供試材から、8.0mmφの磨き棒鋼を作製した。このときの矯正は、伸線に引き続き2ロール矯正機を使用して行なった。次に、磨き棒鋼を500mm長さに切断後、スパン400mmのVブロック上に置いて回転させることで、中央部に配した変位測定用レーザによって磨き棒鋼の曲がりを測定した。
【0046】
このとき、磨き棒鋼が曲がっていれば、磨き棒鋼の回転につれて前記中央部に変位が生じるので、変位測定用レーザの検出値は一定とならない。そこで、磨き棒鋼を数回転させる間のその検出値の最大値から最小値を差し引いた値を磨き棒鋼の変位量として求め、その変位量をここでは曲がり量と定義した。測定本数は各磨き棒鋼から任意に100本ずつ行ない、曲がり量50μm以下のものを合格としてその割合とパーセントで求めた。また得られた圧延材の表面状態と磨き棒鋼被削性の評価は、下記の様にして行なった。これらの結果を、下記表3,4に一括して示す。
【0047】
(圧延材の表面状態)
表面疵等が無ければ○、有れば×と評価した。
(磨き棒鋼被削性)
下記の切削試験(旋削加工)条件で切削加工した後、仕上げ面粗さで良否(○、×)を評価した。
工 具 :P10
切削速度:150m/min
送 り :0.05mm/rev
切り込み:2.0mm
【0048】
【表3】
Figure 0004516203
【0049】
【表4】
Figure 0004516203
【0050】
これらの結果から、次の様に考察できる。A1〜A6は、N含有量を変えた結果を示したものである。このうちA1〜A4は、N含有量が本発明で規定する範囲を満足するものであるので、真直度合格率で92%以上が得られている。これに対し、N含有量が本発明で規定する範囲を超えるA5(N:0.0125%)では、加工硬化による曲がり量が大きく真直合格率が74%となっており、また同じくA6(N:0.0151%)に関しては真直合格率が63%にしかなっていない。
【0051】
B1〜B21は、フェライト結晶粒度を変えた結果を示したものである。このうち本発明で規定するフェライト結晶粒度番号を大きく上回るB1では、真直度合格率が53%しか得られなかった。これは、結晶粒径が小さくなり過ぎて、加工硬化が大きくなった為と考えられる。また、B2,B9〜B11,B16,B17,B19およびB20は、本発明で規定するフェライト結晶粒度番号を上回っていたので、真直度合格率は90%未満になっていた。
【0052】
これに対し、B3〜B8,B12〜B15,B18およびB21では、フェライト結晶粒度番号が11.0番以下となっており、真直度合格率が90%以上であり、特にB3〜B5,B12〜B15およびB18では、フェライト結晶粒度番号が9.8番以下となっている為、真直度合格率がほぼ100%近くまで達していた。
【0053】
C1〜C4は、Si含有量を変えた結果を示したものである。Siはフェライトの固溶強化を引き起こす為に、Si含有量が本発明の好ましい上限値である0.05%を超えるC3,C4では、被削性に不利なMnS形態であったため、仕上げ面粗さが粗くなり被削性が低下した。またフェライト中への固溶加工硬化を引き起こしたため、真直度合格率も若干低い値を示した(各々94%、91%)。
【0054】
D1〜D5は、Mn含有量を変えた結果を示したものである。このうちD2,D3およびD4は、Mn含有量が本発明の好ましい範囲内にあるので真直度合格率が90%以上を達成したが、本発明で規定する上限を超えるD5では、MnSが多く析出しているので圧延材表面に疵が多く発生した。また、Mn含有量が本発明の好ましい下限値を下回るD1は、真直度合格率が99%を得たが、圧延時に多量の液相FeSによる表面疵が発生した。
【0055】
E1〜E3は、P含有量を変えた結果を示したものである。本発明の好ましい上限を超えるE3のものでは鋼材硬度上昇よる工具寿命低下により、仕上げ面粗さも劣化した。またフェライト中への固溶加工硬化を起こしたため、真直度合格92%と若干低い値を示した。
【0056】
F1〜F3は、Al含有量を変えた結果を示したものである。Al含有量が本発明の好ましい上限値を超えるF3では、MnSが酸素濃度低下によって被削性に不利な形態を呈したため、仕上げ面粗さが粗くなった。また多量のAlN粒の析出により加工硬化を引き起こたため、真直度合格率も93%と若干低い値を示した。
【0057】
G1〜G7は、Pb添加による影響を調べたものであるが、Pb含有量が本発明の好ましい上限値の0.4%以下であるG1〜G5のものは、真直度合格率が97%以上を得ることができた。しかしながら、N含有量が本発明で規定する0.01%を超えるG6(N:0.0129%)では、真直合格率が70%しか得られなかった。また、フェライト結晶粒度番号が本発明で規定する11番を超えるG7(結晶粒度番号:12.3番)では、真直度合格率が56%しか得られなかった。
【0058】
H1〜H6は、Bi含有量を変えた結果を示したものである。Bi含有量が本発明の好ましい上限値の0.4%以下であるH1〜H4では、真直度合格率が99%以上を得ることができた。しかしながら、N含有量が本発明で規定する0.01%を超えるH5(N:0.0159%)では、真直度合格率が59%であった。また、フェライト結晶粒度番号が本発明で規定する11番を超えるH6(結晶粒度:12.4番)では、真直度合格率が51%しか得られなかった。
【0059】
J1〜J18は、各種快削元素(Pb,Bi,Te,Se,Sn,In)を含有させた結果を示したものである。このうち本発明で規定する範囲内でこれらの元素を含有させたJ1,J4,J5,J6,J9,J10,J11,J14〜J18では、真直度合格率90%以上が確保できたが、N含有量が本発明で規定する0.01%を超えるJ2(N:0.0177%)、J7(N:0.0182%)およびJ12(N:0.0189%)では、N固溶による加工硬化率増加によって真直度合格率が夫々55%,52%および58%であった。また、フェライト結晶粒度番号が本発明で規定する11番を超えるJ3(結晶粒度番号:12.4番)、J8(結晶粒度番号:12.3番)およびJ13(結晶粒度番号:12.4番)では、真直合格率が夫々52%,50%および54%と低い値に留まった。
【0060】
K1〜K5は、Cr,Ni,Ti,Nb,V等の元素を含有させた結果を示したものであるが、いずれも真直度合格率が96%以上の高い値を示していた。
【0061】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、送給、排紙ローラで問題となっている高い紙送り精度を達成するために必要なローラ軸部の真直性(冷間引き抜き加工後の真直性)を改善することのできる鋼材が実現できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】コイル状圧延材の内側表層部と外側表層部の長さの差を説明する為の図である。
【図2】引き抜き、矯正した磨き棒鋼に残存する歪み量を示した概略説明図である。
【図3】フェライト結晶粒度番号と真直度合格率との関係を示したグラフである。
【図4】鋼中Nの含有量と真直度合格率との関係を示したグラフである。
【図5】鋼中N量と固溶[N]量との関係を示したグラフである。

Claims (3)

  1. C:0.15%(質量%の意味、以下同じ)以下(0%を含まない)、Si:0.05%以下(0%を含む)、Mn:0.3〜2%、P:0.2%以下(0%を含む)、S:0.08〜0.5%、Al:0.05%以下(0%を含む)を夫々含有すると共に、Nの含有量が0.01%以下であり、残部がFeおよび不可避的不純物であり、且つフェライト結晶粒度がJIS G 0552による粒度番号で7.6〜11.0番であることを特徴とする冷間引き抜き加工後の真直性に優れた鋼材。
  2. 更に、Pb:0.4%以下(0%を含まない)、Bi:0.4%以下(0%を含まない)、Te:0.2%以下(0%を含まない)、Se:0.3%以下(0%を含まない)、Sn:0.4%以下(0%を含まない)およびIn:0.4%(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項に記載の鋼材。
  3. 請求項1または2に記載の鋼材を製造するに当たり、800℃以上の温度で熱間加工を終了した後、800〜600℃の温度範囲を冷却速度0.5〜3.0℃/秒で冷却することを特徴とする冷間引き抜き加工後の真直性に優れた鋼材の製造方法。
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