JP4737606B2 - 変寸抑制特性および耐カジリ性に優れた冷間ダイス鋼 - Google Patents

変寸抑制特性および耐カジリ性に優れた冷間ダイス鋼 Download PDF

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本発明は、金型材料、特に家電、携帯電話や自動車関連部品を成形する金型材料に適した冷間ダイス鋼に属する。
従来、冷間ダイス鋼にはJIS SKD11が多用されているが、一部ではこれに対して、新たに被削性、靭性、二次硬化硬さを向上させる試みがなされている。例えば、C,Crの添加量を調整することでSKD11のマトリックス(基地)組成を極力維持しながら未固溶炭化物を減らし、被削性や靭性を改良した10%CrSKD(特許文献1参照)と呼ばれるもの、SKD11のマトリックス組成を極力維持しながら未固溶炭化物量を減らした上に、更にMo量を高めることで二次硬化能を高めた8%CrSKD(特許文献2参照)と呼ばれるものがある。
特開平11−279704号公報 特開平01−011945号公報
上述の手法は、冷間ダイス鋼に求められる諸特性を向上するのに有効なものである。しかし、これらはいずれも焼戻し時に生じる変寸が大きいところに課題があり、つまり、焼戻しの二次硬化領域にて発生する膨張量が大きいことから、熱処理後の加工工数の増加に繋がるものである。
この焼戻し時の膨張変寸の発生は、先に施された焼入れ時の残留応力の解放(残留オーステナイトの分解)が原因であって、これは、従来、二次硬化を期待して添加されるMo等が形成する焼戻し炭化物の析出により促進されるものである。また、残留オーステナイトは、造塊時に形成され、もとより存在する未固溶の一次炭化物によって拘束されれば、その焼戻し時の分解は抑制されるが、一次炭化物は被削性の劣化要因となることから低減することが好ましく、これによってやはり残留オーステナイトの分解は促進され、変寸は助長される。
近年、金型加工業においては、加工技術の発達により、熱処理前の加工工数こそ激減してはいるが、熱処理後の加工、調整の工数は以前よりあまり変化しておらず、特にこの熱処理後の工程改善が急務となっている。そこで本発明は、焼入れ、焼戻し時に発生する変寸を抑制することで、金型製作工数を依然として引き上げていた熱処理後の加工、調整工程を削減でき、加えて耐カジリ性にも優れることから、特に金型材料に適した冷間ダイス鋼を提供するものである。
まず、本発明者らは、冷間ダイス鋼の焼戻し時において、その求められる諸特性の全てを維持するためには根本的な抑制が難しい変寸を、逆に相殺手段を検討することで抑制する手法について検討した。加えて、焼戻し時のマトリックスに起こる組織状態を詳細に調査し、焼戻し炭化物そのものには二次硬化への寄与度が薄いことも突きとめた。そして、変寸を抑制できかつ、硬度も上昇できる新たな手段を見いだしたことに加え、その組織中の炭化物分布をも見直したことで、耐カジリ性およびその他の特性をも十分に備えた冷間ダイス鋼を達成できる手段を突きとめ、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、質量%で、C:0.7〜1.6%未満、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、P:0.05%未満(0%を含む)、S:0.01〜0.12%、Cr:7.0〜13.0%、MoまたはWの1種あるいは2種を(Mo+W/2):0.5〜1.7%、V:0.7%未満(0%を含む)、Ni:0.3〜1.5%、Cu:0.1〜1.0%、Al:0.1〜0.5%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物で構成される冷間ダイス鋼であって、その断面組織中に観察される炭化物分布は、円相当径で5.0〜10.0μmの炭化物が面積率で0.5%以下、5.0μm未満の炭化物が面積率で3.0%以上の変寸抑制特性および耐カジリ性に優れた冷間ダイス鋼である。
好ましくは、質量%で、Ni/Al:1〜3.5を満たす上記の冷間ダイス鋼であり、あるいはさらに、質量%で、(Cr−4.2×C):5以下かつ、(Cr−6.3×C):1.4以上の関係を満たす冷間ダイス鋼である。また、0.3%以下のNbを含有することも望ましい。
本発明であれば、熱処理変寸および変形が少なくなるため、熱処理後の手直しによる仕上げ加工が低減/省略できることから、金型製造のコスト低減が可能になる。さらに、金型製作の納期短縮や、より複雑な形状の金型の熱処理にも対応の可能性が広がることに加え、耐カジリ性にも優れるため、産業上極めて有益な技術となる。
本発明の特徴は、冷間ダイス鋼に求められる諸特性の維持に係り根本的な抑制が難しい変寸を、逆に相殺することで抑制する手法を採用したところにある。しかも、その熱処理硬化挙動を詳細に見直すことで突きとめた、二次硬化能の不足についても、変寸の抑制と同時にその二次硬化能をも補う手段であって、その結果、被削性や耐摩耗性といった他の必要特性をも阻害せずに、優れた変寸抑制特性と高硬さを達成できる手段を見いだしたところにある。
すなわち、本発明は、一次炭化物を低減し、諸特性を満足できる範囲で、できるだけ変寸の発生を抑制し得る成分組成を基に、適正量のNi,Alを添加し、しかも、それに応じた適正量のCuをも添加した、変寸制御特性および高硬度特性に優れた冷間ダイス鋼である。
本発明のNi,Alは、それらが金属間化合物を形成し、上記工具鋼の二次硬化領域での焼戻し時(時効時)に析出することで、収縮方向の変寸に働くことから、残留オーステナイトの分解による上記の膨張を相殺することができる。そして、このNi−Al系金属間化合物を工具鋼の二次硬化領域温度でこそ析出させることが、上記の相殺効果を発揮する上で重要であって、そのための作用効果を有するCu量の調整も適正に行なうものである。
さらに、本発明者らは、特に膨張変寸の問題が多発する、残留オーステナイトの分解と焼戻し炭化物の析出する高温焼戻し時の熱処理において、そのマトリックスがどのような組織変化を呈しているのかを、透過型電子顕微鏡による観察を利用して詳細に調査した。その結果、変寸を促進する焼戻し炭化物については、耐摩耗性の向上にこそ大きく寄与するものの、特に二次硬化の寄与要因として従来考えられてきた微細な炭化物の析出はほとんど確認されず、二次硬化の程度はマトリックス側の要因によるところが大きいことを知見した。
本発明が採用するNi−Al系金属間化合物の場合、それらは析出強化元素としての二次硬化作用も有することから、上記の変寸相殺作用に加えて、二次硬化作用をも更に補完し、よって、被削性や耐摩耗性といった他の必要特性を阻害せずに、優れた耐変寸特性と高硬度特性を達成できるのである。
この金属間化合物による析出強化は、従来、マルエージング鋼等への適用が多く見られる手段であるが、0.2(質量%)以上のCを含む工具鋼の分野、特に本発明の対象とするような冷間工具鋼の分野では使用されてこなかった。本発明では、その変寸相殺特性に加えて、工具鋼自体に考えられてきた焼戻し炭化物による二次硬化作用が実は薄いものであることをも知見し、このような金属間化合物の利用にまで着目できたものであるが、それであっても、そのNiやAl個々には工具鋼の要求特性を阻害する作用もあることから、工具鋼の成分組成、そしてCuとの相互かつ適正な合金設計が必要となる。
次に、焼入れ時に発生する変寸について述べると、その程度は焼入れ時のマトリックス中の固溶C量に左右され、すなわち、マルテンサイト組織中に固溶するCによって結晶格子が押し広げられ、膨張するものである。従来鋼の場合は、その焼入れ時の固溶C量がSKD11にならって0.6(質量%)の付近になるように全体の合金設計がされているが、本発明の冷間工具鋼は、その固溶C量を下げ、0.53%付近を目標にした成分設計を行っている。
そして、これをCu,Ni,Alという固溶C量を低下させる元素の添加によっても達成しており、焼入れ時の膨張を抑制する設計則としている。このような固溶C量を達成するに好ましい要件は、本発明の基本組成とCu,Ni,Al量の適正な添加量に加えて、冷間ダイス鋼全体としての添加C,Cr量を(Cr−4.2×C):5以下かつ(Cr−6.3×C):1.4以上に調整することと、これに加えて、後述の、組織中の炭化物分布をも最適に調整することが重要である。
これらをまとめた概念図が図1である。本発明の冷間工具鋼は、SKD11よりも大きな二次硬化が起こるのにも関わらず、より変寸を抑えることが可能なものであることを示している。本発明の要点は、(1)焼入れ時の固溶C量を減少させることと、(2)Cu,Ni,Alの添加により二次硬化時のマトリックスの体積変化を相殺するという2点が同時に満たされているところである。(1)についての考え方は、固溶C量を汎用焼入れ温度である1030℃前後で0.53%前後にすることが産業上最も重要である。(2)についての考え方は、CuとNiの添加により、熱間、冷間加工性の劣化が懸念されるが、それを防止可能なレベルでかつ最大の析出強化を引き起こすバランスに調整することが重要である。
以下、本発明の冷間工具鋼を構成する成分組成について説明する。なお、各元素の含有量を示す%の表記は、質量%である。
Cは一部が基地中に固溶して強度を付与し、一部は炭化物を形成することで耐摩耗性や耐焼付き性を高める重要な元素である。ここで、鋼中のCが固溶Cと炭化物になる割合は主にCrとの相互作用で決まるため、CはCrとの相互作用を認識して同時に規定することが必須である。しかし、被削性と熱処理変形安定性の両者をバランスよく満たす実用的な冷間ダイス鋼とするためにも、Cの成分範囲は単独において0.7〜1.6%未満とする。好ましくは、0.9〜1.3%である。
Siは本発明の冷間ダイス鋼にとって重要な元素である。Siは通常、脱酸剤として0.3%程度が添加されるが、本発明では焼入れ時の膨張を抑えた成分設計としている結果として焼入れ硬さの低下が懸念されるので、焼戻し時の490℃付近までの軟化現象を抑制するために通常よりも高い0.5%以上とすることが重要である。なお、過多の含有はデルタフェライトの形成を起こすため、上限を3.0%とする。好ましくは、0.9〜2.0%である。
MnもSiと同様、脱酸剤として使用され、最低でも0.1%を含有する。しかし、過度に含有すると切削性を阻害するので、上限を3.0%に規定した。好ましくは、0.1〜1.0%である。
Crは焼入れ性を高めるとともに、炭化物を形成するのに欠かせない元素である。ここで、Cの時に同様、鋼中のCrが固溶Crと炭化物になる割合はCとの相互作用によって決まるため、やはりその含有量はCとの相互作用を認識して同時に規定することが必須である。しかし、被削性と熱処理変形安定性の両者をバランスよく満たす実用的な冷間ダイス鋼とするためにも、Crの成分範囲は単独において7.0〜13.0%とする。好ましくは、8.0〜11.0%である。
MoとWは同様の作用効果を付与し、その程度は原子量の関係から(Mo+W/2)で規定することができる。Mo,Wは工具鋼の二次硬化を担う元素とされ、特にバイト、ドリル等の小物製品への適用で高硬度を必要とする高速度工具鋼に多く添加される。本発明においても、Mo,Wは二次硬化を発揮するマトリックス状態に大きく寄与するものであることから添加を必要とするが、0.5%より少ないと十分な効果が得られず、一方、これらの元素は上記の通り変寸を助長することから、冷間金型等の大物製品にとって過多の添加はよくない。よって、本発明の冷間ダイス鋼では(Mo+W/2)で0.5〜1.7%と規定した。好ましくは、0.75〜1.5%である。
AlはNiと結合してNiAlもしくはNiAlといったNi−Al系金属間化合物を形成し、析出による二次硬化を担う。また、この析出反応によりマトリックスが収縮するため、工具鋼における二次硬化時の膨張反応を相殺し、その結果、変寸を抑制する、本発明にとっての重要元素である。しかし、0.1%より少ないと十分な効果は得られず、一方、0.5%を超える過多のAlは著しいデルタフェライトの形成を起こすので、0.1〜0.5%に規定する。好ましくは、0.15〜0.45%である。
Niは、上記の通り、Alと結合してNi−Al系金属間化合物を形成・析出し、二次硬化と変寸の抑制を同時に達成する、本発明にとっての重要元素である。また、後述のCuを含有する本発明の冷間ダイス鋼にとって赤熱脆性を抑える有益な元素でもある。しかし、0.3%より少ないと十分な効果は得られず、一方、1.5%を超える過多の含有はFe中のCの固溶限を上げ、焼鈍状態の加工性を阻害するため、0.3〜1.5%とした。好ましくは、0.5〜1.3%である。
さらには、Ni/Al:1〜3.5の関係を満たすよう、Ni,Al量を調整することで、金属間化合物の形成に参加しない、マトリックス中のNi,Al量を調整することができる。特に金属間化合物の析出後において、マトリックス中のNi量を低減できるので、熱処理(時効)後の被削性を良好に保つことができる。好ましくは、Ni/Al:2.5〜3.5%である。
Cuは、そのCu金属相が約480℃以上から析出し始め、これが金属間化合物の析出核になることから、本来はより高温で析出する上記のNi−Al系金属間化合物をちょうど工具鋼の二次硬化温度付近で析出させることを可能にする。よって、本発明のNi−Al系金属間化合物の析出による変寸相殺効果および二次硬化を最大限に発揮できる。しかし、Cuは多量に添加すると赤熱脆性が起こるため、本発明では0.1〜1.0に規定することが重要である。好ましくは、0.2〜0.8%である。
Sは被削性を向上させる有益な、本発明の冷間ダイス鋼にとっての必須元素である。しかし、過多に含有すると靭性を低下させるので、0.01〜0.12%とした。好ましくは、0.03〜0.09%である。
Nbは組織中の炭化物の分布を均一化し、熱処理変形を小さくする働きがあることから、本発明の冷間ダイス鋼にとっては、その含有の好ましい元素である。特に0.03%以上の含有が好ましいが、その含有により形成されるMX化合物の量が多すぎると被削性を害するので、0.3%以下の含有が望ましい。
また、以下の元素は下記の範囲内であれば本発明鋼に含まれてもよい。
Pは靭性を阻害する元素であることから、0.05%未満、好ましくは0.02%以下に規制する。Vは焼入れ性の向上の上で添加することができるが、被削性を阻害する元素であることから、含有する場合であっても0.7%未満、好ましくは0.5%以下に制限する。
本発明は、以上を満たす冷間ダイス鋼であって、残部はFeおよび不可避的不純物で構成される冷間ダイス鋼であれば、優れた変寸抑制特性と二次硬化を同時に達成できる。
ただし、冷間ダイス鋼は、硬さを維持するだけでは、その一方で必要とされる耐カジリ性の確保が難しい。そこで本発明の冷間ダイス鋼では、良好な熱処理変寸特性に加え、この耐カジリ性も確保するために、組織中の炭化物、より具体的には“1.5次”と呼ばれる炭化物の分布制御を行っている。
つまり、凝固過程中に発生する1次炭化物は、大きいもので数百μm程度の径にまで成長する巨大炭化物であるが、耐カジリ性にはあまり有効性を発揮しない。そして、本発明の成分組成にある冷間ダイス鋼においては、その発生し得る量域にて、カジリ特性への影響度は少ない。一方、上記の凝固完了後、冷却中に析出する1.5次炭化物は、耐カジリ性に有効であり、適切な炭化物分布に制御するとその有効性が増す。
図2に、冷間ダイス鋼の断面組織に観察される炭化物分布の、その画像解析例を示す。まず、本発明の炭化物分布に相当する(a)は、耐カジリ性を向上させるために、製造工程中に熱処理等を施して、旧結晶粒界により多くの炭化物が分散する組織状態に調整したものであって、その頻度は、比較例(b)よりも多いことが分かる。すなわち、このような(a)の組織状態は、凝固等で不均一に形成された1.5次炭化物が一度固溶して、再析出することにより、その炭化物粒径の均一性が高まった状態のものである。
そして、金型等の成形工具においては、被加工材の成形時に発生するカジリ不良は、その被加工材と金型の原子が拡散により交換されることが本質的原因であるから、ダイス鋼においては、そのような現象が特に起りやすい結晶粒界上に多く炭化物を配置することで、これを防止する効果がある。そして、このような炭化物分布は、耐カジリ性の向上に有効である1.5次炭化物であっても、そのうちの大きいものは規制することが、上記の均一な炭化物分布を達成するのに必要であることを、本発明者らは、突きとめたのである。
ここで、1次と1.5次の炭化物をサイズで分別することは難しいが、本発明の効果を再現するにあたっては、その円相当径による10.0μm以下のものを1.5次炭化物とみなし、調整すればよい。そして、この定義から分析を行った、断面組織中の炭化物粒径毎が占める面積の結果を図3に示すと、本発明例(a)のものは、5.0〜10.0μmの炭化物がほとんど発生していない。そして、この粒径域の炭化物面積の合計を被検面積で割った値(Sa値)は0.5面積%以下であり、このSa値以下に維持することで上記炭化物の粒径の均一性、すなわち優れた耐カジリ性を保証できる。ただし、5.0μm未満の1.5次炭化物の面積率(Sb値)は、少なくとも3.0面積%以上の確保が必要である。このような本発明の炭化物分布は、上記の成分調整に併せて、製造工程に係る所定の熱処理、熱間加工処理等を適用することで、実現できる。
以下、実施例により本発明の効果を説明する。
(実施例1)
大気中の高周波誘導溶解により、表1に示す残部Feおよび不可避的不純物の組成に調整した本発明No.1〜3、比較例No.1〜9の、断面寸法80×80mmのインゴットを得た。ここで比較例No.4はJIS SKD11、比較例No.5は10%CrSKD、比較例No.6は8%CrSKDと呼称される材料である。本発明No.3と比較例No.1は、同成分組成の試料について、下記の拡散焼鈍処理を行ったものと、そうでないものである。
Figure 0004737606
まず、これらのインゴットのうち、本発明No.1〜3については1170℃×3時間の拡散焼鈍処理を行った。そして、比較例No.1〜9についてはそのままとして、これら全てのインゴットに熱間加工を施し、断面寸法15mm×15mmの線状素材とした。そして、780℃×3時間の焼鈍処理後に8mmφ×80mmLの熱処理試験片と、10mm角のカジリ試験片(炭化物解析用試験片)を作製した。熱処理試験片については、あらかじめ長手方向の寸法の測定を行った。
寸法の測定が終了した熱処理試験片については、その次に1030℃の焼入れ(気圧0.506MPaの窒素冷却)と、続く2回の、それぞれの試料が二次硬化を起こす高温焼戻しを行なって硬さを60〜63HRC前後に調質し、その状態で再び寸法の測定を行った。それぞれの試料における熱処理前後での寸法変化量、すなわち二次硬化時の変寸量を図4に示す。
図4より、比較例No.8は膨張量が最も多く、変寸が大きい。これはMoを過多に含有するためである。比較例No.7,9はMo当量(Mo+W/2)が1.0%辺りの適度に調整されてこそいるが、やはり0.05%程度の膨張を起こしている。これに対し、適正量のNi,Cu,Alが添加された本発明No.1〜3および比較例No.1〜6は、熱処理変寸が0.01%以下に抑制されており、二次硬化領域でのNi−Al系金属間化合物の析出反応による膨張の相殺が作用していることが分かる。
(実施例2)
次に、焼鈍処理後の熱処理試験片より、図5に示す形状のテストピースを作製した。なお、図5の矢印(1)(正面図左から2.5mm)、矢印(2)(同5.0mm)、矢印(3)(同7.5mm)の位置におけるクリアランス(隙間寸法)は0.5mmである。そして、実施例1に同じ熱処理を行なった後に、改めて同位置のクリアランスを測定して、それらの変化量から下記の計算式による“ねじれ量”を求めた。
ねじれ量=|[(1)〜(3)の平均変化量]
−[(1)もしくは(3)のうちの、上記平均量から最も離れた方の値]|
計算したねじれ量の結果を図6に示す。比較例No.8のねじれ量が最も大きいが、これはマルテンサイトへの固溶C量が多く、未固溶炭化物量も多いことから、マトリックスの膨張と未固溶炭化物の拘束によって生じる内部歪が大きいことによるものである。そして、未固溶炭化物の少ない比較例No.8,9であっても大きなねじれが発生しているが、Ni−Al系金属間化合物の析出によりマトリックスの内部歪が相殺されている本発明No.1〜3および比較例No.1〜7は、ねじれ量も少ないことが分かる。しかも適量のNbを含む本発明No.2、比較例No.6は、±0.0001mm以下の測定精度においてねじれが確認されない良好な結果を得た。
(実施例3)
10mm角×100mm長に加工した、上記のカジリ試験片について、その四隅のうちの1つを5Rに加工し、#1000で表面仕上げて、テストピースに仕上げた。なお、焼入れ焼戻しの条件は実施例1,2に従う。そして、このテストピースを図7の装置の通りにセットして、590Nハイテン材の曲げ試験を行った。試験条件は以下の通りである。
被加工材 ;590Nハイテン材、250×40×1.6mm
成形速度 ;40spm
しわ抑え力 ;2.2t
ストローク長さ;60mm
潤滑条件 ;ダイヤモンドPA920ワーク塗布後、布でふき取り供試
ショット数 ;2回行い、その2回目の状態でカジリ有無を判定
また、カジリ試験片については、上記に同様の焼入れ焼戻しを行った10mm角のものを、5%ナイタール腐食後、4000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)にて被検面積4960μmに亘る炭化物の分布状況を観察した。そして、その観察による写真から0.1〜10.0μmの円相当径にあたる炭化物を抽出し、既述のSa値(5.0〜10.0μmの炭化物)、Sb値(5.0μm未満の炭化物)を算出した。円相当径が0.1μm未満のものは、特定が難しく、今回の測定からは外した。結果は、表1に併せて記載している。
カジリ試験の結果を表2に示す。カジリが発生しなかったのは本発明No.1〜3のみであり、本発明No.3に同一組成の比較例No.4であっても、その炭化物分布のSa値が高いために、カジリが発生している。つまり、本発明の成分組成を有した冷間ダイス鋼にあって、さらに組織中の炭化物分布を最適に制御することで、優れた熱処理変寸の抑制に併せ、耐カジリ性もが向上することが判明した。
Figure 0004737606
耐カジリ性に優れる本発明の冷間ダイス鋼は、金型の用途にあっても、プレス成形用パンチ・ダイ、冷間鍛造パンチ・ダイ、転造ダイス、機械刃物、冷間成形ロール等の金型種の摺動部材への適用が考えられる他、ピストンリング、ポンプケーシング、シリンダ、カム、タペット、バルブ、ベアリング、燃料噴射ノズル、ギア等の自動車関連用摺動部品の材料としても適用が考えられる。また、自動車に限らず、その他車両機械や工作機械、建設機械の動力伝達系等の金属同士が接触する摺動部材への適用可能性もある。
冷間ダイス鋼の焼戻しによる寸法および硬さの変化を示す図であって、本発明の効果を説明する図である。 本発明の冷間ダイス鋼の断面組織に観察される、炭化物分布の一例を示す図である。 本発明の冷間ダイス鋼の断面組織に測定される、炭化物分布の一例を示す図である。 冷間ダイス鋼の熱処理前後での寸法変化量を示す図である。 冷間ダイス鋼の熱処理前後でのねじれ量を測定するための、本発明の実施例で使用するテストピースを示す図である。 冷間ダイス鋼の熱処理前後でのねじれ量を示す図である。 冷間工具のカジリを評価するための、本発明の実施例で使用するパンチ装置を示す図である。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.7〜1.6%未満、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、P:0.05%未満(0%を含む)、S:0.01〜0.12%、Cr:7.0〜13.0%、MoまたはWの1種あるいは2種を(Mo+W/2):0.5〜1.7%、V:0.7%未満(0%を含む)、Ni:0.3〜1.5%、Cu:0.1〜1.0%、Al:0.1〜0.5%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物で構成される冷間ダイス鋼であって、その断面組織中に観察される炭化物分布は、円相当径で5.0〜10.0μmの炭化物が面積率で0.5%以下、5.0μm未満の炭化物が面積率で3.0%以上であることを特徴とする変寸抑制特性および耐カジリ性に優れた冷間ダイス鋼。
  2. 質量%で、Ni/Al:1〜3.5を満たすことを特徴とする請求項1に記載の変寸抑制特性および耐カジリ性に優れた冷間ダイス鋼。
  3. 質量%で、(Cr−4.2×C):5以下かつ、(Cr−6.3×C):1.4以上の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の変寸抑制特性および耐カジリ性に優れた冷間ダイス鋼。
  4. 質量%で、0.3%以下のNbを含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の変寸抑制特性および耐カジリ性に優れた冷間ダイス鋼。
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