JP2004285460A - 転がり、摺動部品およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】低コストで製造することができ、しかも異物を含んだ潤滑油を用いたさいにも長寿命化を図ることができる。
【解決手段】C:0.5〜1.1wt%、Si:0.7〜1.0wt%、Cr8〜14wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼より所定の形状に形成された加工済み部品素材を、カーボンポテンシャルが1.3%以上である浸炭雰囲気中において900〜1000℃で2時間以上加熱することにより浸炭処理を施し、ついで850〜950℃で0.5時間以上加熱した後急冷する焼入処理を施し、さらに焼戻し処理を施す。これにより、転がり、摺動面の表層部の表面硬さをロックウェルC硬さで63〜70とし、前記表層部に炭化物を析出させて炭化物の量を面積率で15〜40%でかつその平均粒径を0.6μm以下とする。
【選択図】 なし
【解決手段】C:0.5〜1.1wt%、Si:0.7〜1.0wt%、Cr8〜14wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼より所定の形状に形成された加工済み部品素材を、カーボンポテンシャルが1.3%以上である浸炭雰囲気中において900〜1000℃で2時間以上加熱することにより浸炭処理を施し、ついで850〜950℃で0.5時間以上加熱した後急冷する焼入処理を施し、さらに焼戻し処理を施す。これにより、転がり、摺動面の表層部の表面硬さをロックウェルC硬さで63〜70とし、前記表層部に炭化物を析出させて炭化物の量を面積率で15〜40%でかつその平均粒径を0.6μm以下とする。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は転がり、摺動部品およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、転がり軸受部品、ローラカムフォロワなどの転がり部品、またはすべり軸受部品、自動車エンジン用ロッカアームのローラ支持軸、自動車エンジン用カムリフタ、一方向クラッチの内外両輪のうちのカム面が形成される部品などの摺動部品、ならびにこれらの部品の製造方法に関する。
【0002】
なお、この明細書において、「転がり、摺動部品」という語には、純然たる転がり接触、純然たるすべり接触、およびすべり接触を伴う転がり接触を行う部品を意味するものとする。
【0003】
【従来の技術】
たとえば、転がり軸受の軌道輪および転動体としては、清浄油を用いて使用される場合はもちろんのこと、異物が混入した潤滑油を用いて使用されるにも長寿命であることが要求されるようになってきている。
【0004】
ところで、自動車や建設機械に用いられる機械構造部品においては、耐摩耗性や耐疲労性を有するものが既に知られている。たとえば、C:0.1〜0.3wt%、Si:1.5wt%以下、Cr:2.0〜14.0wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼より形成され、イオン浸炭法により浸炭処理が施されて、表面炭素濃度が1.0〜4.0wt%となされ、表面から0.1mm以内の表層部に面積率が10%以上となるように炭化物が析出させられ、当該炭化物が実質的にM7C3型となっている機械構造部品が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開平1−234554号公報(特許請求の範囲、第2頁左上欄3〜9行)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1記載の部品の場合、用いられている鋼中のC含有量が少ないために、浸炭雰囲気中で加熱するという通常の浸炭処理によっては表層部に所望量の炭化物を析出させることが困難であり、たとえ所望量の炭化物を析出させることができたとしても熱処理コストが高くなるという問題がある。そこで、特許文献1の部品は、イオン浸炭法により浸炭処理が施されているが、この場合にも熱処理コストが高くなるという問題がある。
【0007】
この発明の目的は、上記問題を解決し、低コストで製造することができ、しかも異物を含んだ潤滑油を用いたさいにも長寿命化を図ることができる転がり、摺動部品およびその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段と発明の効果】
この発明による転がり、摺動部品は、C:0.5〜1.1wt%、Si:0.7〜1.0wt%、Cr8〜14wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼により形成され、浸炭処理が施されて、転がり、摺動面の表層部の表面硬さがロックウェルC硬さで63〜70となされ、前記表層部に炭化物が析出しているとともに、前記炭化物の量が面積率で15〜40%でかつその平均粒径が0.6μm以下となされていることを特徴とするものである。
【0009】
この発明の転がり、摺動部品において、用いられる鋼中の各元素含有量、ならびに表層部の表面硬さ、炭化物量および炭化物の平均粒径の限定理由は次の通りである。
【0010】
C含有量
Cは鋼に必須の成分であるが、C含有量が0.5wt%未満であると低炭素鋼となり、所望量の炭化物を析出させるためには、浸炭雰囲気中で加熱する通常の浸炭処理法によっても処理コストが高くなる。一方、C含有量が1.1wt%を越えると高炭素鋼となり、材料溶解の際の偏析や、凝固時の粗大炭化物の発生が問題となる。
【0011】
Si含有量
Siは浸炭時に炭化物を微細化させる効果を有するが、Si含有量が0.7wt%未満であるとこのような効果が得られない。また、Siは浸炭抑制元素であるため、Si含有量が1.0wt%を越えると浸炭を効率良く行うことができなくなる。
【0012】
Cr含有量
M7C3型炭化物を析出させるためには、Cr含有量をこの範囲にすることが必要である。
【0013】
なお、この鋼中には通常の鋼に含まれる範囲、たとえば0.2〜0.45wt%の範囲でMnが含まれている。
【0014】
表層部の表面硬さ
この表面硬さがHRC63以上であると、潤滑油中に異物が混入していたとしても、異物により圧痕が生成することが防止される。しかしながら、表面硬さがHRC70を越えると、材料自体の靭性が損なわれる。特に、転がり軸受部品の場合、軌道面あるいは転動面の表面硬さがHRC70を越えると転がり疲れ強さがかえって低下し、圧痕の生成は防止されるものの、転がり疲れ寿命が低下する。したがって、この表面硬さの上限はHRC70とする。
【0015】
表層部の炭化物の量
この炭化物の量を面積率で15〜40%に限定したのは、下限値未満であると耐摩耗性が低下し、上限値を越えると粗大な炭化物が多量に析出し、靭性および転がり寿命を低下させるからである。
【0016】
表層部の炭化物の平均粒径
この平均粒径を0.6μm以下に限定したのは、0.6μmを越えると、非金属介在物と同様に疲労亀裂の起点となるとともに、靭性を確保することができないからである。なお、実際に疲労亀裂の起点となるのは5μm以上の粒径の場合であるが、上記0.6μmは平均粒径であり、平均粒径が0.6μmを越えると粒径が5μm以上の粗大炭化物が析出している蓋然性が高い。
【0017】
ここで、表層部とは、転がり、摺動面における寿命に影響を及ぼす深さ部分であり、たとえば内部起点剥離の要因となる最大剪断応力が作用する深さまでの部分である。この深さは、接触条件によって異なるが、多くの転がり、摺動部品おいて0.5mm程度までである。
【0018】
この発明の転がり、摺動部品によれば、表面硬さが増大して潤滑油中に混入した異物により圧痕が生成しなくなるとともに、耐摩耗性および耐熱性が向上し、その結果転がり部品または摺動部品を用いた製品の長寿命化を図ることができる。また、当然のことながら清浄な潤滑油を用いた場合の寿命も長くなる。しかも、用いられる鋼中のC含有量が0.5〜1.1wt%であるから、浸炭雰囲気中で加熱する通常の浸炭処理法によっても低コストで処理することが可能になる。
【0019】
この発明の転がり、摺動部品において、前記炭化物は主としてM7C3型からなることが好ましく、全ての炭化物がM7C3型であることが望ましい。M7C3型の炭化物はM3C型の炭化物に比べて硬質であるから、オロワン機構による粒子分散強化量における最小臨界粒子径がM3C型の炭化物よりも小さくなるとともに、M3C型の炭化物よりもオストワルド成長し難い炭化物で微細分散し易いため、表層部の表面硬さを増大させることができ、その結果潤滑油中に混入した異物により圧痕が生成しなくなるとともに、耐摩耗性が向上し、転がり部品または摺動部品を用いた製品の長寿命化を図ることができる。すなわち、炭化物を従来のM3C型からM7C3型にすることにより、より微細にかつ多く析出させることができるので、表層部の表面硬さを増大させることが可能となって材料強化につながる。
【0020】
この発明による転がり、摺動部品の製造方法は、C:0.5〜1.1wt%、Si:0.7〜1.0wt%、Cr8〜14wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼より所定の形状に形成された加工済み部品素材を、カーボンポテンシャルが1.3%以上である浸炭雰囲気中において900〜1000℃で2時間以上加熱することにより浸炭処理を施し、ついで850〜950℃で0.5時間以上加熱した後急冷する焼入処理を施し、さらに焼戻し処理を施すことを特徴とするものである。
【0021】
この発明による転がり、摺動部品の製造方法において、熱処理条件の限定理由は次の通りである。なお、用いる鋼中の各成分元素の限定理由は、上述した転がり、摺動部品の場合と同じである。
【0022】
浸炭処理雰囲気のカーボンポテンシャル
このカーボンポテンシャルを1.3%以上に限定したのは、1.3%未満では、炭素含有量が0.5〜1.1wt%である鋼に対してほとんど浸炭されないことになり、表層部の硬さおよび炭化物の面積率を所望のものにすることができず、目的とする炭化物の微細分散化を図ることができないからである。なお、カーボンポテンシャルの上限は1.8%とすることが好ましい。カーボンポテンシャルが1.8%を越えると、大量の煤が発生するという問題があるからである。
浸炭処理温度
この温度を900〜1000℃に限定したのは、下限値未満であると炭素の拡散が遅く処理時間が長くなり、上限値を越えると粗大なM3C型の炭化物が発生し易くなるからである。
【0023】
浸炭処理時間
この時間を2時間以上に限定したのは、2時間未満であるとカーボンポテンシャルのところで述べたような必要な浸炭を行うことができないからである。
【0024】
焼入処理の加熱温度
この温度を850〜950℃ に限定したのは、850℃未満であると所定の硬さが得られず、950℃を越えるとオーステナイト結晶粒が粗大化し、靭性が低下するからである。
【0025】
焼入処理の加熱時間
この時間を0.5時間以上に限定したのは、0.5時間未満であると加工済み部品素材を均一温度にすることのが困難になるからである。
【0026】
この発明の製造方法により製造された転がり、摺動部品によれば、表面硬さが増大して潤滑油中に混入した異物により圧痕が生成しなくなるとともに、耐摩耗性および耐熱性が向上し、その結果転がり部品または摺動部品を用いた製品の長寿命化を図ることができる。また、当然のことながら清浄な潤滑油を用いた場合の寿命も長くなる。しかも、用いられる鋼中のC含有量が0.5〜1.1wt%であるから、浸炭雰囲気中で加熱する通常の浸炭処理法によっても低コストで処理することが可能になる。
【0027】
この発明の転がり、摺動部品の製造方法において、前記浸炭処理の加熱の後、焼入処理の前に一旦急冷することがある。特に、大型の転がり、摺動部品を製造する場合には、このようにすることが好ましい。小型の転がり、摺動部品を製造する場合には、浸炭処理の加熱の後の急冷は、特に必要としない。
【0028】
【発明の実施形態】
以下、この発明の具体的実施例を比較例とともに説明する。
【0029】
実施例
C:0.7wt%、Si:0.9wt%、Cr:12wt%、Mn:0.3wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル1.6%の雰囲気中において950℃で4時間加熱する浸炭処理を施し、この浸炭処理に引き続いて大気雰囲気中において900℃で40分間加熱して80℃に油冷する焼入処理を施し、その後180℃で2時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0030】
比較例1
C:1.01wt%、Si:0.24wt%、Mn:0.36wt%、Ni:0.04wt%、Cr:1.46wt%、Mo:0.01wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル0.6%の雰囲気中において850℃で0.7時間加熱する浸炭処理を施した後80℃に油冷し、さらに160℃で2時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0031】
比較例2
C:1.01wt%、Si:0.24wt%、Mn:0.36wt%、Ni:0.04wt%、Cr:1.46wt%、Mo:0.01wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において850℃で3.5時間加熱する浸炭処理を施した後80℃に油冷し、さらに160℃で2時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0032】
比較例3
C:1.01wt%、Si:0.24wt%、Mn:0.36wt%、Ni:0.04wt%、Cr:1.46wt%、Mo:0.01wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル1.1%の雰囲気中において950℃で2時間加熱することにより既存の炭化物をマトリックス中に溶け込ませる処理を施した後80℃に油冷し、ついでカーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において850℃で3.5時間加熱する浸炭処理を施した後80℃に油冷し、さらに160℃で2時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0033】
実施例および比較例1〜3の内輪の軌道面の表面から最大せん断応力が作用する深さまでの表層部の硬さ、この表層部における炭化物の面積率および炭化物の平均粒径は表1に示す通りであった。
【0034】
【表1】
【0035】
評価試験
実施例および比較例1〜3の内輪を、JIS SUJ2からなりかつ通常の浸炭窒化処理が施されてなる外輪および玉と組み合わせて型番6206C3の玉軸受を組み立てた。そして、これらの玉軸受を使用し、異物が混入した潤滑油を用いて寿命試験を行った。試験条件は表2に示す通りである。
【0036】
【表2】
【0037】
なお、表2に示す試験機は、同時に2個の玉軸受の試験を行うことが可能であり、表2中のラジアル荷重は、1個の玉軸受のラジアル荷重を意味する。また、寿命は、試験機に同じ内輪を備えた2個の玉軸受をセットし、いずれかの玉軸受の内輪が破損するまでの時間を計測するという試験を5回繰り返し、破損までの時間の平均をとった。
【0038】
その結果、比較例1の寿命を1とした場合の寿命比は、実施例:比較例2:比較例3で15:8:10であった。
【発明の属する技術分野】
この発明は転がり、摺動部品およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、転がり軸受部品、ローラカムフォロワなどの転がり部品、またはすべり軸受部品、自動車エンジン用ロッカアームのローラ支持軸、自動車エンジン用カムリフタ、一方向クラッチの内外両輪のうちのカム面が形成される部品などの摺動部品、ならびにこれらの部品の製造方法に関する。
【0002】
なお、この明細書において、「転がり、摺動部品」という語には、純然たる転がり接触、純然たるすべり接触、およびすべり接触を伴う転がり接触を行う部品を意味するものとする。
【0003】
【従来の技術】
たとえば、転がり軸受の軌道輪および転動体としては、清浄油を用いて使用される場合はもちろんのこと、異物が混入した潤滑油を用いて使用されるにも長寿命であることが要求されるようになってきている。
【0004】
ところで、自動車や建設機械に用いられる機械構造部品においては、耐摩耗性や耐疲労性を有するものが既に知られている。たとえば、C:0.1〜0.3wt%、Si:1.5wt%以下、Cr:2.0〜14.0wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼より形成され、イオン浸炭法により浸炭処理が施されて、表面炭素濃度が1.0〜4.0wt%となされ、表面から0.1mm以内の表層部に面積率が10%以上となるように炭化物が析出させられ、当該炭化物が実質的にM7C3型となっている機械構造部品が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開平1−234554号公報(特許請求の範囲、第2頁左上欄3〜9行)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1記載の部品の場合、用いられている鋼中のC含有量が少ないために、浸炭雰囲気中で加熱するという通常の浸炭処理によっては表層部に所望量の炭化物を析出させることが困難であり、たとえ所望量の炭化物を析出させることができたとしても熱処理コストが高くなるという問題がある。そこで、特許文献1の部品は、イオン浸炭法により浸炭処理が施されているが、この場合にも熱処理コストが高くなるという問題がある。
【0007】
この発明の目的は、上記問題を解決し、低コストで製造することができ、しかも異物を含んだ潤滑油を用いたさいにも長寿命化を図ることができる転がり、摺動部品およびその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段と発明の効果】
この発明による転がり、摺動部品は、C:0.5〜1.1wt%、Si:0.7〜1.0wt%、Cr8〜14wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼により形成され、浸炭処理が施されて、転がり、摺動面の表層部の表面硬さがロックウェルC硬さで63〜70となされ、前記表層部に炭化物が析出しているとともに、前記炭化物の量が面積率で15〜40%でかつその平均粒径が0.6μm以下となされていることを特徴とするものである。
【0009】
この発明の転がり、摺動部品において、用いられる鋼中の各元素含有量、ならびに表層部の表面硬さ、炭化物量および炭化物の平均粒径の限定理由は次の通りである。
【0010】
C含有量
Cは鋼に必須の成分であるが、C含有量が0.5wt%未満であると低炭素鋼となり、所望量の炭化物を析出させるためには、浸炭雰囲気中で加熱する通常の浸炭処理法によっても処理コストが高くなる。一方、C含有量が1.1wt%を越えると高炭素鋼となり、材料溶解の際の偏析や、凝固時の粗大炭化物の発生が問題となる。
【0011】
Si含有量
Siは浸炭時に炭化物を微細化させる効果を有するが、Si含有量が0.7wt%未満であるとこのような効果が得られない。また、Siは浸炭抑制元素であるため、Si含有量が1.0wt%を越えると浸炭を効率良く行うことができなくなる。
【0012】
Cr含有量
M7C3型炭化物を析出させるためには、Cr含有量をこの範囲にすることが必要である。
【0013】
なお、この鋼中には通常の鋼に含まれる範囲、たとえば0.2〜0.45wt%の範囲でMnが含まれている。
【0014】
表層部の表面硬さ
この表面硬さがHRC63以上であると、潤滑油中に異物が混入していたとしても、異物により圧痕が生成することが防止される。しかしながら、表面硬さがHRC70を越えると、材料自体の靭性が損なわれる。特に、転がり軸受部品の場合、軌道面あるいは転動面の表面硬さがHRC70を越えると転がり疲れ強さがかえって低下し、圧痕の生成は防止されるものの、転がり疲れ寿命が低下する。したがって、この表面硬さの上限はHRC70とする。
【0015】
表層部の炭化物の量
この炭化物の量を面積率で15〜40%に限定したのは、下限値未満であると耐摩耗性が低下し、上限値を越えると粗大な炭化物が多量に析出し、靭性および転がり寿命を低下させるからである。
【0016】
表層部の炭化物の平均粒径
この平均粒径を0.6μm以下に限定したのは、0.6μmを越えると、非金属介在物と同様に疲労亀裂の起点となるとともに、靭性を確保することができないからである。なお、実際に疲労亀裂の起点となるのは5μm以上の粒径の場合であるが、上記0.6μmは平均粒径であり、平均粒径が0.6μmを越えると粒径が5μm以上の粗大炭化物が析出している蓋然性が高い。
【0017】
ここで、表層部とは、転がり、摺動面における寿命に影響を及ぼす深さ部分であり、たとえば内部起点剥離の要因となる最大剪断応力が作用する深さまでの部分である。この深さは、接触条件によって異なるが、多くの転がり、摺動部品おいて0.5mm程度までである。
【0018】
この発明の転がり、摺動部品によれば、表面硬さが増大して潤滑油中に混入した異物により圧痕が生成しなくなるとともに、耐摩耗性および耐熱性が向上し、その結果転がり部品または摺動部品を用いた製品の長寿命化を図ることができる。また、当然のことながら清浄な潤滑油を用いた場合の寿命も長くなる。しかも、用いられる鋼中のC含有量が0.5〜1.1wt%であるから、浸炭雰囲気中で加熱する通常の浸炭処理法によっても低コストで処理することが可能になる。
【0019】
この発明の転がり、摺動部品において、前記炭化物は主としてM7C3型からなることが好ましく、全ての炭化物がM7C3型であることが望ましい。M7C3型の炭化物はM3C型の炭化物に比べて硬質であるから、オロワン機構による粒子分散強化量における最小臨界粒子径がM3C型の炭化物よりも小さくなるとともに、M3C型の炭化物よりもオストワルド成長し難い炭化物で微細分散し易いため、表層部の表面硬さを増大させることができ、その結果潤滑油中に混入した異物により圧痕が生成しなくなるとともに、耐摩耗性が向上し、転がり部品または摺動部品を用いた製品の長寿命化を図ることができる。すなわち、炭化物を従来のM3C型からM7C3型にすることにより、より微細にかつ多く析出させることができるので、表層部の表面硬さを増大させることが可能となって材料強化につながる。
【0020】
この発明による転がり、摺動部品の製造方法は、C:0.5〜1.1wt%、Si:0.7〜1.0wt%、Cr8〜14wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼より所定の形状に形成された加工済み部品素材を、カーボンポテンシャルが1.3%以上である浸炭雰囲気中において900〜1000℃で2時間以上加熱することにより浸炭処理を施し、ついで850〜950℃で0.5時間以上加熱した後急冷する焼入処理を施し、さらに焼戻し処理を施すことを特徴とするものである。
【0021】
この発明による転がり、摺動部品の製造方法において、熱処理条件の限定理由は次の通りである。なお、用いる鋼中の各成分元素の限定理由は、上述した転がり、摺動部品の場合と同じである。
【0022】
浸炭処理雰囲気のカーボンポテンシャル
このカーボンポテンシャルを1.3%以上に限定したのは、1.3%未満では、炭素含有量が0.5〜1.1wt%である鋼に対してほとんど浸炭されないことになり、表層部の硬さおよび炭化物の面積率を所望のものにすることができず、目的とする炭化物の微細分散化を図ることができないからである。なお、カーボンポテンシャルの上限は1.8%とすることが好ましい。カーボンポテンシャルが1.8%を越えると、大量の煤が発生するという問題があるからである。
浸炭処理温度
この温度を900〜1000℃に限定したのは、下限値未満であると炭素の拡散が遅く処理時間が長くなり、上限値を越えると粗大なM3C型の炭化物が発生し易くなるからである。
【0023】
浸炭処理時間
この時間を2時間以上に限定したのは、2時間未満であるとカーボンポテンシャルのところで述べたような必要な浸炭を行うことができないからである。
【0024】
焼入処理の加熱温度
この温度を850〜950℃ に限定したのは、850℃未満であると所定の硬さが得られず、950℃を越えるとオーステナイト結晶粒が粗大化し、靭性が低下するからである。
【0025】
焼入処理の加熱時間
この時間を0.5時間以上に限定したのは、0.5時間未満であると加工済み部品素材を均一温度にすることのが困難になるからである。
【0026】
この発明の製造方法により製造された転がり、摺動部品によれば、表面硬さが増大して潤滑油中に混入した異物により圧痕が生成しなくなるとともに、耐摩耗性および耐熱性が向上し、その結果転がり部品または摺動部品を用いた製品の長寿命化を図ることができる。また、当然のことながら清浄な潤滑油を用いた場合の寿命も長くなる。しかも、用いられる鋼中のC含有量が0.5〜1.1wt%であるから、浸炭雰囲気中で加熱する通常の浸炭処理法によっても低コストで処理することが可能になる。
【0027】
この発明の転がり、摺動部品の製造方法において、前記浸炭処理の加熱の後、焼入処理の前に一旦急冷することがある。特に、大型の転がり、摺動部品を製造する場合には、このようにすることが好ましい。小型の転がり、摺動部品を製造する場合には、浸炭処理の加熱の後の急冷は、特に必要としない。
【0028】
【発明の実施形態】
以下、この発明の具体的実施例を比較例とともに説明する。
【0029】
実施例
C:0.7wt%、Si:0.9wt%、Cr:12wt%、Mn:0.3wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル1.6%の雰囲気中において950℃で4時間加熱する浸炭処理を施し、この浸炭処理に引き続いて大気雰囲気中において900℃で40分間加熱して80℃に油冷する焼入処理を施し、その後180℃で2時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0030】
比較例1
C:1.01wt%、Si:0.24wt%、Mn:0.36wt%、Ni:0.04wt%、Cr:1.46wt%、Mo:0.01wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル0.6%の雰囲気中において850℃で0.7時間加熱する浸炭処理を施した後80℃に油冷し、さらに160℃で2時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0031】
比較例2
C:1.01wt%、Si:0.24wt%、Mn:0.36wt%、Ni:0.04wt%、Cr:1.46wt%、Mo:0.01wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において850℃で3.5時間加熱する浸炭処理を施した後80℃に油冷し、さらに160℃で2時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0032】
比較例3
C:1.01wt%、Si:0.24wt%、Mn:0.36wt%、Ni:0.04wt%、Cr:1.46wt%、Mo:0.01wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル1.1%の雰囲気中において950℃で2時間加熱することにより既存の炭化物をマトリックス中に溶け込ませる処理を施した後80℃に油冷し、ついでカーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において850℃で3.5時間加熱する浸炭処理を施した後80℃に油冷し、さらに160℃で2時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0033】
実施例および比較例1〜3の内輪の軌道面の表面から最大せん断応力が作用する深さまでの表層部の硬さ、この表層部における炭化物の面積率および炭化物の平均粒径は表1に示す通りであった。
【0034】
【表1】
【0035】
評価試験
実施例および比較例1〜3の内輪を、JIS SUJ2からなりかつ通常の浸炭窒化処理が施されてなる外輪および玉と組み合わせて型番6206C3の玉軸受を組み立てた。そして、これらの玉軸受を使用し、異物が混入した潤滑油を用いて寿命試験を行った。試験条件は表2に示す通りである。
【0036】
【表2】
【0037】
なお、表2に示す試験機は、同時に2個の玉軸受の試験を行うことが可能であり、表2中のラジアル荷重は、1個の玉軸受のラジアル荷重を意味する。また、寿命は、試験機に同じ内輪を備えた2個の玉軸受をセットし、いずれかの玉軸受の内輪が破損するまでの時間を計測するという試験を5回繰り返し、破損までの時間の平均をとった。
【0038】
その結果、比較例1の寿命を1とした場合の寿命比は、実施例:比較例2:比較例3で15:8:10であった。
Claims (4)
- C:0.5〜1.1wt%、Si:0.7〜1.0wt%、Cr8〜14wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼により形成され、浸炭処理が施されて、転がり、摺動面の表層部の表面硬さがロックウェルC硬さで63〜70となされ、前記表層部に炭化物が析出しているとともに、前記炭化物の量が面積率で15〜40%でかつその平均粒径が0.6μm以下となされていることを特徴とする転がり、摺動部品。
- 前記炭化物が主としてM7C3型からなる請求項1の転がり、摺動部品。
- C:0.5〜1.1wt%、Si:0.7〜1.0wt%、Cr8〜14wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼より所定の形状に形成された加工済み部品素材を、カーボンポテンシャルが1.3%以上である浸炭雰囲気中において900〜1000℃で2時間以上加熱することにより浸炭処理を施し、ついで850〜950℃で0.5時間以上加熱した後急冷する焼入処理を施し、さらに焼戻し処理を施すことを特徴とする転がり、摺動部品の製造方法。
- 前記浸炭処理の加熱の後、一旦急冷する請求項3の転がり、摺動部品の製造方法。
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