JP2004292933A - 転がり、摺動部品およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】異物を含んだ潤滑油を用いたさいにも長寿命化を図ることができる転がり、摺動部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】C:0.1〜0.8wt%、Si:0.5wt%を越えかつ1.5wt%以下、Mo:3.0〜6.0wt%、W:3.0〜8.0wt%、V:0.5〜10.0wt%、Cr:2.0〜8.0wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼より所定の形状に形成された加工済み部品素材を、900〜1200℃で2時間以上加熱することにより高濃度浸炭処理を施し、ついで1100〜1200℃で0.5時間以上加熱した後急冷する焼入処理を施し、さらに焼戻し処理を施す。これにより、転がり、摺動面の表層部にMC型およびM6C型の炭化物を析出させる。
【選択図】 なし
【解決手段】C:0.1〜0.8wt%、Si:0.5wt%を越えかつ1.5wt%以下、Mo:3.0〜6.0wt%、W:3.0〜8.0wt%、V:0.5〜10.0wt%、Cr:2.0〜8.0wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼より所定の形状に形成された加工済み部品素材を、900〜1200℃で2時間以上加熱することにより高濃度浸炭処理を施し、ついで1100〜1200℃で0.5時間以上加熱した後急冷する焼入処理を施し、さらに焼戻し処理を施す。これにより、転がり、摺動面の表層部にMC型およびM6C型の炭化物を析出させる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は転がり、摺動部品およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、転がり軸受部品、ローラカムフォロワなどの転がり部品、またはすべり軸受部品、自動車エンジン用ロッカアームのローラ支持軸、自動車エンジン用カムリフタ、一方向クラッチの内外両輪のうちのカム面が形成される部品などの摺動部品、ならびにこれらの部品の製造方法に関する。
【0002】
なお、この明細書において、「転がり、摺動部品」という語には、純然たる転がり接触、純然たるすべり接触、およびすべり接触を伴う転がり接触を行う部品を意味するものとする。
【0003】
【従来の技術】
たとえば、転がり軸受の軌道輪および転動体としては、清浄油を用いて使用される場合はもちろんのこと、異物が混入した潤滑油を用いて使用されるにも長寿命であることが要求されるようになってきている。
【0004】
ところで、細線や薄板の形状で使用される切削工具、刃物、耐摩耗部品などの靭性および耐摩耗性に優れた金属部品として、たとえば、C:0.3wt%以下、Si:0.5wt%以下、Cr:2.0wt%以下、Mn0.5wt%以下、MoまたはWの1種または2種をWeq=2Mo+WとしてWeq:10.0〜24.0wt%、V:2.0〜10.0wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼より形成され、浸炭処理が施されて、浸炭層にMC型およびM6C型炭化物が析出しているものが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開平11−222649号公報(特許請求の範囲、段落0001)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1記載の部品の場合、用いられている鋼中のSi含有量が少ないので析出した炭化物は比較的粗大化しており、転がり、摺動部品として用いた場合、異物が混入した潤滑油を用いて使用されるに寿命が比較的短くなる。
【0007】
この発明の目的は、上記問題を解決し、異物を含んだ潤滑油を用いたさいにも長寿命化を図ることができる転がり、摺動部品およびその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段と発明の効果】
この発明による転がり、摺動部品は、C:0.1〜0.8wt%、Si:0.5wt%を越えかつ1.5wt%以下、Mo:3.0〜6.0wt%、W:3.0〜8.0wt%、V:0.5〜10.0wt%、Cr:2.0〜8.0wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼により形成され、浸炭処理が施されて、転がり、摺動面の表層部にMC型およびM6C型の炭化物が析出しているものである。
【0009】
この発明の転がり、摺動部品において、用いられる鋼中の各元素含有量の限定理由は次の通りである。
【0010】
C含有量
Cは鋼に必須の成分であるが、C含有量が0.1wt%未満であると部品としての強度を確保できず、0.8wt%を越えると材料溶解の際の偏析や、凝固時の粗大炭化物の発生が問題となる。C含有量は0.15〜0.3wt%であることが好ましい。
【0011】
Si含有量
Siは浸炭時に炭化物を微細化させる性質を有するが、その含有量が0.5wt%以下であると所定の微細炭化物を得ることができない。また、Siは浸炭を抑制する元素であるため、その含有量が1.5wt%を越えると浸炭時に必要な量の炭化物が生成しなくなる。しかも、塑性加工性も低下する。
【0012】
Cr含有量
Cr含有量が2.0wt%未満であると浸炭時に粗大な炭化物となりやすいM3C型炭化物が析出して分散強化量が小さくなり、8.0wt%を越えるとM7C3型およびM23C6型炭化物が過剰に析出するためかえって靭性が低下する。
【0013】
Mo、W、V含有量
これらの元素の含有量の限定理由は不明な点があるが、上述の通りであると、転がり、摺動面の表層部にMC型およびM6C型の炭化物が析出する。
【0014】
ここで、表層部とは、転がり、摺動面における寿命に影響を及ぼす深さ部分であり、たとえば内部起点剥離の要因となる最大剪断応力が作用する深さまでの部分である。この深さは、接触条件によって異なるが、多くの転がり、摺動部品おいて0.5mm程度までである。また、表層部には、MC型およびM6C型の炭化物のみが析出している。
【0015】
この発明の転がり、摺動部品によれば、転がり、摺動面の表層部に、M3C型の炭化物に比べて硬質であるMC型およびM6C型の微細炭化物が析出しており、MC型およびM6C型の炭化物はM3C型の炭化物に比べて硬質であるから、オロワン機構による粒子分散強化量における最小臨界粒子径がM3C型の炭化物よりも小さくなるとともに、M3C型の炭化物よりもオストワルド成長し難い炭化物で微細分散し易いため、表層部の表面硬さを増大させることができ、その結果潤滑油中に混入した異物により圧痕が生成しなくなるとともに、耐摩耗性が向上し、転がり部品または摺動部品を用いた製品の長寿命化を図ることができる。すなわち、炭化物を従来のM3C型からMC型およびM6C型にすることにより、より微細にかつ多く析出させることができるので、表層部の表面硬さを増大させることが可能となって材料強化につながる。また、当然のことながら清浄な潤滑油を用いた場合の寿命も長くなる。
【0016】
この発明による転がり、摺動部品において、Si含有量は、0.7〜1.3wt%であることが好ましく、0.9〜1.1wt%であることが望ましい。
【0017】
この発明の転がり、摺動部品の製造方法は、C:0.1〜0.8wt%、Si:0.5wt%を越えかつ1.5wt%以下、Mo:3.0〜6.0wt%、W:3.0〜8.0wt%、V:0.5〜10.0wt%、Cr:2.0〜8.0wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼より所定の形状に形成された加工済み部品素材を、900〜1200℃で2時間以上加熱することにより高濃度浸炭処理を施し、ついで1100〜1200℃で0.5時間以上加熱した後急冷する焼入処理を施し、さらに焼戻し処理を施すことを特徴とするものである。
【0018】
この発明による転がり、摺動部品の製造方法において、熱処理条件の限定理由は次の通りである。なお、用いる鋼中の各成分元素の限定理由は、上述した転がり、摺動部品の場合と同じである。ここでも、Si含有量は、0.7〜1.3wt%であることが好ましく、0.9〜1.1wt%であることが望ましい。また、焼戻し処理温度は、150〜300℃または500〜600℃に設定することが好ましいが、530〜570℃に設定することが望ましい。
【0019】
高濃度浸炭処理温度
この温度を900〜1200℃に限定したのは、表層部にMC型およびM6C型の炭化物のみを析出させるためである。
【0020】
高濃度浸炭処理時間
この時間を2時間以上に限定したのは、表層部に所望量の炭素を浸炭し、表層部にMC型およびM6C型の炭化物のみを析出させるためである。
【0021】
焼入処理の加熱温度
この温度を1100〜1200℃ に限定したのは、所望の表面硬さを得るためである。
【0022】
焼入処理の加熱時間
この時間を0.5時間以上に限定したのは、加工済み部品素材の温度を均一にするためである。
【0023】
この発明の製造方法により製造された転がり、摺動部品によれば、転がり、摺動面の表層部に、M3C型の炭化物に比べて硬質であるMC型およびM6C型の微細炭化物が析出しており、MC型およびM6C型の炭化物はM3C型の炭化物に比べて硬質であるから、オロワン機構による粒子分散強化量における最小臨界粒子径がM3C型の炭化物よりも小さくなるとともに、M3C型の炭化物よりもオストワルド成長し難い炭化物で微細分散し易いため、表層部の表面硬さを増大させることができ、その結果潤滑油中に混入した異物により圧痕が生成しなくなるとともに、耐摩耗性が向上し、転がり部品または摺動部品を用いた製品の長寿命化を図ることができる。すなわち、炭化物を従来のM3C型からMC型およびM6C型にすることにより、より微細にかつ多く析出させることができるので、表層部の表面硬さを増大させることが可能となって材料強化につながる。また、当然のことながら清浄な潤滑油を用いた場合の寿命も長くなる。
【0024】
この発明の転がり、摺動部品の製造方法において、前記高濃度浸炭処理の加熱の後、焼入処理の前に一旦急冷することがある。特に、大型の転がり、摺動部品を製造する場合には、このようにすることが好ましい。小型の転がり、摺動部品を製造する場合には、高濃度浸炭処理の加熱の後の急冷は、特に必要としない。
【0025】
【発明の実施形態】
以下、この発明の具体的実施例を比較例とともに説明する。
【0026】
実施例
C:0.2wt%、Si:0.9wt%、Cr:4.4wt%、Mo:4.7wt%、W6.8wt%、V:1.8wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル1.6%の雰囲気中において950℃で8時間加熱する高濃度浸炭を施し、この高濃度浸炭処理に引き続いて1200℃で60分間加熱して80℃に油冷する焼入処理を施し、その後550℃で3時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0027】
比較例1
C:1.01wt%、Si:0.24wt%、Mn:0.36wt%、Ni:0.04wt%、Cr:1.46wt%、Mo:0.01wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル0.6%の雰囲気中において850℃で0.7時間加熱する浸炭処理を施した後80℃に油冷し、さらに160℃で2時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0028】
比較例2
C:1.01wt%、Si:0.24wt%、Mn:0.36wt%、Ni:0.04wt%、Cr:1.46wt%、Mo:0.01wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において850℃で3.5時間加熱する浸炭処理を施した後80℃に油冷し、さらに160℃で2時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0029】
比較例3
C:1.01wt%、Si:0.24wt%、Mn:0.36wt%、Ni:0.04wt%、Cr:1.46wt%、Mo:0.01wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル1.1%の雰囲気中において950℃で2時間加熱することにより既存の炭化物をマトリックス中に溶け込ませる処理を施した後80℃に油冷し、ついでカーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において850℃で3.5時間加熱する浸炭処理を施した後80℃に油冷し、さらに160℃で2時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0030】
実施例および比較例1〜3の内輪の軌道面の表面から最大せん断応力が作用する深さまでの表層部の硬さ、およびこの表層部における炭化物の面積率は表1に示す通りであった。
【0031】
【表1】
【0032】
評価試験
実施例および比較例1〜3の内輪を、JIS SUJ2からなりかつ通常の浸炭窒化処理が施されてなる外輪および玉と組み合わせて型番6206C3の玉軸受を組み立てた。そして、これらの玉軸受を使用し、異物が混入した潤滑油を用いて寿命試験を行った。試験条件は表2に示す通りである。
【0033】
【表2】
【0034】
なお、表2に示す試験機は、同時に2個の玉軸受の試験を行うことが可能であり、表2中のラジアル荷重は、1個の玉軸受のラジアル荷重を意味する。また、寿命は、試験機に同じ内輪を備えた2個の玉軸受をセットし、いずれかの玉軸受の内輪が破損するまでの時間を計測するという試験を5回繰り返し、破損までの時間の平均をとった。
【0035】
その結果、比較例1の寿命を1とした場合の寿命比は、実施例:比較例2:比較例3で20:8:10であった。
【発明の属する技術分野】
この発明は転がり、摺動部品およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、転がり軸受部品、ローラカムフォロワなどの転がり部品、またはすべり軸受部品、自動車エンジン用ロッカアームのローラ支持軸、自動車エンジン用カムリフタ、一方向クラッチの内外両輪のうちのカム面が形成される部品などの摺動部品、ならびにこれらの部品の製造方法に関する。
【0002】
なお、この明細書において、「転がり、摺動部品」という語には、純然たる転がり接触、純然たるすべり接触、およびすべり接触を伴う転がり接触を行う部品を意味するものとする。
【0003】
【従来の技術】
たとえば、転がり軸受の軌道輪および転動体としては、清浄油を用いて使用される場合はもちろんのこと、異物が混入した潤滑油を用いて使用されるにも長寿命であることが要求されるようになってきている。
【0004】
ところで、細線や薄板の形状で使用される切削工具、刃物、耐摩耗部品などの靭性および耐摩耗性に優れた金属部品として、たとえば、C:0.3wt%以下、Si:0.5wt%以下、Cr:2.0wt%以下、Mn0.5wt%以下、MoまたはWの1種または2種をWeq=2Mo+WとしてWeq:10.0〜24.0wt%、V:2.0〜10.0wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼より形成され、浸炭処理が施されて、浸炭層にMC型およびM6C型炭化物が析出しているものが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開平11−222649号公報(特許請求の範囲、段落0001)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1記載の部品の場合、用いられている鋼中のSi含有量が少ないので析出した炭化物は比較的粗大化しており、転がり、摺動部品として用いた場合、異物が混入した潤滑油を用いて使用されるに寿命が比較的短くなる。
【0007】
この発明の目的は、上記問題を解決し、異物を含んだ潤滑油を用いたさいにも長寿命化を図ることができる転がり、摺動部品およびその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段と発明の効果】
この発明による転がり、摺動部品は、C:0.1〜0.8wt%、Si:0.5wt%を越えかつ1.5wt%以下、Mo:3.0〜6.0wt%、W:3.0〜8.0wt%、V:0.5〜10.0wt%、Cr:2.0〜8.0wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼により形成され、浸炭処理が施されて、転がり、摺動面の表層部にMC型およびM6C型の炭化物が析出しているものである。
【0009】
この発明の転がり、摺動部品において、用いられる鋼中の各元素含有量の限定理由は次の通りである。
【0010】
C含有量
Cは鋼に必須の成分であるが、C含有量が0.1wt%未満であると部品としての強度を確保できず、0.8wt%を越えると材料溶解の際の偏析や、凝固時の粗大炭化物の発生が問題となる。C含有量は0.15〜0.3wt%であることが好ましい。
【0011】
Si含有量
Siは浸炭時に炭化物を微細化させる性質を有するが、その含有量が0.5wt%以下であると所定の微細炭化物を得ることができない。また、Siは浸炭を抑制する元素であるため、その含有量が1.5wt%を越えると浸炭時に必要な量の炭化物が生成しなくなる。しかも、塑性加工性も低下する。
【0012】
Cr含有量
Cr含有量が2.0wt%未満であると浸炭時に粗大な炭化物となりやすいM3C型炭化物が析出して分散強化量が小さくなり、8.0wt%を越えるとM7C3型およびM23C6型炭化物が過剰に析出するためかえって靭性が低下する。
【0013】
Mo、W、V含有量
これらの元素の含有量の限定理由は不明な点があるが、上述の通りであると、転がり、摺動面の表層部にMC型およびM6C型の炭化物が析出する。
【0014】
ここで、表層部とは、転がり、摺動面における寿命に影響を及ぼす深さ部分であり、たとえば内部起点剥離の要因となる最大剪断応力が作用する深さまでの部分である。この深さは、接触条件によって異なるが、多くの転がり、摺動部品おいて0.5mm程度までである。また、表層部には、MC型およびM6C型の炭化物のみが析出している。
【0015】
この発明の転がり、摺動部品によれば、転がり、摺動面の表層部に、M3C型の炭化物に比べて硬質であるMC型およびM6C型の微細炭化物が析出しており、MC型およびM6C型の炭化物はM3C型の炭化物に比べて硬質であるから、オロワン機構による粒子分散強化量における最小臨界粒子径がM3C型の炭化物よりも小さくなるとともに、M3C型の炭化物よりもオストワルド成長し難い炭化物で微細分散し易いため、表層部の表面硬さを増大させることができ、その結果潤滑油中に混入した異物により圧痕が生成しなくなるとともに、耐摩耗性が向上し、転がり部品または摺動部品を用いた製品の長寿命化を図ることができる。すなわち、炭化物を従来のM3C型からMC型およびM6C型にすることにより、より微細にかつ多く析出させることができるので、表層部の表面硬さを増大させることが可能となって材料強化につながる。また、当然のことながら清浄な潤滑油を用いた場合の寿命も長くなる。
【0016】
この発明による転がり、摺動部品において、Si含有量は、0.7〜1.3wt%であることが好ましく、0.9〜1.1wt%であることが望ましい。
【0017】
この発明の転がり、摺動部品の製造方法は、C:0.1〜0.8wt%、Si:0.5wt%を越えかつ1.5wt%以下、Mo:3.0〜6.0wt%、W:3.0〜8.0wt%、V:0.5〜10.0wt%、Cr:2.0〜8.0wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼より所定の形状に形成された加工済み部品素材を、900〜1200℃で2時間以上加熱することにより高濃度浸炭処理を施し、ついで1100〜1200℃で0.5時間以上加熱した後急冷する焼入処理を施し、さらに焼戻し処理を施すことを特徴とするものである。
【0018】
この発明による転がり、摺動部品の製造方法において、熱処理条件の限定理由は次の通りである。なお、用いる鋼中の各成分元素の限定理由は、上述した転がり、摺動部品の場合と同じである。ここでも、Si含有量は、0.7〜1.3wt%であることが好ましく、0.9〜1.1wt%であることが望ましい。また、焼戻し処理温度は、150〜300℃または500〜600℃に設定することが好ましいが、530〜570℃に設定することが望ましい。
【0019】
高濃度浸炭処理温度
この温度を900〜1200℃に限定したのは、表層部にMC型およびM6C型の炭化物のみを析出させるためである。
【0020】
高濃度浸炭処理時間
この時間を2時間以上に限定したのは、表層部に所望量の炭素を浸炭し、表層部にMC型およびM6C型の炭化物のみを析出させるためである。
【0021】
焼入処理の加熱温度
この温度を1100〜1200℃ に限定したのは、所望の表面硬さを得るためである。
【0022】
焼入処理の加熱時間
この時間を0.5時間以上に限定したのは、加工済み部品素材の温度を均一にするためである。
【0023】
この発明の製造方法により製造された転がり、摺動部品によれば、転がり、摺動面の表層部に、M3C型の炭化物に比べて硬質であるMC型およびM6C型の微細炭化物が析出しており、MC型およびM6C型の炭化物はM3C型の炭化物に比べて硬質であるから、オロワン機構による粒子分散強化量における最小臨界粒子径がM3C型の炭化物よりも小さくなるとともに、M3C型の炭化物よりもオストワルド成長し難い炭化物で微細分散し易いため、表層部の表面硬さを増大させることができ、その結果潤滑油中に混入した異物により圧痕が生成しなくなるとともに、耐摩耗性が向上し、転がり部品または摺動部品を用いた製品の長寿命化を図ることができる。すなわち、炭化物を従来のM3C型からMC型およびM6C型にすることにより、より微細にかつ多く析出させることができるので、表層部の表面硬さを増大させることが可能となって材料強化につながる。また、当然のことながら清浄な潤滑油を用いた場合の寿命も長くなる。
【0024】
この発明の転がり、摺動部品の製造方法において、前記高濃度浸炭処理の加熱の後、焼入処理の前に一旦急冷することがある。特に、大型の転がり、摺動部品を製造する場合には、このようにすることが好ましい。小型の転がり、摺動部品を製造する場合には、高濃度浸炭処理の加熱の後の急冷は、特に必要としない。
【0025】
【発明の実施形態】
以下、この発明の具体的実施例を比較例とともに説明する。
【0026】
実施例
C:0.2wt%、Si:0.9wt%、Cr:4.4wt%、Mo:4.7wt%、W6.8wt%、V:1.8wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル1.6%の雰囲気中において950℃で8時間加熱する高濃度浸炭を施し、この高濃度浸炭処理に引き続いて1200℃で60分間加熱して80℃に油冷する焼入処理を施し、その後550℃で3時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0027】
比較例1
C:1.01wt%、Si:0.24wt%、Mn:0.36wt%、Ni:0.04wt%、Cr:1.46wt%、Mo:0.01wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル0.6%の雰囲気中において850℃で0.7時間加熱する浸炭処理を施した後80℃に油冷し、さらに160℃で2時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0028】
比較例2
C:1.01wt%、Si:0.24wt%、Mn:0.36wt%、Ni:0.04wt%、Cr:1.46wt%、Mo:0.01wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において850℃で3.5時間加熱する浸炭処理を施した後80℃に油冷し、さらに160℃で2時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0029】
比較例3
C:1.01wt%、Si:0.24wt%、Mn:0.36wt%、Ni:0.04wt%、Cr:1.46wt%、Mo:0.01wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼を用いて型番6206の転がり軸受用の内輪素材を形成した。ついで、この内輪素材に、カーボンポテンシャル1.1%の雰囲気中において950℃で2時間加熱することにより既存の炭化物をマトリックス中に溶け込ませる処理を施した後80℃に油冷し、ついでカーボンポテンシャル1.3%の雰囲気中において850℃で3.5時間加熱する浸炭処理を施した後80℃に油冷し、さらに160℃で2時間加熱する焼戻し処理を施した。こうして内輪を製造した。
【0030】
実施例および比較例1〜3の内輪の軌道面の表面から最大せん断応力が作用する深さまでの表層部の硬さ、およびこの表層部における炭化物の面積率は表1に示す通りであった。
【0031】
【表1】
【0032】
評価試験
実施例および比較例1〜3の内輪を、JIS SUJ2からなりかつ通常の浸炭窒化処理が施されてなる外輪および玉と組み合わせて型番6206C3の玉軸受を組み立てた。そして、これらの玉軸受を使用し、異物が混入した潤滑油を用いて寿命試験を行った。試験条件は表2に示す通りである。
【0033】
【表2】
【0034】
なお、表2に示す試験機は、同時に2個の玉軸受の試験を行うことが可能であり、表2中のラジアル荷重は、1個の玉軸受のラジアル荷重を意味する。また、寿命は、試験機に同じ内輪を備えた2個の玉軸受をセットし、いずれかの玉軸受の内輪が破損するまでの時間を計測するという試験を5回繰り返し、破損までの時間の平均をとった。
【0035】
その結果、比較例1の寿命を1とした場合の寿命比は、実施例:比較例2:比較例3で20:8:10であった。
Claims (4)
- C:0.1〜0.8wt%、Si:0.5wt%を越えかつ1.5wt%以下、Mo:3.0〜6.0wt%、W:3.0〜8.0wt%、V:0.5〜10.0wt%、Cr:2.0〜8.0wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼により形成され、浸炭処理が施されて、転がり、摺動面の表層部にMC型およびM6C型の炭化物が析出している転がり、摺動部品。
- 前記鋼中のSi含有量が0.7〜1.3wt%である請求項1の転がり、摺動部品。
- 前記鋼中のSi含有量が0.9〜1.1wt%である請求項1の転がり、摺動部品。
- C:0.1〜0.8wt%、Si:0.5wt%を越えかつ1.5wt%以下、Mo:3.0〜6.0wt%、W:3.0〜8.0wt%、V:0.5〜10.0wt%、Cr:2.0〜8.0wt%を含み、残部Feおよび不可避不純物からなる鋼より所定の形状に形成された加工済み部品素材を、900〜1200℃で2時間以上加熱することにより高濃度浸炭処理を施し、ついで1100〜1200℃で0.5時間以上加熱した後急冷する焼入処理を施し、さらに焼戻し処理を施すことを特徴とする転がり、摺動部品の製造方法。
Priority Applications (1)
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JP2003090474A JP2004292933A (ja) | 2003-03-28 | 2003-03-28 | 転がり、摺動部品およびその製造方法 |
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Family Applications (1)
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- 2003-03-28 JP JP2003090474A patent/JP2004292933A/ja active Pending
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