JP4487257B2 - 変寸抑制特性に優れた冷間ダイス鋼 - Google Patents

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Description

本発明は、金型材料、特に家電、携帯電話や自動車関連部品を成形する金型材料に適した冷間ダイス鋼に属する。
従来、冷間ダイス鋼にはJIS SKD11が多用されているが、一部ではこれに対して、新たに被削性、靭性、二次硬化硬さを向上させる試みがなされている。例えば、C,Crの添加量を調整することでSKD11のマトリックス(基地)組成を極力維持しながら未固溶炭化物を減らし、被削性や靭性を改良した10%CrSKD(特許文献1参照)と呼ばれるもの、SKD11のマトリックス組成を極力維持しながら未固溶炭化物量を減らした上に、更にMo量を高めることで二次硬化能を高めた8%CrSKD(特許文献2参照)と呼ばれるものがある。
特開平11−279704号公報 特開平01−011945号公報
上述の手法は、冷間ダイス鋼に求められる諸特性を向上するのに有効なものである。しかし、これらはいずれも焼戻し時に生じる変寸が大きいところに課題があり、つまり、焼戻しの二次硬化領域にて発生する膨張量が大きいことから、熱処理後の加工工数の増加に繋がるものである。
この焼戻し時の膨張変寸の発生は、先に施された焼入れ時の残留応力の解放(残留オーステナイトの分解)が原因であって、これは、従来、二次硬化を期待して添加されるMo等が形成する焼戻し炭化物の析出により促進されるものである。また、残留オーステナイトは、造塊時に形成され、もとより存在する未固溶の一次炭化物によって拘束されれば、その焼戻し時の分解は抑制されるが、一次炭化物は被削性の劣化要因となることから低減することが好ましく、これによってやはり残留オーステナイトの分解は促進され、変寸は助長される。
近年、金型加工業においては、加工技術の発達により、熱処理前の加工工数こそ激減してはいるが、熱処理後の加工、調整の工数は以前よりあまり変化しておらず、特にこの熱処理後の工程改善が急務となっている。そこで本発明は、焼入れ、焼戻し時に発生する変寸を抑制することで、金型製作工数を依然として引き上げていた熱処理後の加工、調整工程を削減できる、特に金型材料に適した冷間ダイス鋼を提供するものである。
まず、本発明者らは、冷間ダイス鋼の焼戻し時において、その求められる諸特性の全てを維持するためには根本的な抑制が難しい変寸を、逆に相殺手段を検討することで抑制する手法について検討した。加えて、焼戻し時のマトリックスに起こる組織状態を詳細に調査し、焼戻し炭化物そのものには二次硬化への寄与度が薄いことも突きとめた。更には、偏析を軽減することでも熱処理変寸を抑制でき、そのために有効な手法についても検討した。そして、変寸を抑制できかつ、硬度も上昇できる、しかも再現性に優れた新たな手段を見いだしことで、その他の特性をも十分に備えた冷間ダイス鋼を達成できる手段を突きとめ、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、質量%で、C:0.7〜1.6%未満、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、P:0.05%未満(0%を含む)、S:0.01〜0.12%、Cr:7.0〜13.0%、MoまたはWの1種あるいは2種を(Mo+W/2):0.5〜1.7%、V:0.7%未満(0%を含む)、Ni:0.3〜1.5%、Cu:0.1〜1.0%、Al:0.1〜0.7%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物で構成され、次式で定義される偏析指数Kが−23以上の鋼である変寸抑制特性に優れた冷間ダイス鋼である。
K=6.1224(C)-22.605(Si)-2.0711(Mn)+2.119(Ni)-130.316(S)-2.2264(Cr)
+16.674(Mo)+33.257(W)-11.06(Al)+5.799(V) (単位;kg/m3
(M)は質量%である
好ましくは、質量%で、Ni/Al:1〜3.7を満たす上記の冷間ダイス鋼であり、あるいはさらに、質量%で、(Cr−4.2×C):5以下かつ、(Cr−6.3×C):1.4以上の関係を満たす冷間ダイス鋼である。好ましくは、0.3%以下のNbおよび/または0.2%以上のWを含有する。また、Siを0.6〜1.5%に調整することも望ましい。
本発明であれば、熱処理変寸および変形が少なくなるため、熱処理後の手直しによる仕上げ加工が低減/省略できることから、金型製造のコスト低減が可能になる。さらに、金型製作の納期短縮や、より複雑な形状の金型の熱処理にも対応の可能性が広がるため、産業上極めて有益な技術となる。
本発明の特徴の一つは、冷間ダイス鋼に求められる諸特性の維持に係り根本的な抑制が難しい変寸を、逆に相殺することで抑制する手法を採用したところにある。しかも、その熱処理硬化挙動を詳細に見直すことで突きとめた、二次硬化能の不足についても、変寸の抑制と同時にその二次硬化能をも補う手段であって、その結果、被削性や耐摩耗性といった他の必要特性をも阻害せずに、優れた変寸抑制特性と高硬さを達成できる手段を見いだしたところにある。
すなわち、本発明は、一次炭化物を低減し、諸特性を満足できる範囲で、できるだけ変寸の発生を抑制し得る成分組成を基に、適正量のNi,Alを添加し、しかも、それに応じた適正量のCuをも添加した、変寸制御特性および高硬度特性に優れた冷間ダイス鋼である。
本発明のNi,Alは、それらが金属間化合物を形成し、上記工具鋼の二次硬化領域での焼戻し時(時効時)に析出することで、収縮方向の変寸に働くことから、残留オーステナイトの分解による上記の膨張を相殺することができる。そして、このNi−Al系金属間化合物を工具鋼の二次硬化領域温度でこそ析出させることが、上記の相殺効果を発揮する上で重要であって、そのための作用効果を有するCu量の調整も適正に行なうものである。
さらに、本発明者らは、特に膨張変寸の問題が多発する、残留オーステナイトの分解と焼戻し炭化物の析出する高温焼戻し時の熱処理において、そのマトリックスがどのような組織変化を呈しているのかを、透過型電子顕微鏡による観察を利用して詳細に調査した。その結果、変寸を促進する焼戻し炭化物については、耐摩耗性の向上にこそ大きく寄与するものの、特に二次硬化の寄与要因として従来考えられてきた微細な炭化物の析出はほとんど確認されず、二次硬化の程度はマトリックス側の要因によるところが大きいことを知見した。
本発明が採用するNi−Al系金属間化合物の場合、それらは析出強化元素としての二次硬化作用も有することから、上記の変寸相殺作用に加えて、二次硬化作用をも更に補完し、よって、被削性や耐摩耗性といった他の必要特性を阻害せずに、優れた耐変寸特性と高硬度特性を達成できるのである。
この金属間化合物による析出強化は、従来、マルエージング鋼等への適用が多く見られる手段であるが、0.2(質量%)以上のCを含む工具鋼の分野、特に本発明の対象とするような冷間工具鋼の分野では使用されてこなかった。本発明では、その変寸相殺特性に加えて、工具鋼自体に考えられてきた焼戻し炭化物による二次硬化作用が実は薄いものであることをも知見し、このような金属間化合物の利用にまで着目できたものであるが、それであっても、そのNiやAl個々には工具鋼の要求特性を阻害する作用もあることから、工具鋼の成分組成、そしてCuとの相互かつ適正な合金設計が必要となる。
次に、焼入れ時に発生する変寸について述べると、その程度は焼入れ時のマトリックス中の固溶C量に左右され、すなわち、マルテンサイト組織中に固溶するCによって結晶格子が押し広げられ、膨張するものである。従来鋼の場合は、その焼入れ時の固溶C量がSKD11にならって0.6(質量%)の付近になるように全体の合金設計がされているが、本発明の冷間工具鋼は、その固溶C量を下げ、0.53%付近を目標にした成分設計を行っている。
そして、これをCu,Ni,Alという固溶C量を低下させる元素の添加によっても達成しており、焼入れ時の膨張を抑制する設計則としている。このような固溶C量を達成するに好ましい要件は、本発明の基本組成とCu,Ni,Al量の適正な添加量に加えて、冷間ダイス鋼全体としての添加C,Cr量を(Cr−4.2×C):5以下かつ(Cr−6.3×C):1.4以上に調整することである。望ましくは、(Cr−6.3×C):1.7以上である。
これらをまとめた概念図が図1である。本発明の冷間工具鋼は、SKD11よりも大きな二次硬化が起こるのにも関わらず、より変寸を抑えることが可能なものであることを示している。本発明の要点は、(1)焼入れ時の固溶C量を減少させることと、(2)Cu,Ni,Alの添加により二次硬化時のマトリックスの体積変化を相殺するという2点が同時に満たされているところである。(1)についての考え方は、固溶C量を汎用焼入れ温度である1030℃前後で0.53%前後にすることが産業上最も重要である。(2)についての考え方は、CuとNiの添加により、熱間、冷間加工性の劣化が懸念されるが、それを防止可能なレベルでかつ最大の析出強化を引き起こすバランスに調整することが重要である。
以下、本発明の冷間工具鋼を構成する成分組成について説明する。なお、各元素の含有量を示す%の表記は、質量%である。
Cは一部が基地中に固溶して強度を付与し、一部は炭化物を形成することで耐摩耗性や耐焼付き性を高める重要な元素である。ここで、鋼中のCが固溶Cと炭化物になる割合は主にCrとの相互作用で決まるため、CはCrとの相互作用を認識して同時に規定することが必須である。しかし、被削性と熱処理変形安定性の両者をバランスよく満たす実用的な冷間ダイス鋼とするためにも、Cの成分範囲は単独において0.7〜1.6%とする。好ましくは、0.9〜1.3%である。
Siは本発明の冷間ダイス鋼にとって重要な元素である。Siは通常、脱酸剤として0.3%程度が添加されるが、本発明では焼入れ時の膨張を抑えた成分設計としている結果として焼入れ硬さの低下が懸念されるので、焼戻し時の490℃付近までの軟化現象を抑制するために通常よりも高い0.5%以上とすることが重要である。なお、過多の含有はデルタフェライトの形成を起こすため、上限を3.0%とする。好ましくは、0.9〜2.0%である。
MnもSiと同様、脱酸剤として使用され、最低でも0.1%を含有する。しかし、過度に含有すると切削性を阻害するので、上限を3.0%に規定した。好ましくは、0.1〜1.0%である。
Crは焼入れ性を高めるとともに、炭化物を形成するのに欠かせない元素である。ここで、Cの時に同様、鋼中のCrが固溶Crと炭化物になる割合はCとの相互作用によって決まるため、やはりその含有量はCとの相互作用を認識して同時に規定することが必須である。しかし、被削性と熱処理変形安定性の両者をバランスよく満たす実用的な冷間ダイス鋼とするためにも、Crの成分範囲は単独において7.0〜13.0%とする。好ましくは、8.0〜11.0%である。
MoとWは同様の作用効果を付与し、その程度は原子量の関係から(Mo+W/2)で規定することができる。Mo,Wは工具鋼の二次硬化を担う元素とされ、特にバイト、ドリル等の小物製品への適用で高硬度を必要とする高速度工具鋼に多く添加される。本発明においても、Mo,Wは二次硬化を発揮するマトリックス状態に大きく寄与するものであることから添加を必要とするが、0.5%より少ないと十分な効果が得られず、一方、これらの元素は上記の通り変寸を助長することから、冷間金型等の大物製品にとって過多の添加はよくない。よって、本発明の冷間ダイス鋼では(Mo+W/2)で0.5〜1.7%と規定した。好ましくは、0.75〜1.5%である。
AlはNiと結合してNiAlもしくはNiAlといったNi−Al系金属間化合物を形成し、析出による二次硬化を担う。また、この析出反応によりマトリックスが収縮するため、工具鋼における二次硬化時の膨張反応を相殺し、その結果、変寸を抑制する、本発明にとっての重要元素である。しかし、0.1%より少ないと十分な効果は得られず、一方、0.7%を超える過多のAlは著しいデルタフェライトの形成を起こすので、0.1〜0.7%に規定する。好ましくは、0.1〜0.5%、さらに好ましくは、0.15〜0.45%である。
Niは、上記の通り、Alと結合してNi−Al系金属間化合物を形成・析出し、二次硬化と変寸の抑制を同時に達成する、本発明にとっての重要元素である。また、後述のCuを含有する本発明の冷間ダイス鋼にとって赤熱脆性を抑える有益な元素でもある。しかし、0.3%より少ないと十分な効果は得られず、一方、1.5%を越える過多の含有はFe中のCの固溶限を上げ、焼鈍状態の加工性を阻害するため、0.3〜1.5%とした。好ましくは、0.4〜1.5%、さらに好ましくは、0.5〜1.3%である。
さらには、Ni/Al:1〜3.7の関係を満たすよう、Ni,Al量を調整することで、金属間化合物の形成に参加しない、マトリックス中のNi,Al量を調整することができる。特に金属間化合物の析出後において、マトリックス中のNi量を低減できるので、熱処理(時効)後の被削性を良好に保つことができる。好ましくは、Ni/Al:1.2〜3.7、より好ましくは、1.3〜3.7、さらに好ましくは、2.5〜3.5である。
Cuは、そのCu金属相が約480℃以上から析出し始め、これが金属間化合物の析出核になることから、本来はより高温で析出する上記のNi−Al系金属間化合物をちょうど工具鋼の二次硬化温度付近で析出させることを可能にする。よって、本発明のNi−Al系金属間化合物の析出による変寸相殺効果および二次硬化を最大限に発揮できる。しかし、Cuは多量に添加すると赤熱脆性が起こるため、本発明では0.1〜1.0%に規定することが重要である。好ましくは、0.2〜0.8%である。
Sは被削性を向上させる有益な、本発明の冷間ダイス鋼にとっての必須元素である。しかし、過多に含有すると靭性を低下させるので、0.01〜0.12%とした。好ましくは、0.03〜0.09%である。
Nbは組織中の炭化物の分布を均一化し、熱処理変形を小さくする働きがあることから、本発明の冷間ダイス鋼にとっては、その含有の好ましい元素である。特に0.03%以上の含有が好ましいが、その含有により形成されるMX化合物の量が多すぎると被削性を害するので、0.3%以下の含有が望ましい。
また、以下の元素は下記の範囲内であれば本発明鋼に含まれてもよい。
Pは靭性を阻害する元素であることから、0.05%未満、好ましくは0.02%以下に規制する。Vは焼入れ性の向上の上で添加することができるが、被削性を阻害する元素であることから、含有する場合であっても0.7%未満、好ましくは0.5%以下に制限する。
そして、本発明のもう一つの特徴こそが、更なる変寸の抑制手段として、成分偏析を軽減できる手法を採用したところにある。本発明では、上記の合金成分の領域において偏析を軽減することで、更なる熱処理変寸の抑制に働く。しかもその偏析軽減は、成分組成の調整により行なうことから、変寸の小さい冷間ダイス鋼の工業的再現性が高い。本発明の冷間ダイス鋼は被削性向上のためにSの添加を許容しているが、Sは造塊工程における凝固途上で固相部から液相部へ過度に濃化すると、そのSが濃化した残液の比重を著しく軽くする。これにより、その濃化溶鋼は浮上して、凝固界面から遠ざかるために、凝固界面近傍から逐次固まるはずの挙動を乱し、これが偏析を助長し、変寸の一要因となるのである。そこで、本発明では、上記の現象を抑制するための要件として、各元素の固相/液相の濃度分配率と、比重変化を合成した「偏析指数K」を採用して、その値を最適に調整することで、偏析を軽減するものである。この偏析指数Kは下式で示される。
K=6.1224(C)-22.605(Si)-2.0711(Mn)+2.119(Ni)-130.316(S)-2.2264(Cr)
+16.674(Mo)+33.257(W)-11.06(Al)+5.799(V) (単位;kg/m3
上式のKの物理的意味であるが、それは固相率75%時における、残液の比重変化量を示すものであり、式中の(M)は各元素の質量%である[L.H.Shaw,J.Beech,R.H.Hickley:Ironmaking and Steelmaking,13(1986),P.154]。各項の係数は分配率と比重変化量を掛け合わせたものに相当し、この係数の負の値が高い元素が偏析を助長し、Sの負の係数が高いことが分かる。そして、本発明では、この偏析指数Kを−23以上に調整することが重要である。その調整ために好ましくは、鋼中のSを高めた分、Siを下げることと、および/または、Wを添加する合金設計であり、偏析指数Kを−23以上に維持することを容易にする。この場合、既述の作用効果を踏まえても、Siは0.6〜1.5%の低域の範囲が好ましく、Wは0.2%以上の含有が好ましい。また、偏析指数Kの値も、同様に、−20以上に調整することが、さらに好ましい。
本発明は、以上を満たす冷間ダイス鋼であって、残部はFeおよび不可避的不純物で構成される冷間ダイス鋼であれば、優れた変寸抑制特性と二次硬化を同時に達成できる。
以下、実施例により本発明の効果を説明する。
(実施例1)
大気中の高周波誘導溶解により、表1に示す残部Feおよび不可避的不純物の組成に調整した本発明No.1〜5、比較例No.1〜4の、断面寸法200×200mmのインゴットを得た。ここで比較例No.2はJIS SKD11相当の材料である。
Figure 0004487257
まず、これらのインゴットの一部を切り出し、熱間加工を施して断面寸法15mm×15mmの線状素材とし、焼鈍処理後に8mmφ×80mmLの試験片を作製して、長手方向の寸法の測定を行った。そして、これらに1030℃の焼入れ(気圧0.506MPaの窒素冷却)と、続く2回の、それぞれの試料が二次硬化を起こす高温焼戻しを行なって硬さを60〜63HRC前後に調質し、その状態で再び寸法の測定を行った。それぞれの試料における熱処理前後での寸法変化量、すなわち二次硬化時の変寸量を図2に示す。この熱処理変寸量は、上記の熱処理前後の長手方向の寸法測定結果より、以下の式で算出したものである。
熱処理変寸量=[(熱処理後の寸法−熱処理前の寸法)/熱処理前の寸法]×100
比較例No.3は膨張量が最も多く、変寸が大きい。これはMoを過多に含有するためである。比較例No.2,4はMo当量(Mo+W/2)が1.0%辺りの適度に調整されてこそいるが、やはり0.05%前後の膨張を起こしている。これに対し、適正量のNi,Cu,Alが添加された本発明No.1〜5と比較例No.1は、熱処理変寸が0.01%以下に抑制されており、二次硬化領域でのNi−Al系金属間化合物の析出反応による膨張の相殺が作用していることが分かる。
(実施例2)
次に、焼鈍処理後材より図3に示す形状のテストピースを作製した。なお、図3の矢印(1)(正面図左から2.5mm)、矢印(2)(正面図左から5.0mm)、矢印(3)(正面図左から7.5mm)の位置におけるクリアランス(隙間寸法)は0.5mmである。そして、実施例1に同じ熱処理を行なった後に、改めて同位置のクリアランスを測定して、それらの変化量から下記の計算式による“ねじれ量”を求めた。
ねじれ量=|[(1)〜(3)の平均変化量]
−[(1)もしくは(3)のうちの、上記平均量から最も離れた方の値]|
計算したねじれ量の結果を図4に示す。比較例No.1〜4のねじれ量が大きいが、Ni−Al系金属間化合物の析出によりマトリックスの内部歪が相殺され、偏析指数Kも適正に調整されている本発明No.1〜5は、ねじれ量も少ないことが分かる。しかも適量のNbを含む本発明No.1〜3は、±0.0001mmの測定精度においてねじれがほぼ確認されない良好な結果を得た。
(実施例3)
実施例1で造塊したインゴットの残部を断面寸法50mm×100mmに熱間加工し、780℃×3時間の焼鈍を実施した後、45mm×90mm×200mmの素材に切削加工した。そして、90mm×200mmをなす面において、熱処理前後の平面度を測定した。加工面は詳細に調べると微妙に湾曲しているが、平面度は、5mm間隔の格子点上の法線を調べ、それらを平均化した法線を代表法線とし、その線の方向に向かっての最大高さと最小高さの部位を探すことで、その高さの差を測定値とした。熱処理は1030℃の焼入れ(気圧0.506MPaの窒素冷却)と、510℃×5時間の2回の焼戻しを行った。図5に平面度の熱処理前後の変化を示す。
図5より、本発明No.1〜5および比較例No.2,3は、平面度の変化が0.03mm以下の良好な値を示している。なお、Wの低い本発明No.2、Siの高い本発明No.3は、表1に示した偏析指数Kが比較的低く(負の値が高く)、平面度の変化はやや高めになっている。これに対し、偏析指数Kが著しく低い比較例No.1,4は、平面度の変化が0.05mm以上と大きい。
冷間ダイス鋼の焼戻しによる寸法および硬さの変化を示す図であり、本発明の効果を説明する図である。 冷間ダイス鋼の熱処理前後での寸法変化量を示す図である。 冷間ダイス鋼の熱処理前後でのねじれ量を測定するための、本発明の実施例で使用するテストピースを示す図である。 冷間ダイス鋼の熱処理前後でのねじれ量を示す図である。 冷間ダイス鋼の熱処理前後での平面度の変化量を示す図である。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.7〜1.6%未満、Si:0.5〜3.0%、Mn:0.1〜3.0%、P:0.05%未満(0%を含む)、S:0.01〜0.12%、Cr:7.0〜13.0%、MoまたはWの1種あるいは2種を(Mo+W/2):0.5〜1.7%、V:0.7%未満(0%を含む)、Ni:0.3〜1.5%、Cu:0.1〜1.0%、Al:0.1〜0.7%を含み、残部はFeおよび不可避的不純物で構成され、次式で定義される偏析指数Kが−23以上の鋼であることを特徴とする変寸抑制特性に優れた冷間ダイス鋼。
    K=6.1224(C)-22.605(Si)-2.0711(Mn)+2.119(Ni)-130.316(S)-2.2264(Cr)
    +16.674(Mo)+33.257(W)-11.06(Al)+5.799(V) (単位;kg/m3
    (M)は質量%である
  2. 質量%で、Ni/Al:1〜3.7を満たすことを特徴とする請求項1に記載の変寸抑制特性に優れた冷間ダイス鋼。
  3. 質量%で、(Cr−4.2×C):5以下かつ、(Cr−6.3×C):1.4以上の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の変寸抑制特性に優れた冷間ダイス鋼。
  4. 質量%で、0.3%以下のNbを含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の変寸抑制特性に優れた冷間ダイス鋼。
  5. 質量%で、0.2%以上のWを含有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の変寸抑制特性に優れた冷間ダイス鋼。
  6. 質量%で、0.6〜1.5%のSiを含有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の変寸抑制特性に優れた冷間ダイス鋼。
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