JP5597999B2 - 被削性に優れた冷間工具鋼 - Google Patents

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Description

この発明は被削性に優れた冷間工具鋼に関する。
本発明の対象には、冷間において鍛造、順送型プレスによって加工するのに用いられる冷間金型、機械構造部材が含まれる。
ここで冷間金型には、ブロックパンチ,ボタンダイ,パイロットパンチ,ストレートパンチ,絞りパンチ,絞りダイ,曲げパンチ・ダイ,パンチ型切り刃・ロール型切り刃,ネジや溝転造型,鍛造型,歯車用パンチ部材・ダイス,スエージングダイス等が含まれる。
また機械構造部材には、ベースプレート,ガイドプレート,スペーサー,ストリッパ,スクリュープラグ,リテーナー,ガイドブシュ,ノックブシュ,ストリッパガイド,ノックアウトピン,シャンク,ガイドポスト,固定キー,塑性加工工具,スクリュー部材,カム部品,シールプレート,ゲージ類等が含まれる。
また上記用途の金型や構造部材には、CVD処理,PVD処理,TD処理,窒化等の表面処理やショットピーニング等の表面改質を行った冷間金型や構造部材も含まれる。
冷間工具鋼に求められる特性として焼入性,硬さ,耐摩耗性,被削性,靭性,変寸特性等の特性があり、所望とする特性に応じて種々の合金元素が添加されている。
従来、工具鋼としての炭素工具鋼や、合金元素の添加量の少ない合金工具鋼では、焼入性を高める元素としてMnが多く添加されている。
Mnは焼入性を向上させる効果的な元素であるが、Mnを多量に添加すると焼入後に残留オーステナイトが多量に残存するようになり、従ってMnを添加するとしても自ずと限界があり、一定以上のMnを添加することができない。
そのため、主としてMnの添加によって焼入性を高めている従来の炭素工具鋼や合金工具鋼等の工具鋼は、そもそも焼入性が不十分である。
従って焼入れするに際して水冷や油冷等の急速冷却が必須であり、この場合冷却中に表面と内部で、また製品の肉厚の異なる部位で冷却速度の差に起因して温度差が大となり、焼入れ(熱処理)に伴う変寸即ち材料の変形(熱処理変形)が大きくなってしまう。
こうした問題から、これら炭素工具鋼や合金工具鋼は大型の金型等への適用ができず、対象製品が厚さ30mm以下の小物に限定されてしまう。
これに対して、冷間ダイス鋼では焼入性の向上元素としてCrを多量に添加している。
Crは、同一添加量の下ではMnに比べて焼入性を向上させる効果は小さいものの、Crは多量に添加することができるため、結果としてMn添加のみの炭素工具鋼や合金工具鋼に比べて冷間ダイス鋼の焼入性は遥かに優れている。
そのため焼入れの際の冷却速度は除冷で十分となるので、炭素工具鋼や合金工具鋼における上記のような熱処理による材料の変形を抑制することができる。
合金元素としての上記のCrやMo,W等の炭化物形成元素は、マトリックス中に硬い炭化物を形成することで硬さ,耐摩耗性を高める働きを有し、それらの添加量を多くして炭化物の析出量を多くすることで硬さも増大する。
一方で炭化物の析出量の増加は、工具鋼を切削,研削等の機械加工を行ったときに母材よりも硬い炭化物が刃具の刃先や砥石を摩耗させてしまい、被削性を低下させる。また炭化物の析出は工具鋼の靭性も低下させる。
従来、硬さや耐摩耗性を保ったまま被削性を向上させる手段として、Mnと同時にSを添加することでマトリックス中にMnS化合物を層状に析出させる点が下記特許文献1に開示されている。
しかしながらMnSを析出させて被削性を向上させる方法では、MnSの析出量の増加に伴って被削性は向上するものの靭性が低下してしまう。従って実際上被削性を十分に向上させることは困難である。
尚、本発明に対する先行技術として下記特許文献2,特許文献3,特許文献4に開示されたものがある。
特許文献2及び特許文献3では、被削性を保ったまま変寸特性を改良する方法として、Cu,Ni,Alを添加することでCuを核としたNi-Al系化合物を析出させる点を開示している。
これら特許文献2,特許文献3に開示のものは、残留オーステナイト分解が膨張の変寸を発生させる際に、Cuを核としたNi-Al系化合物の析出による収縮の変寸を生ぜしめることで、膨張の変寸と収縮の変寸とを相殺させ、全体としての変寸を抑制することを狙いとしている。
特許文献4に開示のものは、鍛造方向と平行な断面における粗大な炭化物の面積率Lと、鍛造方向と直角方向の断面における粗大な炭化物の面積率Tの比率を一定範囲内に制御し、変寸の異方性の問題を解決するもので、そこには合金元素としてMn,Ni,Crの外Mo+0.5W,Vを添加した点が開示されている。
但しこの特許文献4に開示のものは本発明と異なった目的を有するもので、そこには本発明の成分範囲に属する実施例は存在しておらず、本発明とは別異のものである。
特開平8−120333号公報 WO2004/059023号公報 特開2006−152356号公報 特開2009−132990号公報
本発明は以上のような事情を背景とし、焼入性,硬さ,耐摩耗性を高く維持しつつ被削性に優れた冷間工具鋼を提供することを目的としてなされたものである。
而して請求項1のものは、質量%でC :0.50〜1.20%,Si:0.10〜3.00%,Mn:1.00〜2.00%,Cr:4.50〜10.0%,Mn/Cr:0.20〜0.32,Mn+0.05Cr:≧1.25%,Mo+0.5W:0.01〜0.18%,(Mo+0.5W)/Mn:0.01〜0.09,Cu:0.10〜1.00%,Ni:0.30〜1.50%,Al:0.10〜0.70%,Ni/Al:1.00〜4.10,V+Nb+Ta+Ti+Zr:≦1.00%,残部Fe及び不可避的不純物の組成を有し、φ3×10mmの試験片を焼入温度で5min保持したあと、100℃以下までの冷却速度を15℃/min以下で焼入れした場合の硬さを58HRC以上としたことを特徴とする。


請求項2のものは、請求項1において、質量%でS :0.01〜0.15%を更に含有することを特徴とする。
発明の作用・効果
以上の本発明は、MnとCrの複合添加且つそれらの適量添加により、Mnの添加による作用と、Crの添加による作用との協働作用によって冷間工具鋼の焼入性を高く確保するとともに、Mnの添加による焼入性の向上効果によりCrの添加量を低量として、そのことによって炭化物形成を抑制し、炭化物による被削性の低下を改良した点、及びMnとCrの比率Mn/Crを適正に調整することで、Mnの過剰による焼入焼戻し後の硬さの低下を防ぎ、また焼入性の確保と炭化物析出量の低量化との両立を図った点を1つの特徴としている。
図1は、本発明の冷間工具鋼におけるCrの添加量とMnの添加量との関係を表している。図1中の領域Hが本発明におけるCrとMnの添加量の領域である。
他の特徴として、本発明では、(Mo+0.5W)の添加により硬さの確保を図りつつ、(Mo+0.5W)とMnとの比率(Mo+0.5W)/Mnが過剰とならないように規制し、Mnとの関係で(Mo+0.5W)が過剰となることにより却って硬さが低下してしまうのを防止している点、
Ni,Alの添加により且つNi/Alの比率を適正な比率とすることで、Cr,Mo,W等の炭化物よりも更に硬いNi-Al系化合物(NiAl,NiAl)を析出させ、炭化物をそのNi-Al系化合物により置換することで所望の硬さ,耐摩耗性を確保しつつ全体の析出物量を低量化し、そのことによって被削性を効果的且つ飛躍的に高め得た点、
また本来Ni-Al系化合物は析出温度が非常に高く、冷間工具鋼の焼戻し温度帯では析出しないところを、低融点のCuを併せて添加することで、Cuを核としてNi-Al系化合物を析出し易くし、かかるNi-Al系化合物を焼戻し温度帯で析出させ、併せて切削等の機械加工時に低融点のCuの析出物を溶融させて工具をコーティングし、被削性をより一層高めた点、
等を特徴としたものである。
かかる本発明によれば、焼入性,硬さ,耐摩耗性を高く維持しつつ被削性に優れた冷間工具鋼を提供することができる。
本発明では、必要に応じ請求項2に従って更にSを冷間工具鋼に添加しておくことができる。
これにより冷間工具鋼の被削性をより一層高めることができる。
次に本発明における各化学成分の添加理由及び成分限定理由を以下に詳述する。
C :0.50〜1.20%
Cは焼入時に発生するマルテンサイトの硬さを向上させるため、必要な硬度に応じて添加する必要がある。58HRC以上を得るためには、少なくとも0.50%以上の添加が必要である。ここでHRCとは、ロックウェルC硬さのことを言う(以下、同じ)。一方、添加量に比例して炭化物量が増加してしまうため、添加量は最大でも1.20%に留める必要がある。より好ましいCの添加量範囲は0.75〜1.05%である。
Si:0.10〜3.00%
Siは鋼中でマトリックス中に固溶し、マルテンサイト硬さを向上させる効果がある。また、焼入性を向上させる効果もある。これらの効果を得るためには、最低でも0.10%以上の添加が必要である。但し多量に添加するとマトリックス中にδ-フェライトが生成し、焼入れ硬さが著しく低下するため、添加量は最大でも3.00%に留める必要がある。より好ましいSiの添加量範囲は1.25〜2.50%である。
Mn:1.00〜2.00%
Mnは鋼の焼入性を向上させる元素であり、またSと結合してMnSとしてマトリックス中に析出することで被削性を向上させる元素である。MnをCr,Mo,Wなどの他の焼入性向上のための添加元素の代替として利用するためには、最低でも1.00%以上の添加が必要である。このような観点から、好ましくは1.25%以上、更に好ましくは1.50%以上である。一方、多量に添加すると残留オーステナイトが生成するようになるため、添加量は最大でも2.00%に留める必要がある。
Cr:4.50〜10.0%
Crはマトリックス中に固溶して焼入性を向上させる一方、MC系に代表される炭化物を形成し、マトリックス中に微細に分散・析出することで硬さを向上させ、またピン止め効果により結晶粒を微細化させる。但しCr添加量が少なすぎると炭化物の析出量が減少し、上記の効果を十分得ることができなくなるため、最低でも4.50%の添加が必要である。
一方、多量に添加すると粗大な一次炭化物がマトリックス中の伸鍛方向に凝集析出し、靭性や変寸特性に悪影響を与え、また炭化物の析出量増大により被削性を低下させるため、添加量は最大でも10.00%に留める必要がある。
Mn/Cr:0.20〜0.32
炭化物量を減らし、焼入性を確保するためにはMn比率を高めることが望ましい。具体的には0.20以上とする。
しかしながら0.32を超えた場合、Mnが過剰になりすぎて残留オーステナイトが多量に生成し、硬さを十分に確保できない。また、Cr量が少なくなるため焼入性も不足する。
Mn+0.05Cr:≧1.25%
多ければ多いほど焼入性が向上するが、焼入性向上効果を得る上で最低でも1.25%以上必要である。このような観点から、好ましくは1.70%以上、更に好ましくは2.00%以上である。
一方多量に添加すると残留オーステナイトの発生により硬さが低下する恐れがあり、好ましくは1.60〜2.50%の範囲とする。
なお、Cr量の係数0.05は、Mnを基準としたCrの焼入性への寄与率を表す。
Mo+0.5W:0.01〜0.18%
MoとWは同様の効果を持つ。WはMoの効果の半分であるため、係数として0.5を乗じる。これらはマトリックス中に固溶しての焼入性の向上と固溶強化、また、MC系炭化物として析出することで析出強化させる効果をもつ。これらの効果を発現させるためには最低でも0.01%の添加を必要とする。一方、多量の添加は炭化物を過剰に増加させることに繋がるため、最大でも0.18%の添加に留める必要がある。
(Mo+0.5W)/Mn:0.01〜0.09
Mnを最大2.00%添加する本発明では、Mo+0.5W量が多すぎるとMs点、Mf点が低下し、それにしたがって焼入焼戻し後の硬さが低下するため、最大でも(Mo+0.5W)/Mnの値を0.09以下に抑える必要がある。
因みに図2は(Mo+0.5W)/Mnと、焼入焼戻し硬さとの関係を表している。
この図2に示す結果は、鋼成分を質量%でC :0.50〜1.20%,Si:0.10〜3.00%,Mn:1.00〜2.00%,Cr:4.50〜10.0%,Mn/Cr:0.20〜0.32,Mn+0.05Cr:≧1.25%,Mo+0.5W:0.01〜0.18,(Mo+0.5W)/Mn:0.01〜0.09,Cu:0.10〜1.00%,Ni:0.30〜1.50%,Al:0.10〜0.70%,Ni/Al:1.00〜4.10,V+Nb+Ta+Ti+Zr:≦1.00%,残部Feの成分、即ち(Mo+0.5W)/Mnを除いて請求項1に規定する成分とし、そして(Mo+0.5W)/Mnの影響を調べるため、その値を種々変化させて影響を調べ表したものである。
ここで図2における(Mo+0.5W)/Mnと、焼入焼戻し硬さとの関係は具体的には次のようにして求めている。
上記組成の鋼を真空誘導炉で溶解して50kgのインゴットを製造し、そしてインゴットを1160℃で10時間ソーキングを行った後、900℃から1160℃の温度間で鍛造して45×45×1500mmの角棒とした。
角棒の状態で、900℃から20℃/hの冷却速度で徐冷を行う球状化焼鈍し処理を実施し、熱処理後の材料を20×20×20mm程度のサイコロ状に切断加工した。
これらの試験片を1030℃で30min以上加熱し、油冷却にて焼入れを行った。更に180℃で60min以上加熱し、焼戻しを行った。
熱処理終了後に研削を実施してスケールを除去した後、試験片の硬さを測定した。
この焼入焼戻し後の硬さを(Mo+0.5W)/Mnで整理して表したのが上記の図2である。
図2の結果において、主な成分が本発明の請求項の範囲内にあるにも関らず、(Mo+0.5W)/Mnの影響が顕著に表れている。
この図2の結果から、冷間金型等として必要な58HRC以上得るためには、(Mo+0.5W)/Mnを0.09以下とすることが必須であることが分る。
これは、本発明の請求項の組成範囲ではMoやWを添加し過ぎると、焼入時に未変態の残留オーステナイト組織が増加し、硬さが得られなくなるためである。
一方でMoやWを減らし過ぎると、一般的には焼入焼戻し硬さが低下したり、焼入性が低下したりするが、本発明では十分な焼入焼戻し硬さが得られるようにC,Mn,Cr等の成分が規定してある。
また焼入性についても、特にMn+0.05Crで規定するように、必要な添加量が定めてある。
また、MoおよびWの添加効果を得るための必要最低添加量が0.01%であることなどを踏まえ、(Mo+0.5W)/Mnの下限値は0.01と規定した。
Cu:0.10〜1.00%
Cuは、添加することで鋼中に単体で析出し、これらは切削時に比較的低温で溶融して切削工具をコーティングする。そしてそのことによって工具の磨耗が抑制され効果が得られる。
また、単体析出したCuは、上述のNi-Al系炭化物が析出するための核となり、Ni-Al系化合物の析出温度を低下させる役割も併せ持つ。これらの効果を十分に得るためには最低でも0.10%の添加が必要である。
一方、多量の添加は過剰なCu単体の析出による硬さの低下や、赤熱脆性を発生させるため、添加量は最大でも1.00%に留める必要がある。
Ni:0.30〜1.50%
NiはMnと同様、焼入性を向上させる元素であり、その効果を得るためには0.30%以上の添加を必要とする。また、同時にAlを添加することによりマトリックス中でNi-Al系化合物(NiAl、NiAl)を形成し、これらがマトリックス中に微細に分散・析出することで、析出強化を発現する。さらに、Ni-Al系化合物は非常に硬いため、従来の冷間ダイス鋼と同程度の硬さを得るために必要な析出量は、MC系炭化物のそれよりも少ない。これにより、切削の際に工具が硬い炭化物に接触する機会が減少するため、工具の磨耗が低減され、被削性が向上する。
しかしながらマトリックス中に固溶したNiは残留オーステナイト量を増加させ、硬さを低下させ、熱処理後の反りを大きくするため、最大でも1.50%の添加に留める必要がある。
Al:0.10〜0.70%
AlはNiと化合し、Ni-Al系化合物として析出する。その効果はNiの限定理由の項で述べた通りであるが、その効果を得るためには最低でも0.10%の添加が必要である。Alの過剰な添加はδ-フェライトの析出を発生させ、焼入硬さを著しく低下させるため、添加量は最大でも0.70%に留める必要がある。
Ni/Al:1.00〜4.10
NiとAlはそれぞれ1:1、および3:1の割合で規則相を形成し、この安定な形でのみマトリックス中に析出するため、Ni/Alの比を調整することで、Ni、Alそれぞれのマトリックス中への固溶量を調整することが可能である。
具体的には、Ni/Al比は1.00〜4.10の範囲にあることが必須である。Ni/Al比が1.00より小さい場合、Alのマトリックスへの固溶量が過剰となり、一方、Ni/Al比が4.10より大きい場合、Niのマトリックスへの固溶量が過剰となる。それぞれの固溶量が過剰となった際に発生する不都合は、それぞれの元素の限定理由の項に述べた通りである。
V+Nb+Ta+Ti+Zr:≦1.00%
本発明では、被削性向上を目的として従来鋼に比較してCr、Mo、Wおよびその炭化物を低減しているため、結晶粒の粗大化が生じやすいが、これらの元素は炭化物や窒化物を形成し、焼入保持温度での結晶粒粗大化を抑制する。
但しこれらの合金元素は合計量で1.00%を超えると効果が飽和するため、上限を1.00%とする。
一方これら合金元素の添加による上記の効果を十分に得る上では0.01%以上添加しておくことが望ましい。
S :0.01〜0.15%
SはMnと結合し、MnSとしてマトリックス中に析出することで、被削性を向上させる効果をもつ。この効果を得るために本発明では必要に応じてSを0.01%以上添加する。
但し0.15%を超えて多量に添加しても効果が飽和してしまうため、上限を0.15%とする。
本発明の冷間工具鋼におけるCr量とMn量との関係を表した図である。 (Mo+0.5W)/Mnの焼入焼戻し硬さに及ぼす影響を表した図である。
次に本発明の実施形態を以下に詳しく説明する。
表1に示す化学成分の鋼120kgを真空溶解炉で溶解し、φ250×450mmのインゴットケースを用いて鋳造した。インゴットは1150℃〜1200℃で加熱保持後、65mm角となるよう鍛造した。
鍛造後、球状化焼鈍しにより25HRC以下の低硬度とし、これを各試験に必要なサイズに切断し、表2に示す焼入焼戻し温度で熱処理を行った。このとき得られた硬さは表2に併せて表記した。
尚表3に示すドリル被削性試験については球状化焼鈍し状態のまま試験を行った。
以下に各種特性の評価試験の内容及び方法を示している。
(A)焼入性
φ3×10mmの試験片を作製し、表2中の焼入温度で5min保持したあと、均一な冷却速度で100℃以下まで冷却した。そしてこの冷却速度を変化させた場合の各冷却速度に対する試験片硬さが58HRC以上得られる限界の最低冷却速度を焼入性として記載した。
限界の冷却速度が遅いほど、焼入性が高いと評価することができる。
本用途で必要な焼入性は、15℃/min以下である。
(B)熱処理後の反り
20×50×100mmの試験片を作製し、表2中の焼入温度で30min保持した後、表3の焼入性に示した冷却速度で焼入れを行った。またその後、焼き戻しを実施した。
試験片の100mm長さに対して、熱処理後での反り量を3次元寸法測定装置で測定した。長さ100mmの内、最大高さと最小高さとの差を求め、100mmあたりの、この差分の大きさを反り量とした。
一般的な精度として、0.1mm以下が必要である。なお。熱処理前の状態でこの差分は0.0200mm(0.020%)以下とする。
(C)ドリル被削性
50×50×200mmの試験片を作製し、ホモ処理を行ったSKH51ハイスドリル(φ6mm)で穴あけ加工を行った。
加工は、乾式、0.15mm/rev、穴深さ20mmと一定条件で切削速度を変化させ、ドリルが溶損、折損するまで繰り返し穴あけ加工を行った。切削速度を徐々に小さくしていき、ドリル寿命として50穴以上が得られる切削速度を評価した。この切削速度が大きいほど、ドリル被削性に優れる。
(D)研削性
20×50×200mmの試験片を作製し、平面研削盤で50×200mmの面を0.5mmまで面下げ加工を行った。比較例6の作業時間を100としたとき、0.5mm面下げ加工に必要な時間を評価した。加工時間が半分のとき、研削性は50とし、数字が小さい方が研削性に優れる。
(E)衝撃値
JIS Z 2242記載の方法でシャルピー衝撃試験を実施した。試験片は、ノッチ部10R、深さ2mmとした10Rノッチ試験片とした。室温で試験し、衝撃値で評価した。
(F)疲労特性
JIS Z 2274記載の方法で試験を実施した。試験片は、1号試験片とした(平行部はφ8mm)。室温で試験し、繰り返し数10の7乗回で破断しない強度を疲労限として評価した。
これらの結果が表3に示してある。
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表2,3の結果において、比較例1はMnの添加量が不足しているため焼入性が低い。
比較例2はC,Cr過多のためMC系炭化物が多く、また、Ni,Al過多のためにNi-Al系化合物の析出量も多い。これらにより硬さは出るものの被削性,靭性の値が低い。
比較例3はC,Mo,Wが不足するために炭化物が十分に生成せず、Ni,Alもまた不足しているため、Ni-Al系化合物の析出も発生しない。更にCの不足からマルテンサイト硬さも低下するため、硬さが十分に得られない。
比較例4はSi,Niが不足するため、焼入性,硬さが十分に得られない。また過剰なAlがNi-Al系化合物として析出せずに、マトリックス中に過剰に残った状態となるため、∂フェライトが析出して硬さが低下する。
比較例5はNiに比べてAlの添加量が不足して、マトリックス中にNiが過剰な状態となるため、残留オーステナイトの析出が過剰となり、硬さが不足し、また、熱処理後の反りが大きくなる。
以上の比較例に対し、本発明例のものは何れの特性も良好な結果が得られている。
以上本発明の実施形態を詳述したがこれらはあくまで一例示であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。

Claims (2)

  1. 質量%で
    C :0.50〜1.20%
    Si:0.10〜3.00%
    Mn:1.00〜2.00%
    Cr:4.50〜10.0%
    Mn/Cr:0.20〜0.32
    Mn+0.05Cr:≧1.25%
    Mo+0.5W:0.01〜0.18%
    (Mo+0.5W)/Mn:0.01〜0.09
    Cu:0.10〜1.00%
    Ni:0.30〜1.50%
    Al:0.10〜0.70%
    Ni/Al:1.00〜4.10
    V+Nb+Ta+Ti+Zr:≦1.00%
    残部Fe及び不可避的不純物の組成を有し、
    φ3×10mmの試験片を焼入温度で5min保持したあと、100℃以下までの冷却速度を15℃/min以下で焼入れした場合の硬さを58HRC以上としたことを特徴とする被削性に優れた冷間工具鋼。
  2. 質量%で
    S :0.01〜0.15%
    を更に含有する請求項1記載の被削性に優れた冷間工具鋼。
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