JP2006200627A - 転がり軸受部品、その製造方法および転がり軸受 - Google Patents

転がり軸受部品、その製造方法および転がり軸受 Download PDF

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Abstract

【課題】 研削部および非研削部の双方で優れた転動疲労強度を有する転がり軸受部品、その製造方法および転がり軸受を提供する。
【解決手段】 転がり軸受部品である内輪1と、外輪2と、その間に挟まれる複数の円すいころ3との少なくとも1つとなる軸受鋼が780℃以上900℃以下の温度で浸炭窒化処理される。浸炭窒化処理された軸受鋼が窒素を含まない雰囲気下にて780℃以上900℃以下の温度で加熱拡散処理される。加熱拡散処理後の軸受鋼が焼入れられる。
【選択図】 図4

Description

本発明は、転がり軸受部品、その製造方法および転がり軸受に関し、特に、軸受鋼の浸炭窒化処理の工程を経て製造される転がり軸受部品、その製造方法および転がり軸受に関するものである。
転がり軸受部品の転動疲労に対して長寿命を与える熱処理方法として、焼入れ加熱時の雰囲気RXガス中にアンモニアガスを添加するなどして、転がり軸受部品の表層部に浸炭窒化処理を施す方法がある(たとえば特開平8−4774号公報、特開平11−101247号公報)。この浸炭窒化処理を用いることにより、ミクロ組織中に残留オーステナイトを生成させ、転がり軸受の転動疲労寿命を向上させることができる。
特開平8−4774号公報 特開平11−101247号公報
上記の転がり軸受部品を転がり軸受に組み立てる場合には、上記の熱処理後に転がり軸受部品を研削や仕上げ工程によって寸法精度を高める必要がある。このため、熱処理工程時には、研削や仕上げ工程による取代分(研削分など)を考慮した深さまで転がり軸受部品を窒化する必要がある。
しかしながら、上記の転がり軸受部品に対する浸炭窒化処理では、その処理条件設定の目標値が曖昧であったことや、窒素濃度分布が不完全であったことに起因して、浸炭窒化処理時間を不要に長くしていた。このため、転がり軸受部品には不完全焼入れ組織が生じたり、また析出物消失層が発生したりして、非研削部の転動疲労強度が低下するという問題があった。
それゆえ本発明の目的は、研削部および非研削部の双方で優れた転動疲労強度を有する転がり軸受部品、その製造方法および転がり軸受を提供することである。
本発明の転がり軸受部品の製造方法は、1対の軌道輪となる部材と、その1対の軌道輪となる部材の間に挟まれる転動体とを有する転がり軸受を構成する転がり軸受部品の製造方法であって、転がり軸受部品となる軸受鋼を780℃以上900℃以下の温度で浸炭窒化処理する工程と、浸炭窒化処理された軸受鋼を窒素を含まない雰囲気下にて780℃以上900℃以下の温度で加熱拡散処理する工程と、加熱拡散処理後の軸受鋼を焼入れする工程とを備えている。
本発明の転がり軸受部品の製造方法によれば、浸炭窒化処理により軸受鋼の表層に窒素を導入することができる。この後、所定の温度で加熱拡散処理を施すことにより、軸受鋼の表層に導入された窒素を内部へ十分に拡散させることができる。これにより、軸受鋼内における窒素の濃度分布を、表層側から内部側に向けてなだらかな分布とすることができる。このため、研削により軸受鋼の表面を加工した場合に、研削部の表面における窒素濃度を高くしながら、非研削部の表面における窒素濃度が過度に高くなることを抑制することが可能となる。よって、非研削部の表面において窒素濃度が高くなりすぎることに起因した不完全焼入れ組織の発生や析出物消失層の発生を防止でき、非研削部の転動疲労強度を向上させることができる。
加熱拡散処理の温度が780℃未満では窒素の拡散係数が低くなりすぎて、加熱拡散処理時に窒素を軸受鋼内部へ十分に拡散させることができず、軸受鋼内における窒素の濃度分布を表層側から内部側に向けてなだらかな分布とすることができない。このため、加熱拡散処理の温度は780℃以上であることが必要である。また加熱拡散処理の温度が900℃を超えると窒化層の析出物が消失しやすくなる。このため、加熱拡散処理の温度は900℃以下であることが必要である。
上記の転がり軸受部品の製造方法において好ましくは、軸受鋼はJIS(日本工業規格)に規定されたSUJ2である。
SUJ2は研削部および非研削部の双方で優れた疲労強度を有する転がり軸受部品を得るうえで特に好ましい。
上記の転がり軸受部品の製造方法において好ましくは、浸炭窒化処理した後に冷却せずに加熱拡散処理が行なわれる。
これにより、浸炭窒化処理から連続的に加熱拡散処理を施すことができ、工程を簡略化することができる。
上記の転がり軸受部品の製造方法において好ましくは、浸炭窒化処理した後に一旦冷却が行なわれ、その後に加熱拡散処理が行なわれる。
これにより、浸炭窒化処理が修了した後で軸受鋼を炉内から取り出したりすることも可能となる。
本発明の転がり軸受部品は、1対の軌道輪となる部材と、その1対の軌道輪となる部材の間に挟まれる転動体とを有する転がり軸受を構成する転がり軸受部品であって、JISに規定された軸受鋼よりなり、かつ軸受鋼の非研削部の最表面における窒素濃度が0.1質量%以上0.5質量%以下であり、かつ最表面から0.2mmの深さ位置における窒素濃度が0.05質量%以上であることを特徴とするものである。
本発明の転がり軸受部品においては、軸受鋼の非研削部の最表面における窒素濃度を0.1質量%以上0.5質量%以下に、かつ最表面から0.2mmの深さ位置における窒素濃度を0.05質量%以上にすることができる。このように軸受鋼内における窒素の濃度分布を、表層側から内部側に向けてなだらかな分布とすることができる。このため、研削により軸受鋼の表面を加工した場合に、研削部の表面における窒素濃度を高くしながら、非研削部の表面における窒素濃度が過度に高くなることを抑制することが可能となる。よって、非研削部の表面において窒素濃度が高くなりすぎることに起因した不完全焼入れ組織の発生や析出物消失層の発生を防止でき、非研削部の転動疲労強度を向上させることができる。
上記の転がり軸受部品において好ましくは、最表層に平均粒径4μm未満の析出物が存在し、かつ平均粒径4μm以上の巨大析出物が存在しない。
このように窒素濃度が高くなりすぎることに起因した不完全焼入れ組織の発生や析出物消失層の発生を防止することができる。
本発明の転がり軸受は、上記の転がり軸受部品を有している。
これにより、研削部および非研削部の双方で優れた転動疲労強度または疲労強度を有する転がり軸受を得ることができる。
以上説明したように本発明の転がり軸受部品、その製造方法および転がり軸受によれば、研削により軸受鋼の表面を加工した場合に、研削部の表面における窒素濃度を高くしながら、非研削部の表面における窒素濃度が過度に高くなることを抑制することが可能となるため、非研削部の表面において窒素濃度が高くなりすぎることに起因した不完全焼入れ組織の発生や析出物消失層の発生を防止でき、非研削部の転動疲労強度を向上させることができる。
以下、本発明の実施の形態について図に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施の形態における転がり軸受として円すいころ軸受の構成を示す概略断面図である。図1を参照して、本実施の形態の転がり軸受は、1対の軌道輪となる部材と、転動体とを有している。この転がり軸受がたとえば円すいころ軸受である場合、1対の軌道輪となる部材は内輪1および外輪2であり、転動体は複数の円すいころ3である。内輪1の外周に外輪2が配置されており、内輪1と外輪2との間に複数の円すいころ3が転動可能に配置されている。これにより、内輪1は外輪2に対して相対的に回転可能に構成されている。
なお複数の円すいころ3の各々は保持器(図示せず)により一定の間隔で正しい位置に保持されていてもよい。
この転がり軸受を構成する転がり軸受部品としての1対の軌道輪となる部材(たとえば内輪1、外輪2)および転動体(たとえば円すいころ3)の少なくとも1つは、JISに規定された軸受鋼よりなり、好ましくはSUJ2よりなっている。また転がり軸受部品としての1対の軌道輪となる部材(たとえば内輪1、外輪2)および転動体(たとえば円すいころ3)の少なくとも1つは、以下において従来例と比較して説明するような窒素濃度分布を有している。
図2は従来例の浸炭窒化処理を施した転がり軸受部品における窒素濃度分布を示す図であり、図3は本発明の一実施の形態における転がり軸受部品における窒素濃度分布を示す図である。
図2を参照して、従来例のように浸炭窒化処理後すぐに焼入れを行なった転がり軸受部品では、軸受鋼の非研削部の最表面における窒素濃度が0.8質量%程度であり、かつ最表面から0.2mmの深さ位置における窒素濃度が0.1質量%未満である。このように従来例の浸炭窒化処理を施した転がり軸受部品では、軸受鋼の非研削部の最表層から内部側へ向けて急激に窒素濃度が増加している。このため、研削部にて所定の窒素濃度を得ようとすると、非研削部における窒素濃度が高くなる。
これに対して本実施の形態の転がり軸受部品では、図3に示すように軸受鋼の非研削部の最表面における窒素濃度が0.1質量%以上0.5質量%以下であり、かつ最表面から0.2mmの深さ位置における窒素濃度が0.05質量%以上であり、かつ最表面から0.4mmの深さ位置における窒素濃度が0.01質量%以上である。このように本実施の形態の転がり軸受部品では、浸炭窒化処理後の加熱拡散処理によって窒素が拡散することで、軸受鋼内の非研削部の最表層から内部側への窒素濃度分布が従来例と比較してなだらかになる。これにより、研削部にて所定の窒素濃度を得ようとしても、非研削部における窒素濃度が過度に高くなることを防止できる。
また本実施の形態の転がり軸受部品では、不完全焼入れ組織は発生しておらず、最表層に平均粒径4μm未満の析出物が存在し、かつ平均粒径4μm以上の巨大析出物が存在していない。
また非研削部か否かは黒皮(酸化皮膜)の有無により判別することができる。つまり、非研削部には熱処理時に生じる黒皮が残存しているのに対して、研削部では研削により黒皮が除去されるため黒皮が残存していない。たとえば図1における円すいころ軸受10の場合、内輪1には溝1aが形成されており、このような溝1a部分は研削をすることが難しい部分であるため、この溝1a部分には黒皮が残存している。一方、溝1a以外の研削可能な部分には黒皮は残存していない。
上記の軸受鋼中の窒素濃度は、たとえばEPMA(波長分散型X線マイクロアナライザ)で測定することができる。
なお上記においては、転がり軸受としてたとえば円すいころ軸受10について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他のラジアル転がり軸受やスラスト転がり軸受にも適用することができる。ラジアル転がり軸受に適用する場合には、1対の軌道輪となる部材は内側に位置する内方部材と外側に位置する外方部材とを含み、また内方部材や外方部材は回転側部材や固定側部材と別体で取り付けられた内輪や外輪だけでなく、回転側部材や固定側部材と一体化された内輪部分や外輪部分も含む。スラスト転がり軸受に適用する場合には、1対の軌道輪となる部材は1対の軌道盤を含み、また回転側部材や固定側部材と別体で取り付けられた軌道盤だけでなく、回転側部材や固定側部材と一体化された軌道盤部分も含む。また転動体はころだけでなく玉も含む。
SUJ2の組成は、Cを0.95質量%以上1.10質量%以下、Siを0.15質量%以上0.35質量%以下、Mnを0.50質量%以下、Pを0.025質量%以下、Sを0.025質量%以下、Crを1.30質量%以上1.60質量%以下含む組成であり、残部がFeおよび不可避不純物からなっていてもよく、他の元素が含まれていても良い。
次に、本実施の形態の転がり軸受の製造方法について説明する。
図4は、本発明の一実施の形態における転がり軸受の製造方法での熱処理方法を説明するための時間と温度との関係を示す図である。
本実施の形態における転がり軸受の製造方法においては、まず転がり軸受部品となる鋼材として軸受鋼(たとえばSUJ2)が準備される。1対の軌道輪となる部材については、その軸受鋼からなる鍛造体が旋削された後にたとえば図4に示す熱処理が施される。また転動体についてはその軸受鋼からなる線材が型打ちされてフラッシングされた後にたとえば図4に示す熱処理が施される。
図4を参照して、上記の転がり軸受部品には、まず780℃以上900℃以下の温度で浸炭窒化処理が施される。この浸炭窒化処理は、炭素および窒素を含む雰囲気下にて行なわれる。窒素を含む雰囲気は、たとえばRXガスにNH3を添加した雰囲気であり、NH3添加量(RXガスに対するNH3の体積比率)はたとえば0.5%以上20%未満である。また雰囲気中にH2が含まれていてもよい。この浸炭窒化処理にて780℃以上900℃以下の温度で保持される時間は、たとえば30分以上150分以下である。この浸炭窒化処理により、軸受鋼の素地の表層に窒素が導入されるとともに、炭素の溶け込みが十分に行なわれる。
なお、上記のNH3の添加量は、NH3添加量={(標準状態のNH3の単位時間当たりの流入体積)×100}/{(850℃、1.05atm下でのRXガスの単位時間当たりの流入体積)+(標準状態のNH3の単位時間当たりの流入体積)}の式に基づいて導出した値である。
この浸炭窒化処理された軸受鋼に、窒素を含まない雰囲気(たとえばNH3の添加量が0%の雰囲気)下にて780℃以上900℃以下の温度で加熱拡散処理が施される。この加熱拡散処理にて780℃以上900℃以下の温度で保持される時間は、たとえば30分以上150分以下であり、好ましくは70分以上90分以下である。この加熱拡散処理により、鋼材表層に導入された窒素を軸受鋼の内部側へ十分に拡散させることができる。これにより、鋼材内における窒素の濃度分布を、表層側から内部側に向けてなだらかな分布とすることができる。
この加熱拡散処理された軸受鋼に焼入れが施される。この焼入れの後には焼戻しが行なわれてもよいが、この焼戻しは省略することができる。また一連の熱処理が終了した後に、1対の軌道輪となる部材については、たとえば幅研削、溝研削、内径/外径研削、溝仕上げなどの加工が施されることが好ましい。また転動体については、たとえば粗研削、精研削、ラッピングなどの加工が施されることが好ましい。
上記の熱処理においては図4に示すように浸炭窒化処理と加熱拡散処理とは、それらの処理の間に冷却工程を挟まずに連続して行なわれてもよい。また図5に示すように浸炭窒化処理の後に一旦、冷却されてから加熱拡散処理が施されてもよい。図4および図5のいずれの場合においても、浸炭窒化処理時の加熱温度と加熱拡散処理の加熱温度との双方は、780℃以上900℃以下の温度範囲内の温度であれば同一の温度であってもよく、異なる温度であってもよい。
本実施の形態によれば、上述したように浸炭窒化処理により軸受鋼の表層に窒素を導入することができる。この後、所定の温度で加熱拡散処理を施すことにより、軸受鋼の表層に導入された窒素を内部へ十分に拡散させることができる。これにより、軸受鋼内における窒素の濃度分布を、たとえば図3に示すように表層側から内部側に向けてなだらかな分布とすることができる。このため、研削により軸受鋼の表面を加工した場合に、研削部の表面における窒素濃度を高くしながら、非研削部の表面における窒素濃度が過度に高くなることを抑制することが可能となる。よって、非研削部の表面において窒素濃度が高くなりすぎることに起因した不完全焼入れ組織の発生や析出物消失層の発生を防止でき、非研削部の転動疲労強度を向上させることができる。
また軸受鋼の表層に窒素が導入されているため、表層に存在する窒素と炭素とにより焼入れ後の表層部の圧縮応力を一層大きくでき、また窒素による表層の焼戻し抵抗性増大の好影響も出るため、一層、高強度・長寿命にすることができる。
すなわち、浸炭窒化処理で表層に窒素を導入すると、表層のMs点(マルテンサイト変態開始温度)が低くなり、これを焼入れすると表層に未変態のオーステナイトが多く残留する。残留オーステナイトは、高い靭性と加工硬化特性とを有し、亀裂の発生や進展を抑える働きをする。また、Ms点が低下した表層は、マルテンサイト変態が内部よりも遅れて始まるので、表層には圧縮の残留応力が形成され、表層の疲労強度が向上する結果、ピーリング強度や転動寿命が向上する。また浸炭窒化による窒素の侵入は耐熱性の付与の点でも有利であり、耐スミアリング特性も向上する。
次に本発明の実施例について説明する。
まず、Cを0.99質量%、Siを0.26質量%、Mnを0.44質量%、Pを0.012質量%、Sを0.006質量%、Crを1.46質量%含む鋼材を準備した。この鋼材を、図4に示すようにNH3を1.7%の添加量(RXガス体積比率)で含む雰囲気下にて、850℃、150分の条件で浸炭窒化処理した後に、引き続きNH3を含まない雰囲気下にて、850℃、75分の条件で加熱拡散処理をし、その後に焼入れした。この熱処理を施した鋼材を本発明例の鋼材と称する。
また上記組成の鋼材を、NH3を1.7%の添加量(RXガス体積比率)で含む雰囲気下にて、850℃、150分の条件で浸炭窒化処理した直後に焼入れしたものを比較例の鋼材と称する。
この本発明例の鋼材と比較例の鋼材との各々について表層部の金属組織をピクラル腐食した後に電子顕微鏡で観察するとともに、表層部の窒素濃度および炭素濃度をEPMAで測定した。その結果、従来の浸炭窒化処理を施した比較例の鋼材では図6(a)に示すような不完全焼入れ組織(図中の鋼材内における黒い部分がパーライト)が生じたのに対し、図4に示す熱処理を施した本発明例の鋼材では図6(b)に示すように不完全焼入れ組織は生じておらず完全焼入れ組織となっていた。
また比較例の鋼材では図2に示すように鋼材の非研削部の最表面における窒素濃度が0.8質量%程度であり、かつ最表面から0.2mmの深さ位置における窒素濃度が0.1質量%程度であり、かつ最表面から0.4mmの深さ位置における窒素濃度は0.2mmの深さ位置における窒素濃度よりも低いが0.01質量%以上であることがわかった。これに対して本発明例の鋼材では図3に示すように鋼材の非研削部の最表面における窒素濃度が0.3質量%程度であり、かつ最表面から0.2mmの深さ位置における窒素濃度が0.1質量%程度であり、かつ最表面から0.4mmの深さ位置における窒素濃度は0.2mmの深さ位置における窒素濃度よりも低いが0.01質量%以上であることがわかった。
このことから本発明例の鋼材の方が比較例の鋼材よりも最表層から内部側への窒素濃度の変化が緩やかであることが分かった。
またSUJ2の鋼材を用いて、図4に示すように浸炭窒化処理と加熱拡散処理との後に焼入れした本発明例の鋼材と、浸炭窒化処理の直後に焼入れした比較例の鋼材とについて、上記と同様に、表層部の組織をピクラル腐食した後に電子顕微鏡で観察するとともに、表層部の窒素濃度および炭素濃度をEPMAで測定した。その結果を表1に記す。
なお図4に示す浸炭窒化処理温度および加熱拡散処理温度は780℃〜900℃の温度範囲内で適宜変更し、浸炭窒化処理時間および加熱拡散処理時間も適宜変更した。
Figure 2006200627
表1に示すように従来の浸炭窒化処理を施した比較例の鋼材のいずれにおいても、非研削部の最表面における窒素濃度が0.5質量%より大きく1.5質量%以下の範囲内にあり、かつ最表面から0.2mmの深さ位置における窒素濃度が0.05質量%以上で、最表面から0.4mmの深さ位置における窒素濃度が0.01質量%以上であった。
これに対して図4に示す熱処理を施した本発明例の鋼材のいずれにおいても、非研削部の最表面における窒素濃度が0.1質量%以上0.5質量%以下の範囲内にあり、かつ最表面から0.2mmの深さ位置における窒素濃度が0.05質量%以上で、最表面から0.4mmの深さ位置における窒素濃度が0.01質量%以上であった。
また従来の浸炭窒化処理を施した比較例の鋼材では図6(a)に示すのと同様な不完全焼入れ組織(図中の鋼材内における黒い部分が微細なパーライト状組織)が生じたのに対し、図2に示す熱処理を施した本発明例の鋼材では図6(b)に示すのと同様に不完全焼入れ組織は生じておらず完全焼入れ組織となっていた。また本発明例の鋼材では平均粒径4μm以上の巨大析出物が存在していなかったのに対し、比較例の鋼材では図7(a)、(b)に示すように条件によっては平均粒径4μm以上の巨大析出物(図中の表層部における白色の塊)が生じていた。
また本発明例の鋼材では図8(a)に示すように平均粒径4μm未満の析出物が表層に万遍なく存在していたのに対し、比較例の鋼材では図9(a)に示すように条件によっては析出物が消失していた。またこのときの本発明例と比較例との各窒素濃度分布と炭素濃度分布とをEPMAで測定したところ、本発明例の鋼材では図8(b)に示すように鋼材の非研削部の表層部において比較的大きな炭素濃度ピークがあり析出物が存在していることが分かるのに対し、比較例の鋼材では図9(b)に示すように鋼材の非研削部の表層部において炭素濃度が低くなっており析出物が存在していないことが分かる。
また本発明例の鋼材では図8(b)に示すように鋼材の非研削部の最表面における窒素濃度が0.75質量%程度であり、かつ最表面から0.2mmの深さ位置における窒素濃度が0.1質量%程度であり、かつ最表面から0.4mmの深さ位置における窒素濃度は0.2mmの深さ位置における窒素濃度よりも低いが0.01質量%以上であった。これに対して比較例の鋼材では図9(b)に示すように鋼材の非研削部の最表面における窒素濃度が1.25質量%程度であり、かつ最表面から0.2mmの深さ位置における窒素濃度が0.1質量%程度であり、かつ最表面から0.4mmの深さ位置における窒素濃度は0.2mmの深さ位置における窒素濃度よりも低いが0.01質量%以上であった。
また完全焼入れ組織を有する本発明例の鋼材と不完全焼入れ組織を有する比較例の鋼材とについて疲労強度試験を行なった。この疲労強度試験は、超音波疲労試験により鋼材に引張・圧縮の疲労を与えることにより行なった。また疲労強度試験は、完全焼入れ組織と粒界酸化層とを有する本発明例の鋼材と、不完全焼入れ組織と粒界酸化層とを有する比較例の鋼材(比較例1)と、不完全焼入れ組織における粒界酸化層を除去した比較例の鋼材(比較例2)とを対象として行なった。その結果を図10に示す。
図10を参照して、応力振幅を880MPa〜1000MPaとした場合の負荷回数が比較例2では1×104〜1×105回程度であったのに対し、本発明例では1×108回程度であり、比較例2に対して本発明例の鋼材の疲労強度が大幅に向上していることが分かる。また比較例1の鋼材では、応力振幅を800MPa程度としても1×105回程度の負荷回数が限度であり、比較例2に対しても本発明例の鋼材の疲労強度が大幅に向上していることが分かる。また本発明例、比較例1および比較例2のそれぞれにおいて1×108回の負荷回数を得るためには、比較例1および2では本発明例よりも応力振幅を小さくする必要があり、この点からも比較例1および2に対して本発明例の鋼材の疲労強度が大幅に向上していることが分かる。
以上より、図4に示す熱処理方法を適用することにより、非研削部の最表面における窒素濃度が0.1質量%以上0.5質量%以下の範囲内にあり、かつ最表面から0.2mmの深さ位置における窒素濃度が0.05質量%以上で、不完全焼入れ組織の発生がなく、巨大析出物の発生もなく、析出物の消失もない、優れた疲労強度を有する鋼材が得られることが分かった。
また図5に示す熱処理方法においても図4に示す熱処理方法と同様な結果の得られることを確認した。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
本発明は、軸受鋼の浸炭窒化処理の工程を経て製造される転がり軸受部品、その製造方法および転がり軸受に特に有利に適用され得る。
本発明の一実施の形態における転がり軸受として円すいころ軸受の構成を示す概略断面図である。 従来の転がり軸受部品における軸受鋼の窒素濃度分布を示す図である。 本発明の一実施の形態における転がり軸受部品の軸受鋼の窒素濃度分布を示す図である。 本発明の一実施の形態における転がり軸受部品において用いられる熱処理方法を説明するための時間と温度との関係を示す図である。 本発明の一実施の形態における転がり軸受部品において用いられる熱処理方法の他の例を説明するための時間と温度との関係を示す図である。 不完全焼入れ組織(a)と完全焼入れ組織(b)とを示す金属組織の顕微鏡写真である。 巨大析出物が生じた様子を示す金属組織の顕微鏡写真である。 本発明の一実施の形態における熱処理を施した鋼材の表層を示す金属組織の顕微鏡写真(a)および窒素濃度分布を示す図(b)である。 従来の浸炭窒化処理における熱処理を施した鋼材の表層を示す金属組織の顕微鏡写真(a)および窒素濃度分布を示す図(b)である。 疲労強度試験の結果を示す図である。
符号の説明
1 内輪、1a 溝、2 外輪、3 円すいころ、10 円すいころ軸受。

Claims (7)

  1. 1対の軌道輪となる部材と、前記1対の軌道輪となる部材の間に挟まれる転動体とを有する転がり軸受を構成する転がり軸受部品の製造方法であって、
    前記転がり軸受部品となる軸受鋼を780℃以上900℃以下の温度で浸炭窒化処理する工程と、
    前記浸炭窒化処理された軸受鋼を窒素を含まない雰囲気下にて780℃以上900℃以下の温度で加熱拡散処理する工程と、
    前記加熱拡散処理後の軸受鋼を焼入れする工程とを備えた、転がり軸受部品の製造方法。
  2. 前記軸受鋼は、JISに規定されたSUJ2であることを特徴とする、請求項1に記載の転がり軸受部品の製造方法。
  3. 前記浸炭窒化処理した後に冷却せずに前記加熱拡散処理をすることを特徴とする、請求項1または2に記載の転がり軸受部品の製造方法。
  4. 前記浸炭窒化処理した後に一旦冷却し、その後に前記加熱拡散処理をすることを特徴とする、請求項1または2に記載の転がり軸受部品の製造方法。
  5. 1対の軌道輪となる部材と、前記1対の軌道輪となる部材の間に挟まれる転動体とを有する転がり軸受を構成する転がり軸受部品であって、
    JISに規定された軸受鋼よりなり、かつ前記軸受鋼の非研削部の最表面における窒素濃度が0.1質量%以上0.5質量%以下であり、かつ前記最表面から0.2mmの深さ位置における窒素濃度が0.05質量%以上である、転がり軸受部品。
  6. 最表層に平均粒径4μm未満の析出物が存在し、かつ平均粒径4μm以上の巨大析出物が存在しないことを特徴とする、請求項5に記載の転がり軸受部品。
  7. 請求項5または6に記載の転がり軸受部品を有することを特徴とする、転がり軸受。
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