以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
(実施の形態1)
<円錐ころ軸受の構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受の断面模式図である。図2は、図1に示した円錐ころ軸受の部分断面模式図である。図3は、図1に示した円錐ころ軸受の円錐ころの部分断面模式図である。図4は、図3に示した円錐ころの拡大部分断面模式図である。図1〜図4を用いて本実施の形態に係る円錐ころ軸受を説明する。
図1に示す円錐ころ軸受10は、外輪11と、内輪13と、複数の円錐ころ(以下では単に、ころと呼ぶこともある)12と、保持器14とを主に備えている。外輪11は、環形状を有し、その内周面に外輪軌道面11Aを有している。内輪13は、環形状を有し、その外周面に内輪軌道面13Aを有している。内輪13は、内輪軌道面13Aが外輪軌道面11Aに対向するように外輪11の内周側に配置されている。なお、以下の説明において、円錐ころ軸受10の中心軸に沿った方向を「軸方向」、中心軸に直交する方向を「径方向」、中心軸を中心とする円弧に沿った方向を「周方向」と呼ぶ。
ころ12は、外輪11の内周面上に配置されている。ころ12はころ転動面12Aを有し、当該ころ転動面12Aにおいて内輪軌道面13Aおよび外輪軌道面11Aに接触する。複数のころ12は合成樹脂からなる保持器14により周方向に所定のピッチで配置されている。これにより、ころ12は、外輪11および内輪13の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。また、円錐ころ軸受10は、外輪軌道面11Aを含む円錐、内輪軌道面13Aを含む円錐、およびころ12が転動した場合の回転軸の軌跡を含む円錐のそれぞれの頂点が軸受の中心線上の1点で交わるように構成されている。このような構成により、円錐ころ軸受10の外輪11および内輪13は、互いに相対的に回転可能となっている。なお、保持器14は樹脂製に限らず、金属製であってもよい。
外輪11、内輪13、ころ12を構成する材料は鋼であってもよい。当該鋼は、窒素富化層11B、12B、13B以外の部分で、少なくとも炭素を0.6質量%以上1.2質量%以下、珪素を0.15質量%以上1.1質量%以下、マンガンを0.3質量%以上1.5質量%以下含む。上記鋼は、さらに2.0質量%以下のクロムを含んでいてもよい。
上記の構成において、炭素が1.2質量%を超えると、球状化焼鈍を行なっても素材硬度が高いので冷間加工性を阻害し、冷間加工を行なう場合に十分な冷間加工量と、加工精度を得ることができない。また、浸炭窒化処理時に過浸炭組織になりやすく、割れ強度が低下する危険性がある。他方、炭素含有量が0.6質量%未満の場合には、所要の表面硬さと残留オーステナイト量を確保するのに長時間を必要としたり、再加熱後の焼入れで必要な内部硬さが得られにくくなる。
Si含有率を0.15〜1.1質量%とするのは、Siが耐焼戻し軟化抵抗を高めて耐熱性を確保し、異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性を改善することができるからである。Si含有率が0.15質量%未満では異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性が改善されず、一方、Si含有率が1.1質量%を超えると焼きならし後の硬度を高くしすぎて冷間加工性を阻害する。
Mnは浸炭窒化層と芯部の焼入れ硬化能を確保するのに有効である。Mn含有率が0.3質量%未満では、十分な焼入れ硬化能を得ることができず、芯部において十分な強度を確保することができない。一方、Mn含有率が1.5質量%を超えると、硬化能が過大になりすぎ、焼きならし後の硬度が高くなり冷間加工性が阻害される。また、オーステナイトを安定化しすぎて芯部の残留オーステナイト量を過大にして経年寸法変化を助長する。さらに、鋼が2.0質量%以下のクロムを含むことにより、表層部においてクロムの炭化物や窒化物を析出して表層部の硬度を向上しやすくなる。Cr含有率を2.0質量%以下としたのは、2.0質量%を超えると冷間加工性が著しく低下したり、2.0質量%を超えて含有しても上記表層部の硬度向上の効果が小さいからである。
なお、本開示の鋼は、言うまでもなくFeを主成分とし、上記の元素の他に不可避的不純物を含んでいてもよい。不可避的不純物としては、リン(P)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、アルミ(Al)などがある。これらの不可避的不純物元素の量は、それぞれ0.1質量%以下である。
また異なる観点から言えば、外輪11および内輪13は、軸受用材料の一例である鋼材、たとえばJIS規格SUJ2からなるものであることが好ましい。ころ12は、軸受用材料の一例である鋼材、たとえばJIS規格SUJ2により構成されてもよい。また、ころ12は、他の材料、たとえばサイアロン焼結体により構成されていてもよい。
図2に示すように、外輪11の軌道面11Aおよび内輪13の軌道面13Aには窒素富化層11B、13Bが形成されている。内輪13では、窒素富化層13Bが軌道面13Aから小鍔面および大鍔面にまで延在している。窒素富化層11B、13Bは、それぞれ外輪11の未窒化部11Cまたは内輪13の未窒化部13Cより窒素濃度が高くなっている領域である。また、ころ12の転動面12Aを含む表面には窒素富化層12Bが形成されている。ころ12の窒素富化層12Bは、ころ12の未窒化部12Cより窒素濃度が高くなっている領域である。窒素富化層11B、12B、13Bは、たとえば浸炭窒化処理、窒化処理など従来周知の任意の方法により形成できる。
なお、ころ12のみに窒素富化層12Bを形成してもよいし、外輪11のみに窒素富化層11Bを形成してもよいし、内輪13のみに窒素富化層13Bを形成してもよい。あるいは、外輪11、内輪13、ころ12のうちの2つに窒素富化層を形成してもよい。
図3に示すように、ころ12の転動面12A(図2参照)は、両端部に位置し、クラウニングが形成されたクラウニング部22、24と、このクラウニング部22、24の間を繋ぐ中央部23とを含む。中央部23にはクラウニングは形成されておらず、ころ12の回転軸である中心線26に沿った方向での断面における中央部23の形状は直線状である。ころ12の端面16,17とクラウニング部22との間には面取り部21が形成されている。端面16,17とクラウニング部24との間にも面取り部25が形成されている。
ここで、ころ12の製造方法において、窒素富化層12Bを形成する処理(浸炭窒化処理)を実施するときには、ころ12にはクラウニングが形成されておらず、ころ12の外形は図4の点線で示される加工前表面12Eとなっている。この状態で窒素富化層が形成された後、仕上げ加工として図4の矢印に示すようにころ12の側面が加工され、図3及び4に示すように、クラウニングが形成されたクラウニング部22、24が得られる。
窒素富化層の厚さ:
ころ12における窒素富化層12Bの深さ、すなわち窒素富化層12Bの最表面から窒素富化層12Bの底部までの距離は、0.2mm以上となっている。具体的には、面取り部21とクラウニング部22との境界点である第1測定点31、端面12Dから距離Wが1.5mmの位置である第2測定点32、ころ12の転動面12Aの中央である第3測定点33において、それぞれの位置での窒素富化層12Bの深さT1、T2、T3が0.2mm以上となっている。ここで、上記窒素富化層12Bの深さとは、ころ12の中心線26に直交するとともに外周側に向かう径方向における窒素富化層12Bの厚さを意味する。なお、窒素富化層12Bの深さT1、T2、T3の値は、面取り部21、25の形状やサイズ、さらに窒素富化層12Bを形成する処理および上記仕上げ加工の条件などのプロセス条件に応じて適宜変更可能である。たとえば、図10に示した構成例では、上述のように窒素富化層12Bが形成された後にクラウニング22Aが形成されるため、窒素富化層12Bの深さT2は他の深さT1、T3より小さくなっているが、上述したプロセス条件を変更することで、上記窒素富化層12Bの深さT1、T2、T3の値の大小関係は適宜変更することができる。
また、外輪11および内輪13における窒素富化層11B、13Bについても、その最表面から窒素富化層11B、13Bの底部までの距離である窒素富化層11B、13Bの厚さは0.2mm以上である。ここで、窒素富化層11B、13Bの厚さは、窒素富化層11B、13Bの最表面に対して垂直な方向における窒素富化層11B,13Bまでの距離を意味する。
クラウニングの形状:
ころ12のクラウニング部22、24に含まれる接触部クラウニング部分27に形成されたクラウニングの形状は、以下のように規定される。すなわち、クラウニングのドロップ量の和は、ころ12の転動面12Aの母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy−z座標系において、K1,K2,zmを設計パラメータ、Qを荷重、Lをころ12における転動面12Aの有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aをころ12の転動面の母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2K1Q/πLE’としたときに、下記の式(1)で表される。
図5は、クラウニング形状の一例を示すy−z座標図である。図5では、ころ12の母線をy軸とし、ころ12の母線上であって内輪13又は外輪11ところ12の有効接触部の中央部に原点Oをとると共に、母線直交方向(半径方向)にz軸をとったy−z座標系に、上記式(1)で表されるクラウニングの一例を示している。図5において縦軸はz軸、横軸はy軸である。有効接触部は、ころ12にクラウニングを形成していない場合の内輪13又は外輪11ところ12との接触部位である。また、円錐ころ軸受10を構成する複数のころ12の各クラウニングは、通常、有効接触部の中央部を通るz軸に関して線対称に形成されるので、図5では、一方のクラウニング22Aのみを示している。
荷重Q、有効接触部の母線方向長さL、および、等価弾性係数E’は、設計条件として与えられ、原点から有効接触部の端部までの長さaは、原点の位置によって定められる値である。
上記式(1)において、z(y)は、ころ12の母線方向位置yにおけるクラウニング22Aのドロップ量を示しており、クラウニング22Aの始点O1の座標は(a−K2a,0)であるから、式(1)におけるyの範囲は、y>(a−K2a)である。また、図5では、原点Oを有効接触部の中央部にとっているので、a=L/2となる。さらに、原点Oからクラウニング22Aの始点O1までの領域は、クラウニングが形成されていない中央部(ストレート部)であるから、0≦y≦(a−K2a)のとき、z(y)=0となる。
設計パラメータK1は荷重Qの倍率、幾何学的にはクラウニング22Aの曲率の程度を意味している。設計パラメータK2は、原点Oから有効接触部の端部までの母線方向長さaに対するクラウニング22Aの母線方向長さymの割合を意味している(K2=ym/a)。設計パラメータzmは、有効接触部の端部におけるドロップ量、即ちクラウニング22Aの最大ドロップ量を意味している。
ここで、後述する図9に示したころのクラウニングは、設計パラメータK2=1であってストレート部の無いフルクラウニングであり、エッジロードが発生しない十分なドロップ量が確保されている。しかしながら、ドロップ量が過大であると、加工時に、材料取りされた素材から生じる取代が大きくなり、コスト増大を招くこととなる。そこで、以下のように、設計パラメータK1,K2,zmの最適化を行う。
設計パラメータK1,K2,zmの最適化手法としては種々のものを採用することができ、例えば、Rosenbrock法等の直接探索法を採用することができる。ここで、ころの転動面における表面起点の損傷は面圧に依存するので、最適化の目的関数を面圧とすることにより、希薄潤滑下における接触面の油膜切れを防止するクラウニングを得ることができる。
また、ころに対数クラウニングを施す場合、ころの加工精度を確保するためには転動面の中央部分に全長の1/2以上の長さのストレート部(中央部23)を設けるのが好ましい。この場合は、K2を一定の値とし、K1,zmについて最適化すればよい。
ころ係数:
図1および図6に示すように、内輪13は、円すい状の軌道面13Aを有し、この軌道面13Aの大径側に大つば部41、小径側に小つば部42を有する。ここで、円錐ころ軸受10は、ころ係数γ>0.90となっている。ここで、ころ係数γは、ころ本数Z、ころ平均径DA、ころピッチ円径PCDとして、関係式γ=(Z・DA)/(π・PCD)で定義される。
保持器の形状:
図7に示すように、上記保持器14は、円錐ころ12の小径端面側で連なる小環状部106と、円錐ころ12の大径端面側で連なる大環状部107と、これらの小環状部106と大環状部107を連結する複数の柱部108とからなり、円錐ころ12の小径側を収納する部分が狭幅側、大径側を収納する部分が広幅側となる台形状のポケット109が形成されている。ポケット109の狭幅側と広幅側には、それぞれ両側の柱部108に2つずつ切欠き110a、110bが設けられており、各切欠き110a、110bの寸法は、いずれも深さ1.0mm、幅4.6mmとされている。
円錐ころ12の大端面16の曲率半径Rと、O点から内輪13の大鍔面18までの距離RBASEとの比R/RBASE:
内輪13の小鍔面は、軌道面13Aに配列された円錐ころ12の小端面17と平行な研削加工面に仕上げられている。
図8に示すように、円錐ころ12と、外輪11および内輪13の各軌道面11A、13Aの各円錐角頂点は、円錐ころ軸受10の中心線上の一点Oで一致し、円錐ころ12の大端面16の曲率半径Rと、O点から内輪13の大鍔面18までの距離RBASEとの比R/RBASEは、0.75以上0.87以下の範囲となるように製造されている。また、大鍔面18は、例えば0.12μm以下の表面粗さRaに研削加工されている。
窒素富化層の結晶組織:
図16は、本実施の形態に係る円錐ころ軸受を構成する軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。図16は、窒素富化層12Bにおけるミクロ組織を示している。本実施の形態における窒素富化層12Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上となっており、従来の一般的な焼入れ加工品と比べても十分に微細化されている。
<各種特性の測定方法>
窒素濃度の測定方法:
外輪11、ころ12、内輪13などの軸受部品について、それぞれ窒素富化層11B,12B、13Bが形成された領域の表面に垂直な断面について、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)により深さ方向で線分析を行う。測定は、各軸受部品を測定位置から表面に垂直な方向に切断することで切断面を露出させ、当該切断面において測定を行う。たとえば、ころ12については、図3に示した第1測定点31〜第3測定点33のそれぞれの位置から、中心線26と垂直な方向にころ12を切断することで切断面を露出させる。当該切断面において、ころ12の表面から内部に向かって0.05mmの位置となる複数の測定位置にて、上記EPMAにより窒素濃度について分析を行う。たとえば、上記測定位置を5か所決定し、当該5か所での測定データの平均値をころ12の窒素濃度とする。
また、外輪11および内輪13については、軌道面11A、13Aにおいて軸受の中心軸方向における中央部を測定位置として、中心軸および当該中心軸に直交する径方向に沿った断面を露出させた後、当該断面について上記と同様の手法により窒素濃度の測定を行う。
最表面から窒素富化層の底部までの距離の測定方法:
外輪11および内輪13については、上記窒素濃度の測定方法において測定対象とした断面につき、表面から深さ方向において硬度分布を測定する。測定装置としてはビッカース硬さ測定機を用いることができる。500℃×1hの焼き戻し処理後の円錐ころ軸受10において、深さ方向に並ぶ複数の測定点、たとえば0.5mm間隔に配置された測定点において硬度測定を実施する。そして、ビッカース硬さがHV450以上の領域を窒素富化層とする。
また、ころ12については、図3に示した第1測定点31での断面において、上記のように深さ方向での硬度分布を測定し、窒素富化層の領域を決定する。
粒度番号の測定方法:
旧オーステナイト結晶粒径の測定方法は、JIS規格G0551:2013に規定された方法を用いる。測定を行う断面は、窒素富化層の底部までの距離の測定方法において測定を行った断面とする。
クラウニング形状の測定方法:
ころ12のクラウニング形状について、任意の方法により測定できる。たとえば、ころ12の形状を表面性状測定機により測定することにより、クラウニング形状を測定してもよい。
<円錐ころ軸受の作用効果>
以下一部重複する部分もあるが、上述した円錐ころ軸受の特徴的な構成を列挙する。
本開示に従った円錐ころ軸受10は、外輪11と内輪13と複数の円錐ころであるころ12とを備える。外輪11は、内周面において外輪軌道面11Aを有する。内輪13は、外周面において内輪軌道面13Aを有し、外輪11に対して径方向内側に配置される。複数のころ12は、外輪軌道面11Aと内輪軌道面13Aとの間に配列され、外輪軌道面11Aおよび内輪軌道面13Aと接触する転動面12Aを有する。外輪11、内輪13および複数のころ12のうちの少なくともいずれか1つは、外輪軌道面11A、内輪軌道面13Aまたは転動面12Aの表面層に形成された窒素富化層11B、13B、12Bを含む。窒素富化層11B、12B、13Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上である。表面層の最表面から窒素富化層11B、12B、13Bの底部までの距離T1は0.2mm以上である。ころ12の転動面12Bにはクラウニング22Aが形成されている。クラウニング22Aのドロップ量の和は、ころ12の転動面12Bの母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy−z座標系において、K1,K2,zmを設計パラメータ、Qを荷重、Lをころ12における転動面12Aの有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aをころ12の転動面の母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2K1Q/πLE’としたときに、下記の式(1)で表される。
なお、荷重Q、有効接触部の母線方向長さL、および等価弾性係数E’は設計条件として与えられ、原点から有効接触部の端部までの長さaは原点の位置に応じて定められる値である。
このようにすれば、外輪11、内輪13、円錐ころとしてのころ12の少なくともいずれか1つにおいて旧オーステナイト結晶粒径が十分微細化された窒素富化層11B、12B、13Bが形成されているので、高い転動疲労寿命を有した上で、シャルピー衝撃値、破壊靭性値、圧壊強度などを向上させることができる。
また、ころ12の転動面12Aに上記式(1)によりドロップ量の和が表されるような、輪郭線が対数関数で表されるクラウニング(いわゆる対数クラウニング)を設けているので、従来の部分円弧で表されるクラウニングを形成した場合より局所的な面圧の上昇を抑制でき、ころ12の転動面12Aにおける摩耗の発生を抑制できる。
ここで、上述した対数クラウニングの効果についてより詳細に説明する。図9は、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。図10は、部分円弧のクラウニングとストレート部との間を補助円弧としたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。図9および図10の左側の縦軸は、クラウニングのドロップ量(単位:mm)を示している。図9および図10の横軸は、ころにおける軸方向での位置(単位:mm)を示している。図9および図10の右側の縦軸は、接触面圧(単位:GPa)を示している。
円錐ころの転動面の輪郭線を部分円弧のクラウニングとストレート部とを有する形状に形成した場合、図10に示すように、ストレート部、補助円弧及びクラウニング相互間の境界における勾配が連続であっても、曲率が不連続であると接触面圧が局所的に増加する。そのため、油膜切れや表面損傷を招く恐れがある。十分な膜厚の潤滑膜が形成されていないと、金属接触による摩耗が生じやすくなる。接触面に部分的に摩耗が生じると、その近辺で、より金属接触が生じやすい状態となるため、接触面の摩耗が促進され、円錐ころが損傷に至る不都合が生じる。
そこで、接触面としての円錐ころの転動面に、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けた場合、例えば図9に示すように、図10の部分円弧で表されるクラウニングを設けた場合と比べて局所的な面圧が低くなり、接触面に摩耗を生じ難くすることができる。したがって、円錐ころの転動面上に存在する潤滑剤の微量化や低粘度化により潤滑膜の膜厚が薄くなる場合においても、接触面の摩耗を防止し、円錐ころの損傷を防止することができる。なお、図9及び図10には、ころの母線方向を横軸とすると共に母線直交方向を縦軸とする直交座標系に、内輪又は外輪ところの有効接触部の中央部に横軸の原点Oを設定してころの輪郭線を示すと共に、面圧を縦軸として接触面圧を重ねて示している。このように、上述のような構成を採用することで長寿命かつ高い耐久性を示す円錐ころ軸受10を実現できる。
上記円錐ころ軸受10において、最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層11B、12B、13Bにおける窒素濃度が0.1質量%以上である。この場合、窒素富化層11B、12B,13Bの最表面における窒素濃度を十分な値とできることから、窒素富化層11B、12B、13Bの最表面の硬度を十分高くすることができる。また、上述した旧オーステナイト結晶粒径の粒度、窒素富化層の底部までの距離、窒素濃度といった条件は、図3の第1測定点31において少なくとも満足されていることが好ましい。
上記円錐ころ軸受10において、窒素富化層11B、12B、13Bが形成された外輪11、内輪13、およびころ12のうちの少なくともいずれか1つは鋼により構成される。当該鋼は、窒素富化層11B、12B、13B以外の部分、つまり未窒化部11C、12C、13Cにおいて、少なくとも炭素(C)を0.6質量%以上1.2質量%以下、珪素(Si)を0.15質量%以上1.1質量%以下、マンガン(Mn)を0.3質量%以上1.5質量%以下含む。上記円錐ころ軸受において、鋼は、さらに2.0質量%以下のクロムを含んでいてもよい。この場合、本実施の形態において規定する構成の窒素富化層11B、12B、13Bを後述する熱処理などを用いて容易に形成できる。
上記円錐ころ軸受10において、上記式(1)における設計パラメータK1,K2,zmのうちの少なくとも1つが、円錐ころと外輪またはころと内輪との接触面圧を目的関数として最適化されている。
上記設計パラメータK1,K2,zmは、接触面圧、応力及び寿命のうちのいずれかを目的関数として最適化して定められるところ、表面起点の損傷は接触面圧に依存する。ここで、上記実施の形態によれば、接触面圧を目的関数として最適化して設計パラメータK1,K2,zmを設定するので、潤滑剤が希薄な条件においても接触面の摩耗を防止できるクラウニングが得られる。
上記円錐ころ軸受10において、外輪11または内輪13の少なくともいずれか1つは、窒素富化層11B、13Bを含む。この場合、外輪11または内輪13の少なくともいずれかにおいて、結晶組織が微細化された窒素富化層11B、13Bが形成されることで、長寿命かつ高耐久性を有する外輪11または内輪13を得ることができる。
上記円錐ころ軸受10において、ころ12は窒素富化層12Bを含む。この場合、ころ12において、結晶組織が微細化された窒素富化層12Bが形成されることで、長寿命かつ高耐久性を有するころ12を得ることができる。
内輪の小鍔面を円錐ころの小端面と平行な面で形成したのは、以下の理由による。内輪13の小鍔面19を、軌道面13Aに配列された円錐ころ12の小端面17と平行な面とすることにより、前述した初期組立状態での円錐ころ12大端面16と内輪13の大鍔面18の第1隙間(円錐ころ12が正規の位置に落ち着いたときの小端面17と内輪13の小鍔面19の隙間に等しい)に対する円錐ころ12の小端面17の面取り寸法、形状のばらつきの影響を排除することができる。すなわち、小端面17の面取り寸法、形状が異なっても、初期組立状態において、互いに平行な小端面17と小鍔面19とは面接触するため、このときの大端面16と大鍔面18の第1隙間は常に一定となり、各円錐ころ12が正規の位置に落ち着くまでの時間のばらつきをなくし、馴らし運転時間を短縮することができる。
円錐ころの大端面の曲率半径Rと円錐ころの円錐角の頂点から内輪大鍔面までの距離RBASEとの比R/RBASEを0.75以上0.87以下の範囲としたのは、以下の理由による。
図11は、内輪大鍔面と円錐ころ大端面の間に形成される油膜厚さtを、Karnaの式を用いて計算した結果を示す。縦軸は、R/RBASE=0.76のときの油膜厚さt0に対する比t/t0で示す。油膜厚さtはR/RBASE=0.76のとき最大となり、R/RBASEが0.9を越えると急激に減少する。
図12は、内輪大鍔面と円錐ころ大端面間の最大ヘルツ応力pを計算した結果を示す。縦軸は、図11と同様に、R/RBASE=0.76のときの最大ヘルツ応力p0に対する比p/p0で示す。最大ヘルツ応力pは、R/RBASEの増大に伴って単調に減少する。
内輪大鍔面と円錐ころ大端面間の辷り摩擦によるトルクロスと発熱を低減するためには、油膜厚さtを厚く、最大ヘルツ応力pを小さくすることが望ましい。本発明者らは、図11および図12の計算結果を参考とし、後の表1に示す耐焼付き試験結果に基づいて、R/RBASEの適正範囲を0.75以上0.87以下に決定した。なお、従来の円錐ころ軸受では、R/RBASEの値は0.90以上0.97以下の範囲に設計されている。
<円錐ころ軸受の製造方法>
図13は、図1に示した円錐ころ軸受の製造方法を説明するためのフローチャートである。図14は、図13の熱処理工程における熱処理パターンを示す模式図である。図15は、図14に示した熱処理パターンの変形例を示す模式図である。図17は、比較例としての軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。以下、円錐ころ軸受の製造方法を説明する。
図13に示すように、まず部品準備工程(S100)を実施する。この工程(S100)では、外輪11、内輪13、ころ12、保持器14などの軸受部品となるべき部材を準備する。なお、ころ12となるべき部材には、まだクラウニングは形成されておらず、当該部材の表面は図4の点線で示した加工前表面12Eとなっている。
次に、熱処理工程(S200)を実施する。この工程(S200)では、上記軸受部品の特性を制御するため、所定の熱処理を実施する。たとえば、外輪11、ころ12、内輪13、のすくなくともいずれか1つにおいて本実施形態に係る窒素富化層11B、12B、13Bを形成するため、浸炭窒化処理または窒化処理と、焼入れ処理、焼戻処理などを行う。この工程(S200)における熱処理パターンの一例を図14に示す。図14は、1次焼入れおよび2次焼入れを行う方法を示す熱処理パターンを示す。図15は、焼入れ途中で材料をA1変態点温度未満に冷却し、その後、再加熱して最終的に焼入れる方法を示す熱処理パターンを示す。これらの図において、処理T1では鋼の素地に炭素や窒素を拡散させまた炭素の溶け込みを十分に行なった後、A1変態点未満に冷却する。次に、図中の処理T2において、処理T1よりも低温に再加熱し、そこから油焼入れを施す。その後、たとえば加熱温度180℃の焼き戻し処理を実施する。
上記の熱処理によれば、普通焼入れ、すなわち浸炭窒化処理に引き続いてそのまま1回焼入れするよりも、軸受部品の表層部分を浸炭窒化しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。上記熱処理工程(S200)によれば、焼入れ組織となっている窒素富化層11B、12B、13Bにおいて、旧オーステナイト結晶粒の粒径が、図17に示した従来の焼入れ組織におけるミクロ組織と比較して2分の1以下となる、図16に示したようなミクロ組織を得ることができる。上記の熱処理を受けた軸受部品は、転動疲労に対して長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
次に、加工工程(S300)を実施する。この工程(S300)では、各軸受部品の最終的な形状となるように、仕上げ加工を行う。ころ12については、図4に示したように切削加工などの機械加工によりクラウニング22Aおよび面取り部21を形成する。
次に、組立工程(S400)を実施する。この工程(S400)では、上記のように準備された軸受部品を組み立てることにより、図1に示した円錐ころ軸受10を得る。このようにして、図1に示した円錐ころ軸受10を製造することができる。
(実験例1)
<試料>
試料として、試料No.1〜4までの4種類の円錐ころを試料として準備した。円錐ころの型番は30206とした。円錐ころの材質としてはJIS規格SUJ2材(1.0質量%C−0.25質量%Si−0.4質量%Mn−1.5質量%Cr)を用いた。
試料No.1については、浸炭窒化焼入れを実施した後、図5に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気はRXガス+アンモニアガスとした。試料No.2については、試料No.1と同様に浸炭窒化焼入れを実施した後、図10に示した部分円弧クラウニングを形成した。
試料No.3については、図14に示した熱処理パターンを実施した後、図5に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。
試料No.4については、図14に示した熱処理パターンを実施した後、図5に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。最終焼入れ温度は800℃とした。試料の最表面から0.05mmの深さ位置での窒化富化層における窒素濃度を0.1質量%以上とするため、浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。更に、炉内雰囲気を厳密に管理した。具体的には、炉内温度のムラ及びアンモニアガスの雰囲気ムラを抑えた。上述した試料No.3および試料No.4が本発明の実施例に対応する。試料No.1および試料No.2は比較例に対応する。
<実験内容>
実験1:寿命試験
寿命試験装置を用いた。試験条件としては、試験荷重:Fr=18kN、Fa=2kN、潤滑油:タービン油56、潤滑方式:油浴潤滑、という条件を用いた。寿命試験装置では、被試験体としての2つの円錐ころ軸受は、支持軸の両端を支持するように配置されている。該支持軸の延在方向の中央部、すなわち2つの円錐ころ軸受の中央部には、該支持軸を介して円錐ころ軸受にラジアル荷重を負荷するための円筒ころ軸受が配置されている。そして、荷重負荷用の円筒ころ軸受にラジアル荷重を負荷することで、被試験体としての円錐ころ軸受にラジアル荷重を負荷する。また、アキシアル荷重は、寿命試験装置のハウジングを介して一方の円錐ころ軸受から支持軸に伝わり、他方の円錐ころ軸受にアキシアル荷重が負荷される。これにより、円錐ころ軸受の寿命試験が行われる。
実験2:偏荷重時の寿命試験
上記実験1の寿命試験と同様の試験装置を用いた。試験条件としては、基本的に上記実験1での条件と同様であるが、ころの中心軸について2/1000radの軸傾きを負荷した状態とし、偏荷重が印加された状態で試験を行った。
実験3:回転トルク試験
試料No.1〜4について、縦型トルク試験機を用いたトルク測定試験を行った。試験条件としては、試験荷重:Fa=7000N、潤滑油:タービン油56、潤滑方式:油浴潤滑、回転数:5000rpm、という条件を用いた。
<結果>
実験1:寿命試験
試料No.4が最も良好な結果を示し、長寿命であると考えられた。試料No.2および試料No.3は、試料No.4の結果には及ばないものの、良好な結果を示し、十分実用に耐え得ると判断された。一方、試料No.1については、最も短い寿命を示す結果となった。
実験2:偏荷重時の寿命試験
試料No.4および試料No.3が最も良好な結果を示し、長寿命であると考えられた。次に、試料No.1が試料No.4および試料No.3には及ばないものの、比較的良好な結果を示した。一方、試料No.2は上記実験1の時の結果より悪い結果を示し、偏荷重条件により短寿命化したものと考えられる。
実験3:回転トルク試験
試料No.1、試料No.3、試料No.4が十分小さな回転トルクを示し良好な結果となった。一方、試料No.2は回転トルクが他の試料より大きくなっていた。
以上の結果から、総合的に試料No.4がいずれの試験においても良好な結果を示し、総合的に最も優れた結果となった。また、試料No.3も、試料No.1および試料No.2と比べて良好な結果を示した。
(実験例2)
<試料>
上記の実験例1における試料No.4を用いた。
<実験内容>
表面から0.05mmの深さ位置での窒素濃度測定:
試料No.4について、窒素濃度の測定と窒素富化層の深さ測定を実施した。測定方法としては、以下のような方法を用いた。すなわち、図3に示した第1〜第3測定点において、中心線と垂直な方向に試料としての円錐ころを切断することで切断面を露出させる。当該切断面において、試料の表面から内部に向かって0.05mmの位置となる複数の測定位置にて、上記EPMAにより窒素濃度について分析を行う。第1〜第3測定点における断面のそれぞれにて、上記測定位置を5か所決定し、当該5か所での測定データの平均値を各測定点での窒素濃度とした。
窒素富化層の底部までの距離の測定:
500℃×1hの焼き戻し処理後の円錐ころの上記第1〜第3測定点での断面において、深さ方向に0.5mm間隔で並ぶ複数の測定点で硬度測定を実施した。そして、ビッカース硬さがHV450以上の領域を窒素富化層とし、当該硬度がHV450となった位置の深さを窒素富化層の底部とした。
<結果>
表面から0.05mmの深さ位置での窒素濃度測定:
第1測定点については、窒素濃度が0.2質量%となり、第2測定点については窒素濃度が0.25質量%となり、第3測定点については窒素濃度が0.3質量%となった。いずれの測定点でも、測定結果は本願発明の範囲に入るものとなった。
窒素富化層の底部までの距離の測定:
第1測定点については、窒素富化層の底部までの距離が0.3mmとなり、第2測定点については当該距離が0.35mmとなり、第3測定点については当該距離が0.3mmとなった。いずれの測定点でも、測定結果は本願発明の範囲に入るものとなった。
(実験例3)
<実施例試料>
図8に示した、円錐ころの大端面の曲率半径Rが、R/RBASE=0.75以上0.87以下の範囲に入り、内輪の大鍔面の表面粗さRa が0.12μmで、小鍔面が円錐ころの小端面と平行な研削加工面で形成され、第1隙間が0.4mm以下の寸法規制範囲内に入れられた円錐ころ軸受(表1中の試料No.5〜8)を用意した。軸受の寸法は、いずれも内径40mm、外径68mmである。
<比較例試料>
R/RBASEの値が本願の範囲を外れ、かつ内輪の小鍔面が円錐ころの小端面に対して外側に傾斜し、第1隙間が0.4mmを越える円錐ころ軸受(表1中の試料No.9〜11)を用意した。各軸受の寸法は実施例と同じである。
上記実施例および比較例の円錐ころ軸受に対して、回転試験機を用いた耐焼付き試験を実施した。また、試料No.6と試料No.10の円錐ころ軸受に対しては、馴らし運転試験も行った。馴らし運転試験のサンプル数は、試料No.6に対しては66個、試料No.10に対しては10個とした。耐焼付き試験の試験条件は以下の通りである。負荷荷重:19.61kN回転数 :1000〜3500rpm潤滑油 :タービンVG56(給油量40ミリリットル/分、給油温度40℃±3℃)。
各試験結果を表1に示す。耐焼付き試験における焼付きは、内輪の大鍔面と円錐ころの大端面の間で生じたものである。
実施例の円錐ころ軸受は、いずれも耐焼付き試験における焼付き発生の限界回転数が2700rpm以上になっており、内輪大鍔面と円錐ころ大端面間の摩擦抵抗が少ないことがわかる。一方、比較例の円錐ころ軸受は、焼付き発生の限界回転数が2500rpm以下になっており、デファレンシャル等の通常の使用条件下で問題となることがある。大鍔面の表面粗さRaが粗い試料11は、同じ曲率半径Rの試料No.10よりも低い焼付き発生限界回転数を示している。
また、馴らし運転試験の結果は、比較例では円錐ころが正規の位置に落ち着くまでの回転回数の平均値が6回であるのに対して、実施例では約半分の2.96回になっている。実施例は回転回数のばらつきの標準偏差も小さくなっており、馴らし運転時間を安定して短縮できることがわかる。
以上のように、この発明の円錐ころ軸受は、円錐ころの大端面の曲率半径Rを、R/RBASE=0.75以上0.87以下の範囲の値とするとともに、内輪の小鍔面を円錐ころの小端面と平行な面で形成したので、内輪大鍔面と円錐ころ大端面間での辷り摩擦によるトルクロスと発熱を低減して焼付きの発生を防止でき、かつ馴らし運転時間を短縮して軸受取り付け作業を効率化することができる。また、車両用歯車軸支持装置の耐久性を向上させることができる。
さらに、実施の形態1に係る円錐ころ軸受10では、保持器14は、円錐ころ12の小径端面側で連なる小環状部106と、円錐ころ12の大径端面側で連なる大環状部107と、これらの環状部を連結する複数の柱部108とを含む。ポケット109が、円錐ころ12の小径側を収納する部分が狭幅側となり、かつ大径側を収納する部分が広幅側となる台形状に形成されている。保持器14のポケット109の狭幅側の柱部に切欠きを小環状部106と柱部との境界から大環状部107の方へ幅をもたせて設けたことにより、保持器14の内径側から内輪側へ流入する潤滑油が切欠きから外径側の外輪側へ速やかに逃げるようにし、小環状部106のポケット109側の縁を、ポケット109の狭幅側の底辺部分が柱部まで延びた形状としている。
潤滑油が外部から流入する部位に使用される円錐ころ軸受には、保持器のポケットに切欠きを設けて、保持器の外径側と内径側とに分かれて流入する潤滑油がこの切欠きを通過するようにし、軸受内部での潤滑油の流通を向上させるようにしたものがある。しかし、潤滑油が保持器の外径側と内径側とに分かれて軸受内部へ流入する円錐ころ軸受では、保持器の内径側から内輪側へ流入する潤滑油の割合が多くなると、トルク損失が大きくなることが分かった。この理由は、以下のように考えられる。
すなわち、保持器の外径側から外輪側へ流入する潤滑油は、外輪の内径面には障害物がないので、その軌道面に沿って円錐ころの大径側へスムーズに通過して軸受内部から流出するが、保持器の内径側から内輪側へ流入する潤滑油は、内輪の外径面には大鍔があるので、その軌道面に沿って円錐ころの大径側へ通過したときに大鍔で堰き止められ、軸受内部に滞留しやすくなる。このため、保持器の内径側から内輪側へ流入する潤滑油の割合が多くなると、軸受内部に滞留する潤滑油の量が多くなり、この滞留する潤滑油が軸受回転に対する流動抵抗となってトルク損失が増大するものと考えられる。
そこで、実施の形態1に係る円錐ころ軸受10では、保持器の台形状ポケットの狭幅側の柱部に切欠きを設けることにより、保持器の内径側から内輪側へ流入する潤滑油を、円錐ころの小径側を収納するポケットの狭幅側で切欠きから外輪側へ速やかに逃がし、内輪の軌道面に沿って大鍔まで到る潤滑油の量を少なくして、軸受内部に滞留する潤滑油の量を減らし、潤滑油の流動抵抗によるトルク損失を低減できるようにした。
(実施の形態2)
図18〜図20を参照して、実施の形態2に係る円錐ころ軸受は、基本的に実施の形態1に係る円錐ころ軸受10と同様の構成を備えるが、ころ12の大端面16の加工後の実曲率半径をRprocessとしたとき、実曲率半径Rprocess(図20を参照)と基準曲率半径R(図19を参照)との比率Rprocess/Rが0.8以上であることが特定されている点で異なる。
図18および図19は、研削加工が理想的に施された場合に得られる円錐ころの転動軸に沿った断面模式図である。研削加工が理想的に施された場合、得られる円錐ころの大端面は、円錐ころ12の円錐角の頂点O(図8参照)を中心とする球面の一部となる。図18および図19に示されるように、凸部16Aの一部を残すような研削加工が理想的に施された場合には、凸部16Aの端面を有するころ12の大端面16は、ころ12の円錐角の頂点を中心とする1つの球面の一部となる。この場合、ころ12の転動軸(自転軸)を中心とする径方向における上記凸部の内周端は上記凹部と点C2,C3を介して接続されている。上記凸部の外周端は面取り部と点C1,C4を介して接続されている。理想的な大端面では、点C1〜C4は、上述のように1つの球面上に配置されている。
一般的に、円錐ころは、円柱状のころ素形材に対し、圧造加工、クラウニング加工を含む研削加工が順に施されることにより、製造される。圧造加工により得られた成形体の大端面となるべき面の中央部には、圧造装置のパンチの形状に起因した凹部が形成されている。当該凹部の平面形状は例えば円形状である。異なる観点から言えば、圧造加工により得られた成形体の大端面となるべき面の外周部には、圧造装置のパンチに起因した凸部が形成されている。当該凸部の平面形状は例えば円環形状である。当該成形体の凸部の少なくともの一部は、その後に実施される研削加工により除去される。
ここで、ころ12の大端面16の曲率半径Rは、図18に示すころ12の大端面16が設定した理想的な球面であるときのR寸法である。具体的には、図19に示すように、ころ12の大端面16の端部の点C1、C2、C3、C4、点C1、C2の中間点P5、C3、C4の中間点P6とした場合、点C1、P5、C2を通る曲率半径R152、点C3、P6、C4を通る曲率半径R364及び点C1、P5、P6、C4を通る曲率半径C1564が、R152=R364=R1564が成り立つ理想的な単一円弧曲線である。なお、点C1、C4は、凸部16Aと面取り部16Cとの接続点であり、点C2、C3は、凸部16Aと凹部16Bとの接続点である。ここで、R=R152=R364=R1564が成り立つ理想的な単一円弧曲線を基準曲率半径と呼ぶ。なお、基準曲率半径Rは、後述のように実際の研削加工により得られた円錐ころの大端面の曲率半径として測定される実曲率半径Rprocessとは異なるものである。
図20は、実際の研削加工により得られる円錐ころの転動軸に沿った断面模式図である。図20では、図19に示される理想的な大端面は点線で示されている。図20に示されるように、上記のような凹部および凸部が形成されている成形体を研削加工して、実際に得られる円錐ころの大端面は、円錐ころの円錐角の頂点を中心とする1つの球面の一部とならない。実際に得られる円錐ころの上記凸部の点C1〜C4は、図19に示される上記凸部と比べて、各点C1〜C4がだれた形状を有している。すなわち、図20に示される点C1,C4は、図19に示される点C1,C4と比べて、転動軸の中心に対する径方向において外周側に配置されているとともに、転動軸の延在方向において内側に配置されている(大端面16全体のR1564に対する片側のR152が同一ではなく、小さくできてしまう)。図20に示される点C2,C3は、図19に示される点C2,C3と比べて、転動軸の中心に対する径方向において内周側に配置されているとともに、転動軸の延在方向において内側に配置されている(大端面16全体のR1564に対する片側のR364が同一ではなく、小さくできてしまう)。なお、図20に示される中間点P5,P6は、例えば図19に示される中間点P5,P6と略等しい位置に形成されている。
図20に示されるように、研削加工により実際に形成される大端面では、頂点C1および頂点C2が1つの球面上に配置されており、かつ頂点C3および頂点C4が他の1つの球面上に配置されている。一般的な研削加工によっては、一方の凸部上に形成された大端面の一部が成す1つの円弧の曲率半径は、他方の凸部上に形成された大端面の一部が成す円弧の曲率半径と、同等程度となる。すなわち、図20に示されるころ12の大端面16の加工後の一方側のR152は、他方側のR364に略等しい。ここで、ころ12の大端面16の加工後の片側のR152、R364を実曲率半径Rprocessと呼ぶ。上記実曲率半径Rprocessは上記基準曲率半径R以下となる。
本実施の形態に係る円錐ころ軸受の円錐ころは、上記基準曲率半径Rに対する上記実曲率半径Rprocessの比率Rprocess/Rが0.8以上である。
なお、図20に示されるように、研削加工により実際に形成される大端面において、頂点C1,中間点P5、中間点P6、および頂点C4を通る仮想円弧の曲率半径Rvirtual(以下、仮想曲率半径という)は、上記基準曲率半径R以下となる。つまり、本実施の形態に係る円錐ころ軸受の円錐ころは、当該仮想曲率半径Rvirtualに対する上記実曲率半径Rprocessの比率Rprocess/Rvirtualが0.8以上である。
上記実曲率半径Rprocessおよび上記仮想曲率半径Rvirtualは、研削加工により実際に形成された円錐ころに対して任意の方法により測定され得るが、例えば表面粗さ測定器(例えばミツトヨ製表面粗さ測定器サーフテストSV‐100)を用いて測定され得る。表面粗さ測定器を用いた場合には、まず転動軸を中心とする径方向に沿って測定軸を設定し、大端面の表面形状を測定する。得られた大端面プロファイルに、上記頂点C1〜C4および中間点P5およびP6をプロットする。上記実曲率半径Rprocessは、プロットされた頂点C1、中間点P5および頂点C2を通る円弧の曲率半径として算出される。上記仮想曲率半径Rvirtualは、プロットされた頂点C1、中間点P5,P6および頂点C4を通る円弧の曲率半径として算出される。
一方で、基準曲率半径Rは、実際の研削加工により得られた円錐ころの各寸法等から、例えばJIS規格等の工業規格に基づいて見積もられる。
好ましくは、大端面の表面粗さRaは0.10μm以下である。好ましくは、大鍔面の表面粗さRaが0.063μm以下である。
好ましくは、図21および図22に示されるように、転動軸の延在方向におけるころの転動面の幅Lに対する、内輪および外輪11の軌道面11A,13Aと転動面との当たり位置の当該延在方向における転動面の中点からのずれ量αの比率α/Lが0%以上20%未満である。さらに、該比率α/Lが0%超えであるときの当該当たり位置が転動軸の延在方向における転動面の中央位置または該中央位置よりも大端面側にある。
比率α/Lが0%超えとなる構成は、図21に示されるように、ころの転動面に形成されたのクラウニング、および内輪および外輪11の軌道面11A,13Aに形成されたクラウニングの各頂点の位置を相対的にずらすことにより、実現され得る。
また、比率α/Lが0%超えとなる構成は、図22に示されるように、内輪の軌道面13Aが内輪の軸方向に対して成す角度と、外輪11の軌道面11Aが外輪11の軸方向に対して成す角度とを相対的に変えることより、実現され得る。具体的には、図22中に点線で示される上記当たり位置のずれ量αがゼロである場合と比べて、内輪の軌道面13Aが内輪の軸方向に対して成す角度を大きくする、および外輪11の軌道面11Aが外輪11の軸方向に対して成す角度を小さくする、の少なくともいずれかの方法により、比率α/Lが0%超えとなる構成は実現され得る。
<作用効果>
本実施の形態2に係る円錐ころ軸受は、実施の形態1に係る円錐ころ軸受10と基本的に同等の構成を備えているため、実施の形態1に係る円錐ころ軸受10と同様の効果を奏することができる。
さらに、本実施の形態2に係る円錐ころ軸受は、上記基準曲率半径Rに対する上記実曲率半径Rprocessの比率Rprocess/Rが0.8以上である。本発明者らは、当該比率Rprocess/Rが0.8以上である円錐ころ軸受は、Rprocess/Rが0.8未満である円錐ころ軸受と比べて、耐焼き付き性を向上できることを確認した。
円錘ころ軸受ではころの大端面と内輪の大鍔面とがすべり接触することで、一定のアキシアル荷重を受けることができる。すべり接触であるために、大端面と大鍔面との間の潤滑環境が不十分になると、大端面と大鍔面との間の接触面圧が増加して金属接触が生じる。その結果、発熱により焼き付きが生じ、最終的には軸受ロックに至る。
また、上記円錐ころ軸受のように、円錐ころの転動面にクラウニングが形成されている場合、ころの転動面と内外輪の軌道面11A,13Aとの間の接触面圧の増加を抑制することができるが、スキューが生じるという問題がある。スキューが生じると、大端面と大鍔面との間に印加される接線力が増大し、摩擦トルクが増加する。また、スキュー角が増大すると、大端面と大鍔面とはいわゆるエッジ当たりとなるため、両面間で金属接触が生じ、発熱により焼き付きが生じる。
そのため、上記円錐ころ軸受の耐焼き付き性をさらに向上するためには、ころの大端面と内輪の大鍔面との接点での摩擦による回転トルクの増大を抑制しかつ発熱を低減する必要がある。
ころの大端面と内輪の大鍔面の金属接触を抑制して発熱を低減するためには、両面間に十分な油膜厚さを確保する必要がある。
上述のように、上記円錐ころの円錐角の頂点から内輪の大鍔面までの距離RBASEに対する円錐ころの大端面の基準曲率半径Rの比率R/RBASEの値が0.75以上0.87以下であるため、図11および図12に基づいて油膜厚さtを厚く、最大ヘルツ応力pを小さくすることができ、大端面と大鍔面との間のすべり摩擦によるトルクロスと発熱を低減することができる。
さらに、実施の形態2に係る円錐ころ軸受は、比率Rprocess/Rが0.8以上であるため、比率Rprocess/Rが0.8未満である円錐ころ軸受と比べて、大端面と大鍔面との接触面圧を低減することができ、かつスキュー角の増加を抑制することができる。その結果、大端面と大鍔面との間の接触面圧の増加を抑制することができ、両面間に十分な油膜厚さを確保することができる。このことは、以下の計算結果から確認されている。
表2に、比率Rprocess/Rが1であるときの大端面と大鍔面との間の接触面圧p0、スキュー角θ0、油膜パラメータΛ0に対する、比率Rprocess/Rを変化させたときの接触面圧p、スキュー角θ、油膜パラメータΛの各比率の計算結果を示す。
表2に示されるように、比率Rprocess/Rが0.7以下であると、大端面と大鍔面との間の接触面圧比p/p0が1.6以上、スキュー角比θ/θ0が3以上となり、かつ油膜パラメータの比率Λ/Λ0が0.5以下となる。このような円錐ころ軸受が例えば油膜パラメータΛが2未満であるような潤滑状態が良好でない環境下で使用された場合、油膜パラメータΛは1未満となり、大端面と大鍔面との接触状態は金属接触が生じる境界潤滑領域となる。これに対し、比率Rprocess/Rが0.8以上であると、接触面圧比p/p0が1.4以下、スキュー角比θ/θ0が1.5以下となり、油膜パラメータの比率Λ/Λ0が0.8以上となる。よって、比率Rprocess/Rが0.8以上である円錐ころ軸受が、比率Rprocess/Rが0.8未満である円錐ころ軸受と比べて大端面と大鍔面との間の油膜厚さを確保することができることは、上記計算結果により確認された。
好ましくは、実施の形態2に係る円錐ころ軸受では、大端面の表面粗さRaが0.10μm以下であり、かつ大鍔面の表面粗さRaが0.063μm以下である。このようにすれば、ころの大端面と内輪の大鍔面間により十分な油膜厚さを確保することができる。具体的には、大端面の表面粗さRaおよび大鍔面の表面粗さRa大鍔面の表面粗さRaを上記数値範囲内とした場合、各表面粗さが上記数値範囲外とした場合と比べて、「弾性流体潤滑理論により求まる油膜厚さhと、大端面および大鍔面の二乗平均粗さの合成粗さσとの比」で定義される油膜パラメータΛ(=h/σ)を高めることができる。そのため、大端面と大鍔面との間に十分な油膜厚さを確保することができる。
好ましくは、実施の形態2に係る円錐ころ軸受では、転動軸の延在方向におけるころの転動面の幅Lに対する外輪11の軌道面11A,内輪13の軌道面13Aと転動面12Aとの当たり位置の上記延在方向における転動面の中点からのずれ量αの比率α/Lが、0%以上20%未満であり、かつ、当該当たり位置が、転動軸の延在方向における転動面の中央位置または該中央位置よりも大端面側にある。本発明者らは、上記比率α/Lが0%以上20%未満であり、かつ、該比率α/Lが0%超えであるときの当該当たり位置が転動軸の延在方向における転動面の中央位置または該中央位置よりも大端面側にあることにより、該比率α/Lが0%超えであるときの当該当たり位置が転動軸の延在方向における転動面の中央位置または該中央位置よりも小端面側にある場合と比べて、スキュー角を低減し、回転トルクの増大を抑制し得ることを確認した。
表3に、上記ずれ量αが0であるとき、すなわち内輪および外輪11の軌道面11A,13Aと転動面との当たり位置が転動軸の延在方向における転動面の中点に位置しているときのスキュー角θ0、回転トルクM0に対する、ずれ量αを変化させたときのスキュー角θ、回転トルクMの各比率の計算結果を示す。なお、表3において、上記当たり位置が上記中点よりも小端面側にずれているときのずれ量を負の値で示す。回転トルク比M/M0が1.1以下であるものを良(表3中○)と評価し、回転トルク比M/M0が1.1超えであるものを不良(表3中×)と評価した。
表3に示されるように、上記当たり位置が上記中点よりも小端面側に比較的大きくずれているとき、すなわちずれ量αが−5%未満であるときには、スキュー角比θ/θ0が2以上と大きく、ずれ量のわずかな増加が回転トルクの大幅な増加を引き起こす。
これに対し、上記当たり位置が上記中点よりも小端面側に比較的小さくずれているとき、すなわちずれ量αが−5%以上0%未満であるときには、ずれ量αが−5%未満であるときと比べて、スキュー角比θ/θ0が小さく、ずれ量の増加に対する回転トルクの増加率が小さい。
さらに、上記ずれ量αが0%以上20%以下であれば、スキュー角比θ/θ0が1以下となり、またずれ量のわずかな増加が回転トルクの大幅な増加を引き起こさない。
なお、表3には記していないか、上記ずれ量αが20%超えであれば、ピーリング等他の不具合が引き起こされる程度に高い回転トルクとなるため、好ましくない。よって、上記比率α/Lが0%以上20%未満であり、かつ、該比率α/Lが0%超えであるときの当該当たり位置が転動軸の延在方向における転動面の中央位置または該中央位置よりも大端面側にあることにより、スキュー角を低減し得ることは、上記計算結果により確認された。
(実施の形態3)
実施の形態3に係る円錐ころ軸受は、基本的に実施の形態1に係る円錐ころ軸受10と同様の構成を備えるが、ころ転動面のクラウニング形成部分において内輪軌道面13Aに非接触である非接触部クラウニング部分28の母線の曲率R8が、内輪軌道面13Aに接触する接触部クラウニング部分27の母線の曲率R7よりも小さく設定している点で異なる。
実施の形態3に係る円錐ころ軸受は、図1に示すように、内輪13と、外輪11と、これら内外輪間に介在する複数個のころ12とを備えている。内輪13の外周には内輪軌道面13Aが形成され、この内輪軌道面13Aの大径側および小径側に大つば部41および小つば部42をそれぞれ有する。内輪軌道面13Aと大つば部41とが交わる隅部には、研削逃げ部43が形成され、内輪軌道面13Aと小つば部42との隅部には、研削逃げ部44が形成されている。上記内輪軌道面13Aは、内輪軸方向に延びる母線が直線となっている。外輪11の内周には、内輪軌道面13Aに対向する外輪軌道面11Aが形成され、鍔無しとされ、外輪軌道面11Aは外輪軸方向に延びる母線が直線となっている。
図1、図23、図24に示すように、ころ12の外周のころ転動面にはクラウニングを形成し、ころ12の両端には面取り部21,25が施されている。ころ転動面のクラウニング形成部分を、接触部クラウニング部分27と、非接触部クラウニング部分28とに形成している。これらのうち接触部クラウニング部分27は、内輪軌道面13Aの軸方向範囲にあって内輪軌道面13Aに接する。非接触部クラウニング部分28は、内輪軌道面13Aの軸方向範囲から外れて内輪軌道面13Aに非接触となる。
これら接触部クラウニング部分27と非接触部クラウニング部分28は、ころ軸方向に延びる母線が、互いに異なる関数で表されかつ互いに接続点P1で滑らかに連続する線である。上記接続点P1の近傍において、非接触部クラウニング部分28の母線の曲率R8を、接触部クラウニング部分27の母線の曲率R7よりも小さく設定している。
ところで、円錐ころ軸受においては、内輪13側の接触部と外輪11側の接触部とでは、内輪13側の方が周方向の等価半径が小さいから面圧が高くなる。したがって、クラウニングの設計においては、内輪13側の接触について検討すればよい。
円錐ころ軸受、呼び番号30316に基本動定格荷重の35%のラジアル荷重が作用し、ミスアライメントが1/600である場合について検討する。このとき、ミスアライメントは、ころ12の小径側でなく大径側で面圧が高くなる方向に傾くとする。上記基本動定格荷重とは、内輪13を回転させ外輪11を静止させた条件で、一群の同じ軸受を個々に運転したとき、低格寿命が100万回転になるような、方向と大きさが変動しない荷重をいう。上記ミスアライメントは、外輪11を嵌合した図示外のハウジングと、内輪13を嵌合した軸との心ずれであり、傾き量として上記のような分数にて表記する。
上記接触部クラウニング部分27の母線は、上記式(1)で表される対数クラウニングの対数曲線により形成されている。
クラウニングの加工精度を確保するためには、ころ12の外周に、ころ全長L1の1/2以上のストレート部分が存在することが望ましい。そこで、ころ全長L1の1/2をストレート部分とし、ころ軸方向中央を基準として、小径側の部分と大径側の部分とで対称のクラウニングであるとすれば、対数クラウニング式(1)中の設計パラメータのうち、K2は固定され、K1とzmが設計の対象となる。
ところで、後述の数理的最適化手法を用いてクラウニングを最適化すると、本条件では、図25の「対数」のようなクラウニングとなる。このとき、ころ12のクラウニングの最大ドロップ量は69μmである。ところが、図25中のGの領域は、図23の内輪13の研削逃げ部43,44と相対するEの領域であり内輪13とは接触しない。このため、ころ12の上記Gの領域は、対数クラウニングである必要はなく、直線もしくは円弧あるいはその他の関数としても差し支えない。ころ12の上記Gの領域が直線、円弧、その他の関数であっても、ころ全体が対数クラウニングの場合と同一の面圧分布となり、機能上何ら遜色はない。
対数クラウニングの数理的最適化手法について説明する。
対数クラウニングを表す関数式(1)中のK1,zmを適切に選択することによって,最適な対数クラウニングを設計することができる。
クラウニングは一般的に接触部の面圧もしくは応力の最大値を低下させるように設計する。ここでは,転動疲労寿命はMisesの降伏条件にしたがって発生すると考え,Misesの相当応力の最大値を最小にするようにK1,zmを選択する。
K1,zmは適当な数理的最適化手法を用いて選択することが可能である。数理的最適化手法のアルゴリズムには種々のものが提案されているが、その一つである直接探索法は、関数の微係数を使用せずに最適化を実行することが可能であり、目的関数と変数が数式によって直接的に表現できない場合に有用である。ここでは,直接探索法の一つであるRosenbrock法を用いてK1,zmの最適値を求める。
円錐ころ軸受、呼び番号30316に基本動定格荷重の35%のラジアル荷重が作用し、ミスアライメントが1/600である場合では、Misesの相当応力の最大値sMises_maxと対数クラウニングパラメータK1,zmは図26のような関係にある。K1,zmに適当な初期値を与え,Rosenbrok法の規則にしたがってK1,zmを修正していくと,図26中の最適値の組合せに到達し,sMises_maxは最小となる。
ころ12と内輪13との接触を考える限りにおいては、図25におけるGの領域のクラウニングは、どのような形状でもよいが、外輪11との接触や加工時の砥石の成形性を考慮すれば、対数クラウニング部との接続点P1において、対数クラウニング部の勾配より小さな勾配となることは望ましくない。Gの領域のクラウニングについて、対数クラウニング部の勾配より大きな勾配を与えることは、ドロップ量が大きくなるため、これも望ましくない。すなわち、Gの領域のクラウニングと対数クラウニングは、その接続点P1で勾配が一致して滑らかに繋がるように設計されることが望ましい。図25において、ころ12のGの領域のクラウニングを、直線とした場合を点線にて例示し、円弧とした場合を太実線にて例示する。Gの領域のクラウニングを直線とした場合、ころ12のクラウニングのドロップ量Dpは例えば36μmとなる。Gの領域のクラウニングを円弧とした場合、ころ12のクラウニングのドロップ量Dpは例えば40μmとなる。
以上説明した円錐ころ軸受によると、ころ12の外周のころ転動面にクラウニングを形成したため、内輪軌道面13Aのみにクラウニングを形成する場合よりも、ころ転動面に砥石を必要十分に作用させ得る。よって転動面に対する加工不良を未然に防止できる。ころ転動面に形成したクラウニングにより、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受の長寿命化を図ることができる。さらに、接触部クラウニング部分27と、非接触部クラウニング部分28との接続点P1の近傍において、非接触部クラウニング部分28の母線の曲率R8が、接触部クラウニング部分27の母線の曲率R7よりも小さいため、ころ12の両端部のドロップ量Dpの低減を図ることができる。したがって、例えば従来の単一円弧クラウニングのものより研削量を抑え、ころ12の加工効率の向上を図り、製造コストの低減を図ることができる。
非接触部クラウニング部分28の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が円弧であってもよい。この場合、ころ転動面全体の母線を例えば対数曲線で表すものより、ドロップ量Dpの低減を図ることができる。したがって、研削量の低減を図れる。図27に示すように、上記非接触部クラウニング部分28の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が直線であってもよい(図27の例では大径側の部分のみ直線)。この場合、非接触部クラウニング部分28の母線を円弧とする場合よりもさらにドロップ量Dpの低減を図ることができる。
接触部クラウニング部分27の母線の一部または全部が対数クラウニングで表されてもよい。この対数クラウニングで表される接触部クラウニング部分27により、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受の長寿命化を図ることができる。図28に示すように、接触部クラウニング部分27の母線が、ころ軸方向に沿って平坦に形成されたストレート部分27Aと、対数クラウニングの対数曲線で形成された部分27Bとによって表されてもよい。
この発明の他の実施形態として、円錐ころ軸受において、クラウニングを、ころ12に設けると共に内輪13にも設けてもよい。この場合、ころ12のドロップ量と内輪13のドロップ量との和が、上記の最適化されたドロップ量と等しくなるようにする。これらクラウニングにより、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受の長寿命化を図ることができる。さらに、従来の単一円弧クラウニングのものより研削量を抑え、ころ12の加工効率の向上を図り、製造コストの低減を図ることができる。
(作用効果)
この発明の円錐ころ軸受は、内外輪およびころを含む円錐ころ軸受であって、少なくともころの外周のころ転動面にクラウニングを形成し、ころ転動面のクラウニング形成部分を、内輪軌道面の軸方向範囲にあって内輪軌道面に接する接触部クラウニング部分と、内輪軌道面の軸方向範囲から外れて内輪軌道面に非接触となる非接触部クラウニング部分とに形成し、これら接触部クラウニング部分と非接触部クラウニング部分は、ころ軸方向に延びる母線が、互いに異なる関数で表されかつ互いに接続点で滑らかに連続する線であり、上記接続点の近傍において、非接触部クラウニング部分の母線の曲率が、接触部クラウニング部分の母線の曲率よりも小さいことを特徴とする。
上記「滑らかに連続する」とは、角を生じずに連続することであり、理想的には、接触部クラウニング部分の母線と、非接触部クラウニング部分の母線とが、互いの連続点において、共通の接線を持つように続くことで、すなわち上記母線が上記連続点で連続的微分可能な関数であることである。
この構成によると、ころの外周のころ転動面にクラウニングを形成したため、内輪軌道面のみにクラウニングを形成する場合よりも、ころ転動面に砥石を必要十分に作用させ得る。よって転動面に対する加工不良を未然に防止できる。ころ転動面に形成したクラウニングにより、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受の長寿命化を図ることができる。さらに、接触部クラウニング部分と、非接触部クラウニング部分との接続点の近傍において、非接触部クラウニング部分の母線の曲率が、接触部クラウニング部分の母線の曲率よりも小さいため、ころの両端部のドロップ量の低減を図ることができる。したがって、例えば従来の単一円弧クラウニングのものより研削量を抑え、ころの加工効率の向上を図り、製造コストの低減を図ることができる。
上記非接触部クラウニング部分の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が円弧であってもよい。この場合、ころ転動面全体の母線を例えば対数曲線で表すものより、ドロップ量の低減を図ることができる。したがって、研削量の低減を図れる。
上記非接触部クラウニング部分の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が直線であってもよい。この場合、非接触部クラウニング部分の母線を円弧とする場合よりもさらにドロップ量の低減を図ることができる。
上記接触部クラウニング部分の母線の一部または全部が対数クラウニングで表されてもよい。この対数クラウニングで表される接触部クラウニング部分により、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受の長寿命化を図ることができる。
上記接触部クラウニング部分の母線が、ころ軸方向に沿って平坦に形成されたストレート部分と、対数クラウニングの対数曲線で形成された部分とによって表されてもよい。
上記非接触部クラウニング部分の母線のうち、対数クラウニングの対数曲線で形成された部分との接続部を、同対数曲線の勾配と一致させてもよい。この場合、接触部クラウニング部分の母線と非接触部クラウニング部分の母線とを、接続点でより滑らかに連続させ得る。
上記接触部クラウニング部分の母線を、上記式(1)で表される対数クラウニングの対数曲線により形成してもよい。
上記式(1)のうち、少なくともK1,zmについて数理的最適化手法を利用して最適設計してもよい。
内輪軌道面にクラウニングが施されており、この内輪軌道面のクラウニングのドロップ量と、ころの外周のクラウニングのドロップ量との和が所定の値となるものであってもよい。
この発明の円錐ころ軸受の設計方法は、内外輪およびころを含む円錐ころ軸受の設計方法であって、少なくともころの外周のころ転動面にクラウニングを形成し、ころ転動面のクラウニング形成部分を、内輪軌道面の軸方向範囲にあって内輪軌道面に接する接触部クラウニング部分と、内輪軌道面の軸方向範囲から外れて内輪軌道面に非接触となる非接触部クラウニング部分とに形成し、これら接触部クラウニング部分と非接触部クラウニング部分は、ころ軸方向に延びる母線が、互いに異なる関数で表されかつ互いに接続点で滑らかに連続する線とし、上記接触部クラウニング部分の母線を、上記式(1)で表される対数クラウニングの対数曲線により形成し、上記接続点の近傍において、非接触部クラウニング部分の母線の曲率を、接触部クラウニング部分の母線の曲率よりも小さく設計することを特徴とする。
この発明の設計方法により、面圧や接触部の応力を低減し長寿命化を図れる円錐ころ軸受を簡単に設計し得る。また、ころのドロップ量の低減を図り、製造コストの低減を図れる円錐ころ軸受を設計可能である。
(実施の形態4)
実施の形態4に係る円錐ころ軸受は、実施の形態1に係る円錐ころ軸受10と基本的に同様の構成を備えるが、保持器14の切欠きの構成が異なっている。
図29に示されるように、ポケット109の狭幅側の小環状部106にも切欠き110cが設けられ、狭幅側の3つの切欠き10a、10cの合計面積が、広幅側の2つの切欠き10bの合計面積よりも広くなっている。なお、切欠き110cは深さ1.0mm、幅5.7mmとされている。
図30に示した変形例は、狭幅側の柱部108の各切欠き10aの深さが1.5mmと広幅側の柱部108の各切欠き10bよりも深く形成され、狭幅側の各切欠き10aの合計面積が、広幅側の各切欠き10bの合計面積よりも広くなっている。
保持器14の小環状部106の軸方向外側には、図1に示したように、内輪13の小つば部42の外径面に対向させた径方向内向きの鍔が設けられ、後の図32に示すように、この対向させた小環状部106の鍔の内径面と内輪13の小つば部42の外径面との第2隙間δは、小つば部42の外径寸法の2.0%以下に狭く設定されている。
上述した円錐ころ軸受10が自動車のデファレンシャル又はトランスミッションに使用される。すなわち、円錐ころ軸受10は、自動車用円錐ころ軸受である。図31は、上述した円錐ころ軸受10を使用した自動車のデファレンシャルを示す。このデファレンシャルは、プロペラシャフト(図示省略)に連結され、デファレンシャルケース121に挿通されたドライブピニオン122が、差動歯車ケース123に取り付けられたリングギヤ124と噛み合わされ、差動歯車ケース123の内部に取り付けられたピニオンギヤ125が、差動歯車ケース123に左右から挿通されるドライブシャフト(図示省略)に連結されるサイドギヤ126と噛み合わされて、エンジンの駆動力がプロペラシャフトから左右のドライブシャフトに伝達されるようになっている。このデファレンシャルでは、動力伝達軸であるドライブピニオン122と差動歯車ケース123が、それぞれ一対の円錐ころ軸受10a、10bで支持されている。
各円錐ころ軸受10a、10bが高速で回転してその下部が油浴に漬かると、図32に矢印で示すように、油浴の潤滑油が円錐ころ12の小径側から保持器14の外径側と内径側とに分かれて軸受内部へ流入し、保持器14の外径側から外輪11へ流入した潤滑油は、外輪11の軌道面11Aに沿って円錐ころ12の大径側へ通過して軸受内部から流出する。一方、保持器14の内径側から内輪13側へ流入する潤滑油は、保持器14の小環状部106(図29参照)の鍔50と内輪13の小つば部42との第2隙間δが狭く設定されているので、保持器14の外径側から流入する潤滑油よりも遥かに少なく、かつ、この第2隙間δから流入する潤滑油の大半は、ポケット109の狭幅側の柱部108に設けた切欠き10aを通過して、保持器14の外径側へ移動する。したがって、そのまま内輪13の軌道面13Aに沿って大つば部41まで到る潤滑油の量は非常に少なくなり、軸受内部に滞留する潤滑油の量を減らすことができる。
本実施の形態4に係る円錐ころ軸受では、台形状ポケットの狭幅側の小環状部にも切欠きを設けることにより、保持器の内径側から内輪側へ流入する潤滑油をこの小環状部の切欠きからも外輪側へ逃がし、内輪の軌道面に沿って大鍔まで到る潤滑油の量をより少なくして、潤滑油の流動抵抗によるトルク損失をさらに低減することができる。
台形状ポケットの広幅側の少なくとも柱部に切欠きを設けることにより、円錐ころをバランスよく柱部に摺接させることができる。
台形状ポケットの狭幅側に設けた切欠きの合計面積を、台形状ポケットの広幅側に設けた切欠きの合計面積よりも広くすることによっても、内輪の軌道面に沿って大鍔まで到る潤滑油の量をより少なくして、潤滑油の流動抵抗によるトルク損失をさらに低減することができる。
保持器の小環状部の軸方向外側に、内輪の小鍔の外径面に対向させた径方向内向きの鍔を設け、この対向させた小環状部の鍔の内径面と内輪の小鍔の外径面との隙間を、内輪の小鍔の外径寸法の2.0%以下とすることにより、保持器の内径側から内輪側へ流入する潤滑油の量を少なくし、潤滑油の流動抵抗によるトルク損失をより低減することができる。
(実験例4)
実施例として、図7に示した保持器を用いた円錐ころ軸受(実施例1)と、図29に示した保持器を用いた円錐ころ軸受(実施例2)を用意した。また、比較例として、ポケットに切欠きのない保持器を用いた円錐ころ軸受(比較例1)と、保持器のポケット間の柱部の中央部に切欠きを設けている円錐ころ軸受(比較例2)と、保持器のポケットの軸方向両端の小環状部と大環状部に切欠きを設けている円錐ころ軸受(比較例3)を用意した。なお、各円錐ころ軸受は、寸法が外径100mm、内径45mm、幅27.25mmであり、ポケットの切欠き以外の部分は同じである。
上記実施例と比較例の円錐ころ軸受について、縦型トルク試験機を用いたトルク測定試験を行った。試験条件は以下の通りである。
・アキシアル荷重:300kgf
・回転速度 :300〜2000rpm(100rpmピッチ)
・潤滑条件 :油浴潤滑(潤滑油:75W−90)
図33は、上記トルク測定試験の結果を示す。図33のグラフの縦軸は、ポケットに切欠きのない保持器を用いた比較例1のトルクに対するトルク低減率を表す。ポケットの柱部中央部に切欠きを設けた比較例2や、ポケットの小環状部と大環状部に切欠きを設けた比較例3も、トルク低減効果が認められるが、ポケットの狭幅側の柱部に切欠きを設けた実施例1は、これらの比較例よりも優れたトルク低減効果が認められ、狭幅側の小環状部にも切欠きを設け、狭幅側の切欠きの合計面積を広幅側のそれよりも広くした実施例2は、さらに優れたトルク低減効果が認められる。
また、試験の最高回転速度である2000rpmにおけるトルク低減率は、実施例1が9.5%、実施例2が11.5%であり、デファレンシャルやトランスミッション等における高速回転での使用条件でも優れたトルク低減効果を得ることができる。なお、比較例2と比較例3の回転速度2000rpmにおけるトルク低減率は、それぞれ8.0%と6.5%である。
(実施の形態5)
実施の形態5に係る円錐ころ軸受は、実施の形態1に係る円錐ころ軸受10と基本的に同様の構成を備えるが、図6に示される柱面14dの窓角θが46度以上65度以下であることが特定されている点で、異なる。柱面14dは、柱部108において、上記切欠きが形成されていない部分のポケット109に面している面である。
下限窓角θminを46度以上としたのは、ころとの良好な接触状態を確保するためであり、窓角46度未満ではころとの接触状態が悪くなる。すなわち、窓角を46度以上とすると、保持器強度を確保した上でγ>0.90として、かつ、良好な接触状態を確保できるのである。また、上限窓角θmaxを65度以下としたのは、これ以上大きくなると半径方向への押し付け力が大きくなり、自己潤滑性の樹脂材であっても円滑な回転が得られなくなる危険性が生じるからである。なお、窓角は、保持器が外輪から離間している典型的な保持器付き円錐ころ軸受では、大きくて約50度である。
表4に軸受の寿命試験の結果を示す。表4中、「軸受」欄の「試料No.14」が保持器と外輪とが離れた典型的な従来の円錐ころ軸受、「試料No.12」が本発明の円錐ころ軸受のうち従来品に対してころ係数γのみを0.90超えとした円錐ころ軸受、「試料No.13」がころ係数γを0.90超えとし、かつ、窓角を46度以上65度以下の範囲にした本発明の円錐ころ軸受である。試験は、過酷潤滑、過大負荷条件下で行なった。表4より明らかなように、「試料No.12」は「試料No.14」の2倍以上の長寿命となる。特に、近年のトランスミッション又はデファレンシャル等の自動車の動力伝達装置では、使用される潤滑油の粘度が低下しているため、円錐ころ軸受が従来に比べて過酷な潤滑環境下に置かれる傾向にある。そこで、ころ係数γが0.90を超える範囲に設定することで、上記のような低粘度の潤滑油が使用される装置に組み込まれたとしても、円錐ころ軸受10を長寿命化することができる。さらに、「試料No.13」の軸受はころ係数が「試料No.12」と同じ0.96であるが、寿命時間は「試料No.12」の約5倍以上にもなる。なお、「試料No.14」、「試料No.12」および「試料No.13」の寸法はφ45×φ81×16(単位mm)、ころ本数は24本(「試料No.14」)、27本(「試料No.12」、「試料No.13」)、油膜パラメータΛ=0.2である。
<円錐ころ軸受の適用例>
上記実施の形態1〜5に係る円錐ころ軸受1A,1Bの用途の一例について説明する。上述したように、実施の形態1〜5に係る円錐ころ軸受は、デファレンシャルおよびトランスミッションに好適である。ここでは、図33に示したデファレンシャルへの適用例以外の、実施の形態1〜5に係る円錐ころ軸受の他の適用例について説明する。
図34を参照して、マニュアルトランスミッション100は、常時噛合い式のマニュアルトランスミッションであって、入力シャフト111と、出力シャフト112と、カウンターシャフト113と、ギア(歯車)114a〜114kと、ハウジング115とを備えている。
入力シャフト111は、円錐ころ軸受1A,1Bによりハウジング115に対して回転可能に支持されている。この入力シャフト111の外周にはギア114aが形成され、内周にはギア114bが形成されている。
一方、出力シャフト112は、一方側(図中右側)において円錐ころ軸受1A,1Bによりハウジング115に回転可能に支持されているとともに、他方側(図中左側)において転がり軸受120Aにより入力シャフト111に回転可能に支持されている。この出力シャフト112には、ギア114c〜114gが取り付けられている。
ギア114cおよびギア114dはそれぞれ同一部材の外周と内周に形成されている。ギア114cおよびギア114dが形成される部材は、転がり軸受120Bにより出力シャフト112に対して回転可能に支持されている。ギア114eは、出力シャフト112と一体に回転するように、かつ出力シャフト112の軸方向にスライド可能なように、出力シャフト112に取り付けられている。
また、ギア114fおよびギア114gの各々は同一部材の外周に形成されている。ギア114fおよびギア114gが形成されている部材は、出力シャフト112と一体に回転するように、かつ出力シャフト112の軸方向にスライド可能なように、出力シャフト112に取り付けられている。ギア114fおよびギア114gが形成されている部材が図中左側にスライドした場合には、ギア114fはギア114bと噛合い可能であり、図中右側にスライドした場合にはギア114gとギア114dとが噛合い可能である。
カウンターシャフト113には、ギア114h〜114kが形成されている。カウンターシャフト113とハウジング115との間には、2つのスラストニードルころ軸受が配置され、これによってカウンターシャフト113の軸方向の荷重(スラスト荷重)が支持されている。ギア114hは、ギア114aと常時噛合っており、かつギア114iはギア114cと常時噛合っている。また、ギア114jは、ギア114eが図中左側にスライドした場合に、ギア114eと噛合い可能である。さらに、ギア114kは、ギア114eが図中右側にスライドした場合に、ギア114eと噛合い可能である。
次に、マニュアルトランスミッション100の変速動作について説明する。マニュアルトランスミッション100においては、入力シャフト111に形成されたギア114aと、カウンターシャフト113に形成されたギア114hとの噛み合わせによって、入力シャフト111の回転がカウンターシャフト113へ伝達される。そして、カウンターシャフト113に形成されたギア114i〜114kと出力シャフト112に取り付けられたギア114c、114eとの噛み合わせ等によって、カウンターシャフト113の回転が出力シャフト112へ伝達される。これにより、入力シャフト111の回転が出力シャフト112へ伝達される。
入力シャフト111の回転が出力シャフト112へ伝達される際には、入力シャフト111およびカウンターシャフト113の間で噛合うギアと、カウンターシャフト113および出力シャフト112の間で噛合うギアとを変えることによって、入力シャフト111の回転速度に対して出力シャフト112の回転速度を段階的に変化させることができる。また、カウンターシャフト113を介さずに入力シャフト111のギア114bと出力シャフト112のギア114fとを直接噛合わせることによって、入力シャフト111の回転を出力シャフト112へ直接伝達することもできる。
以下に、マニュアルトランスミッション100の変速動作をより具体的に説明する。ギア114fがギア114bと噛合わず、ギア114gがギア114dと噛合わず、かつギア114eがギア114jと噛合う場合には、入力シャフト111の駆動力は、ギア114a、ギア114h、ギア114jおよびギア114eを介して出力シャフト112に伝達される。これが、たとえば第1速とされる。
ギア114gがギア114dと噛合い、ギア114eがギア114jと噛合わない場合には、入力シャフト111の駆動力は、ギア114a、ギア114h、ギア114i、ギア114c、ギア114dおよびギア114gを介して出力シャフト112に伝達される。これが、たとえば第2速とされる。
ギア114fがギア114bと噛合い、ギア114eがギア114jと噛合わない場合には、入力シャフト111はギア114bおよびギア114fとの噛合いにより出力シャフト112に直結され、入力シャフト111の駆動力は直接出力シャフト112に伝達される。これが、たとえば第3速とされる。
上述のように、マニュアルトランスミッション100は、回転部材としての入力シャフト111および出力シャフト112をこれに隣接して配置されるハウジング115に対して回転可能に支持するために、円錐ころ軸受1A,1Bを備えている。このように、上記実施の形態1および2に係る円錐ころ軸受1A,1Bは、マニュアルトランスミッション100内において使用することができる。そして、トルク損失が低減され、かつ耐焼付き性および寿命が向上した円錐ころ軸受1A,1Bは、転動体と軌道部材との間に高い面圧が付与されるマニュアルトランスミッション100内での使用に好適である。
ところで、自動車の動力伝達装置であるトランスミッション又はデファレンシャル等においては、省燃費化のために、低粘度の潤滑油を使用する他に、少油量化を図る傾向にあり、円錐ころ軸受において、十分な油膜が形成され難いことがある。また、トランスミッション又はデファレンシャルが低温環境下(例えば、−40℃〜−30℃)で使用されると、潤滑油の粘度が上がるため、特に始動時には、当該潤滑油が円錐ころ軸受に十分に供給されないことがある。このため、自動車用の円錐ころ軸受では、耐焼き付き性および寿命の向上が要求されている。よって、耐焼き付き性および寿命が向上した上記の円錐ころ軸受10をトランスミッション又はデファレンシャルに組み込むことで上記要求を満たすことができる。
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。