WO2018181412A1 - 円錐ころ軸受 - Google Patents

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Abstract

長寿命かつ高い耐久性を有する円錐ころ軸受を提供する。円錐ころ軸受は、外輪と内輪と複数の円錐ころであるころ(1012)とを備える。外輪は、内周面において外輪軌道面を有する。内輪は、外周面において内輪軌道面を有し、外輪の内側に配置される。複数のころ(1012)は、外輪軌道面と内輪軌道面との間に配列され、外輪軌道面および内輪軌道面と接触する転動面を有する。外輪、内輪および複数のころのうちの少なくともいずれか1つは、外輪軌道面、内輪軌道面または転動面の表面層に形成された窒素富化層(1012B)を含む。窒素富化層(1012B)における旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上である。表面層の最表面から窒素富化層(1012B)の底部までの距離T1は0.2mm以上である。ころ(1012)の転動面には対数クラウニング(1022A)が形成されている。

Description

円錐ころ軸受
 この発明は、円錐ころ軸受に関する。
 近年の自動車用トランスミッションおよびデファレンシャルなどについては、小型化が要請されている。そのため、これらの機械装置における軸受に許容されるスペースは小さくなってきている。したがって、軸受には小型でかつ高荷重に耐えることが求められる。
 また、上述した自動車用の機械装置においては、アルミハウジングの採用など軽量化のための構成が採用されてきている。この結果、機械装置のケース剛性が低下する場合がある。この場合、機械装置を構成する軸受に対して外力が加わり、ころの軸傾きが大きくなることがあるが、このような高ミスアライメント環境下においても軸受には高い耐久性が求められる。
 上記のような要請に対応するため、上述した自動車用の機械装置に適用される軸受の一種として、円錐ころ軸受が知られている(たとえば、特開2014-238153号公報参照)。
特開2014-238153号公報
 上述した円錐ころ軸受は高剛性であり高荷重に耐えることが可能であるが、上記機械装置の信頼性や性能の向上を図る観点から、円錐ころ軸受のさらなる長寿命化および耐久性の向上が求められている。
 この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の目的は、長寿命かつ高い耐久性を有する円錐ころ軸受を提供することである。
 本開示に従った円錐ころ軸受は、外輪と内輪と複数の円錐ころとを備える。外輪は、内周面において外輪軌道面を有する。内輪は、外周面において内輪軌道面を有し、外輪の内側に配置される。複数の円錐ころは、外輪軌道面と内輪軌道面との間に配列され、外輪軌道面および内輪軌道面と接触する転動面を有する。外輪、内輪および複数の円錐ころのうちの少なくともいずれか1つは、外輪軌道面、内輪軌道面または転動面の表面層に形成された窒素富化層を含む。窒素富化層における旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上である。表面層の最表面から窒素富化層の底部までの距離は0.2mm以上である。円錐ころの転動面にはクラウニングが形成されている。クラウニングのドロップ量の和は、円錐ころの転動面の母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy-z座標系において、K,K,zを設計パラメータ、Qを荷重、Lを円錐ころにおける転動面の有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aを円錐ころの転動面の母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2KQ/πLE’としたときに、下記の式(1)で表される。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000002
 上記によれば、長寿命かつ高い耐久性を有する円錐ころ軸受を得ることができる。
本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受の断面模式図である。 図1に示した円錐ころ軸受の部分断面模式図である。 図1に示した円錐ころ軸受の円錐ころの部分断面模式図である。 図3に示した円錐ころの拡大部分断面模式図である。 クラウニング形状の一例を示すy-z座標図である。 軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。 輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けたころを示す図である。 部分円弧のクラウニングとストレート部を設けたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。 円錐ころ軸受の製造方法を説明するためのフローチャートである。 図9の熱処理工程における熱処理パターンを示す模式図である。 図10に示した熱処理パターンの変形例を示す模式図である。 比較例としての軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。 実施の形態に係る円錐ころ軸受を備えるデファレンシャルを示す縦断面図である。 実施の形態に係る円錐ころ軸受を備えるマニュアルトランスミッションの構成を示す概略断面図である。 実施の形態に係る円錐ころ軸受を示す縦断面図である。 実施の形態に係る円錐ころ軸受において、窒素富化層を説明するための部分断面図である。 実施の形態に係る円錐ころ軸受の部分断面図である。 図17に示される円錐ころ軸受のころのクラウニング形状を示す図である。 図17に示される円錐ころ軸受のころの母線方向座標とドロップ量との関係を表す図である。 Misesの相当応力の最大値と対数クラウニングパラメータとの関係を表す図である。 実施の形態に係る円錐ころ軸受の変形例を示す図である。 実施の形態に係る円錐ころ軸受の他の変形例を示す図である。 実施の形態に係る円錐ころ軸受のころのクラウニング部および中央部での窒素富化層の形状を説明するための図である。 実施の形態に係る円錐ころ軸受のころの対数クラウニングの形状を説明するための図である。 クラウニング形状の一例を示すy-z座標図である。 実施の形態に係る円錐ころ軸受を示す横断面図である。 実施の形態に係る円錐ころ軸受の保持器の展開平面図である。 実施の形態に係る円錐ころ軸受の設計仕様を示す断面図である。 実施の形態に係る軸受部品のオーステナイト粒界を示す図である。 従来の軸受部品のオーステナイト粒界を示す図である。 輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けたころを示す図である。 部分円弧のクラウニングとストレート部を設けたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。 実施の形態に係る円錐ころ軸受の製造方法のフローチャートである。 実施の形態における熱処理方法を説明するための図である。 実施の形態における熱処理方法の変形例を説明するための図である。 実施の形態3に係る円錐ころ軸受を示す縦断面図である。 実施の形態3に係る円錐ころ軸受において、窒素富化層を説明するための部分断面図である。 実施の形態3に係る円錐ころ軸受のころのクラウニング部および中央部での窒素富化層の形状を説明するための図である。 実施の形態3に係る円錐ころ軸受のころの対数クラウニングの形状を説明するための図である。 クラウニング形状の一例を示すy-z座標図である。 実施の形態3に係る円錐ころ軸受を示す横断面図である。 実施の形態3に係る円錐ころ軸受の保持器の展開平面図である。 輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けたころを示す図である。 部分円弧のクラウニングとストレート部を設けたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。 実施の形態3に係る円錐ころ軸受の製造方法のフローチャートである。 実施の形態3における熱処理方法を説明するための図である。 実施の形態3における熱処理方法の変形例を説明するための図である。 実施の形態3に係る軸受部品のオーステナイト粒界を示す図である。 従来の軸受部品のオーステナイト粒界を示す図である。 実施の形態4に係る円錐ころ軸受の部分断面図である。 図50に示される円錐ころ軸受のころのクラウニング形状を示す図である。 図50に示される円錐ころ軸受のころの母線方向座標とドロップ量との関係を表す図である。 Misesの相当応力の最大値と対数クラウニングパラメータとの関係を表す図である。 実施の形態4に係る円錐ころ軸受の変形例を示す図である。 実施の形態4に係る円錐ころ軸受の他の変形例を示す図である。 本実施の形態に係る円錐ころ軸受の大雑把な構成を示す概略断面図である。 図56に示した円錐ころ軸受の要部の拡大断面図である。 図56に示した円錐ころ軸受の円錐ころの部分断面模式図である。 図58に示した円錐ころの拡大部分断面模式図である。 クラウニング形状の一例を示すy-z座標図である。 軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。 輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けたころを示す図である。 部分円弧のクラウニングとストレート部を設けたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。 本実施の形態の円錐ころ軸受の大鍔面および小鍔面を定義するために図56よりも詳細に示す概略断面図である。 図64の要部の拡大断面図である。 本実施の形態の大鍔面のスキューネスRskを示す粗さ曲線である。 本実施の形態の大鍔面のクルトシスRkuを示す粗さ曲線である。 本実施の形態の円錐ころ軸受の大鍔、小鍔および逃げ部を定義するために図56よりも詳細に示す概略断面図である。 図68の円錐ころ軸受のクラウニング形状を示す図である。 図68の円錐ころの母線方向座標とドロップ量との関係を表す図である。 Misesの相当応力の最大値と対数クラウニングパラメータとの関係を示す図である。 図68に対する第1変形例に係る円錐ころ軸受に含まれる円錐ころのクラウニング形状を示す図である。 図68に対する第2変形例に係る円錐ころ軸受に含まれる円錐ころのクラウニング形状を示す図である。 円錐ころ軸受の製造方法を説明するためのフローチャートである。 図74の熱処理工程における熱処理パターンを示す模式図である。 図75に示した熱処理パターンの変形例を示す模式図である。 比較例としての軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。 本実施の形態の円錐ころ軸受に対する回転トルク試験の結果を示すグラフである。
 以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
 (実施の形態1)
 <円錐ころ軸受の構成>
 図1は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受の断面模式図である。図2は、図1に示した円錐ころ軸受の部分断面模式図である。図3は、図1に示した円錐ころ軸受の円錐ころの部分断面模式図である。図4は、図3に示した円錐ころの拡大部分断面模式図である。図1~図4を用いて本実施の形態に係る円錐ころ軸受を説明する。
 図1に示す円錐ころ軸受1010は、外輪1011と、内輪1013と、複数の円錐ころ(以下では単に、ころと呼ぶこともある)1012と、保持器1014とを主に備えている。外輪1011は、環形状を有し、その内周面に外輪軌道面1011Aを有している。内輪1013は、環形状を有し、その外周面に内輪軌道面1013Aを有している。内輪1013は、この内輪軌道面1013Aの大径側および小径側に大つば部41および小つば部42をそれぞれ有する。内輪1013は、内輪軌道面1013Aが外輪軌道面1011Aに対向するように外輪1011の内周側に配置されている。なお、以下の説明において、円錐ころ軸受1010の中心軸に沿った方向を「軸方向」、中心軸に直交する方向を「径方向」、中心軸を中心とする円弧に沿った方向を「周方向」と呼ぶ。
 ころ1012は、外輪1011の内周面上に配置されている。ころ1012はころ転動面1012Aを有し、当該ころ転動面1012Aにおいて内輪転走面1013Aおよび外輪転走面1011Aに接触する。複数のころ1012は合成樹脂からなる保持器1014により周方向に所定のピッチで配置されている。これにより、ころ1012は、外輪1011および内輪1013の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。また、円錐ころ軸受1010は、外輪転走面1011Aを含む円錐、内輪転走面1013Aを含む円錐、およびころ1012が転動した場合の回転軸の軌跡を含む円錐のそれぞれの頂点が軸受の中心線上の1点で交わるように構成されている。このような構成により、円錐ころ軸受1010の外輪1011および内輪1013は、互いに相対的に回転可能となっている。なお、保持器1014は樹脂製に限らず、金属製であってもよい。
 外輪1011、内輪1013、ころ1012を構成する材料は鋼であってもよい。当該鋼は、窒素富化層1011B、1012B、1013B以外の部分で、少なくとも炭素を0.6質量%以上1.2質量%以下、珪素を0.15質量%以上1.1質量%以下、マンガンを0.3質量%以上1.5質量%以下含む。上記鋼は、さらに2.0質量%以下のクロムを含んでいてもよい。
 上記の構成において、炭素が1.2質量%を超えると、球状化焼鈍を行なっても素材硬度が高いので冷間加工性を阻害し、冷間加工を行なう場合に十分な冷間加工量と、加工精度を得ることができない。また、浸炭窒化処理時に過浸炭組織になりやすく、割れ強度が低下する危険性がある。他方、炭素含有量が0.6質量%未満の場合には、所要の表面硬さと残留オーステナイト量を確保するのに長時間を必要としたり、再加熱後の焼入れで必要な内部硬さが得られにくくなる。
 Si含有率を0.15~1.1質量%とするのは、Siが耐焼戻し軟化抵抗を高めて耐熱性を確保し、異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性を改善することができるからである。Si含有率が0.15質量%未満では異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性が改善されず、一方、Si含有率が1.1質量%を超えると焼きならし後の硬度を高くしすぎて冷間加工性を阻害する。
 Mnは浸炭窒化層と芯部の焼入れ硬化能を確保するのに有効である。Mn含有率が0.3質量%未満では、十分な焼入れ硬化能を得ることができず、芯部において十分な強度を確保することができない。一方、Mn含有率が1.5質量%を超えると、硬化能が過大になりすぎ、焼きならし後の硬度が高くなり冷間加工性が阻害される。また、オーステナイトを安定化しすぎて芯部の残留オーステナイト量を過大にして経年寸法変化を助長する。さらに、鋼が2.0質量%以下のクロムを含むことにより、表層部においてクロムの炭化物や窒化物を析出して表層部の硬度を向上しやすくなる。Cr含有率を2.0質量%以下としたのは、2.0質量%を超えると冷間加工性が著しく低下したり、2.0質量%を超えて含有しても上記表層部の硬度向上の効果が小さいからである。
 なお、本開示の鋼は、言うまでもなくFeを主成分とし、上記の元素の他に不可避的不純物を含んでいてもよい。不可避的不純物としては、リン(P)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、アルミ(Al)などがある。これらの不可避的不純物元素の量は、それぞれ0.1質量%以下である。
 また異なる観点から言えば、外輪1011および内輪1013は、軸受用材料の一例である鋼材、たとえばJIS規格SUJ2からなるものであることが好ましい。ころ1012は、軸受用材料の一例である鋼材、たとえばJIS規格SUJ2により構成されてもよい。また、ころ1012は、他の材料、たとえばサイアロン焼結体により構成されていてもよい。
 図2に示すように、外輪1011の転走面1011Aおよび内輪1013の転走面1013Aには窒素富化層1011B、1013Bが形成されている。内輪1013では、窒素富化層1013Bが転走面1013Aから小鍔面1019(図1参照)および大鍔面1018(図1参照)にまで延在している。窒素富化層1011B、1013Bは、それぞれ外輪1011の未窒化部1011Cまたは内輪1013の未窒化部1013Cより窒素濃度が高くなっている領域である。また、ころ1012の転動面1012Aを含む表面には窒素富化層1012Bが形成されている。ころ1012の窒素富化層1012Bは、ころ1012の未窒化部1012Cより窒素濃度が高くなっている領域である。窒素富化層1011B、1012B、1013Bは、たとえば浸炭窒化処理、窒化処理など従来周知の任意の方法により形成できる。
 なお、ころ1012のみに窒素富化層1012Bを形成してもよいし、外輪1011のみに窒素富化層1011Bを形成してもよいし、内輪1013のみに窒素富化層1013Bを形成してもよい。あるいは、外輪1011、内輪1013、ころ1012のうちの2つに窒素富化層を形成してもよい。
 図3に示すように、ころ1012の転動面1012A(図2参照)は、クラウニング部1022、1024と中央部1023とを含む。クラウニング部1022、1024は転動面1012Aの両端部に位置し、クラウニングが形成されている。中央部1023は、クラウニング部1022、1024の間を繋ぐように配置されている。中央部1023にはクラウニングは形成されておらず、ころ1012の回転軸である中心線1026に沿った方向での断面における中央部1023の形状は直線状である。ころ1012の小端面1017とクラウニング部1022との間には面取り部1021が形成されている。大端面1016とクラウニング部1024との間にも面取り部1025が形成されている。
 ここで、ころ1012の製造方法において、窒素富化層1012Bを形成する処理(浸炭窒化処理)を実施するときには、ころ1012にはクラウニングが形成されておらず、ころ1012の外形は図4の点線で示される加工前表面1012Eとなっている。この状態で窒素富化層が形成された後、仕上げ加工として図4の矢印に示すようにころ1012の側面が加工され、図3および図4に示すように、クラウニングが形成されたクラウニング部1022、1024が得られる。
 窒素富化層の厚さ:
 ころ1012における窒素富化層1012Bの深さ、すなわち窒素富化層1012Bの最表面から窒素富化層1012Bの底部までの距離は、0.2mm以上となっている。具体的には、面取り部1021とクラウニング部1022との境界点である第1測定点1031、小端面1017から距離Wが1.5mmの位置である第2測定点1032、ころ1012の転動面1012Aの中央である第3測定点1033において、それぞれの位置での窒素富化層1012Bの深さT1、T2、T3が0.2mm以上となっている。ここで、上記窒素富化層1012Bの深さとは、ころ1012の中心線1026に直交するとともに外周側に向かう径方向における窒素富化層1012Bの厚さを意味する。なお、窒素富化層1012Bの深さT1、T2、T3の値は、面取り部1021、1025の形状やサイズ、さらに窒素富化層1012Bを形成する処理および上記仕上げ加工の条件などのプロセス条件に応じて適宜変更可能である。たとえば、図4に示した構成例では、上述のように窒素富化層1012Bが形成された後にクラウニング1022Aが形成されたことに起因して、窒素富化層1012Bの深さT2は他の深さT1、T3より小さくなっているが、上述したプロセス条件を変更することで、上記窒素富化層1012Bの深さT1、T2、T3の値の大小関係は適宜変更することができる。
 また、外輪1011および内輪1013における窒素富化層1011B、1013Bについても、その最表面から窒素富化層1011B、1013Bの底部までの距離である窒素富化層1011B、1013Bの厚さは0.2mm以上である。ここで、窒素富化層1011B、1013Bの厚さは、窒素富化層1011B、1013Bの最表面に対して垂直な方向における窒素富化層1011B,1013Bまでの距離を意味する。
 クラウニングの形状:
 ころ1012のクラウニング部1022、1024に形成されたクラウニングの形状は、以下のように規定される。すなわち、クラウニングのドロップ量の和は、ころ1012の転動面1012Aの母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy-z座標系において、K,K,zを設計パラメータ、Qを荷重、Lをころ1012における転動面1012Aの有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aをころ1012の転動面の母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2KQ/πLE’としたときに、下記の式(1)で表される。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000003
 図5は、クラウニング形状の一例を示すy-z座標図である。図5では、ころ1012の母線をy軸とし、ころ1012の母線上であって内輪1013又は外輪1011ところ1012の有効接触部の中央部に原点Oをとると共に、母線直交方向(半径方向)にz軸をとったy-z座標系に、上記式(1)で表されるクラウニングの一例を示している。図5において縦軸はz軸、横軸はy軸である。有効接触部は、ころ1012にクラウニングを形成していない場合の内輪1013又は外輪1011ところ1012との接触部位である。また、円錐ころ軸受1010を構成する複数のころ1012の各クラウニングは、通常、有効接触部の中央部を通るz軸に関して線対称に形成されるので、図5では、一方のクラウニング1022Aのみを示している。
 荷重Q、有効接触部の母線方向長さL、および、等価弾性係数E’は、設計条件として与えられ、原点から有効接触部の端部までの長さaは、原点の位置によって定められる値である。
 上記式(1)において、z(y)は、ころ1012の母線方向位置yにおけるクラウニング1022Aのドロップ量を示しており、クラウニング1022Aの始点O1の座標は(a-Ka,0)であるから、式(1)におけるyの範囲は、y>(a-Ka)である。また、図5では、原点Oを有効接触部の中央部にとっているので、a=L/2となる。さらに、原点Oからクラウニング1022Aの始点O1までの領域は、クラウニングが形成されていない中央部(ストレート部)であるから、0≦y≦(a-Ka)のとき、z(y)=0となる。
 設計パラメータKは荷重Qの倍率、幾何学的にはクラウニング1022Aの曲率の程度を意味している。設計パラメータKは、原点Oから有効接触部の端部までの母線方向長さaに対するクラウニング1022Aの母線方向長さymの割合を意味している(K=ym/a)。設計パラメータzは、有効接触部の端部におけるドロップ量、即ちクラウニング1022Aの最大ドロップ量を意味している。
 ここで、後述する図7に示したころのクラウニングは、設計パラメータK=1であってストレート部の無いフルクライニングであり、エッジロードが発生しない十分なドロップ量が確保されている。しかしながら、ドロップ量が過大であると、加工時に、材料取りされた素材から生じる取代が大きくなり、コスト増大を招くこととなる。そこで、以下のように、設計パラメータK,K,zの最適化を行う。
 設計パラメータK,K,zの最適化手法としては種々のものを採用することができ、例えば、Rosenbrock法等の直接探索法を採用することができる。ここで、ころの転動面における表面起点の損傷は面圧に依存するので、最適化の目的関数を面圧とすることにより、希薄潤滑下における接触面の油膜切れを防止するクラウニングを得ることができる。
 窒素富化層の結晶組織:
 図6は、本実施の形態に係る円錐ころ軸受を構成する軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。図6は、窒素富化層1012Bにおけるミクロ組織を示している。本実施の形態における窒素富化層1012Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上となっており、従来の一般的な焼入れ加工品と比べても十分に微細化されている。
 <各種特性の測定方法>
 窒素濃度の測定方法:
 外輪1011、ころ1012、内輪1013などの軸受部品について、それぞれ窒素富化層1011B,1012B、1013Bが形成された領域の表面に垂直な断面について、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)により深さ方向で線分析を行う。測定は、各軸受部品を測定位置から表面に垂直な方向に切断することで切断面を露出させ、当該切断面において測定を行う。たとえば、ころ1012については、図3に示した第1測定点1031~第3測定点1033のそれぞれの位置から、中心線1026と垂直な方向にころ1012を切断することで切断面を露出させる。当該切断面において、ころ1012の表面から内部に向かって0.05mmの位置となる複数の測定位置にて、上記EPMAにより窒素濃度について分析を行う。たとえば、上記測定位置を5か所決定し、当該5か所での測定データの平均値をころ1012の窒素濃度とする。
 また、外輪1011および内輪1013については、転走面1011A、1013Aにおいて軸受の中心軸方向における中央部を測定位置として、中心軸および当該中心軸に直交する径方向に沿った断面を露出させた後、当該断面について上記と同様の手法により窒素濃度の測定を行う。
 最表面から窒素富化層の底部までの距離の測定方法:
 外輪1011および内輪1013については、上記窒素濃度の測定方法において測定対象とした断面につき、表面から深さ方向において硬度分布を測定する。測定装置としてはビッカース硬さ測定機を用いることができる。500℃×1hの焼き戻し処理後の円錐ころ軸受1010の外輪1011および内輪1013において、深さ方向に並ぶ複数の測定点、たとえば0.5mm間隔に配置された測定点において硬度測定を実施する。そして、ビッカース硬さがHV450以上の領域を窒素富化層とする。
 また、ころ1012については、図3に示した第1測定点1031での断面において、上記のように深さ方向での硬度分布を測定し、窒素富化層の領域を決定する。
 粒度番号の測定方法:
 旧オーステナイト結晶粒径の測定方法は、JIS規格G0551:2013に規定された方法を用いる。測定を行う断面は、窒素富化層の底部までの距離の測定方法において測定を行った断面とする。
 クラウニング形状の測定方法:
 ころ1012のクラウニング形状について、任意の方法により測定できる。たとえば、ころ1012の形状を表面性状測定器により測定することにより、クラウニング形状を測定してもよい。
 <円錐ころ軸受の作用効果>
 以下一部重複する部分もあるが、上述した円錐ころ軸受の特徴的な構成を列挙する。
 本開示に従った円錐ころ軸受1010は、外輪1011と内輪1013と複数の円錐ころであるころ1012とを備える。外輪1011は、内周面において外輪軌道面1011Aを有する。内輪1013は、外周面において内輪軌道面1013Aを有し、外輪1011の内側に配置される。複数のころ1012は、外輪軌道面1011Aと内輪軌道面1013Aとの間に配列され、外輪軌道面1011Aおよび内輪軌道面1013Aと接触する転動面1012Aを有する。外輪1011、内輪1013および複数のころ1012のうちの少なくともいずれか1つは、外輪軌道面1011A、内輪軌道面1013Aまたは転動面1012Aの表面層に形成された窒素富化層1011B、1013B、1012Bを含む。窒素富化層1011B、1012B、1013Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上である。表面層の最表面から窒素富化層1011B、1012B、1013Bの底部までの距離T1は0.2mm以上である。ころ1012の転動面1012Aにはクラウニング1022Aが形成されている。クラウニング1022Aのドロップ量の和は、ころ1012の転動面1012Aの母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy-z座標系において、K,K,zを設計パラメータ、Qを荷重、Lをころ1012における転動面1012Aの有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aをころ1012の転動面の母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2KQ/πLE’としたときに、下記の式(1)で表される。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000004
 なお、荷重Q、有効接触部の母線方向長さL、および等価弾性係数E’は設計条件として与えられ、原点から有効接触部の端部までの長さaは原点の位置に応じて定められる値である。
 このようにすれば、外輪1011、内輪1013、円錐ころとしてのころ1012の少なくともいずれか1つにおいて旧オーステナイト結晶粒径が十分微細化された窒素富化層1011B、1012B、1013Bが形成されているので、高い転動疲労寿命を有した上で、シャルピー衝撃値、破壊靭性値、圧壊強度などを向上させることができる。
 また、ころ1012の転動面1012Aに上記式(1)によりドロップ量の和が表されるような、輪郭線が対数関数で表されるクラウニング(いわゆる対数クラウニング)を設けているので、従来の部分円弧で表されるクラウニングを形成した場合より局所的な面圧の上昇を抑制でき、ころ1012の転動面1012Aにおける摩耗の発生を抑制できる。
 ここで、上述した対数クラウニングの効果についてより詳細に説明する。図7は、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。図8は、部分円弧のクラウニングとストレート部との間を補助円弧としたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。図7および図8の左側の縦軸は、クラウニングのドロップ量(単位:mm)を示している。図7および図8の横軸は、ころにおける軸方向での位置(単位:mm)を示している。図7および図8の右側の縦軸は、接触面圧(単位:GPa)を示している。
 円錐ころの転動面の輪郭線を部分円弧のクラウニングとストレート部とを有する形状に形成した場合、図8に示すように、ストレート部、補助円弧及びクラウニング相互間の境界における勾配が連続であっても、曲率が不連続であると接触面圧が局所的に増加する。そのため、十分な膜厚の潤滑膜が形成されていないと、金属接触による摩耗が生じやすくなる。接触面に部分的に摩耗が生じると、その近辺で、より金属接触が生じやすい状態となるため、接触面の摩耗が促進され、円錐ころが損傷に至る不都合が生じる。
 そこで、接触面としての円錐ころの転動面に、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けた場合、例えば図7に示すように、図8の部分円弧で表されるクラウニングを設けた場合と比べて局所的な面圧が低くなり、接触面に摩耗を生じ難くすることができる。したがって、円錐ころの転動面上に存在する潤滑剤の微量化や低粘度化により潤滑膜の膜厚が薄くなる場合においても、接触面の摩耗を防止し、円錐ころの損傷を防止することができる。なお、図7及び図8には、ころの母線方向を横軸とすると共に母線直交方向を縦軸とする直交座標系に、内輪又は外輪ところの有効接触部の中央部に横軸の原点Oを設定してころの輪郭線を示すと共に、面圧を縦軸として接触面圧を重ねて示している。このように、上述のような構成を採用することで長寿命かつ高い耐久性を示す円錐ころ軸受1010を実現できる。
 上記円錐ころ軸受1010において、最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層1011B、1012B、1013Bにおける窒素濃度が0.1質量%以上である。この場合、窒素富化層1011B、1012B,1013Bの最表面における窒素濃度を十分な値とできることから、窒素富化層1011B、1012B、1013Bの最表面の硬度を十分高くすることができる。また、上述した旧オーステナイト結晶粒径の粒度、窒素富化層の底部までの距離、窒素濃度といった条件は、図3の第1測定点1031において少なくとも満足されていることが好ましい。
 上記円錐ころ軸受1010において、窒素富化層1011B、1012B、1013Bが形成された外輪1011、内輪1013、およびころ1012のうちの少なくともいずれか1つは鋼により構成される。当該鋼は、窒素富化層1011B、1012B、1013B以外の部分、つまり未窒化部1011C、1012C、1013Cにおいて、少なくとも炭素(C)を0.6質量%以上1.2質量%以下、珪素(Si)を0.15質量%以上1.1質量%以下、マンガン(Mn)を0.3質量%以上1.5質量%以下含む。上記円錐ころ軸受において、鋼は、さらに2.0質量%以下のクロムを含んでいてもよい。この場合、本実施の形態において規定する構成の窒素富化層1011B、1012B、1013Bを後述する熱処理などを用いて容易に形成できる。
 上記円錐ころ軸受1010において、上記式(1)における設計パラメータK,K,zのうちの少なくとも1つがころ1012と外輪1011またはころ1012と内輪1013との接触面圧を目的関数として最適化されていてもよい。
 上記設計パラメータK1,K2,zmは、接触面圧、応力及び寿命のうちのいずれかを目的関数として最適化して定められるところ、表面起点の損傷は接触面圧に依存する。ここで、上記実施の形態によれば、接触面圧を目的関数として最適化して設計パラメータK1,K2,zmを設定するので、潤滑剤が希薄な条件においても接触面の摩耗を防止できるクラウニングが得られる。
 上記円錐ころ軸受1010において、外輪1011または内輪1013の少なくともいずれか1つは、窒素富化層1011B、1013Bを含む。この場合、外輪1011または内輪1013の少なくともいずれかにおいて、結晶組織が微細化された窒素富化層1011B、1013Bが形成されることで、長寿命かつ高耐久性を有する外輪1011または内輪1013を得ることができる。
 上記円錐ころ軸受1010において、ころ1012は窒素富化層1012Bを含む。この場合、ころ1012において、結晶組織が微細化された窒素富化層1012Bが形成されることで、長寿命かつ高耐久性を有するころ1012を得ることができる。
 <円錐ころ軸受の製造方法>
 図9は、図1に示した円錐ころ軸受の製造方法を説明するためのフローチャートである。図10は、図9の熱処理工程における熱処理パターンを示す模式図である。図11は、図10に示した熱処理パターンの変形例を示す模式図である。図12は、比較例としての軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。以下、円錐ころ軸受の製造方法を説明する。
 図9に示すように、まず部品準備工程(S1100)を実施する。この工程(S1100)では、外輪1011、内輪1013、ころ1012、保持器1014などの軸受部品となるべき部材を準備する。なお、ころ1012となるべき部材には、まだクラウニングは形成されておらず、当該部材の表面は図4の点線で示した加工前表面1012Eとなっている。
 次に、熱処理工程(S1200)を実施する。この工程(S1200)では、上記軸受部品の特性を制御するため、所定の熱処理を実施する。たとえば、外輪1011、ころ1012、内輪1013、のすくなくともいずれか1つにおいて本実施形態に係る窒素富化層1011B、1012B、1013Bを形成するため、浸炭窒化処理または窒化処理と、焼入れ処理、焼戻処理などを行う。この工程(S200)における熱処理パターンの一例を図10に示す。図10は、1次焼入れおよび2次焼入れを行う方法を示す熱処理パターンを示す。図11は、焼入れ途中で材料をA1変態点温度未満に冷却し、その後、再加熱して最終的に焼入れる方法を示す熱処理パターンを示す。これらの図において、処理T1では鋼の素地に炭素や窒素を拡散させまた炭素の溶け込みを十分に行なった後、A1変態点未満に冷却する。次に、図中の処理T2において、処理T1よりも低温に再加熱し、そこから油焼入れを施す。その後、たとえば加熱温度180℃の焼き戻し処理を実施する。
 上記の熱処理によれば、普通焼入れ、すなわち浸炭窒化処理に引き続いてそのまま1回焼入れするよりも、軸受部品の表層部分を浸炭窒化しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。上記熱処理工程(S1200)によれば、焼入れ組織となっている窒素富化層1011B、1012B、1013Bにおいて、旧オーステナイト結晶粒の粒径が、図12に示した従来の焼入れ組織におけるミクロ組織と比較して2分の1以下となる、図6に示したようなミクロ組織を得ることができる。上記の熱処理を受けた軸受部品は、転動疲労に対して長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
 次に、加工工程(S1300)を実施する。この工程(S1300)では、各軸受部品の最終的な形状となるように、仕上げ加工を行う。ころ1012については、図4に示したように切削加工などの機械加工によりクラウニング1022Aおよび面取り部1021を形成する。
 次に、組立工程(S1400)を実施する。この工程(S1400)では、上記のように準備された軸受部品を組み立てることにより、図1に示した円錐ころ軸受1010を得る。このようにして、図1に示した円錐ころ軸受1010を製造することができる。
(実験例1)
 <試料>
 試料として、試料No.1~4までの4種類の円錐ころを試料として準備した。円錐ころの型番は30206とした。円錐ころの材質としてはJIS規格SUJ2材(1.0質量%C-0.25質量%Si-0.4質量%Mn-1.5質量%Cr)を用いた。
 試料No.1については、浸炭窒化焼入れを実施した後、図5に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気はRXガス+アンモニアガスとした。試料No.2については、試料No.1と同様に浸炭窒化焼入れを実施した後、図8に示した部分円弧クラウニングを形成した。
 試料No.3については、図10に示した熱処理パターンを実施した後、図5に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。
 試料No.4については、図10に示した熱処理パターンを実施した後、図5に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。試料の最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層における窒素濃度を0.1質量%以上とするために、浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。更に、炉内雰囲気を厳密に管理した。具体的には、炉内温度のムラ及びアンモニアガスの雰囲気ムラを抑制した。上述した試料No.3および試料No.4が本発明の実施例に対応する。試料No.1および試料No.2は比較例に対応する。
 <実験内容>
 実験1:寿命試験
 寿命試験装置を用いて寿命試験を行った。試験条件としては、試験荷重:Fr=18kN、Fa=2kN、潤滑油:タービン油56、潤滑方式:油浴潤滑、という条件を用いた。寿命試験装置では、被試験体としての2つの円錐ころ軸受は、支持軸の両端を支持するように配置されている。該支持軸の延在方向の中央部、すなわち2つの円錐ころ軸受の中央部には、該支持軸を介して円錐ころ軸受にラジアル荷重を負荷するための円筒ころ軸受が配置されている。そして、荷重負荷用の円筒ころ軸受にラジアル荷重を負荷することで、被試験体としての円錐ころ軸受にラジアル荷重を負荷する。また、アキシアル荷重は、寿命試験装置のハウジングを介して一方の円錐ころ軸受から支持軸に伝わり、他方の円錐ころ軸受にアキシアル荷重が負荷される。これにより、円錐ころ軸受の寿命試験が行われる。
 実験2:偏荷重時の寿命試験
 上記実験1の寿命試験と同様の試験装置を用いた。試験条件としては、基本的に上記実験1での条件と同様であるが、ころの中心軸について2/1000radの軸傾きを負荷した状態とし、偏荷重が印加された状態で試験を行った。
 実験3:回転トルク試験
 試料No.1~4について、縦型トルク試験機を用いたトルク測定試験を行った。試験条件としては、試験荷重:Fa=7000N、潤滑油:タービン油56、潤滑方式:油浴潤滑、回転数:5000rpm、という条件を用いた。
 <結果>
 実験1:寿命試験
 試料No.4が最も良好な結果を示し、長寿命であると考えられた。試料No.2および試料No.3は、試料No.4の結果には及ばないものの、良好な結果を示し、十分実用に耐え得ると判断された。一方、試料No.1については、最も短い寿命を示す結果となった。
 実験2:偏荷重時の寿命試験
 試料No.4および試料No.3が最も良好な結果を示し、長寿命であると考えられた。次に、試料No.1が試料No.4および試料No.3には及ばないものの、比較的良好な結果を示した。一方、試料No.2は上記実験1の時の結果より悪い結果を示し、偏荷重条件により短寿命化したものと考えられる。
 実験3:回転トルク試験
 試料No.1、試料No.3、試料No.4が十分小さな回転トルクを示し良好な結果となった。一方、試料No.2は回転トルクが他の試料より大きくなっていた。
 以上の結果から、総合的に試料No.4がいずれの試験においても良好な結果を示し、総合的に最も優れた結果となった。また、試料No.3も、試料No.1および試料No.2と比べて良好な結果を示した。
(実験例2)
 <試料>
 上記の実験例1における試料No.4を用いた。
 <実験内容>
 表面から0.05mmの深さ位置での窒素濃度測定:
 試料No.4について、窒素濃度の測定と窒素富化層の深さ測定を実施した。測定方法としては、以下のような方法を用いた。すなわち、図3に示した第1~第3測定点において、中心線と垂直な方向に試料としての円錐ころを切断することで切断面を露出させる。当該切断面において、試料の表面から内部に向かって0.05mmの位置となる複数の測定位置にて、上記EPMAにより窒素濃度について分析を行う。第1~第3測定点における断面のそれぞれにて、上記測定位置を5か所決定し、当該5か所での測定データの平均値を各測定点での窒素濃度とした。
 窒素富化層の底部までの距離の測定:
 上記第1~第3測定点での断面において、500℃×1hの焼き戻し処理後の円錐ころ軸受1010において、深さ方向に0.5mm間隔で並ぶ複数の測定点において硬度測定を実施した。そして、ビッカース硬さがHV450以上の領域を窒素富化層とし、当該硬度がHV450となった位置の深さを窒素富化層の底部とした。
 窒素富化層における粒度番号の測定:
 旧オーステナイト結晶粒径の測定方法は、JIS規格G0551:2013に規定された方法を用いた。測定を行う断面は、窒素富化層の底部までの距離の測定方法において測定を行った断面とした。
 <結果>
 表面から0.05mmの深さ位置での窒素濃度測定:
 第1測定点については、窒素濃度が0.2質量%となり、第2測定点については窒素濃度が0.25質量%となり、第3測定点については窒素濃度が0.3質量%となった。いずれの測定点でも、測定結果は本願発明の範囲に入るものとなった。
 窒素富化層の底部までの距離の測定:
 第1測定点については、窒素富化層の底部までの距離が0.3mmとなり、第2測定点については当該距離が0.35mmとなり、第3測定点については当該距離が0.3mmとなった。いずれの測定点でも、測定結果は本願発明の範囲に入るものとなった。
 窒素富化層における粒度番号の測定:
 第1測定点から第3測定点のいずれにおいても、窒素富化層での旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10番以上となっていた。
 <円錐ころ軸受の適用例>
 次に、本実施の形態に係る円錐ころ軸受の用途の一例について説明する。本実施形態に係る円錐ころ軸受は、デファレンシャル又はトランスミッション等の自動車の動力伝達装置に組み込まれると好適である。すなわち、本実施形態に係る円錐ころ軸受は、自動車用円錐ころ軸受として用いると好適である。図13は、上述した円錐ころ軸受1010を使用した自動車のデファレンシャルを示す。このデファレンシャルは、プロペラシャフト(図示省略)に連結され、デファレンシャルケース121に挿通されたドライブピニオン122が、差動歯車ケース123に取り付けられたリングギヤ124と噛み合わされ、差動歯車ケース123の内部に取り付けられたピニオンギヤ125が、差動歯車ケース123に左右から挿通されるドライブシャフト(図示省略)に連結されるサイドギヤ126と噛み合わされて、エンジンの駆動力がプロペラシャフトから左右のドライブシャフトに伝達されるようになっている。このデファレンシャルでは、動力伝達軸であるドライブピニオン122と差動歯車ケース123が、それぞれ一対の円錐ころ軸受1010a、1010bで支持されている。
 図14は、実施の形態に係る円錐ころ軸受を備えるマニュアルトランスミッションの構成を示す概略断面図である。図14を参照して、マニュアルトランスミッション100は、常時噛合い式のマニュアルトランスミッションであって、入力シャフト111と、出力シャフト112と、カウンターシャフト113と、ギア(歯車)114a~114kと、ハウジング115とを備えている。
 入力シャフト111は、円錐ころ軸受1010によりハウジング115に対して回転可能に支持されている。この入力シャフト111の外周にはギア114aが形成され、内周にはギア114bが形成されている。
 一方、出力シャフト112は、一方側(図中右側)において円錐ころ軸受1010によりハウジング115に回転可能に支持されているとともに、他方側(図中左側)において転がり軸受120Aにより入力シャフト111に回転可能に支持されている。この出力シャフト112には、ギア114c~114gが取り付けられている。
 ギア114cおよびギア114dはそれぞれ同一部材の外周と内周に形成されている。ギア114cおよびギア114dが形成される部材は、転がり軸受120Bにより出力シャフト112に対して回転可能に支持されている。ギア114eは、出力シャフト112と一体に回転するように、かつ出力シャフト112の軸方向にスライド可能なように、出力シャフト112に取り付けられている。
 また、ギア114fおよびギア114gの各々は同一部材の外周に形成されている。ギア114fおよびギア114gが形成されている部材は、出力シャフト112と一体に回転するように、かつ出力シャフト112の軸方向にスライド可能なように、出力シャフト112に取り付けられている。ギア114fおよびギア114gが形成されている部材が図中左側にスライドした場合には、ギア114fはギア114bと噛合い可能であり、図中右側にスライドした場合にはギア114gとギア114dとが噛合い可能である。
 カウンターシャフト113には、ギア114h~114kが形成されている。カウンターシャフト113とハウジング115との間には、2つのスラストニードルころ軸受が配置され、これによってカウンターシャフト113の軸方向の荷重(スラスト荷重)が支持されている。ギア114hは、ギア114aと常時噛合っており、かつギア114iはギア114cと常時噛合っている。また、ギア114jは、ギア114eが図中左側にスライドした場合に、ギア114eと噛合い可能である。さらに、ギア114kは、ギア114eが図中右側にスライドした場合に、ギア114eと噛合い可能である。
 次に、マニュアルトランスミッション100の変速動作について説明する。マニュアルトランスミッション100においては、入力シャフト111に形成されたギア114aと、カウンターシャフト113に形成されたギア114hとの噛み合わせによって、入力シャフト111の回転がカウンターシャフト113へ伝達される。そして、カウンターシャフト113に形成されたギア114i~114kと出力シャフト112に取り付けられたギア114c、114eとの噛み合わせ等によって、カウンターシャフト113の回転が出力シャフト112へ伝達される。これにより、入力シャフト111の回転が出力シャフト112へ伝達される。
 入力シャフト111の回転が出力シャフト112へ伝達される際には、入力シャフト111およびカウンターシャフト113の間で噛合うギアと、カウンターシャフト113および出力シャフト112の間で噛合うギアとを変えることによって、入力シャフト111の回転速度に対して出力シャフト112の回転速度を段階的に変化させることができる。また、カウンターシャフト113を介さずに入力シャフト111のギア114bと出力シャフト112のギア114fとを直接噛合わせることによって、入力シャフト111の回転を出力シャフト112へ直接伝達することもできる。
 以下に、マニュアルトランスミッション100の変速動作をより具体的に説明する。ギア114fがギア114bと噛合わず、ギア114gがギア114dと噛合わず、かつギア114eがギア114jと噛合う場合には、入力シャフト111の駆動力は、ギア114a、ギア114h、ギア114jおよびギア114eを介して出力シャフト112に伝達される。これが、たとえば第1速とされる。
 ギア114gがギア114dと噛合い、ギア114eがギア114jと噛合わない場合には、入力シャフト111の駆動力は、ギア114a、ギア114h、ギア114i、ギア114c、ギア114dおよびギア114gを介して出力シャフト112に伝達される。これが、たとえば第2速とされる。
 ギア114fがギア114bと噛合い、ギア114eがギア114jと噛合わない場合には、入力シャフト111はギア114bおよびギア114fとの噛合いにより出力シャフト112に直結され、入力シャフト111の駆動力は直接出力シャフト112に伝達される。これが、たとえば第3速とされる。
 上述のように、マニュアルトランスミッション100は、回転部材としての入力シャフト111および出力シャフト112をこれに隣接して配置されるハウジング115に対して回転可能に支持するために、円錐ころ軸受1010を備えている。このように、上記実施の形態に係る円錐ころ軸受1010は、マニュアルトランスミッション100内において使用することができる。そして、長寿命かつ高い耐久性を有する円錐ころ軸受1010は、転動体と軌道部材との間に高い面圧が付与されるマニュアルトランスミッション100内での使用に好適である。
 ところで、自動車の動力伝達装置であるトランスミッション又はデファレンシャル等においては、省燃費化のために、潤滑油(オイル)の粘度を低下させたり、少油量化を図る傾向にあり、円錐ころ軸受において、十分な油膜が形成され難いことがある。このため、自動車用の円錐ころ軸受では、寿命の向上が要求されている。よって、寿命が向上した上記の円錐ころ軸受1010をトランスミッション又はデファレンシャルに組み込むことで上記要求を満たすことができる。
 (実施の形態2)
 <円錐ころ軸受の構成>
 図15は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受の断面模式図である。図16は、図15に示した円錐ころ軸受の部分断面模式図である。図17は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受のころの形状を説明するための部分断面図である。図18は、図17に示される円錐ころ軸受のころのクラウニング形状を示す図である。図19は、図17に示される円錐ころ軸受のころの母線方向座標とドロップ量との関係を表す図である。図20は、Misesの相当応力の最大値と対数クラウニングパラメータとの関係を表す図である。図21は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受の変形例を示す図である。図22は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受の他の変形例を示す図である。図23は、図15に示した円錐ころ軸受の円錐ころの部分断面模式図である。図24は、図23に示した円錐ころの拡大部分断面模式図である。図15~図24を用いて本実施の形態に係る円錐ころ軸受を説明する。
 図15に示す円錐ころ軸受2010は、外輪2011と、内輪2013と、複数の円錐ころ(以下では単に、ころと呼ぶこともある)2012と、保持器2014とを主に備えている。外輪2011は、環形状を有し、その内周面に外輪軌道面2011Aを有している。内輪2013は、環形状を有し、その外周面に内輪軌道面2013Aを有している。内輪2013は、内輪軌道面2013Aが外輪軌道面2011Aに対向するように外輪2011の内周側に配置されている。なお、以下の説明において、円錐ころ軸受2010の中心軸に沿った方向を「軸方向」、中心軸に直交する方向を「径方向」、中心軸を中心とする円弧に沿った方向を「周方向」と呼ぶ。
 ころ2012は、外輪2011の内周面上に配置されている。ころ2012はころ転動面2012Aを有し、当該ころ転動面2012Aにおいて内輪軌道面2013Aおよび外輪軌道面2011Aに接触する。複数のころ2012は合成樹脂からなる保持器2014により周方向に所定のピッチで配置されている。これにより、ころ2012は、外輪2011および内輪2013の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。また、円錐ころ軸受2010は、外輪軌道面2011Aを含む円錐、内輪軌道面2013Aを含む円錐、およびころ2012が転動した場合の回転軸の軌跡を含む円錐のそれぞれの頂点が軸受の中心線上の1点で交わるように構成されている。このような構成により、円錐ころ軸受2010の外輪2011および内輪2013は、互いに相対的に回転可能となっている。なお、保持器2014は樹脂製に限らず、金属製であってもよい。
 外輪2011、内輪2013、ころ2012を構成する材料は鋼であってもよい。当該鋼は、窒素富化層2011B、2012B、2013B以外の部分で、少なくとも炭素を0.6質量%以上1.2質量%以下、珪素を0.15質量%以上1.1質量%以下、マンガンを0.3質量%以上1.5質量%以下含む。上記鋼は、さらに2.0質量%以下のクロムを含んでいてもよい。
 上記の構成において、炭素が1.2質量%を超えると、球状化焼鈍を行なっても素材硬度が高いので冷間加工性を阻害し、冷間加工を行なう場合に十分な冷間加工量と、加工精度を得ることができない。また、浸炭窒化処理時に過浸炭組織になりやすく、割れ強度が低下する危険性がある。他方、炭素含有量が0.6質量%未満の場合には、所要の表面硬さと残留オーステナイト量を確保するのに長時間を必要としたり、再加熱後の焼入れで必要な内部硬さが得られにくくなる。
 Si含有率を0.15~1.1質量%とするのは、Siが耐焼戻し軟化抵抗を高めて耐熱性を確保し、異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性を改善することができるからである。Si含有率が0.15質量%未満では異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性が改善されず、一方、Si含有率が1.1質量%を超えると焼きならし後の硬度を高くしすぎて冷間加工性を阻害する。
 Mnは浸炭窒化層と芯部の焼入れ硬化能を確保するのに有効である。Mn含有率が0.3質量%未満では、十分な焼入れ硬化能を得ることができず、芯部において十分な強度を確保することができない。一方、Mn含有率が1.5質量%を超えると、硬化能が過大になりすぎ、焼きならし後の硬度が高くなり冷間加工性が阻害される。また、オーステナイトを安定化しすぎて芯部の残留オーステナイト量を過大にして経年寸法変化を助長する。さらに、鋼が2.0質量%以下のクロムを含むことにより、表層部においてクロムの炭化物や窒化物を析出して表層部の硬度を向上しやすくなる。Cr含有率を2.0質量%以下としたのは、2.0質量%を超えると冷間加工性が著しく低下したり、2.0質量%を超えて含有しても上記表層部の硬度向上の効果が小さいからである。
 なお、本開示の鋼は、言うまでもなくFeを主成分とし、上記の元素の他に不可避的不純物を含んでいてもよい。不可避的不純物としては、リン(P)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、アルミ(Al)などがある。これらの不可避的不純物元素の量は、たとえばそれぞれ0.1質量%以下である。
 また異なる観点から言えば、外輪2011および内輪2013は、軸受用材料の一例である鋼材、たとえばJIS規格SUJ2からなるものであることが好ましい。ころ2012は、軸受用材料の一例である鋼材、たとえばJIS規格SUJ2により構成されてもよい。また、ころ2012は、他の材料、たとえばサイアロン焼結体により構成されていてもよい。
 図16に示すように、外輪2011の軌道面2011Aおよび内輪2013の軌道面2013Aには窒素富化層2011B、2013Bが形成されている。内輪2013では、窒素富化層2013Bが軌道面2013Aから小つば面および大つば面にまで延在している。窒素富化層2011B、2013Bは、それぞれ外輪2011の未窒化部2011Cまたは内輪2013の未窒化部2013Cより窒素濃度が高くなっている領域である。また、ころ2012の転動面2012Aを含む表面には窒素富化層2012Bが形成されている。ころ2012の窒素富化層2012Bは、ころ2012の未窒化部2012Cより窒素濃度が高くなっている領域である。窒素富化層2011B、2012B、2013Bは、たとえば浸炭窒化処理、窒化処理など従来周知の任意の方法により形成できる。
 なお、ころ2012のみに窒素富化層2012Bを形成してもよいし、外輪2011のみに窒素富化層2011Bを形成してもよいし、内輪2013のみに窒素富化層2013Bを形成してもよい。あるいは、外輪2011、内輪2013、ころ2012のうちの2つに窒素富化層を形成してもよい。
 次に、図17~図19を用いて、ころ2012の形状をより詳しく説明する。図17~図19に示すように、ころ2012における転動面2012Aのクラウニング形成部分において、内輪軌道面2013Aに非接触である非接触部クラウニング部分2028の母線の曲率R8が、内輪軌道面2013Aに接触する接触部クラウニング部分2027の母線の曲率R7よりも小さく設定されている。
 図17に示すように、内輪2013の外周には内輪軌道面2013Aが形成され、この内輪軌道面2013Aの大径側および小径側に大つば部2041および小つば部2042をそれぞれ有する。内輪軌道面2013Aと大つば部2041とが交わる隅部には、研削逃げ部2043が形成され、内輪軌道面2013Aと小つば部2042との隅部には、研削逃げ部2044が形成されている。上記内輪軌道面2013Aは、内輪軸方向に延びる母線が直線となっている。外輪2011の内周には、内輪軌道面2013Aに対向する外輪軌道面2011Aが形成されている。外輪2011はつば無しとされ、外輪軌道面2011Aは外輪軸方向に延びる母線が直線となっている。
 図15および図17に示すように、ころ2012の外周のころ転動面にはクラウニングを形成し、ころ2012の両端には面取り部2021,2025が施されている。ころ転動面2012Aのクラウニング形成部分を、図18に示すように接触部クラウニング部分2027と、非接触部クラウニング部分2028とに形成している。これらのうち接触部クラウニング部分2027は、内輪軌道面2013Aの軸方向範囲にあって内輪軌道面2013Aに接する。非接触部クラウニング部分2028は、内輪軌道面2013Aの軸方向範囲から外れて内輪軌道面2013Aに非接触となる。
 これら接触部クラウニング部分2027と非接触部クラウニング部分2028は、ころ軸方向に延びる母線が、互いに異なる関数で表されかつ互いに接続点P1で滑らかに連続する線である。上記接続点P1の近傍において、非接触部クラウニング部分2028の母線の曲率R8を、接触部クラウニング部分2027の母線の曲率R7よりも小さく設定している。
 ところで、円錐ころ軸受においては、内輪2013側の接触部と外輪2011側の接触部とでは、内輪2013側の方が周方向の等価半径が小さいから面圧が高くなる。したがって、クラウニングの設計においては、内輪2013側の接触について検討すれば良い。
 円錐ころ軸受、呼び番号30316に基本動定格荷重の35%のラジアル荷重が作用し、ミスアライメントが1/600である場合について検討する。このとき、ミスアライメントは、ころ2012の小径側でなく大径側で面圧が高くなる方向に傾くとする。上記基本動定格荷重とは、内輪2013を回転させ外輪2011を静止させた条件で、一群の同じ軸受を個々に運転したとき、定格寿命が100万回転になるような、方向と大きさが変動しない荷重をいう。上記ミスアライメントは、外輪2011を嵌合した図示外のハウジングと、内輪2013を嵌合した軸との心ずれであり、傾き量として上記のような分数にて表記する。
 上記接触部クラウニング部分2027の母線は、対数クラウニングで表されてもよい。接触部クラウニング部分2027のドロップ量の和は、円錐ころであるころ2012の転動面の母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy-z座標系において、K,K,zを設計パラメータ、Qを荷重、Lを円錐ころであるころ2012における転動面の有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aを円錐ころの転動面2012Aの母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2KQ/πLE’としたときに、式(1)で表されてもよい。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000005
 つまり、接触部クラウニング部分2027の母線は上記式(1)で表される対数クラウニングの対数曲線により形成されていてもよい。
 クラウニングの加工精度を確保するためには、ころ2012の外周に、ころ全長L1の1/2以上のストレート部分が存在することが望ましい。そこで、ころ全長L1の1/2をストレート部分とし、ころ軸方向中央を基準として、小径側の部分と大径側の部分とで対称のクラウニングであるとすれば、対数クラウニング式(1)中の設計パラメータのうち、Kは固定され、Kとzが設計の対象となる。
 ところで、後述の数理的最適化手法を用いてクラウニングを最適化すると、本条件では、図19の「対数」のようなクラウニングとなる。このとき、ころ2012のクラウニングの最大ドロップ量は69μmである。ところが、図19中のGの領域は、図17の内輪2013の研削逃げ部2043,2044と相対するEの領域であり内輪2013とは接触しない。このため、ころ2012の上記Gの領域は、対数クラウニングである必要はなく、直線もしくは円弧あるいはその他の関数としても差し支えない。ころ2012の上記Gの領域が直線、円弧、その他の関数であっても、ころ全体が対数クラウニングの場合と同一の面圧分布となり、機能上何ら遜色はない。
 対数クラウニングの数理的最適化手法について説明する。
 対数クラウニングを表す関数式(1)中のK、zを適切に選択することによって、最適な対数クラウニングを設計することができる。
 クラウニングは一般的に接触部の面圧もしくは応力の最大値を低下させるように設計する。ここでは,転動疲労寿命はMisesの降伏条件にしたがって発生すると考え,Misesの相当応力の最大値を最小にするようにK、zを選択する。
 K、zは適当な数理的最適化手法を用いて選択することが可能である。数理的最適化手法のアルゴリズムには種々のものが提案されているが、その一つである直接探索法は、関数の微係数を使用せずに最適化を実行することが可能であり、目的関数と変数が数式によって直接的に表現できない場合に有用である。ここでは,直接探索法の一つであるRosenbrock法を用いてK、zの最適値を求める。
 円錐ころ軸受、呼び番号30316に基本動定格荷重の35%のラジアル荷重が作用し、ミスアライメントが1/600である場合では、Misesの相当応力の最大値sMises_maxと対数クラウニングパラメータK、zは図20のような関係にある。K、zに適当な初期値を与え、Rosenbrock法の規則にしたがってK、zを修正していくと、図20中の最適値の組合せに到達し,sMises_maxは最小となる。
 ころ2012と内輪2013との接触を考える限りにおいては、図19におけるGの領域のクラウニングは、どのような形状でも良いが、外輪2011との接触や加工時の砥石の成形性を考慮すれば、対数クラウニング部との接続点P1において、対数クラウニング部の勾配より小さな勾配となることは望ましくない。Gの領域のクラウニングについて、対数クラウニング部の勾配より大きな勾配を与えることは、ドロップ量が大きくなるため、これも望ましくない。すなわち、Gの領域のクラウニングと対数クラウニングは、その接続点P1で勾配が一致して滑らかに繋がるように設計されることが望ましい。図19において、ころ2012のGの領域のクラウニングを、直線とした場合を点線にて例示し、円弧とした場合を太実線にて例示する。Gの領域のクラウニングを直線とした場合、ころ2012のクラウニングのドロップ量Dpは例えば36μmとなる。Gの領域のクラウニングを円弧とした場合、ころ2012のクラウニングのドロップ量Dpは例えば40μmとなる。
 以上説明した円錐ころ軸受2010によると、ころ2012の外周の転動面2012Aにクラウニングを形成したため、内輪軌道面2013Aのみにクラウニングを形成する場合よりも、転動面2012Aに砥石を必要十分に作用させ得る。よって転動面2012Aに対する加工不良を未然に防止できる。ころの転動面2012Aに形成したクラウニングにより、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受2010の長寿命化を図ることができる。さらに、接触部クラウニング部分2027と、非接触部クラウニング部分2028との接続点P1の近傍において、非接触部クラウニング部分2028の母線の曲率R8が、接触部クラウニング部分2027の母線の曲率R7よりも小さいため、ころ2012の両端部のドロップ量Dpの低減を図ることができる。したがって、例えば従来の単一円弧クラウニングのものより研削量を抑え、ころ2012の加工効率の向上を図り、製造コストの低減を図ることができる。
 非接触部クラウニング部分2028の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が円弧であっても良い。この場合、ころ転動面全体の母線を例えば対数曲線で表すものより、ドロップ量Dpの低減を図ることができる。したがって、研削量の低減を図れる。図21に示すように、上記非接触部クラウニング部分2028の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が直線であっても良い(図21の例では大径側の部分のみ直線)。この場合、非接触部クラウニング部分2028の母線を円弧とする場合よりもさらにドロップ量Dpの低減を図ることができる。
 接触部クラウニング部分2027の母線の一部または全部が対数クラウニングで表されても良い。この対数クラウニングで表される接触部クラウニング部分2027により、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受2010の長寿命化を図ることができる。
 図22に示すように、接触部クラウニング部分2027の母線が、ころ軸方向に沿って平坦に形成されたストレート部分2027Aと、対数クラウニングの対数曲線で形成された部分2027Bとによって表されても良い。
 この発明の他の実施の形態として、円錐ころ軸受において、クラウニングを、ころ2012に設けると共に内輪2013にも設けても良い。この場合、ころ2012のドロップ量と内輪2013のドロップ量との和が、上記の最適化されたドロップ量と等しくなるようにする。これらクラウニングにより、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受の長寿命化を図ることができる。さらに、従来の単一円弧クラウニングのものより研削量を抑え、ころ2012の加工効率の向上を図り、製造コストの低減を図ることができる。
 次に、ころ2012の窒素富化層2012Bについて説明する。図15、図16および図23に示すように、ころ2012の転動面2012Aは、クラウニング部2022、2024と中央部2023とを含む。なお、このクラウニング部2022、2024は、図22に示した非接触部クラウニング部分2028および部分2027Bに対応する。また、中央部2023は図22に示したストレート部分2027Aに対応する。つまり図23に示したころ2012は、本実施の形態に係る円錐ころ軸受のころの一例である図22に示した構成のころに対応する。クラウニング部2022、2024は転動面2012Aの両端部に位置し、クラウニングが形成されている。中央部2023は、クラウニング部2022、2024の間を繋ぐように配置されている。中央部2023にはクラウニングは形成されておらず、ころ2012の回転軸である中心線2026に沿った方向での断面における中央部2023の形状は直線状である。ころ2012の小端面2017とクラウニング部2022との間には面取り部2021が形成されている。大端面2016とクラウニング部2024との間にも面取り部2025が形成されている。
 ここで、ころ2012の製造方法において、窒素富化層2012Bを形成する処理(浸炭窒化処理)を実施するときには、ころ2012にはクラウニングが形成されておらず、ころ2012の外形は図24の点線で示される加工前表面2012Eとなっている。この状態で窒素富化層が形成された後、仕上げ加工として図24の矢印に示すようにころ2012の側面が加工され、図23および図24に示すように、クラウニングが形成されたクラウニング部2022、2024が得られる。
 窒素富化層の厚さ:
 ころ2012における窒素富化層2012Bの深さ、すなわち窒素富化層2012Bの最表面から窒素富化層2012Bの底部までの距離は、0.2mm以上となっている。具体的には、面取り部2021とクラウニング部2022との境界点である第1測定点2031、小端面2017から距離Wが1.5mmの位置である第2測定点2032、ころ2012の転動面2012Aの中央である第3測定点2033において、それぞれの位置での窒素富化層2012Bの深さT1、T2、T3が0.2mm以上となっている。ここで、上記窒素富化層2012Bの深さとは、ころ2012の中心線2026に直交するとともに外周側に向かう径方向における窒素富化層2012Bの厚さを意味する。なお、窒素富化層2012Bの深さT1、T2、T3の値は、面取り部2021、2025の形状やサイズ、さらに窒素富化層2012Bを形成する処理および上記仕上げ加工の条件などのプロセス条件に応じて適宜変更可能である。たとえば、図24に示した構成例では、上述のように窒素富化層2012Bが形成された後にクラウニング2022Aが形成されたことに起因して、窒素富化層2012Bの深さT2は他の深さT1、T3より小さくなっているが、上述したプロセス条件を変更することで、上記窒素富化層2012Bの深さT1、T2、T3の値の大小関係は適宜変更することができる。
 また、外輪2011および内輪2013における窒素富化層2011B、2013Bについても、その最表面から窒素富化層2011B、2013Bの底部までの距離である窒素富化層2011B、2013Bの厚さは0.2mm以上である。ここで、窒素富化層2011B、2013Bの厚さは、窒素富化層2011B、2013Bの最表面に対して垂直な方向における窒素富化層2011B,2013Bまでの距離を意味する。
 クラウニングの形状:
 ころ2012のクラウニング部2022、2024に含まれる接触部クラウニング部分2027に形成されたクラウニングの形状は、上述したように式(1)で表されてもよい。図25は、接触部クラウニング部分のクラウニング形状の一例を示すy-z座標図である。図25では、ころ2012の母線をy軸とし、ころ2012の母線上であって内輪2013又は外輪2011ところ2012との有効接触部の中央部に原点Oをとると共に、母線直交方向(半径方向)にz軸をとったy-z座標系に、上記式(1)で表されるクラウニングの一例を示している。図25において縦軸はz軸、横軸はy軸である。有効接触部は、ころ2012にクラウニングを形成していない場合の内輪2013又は外輪2011ところ2012との接触部位である。また、円錐ころ軸受2010を構成する複数のころ2012の各クラウニングは、通常、有効接触部の中央部を通るz軸に関して線対称に形成されるので、図25では、一方のクラウニング2022Aのみを示している。
 荷重Q、有効接触部の母線方向長さL、および、等価弾性係数E’は、設計条件として与えられ、原点から有効接触部の端部までの長さaは、原点の位置によって定められる値である。
 上記式(1)において、z(y)は、ころ2012の母線方向位置yにおけるクラウニング2022Aのドロップ量を示しており、クラウニング2022Aの始点O1の座標は(a-Ka,0)であるから、式(1)におけるyの範囲は、y>(a-Ka)である。また、図25では、原点Oを有効接触部の中央部にとっているので、a=L/2となる。さらに、原点Oからクラウニング2022Aの始点O1までの領域は、クラウニングが形成されていない中央部(ストレート部)であるから、0≦y≦(a-Ka)のとき、z(y)=0となる。
 設計パラメータKは荷重Qの倍率、幾何学的にはクラウニング2022Aの曲率の程度を意味している。設計パラメータKは、原点Oから有効接触部の端部までの母線方向長さaに対するクラウニング2022Aの母線方向長さymの割合を意味している(K=ym/a)。設計パラメータzは、有効接触部の端部におけるドロップ量、即ちクラウニング2022Aの最大ドロップ量を意味している。
 ここで、後述する図28に示したころのクラウニングは、設計パラメータK=1であってストレート部の無いフルクライニングであり、エッジロードが発生しない十分なドロップ量が確保されている。しかしながら、ドロップ量が過大であると、加工時に、材料取りされた素材から生じる取代が大きくなり、コスト増大を招くこととなる。そこで、以下のように、設計パラメータK,K,zの最適化を行う。
 設計パラメータK,K,zの最適化手法としては種々のものを採用することができ、例えば、Rosenbrock法等の直接探索法を採用することができる。ここで、ころの転動面における表面起点の損傷は面圧に依存するので、最適化の目的関数を面圧とすることにより、希薄潤滑下における接触面の油膜切れを防止するクラウニングを得ることができる。
 保持器の形状:
 図26および図27に示すように、上記保持器2014は、円錐ころ2012の小径端面側で連なる小環状部2106と、円錐ころ2012の大径端面側で連なる大環状部2107と、これらの小環状部2106と大環状部2107を連結する複数の柱部2108とからなり、円錐ころ2012の小径側を収納する部分が狭幅側、大径側を収納する部分が広幅側となる台形状のポケット2109が形成されている。ポケット2109の狭幅側と広幅側には、それぞれ両側の柱部2108に2つずつ切欠き2110a、2110bが設けられている。各切欠き2110a、2110bの寸法は、いずれも深さ1.0mm、幅4.6mmとされている。柱面2014dは、柱部2108において、上記切欠きが形成されていない部分のポケット2109に面している面である。柱面2014dの窓角θは所定の角度に設定されている。
 円錐ころ2012の大端面2016の曲率半径Rと、O点から内輪2013の大鍔面2018までの距離RBASEとの比R/RBASE
 内輪2013の小つば面は、軌道面2013Aに配列された円錐ころ2012の小端面2017と平行な研削加工面に仕上げられている。
 図28に示すように、円錐ころ2012と、外輪2011および内輪2013の各軌道面2011A、2013Aの各円錐角頂点は、円錐ころ軸受2010の中心線上の一点Oで一致し、円錐ころ2012の大端面2016の曲率半径Rと、O点から内輪2013の大鍔面2018までの距離RBASEとの比R/RBASEは、0.75以上0.87以下の範囲となるように製造されている。また、大鍔面2018は、例えば0.12μm以下の表面粗さRaに研削加工されている。
 窒素富化層の結晶組織:
 図29は、本実施の形態に係る円錐ころ軸受を構成する軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。図30は、窒素富化層2012Bにおけるミクロ組織を示している。本実施の形態における窒素富化層2012Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が2010以上となっており、従来の一般的な焼入れ加工品と比べても十分に微細化されている。
 <各種特性の測定方法>
 窒素濃度の測定方法:
 外輪2011、ころ2012、内輪2013などの軸受部品について、それぞれ窒素富化層2011B,2012B、2013Bが形成された領域の表面に垂直な断面について、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)により深さ方向で線分析を行う。測定は、各軸受部品を測定位置から表面に垂直な方向に切断することで切断面を露出させ、当該切断面において測定を行う。たとえば、ころ2012については、図23に示した第1測定点2031~第3測定点2033のそれぞれの位置から、中心線2026と垂直な方向にころ2012を切断することで切断面を露出させる。当該切断面において、ころ2012の表面から内部に向かって0.05mmの位置となる複数の測定位置にて、上記EPMAにより窒素濃度について分析を行う。たとえば、上記測定位置を5か所決定し、当該5か所での測定データの平均値をころ2012の窒素濃度とする。
 また、外輪2011および内輪2013については、軌道面2011A、2013Aにおいて軸受の中心軸方向における中央部を測定位置として、中心軸および当該中心軸に直交する径方向に沿った断面を露出させた後、当該断面について上記と同様の手法により窒素濃度の測定を行う。
 最表面から窒素富化層の底部までの距離の測定方法:
 外輪2011および内輪2013については、上記窒素濃度の測定方法において測定対象とした断面につき、表面から深さ方向において硬度分布を測定する。測定装置としてはビッカース硬さ測定機を用いることができる。500℃×1hの焼き戻し処理後の円錐ころ軸受2010の外輪2011および内輪2013において、深さ方向に並ぶ複数の測定点、たとえば0.5mm間隔に配置された測定点において硬度測定を実施する。そして、ビッカース硬さがHV450以上の領域を窒素富化層とする。
 また、ころ2012については、図23に示した第1測定点2031での断面において、上記のように深さ方向での硬度分布を測定し、窒素富化層の領域を決定する。
 粒度番号の測定方法:
 旧オーステナイト結晶粒径の測定方法は、JIS規格G0551:2013に規定された方法を用いる。測定を行う断面は、窒素富化層の底部までの距離の測定方法において測定を行った断面とする。
 クラウニング形状の測定方法:
 ころ2012のクラウニング形状について、任意の方法により測定できる。たとえば、ころ2012の形状を表面性状測定器により測定することにより、クラウニング形状を測定してもよい。
 <円錐ころ軸受の作用効果>
 以下一部重複する部分もあるが、上述した円錐ころ軸受の特徴的な構成を列挙する。
 本開示に従った円錐ころ軸受2010は、外輪2011と内輪2013と複数の円錐ころであるころ2012とを備える。外輪2011は、内周面において外輪軌道面2011Aを有する。内輪2013は、外周面において内輪軌道面2013Aを有し、外輪2011の内側に配置される。複数のころ2012は、外輪軌道面2011Aと内輪軌道面2013Aとの間に配列され、外輪軌道面2011Aおよび内輪軌道面2013Aと接触する転動面2012Aを有する。外輪2011、内輪2013および複数のころ2012のうちの少なくともいずれか1つは、外輪軌道面2011A、内輪軌道面2013Aまたは転動面2012Aの表面層に形成された窒素富化層2011B、2013B、2012Bを含む。表面層の最表面から窒素富化層の底部までの距離は0.2mm以上である。最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層2011B、2013B、2012Bにおける窒素濃度が0.1質量%以上である。ころ2012の転動面2012Aにはクラウニングが形成される。ころ2012の転動面2012Aにおいてクラウニングが形成されたクラウニング形成部分を、内輪軌道面2013Aの軸方向範囲にあって内輪軌道面2013Aに接する接触部クラウニング部分2027と、内輪軌道面2013Aの軸方向範囲から外れて内輪軌道面2013Aに非接触となる非接触部クラウニング部分2028とに形成する。接触部クラウニング部分2027と非接触部クラウニング部分2028は、ころ軸方向に延びる母線が、互いに異なる関数で表されかつ互いに接続点P1で滑らかに連続する線である。接続点P1の近傍において、非接触部クラウニング部分2028の母線の曲率R8が、接触部クラウニング部分2027の母線の曲率R7よりも小さい。
 上記「滑らかに連続する」とは、角を生じずに連続することであり、理想的には、接触部クラウニング部分の母線と、非接触部クラウニング部分の母線とが、互いの連続点において、共通の接線を持つように続くことで、すなわち上記母線が上記連続点で連続的微分可能な関数であることである。
 このようにすれば、外輪2011、内輪2013、円錐ころとしてのころ2012の少なくともいずれか1つにおいて旧オーステナイト結晶粒径が十分微細化された窒素富化層2011B、2012B、2013Bが形成されているので、高い転動疲労寿命を有した上で、シャルピー衝撃値、破壊靭性値、圧壊強度などを向上させることができる。また、上記構成によると、ころ2012の転動面2012Aに形成したクラウニングにより、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受の長寿命化を図ることができる。
 さらに、ころ2012の外周の転動面2012Aにクラウニングを形成したため、内輪軌道面2013Aのみにクラウニングを形成する場合よりも、ころ2012の転動面2012Aに砥石を必要十分に作用させ得る。よって転動面2012Aに対する加工不良を未然に防止できる。また、接触部クラウニング部分2027と、非接触部クラウニング部分2028との接続点P1の近傍において、非接触部クラウニング部分2028の母線の曲率R8が、接触部クラウニング部分2027の母線の曲率R7よりも小さいため、ころ2012の両端部のドロップ量の低減を図ることができる。したがって、例えば従来の単一円弧クラウニングのものより研削量を抑え、ころ2012の加工効率の向上を図り、製造コストの低減を図ることができる。
 また、上記円錐ころ軸受2010において、最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層2011B、2012B、2013Bにおける窒素濃度が0.1質量%以上となっている。このため、窒素富化層2011B、2012B,2013Bの最表面における窒素濃度を十分な値とできることから、窒素富化層2011B、2012B、2013Bの最表面の硬度を十分高くすることができる。また、上述した旧オーステナイト結晶粒径の粒度、窒素富化層の底部までの距離、窒素濃度といった条件は、図23の第1測定点2031において少なくとも満足されていることが好ましい。
 上記円錐ころ軸受2010において、窒素富化層2011B、2013B、2012Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上である。
 この場合、外輪2011、内輪2013、円錐ころとしてのころ2012の少なくともいずれか1つにおいて旧オーステナイト結晶粒径が十分微細化された窒素富化層2011B、2012B、2013Bが形成されているので、高い転動疲労寿命を有した上で、シャルピー衝撃値、破壊靭性値、圧壊強度などを向上させることができる。
 上記円錐ころ軸受2010において、非接触部クラウニング部分2028の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が円弧であってもよい。この場合、ころ転動面全体の母線を例えば対数曲線で表すものより、ドロップ量の低減を図ることができる。したがって、研削量の低減を図れる。
 上記円錐ころ軸受2010において、非接触部クラウニング部分2028の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が直線であってもよい。この場合、非接触部クラウニング部分の母線を円弧とする場合よりもさらにドロップ量の低減を図ることができる。
 上記円錐ころ軸受2010において、接触部クラウニング部分2027の母線の一部または全部が対数クラウニングで表されてもよい。この対数クラウニングで表される接触部クラウニング部分2027により、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受の長寿命化を図ることができる。
 上記円錐ころ軸受2010において、接触部クラウニング部分2027の母線が、ころ軸方向に沿って平坦に形成されたストレート部分と、対数クラウニングの対数曲線で形成された部分とによって表されてもよい。
 上記円錐ころ軸受2010において、非接触部クラウニング部分2028の母線のうち、対数クラウニングの対数曲線で形成された部分との接続部を、対数曲線の勾配と一致させてもよい。この場合、接触部クラウニング部分2027の母線と非接触部クラウニング部分2028の母線とを、接続点P1でより滑らかに連続させ得る。
 上記円錐ころ軸受2010において、接触部クラウニング部分2027の母線が対数クラウニングで表されてもよい。接触部クラウニング部分2027のドロップ量の和は、円錐ころであるころ2012の転動面の母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy-z座標系において、K,K,zを設計パラメータ、Qを荷重、Lを円錐ころであるころ2012における転動面の有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aを円錐ころの転動面2012Aの母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2KQ/πLE’としたときに、式(1)で表されてもよい。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000006
 なお、荷重Q、有効接触部の母線方向長さL、および等価弾性係数E’は設計条件として与えられ、原点から有効接触部の端部までの長さaは原点の位置に応じて定められる値である。
 この場合、ころ2012の転動面2012Aの接触部クラウニング部分2027に上記式(1)によりドロップ量の和が表されるような、輪郭線が対数関数で表されるクラウニング(いわゆる対数クラウニング)を設けているので、従来の部分円弧で表されるクラウニングを形成した場合より局所的な面圧の上昇を抑制でき、ころの転動面における摩耗の発生を抑制できる。
 ここで、上述した対数クラウニングの効果についてより詳細に説明する。図31は、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。図32は、部分円弧のクラウニングとストレート部との間を補助円弧としたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。図31および図32の左側の縦軸は、クラウニングのドロップ量(単位:mm)を示している。図31および図32の横軸は、ころにおける軸方向での位置(単位:mm)を示している。図31および図32の右側の縦軸は、接触面圧(単位:GPa)を示している。
 円錐ころの転動面の輪郭線を部分円弧のクラウニングとストレート部とを有する形状に形成した場合、図32に示すように、ストレート部、補助円弧及びクラウニング相互間の境界における勾配が連続であっても、曲率が不連続であると接触面圧が局所的に増加する。そのため、十分な膜厚の潤滑膜が形成されていないと、金属接触による摩耗が生じやすくなる。接触面に部分的に摩耗が生じると、その近辺で、より金属接触が生じやすい状態となるため、接触面の摩耗が促進され、円錐ころが損傷に至る不都合が生じる。
 そこで、接触面としての円錐ころの転動面に、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けた場合、例えば図31に示すように、図32の部分円弧で表されるクラウニングを設けた場合と比べて局所的な面圧が低くなり、接触面に摩耗を生じ難くすることができる。したがって、円錐ころの転動面上に存在する潤滑剤の微量化や低粘度化により潤滑膜の膜厚が薄くなる場合においても、接触面の摩耗を防止し、円錐ころの損傷を防止することができる。なお、図31及び図32には、ころの母線方向を横軸とすると共に母線直交方向を縦軸とする直交座標系に、内輪又は外輪ところの有効接触部の中央部に横軸の原点Oを設定してころの輪郭線を示すと共に、面圧を縦軸として接触面圧を重ねて示している。このように、上述のような構成を採用することで長寿命かつ高い耐久性を示す円錐ころ軸受2010を実現できる。
 上記円錐ころ軸受2010において、上記式(1)における設計パラメータK,zについて数理的最適化手法を利用して最適設計してもよい。
 上記円錐ころ軸受2010において、窒素富化層2011B、2012B、2013Bが形成された外輪2011、内輪2013、およびころ2012のうちの少なくともいずれか1つは鋼により構成される。当該鋼は、窒素富化層2011B、2012B、2013B以外の部分、つまり未窒化部2011C、2012C、2013Cにおいて、少なくとも炭素(C)を0.6質量%以上1.2質量%以下、珪素(Si)を0.15質量%以上1.1質量%以下、マンガン(Mn)を0.3質量%以上1.5質量%以下含む。上記円錐ころ軸受において、鋼は、さらに2.0質量%以下のクロムを含んでいてもよい。この場合、本実施の形態において規定する構成の窒素富化層2011B、2012B、2013Bを後述する熱処理などを用いて容易に形成できる。
 上記円錐ころ軸受2010において、上記式(1)における設計パラメータK,K,zのうちの少なくとも1つが、ころ2012と外輪2011またはころ2012と内輪2013との接触面圧を目的関数として最適化されていてもよい。
 上記設計パラメータK1,K2,zmは、接触面圧、応力及び寿命のうちのいずれかを目的関数として最適化して定められるところ、表面起点の損傷は接触面圧に依存する。ここで、上記実施の形態によれば、接触面圧を目的関数として最適化して設計パラメータK1,K2,zmを設定するので、潤滑剤が希薄な条件においても接触面の摩耗を防止できるクラウニングが得られる。
 上記円錐ころ軸受2010において、外輪2011または内輪2013の少なくともいずれか1つは、窒素富化層2011B、2013Bを含む。この場合、外輪2011または内輪2013の少なくともいずれかにおいて、結晶組織が微細化された窒素富化層2011B、2013Bが形成されることで、長寿命かつ高耐久性を有する外輪2011または内輪2013を得ることができる。
 上記円錐ころ軸受2010において、ころ2012は窒素富化層2012Bを含む。この場合、ころ2012において、結晶組織が微細化された窒素富化層2012Bが形成されることで、長寿命かつ高耐久性を有するころ2012を得ることができる。
 内輪軌道面にクラウニングが施されており、この内輪軌道面のクラウニングのドロップ量と、ころの外周のクラウニングのドロップ量との和が所定の値となるものであっても良い。
 内輪2013の小鍔面を円錐ころ2012の小端面と平行な面で形成したのは、以下の理由による。内輪2013の小鍔面2019を、軌道面2013Aに配列された円錐ころ2012の小端面2017と平行な面とすることにより、前述した初期組立状態での円錐ころ2012大端面2016と内輪2013の大鍔面2018の第1隙間(円錐ころ2012が正規の位置に落ち着いたときの小端面2017と内輪2013の小鍔面2019の隙間に等しい)に対する円錐ころ2012の小端面2017の面取り寸法、形状のばらつきの影響を排除することができる。すなわち、小端面2017の面取り寸法、形状が異なっても、初期組立状態において、互いに平行な小端面2017と小鍔面2019とは面接触するため、このときの大端面2016と大鍔面2018の第1隙間は常に一定となり、各円錐ころ2012が正規の位置に落ち着くまでの時間のばらつきをなくし、馴らし運転時間を短縮することができる。
 <円錐ころ軸受の製造方法>
 図33は、図15に示した円錐ころ軸受の製造方法を説明するためのフローチャートである。図34は、図33の熱処理工程における熱処理パターンを示す模式図である。図35は、図34に示した熱処理パターンの変形例を示す模式図である。図30は、比較例としての軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。以下、円錐ころ軸受の製造方法を説明する。
 図33に示すように、まず部品準備工程(S2100)を実施する。この工程(S2100)では、外輪2011、内輪2013、ころ2012、保持器2014などの軸受部品となるべき部材を準備する。なお、ころ2012となるべき部材には、まだクラウニングは形成されておらず、当該部材の表面は図18の点線で示した加工前表面2012Eとなっている。
 次に、熱処理工程(S2200)を実施する。この工程(S2200)では、上記軸受部品の特性を制御するため、所定の熱処理を実施する。たとえば、外輪2011、ころ2012、内輪2013、のすくなくともいずれか1つにおいて本実施形態に係る窒素富化層2011B、2012B、2013Bを形成するため、浸炭窒化処理または窒化処理と、焼入れ処理、焼戻処理などを行う。この工程(S2200)における熱処理パターンの一例を図34に示す。図34は、1次焼入れおよび2次焼入れを行う方法を示す熱処理パターンを示す。図35は、焼入れ途中で材料をA1変態点温度未満に冷却し、その後、再加熱して最終的に焼入れる方法を示す熱処理パターンを示す。これらの図において、処理T1では鋼の素地に炭素や窒素を拡散させまた炭素の溶け込みを十分に行なった後、A1変態点未満に冷却する。次に、図中の処理T2において、処理T1よりも低温に再加熱し、そこから油焼入れを施す。その後、たとえば加熱温度180℃の焼き戻し処理を実施する。
 上記の熱処理によれば、普通焼入れ、すなわち浸炭窒化処理に引き続いてそのまま1回焼入れするよりも、軸受部品の表層部分を浸炭窒化しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。上記熱処理工程(S2200)によれば、焼入れ組織となっている窒素富化層2011B、2012B、2013Bにおいて、旧オーステナイト結晶粒の粒径が、図30に示した従来の焼入れ組織におけるミクロ組織と比較して2分の1以下となる、図29に示したようなミクロ組織を得ることができる。上記の熱処理を受けた軸受部品は、転動疲労に対して長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
 次に、加工工程(S2300)を実施する。この工程(S2300)では、各軸受部品の最終的な形状となるように、仕上げ加工を行う。ころ2012については、図18に示したように切削加工などの機械加工によりクラウニング2022Aおよび面取り部2021を形成する。
 次に、組立工程(S2400)を実施する。この工程(S2400)では、上記のように準備された軸受部品を組み立てることにより、図15に示した円錐ころ軸受2010を得る。このようにして、図15に示した円錐ころ軸受2010を製造することができる。
 (実験例3)
 <試料>
 試料として、試料No.1~4までの4種類の円錐ころを試料として準備した。円錐ころの型番は30206とした。円錐ころの材質としてはJIS規格SUJ2材(1.0質量%C-0.25質量%Si-0.4質量%Mn-1.5質量%Cr)を用いた。
 試料No.1については、浸炭窒化焼入れを実施した後、図25に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気はRXガス+アンモニアガスとした。試料No.2については、試料No.1と同様に浸炭窒化焼入れを実施した後、図32に示した部分円弧クラウニングを形成した。
 試料No.3については、図34に示した熱処理パターンを実施した後、図25に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。
 試料No.4については、図34に示した熱処理パターンを実施した後、図25に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。試料の最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層における窒素濃度を0.1質量%以上とするために、浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。更に、炉内雰囲気を厳密に管理した。具体的には、炉内温度のムラ及びアンモニアガスの雰囲気ムラを抑制した。上述した試料No.3および試料No.4が本発明の実施例に対応する。試料No.1および試料No.2は比較例に対応する。
 <実験内容>
 実験1:寿命試験
 寿命試験装置を用いて寿命試験を行った。試験条件としては、試験荷重:Fr=18kN、Fa=2kN、潤滑油:タービン油56、潤滑方式:油浴潤滑、という条件を用いた。寿命試験装置では、被試験体としての2つの円錐ころ軸受は、支持軸の両端を支持するように配置されている。該支持軸の延在方向の中央部、すなわち2つの円錐ころ軸受の中央部には、該支持軸を介して円錐ころ軸受にラジアル荷重を負荷するための円筒ころ軸受が配置されている。そして、荷重負荷用の円筒ころ軸受にラジアル荷重を負荷することで、被試験体としての円錐ころ軸受にラジアル荷重を負荷する。また、アキシアル荷重は、寿命試験装置のハウジングを介して一方の円錐ころ軸受から支持軸に伝わり、他方の円錐ころ軸受にアキシアル荷重が負荷される。これにより、円錐ころ軸受の寿命試験が行われる。
 実験2:偏荷重時の寿命試験
 上記実験1の寿命試験と同様の試験装置を用いた。試験条件としては、基本的に上記実験1での条件と同様であるが、ころの中心軸について2/1000radの軸傾きを負荷した状態とし、偏荷重が印加された状態で試験を行った。
 実験3:回転トルク試験
 試料No.1~4について、縦型トルク試験機を用いたトルク測定試験を行った。試験条件としては、試験荷重:Fa=7000N、潤滑油:タービン油56、潤滑方式:油浴潤滑、回転数:5000rpm、という条件を用いた。
 <結果>
 実験1:寿命試験
 試料No.4が最も良好な結果を示し、長寿命であると考えられた。試料No.2および試料No.3は、試料No.4の結果には及ばないものの、良好な結果を示し、十分実用に耐え得ると判断された。一方、試料No.1については、最も短い寿命を示す結果となった。
 実験2:偏荷重時の寿命試験
 試料No.4および試料No.3が最も良好な結果を示し、長寿命であると考えられた。次に、試料No.1が試料No.4および試料No.3には及ばないものの、比較的良好な結果を示した。一方、試料No.2は上記実験1の時の結果より悪い結果を示し、偏荷重条件により短寿命化したものと考えられる。
 実験3:回転トルク試験
 試料No.1、試料No.3、試料No.4が十分小さな回転トルクを示し良好な結果となった。一方、試料No.2は回転トルクが他の試料より大きくなっていた。
 以上の結果から、総合的に試料No.4がいずれの試験においても良好な結果を示し、総合的に最も優れた結果となった。また、試料No.3も、試料No.1および試料No.2と比べて良好な結果を示した。
(実験例4)
 <試料>
 上記の実験例1における試料No.4を用いた。
 <実験内容>
 表面から0.05mmの深さ位置での窒素濃度測定:
 試料No.4について、窒素濃度の測定と窒素富化層の深さ測定を実施した。測定方法としては、以下のような方法を用いた。すなわち、図23に示した第1~第3測定点において、中心線と垂直な方向に試料としての円錐ころを切断することで切断面を露出させる。当該切断面において、試料の表面から内部に向かって0.05mmの位置となる複数の測定位置にて、上記EPMAにより窒素濃度について分析を行う。第1~第3測定点における断面のそれぞれにて、上記測定位置を5か所決定し、当該5か所での測定データの平均値を各測定点での窒素濃度とした。
 窒素富化層の底部までの距離の測定:
 上記第1~第3測定点での断面において、500℃×1hの焼き戻し処理後の円錐ころ軸受2010において、深さ方向に0.5mm間隔で並ぶ複数の測定点において硬度測定を実施した。そして、ビッカース硬さがHV450以上の領域を窒素富化層とし、当該硬度がHV450となった位置の深さを窒素富化層の底部とした。
 窒素富化層における粒度番号の測定:
 旧オーステナイト結晶粒径の測定方法は、JIS規格G0551:2013に規定された方法を用いた。測定を行う断面は、窒素富化層の底部までの距離の測定方法において測定を行った断面とした。
 <結果>
 表面から0.05mmの深さ位置での窒素濃度測定:
 第1測定点については、窒素濃度が0.2質量%となり、第2測定点については窒素濃度が0.25質量%となり、第3測定点については窒素濃度が0.3質量%となった。いずれの測定点でも、測定結果は本願発明の範囲に入るものとなった。
 窒素富化層の底部までの距離の測定:
 第1測定点については、窒素富化層の底部までの距離が0.3mmとなり、第2測定点については当該距離が0.35mmとなり、第3測定点については当該距離が0.3mmとなった。いずれの測定点でも、測定結果は本願発明の範囲に入るものとなった。
 窒素富化層における粒度番号の測定:
 第1測定点から第3測定点のいずれにおいても、窒素富化層での旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10番以上となっていた。
 次に、本実施の形態に係る円錐ころ軸受の用途の一例について説明する。本実施形態に係る円錐ころ軸受は、デファレンシャル又はトランスミッション等の自動車の動力伝達装置に組み込まれると好適である。すなわち、本実施形態に係る円錐ころ軸受は、自動車用円錐ころ軸受として用いると好適である。したがって、実施の形態1に係る円錐ころ軸受と同様に、図13に示した自動車のデファレンシャルに本実施形態に係る円錐ころ軸受を適用することができる。すなわち、図13のデファレンシャルにおける円錐ころ軸受1010a、1010bに代えて、本実施の形態に係る円錐ころ軸受2010を適用してもよい。
 また、本実施の形態に係る円錐ころ軸受は、図14に示したマニュアルトランスミッションに適用することができる。すなわち、図14のマニュアルトランスミッションにおける円錐ころ軸受1010に代えて、本実施の形態に係る円錐ころ軸受2010を適用してもよい。長寿命かつ高い耐久性を有する円錐ころ軸受2010は、転動体と軌道部材との間に高い面圧が付与されるマニュアルトランスミッション100内での使用に好適である。
 (実施の形態3)
 <円錐ころ軸受の構成>
 図36は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受の断面模式図である。図37は、図36に示した円錐ころ軸受の部分断面模式図である。図38は、図36に示した円錐ころ軸受の円錐ころの部分断面模式図である。図39は、図38に示した円錐ころの拡大部分断面模式図である。図36~図39を用いて本実施の形態に係る円錐ころ軸受を説明する。
 図36に示す円錐ころ軸受3010は、外輪3011と、内輪3013と、複数の円錐ころ(以下では単に、ころと呼ぶこともある)3012と、保持器3014とを主に備えている。外輪3011は、環形状を有し、その内周面に外輪軌道面3011Aを有している。内輪3013は、環形状を有し、その外周面に内輪軌道面3013Aを有している。内輪3013は、この内輪軌道面3013Aの大径側および小径側に大つば部3041および小つば部3042をそれぞれ有する。内輪3013は、内輪軌道面3013Aが外輪軌道面3011Aに対向するように外輪3011の内周側に配置されている。なお、以下の説明において、円錐ころ軸受3010の中心軸に沿った方向を「軸方向」、中心軸に直交する方向を「径方向」、中心軸を中心とする円弧に沿った方向を「周方向」と呼ぶ。
 ころ3012は、外輪3011の内周面上に配置されている。ころ3012はころ転動面3012Aを有し、当該ころ転動面3012Aにおいて内輪軌道面3013Aおよび外輪軌道面3011Aに接触する。複数のころ3012は合成樹脂からなる保持器3014により周方向に所定のピッチで配置されている。これにより、ころ3012は、外輪3011および内輪3013の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。また、円錐ころ軸受3010は、外輪軌道面3011Aを含む円錐、内輪軌道面3013Aを含む円錐、およびころ3012が転動した場合の回転軸の軌跡を含む円錐のそれぞれの頂点が軸受の中心線上の1点で交わるように構成されている。このような構成により、円錐ころ軸受3010の外輪3011および内輪3013は、互いに相対的に回転可能となっている。なお、保持器3014は樹脂製に限らず、金属製であってもよい。
 外輪3011、内輪3013、ころ3012を構成する材料は鋼であってもよい。当該鋼は、窒素富化層3011B、3012B、3013B以外の部分で、少なくとも炭素を0.6質量%以上1.2質量%以下、珪素を0.15質量%以上1.1質量%以下、マンガンを0.3質量%以上1.5質量%以下含む。上記鋼は、さらに2.0質量%以下のクロムを含んでいてもよい。
 上記の構成において、炭素が1.2質量%を超えると、球状化焼鈍を行なっても素材硬度が高いので冷間加工性を阻害し、冷間加工を行なう場合に十分な冷間加工量と、加工精度を得ることができない。また、浸炭窒化処理時に過浸炭組織になりやすく、割れ強度が低下する危険性がある。他方、炭素含有量が0.6質量%未満の場合には、所要の表面硬さと残留オーステナイト量を確保するのに長時間を必要としたり、再加熱後の焼入れで必要な内部硬さが得られにくくなる。
 Si含有率を0.15~1.1質量%とするのは、Siが耐焼戻し軟化抵抗を高めて耐熱性を確保し、異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性を改善することができるからである。Si含有率が0.15質量%未満では異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性が改善されず、一方、Si含有率が1.1質量%を超えると焼きならし後の硬度を高くしすぎて冷間加工性を阻害する。
 Mnは浸炭窒化層と芯部の焼入れ硬化能を確保するのに有効である。Mn含有率が0.3質量%未満では、十分な焼入れ硬化能を得ることができず、芯部において十分な強度を確保することができない。一方、Mn含有率が1.5質量%を超えると、硬化能が過大になりすぎ、焼きならし後の硬度が高くなり冷間加工性が阻害される。また、オーステナイトを安定化しすぎて芯部の残留オーステナイト量を過大にして経年寸法変化を助長する。さらに、鋼が2.0質量%以下のクロムを含むことにより、表層部においてクロムの炭化物や窒化物を析出して表層部の硬度を向上しやすくなる。Cr含有率を2.0質量%以下としたのは、2.0質量%を超えると冷間加工性が著しく低下したり、2.0質量%を超えて含有しても上記表層部の硬度向上の効果が小さいからである。
 なお、本開示の鋼は、言うまでもなくFeを主成分とし、上記の元素の他に不可避的不純物を含んでいてもよい。不可避的不純物としては、リン(P)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、アルミ(Al)などがある。これらの不可避的不純物元素の量は、それぞれ0.1質量%以下である。
 また異なる観点から言えば、外輪3011および内輪3013は、軸受用材料の一例である鋼材、たとえばJIS規格SUJ2からなるものであることが好ましい。ころ3012は、軸受用材料の一例である鋼材、たとえばJIS規格SUJ2により構成されてもよい。また、ころ3012は、他の材料、たとえばサイアロン焼結体により構成されていてもよい。
 図2に示すように、外輪3011の軌道面3011Aおよび内輪3013の軌道面3013Aには窒素富化層3011B、3013Bが形成されている。内輪3013では、窒素富化層3013Bが軌道面3013Aから小鍔面および大鍔面にまで延在している。窒素富化層3011B、3013Bは、それぞれ外輪3011の未窒化部3011Cまたは内輪3013の未窒化部3013Cより窒素濃度が高くなっている領域である。また、ころ3012の転動面3012Aを含む表面には窒素富化層3012Bが形成されている。ころ3012の窒素富化層3012Bは、ころ3012の未窒化部3012Cより窒素濃度が高くなっている領域である。窒素富化層3011B、3012B、3013Bは、たとえば浸炭窒化処理、窒化処理など従来周知の任意の方法により形成できる。
 なお、ころ3012のみに窒素富化層3012Bを形成してもよいし、外輪3011のみに窒素富化層3011Bを形成してもよいし、内輪3013のみに窒素富化層3013Bを形成してもよい。あるいは、外輪3011、内輪3013、ころ3012のうちの2つに窒素富化層を形成してもよい。また、窒素富化層3011B、3012B,3013Bに関して、最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層における窒素濃度が0.1質量%以上であってもよい。
 図38に示すように、ころ3012の転動面3012A(図2参照)は、クラウニング部3022、3024と中央部3023とを含む。クラウニング部3022、3024は転動面3012Aの両端部に位置し、クラウニングが形成されている。中央部3023は、クラウニング部3022、3024の間を繋ぐように配置されている。中央部3023にはクラウニングは形成されておらず、ころ3012の回転軸である中心線3026に沿った方向での断面における中央部3023の形状は直線状である。ころ3012の小端面3017とクラウニング部3022との間には面取り部3021が形成されている。大端面3016とクラウニング部3024との間にも面取り部3025が形成されている。
 ここで、ころ3012の製造方法において、窒素富化層3012Bを形成する処理(浸炭窒化処理)を実施するときには、ころ3012にはクラウニングが形成されておらず、ころ3012の外形は図39の点線で示される加工前表面3012Eとなっている。この状態で窒素富化層が形成された後、仕上げ加工として図39の矢印に示すようにころ3012の側面が加工され、図38および図39に示すように、クラウニングが形成されたクラウニング部3022、3024が得られる。
 窒素富化層の厚さ:
 ころ3012における窒素富化層3012Bの深さ、すなわち窒素富化層3012Bの最表面から窒素富化層3012Bの底部までの距離は、0.2mm以上となっている。具体的には、面取り部3021とクラウニング部3022との境界点である第1測定点3031、小端面3017から距離Wが1.5mmの位置である第2測定点3032、ころ3012の転動面3012Aの中央である第3測定点3033において、それぞれの位置での窒素富化層3012Bの深さT1、T2、T3が0.2mm以上となっている。ここで、上記窒素富化層3012Bの深さとは、ころ3012の中心線3026に直交するとともに外周側に向かう径方向における窒素富化層3012Bの厚さを意味する。なお、窒素富化層3012Bの深さT1、T2、T3の値は、面取り部3021、3025の形状やサイズ、さらに窒素富化層3012Bを形成する処理および上記仕上げ加工の条件などのプロセス条件に応じて適宜変更可能である。たとえば、図39に示した構成例では、上述のように窒素富化層3012Bが形成された後にクラウニング3022Aが形成されたことに起因して、窒素富化層3012Bの深さT2は他の深さT1、T3より小さくなっているが、上述したプロセス条件を変更することで、上記窒素富化層3012Bの深さT1、T2、T3の値の大小関係は適宜変更することができる。
 また、外輪3011および内輪3013における窒素富化層3011B、3013Bについても、その最表面から窒素富化層3011B、3013Bの底部までの距離である窒素富化層3011B、3013Bの厚さは0.2mm以上である。ここで、窒素富化層3011B、3013Bの厚さは、窒素富化層3011B、3013Bの最表面に対して垂直な方向における窒素富化層3011B,3013Bまでの距離を意味する。
 クラウニングの形状:
 ころ3012のクラウニング部3022、3024に形成されたクラウニングの形状は、以下のように規定される。すなわち、クラウニングのドロップ量の和は、ころ3012の転動面3012Aの母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy-z座標系において、K,K,zを設計パラメータ、Qを荷重、Lをころ3012における転動面3012Aの有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aをころ3012の転動面の母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2KQ/πLE’としたときに、下記の式(1)で表される。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000007
 図40は、クラウニング形状の一例を示すy-z座標図である。図40では、ころ3012の母線をy軸とし、ころ3012の母線上であって内輪3013又は外輪3011ところ3012の有効接触部の中央部に原点Oをとると共に、母線直交方向(半径方向)にz軸をとったy-z座標系に、上記式(1)で表されるクラウニングの一例を示している。図40において縦軸はz軸、横軸はy軸である。有効接触部は、ころ3012にクラウニングを形成していない場合の内輪3013又は外輪3011ところ3012との接触部位である。また、円錐ころ軸受3010を構成する複数のころ3012の各クラウニングは、通常、有効接触部の中央部を通るz軸に関して線対称に形成されるので、図40では、一方のクラウニング3022Aのみを示している。
 荷重Q、有効接触部の母線方向長さL、および、等価弾性係数E’は、設計条件として与えられ、原点から有効接触部の端部までの長さaは、原点の位置によって定められる値である。
 上記式(1)において、z(y)は、ころ3012の母線方向位置yにおけるクラウニング3022Aのドロップ量を示しており、クラウニング3022Aの始点O1の座標は(a-Ka,0)であるから、式(1)におけるyの範囲は、y>(a-Ka)である。また、図40では、原点Oを有効接触部の中央部にとっているので、a=L/2となる。さらに、原点Oからクラウニング3022Aの始点O1までの領域は、クラウニングが形成されていない中央部(ストレート部)であるから、0≦y≦(a-Ka)のとき、z(y)=0となる。
 設計パラメータKは荷重Qの倍率、幾何学的にはクラウニング3022Aの曲率の程度を意味している。設計パラメータKは、原点Oから有効接触部の端部までの母線方向長さaに対するクラウニング3022Aの母線方向長さymの割合を意味している(K=ym/a)。設計パラメータzは、有効接触部の端部におけるドロップ量、即ちクラウニング3022Aの最大ドロップ量を意味している。
 ここで、後述する図43に示したころのクラウニングは、設計パラメータK=1であってストレート部の無いフルクライニングであり、エッジロードが発生しない十分なドロップ量が確保されている。しかしながら、ドロップ量が過大であると、加工時に、材料取りされた素材から生じる取代が大きくなり、コスト増大を招くこととなる。そこで、以下のように、設計パラメータK,K,zの最適化を行う。
 設計パラメータK,K,zの最適化手法としては種々のものを採用することができ、例えば、Rosenbrock法等の直接探索法を採用することができる。ここで、ころの転動面における表面起点の損傷は面圧に依存するので、最適化の目的関数を面圧とすることにより、希薄潤滑下における接触面の油膜切れを防止するクラウニングを得ることができる。
 また、ころに対数クラウニングを施す場合、ころの加工精度を確保するためには転動面の中央部分に全長の1/2以上の長さのストレート部(中央部3023)を設けるのが好ましい。この場合は、Kを一定の値とし、K,zについて最適化すればよい。
 ころ係数:
 図36および図41に示すように、内輪3013は、円錐状の軌道面3013Aを有し、この軌道面3013Aの大径側に大つば部3041、小径側に小つば部3042を有する。円錐ころ軸受3010は、ころ係数γ>0.90となっている。ここで、ころ係数γは、ころ本数Z、ころ平均径DA、ころピッチ円径PCDとして、関係式γ=(Z・DA)/(π・PCD)で定義される。
 保持器の形状:
 図42に示すように、上記保持器3014は、円錐ころ3012の小径端面側で連なる小環状部3106と、円錐ころ3012の大径端面側で連なる大環状部3107と、これらの小環状部3106と大環状部3107を連結する複数の柱部3108とからなり、円錐ころ3012の小径側を収納する部分が狭幅側、大径側を収納する部分が広幅側となる台形状のポケット3109が形成されている。ポケット3109の狭幅側と広幅側には、それぞれ両側の柱部3108に2つずつ切欠き3110a、3110bが設けられており、各切欠き3110a、3110bの寸法は、いずれも深さ1.0mm、幅4.6mmとされている。
 窒素富化層の結晶組織:
 図48は、本実施の形態に係る円錐ころ軸受を構成する軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。図48は、窒素富化層3012Bにおけるミクロ組織を示している。本実施の形態における窒素富化層3012Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上となっており、従来の一般的な焼入れ加工品と比べても十分に微細化されている。
 <各種特性の測定方法>
 窒素濃度の測定方法:
 外輪3011、ころ3012、内輪3013などの軸受部品について、それぞれ窒素富化層3011B,3012B、3013Bが形成された領域の表面に垂直な断面について、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)により深さ方向で線分析を行う。測定は、各軸受部品を測定位置から表面に垂直な方向に切断することで切断面を露出させ、当該切断面において測定を行う。たとえば、ころ3012については、図38に示した第1測定点3031~第3測定点3033のそれぞれの位置から、中心線3026と垂直な方向にころ3012を切断することで切断面を露出させる。当該切断面において、ころ3012の表面から内部に向かって0.05mmの位置となる複数の測定位置にて、上記EPMAにより窒素濃度について分析を行う。たとえば、上記測定位置を5か所決定し、当該5か所での測定データの平均値をころ3012の窒素濃度とする。
 また、外輪3011および内輪3013については、軌道面3011A、3013Aにおいて軸受の中心軸方向における中央部を測定位置として、中心軸および当該中心軸に直交する径方向に沿った断面を露出させた後、当該断面について上記と同様の手法により窒素濃度の測定を行う。
 最表面から窒素富化層の底部までの距離の測定方法:
 外輪3011および内輪3013については、上記窒素濃度の測定方法において測定対象とした断面につき、表面から深さ方向において硬度分布を測定する。測定装置としてはビッカース硬さ測定機を用いることができる。500℃×1hの焼き戻し処理後の円錐ころ軸受3010の外輪3011および内輪3013において、深さ方向に並ぶ複数の測定点、たとえば0.5mm間隔に配置された測定点において硬度測定を実施する。そして、ビッカース硬さがHV450以上の領域を窒素富化層とする。
 また、ころ3012については、図38に示した第1測定点3031での断面において、上記のように深さ方向での硬度分布を測定し、窒素富化層の領域を決定する。
 粒度番号の測定方法:
 旧オーステナイト結晶粒径の測定方法は、JIS規格G0551:2013に規定された方法を用いる。測定を行う断面は、窒素富化層の底部までの距離の測定方法において測定を行った断面とする。
 クラウニング形状の測定方法:
 ころ3012のクラウニング形状について、任意の方法により測定できる。たとえば、ころ3012の形状を表面性状測定器により測定することにより、クラウニング形状を測定してもよい。
 <円錐ころ軸受の作用効果>
 以下一部重複する部分もあるが、上述した円錐ころ軸受の特徴的な構成を列挙する。
 本開示に従った円錐ころ軸受3010は、外輪3011と内輪3013と複数の円錐ころであるころ3012とを備える。外輪3011は、内周面において外輪軌道面3011Aを有する。内輪3013は、外周面において内輪軌道面3013Aを有し、外輪3011の内側に配置される。複数のころ3012は、外輪軌道面3011Aと内輪軌道面3013Aとの間に配列され、外輪軌道面3011Aおよび内輪軌道面3013Aと接触する転動面3012Aを有する。外輪3011、内輪3013および複数のころ3012のうちの少なくともいずれか1つは、外輪軌道面3011A、内輪軌道面3013Aまたは転動面3012Aの表面層に形成された窒素富化層3011B、3013B、3012Bを含む。表面層の最表面から窒素富化層3011B、3012B、3013Bの底部までの距離T1は0.2mm以上である。ころ係数γは0.90を超えている。ころ3012の転動面3012Bにはクラウニング3022Aが形成されている。クラウニング3022Aのドロップ量の和は、ころ3012の転動面3012Bの母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy-z座標系において、K,K,zを設計パラメータ、Qを荷重、Lをころ3012における転動面3012Aの有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aをころ3012の転動面の母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2KQ/πLE’としたときに、下記の式(1)で表される。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000008
 なお、荷重Q、有効接触部の母線方向長さL、および等価弾性係数E’は設計条件として与えられ、原点から有効接触部の端部までの長さaは原点の位置に応じて定められる値である。
 このようにすれば、外輪3011、内輪3013、円錐ころとしてのころ3012の少なくともいずれか1つにおいて窒素富化層3011B、3012B、3013Bが形成されているので、転動疲労に対して長寿命な円錐ころ軸受3010を実現できる。
 また、ころ3012の転動面3012Aに上記式(1)によりドロップ量の和が表されるような、輪郭線が対数関数で表されるクラウニング(いわゆる対数クラウニング)を設けているので、従来の部分円弧で表されるクラウニングを形成した場合より局所的な面圧の上昇を抑制でき、ころ3012の転動面3012Aにおける摩耗の発生を抑制できる。
 また、ころ係数γが0.90を超えているので、円錐ころ軸受3010の負荷容量がアップするばかりでなく、軌道面3012Aの最大面圧を低下させることができるため、過酷潤滑条件下での極短寿命での表面起点剥離を防止することができる。特に、近年では、円錐ころ軸受が組み込まれる装置(例えば、トランスミッション又はデファレンシャル等の自動車の動力伝達装置)では、使用される潤滑油の粘度が低下しているため、円錐ころ軸受が従来に比べて過酷な潤滑環境下に置かれる傾向にある。そこで、ころ係数γが0.90を超える範囲に設定することで、上記のような低粘度の潤滑油が使用される装置に組み込まれたとしても。円錐ころ軸受3010を長寿命化することができる。
 ここで、上述した対数クラウニングの効果についてより詳細に説明する。図43は、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。図44は、部分円弧のクラウニングとストレート部との間を補助円弧としたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。図43および図44の左側の縦軸は、クラウニングのドロップ量(単位:mm)を示している。図43および図44の横軸は、ころにおける軸方向での位置(単位:mm)を示している。図43および図44の右側の縦軸は、接触面圧(単位:GPa)を示している。
 円錐ころの転動面の輪郭線を部分円弧のクラウニングとストレート部とを有する形状に形成した場合、図44に示すように、ストレート部、補助円弧及びクラウニング相互間の境界における勾配が連続であっても、曲率が不連続であると接触面圧が局所的に増加する。そのため、十分な膜厚の潤滑膜が形成されていないと、金属接触による摩耗が生じやすくなる。接触面に部分的に摩耗が生じると、その近辺で、より金属接触が生じやすい状態となるため、接触面の摩耗が促進され、円錐ころが損傷に至る不都合が生じる。
 そこで、接触面としての円錐ころの転動面に、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けた場合、例えば図43に示すように、図44の部分円弧で表されるクラウニングを設けた場合と比べて局所的な面圧が低くなり、接触面に摩耗を生じ難くすることができる。したがって、円錐ころの転動面上に存在する潤滑剤の微量化や低粘度化により潤滑膜の膜厚が薄くなる場合においても、接触面の摩耗を防止し、円錐ころの損傷を防止することができる。なお、図43及び図44には、ころの母線方向を横軸とすると共に母線直交方向を縦軸とする直交座標系に、内輪又は外輪ところの有効接触部の中央部に横軸の原点Oを設定してころの輪郭線を示すと共に、面圧を縦軸として接触面圧を重ねて示している。このように、上述のような構成を採用することで長寿命かつ高い耐久性を示す円錐ころ軸受3010を実現できる。
 上記円錐ころ軸受3010において、窒素富化層3011B、3012B、3013Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上であってもよい。
 このようにすれば、外輪3011、内輪3013、円錐ころとしてのころ3012の少なくともいずれか1つにおいて旧オーステナイト結晶粒径が十分微細化された窒素富化層3011B、3012B、3013Bが形成されているので、高い転動疲労寿命を有した上で、シャルピー衝撃値、破壊靭性値、圧壊強度などを向上させることができる。
 上記円錐ころ軸受3010において、最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層3011B、3012B、3013Bにおける窒素濃度が0.1質量%以上である。この場合、窒素富化層3011B、3012B,3013Bの最表面における窒素濃度を十分な値とできることから、窒素富化層3011B、3012B、3013Bの最表面の硬度を十分高くすることができる。また、上述した旧オーステナイト結晶粒径の粒度、窒素富化層の底部までの距離、窒素濃度といった条件は、図38の第1測定点3031において少なくとも満足されていることが好ましい。
 上記円錐ころ軸受3010において、窒素富化層3011B、3012B、3013Bが形成された外輪3011、内輪3013、およびころ3012のうちの少なくともいずれか1つは鋼により構成される。当該鋼は、窒素富化層3011B、3012B、3013B以外の部分、つまり未窒化部3011C、3012C、3013Cにおいて、少なくとも炭素(C)を0.6質量%以上1.2質量%以下、珪素(Si)を0.15質量%以上1.1質量%以下、マンガン(Mn)を0.3質量%以上1.5質量%以下含む。上記円錐ころ軸受において、鋼は、さらに2.0質量%以下のクロムを含んでいてもよい。この場合、本実施の形態において規定する構成の窒素富化層3011B、3012B、3013Bを後述する熱処理などを用いて容易に形成できる。
 上記円錐ころ軸受3010において、上記式(1)における設計パラメータK,K,zのうちの少なくとも1つが、ころ3012と外輪3011またはころ3012と内輪3013との接触面圧を目的関数として最適化されていてもよい。
 上記設計パラメータK1,K2,zmは、接触面圧、応力及び寿命のうちのいずれかを目的関数として最適化して定められるところ、表面起点の損傷は接触面圧に依存する。ここで、上記実施の形態によれば、接触面圧を目的関数として最適化して設計パラメータK1,K2,zmを設定するので、潤滑剤が希薄な条件においても接触面の摩耗を防止できるクラウニングが得られる。
 上記円錐ころ軸受3010において、外輪3011または内輪3013の少なくともいずれか1つは、窒素富化層3011B、3013Bを含む。この場合、外輪3011または内輪3013の少なくともいずれかにおいて、結晶組織が微細化された窒素富化層3011B、3013Bが形成されることで、長寿命かつ高耐久性を有する外輪3011または内輪3013を得ることができる。
 上記円錐ころ軸受3010において、ころ3012は窒素富化層3012Bを含む。この場合、ころ3012において、結晶組織が微細化された窒素富化層3012Bが形成されることで、長寿命かつ高耐久性を有するころ3012を得ることができる。
 <円錐ころ軸受の製造方法>
 図45は、図36に示した円錐ころ軸受の製造方法を説明するためのフローチャートである。図46は、図45の熱処理工程における熱処理パターンを示す模式図である。図47は、図46に示した熱処理パターンの変形例を示す模式図である。図49は、比較例としての軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。以下、円錐ころ軸受の製造方法を説明する。
 図45に示すように、まず部品準備工程(S3100)を実施する。この工程(S100)では、外輪3011、内輪3013、ころ3012、保持器3014などの軸受部品となるべき部材を準備する。なお、ころ3012となるべき部材には、まだクラウニングは形成されておらず、当該部材の表面は図39の点線で示した加工前表面3012Eとなっている。
 次に、熱処理工程(S3200)を実施する。この工程(S3200)では、上記軸受部品の特性を制御するため、所定の熱処理を実施する。たとえば、外輪3011、ころ3012、内輪3013、のすくなくともいずれか1つにおいて本実施形態に係る窒素富化層3011B、3012B、3013Bを形成するため、浸炭窒化処理または窒化処理と、焼入れ処理、焼戻処理などを行う。この工程(S3200)における熱処理パターンの一例を図46に示す。図46は、1次焼入れおよび2次焼入れを行う方法を示す熱処理パターンを示す。図47は、焼入れ途中で材料をA1変態点温度未満に冷却し、その後、再加熱して最終的に焼入れる方法を示す熱処理パターンを示す。これらの図において、処理T1では鋼の素地に炭素や窒素を拡散させまた炭素の溶け込みを十分に行なった後、A1変態点未満に冷却する。次に、図中の処理T2において、処理T1よりも低温に再加熱し、そこから油焼入れを施す。その後、たとえば加熱温度180℃の焼き戻し処理を実施する。
 上記の熱処理によれば、普通焼入れ、すなわち浸炭窒化処理に引き続いてそのまま1回焼入れするよりも、軸受部品の表層部分を浸炭窒化しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。上記熱処理工程(S3200)によれば、焼入れ組織となっている窒素富化層3011B、3012B、3013Bにおいて、旧オーステナイト結晶粒の粒径が、図49に示した従来の焼入れ組織におけるミクロ組織と比較して2分の1以下となる、図48に示したようなミクロ組織を得ることができる。上記の熱処理を受けた軸受部品は、転動疲労に対して長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
 次に、加工工程(S3300)を実施する。この工程(S3300)では、各軸受部品の最終的な形状となるように、仕上げ加工を行う。ころ3012については、図39に示したように切削加工などの機械加工によりクラウニング3022Aおよび面取り部3021を形成する。
 次に、組立工程(S3400)を実施する。この工程(S3400)では、上記のように準備された軸受部品を組み立てることにより、図36に示した円錐ころ軸受3010を得る。このようにして、図36に示した円錐ころ軸受3010を製造することができる。
 (実験例5)
 <試料>
 試料として、試料No.1~4までの4種類の円錐ころを試料として準備した。円錐ころの型番は30206とした。円錐ころの材質としてはJIS規格SUJ2材(1.0質量%C-0.25質量%Si-0.4質量%Mn-1.5質量%Cr)を用いた。
 試料No.1については、浸炭窒化焼入れを実施した後、図40に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気はRXガス+アンモニアガスとした。試料No.2については、試料No.1と同様に浸炭窒化焼入れを実施した後、図44に示した部分円弧クラウニングを形成した。
 試料No.3については、図46に示した熱処理パターンを実施した後、図40に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。
 試料No.4については、図46に示した熱処理パターンを実施した後、図40に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。試料の最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層における窒素濃度を0.1質量%以上とするために、浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。更に、炉内雰囲気を厳密に管理した。具体的には、炉内温度のムラ及びアンモニアガスの雰囲気ムラを抑制した。上述した試料No.3および試料No.4が本発明の実施例に対応する。試料No.1および試料No.2は比較例に対応する。
 <実験内容>
 実験1:寿命試験
 寿命試験装置を用いて寿命試験を行った。試験条件としては、試験荷重:Fr=18kN、Fa=2kN、潤滑油:タービン油56、潤滑方式:油浴潤滑、という条件を用いた。寿命試験装置では、被試験体としての2つの円錐ころ軸受は、支持軸の両端を支持するように配置されている。該支持軸の延在方向の中央部、すなわち2つの円錐ころ軸受の中央部には、該支持軸を介して円錐ころ軸受にラジアル荷重を負荷するための円筒ころ軸受が配置されている。そして、荷重負荷用の円筒ころ軸受にラジアル荷重を負荷することで、被試験体としての円錐ころ軸受にラジアル荷重を負荷する。また、アキシアル荷重は、寿命試験装置のハウジングを介して一方の円錐ころ軸受から支持軸に伝わり、他方の円錐ころ軸受にアキシアル荷重が負荷される。これにより、円錐ころ軸受の寿命試験が行われる。
 実験2:偏荷重時の寿命試験
 上記実験1の寿命試験と同様の試験装置を用いた。試験条件としては、基本的に上記実験1での条件と同様であるが、ころの中心軸について2/1000radの軸傾きを負荷した状態とし、偏荷重が印加された状態で試験を行った。
 実験3:回転トルク試験
 試料No.1~4について、縦型トルク試験機を用いたトルク測定試験を行った。試験条件としては、試験荷重:Fa=7000N、潤滑油:タービン油56、潤滑方式:油浴潤滑、回転数:5000rpm、という条件を用いた。
 <結果>
 実験1:寿命試験
 試料No.4が最も良好な結果を示し、長寿命であると考えられた。試料No.2および試料No.3は、試料No.4の結果には及ばないものの、良好な結果を示し、十分実用に耐え得ると判断された。一方、試料No.1については、最も短い寿命を示す結果となった。
 実験2:偏荷重時の寿命試験
 試料No.4および試料No.3が最も良好な結果を示し、長寿命であると考えられた。次に、試料No.1が試料No.4および試料No.3には及ばないものの、比較的良好な結果を示した。一方、試料No.2は上記実験1の時の結果より悪い結果を示し、偏荷重条件により短寿命化したものと考えられる。
 実験3:回転トルク試験
 試料No.1、試料No.3、試料No.4が十分小さな回転トルクを示し良好な結果となった。一方、試料No.2は回転トルクが他の試料より大きくなっていた。
 以上の結果から、総合的に試料No.4がいずれの試験においても良好な結果を示し、総合的に最も優れた結果となった。また、試料No.3も、試料No.1および試料No.2と比べて良好な結果を示した。
 (実験例6)
 <試料>
 上記の実験例5における試料No.4を用いた。
 <実験内容>
 表面から0.05mmの深さ位置での窒素濃度測定:
 試料No.4について、窒素濃度の測定と窒素富化層の深さ測定を実施した。測定方法としては、以下のような方法を用いた。すなわち、図38に示した第1~第3測定点において、中心線と垂直な方向に試料としての円錐ころを切断することで切断面を露出させる。当該切断面において、試料の表面から内部に向かって0.05mmの位置となる複数の測定位置にて、上記EPMAにより窒素濃度について分析を行う。第1~第3測定点における断面のそれぞれにて、上記測定位置を5か所決定し、当該5か所での測定データの平均値を各測定点での窒素濃度とした。
 窒素富化層の底部までの距離の測定:
 上記第1~第3測定点での断面において、500℃×1hの焼き戻し処理後の円錐ころ軸受3010において、深さ方向に0.5mm間隔で並ぶ複数の測定点において硬度測定を実施した。そして、ビッカース硬さがHV450以上の領域を窒素富化層とし、当該硬度がHV450となった位置の深さを窒素富化層の底部とした。
 窒素富化層における粒度番号の測定:
 旧オーステナイト結晶粒径の測定方法は、JIS規格G0551:2013に規定された方法を用いた。測定を行う断面は、窒素富化層の底部までの距離の測定方法において測定を行った断面とした。
 <結果>
 表面から0.05mmの深さ位置での窒素濃度測定:
 第1測定点については、窒素濃度が0.2質量%となり、第2測定点については窒素濃度が0.25質量%となり、第3測定点については窒素濃度が0.3質量%となった。いずれの測定点でも、測定結果は本願発明の範囲に入るものとなった。
 窒素富化層の底部までの距離の測定:
 第1測定点については、窒素富化層の底部までの距離が0.3mmとなり、第2測定点については当該距離が0.35mmとなり、第3測定点については当該距離が0.3mmとなった。いずれの測定点でも、測定結果は本願発明の範囲に入るものとなった。
 窒素富化層における粒度番号の測定:
 第1測定点から第3測定点のいずれにおいても、窒素富化層での旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10番以上となっていた。
 (実施の形態4)
 実施の形態4に係る円錐ころ軸受は、基本的に実施の形態3に係る円錐ころ軸受3010と同様の構成を備えるが、ころ転動面のクラウニング形成部分において内輪軌道面3013Aに非接触である非接触部クラウニング部分3028の母線の曲率R8が、内輪軌道面3013Aに接触する接触部クラウニング部分3027の母線の曲率R7よりも小さく設定している点で異なる。
 実施の形態4に係る円錐ころ軸受は、図36および図50に示すように、内輪3013と、外輪3011と、これら内外輪間に介在する複数個のころ3012とを備えている。内輪3013の外周には内輪軌道面3013Aが形成され、この内輪軌道面3013Aの大径側および小径側に大つば部3041および小つば部3042をそれぞれ有する。内輪軌道面3013Aと大つば部3041とが交わる隅部には、研削逃げ部3043が形成され、内輪軌道面3013Aと小つば部3042との隅部には、研削逃げ部3044が形成されている。上記内輪軌道面3013Aは、内輪軸方向に延びる母線が直線となっている。外輪3011の内周には、内輪軌道面3013Aに対向する外輪軌道面3011Aが形成され、鍔無しとされ、外輪軌道面3011Aは外輪軸方向に延びる母線が直線となっている。
 図50、図51に示すように、ころ3012の外周のころ転動面にはクラウニングを形成し、ころ3012の両端には面取り部3021,3025が施されている。ころ転動面のクラウニング形成部分を、接触部クラウニング部分3027と、非接触部クラウニング部分3028とに形成している。これらのうち接触部クラウニング部分3027は、内輪軌道面3013Aの軸方向範囲にあって内輪軌道面3013Aに接する。非接触部クラウニング部分3028は、内輪軌道面3013Aの軸方向範囲から外れて内輪軌道面3013Aに非接触となる。
 これら接触部クラウニング部分3027と非接触部クラウニング部分3028は、ころ軸方向に延びる母線が、互いに異なる関数で表されかつ互いに接続点P1で滑らかに連続する線である。上記接続点P1の近傍において、非接触部クラウニング部分3028の母線の曲率R8を、接触部クラウニング部分3027の母線の曲率R7よりも小さく設定している。
 ところで、円錐ころ軸受においては、内輪3013側の接触部と外輪3011側の接触部とでは、内輪3013側の方が周方向の等価半径が小さいから面圧が高くなる。したがって、クラウニングの設計においては、内輪3013側の接触について検討すれば良い。
 円錐ころ軸受、呼び番号30316に基本動定格荷重の35%のラジアル荷重が作用し、ミスアライメントが1/600である場合について検討する。このとき、ミスアライメントは、ころ3012の小径側でなく大径側で面圧が高くなる方向に傾くとする。上記基本動定格荷重とは、内輪3013を回転させ外輪3011を静止させた条件で、一群の同じ軸受を個々に運転したとき、低格寿命が100万回転になるような、方向と大きさが変動しない荷重をいう。上記ミスアライメントは、外輪3011を嵌合した図示外のハウジングと、内輪3013を嵌合した軸との心ずれであり、傾き量として上記のような分数にて表記する。
 上記接触部クラウニング部分3027の母線は、上記式(1)で表される対数クラウニングの対数曲線により形成されている。
 クラウニングの加工精度を確保するためには、ころ3012の外周に、ころ全長L1の1/2以上のストレート部分が存在することが望ましい。そこで、ころ全長L1の1/2をストレート部分とし、ころ軸方向中央を基準として、小径側の部分と大径側の部分とで対称のクラウニングであるとすれば、対数クラウニングの式(1)中の設計パラメータのうち、Kは固定され、Kとzが設計の対象となる。
 ところで、後述の数理的最適化手法を用いてクラウニングを最適化すると、本条件では、図52の「対数」のようなクラウニングとなる。このとき、ころ3012のクラウニングの最大ドロップ量は69μmである。ところが、図52中のGの領域は、図50の内輪3013の研削逃げ部3043,3044と相対するEの領域であり内輪3013とは接触しない。このため、ころ3012の上記Gの領域は、対数クラウニングである必要はなく、直線もしくは円弧あるいはその他の関数としても差し支えない。ころ3012の上記Gの領域が直線、円弧、その他の関数であっても、ころ全体が対数クラウニングの場合と同一の面圧分布となり、機能上何ら遜色はない。
 対数クラウニングの数理的最適化手法について説明する。
 対数クラウニングを表す関数式である式(1)中のK、zを適切に選択することによって,最適な対数クラウニングを設計することができる。
 クラウニングは一般的に接触部の面圧もしくは応力の最大値を低下させるように設計する。ここでは,転動疲労寿命はMisesの降伏条件にしたがって発生すると考え,Misesの相当応力の最大値を最小にするようにK、zを選択する。
 K、zは適当な数理的最適化手法を用いて選択することが可能である。数理的最適化手法のアルゴリズムには種々のものが提案されているが、その一つである直接探索法は、関数の微係数を使用せずに最適化を実行することが可能であり、目的関数と変数が数式によって直接的に表現できない場合に有用である。ここでは,直接探索法の一つであるRosenbrock法を用いてK、zの最適値を求める。
 円錐ころ軸受、呼び番号30316に基本動定格荷重の35%のラジアル荷重が作用し、ミスアライメントが1/600である場合では、Misesの相当応力の最大値sMises_maxと対数クラウニングパラメータK、zは図53のような関係にある。K、zに適当な初期値を与え,Rosenbrok法の規則にしたがってK、zを修正していくと,図53中の最適値の組合せに到達し,sMises_maxは最小となる。
 ころ3012と内輪3013との接触を考える限りにおいては、図52におけるGの領域のクラウニングは、どのような形状でも良いが、外輪3011との接触や加工時の砥石の成形性を考慮すれば、対数クラウニング部との接続点P1において、対数クラウニング部の勾配より小さな勾配となることは望ましくない。Gの領域のクラウニングについて、対数クラウニング部の勾配より大きな勾配を与えることは、ドロップ量が大きくなるため、これも望ましくない。すなわち、Gの領域のクラウニングと対数クラウニングは、その接続点P1で勾配が一致して滑らかに繋がるように設計されることが望ましい。図52において、ころ3012のGの領域のクラウニングを、直線とした場合を点線にて例示し、円弧とした場合を太実線にて例示する。Gの領域のクラウニングを直線とした場合、ころ3012のクラウニングのドロップ量Dpは例えば36μmとなる。Gの領域のクラウニングを円弧とした場合、ころ3012のクラウニングのドロップ量Dpは例えば40μmとなる。
 以上説明した円錐ころ軸受によると、ころ3012の外周のころ転動面にクラウニングを形成したため、内輪軌道面3013Aのみにクラウニングを形成する場合よりも、ころ転動面に砥石を必要十分に作用させ得る。よって転動面に対する加工不良を未然に防止できる。ころ転動面に形成したクラウニングにより、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受の長寿命化を図ることができる。さらに、接触部クラウニング部分3027と、非接触部クラウニング部分3028との接続点P1の近傍において、非接触部クラウニング部分3028の母線の曲率R8が、接触部クラウニング部分3027の母線の曲率R7よりも小さいため、ころ3012の両端部のドロップ量Dpの低減を図ることができる。したがって、例えば従来の単一円弧クラウニングのものより研削量を抑え、ころ3012の加工効率の向上を図り、製造コストの低減を図ることができる。
 非接触部クラウニング部分3028の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が円弧であっても良い。この場合、ころ転動面全体の母線を例えば対数曲線で表すものより、ドロップ量Dpの低減を図ることができる。したがって、研削量の低減を図れる。図54に示すように、上記非接触部クラウニング部分3028の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が直線であっても良い(図54の例では大径側の部分のみ直線)。この場合、非接触部クラウニング部分3028の母線を円弧とする場合よりもさらにドロップ量Dpの低減を図ることができる。
 接触部クラウニング部分3027の母線の一部または全部が対数クラウニングで表されても良い。この対数クラウニングで表される接触部クラウニング部分3027により、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受の長寿命化を図ることができる。図55に示すように、接触部クラウニング部分3027の母線が、ころ軸方向に沿って平坦に形成されたストレート部分3027Aと、対数クラウニングの対数曲線で形成された部分3027Bとによって表されても良い。
 この発明の他の実施形態として、円錐ころ軸受において、クラウニングを、ころ3012に設けると共に内輪3013にも設けても良い。この場合、ころ3012のドロップ量と内輪3013のドロップ量との和が、上記の最適化されたドロップ量と等しくなるようにする。これらクラウニングにより、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受の長寿命化を図ることができる。さらに、従来の単一円弧クラウニングのものより研削量を抑え、ころ3012の加工効率の向上を図り、製造コストの低減を図ることができる。
 <作用効果>
 この発明に従った円錐ころ軸受3010は、外輪3011、内輪3013、およびころ3012を含む円錐ころ軸受3010であって、少なくともころ3012の外周のころ転動面3012Aにクラウニングを形成し、ころ転動面3012Aのクラウニング形成部分を、内輪軌道面3013Aの軸方向範囲にあって内輪軌道面3013Aに接する接触部クラウニング部分3027と、内輪軌道面3013Aの軸方向範囲から外れて内輪軌道面3013Aに非接触となる非接触部クラウニング部分3028とに形成し、これら接触部クラウニング部分3027と非接触部クラウニング部分3028は、ころ軸方向に延びる母線が、互いに異なる関数で表されかつ互いに接続点P1で滑らかに連続する線であり、上記接続点P1の近傍において、非接触部クラウニング部分3028の母線の曲率R8が、接触部クラウニング部分3027の母線の曲率R7よりも小さいことを特徴とする。
 上記「滑らかに連続する」とは、角を生じずに連続することであり、理想的には、接触部クラウニング部分3027の母線と、非接触部クラウニング部分3028の母線とが、互いの連続点において、共通の接線を持つように続くことで、すなわち上記母線が上記連続点で連続的微分可能な関数であることである。
 この構成によると、ころ3012の外周のころ転動面3012Aにクラウニングを形成したため、内輪軌道面3013Aのみにクラウニングを形成する場合よりも、ころ3012の転動面3012Aに砥石を必要十分に作用させ得る。よって転動面3012Aに対する加工不良を未然に防止できる。転動面3012Aに形成したクラウニングにより、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受3010の長寿命化を図ることができる。さらに、接触部クラウニング部分3027と、非接触部クラウニング部分3028との接続点P1の近傍において、非接触部クラウニング部分3028の母線の曲率R8が、接触部クラウニング部分3027の母線の曲率R7よりも小さいため、ころ3012の両端部のドロップ量の低減を図ることができる。したがって、例えば従来の単一円弧クラウニングのものより研削量を抑え、ころ3012の加工効率の向上を図り、製造コストの低減を図ることができる。
 上記非接触部クラウニング部分3028の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が円弧であっても良い。この場合、ころ転動面3012A全体の母線を例えば対数曲線で表すものより、ドロップ量の低減を図ることができる。したがって、研削量の低減を図れる。
 上記非接触部クラウニング部分3028の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が直線であっても良い。この場合、非接触部クラウニング部分3028の母線を円弧とする場合よりもさらにドロップ量の低減を図ることができる。
 上記接触部クラウニング部分3027の母線の一部または全部が対数クラウニングで表されても良い。この対数クラウニングで表される接触部クラウニング部分3027により、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受3010の長寿命化を図ることができる。
 上記接触部クラウニング部分3027の母線が、ころ軸方向に沿って平坦に形成されたストレート部分と、対数クラウニングの対数曲線で形成された部分とによって表されても良い。
 上記非接触部クラウニング部分3028の母線のうち、対数クラウニングの対数曲線で形成された部分との接続部を、同対数曲線の勾配と一致させても良い。この場合、接触部クラウニング部分3027の母線と非接触部クラウニング部分3028の母線とを、接続点P1でより滑らかに連続させ得る。
 上記接触部クラウニング部分3027の母線を、上記式(1)で表される対数クラウニングの対数曲線により形成しても良い。
 上記式(1)のうち、少なくともK、zについて数理的最適化手法を利用して最適設計しても良い。
 内輪軌道面3013Aにクラウニングが施されており、この内輪軌道面3013Aのクラウニングのドロップ量と、ころ3012の外周のクラウニングのドロップ量との和が所定の値となるものであっても良い。
 (実施の形態5)
 実施の形態5に係る円錐ころ軸受は、実施の形態3に係る円錐ころ軸受3010と基本的に同様の構成を備えるが、図41に示される柱面3014dの窓角θが46度以上65度以下であることが特定されている点で、異なる。柱面3014dは、柱部3108において、上記切欠きが形成されていない部分のポケット3109に面している面である。
 上述した円錐ころ軸受の特徴的な構成を要約すれば、円錐ころ軸受3010は、図41に示すように保持器3014をさらに備える。保持器3014は、周方向に所定の間隔で配置されている複数のポケットを含み、複数の円錐ころ3012の各々を複数のポケットの各々に収容保持している。ポケットの窓角θは46度以上65度以下である。
 窓角θの下限である下限窓角θminを46度以上としたのは、ころ3012と保持器3014との良好な接触状態を確保するためであり、窓角θが46度未満ではころ3012と保持器3014との接触状態が悪くなる。すなわち、窓角θを46度以上とすると、保持器3014の強度を確保した上でころ係数γ>0.90として、かつ、良好な接触状態を確保できるのである。また、窓角θの上限である上限窓角θmaxを65度以下としたのは、これ以上窓角θが大きくなると半径方向への押し付け力が大きくなり、自己潤滑性の樹脂材により保持器3014を形成しても円滑なころ3012の回転が得られなくなる危険性が生じるからである。なお、窓角θは、保持器3014が外輪3011から離間している典型的な保持器付き円錐ころ軸受では、大きくて約50度である。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000009
 表1に軸受の寿命試験の結果を示す。表1中、「軸受」欄の「試料No.7」が保持器と外輪とが離れた典型的な従来の円錐ころ軸受、「試料No.5」が本発明の円錐ころ軸受のうち従来品に対してころ係数γのみを0.90超えとした円錐ころ軸受、「試料No.6」がころ係数γを0.90超えとし、かつ、窓角θを46度以上65度以下の範囲にした本発明の円錐ころ軸受である。試験は、過酷潤滑、過大負荷条件下で行なった。表1より明らかなように、「試料No.5」は「試料No.7」の2倍以上の長寿命となる。さらに、「試料No.6」の軸受はころ係数が「試料No.5」と同じ0.96であるが、寿命時間は「試料No.5」の約5倍以上にもなる。なお、「試料No.7」、「試料No.5」および「試料No.6」の寸法はφ45×φ81×16(単位mm)、ころ本数は24本(「試料No.7」)、27本(「試料No.5」、「試料No.6」)、油膜パラメータΛ=0.2である。
 <円錐ころ軸受の適用例>
 上記実施の形態3~5に係る円錐ころ軸受の用途の一例について説明する。実施の形態3~5に係る円錐ころ軸受3010は、デファレンシャル又はトランスミッション等の自動車の動力伝達装置に組み込まれると好適である。すなわち、上記実施の形態3~5に係る円錐ころ軸受3010は、自動車用円錐ころ軸受として用いると好適である。したがって、実施の形態1に係る円錐ころ軸受と同様に、図13に示した自動車のデファレンシャルに上記実施の形態3~5に係る円錐ころ軸受3010を適用することができる。すなわち、図13のデファレンシャルにおける円錐ころ軸受1010a、1010bに代えて、上記実施の形態3~5に係る円錐ころ軸受3010を適用してもよい。
 また、上記実施の形態3~5に係る円錐ころ軸受は、図14に示したマニュアルトランスミッションに適用することができる。すなわち、図14のマニュアルトランスミッションにおける円錐ころ軸受1010に代えて、上記実施の形態3~5に係る円錐ころ軸受3010を適用してもよい。トルク損失が低減され、かつ耐焼付き性および寿命が向上した円錐ころ軸受3010は、転動体と軌道部材との間に高い面圧が付与されるマニュアルトランスミッション100内での使用に好適である。
 すでに述べたように、自動車の動力伝達装置であるトランスミッション又はデファレンシャル等においては、円錐ころ軸受において、十分な油膜が形成され難いことがある。また、トランスミッション又はデファレンシャルが低温環境下(例えば、-40℃~-30℃)で使用されると、潤滑油の粘度が上がるため、特に始動時には、当該潤滑油が円錐ころ軸受に十分に供給されないことがある。このため、トランスミッション又はデファレンシャル等の自動車の動力伝達装置に使用される円錐ころ軸受には、耐焼き付き性および寿命の向上が要求されている。よって、耐焼き付き性および寿命が向上した上記実施の形態3~5に係る円錐ころ軸受3010をトランスミッション又はデファレンシャルに組み込むことで上記要求を満たすことができる。
 (実施の形態6)
 以下、本実施の形態の円錐ころ軸受について、図56および後述の図64を中心に、段階的に説明する。まず図56~図59を用いて、本実施の形態の円錐ころ軸受のうち、後述の図64にて初出する特徴を除く部分の特徴について説明する。
 図56に示す円錐ころ軸受4010は、外輪4011と、内輪4013と、複数の円錐ころとしてのころ4012と、保持器4014とを主に備えている。外輪4011は、環形状を有し、内周面に外輪軌道面としての軌道面4011Aを有している。内輪4013は、環形状を有し、外周面に内輪軌道面としての軌道面4013Aを有している。内輪4013は、軌道面4013Aが軌道面4011Aに対向するように外輪4011の内径側に配置されている。なお以下の説明において、円錐ころ軸受4010の中心軸に沿った方向を「軸方向」、中心軸に直交する方向を「径方向」、中心軸を中心とする円弧に沿った方向を「周方向」と呼ぶ。
 ころ4012は、外輪4011の内周面上に配置されている。ころ4012はころ転動面としての転動面4012Aを有し、当該転動面4012Aにおいて軌道面4013Aおよび軌道面4011Aに接触する。複数のころ4012は合成樹脂からなる保持器4014により周方向に所定のピッチで配置されている。これにより、ころ4012は、外輪4011および内輪4013の円環状の軌道上に転動自在に保持されている。また、円錐ころ軸受4010は、軌道面4011Aを含む円錐、軌道面4013Aを含む円錐、およびころ4012が転動した場合の回転軸の軌跡を含む円錐のそれぞれの頂点が軸受の中心線上の1点で交わるように構成されている。このような構成により、円錐ころ軸受4010の外輪4011および内輪4013は、互いに相対的に回転可能となっている。なお、保持器4014は樹脂製に限らず、金属製であってもよい。
 外輪4011、内輪4013、ころ4012を構成する材料は鋼であってもよい。当該鋼は、窒素富化層4011B、4012B、4013B以外の部分で、少なくとも炭素を0.6質量%以上1.2質量%以下、珪素を0.15質量%以上1.1質量%以下、マンガンを0.3質量%以上1.5質量%以下含む。上記鋼は、さらに2.0質量%以下のクロムを含んでいてもよい。
 上記の構成において、炭素が1.2質量%を超えると、球状化焼鈍を行なっても素材硬度が高いので冷間加工性を阻害し、冷間加工を行なう場合に十分な冷間加工量と、加工精度を得ることができない。また、浸炭窒化処理時に過浸炭組織になりやすく、割れ強度が低下する危険性がある。他方、炭素含有量が0.6質量%未満の場合には、所要の表面硬さと残留オーステナイト量を確保するのに長時間を必要としたり、再加熱後の焼入れで必要な内部硬さが得られにくくなる。
 Si含有率を0.15~1.1質量%とするのは、Siが耐焼戻し軟化抵抗を高めて耐熱性を確保し、異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性を改善することができるからである。Si含有率が0.15質量%未満では異物混入潤滑下での転がり疲労寿命特性が改善されず、一方、Si含有率が1.1質量%を超えると焼きならし後の硬度を高くしすぎて冷間加工性を阻害する。
 Mnは浸炭窒化層と芯部の焼入れ硬化能を確保するのに有効である。Mn含有率が0.3質量%未満では、十分な焼入れ硬化能を得ることができず、芯部において十分な強度を確保することができない。一方、Mn含有率が1.5質量%を超えると、硬化能が過大になりすぎ、焼きならし後の硬度が高くなり冷間加工性が阻害される。また、オーステナイトを安定化しすぎて芯部の残留オーステナイト量を過大にして経年寸法変化を助長する。さらに、鋼が2.0質量%以下のクロムを含むことにより、表層部においてクロムの炭化物や窒化物を析出して表層部の硬度を向上しやすくなる。Cr含有率を2.0質量%以下としたのは、2.0質量%を超えると冷間加工性が著しく低下したり、2.0質量%を超えて含有しても上記表層部の硬度向上の効果が小さいからである。
 なお、本開示の鋼は、言うまでもなくFeを主成分とし、上記の元素の他に不可避的不純物を含んでいてもよい。不可避的不純物としては、リン(P)、硫黄(S)、窒素(N)、酸素(O)、アルミ(Al)などがある。これらの不可避的不純物元素の量は、それぞれ0.1質量%以下である。
 また異なる観点から言えば、外輪4011および内輪4013は、軸受用材料の一例である鋼材、たとえばJIS規格SUJ2からなるものであることが好ましい。ころ4012は、軸受用材料の一例である鋼材、たとえばJIS規格SUJ2により構成されてもよい。また、ころ4012は、他の材料、たとえばサイアロン焼結体により構成されていてもよい。
 図57に示すように、外輪4011の軌道面4011Aおよび内輪4013の軌道面4013Aには窒素富化層4011B、4013Bが形成されている。内輪4013では、窒素富化層4013Bが軌道面4013Aから、後述する小鍔面および大鍔面にまで延在している。窒素富化層4011B、4013Bは、それぞれ外輪4011の未窒化部4011Cまたは内輪4013の未窒化部4013Cより窒素濃度が高くなっている領域である。また、ころ4012の転動面4012Aを含む表面には窒素富化層4012Bが形成されている。ころ4012の窒素富化層4012Bは、ころ4012の未窒化部4012Cより窒素濃度が高くなっている領域である。窒素富化層4011B、4012B、4013Bは、たとえば浸炭窒化処理、窒化処理など従来周知の任意の方法により形成できる。
 なお、ころ4012のみに窒素富化層4012Bを形成してもよいし、外輪4011のみに窒素富化層4011Bを形成してもよいし、内輪4013のみに窒素富化層4013Bを形成してもよい。あるいは、外輪4011、内輪4013、ころ4012のうちの2つに窒素富化層を形成してもよい。
 図58に示すように、ころ4012の転動面4012A(図57参照)は、両端部に位置し、クラウニングが形成されたクラウニング部4022、4024と、このクラウニング部4022、4024の間を繋ぐ中央部4023とを含む。中央部4023にはクラウニングは形成されておらず、ころ4012の回転軸である中心線4026に沿った方向での断面における中央部4023の形状は直線状である。ころ4012の左側の端面である小端面4017とクラウニング部4022との間には面取り部4021が形成されている。右側の端面である大端面4016とクラウニング部4024との間にも面取り部4025が形成されている。
 ここで、ころ4012の製造方法において、窒素富化層4012Bを形成する処理(浸炭窒化処理)を実施するときには、ころ4012にはクラウニングが形成されておらず、ころ4012の外形は図59の点線で示される加工前表面4012Eとなっている。この状態で窒素富化層が形成された後、仕上げ加工として図59の矢印に示すようにころ4012の側面が加工され、図58および図59に示すように、クラウニングが形成されたクラウニング部4022、4024が得られる。
 ころ4012における窒素富化層4012Bの深さ、すなわち窒素富化層4012Bの最表面から窒素富化層4012Bの底部までの距離は、0.2mm以上となっている。具体的には、面取り部4021とクラウニング部4022との境界点である第1測定点4031、小端面4017から距離Wが1.5mmの位置である第2測定点4032、ころ4012の転動面4012Aの中央である第3測定点4033において、それぞれの位置での窒素富化層4012Bの深さT1、T2、T3が0.2mm以上となっている。ここで、上記窒素富化層4012Bの深さとは、ころ4012の中心線4026に直交するとともに外周側に向かう径方向における窒素富化層4012Bの厚さを意味する。なお、窒素富化層4012Bの深さT1、T2、T3の値は、面取り部4021、4025の形状やサイズ、さらに窒素富化層4012Bを形成する処理および上記仕上げ加工の条件などのプロセス条件に応じて適宜変更可能である。たとえば、図59に示した構成例では、上述のように窒素富化層4012Bが形成された後にクラウニング4022Aが形成される。このため図59に示すように窒素富化層4012Bの深さT2は他の深さT1、T3より小さくなっている。しかし上述したプロセス条件を変更することで、上記窒素富化層4012Bの深さT1、T2、T3の値の大小関係は適宜変更することができる。
 また、外輪4011および内輪4013における窒素富化層4011B、4013Bについても、その最表面から窒素富化層4011B、4013Bの底部までの距離である窒素富化層4011B、4013Bの厚さは0.2mm以上である。ここで、窒素富化層4011B、4013Bの厚さは、窒素富化層4011B、4013Bの最表面に対して垂直な方向における窒素富化層4011B,4013Bまでの距離を意味する。
 ころ4012のクラウニング部4022、4024に形成されたクラウニングの形状は、以下のように規定される。すなわち、クラウニングのドロップ量の和は、ころ4012の転動面4012Aの母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy-z座標系において、K,K,zを設計パラメータ、Qを荷重、Lをころ4012における転動面4012Aの有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aをころ4012の転動面の母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2KQ/πLE’としたときに、下記の式(1)で表される。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000010
 図60では、ころ4012の母線をy軸とし、ころ4012の母線上であって内輪4013又は外輪4011ところ4012の有効接触部の中央部に原点Oをとると共に、母線直交方向(半径方向)にz軸をとったy-z座標系に、上記式(1)で表されるクラウニングの一例を示している。図60において縦軸はz軸、横軸はy軸である。有効接触部は、ころ4012にクラウニングを形成していない場合の内輪4013又は外輪4011ところ4012との接触部位である。また、円錐ころ軸受4010を構成する複数のころ4012の各クラウニングは、通常、有効接触部の中央部を通るz軸に関して線対称に形成されるので、図60では、一方のクラウニング4022Aのみを示している。
 荷重Q、有効接触部の母線方向長さL、および、等価弾性係数E’は、設計条件として与えられ、原点から有効接触部の端部までの長さaは、原点の位置によって定められる値である。
 上記式(1)において、z(y)は、ころ4012の母線方向位置yにおけるクラウニング4022Aのドロップ量を示しており、クラウニング4022Aの始点O1の座標は(a-Ka,0)であるから、式(1)におけるyの範囲は、y>(a-Ka)である。また、図60では、原点Oを有効接触部の中央部にとっているので、a=L/2となる。さらに、原点Oからクラウニング4022Aの始点O1までの領域は、クラウニングが形成されていない中央部(ストレート部分)であるから、0≦y≦(a-Ka)のとき、z(y)=0となる。
 設計パラメータKは荷重Qの倍率、幾何学的にはクラウニング4022Aの曲率の程度を意味している。設計パラメータKは、原点Oから有効接触部の端部までの母線方向長さaに対するクラウニング4022Aの母線方向長さymの割合を意味している(K=ym/a)。設計パラメータzは、有効接触部の端部におけるドロップ量、即ちクラウニング4022Aの最大ドロップ量を意味している。
 ここで、後述する図62に示したころのクラウニングは、設計パラメータK=1であってストレート部の無いフルクラウニングであり、エッジロードが発生しない十分なドロップ量が確保されている。しかしながら、ドロップ量が過大であると、加工時に、材料取りされた素材から生じる取代が大きくなり、コスト増大を招くこととなる。そこで、以下のように、式(1)の設計パラメータK,K,zの最適化を行う。
 設計パラメータK,K,zの最適化手法としては種々のものを採用することができ、例えば、Rosenbrock法等の直接探索法を採用することができる。ここで、ころの転動面における表面起点の損傷は面圧に依存するので、最適化の目的関数を面圧とすることにより、希薄潤滑下における接触面の油膜切れを防止するクラウニングを得ることができる。
 また、ころに対数クラウニングを施す場合、ころの加工精度を確保するためには転動面の中央部分にストレート部分(中央部4023)を設けるのが好ましい。この場合は、Kを一定の値とし、K,zについて最適化すればよい。
 図61は、窒素富化層4012Bにおけるミクロ組織を示している。本実施の形態における窒素富化層4012Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が4010以上となっており、従来の一般的な焼入れ加工品と比べても十分に微細化されている。
 ここで窒素濃度の測定方法について説明する。外輪4011、ころ4012、内輪4013などの軸受部品について、それぞれ窒素富化層4011B,4012B、4013Bが形成された領域の表面に垂直な断面について、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)により深さ方向で線分析を行う。測定は、各軸受部品を測定位置から表面に垂直な方向に切断することで切断面を露出させ、当該切断面において測定を行う。たとえば、ころ4012については、図58に示した第1測定点4031~第3測定点4033のそれぞれの位置から、中心線4026と垂直な方向にころ4012を切断することで切断面を露出させる。当該切断面において、ころ4012の表面から内部に向かって0.05mmの位置となる複数の測定位置にて、上記EPMAにより窒素濃度について分析を行う。たとえば、上記測定位置を5か所決定し、当該5か所での測定データの平均値をころ4012の窒素濃度とする。
 また、外輪4011および内輪4013については、軌道面4011A、4013Aにおいて軸受の中心軸方向における中央部を測定位置として、中心軸および当該中心軸に直交する径方向に沿った断面を露出させた後、当該断面について上記と同様の手法により窒素濃度の測定を行う。
 最表面から窒素富化層の底部までの距離の測定方法:
 外輪4011および内輪4013については、上記窒素濃度の測定方法において測定対象とした断面につき、表面から深さ方向において硬度分布を測定する。測定装置としてはビッカース硬さ測定機を用いることができる。500℃×1hの焼き戻し後の円錐ころ軸受4010において、深さ方向に並ぶ複数の測定点、たとえば0.5mm間隔に配置された測定点において硬度測定を実施する。そして、ビッカース硬さがHV450以上の領域を窒素富化層とする。
 また、ころ4012については、図58に示した第1測定点4031での断面において、上記のように深さ方向での硬度分布を測定し、窒素富化層の領域を決定する。
 旧オーステナイト結晶粒径の測定方法は、JIS規格G0551:2013に規定された方法を用いる。測定を行う断面は、窒素富化層の底部までの距離の測定方法において測定を行った断面とする。これにより旧オーステナイト結晶の粒度番号が測定できる。
 ころ4012のクラウニング形状について、任意の方法により測定できる。たとえば、ころ4012の形状を表面性状測定機により測定することにより、クラウニング形状を測定してもよい。
 以上のようにすれば、外輪4011、内輪4013、円錐ころとしてのころ4012の少なくともいずれか1つにおいて旧オーステナイト結晶粒径が十分微細化された窒素富化層4011B、4012B、4013Bが形成されているので、高い転動疲労寿命を有した上で、シャルピー衝撃値、破壊靭性値、圧壊強度などを向上させることができる。
 また、ころ4012の転動面4012Aに上記式(1)によりドロップ量の和が表されるような、輪郭線が対数関数で表されるクラウニング(いわゆる対数クラウニング)を設けているので、従来の部分円弧で表されるクラウニングを形成した場合より局所的な面圧の上昇を抑制でき、ころ4012の転動面4012Aにおける摩耗の発生を抑制できる。
 ここで、上述した対数クラウニングの効果についてより詳細に説明する。図62は、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。図63は、部分円弧のクラウニングとストレート部との間を補助円弧としたころの輪郭線と、ころの転動面における接触面圧を重ねて示した図である。図62および図63の左側の縦軸は、クラウニングのドロップ量(単位:mm)を示している。図62および図63の横軸は、ころにおける軸方向での位置(単位:mm)を示している。図62および図63の右側の縦軸は、接触面圧(単位:GPa)を示している。
 円錐ころの転動面の輪郭線を部分円弧のクラウニングとストレート部とを有する形状に形成した場合、図63に示すように、ストレート部、補助円弧及びクラウニング相互間の境界における勾配が連続であっても、曲率が不連続であると接触面圧が局所的に増加する。そのため、油膜切れや表面損傷を招く恐れがある。十分な膜厚の潤滑膜が形成されていないと、金属接触による摩耗が生じやすくなる。接触面に部分的に摩耗が生じると、その近辺で、より金属接触が生じやすい状態となるため、接触面の摩耗が促進され、円錐ころが損傷に至る不都合が生じる。
 そこで、接触面としての円錐ころの転動面に、輪郭線が対数関数で表されるクラウニングを設けた場合、例えば図62に示すように、図63の部分円弧で表されるクラウニングを設けた場合と比べて局所的な面圧が低くなり、接触面に摩耗を生じ難くすることができる。したがって、円錐ころの転動面上に存在する潤滑剤の微量化や低粘度化により潤滑膜の膜厚が薄くなる場合においても、接触面の摩耗を防止し、円錐ころの損傷を防止することができる。なお、図62及び図63には、ころの母線方向を横軸とすると共に母線直交方向を縦軸とする直交座標系に、内輪又は外輪ところの有効接触部の中央部に横軸の原点Oを設定してころの輪郭線を示すと共に、面圧を縦軸として接触面圧を重ねて示している。このように、上述のような構成を採用することで長寿命かつ高い耐久性を示す円錐ころ軸受4010を実現できる。
 上記円錐ころ軸受4010において、最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層4011B、4012B、4013Bにおける窒素濃度が0.1質量%以上である。この場合、窒素富化層4011B、4012B,4013Bの最表面における窒素濃度を十分な値とできることから、窒素富化層4011B、4012B、4013Bの最表面の硬度を十分高くすることができる。また、上述した旧オーステナイト結晶粒径の粒度、窒素富化層の底部までの距離、窒素濃度といった条件は、図58の第1測定点4031において少なくとも満足されていることが好ましい。
 上記円錐ころ軸受4010において、窒素富化層4011B、4012B、4013Bが形成された外輪4011、内輪4013、およびころ4012のうちの少なくともいずれか1つは鋼により構成される。当該鋼は、窒素富化層4011B、4012B、4013B以外の部分、つまり未窒化部4011C、4012C、4013Cにおいて、少なくとも炭素(C)を0.6質量%以上1.2質量%以下、珪素(Si)を0.15質量%以上1.1質量%以下、マンガン(Mn)を0.3質量%以上1.5質量%以下含む。上記円錐ころ軸受4010において、鋼は、さらに2.0質量%以下のクロムを含んでいてもよい。この場合、本実施の形態において規定する構成の窒素富化層4011B、4012B、4013Bを後述する熱処理などを用いて容易に形成できる。
 上記円錐ころ軸受4010において、上記式(1)における設計パラメータK,K,zのうちの少なくとも1つが、ころ4012と外輪4011またはころ4012と内輪4013との接触面圧を目的関数として最適化されている。
 上記設計パラメータK,K,zは、接触面圧、応力及び寿命のうちのいずれかを目的関数として最適化して定められるところ、表面起点の損傷は接触面圧に依存する。ここで、上記実施の形態によれば、接触面圧を目的関数として最適化して設計パラメータK,K,zを設定するので、潤滑剤が希薄な条件においても接触面の摩耗を防止できるクラウニングが得られる。
 上記円錐ころ軸受4010において、外輪4011または内輪4013の少なくともいずれか1つは、窒素富化層4011B、4013Bを含む。この場合、外輪4011または内輪4013の少なくともいずれかにおいて、結晶組織が微細化された窒素富化層4011B、4013Bが形成されることで、長寿命かつ高耐久性を有する外輪4011または内輪4013を得ることができる。
 上記円錐ころ軸受4010において、ころ4012は窒素富化層4012Bを含む。この場合、ころ4012において、結晶組織が微細化された窒素富化層4012Bが形成されることで、長寿命かつ高耐久性を有するころ4012を得ることができる。
 図64は図56の基本的構成を前提として、より本実施の形態に近い特徴を有する態様として図示している。図64を参照して、本実施の形態の円錐ころ軸受4010は、内輪4013の軌道面4013Aの大径側に大鍔面4018、小径側に小鍔面4019が設けられている。ころ4012の大径側には大鍔面4018と接触する大端面4016が設けられ、ころ4012の小径側には小鍔面4019と接触する小端面4017が設けられている。
 大鍔面4018は、軌道面4013Aの大径側端部と研削ぬすみ部を介して形成されている。大鍔面4018は、円錐ころ軸受4010の使用時にころ4012の大端面4016と接触することで、当該ころ4012を案内する。小鍔面4019は、軌道面4013Aの小径側端部と研削ぬすみ部を介して形成されている。
 また図65に拡大して示すように、内輪4013の小鍔面4019は、ころ4012の小端面4017と平行な研削加工面に仕上げられ、図中に一点鎖線で示す初期組立状態で、ころ4012の小端面4017と面接触している。小端面4017は、ころ4012の小鍔面4019との間に隙間を有している。実線で示すころ4012が正規の位置に落ち着いた状態、すなわち、ころ4012の大端面4016が内輪4013の大鍔面4018と接触した状態にて形成される、内輪4013の小鍔面4019ところ4012の小端面4017との隙間δが、δ≦0.4mmの寸法規制範囲内に入れられている。これにより、馴らし運転でのころ4012が正規の位置に落ち着くまでに必要な回転回数を減らし、馴らし運転時間を短縮することができる。
 本実施の形態の円錐ころ軸受4010においては、大鍔面4018の算術平均粗さRaが0.1μm以上0.2μm以下であり、大鍔面4018の粗さ曲線のスキューネスRskが-1.0以上-0.3以下であり、大鍔面4018の粗さ曲線のクルトシスRkuは3.0以上5.0以下である。ここで、粗さ曲線のスキューネスRskは、日本工業規格(JIS)B0601:2013の4.2.3で規定される粗さ曲線のスキューネスRskのことであり、粗さ曲線のクルトシスRkuは、日本工業規格(JIS)B0601:2013の4.2.4で規定される粗さ曲線のクルトシスRkuのことである。
 円錐ころ軸受4010の外輪4011または内輪4013を低速度で回転させる条件、すなわち200r/min以下の回転数の範囲内で回転トルクを安定化させるため、大鍔面4018の算術平均粗さRaが0.1μm以上0.2μm以下とする。
 粗さ曲線のスキューネスRskは、以下の式(2)に示すように、断面曲線の二乗平均平方根粗さRqの三乗によって無次元化した基準長さにおけるz(x)の三乗平均である。粗さ曲線のスキューネスRskは、輪郭曲線の確率密度関数の非対称性の度合いを示す数値であり、突出した山または谷の影響を強く受けるパラメータである。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000011
 図66に、スキューネスRsk>0を満足する粗さ曲線と、スキューネスRsk<0を満足する粗さ曲線とを示している。
 これら両粗さ曲線の比較から明らかなように、スキューネスRsk>0の場合、図66の紙面上方へ急激に突出した山が多く、このような場合には大鍔面4018の耐焼付き性が超仕上げ水準の粗さよりも大きく劣ってしまう可能性がある。しかしスキューネスRsk<0の場合、図66の紙面上方へ急激に突出した山の尖りが比較的に少ない傾向の表面形状となるため、油膜が破れにくくなり、焼き付きの防止に有利である。スキューネスRskの負の値が大きくなるほど、谷の幅が図66の紙面左右方向に広がり、突出した山の尖りが比較的に少ない傾向の表面(円錐ころ軸受4010においては、ころ4012の大端面4016と接触する内輪4013の大鍔面4018)の幅が狭くなる。このため当該表面と谷との境界部分で応力集中が生じてしまうので、油膜形成が阻害される。内輪4013の大鍔面4018の粗さ曲線のスキューネスRskを-1.0以上-0.3以下とすることにより、当該大鍔面4018が、突出した山の尖りが比較的に少なく滑らかな平面を図66の幅方向に関して広く有する特性となり、油膜形成に有利に働く表面形状となる。
 図66の右方に示すように、Rskの確率密度関数は、Rsk<0においては図中点線で横方向に延びる平均線よりも上側に偏在する。このためRsk<0であり特にこれを-1.0以上-0.3以下とすることにより、大鍔面4018の表面は滑らかな山を広範囲に有する形状となる。
 さらに、粗さ曲線のクルトシスRkuは、以下の式(3)に示すように、断面曲線の二乗平均平方根粗さRqの四乗によって無次元化した基準長さにおけるz(x)の四乗平均である。粗さ曲線のクルトシスRkuは、輪郭曲線の確率密度関数のとがり(鋭さ)の度合いを示す数値であり、突出した山または谷の影響を強く受けるパラメータである。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000012
 図67に、クルトシスRku>3を満足する粗さ曲線と、クルトシスRku<3を満足する粗さ曲線とを示している。
 これら両粗さ曲線の比較から明らかなように、クルトシスRku<3の場合、曲線に急激に突出した山または谷の尖りが少なく、このような場合には回転トルクが安定しない可能性がある。しかしクルトシスRku>3の場合、図の上方および下方に山および谷が比較的急激に突出した尖りが多くなる傾向にある。これにより大鍔面4018は適度に金属と接触することができ、円錐ころ軸受4010の回転トルクを安定させることに有利となる。ただし、クルトシスRkuの正の値が過剰に大きくなれば、大鍔面4018の過度な金属接触が起こり、耐焼付き性が低下する。そこで内輪4013の大鍔面4018の粗さ曲線のクルトシスRkuを3.0以上5.0以下とすることにより、当該大鍔面4018は、低速回転時における回転トルクの安定化を図るための粗さの突起をもった表面性状となる。
 以上のように大鍔面4018の算術平均粗さRa、粗さ曲線のスキューネスRskおよび粗さ曲線のクルトシスRkuを調整することにより、円錐ころ軸受4010の回転トルクの安定化と耐焼付き性との両立を実現することができる。
 以上に述べた粗さ特性を有する内輪4013の大鍔面4018を加工するために研削仕上げ加工を用いれば、粗さの規定範囲が細かすぎ加工抵抗が大きくなりすぎるため、大鍔面4018などに研削焼けなどの不具合が生じる可能性があり、当該加工を行なうことは困難である。そこで上記の粗さ特性を有する内輪4013の大鍔面4018を加工する際には、たとえば0.5秒以上2秒以下の超短時間で超仕上げ加工を施すことが好ましい。
 一方、ころ4012の大端面4016の粗さは内輪4013の大鍔面4018の粗さよりも、円錐ころ軸受4010の機能に与える影響が少ない。このためころ4012の大端面4016の粗さの条件は大鍔面4018よりも緩やかである。具体的には、良好な潤滑油のくさび効果を得る観点から、ころ4012の大端面4016の算術平均粗さRaが0.1μm以下とすればよい。また、ころ4012の大端面4016と内輪4013の大鍔面4018とは、理想的には、球面と平面との接触関係である時、特に良好な耐焼付き性を実現することができる。そのため、大鍔面4018が凹凸を有する母線形状である場合、当該大鍔面4018の凹凸の高さの最大値は1μm以下であることが好ましい。
 以上をまとめると、たとえば図64に示す本実施の形態の円錐ころ軸受4010は、外輪4011と、内輪4013と、複数のころ4012とを備える。外輪4011は内周面において軌道面4011Aを有する。内輪4013は外周面において軌道面4013Aと軌道面4013Aよりも大径側に配置された大鍔面4018とを有し、外輪4011に対して径方向内側に配置される。ここで、大鍔面4018の算術平均粗さRaは、0.1μm以上0.2μm以下である。複数のころ4012は、軌道面4011Aと軌道面4013Aとの間に配列され、軌道面4011Aおよび軌道面4013Aと接触する転動面4012Aを有する。外輪4011、内輪4013および複数のころ4012のうちの少なくともいずれか1つは、軌道面4011A、軌道面4013Aまたは転動面4012Aの表面層に形成された窒素富化層4011B,4012B,4013Bを含む。表面層の最表面から窒素富化層4011B,4012B,4013Bの底部までの距離は0.2mm以上である。ころ4012の転動面4012Aにはクラウニング部4022,4024が形成される。クラウニング部4022,4024のドロップ量の和は、円錐ころの転動面の母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy-z座標系において、K,K,zを設計パラメータ、Qを荷重、Lを円錐ころにおける転動面の有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aを円錐ころの転動面の母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2KQ/πLE’としたときに、上記の式(1)で表される。ここまでの説明およびこれ以降の説明ともにすべて、本実施の形態の円錐ころ軸受4010は本段落の上に記載した特徴を有することを前提としている。
 また図68および図69に示すように、本実施の形態の円錐ころ軸受は、軌道面4013Aと大鍔4041とが交わる隅部には、第1研削逃げ部4043が形成され、軌道面4013Aと小鍔4042との隅部には、第2研削逃げ部4044が形成されている。上記軌道面4013Aは、内輪軸方向に延びる母線が直線となっている。外輪2の内周には、軌道面4013Aに対向する軌道面4011Aが形成され、鍔無しとされ、軌道面4011Aは外輪軸方向に延びる母線が直線となっている。
 図68、図69に示すように、ころ4012の外周の転動面4012Aにはクラウニング部4022としてのクラウニング4022A,4022Bと、クラウニング部4024としてのクラウニング4024A,4024Bとを形成し、ころ4012の両端には面取り部4021,4025が施されている。転動面4012Aのクラウニング部4022,4024を、クラウニングが形成されたクラウニング形成部分と考えることができる。ここではクラウニング形成部分は具体的には、接触部クラウニング部分4027と、非接触部クラウニング部分4028として形成している。これらのうち接触部クラウニング部分4027は、軌道面4013Aの軸方向範囲にあって軌道面4013Aに接する。非接触部クラウニング部分4028は、軌道面4013Aの軸方向範囲から外れて軌道面4013Aに非接触となる。
 これら接触部クラウニング部分4027と非接触部クラウニング部分4028とは、ころ軸方向に延びる母線が、互いに異なる関数で表されかつ互いに接続点P1で滑らかに連続する線である。上記接続点P1の近傍において、非接触部クラウニング部分4028の母線の曲率R8を、接触部クラウニング部分4027の母線の曲率R7よりも小さく設定している。上記「滑らかに連続する」とは、角を生じずに連続することであり、理想的には、接触部クラウニング部分4027の母線と、非接触部クラウニング部分4028の母線とが、互いの連続点において、共通の接線を持つように続くことで、すなわち上記母線が上記連続点で連続的微分可能な関数であることである。
 この構成によると、ころ4012の外周の転動面4012Aにクラウニング部を形成したため、軌道面4013Aのみにクラウニング部を形成する場合よりも、転動面4012Aに砥石を必要十分に作用させ得る。よって転動面4012Aに対する加工不良を未然に防止できる。転動面4012Aに形成したクラウニング部4022,4024により、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受4010の長寿命化を図ることができる。さらに、接触部クラウニング部分4027と、非接触部クラウニング部分4028との接続点P1の近傍において、非接触部クラウニング部分4028の母線の曲率R8が、接触部クラウニング部分4027の母線の曲率R7よりも小さいため、ころ4012の両端部のドロップ量の低減を図ることができる。したがって、例えば従来の単一円弧クラウニングのものより研削量を抑え、ころ4012の加工効率の向上を図り、製造コストの低減を図ることができる。
 上記接触部クラウニング部分4027の母線は、次式で表される対数クラウニングの対数曲線により形成されている。
Figure JPOXMLDOC01-appb-M000013
 この対数クラウニングで表される接触部クラウニング部分4027により、面圧や接触部の応力を低減し円錐ころ軸受4010の長寿命化を図ることができる。
 ところで、上記の式(1)のK、zについて数理的最適化手法を用いてクラウニングを最適化すると、本条件では、図70の「対数」のようなクラウニングとなる。このとき、ころ4012のクラウニングの最大ドロップ量は69μmである。ところが、図70中のGの領域は、図68の内輪4013の第1研削逃げ部4043および第2研削逃げ部4044と相対するクラウニング部4024Bであり内輪4013とは接触しない。このため、ころ4012の上記Gの領域は、対数クラウニングである必要はなく、直線もしくは円弧あるいはその他の関数としても差し支えない。ころ4012の上記Gの領域が直線、円弧、その他の関数であっても、ころ4012の全体が対数クラウニングの場合と同一の面圧分布となり、機能上何ら遜色はない。
 対数クラウニングの数理的最適化手法について説明する。
 対数クラウニングを表す関数式中のK,zを適切に選択することによって、最適な対数クラウニングを設計することができる。
 クラウニングは一般的に接触部の面圧もしくは応力の最大値を低下させるように設計する。ここでは,転動疲労寿命はMisesの降伏条件にしたがって発生すると考え、Misesの相当応力の最大値を最小にするようにK,zを選択する。
 K,zは適当な数理的最適化手法を用いて選択することが可能である。数理的最適化手法のアルゴリズムには種々のものが提案されているが、その一つである直接探索法は、関数の微係数を使用せずに最適化を実行することが可能であり、目的関数と変数が数式によって直接的に表現できない場合に有用である。ここでは、直接探索法の一つであるRosenbrock法を用いてK,zの最適値を求める。
 上記条件、つまり円すいころ軸受、呼び番号30316に基本動定格荷重の35%のラジアル荷重が作用し、ミスアライメントが1/600である場合では、Misesの相当応力の最大値sMises_maxと対数クラウニングパラメータK,zは図71のような関係にある。K,zに適当な初期値を与え、Rosenbrok法の規則にしたがってK,zを修正していくと、図71中の最適値の組合せに到達し、sMises_maxは最小となる。
 ころ4012と内輪4013との接触を考える限りにおいては、図70におけるGの領域のクラウニングは、どのような形状でもよいが、外輪2との接触や加工時の砥石の成形性を考慮すれば、対数クラウニング部との接続点P1において、対数クラウニング部の勾配より小さな勾配となることは望ましくない。Gの領域のクラウニングについて、対数クラウニング部の勾配より大きな勾配を与えることは、ドロップ量が大きくなるため、これも望ましくない。すなわち、Gの領域のクラウニングと対数クラウニングは、その接続点P1で勾配が一致して滑らかに繋がるように設計されることが望ましい。図70において、ころ4012のGの領域のクラウニングを、直線とした場合を点線にて例示し、円弧とした場合を太実線にて例示する。Gの領域のクラウニングを直線とした場合、ころ4012のクラウニングのドロップ量Dpは例えば36μmとなる。Gの領域のクラウニングを円弧とした場合、ころ4012のクラウニングのドロップ量Dpは例えば40μmとなる。
 非接触部クラウニング部分4028の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が円弧であってもよい。この場合、ころ転動面全体の母線を例えば対数曲線で表すものより、ドロップ量Dpの低減を図ることができる。したがって、研削量の低減を図れる。図72に示すように、上記非接触部クラウニング部分4028の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が直線であってもよい(図72の例では大径側の部分のみ直線)。この場合、非接触部クラウニング部分4028の母線を円弧とする場合よりもさらにドロップ量Dpの低減を図ることができる。
 接触部クラウニング部分4027の母線の一部または全部が上記式(1)で示される対数クラウニングで表されてもよい。この対数クラウニングで表される接触部クラウニング部分4027により、面圧や接触部の応力を低減し円すいころ軸受の長寿命化を図ることができる。
 図73に示すように、接触部クラウニング部分4027の母線が、ころ軸方向に沿って平坦に形成されたストレート部分4027A(図58の中央部4023と同義)と、対数クラウニングの対数曲線で形成された部分4027Bとによって表されてもよい。
 クラウニングの加工精度を確保するためには、ころ4012の外周に、ストレート部分4027Aが存在することが望ましい。そこでころ軸方向中央を基準として、小径側の部分と大径側の部分とで対称のクラウニング部4022,4024であるとすれば、対数クラウニング式(1)中の設計パラメータのうち、Kは固定され、Kとzが設計の対象となる。
 以下、図74~図77を用いて、円錐ころ軸受の製造方法を説明する。
 図74に示すように、まず部品準備工程(S4100)を実施する。この工程(S4100)では、外輪4011、内輪4013、ころ4012、保持器4014などの軸受部品となるべき部材を準備する。なお、ころ4012となるべき部材には、まだクラウニングは形成されておらず、当該部材の表面は図59の点線で示した加工前表面4012Eとなっている。また図64に示すような大端面4016および小端面4017を有するようにころ4012が形成され、かつ図64に示すような大鍔面4018および小鍔面4019を有するように内輪4013が形成される。
 次に、熱処理工程(S4200)を実施する。この工程(S4200)では、上記軸受部品の特性を制御するため、所定の熱処理を実施する。たとえば、外輪4011、ころ4012、内輪4013、の少なくともいずれか1つにおいて本実施形態に係る窒素富化層4011B、4012B、4013Bを形成するため、浸炭窒化処理または窒化処理と、焼入れ処理、焼戻処理などを行う。この工程(S4200)における熱処理パターンの一例を図75に示す。図75は、1次焼入れおよび2次焼入れを行う方法を示す熱処理パターンを示す。図76は、焼入れ途中で材料をA変態点温度未満に冷却し、その後、再加熱して最終的に焼入れる方法を示す熱処理パターンを示す。これらの図において、処理Tでは鋼の素地に炭素や窒素を拡散させまた炭素の溶け込みを十分に行なった後、A変態点未満に冷却する。次に、図中の処理Tにおいて、処理Tよりも低温に再加熱し、そこから油焼入れを施す。その後、たとえば加熱温度180℃の焼き戻し処理を実施する。
 上記の熱処理によれば、普通焼入れ、すなわち浸炭窒化処理に引き続いてそのまま1回焼入れするよりも、軸受部品の表層部分を浸炭窒化しつつ、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率を減少することができる。上記熱処理工程(S4200)によれば、焼入れ組織となっている窒素富化層4011B、4012B、4013Bにおいて、旧オーステナイト結晶粒の粒径が、図77に示した従来の焼入れ組織におけるミクロ組織と比較して2分の1以下となる、図61に示したようなミクロ組織を得ることができる。上記の熱処理を受けた軸受部品は、転動疲労に対して長寿命であり、割れ強度を向上させ、経年寸法変化率も減少させることができる。
 次に、加工工程(S4300)を実施する。この工程(S4300)では、各軸受部品の最終的な形状となるように、仕上げ加工を行う。ころ4012については、図59に示したように切削加工などの機械加工によりクラウニング4022Aおよび面取り部4021を形成する。
 次に、組立工程(S4400)を実施する。この工程(S4400)では、上記のように準備された軸受部品を組み立てることにより、図64に示した円錐ころ軸受4010を得る。このようにして、図56に示した円錐ころ軸受4010を製造することができる。
 (実験例7)
 回転駆動力を検証する観点から、内輪の大鍔面の異なる複数種類の円錐ころ軸受のそれぞれに対し、回転トルク試験を実施した。円錐ころ軸受4010の試験型番は30307Dであり、防錆油は、40℃での動粘度が16.5mm/sであり、かつ、100℃での動粘度が3.5mm/sであるものを使用した。
 試験対象物である円錐ころ軸受としては、本実施の形態に係る、大鍔面4018の算術平均粗さRaが0.149μmであり、粗さ曲線のスキューネスRskが-0.96であり、粗さ曲線のクルトシスRkuが4.005である円錐ころ軸受4010のサンプルが用いられた。一方、比較用の従来技術サンプルとして、大鍔面4018の算術平均粗さRaが0.2μmであるサンプルと、大鍔面の算術平均粗さRaが0.08μmであるサンプルとの2種類が用いられた。なお大鍔面の算術平均粗さRa、スキューネスRskおよびクルトシスRkuはいずれも、表面粗さ測定機によって測定可能である。
 試験は、円錐ころ軸受の回転数を、0r/minから200r/minまで変化させたときの回転トルクを測定することによりなされた。その測定結果を図78に示す。
 図78に示すように、本実施の形態のサンプルである本件発明品は、Raが0.2μmである従来品とほぼ同等の安定したトルク特性を有する。これは、200r/min以下の低回転速度の領域においては潤滑油の楔効果が小さく、潤滑油の油膜が薄く200r/minの条件まで境界潤滑となるためである。
 一方、Raが0.08μmである従来品は、50r/min以下の回転速度においても急激に回転トルク値が低下する。これは大鍔面の粗さが他に比べて細かいために50r/minに達する前に十分な油膜厚さが形成された結果である。Raが0.08μmである従来品においては、50r/min以上の場合には転動面の転がり抵抗が支配的となる。
 実機組立後の予圧管理(あるいはトルクチェック)は、10r/min以上50r/min以下の範囲の回転数の条件下で行なわれることが多い。この範囲でのトルクを安定化できる本件発明品は、実機組立性が良好であるといえる。
 (実験例8)
 耐焼付き性を検証する観点から、回転トルク試験を実施した円錐ころ軸受と同一種類、すなわち同一ロットサンプルの試験対象物に対し、昇温試験を実施した。円錐ころ軸受4010の試験型番は30307Dであり、ラジアル荷重を17kN、ラジアル荷重を1.5kNとした。また昇温用の湯浴としては、タービン油VG56を用いた。そして各サンプルの外輪の温度を測定し、昇温を確認した。試験結果は以下の表1に示すとおりである。なお表中の「A」は外輪の温度が120℃以下であったことを示し、「B」は外輪の温度が120℃以上150℃未満であったことを示す。さらに「C」は外輪の温度が150℃以上であったことを示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000014
 表2より、本件発明品は、Raが0.08μmの従来品と同等の耐焼付き性を有する結果となった。
 なおこのような特性を有するためには、円錐ころの大端面と内輪の大鍔面との接触関係を「球と平面との接触関係」とすることが好ましい。この観点から、本実施の形態の内輪4013の大鍔面4018は、工業製品で得られる程度の概略ストレート平面であることが好ましい。
 (実験例9)
 算術平均粗さRa、粗さ曲線のスキューネスRsk、及び粗さ曲線のクルトシスRkuの様々な組み合わせにおいて、上述の昇温試験及び回転トルク試験に準じて評価した結果を表2~表5に示す。なお各表中、「S」は非常に良好であることを示し、「A」は良好であることを、「B」は良好ではないが不良ではないことを、「C」は不良であることを示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000015
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000016
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000017
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000018
 表2に示すように、大鍔面における算術平均粗さRaが0.05μmの場合、大鍔面が特に滑らかな表面性状に仕上げられているので、大鍔面における粗さ曲線のスキューネスRskが-1.0以上-0.3以下の範囲にあるか否かを問わず、また、粗さ曲線のクルトシスRkuが3.0以上5.0以下の範囲にあるか否かを問わず、耐焼付き性が特に良好になる一方、トルクの安定性が特に悪くなることが分かる。
 表3および表4に示すように、大鍔面における算術平均粗さRaが0.1μm又は0.2μmの場合、Ra=0.05の場合に比べて、耐焼付き性が悪化傾向を示し、トルクの安定性が改善傾向を示す。ここで、大鍔面における粗さ曲線のスキューネスRsk<-1.0の場合、油膜が形成されにくく、耐焼付き性に不利となることが分かる。一方、大鍔面における粗さ曲線のスキューネスRsk>-0.3の場合、以下に示す大鍔面における粗さ曲線のクルトシスRkuの特性との兼ね合いによって、耐焼き付き性とトルクの安定性とを両立することができない。また、大鍔面における粗さ曲線のクルトシスRku<3の場合、油膜が出来過ぎて、トルクの安定性に不利となることが分かる。一方、大鍔面における粗さ曲線のクルトシスRku>5の場合、表面の微小な山々が尖り過ぎてころ大端面と金属接触し易く、油膜が出来にくくなって、耐焼付き性に不利となることが分かる。
 表5に示すように、大鍔面における算術平均粗さRaが0.25μmの場合、表3および表4に比べてさらに耐焼付き性が悪く、トルクの安定性が良い結果となっている。具体的には、大鍔面における粗さ曲線のスキューネスRskが-1.0以上-0.3以下の範囲にあるか否かを問わず、また、粗さ曲線のクルトシスRkuが3.0以上5.0以下の範囲にあるか否かを問わず、耐焼付き性が特に悪くなる一方、トルクの安定性が特に良好になることが分かる。
 したがって上記のように、本件発明品は大鍔面4018の算術平均粗さRaは0.1μm≦Ra≦0.2μmである場合、大鍔面4018の粗さ曲線のスキューネスRskが-1.0≦Rsk≦-0.3であり、大鍔面4018の粗さ曲線のクルトシスRkuが3.0≦Rku≦5.0であれば、耐焼付き性とトルクの安定性の両立を図ることが可能であると分かる。
 (実験例10)
 <試料>
 試料として、試料No.1~4までの4種類の円錐ころを試料として準備した。円錐ころの型番は30206とした。円錐ころの材質としてはJIS規格SUJ2材(1.0質量%C-0.25質量%Si-0.4質量%Mn-1.5質量%Cr)を用いた。
 試料No.1については、浸炭窒化焼入れを実施した後、図60に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気はRXガス+アンモニアガスとした。試料No.2については、試料No.1と同様に浸炭窒化焼入れを実施した後、図63に示した部分円弧クラウニングを形成した。
 試料No.3については、図75に示した熱処理パターンを実施した後、図60に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。最終焼入れ温度は800℃とした。
 試料No.4については、図75に示した熱処理パターンを実施した後、図60に示した本実施の形態に係る対数クラウニングを両端部に形成した。試料の最表面から0.05mmの深さ位置での窒素富化層における窒素濃度を0.1質量%以上とするために、浸炭窒化処理温度を845℃、保持時間を150分間とした。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガス+アンモニアガスとした。更に、炉内雰囲気を厳密に管理した。具体的には、炉内温度のムラ及びアンモニアガスの雰囲気ムラを抑制した。最終焼入れ温度は800℃とした。上述した試料No.3および試料No.4が本発明の実施例に対応する。試料No.1および試料No.2は比較例に対応する。
 <実験内容>
 実験1:寿命試験
 寿命試験装置を用いた。試験条件としては、試験荷重:Fr=18kN、Fa=2kN、潤滑油:タービン油56、潤滑方式:油浴潤滑、という条件を用いた。寿命試験装置では、被試験体としての2つの円錐ころ軸受は、支持軸の両端を支持するように配置されている。該支持軸の延在方向の中央部、すなわち2つの円錐ころ軸受の中央部には、該支持軸を介して円錐ころ軸受にラジアル荷重を負荷するための円筒ころ軸受が配置されている。そして、荷重負荷用の円筒ころ軸受にラジアル荷重を負荷することで、被試験体としての円錐ころ軸受にラジアル荷重を負荷する。また、アキシアル荷重は、寿命試験装置のハウジングを介して一方の円錐ころ軸受から支持軸に伝わり、他方の円錐ころ軸受にアキシアル荷重が負荷される。これにより、円錐ころ軸受の寿命試験が行われる。
 実験2:偏荷重時の寿命試験
 上記実験1の寿命試験と同様の試験装置を用いた。試験条件としては、基本的に上記実験1での条件と同様であるが、ころの中心軸について2/1000radの軸傾きを負荷した状態とし、偏荷重が印加された状態で試験を行った。
 実験3:回転トルク試験
 試料No.1~4について、縦型トルク試験機を用いたトルク測定試験を行った。試験条件としては、試験荷重:Fa=7000N、潤滑油:タービン油56、潤滑方式:油浴潤滑、回転数:5000rpm、という条件を用いた。
 <結果>
 実験1:寿命試験
 試料No.4が最も良好な結果を示し、長寿命であると考えられた。試料No.2および試料No.3は、試料No.4の結果には及ばないものの、良好な結果を示し、十分実用に耐え得ると判断された。一方、試料No.1については、最も短い寿命を示す結果となった。
 実験2:偏荷重時の寿命試験
 試料No.4および試料No.3が最も良好な結果を示し、長寿命であると考えられた。次に、試料No.1が試料No.4および試料No.3には及ばないものの、比較的良好な結果を示した。一方、試料No.2は上記実験1の時の結果より悪い結果を示し、偏荷重条件により短寿命化したものと考えられる。
 実験3:回転トルク試験
 試料No.1、試料No.3、試料No.4が十分小さな回転トルクを示し良好な結果となった。一方、試料No.2は回転トルクが他の試料より大きくなっていた。
 以上の結果から、総合的に試料No.4がいずれの試験においても良好な結果を示し、総合的に最も優れた結果となった。また、試料No.3も、試料No.1および試料No.2と比べて良好な結果を示した。
 <円錐ころ軸受の適用例>
 以下では、本実施の形態に係る円錐ころ軸受4010の用途の一例について説明する。上述した円錐ころ軸受4010は、たとえば、自動車のデファレンシャルまたはトランスミッションに好適である。すなわち円錐ころ軸受4010を自動車用円錐ころ軸受として用いると好適である。したがって、実施の形態1に係る円錐ころ軸受と同様に、図13に示した自動車のデファレンシャルに本実施の形態に係る円錐ころ軸受4010を適用することができる。すなわち、図13のデファレンシャルにおける円錐ころ軸受1010a、1010bに代えて、本実施の形態に係る円錐ころ軸受4010を適用してもよい。
 また、本実施の形態に係る円錐ころ軸受は、図14に示したマニュアルトランスミッションに適用することができる。すなわち、図14のマニュアルトランスミッションにおける円錐ころ軸受1010に代えて、本実施の形態に係る円錐ころ軸受4010を適用してもよい。トルク損失が低減され、かつ耐焼付き性および寿命が向上した円錐ころ軸受4010は、転動体と軌道部材との間に高い面圧が付与されるマニュアルトランスミッション100内での使用に好適である。自動車用の円錐ころ軸受では、耐焼き付き性および寿命の向上が要求されている。よって、耐焼き付き性および寿命が向上した上記の円錐ころ軸受4010をトランスミッション又はデファレンシャルに組み込むことで上記要求を満たすことができる。
 以上に述べた実施の形態に含まれる各例に記載した特徴を、技術的に矛盾のない範囲で適宜組み合わせるように適用してもよい。たとえば、上述した実施の形態1に係る円錐ころ軸受1010では、実施の形態2に係る円錐ころ軸受のように、円錐ころ1012の転動面1012Aにおいてクラウニングが形成されたクラウニング形成部分を、内輪軌道面1013Aの軸方向範囲にあって内輪軌道面1013Aに接する接触部クラウニング部分と、内輪軌道面1013Aの軸方向範囲から外れて内輪軌道面1013Aに非接触となる非接触部クラウニング部分とに形成してもよい。接触部クラウニング部分と非接触部クラウニング部分は、ころ軸方向に延びる母線が、互いに異なる関数で表されかつ互いに接続点で滑らかに連続する線であってもよい。接続点の近傍において、非接触部クラウニング部分の母線の曲率は、接触部クラウニング部分の母線の曲率よりも小さくてもよい。
 上述した実施の形態1に係る円錐ころ軸受1010において、非接触部クラウニング部分の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が円弧であってもよい。あるいは、上述した実施の形態1に係る円錐ころ軸受1010において、非接触部クラウニング部分の母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が直線であってもよい。また、上述した実施の形態1に係る円錐ころ軸受1010において、接触部クラウニング部分の母線の一部または全部が対数クラウニングで表されてもよい。
 また、上述した実施の形態1に係る円錐ころ軸受1010では、実施の形態3~5のいずれかに係る円錐ころ軸受と同様に、ころ係数γが0.90を超えてもよい。この場合、さらに、円錐ころ1012の転動面1012Aにおいてクラウニングが形成されたクラウニング形成部分は、内輪軌道面1013Aの軸方向範囲にあって内輪軌道面1013Aに接する接触部クラウニング部分と、内輪軌道面1013Aの軸方向範囲から外れて内輪軌道面1013Aに非接触となる非接触部クラウニング部分とを含んでいてもよい。接触部クラウニング部分と非接触部クラウニング部分とにおいては、ころ軸方向に延びる母線が、互いに異なる関数で表されかつ互いに接続点で滑らかに連続する線であってもよい。接続点の近傍において、非接触部クラウニング部分の母線の曲率は、接触部クラウニング部分の母線の曲率よりも小さくてもよい。さらに、接触部クラウニング部分の母線の一部または全部が対数クラウニングで表されてもよい。また、上記円錐ころ軸受1010は、保持器1014を備える。保持器1014は、周方向に所定の間隔で配置されている複数のポケット3109を含み、複数の円錐ころ1012の各々を複数のポケット3109の各々に収容保持している。保持器1014においてポケット3109の窓角が46度以上65度以下であってもよい。
 また、上述した実施の形態1に係る円錐ころ軸受1010では、実施の形態6に係る円錐ころ軸受と同様に、大鍔面の算術平均粗さRaが0.1μm以上0.2μm以下であってもよい。この場合、さらに、円錐ころ1012の転動面1012Aにおいてクラウニングが形成されたクラウニング形成部分は、内輪軌道面1013Aの軸方向範囲にあって内輪軌道面1013Aに接する接触部クラウニング部分と、内輪軌道面1013Aの軸方向範囲から外れて内輪軌道面1013Aに非接触となる非接触部クラウニング部分とを含んでいてもよい。接触部クラウニング部分と非接触部クラウニング部分とにおいては、ころ軸方向に延びる母線が、互いに異なる関数で表されかつ互いに接続点で滑らかに連続する線であってもよい。さらに、接続点の近傍において、非接触部クラウニング部分の母線の曲率は、接触部クラウニング部分の母線の曲率よりも小さくてもよい。大鍔面の粗さ曲線のスキューネスRskが-1.0以上-0.3以下であってもよく、大鍔面の粗さ曲線のクルトシスRkuは3.0以上5.0以下であってもよい。さらに、円錐ころ1012は、大鍔面に当接する大端面をさらに有し、円錐ころ1012に含まれる大端面の算術平均粗さRaが0.1μm以下であってもよい。さらに、大鍔面の凹凸の高さの最大値は1μm以下であってもよい。
 以上のように本発明の実施の形態について説明を行ったが、上述の実施の形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は上述の実施の形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
 1010,2010,3010,4010 円錐ころ軸受、1011,2011,3011,4011 外輪、1011A 外輪転走面、1012,2012,3012,4012 ころ、1012A 転動面、1013,2013,3013,4013 内輪、1013A 内輪転走面、1014 保持器、1011B,1012B,1013B 窒素富化層、1011C,1012C,1013C 未窒化部、1012E 加工前表面、1016 大端面、1017 小端面、1018 大鍔面、1019 小鍔面、 1021,1025 面取り部、1022,1024 クラウニング部、1022A クラウニング、1023 中央部、1026 中心線、1031 第1測定点、1032 第2測定点、1033 第3測定点、100 マニュアルトランスミッション、106 小環状部、107 大環状部、108 柱部、109 ポケット、111 入力シャフト、112 出力シャフト、113 カウンターシャフト、114a~114k ギア、115 ハウジング、121 デファレンシャルケース、122 ドライブピニオン、123 差動歯車ケース、124 リングギヤ、125 ピニオンギヤ、126 サイドギヤ。

Claims (20)

  1.  内周面において外輪軌道面を有する外輪と、
     外周面において内輪軌道面を有し、前記外輪の内側に配置された内輪と、
     前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に配列され、前記外輪軌道面および前記内輪軌道面と接触する転動面を有する複数の円錐ころとを備え、
     前記外輪、前記内輪および前記複数の円錐ころのうちの少なくともいずれか1つは、前記外輪軌道面、前記内輪軌道面または前記転動面の表面層に形成された窒素富化層を含み、
     前記窒素富化層における旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上であり、
     前記表面層の最表面から前記窒素富化層の底部までの距離は0.2mm以上であり、
     前記円錐ころの前記転動面にはクラウニングが形成され、
     前記クラウニングのドロップ量の和は、前記円錐ころの前記転動面の母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy-z座標系において、K,K,zを設計パラメータ、Qを荷重、Lを前記円錐ころにおける前記転動面の有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aを前記円錐ころの前記転動面の前記母線上にとった原点から前記有効接触部の端部までの長さ、A=2KQ/πLE’としたときに、式(1)で表される、円錐ころ軸受。
    Figure JPOXMLDOC01-appb-M000001
  2.  前記最表面から0.05mmの深さ位置での前記窒素富化層における窒素濃度が0.1質量%以上である、請求項1に記載の円錐ころ軸受。
  3.  前記窒素富化層が形成された前記外輪、前記内輪、および前記円錐ころのうちの少なくともいずれか1つは鋼により構成され、
     前記鋼は、前記窒素富化層以外の部分で、少なくとも炭素を0.6質量%以上1.2質量%以下、珪素を0.15質量%以上1.1質量%以下、マンガンを0.3質量%以上1.5質量%以下含む、請求項1または2に記載の円錐ころ軸受。
  4.  前記鋼は、さらに2.0質量%以下のクロムを含む、請求項3に記載の円錐ころ軸受。
  5.  前記式(1)における前記設計パラメータK,K,zのうちの少なくとも1つが、前記円錐ころと前記外輪または前記内輪との接触面圧を目的関数として最適化されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の円錐ころ軸受。
  6.  前記外輪または前記内輪の少なくともいずれか1つは、前記窒素富化層を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の円錐ころ軸受。
  7.  前記円錐ころは前記窒素富化層を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の円錐ころ軸受。
  8.  前記円錐ころの前記転動面において前記クラウニングが形成されたクラウニング形成部分を、前記内輪軌道面の軸方向範囲にあって前記内輪軌道面に接する接触部クラウニング部分と、前記内輪軌道面の前記軸方向範囲から外れて前記内輪軌道面に非接触となる非接触部クラウニング部分とに形成し、前記接触部クラウニング部分と前記非接触部クラウニング部分は、ころ軸方向に延びる前記母線が、互いに異なる関数で表されかつ互いに接続点で滑らかに連続する線であり、前記接続点の近傍において、前記非接触部クラウニング部分の前記母線の曲率が、前記接触部クラウニング部分の前記母線の曲率よりも小さい、請求項1~7のいずれか1項に記載の円錐ころ軸受。
  9.  前記非接触部クラウニング部分の前記母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が円弧である、請求項8に記載の円錐ころ軸受。
  10.  前記非接触部クラウニング部分の前記母線は、大径側の部分および小径側の部分のいずれか一方または両方が直線である、請求項8に記載の円錐ころ軸受。
  11.  前記接触部クラウニング部分の母線の一部または全部が対数クラウニングで表される、請求項8~10のいずれか1項に記載の円錐ころ軸受。
  12.  ころ係数γが0.90を超える、請求項1~7のいずれか1項に記載の円錐ころ軸受。
  13.  前記円錐ころの前記転動面において前記クラウニングが形成されたクラウニング形成部分は、前記内輪軌道面の軸方向範囲にあって前記内輪軌道面に接する接触部クラウニング部分と、前記内輪軌道面の前記軸方向範囲から外れて前記内輪軌道面に非接触となる非接触部クラウニング部分とを含み、
     前記接触部クラウニング部分と前記非接触部クラウニング部分とにおいては、ころ軸方向に延びる前記母線が、互いに異なる関数で表されかつ互いに接続点で滑らかに連続する線であり、
     前記接続点の近傍において、前記非接触部クラウニング部分の前記母線の曲率が、前記接触部クラウニング部分の前記母線の曲率よりも小さい、請求項12に記載の円錐ころ軸受。
  14.  前記接触部クラウニング部分の前記母線の一部または全部が対数クラウニングで表される、請求項13に記載の円錐ころ軸受。
  15.  周方向に所定の間隔で配置されている複数のポケットを含み、前記複数の円錐ころの各々を前記複数のポケットの各々に収容保持している保持器をさらに備え、
     前記ポケットの窓角が46度以上65度以下である、請求項12~14のいずれか1項に記載の円錐ころ軸受。
  16.  前記内輪は、前記内輪軌道面よりも大径側に配置された大鍔面を有し、
     前記大鍔面の算術平均粗さRaが0.1μm以上0.2μm以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の円錐ころ軸受。
  17.  前記円錐ころの前記転動面において前記クラウニングが形成されたクラウニング形成部分は、前記内輪軌道面の軸方向範囲にあって前記内輪軌道面に接する接触部クラウニング部分と、前記内輪軌道面の前記軸方向範囲から外れて前記内輪軌道面に非接触となる非接触部クラウニング部分とを含み、
     前記接触部クラウニング部分と前記非接触部クラウニング部分とにおいては、ころ軸方向に延びる前記母線が、互いに異なる関数で表されかつ互いに接続点で滑らかに連続する線であり、
     前記接続点の近傍において、前記非接触部クラウニング部分の前記母線の曲率が、前記接触部クラウニング部分の前記母線の曲率よりも小さい、請求項16に記載の円錐ころ軸受。
  18.  前記大鍔面の粗さ曲線のスキューネスRskが-1.0以上-0.3以下であり、前記大鍔面の粗さ曲線のクルトシスRkuは3.0以上5.0以下である、請求項16または17に記載の円錐ころ軸受。
  19.  前記円錐ころは、前記大鍔面に当接する大端面をさらに有し、
     前記円錐ころに含まれる前記大端面の算術平均粗さRaが0.1μm以下である、請求項16~18のいずれか1項に記載の円錐ころ軸受。
  20.  前記大鍔面の凹凸の高さの最大値は1μm以下である、請求項18または19に記載の円錐ころ軸受。
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