JP7272767B2 - 円錐ころ軸受 - Google Patents
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図1は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受の断面模式図である。図2は、図1に示した円錐ころ軸受の部分断面模式図である。図3は、図1および図2に示した円錐ころ軸受の設計仕様を示す断面模式図である。図4は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受においてころの基準曲率半径を説明するための断面模式図である。図5は、図4に示される領域Vを示す部分断面模式図である。図6は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受においてころの実曲率半径を説明するための断面模式図である。図7は、本発明の実施の形態に係る円錐ころ軸受の円錐ころの大端面を示す平面模式図である。図1~図7を用いて本実施の形態に係る円錐ころ軸受を説明する。
窒素富化層11B、12B、13Bの厚さは0.2mm以上である。具体的には、外輪11の表面層の最表面としての外輪軌道面11Aから窒素富化層11Bの底部までの距離は0.2mm以上である。円錐ころ12の表面層の最表面の一部としての転動面12Aから窒素富化層12Bの底部までの距離は0.2mm以上である。円錐ころ12の表面層の最表面の一部としての大端面16または小端面17から窒素富化層12Bの底部までの距離は0.2mm以上である。内輪13の表面層の最表面の一部としての内輪軌道面13Aから窒素富化層13Bの底部までの距離は0.2mm以上である。内輪13の表面その最表面の一部としての大鍔面18から窒素富化層13Bの底部までの距離は0.2mm以上である。
図3に示すように、円錐ころ12と、外輪11および内輪13の各軌道面11A、13Aの各円錐角頂点は、円錐ころ軸受10の中心線上の一点Oで一致する。円錐ころ12の大端面16の曲率半径(設定曲率半径とも呼ぶ)Rと、点Oから内輪13の大鍔面18までの距離RBASEとの比率R/RBASEの値を0.75以上0.87以下とする。
円錐ころ12の大端面16の研削加工後の実曲率半径をRprocessとしたとき、実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比率Rprocess/Rは0.5以上とされる。以下、具体的に説明する。
大端面16の算術平均粗さ(表面粗さ)Raは0.10μmRa以下であってもよい。以下、図4および図5を参照しながら説明する。大端面16は面取り部16Cと凸部16Aと凹部16Bとを含む。大端面16では最外周に面取り部16Cが配置される。面取り部16Cの内周側に環状の凸部16Aが配置される。凸部16Aの内周側に凹部16Bが配置される。凸部16Aは凹部16Bより突出した面である。面取り部16Cは凸部16Aと円錐ころ12の側面である転動面とを繋ぐように形成されている。上述した大端面16の算術平均粗さRaは、実質的には凸部16Aの表面粗さを意味する。また、円錐ころ12の大端面16において、大鍔面18と接触する円周状の表面領域である凸部16Aの算術平均粗さRaの最大値と最小値との差は0.02μm以下であってもよい。これにより、大端面16の円周状の表面領域の表面粗さRaのばらつきを十分小さくでき、上記比率R/RBASEの数値範囲および比率Rprocess/Rの数値範囲との相乗効果により、結果的に上記接触部における十分な油膜厚さを確保できる。
窒素富化層11B、12B、13Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上である。ここで、図7は、本実施の形態に係る円錐ころ軸受を構成する軸受部品のミクロ組織、特に旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。図8は、従来の焼入れ加工された軸受部品の旧オーステナイト結晶粒界を図解した模式図である。図7は、窒素富化層12Bにおけるミクロ組織を示している。本実施の形態における窒素富化層12Bにおける旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上となっており、図8に示される従来の一般的な焼入れ加工品の旧オーステナイト結晶粒径と比べても十分に微細化されている。
図9に示すように、円錐ころ12の転動軸の延在方向における転動面12Aの幅をL、内輪軌道面13Aと転動面12Aとの当たり位置の中心Cの、延在方向における転動面12Aの中点Nから大端面16側へのずれ量をαとしたとき、円錐ころ軸受10では、幅Lとずれ量αとの比率α/Lが0%以上20%未満であってもよい。
図11に示すように、円錐ころ12の転動面12A(図2参照)は、両端部に位置し、クラウニングが形成されたクラウニング部22、24と、このクラウニング部22、24の間を繋ぐ中央部23とを含む。中央部23にはクラウニングは形成されておらず、円錐ころ12の回転軸である中心線26に沿った方向での断面における中央部23の形状は直線状である。円錐ころ12の小端面17とクラウニング部22との間には面取り部21が形成されている。円錐ころ12の大端面16とクラウニング部24との間にも面取り部16Cが形成されている。
円錐ころ12における窒素富化層12Bの深さ、すなわち窒素富化層12Bの最表面から窒素富化層12Bの底部までの距離は、上述のように0.2mm以上となっている。具体的には、面取り部21とクラウニング部22との境界点である第1測定点31、小端面17から距離Wが1.5mmの位置である第2測定点32、円錐ころ12の転動面12Aの中央である第3測定点33において、それぞれの位置での窒素富化層12Bの深さT1、T2、T3が0.2mm以上となっている。ここで、上記窒素富化層12Bの深さとは、円錐ころ12の中心線26に直交するとともに外周側に向かう径方向における窒素富化層12Bの厚さを意味する。なお、窒素富化層12Bの深さT1、T2、T3の値は、面取り部21、16Cの形状やサイズ、さらに窒素富化層12Bを形成する処理および上記仕上げ加工の条件などのプロセス条件に応じて適宜変更可能である。たとえば、図12に示した構成例では、上述のように窒素富化層12Bが形成された後にクラウニング22Aが形成されるため、窒素富化層12Bの深さT2は他の深さT1、T3より小さくなっているが、上述したプロセス条件を変更することで、上記窒素富化層12Bの深さT1、T2、T3の値の大小関係は適宜変更することができる。
円錐ころ12のクラウニング部22、24に含まれる(中央部23に連なり内輪軌道面13Aに接触する部分である)接触部クラウニング部分27に形成されたクラウニングの形状は、以下のように規定される。すなわち、クラウニングのドロップ量の和は、円錐ころ12の転動面12Aの母線をy軸とし、母線直交方向をz軸とするy-z座標系において、K1,K2,zmを設計パラメータ、Qを荷重、Lを円錐ころ12における転動面12Aの有効接触部の母線方向長さ、E’を等価弾性係数、aを円錐ころ12の転動面の母線上にとった原点から有効接触部の端部までの長さ、A=2K1Q/πLE’としたときに、下記の式(1)で表される。
次に、内輪軌道面13Aの母線方向の形状を図13~図15に基づいて説明する。図13は内輪13の詳細形状を示す部分断面模式図である。図14は、図13の領域XIVの拡大模式図である。図15は、図13に示した内輪軌道面13Aの母線方向の形状を示す模式図である。図13および図14では、円錐ころ12の大端面16側の一部輪郭を2点鎖線で示す。
窒素濃度の測定方法:
外輪11、円錐ころ12、内輪13などの軸受部品について、それぞれ窒素富化層11B,12B、13Bが形成された領域の表面に垂直な断面について、EPMA(Electron Probe Micro Analysis)により深さ方向で線分析を行う。測定は、各軸受部品を測定位置から表面に垂直な方向に切断することで切断面を露出させ、当該切断面において測定を行う。たとえば、円錐ころ12については、図11に示した第1測定点31~第3測定点33のそれぞれの位置から、中心線26と垂直な方向に円錐ころ12を切断することで切断面を露出させる。当該切断面において、円錐ころ12の表面から内部に向かって0.05mmの位置となる複数の測定位置にて、上記EPMAにより窒素濃度について分析を行う。たとえば、上記測定位置を5か所決定し、当該5か所での測定データの平均値を円錐ころ12の窒素濃度とする。
外輪11および内輪13については、上記窒素濃度の測定方法において測定対象とした断面につき、表面から深さ方向において硬度分布を測定する。測定装置としてはビッカース硬さ測定機を用いることができる。加熱温度500℃×加熱時間1hの焼き戻し処理後の円錐ころ軸受10において、深さ方向に並ぶ複数の測定点、たとえば0.5mm間隔に配置された測定点において硬度測定を実施する。そして、ビッカース硬さがHV450以上の領域を窒素富化層とする。
図6に示した円錐ころ12の大端面16における実曲率半径Rprocessおよび仮想曲率半径Rvirtualは、研削加工により実際に形成された円錐ころに対して任意の方法により測定され得るが、例えば表面粗さ測定機(例えばミツトヨ製表面粗さ測定機サーフテストSV‐3100)を用いて測定され得る。表面粗さ測定機を用いた場合には、まず転動軸を中心とする径方向に沿って測定軸を設定し、大端面の表面形状(母線方向の形状)を測定する。得られた大端面プロファイルに、上記頂点C1~C4および中間点P5およびP6をプロットする。上記実曲率半径Rprocessは、プロットされた頂点C1、中間点P5および頂点C2を通る円弧の曲率半径として算出される。上記仮想曲率半径Rvirtualは、プロットされた頂点C1、中間点P5,P6および頂点C4を通る円弧の曲率半径として算出される。あるいは、大端面16全体の仮想曲率半径Rvirtualは、「複数回入力」というコマンドを用いて4点を取った値で近似円弧曲線半径を算出することで決定してもよい。大端面16の母線方向の形状は、直径方向に1回の測定とした。
円錐ころ12の大端面16の算術平均粗さRaは任意の方法により測定できるが、たとえば表面粗さ測定機(例えばミツトヨ製表面粗さ測定機サーフテストSV‐3100)を用いて測定され得る。大端面の算術平均粗さRaは、たとえば、円錐ころ12の大端面16に上記測定機のスタイラスを接触させる方法により測定できる。また、大端面16において、大鍔面と接触する円周状の表面領域である凸部16Aの算術平均粗さRaの最大値と最小値との差は、当該凸部16Aの任意の4か所について表面粗さ測定機を用いて算術平均粗さRaを測定し、当該4か所の表面粗さの最大値と最小値との差を算出することにより求めることができる。
本発明者は、円錐ころ軸受に関する以下の事項に着目し、上述した円錐ころ軸受の構成に想到した。
(1)円錐ころの大端面の設定曲率半径と加工後の実曲率半径との比率
(2)円錐ころのスキューを抑制する内外輪の軌道面の形状
(3)円錐ころの転動面への対数クラウニングの適用
(4)円錐ころ、内輪および外輪への窒素富化層の適用
本実施形態の円錐ころ軸受10によれば、設定曲率半径Rと距離RBASEの比率R/RBASEの値を上述のように設定することで、円錐ころ12の大端面16と内輪13の大鍔面18との接触部において十分な油膜厚さを確保して円錐ころ12と大鍔面18との接触および摩耗の発生を抑制し、当該接触部での発熱を抑制できる。
(1)内輪の大鍔面と円錐ころの大端面との間の潤滑状態は、円錐ころの大端面の曲率半径(実曲率半径Rprocess)と潤滑油の使用温度により決まることに着目した。
(2)また、トランスミッションやデファレンシャル用途で想定される使用潤滑油粘度に着目し、実用使用を加味し検討した。
(3)そして、潤滑油使用温度のピーク時の最大条件として、120℃で3分(180秒)間継続する極めて厳しい温度条件を想定した。この温度条件は、ピーク時の最大条件であり、おおよそ3分を経過すれば、定常状態に戻るという意味を有し、この温度条件を本明細書において「想定ピーク温度条件」という。この「想定ピーク温度条件」に潤滑油の粘度特性を加味した潤滑状態において急昇温を生じない実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比を設定するための閾値が求められることを見出した。
「つば部潤滑係数」=120℃粘度×(油膜厚さh)2/180秒
ここで、油膜厚さhは、例えば、Karnaの以下の式から求められる。
<試験条件>
・負荷荷重:ラジアル荷重4000N、アキシアル荷重7000N
・回転数:7000min-1
・潤滑油:SAE 75W-90
・供試軸受:円錐ころ軸受(内径φ35mm、外径φ74mm、幅18mm)
実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比の各値に対して、大端面と大鍔面との接触面圧、油膜厚さ、スキュー角、油膜パラメータ、「つば部潤滑係数」の結果を表6に示す。表6は接触面圧、油膜厚さ、スキュー角、油膜パラメータのそれぞれを比で表しているが、基準となる分母は、実曲率半径Rprocessが設定曲率半径Rと同一寸法に加工できた場合の値とし、各符号に0を付加している。
<試験条件>
・負荷荷重:ラジアル荷重4000N、アキシアル荷重7000N
・回転速度:7000min-1
・潤滑油:タービン油ISO VG32
・供試軸受:円錐ころ軸受(内径φ35mm、外径φ74mm、幅18mm)
実曲率半径Rprocessと設定曲率半径Rとの比の各値に対して、大端面と大鍔面との接触面圧、油膜厚さ、スキュー角、油膜パラメータ、「つば部潤滑係数」の結果を表9に示す。表9は接触面圧、油膜厚さ、スキュー角、油膜パラメータのそれぞれを比で表しているが、基準となる分母は、実曲率半径Rprocessが設定曲率半径Rと同一寸法に加工できた場合の値とし、各符号に0を付加している。
図20は、図1に示した円錐ころ軸受の製造方法を説明するためのフローチャートである。図21は、図20の熱処理工程における熱処理パターンを示す模式図である。図22は、図21に示した熱処理パターンの変形例を示す模式図である。以下、円錐ころ軸受10の製造方法を説明する。
次に、本実施の形態に係る円錐ころ軸受の用途の一例について説明する。本実施形態に係る円錐ころ軸受は、デファレンシャル又はトランスミッション等の自動車の動力伝達装置に組み込まれると好適である。すなわち、本実施形態に係る円錐ころ軸受は、自動車用円錐ころ軸受として用いると好適である。図23は、上述した円錐ころ軸受10を使用した自動車のデファレンシャルを示す。このデファレンシャルは、プロペラシャフト(図示省略)に連結され、デファレンシャルケース121に挿通されたドライブピニオン122が、差動歯車ケース123に取り付けられたリングギヤ124と噛み合わされ、差動歯車ケース123の内部に取り付けられたピニオンギヤ125が、差動歯車ケース123に左右から挿通されるドライブシャフト(図示省略)に連結されるサイドギヤ126と噛み合わされて、エンジンの駆動力がプロペラシャフトから左右のドライブシャフトに伝達されるようになっている。このデファレンシャルでは、動力伝達軸であるドライブピニオン122と差動歯車ケース123が、それぞれ一対の円錐ころ軸受10a、10bで支持されている。
Claims (4)
- 内周面において外輪軌道面を有する外輪と、
外周面において内輪軌道面と、前記内輪軌道面よりも大径側に配置された大鍔面とを有し、前記外輪の内側に配置された内輪と、
前記外輪軌道面および前記内輪軌道面と接触する転動面と前記大鍔面と接触する大端面とを有し、前記外輪軌道面と前記内輪軌道面との間に配列される複数の円錐ころとを備え、
前記外輪、前記内輪および前記複数の円錐ころのうちの少なくともいずれか1つは、前記外輪軌道面、前記内輪軌道面または前記転動面の表面層に形成された窒素富化層を含み、
前記表面層の最表面から前記窒素富化層の底部までの距離は0.2mm以上であり、
前記最表面から0.05mmの深さ位置での前記窒素富化層における窒素濃度が0.1質量%以上であり、
前記円錐ころの前記大端面において、前記大鍔面と接触する円周状の表面領域の算術平均粗さRaの最大値と最小値との差は0.02μm以下であり、
前記円錐ころの前記大端面の設定曲率半径をR、前記円錐ころの円錐角の頂点から前記大鍔面までの距離をRBASEとしたとき、
前記設定曲率半径Rと前記距離RBASEの比率R/RBASEの値を0.75以上0.87以下とし、
前記大端面は、前記円周状の前記表面領域の内周側に形成された凹部を含み、
前記大端面は、前記凹部の外周側に環状の凸部を有し、前記凸部が前記大鍔面と接触するものであり、
前記円錐ころの転動軸に沿った断面において、前記表面領域の断面形状は、前記凸部に対応する第1凸部と、前記第1凸部とは前記転動軸から見て反対側に位置する前記凸部に対応する第2凸部とを含み、
前記円錐ころの前記大端面の研削加工後における、前記第1凸部の一部が成す円弧の曲率半径および前記第2凸部の一部が成す円弧の曲率半径をそれぞれ実曲率半径Rprocessとしたとき、前記実曲率半径Rprocessと前記設定曲率半径Rとの比率Rprocess/Rが0.5以上0.8以下であり、
前記第1凸部の一部が成す前記円弧と、前記第2凸部の一部が成す前記円弧とは、互いに異なる球面上に配置されている、円錐ころ軸受。 - 前記窒素富化層における旧オーステナイト結晶粒径はJIS規格の粒度番号が10以上
である、請求項1に記載の円錐ころ軸受。 - 前記円錐ころの前記大端面の算術平均粗さRaが0.10μmRa以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の円錐ころ軸受。
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