JP2006091921A - 光情報記録媒体およびその記録、再生、消去方法 - Google Patents

光情報記録媒体およびその記録、再生、消去方法 Download PDF

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Abstract

【課題】
有機材料で可逆性を持ち、かつ、高速で記録、再生が可能で、しかも追記が可能な記録材料を提供すること。
【解決手段】
少なくとも色素分子を含む材料、または少なくとも色素分子と高分子化合物を含む混合系材料からなり、色素分子の凝集状態の変化に伴って異なるスペクトルを示す光情報記録媒体であって、前記色素分子が下記式(1)で表される構造を有する。
【化1】

Description

本発明は、光情報記録媒体、詳細には有機材料で、可逆性を有する光情報記録媒体およびその記録、再生、消去方法に関する。
従来、書き換え型の光情報記録媒体の記録層には、一般に無機材料が用いられ、例えば、カー効果を利用したTeFeCo等の合金からなる光磁気記録材料やカルコゲナイド薄膜により相変化を利用した相変化型光記録材料などがある。これら無機系材料は有害物質を多く含んでおり、また、その成膜方法が蒸着やスパッタリングなどに限定されるためコスト高になるというデメリットを有していることから有機系材料が注目されている。
有機系の書き換え型材料としては、スピロピラン等のフォトクロミック化合物(特開昭59−227972号公報)や液晶高分子と色素との混合物(特開平2−136289号公報)などが提案されている。しかしながら、スピロピラン等のフォトクロミック化合物は、記録状態の安定性や記録・消去の繰り返し性、読みだし破壊等の問題があり、実用的には未だ未解決の問題が多い。一方、液晶高分子と色素の混合物系材料の可逆変化メカニズムは、液晶高分子の側鎖の配列状態が変化することで液晶高分子と色素間の相互作用が変化し、結果として記録層の光学特性を可逆的に変化させるものである。
その他書き換え型の記録材料として、特開平4−339865号公報など種々のものが提案されているが、有機系の材料として実用的に十分なものは未だなく、新規な材料が待たれている。これまでの有機の書き換え型の材料としては、以下のようなものが提案されている。
特開昭63−199684号公報では、マグネシウムフタロシアニンをポリマーマトリックス中に分散させた記録層を用い、色素単量体状態と会合体状態による追記型および書き換え型光情報記録媒体が提案されている。しかし、この発明においては、具体的なマグネシウムフタロシアニンおよびポリマーの構造および効果が開示されていないこと、また可逆性を生じさせるためには、クロロホルム等のハロゲン系溶媒で処理する必要があり、書き換え型光情報記録媒体としては実用的でない。
特開昭63−201926号公報では、マグネシウムフタロシアニン結晶相を用いた追記型および書き換え型光情報記録媒体が提案されている。しかし、この発明においては、色素膜の製造方法が真空蒸着法を用い、さらにその後溶媒中で浸潰し、乾燥させるといった作業が必要となり、生産性に問題を有している。また可逆性を生じさせるためには、クロロホルム等のハロゲン系溶媒で処理する必要があり、書き換え型光情報記録媒体としては実用的でない。また記録膜のスペクトルが非常にブロードであり、高密度化のため利用される短波長用の光源、例えば現状で有望な630〜690nmの半導体レーザには適していない。
特開平3−124488号公報および特開平3−124490号公報では、色素と樹脂からなる膨張層と保持層を有する書き換え型光情報記録媒体が提案されている。しかし、この発明においては、色素は単なる光吸収材として利用されており、色素の凝集状態の変化を利用するものではなく、記録はバンプを形成することにより行われている。そのため、ジッタが悪くなる恐れがあり、記録層の上に反射層を設けた反射型の光情報記録媒体、すなわち、CD互換タイプの光情報記録媒体としては不向きである。さらには、記録と消去が異なる波長のレーザが必要であること、製造法等の問題によりコスト高になることが懸念される。
特開平3−124491号公報では、ナフタロシアニンに重合性基を導入することによって、色素自体、あるいは樹脂中に化学的に固定した書き換え可能な光情報記録媒体が提案されている。しかし、この発明では、色素は光吸収材として用いられ、記録はバンプ形成等により行われている。さらに特開平6−223374号公報では、光透過性の基板と光照射によって会合状態を生じる色素材料を含有する記録膜が提案されているが、明細書中に書き換えの記載がなく、また、記録モードが光照射を受けた部分の反射率が大きくなる、いわゆるLow to High記録である。
特開平6−251417号公報では、フタロシアニンポリマーを用いることで良好な記録を実現させているが、上記同様、明細書中に書き換えの記載がなく、また、記録モ−ドがLow to High記録で通常の光ディスクとは記録極性が逆となっている。特開平6−251418号公報では特定のフタロシアニンに融点が140℃〜250℃の範囲にある有機化合物との混合膜により記録・消去を達成している。しかしこの場合もLow to High記録で通常の光ディスクとは記録極性が逆であり、また、変化のレベルが42%から56%で、あまり大きくない。特開平6−279597号公報ではポリアルキルアクリレート系樹脂とフタロシアニン化合物を含有してなる近赤外線吸収フィルムが提案されているが、明細書中に書き換えの記載がなく、耐光性改善のための方法として提案されている。
これらの記録材料はほとんどLow to High記録で、未記録状態で60〜70%以上の反射率が必要なCDファミリー系のメディアとしては適用できない。また、従来、可逆のメカニズムについて詳しく説明してある例はほとんどなく、概念的説明にとどまっており、したがって材料設計の指針を明確化できていない。また、大容量、高速化の要求から、情報の書き換えと共に、情報の保存やバックアップを目的とした追記型の光情報記録媒体も必要である。このような追記型のメディアとしては、現在、CD−Rが存在するが、現状の記録方法が色素分子の分解や基板の変形によるものであるため、さらなる高密度化、高転送レート化を達成することは非常に困難であると考えられる。
近年DVD(ディジタルビデオディスク)の規格が統一され、片面で4.7GB以上というギガバイトストレージが登場し、コンピュータ用データストレージとともに、映画等の動画、高品質音楽が1枚のディスクに収納される。このDVDにおいても追記型DVD−Rや、DVD−RAM等が登場してくる。この場合高密度記録とともに、高転送速度が要求され、これらの条件を満足させる記録媒体が研究されている。
特開昭59−227972号公報 特開平2−136289号公報 特開平4−339865号公報 特開昭63−199684号公報 特開昭63−201926号公報 特開平3−124488号公報 特開平3−124490号公報 特開平3−124491号公報 特開平6−223374号公報 特開平6−251417号公報 特開平6−251418号公報 特開平6−279597号公報
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、有機材料で可逆性を持った記録材料および高速で記録、再生が可能で、さらに追記も可能な記録材料を提供するもので、同時にCD系メディアおよびDVD系メディアと互換性のある書き換え型および追記型光情報記録媒体を提供するものである。すなわち、本発明では、現状において市場に出まわっているPDやCD−Eのような、また、今後登場すると思われるDVD−RAMのような書き換え型の記録媒体を提供すると共に、現行のCD−Rや今後登場してくるDVD−R系のような一回だけ書き込み可能な高感度な追記型光情報記録媒体も提供するものである。
現在、CD系メディアやPD、MD、MO等の光ディスクは、記録容量が最高で650MB程度であり、また追記型としては有機材料が、書き換え型としては無機材料が用いられている。この容量域においては、相変化材料などの無機材料の実績から、書き換え型の材料として有機材料が置き換わることは考えられない。しかしながら、今後DVD系のメディアが普及していくにつれ、追記型は勿論であるが書き換え型においても有機材料の適用の可能性がある。なぜなら無機材料は感度が悪いこと、および有機材料に対して1〜2桁熱伝導率、熱拡散係数が大きいからである。また、ROMとの互換性を考えると追記型、書き換え型ともにROMのような高反射率が要求される場合もあるが、このような高反射率は無機材料では達成することができないからである。
現状でもDVD−ROMが容量4.7GB以上であるのに対し、相変化材料を用いたDVD−RAMは、マークエッジ記録やランド・グルーブ記録を用いることによっても容量が2.9GB程度になってしまっている。そこで本発明では、高感度化および高転送レート化が可能な材料として有機材料を検討した。
本発明によれば、第一に、少なくとも色素分子を含む材料、または少なくとも色素分子と高分子化合物を含む混合系材料からなり、色素分子の凝集状態の変化に伴って異なるスペクトルを示す光情報記録媒体であって、前記色素分子が下記式(1)で表される構造を有することを特徴とする光情報記録媒体が提供される。
式中、X1〜X4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいアリールチオ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、スルホン酸アミド基またはスルホン酸エステル基を表す。また、k、l、m、nは置換基X1〜X4の置換数で0〜4の整数を表す。
第二に、上記第一に記載した光情報記録媒体において、上記高分子化合物が下記式(4)で表されるポリメタクリル酸エステルであることを特徴とする光情報記録媒体が提供される。
式中、Rは分岐を有してもよい炭素数3以上のアルキル基を表す。
第三に、上記第一に記載した光情報記録媒体において、上記高分子化合物が下記式(5)で表されるポリスチレン置換体であることを特徴とする光情報記録媒体が提供される。
式中、Z1〜Z6のうちの少なくとも1箇所以上は炭素数3以上のアルキル基である。
第四に、上記第一に記載した光情報記録媒体において、上記高分子化合物が下記式(6)で表される化合物あることを特徴とする光情報記録媒体が提供される。
式中、R11、R12は水素または置換基を有してもよいアルキル基を表す。これらは同一であってもよいが、両方同時に水素となることはなく、少なくとも一方は置換基を有してもよいアルキル基で、XはS、O、SeまたはNR13であり、R13は水素、アルキル基またはアリール基を表す。
第五に、上記第一〜第四に記載したいずれかの光情報記録媒体の未記録状態に対して外部エネルギーを照射し、上記色素分子のスペクトルを変化させることにより記録を行うことを特徴とする光情報記録媒体の記録方法が提供される。
第六に、上記第一〜第四に記載したいずれかの光情報記録媒体の未記録状態に対して外部エネルギーの照射により、前記色素分子のスペクトルが変化する領域の波長を用いて記録を再生することを特徴とする光情報記録媒体の再生方法が提供される。
第七に、上記第一〜第四に記載したいずれかの光情報記録媒体の未記録状態に対して、第一の外部エネルギーの照射により色素分子のスペクトルを変化させて記録が行われた記録状態に対して、第二の外部エネルギーの照射により色素分子のスペクトルを未記録状態と同じスペクトルに戻すことにより記録を消去することを特徴とする光情報記録媒体の消去方法が提供される。
第八に、上記第一に記載した光情報記録媒体において、上記色素分子が下記式(2)または(3)で表される構造を有することを特徴とする光情報記録媒体が提供される。
式(2)または(3)において、R1〜R3はアルキル基で、R1〜R3のうちのいずれか一つのアルキル基は直鎖部分が6以上で、他の二つのアルキル基は直鎖部分が6以下で、うち一つのアルキル基は直鎖部分が3のアルキル基を表す。X1〜X4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいアリールチオ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、スルホン酸アミド基またはスルホン酸エステル基を表す。また、k、l、m、nは置換基X1〜X4の置換数で0〜4の整数を表す。
本発明によれば、第一に、少なくとも色素分子を含む材料、あるいは少なくとも色素分子と高分子化合物を含む混合系材料からなり、色素分子の凝集状態変化に伴って異なるスペクトルを示す光情報記録媒体であって、色素分子が上記式(1)で示される構造を有することにより、大きなスペクトルシフトを示す光情報記録媒体が得られる。
第二に、上記本発明の記録媒体の未記録状態に対して、外部エネルギーを照射し、それにより色素分子のスペクトルを変化させて記録を行うことにより大きなスペクトルシフトを生じさせる記録方法が得られる。
第三に、上記本発明の記録媒体の未記録状態に対して、外部エネルギーの照射により色素分子のスペクトルが変化する領域の波長で情報の再生を行うことにより、大きな記録コントラスト信号を得る再生方法が得られる。
第四に、上記本発明の記録媒体の未記録状態に対して、第1の外部エネルギーの照射により色素分子のスペクトルを変化させることで情報の記録が行われた記録状態に対し、第2の外部エネルギーの照射により色素分子のスペクトルを未記録の状態と同じスペクトルに戻すことで良好な消去特性を得る消去方法が得られる。
以下に本発明を詳細に説明する。上述のように本発明は、フタロシアニンの中心金属に特定の置換基を有する色素が良好なスペクトルシフトを示すことを発見し、該置換基のアルキル基の長さ、あるいは高分子化合物の添加により追記特性(一度だけ情報が書き込め、記録された情報は容易に消去することができない)を示す場合と、可逆特性を示す場合と、そのどちらでもない場合(スペクトルシフトが生じない、あるいはシフト量が小さい)とが出現することを見出したものである。
フタロシアニンまたはナフタロシアニン化合物は、現状でも光情報記録媒体の材料として最も適した材料の1つである。しかし、CD−R、すなわちユーザが1回だけ情報を書き込めるタイプのメディアにおいては、フタロシアニンまたはナフタロシアニン化合物は単に情報記録時のレーザ光吸収用として使用され、記録はレーザ光吸収によるフタロシアニンまたはナフタロシアニン化合物の分解、あるいはフタロシアニンまたはナフタロシアニン化合物のレーザ光吸収による基板の変形により行われている。そのため、可逆性は持たせることはできない。また、この記録メカニズムでは、高速再生時のジッタが大きくなり高転送レート化を図ることができないという問題を有する。特にDVD系メディアにおいては、再生時の高速化とともに記録時の高速化も要求され、そのためには記録膜の感度が非常に重要であり、現状のCD−Rのような熱分解、熱変形による記録では高出力のレーザが必要になるし、記録レスポンスの点から好ましくない。
またDVD系のメディアにおいては、DVD−ROMが4.7GB〜の容量を有することから追記型、書き換え型としても同等の容量を有することが好ましい。しかしながら、現在RAMとして脚光を浴びているものは相変化型の材料を用いており、マークエッジ記録やランド・グルーブ方式等の高密度化手法を用いても容量が2.9GB程度にとどまっている。これは無機材料が基本的に感度が悪いこと、有機材料に比べて1〜2桁熱伝導率、熱拡散係数が大きいことによる。したがって、高速で高感度に記録でき、低ジッタで情報が再生できる記録材料が非常に望まれる。
本発明ではフタロシアニンまたはナフタロシアニン化合物を従来のように単なる吸収剤として使用するのでなく、フタロシアニンまたはナフタロシアニン化合物自体の物性変化を直接的に利用することで、可逆型であっても追記型であっても、基板変形、色素の物理的変化等による表面形状の変化を伴わない光情報記録媒体用材料、光情報記録媒体およびその記録、再生、消去方法を提供する。
フタロシアニンまたはナフタロシアニン化合物等の色素化合物による可逆性は、例えば結晶状態、凝集状態、会合状態、構造・電子的状態等の変化により生ずるものであり、追記性・可逆性発現の機構で分類すると、色素−色素間相互作用を制御するタイプ(基本的に色素のみの1成分系)と、色素−色素間相互作用と色素−他分子間相互作用を制御するタイプ(2成分以上の系)に分けられる。色素−色素間相互作用と色素−他分子間相互作用間を制御するタイプは、色素−色素間の相互作用を容易に変化させることができない色素に対して追記性・可逆性を持たせたもので、例えば色素の凝集状態と色素分散状態のように2つの安定した状態をつくり出すことにより追記性・可逆性をもたせることができる。つまり、色素化合物単独では色素分子どうしの相互作用による会合、凝集状態は形成できるが、色素分子どうしの相互作用をなくした色素分子の分散状態を作ることができなかったり、あるいは分散状態をつくることができても安定でない場合が多い(経時的安定性が悪く、徐々に会合、凝集状態へ戻ってしまう)。
そのため本発明では場合により色素分子と1つ以上の高分子化合物の混合体を光情報記録媒体の記録材料として用い、未記録または消去状態を色素分子の会合、凝集状態とし、記録状態を色素分子と高分子化合物が相互作用した色素分子の分散状態とする、あるいは未記録または消去状態を色素分子と高分子化合物が相互作用した色素分子の分散状態とし、記録状態を色素分子の会合、凝集状態とするところに特徴がある。但し、この2つの安定状態は色素の凝集状態と分散状態に限らず、ある1つの安定色素凝集状態ともう1つの別な安定色素凝集状態であっても良い。したがって、本発明では場合により会合、あるいは凝集状態を形成可能な色素分子と、該色素分子と相互作用し、色素分子の前記の会合、あるいは凝集状態とは異なる色素の凝集状態や色素の分散状態を形成させられるような高分子化合物が使用されてよい。
まず、本発明で用いることのできる最適色素構造について説明する。凝集状態の変化を利用する可逆性は、色素分子と色素分子間の相互作用が変化するもので、図1に示すように、色素分子が他色素分子と相互作用しない単独に存在する状態、すなわち分散された状態に対して、色素分子が凝集するとスペクトルが短波長、あるいは長波長へシフトを起こす。あるいは、ある色素の凝集状態に対し、色素−色素間相互作用が変化し、前記の凝集状態とは異なる色素凝集状態を示すことで、スペクトルが短波長、あるいは長波長へシフトを起こす。
2つ以上の色素分子が分子オーダーの距離、あるいはそれ以下に近づいた場合は、色素のいわゆるJ−会合、H−会合等の会合現象が見られ、これは凝集状態の変化にあたるものである。一般的にいって、結晶状態の変化は膜の表面状態変化が激しく、光メモリーには適していないため、色素の凝集状態を可逆的に変化させることのできる色素を探索する必要がある。
本発明は、色素分子のスペクトルを変化させることができない、あるいは不可逆となるような、色素分子の基本骨格どうしの分子間力や静電力、双極子相互作用等の力による会合、凝集を防ぎ、色素分子のスペクトルを外部からコントロールできるような程度に会合、凝集させられるような、また、色素分子が互いに相互作用を生じないことを防ぎ、色素分子のスペクトルを外部からコントロールできるような程度に会合、凝集させられる色素分子として、色素分子に置換基を設けた色素、好ましくは中心金属に置換基を有する色素、さらに好ましくは中心金属にアルキル置換基を有する色素を取り上げ、この置換基の凝集力や置換基の空間的広がりにより会合、凝集させ、この効果により色素基本骨格のπ共役系の相互作用を生じ、色素のある状態に対して、色素分子のスペクトルを変化させることに特徴がある。
このように本発明における色素は、色素分子に置換基、好ましくは中心金属に置換基、さらに好ましくは中心金属にアルキル置換基を有する。色素分子に置換基がない場合や(中心金属以外の部分に置換された置換基も含めて)、置換基が小さい場合などは、色素分子間の距離が狭く、色素分子どうしの相互作用力が大きい。このため外部エネルギーによる記録、さらには消去処理を施しても、この相互作用力を変えることができず、スペクトルを変化させることができない。したがってスペクトル可動性がないため形状変化を伴わない追記もできないし、勿論可逆性は生じない。
他方置換基が3次元的に非常に大きい場合などは、色素基本骨格どうしの相互作用が弱められ、置換基の分子間力相互作用により色素分子が会合、凝集状態を形成するが、色素分子の基本骨格間の距離が大きくなり、色素分子基本骨格のπ共役系間の相互作用がほとんどなくなる可能性もある。そのため、記録による色素分子間相互作用の変化が少なくなり、可逆性も期待できない(ある1つの安定色素凝集状態ともう1つの安定色素凝集状態のスペクトル差が小さくなる)。したがって、記録により色素分子間の相互作用力を変えることができ(スペクトルの可動性)、しかも場合によりその相互作用力変化に可逆性を持たせるためには、色素分子どうしを十分なスペクトルシフトを起こすような距離圏内に引込み、しかもスペクトル可動性、可逆性をもたせるために色素分子どうしを近づけすぎないようにすることが重要である。
また、本発明ではスペクトル可動性、可逆性の発現、安定性の向上、成膜性や膜均一性の改善のため、色素に高分子化合物を添加するが(例えば1つの色素安定凝集状態として、色素の分散状態を利用する場合)、色素の分散状態を形成するためには高分子化合物と色素が相互作用しなければならない。そのため、色素側に高分子化合物と相互作用しやすいような部位を有することが必要である(勿論高分子化合物にも色素と相互作用しやすいような部位が必要)。
本発明のうち、好ましい色素構造は、色素分子どうしを近づけすぎないようにするために、色素分子の中心金属に置換基を設け、かつ、色素分子どうしを十分なスペクトルシフトを起こすような距離圏内に引込むようにする作用を置換基の凝集力(分子間力)および置換基の空間的広がりに持たせるものである。また、この置換基は高分子化合物とも相互作用できるような形状、大きさ、種類からなることが好ましい。
フ夕ロシアニンまたはナフタロシアニン化合物を置換基の付く場所で大きく分類すると、
1.α位に置換基を有するタイプ
β位に置換基を有するタイプ
3.中心金属に置換基を有するタイプに分けられる。
これらのうち、α位に置換基を有するタイプおよびβ位に置換基を有するタイプのフタロシアニンまたはナフタロシアニン化合物は異性体の存在や、置換基の回転・振動によるエネルギー準位の存在により、スペクトルが広がりやすい。したがって、会合などの凝集状態変化によるスペクトル変化が生じても、その変化が非常に大きくなければ記録コントラストは低い(図2)。
他方中心金属に置換基を有するタイプ、いわゆる軸配位子型のフタロシアニンまたはナフタロシアニン化合物は、一般的に軸配位子の影響がフタロシニンまたはナフタロシアニン化合物の基本骨格に与える影響が少ないため、軸配位子の回転・振動によるエネルギー状態間にほとんど差がない。また、α位やβ位に置換基を導入しなければ、異性体も存在しないため、スペクトルの広がりがなく、溶液状態のような鋭いピークを持つスペクトルを示す。したがって、このような軸配位子型の色素は、会合、凝集状態の変化による色素分子と色素分子間の相互作用変化によって、わずかにスペクトルが変化しても、もとの(ある安定状態)スペクトルが非常にシャープであるため記録コントラストが高くなる(図1)。
さらに、CD系、DVD系メディアと互換性を持たせる構造とした場合、すなわち記録層の上に金属反射層を設けた時、α位に置換基を有するタイプおよびβ位に置換基を有するタイプのフタロシアニンまたはナフタロシアニン化合物は、スペクトルがブロードで、もともと追記変化および可逆変化の2つの安定状態を含んだスペクトル形状を示すこと、本来、メイン構造の色素には存在しないはずの波長領域にも、異性体の存在や、置換基の回転・振動によるエネルギー準位の存在により吸収が存在することなどにより、初期から記録・再生波長に比較的大きな吸収がある場合が多くなり、初期(未記録、消去時)の反射率が低下する恐れがある。つまり未記録・消去時の反射率を高くするような記録・再生波長を選択すると(その波長ではほとんど吸収がない)、その波長に大きな吸収をもたせるようになるほど、スペクトルを動かすことができない可能性がある。
他方中心金属に置換基を有するタイプ、いわゆる軸配位子型のフタロシアニンまたはナフタロシアニン化合物は逆に未記録・消去時の反射率を高くするような記録・再生波長を選択しても、その波長に大きな吸収をもたせるようになるくらい、スペクトルを動かすことが可能である(少しのスペクトル変化で良い)。この軸配位子は無置換状態の場合のように、色素分子間の相互作用が非常に大きい状態から、色素分子間の距離を広げる働きを担い、スペクトル可動性、可逆性を持たせることが可能になると同時に、色素間の相互作用を失わせない作用を担う。つまり、軸配位子を適当に選ぶことによって軸配位子の凝集力および軸配位子の空間的広がりで色素分子間の距離、凝集する角度等の凝集状態をコントロールできるため、さらには高分子化合物との混合系において、色素の軸配位子が高分子化合物とも相互作用しやすいため、記録コントラストが高く、良好な可逆性を有する記録材料の提供が可能となる。
このような理由により、中心金属に置換基を有するタイプ、いわゆる軸配位子型のフタロシアニンまたはナフタロシアニン等の化合物を有機光情報記録媒体用材料として選択したことが本発明の重要な点である。
さて、大きなスペクトル変化を起こすためには、まず色素分子どうし、つまり色素基本骨格のπ共役系どうしを、置換基どうしの分子間力等の相互作用でスペクトルの変化が十分大きくなるような距離圏に引きこむことが必要である。この場合、色素分子どうしが接近しすぎてもスペクトル可動性、可逆性を失う可能性があるため好ましくないが、中心金属に置換基を有するタイプ、いわゆる軸配位子型のフタロシアニンまたはナフタロシアニン等の化合物はその軸配位子によって、色素分子どうしが接近できる距離、角度等の凝集状態をコントロールすることができるので都合がよい。
本発明では特定軸配位子の長さおよび軸配位子の空間的広がりをコントロールすることで、追記性、可逆性を制御できることを見出した。
ところで、色素−色素間の相互作用によるスペクトルは、単分子状態のハミルトニアンに双極子−双極子相互作用の項を取り込むことで近似できる。双極子−双極子相互作用は次式で表される(図12参照)。
(数1)
E(μμ)=−(μA・μB/r3){2cosθAcosθB−sinθAsinθBcos(φA−φB)}
いま双極子−双極子相互作用の項のみを考え、この相互作用によるエネルギー変化を調べると図3のようになり、フタロシアニンまたはナフタロシアニン等の化合物における主骨格環がθ方向に、φ方向に、あるいはθ方向、φ方向の混合で、どのような配置をとるかによってスペクトルの変化量も変わることがわかる。双極子−双極子相互作用の式を見てわかるように、この相互作用によるエネルギー変化を大きくするためには、双極子モーメントの大きさμA、μBを大きくする、距離rを小さくする、あるいはθ、φを最適化することが必要である。
双極子モーメントの大きさμA、μBを大きくすることは、フタロシアニンまたはナフタロシアニン等の化合物における主骨格環を変えることに対応するため、容易に分子設計できない。また前述のように、距離rを極端に小さくすることはスペクトル可動性、可逆性を失うため好ましいものでない。
本発明は、双極子−双極子相互作用力の変化、すなわち色素基本骨格π共役系間の相互作用力変化によるスペクトルシフトを大きくすることを、スペクトル可動性、可逆性を失わない範囲での色素基本骨格間距離r、θ方向、φ方向の配置をコントロールすることにより行う。このコントロールは中心金属の置換基、すなわち軸配位子を選択することで達成できることを見出した。
2つの色素凝集状態として色素分散状態と色素凝集状態を用いる場合、色素凝集状態はランダムに色素が凝集した状態であっても良いが、色素分散状態と色素凝集状態間のスペクトル変化を大きくするためには、色素がある程度規則性をもって凝集することが好ましい。2つの凝集状態として1つの色素凝集状態と、もう1つの色素凝集状態を用いる場合、少なくともどちらかの凝集状態がある程度規則性をもって凝集することが好ましい。
本発明ではこのようにある程度規則性をもって凝集させることを、軸配位子を選択することで達成させられることをも見出した。つまり、軸配位子を変えることで、軸配位子の傾き、立体障害性、かさ高さ、たわみやすさ等をコントロールでき、したがって色素分子どうしの相互作用配置、凝集状態の規則性を変えることができる。このような軸配位子としてはアルキル基が好ましい。これはアルキル基が適当な凝集力を有し、アルキル基を大きくしても色素基本骨格π共役系間の相互作用を持たることができるためである。例えば下記式(2)および(3)で示される化合物のR1、R2、R3におけるアルキル基は、前述の双極子−双極子相互作用によるエネルギー変化を見てわかるように、非会合、非凝集のいわゆる色素分子の分散状態、あるいはある1つの色素凝集状態からのスペクトル変化量を大きくするために、他方の色素凝集状態は規則性を持って凝集することが好ましく、このような状態にするためには例えば軸配位子が比較的立った状態になるアルキル基が選択され、色素分子、どうしが、いわゆるH会合した状態をとるような、または軸配位子が極端に寝た状態になるアルキル基が選択され、色素分子どうしが、いわゆるJ会合した状態をとるような状態が好ましく、このような状態をとるための最適組合わせが存在する。
式(2)および(3)中のX1〜X4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいアリールチオ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、スルホン酸アミド基、スルホン酸エステル基を示す。k、l、m、nは置換基X1〜X4の置換数で0〜4の整数を示す。
2つの色素凝集状態として、色素の分散状態に近い状態と色素の凝集状態を安定的に形成しやすい色素構造としては、例えば、上記式(2)および(3)で示される化合物において、R1、R2、R3はアルキル基であり、R1、R2、R3はアルキル基の種類が異なっていてもよく、好ましい1例としては、R3はR1とR2のうち炭素数の大きいアルキル基よりも炭素数で3つ以上の差を有するアルキル基、または、上記式(2)および(3)で示される化合物において、R1、R2、R3はアルキル基であって、R1、R2、R3はアルキル基の種類が異なっていてもよく、R1、R2は炭素数3以下のアルキル基であり、R3はR1とR2のうち炭素数の大きいアルキル基よりも炭素数で3つ以上の差を有するアルキル基がスペクトル変化を大きくできる最適組合わせであることを見出した。
具体的に説明すると、上記式(2)および(3)で示される化合物において、R1、R2、R3が同一で大きなアルキル基である場合は空間的に密で、色素基本骨格π共役系どうしがあまり近づけなく(rが大きくなる)、色素基本骨格π共役系の相互作用が低下するためスペクトルシフト量が小さい。また、アルキル基3つがすべて大きなアルキル基であると、そのアルキル基部分が結晶化しやすくなり、光情報記録媒体としては使用できない。そこで、上記式(2)および(3)で示される化合物において、R1、R2、R3のうち一つのアルキル基は直鎖部分が6以上で、他の二つのアルキル基は直鎖部分が6以下で、うち一つのアルキル基は直鎖部分が3のアルキル基とすることで、上記の問題が改善できる。これによって、大きなスペクトル変化を生じる可逆性記録材料が提供される。
軸配位子に適したアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、イソアミル基、2−メチルブチル基、n−へキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルぺンチル基、4−メチルペンチル基、2−エチルブチル基、n−へプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、2−エチルペンチル基、3−エチルペンチル基、n−オクチル基、2−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基等の一級アルキル基、イソプロピル基、sec−ブチル基、1−エチルプロピル基、1−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−メチルヘプチル基、1−エチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、1−メチルヘキシル基、1−エチルヘプチル基、1−プロピルブチル基、1−イソプロピル−2−メチルプロピル基、1−エチル−2−メチルブチル基、1−プロピル−2−メチルプロピル基、1−メチルヘプチル基、1−エチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、1−イソプロピルペンチル基、1−イソプロピル−2−メチルブチル基、1−イソプロピル−3−メチルブチル基、1−メチルオクチル基、1−エチルヘプチル基、1−プロピルヘキシル基、1−イソブチル−3−メチルブチル基等の二級アルキル基、tert−ブチル基、tert−へキシル基、tert−アミル基、tert−オクチル基等の三級アルキル基、シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−エチルシクロヘキシル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基、4−(2−エチルヘキシル)シクロヘキシル基、ボルニル基、イソボルニル基、アダマンタン基等のシクロアルキル基等が挙げられる。
また、上記式(2)および(3)中のX1〜X4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいアリールチオ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、スルホン酸アミド基、スルホン酸エステル基を示す。k、l、m、nは置換基X1〜X4の置換数で0〜4の整数を示す。上記式(2)および(3)中のX1〜X4は、好ましくは置換基があまり立体的に大きくなく、置換基の数としても少ないものが良い。これは置換基として立体的に大きいもの、また、置換基を数多く導入することは、軸配位子型色素のスペクトルの特徴をなくすものだからである。
ところで本発明では、上述したような構造を有する色素と可逆性およびスペクトルシフト性の相関を検討した結果などから、上記の例示軸配位置換基構造R1〜R3よりもさらに良好な可逆性およびスペクトルシフト性を示す置換基を検討し、スペクトルシフト量を大きくすることを可能にするために色素π共役系どうしの相互作用確率を高め、かつ、場合により可逆性をも付与することを目的とし鋭意実験を行った結果、上記式(1)に示す軸配位置換基が優れた可逆性およびスペクトルシフト性を示すことを見出した。
次に高分子化合物導入による色素分子の分散状態形成について以下説明する。例えば1つの色素安定凝集状態として色素の分散状態を用いる場合、この色素の分散状態を形成させるためは、色素の分散状態を安定的につくるような他分子を導入すればよい。このようにすれば色素の会合、凝集状態も色素の分散状態も安定に存在することができる。つまり色素分子の会合、凝集エネルギーと他分子の会合、凝集エネルギーの差が小さければよいことになる。
高分子化合物は側鎖の修飾や、重合度等、相互作用を制御できる因子が多いので、分散状態、凝集状態を作ることが容易であると考えられる。これらのことから色素分子への混合物として、側鎖に大きな置換基を持つ高分子化合物が好ましい例として挙げられる。なぜなら、高分子化合物がいわゆる、主鎖のみからなる高分子化合物であると、高分子化合物は色素に対して非常に大きい分子であり、その形状も基本的にはランダムであるため、色素と相互作用できるような距離にお互いが接近できる可能性が少なくなるが、主鎖に大きな、かさ高い置換基を導入することで、高分子化合物側鎖の置換基と色素の軸配位子間、つまり高分子化合物と色素間に相互作用が生じるためである。
また本発明では、色素の軸配位子の好ましい例としてアルキル基が挙げられるが、このアルキル置換基との相互作用を大きくするために、高分子化合物の側鎖にもアルキル基が置換されることが好ましい。具体的に好ましい例としては、下記式(4)で示されるポリメタクリル酸エステル、あるいは下記式(5)で示されるポリスチレン置換体が挙げられる。
ポリメタクリル酸エステルにおいてはRが分岐を有していてもよい炭素数3以上のアルキル基が好ましい。ポリスチレン置換体においては置換基がZ1〜Z6のうち少なくとも1箇所以上に炭素数3以上の分岐を有してもよいアルキル基が置換されていることが好ましい。但し、そのうち置換基の1つの位置がZ6の場合は、炭素数1以上の分岐を有してもよいアルキル基が置換されていることが好ましく、置換基は複数導入されていてもかまわない。
これらの高分子の規定は、側鎖へのアルキル基の導入、また側鎖に立体障害をもたらす、かさ高い置換基導入により高分子間の相互作用を低下させるため、さらには側鎖のアルキル基と色素分子の置換基、具体的には中心金属に置換されたアルキル基部分との分子間力、すなわち相互作用を高め、色素分子の分散状態形成を達成するために必要である。
上述した高分子は、光や熱などの外部エネルギーにより、いわば受動的に相互作用変化をもたらす高分子であるが、他にも外部エネルギーにより高分子が自ら変化を起こす能動型の高分子も本発明には適している。この能動型の高分子は、光または熱などの外部エネルギーにより電子的または構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物であり、例えばフォトクロミズムやサーモクロミズムを示す高分子材料がある。
光、または熱などの外部エネルギーにより電子的または構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物は、高分子化合物の可逆的な電子的または構造的変化を利用して色素分子の凝集状態を可逆的に変化させるものである。光または熱などの外部エネルギーにより電子的または構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物としては、例えば主鎖、あるいは側鎖に、O、N、S、P、As、Se等の配位原子を含んだ配位基をもつ高分子化合物、あるいは外部エネルギーに対して分子鎖の形態が変化するような高分子化合物などが用いられる。このような高分子の例としては、下記式(6)で示される高分子化合物が挙げられる。
式(6)中、R11、R12は水素または置換基を有してもよいアルキル基を示す。これらは同一であっても良いが、両方同時に水素となることはなく、少なくとも一方は置換基を有しても良いアルキル基で、XはS、O、SeまたはNR13であり、R13は水素、アルキル基またはアリール基を示す。これらのうち、好ましくは、Xが硫黄原子であるポリチオフェン誘導体で、さらに好ましくはR11、R12のうち、1つが水素原子で、他方がアルキル基であるポリ(3−アルキルチオフェン)である。また、このポリ(3−アルキルチオフェン)のうちでも、有機溶媒への溶解性、高分子間の相互作用力、色素分子との相互作用力等の関係からn=6以上のアルキル基が好ましい。
外部エネルギーが光である場合、上述の分子鎖形態が変化する高分子は、光誘起分子鎖形態が変化する光応答性高分子ということができ、例えば以下のようなタイプのものが本発明に適する高分子化合物の1例として挙げることかできる。
1.高分子の主鎖または側鎖に含まれている光感応基間の相互作用を光異性化により変化させる。
2.高分子主鎖に含まれている光感応基の構造を変化させる。
光照射により、高分子鎖に沿って電荷を可逆的に発生させ、それらの静電反発を利用する。
さらに、熱可塑性高分子化合物も本発明には使用できるが、高分子どうしの相互作用を低下させ、また色素分子との相互作用力を高めるために、側鎖にアルキル基などの部位を有する置換基が導入されることが好ましい。熱可塑性高分子化合物としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリビニルエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等が挙げられる。
以上、本発明に適した色素と高分子化合物について述べたが、本発明の光情報記録媒体は、基本的に色素自体が持っているスペクトルシフト能力、あるいは可逆性を利用するもので、高分子化合物はどちらかというと補助的役割を担っている。
記録層の形成にあたっては、光エネルギーの効率、波長整合性、色素の分子集合状態、分散状態、結晶状態の変化促進のために、他の色素を添加してもよい。そのような色素としては、例えばポリメチン色素、ナフタロシアニン系、フタロシアニン系、スクアリリウム系、コロコニウム系、ピリリウム系、ナフトキノン系、アントラキノン(インダンスレン)系、キサンテン系、トリフェニルメタン系、アズレン系、テトラヒドロコリン系、フェナンスレン系、トリフェノチアジン系染料およひ金属錯体化合物などが挙げられ、上記の染料を単独で用いてもよいし、2種以上の組合わせにしてもよい。
また、上記染料中に金属、金属化合物、例えばIn、Te、Bi、Al、Be、TeO2、SnO、As、Cdなどを分散混合、あるいは積層の形態で用いることもできる。さらに、上記染料中に高分子材料、例えばアイオノマー樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニル系樹脂、天然高分子、シリコーン、液状ゴムなどの種々の材料、もしくはシランカップリング剤などを分散混合して用いてもよいし、あるいは特性改良の目的で、安定剤(例えば遷移金属錯体)、分散剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、可塑剤などと一緒に用いることができる。
記録層の形成は、蒸着、スパッタリング、CVDまたは溶剤塗布などの通常の手段によって行うことができる。塗布法を用いる場合には、上記染料などを有機溶媒に溶解させて、スプレー、ローラーコーティング、ディッピングおよびスピンコーティングなどの慣用のコーティング法によって行われる。有機溶媒としては、一般にメタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエタンなどの脂肪族ハロゲン化炭素類、あるいは、ベンゼン、キシレン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族類、メトキシエタノール、エトキシエタノールなどのセルソルブ類、ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素類などを用いることができる。
記録層の膜厚は、100Å〜10μm、好ましくは200Å〜2000Åが適当である。
《基板》基板の必要特性としては、基板側より記録・再生を行う場合のみ使用レーザ光に対して透明でなければならず、記録層側から記録・再生を行う場合は透明である必要はない。基板材料としては例えば、ポリエステル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミドなどのプラスチック、あるいはガラス、セラミック、金属などを用いることができる。なお、基板の表面にトラッキング用の案内溝や案内ピット、さらにアドレス信号などのプレフォーマットが形成されていてもよい。
《下引き層》下引き層は、(a)接着性の向上、(b)水またはガスなどのバリアー、(c)記録層の保存安定性の向上、(d)反射率の向上、(e)溶剤からの基板の保護、(f)案内溝、案内ピット.プレフォーマット等の形成などを目的として使用される。(a)の目的に対しては高分子材料、例えばアイオノマー樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル系樹脂、天然樹脂、天然高分子、シリコーン、液状ゴムなどの種々の高分子物質およびシランカップリング剤などを用いることができ、(b)および(c)の目的に対しては、上記高分子材料以外に無機化合物、例えばSiO2、MgF2、SiO、TiO2、ZnO、TiN、SiNなど金属または半金属、例えばZn、Cu、Ni、Cr、Ge、Se、Au、Ag、Alなどを用いることができる。また、(d)の目的に対しては金属、例えばAl、Ag等や金属光沢を有する有機薄膜、例えばメチン染料、キサンテン系染料等を用いることができ、(e)および(f)の目的に対しては紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂等を用いることができる。下引き層の膜厚は0.01〜30μm、好ましくは0.05〜10μmが適当である。
《保護層・基板表面ハードコート層》保護層または基板表面ハードコート層は、(a)記録層(反射吸収層)を傷、ホコリ、汚れ等から保護する、(b)記録層(反射吸収層)の保存安定性の向上、(c)反射率の向上等を目的として使用される。これらの目的に対しては、前記下引き層に示した材料を用いることができる。また無機材料として、SiO、SiO2なども用いることができ、有機材料として、ポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂、セルロース、脂肪族炭化水素樹脂、芳香族炭化水素樹脂、天然ゴム、スチレン−ブタジエン樹脂、クロロプレンゴム、ワックス、アルキッド樹脂、乾性油、ロジン等の熱軟化性、熱溶融性樹脂も用いることができる。上記材料のうち保護層または基板表面ハードコート層に最も好ましい物質は、生産性に優れた紫外線硬化樹脂である。保護層または基板表面ハードコート層の膜厚は、0.01〜30μm、好ましくは0.05〜10μmが適当である。
本発明において、前記下引き層、保護層または基板表面ハードコート層には、記録層の場合と同様に、安定剤、分散剤、難然剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、可塑剤等を含有させることができる。
《金属反射層》反射層は単体で高反射率の得られる、腐食されにくい金属、半金属等が挙げられ、材料例としてはAu、Ag、Cu、Cr、Ni、Alなどが挙げられ、好ましくはAu、Alがよい。これらの金属、半金属は単独で使用してもよく、2種以上の合金としてもよい。膜形成方法としては、蒸着、スパッタリングなどが挙げられ、膜厚としては50〜3000Å、好ましくは100〜1000Åてある。
以下実施例によりさらに具体的に説明する。下記式(7)で示されるフタロシアニン化合物において、nが7、11である化合物を合成した。このフタロシアニン化合物をクロロホルムに溶解させ、スピンコーティング法によりガラス基板上に薄膜を形成した。
このサンプルの分光特性を測定したところ、図4〜図5のようになり、この色素が複数の安定した凝集状態を形成することがわかった。また、それぞれのクロロホルム溶液のスペクトルは、図6〜図7に示すとおりで、両者の溶液状態では色素間相互作用がほとんどなく、分子が単一分散状態となっている。このことから、本発明の色素が、固体となるときに特異な凝集状態を生じていることがわかる。
n=11のサンプルに対して、初期と100℃、150℃に加熱したときのスペクトルを測定したところ、図8に示すように凝集状態を変化させることができ、スペクトルの変化を生じた。さらに、この凝集状態の変化は、可逆性をも持たせることができた。このサンプルの初期、100℃、150℃の加熱による膜状態を高分解能の顕微鏡で観察した結果、表面形状にまったく変化はなく、均一膜であった。
比較例として、上記式(7)のn−C37基に代えて、CH3基、C25基、i−C37基を有する式(8)〜(10)のフタロシアニン化合物を合成した。
これらのフタロシアニン化合物も上記同様クロロホルムに溶解させ、スピンコーティング法によりガラス基板上に薄膜を形成させた。これらのサンプルの分光特性を測定したところ、図9〜図11のようになり、色素分子がランダムに凝集していると推測される。但し、図9はSiPc[−OSi(CH3281722を(式(8))、図10はSiPc[−OSi(C2528172を(式(9))、図11はSiPc[−OSi(i−C3728172(式(10))の薄膜スペクトルである。このうち図10のSiPc[−OSi(C2528172を(式(9))は、他の色素に比べて薄膜が結晶化しやすく、膜質は不良であった。これも置換基の凝集力および空間的広がりによる特有の効果により生じているものと考えられる。また、これらのサンプルは、100℃および150℃の加熱ではスペクトルがシフトしなかった。これらのことから、本発明の色素構造が、その色素構造により規則的な1つ以上の色素凝集状態を形成させる特有の効果があることがわかった。
色素分子が凝集するとスペクトルがシフトすることを示す図。 スペクトル変化が小さければ記録コントラストは低いことを示す図。 色素−色素間の相互作用によるエネルギー変化とスペクトルの変化量との関係を示す図。 試作したフタロシアニン化合物の薄膜の分光特性を示す図。 試作したフタロシアニン化合物の薄膜の分光特性を示す図。 試作したフタロシアニン化合物の溶液状態の分光特性を示す図。 試作したフタロシアニン化合物の溶液状態の分光特性を示す図。 薄膜を加熱することにより分光特性が変化する状態を示す図。 試作したフタロシアニン化合物の薄膜の分光特性を示す図。 試作したフタロシアニン化合物の薄膜の分光特性を示す図。 試作したフタロシアニン化合物の薄膜の分光特性を示す図。 数式1を説明するための補助的説明図。

Claims (8)

  1. 少なくとも色素分子を含む材料、または少なくとも色素分子と高分子化合物を含む混合系材料からなり、色素分子の凝集状態の変化に伴って異なるスペクトルを示す光情報記録媒体であって、前記色素分子が下記式(1)で表される構造を有することを特徴とする光情報記録媒体。
    式中、X1〜X4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいアリールチオ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、スルホン酸アミド基またはスルホン酸エステル基を表す。また、k、l、m、nは置換基X1〜X4の置換数で0〜4の整数を表す。
  2. 請求項1記載の光情報記録媒体において、前記高分子化合物が下記式(4)で表されるポリメタクリル酸エステルであることを特徴とする光情報記録媒体。
    式中、Rは分岐を有してもよい炭素数3以上のアルキル基を表す。
  3. 請求項1記載の光情報記録媒体において、前記高分子化合物が下記式(5)で表されるポリスチレン置換体であることを特徴とする光情報記録媒体。
    式中、Z1〜Z6のうちの少なくとも1箇所以上は炭素数3以上のアルキル基である。
  4. 請求項1記載の光情報記録媒体において、前記高分子化合物が下記式(6)で表される化合物あることを特徴とする光情報記録媒体。
    式中、R11、R12は水素または置換基を有してもよいアルキル基を表す。これらは同一であってもよいが、両方同時に水素となることはなく、少なくとも一方は置換基を有してもよいアルキル基で、XはS、O、SeまたはNR13であり、R13は水素、アルキル基またはアリール基を表す。
  5. 請求項1〜4記載のいずれかの光情報記録媒体の未記録状態に対して外部エネルギーを照射し、前記色素分子のスペクトルを変化させることにより記録を行うことを特徴とする光情報記録媒体の記録方法。
  6. 請求項1〜4記載のいずれかの光情報記録媒体の未記録状態に対して外部エネルギーの照射により、前記色素分子のスペクトルが変化する領域の波長を用いて記録を再生することを特徴とする光情報記録媒体の再生方法。
  7. 請求項1〜4記載のいずれかの光情報記録媒体の未記録状態に対して、第一の外部エネルギーの照射により色素分子のスペクトルを変化させて記録が行われた記録状態に対して、第二の外部エネルギーの照射により色素分子のスペクトルを未記録状態と同じスペクトルに戻すことにより記録を消去することを特徴とする光情報記録媒体の消去方法。
  8. 請求項1記載の光情報記録媒体において、前記色素分子が下記式(2)または(3)で表される構造を有することを特徴とする光情報記録媒体。
    式(2)または(3)において、R1〜R3はアルキル基で、R1〜R3のうちのいずれか一つのアルキル基は直鎖部分が6以上で、他の二つのアルキル基は直鎖部分が6以下で、うち一つのアルキル基は直鎖部分が3のアルキル基を表す。X1〜X4は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアリールオキシ基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいアリールチオ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、スルホン酸アミド基またはスルホン酸エステル基を表す。また、k、l、m、nは置換基X1〜X4の置換数で0〜4の整数を表す。
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