JP3624988B2 - 光情報記録用材料及び光情報記録媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、書き換え型の光情報記録用材料及びこれを利用した光情報記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、書き換え型の光情報記録媒体の記録層には、一般に無機材料が用いられ、例えば、カー効果を利用したTeFeCo等の合金からなる光磁気記録材料や、カルコゲナイド薄膜により相変化を利用した相変化型光記録材料などがある。これら無機系材料は有害物質を多く含んでおり、また、その成膜方法が蒸着やスパッタリングなどに限定されるためコスト高になるというデメリットを有していることから有機系材料が注目されている。
【0003】
有機系の書き換え型材料としては、スピロピラン等のフォトクロミック化合物(特開昭59−227972号公報)や液晶高分子と色素との混合物(特開平2−136289号公報)などが提案されている。
しかしながら、スピロピラン等のフォトクロミック化合物は、記録状態の安定性や記録・消去の繰返し性、読み出し破壊等の問題があり、実用的には未だ未解決の問題が多い。一方、液晶高分子と色素の混合物系材料の可逆変化メカニズムは、液晶高分子の側鎖の配列状態が変化することで液晶高分子と色素間の相互作用が変化し、結果として記録層の光学特性を可逆的に変化させるものである。
その他書き換え型の記録材料として、特開平4−339865号公報など種々のものが提案されているが、有機系の材料として実用的に十分なものは未だなく、新規な材料が待たれている。
【0004】
更に、特開平6−223374号公報では、光透過性の基板と光照射によって会合状態を生じる色素材料を含有する記録膜が提案されているが、該明細書中に書き換えの記載がなく、また記録モードが光照射を受けた部分の反射率が大きくなる、いわゆるLow to high記録である。特開平6−251417号公報では、フタロシアニンポリマーを用いることで、良好な記録を実現しているが、上記同様該明細書中にも書き換えの記載がなく、また記録モードがLow to high記録で通常の光ディスクとは記録極性が逆となっている。
【0005】
また、特開平6−251418号公報では、特定のフタロシアニンと融点が140〜250℃の範囲にある有機化合物との混合膜により、記録・消去を達成している。しかし、この場合もLow to high記録で通常の光ディスクとは極性が逆であり、また変化レベルが42%から56%で、あまり大きくない。更に、特開平6−279597号公報では、ポリアルキルアクリレート系樹脂とフタロシアニン化合物を含有してなる近赤外線吸収フィルムが提案されているが、該明細書中に書き換えの記載がなく、耐光性改善のための方法として示されている。これらの記録材料は、ほとんど全てLow to high記録で、未記録状態で60〜70%以上の反射率が必要なCDファミリー系のメディアとしては適用できない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、いわゆるhigh to lowの通常の光ディスクと同一の極性で記録が行え、CDファミリー系のメディアと互換性を有し、また記録コントラストが大きく、但つ消去比が高い有機可逆光情報記録媒体を提供することを目的とする。更には、CD、CD−R、DVD等のCDファミリー系メディアのドライブで情報を読みだすことができるような互換性を持たせる有機可逆光情報記録媒体を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本願発明によれば、第一に、下記一般式(III)又は(IV)で示される化合物において、中心金属Siの置換基同士の凝集力を、光又は熱などの外部エネルギーによって変化させることで、色素分子間の相互作用力を変化させ、その結果生じるエネルギー状態の変化を利用して情報の記録、あるいは情報の記録及び消去が行えることを特徴とする光情報記録用材料が提供される。
【化3】
【化4】
(式中、R14〜R16はアルキル基を表わし、R14とR15とは同一でも異なっていてもよく、R16はR14とR15のうち炭素数の大きいアルキル基よりも炭素数で5つ以上の差を有するアルキル基である。X 1 〜X 4 はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のアリールオキシ基、置換若しくは未置換のアルキルチオ基、置換若しくは未置換のアリールチオ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、スルホン酸アミド基又はスルホン酸エステル基である。また、k、l、m、nはそれぞれ独立に0〜4の整数である。)
第二に、下記一般式(V)又は(VI)で示される化合物において、中心金属Siの置換基同士の凝集力を、光又は熱などの外部エネルギーによって変化させることで、色素分子間の相互作用力を変化させ、その結果生じるエネルギー状態の変化を利用して情報の記録、あるいは情報の記録及び消去が行えることを特徴とする光情報記録用材料が提供される。
【化5】
【化6】
(式中、R17〜R19はアルキル基を表わし、R17とR18とは同一でも異なっていてもよい炭素数3以下のアルキル基であり、R19はR17とR18のうち炭素数の大きいアルキル基よりも炭素数で5つ以上の差を有するアルキル基である。X 1 〜X 4 はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のアリールオキシ基、置換若しくは未置換のアルキルチオ基、置換若しくは未置換のアリールチオ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、スルホン酸アミド基又はスルホン酸エステル基である。また、k、l、m、nはそれぞれ独立に0〜4の整数である。)
第三に、前記第一に記載した光情報記録用材料と、光又は熱などの外部エネルギーにより電子的又は構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物とからなることを特徴とする光情報記録用材料が提供される。第四に、前記第二に記載した光情報記録用材料と、光又は熱などの外部エネルギーにより電子的又は構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物とからなることを特徴とする光情報記録用材料が提供される。第五に、前記光又は熱などの外部エネルギーにより電子的又は構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物が、サーモクロミズムを示す高分子材料若しくは可逆性を有する熱可塑性高分子材料であることを特徴とする前記第三又は第四に記載した光情報記録用材料が提供される。第六に、基板上に前記第一〜第五のいずれかに記載した光情報記録用材料からなる記録層及び反射層を積層してなることを特徴とする光情報記録媒体が提供される。
【0008】
本発明の光情報記録用材料は、前記一般式(III)又は(IV)で示される化合物からなるものとしたことから、その中心金属Siの置換基同士の凝集力を光又は熱などによって変化させ、色素分子間の相互作用力を変化させることによって、大きなスペクトルシフト及び良好な可逆変化を発生するものとなる。従って、該記録用材料を記録層に含有させた本発明の光情報記録媒体は、記録コントラストが大きく且つ良好な可逆変化を示す(消去能力の高い)ものとなる。また、本発明の記録又は記録・消去方法は、上記光情報記録媒体を使用することから、大きなスペクトルシフトを生じさせる記録方法及び良好な可逆変化を生じさせる記録・消去方法となる。なお、本発明の光情報記録媒体は、CDメディアと互換性のある書き換え型光情報記録媒体を提供するものであるが、これだけに限定されるものではなく、現行のCD−Rのような一回だけ書き込み可能な追記型光情報記録媒体にも適用可能なものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下本発明の詳細について説明する。
フタロシアニン、ナフタロシアニン化合物は、現状でも光情報記録媒体の材料として最も適した材料の1つである。ただ、CD−R、すなわちユーザが1回だけ情報を書き込めるタイプのメディアにおいては、フタロシアニン、ナフタロシアニン化合物は単に情報記録時のレーザ光吸収用として使用され、記録はレーザ光吸収によるフタロシアニン、ナフタロシアニン化合物の分解、あるいはフタロシアニン、ナフタロシアニン化合物はのレーザ光吸収による基板の変形により行われている。しかし、本発明では、フタロシアニン、ナフタロシアニン化合物を従来のように単なる吸収剤として使用するのではなく、フタロシアニン、ナフタロシアニン化合物自体の物性変化を直接的に利用することで、基板変形等の表面形状の変化を伴わない可逆性を有する光情報記録用材料、及び光情報記録媒体を提供する。
【0010】
ところで、フタロシアニン、ナフタロシアニン化合物による可逆性は、例えば分散状態、結晶状態、凝集状態、構造、電子的状態等の変化により生ずる。これらの可逆変化のうち、レーザ光による記録・消去で良好な可逆性が期待できるものは、分散状態の変化や凝集状態の変化を利用するものである。但し、ここでいう分散状態の変化とは、色素の凝集状態の変化という意味でなく、均一であった膜が不均一膜となるような、いわゆる相分離のような状態を指す意味として用いている。分散状態の変化による可逆性は、基本的には色素の凝集状態に変化が生じないため、一般的に図1に示すようなスペクトルの増減による可逆変化を示すのみである。他方、凝集状態の変化を利用する可逆性は、色素分子と色素分子間の相互作用が変化するもので、スペクトルの増減は生じず、図2に示すように、スペクトルの短波長、あるいは長波長へのシフトを起こす。例えば、色素のいわゆるJ−会合、H−会合等の会合現象が、この凝集状態の変化にあたるものである。
【0011】
一般的に言って、分散状態の変化は膜の表面状態変化が激しく、光メモリーには適していないため、色素の凝集状態を可逆的に変化させることのできる色素を探索する必要がある。本発明は、この色素分子の相互作用力変化(従って異なるエネルギー状態をとることになり、スペクトルシフトが生じる)を、色素分子の中心金属に置換された置換基の凝集力変化により生じさせることに特徴がある。つまり、色素分子に置換基がない場合(中心金属以外の部分に置換された置換基も含めて)、置換基が小さい場合などは、色素分子同士の相互作用力が大きく、色素分子間距離も狭い。このため記録、更には消去処理を施しても、この相互作用力を変えることができず、可逆性は生じない。他方、置換基が非常に大きい場合などは、色素分子間の距離が大きくなり、色素分子間の相互作用がほとんどなくなる。そのため、記録処理による色素分子間相互作用の変化を起こすことができないし、当然可逆性もない。従って、記録により色素分子間の相互作用力を変えることができ、しかもその相互作用力変化に可逆性を持たせるためには、色素分子同士を十分なスペクトルシフトを起こすような距離圏内に引込み、しかも可逆性を持たせるために色素分子同士を近づけすぎないようにすることが重要である。
本発明では、色素分子同士を近づけすぎないようにするために、色素分子の中心金属に置換基を設け、且つ色素分子同士を十分なスペクトルシフトを起こすような距離圏内に引込むようにする作用を置換基の凝集力に持たせるものである。
【0012】
フタロシアニン、ナフタロシアニン化合物を置換基の付く場所で大きく分類すると、
▲1▼α位に置換基を有するタイプ
▲2▼β位に置換基を有するタイプ
▲3▼中心金属に置換基を有するタイプ
に分けられる。
これらのうち、α位に置換基を有するタイプ、及びβ位に置換基を有するタイプのフタロシアニン、ナフタロシアニン化合物は、異性体の存在や、置換基の回転・振動によるエネルギー準位の存在により、スペクトルが広がりやすい。従って、会合などの凝集状態変化によるスペクトル変化が生じても、その変化が非常に大きくなれば記録コントラストは低い(図3)。
【0013】
他方、中心金属に置換基を有するタイプ、いわゆる軸配位子型のフタロシアニン、ナフタロシアニン化合物は、一般的に軸配位子の影響がフタロシアニン、ナフタロシアニン化合物の基本骨格に与える影響が少ないため、軸配位子の回転・振動によるエネルギー状態間にほとんど差がない。また、α位やβ位置換基を導入しなければ、異性体も存在しないため、スペクトルの広がりがなく、溶液状態のような鋭いピークを持つスペクトルを示す。従って、このような軸配位子型の色素は、凝集状態の変化による色素分子と色素分子間の相互作用変化によって、わずかにスペクトルが変化しても、もとの(ある安定状態)スペクトルが非常にシャープであるため記録コントラストが高くなる(図2)。
【0014】
更に、CD系メディアと互換性を持たせる構造とした場合、すなわち記録層の上に金属反射層設けた時、α位に置換基を有するタイプ、及びβ位に置換基を有するタイプのフタロシアニン、ナフタロシアニン化合物は、スペクトルがブロードで、もともと可逆変化の2つの安定状態を含んだスペクトル形状を示すこと、本来メイン構造の色素には存在しないはずの波長領域にも、異性体の存在や、置換基の回転・振動によるエネルギー準位の存在により吸収が存在することなどのために、初期から記録・再生波長に比較的大きな吸収がある場合が多くなり、初期(未記録、消去時)の反射率が低下する恐れがある。
つまり、未記録・消去時の反射率を高くするような記録・再生波長を選択すると(その波長ではほとんど吸収がない)、その波長に大きな吸収をもたせるようになるほど、スペクトルを動かすことができない可能性がある。
【0015】
他方、中心金属に置換基を有するタイプ、いわゆる軸配位子型のフタロシアニン、ナフタロシアニン化合物は、逆に未記録・消去時の反射率を高くするような記録・再生波長を選択しても、その波長に大きな吸収をもたせるようになるぐらい、スペクトルを動かすことが可能である(少しのスペクトル変化で良い)。この軸配位子は無置換状態の場合のように、色素分子間の相互作用が非常に大きい状態から、色素分子間の距離を広げる働きを担い、可逆性を持たせることが可能になると同時に、軸配位子を適当に選ぶことによって軸配位子の凝集力で色素分子間の距離をコントロールできるため、記録コントラストが高く、良好な可逆性を有する記録材料の提供が可能となる。
【0016】
このような理由により、中心金属に置換基を有するタイプ、いわゆる軸配位子型のフタロシアニン、ナフタロシアニン化合物を有機可逆性材料として選択したことが本発明の重要な点である。
【0018】
さて、大きなスペクトル変化を起こすためには、まず色素分子同士を、色素−色素間相互作用でスペクトルの変化が十分大きくなるような距離圏に引きこむことが必要である。この場合、色素分子同士が接近しすぎても可逆性を失う可能性があるため好ましくないが、中心金属に置換基を有するタイプ、いわゆる軸配位子型のフタロシアニン、ナフタロシアニン等の化合物は、その軸配位子によって、色素分子同士が接近できる距離をコントロールすることができるので都合がよい。
本発明者らは比較的大きな軸配位子を有するフタロシアニン、ナフタロシアニン等の化合物でないと、可逆性が悪いことを見出すとともに、大きな軸配位子を有していても色素分子同士が凝集するようにさせるため、軸配位子としてアルキル基をつけ、これにより大きな可逆性をもたせることができることを見出した。
【0019】
ところで、色素−色素間の相互作用によるスペクトルは、単分子状態のハミルトニアンに双極子−双極子相互作用の項を取り込むことで近似できる。双極子−双極子相互作用は次式で表される。
【数1】
E( μμ )=−(μA・μB/r3){2cosθAcosθB−sinθAsinθBcos(φA−φB)} (但し、式中μA、μBは色素分子の双極子モーメントの大きさ、rは色素分子間、すなわち双極子間の距離、θは双極子中心間を結ぶ直線と双極子がなす角度、φは双極子の前記双極子中心間を結ぶ直線を軸とする回転角度を示す。)
【0020】
いま、双極子−双極子相互作用の項のみを考え、この相互作用によるエネルギー変化を調べると図4のようになり、フタロシアニン、ナフタロシアニン等の化合物における主骨格環がθ方向に、φ方向に、あるいはθ方向、φ方向の混合で、どのような配置をとるかによってスペクトルの変化量も変わることがわかる。
双極子−双極子相互作用の式を見てわかるように、この相互作用によるエネルギー変化を大きくするためには、双極子モーメントの大きさμA、μBを大きくする、距離rを小さくする、あるいはφ、θを最適化することが必要である。
双極子モーメントの大きさμA、μBを大きくすることは、フタロシアニン、ナフタロシアニン等の化合物における主骨格環を変えることに対応するため、容易に分子設計できない。また前述のように、距離rを極端に小さくすることは可逆性を失うため好ましいものでない。
【0021】
本発明は、双極子−双極子相互作用力の変化、すなわち色素−色素分子間の相互作用力変化によるスペクトルシフトを大きくすることを、主骨格環のθ方向、φ方向の配置、及びスペクトルシフト性を失わせない範囲でのrをコントロールすることにより行う。このコントロールは中心金属の置換基、すなわち軸配位子を選択することで達成できることが見出された。
つまり図5のように、軸配位子を変えることで、軸配位子の傾き、及び軸配位子の立体障害性をコントロールでき、従って色素分子同士の相互作用配置を変えることができる(例えばH会合状態にする、J会合状態にするかをコントロールできる)。このような軸配位子としてはアルキル基が好ましい。これはアルキル基の凝集力が大きく、色素−色素間の相互作用を持たせやすいためである。
【0022】
更に、前述の双極子−双極子相互作用によるエネルギー変化を見てわかるように、スペクトル変化量を大きくするために、軸配位子が比較的立った状態になる置換基を選択する、あるいは軸配位子が極端に寝た状態になるアルキル基を選択することが好ましく、このような状態をとるための最適組合わせが存在する。
【0023】
例えば、中心金属Mが特定の構造を有する置換基含有金属原子である化合物の場合、すなわち下記一般式(III)で示されるフタロシアニン化合物及び下記一般式(IV)で示されるナフタロシアニン化合物である場合について説明すると、以下のようになる。
【化3】
【化4】
〔式中、X1〜X4、k、l、m及びnは、それぞれ以下のものを表わす。
X 1 〜X 4 :それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換若しくは未置換のアリール基、置換若しくは未置換のアリールオキシ基、置換若しくは未置換のアルキルチオ基、置換若しくは未置換のアリールチオ基、ニトロ基、シアノ基、スルホン酸基、スルホン酸アミド基又はスルホン酸エステル基、k、l、m、n:それぞれ独立に0〜4の整数。〕
【0024】
上記一般式(III)及び(IV)で示される化合物において、R14〜R16はアルキル基であり、R14とR15とは同一でも異なっていてもよく、R16はR14とR15のうち炭素数の大きいアルキル基よりも炭素数で5つ以上の差を有するアルキル基である場合が、スペクトル変化を大きくできる最適組合わせの1つである。また、前記した一般式(V)及び(VI)で示される化合物においては、R17〜R19はアルキル基であり、R17とR18とは同一でも異なっていてもよい炭素数3以下のアルキル基であり、R19はR17とR18のうちの炭素数の大きいアルキル基よりも炭素数で5つ以上の差を有するアルキル基である場合も、スペクトル変化を大きくできる最適組合わせの1つである。
【0025】
具体的に説明すると、前記一般式(III)及び(IV)で示される化合物において、R14、R15及びR16が同一で大きなアルキル基である場合は、空間的に密で立体障害性が大きく、色素分子同士があまり近づけない(rが大きくなる)ために、スペクトルシフト量が小さい。そこで、前記一般式(III)及び(IV)で示される化合物において、R14〜R16のうち1つのアルキル基を長くして、他の2つを短くすることで、上記の問題が改善できる。更には、前記一般式(III)及び(IV)で示される化合物において、R14〜R16のうち1つのアルキル基を長くして、他の2つを短くし、且つ長いアルキル基として金属に近い部分に分岐構造を有するアルキル基を選択することで、軸配位子を立たせることができる可能性があり、逆に分岐構造を持たない極端に長いアルキル基を1つ持たせることで、軸配位子を寝かせることができる可能性がある。これによって、大きなスペクトル変化を生じる可逆性記録用材料が提供される。前記一般式(V)及び(VI)の場合のR17〜R19の関係も同様である。
【0026】
本発明の記録用材料の軸配位子に適したアルキル基としては、次のようなものが挙げられる。
メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、イソアミル基、2−メチルブチル基、n−ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、2−エチルブチル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、2−エチルペンチル基、3−エチルペンチル基、n−オクチル基、2−メチルヘプチル基、3−メチルヘプチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、2−エチルヘキシル基、3−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基等の一級アルキル基;イソプロピル基、sec−ブチル基、1−エチルプロピル基、1−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−メチルヘプチル基、1−エチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、1−メチルヘキシル基、1−エチルヘプチル基、1−プロピルブチル基、1−イソプロピル−2−メチルプロピル基、1−エチル−2−メチルブチル基、1−エチル−2−メチルブチル基、1−プロピル−2−メチルプロピル基、1−メチルヘプチル基、1−エチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、1−イソプロピルぺンチル基、1−イソプロピル−2−メチルブチル基、1−イソプロピル−3−メチルブチル基、1−メチルオクチル基、1−エチルヘプチル基、1−プロピルヘキシル基、1−イソブチル−3−メチルブチル基等の二級アルキル基;tert−ブチル基、tert−ヘキシル基、tert−アミル基、tert−オクチル基等の三級アルキル基;シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−エチルシクロヘキシル基、4−tert−ブチルシクロヘキシル基、4−(2−エチルヘキシル)シクロヘキシル基、ボルニル基、イソボルニル基、アダマンタン基等のシクロアルキル基等。
【0027】
また、前記一般式(III)、(IV)、(V)及び(VI)中の置換基X 1 〜X 4 は、好ましくは、あまり立体的に大きくなく、置換基の数としても少ないものが良い。これは置換基として立体的に大きいもの、また置換基を数多く導入することは、軸配位子型色素のスペクトルの特徴をなくすものだからである。
【0028】
次いで、本発明は、前記一般式(III)又は(IV)で示される化合物と、光又は熱などの外部エネルギーにより電子的又は構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物とからなる光情報記録用材料、及び前記一般式(V)又は(VI)で示される化合物と、光又は熱などの外部エネルギーにより電子的又は構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物とからなる光情報記録用材料を提供する。これは本発明の前記一般式(III)、(IV)、(V)又は(VI)で示される特定化合物の可逆性の改善、可逆性の安定化、繰り返し特性の改善を達成させるものである。
【0029】
前述のように、フタロシアニン、ナフタロシアニン化合物による可逆性は、例えば分散状態、結晶状態、凝集状態、構造、電子的状態等の変化により生ずるものであるが、この色素化合物単独では分散状態の変化が大きすぎて、色素単独膜でも相分離のような状態が生じてしまうため、スペクトルのシフトが生じなかったり、色素化合物単独では分散状態、結晶状態、凝集状態、構造、電子的状態等の変化が生じにくかったり、記録時の分散状態、結晶状態、凝集状態、構造、電子的状態等の変化が不安定であったりするため、本発明では光又は熱などの外部エネルギーにより電子的又は構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物を添加するものである。なお、光又熱などの外部エネルギーにより電子的又は構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物としては、サーモミズムを示す高分子材料、若しくは可逆性を有する熱可塑性高分子材料が好ましく用いられる。
【0030】
光又は熱などの外部エネルギーにより電子的又は構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物は、高分子化合物の可逆的な電子的又は構造的変化を利用して色素分子の凝集状態を可逆的に変化させるものであり、光又は熱などの外部エネルギーにより可逆性を有する熱可塑性高分子材料は、色素分子の凝集状態変化のコントロール、すなわち色素分子の凝集状態変化を起こす温度を制御したり、色素分子の凝集状態変化を固定化する働きがある。また、これら高分子化合物においては、アルキル側鎖を有するもの、あるいは場合によっては極性部位を持つ高分子化合物も好ましい。これは、色素分子のアルキル基と高分子化合物のアルキル基間の相互作用、また双極子−双極子相互作用で説明したように、色素−色素間相互作用のほかに、色素−高分子間相互作用によるスペクトルシフトが期待できるからである。
【0031】
光又は熱などの外部エネルギーにより電子的又は構造的変化を可逆的に生じる高分子化合物としては、例えば主鎖あるいは側鎖に、O、N、S、P、As、Se等の配位原子を含んだ配位基をもつ高分子化合物、あるいは外部エネルギーに対して分子鎖の形態が変化するような高分子化合物などが用いられる。このような高分子化合物の例としては、下記一般式(VII)で示される化合物が挙げられる。
【化7】
上記一般式(VII)中、R21及びR22は、水素原子又は置換基を有してよいアルキル基を示す。但し、これらは同一であってもよいが、両者同時に水素原子となることはなく、少なくとも一方は置換基を有してよいアルキル基である。また、XはS原子、O原子、Se原子又は>NR23基を示し、R23は水素原子、アルキル基又はアリール基を示す。なお、nは重合度を示す。
【0032】
前記一般式(VII)で示される化合物の中でも好ましいのは、Xが硫黄原子であるポリチオフェン誘導体で、更に好ましいのがR21及びR22のうち1つが水素原子で他方がアルキル基であるポリ(3−アルキルチオフェン)である。また、このポリ(3−アルキルチオフェン)の中でも、有機系溶媒への溶解性、色素化合物との相溶性、有機系溶媒への溶解度、融点等の関係から、n=6以上のアルキル基が特に好ましい。
【0033】
外部エネルギーが例えば光である場合、前述の分子鎖形態の変化する高分子は光誘起分子鎖形態変化する光応答性高分子ということができ、例えば以下のようなタイプのものが本発明に適する高分子化合物の1例として挙げることができる。
▲1▼ 高分子の主鎖又は側鎖に含まれている光感応基間の相互作用を光異性化により変化させる。
▲2▼ 高分子主鎖に含まれている光感応基の構造を変化させる。
▲3▼ 光照射により高分子鎖に沿って電荷を可逆的に発生させ、それらの静電反発を利用する。
【0034】
一方、可逆性を有する熱可塑性高分子化合物としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリビニルエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えばポリ4−メチルペンテン等)、ポリエーテルスルホン樹脂等が挙げられる。
【0035】
次に、本発明の光情報記録用材料を記録層に含有させた光情報記録媒体について説明する。
本発明の記録用材料を含有する記録層においては、光エネルギーの効率、波長整合性、色素の分子集合状態、分散状態、結晶状態の変化促進のために、他の色素を添加してもよい。そのような色素としては、例えばポリメチン色素、ナフタロシアニン系、フタロシアニン系、スクアリリウム系、コロコニウム系、ピリリウム系、ナフトキノン系、アントラキノン(インダンスレン)系、キサンテン系、トリフェニルメタン系、アズレン系、テトラヒドロコリン系、フェナンスレン系、トリフェノチアジン系染料、及び金属錯体化合物などが挙げられ、上記の染料を単独で用いてもよいし、2種以上の組合わせにしてもよい。また、上記染料中に金属、金属化合物、例えばIn、Te、Bi、Al、Be、TeO2、SnO、As、Cdなどを分散混合あるいは積層の形態で用いることもできる。更に、上記染料中に高分子材料、例えばアイオノマー樹脂、ポリアミド系樹脂、ビニル系樹脂、天然高分子、シリコーン、液状ゴムなどの種々の材料、若しくはシランカップリング剤などを分散混合して用いてもよいし、あるいは特性改良の目的で、安定剤(例えば遷移金属錯体)、分散剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、可塑剤などと一緒に用いることもできる。
【0036】
記録層の形成は蒸着、スパッタリング、CVD又は溶剤塗布などの通常の手段によって行なうことができる。塗布法を用いる場合には、上記染料などを有機溶剤に溶解して、スプレー、ローラー塗布、ディッピング又はスピナー塗布などの慣用の塗布方法で行なう。有機溶剤としては、一般にメタノール、エタノール、イソプロパノールなどアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどのアミド類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエタンなどの脂肪族ハロゲン化炭素類、ベンゼン、キシレン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの芳香族類、あるいはメトキシエタノール、エトキシエタノールなどのセルソルブ類、ヘキサン、ペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素類などを用いることができる。
記録層の膜厚は、100Å〜10μm、好ましくは200Å〜2000Åが適当である。
【0037】
本発明の記録用材料を適用する光情報記録媒体の層構成としては、例えば基板、記録層、下引き層、反射層、ハードコート層、保護層(順不同)等により構成され、前述の記録層以外の特性及び材料は次のようなものであることが好ましい。
【0038】
〈基板〉
基板の必要特性としては、基板側より記録再生を行なう場合には使用レーザ光に対して透明でなければならないが、記録層側から記録・再生を行なう場合は透明である必要はない。基板材料としては、例えばポリエステル、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミドなどのプラスチック、ガラス、セラミックあるいは金属などを用いることができる。なお、基板の表面にトラッキング用の案内溝や案内ピット、更にアドレス信号などのプレフォーマットが形成されていてもよい。
【0039】
〈下引き層〉
下引き層は、(a)接着性の向上、(b)水又はガスなどに対するバリヤー、(c)記録層の保存安定性の向上、(d)反射率の向上、(e)溶剤からの基板の保護、(f)案内溝、案内ピット、プレフォーマットの形成などを目的として使用される。(a)の目的に対しては高分子、例えばアイオノマー樹脂、ポリアミド、ビニル系樹脂、天然樹脂、天然高分子、シリコーン、液状ゴムなどの種々の高分子物質及びシランカップリング剤などを用いることができ、(b)及び(c)の目的に対しては、上記高分子材料以外に無機化合物、例えばSiO2、MgF2、SiO、TiO2、ZnO、TiN、SiN、及びZn、Cu、Ni、Cr、Ge、Se、Au、Ag、Alなどの金属又は半金属などを用いることができる。また、(b)の目的に対しては、金属、例えばAl、Agなどや、金属光沢を有する有機薄膜、例えばメチン染料、キサンテン系染料などを用いることができ、(e)及び(f)の目的に対しては、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂などを用いることができる。下引き層の膜厚は0.01〜30μm、好ましくは0.05〜10μmが適当である。
【0040】
〈金属反射層〉
金属反射層は単体で高反射率の得られる腐食されにくい金属、半金属などが使用できる。具体的材料としては、Au、Ag、Cu、Al、Cr、Niなどが挙げられ、好ましくはAu、Alがよい。これらの金属、半金属は単独で使用してもよく、2種以上の合金としてもよい。膜形成法としては蒸着、スパッタリングなどが挙げられ、膜厚としては50〜3000Å、好ましくは100〜1000Åである。
【0041】
〈保護層、基板表面ハードコート層〉
保護層又は基板表面ハードコート層は、(a)記録層を傷、埃、汚れなどから保護する、(b)記録層の保存安定性の向上、(c)反射率の向上などを目的として使用される。これらの目的に対しては、前記の下引き層に示した材料を用いることができる。また、無機材料としてSiO、SiO2なども用いることもでき、有機材料としてアクリル樹脂、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂、セルロース、脂肪族炭化水素樹脂、芳香族炭化水素樹脂、天然ゴム、スチレン−ブタジエン樹脂、クロロプレンゴム、ワックス、アルキッド樹脂、乾性油、ロジンなどの熱軟化性、熱溶融性樹脂も用いることができる。上記材料のうち保護層又は基板表面ハードコート層に最も好ましいものは、生産性に優れた紫外線硬化樹脂である。保護層又は基板表面ハードコート層の膜厚は0.01〜30μm、好ましくは0.05〜10μmが適当である。
本発明において、前記の下引き層、保護層及び基板表面ハードコート層には記録層の場合と同様に、安定剤、分散剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、可塑剤などを含有させることができる。
【0042】
【実施例】
以下実施例により本発明を具体的に説明する。
【0043】
下記一般式(VIII)で示される化合物におけるR14、R15及びR16として、表1に示す置換基を有するフタロシアニンを合成した。
【化8】
【0044】
【表1】
【0045】
次いで、これらのフタロシアニン化合物とポリスチレンを重量比2対1の割合でクロロホルムに溶解させ、スピンコート法でガラス基板上に薄膜を形成させた。この薄膜を昇温スピード5℃/分の速さで加熱していった時の、スピンコート後のスペクトルからの変化を、最大吸収波長の最大シフト量で評価した。
表2はその結果を表にしたもので、nはR1、R2、R3のうち最大の炭素数を有するアルキル基の炭素数と、他の2つのアルキル基のうち炭素数の多い方のアルキル基の炭素数との差を示す。また、Δλはスピンコート後の最大吸収波長と、昇温スピード5℃/分の速さで加熱していった時の、最大吸収波長の最大の移動量である。+は初期の最大吸収波長に対し、加熱により長波長側へスペクトルが移動することを示し、−は初期の最大吸収波長に対し、加熱により短波長側へスペクトルが移動することを示す。
【0046】
【表2】
【0047】
表1、2におけるR1、R2がメチル基(CH3)である化合物に対し、R3のアルキル基の長さが変化していった時のスペクトルシフト量をプロットすると、図6のようになる。
この図からも明らかなように、色素環同士の重なり、つまりθ、φ、rを、及び高分子化合物との相互作用の大きさを、軸配位子の種類で制御できることが明らかになった。
【0048】
このような大きなスペクトルシフトを生じさせる状態を達成させるための軸配位子に要求される1つの条件が、前記一般式(V)で示される化合物において、R1、R2、R3はアルキル基であり、R1、R2とは同一でも異なっていてもよく、R3はR1とR2のうち炭素数の大きいアルキル基よりも炭素数で5つ以上の差を有するアルキル基を持つ前記一般式(V)で示される化合物、あるいは、前記一般式(V)で示される化合物において、R1、R2、R3はアルキル基であって、R1、R2とは同一でも異なっていてもよい炭素数3以下のアルキル基であり、R3はR1とR2のうち炭素数の大きいアルキル基よりも炭素数で5つ以上の差を有するアルキル基を持つ前記一般式(V)で示される化合物である。
【0049】
本発明は基本的に1番炭素数の多いアルキル基により、色素分子の重なりを制御させるもので、他の2つのアルキル基は1番炭素数の多いアルキル基の傾き等を間接的に制御する。この軸配位子の空間的広がりを制御する他の方法としては、1番炭素数の多いアルキル基の、他の短い2つの軸配位子を変えることで、あるいは短い2つの軸配位子は同一であっても、1番炭素数の多いアルキル基の中心金属に近い部分に分岐構造を有するアルキル基を置換することが有効である。これは本実施例から裏付けられている。すなわち、2つの短いアルキル基がメチル基で、1番炭素数の多いアルキル基の長鎖の実質的長さはヘキシル基であっても、直鎖アルキルか分岐構造を有するアルキルかで、スペクトルシフト量が異なっているし、また1番炭素数の多いアルキル基はオクチル基で同一であっても、2つの短いアルキル基がメチル基か、エチル基か、イソプロピル基か、n−プロピル基であるかによって、スペクトルシフト量が大きくなる。
【0050】
また、軸配位子の角度を制御するためには、1番炭素数の多いアルキル基の中心金属に近い部分に分岐構造を有するアルキル基を置換することが有効であると記したが、これも本実施例で、2つの短いアルキル基がメチル基で、1番炭素数の多いアルキル基の、長鎖の実質的長さがブチル基である場合、直鎖と中心金属から1番離れたところに分岐構造を有する化合物で、スペクトルシフト量が変わらないことから、1番炭素数の多いアルキル基の中心金属に近い部分に分岐構造を有するアルキル基を置換することが有効であると言える。いずれの場合においても、可逆性を確保するためには、色素分子同士が接近しすぎないようにすることが重要であり、そのための条件として、本発明では1番炭素数の多いアルキル基の炭素数が6以上で、(これまで1番炭素数の多いアルキル基の炭素数が6以上とは明記していないが、短いアルキル基の炭素数との差が5以上であることから、実質的に6以上と言える)、また逆に軸配位子の空間広がりが大きくなりすぎて、色素分子同士の相互作用が弱まらないようにするために、短いアルキル基と1番長いアルキル基との差が5以上必要である。
【0051】
次に、スペクトルシフト量の大きかったR14=R15=CH3、R16=C12H25とR14=R15=CH3、R16=2−(C2H5)C6H12の化合物に対し、スペクトル変化、繰り返し特性の評価を行った。図7はR14=R15=CH3、R16=C12H25の未記録時と記録時のスペクトルであり、図8はR14=R15=CH3、R16=2−(C2H5)C6H12の未記録時と記録時のスペクトルである。このように、本発明の化合物はスペクトルがきれいにシフトしており、記録膜表面の形状変化を起こすことなく、コントラストの高い記録が行える。また、図9はR14=R15=CH3、R16=C12H25の吸光度の繰り返し特性を測定したもので、本発明の化合物により、良好な記録コントラスト、良好な消去、良好な繰り返しが達成されている。
【0052】
次いで、CD系メディアとしての互換性確認、反射率での可逆性を確認するために、前述のサンプルに金を蒸着したサンプルを新たに作成した。
このサンプルで未記録状態と記録状態処理をした時のスペクトルを測定したところ、図10のようになり、吸光度の場合と同様、良好なスペクトルシフトを生じている。更に、このサンプルで反射率における可逆性を評価したところ、図11に示すように反射率においても、良好な記録コントラスト、良好な消去、良好な繰り返し特性が確認できた。このように、本発明の化合物はスペクトルの広がりが少ないため、2つの安定状態(未記録状態と記録状態)が明確に分離している(異なる)。そのため、記録コントラストが高まるとともに、最大ピーク波長に対し、長波長側と短波長側の両方を記録・再生波長として選ぶことができる。また、軸配位子の状態を制御することで、スペクトルシフトの方向も制御できることから、現行のCD系メディアと同一の記録極性で記録が行える。
【0053】
本発明の記録用材料は、記録・消去可能な可逆材料として提供されるものであるが、現行のCD−Rのように1回だけ追記できるようなメディア用材料としても適している。これは本発明の記録用材料の置換基を変えることで、また光、熱などの外部エネルギーにより電子的又は構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物を変えることで、可逆性を低下させる、若しくは無くすことも可能であるからである。
【0057】
【発明の効果】
請求項1又は2の光情報記録用材料は、前記一般式(III)、(IV)、(V)又は(VI)で示される化合物からなるものとしたことから、その中心金属Siの置換基同士の凝集力を、光又は熱などによって変化させ、色素分子間の相互作用力を変化させることによって、より大きな可逆特性(スペクトルシフト)を示すものとなる。
【0058】
請求項3又は4の光情報記録用材料は、請求項1又は2の光情報記録用材料と、光又は熱などの外部エネルギーにより電子的又は構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物とからなるものとしたことから、より大きな可逆特性(スペクトルシフト)を示すものとなり、可逆特性の改善及び安定性の向上が図れる。
【0059】
請求項5の光情報記録用材料は、前記光又は熱などの外部エネルギーにより電子的又は構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物が、サーモクロミズムを示す高分子材料若しくは可逆性を有する熱可塑性高分子材料であるものとしたことから、より大きな可逆特性(スペクトルシフト)を示すものとなり、可逆特性の改善及び安定性の向上が図れる。
【0060】
請求項6の光情報記録媒体は、請求項1〜5のいずれかの光情報記録用材料からなる記録層及び反射層を積層してなるものとしたことから、CD系メディアと互換性のある可逆メディアとして適用できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】フタロシアニン化合物の分散状態の変化による吸光スペクトルの1例を示す。
【図2】軸配位子型のフタロシアニン化合物の凝集状態の変化による吸光スペクトルの1例を示す。
【図3】α位の置換基を有するタイプのフタロシアニン化合物の凝集状態の変化による吸光スペクトルの1例を示す。
【図4】双極子−双極子相互作用のみを考えた場合の、フタロシアニンの主骨格環のθ方向の配置位置とエネルギー量との関係を示すグラフである。
【図5】(a)〜(d)は、軸配位子型のフタロシアニン化合物の軸配位子の種類による色素分子間の相互作用配置の違いを示す模式図である。
【図6】実施例で得られたフタロシアニン化合物のR16アルキル基の長さとスペクトルシフト量との関係を示すグラフである。
【図7】実施例で得られたR14=R15=CH3、R16=C12H25のフタロシアニン化合物サンプルの未記録時と記録時の吸光スペクトルを示す。
【図8】実施例で得られたR14=R15=CH3、R16=2−(C2H5)C6H12のフタロシアニン化合物のサンプルの未記録時と記録時の吸光スペクトルを示す。
【図9】実施例で得られたR14=R15=CH3、R16=C12H25のフタロシアニン化合物サンプルの吸光度の繰り返し特性測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例で得られた金蒸着サンプルの未記録時と記録時の反射スペクトルを示す。
【図11】実施例で得られた金蒸着サンプルの反射率の繰り返し特性測定結果を示すグラフである。
Claims (6)
- 下記一般式(III)又は(IV)で示される化合物において、中心金属Siの置換基同士の凝集力を、光又は熱などの外部エネルギーによって変化させることで、色素分子間の相互作用力を変化させ、その結果生じるエネルギー状態の変化を利用して情報の記録、あるいは情報の記録及び消去が行えることを特徴とする光情報記録用材料。
- 下記一般式(V)又は(VI)で示される化合物において、中心金属Siの置換基同士の凝集力を、光又は熱などの外部エネルギーによって変化させることで、色素分子間の相互作用力を変化させ、その結果生じるエネルギー状態の変化を利用して情報の記録、あるいは情報の記録及び消去が行えることを特徴とする光情報記録用材料。
- 請求項1記載の光情報記録用材料と、光又は熱などの外部エネルギーにより電子的又は構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物とからなることを特徴とする光情報記録用材料。
- 請求項2記載の光情報記録用材料と、光又は熱などの外部エネルギーにより電子的又は構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物とからなることを特徴とする光情報記録用材料。
- 前記光又は熱などの外部エネルギーにより電子的又は構造的変化を可逆的に生ずる高分子化合物が、サーモクロミズムを示す高分子材料若しくは可逆性を有する熱可塑性高分子材料であることを特徴とする請求項3又は4記載の光情報記録用材料。
- 基板上に請求項1〜5のいずれかに記載の光情報記録用材料からなる記録層及び反射層を積層してなることを特徴とする光情報記録媒体。
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