JP2006076961A - 免疫増強組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】天然物由来の発酵乳製品、特に牛乳を起源とする発酵乳製品であって、優れたIgM産生促進作用およびIFN-γ産生促進作用を有する製品を提供する。
【解決手段】複数種の乳酸菌と酵母を原料乳中で共生培養して得られる発酵乳を有効成分として含有する免疫増強組成物、特に、IgM産生促進剤およびIFN-γ産生促進剤。

Description

本発明は、免疫増強組成物に関する。更に詳しくは、特に複数種の乳酸菌と酵母を共生培養して得られる発酵乳を有効成分として含有する免疫増強組成物に関する。
近年、食生活の偏り、ダイエット指向等の栄養上の理由から、また、高齢化に伴う生体機能の低下などから、免疫力低下が問題になってきており、この免疫力低下を是正できる物質の研究、開発が種々行われてきている。殊に、長期間服用しても副作用の心配のない天然物由来の物質の研究、開発が種々行われてきている。このような免疫力を増強させる物質の投与による生体の免疫機能の強化は、各種感染症、癌のみならず、動脈硬化、糖尿病、各種アレルギー症等の予防及び治療に役立つと考えられる。しかしながら、十分に所望の免疫増強効果を奏し得、医薬品乃至食品として実用できる免疫増強物質の開発は未だなされていない現状にある。
一方、牛乳には、生体の免疫系、分泌系、神経系、循環系、消化系などの生理系統をコントロールして自然治癒力を高める効果や、成長促進効果、癌予防効果などのあることが知られている。より詳しくは、完全食といわれる乳(牛乳)には、カゼイン、ラクトアルブミン等の乳蛋白が存在し、該乳蛋白のアミノ酸配列の中には種々の生理活性を有するペプチドと同一若しくは近似する配列があり、これらの乳蛋白或いはその分解産物(例えば乳酸菌の有する菌体外酵素による分解産物)であるペプチドは、人体に対して有用な各種の生理活性を奏し得ると考えられる。また、ヨーグルトのような乳酸発酵製品には整腸効果のあることも知られている。しかしながら、これまで、牛乳及びその発酵乳製品中に含まれる生理活性作用を有する物質についての研究はあまり行われておらず、これらの天然物に由来する免疫増強物質の研究もなお十分にはなされていない現状にある。
本発明者らは、従来から、発酵乳について種々研究を重ねてきたが、その過程で、複数種の乳酸菌と酵母を共生培養して得られる、ある種の発酵乳が、風味などにおいて優れると共に、抗菌作用、抗変異原性作用、血圧降下作用などを有することを見出し、この発酵乳の製法にかかる発明を完成した(特許文献1参照)。この特許文献1には、得られる発酵乳が免疫賦活作用を有する旨記載されているが、この免疫賦活作用とは、該特許文献1の各試験例において実証された抗菌活性(試験例1-4)、抗変異原性活性(試験例5)及び血圧降下作用(試験例6)を総称する用語(人の健康を維持する作用)として用いられているのみで、実際に、該特許文献1に記載の方法によって得られる発酵乳が、直接的に、例えばIgM産生促進作用、IFN-γ産生促進作用などの免疫賦活作用乃至は免疫増強作用を有することは、該特許文献1には記載されていない。また、従来、このような発酵乳に、IgM産生促進作用、IFN-γ産生促進作用等の免疫増強作用がある旨の報告も見あたらない。
特許第2791375号明細書
本発明の目的は、優れた免疫増強作用、殊にIgM産生促進作用及びIFN-γ産生促進作用を有する天然物由来の製品、特に牛乳を起源とする発酵乳製品を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、食品として摂取する場合にもその風味などの点で良好である上記天然物由来の免疫増強作用を有する製品を提供することにある。
本発明者らは、乳製品の免疫増強作用について、鋭意研究を重ねた結果、ある種の発酵乳が、IgM産生促進作用及びIFN-γ産生促進作用を奏するという新しい知見を得た。特に、本発明者らは、本発明者らが先に開発した特定の方法(特許文献1参照)により得られる発酵乳が、風味などにおいて優れることは勿論のこと、これに加えて、優れたIgM産生促進作用及びIFN-γ産生促進作用を奏し得るという新しい知見を得た。
本発明は、この知見を基礎として、更に研究を重ねた結果、完成されたものである。即ち、本発明は、発酵乳、特に複数種の乳酸菌と酵母を共生培養して得られる発酵乳が、IgM産生促進作用及びIFN-γ産生促進作用を奏する生理活性ペプチドを含有するという事実の発見に基づいて完成されたものである。本発明は、以下の発明を提供する。
項1. 発酵乳を有効成分として含有することを特徴とする免疫増強組成物。
項2. 発酵乳が、複数種の乳酸菌と酵母を原料乳中で共生培養して得られるものである項1に記載の免疫増強組成物。
項3. IgM産生促進剤である項1または2に記載の免疫増強組成物。
項4. IFN-γ産生促進剤である項1または2に記載の免疫増強組成物。
項5. 発酵乳が、複数種の乳酸菌を個別的に原料乳に接種し、この接種したものを各菌の生育最適温度環境下で各々個別的に適当時間培養後、得られた各培養菌液を個別的に適当量採取し、酵母と共に一括して乳に接種したものを異なる温度環境下で適当時間培養したる後、各温度別に得られた各スタータを夫々所定の割合で乳に添加し恒温環境下で一定時間培養後、得られた発酵カードから抽出される発酵液である、項1に記載の免疫増強組成物。
項6. 発酵乳が、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)、ストレプトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ジアセチラクティス(Streptococcus lactis subsp. diacetylactis)、ストレプトコッカス サーモフィラス(Streptococcus thermophillus)、ロイコノストック クレモリス(Leuconostoc cremoris)、ラクトバチラス デルブレッキイ サブスピーシーズブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチラス デルブレッキイ サブスピーシーズ ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis)、ラクトバチラス アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチラス カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチラス ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)、ビヒドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)及びサッカロマイセス セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)からなる乳酸菌及び酵母を用いて脱脂乳を2週間培養して得られる培養産物の遠心分離上清である項1に記載の免疫増強組成物。
項7. 発酵乳が、乳蛋白質の分解産物である19kDa蛋白質を含むものである項1に記載の免疫増強組成物。
項8. 食品形態である項1-7のいずれかに記載の組成物。
項9. 医薬品形態である項1-7のいずれかに記載の組成物。
本発明免疫増強組成物は、上記の通り、特定の発酵乳を有効成分とすることに基づいて、優れたIgM産生促進作用及びIFN-γ産生促進作用を奏する。本発明組成物に見られるこれらの優れた生理活性作用については、後記実施例において詳述する。
以下、本発明免疫増強組成物の有効成分とする発酵乳およびこれを含む本発明組成物を、順次詳述する。
(1) 発酵乳の調製
本発明組成物の有効成分とする発酵乳は、原料である乳に乳酸菌等を作用させて、その乳蛋白を分解させて得られるものであって、IgM産生促進作用及びIFN-γ産生促進作用を奏する生理活性ペプチドを含むものである。その製法は、得られる発酵乳がかかる生理活性ペプチドを含む限り、特に限定されるものではない。
好ましい発酵乳は、複数種の乳酸菌と酵母を原料乳中で共生培養して得られる。この共生培養は、例えば本発明者らが先に確立した方法(特許文献1に記載の方法)に従って実施することができる。より詳しくは、次のようにして実施することができる。即ち、複数種の乳酸菌(ビフィズス菌を含む)を個別的に原料乳に接種し、この接種したものを各菌の生育最適温度環境下で各々個別的に適当時間培養後、得られた各培養菌液を個別的に適当量採取し、酵母と共に一括して乳に接種したものを異なる温度環境下で適当時間培養したる後、各温度別に得られた各スタータを夫々所定の割合で乳に添加し恒温環境下で一定時間培養する。かくして、発酵カード(カゼインを含む)形態の発酵乳を得ることができる。
また、発酵乳は、かくして得られる発酵カードを更に抽出することによって得られる発酵液形態であってもよい。更に、発酵乳は、上記発酵カード及び発酵液を真空凍結乾燥手段などの常法に従わせて粉末化(フリーズドライ)したり、それらを錠剤化することによって得られる粉末及び錠剤形態であってもよい。
上記複数種の乳酸菌と酵母との好ましい一つの組み合わせとしては、例えば下記各菌の組み合わせを挙げることができる。
・ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)、
・ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)、
・ストレプトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ジアセチラクティス(Streptococcus lactis subsp. diacetylactis)、
・ストレプトコッカス サーモフィラス(Streptococcus thermophillus)、
・ロイコノストック クレモリス(Leuconostoc cremoris)、
・ラクトバチラス デルブレッキイ サブスピーシーズ ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、
・ラクトバチラス デルブレッキイ サブスピーシーズ ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis)、
・ラクトバチラスアシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、
・ラクトバチラス カゼイ(Lactobacillus casei)、
・ラクトバチラス ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)、
・ビヒドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)、
・サッカロマイセス セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)。
上記方法に従う本発明発酵乳の製造方法は、大別して前培養、本培養、乳酸菌発酵液の抽出という3工程より構成される。前培養としては、複数種の乳酸菌(ビフィズス菌を含む)を各々個別的に単菌で乳に接種し、この接種したものを各菌の生育最適温度環境下で個別的に培養する。一方、酵母を乳に接種し、至適温度環境下で適当時間培養する。この酵母は乳中に培養することなく、ビタミン、アミノ酸等を含有する栄養液に添加したものであってもよい。次に、前記前培養により得られた各培養菌液を各々個別的に採取し、一括して乳に接種したものを異なる温度環境下で適当時間培養する本培養を行う。前記本培養により各温度別に得られたスタータを所定の割合で乳に添加し、さらに恒温環境下で適当時間培養する。この培養により、所望の発酵カードを得ることができる。
なお、原料とする乳は、通常、牛乳、脱脂乳などが好ましいが、特にこれらに限定されず、他の獣乳であってもよい。
(2) 本発明組成物
本発明組成物は、上記発酵乳(発酵カード、発酵液、それらの粉末及び錠剤)をその必須成分として含有することが重要である。上記発酵乳はそれ自体、本発明組成物の有効成分としてのIgM産生促進作用及びIFN-γ産生促進作用を奏する生理活性物質と共に、発酵乳の原料とする乳及びこれに作用させる乳酸菌等に由来する蛋白質、脂質、菌体自体を構成する成分などを含有し、また発酵の結果生じる代謝産物を含有している。この代謝産物には、例えばジアセチル、アセトイン、クエン酸等の香気成分、ナイアシン等の抗菌成分、アミノ酸、乳酸等の有機酸が含まれる。従って、発酵乳は、それ単独で、本発明免疫増強組成物として有用である。特にこのものは優れた風味、味等を有しているため、飲食品形態で、上記生理活性或いはこれに基づく各種疾患の治療効果などを要求される患者に、有利に適用することができる。
本発明組成物は、上記発酵乳(粉末及び錠剤を含む)から、IgM産生促進作用及びIFN-γ産生促進作用を奏する生理活性物質を精製し、得られる精製物を有効成分として、これを必要に応じて可食性担体、医薬製剤担体などと共に含有させてなる、各種の飲食品形態乃至医薬品形態の組成物であってもよい。
ここで、生理活性物質は、例えば発酵乳(粉末)を水もしくはアルカリ水に溶解させた後、遠心分離して得られる上清や、該粉末を水に溶解後、遠心分離して得られる沈殿を更にアルカリ水に溶かして得られる上清等の水溶性画分またはこれに含まれる物質である。これらの内で特に本発明所期の優れた効果を奏し得るものとしては、発酵乳粉末を水に溶解後、遠心分離して得られる上清(pH約4)を更に10mMリン酸ナトリウム緩衝液で透析して得られる水溶性画分を挙げることができる。
また、可食性担体及び医薬製剤担体としては、従来から食品分野及び医薬品分野で慣用されている各種の栄養源、例えば糖質、脂質、蛋白質素材等、及び製剤学的に許容される充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤等の賦形剤乃至希釈剤を挙げることができる。
これらを利用して調製される食品形態の代表例としては、飲料、例えば清涼飲料水、炭酸飲料、果実飲料、乳清飲料、コーヒー飲料、野菜ジュース、栄養飲料、豆乳、紅茶飲料、スポーツ飲料、ウーロン茶飲料、緑茶飲料などを挙げることができる。他の食品形態の例としては、乳製品、乳酸菌飲料、発酵乳、乳飲料、ゼリー、生洋菓子、菓子、健康食品などを挙げることができる。医薬品形態としては、通常の錠剤、丸剤、散剤、液剤(懸濁剤、乳剤、注射剤など)、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、軟膏剤等が挙げられる。これら各形態への調製は、慣用される担体を用いて、常法に従って実施することができ、その際用いられる担体の量も、一般的なそれらの使用量と同様のものとすることができる。更に、本発明組成物中には、必要に応じて、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品を含有させることもできる。
上述した各種形態の本発明組成物は、その形態に応じて、適当な摂取乃至投与方法により適用される。食品形態の本発明組成物は、そのままで或いは他の食品と共に経口的に摂取させ得る。医薬品形態の本発明組成物は、その製剤形態に応じて、例えば錠剤、丸剤、顆粒剤、カプセル剤等は経口投与され、注射剤は静脈内投与、筋肉内、皮内、皮下もしくは腹腔内投与され、坐剤は直腸内投与され得る。
本発明組成物の摂取乃至投与量は、その用法、患者の年齢、性別その他の条件、疾患の程度、期待される所望の効果等により適宜選択することができる。
本発明組成物は、医薬品形態乃至食品形態で摂取乃至投与されて、優れたIgM産生促進作用及びIFN-γ産生促進作用を奏し得る。
以下、本発明を更に詳しく説明するため、本発明において利用する発酵乳の製造例(特許第2791375号明細書の実施例1と同様に実施したもの)を参考例として挙げ、次いで本発明実施例を挙げる。各例中、%は特記しない限りw/w%を示す。また、各実施例における供試発酵乳などの蛋白の定量は、ローリー法(Lowry法、Lowry,. O. H., et al., Protein measurement with the folin phenol reagent, J. Biol. Chem., 1951; 193: 265-275)によった。
参考例1
ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシス・ラクティス(Lc. lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシス・クレモリス(Lc. lactis subsp. cremoris)、ストレプトコッカス・ラクチス・サブスピーシス・ジアセチラクチス(Str. lactis subsp. diacetylactis)及びロイコノストック・クレモリス(Leu. cremoris)を各々個別的に約25%濃度以下の牛乳(脱脂乳)に接種し、各菌の最適温度による恒温環境下で48時間を限度として培養した。各菌が個別的に牛乳中で増殖し、その産生乳酸により酸度約0.9%の発酵乳が生成された。
ストレプトコッカス・サリバリウス・サブスピーシス・サーモフィルス(Str. salivarius subsp. thermophilus)、ラクトバチルス・デルブリッキー・サブスビーシス・ブルガリクス(Lb. delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・デルブリッキー・サブスピーシス・ラクチス(Lb. delbrueckii subsp. lactis)及びラクトバチルス・ヘルベティクス(Lb. helveticus)を各々個別的に25%以下の濃度の牛乳(脱脂乳)に接種し、各菌の最適温度による恒温環境下で48時間を限度として培養した。各菌が牛乳中で増殖し、酸度が約1.0%の発酵乳が生成された。
ラクトバチルス・アシドフィラス(Lb. acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lb. casei)及びビフィズス菌(Bifidobacterium. longum)を各々個別的に0.5%の大豆ペプチドを含有する約25%以下の濃度の牛乳(脱脂乳)に接種し、各菌の最適温度である恒温環境下で48時間を限定として培養した。この培養によれば、各菌の活性化を高め得る。
サッカロマイセス・セレビジェ(Saccharomyces. cerevisiae)を酵母エキス及びぶどう糖を含有する牛乳(脱脂乳)に接種し、約30〜32℃で約48時間を限度として培養した。サッカロマイセス・セレビジェは乳に培養することなく、ビタミン、アミノ酸を含有する水溶液に添加した酵母液であってもよい。酵母は、サッカロマイセス・セレビジェに限定されず、サッカロマイセス・デルブリッキー(Sacc. delbrueckii)、トルロプシィス・ケフィール(Torulopsis kefir)、乾燥酵母等であってもよい。
上記各前培養により得た各培養菌液を、濃度約25%以下の牛乳(脱脂乳)に各々同量宛接種した。接種量は牛乳に対し、夫々0.01〜4.00v/v%程度であり、2.00v/v%以下であることが好ましい。接種後、22〜40℃の範囲内で高温、中温及び低温の各温度を選択し、各恒温環境下で夫々約24〜60時間培養した。高温環境下で培養したものをスタータ1、中温環境下で培養したものをスタータ2、及び低温環境下で培養したものをスタータ3とする。
スタータ1、スタータ2及びスタータ3を400倍率で顕微鏡観察した結果、スタータ1には、酵母が1視野に1個、乳酸菌は桿菌と球菌が8対2の割合で存在し、全体としては長桿菌が多く観察された。スタータ2には、酵母が1視野に3個、乳酸菌は桿菌と球菌が同一割合で存在し、長桿菌、短桿菌、単球菌、双球菌、連鎖球菌が共にバランスよく生育していることが判明した。スタータ3には、酵母が10視野に1個、乳酸菌は桿菌と球菌が3対7の割合で全体的に球菌が多く、とりわけ双球菌が多いことが判明した。
スタータ1、スタータ2及びスタータ3を、下記表1に示す組成に従って、牛乳(脱脂乳)に添加し、約22〜40℃で各時間培養して、発酵カードを得た。この試験では、乳酸菌と酵素の共生により生理活性物質に富んだ代謝産物を得るために、長時間の培養時間を選択している。
Figure 2006076961
得られた発酵カードのpH、乳酸菌数及び酵母数を調べた結果は、下記表2に示す通りであった。なお、乳酸菌数及び酵母数の測定は、以下の方法に従った。
(1)乳酸菌数の測定
本試験での乳酸菌とは、中温で好気的にBCP加プレートカウント寒天培地に発育する酸生成菌をいう。
1平板に30-300個の集落が得られるような希釈度を選択し、同一段階希釈の試料に対し滅菌ペトリ皿2枚以上を用意し、滅菌ピペットでそれぞれの希釈液1mLずつ正確にとり、これに予め加熱溶解して約50℃に保持したBCP加プレートカウント寒天培地約15mLを加えて静かに混和し、冷却凝固させる。培養は35-37℃で72±3時間行う。培養した後、発生集落のうち黄変したものを乳酸菌数の集落として計測する。
(2)酵母菌数の測定方法
1平板に30-300個の集落が得られるような希釈度を選択し、同一段階希釈の試料に対し滅菌ペトリ皿2枚以上を用意し、滅菌ピペットでそれぞれの希釈液1mLずつ正確にとり、これに予め加熱溶解して約50℃に保持したポテトデキストロース寒天培地(使用前に滅菌した10%酒石酸でpH3.5に調整する)約15mLを加えて静かに混和し、冷却凝固させる。培養は25℃で5-7日間行う。培養した後、発生した集落を計測し、その平均集落数に希釈倍数を乗じ酵母菌数とする。
Figure 2006076961
得られた発酵カードを個別的に約70℃迄加熱しながら撹拌した。この撹拌加熱処理により、発酵カードを固形物と液体とに分離した。撹拌終了後、放置し室温迄冷却させた後、固形物をメリタフィルタペーパー(メリタジャパン株式会社の商品名)で濾過し、得られた濾液を約80℃の加熱殺菌処理後に冷却して、発酵乳液を得た。
得られた発酵乳液は透明な黄褐色を呈していた。14日間培養して得られた発酵乳(表1中、発酵乳4)の分析値(水分含量、乳酸濃度、pH、蛋白質含量、脂質含量、大腸菌群の存在の有無)は、下記表3に示すとおりであった。なお、表3には上記発酵乳の凍結乾燥品についての分析値も併記する。また、発酵乳の上記各分析項目の測定は、次の方法によった。
水分含量:常圧乾燥法、
乳酸酸度:中和滴定法、
pH:ガラス電極法、
蛋白質:セミミクロケルダール法、
脂質:レーゼ・ゴットリーブ法、
大腸菌群:デスオキシコレート寒天培地法。
Figure 2006076961
IgM産生促進試験
(1) 供試発酵乳液の調製
参考例1で調製した発酵乳4の発酵乳液を、100,000×g、30分間、4℃で遠心分離を行い、上清を回収した。このもののpHは約4であった。次いで得られた上清を10mMリン酸ナトリウム緩衝液(NaPB)(pH=7.4)で透析して供試液1を調製した。
(2) 供試抗体産生細胞とその培養
供試細胞としてヒト末梢血リンパ球(PBL)を、Murakamiの報告した方法により健康なドナーの末梢血から調製した(Murakami, H., et al., Cytotechnology, 24, 177-182 (1997))。この調製は、ドナー末梢血を生理食塩リン酸緩衝液(PBS)で等倍希釈後、リンパ球分離培地(Nycomed, Pharma, Oslo, Norway)で室温下、30分間遠心分離し、ERDF培地で3回洗浄することにより実施した。得られたPBLは単球、線維芽細胞などの付着細胞を除去するために、1日、牛胎児血清(FCS)を10%添加したERDFで前培養した。前培養後、PBLをITES-ERDF培地に接種した。
(3) 産生IgMの測定
上記(1)で調製した供試液を種々の濃度で添加したITES-ERDF培地に、上記(2)で調製したPBLを1×106細胞/mL接種し、4日間培養(37℃、湿潤、5%炭酸ガスインキュベータ内)し、各培養培地中に分泌、蓄積されるIgM量を、Sugaharaらの報告した抗ヒトIgM抗体(Biosource International)を用いたELISA法に従って測定した(Sugahara, T., et al., Bioscience, Biotechnology and Biochemistry, 58, 2212-2214 (1994) )。各測定は、同一試験を3回繰り返して行い、測定値はmeans±SDにて表示した。
また、上記IgM産生におけるタイムコース(経時的)効果を以下の通り調べた。即ち、各供試液530μg/mLを添加したITES-ERDF培地にヒトPBLを1×106細胞/mL接種し、上記と同様にして5日間培養し、1日、3日及び5日後の培地中のIgM量を同様にして測定した。
(4) 結果
4日間培養後のIgM産生量を調べた結果を図1(横軸:蛋白濃度(μg/mL)、縦軸:IgM産生量(ng/mL)に示す(白丸)。なお、図1にはコントロールとして供試液無添加のITES-ERDF培地を用いて上記と同様にしてPBL細胞を培養した時の培地中のIgM測定値を黒丸にて表示する。
図1より、供試液1の利用によれば、その無添加に比して、IgM産生量の増加の認められることが明らかである。
次に、IgM産生量のタイムコースを調べた結果を図2(横軸:培養時間(日)、縦軸:IgM産生量(ng/mL))に示す(白丸)。なお、図2にはコントロール(供試液無添加のITES-ERDF培地を用いて同様にした試験)の結果(IgM産生量)を黒丸にて表示する。
図2に示される結果より、PBLのIgM産生作用は、供試液の添加により、1日後から明らかに増加しつづけ、5日後では1日後の約9倍にも増加することが判った。これに対してコントロールでは、そのようなIgM産生量の経日的増加は認めらないことが判った。
本試験の結果から、発酵乳(供試液)はIgM産生促進効果を奏することが明らかになった。
また、本発明者らは、IgG抗体を利用したELISA法による同様の試験の結果、供試液は、IgMのみならず、IgGの産生促進効果をも奏することを確認した。
このIgG産生促進効果を明らかにする図を、前記図1および2と同様にして、図3および4に示す。
IFN-γ産生促進作用試験
(1) IFN-γの測定
実施例1において使用したヒトPBLを用いて、発酵乳の添加が該細胞のIFN-γ産生に対してどのような影響を及ぼすかを試験した。この試験は、種々の濃度の供試液1を添加したITES-ERDF培地に、更にリポポリサッカライド(LPS、シグマ社製)5.0μg/mLを添加した培地を利用して、実施例1と同様にして、ヒトPBLの1×10細胞/mLを5日間培養し、培地中に分泌、蓄積されるIFN-γ量を、ELISA法をベースとするサイトカイン測定キット(Biosouurce International 社製)を用いて測定した。比較のため、上記供試液1に代えてα-ラクトアルブミン(α-LA、シグマ社製)の所定濃度(200μg/mLまたは400μg/mL)を用いて同様の操作を繰り返した。各測定は同一サンプルについて3回実施し、測定値はmeans±SDにて求めた。
また、上記IFN-γ産生におけるタイムコース(経時的効果)を以下の通り調べた。即ち、供試液1の50μg/mLを添加したITES-ERDF培地(更にLPS 5.0μg/mLを添加して刺激した)に、ヒトPBLを1×106細胞/mL接種し、上記と同様にして5日間培養し、1日、3日及び5日後の培地中のIFN-γ量を同様にして測定した。この試験では、コントロールとして、上記供試液1を添加しなかった培地で培養した場合のPBL細胞のIFN-γ産生量を同様にして調べた。
(2) 結果
得られた結果(IFN-γ産生量測定試験の結果)を図5(横軸:コントロール、α-ラクトアルブミンおよび供試液1、α-ラクトアルブミン及び供試液1の各数値は、各蛋白濃度(μg/mL)を示す)、縦軸:IFN-γ産生量(pg/mL))に示す。図5中、星印は、コントロールに対する有意差を示す。
また、そのタイムコースを調べた結果を図6(横軸:培養時間(日)、縦軸:IFN-γ産生量(pg/mL))に示す。図6中、白丸は供試液1を用いた場合の結果であり、黒丸はコントロールの結果である。
各図に示される結果から明らかなとおり、供試液1(発酵乳)は、ヒトPBLに対して、そのIFN-γ産生を促進する効果を奏し得ることが判る。その効果は、α-ラクトアルブミンと対比しても有意であり(図5参照)、このことから、本発明にかかる発酵乳は著量のIFN-γを産生させる作用を奏することが明らかとなった。
SDS-PAGE
(1) ゲル濾過
実施例1の(1)に記載の発酵乳(供試液1)について、Superdex75ゲル濾過カラムを用いてゲル濾過を行い、各フラクションについて280nmにおける吸光度を求めると共に、各フラクションをそれぞれ回収し、IgM産生量を前記実施例1と同様にして求め、IgM産生促進活性の認められたフラクション(ゲル濾過の結果を示す図7(縦軸:280nmにおける吸光度、横軸:溶出液量(mL))中、斜線を付して囲ったフラクション部分、そのIgM産生促進活性は、コントロールの1.6±0.6ng/mLに対して約2倍の3.2±0.3ng/mLである)について、以下の通り、SDS-PAGEを実施した。
なお、フラクションの回収は、ゲルろ過で溶出してきた280nmのシグナルのピークごとに回収し、産生IgMの測定は、得られた各フラクション(1フラクション約2-5mL)を10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH=7.4)に対して透析した後、実施例1に記載の方法に基づいて行った。ゲル濾過条件は次の通りである。
<ゲル濾過条件>
使用機器:ファルマシアFPLCシステム
カラム:ファルマシアSuperdex75 HR 10/30カラム
展開溶媒:PBS
流速:1mL/min
条件
(2) SDS-PAGE
レメリーらの方法(Laemmli,U.K., et al., Nature, 227, 680 (1970))に従って、15%ポリアクリルアミドスラブゲルを用いて、回収したフラクションのSDS-PAGEを実施した。蛋白質はクマシーブリリアントブルーR-250(ICN Biomedicals社製)にて染色した。分子量マーカーとしては、アマシャム(Amersham Bioscience)社製マーカー(phosphorylase b: 94.0kDa, bovine serum albmin: 67.0kDa, ovalbumin: 43.0kDa, carbonic anhydrase: 30.0kDa, soybean trypsin inhibitor: 20.1kDa及びα-lactalbumin: 14.4kDa)を用いた。
結果を図7に併記する。
SDS-PAGEの結果を示す図7から明らかなとおり、IgM産生促進活性を示すフラクションは、分子量19.0kDaの単一の蛋白質を含んでおり、このものが、乳の発酵によって新たに生成した蛋白質であって且つ本発明の有効成分物質と考えられる。
熱安定性
実施例1の(1)に記載の発酵乳液(供試液1)を、20℃、37℃、50℃、65℃、80℃及び100℃のそれぞれの温度条件下に30分間維持し、室温に戻した後、実施例1と同様にして、それらのそれぞれのIgM産生促進作用を測定した。
得られた結果を図8(横軸:処理温度(℃)、縦軸:相対活性(%))に示す。
なお、相対活性%とは、氷浴中で約4℃に維持した発酵乳液のIgM産生量を100として、各温度条件下に維持した発酵乳液のIgM産生量の百分率を示す。
図8に示される結果から、発酵乳のIgM産生促進作用(活性)は、熱的に安定しており、65℃の熱処理によっても低下しないばかりか、むしろ2.5倍に促進される。なお、この活性は、別途に行った試験の結果、トリプシン処理によって完全に失活した。
本発明免疫増強組成物(錠剤形態)の調製
脱脂乳を殺菌後、これに参考例1で調製したスタータ1、2及び3の所定量を接種し、表1に記載の発酵乳4の場合と同様にして、2週間培養して発酵乳(熟成複合発酵乳カード)を製造した。
得られたカードを水中に均質化(高圧型均質機使用、均質化条件:100kg/cm2)し、
得られた液を真空凍結乾燥(真空凍結乾燥機使用、凍結乾燥条件:真空度=0.5torr以下、乾燥時間:24時間)後、粉砕して、凍結乾燥粉末を得た。
次いで、この粉末を造粒(顆粒化)、賦形剤添加、打錠して、錠剤形態の本発明組成物を調製した。
このものの分析値を、参考例1と同様にして調べた結果を下記表4に示す。
Figure 2006076961
また、得られた本発明組成物(錠剤)の栄養成分(100gあたり)及びエネルギーを求めた結果を下記表5に示す。栄養成分の測定は、前述した方法及び以下の方法によった。
炭水化物:100-(水分+蛋白質+脂質+灰分)
無脂乳固形分:蛋白質×2.82
ミネラル(ナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄):原子吸光法、
リン:吸光光度法、
ビタミン:高速液体クロマトグラフ法、
コレステロール:ガスクロマトグラフ法
Figure 2006076961
乳酸菌飲料の調製
実施例5と同様にして、脱脂乳に複合乳酸菌を作用させて得られた発酵乳(熟成複合発酵乳カード)を均質化後、得られた均質液に砂糖及び香料の適当量を添加し、調製物を殺菌して、乳酸発酵飲料(希釈して飲料とされる濃縮品)を調製した。
ハードヨーグルトの調製
実施例5と同様にして、脱脂乳に複合乳酸菌を作用させて得られた発酵乳(熟成複合発酵乳カード)をpH調整後、殺菌し、得られた発酵乳に、ヨーグルトミックス(生乳、乳製品および安定化剤を含む)を適量添加し、調製物を、実施例5と同様にして均質化および殺菌し、乳酸菌スタータを接種して、ハードヨーグルトを調製した。
本発明は、IgM産生促進作用を有する組成物およびIFN-γ産生促進効果を奏する組成物を提供するものであり、本発明組成物は、医薬品のみならず、食品素材等として、それらの有する特有の生理活性を発揮し得、幅広い分野で有用である。
実施例1に従う試験における本発明組成物(発酵乳液)のIgM産生促進効果を示すグラフである。 実施例1に従う試験における本発明組成物(発酵乳液)のIgM産生促進効果(タイムコース)を示すグラフである。 実施例1に従う試験における本発明組成物(発酵乳液)のIgG産生促進効果を示すグラフである。 実施例1に従う試験における本発明組成物(発酵乳液)のIgG産生促進効果(タイムコース)を示すグラフである。 実施例2に従う試験における本発明組成物(発酵乳液)のIFN-γ産生促進効果を示すグラフである。 実施例2に従う試験における本発明組成物(発酵乳液)のIFN-γ産生促進効果(タイムコース)を示すグラフである。 実施例3に従う試験における本発明組成物(発酵乳液)の有効成分についてSDS-PAGE分析を行った結果を示す図である。 実施例4に従う試験における本発明組成物(発酵乳液)の熱安定性を求めたグラフである。

Claims (9)

  1. 発酵乳を有効成分として含有することを特徴とする免疫増強組成物。
  2. 発酵乳が、複数種の乳酸菌と酵母を原料乳中で共生培養して得られるものである請求項1に記載の免疫増強組成物。
  3. IgM産生促進剤である請求項1または2に記載の免疫増強組成物。
  4. IFN-γ産生促進剤である請求項1または2に記載の免疫増強組成物。
  5. 発酵乳が、複数種の乳酸菌を個別的に原料乳に接種し、この接種したものを各菌の生育最適温度環境下で各々個別的に適当時間培養後、得られた各培養菌液を個別的に適当量採取し、酵母と共に一括して乳に接種したものを異なる温度環境下で適当時間培養したる後、各温度別に得られた各スタータを夫々所定の割合で乳に添加し恒温環境下で一定時間培養後、得られた発酵カードから抽出される発酵液である、請求項1に記載の免疫増強組成物。
  6. 発酵乳が、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス ラクティス サブスピーシーズ クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)、ストレプトコッカス ラクティス サブスピーシーズ ジアセチラクティス(Streptococcus lactis subsp. diacetylactis)、ストレプトコッカス サーモフィラス(Streptococcus thermophillus)、ロイコノストック クレモリス(Leuconostoc cremoris)、ラクトバチラス デルブレッキイ サブスピーシーズブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチラス デルブレッキイ サブスピーシーズ ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis)、ラクトバチラス アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチラス カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチラス ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)、ビヒドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)及びサッカロマイセス セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)からなる乳酸菌及び酵母を用いて脱脂乳を2週間培養して得られる培養産物の遠心分離上清である請求項1に記載の免疫増強組成物。
  7. 発酵乳が、乳蛋白質の分解産物である19kDa蛋白質を含むものである請求項1に記載の免疫増強組成物。
  8. 食品形態である請求項1-7のいずれかに記載の組成物。
  9. 医薬品形態である請求項1-7のいずれかに記載の組成物。
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