ところで、被搬送体に駆動力を作用させて、被搬送体を搬送する搬送装置においては、搬送ローラ等の駆動が停止されても、慣性によって被搬送体が搬送路下流に微量に移動する。従って、この種の搬送制御装置では、搬送ローラ等の駆動を停止しても、慣性によって被搬送体が搬送路下流に移動することを見込んで、目標地点(搬送先地点)で被搬送体が停止するように、搬送装置を制御する。
一方、従来の搬送装置では、被搬送体の材質の影響や、被搬送体と搬送路との干渉から、被搬送体に大きな負荷が及び、搬送制御装置が設定する目標と、現実の搬送量とに大きな差が生じる場合がある。このような場合、搬送装置の最大能力での搬送が搬送先地点付近まで継続される。また、搬送装置の最大能力で搬送が継続されると、被搬送体に対する負荷が減少した際に、必要以上の駆動力が被搬送体に作用し、これによってフィードバック制御が上手く機能しなくなる場合がある。
そして、上述のような状態に陥ると、搬送ローラの駆動を停止しても、慣性による被搬送体の移動量が大きく、見込み以上に被搬送体が移動してしまう場合がある。即ち、従来の搬送制御装置では、被搬送体に対し大きな負荷が働いている場合、精度よく搬送先地点に被搬送体を搬送することができないといった問題があった。
本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、駆動対象に大きな負荷が生じている場合であっても、高精度に駆動対象を所定の移動量、移動させることが可能な技術を提供することを第一の目的とする。また、被搬送体に大きな負荷が生じている場合であっても、搬送先地点に高精度に被搬送体を搬送することが可能な技術を提供することを第二の目的とする。また、この技術を用いて、被画像形成体の所定位置に正確に画像を形成することが可能な画像形成システムを提供することを第三の目的とする。
かかる目的を達成するためになされた請求項1記載の発明は、入力される制御信号に従って動作し、その動作量に応じた駆動力を駆動対象に作用させて、駆動対象を移動させる駆動装置に接続され、駆動装置を制御することにより、駆動対象を所定量移動させる制御装置であって、駆動対象の移動量を検出する検出手段と、駆動対象を移動させる際、所定期間毎に、駆動対象の目標移動量を設定する目標設定手段と、検出手段の検出結果に基づいて、目標設定手段により設定された目標移動量を実現させるのに必要な駆動装置に対する操作量を、演算する操作量演算手段と、操作量演算手段により算出された操作量に対応した制御信号を順次、駆動装置に入力することにより、駆動装置に、駆動対象を、所定量移動させる制御手段と、操作量演算手段により算出された操作量が、予め定められた上限値以上であるか否かを判断する操作量判断手段と、を備え、目標設定手段は、目標移動量の設定時に、操作量判断手段により操作量が上限値未満であると判断されていると、所定規則に従って目標移動量を設定し、操作量判断手段により操作量が上限値以上であると判断されていると、所定規則にて設定される目標移動量より小さい移動量を、目標移動量に設定することを特徴とする。
このように構成された請求項1記載の制御装置によれば、駆動対象に大きな負荷が及び、目標設定手段が設定する目標移動量と、現実の移動量とに大きな差が生じて、操作量が上限値以上となった場合、目標移動量として、通常規則(所定規則)で設定される値よりも小さい値が設定される。
従って、この制御装置によれば、駆動装置が最大能力で継続的に動作するのを防止することができ、駆動装置の動作を停止した場合に、慣性によって駆動対象が大きく移動してしまうのを防止することができる。また、操作量が上限値以上である状態が長く継続されると、駆動対象に対する負荷が減少した際に、必要以上の駆動力が駆動対象に作用し、制御不能となる可能性があるが、本発明によれば、継続状態を迅速に解消することができるので、制御不能となるのを防止することができる。
よって、本発明の制御装置によれば、駆動対象に大きな負荷が生じている場合であっても、駆動対象を精度よく所定量移動させることができる。
尚具体的に、目標設定手段は、請求項2記載のように構成されるとよい。即ち、目標設定手段は、目標移動量の設定時に、操作量判断手段により操作量が上限値以上であると判断されていると、所定規則による目標移動量の設定動作に代えて、前回の目標移動量と同一の移動量を、目標移動量に設定する構成にされるとよい。この発明によれば、簡単な構成で、上記所定規則にて設定される目標移動量より小さい移動量を、目標移動量に設定することができる。
その他、予め設定された変化量で、順次、目標移動量を大きくして設定する場合、目標設定手段は、請求項3記載のように構成されるとよい。即ち、目標設定手段は、目標移動量の設定時に、操作量判断手段により操作量が上限値未満であると判断されていると、変化量を、第一値に設定し、操作量判断手段により操作量が上限値以上であると判断されていると、上記変化量を、第一値より小さい第二値に設定する構成にされるとよい。この発明によれば、目標移動量を求める演算式のパラメータを切り替える程度で済むので、従来装置をベースに効率的に、負荷の高い駆動対象を高精度に所定量移動させることが可能な制御装置を開発することができる。
また、予め設定された目標速度に応じた変化量で、順次、目標移動量を設定する場合、目標設定手段は、請求項4記載のように構成されるとよい。即ち、目標設定手段は、目標移動量の設定時に、操作量判断手段により操作量が上限値未満であると判断されていると、目標速度を規定速度に設定し、操作量判断手段により操作量が上限値以上であると判断されていると、目標速度を規定速度より低い速度に設定する構成にされるとよい。この発明によれば、操作量が上限値以上となった場合に、目標速度を切り替える程度で、目標移動量を通常より小さい値に設定することができる。従って、本発明によれば、従来装置をベースに効率的に、負荷の高い駆動対象を高精度に所定量移動させることが可能な制御装置を開発することができる。
その他、上記制御装置には、操作量判断手段の判断結果に基づき、継続的に操作量が上限値以上である期間を判定する継続期間判定手段を設けて、請求項5記載のように目標設定手段を構成されるとよい。
即ち、目標設定手段は、操作量判断手段にて操作量が上限値以上であると判断されている場合、継続期間判定手段にて判定された上限値以上である期間が長くなるに従って、目標速度を低く設定する構成にされるとよい。
このように構成された請求項5記載の制御装置によれば、非常に大きな負荷が駆動対象に及んでいる場合であっても、操作量が上限値以上である状態が長時間継続することがない。従って、本発明の制御装置によれば、非常に大きな負荷に対しても良好に対処することができ、精度よく駆動対象を所定量移動させることができる。
また、請求項6記載の搬送制御装置は、搬送装置に接続され、接続先の搬送装置を制御する構成にされたものである。接続先の搬送装置は、搬送制御装置から入力される制御信号に従って動作し、その動作量に応じた駆動力を被搬送体に作用させて、被搬送体を、搬送路に沿って、その搬送路の上流から下流に搬送する。
搬送制御装置は、上記制御信号を搬送装置に入力することにより、その搬送装置に、上記搬送路における搬送開始地点に配置された被搬送体の基準点を、搬送開始地点より搬送路下流に位置する搬送先地点まで搬送させる。尚、ここでいう「被搬送体の基準点」とは、搬送開始地点に対応する被搬送体の地点を示す程度の表現であって、被搬送体に、基準点を示す構造が形成されていることを示す表現ではないことを言及しておく。
この搬送制御装置は、搬送装置による被搬送体の搬送量を検出する検出手段と、目標設定手段と、操作量演算手段と、搬送制御手段と、を備える。
目標設定手段は、被搬送体の基準点を搬送開始地点から搬送先地点まで搬送する際、所定期間毎に、被搬送体の目標搬送位置を設定する。一方、操作量演算手段は、検出手段の検出結果に基づき、目標設定手段で設定された目標搬送位置に、被搬送体の基準点を搬送するのに必要な搬送装置に対する操作量を、演算する。搬送制御手段は、操作量演算手段により算出された操作量に対応した制御信号を順次、搬送装置に入力することにより、搬送装置に、被搬送体の基準点を搬送開始地点から搬送先地点まで搬送させる。
また、本発明の搬送制御装置は、操作量判断手段を備える。操作量判断手段は、操作量演算手段により算出された操作量が、予め定められた上限値以上であるか否かを判断する。また、上記目標設定手段は、目標搬送位置の設定時に、操作量判断手段により操作量が上限値未満であると判断されていると、所定規則に従って、目標搬送位置を設定し、操作量判断手段により操作量が上限値以上であると判断されていると、上記所定規則による設定に代えて、上記所定規則にて設定される目標搬送位置より上流の位置を、目標搬送位置に設定する。尚、上記所定規則は、初期値から順次下流側の位置を目標搬送位置に設定可能な規則である。
このように構成された本発明の搬送制御装置によれば、被搬送体に大きな負荷が及び、目標設定手段が設定する目標搬送位置と、現実の搬送位置とに大きな差が生じて、操作量が上限値以上となった場合、目標搬送位置として、通常の規則で設定される目標搬送位置よりも搬送方向上流の位置が設定される。
従って、本発明の搬送制御装置によれば、搬送装置の最大能力で継続的に搬送が実行されるのを防止することができ、搬送装置の駆動を停止した場合に、慣性によって被搬送体が大きく移動してしまうのを防止することができる。また、操作量が上限値以上である状態が長く継続されると、被搬送体に対する負荷が減少した際に、必要以上の駆動力が被搬送体に作用し、制御不能となる可能性があるが、本発明によれば、継続状態を迅速に解消することができるので、制御不能となるのを防止することができる。よって、本発明の搬送制御装置によれば、被搬送体に大きな負荷が生じている場合であっても、搬送先地点に高精度に被搬送体を搬送することができる。
尚具体的に、目標設定手段は、請求項7記載のように構成されるとよい。即ち、目標設定手段は、目標搬送位置の設定時に、操作量判断手段により操作量が上限値以上であると判断されていると、前回の目標搬送位置と同一の位置を、目標搬送位置に設定する構成にされるとよい。この発明によれば、簡単な構成で、上記所定規則にて設定される目標搬送位置より上流の位置を、目標搬送位置に設定することができる。
また、予め設定された距離間隔で、初期値から順次下流側の位置を、目標搬送位置に設定する構成にされている場合、目標設定手段は、請求項8記載のように構成されるとよい。即ち、目標設定手段は、目標搬送位置の設定時に、操作量判断手段により操作量が上限値未満であると判断されていると、上記距離間隔を、第一の間隔に設定し、操作量判断手段により操作量が上限値以上であると判断されていると、距離間隔を、第一の間隔より小さい第二の間隔に設定する構成にされるとよい。尚、ここでいう「距離間隔」とは、非等間隔も含むものとする。即ち、「距離間隔」は、設定周期当たりの目標搬送位置の変化量(傾き)に相当する。
このように構成された請求項8記載の搬送制御装置では、操作量が上限値以上である場合、目標搬送位置の変化量を、通常値(第一の間隔)から、それより小さい値(第二の間隔)に切り替えることによって、通常設定される目標搬送位置より上流の位置を、目標搬送位置に設定する。この発明によれば、目標搬送位置を求める演算式のパラメータを切り替える程度で済むので、従来装置をベースに効率的に上記問題を解決可能な搬送制御装置を作成することができる。
尚具体的に、搬送制御装置が、目標搬送速度を、所定の伝達関数に従って変換し、目標搬送位置を導出する構成にされている場合には、請求項9記載のように目標設定手段を構成するとよい。
即ち、目標設定手段は、予め設定された被搬送体の目標搬送速度に応じた距離間隔で、初期値から順次下流側の位置を、目標搬送位置に設定し、目標搬送位置の設定時に、操作量判断手段により操作量が上限値未満であると判断されている場合には、目標搬送速度を規定速度に設定し、操作量判断手段により操作量が上限値以上であると判断されている場合には、目標搬送速度を規定速度より低い速度に設定する構成にされるとよい。
この発明によれば、操作量が上限値以上となった場合に、目標搬送速度を切り替える程度で、通常より上流側の位置を、目標搬送位置に設定することができる。従って、本発明によれば、従来装置をベースに効率的に上記問題を解決可能な搬送制御装置を作成することができる。
また、上記搬送制御装置には、操作量判断手段の判断結果に基づき、継続的に操作量が上限値以上である期間を判定する継続期間判定手段を設け、目標設定手段は、操作量判断手段により操作量が上限値以上であると判断されている場合に、上限値以上である期間が長くなるに従って、目標搬送速度を低く設定する構成にされるとよい。
このように構成された請求項10記載の搬送制御装置によれば、非常に大きな負荷が被搬送体に及んでいる場合であっても、操作量が上限値以上である状態が長時間継続することがない。従って、本発明の搬送制御装置によれば、非常に大きな負荷に対しても良好に対処することができ、精度よく被搬送体を搬送先地点に搬送することができる。
また、本発明は、被搬送体を順次送りだすようにして搬送する搬送システムに適用することができる。即ち、搬送制御装置は、搬送装置に、被搬送体の基準点を、搬送開始地点から搬送先地点まで搬送させる処理を繰返し実行することにより、搬送装置に、搬送開始地点に初期配置された被搬送体の始点から、予め定められた被搬送体の終点までを、所定間隔毎に搬送先地点に搬送させる構成にすることができる。
このように構成された請求項11記載の搬送制御装置によれば、被搬送体を、搬送先地点に順次送りだす搬送システムにおいて、複数回に及ぶ各搬送処理を高精度に実現でき、多段階の搬送にて、蓄積される搬送誤差の量を、従来装置と比較して格段に抑えることができる。
また、本発明の搬送制御装置による制御対象の搬送装置としては、請求項12記載のように、搬送方向とは垂直な回転軸を有する回転体であって、互いに対向する一対の回転体を、一組又は複数組、搬送路に沿って備えると共に、一対の回転体の少なくとも一方を回転駆動するための駆動手段を備え、各一対の回転体が、被搬送体を挟持して、被搬送体との接点を作用点とし、動作量としての回転量に応じた駆動力を、被搬送体に作用させる構成にされたものを用いることができる。
この種の搬送装置では、回転体の回転によって被搬送体を搬送するため、慣性によって被搬送体が移動しやすい。従って、この種の搬送装置を備える搬送システムに、本発明の搬送制御装置を設ければ、被搬送体を、搬送先地点に、高精度に搬送することができる。
その他、本発明(請求項6〜11)の搬送制御装置を用いて、搬送装置及び被搬送体に対し搬送先地点にて画像を形成する画像形成装置を含む画像形成システムを構成すれば、被搬送体の各点に対して、正確に画像を形成することが可能な画像形成システムを構築することができる。
即ち、請求項13記載の画像形成システムによれば、例えば、被搬送体を搬送先地点に順次送り出し、搬送先地点で被搬送体の所定領域に、順次画像を形成することにより、被搬送体の一面に、一体化した画像を形成するシステムにおいて、被搬送体の各領域を正確に搬送先地点に送りだすことができないことにより、被搬送体に、画像形成に失敗した筋状の領域が発生するのを防止することができる。
図1は、本発明の画像形成システムが適用された多機能装置(MFD:Multi Function Device )1の斜視図であり、図2は、その側断面図である。
本実施例の多機能装置1は、プリンタ機能、コピー機能、スキャナ機能、及び、ファクシミリ機能を備えるものであり、合成樹脂製のハウジング2の底部に、その前側の開口部2aから差込み可能な給紙カセット3を備える。
給紙カセット3は、例えばA4サイズやリーガルサイズ等にカットされた用紙Pを、複数枚収納可能な構成にされており、各用紙Pの短辺は、用紙搬送方向(副走査方向及びX軸方向に一致)と直交する方向(主走査方向及びY軸方向に一致)に平行配置される。
給紙カセット3の前端には、リーガルサイズ等の長い用紙Pの後端部を支持するための補助支持部材3aがX軸方向に移動可能に装着されている。図2には、補助支持部材3aがハウジング2から外部に突出された例を示すが、A4サイズ等の給紙カセット3内に収納可能な用紙Pを用いる場合には、収納部3bに補助支持部材3aを、給紙の妨げとならないように収納することができる。
また、給紙カセット3の後側には、用紙分離用の土手部5が配置されている。多機能装置1は、金属板製の箱型メインフレーム7の底板に、給紙部9を構成する給紙アーム9aの基端部が上下方向に回動可能に装着された構成にされており、この給紙アーム9aの下端に設けられた給紙ローラ9bと、土手部5とにより、給紙カセット3に積層(堆積)された用紙Pを一枚ずつ分離して搬送する。分離された用紙Pは、U字状の搬送路を構成するUターンパス11を介して給紙カセット3より上側(高い位置)に設けられた画像形成部13に搬送される。
画像形成部13は、インクジェット式の記録ヘッド15が搭載された主走査方向に往復動可能なキャリッジ17等からなり、キャリッジ17は、後述するCPU51により制御されて、主走査方向に記録ヘッド15を走査する。記録ヘッド15は、走査時に、インクを吐出して、自身下で停止配置されている用紙Pに、画像を形成する。この際、用紙Pは、搬送路を構成するプラテン19にて下方から支持される。即ち、記録ヘッド15は、プラテン19の真上に位置し、記録ヘッド15による用紙Pへの画像形成は、プラテン19上で行われる。
画像形成部13により画像形成された用紙Pが排出される排紙部21は、給紙カセット3の上側に形成されており、排紙部21に連通する排紙口21aは、ハウジング2の前面の開口部2aと共通に開口されている。
また、ハウジング2の上部には、原稿読取の際に使用される画像読取装置23が配置されている。この画像読取装置23は、その底壁23aが上カバー体25の上方からほぼ隙間なく重畳されるように配置され、図示しない枢軸部を介して、ハウジング2の一側端に対し上下開閉回動可能にされている。また、画像読取装置23の上面を覆う原稿カバー体27の後端は、画像読取装置23の後端に対して枢軸23bを中心に上下回動可能に装着されている。
その他、この画像読取装置23の前方には、各種操作ボタンや液晶表示部等を備えた操作パネル部29が設けられている。画像読取装置23の上面には、原稿カバー体27を上側に開けて原稿を載置することができる載置用ガラス板31が設けられ、その下側に原稿読取用のイメージスキャナ装置(CIS:Contact Image Sensor) 33が、主走査方向(Y軸方向)に延びるガイドシャフト35に沿って往復移動可能に設けられている。
また、画像読取装置23により被覆されるハウジング2の前部には、上方に向かって開放された図示しないインク貯蔵部が設けられている。このインク貯蔵部には、フルカラー記録のための4色(ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)のインクを各々収容したインクカートリッジが、上方から着脱可能に装着される。尚、本実施例の多機能装置1において、インクカートリッジに収容されたインクは、各インクカートリッジと記録ヘッド15とを結ぶ複数本のインク供給管37を介して記録ヘッド15に供給される。
続いて、多機能装置1が備える用紙搬送システムについて説明する。図3は、多機能装置1の用紙搬送システムを構成する搬送部40及び搬送制御部50の概略構成を示した説明図であり、図1,2で説明した多機能装置1における各部を、用紙搬送の観点から模式的に示したものである。そのため、図1,2で説明した構成要素と同じものについては、同符号を付す。
図3に示すように、当該多機能装置1の搬送部40は、給紙カセット3と、この給紙カセット3に収容された用紙Pを一枚ずつ分離して送出する給紙部9と、給紙部9の給紙ローラ9bにて送出されてきた用紙Pを、記録ヘッド15下に搬送するための搬送ローラ41と、この搬送ローラ41に圧接された状態で対向配置されたピンチローラ42と、画像形成処理時の用紙搬送を補助しつつ、画像形成後の用紙Pを排紙部21に排出する排紙ローラ43と、この排紙ローラ43に圧接された状態で対向配置されたピンチローラ44と、用紙Pの搬送路を構成する土手部5及びUターンパス11及びプラテン19と、搬送ローラ41及び排紙ローラ43の駆動源であるLF(Line Feed )モータ45と、モータ45により発生した力を伝達するための伝達機構BL1,BL2(ベルト、プーリー、ギア等からなる)と、ASIC53から入力される各種指令(制御信号)に基づいてモータ45を駆動する駆動回路47とを備える。
土手部5及びUターンパス11から構成される搬送路の上流部は、給紙ローラ9bにより送出される用紙Pの移動を制限して、用紙Pを、搬送ローラ41とピンチローラ42との接点に誘導するためのものであり、Uターンパス11における用紙Pの搬送方向下流側には、その下方に、用紙Pの下方向への移動を制限して、用紙Pを搬送ローラ41とピンチローラ42との接点に誘導するための補助部11aが設けられている。
よって、給紙カセット3から送出されてくる用紙Pは、土手部5及びUターンパス11並びに補助部11aにより、搬送ローラ41及びピンチローラ42の接点に誘導される。この状態で、搬送ローラ41が搬送方向に正回転(図3では反時計回りの回転)すると、用紙Pは、搬送ローラ41及びピンチローラ42の間に引き込まれ、搬送ローラ41及びピンチローラ42に挟持される。その後、用紙Pは、搬送ローラ41の回転と共に、搬送ローラ41の回転量に相当する距離、搬送方向である排紙ローラ43側に搬送される。
一方、プラテン19は、搬送ローラ41と排紙ローラ43とを結ぶ搬送路の下流部を構成するものであり、搬送ローラ41と排紙ローラ43と間に、それらを結ぶ線に沿って設けられている。このプラテン19は、搬送ローラ41から送りだされる用紙Pを、記録ヘッド15によって画像が形成される領域に誘導すると共に、記録ヘッド15により画像が形成された用紙Pを、排紙ローラ43とピンチローラ44との接点に誘導する。尚、以下では、各色のインクによって画像形成が行われる画像形成領域RGの下流側の端点を、画像形成地点GPと表現し、画像形成領域RGの上流側端点の上流側近傍点を搬送開始地点GSと表現する。
用紙Pは、このプラテン19に沿って排紙ローラ43側へと搬送され、用紙P先端(下流側の端縁)が排紙ローラ43とピンチローラ44との接点に到達すると、排紙ローラ43の回転と共に、排紙ローラ43とピンチローラ44との間に引き込まれ、排紙ローラ43及びピンチローラ44により挟持される。その後、排紙ローラ43の回転と共に、排紙ローラ43の回転量(搬送ローラ41の回転量と一致)に相当する距離、搬送方向である排紙部21側へと搬送される。尚、搬送ローラ41及び排紙ローラ43並びにピンチローラ42,44は、搬送方向とは垂直な方向(主走査方向)に回転軸を有する回転体である。用紙Pは、搬送ローラ41との接点及び排紙ローラ43との接点から回転に伴う駆動力を受けて、上述のように搬送路に沿って搬送方向(即ち、搬送路の上流から下流)に搬送される。
また、モータ45は、DCモータにて構成されており、駆動回路47によって駆動され、その回転力を、モータ45と搬送ローラ41との間に設けられた伝達機構BL1を介して、搬送ローラ41に伝達する。これにより、搬送ローラ41は回転する。更に、搬送ローラ41に伝達された回転力は、搬送ローラ41と排紙ローラ43との間に設けられた伝達機構BL2を介して排紙ローラ43に伝達され、これにより排紙ローラ43は、搬送ローラ41と共に同方向に回転する。その他、モータ45から発生する回転力は、伝達機構BL3を介して給紙ローラ9bに伝達され、これにより給紙ローラ9bは回転する。
但し、給紙ローラ9bは、給紙処理時のみ用紙Pの搬送方向に回転して用紙Pを搬送ローラ41側に送出し、画像形成処理時には、モータ45からの回転力を受けずに空転する。即ち、給紙ローラ9bとモータ45とを結ぶ伝達機構BL3は、給紙時のみ給紙ローラ9bに回転力を伝達し、画像形成処理時には、内蔵するギアを切り離して、給紙ローラ9bに回転力を伝達しない構成にされている。
また、給紙ローラ9bが搬送方向に回転する時、搬送ローラ41及び排紙ローラ43は、搬送方向とは逆方向に回転する。即ち、給紙ローラ9bとモータ45とを結ぶ伝達機構BL3は、モータ45が正回転したとき回転力を給紙ローラ9bに伝達せず、モータ45が逆回転したとき、その回転力を、内蔵するギアにより正方向の回転力に変換して、給紙ローラ9bに伝達する構成にされている。
尚、ここでいう給紙処理とは、給紙ローラ9bを、用紙Pに圧接させた状態で回転させ、用紙P先端を、搬送ローラ41とピンチローラ42との接点であるレジスト位置まで搬送する処理を示す。また、画像形成処理とは、このレジスト位置に配置された用紙Pにおける描画エリア先端を、画像形成地点GPに搬送する初期搬送処理と、その後、画像形成領域RGの搬送方向の幅に対応する間隔毎に、搬送開始地点GSに位置する用紙Pの基準点を、順次画像形成地点GPに搬送すると共に、用紙Pの搬送に連動して記録ヘッド15からインクを吐出し、用紙Pに画像を形成する本処理と、からなる処理を示す。
上記搬送部40には、搬送ローラ41が所定量回転する度にパルス信号を出力するロータリエンコーダ49が設けられており、ロータリエンコーダ49の出力信号は、搬送制御部50のASIC53に入力される。本実施例では、搬送ローラ41及び排紙ローラ43が、モータ45により回転され、さらにモータ45の回転は、給紙ローラ9bにも伝達される。このため、当該多機能装置1においては、エンコーダ49からのパルス信号を検出・カウントすることにより、モータ45、搬送ローラ41、排紙ローラ43、及び給紙ローラ9bの回転量、各ローラ41,43,9bにより搬送される用紙Pの移動量(搬送距離)を検出することができる。
ところで、搬送部40の駆動回路47に接続された搬送制御部50は、駆動回路47にモータ45に対する指令を入力して、搬送部40を構成するモータ45の回転を制御し、間接的に、給紙ローラ9b、搬送ローラ41、排紙ローラ43による用紙搬送の制御を実現する。この搬送制御部50は、主に、当該多機能装置1を統括制御するCPU51と、モータ45の回転速度や回転方向等を制御するASIC(Application Specific Integrated Circuit )53とからなる。
図4は、この搬送制御部50の構成を示した説明図である。以下では、画像形成処理(本処理)時に、用紙Pを搬送する際の制御に絞って説明する。そのため、図4では、画像形成処理時のモータ制御に必要な構成要素のみを示す。
上述したように画像形成処理時の用紙搬送は、用紙Pが副走査方向(用紙搬送方向)に所定量ずつ順次紙送りされることにより実現される。具体的には、往復移動可能な記録ヘッド15によって主走査方向に一パス分の記録がなされると、次パスを記録するために用紙Pが副走査方向に所定量(一パス分の搬送距離Dsであって画像形成領域RGの搬送方向の幅に対応する距離)紙送りされて停止し、そのパスにおいて記録ヘッド15による主走査方向の記録がなされる。それが終了すると、更に次パスを記録するために再び用紙Pが副走査方向に所定量紙送りされて停止し、記録ヘッド15による主走査方向への記録がなされる。つまり、副走査方向への所定量の紙送りが、用紙Pへの記録が完了するまで順次繰り返されるのである。
以下では、搬送制御部50のASIC53が内蔵する駆動用信号生成部55からの各種指令を受ける駆動回路47の構成を説明し、その後に、搬送制御部50(特にASIC53)の構成について、図4に基づき説明する。
駆動回路47の構成は、図5(a)に示す通りである。駆動回路47は、駆動用信号生成部55にて生成された駆動指令を受けてその動作を開始し、駆動用信号生成部55からの駆動方向指令に応じた駆動方向(モータ45を回転すべき方向)にてモータ45を回転させる。また、モータ45の回転量の制御は、駆動用信号生成部55からの目標電流指令に基づいて行われる。即ち、DCモータ駆動用IC47aの内部には、Hブリッジ回路が形成されており、駆動用信号生成部55からの目標電流指令に基づいてそのHブリッジ回路を構成する各スイッチング素子(S1〜S4)のスイッチング動作が制御される。尚、図5(b)は、モータ45及びDCモータ駆動用IC47aの等価回路を示す図である。
ASIC53に設けられた駆動用信号生成部55は、このように構成された駆動回路47に対して、起動設定レジスタRS1の設定値に基づく駆動指令及び駆動方向指令を入力する。また、この駆動用信号生成部55は、ASIC53内の制御部60にて生成される操作量u(本実施例では目標電流値)に基づいて、目標電流指令(制御信号)を生成し、これを駆動回路47に入力する。
尚、上記駆動用信号生成部55、エンコーダエッジ検出部56、位置カウンタ57、周期カウンタ58、各種信号処理部59、制御部60等からなるASIC53内の各部は、ASIC53が備えるクロック生成部CLKによって発生するエンコーダ49からのパルス信号よりも十分に短い周期のクロック信号に基づいて動作する。
エンコーダエッジ検出部56は、エンコーダ49からのパルス信号を取り込んでそのパルス信号のエッジ(例えば立ち上がりエッジ又は立ち下がりエッジのいずれか、若しくはその両方など)を検出するものである。位置カウンタ57は、このエンコーダエッジ検出部56により検出されたエッジを、カウントすることによって搬送ローラ41の回転量を、カウント値yとして検出する。
また、周期カウンタ58は、エンコーダエッジ検出部56により検出されたエッジ間の時間(周期)をカウントする。その他、各種信号処理部59は、エラー処理やCPU51に対する割込み信号出力などを行うものである。また、制御部60は、ASIC53が備える動作モード設定レジスタ群RSの各値、及び位置カウンタ57のカウント値y等に基づいて、駆動用信号生成部55に入力する操作量uを算出し、用紙搬送に関するモータ45のフィードバック制御を行う。
図6は、ASIC53の制御部60が備えるフィードバック演算処理部60aの構成を表すブロック図である。図6に示すように、フィードバック演算処理部60aは、位置カウンタ57から得られるエンコーダ49のパルス信号のカウント値yが、目標位置演算部601で算出された目標位置xと一致するようにフィードバック制御をするものであり、目標位置演算部601と、フィードフォワード制御部603と、フィードバック制御部605と、目標搬送速度設定部607と、第1加算器ADD1と、第2加算器ADD2とを備える。
尚、ASIC53に設けられた位置カウンタ57は、一パス分の紙送り(搬送処理)が開始される度に、カウント値yをクリアする構成にされている。このため、位置カウンタ57からは、カウント値yとして、一パス分の搬送制御実行時における搬送ローラ41の回転量が得られる。一パス分の搬送制御実行時における搬送ローラ41の回転量は、一パス分の搬送制御実行時における用紙Pの移動量に略一致するため、カウント値yは、一パス分の搬送制御の開始時に搬送開始地点GSに位置する用紙Pの地点を基準とした搬送開始地点GSからの搬送距離(位置)を表す値として解釈することができる。
フィードバック演算処理部60aを構成する目標搬送速度設定部607は、第1目標速度設定レジスタRS3が記憶する搬送開始時から規定の切替タイミングが到来する時点T1までの目標搬送速度である第1目標搬送速度v1と、第2目標速度設定レジスタRS4が記憶する上記時点T1経過後から1パス分の搬送が終了する時点(搬送終了タイミング)T2までの目標搬送速度である第2目標搬送速度v2と、に基づいて、1パス分の搬送制御における目標搬送速度v(t)を、目標位置演算部601及びフィードフォワード制御部603に入力する(図7(a)参照)。尚、変数tは、時間を表す変数である。
目標位置演算部601は、この目標搬送速度v(t)に基づいて、演算タイミングが到来する毎に、目標位置x(t)を設定する。演算タイミングは、演算タイミング設定レジスタRS10が保持する演算周期Tsの値により決定付けられる。尚、目標位置x(t)は、搬送ローラ41及び排紙ローラ43の目標回転量を示すものであり、用紙Pの目標搬送位置に略一致する。
フィードフォワード制御部603は、目標搬送速度設定部607にて設定された目標搬送速度v(t)に基づいて、搬送部40が設計値通りの動作をする場合に、目標位置x(t)まで搬送ローラ41及び排紙ローラ43を回転させるための(即ち、目標位置x(t)まで用紙Pを搬送するための)モータ45に対する操作量u1(t)を、用紙Pが1パス分の搬送距離Ds搬送されて搬送(モータ駆動)が終了するまでの期間、演算タイミング毎に逐次演算する。
例えば、目標搬送速度v(t)と目標位置演算部601で演算される目標位置x(t)との関係が、伝達関数F1(s)で表され、搬送部40が設計値通りの動作をする場合操作量u1(t)と回転量x(t)との関係が、伝達関数P(s)で表されるとき、フィードフォワード制御部603では、伝達関数F2(s)=F1(s)/P(s)にて、目標搬送速度v(t)から、操作量u1(t)が求められる。
尚、ASIC53には、目標搬送速度v(t)から目標位置x(t)を導出する際の演算式を構成するパラメータαの値を保持する目標軌跡設定レジスタRS6が用意されており、フィードバック演算処理部60aの動作時には、目標軌跡設定レジスタRS6の値が取り出されて、この値により目標位置演算部601での伝達特性が決定される。
また、ASIC53には、目標搬送速度v(t)から操作量u1(t)を導出する際の演算式を構成するパラメータβの値を保持するフィードフォワード制御設定レジスタRS7が用意されており、フィードバック演算処理部60aの動作時には、フィードフォワード制御設定レジスタRS7の値が取り出されて、この値及び目標軌跡設定レジスタRS6の値によりフィードフォワード制御部603での伝達特性が決定される。
一方、第1加算器ADD1は、上記目標位置演算部601で算出された目標位置x(t)と、位置カウンタ57のカウント値yとの偏差Θ=x−yを求め、この値Θをフィードバック制御部605に入力する。フィードバック制御部605は、第1加算器ADD1で算出された偏差Θに基づいて、操作量の補正量u2(t)を算出し、これを第2加算器ADD2へ入力する。尚、この伝達特性は、上記目標位置演算部601及びフィードフォワード制御部603と同様に、ASIC53に用意された偏差Θから操作量u2(t)を導出する際の演算式を構成するパラメータγの値を保持するフィードバック制御設定レジスタRS8の値により決定付けられる。
第2加算器ADD2は、フィードフォワード制御部603の出力である操作量u1(t)と、フィードバック制御部605の出力であるu2(t)とを加算して、搬送ローラ41及び排紙ローラ43並びに用紙Pを目標位置x(t)に移動させるのに必要な操作量u(t)を生成し、これを駆動用信号生成部55に入力する。尚、操作量u(t)は、モータ45に流すべき目標電流値を表す。
このようにして1パス分の搬送制御は実現される。即ち、1パス分の搬送制御では、演算タイミング毎に、上記のように演算された操作量uが駆動用信号生成部55に入力されて、この操作量uに基づき、定期的に、目標電流指令が駆動回路47に入力され、搬送部40が動作し、搬送ローラ41及び排紙ローラ43が所定量回転して、用紙Pが1パス分搬送される。これにより、搬送開始地点GSに位置する用紙Pの基準点は、画像形成地点GPに搬送される。
ここで、上記フィードバック演算処理部60aにより、モータ45を駆動して搬送ローラ41を回転させたときの各種応答について説明する。図7(b)は、同図(a)に示す目標搬送速度v(t)を設定した場合に実現される搬送ローラ41及び排紙ローラ43の回転速度(用紙Pの搬送速度)の軌跡を表すグラフであり、図7(c)は、搬送ローラ41及び排紙ローラ43の回転量(位置カウンタ57によるカウント値y)の軌跡を表すグラフである。また、図8は、そのときの操作量uの時間変化を表すグラフである。
図8に示すように、操作量u(目標電流値)は、モータ45の回転駆動開始後、一旦正方向に増大してその後負側に変化し、最終的には「0」付近の極めて小さい値に収束する。操作量uがこのように変化することにより、搬送ローラ41の回転量(詳細には位置カウンタ57によるカウント値y)は、図7(c)に示すように、徐々に増加していって停止位置rに到達する。また、搬送ローラ41の回転速度は、図7(b)に示すように、回転駆動開始直後に一旦増加して、その後再び減少して次第に「0」に収束する。
ところで、駆動回路47においては、実現可能な電流値に限界があるため、所定の上限値を超える操作量uがフィードバック演算処理部60aから入力されても、上限値を超える目標電流値が実現されることはない。即ち、操作量uが上限値を超えた場合、駆動回路47にて実現される電流値は、図9(a)及び図10(a)に示すように、飽和した状態になる。尚、図9及び図10は、操作量uが上限値を超えた際、従来手法で制御を行った場合の電流値の時間変化(a)と、それに対応する目標位置x(t)及びカウント値yの時間変化(b)を示した図である。
従って、用紙Pの負荷が大きく、操作量uが上限値を超える場合には、上述のフィードバック演算処理部60aの動作を、そのまま継続しても、図9(b)に示すように、目標位置演算部601が算出する目標位置x(t)と、位置カウンタ57のカウント値yとの偏差Θが拡大して、操作量u2(t)が大きくなる一方で、操作量uが上限値を超えた状態(即ち、電流値が飽和した状態)が、その後継続的に続くことになる。
このような場合には、画像形成地点GP付近での搬送ローラ41及び排紙ローラ43の回転速度及び用紙Pの搬送速度が高すぎるため、モータ45を短絡させて、搬送動作を終了しても(搬送ローラ41及び排紙ローラ43の駆動を停止しても)、慣性にて搬送ローラ41及び排紙ローラ43が回転する量が大きく、搬送ローラ及び排紙ローラ43は、必要以上に回転して停止する。また、用紙Pも慣性にて大きく移動して、画像形成地点GPより下流側で停止する。
即ち、この多機能装置1が備える搬送システムでは、用紙Pに作用する負荷(モータ45の回転負荷)が大きい場合、迅速に操作量uが上限値を超えている状態を解消しないと、画像形成地点GPに精度よく用紙Pを搬送することができないといった問題が生じる。
また、用紙Pの負荷が減少して、操作量uが自然と上限値未満となる場合もあるが、その場合には、用紙Pの負荷が減少する瞬間に、必要以上の駆動力が搬送ローラ41及び排紙ローラ43並びに用紙Pに作用し、目標位置x(t)を越えて搬送ローラ41及び排紙ローラ43が回転し、用紙Pが搬送されてしまう。この場合には、図10(a)に示すように、フィードバック演算処理部60aで導出される操作量u及び駆動回路47で実現される電流値がプラス方向及びマイナス方向に大きく脈動して、画像形成地点GPに用紙Pの基準点を精度よく搬送することができない事態となる。
そこで、当該多機能装置1には、制御部60内に、操作量uの上限値を保持する制御出力上限設定レジスタRS11の値と、第2加算器ADD2から出力される操作量uの値とに基づいて、制御手法を切り替える切替処理部61を設けた。図11は、その切替処理部61の構成を表すブロック図である。
図11に示すように、切替処理部61は、比較器611と、オンオフ制御部613と、を備える。オンオフ制御部613は、比較器611からの指令に基づき、目標位置演算部601及びフィードフォワード制御部603並びに目標搬送速度設定部607の動作をオン/オフする。一方、比較器611は、操作量uが上限値以上であるか否かを判断するためのものであり、制御出力上限設定レジスタRS11が保持する上限値と、第2加算器ADD2が出力した最近の操作量uと、を比較して、操作量uが上限値未満である場合には、オンオフ制御部613に対しオン指令を入力し、操作量uが上限値以上である場合には、オンオフ制御部613に対しオフ指令を入力する。尚、目標位置演算部601及びフィードフォワード制御部603並びに目標搬送速度設定部607は、搬送制御開始時オンにされる。
従って、搬送制御開始時、フィードバック演算処理部60aは、目標搬送速度v(t)に基づく操作量u1(t)及び目標位置x(t)を算出し、これと、位置カウンタ57のカウント値yと、に基づいて、操作量uを算出する。
一方、負荷が大きく時間経過と共に操作量uが上限値以上となると、目標位置演算部601及びフィードフォワード制御部603並びに目標搬送速度設定部607の動作は、オフにされる。
オフにされた状態で演算タイミングが到来すると、フィードバック演算処理部60aの第1加算器ADD1は、目標位置演算部601がオフ直前の演算タイミング時(時刻t=Tb)に算出し保持した値x(Tb)と、現在の位置カウンタ57のカウント値yとに基づき、偏差Θ=x(Tb)−yを求め、フィードバック制御部605は、この偏差Θに基づいて、操作量u2(t)を算出する。また、第2加算器ADD2は、フィードフォワード制御部603が、オフ直前の演算タイミング時に算出し保持した値u1(Tb)と、フィードバック制御部605が算出した上記操作量u2(t)とを加算して、操作量u(t)=u1(Tb)+u2(t)を生成し、これを駆動用信号生成部55に入力する。
また、この状態で制御を実行することにより、偏差Θが小さくなり操作量u(t)が上限値未満となると、操作量u(t)が上限値未満となった演算タイミング(時刻t=Tc)の次の演算タイミングで、目標位置演算部601及びフィードフォワード制御部603並びに目標搬送速度設定部607の動作は、再びオンにされ、フィードバック演算処理部60aでは、目標搬送速度v(t−(Tc−Tb))に基づく操作量u1(t−(Tc−Tb))及び目標位置x(t−(Tc−Tb))が算出され、これと、位置カウンタ57のカウント値yと、に基づいて、操作量u(t)が算出される。即ち、目標位置演算部601及びフィードフォワード制御部603は、オフにされていた時間分遅れて、目標位置x及び操作量u1を算出し、第2加算器ADD2は、この値を用いて、操作量uを算出し、出力する。
図12及び図13は、操作量uが上限値を超えた際に、本手法にて制御を行った場合の目標位置xの時間変化を示したグラフ(a)と、その際に駆動回路47で実現される電流値(間接的には操作量uを表す)の時間変化を示したグラフ(b)である。本実施例の多機能装置1では、切替処理部61を備えるので、操作量uが上限値を超える期間SPを短くすることができる。従って、本実施例の多機能装置1では、用紙Pの負荷が大きい場合であっても、画像形成地点GPに用紙Pの基準点を精度良く搬送することができる。
以上には、1パス分の搬送制御の際のASIC53の動作について説明したが、当該多機能装置1では、CPU51にて、給紙処理、画像形成処理、排紙処理等の主制御が行われる。図14は、このCPU51が実行する主制御処理を表すフローチャートである。主制御処理は、画像形成指示が、多機能装置1に接続されたパーソナルコンピュータ(PC)や操作パネル部29等からCPU51に入力されると、CPU51にて実行される。
主制御処理が開始されると、ASIC53に対し、給紙動作に係るレジスタ設定等が、CPU51により実行される(S100)。これにより、ASIC53では、給紙動作に係る処理が実行されて、搬送部40では、用紙Pがレジスト位置に搬送される(給紙処理)。この給紙処理が終了すると、次に画像形成処理が実行される(S200)。
画像形成処理が開始されると、CPU51により初期搬送処理が実行されて、ASIC53の制御に基づき、用紙Pの描画エリアの始点が画像形成地点GPに搬送される(S210)。この処理が終了すると、CPU51により1パス分の画像形成処理が実行されて、キャリッジが主走査方向に動作し、その際に記録ヘッド15からインクが噴射されて、用紙Pに1パス分の画像が形成される(S220)。
この処理が終了すると、用紙Pの終点までの画像形成が終了したか否かがCPU51により判断され(S230)、終了してないと判断されると(S230でNo)、CPU51により搬送処理が実行されて(S240)、次パスの領域が画像形成領域RGに搬送され(即ち、搬送開始地点GSに位置する用紙Pの基準点が画像形成地点GPに搬送され)、この後に、S220にて1パス分の画像形成処理が実行される。
一方、S230にて用紙Pの終点までの画像形成が終了したと判断されると(S230でYes)、CPU51により排紙処理が実行されて、ASIC53の制御に基づき、用紙Pが排紙部21に排紙される(S300)。
尚、図15は、S240にて実行される搬送処理を表すフローチャートである。搬送処理では、初めに、ASIC53に対する初期処理が実行される(S241)。この初期処理では、動作モード設定レジスタ群RSを構成する各レジスタの設定等がなされる。この処理が終了すると、CPU51の動作により、CPU51からASIC53に対して停止割込み許可が発行される(S243)。これにより、ASIC53は、停止割り込み信号を出力可能な状態になる。
尚、停止割込み許可を受けたASIC53は、1パス分の搬送制御によって、目標停止位置設定レジスタRS9に設定された目標停止位置rに、用紙Pが到達する毎に(即ち、位置カウンタ57のカウント値yが目標停止位置r以上となる度に)、その状態を各種信号処理部59で検知して、停止割り込み信号をCPU51に入力する。また、位置カウンタ57のカウント値yが目標停止位置rを越えなくとも、位置カウンタ57のカウント値yが一定時間変化しなければ、同じく停止割込み信号をCPU51に入力する。尚、目標停止位置設定レジスタRS9に設定される目標停止位置rは、モータ45の駆動を停止する地点である。
S243での処理が終了すると、CPU51によりASIC53に対して起動設定がなされる(S245)。即ち、S245では、CPU51による起動設定レジスタRS1の設定を契機として、ASIC53側で、操作量uの演算等が開始され、モータ45の駆動、延いては搬送ローラ41及び排紙ローラ43の回転駆動による1パス分の用紙搬送が開始される。尚、起動設定後に開始されるモータ45の制御(1パス分の搬送制御:図16参照)は、基本的にASIC53により行われ、CPU51は、S247にて停止割込み信号の待機を行う。
そして、ASIC53から停止割込み信号が出力されると、CPU51により停止割込みフラグがクリアされる。また、以後停止割込み信号が入ってこないよう、停止割込みについての割込みマスク処理が実行される。尚、この割込み信号受付後には、上述したように1パス分の画像形成処理が実行される(S220)。
図16は、ASIC53により実行される1パス分の搬送制御処理を表すフローチャートである。ASIC53によるモータ制御(1パス分の搬送制御)は、上述したようにハードウェアの動作としてなされるものであるが、ここでは、ハードウェアの動作をフローチャートに置き換えて説明する。
起動設定されて、1パス分の搬送制御の実行を開始すると、ASIC53は、モータ45の駆動制御を開始する(S510)。ここでは、フィードバック演算処理部60aによる操作量uの演算、それに基づくモータ45の制御が、1パス分の搬送終了タイミングT2が到来しモータ45が短絡されるまで繰返し行われる。
そして、用紙Pが搬送先地点(画像形成地点GP)より所定量手前の目標停止位置rに到来すると、搬送終了タイミングT2となり(S520でYes)、モータ45が短絡されて、回転にブレーキがかかりモータ45の回転が停止する。これにより、用紙Pが1パス分の搬送距離Ds移動し、搬送制御前に搬送開始地点GSに配置されていた用紙Pの基準点が画像形成地点GPに到達する。
また、モータ45の回転と共に搬送ローラ41及び排紙ローラ43の回転が停止すると、ASIC53は、停止割込み信号をCPU51に入力する(S530)。この後、ASIC53は、1パス分の搬送制御を終了する。
尚、S510では、第1目標速度設定レジスタRS3に保持された第1目標搬送速度v1及び第2目標速度設定レジスタRS4に保持された第2目標搬送速度v2に基づき目標搬送速度v(t)が決定され、この目標搬送速度v(t)に対応する目標位置x(t)が目標位置演算部601により設定され(S512)、上記目標搬送速度v(t)に対応する操作量u1(t)がフィードフォワード制御部603により算出される(S513)。
また、S512で目標位置演算部601により演算された目標位置x(t)と、位置カウンタ57のカウント値yに基づいて、第1加算器ADD1により偏差Θが算出され(S514)、それに基づく操作量u2(t)がフィードバック制御部605により算出され(S516)、S513で算出された操作量u1(t)と、S516で算出された操作量u2(t)とに基づいて第2加算器ADD2により操作量u(t)が算出される。そして、この操作量u(t)が駆動用信号生成部55に向けて出力される(S517)。これにより、搬送ローラ41及び排紙ローラ43は、操作量uに対応する速度で回転し、それに対応する速度で用紙Pが搬送される。
但し、上記S512〜S517の処理が行われるのは、上述したように、比較器611がオン指令を出力している場合、即ち、前回出力の操作量u(t)が上限値未満である場合と、搬送制御開始後、初回の演算タイミングのみである。
操作量uが上限値以上である場合(511でYes)には、比較器611がオフ指令を出力するので、次の演算タイミングにおいて、S512〜S514の処理は実行されず(即ち、通常規則での操作量u1設定、目標位置x設定及び偏差Θ算出は行なわれず)、最後にS512で算出された位置が目標位置として取り扱われ、その値と、現在の位置カウンタ57のカウント値yとに基づいて偏差Θが求められ(S515)、これに基づく操作量u2がフィードバック制御部605で求められる(S516)。そして、この操作量u2と、最後にS513で算出された操作量u1と、に基づいて今回の操作量uが決定され、これが駆動用信号生成部55に入力される。
本実施例では、目標搬送速度v(t)として、正方向の速度が設定され、負方向の速度が設定されることはないので、目標位置演算部601では、目標搬送速度v(t)に応じた傾き(変化量)で、過去に設定した目標位置よりも下流側の位置が、目標位置x(t)に設定される。従って、前回の操作量uが上限値以上である場合(511でYes)には、通常(操作量uが上限値未満である場合)よりも、搬送方向上流の位置が目標位置x(t)に設定される。
このことから、本実施例の多機能装置1では、切替処理部61で、オンオフ制御をしない場合よりも、迅速に最大電流で駆動回路47が動作している状態を解消することができ、これによって、不要な駆動力が搬送ローラ41及び排紙ローラ43並びに用紙Pに及ぶのを防止することができ、負荷が大きい場合にも、高精度に搬送(回転)制御することができる。
従って、本実施例によれば、用紙Pを所定の搬送距離Ds搬送して、用紙Pの基準点を目的の位置(画像形成地点GP)に搬送することができ、紙送りにて実現される用紙Pへの一連の画像形成において、各画像形成を所定位置に高精度に実行することができ、筋状の空欄やインクの重ね塗り等によって画像の品質が劣化するのを防止することができる。
以上には、目標位置演算部601及びフィードフォワード制御部603の演算を一時的に停止することにより、操作量uが上限値を超えた状態を解消する例について説明したが、上記の手法は、勿論、操作量uが上限値で飽和する場合にも適用することができる。その他、目標搬送速度を下げることで、操作量uが上限値を超えた状態を解消されてもよい。
図17は、変形例のASIC70の構成を表すブロック図である。尚、変形例のASIC70は、ASIC53の構成を一部変更した程度のものであるので、ASIC53と同一の構成要素については、同符号を付して、その説明を省略する。
図17に示すASIC70は、ASIC53が備える構成要素に加えて、第3目標速度設定レジスタRS5を備える。第3目標速度設定レジスタRS5には、操作量uが上限値以上となった場合に、第1目標速度設定レジスタRS3が記憶する第1目標搬送速度v1に代えて設定される第3目標搬送速度が記憶されている。具体的に、この第3目標速度設定レジスタRS5には、第3目標搬送速度として、複数の値v31,v32,v33が保持されている。これらの値v31,v32,v33は、関係式v1>v31>v32>v33>v2を満足する。
また、このASIC70には、フィードバック演算処理部60aを備える制御部60に代えて、図18に示す構成のフィードバック演算処理部71aを備える制御部71が設けられている。図18(a)は、変形例のASIC70が備えるフィードバック演算処理部71aの構成を示したブロック図であり、図18(b)は、フィードバック演算処理部71aを構成する目標搬送速度設定部711の構成を表すブロック図である。
図18(a)に示すように、変形例のフィードバック演算処理部71aは、フィードバック演算処理部60aにおける目標搬送速度設定部607に代えて、図18(b)に示す構成の目標搬送速度設定部711が設けられた構成にされている。
この目標搬送速度設定部711は、速度出力部712と、速度切替部713と、第3目標速度選択部714と、飽和回数カウンタ715と、比較器716と、を備える。
速度出力部712は、搬送開始時から規定の切替タイミングが到来する時点T1までの期間、速度切替部713から出力される速度値を、目標搬送速度v(t)として出力し、上記時点T1経過後から搬送終了タイミングT2までの期間、第2目標速度設定レジスタRS4が記憶する第2目標搬送速度v2を、目標搬送速度v(t)として出力する。尚、切替タイミングは、位置カウンタ57のカウント値yが規定値以上となった時点で到来する。また、速度出力部712から出力された目標搬送速度v(t)は、上記構成の目標位置演算部601及びフィードフォワード制御部603に入力される。
一方、速度切替部713は、第1目標速度設定レジスタRS3が記憶する第1目標搬送速度v1、及び、第3目標速度選択部714が出力する速度値のいずれか一方を、速度出力部712に入力する構成にされている。具体的に、速度切替部713は、比較器716から、第1目標搬送速度v1の選択指令が入力されると、第1目標搬送速度v1を速度出力部712に入力し、比較器716から、第3目標搬送速度の選択指令が入力されると、第3目標速度選択部714が出力する速度値を、速度出力部712に入力する。
比較器716は、演算タイミングが到来する度に、制御出力上限設定レジスタRS11が保持する上限値と、第2加算器ADD2が出力した操作量uと、を比較して、操作量uが上限値未満である場合には、速度切替部713に対して第1目標搬送速度v1の選択指令を入力し、操作量uが上限値以上である場合には、速度切替部713に対して第3目標搬送速度の選択指令を入力する構成にされている。尚、搬送制御開始時には、比較器716から、第1目標搬送速度v1の選択指令が入力される。
また、この比較器716は、操作量uが上限値以上である場合、演算タイミング毎に、飽和回数カウンタ715のカウント値CNを1加算する(カウントアップする)。また、操作量uが上限値未満である場合、飽和回数カウンタ715をクリアし、カウント値CNを「0」にする。即ち、飽和回数カウンタ715には、継続的に比較器716で操作量uが上限値以上であると判定された回数が記憶される。
第3目標速度選択部714は、この飽和回数カウンタ715のカウント値CNに応じて、第3目標速度設定レジスタRS5に記憶された値v31,v32,v33の中から一つ値を選択し、これを速度切替部713に入力する。
具体的に、第3目標速度選択部714は、カウント値CNが関係式0≦CN<m(m:自然数)を満足する場合、速度値v31を速度切替部713に入力し、カウント値CNが関係式m≦CN<n(n:n>mを満足する自然数)を満足する場合、速度値v32を速度切替部713に入力し、カウント値CNが関係式n≦CNを満足する場合、速度値v33を速度切替部713に入力する。上述したように、値v31,32,33は、関係式v31>v32>v33を満足するので、第3目標速度選択部714からは、カウント値CNが大きくなるに従って(即ち、操作量uが上限値以上である期間が長くなるに従って)、より低い速度値が速度切替部713に入力される。
図19は、演算タイミングが到来する度に、制御部71が実行する操作量演算処理を表すフローチャートである。尚、この処理は、図16に示すS510で実行される。
フィードバック演算処理部71aでは、演算タイミングが到来した際、第2目標搬送速度v2への切替タイミングが到来していると(S610でYes)、目標搬送速度v(t)として、第2目標速度設定レジスタRS4が記憶する第2目標搬送速度v2が速度出力部712から出力される(S615)。
一方、第2目標搬送速度v2への切替タイミングが到来していない場合(S610でNo)、比較器716にて、操作量uが上限値以上であるか否かが判断され(S620)、操作量が上限値未満である場合には(S620でNo)、飽和回数カウンタ715がクリアされる(S630)。また、この際には、比較器716から第1目標搬送速度v1の選択指令が速度切替部713に入力されるので、速度出力部712からは、目標搬送速度v(t)として、第1目標速度設定レジスタRS3が記憶する第1目標搬送速度v1が出力される(S640)。
これに対し、操作量が上限値以上である場合には(S620でYes)、第3目標速度選択部714で飽和回数カウンタ715のカウント値CNが参照されて(S621)、カウント値CNに応じた速度値が速度切替部713から出力され、これにより速度出力部712からは、目標搬送速度v(t)として、カウント値CNに応じた第3目標搬送速度が出力される。具体的に、カウント値CNが関係式0≦CN<mを満足する場合、速度出力部712からは、目標搬送速度v(t)として、速度値v31が出力される(S623)。
また、カウント値CNが関係式m≦CN<nを満足する場合、速度出力部712からは、目標搬送速度v(t)として、速度値v32が出力される(S625)。その他、カウント値CNが関係式n≦CNを満足する場合、速度出力部712からは、目標搬送速度v(t)として、速度値v33が出力される(S627)。また、この際には、飽和回数カウンタ715のカウント値CNが1加算される(S629)。
一方、目標搬送速度設定部711から出力される目標搬送速度v(t)を受ける目標位置演算部601では、目標位置x(t)として、前回値よりも、この目標搬送速度v(t)に対応する量大きい値が算出される(S650)。即ち、目標搬送速度v(t)として第3目標搬送速度が入力された場合には、目標搬送速度v(t)として第1目標搬送速度v1が入力された場合よりも、搬送方向上流側の位置が、目標位置x(t)として設定される。
また、フィードフォワード制御部603では、上記目標搬送速度v(t)に対応する操作量u1(t)が算出される(S660)。この際、目標搬送速度v(t)として第3目標搬送速度が入力されると、目標搬送速度v(t)として第1目標搬送速度v1が入力された場合よりも、小さい値の操作量u1(t)が算出される。
また、第1加算器ADD1では、S650で目標位置演算部601により演算された目標位置x(t)と、位置カウンタ57のカウント値yに基づいて、偏差Θが算出され(S670)、それに基づく操作量u2(t)がフィードバック制御部605により算出される(S680)。尚、目標搬送速度v(t)として第3目標搬送速度が入力された場合には、目標搬送速度v(t)として第1目標搬送速度v1が入力された場合よりも、小さい値の操作量u2(t)が算出される。
そして、第2加算器ADD2では、S660で算出された操作量u1(t)と、S680で算出された操作量u2(t)とに基づいて操作量u(t)が算出され、この操作量u(t)が駆動用信号生成部55に入力される(S690)。尚、図20及び図21は、操作量uが上限値を超える際に、本手法(ASIC70)にて制御を行った場合の目標位置xの時間変化を示したグラフ(a)と、その際に駆動回路47で実現される電流値の時間変化を示したグラフ(b)である。
ASIC70においては、操作量uが上限値を超える場合、目標搬送速度v(t)を一時的に下げることにより、目標位置x(t)を、通常より上流側の位置に設定する(即ち、目標移動量を通常より小さく設定する)ので、ASIC53と同様に、操作量uが上限値を超える期間SPを短くすることができる。従って、この変形例の手法を用いた多機能装置1でも、適切に負荷が大きい用紙Pを搬送することができ、画像形成地点GPに用紙Pの基準点を精度良く搬送することができる。また、精度よく用紙Pを搬送することができる結果、位置ずれすることなく用紙Pの一面に画像を形成することができ、用紙Pに、画像形成に失敗した筋状の領域が発生するのを防止することができる。
尚、以上には、目標搬送速度を下げることで、操作量uが上限値を超えた状態を解消する例を示したが、その他、目標搬送速度v(t)から目標位置x(t)を導出する際の演算式を構成するパラメータαの値を切り替えることで、操作量uが長時間上限値を超えるのを解消されてもよい。
図22は、第2変形例のASIC80の構成を表すブロック図である。尚、このASIC80は、ASIC53の構成を一部変更した程度のものであるので、ASIC53と同一の構成要素については、同符号を付して、その説明を省略する。
図22に示すように、ASIC80には、図4に示す目標軌跡設定レジスタRS6に代えて、上記のパラメータαにつき、複数の値α1,α2を保持する目標軌跡設定レジスタRS6’が設けられている。また、このASIC80には、図11に示す構成の切替処理部61及びフィードバック演算処理部60aを備える制御部60に代えて、図23に示す構成の切替処理部81a及びフィードバック演算処理部60aを備える制御部81が設けられている。尚、図23は、ASIC80が備える切替処理部81aの構成を示したブロック図である。
図23に示すように、切替処理部81aは、比較器811と、パラメータ切替部813とを備える。比較器811は、演算タイミングが到来する度に、制御出力上限設定レジスタRS11が保持する上限値と、第2加算器ADD2が出力した操作量uと、を比較し、操作量uが上限値未満であると、パラメータ切替部813に対して第1値の選択指令を入力し、操作量uが上限値以上であると、パラメータ切替部813に対して第2値の選択指令を入力する。
一方、パラメータ切替部813は、比較器811から第1値の選択指令が入力されると、目標軌跡設定レジスタRS6’が記憶する値α1を、目標位置演算部601及びフィードフォワード制御部603に設定し、比較器811から第2値の選択指令が入力されると、目標軌跡設定レジスタRS6’が記憶する値α2を、目標位置演算部601及びフィードフォワード制御部603に設定する。
尚、目標軌跡設定レジスタRS6’には、目標搬送速度v(t)から目標位置x(t)を導出する際の演算式に、パラメータαとして値α1を設定した場合の目標位置x(t)の傾きδ1=dx(t,α1)/dtと、パラメータαとして値α2を設定した場合の目標位置x(t)の傾きδ2=dx(t,α2)/dtと、が関係式δ1>δ2を満足するように、値α1,α2が登録される。
図24は、α=α1に設定した場合に目標位置演算部601から出力される目標位置x(t)の軌跡と、α=α2に設定した場合に目標位置演算部601から出力される目標位置x(t)の軌跡と、を表すグラフである。但し、このグラフは、時刻t=0からα=α1又はα=α2に設定した時の軌跡である。
目標位置演算部601及びフィードフォワード制御部603は、目標搬送速度v(t)及びパラメータαを用いた所定の演算で変化量を求めて、前回の演算結果に変化量を加算し(即ち積分演算して)、目標搬送速度v(t)に対応する目標位置x(t)、操作量u1(t)を求める構成にされているため、搬送制御の途中でパラメータαの値を値α1から値α2に切り替えた場合には、パラメータα=α1が設定されている場合よりも、搬送方向上流側の位置が、目標位置x(t)として設定される。
図25は、演算タイミングが到来する度に、制御部81が実行する操作量演算処理を表すフローチャートである。尚、この処理は、図16に示すS510で実行される。
制御部81では、演算タイミングが到来した際、第2目標搬送速度v2への切替タイミングが到来していると(S710でYes)、目標搬送速度v(t)として、第2目標速度設定レジスタRS4が記憶する第2目標搬送速度v2が目標搬送速度設定部607から出力される(S715)。
一方、第2目標搬送速度v2への切替タイミングが到来していない場合(S710でNo)、目標搬送速度設定部607からは、目標搬送速度v(t)として、第1目標速度設定レジスタRS3が記憶する第1目標搬送速度v1が出力される(S717)。
また、この場合には、比較器811にて、操作量uが上限値以上であるか否かが判断され(S720)、操作量が上限値未満である場合には(S720でNo)、比較器811から第1値の選択指令がパラメータ切替部813に入力され、目標位置演算部601及びフィードフォワード制御部603に対しては、パラメータα=α1が設定される(S730)。一方、操作量が上限値以上である場合には(S720でYes)、比較器811から第2値の選択指令がパラメータ切替部813に入力され、目標位置演算部601及びフィードフォワード制御部603に対しては、パラメータα=α2が設定される(S740)。
そして、目標搬送速度設定部711から出力される目標搬送速度v(t)を受ける目標位置演算部601では、操作量が上限値未満である場合にはパラメータα=α1を用いた演算で、目標搬送速度v(t)に対応する目標位置x(t)が算出され、操作量が上限値以上である場合にはパラメータα=α2を用いた演算で、目標搬送速度v(t)に対応する目標位置x(t)が算出される(S750)。この際、パラメータα=α2である場合には、パラメータα=α1で目標位置x(t)を演算する場合よりも、搬送方向上流側の位置が、目標位置x(t)として算出される。
また、フィードフォワード制御部603では、上記目標搬送速度v(t)及びパラメータαの値に対応する操作量u1(t)が算出される(S760)。その他、第1加算器ADD1では、S750で目標位置演算部601により算出された目標位置x(t)と、位置カウンタ57のカウント値yに基づいて、偏差Θが算出され(S770)、それに基づく操作量u2(t)がフィードバック制御部605により算出される(S780)。尚、この際、パラメータα=α2である場合には、パラメータα=α1である場合よりも、小さい値の操作量u2(t)が算出される。
そして、第2加算器ADD2では、S760で算出された操作量u1(t)と、S780で算出された操作量u2(t)とに基づいて操作量u(t)が算出され、この操作量u(t)が駆動用信号生成部55に入力される(S790)。従って、パラメータα=α2である場合には、パラメータα=α1である場合よりも、小さい値の操作量u(t)が算出される。
このように、ASIC80においては、目標位置x(t)の傾きに関するパラメータαを切り替えることにより、操作量uが上限値以上である場合、目標位置x(t)を、通常より上流側の位置に設定する(即ち、目標移動量を通常より小さく設定する)。従って、第2変形例によれば、上記他の実施例と同様に、操作量uが上限値を超える期間SPを短くすることができる。
従って、この変形例の手法を用いた多機能装置1でも、適切に負荷が大きい用紙Pを搬送することができ、画像形成地点GPに用紙Pの基準点を精度良く搬送することができる。また、精度よく用紙Pを搬送することができる結果、位置ずれすることなく用紙Pの一面に画像を形成することができ、用紙Pに、画像形成に失敗した筋状の領域が発生するのを防止することができる。
尚、本発明の搬送装置及び駆動装置は、搬送部40に相当し、搬送制御装置及び制御装置は、搬送制御部50に相当する。また、検出手段は、エンコーダ49及びエンコーダエッジ検出部56並びに位置カウンタ57にて実現され、目標設定手段は、目標搬送速度の設定に係る動作、第1加算器ADD1に入力する目標位置の設定に係る動作、パラメータαの切替に係る動作にて実現されている。また、操作量演算手段は、フィードフォワード制御部603及びフィードバック制御部605並びに加算器ADD1,ADD2の動作にて実現されている。その他、搬送制御手段及び制御手段は、駆動用信号生成部55にて実現され、操作量判断手段は、比較器611,716,811にて実現されている。また、継続期間判定手段は、比較器716及び飽和回数カウンタ715の動作にて実現されている。
その他、搬送路における駆動力の作用点は、搬送ローラ41及び排紙ローラ43との接点に相当する。また、本発明でいう「一対の回転体」は、搬送ローラ41及びピンチローラ42の組、排紙ローラ43及びピンチローラ44の組に相当する。その他、駆動手段は、モータ45の回転力を受ける伝達機構BL1,BL2にて実現されている。また、本発明の画像形成装置は、インクジェット式の記録ヘッド15に相当する。
また、本発明の制御装置及び搬送制御装置及び搬送システム及び画像形成システムは、上記実施例に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
例えば、パラメータαを切り替えることにより、操作量uが上限値以上である状態を解消する構成された装置においても、操作量uが上限値以上である状態が一向に解消されない場合には、更に、目標位置x(t)の傾きが小さくなるように、パラメータαの値を変更するように装置を構成することが可能である。
その他、本発明は、モータ45の駆動力を受けて、搬送ローラ41と共に回転するカム101の駆動システム100にも適用することができる。図26(a)は、記録ヘッド15のノズル面を拭き取るためのワイパ102を、記録ヘッド15とは接触不能となる待避位置から、記録ヘッド15に接触して拭取動作を行う拭取位置へ移動させるカム101の駆動システム100の構成を表す説明図であり、図26(b)は、カム101周囲の構成を表す説明図である。
図26に示すカム101の駆動システム100では、キャリッジ17が所定のメンテナンス位置に移動すると、スライドギア105が大径傘歯車107と係合して、モータ45に連結された搬送ローラ41が、駆動ギア103、スライドギア105、大径傘歯車107、小径傘歯車109、減速ギア111、太陽ギア113、遊星ギア115を介してカム101に係合される。大径傘歯車107は、小径傘歯車109に係合されており、ここで、回転運動は、水平方向を軸とした回転運動から上下方向を軸とした回転運動に変換され、水平方向に回転軸を有する搬送ローラ41から伝達される回転力は、上下方向に回転軸を有するカム101に伝達される。
尚具体的に、小径傘歯車109は減速ギア111と係合されており、減速ギア111は、太陽ギア113と係合されている。太陽ギア113は、当該太陽ギア113を中心として回動可能に構成された旋回アーム117の端部に設けられた遊星ギア115と係合されており、太陽ギア113が図26(b)において反時計回りに回転すると、遊星ギア115が太陽ギア113を中心に反時計回りに公転して、カム101の従動ギア116と係合する。この状態でカム101は、反時計回りに回転駆動される。これに対して、太陽ギア113が時計回り方向に回転すると、遊星ギア115が太陽ギア113を中心に時計回りに公転して、ギア119と係合する。この状態では、カム101に駆動力が作用することはない。従って、カム101は、反時計回りに回転駆動され、時計回りに回転駆動することはない。
カム101が上記のように構成されている場合、カム101が規定量以上に回転して、目的の回転角で停止しないと、カム101を逆回転することができないため、カム101が目的の回転角で停止するまで、何度もカム101の回転制御を行う必要があるが、上記の駆動システム100に対し、上記の搬送制御と同様の制御を行えば、カム101を精度よく迅速に目的の回転角で停止することができる。尚、カム101の回転量は、搬送ローラ41に設けられたエンコーダ49を用いて検出可能である。
1…多機能装置、2…ハウジング、2a…開口部、3…給紙カセット、5…土手部、9…給紙部、9b…給紙ローラ、11…Uターンパス、11a…補助部、13…画像形成部、15…記録ヘッド、17…キャリッジ、19…プラテン、21…排紙部、29…操作パネル部、40…搬送部、41…搬送ローラ、42,44…ピンチローラ、43…排紙ローラ、45…モータ、47…駆動回路、47a…DCモータ駆動用IC、49…エンコーダ、50…搬送制御部、51…CPU、53,70,80…ASIC、55…駆動用信号生成部、56…エンコーダエッジ検出部、57…位置カウンタ、58…周期カウンタ、59…各種信号処理部、60,71,81…制御部、60a,71a…フィードバック演算処理部、61,81a…切替処理部、100…駆動システム、101…カム、102…ワイパ、103,105,107,109,111,113,115,116,119…ギア、117…旋回アーム、601…目標位置演算部、603…フィードフォワード制御部、605…フィードバック制御部、607,711…目標搬送速度設定部、611,716,811…比較器、613…オンオフ制御部、712…速度出力部、713…速度切替部、714…第3目標速度選択部、715…飽和回数カウンタ、813…パラメータ切替部、ADD1,ADD2…加算器、BL1,BL2,BL3…伝達機構、CLK…クロック生成部、RG…画像形成領域、GP…画像形成地点、GS…搬送開始地点、RS…動作モード設定レジスタ群、RS1…起動設定レジスタ、RS3…第1目標速度設定レジスタ、RS4…第2目標速度設定レジスタ、RS5…第3目標速度設定レジスタ、RS6,RS6’…目標軌跡設定レジスタ、RS7…フィードフォワード制御設定レジスタ、RS8…フィードバック制御設定レジスタ、RS9…目標停止位置設定レジスタ、RS10…演算タイミング設定レジスタ、RS11…制御出力上限設定レジスタ