JP2005323606A - コリネバクテリウム属細菌由来の新規遺伝子及びその利用 - Google Patents

コリネバクテリウム属細菌由来の新規遺伝子及びその利用 Download PDF

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Abstract

【課題】 コリネバクテリウム属細菌のL−リジンの生産能を向上させる。
【解決手段】 プロモーターを強力なプロモーターと置換することまたは細胞内のコピー数を上昇させることにより、コリネバクテリウム属細菌に由来し、該細菌に界面活性剤に対する耐性を付与する蛋白質をコードする遺伝子の発現量が上昇するように改変され、かつL−リジン生産能を有するコリネバクテリウム属細菌を液体培地に培養し、培養液中にL−リジンを生成蓄積させ、これを採取することを特徴とするL−リジンの製造法。
【選択図】 なし

Description

本発明は、L−グルタミン酸及びL−リジンに代表されるL−アミノ酸等の物質の発酵生産に用いられるコリネバクテリウム属細菌の育種と利用に関する。
コリネバクテリウム属細菌をビオチン量を制限した培地で培養すると同細菌は著量のL−グルタミン酸を生産する。一方、コリネバクテリウム属細菌をビオチンが過剰量存在する培地中で培養すると同細菌はL−グルタミン酸を生産しないが、この培養条件でも培地に界面活性剤またはペニシリンを添加すると、同細菌の生育は抑制され、同細菌は著量のL−グルタミン酸を生成するようになることが知られている。
すなわち、コリネバクテリウム属細菌を用いてL−グルタミン酸を生産するには次のいずれかの手段が有効である。
1.培地中のビオチン濃度を最適以下(suboptimal)にする。
奥村真二、都河竜一郎、角田俊直、北井淳夫:日本農芸化学会誌, 36, 197-203 (1962)参照。
2.ビオチンが十分量存在する条件で培地に界面活性剤を添加する。
I.Shiio, H.Otsuka, N.Atsuya:J. Biochem., 53, 333-340 (1963)及びK.Takinami, H.Okada, T.Tsunoda:Agr. Biol. Chem., 27, 853-863 (1963)参照。
3.ビオチンが十分量存在する条件で培地にペニシリンを添加する。
米国特許第3,080,297号、特公昭37-1695号及び渋川満、栗間理夫、岡部節三、
大沢岳義:Amino Acid and Nucleic Acid, 17, 61-65 (1968)参照。
それらの作用機作については、以下の通り考察されている。
ビオチン制限によるL−グルタミン酸生成の場合、ビオチンが脂肪酸合成系のアセチルCoAカルボキシラーゼの補酵素になっていること、及び、オレイン酸を初めとする不飽和脂肪酸及びその誘導体にはビオチン代替作用が認められることなどの事実より、細胞膜の脂肪酸組成に影響を与えることでL−グルタミン酸の細胞膜透過性が変化する事が主要因であろうと考えられている(I.Shiio,S.Otsuka,M.Takahashi:J.Biochem.,51,56-62(1962),I.Shiio,K.Narui,N.Yahaba,M.Takahashi:J.Biochem.,51,109-111(1962))。
また、界面活性剤又はペニシリン添加によるL−グルタミン酸生成の場合も、細胞表層の構造変化による細胞質膜透過性の変化と結び付けて考えられてきた(I.Shiio,S.Otsuka,N.Katsuya:J.Biochem.,53,333-340(1963))。
上記のようにL−グルタミン酸生成は細胞膜透過性と結び付けて議論されてきたが、しかしながらその関連性を直接的に証明する知見は得られていなかった。
すなわち、ビオチンの制限または界面活性剤もしくはペニシリンの添加がどの様な作用機作を通じてコリネバクテリウム属細菌のL−グルタミン酸の生産性を改善することにつながるのか不明な点が多かった。
さらに、これら作用機作を解明する上で重要な鍵となると思われる遺伝子レベルの情報もなかった。
本発明の課題は、コリネバクテリウム属細菌が有するL−グルタミン酸の生成機構、具体的には、コリネバクテリウム属細菌が有するL−グルタミン酸の生成機構における界面活性剤添加の作用機作を解明し、得られた知見を基にしてコリネバクテリウム属に属するL−グルタミン酸等の生産菌を育種改良することである。
そこで本発明の具体的課題は、コリネバクテリウム属細菌のL−グルタミン酸生成機構を遺伝子レベルで解明することにあり、コリネバクテリウム属細菌由来の界面活性剤耐性に関与する遺伝子を単離し、得られた遺伝子をコリネバクテリウム属に属するL−グルタミン酸等の生産菌の育種及びL−グルタミン酸等の生産に応用することである。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、コリネバクテリウム属細菌のL−グルタミン酸生産に関与すると思われる遺伝子の存在を突き止め(以下、この遺伝子をdtsR遺伝子、同遺伝子がコードする蛋白質をDTSR蛋白と称する。)、さらに本遺伝子の有用な用途を見いだすことより、本発明を完成するに至らしめた。
本発明は以下の通りである。
(1)コリネバクテリウム属細菌に由来し、該細菌に界面活性剤に対する耐性を付与する蛋白質をコードする遺伝子。
(2)前記蛋白質のアミノ酸配列が、配列表配列番号2で示されるアミノ酸配列のうちアミノ酸番号37〜543からなるアミノ酸配列またはこのアミノ酸配列においてコリネバクテリウム属細菌に界面活性剤に対する耐性を付与する活性に実質的に影響を与えないアミノ酸残基の置換、欠失あるいは挿入を有するアミノ酸配列を含む上記(1)記載の遺伝子。
(3)配列表配列番号1に示される塩基配列の467番目から1987番目に至る配列またはこれと実質的に同一の塩基配列を有する上記(1)記載の遺伝子。
(4)上記(1)、(2)又は(3)記載の遺伝子とコリネバクテリウム属細菌で機能するベクターが連結されて得られる組換えDNA。
(5)上記(4)記載の組換えDNAを保有するコリネバクテリウム属細菌。
(6)上記(4)記載の組換えDNAを保有し、かつL−リジン生産能を有するコリネバクテリウム属細菌を液体培地に培養し、培養液中にL−リジンを生成蓄積させ、これを採取することを特徴とするL−リジンの製造法。
(7)上記(1)、(2)又は(3)記載の遺伝子の塩基配列中に、この塩基配列によってコードされる蛋白質がコリネバクテリウム属細菌に界面活性剤に対する耐性を付与する活性が正常に機能しないような1又は2以上の塩基の置換、欠失、挿入、付加または逆位が生じた遺伝子。
(8)上記(7)記載の遺伝子とコリネバクテリウム属細菌で機能するベクターが連結されて得られる組換えDNA。
(9)染色体上に存在する上記(1)、(2)又は(3)記載の遺伝子またはそのプロモーターの塩基配列中に1又は2以上の塩基の置換、欠失、挿入、付加または逆位が生じたことにより、コリネバクテリウム属細菌に界面活性剤に対する耐性を付与する活性を有する蛋白質が正常に機能していないコリネバクテリウム属細菌。
(10)染色体上に存在する上記(1)、(2)又は(3)記載の遺伝子またはそのプロモーターの塩基配列中に1又は2以上の塩基の置換、欠失、挿入、付加または逆位が生じたことにより、コリネバクテリウム属細菌に界面活性剤に対する耐性を付与する活性を有する蛋白質が正常に機能しておらず、かつL−グルタミン酸生産能を有するコリネバクテリウム属細菌を液体培地に培養し、培養液中にL−グルタミン酸を生成蓄積させ、これを採取することを特徴とするL−グルタミン酸の製造法。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明にいうコリネバクテリウム属細菌とは、バージーズ・マニュアル・オブ・デターミネイティブ・バクテリオロジー(Bargeys Manual of Determinative Bacteriology)第8版599頁(1974)に定義されている一群の微生物であり、好気性、グラム陽性、非抗酸性、胞子形成能を有しない桿菌であり、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが現在コリネバクテリウム属細菌として統合されたブレビバクテリウム属細菌(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255 (1981))を含み、またコリネバクテリウム属細菌と非常に近縁なブレビバクテリウム属細菌及びミクロバテリウム属細菌を含む。このようなコリネバクテリウム属細菌のうち、以下に述べるようなL−グルタミン酸生産性細菌として知られているものが本発明においては、最も好ましいものである。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム
コリネバクテリウム・カルナエ
コリネバクテリウム・グルタミカム
コリネバクテリウム・リリウム(コリネバクテリウム・グルタミカム)
コリネバクテリウム・メラセコーラ
ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム) ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム
ブレビバクテリウム・インマリオフィルム
ブレビバクテリウム・ロゼウム
ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカム)
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス
具体的には、下記の菌株を例示することができる。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム ATCC 13870
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム ATCC 15806
コリネバクテリウム・カルナエ ATCC 15991
コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC 13032
コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC 13060
ブレビバクテリウム・ディバリカタム ATCC 14020
ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム ATCC 13869
コリネバクテリウム・リリウム ATCC 15990
コリネバクテリウム・メラセコーラ ATCC 17965
ブレビバクテリウム・サッカロリティクム ATCC 14066
ブレビバクテリウム・インマリオフィルム ATCC 14068
ブレビバクテリウム・ロゼウム ATCC 13825
ブレビバクテリウム・フラバム ATCC 13826
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス ATCC 19240
これらを入手するには、例えばアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションより分譲を受けることができる。すなわち、各微生物ごとに対応する登録番号が付与されており、この登録番号を引用して分譲を受けることができる。各微生物に対応する登録番号はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。
本発明に関する界面活性剤は、ビオチンが十分量存在する条件で、ペニシリンと同様に
コリネバクテリウム属細菌にL−グルタミン酸の生成を促す作用を持つものであり、各種の非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤が存在する(山田浩一、高橋穣二、中村淳二:発酵工学会誌, 20,348-350 (1962)、宇田川清、阿部重雄、木下祝郎:発酵工学会誌, 40, 614-619 (1962))。また、非イオン性界面活性剤の中でも、Tween60(ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(polyoxyethylene sorbitan monostearate))及びTween40(ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート(polyoxyethylene sorbitan monopalmitate))にはペニシリン様効果がある(I.Shiio,S.Otsuka,N.Katsuya:J. Biochem., 53, 333-340 (1963))。また、C3からC18の遊離飽和脂肪酸そのものでも同様の効果がある(K.Takinami,H.Okada,T.Tsunoda:Agr. Biol. Chem., 28,
114-118(1964))。本発明の実施例で使用したものはTween40である。
<1>コリネバクテリウム属細菌由来の界面活性剤耐性に関与する遺伝子の単離
コリネバクテリウム属細菌由来の界面活性剤耐性に関与する遺伝子を単離するには、例えば下記の操作により行うことができる。
(1)界面活性剤に対する感受性が向上したコリネバクテリウム属に属する界面活性剤感受性変異株を取得し、
(2)野生型コリネバクテリウム属細菌の染色体DNAの各種断片を、コリネバクテリウム属細菌で機能するベクターと連結して各種組換えDNAを作成し、
(3)各種組換えDNAをコリネバクテリウム属に属する界面活性剤感受性変異株に導入して形質転換を行い、
(4)形質転換株の中から界面活性剤感受性が失われた株を選択し、
(5)界面活性剤感受性が失われた形質転換株より組換えDNAを回収し、
(6)ベクターに連結されている野生型コリネバクテリウム属細菌の染色体DNA断片の構造を解析する。
こうして得られる野生型コリネバクテリウム属細菌の染色体DNA断片には、コリネバクテリウム属細菌由来の界面活性剤耐性に関与する遺伝子が含まれている。同遺伝子は、少なくとも、界面活性剤を含む培地でコリネバクテリウム属細菌がL−グルタミン酸を培地中に蓄積する機構に関与するものである。また、ペニシリン添加やビオチン制限による培地中のL−グルタミン酸の蓄積にも共通に関与する。
界面活性剤に対する感受性が向上したコリネバクテリウム属に属する界面活性剤感受性変異株とは、野生型のコリネバクテリウム属細菌の生育に影響を与えない濃度の界面活性剤が存在する培地中で生育が悪くなるコリネバクテリウム属に属する変異株をいう。例えば界面活性剤がポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテートの場合、コリネバクテリウム属に属する界面活性剤感受性変異株は0.1〜1mg/dlの濃度の上記界面活性剤が培地中に添加されると生育が野生株と比較して悪くなる。一方、野生型のコリネバクテリウム属細菌は0.1〜1mg/dlの濃度の上記界面活性剤が添加された培地中でも生育に大きな変化はみられない。本変異株を培養し界面活性剤を添加してL−グルタミン酸を生産する場合において、必要とされる界面活性剤の濃度は通常の場合より低下している。界面活性剤感受性変異株の細胞の状態は、野生株の細胞が界面活性剤にさらされているときの状態に近いものと思われる。
コリネバクテリウム属に属する界面活性剤感受性変異株を取得するには、特開昭50−126877号公報(特公昭52−24593号公報)に記載される方法を用いることができる。
コリネバクテリウム属に属する界面活性剤感受性変異株としては、具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム AJ11060が挙げられる。同株は通商産業省工業技術
院生命工学工業技術研究所に寄託されており、受託番号FERM P−3678が付与されている。
野生型コリネバクテリウム属細菌の染色体DNAの各種断片の調製法は以下の通りである。すなわち、野生型コリネバクテリウム属細菌を液体培地に培養し、集めた細胞から斎藤らの方法(H.Saito and K.Miura Biochem. Biophys. Acta 72, 619 (1963))に従い染色体DNAを回収する。回収した染色体DNAを制限酵素を用いて切断する。制限酵素として4塩基認識型の酵素を用いてDNAを不完全分解する条件で反応を行うことによって多様なDNA断片が調製できる。
コリネバクテリウム属細菌で機能するベクターとは、例えばコリネバクテリウム属細菌で自律複製できるプラスミドである。具体的に例示すれば、以下のものが挙げられる。
pAM 330 特開昭58−67699号公報参照
pHM 1519 特開昭58−77895号公報参照
pAJ 655 特開昭58−192900号公報参照
pAJ 611 同 上
pAJ 1844 同 上
pCG 1 特開昭57−134500号公報参照
pCG 2 特開昭58−35197号公報参照
pCG 4 特開昭57−183799号公報参照
pCG 11 同 上
コリネバクテリウム属細菌で機能するベクターと、野生型コリネバクテリウム属細菌の染色体DNAの各種断片とを連結して各種組換えDNAを調製するには、あらかじめ制限酵素を用いてベクターを切断する。染色体DNAを切断するときに用いる制限酵素と同じものにより切断し、または染色体DNAの各種断片の切断面に相補する切断面を生じる制限酵素を用いて切断する。連結は、T4DNAリガーゼ等のリガーゼを用いて行うのが普通である。
各種組換えDNAをコリネバクテリウム属に属する界面活性剤感受性変異株に導入するには、これまでに報告されている形質転換法に従って行えばよい。例えば、エシェリヒア・コリ K−12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel,M.and Higa,A.,J. Mol. Biol., 53, 159 (1970))があり、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法( Duncan,C.H.,Wilson,G.A.and Young,F.E., Gene, 1, 153 (1977))がある。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法( Chang,S.and Choen,S.N.,Molec. Gen. Genet., 168, 111 (1979);Bibb,M.J.,Ward,J.M.and Hopwood,O.A.,Nature, 274, 398 (1978);Hinnen,A.,Hicks,J.B.and Fink,G.R.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 1929 (1978))も応用できる。
プロトプラスト法では上記のバチルス・ズブチリスにおいて使用されている方法でも充分高い形質転換頻度を得ることができるが、特開昭57−183799号公報に開示されるように、コリネバクテリウム属細菌細胞のプロトプラストをポリエチレングリコールまたはポリビニルアルコールの一方及び二価金属イオンに接触させた状態でDNAをとり込ませる方法も利用できる。ポリエチレングリコールまたはポリビニルアルコールの代りに、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、フィコール、ブルロニックF68(セルバ社)などの添加によってもDNAのとり込みを促進させることができる。本発明の実施
例で用いた形質転換の方法は、電気パルス法(特開平2−207791号公報参照)である。
形質転換株の中から界面活性剤感受性が失われた株を選択する方法を以下に例示する。
コリネバクテリウム属細菌の野生株の染色体DNAを制限酵素Sau3AIで部分消化して得られる約4〜6Kbpの大きさのDNA断片を、エシェリヒア・コリとコリネバクテリウム属細菌の双方で自立複製可能なプラスミドベクターと連結して組換えDNAを製造し、これをエシェリヒア・コリ DH5のコンピテントセル(宝酒造(株)製)に導入する。形質転換株を培養して、コリネバクテリウム属細菌野生株の遺伝子ライブラリーとする。
当該遺伝子ライブラリーに含まれる組換えDNAを用い、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム AJ11060を形質転換し、得られる形質転換体を、一旦、界面活性剤を含まないM−CM2G寒天プレート(グルコース5g、ポリペプトン10g、酵母エキス10g、NaCl5g、DL−メチオニン0.2g、寒天15g及びクロラムフェニコール4mgを純水1Lに含む。pH7.2)に塗布して数万個のコロニーを形成させる。当該コロニーを30mg/Lの界面活性剤(Tween40)を含むM−CM2Gプレートにレプリカし、界面活性剤含有M−CM2Gプレート上で良好な生育を示すものを取得することにより、界面活性剤感受性を失った株を取得できる。
界面活性剤感受性が失われた形質転換株より組換えDNAを回収する方法は、野生型コリネバクテリウム属細菌の染色体DNAの調製方法と同じである。すなわち、形質転換株を液体培地に培養し、集めた細胞から斎藤らの方法( H.Saito and K.Miura Biochem. Biophys. Acta 72, 619 (1963))に従い組換えDNAを回収できる。
ベクターに連結されている野生型コリネバクテリウム属細菌の染色体DNA断片の構造解析は以下のようにして行う。塩基配列決定の常法であるダイデオキシ法により染色体DNA断片の全塩基配列を決定し、DNAの構造解析を行い、エンハンサー、プロモーター、オペレーター、SD配列、リーダーペプチド、アテニュエーター、開始コドン、終始コドン、オープン・リーディング・フレームなどの存在位置を決定する。
コリネバクテリウム属細菌由来の界面活性剤耐性に関与する遺伝子はdtsR遺伝子であり、配列表の配列番号1に示される塩基配列の467〜469番目のATGから1985〜1987番目のCTGにいたる配列を少なくとも有する。この遺伝子によりコードされ得るアミノ酸配列を、配列表の配列番号1及び2に示す。前記467〜469番目のATGの上流にさらにATG(ヌクレオチド番号359〜361)が同一フレームで存在し、このATGが開始コドンである可能性は否定できないが、この遺伝子の上流領域に存在するコンセンサス配列の解析から前記467〜469番目のATGが開始コドンであると推定される。すなわち、配列番号2に示されるアミノ酸配列のうちアミノ酸番号37〜543からなるアミノ酸配列が、DTSR蛋白のアミノ酸配列であると推定される。本願明細書及び請求の範囲においてDTSR蛋白のアミノ酸配列及びdtsR遺伝子の塩基配列について言及している場合、これらは467〜469番目のATGを開始コドンとして記載されていることがあるが、359〜361番目のATGが開始コドンである可能性も考慮されたい。例えば、コリネバクテリウム属細菌にdtsR遺伝子を導入してその発現を強化しようとする場合、配列番号1に示す塩基配列のうちヌクレオチド番号467〜1987からなる配列を発現させればよいと考えられるが、ヌクレオチド番号359〜466を含めて配列番号1に示す塩基配列のコード領域及び上流領域をコリネバクテリウム属細菌に導入すれば、いずれのATGが開始コドンであってもDTSR蛋白を正しく発現させることができることは当業者に容易に理解されるであろう。尚、dtsR遺伝子が菌体内で発現する際、開始コドンによってコードされるN末端のMe
tはアミノペプチダーゼによって切断される場合もある。
データベースの検索により、配列番号1に示される塩基配列を有するdtsR遺伝子及びそれにコードされるDTSR蛋白は新規であることが確認された。DTSR蛋白と相同性がある蛋白質としては、Proc. Nati. Acad. Sci. USA., 83, 8049-8053 (1986)、Proc.
Nati. Acad. Sci. USA., 83, 4864-4868 (1986)及びGene, 122, 199-202 (1992)において、プロピオニルCoAカルボキシラーゼ(PCC)蛋白質βサブユニットとして記載されている蛋白質がある。しかしながら、これらの文献のいずれにも当該蛋白質がグルタミン酸生産性に関与することを示唆する記載はない。
プロピオニルCoAカルボキシラーゼは、α−ケトグルタル酸を2−ハイドロキシグルタル酸、プロピオニルCoA、D−メチルマロニルCoA、L−メチルマロニルCoAを経てスクシニルCoAに変換する代謝経路のうちの一反応を触媒する酵素であり、同代謝経路はTCAサイクルにおいてα−ケトグルタル酸デヒドロゲナーゼに触媒される反応をバイパスする経路のようである。また、特筆すべきはプロピオニルCoAカルボキシラーゼはビオチンを補酵素とする酵素であり、このことも界面活性剤添加法によるグルタミン酸生成とビオチン制限法におけるグルタミン酸生成とを結び付けるものである。
<2>組換えDNAを保有するコリネバクテリウム属細菌の調製
上記<1>で得られるコリネバクテリウム属細菌由来の界面活性剤耐性に関与するdtsR遺伝子を含む組換えDNAをインビトロで調製し、これをコリネバクテリウム属細菌に導入することにより、DTSR蛋白の細胞内濃度が上昇しているコリネバクテリウム属細菌を調製することができる。通常行われる手段は、細胞内のdtsR遺伝子の発現の強化あるいはdtsR遺伝子のコピー数の上昇である。
細胞内のdtsR遺伝子の発現を強化するには、強力なプロモーターの下流にdtsR遺伝子を連結すればよい。dtsR遺伝子としては、配列番号2に示すアミノ酸配列のうちアミノ酸番号37〜543からなるアミノ酸配列をコードする塩基配列が挙げられる。さらに具体的には、配列番号1に示される塩基配列のうちヌクレオチド番号467〜1987からなる塩基配列及びこれと実質的に同一の塩基配列が挙げられる。ここで実質的に同一な塩基配列とは、コードされるタンパクが、前記ヌクレオチド番号467〜1987からなる塩基配列によってコードされるタンパクと、コリネバクテリウム属細菌に界面活性剤に対する耐性を付与する活性において実質的に同一であることをいう。これらの塩基配列において、コードされるDTSR蛋白は、コリネバクテリウム属細菌に界面活性剤に対する耐性を付与する活性に実質的に影響を与えないアミノ酸残基の置換、欠失あるいは挿入を有していてもよい。
コリネバクテリウム属細菌の細胞内で機能するプロモーターのうち強力なものとしては、エシェリヒア・コリのlacプロモーター、tacプロモーター、Trpプロモーターが存在する(Y.Morinaga,M.Tsuchiya,K.Miwa and K.Sano,J. Biotech., 5, 305-312(1987))。また、コリネバクテリウム属細菌のtrpプロモーターも好適なプロモーターである(特開昭62−195294号公報)。
dtsR遺伝子を含むDNAとプロモーターを含むDNAをそれぞれ調製し、両者をインビトロで連結する。DNAの切断及び連結はそれぞれ制限酵素及びリガーゼを用いる。連結して得られる組換えDNAはコリネバクテリウム属細菌の細胞に導入される。導入方法は上記<1>に記したものと同様の方法が利用可能である。
コリネバクテリウム属細菌細胞内に、強力なプロモーターとdtsR遺伝子からなる組換えDNAを導入するには、コリネバクテリウム属細菌細胞内で機能するベクターを用い
る必要がある。ベクターとして<1>に記したものを用いると、組換えDNAは染色体外に保持される。組換えDNAを染色体DNA上に保持させる場合には、特開平5−7491号公報に開示される温度感受性プラスミドをベクターとして利用し、非許容温度で細胞を培養して相同組換えを起こさせる。
こうして得られた、強力なプロモーターとdtsR遺伝子からなる組換えDNAが導入されたコリネバクテリウム属細菌は、dtsR遺伝子の発現が強化され、細胞内のDTSR蛋白の濃度が上昇している。
dtsR遺伝子のコピー数を上昇させるには、同遺伝子を含むDNAを多コピーのプラスミドに連結してこれをコリネバクテリウム属細菌細胞に導入する。多コピーのプラスミドの例は<1>に記したものである。
あるいは、コリネバクテリウム属細菌染色体DNA上に多く存在する配列を標的に利用して相同組換えを生じせしめる方法もある。コリネバクテリウム属細菌染色体DNA上に多く存在する配列の例は、コリネバクテリウム属細菌の転移因子の両端に存在するインサーション配列がある。同配列と同配列を利用して相同組換えを行う方法は国際公開パンフレットWO93/18151号に開示されている。
こうして得られた、dtsR遺伝子のコピー数が上昇したコリネバクテリウム属細菌は、dtsR遺伝子の発現が強化され、細胞内のDTSR蛋白の濃度が上昇している。
<3>組換えDNAを保有するコリネバクテリウム属細菌を用いたL−リジンの生産
従来より種々の人工変異株がL−リジン生産菌として用いられており、これらを宿主として本発明の組換えDNAを保有させることによりそのL−リジン生産能を向上させることができる。このような人工変異株としては次のようなものがある。S−(2−アミノエチル)−システイン(以下、「AEC」と略記する)耐性変異株、その生育にL−ホモセリンのようなアミノ酸を必要とする変異株(特公昭48−28078号、特公昭56−6499号)、AECに耐性を示し、更にL−ロイシン、L−ホモセリン、L−プロリン、L−セリン、L−アルギニン、L−アラニン、L−バリン等のアミノ酸を要求する変異株(米国特許第3708395号及び第3825472号)、DL−α−アミノ−εカプロラクタム、α−アミノ−ラウリルラクタム、アスパラギン酸アナログ、サルファ剤、キノイド、N−ラウロイルロイシンに耐性を示すL−リジン生産変異株、オキザロ酢酸脱炭酸酵素または呼吸系酵素阻害剤に耐性を示すL−リジン生産変異株(特開昭50−53588号、特開昭50−31093号、特開昭52−102498号、特開昭53−9394号、特開昭53−86089号、特開昭55−9783号、特開昭55−9759号、特開昭56−32995号、特開昭56−39778号、特公昭53−43591号、特公昭53−1833号)、イノシトールまたは酢酸を要求するL−リジン生産変異株(特開昭55−9784号、特開昭56−8692号)、フルオロピルビン酸または34℃以上の温度に対して感受性を示すL−リジン生産変異株(特開昭55−9783号、特開昭53−86090号)、エチレングリコールに耐性を示し、L−リジンを生産するブレビバクテリウムまたはコリネバクテリウムの変異株(米国特許第4411997号参照)等。
具体的には、以下のような株を例示することができる。
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム AJ12031(FERM−BP277、特開昭60−62994号公報)
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC39134(特開昭60−62994号公報)
コリネバクテリウム・グルタミカム AJ3463(FERM−P1987、特公昭5
1−34477号公報)
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム AJ12435(FERM BP−2294、米国特許第5,304,476号)
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム AJ12592(FERM BP−3239、米国特許第5,304,476号)
コリネバクテリウム・グルタミカム AJ12596(FERM BP−3242、米国特許第5,304,476号)
上記<2>の方法に従い、これらのL−リジン生産菌に本発明の組換えDNAを導入して得られるコリネバクテリウム属細菌は、細胞内のDTSR蛋白の濃度が上昇しており、著量のL−リジンを生産する能力を有する。
使用するL−リジン生産用の培地は、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機微量栄養素を含有する通常の培地である。
粉加水分解物などの糖類、エタノールやイノシトールなどのアルコール類、酢酸、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類を用いることができる。
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。
無機イオンとしては、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。有機微量栄養素としては、ビタミンB1などの要求物質または酵母エキス等を必要に応じ適量含有させることが望ましい。
培養は好気的条件下で16〜72時間実施するのがよく、培養温度は30℃〜45℃に、培養中pHは5〜7に制御する。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。
発酵液からのL−リジンの採取は通常イオン交換樹脂法、沈澱法その他の公知の方法を組み合わせることにより実施できる。
<4>DTSR蛋白が正常に機能しないコリネバクテリウム属細菌の調製
上記<1>に示した通り、dtsR遺伝子はコリネバクテリウム属細菌に界面活性剤に対する耐性を付与する遺伝子として取得された。従って、過剰量のビオチンの存在下においてL−グルタミン酸生産能を有するコリネバクテリウム属細菌野生株がL−グルタミン酸を生成するようになる濃度の界面活性剤を添加してもdtsR遺伝子を増幅させた株ではL−グルタミン酸を生成しなくなることが予測された。そこで、界面活性剤を添加するL−グルタミン酸生産においてdtsR遺伝子増幅の効果を後述の実施例に示す方法で調べた結果、予想通りL−グルタミン酸生成の著しい抑制が観察された。また、同様にビオチン制限法及び過剰量のビオチン存在下でのペニシリン添加法によるL−グルタミン酸生産においても、dtsR遺伝子の増幅は生産の抑制につながることが確認された。これらの結果は、dtsR遺伝子が界面活性剤に対する耐性を付与するだけでなく、L−グルタミン酸生成に重要な働きを持つ遺伝子であることを示す。
そこで、逆に細胞内のdtsR遺伝子に変異を起こし、DTSR蛋白の細胞内濃度または活性を低下させることにより、L−グルタミン酸の生産能を向上させ、特にビオチンが過剰に存在する条件においても界面活性剤や抗生物質のようなビオチン作用抑制物質の添加なしにL−グルタミン酸を生成することができるものと期待された。そこで、野生株のdtsR遺伝子が破壊された株を作成し、L−グルタミン生産能を評価した結果、後述の
実施例に示す通り、dtsR遺伝子破壊株は野生株がほとんどL−グルタミン酸を生成しない量のビオチンが存在する条件においても著量のL−グルタミン酸を生成することが確認された。
dtsR遺伝子に変異が起こった株は、化学薬剤を用いて変異を誘導する方法でも、遺伝子組換えによる育種方法でも取得可能である。しかし、遺伝子の取得がなされている場合は、遺伝子組換え法を用い相同組換え法により当該遺伝子の破壊が容易に実現される。相同組換えによる遺伝子破壊は既に確立しており直鎖DNAを用いる方法や温度感受性プラスミドを用いる方法などが利用できる。
具体的には、部位特異的変異法(Kramer, W. and Frits, H. J., Methods in Enzymology, 154, 350 (1987))や次亜硫酸ナトリウム、ヒドロキシルアミン等の化学薬剤による処理(Shortle, D. and Nathans, D., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 75, 270(1978))によって、dtsR遺伝子のコーディング領域またはプロモーター領域の塩基配列の中に1つまたは複数個の塩基の置換、欠失、挿入、付加または逆位を起こさせ、このようにして改変または破壊した遺伝子を染色体上の正常な遺伝子と置換することにより遺伝子産物であるDTSR蛋白の活性を低下ないし消失させるかdtsR遺伝子の転写を低下ないし消失させることができる。
部位特異的変異法は、合成オリゴヌクレオチドを用いる方法であり、任意の限定された塩基対だけに、任意の置換、欠失、挿入、付加または逆位を導入できる手法である。この方法を利用するには、まず、クローン化され、DNA塩基配列が決定されている目的遺伝子を持つプラスミドを変性させて一本鎖を調製する。次に、変異を起こさせたい部分に相補的な合成オリゴヌクレオチドを合成するが、この時合成オリゴヌクレオチドを完全に相補的な配列にせず、任意の塩基置換、欠失、挿入、付加または逆位を持つようにしておく。この後一本鎖DNAと任意の塩基置換、欠失、挿入、付加または逆位を持つ合成オリゴヌクレオチドをアニールさせ、さらにDNAポリメラーゼIのクレノウフラグメントとT4リガーゼを用いて完全な2本鎖プラスミドを合成し、これをエシェリヒア・コリのコンピテントセルに導入する。このようにして得られた形質転換体の幾つかは、任意の塩基置換、欠失、挿入、付加または逆位が固定された遺伝子を含むプラスミドを持っている。遺伝子の変異を導入し、改変または破壊することができる同様な手法には、リコンビナントPCR法(PCR Technology, Stockton press (1989))がある。
また、化学薬剤処理を用いる方法は、目的の遺伝子を含むDNA断片を直接次亜硫酸ナトリウム、ヒドロキシルアミン等で処理することによりDNA断片中にランダムに塩基の置換、欠失、挿入、付加または逆位を持つ変異を導入する方法である。所望の変異が導入されているかどうかは、変異処理したDNA断片で界面活性剤変異株を形質転換し、得られた形質転換体の界面活性剤に対する耐性の有無を確認すればよい。この際、コリネバクテリウム属細菌が通常生育可能な温度範囲で高温と低温の両方で界面活性剤存在下での生育を調べ、低温では生育可能だが高温では生育が抑制されるような形質転換体を選択することにより、温度感受性となった変異型遺伝子を取得することもできる。
このようにして取得した変異が導入されて改変または破壊された遺伝子をコリネバクテリウム属細菌の染色体上の正常な遺伝子と置換する方法としては、相同性組換えを利用した方法(Experiments in Molecular Genetics, Cold Spring Harbor Laboratory press (1972); Matsuyama, S. and Mizushima, S., J. Bacteriol., 162, 1196(1985))がある。相同性組換えは、染色体上の配列と相同性を有する配列を持つプラスミド等が菌体内に導入されると、ある頻度で相同性を有する配列の箇所で組換えを起こし、導入されたプラスミド全体を染色体上に組み込む。この後さらに染色体上の相同性を有する配列の箇所で組換えを起こすと、再びプラスミドが染色体上から抜け落ちるが、この時組換えを起こす位
置により変異が導入された遺伝子の方が染色体上に固定され、元の正常な遺伝子がプラスミドと一緒に染色体上から抜け落ちることもある。このような菌株を選択することにより、塩基の置換、欠失、挿入、付加または逆位を持つ変異が導入されて改変または破壊された遺伝子が染色体上の正常な遺伝子と置換された菌株を取得することができる。
<5>DTSR蛋白が正常に機能しないコリネバクテリウム属細菌を用いたL−グルタミン酸の生産
上述したように、L−グルタミン酸生産能を有するコリネバクテリウム属細菌であって、DTSR蛋白の細胞内濃度または活性が低下した株、すなわちDTSR蛋白が正常に機能しない株は、L−グルタミン酸の生産能が向上し、特にビオチンが過剰に存在する条件においても界面活性剤や抗生物質のようなビオチン作用抑制物質の添加なしにL−グルタミン酸を生成することができる。
L−グルタミン酸生産能を有するコリネバクテリウム属細菌を育種してDTSR蛋白が正常に機能しない変異株を得る場合、出発材料としてはコリネバクテリウム属のグルタミン酸生産性野生株またはこれから誘導された変異株が挙げられる。このような変異株としては、例えば、
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム AJ12475(FERM−BP2922、米国特許第5,272,067号公報)
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム AJ12476(FERM−BP2923、米国特許第5,272,067号公報)
ブレビバクテリウム・フラバム AJ12477(FERM−BP2924、米国特許第5,272,067号公報)
コリネバクテリウム・グルタミカム AJ12478(FERM−BP2925、米国特許第5,272,067号公報)
コリネバクテリウム・グルタミカム ATCC21492
等がある。
L−グルタミン酸の生産に使用する培地は、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じその他の有機微量栄養素を含有する通常の培地である。
炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトースや澱粉加水分解物などの糖類、エタノールやイノシトールなどのアルコール類、酢酸、フマール酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類を用いることができる。
窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。
無機イオンとしては、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。有機微量栄養素としては、ビタミンB1などの要求物質または酵母エキス等を必要に応じ適量含有させることが望ましい。
培養は好気的条件下で16〜72時間実施するのがよく、培養温度は30℃〜45℃に、培養中pHは5〜8に制御する。尚、pH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、更にアンモニアガス等を使用することができる。
また、得られたdtsR遺伝子破壊株に界面活性剤やペニシリンを添加したり、ビオチンを制限したりすることによりグルタミン酸収率を更に向上させることも出来る場合がある。
発酵液からのL−グルタミン酸の採取は通常イオン交換樹脂法、沈澱法その他の公知の方法を組み合わせることにより実施できる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
<実施例1>ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869(コリネバクテリウム属細菌の野生株)の染色体DNAの調製
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869をT−Y培地(Bacto−trypton(Difco)1%、Bacto−yeast extract(Difco)0.5%、NaCl0.5%(pH7.2))100mlに接種し、温度31.5℃で8時間培養し、培養物を得た。この培養物を3,000r.p.m.で15分間、遠心分離処理し湿潤菌体0.5gを得た後、該菌体から斎藤、三浦の方法(Biochem. Biophys. Acta., 72, 619 (1963))により染色体DNAを得た。次いで、この染色体DNA 60μg 及び制限酵素 Sau3AI、3ユニットを10mMトリス−塩酸緩衝液(50mM NaCl、10mM MgSO4及び1mM ジチオスレイトール含有(pH 7.4))におのおの混合し、温度37℃で30分間反応させた。反応終了液を常法により、フェノール抽出処理し、エタノール沈澱処理してSau3AIで消化されたブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869の染色体DNA断片 50μg を得た。
<実施例2>プラスミドベクターDNAを利用したブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869の遺伝子ライブラリーの作製
エシェリヒア・コリとコリネバクテリウム属細菌の双方の菌体内で自律複製可能なプラスミドベクターDNA(pSAC4)20μg 及び制限酵素BamHI200ユニットを50mMトリス−塩酸緩衝液(100mM NaCl及び10mM硫酸マグネシウム含有(pH7.4))に混合し、温度37℃で2時間反応させて消化液を得、該液を常法によりフェノール抽出及びエタノール沈澱処理した。この後、プラスミドベクター由来のDNAフラグメントが再結合することを防止するため、Molecular Cloning 2nd editon(J.Sambrook,E.F.Fritsch and T.Maniatis, Cold Spring Harbor Laboratory Press, p1.56 (1989))の方法で バクテリアルアルカリホスファターゼ(Bacterial Alkaline Phosphatase)処理により、DNA断片の脱リン酸化を行い、常法によりフェノール抽出処理し、更にエタノール沈澱処理を行った。
このBamHIで消化されたpSAC4を1μg、実施例1で得られたSau3AIで消化されたブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869の染色体DNA断片を1μg、及び2ユニットのT4DNAリガーゼ(宝酒造(株)製)を、66mM塩化マグネシウム、10mMジチオスレイトール及び10mM ATPを含有する66mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)に添加し、温度16℃で16時間反応し、DNAを連結させた。次いで該DNA混合物で、常法によりエシェリヒア・コリ DH5を形質転換し、これを170μg/mlのクロラムフェニコールを含むL寒天培地上にまき、約20,000個のコロニーを得、遺伝子ライブラリーとした。
<実施例3>ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ11060の形質転換
上記で述べた約20,000個のコロニーより、組換えDNAの回収を行なった。回収の方法は上記に示した斎藤、三浦の方法に従った。
50のバッチに分けた組換えDNA混合物を電気パルス法を用いた形質転換の常法(特開平2−207791号公報)に従い、界面活性剤に対する感受性が上昇した変異株AJ11060株に導入した。形質転換体をグルコース添加寒天L培地上に接種し、31.5
℃で静置培養を行ない、約20,000個の形質転換体を出現させた。次にこれらの形質転換体を界面活性剤30mg/lを含む同プレートにレプリカし、この中で界面活性剤に対して耐性を示し上記プレート上で生育可能であった株を数株得た。
<実施例4>dtsR遺伝子を多コピーで保持する株の界面活性剤に対する耐性化の検定
生育した数株からそれぞれ組換えDNAを抽出し、同DNAを用いてAJ11060株を再形質転換した。ここでも界面活性剤に対して耐性を示した株を得た。この株が保持していた組換えDNAをpDTR6と命名し、それらのプラスミドが運ぶ界面活性剤に耐性を与える遺伝子をdtsRと命名した。このプラスミドを導入したAJ11060菌は、3g/Lの界面活性剤を添加した液体培地での生育阻害が抑制されている(図1)。
<実施例5>DNAの調製
上記で得られた組換えDNAを含有するAJ11060/pDTR6から常法に従いプラスミドを調製し、エシェリヒア・コリ JM109に導入した。得られたエシェリヒア・コリ JM109/pDTR6をトリプトン1%、酵母エキス0.5%及びNaCl0.5%からなる培地20mlに温度37℃で24時間前培養し、得られた培養液20mlを上記と同じ組成の培地1lに接種し、温度37℃で3時間培養したのち、0.2gのクロラムフェニコールを添加し、更に同一温度で20時間培養を行い、培養液を得た。次いで、この培養液を3,000r.p.m.で10分間遠心処理して湿潤菌体各2gを得、これを20mlの25%ショ糖を含有する350mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)に懸濁したのち、更にこれにリゾチーム(シグマ社製)10mg、0.25M EDTA溶液(pH8.0)8ml及び20%ドデシル硫酸ナトリウム溶液8mlを各々添加し、温度60℃で30分間保温処理し、溶菌液を得た。この溶菌液に、5M NaCl溶液13mlを添加し、温度4℃で16時間処理した後、15,000r.p.m.で30分間遠心分離した。得られた上清液を、常法によりフェノール抽出処理及びエタノール沈澱処理を行いDNAを沈澱させた。
この沈澱物を減圧乾燥処理した後、1mM EDTAを含有する10mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)6mlに溶解し、さらにこれに塩化セシウム6g及びエチジウムブロマイド(19mg/ml)0.2mlを添加し、39,000r.p.m.で42時間超遠心分離機を用いて平衡密度勾配遠心分離処理を行い、DNAを単離した。又更に、n−ブタノールを使用してエチジウムブロマイドを除去した後、1mM EDTAを含有する10mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)に対して透析を行い純化された組換えDNA pDTR6を約500μgを得た。なお、エシェリヒア・コリ JM109/pDTR6には、プライベートナンバーAJ12967が付与されている。同株は1994年2月22日に通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に受託番号FERM P−14168として寄託され、1995年2月9日にブダペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP−4994が付与されている。
<実施例6>dtsR遺伝子を含有するDNAの塩基配列の解析
実施例5で得られた組換えDNAを用い塩基配列の決定を行った。塩基配列の決定は、Taq DyeDeoxy Terminator Cycle Sequencing Kit(アプライドバイオケミカル社製)を用い Sangerの方法に従って行った。得られたdtsR遺伝子を含むDNAの塩基配列は配列表の配列番号1に示す通りである。この配列中に存在する最も長いオープン・リーディング・フレームは、配列番号1に示す塩基配列のうち359番目のAから1987番目のGまでの塩基配列であったが、この遺伝子の上流領域に存在するコンセンサス配列の解析から467〜469番目のATGが開始コドンであると推定された。359番目のAから1987番目のGまでのオープン・リーディング・フレームによりコードされ得るアミノ酸配列を塩基配列とともに配列表配列番号1に示した。さらに、アミノ酸配列のみを配列表配列番号2に示す。467〜1987番目の塩基配列によりコードされる蛋白質をDTSR蛋白とした。
蛋白質のN末端にあるメチオニン残基は翻訳後ペプチダーゼの働きにより除去されることがよく知られている。これは、N末端のメチオニンは翻訳開始コドンであるATGに由来するため、蛋白質本来の機能とは無関係であることが多いためである。本願発明のDTSR蛋白の場合にもメチオニン残基の除去が生じている可能性がある。
塩基配列、アミノ酸配列おのおのについて既知の配列との相同性比較を行った。用いたデータベースはEMBL及びSWISS−PROTである。その結果、配列表配列番号1に示される遺伝子及びそれにコードされる蛋白質は新規であることが確認された。
<実施例7>dtsR遺伝子が界面活性剤耐性に関与することの確認
dtsR遺伝子の塩基配列の決定によりオープン・リーディング・フレームが確認されDTSR蛋白の存在が示唆されたが、この領域に真に界面活性剤に耐性を与える遺伝子が存在していることを確かめるために、このオープン・リーディング・フレーム内の遺伝子の一部をインフレームで欠失させた配列表配列番号1記載の遺伝子断片がコリネバクテリウム属細菌に界面活性剤に対する耐性を付与する活性を持つかどうかを調べた。
具体的には、pDTR6をXbaI及びKpnIで消化しdtsR遺伝子を含む断片を取得し、この遺伝子断片をXbaI及びKpnIで処理したプラスミドpHSG398(宝酒造(株)製)とT4DNAリガーゼ(宝酒造(株)製)を用いて結合させ、プラスミドpHSGX−Kを取得した。dtsR遺伝子内には配列表配列番号1の766番目と1366番目の2箇所にEco52Iで消化される部位が存在する。そこで、pHSGX−KをEco52Iで完全消化した後自己結合させ、Eco52I断片の600塩基対を欠失したdtsR遺伝子を含むプラスミドpHSGX−K△Eを作成した。すなわち、pHSGX−K△E上のdtsR遺伝子は中央部分をインフレームで欠失した構造になっている。
次に、pHSGX−K△Eをコリネバクテリウム属細菌で自律複製可能にするために、既に取得されているコリネバクテリウム属細菌内で自律複製可能なプラスミドpHM1519(K. Miwa et.al., Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984))由来の複製開始点(特界平5−007491号公報)をpHSGX−K△E上にただ一つ存在するKpnI切断部位に導入した。具体的には、pHM1519を制限酵素BamHI及びKpnIで消化し、複製起点を含む遺伝子断片を取得し、得られた断片を宝酒造(株)製Blunting kitを用い平滑末端化した後、KpnIリンカー(宝酒造(株)製)を用いてpHSGX−K△EのKpnI部位に挿入し、pKCX−K△Eを取得した。また、対照としてpHSG399を用い、そのSalI部位に同様にSalIリンカー(宝酒造(株)製)を用いpHM1519の複製起点を挿入したpSAC4も作製した。pKCX−K△EとpSAC4とを上記の電気パルス法を用いてそれぞれコリネバクテリウム属細菌野生株であるブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869に導入し、界面活性剤に対する耐性度をそれぞれ調べた。方法としては、M−CM2G液体培地にポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテートを0〜10mg/dl添加しそれぞれの生育度を調べた。
その結果、この欠失型dtsR遺伝子は界面活性剤に対する耐性を付与する機能を失っていることが示された(図2)。
<実施例8>dtsR遺伝子増幅株を用いたビオチン制限法によるL−グルタミン酸の生産
AJ11060/pDTR6株を用いてビオチン制限法によるL−グルタミン酸生産のための培養を以下の様に行った。4mg/Lのクロラムフェニコールを含むM−CM2Gプレート培地にて培養して得たAJ11060/pDTR6株の菌体を、グルコース 80g、KH2PO4 1g、MgSO4・7H2O 0.4g、(NH42SO4 30g、Fe
SO4・7H2O 0.01g、MnSO4・7H2O 0.01g、大豆加水分解液15ml、サイアミン塩酸塩 200μg、ビオチン 60μg、クロラムフェニコール 4mg及びCaCO3 50g を純水 1L中に含む培地(KOHを用いてpH7.0に調整されている)に接種し31.5℃にて20時間培養した。得られた培養物を、ビオチンを添加していないこと以外は同じ組成の培地(以下、「ビオチン制限培地」という)に5%量接種し、31.5℃にて約20時間培養した。
AJ11060/pDTR6株をビオチン制限培地で培養した際、形成される菌体量当たりのビオチンの要求量を観察した(図3)。コントロールとしてAJ11060/pSAC4株を上記と同様にして培養した。
AJ11060/pDTR6株は、形成される菌体量がコントロールに比べて上昇しており、菌体量当たりのビオチンの要求量がAJ11060/pSAC4株に比較して低減されていた。
<実施例9>dtsR遺伝子増幅株によるL−リジン生産
コリネバクテリウム属細菌に属するL−リジン生成菌ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム AJ12435(FERM BP−2294)にpDTR6を電気パルス法により導入し、以下に示す培地で培養しL−リジンを生成させた。
4mg/Lのクロラムフェニコールを含むM−CM2Gプレート培地にて培養して得た菌体を、グルコース 100g、KH2PO4 1g、MgSO4 0.4g、(NH42SO4 30g、FeSO4 7H2O 0.01g、MnSO4 7H2O 0.01g、大豆加水分解液15ml、サイアミン塩酸塩 200μg、ビオチン 300μg、クロラムフェニコール 4mg及びCaCO3 50g を純水 1L中に含む培地(KOHを用いてpHは7.0に調整されている)において32℃にて40時間培養した。なお、pDTR6の代わりにpSAC4を同様にして導入した株を比較として用いた。その結果を第5表に示す。
Figure 2005323606
pDTR6を導入した株ではL−リジン生産性が明らかに向上していた。
<参考例1>dtsR遺伝子増幅株の界面活性剤添加法によるL−グルタミン酸の生産
AJ11060株はビオチン作用抑制物質である界面活性剤を添加することにより、高濃度のビオチン存在下でもL−グルタミン酸を著量生成するが、dtsR遺伝子増幅株は界面活性剤に対する耐性度が上昇しているため、界面活性剤を添加してもグルタミン酸の生成が抑制されることが考えられた。そこでAJ11060/pSAC4株及びAJ11060/pDTR6株を用いて界面活性剤添加法によるL−グルタミン酸の生産培養を以下の様に行った。4mg/lのクロラムフェニコールを含むM−CM2Gプレート培地にて培養して得た菌体を、グルコース 80g、KH2PO4 1g、MgSO4・7H2O0.
4g、(NH42SO4 30g、FeSO4・7H2O 0.01g、MnSO4・7H2O 0.01g、大豆加水分解液15ml、サイアミン塩酸塩 200μg、ビオチン 300μg、クロラムフェニコール 4mg、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート3.0g及びCaCO3 50g を純水1l中に含む培地(KOHを用いてpHは8.0に調整されている)において31.5℃にて20時間培養した。
培養終了後、培養液中に生成蓄積したL−グルタミン酸の量を測定した。得られた収率を第1表に示す。
Figure 2005323606
dtsR遺伝子を増幅することによりL−グルタミン酸の収率は大きく低下した。このことは、DTSR蛋白が界面活性剤添加法によるL−グルタミン酸の生産に深く関与することを示すものである。
<参考例2>dtsR遺伝子増幅株を用いたペニシリン添加法によるL−グルタミン酸の生産
参考例1の培地においてポリオキシエチレンソルビタンンモノパルミテートの代わりにペニシリンGを30ユニット添加した培地を使用したこと以外は参考例1と同様にして、AJ11060/pSAC4株及びAJ11060/pDTR6株を用いてペニシリン添加法によるL−グルタミン酸の生産培養を行った。その結果を第2表に示す。
Figure 2005323606
dtsR遺伝子を増幅することによりL−グルタミン酸の収率は大きく低下した。このことは、DTSR蛋白が、界面活性剤添加法によるL−グルタミン酸の生産と同様、ペニシリン添加法によるL−グルタミン酸の生産にも関与することを示している。
<実施例10>dtsR遺伝子破壊の作成
dtsR遺伝子の増幅によりL−グルタミン酸生成が抑制されたことから、逆にdts
R遺伝子を破壊することによりL−グルタミン酸収率を向上させることが期待された。遺伝子破壊株は、特開平5−7491号に示される温度感受性プラスミドを用いた相同組換え法により取得した。
具体的には、実施例7記載のpHSGX−K△EのKpnI認識部位に、コリネバクテリウム型細菌で自己複製可能なプラスミドから取得した自己複製能が温度感受性になった変異型の複製起点を導入し、プラスミドpKTCX−K△Eを作成した。
このpKTCX−K△Eを野生株であるブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム ATCC13869に電気パルス法を用いて導入し、特開平5−7491号公報記載の方法で染色体上のdtsR遺伝子を欠損型に置換した。具体的にはATCC13869/pKTCX−K△Eを50μg/mlのオレイン酸を含むM−CM2G液体培地で25℃にて6時間振とう培養した後、5μg/mlのクロラムフェニコール及び50μg/mlのオレイン酸を含むM−CM2G培地上に撒き、34℃でコロニーを形成した株をプラスミド組み込み株として取得した。次にこの株から34℃でクロラムフェニコールに対して感受性になった株をレプリカ法により取得した。この感受性株の染色体を常法により取得し、サザンハイブリダイゼーション法により染色体上のdtsR遺伝子の構造を調べ、dtsR遺伝子が欠失型に置換されていることを確認し△E株と命名した。
<実施例11>△E株のL−グルタミン酸生産能の評価
ATCC13869株、AJ11060株及び△E株のL−グルタミン酸の生産培養を以下の様に行った。50μg/mlのオレイン酸を含むM−CM2Gプレート培地にて培養してリフレッシュを行い、リフレッシュされた同株を、グルコース 80g、KH2PO4 1g、MgSO4 0.4g、(NH42SO4 30g、FeSO4 7H2O 0.01g、MnSO4 7H2O 0.01g、大豆加水分解液15ml、サイアミン塩酸塩 200μg、ビオチン 300μg、Tween 80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(polyoxyethylene sorbitan monooleate))1g及びCaCO3 50g を純水 1L中に含む培地(KOHを用いてpHは8.0に調整されている)において31.5℃にて20時間培養した。その結果を第3表に示す。
Figure 2005323606
野生株及びAJ11060株は、培地中に存在する過剰量のビオチンの存在によりL−グルタミン酸の蓄積が認められなかったのに対し、△E株はL−グルタミン酸を良好に生成蓄積した。
本発明のdtsR遺伝子は、L−グルタミン酸の発酵生産に用いられるコリネバクテリウム属細菌において、L−グルタミン酸の生産に重要な働きを持つ遺伝子であり、L−リジン生産能を有するコリネバクテリウム属細菌において同遺伝子を増幅することによりL
−リジンの生産能を向上させることができる。また、グルタミン酸生産能を有するコリネバクテリウム属細菌においては、同遺伝子を破壊することによりグルタミン酸生産能が向上させることができる。
界面活性剤無添加あるいは添加培地における、AJ11060/pDTR6(dtsR遺伝子増幅株)及びAJ11060/pSAC4(コントロール)の生育を示したものである。 pDTR6導入株では界面活性剤存在下においても生育可能になっていることが示される。 白丸:pDTR6導入株、界面活性剤無添加 白四角:pSAC4導入株、界面活性剤無添加 黒丸:pDTR6導入株、界面活性剤添加 黒四角:pSAC4導入株、界面活性剤添加 界面活性剤の濃度を変えて添加した培地における、ATCC13869/pHSGX−K△E(欠失変異型dtsR遺伝子増幅株)、ATCC13869/pDTR6(dtsR遺伝子増幅株)、及びATCC13869/pSAC4(コントロール)の生育を示したものである。 白丸:pSAC4導入株 白三角:pHSGX−K△E導入株 黒三角:pDTR6導入株 ビオチンを300μg/L又は3μg/L含む培地におけるAJ11060/pDTR6及びAJ11060/pSAC4の生育曲線を示す。AJ11060/pDTR6(dtsR遺伝子増幅株)のビオチン要求量が低下したことを示すものである。 白丸:pDTR6導入株、ビオチン300μg/l 白四角:pSAC4導入株、ビオチン300μg/l 黒丸:pDTR6導入株、ビオチン3μg/l 黒四角:pSAC4導入株、ビオチン3μg/l

Claims (6)

  1. プロモーターを強力なプロモーターと置換することまたは細胞内のコピー数を上昇させることにより下記(a)の遺伝子の発現量が上昇するように改変され、かつL−リジン生産能を有するコリネバクテリウム属細菌を液体培地に培養し、培養液中にL−リジンを生成蓄積させ、これを採取することを特徴とするL−リジンの製造法。
    (a)コリネバクテリウム属細菌に由来し、該細菌に界面活性剤に対する耐性を付与する蛋白質をコードする遺伝子。
  2. 前記蛋白質のアミノ酸配列が、配列番号2で示されるアミノ酸配列のうちアミノ酸番号37〜543からなるアミノ酸配列を含む、請求項1記載の製造法。
  3. 前記遺伝子が、配列番号1に示される塩基配列の467番目から1987番目に至る配列を含む、請求項1記載の製造法。
  4. プロモーターを強力なプロモーターと置換することまたは細胞内のコピー数を上昇させることにより下記(a)の遺伝子の発現量が上昇するように改変され、かつL−リジン生産能を有するコリネバクテリウム属細菌。
    (a)コリネバクテリウム属細菌に由来し、該細菌に界面活性剤に対する耐性を付与する蛋白質をコードする遺伝子。
  5. 前記蛋白質のアミノ酸配列が、配列番号2で示されるアミノ酸配列のうちアミノ酸番号37〜543からなるアミノ酸配列を含む、請求項4記載の細菌。
  6. 前記遺伝子が、配列番号1に示される塩基配列の467番目から1987番目に至る配列を含む、請求項4記載の細菌。
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