JP2004327931A - 金属被膜ポリイミド基板及びその製造方法 - Google Patents

金属被膜ポリイミド基板及びその製造方法 Download PDF

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英樹 川田
Koichi Hiranaka
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Abstract

【課題】剥離強度が大きく、透明度が高く、劣化しにくく安価な優れた高周波特性を有する金属被膜ポリイミド基板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の金属被膜ポリイミド基板は、縮合型ポリイミド薄膜の少なくとも一面に金属層を有する基板において、前記金属層と接する前記縮合型ポリイミド薄膜の表面が、算術平均粗さが1.9nmから10nm、窒素/炭素の原子濃度比が0.10から0.30、且つ酸素/炭素の原子濃度比が0.09から0.17であるようにプラズマ処理された改質面であることを特徴とする。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、金属被膜ポリイミド基板及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、電子機器に使用されるフレキシブルプリント配線板としては、ポリイミドフィルムやポリエステルフィルムの表面に銅箔を接着剤で固着した材料が主流である。今後、携帯電子機器の小型軽量化及び高機能化により、高精細回路パターンを有する、高周波特性の優れた金属被膜ポリイミド基板のフレキシブルプリント配線板の需要が見込まれる。例えば、高精細回路パターンのライン幅及びスペース幅は15μm以下であることが要求される。また、ベアチップ実装に対応する高精度化の要求も高まっている。しかし、ポリイミドフィルム基板に接着剤を用いて銅箔を張り合わせる従来のフィルムは、接着剤の耐熱性向上や銅箔の薄型化により高密度細線化に対応しているものの、軽量化や高機能化に対しては十分なものではなかった。接着剤の使用に起因する寸法精度の低下や電気特性の低下等の解決すべき課題があった。
【0003】
ポリイミドフィルムに銅箔を張り合わせる際に接着剤を用いない、フレキシブルプリント回路基板の製造方法として、キャスト方式、ラミネート方式、薄膜めっき方式が知られている。キャスト方式は、ポリイミドの前駆体であるポリアミックス酸ワニスを銅箔に塗布、乾燥して硬化(イミド化)させる製造方法である。主力メーカである新日鐵化学(株)(商品名はエスパニックス)及びソニーケミカル(株)と、他の数社とがキャスト方式のフレキシブルプリント回路基板を製造している。ラミネート方式は、熱可塑性のポリイミド上に銅箔を熱圧着する製造方法である。ラミネート方式のフレキシブルプリント回路基板としては、例えば宇部興産(株)のユピセルN(登録商標)がある。薄膜めっき方式は、真空装置内でポリイミド表面に直接銅薄膜を形成し、更に銅めっきを行うものである。
【0004】
ポリイミドフィルムと銅薄膜との間に、金属の中間層を設ける方法も提案されている。特許文献1(特開平8−330728号公報)に、フィルム中に錫を0.02重量%から1重量%含有するポリイミドフィルムにクロム、クロム合金などを中間層として蒸着した後、その上に銅蒸着を行うフレキシブルプリント配線板の製造方法が提案されている。しかし、この方法ではポリイミドフィルムに錫が存在するために絶縁性が低下した。銅蒸着のためのアンカー蒸着層(中間層)と銅蒸着層とのそれぞれについて通常異なる薬液で別個のエッチング処理を行う故に、エッチング効率が悪かった。クロム系合金の成膜コスト及びエッチングで生じる廃水の処理コストがかかった。エッチングで生じる廃水の処理による環境への負荷が大きかった。特許文献1に記載のフレキシブルプリント配線板の製造方法は、上記の解決すべき問題があった。
【0005】
ポリイミドフィルム上に直接銅薄膜を成膜する方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法及び銅めっき法が検討されている。これらの成膜方法によれば、フィルム基板と銅薄膜との間に接着剤が介在しないため、前述の接着剤の使用に起因する問題点が解消され、電気絶縁性や誘電率などの電気特性が優れたプリント回路基板が得られる。
【0006】
しかし、ポリイミドフィルムの表面(銅との界面)には、銅との接着に必要な官能基が生じにくく、ポリイミドフィルムと銅薄膜との密着強度は本質的に十分でないという問題があった。そこで、ポリイミドフィルムに直接銅薄膜を成膜する場合において、ポリイミドフィルムと銅薄膜との間の接着性を改善する、幾つかの提案がすでになされている。以下、従来の金属被膜ポリイミド基板の構成及び製造方法の概略を説明する。
【0007】
特許文献2(特開平11−277699号公報)に記載された金属層積層ポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの表面の酸素/炭素比が0.01から0.20増加するように、常圧プラズマ放電処理によって表面を改質し(無機フィラーが表面に露出する程に表面を粗化し)、その上に金属層を成膜して製造される。ポリイミドフィルムの表面は、有機結合が切断され、酸素を含む官能基が形成された粗化面(微細な凹凸を有する。)となる故に、ポリイミドと銅との剥離強度は増加する。しかし、酸素を含む官能基は活性であるため、銅が酸化し、一価の銅(CuO)から二価の銅(CuO)へと変化し、急激に金属層の剥離強度が劣化するという恐れがあった。ポリイミドフィルムの表面を無機フィラーが表面に露出する程に粗化させる故に、例えば車間レーダ用途に使用される76.5GHzの高周波信号が通りにくいという問題があった。
【0008】
特許文献3(特開平5−251511号公報)に記載の銅・ポリイミド積層構造体の製造方法は、ポリイミド表面にドライエッチングを施して粗化面(微細な凹凸を有する。)を形成した後、その粗化面に窒素を含むガスを用いて放電プラズマ処理することにより、銅との結合作用が強い官能基をポリイミド表面に生成させる。その後、銅を蒸着して銅薄膜を形成する。この製造方法によって、銅とポリイミドとの間の界面接着強度が良好な銅・ポリイミド積層構造体を製造できる。しかし、ポリイミドの表面状態によりエッチングで形成される凹凸の度合いがばらついたりする可能性があった。特許文献3に開示された製造方法によって製造された金属被膜ポリイミド基板は、密着強度がばらつき、実用に供しうる密着強度を満足しない恐れがあった。銅を粗化面に食い込ませる程ポリイミドフィルムの表面を粗化させる故に、例えば車間レーダ用途に使用される76.5GHzの高周波信号が通りにくいという問題があった。
【0009】
特許文献4(米国特許第5178962号公報)に記載された金属−有機合成高分子樹脂複合体の製造方法によれば、ポリイミドフィルム表面を、Electron Cyclotron Resonance(ECR)法によってプラズマ処理し、カルボニル、カルボキシル、アミド、アミノ、イミノ、イミド、シアノグループに属する、窒素を含む官能基や水酸基などを生成する。そして、プラズマ処理したポリイミドフィルムの表面に、金属膜を形成する。特許文献4のプラズマ処理によってポリイミド表面の窒素濃度が増加するものの、酸素濃度は変化(低下)しない。従って、銅が酸化し、一価の銅(CuO)から二価の銅(CuO)へと変化し、急激に密着強度が低下するという恐れがあった。また、高エネルギーのイオンによるプラズマ処理によってポリイミド表面が劣化することを防ぐために、ポリイミドとECR装置との間の距離を制御していた。しかし、結果的にポリイミドから離れた場所からプラズマ処理を行うため、ポリイミド表面の粗さにバラツキが生じ、信頼度の高い製品を提供できない可能性があった。ECR法においては、装置構造がサイクロトロン周波数を満足するように限定される。更に、特許文献4によるフレキシブルプリント配線板の製造方法においては、ECR装置(ポリイミドフィルムの表面処理を行う。)と成膜装置(表面処理したポリイミドフィルムの上に銅層を形成する。)とを一体化できず、例えば大掛かりなイン−ラインの装置を構成する必要があった。そのため、製造工程が長く複雑になり、製造コストが高くなるという問題があった。
【0010】
特許文献5(特開平5−287500号公報)に記載されたフィルムキャリア型基板は、有機高分子材料からなるフィルム上に、金属層が形成されており、且つ両者の界面付近に両者の構成物質を含む混合層を有する。混合層が「連結体」のような作用をし、金属層のフィルムに対する密着性が高いと記載されているが、そのメカニズムは何も記載されていない。窒素イオンを5KeVまで加速して照射するため、フィルムが劣化し、金属層とフィルムとの間の剥離強度がばらつくという問題があった。
【0011】
非特許文献1(Journal of Vacuum Science and Technology A, 1990, Vol.8, No. 3, p.2376−2381)に、「ポリイミドの表面改質と密着度との関係に関する研究」が掲載されている。非特許文献1の著者らは、二酸化ケイ素で被覆したシリコンウェハ上にPMDA−ODA(Pyromellitic, dianhydride−oxydianiline)を硬化し、6μm厚のポリイミド薄膜を形成した後、プラズマ処理を行い、金属(クロム)との密着度を調べた。特に、反応性エッチング装置内に窒素ガスを導入し、真空度100mTorr(約13Pa)でポリイミドを窒素プラズマ処理し改質した場合、ポリイミド表面の窒素原子濃度が増加し、酸素原子濃度が減少した。窒素プラズマ処理を行った試料を蒸着装置に移し、電子ビーム蒸着法でクロム薄膜を成膜し、剥離強度を測定した。プラズマ処理を行わないポリイミドにクロム薄膜を成膜した試料に比べて、大きな剥離強度が得られた。しかし、非特許文献1の方法では、プラズマ処理時に真空度が悪い(気圧が高い)ため、真空槽の壁面に付着した水などがポリイミドに吸着する可能性があった。改質したポリイミドを、大気中で蒸着装置に移動させるため、表面に水又は酸素を含む不純物が取り込まれる可能性があった。従って、非特許文献1の方法で製造した金属被膜ポリイミド基板は、クロムとポリイミドとの間の剥離強度がばらつくという問題があった。
【0012】
【特許文献1】
特開平8−330728号公報
【特許文献2】
特開平11−277699号公報
【特許文献3】
特開平5−251511号公報
【特許文献4】
米国特許第5178962号明細書
【特許文献5】
特開平5−287500号公報
【非特許文献1】
フィッチ・シン(R. Fitsh and D −Y. Shin),ポリイミドの表面改質と密着度との関係に関する研究(A study of modified polyimide surfaces as related to adhesion),真空科学と技術雑誌A(Journal of Vacuum Science and Technology A),(米国),1990年,8巻,3号,p.2376−2381
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来の課題を解決するもので、金属層の剥離強度が大きく、透明度が高く、劣化しにくく、安価で優れた高周波特性を有する金属被膜ポリイミド基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明に係わる金属被膜ポリイミド基板は、上記の目的を達成するために、以下のように構成した。請求項1に記載の金属被膜ポリイミド基板は、縮合型ポリイミド薄膜の少なくとも一面に金属層を有する基板において、前記金属層と接する前記縮合型ポリイミド薄膜の表面が、算術平均粗さが1.9nmから10nm、窒素/炭素の原子濃度比が0.10から0.30、且つ酸素/炭素の原子濃度比が0.09から0.17であるようにプラズマ処理された改質面であることを特徴とする。
【0015】
請求項2に記載の金属被膜ポリイミド基板は、縮合型ポリイミド薄膜の少なくとも一面に金属層を有する基板において、前記金属層と接する前記縮合型ポリイミド薄膜の表面が、算術平均粗さが1.9nmから10nmであり、窒素/炭素の原子濃度比がプラズマ処理前に比べて0.04から0.24増加し、且つ酸素/炭素の原子濃度比が前記プラズマ処理前に比べて0.02から0.10減少するようにプラズマ処理された改質面であることを特徴とする。
【0016】
請求項3に記載の金属被膜ポリイミド基板は、縮合型ポリイミド薄膜の少なくとも一面に金属層を有する基板において、前記金属層と接する前記縮合型ポリイミド薄膜の表面が、算術平均粗さが1.9nmから10nm、窒素原子濃度が8原子%から21原子%、且つ酸素原子濃度が6原子%から13原子%であるようにプラズマ処理された改質面であることを特徴とする。
【0017】
請求項4に記載の金属被膜ポリイミド基板は、縮合型ポリイミド薄膜の少なくとも一面に金属層を有する基板において、前記金属層と接する前記縮合型ポリイミド薄膜の表面が、算術平均粗さが1.9nmから10nmであり、窒素濃度がプラズマ処理前に比べて3原子%から16原子%増加し、且つ酸素原子濃度が前記プラズマ処理前に比べて2原子%から9原子%減少するようにプラズマ処理された改質面であることを特徴とする。
【0018】
本発明の金属被膜ポリイミド基板は、金属層と縮合型ポリイミド薄膜との間に中間層を設けず、市販の縮合型ポリイミド薄膜を使用して低コストで実現できる。
縮合型ポリイミド薄膜と金属層との間に接着剤が介在しない故に、接着剤に起因するマイグレーションにより導通不良が発生する恐れがない。
プラズマ処理により、ポリイミド表面にシアノ基が形成されている。シアノ基が金属イオン(例えば銅イオン)と結合することにより、高い剥離強度を有する金属被膜ポリイミド基板を実現できる。また、イミド環の酸素が脱離する。シアノ基は酸素とは不活性であるうえに、酸素が脱離しているため、金属層の酸化に伴う剥離強度の低下(劣化)が起きない。
「縮合型ポリイミド薄膜」は、可撓性を有するポリイミドフィルム及び非可撓性の基板(例えば、大規模集積回路のシリコン基板、ガリウム砒素基板又はセラミックス基板)の表面に液体ポリイミドを熱硬化によってコーティングした薄膜を含む。
【0019】
ポリイミドフィルムにシアノ基を形成するために必要なエネルギーは、ポリイミドフィルムの透明度を下げるほど大きくないので、透明度が高い金属被膜ポリイミド基板が実現できる。本発明においてはポリイミドの表面を粗化することを目的とせず、小さなエネルギーで、ポリイミドの表面をほとんど粗化することなく、ポリイミドフィルムにシアノ基を形成する(実施例において、ポリイミドの表面の算術平均粗さが1.9nm〜3.0nmで、ポリイミドフィルムにシアノ基を形成できた。)。
【0020】
例えば、車間レーダに使用するフレキシブルプリント配線板では、周波数が76.5GHzの高周波信号が伝播し、その侵入深度は240nmである。本発明の金属被膜ポリイミド基板において、ポリイミドの表面の算術平均粗さは10nm以下であり、高周波信号の侵入深度の高周波信号の侵入深度の1/24以下である。この場合、高周波信号の信号対ノイズ比は28dB(デシベル)であり、2値検出方式など簡易な信号判別器を用いたシステムでは、信号品質を示すエラー発生率は10−15以下となり、極めて良好な伝送特性を実現できる。比較のために例示すれば、比較例2においては、フレキシブルプリント配線板の表面を粗化させている。比較例2のフレキシブルプリント配線板の表面の算術平均粗さを98nmにしている(76.5GHzの高周波信号の侵入深度の約40%である。)。この場合、高周波信号の信号対ノイズ比は8dB(デシベル)であり、エラー発生率は10−1であり、伝送特性は悪く、エラー訂正符号の付与や検出回路の工夫を要する。表面の粗化を目的とする従来例においては、ポリイミドの表面の算術平均粗さは約100nm又はそれ以上であると考えられる。従来例の金属被膜ポリイミド基板は、例えば76.5GHzの高周波信号を伝達することができなかった。本発明の金属被膜ポリイミド基板においては、プラズマ処理によって改質されたポリイミドの表面の算術平均粗さは、76.5GHzの高周波信号が伝播する表皮深さに比べて十分に小さい。それ故、優れた高周波特性を有する(76.5GHzの高周波信号を伝達可能な)金属被膜ポリイミド基板を実現できる。
【0021】
請求項5に記載の金属被膜ポリイミド基板は、前記金属層が、銅、チタン、ニッケル、クロム、パラジウム、タングステン及びこれらの合金からなる群から選択された1つの金属又は合金によって形成されることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの請求項に記載の金属被膜ポリイミド基板である。
【0022】
本発明は、剥離強度が大きく、透明度が高く、劣化しにくい安価な金属被膜ポリイミド基板を実現できるという作用を有する。
【0023】
請求項6に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法は、減圧下に窒素を含む第1の混合ガスを導入し、ポリイミド薄膜近傍に安定放電手段により高周波電力を印加し、前記第1の混合ガスをグロー放電させて前記第1の混合ガスを活性化し、前記ポリイミド薄膜をプラズマ処理し、前記ポリイミド薄膜表面近傍の窒素濃度を増加させた改質ポリイミド薄膜を形成する窒素プラズマ処理工程と、引き続き減圧下でアルゴンを含む第2の混合ガスを導入し、金属を溶融し、前記改質ポリイミド薄膜に安定放電手段により高周波電力を印加し、前記第2の混合ガスをグロー放電させて前記第2の混合ガス及び前記金属を活性化させ、前記改質ポリイミド薄膜に前記金属の薄膜を蒸着する工程と、を有することを特徴とする。
【0024】
本発明の金属被膜ポリイミド基板の製造方法においては、ニッケル・クロム合金系中間層のエッチングに係わる廃液が発生しない故に、環境に大きな負担をかけない。
金属層とポリイミド薄膜との間に中間層を設けず、市販のポリイミド薄膜を使用して低コストで、経時的に劣化しにくい金属被膜ポリイミド基板を製造できる。
比較的低い電圧をポリイミドに印加することによりシアノ基を生成できる。シアノ基を生成するときに、ポリイミド薄膜の表面が粗化しない故に、ポリイミド薄膜の強度及び透明度がほとんど低下しない。優れた高周波特性を有する金属被膜ポリイミド基板を製造できる。
【0025】
生成されたシアノ基は金属イオンと強く結合する。本発明により、安定した剥離強度を有する金属被膜ポリイミド基板を製造できる。
本発明は、金属層の剥離強度が大きく、透明度が高く、劣化しにくく、安価で優れた高周波特性を有する金属被膜ポリイミド基板の製造方法を実現する。
1つのチャンバを用いて、本発明の金属被膜ポリイミド基板を安価に製造できる。この場合、窒素プラズマ処理工程から金属薄膜蒸着工程に移るときに、チャンバを大気開放しないので、ポリイミド表面の酸化や水の付着及び吸着を抑えることができる。ポリイミド薄膜上に確実に安定した官能基を生成できる。
【0026】
請求項7に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法は、減圧下にアルゴンを含む第1の混合ガスを導入し、ポリイミド薄膜近傍に安定放電手段により高周波電力を印加し、前記第1の混合ガスをグロー放電させて前記第1の混合ガスを活性化し、前記ポリイミド薄膜をプラズマ処理するアルゴンプラズマ処理工程と、引き続き減圧下に窒素を含む第2の混合ガスを導入し、前記ポリイミド薄膜近傍に安定放電手段により高周波電力を印加し、前記第2の混合ガスをグロー放電させて前記第2の混合ガスを活性化し、前記ポリイミド薄膜をプラズマ処理し、前記ポリイミド薄膜表面近傍の窒素濃度を増加させた改質ポリイミド薄膜を形成する窒素プラズマ処理工程と、引き続き減圧下でアルゴンを含む第3の混合ガスを導入し、金属を溶融し、前記改質ポリイミド薄膜に安定放電手段により高周波電力を印加し、前記第3の混合ガスをグロー放電させて前記第3の混合ガス及び前記金属を活性化させ、前記改質ポリイミド薄膜に前記金属の薄膜を蒸着する工程と、を有することを特徴とする。
窒素プラズマ処理を行う前にアルゴンプラズマ処理を行い、ポリイミド表面の酸素原子濃度を予め効率的に下げることができる。従って、金属被膜ポリイミド基板の製造に要する時間を短縮することができる。
【0027】
請求項8に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法は、前記ポリイミド薄膜は縮合型ポリイミドで形成され、前記窒素プラズマ処理工程は、前記縮合型ポリイミド薄膜表面の窒素/炭素の原子濃度比を0.10から0.30、酸素/炭素の原子濃度比を0.09から0.17とすることを特徴とする請求項6又は請求項7のいずれかの請求項に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法である。
【0028】
請求項9に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法は、前記ポリイミド薄膜は縮合型ポリイミドで形成され、前記窒素プラズマ処理工程は、前記縮合型ポリイミド薄膜表面の窒素/炭素の原子濃度比をプラズマ処理前に比べて0.04から0.24増加させ、且つ酸素/炭素の原子濃度比を前記プラズマ処理前に比べて0.02から0.10減少させることを特徴とする請求項6又は請求項7のいずれかの請求項に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法である。
【0029】
請求項10に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法は、前記ポリイミド薄膜は縮合型ポリイミドで形成され、前記窒素プラズマ処理工程は、前記縮合型ポリイミド薄膜表面の窒素原子濃度を8原子%から21原子%、且つ酸素原子濃度を6原子%から13原子%とすることを特徴とする請求項6又は請求項7のいずれかの請求項に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法である。
【0030】
請求項11に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法は、前記ポリイミド薄膜は縮合型ポリイミドで形成され、前記窒素プラズマ処理工程は、前記縮合型ポリイミド薄膜表面の窒素濃度をプラズマ処理前に比べて3原子%から16原子%増加させ、且つ酸素原子濃度を前記プラズマ処理前に比べて2原子%から9原子%減少させる工程を更に有することを特徴とする請求項6又は請求項7のいずれかの請求項に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法である。
【0031】
請求項12に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法は、前記金属が、銅、チタン、ニッケル、クロム、パラジウム、タングステン及びこれらの合金からなる群から選択された金属又は合金であることを特徴とする請求項6又は請求項7のいずれかの請求項に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法である。
本発明は、金属層の剥離強度が大きく、透明度が高く、劣化しにくく、安価で優れた高周波特性を有する金属被膜ポリイミド基板の製造方法を実現する。
【0032】
請求項13に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法は、前記窒素を含む混合ガスは、ガス全体に占める容積比が50%以上100%未満である窒素と不活性ガスとを含むことを特徴とする請求項6又は請求項7のいずれかの請求項に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法である。
混合ガスは例えば酸素を含まない。これにより、ポリイミドが酸素を含有し、銅が酸化し、一価の銅(CuO)から二価の銅(CuO)へと変化し、急激に密着強度が低下するという問題が発生することを防止する。
【0033】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明に係わる好ましい実施の形態による金属被膜ポリイミド基板(フレキシブルプリント配線板である。)の断面構造を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本発明に係わるフレキシブルプリント配線板は、縮合型ポリイミド薄膜1(以下、「ポリイミドフィルム1」と言う。)の上に導電性の金属層2が形成されている。ポリイミドフィルム1の表層(金属層2との界面)には、改質層3が形成されている。改質層3と金属層2との界面を改質面4と言う。
【0034】
導電性の金属層2は、銅、チタン、ニッケル、クロム、パラジウム、タングステン及びこれらの合金からなる群から選択した金属又は合金から形成される。
改質層3は、ポリイミドフィルム1の両面に形成しても良い。ポリイミドフィルム1の両面に改質層3を形成し、それぞれの面に、同一又は異なる種類の金属から形成した金属層2を形成しても良い。
【0035】
ポリイミドフィルム1は、特にこれらに限定されないが、例えば縮合型ポリイミドであるカプトン(登録商標。東レ(株)製又はデュポン(株)製)、ユーピレックス(登録商標)若しくはユーピレックスS(登録商標)(宇部興産(株)製)、アピカル(登録商標。鐘淵化学工業(株)製)などの商品名で市販されているフィルムを用いることができる。ポリイミドフィルム1の基本構造は、ベンゼン環及びイミド環を有する。
縮合型ポリイミドは、耐熱性に優れ、フィルムにし易く、特にフレキシブルプリント配線板に適している。
【0036】
本発明に係わるフレキシブルプリント配線板の製造方法を説明する。
発明者は、ポリイミドフィルム1に金属層2を成膜するために、安定放電手段によりポリイミドフィルムに高周波電力を印加できる成膜装置を用いた。
【0037】
ポリイミドフィルム1を成膜装置のチャンバ(真空槽)内に入れ、真空排気する。チャンバ内にアルゴンを含む混合ガスを導入し、安定放電手段によりポリイミドフィルム1を支持する導体電極に高周波電力を印加する。高周波電力の印加により、グロー放電が生じ、アルゴンを含む混合ガスが活性化される。ポリイミドフィルム1に負のバイアス電圧が誘起され、活性化されたアルゴンを含む混合ガスによりポリイミドフィルム基板1がプラズマ処理される(アルゴンプラズマ処理)。
【0038】
具体的には、アルゴンの容積比が約50%から100%である混合ガス(酸素を含まない。)を、真空度10−3Paから10−1Paの範囲で成膜装置のチャンバ内に導入し、周波数13.56MHzの高周波電力を、ポリイミドフィルム1を支持する導体電極に150Wから1kW印加する。この状態において、グロー放電が発生し、ポリイミドフィルム1近傍には、印加した電力に応じて約200Vから約1000Vの負の誘起バイアス電圧が生じる。混合ガスにおけるアルゴンの容積比が100%未満である場合、アルゴンに添加するガスは、不活性ガスである窒素、キセノン、クリプトンであり、好ましくは窒素である。
【0039】
グロー放電下で活性化されたアルゴンを含む混合ガスは、ポリイミドフィルム1の表面を構成する原子をたたき、スパッタ洗浄する。その結果、ポリイミドの炭素と水素の結合や窒素と水素の結合が切れる。更に、イミド環の酸素が脱離する。
【0040】
アルゴンを含む混合ガスを排気し、減圧下で窒素を含む混合ガスをチャンバ内に導入する。安定放電手段によりポリイミドフィルム1を支持する導体電極211に高周波電力を印加する。高周波電力の印加により、グロー放電が生じ、窒素を含む混合ガスが活性化される。ポリイミドフィルム1に負のバイアス電圧が誘起され、活性化された窒素を含む混合ガスによりポリイミドフィルム1がプラズマ処理される(窒素プラズマ処理)。
【0041】
具体的には、窒素の容積比が約50%から100%である混合ガスを用い、真空度10−3Paから10−1Paの範囲で、周波数13.56MHzの高周波電力を、ポリイミドフィルム1を支持する導体電極に150Wから1kW印加する。この状態において、グロー放電が発生し、ポリイミドフィルム1近傍には、印加した電力に応じて約200Vから約1000Vの負の誘起バイアス電圧が生じる。混合ガスにおける窒素の容積比が100%未満である場合、窒素に添加するガスは、不活性ガスであるアルゴン、キセノン、クリプトンであり、好ましくはアルゴンである。
【0042】
イオン化した窒素や活性化された窒素により、ポリイミドフィルム1表面のスパッタ洗浄や窒化反応が進む。ポリイミドのベンゼン環及びイミド環が開環し、開環した炭素に窒素が結合しシアノ基が生成する。アルゴンプラズマ処理を予め行い、ベンゼン環及びイミド環を開環しているので、窒素プラズマ処理だけを行う場合に比べ、プラズマ処理に要する時間の総和を短縮できる。
【0043】
引き続き減圧下で、真空槽内を大気開放することなく、導入する混合ガスを、アルゴンを含む混合ガスに変える。安定放電手段によりポリイミドフィルム1を支持する導体電極に高周波電力を印加する。高周波電力の印加によりグロー放電を発生させた状態で、金属を溶融させる。金属を溶融させるタングステンボードに流れる電流を制御し、又は電子ビーム蒸着方式でエミッタに流れる電流を制御し、金属層2の成膜速度を制御し、金属層2を成膜する。
【0044】
改質されたポリイミドフィルム1の改質面4が以下の条件のうち少なくとも1つを満たすように、安定放電手段によって投入する電力又は投入時間を制御することにより、剥離強度が大きい金属被膜ポリイミド基板を製造できる。
【0045】
(1)窒素/炭素の原子濃度比が0.10から0.30、且つ酸素/炭素の原子濃度比が0.09から0.17である。
(2)窒素/炭素の原子濃度比がプラズマ処理前に比べて0.04から0.24増加し、且つ酸素/炭素の原子濃度比が前記プラズマ処理前に比べて0.02から0.10減少している。
(3)窒素原子濃度が8原子%から21原子%、且つ酸素原子濃度が6原子%から13原子%である。
(4)窒素濃度がプラズマ処理前に比べて3原子%から16原子%増加し、且つ酸素原子濃度が前記プラズマ処理前に比べて2原子%から9原子%減少している。
【0046】
発明者は、安定放電手段によって投入する電力又は投入時間を様々に変化させ、ポリイミドフィルム1にプラズマ処理を行い、実用に供しうる常態剥離強度(JIS C6481)を有する金属被膜ポリイミド基板では、改質面4の原子濃度及び算術平均粗さがどのような値であるか調べた。酸素、窒素及び炭素の原子濃度の測定は、X線光電子分光法(XPS法)を用いて行った。その結果、改質面4の算術平均粗さが1.9nmから10nmであり、且つ上記4つの条件のうち少なくとも1つの条件を満たす場合、常態剥離強度0.4N/mm以上である金属被膜ポリイミド基板が実現できることが分かった。実用上、金属被膜ポリイミド基板の常態剥離強度は0.7N/mmであることが望ましいが、0.4N/mm〜0.7N/mmの場合には、カバーレイヤーなどの保護膜を施すことにより、0.7N/mm以上の常態剥離強度を得ることができる。
なお、発明者は、上記条件を満たすように製造した金属被膜ポリイミド基板の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察したところ、改質面4の算術平均粗さが1.9nmから10nmであることを確認している(実際には1.9nm〜3.0nm)。
【0047】
プラズマ処理を行う前に、減圧下でポリイミドフィルム1を脱水処理すると良い。脱水処理により、金属層の多結晶球状直径を小さくし、安定に大きな剥離強度を実現できることを発明者は確認している。
最初のアルゴンプラズマ処理をなくすこともできる。
【0048】
次に、本発明に係わる金属被膜ポリイミド基板の製造方法の具体例を示し、それにより製造した金属被膜ポリイミド基板の特性について観察した結果について、以下の実施例1〜実施例3で具体的に説明する。
【0049】
《実施例1》
本発明の実施例1の金属被膜ポリイミド基板(実施例においては、フレキシブルプリント配線板である。)の製造方法を説明する。
縮合型ポリイミド薄膜(ポリイミドフィルム)1として、芳香族ポリイミドであるユーピレックスS(登録商標。宇部興産(株)製)を用いた。金属層2は、99.99%の銅合金から形成した。(以下、銅層2と言う。)。
【0050】
図2は、実施例1のフレキシブルプリント配線板を製造するために用いた成膜装置の概略構成を示す断面図である。図2において、チャンバ(真空槽)205内には蒸発源となるタングステンボード206及び陰極電極となる導体電極211が所定位置に設けられている。タングステンボード206に、蒸着物である銅合金208を置く。導体電極211は、被蒸着物である縮合型ポリイミドフィルム1を保持できるよう構成されている。導体電極211には、安定放電回路210を介して高周波発振器209からの高周波電力を入力するための高周波導入ケーブル213が接続されている。高周波発振器209及び安定放電回路210は、安定放電手段を構成する。高周波導入ケーブル213は、チャンバ205において絶縁体212により電気的に絶縁されて保持されている。チャンバ205はガス導入口204と排気口207を有し、チャンバ205内を所定ガスにより所定圧に設定できるよう構成されている。
【0051】
最初に、ポリイミドフィルム1を、導体電極211にカプトン(登録商標)テープで固定し、到達真空度10−3Pa以下まで真空排気した。更に、ポリイミドフィルム1上の水分圧が10−4Pa以下になるまで脱水処理を行った。
【0052】
引き続き、窒素の容積比が99.99%の混合ガス(酸素を実質的に含まず、且つ窒素の容積比が50%以上であれば良い。)をガス導入口204から導入した。真空度10−2Paで、ポリイミドフィルム1に安定放電回路210により周波数13.56MHzの高周波電力400Wを印加する。これにより混合ガスをイオン化し、所定時間グロー放電させた。このとき、ポリイミドフィルム1近傍の導体電極211に自己誘起された負の直流電圧は500Vであった。グロー放電により、窒素を含む混合ガスがイオン化、解離、及び励起される。イオン化、解離、及び励起された、窒素を含む混合ガスは、ポリイミドフィルム1の表面及び表面近傍で、置換反応及び引抜き反応によって、ポリイミドの炭素原子と結合した水素原子、酸素原子及び炭素原子を炭素原子から引き離す。更に、結合が切られた炭素原子に結合し、シアノ官能基を生成する(窒素プラズマ処理)。
【0053】
引き続き大気開放を行うことなく、成膜装置のチャンバ205において、窒素の容積比が99.99%の混合ガスを排気し、真空度10−2Paで容積比99.99%のアルゴンを含む混合ガスを導入した。安定放電回路210により周波数13.56MHzの高周波電力400Wをポリイミドフィルム1に印加し、グロー放電させた。このとき、ポリイミドフィルム1近傍の導体電極211に自己誘起される負のバイアス電圧は420Vであった。グロー放電下において銅合金208を溶融させた。成膜速度が0.1nm/秒から10.0nm/秒までの範囲となるように、タングステンボード206に流す電流を制御し、銅層2を膜厚300nm成膜した。以上の製造方法により、実施例1のフレキシブルプリント配線板を製造した。
【0054】
実施例1のフレキシブルプリント配線板に銅を蒸着する前に、改質されたポリイミドフィルムの表面の平均粗さ(算術平均粗さ)を測定した。測定は、デジタルインスツルメンツ製原子力間顕微鏡DI3000を用いて行い、ポリイミドフィルム表面の1μm四方の平均粗さを調べた。なお、プラズマ処理を行う前のポリイミドフィルムの算術平均粗さは1.8nmだった。プラズマ処理後のポリイミドフィルムの算術平均粗さは3.0nmだった。プラズマ処理によって、ポリイミドフィルムの表面はほとんど粗化されていない。つまり、実施例1のプリント配線板の剥離強度は、粗化されたポリイミド表面と銅とがアンカー効果によって物理的に結合して得られたのではないことがわかった。また、ポリイミドフィルムの表面が粗化されないので、透明度の高いフレキシブルプリント配線板が製造できる。
【0055】
X線光電子分光法(XPS法)によって、改質面4の原子濃度を測定した。XPS法では、試料表面の原子とその結合状態を調べることができる。測定には、SHIMADZU社製のX線光電子分光分析装置(型番:AXIS−HSU)を使用した。X線アノードMgXα線1253.6eV、加速電圧1.5kV−300W、分析領域直径1.1mmの円形領域において測定を行った。エネルギー補正はC1sスペクトルの284.8eVを用いて行った。
【0056】
なお、XPS測定によって得られる情報は、X線により脱離する電子の非弾性平均自由工程をλとすると、試料の表面から深さ3λまでの原子の構成を約95%反映している。従って、加速された粒子の運動エネルギーが1200eVの場合、λは約3.2nmであり、本発明によるフレキシブルプリント配線板は、少なくとも5nm以上の厚さの改質層を有すると推測できる。
【0057】
以上のようにして製造されたフレキシブルプリント配線板に、電気めっき銅を20μm厚付けし、JIS C6481に準拠して180°引き剥がし試験を行い、常態剥離強度を測定した。
【0058】
窒素プラズマ処理の時間を様々に変えたときの、改質面4において測定された炭素、酸素及び窒素の原子濃度、酸素/炭素の原子濃度比、窒素/炭素の原子濃度比、算術平均粗さ及び常態剥離強度を表1に示す。図3(a)は、実施例1のフレキシブルプリント配線板の窒素/炭素の原子濃度比と常態剥離強度の関係を示す図、図3(b)は、実施例1の酸素/炭素の原子濃度比と常態剥離強度の関係を示す図である。
【0059】
【表1】
Figure 2004327931
【0060】
窒素プラズマ処理の時間が長いほど常態剥離強度及び算術平均粗さが大きい。常態剥離強度が上がるにつれ、窒素原子濃度及び窒素/炭素の原子濃度比は増加し、酸素原子濃度及び酸素/炭素の原子濃度比は減少する。プラズマ処理時間が5分を超えると、算術平均粗さは増加するが、原子濃度及び原子濃度比は飽和し、ほとんど変化しない。
【0061】
窒素プラズマ処理においてポリイミドフィルム1表面で以下の現象が起きていることを、発明者はXPSスペクトルの解析によって確認している(後述)。グロー放電により、窒素イオン及び窒素活性種(ラジカル)が発生する。窒素イオンは、導体電極211に誘起された負のバイアス電圧により加速され、ポリイミドフィルム1をたたく。その結果、ポリイミドの炭素と水素の結合、窒素と水素の結合、ベンゼン環の炭素間の結合及びイミド環の炭素と酸素の結合を切断する。
窒素イオンと窒素活性種とは、ポリイミドフィルム1の結合が切れた炭素と結合し、シアノ官能基を生成する。ポリイミドフィルム1の表面に改質層3が形成される。シアノ基と金属イオンは配位結合するため、常態剥離強度が大きくなる。
【0062】
金属層2を形成する前のポリイミドフィルム1の表面をXPS法により解析した。C1sスペクトルのピーク分離を行った。プラズマ処理により、ポリイミドフィルムのC=C結合のピークが低下し、O=N−C−N=O結合のピークが低下した。ポリイミドフィルムは、プラズマ処理により、C−N結合(シアノ基)の存在を示すピークの強度が大きくなった。
【0063】
一般に、C1sスペクトルの、結合エネルギー284.7eV付近のピークは、ベンゼン環のC=C結合による寄与が大きいが、実施例1のポリイミドフィルムのC1sスペクトルのピーク強度は、プラズマ処理により低下した。これより、ポリイミドのベンゼン環が開環したことが分かる。イミド環を構成する窒素原子のN1sスペクトルより、シアノ基を構成する窒素原子のN1sスペクトルの方が低い。プラズマ処理により、N1sスペクトルのピーク位置が低エネルギー側(398eV〜399eV)にシフトした。このことから、ベンゼン環及びイミド環が開環して、それぞれシアノ基が生成されたことが分かる。
O1sスペクトルのピーク強度が低下したことより、イミド環が開環して酸素が脱離したことが分かる。
【0064】
フレキシブルプリント配線板の銅層の膜厚を4nm〜6nm程度となるように成膜速度を制御し、フレキシブルプリント配線板(試料と呼ぶ。)を製造した(ポリイミドフィルムに蒸着された銅合金の膜厚が薄いことを除いて、実施例1と同様の方法でフレキシブルプリント配線板を製造した。)。このようにして製造したポリイミドフィルム1と金属層2との化学的な結合状態を調べるために、上記と同様のXPS測定を行った。
試料のCu2p3スペクトルは、0価及び一価の銅イオンのピーク(932.5eV)及び二価の銅イオンのピーク(935eV)にピーク分離することができた。
【0065】
試料のCuLMMスペクトルと、0価の銅イオンのピークの理論値と、一価の銅イオンのピークの理論値とを比較した。CuLMMスペクトルにおいては、0価の銅イオンのピークの理論値付近には有意なピークが見られず、一価の銅イオンのピークの理論値付近に有意なピークが見られる。
以上のことから、改質層3の表面に蒸着された銅は、一価の銅イオンとして存在することが分かる。
ポリイミドの改質層3と金属層(銅層)2との界面では、一価の銅イオンがシアノ基と配位結合し、錯体が形成されていることが確認できた。配位結合は安定な共有結合であるため、剥離強度が大きいフレキシブルプリント配線板を実現できる。
【0066】
窒素プラズマ処理の時間がある一定の値(実施例1では5分程度)を超えると、原子濃度及び原子濃度比が飽和する。つまり、シアノ基がそれ以上生成されない。しかし、算術平均粗さは増大する。周波数が76.5GHzの高周波信号を伝播するフレキシブルプリント配線板では、高周波信号の侵入深度が240nm程度である。フレキシブルプリント配線板が、エラー発生率10−15以下の良好な高周波伝達特性を有するためには、改質面4の算術平均粗さは10nm以下であることが好ましい。高周波信号の伝達経路が粗化されると、高周波信号がジュール損失のために減衰しやすくなる。改質面4の深さが浅ければ(侵入深度の10%以下であれば)、伝達される高周波信号は減衰しにくい。従来例と異なり、本発明は改質面をほとんど粗化しないで、高い剥離強度を有する高周波特性の良い金属被膜ポリイミド基板を実現した。
【0067】
原子濃度及び原子濃度比が飽和した後も窒素プラズマ処理を続ける必要はない。実施例1の測定結果によれば、原子濃度及び原子濃度比が飽和したときの算術平均粗さは高々3nmである。また、原子濃度及び原子濃度比が飽和した後も窒素プラズマ処理を続けることは、フレキシブルプリント配線板の製造コスト及び製造時間の無駄な増加につながる。
表1より、実施例1の測定結果及び製造コストを抑える観点から、改質された縮合型ポリイミドフィルム1の改質面4が以下の4つの条件のうち、少なくとも1つを満たすときに、常態剥離強度が0.4N/mm以上の、高周波特性が良好な、安価なフレキシブルプリント配線板が得られることが分かった。
【0068】
(1)算術平均粗さが1.9nmから10nm、且つ窒素/炭素の原子濃度比が0.10から0.30、且つ酸素/炭素の原子濃度比が0.09から0.17である。
(2)算術平均粗さが1.9nmから10nm、且つ窒素/炭素の原子濃度比がプラズマ処理前に比べて0.04から0.24増加し、且つ酸素/炭素の原子濃度比が前記プラズマ処理前に比べて0.02から0.10減少している。
(3)算術平均粗さが1.9nmから10nm、且つ窒素原子濃度が8原子%から21原子%、且つ酸素原子濃度が6原子%から13原子%である。
(4)算術平均粗さが1.9nmから10nm、且つ窒素濃度がプラズマ処理前に比べて3原子%から16原子%増加し、且つ酸素原子濃度が前記プラズマ処理前に比べて2原子%から9原子%減少している。
【0069】
好ましくは、金属被膜ポリイミド基板の常態剥離強度は0.7N/mmである。
表1より、実施例1の測定結果及び製造コストを抑える観点から、改質された縮合型ポリイミドフィルム1の改質面4が以下の4つの条件のうち、少なくとも1つを満たすときに、常態剥離強度が0.7N/mm以上の、高周波特性が良好な、安価なフレキシブルプリント配線板が得られることが分かった。
(1)算術平均粗さが1.9nmから10nm、且つ窒素/炭素の原子濃度比が0.21から0.30、且つ酸素/炭素の原子濃度比が0.09から0.16である。
(2)算術平均粗さが1.9nmから10nm、且つ窒素/炭素の原子濃度比がプラズマ処理前に比べて0.15から0.24増加し、且つ酸素/炭素の原子濃度比が前記プラズマ処理前に比べて0.03から0.10減少している。
(3)算術平均粗さが1.9nmから10nm、且つ窒素原子濃度が15原子%から21原子%、且つ酸素原子濃度が6原子%から12原子%である。
(4)算術平均粗さが1.9nmから10nm、且つ窒素濃度がプラズマ処理前に比べて10原子%から16原子%増加し、且つ酸素原子濃度が前記プラズマ処理前に比べて3原子%から9原子%減少している。
【0070】
更に好ましくは、金属被膜ポリイミド基板の常態剥離強度は1.0N/mmである。
表1より、実施例1の測定結果及び製造コストを抑える観点から、改質された縮合型ポリイミドフィルム1の改質面4が以下の4つの条件のうち、少なくとも1つを満たすときに、常態剥離強度が1.0N/mm以上の、高周波特性が良好な、安価なフレキシブルプリント配線板が得られることが分かった。
(1)算術平均粗さが1.9nmから10nm、且つ窒素/炭素の原子濃度比が0.24から0.30、且つ酸素/炭素の原子濃度比が0.09から0.13である。
(2)算術平均粗さが1.9nmから10nm、且つ窒素/炭素の原子濃度比がプラズマ処理前に比べて0.18から0.24増加し、且つ酸素/炭素の原子濃度比が前記プラズマ処理前に比べて0.06から0.10減少している。
(3)算術平均粗さが1.9nmから10nm、且つ窒素原子濃度が17原子%から21原子%、且つ酸素原子濃度が6原子%から9原子%である。
(4)算術平均粗さが1.9nmから10nm、且つ窒素濃度がプラズマ処理前に比べて12原子%から16原子%増加し、且つ酸素原子濃度が前記プラズマ処理前に比べて6原子%から9原子%減少している。
【0071】
金属被膜ポリイミド基板の常態剥離強度が0.4N/mm〜0.7N/mmの場合には、カバーレイヤーなどの保護膜を施すことにより、0.7N/mm以上の常態剥離強度を得ることができる。
【0072】
《実施例2》
本発明の実施例2のフレキシブルプリント配線板は、窒素プラズマ処理時に、ポリイミドフィルム1に安定放電回路210により印加する電力が200Wであり、その他の製造工程は実施例1のフレキシブルプリント配線板と同じである。ポリイミドフィルム1近傍の導体電極211に自己誘起された負のバイアス電圧は200Vであった。
【0073】
本発明の実施例2のフレキシブルプリント配線板において、実施例1と同様のXPS測定、算術平均粗さの測定及び常態剥離強度の測定を行った。
窒素プラズマ処理の時間を様々に変えたときの、改質面4において測定された炭素、酸素及び窒素の原子濃度、酸素/炭素の原子濃度比、窒素/炭素の原子濃度比、算術平均粗さ及び常態剥離強度を表2に示す。
【0074】
【表2】
Figure 2004327931
【0075】
実施例2では実施例1に比べ、窒素プラズマ処理での投入電力を400Wから200Wに小さくした。0.4N/mm以上の剥離強度を得るために要するプラズマ処理の時間は、実施例1に比べて長くなる。0.4N/mm以上の剥離強度を得るために改質されたポリイミドフィルムの改質面4が満たすべき条件は実施例1と同じである。
高周波電力の投入電圧及び投入時間を制御することにより、十分な常態剥離強度を有するフレキシブルプリント配線板が製造できる。
【0076】
《実施例3》
本発明の実施例3のフレキシブルプリント配線板の製造方法を説明する。使用した材料及び成膜装置は実施例1と同じである。
【0077】
最初に、ポリイミドフィルム1を、導体電極211にカプトン(登録商標)テープで固定し、チャンバ205内を到達真空度10−3Pa以下まで真空排気した。更に、ポリイミドフィルム1上の水分圧が10−4Pa以下になるまで脱水処理を行った。
【0078】
引き続き、アルゴンの容積比が99.99%の混合ガスをガス導入口204からチャンバ205内に導入した。真空度10−2Paで、ポリイミドフィルム1に安定放電回路210により周波数13.56MHzの高周波電力400Wを印加する。このように高周波電力400Wを印加し、混合ガスをイオン化し、1分間グロー放電させた。このとき、ポリイミドフィルム1近傍の導体電極211に自己誘起された負のバイアス電圧は420Vであった(アルゴンプラズマ処理)。アルゴンの容積比が99.99%の混合ガスをチャンバ205から排気する。
【0079】
引き続き、窒素の容積比が99.99%の混合ガスをガス導入口204から導入する。真空度10−2Paで、ポリイミドフィルム1に安定放電回路210により周波数13.56MHzの高周波電力400Wを印加する。このように高周波電力400Wを印加し、混合ガスをイオン化し、所定時間グロー放電させた。このとき、ポリイミドフィルム1近傍の導体電極211に自己誘起された負のバイアス電圧は500Vであった(窒素プラズマ処理)。
【0080】
引き続き、実施例1と同様の方法で銅層2を膜厚300nm成膜した。以上の製造方法により、実施例3のフレキシブルプリント配線板を製造した。
アルゴンプラズマ処理後の窒素プラズマ処理の時間を様々に変えたときの、改質面4において測定された炭素、酸素及び窒素の原子濃度、酸素/炭素の原子濃度比、窒素/炭素の原子濃度比、算術平均粗さ及び常態剥離強度を表3に示す。
【0081】
【表3】
Figure 2004327931
【0082】
アルゴンプラズマ処理を1分行った後、窒素プラズマ処理を3分行うことで、常態剥離強度が0.7N/mm以上のフレキシブルプリント配線板が得られる。比較例1に示したように、アルゴンプラズマ処理によって、ポリイミドを構成する酸素を効率的に脱離させることができる。窒素プラズマ処理を行う前に、アルゴンプラズマ処理を行うことで、フレキシブルプリント配線板の製造に要する時間を短縮できる。窒素プラズマ処理の時間が短いので、実施例2のフレキシブルプリント配線板の製造方法においては、ポリイミドフィルム1の表面がほとんど粗化しない(ポリイミドフィルム1の表面が強度的に劣化していない。)。実施例1と比較して、実施例2のフレキシブルプリント配線板の製造方法は、製造時間が短く(従って、製造コストが低く)、同等又はそれ以上の品質のフレキシブルプリント配線板を製造できる。
【0083】
《比較例1》
比較例1のフレキシブルプリント配線板の製造方法を説明する。比較例1のフレキシブルプリント配線板の製造方法においては、実施例1と同じ成膜装置を使用した。成膜装置に容積比99.99%のアルゴンを含む混合ガスを導入して、ポリイミドフィルム1の表面をアルゴンプラズマ処理した。真空度10−2Paで、ポリイミドフィルム1に安定放電回路210により周波数13.56MHzの高周波電力400Wを印加する。このように高周波電力400Wを印加し、混合ガスをイオン化し、所定時間グロー放電させた。このとき、ポリイミドフィルム1近傍の導体電極211に自己誘起された負のバイアス電圧は420Vであった(アルゴンプラズマ処理)。
【0084】
引き続き、安定放電回路210により周波数13.56MHzの高周波電力400Wをポリイミドフィルム1に印加し、グロー放電させた。このとき、ポリイミドフィルム1近傍の導体電極211に自己誘起される負のバイアス電圧は420Vであった。グロー放電下において銅合金208を溶融させた。成膜速度が0.1nm/秒から10.0nm/秒までの範囲となるように、タングステンボード206に流す電流を制御し、銅層2を膜厚300nm成膜した。以上の製造方法により、比較例1のフレキシブルプリント配線板を製造した。
【0085】
本発明の比較例1のフレキシブルプリント配線板において、実施例1と同様のXPS測定、算術平均粗さの測定及び常態剥離強度の測定を行った。
アルゴンプラズマ処理の時間を様々に変えたときの、改質面4において測定された炭素、酸素及び窒素の原子濃度、酸素/炭素の原子濃度比、窒素/炭素の原子濃度比、算術平均粗さ及び常態剥離強度を表4に示す。
【0086】
【表4】
Figure 2004327931
【0087】
実施例1(表1)と比較し、比較例1では短時間で急激に酸素原子濃度が減少する。しかし、常態剥離強度は高々0.4N/mmである。アルゴンプラズマ処理により、ポリイミドの酸素が脱離するものの、シアノ基が形成されないため常態剥離強度は小さいと考えられる。
【0088】
《比較例2》
比較例2のフレキシブルプリント配線板の製造方法を説明する。比較例2のフレキシブルプリント配線板の製造方法においては、実施例1と同じ成膜装置を使用した。成膜装置に容積比99.99%の酸素を含む混合ガスを導入して、ポリイミドフィルム1の表面を5分間酸素プラズマ処理した。ポリイミドフィルム1近傍の導体電極211に自己誘起された負のバイアス電圧は420Vであった。
【0089】
本発明の比較例2のフレキシブルプリント配線板において、実施例1と同様の算術平均粗さの測定及び常態剥離強度の測定を行った。5分間酸素プラズマ処理した比較例2のフレキシブルプリント配線板の常態剥離強度は0.4N/mmであり、その表面の算術平均粗さは98nmであった。酸素プラズマ処理によってポリイミドの表面に酸素を含む官能基が形成され、アンカー効果によって十分な常態剥離強度が得られる。しかし、算術平均粗さは、車間レーダ用用途に使用される76.5GHzの高周波信号が伝播する侵入深度(240nm)の約40%に相当する。高周波信号の伝達経路の断面全体が粗化されている故に、高周波信号は伝播途中で減衰してしまう。
酸素を含む官能基は活性であるため、銅が酸化し、一価の銅(CuO)から二価の銅(CuO)へと変化し、急激に剥離強度が劣化する恐れがある。
【0090】
本発明の実施の形態においては、タングステンボードに入れた金属(銅合金)を溶融し、アルゴンを含む混合ガスをグロー放電させてポリイミド基板上に金属層を形成した。
これに代えて、例えばスパッタリングによりポリイミド基板上に金属層を形成しても良い。しかし、スパッタリングによりポリイミド基板上に金属層を形成する場合は、前工程である窒素プラズマ処理工程と、スパッタリングによる金属層形成工程とで、高周波電源や直流電源を基板に対して切り替えるか、あるいは、両工程を異なるチャンバ(金属層を形成する金属の電極を有しないチャンバ及び金属層を形成する金属の電極を有するチャンバ)で実行する必要がある。
【0091】
ポリイミド基板が窒素プラズマ処理工程用チャンバから金属層形成工程用チャンバに移動するとき、大気雰囲気中を通る場合、試料(ポリイミド基板)を窒素プラズマ処理した後、真空槽から取り出すと、ポリイミド基板の表面が酸化し、表面に水成分の付着や吸着が起きる。ポリイミド基板を真空槽から大気中に移す場合、ポリイミド基板の表面に水分が付着することを防止するため、数時間を掛けてポリイミド基板の雰囲気の気圧を変化させる必要がある。この間の時間経過において、窒素プラズマ処理した後のポリイミドフィルム基板の表面の官能基が変化して、不活性化する恐れがある。
実施の形態の方法は、窒素プラズマ処理工程と金属層形成工程とを1つのチャンバで(他のチャンバに移動させることなく)実行できる故、上記のスパッタリング法と比較して、製造コストが低く(設備費用が安く)、製造時間が短く、安定した品質で高い剥離強度を有する金属被膜ポリイミド基板の製造方法である。
本発明の実施の形態においては、ポリイミドフィルム上に金属層を形成した。これに代えて、非可撓性の基板(例えばシリコン基板、ガリウム砒素基板又はセラミックス基板)表面に液体のポリイミドを熱硬化によってコーティングしたポリイミド薄膜に、金属層を形成しても良い。
【0092】
【発明の効果】
本発明によれば、剥離強度が大きく、透明度が高く、劣化しにくい安価な優れた高周波特性を有する金属被膜ポリイミド基板を実現できるという有利な効果が得られる。
本発明の金属被膜ポリイミド基板の製造方法を、フレキシブルプリント配線板の製造工程の他、LSIチップを製造する場合において、シリコン基板、ガリウム砒素基板又はセラミックス基板にポリイミド絶縁膜を形成し、ポリイミド絶縁膜上に金属配線を形成する工程に適用できる。これにより、金属配線のポリイミド絶縁膜への密着強度が優れたモジュールを提供できる。
本発明の金属被膜ポリイミド基板は、例えば携帯電話、PDA(パーソナル・デジタル・アシスタント)、ノートブック型パソコン、デジタル・スチル・カメラ、光ピックアップ、液晶又はプラズマ方式の画像表示装置等の電子機器に使用するフレキシブル配線板、及びLSIチップを搭載する半導体装置用フレキシブル配線板等として有用である。さらに、絶縁膜であるポリイミド絶縁膜の層間に金属配線を形成することにより、高周波特性に優れた多層高密度実装基板を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わるフレキシブルプリント配線板の断面構造を模式的に示す断面図
【図2】実施例1〜実施例3、比較例1及び比較例2において使用したフレキシブルプリント配線板を製造するために用いた成膜装置の概略構成を示す断面図
【図3】図3(a)は、実施例1のフレキシブルプリント配線板の窒素/炭素の原子濃度比と常態剥離強度の関係を示す図、図3(b)は、実施例1の酸素/炭素の原子濃度比と常態剥離強度の関係を示す図
【符号の説明】
1 縮合型ポリイミド薄膜(ポリイミドフィルム)
2 金属層
3 改質層
4 改質面
204 ガス導入口
205 チャンバ
206 タングステンボード
207 排気口
208 銅合金
209 高周波発振器
210 安定放電回路
211 導体電極
212 絶縁体
213 高周波導入ケーブル

Claims (13)

  1. 縮合型ポリイミド薄膜の少なくとも一面に金属層を有する基板において、前記金属層と接する前記縮合型ポリイミド薄膜の表面が、算術平均粗さが1.9nmから10nm、窒素/炭素の原子濃度比が0.10から0.30、且つ酸素/炭素の原子濃度比が0.09から0.17であるようにプラズマ処理された改質面であることを特徴とする金属被膜ポリイミド基板。
  2. 縮合型ポリイミド薄膜の少なくとも一面に金属層を有する基板において、前記金属層と接する前記縮合型ポリイミド薄膜の表面が、算術平均粗さが1.9nmから10nmであり、窒素/炭素の原子濃度比がプラズマ処理前に比べて0.04から0.24増加し、且つ酸素/炭素の原子濃度比が前記プラズマ処理前に比べて0.02から0.10減少するようにプラズマ処理された改質面であることを特徴とする金属被膜ポリイミド基板。
  3. 縮合型ポリイミド薄膜の少なくとも一面に金属層を有する基板において、前記金属層と接する前記縮合型ポリイミド薄膜の表面が、算術平均粗さが1.9nmから10nm、窒素原子濃度が8原子%から21原子%、且つ酸素原子濃度が6原子%から13原子%であるようにプラズマ処理された改質面であることを特徴とする金属被膜ポリイミド基板。
  4. 縮合型ポリイミド薄膜の少なくとも一面に金属層を有する基板において、前記金属層と接する前記縮合型ポリイミド薄膜の表面が、算術平均粗さが1.9nmから10nmであり、窒素濃度がプラズマ処理前に比べて3原子%から16原子%増加し、且つ酸素原子濃度が前記プラズマ処理前に比べて2原子%から9原子%減少するようにプラズマ処理された改質面であることを特徴とする金属被膜ポリイミド基板。
  5. 前記金属層が、銅、チタン、ニッケル、クロム、パラジウム、タングステン及びこれらの合金からなる群から選択された1つの金属又は合金によって形成されることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかの請求項に記載の金属被膜ポリイミド基板。
  6. 減圧下に窒素を含む第1の混合ガスを導入し、ポリイミド薄膜近傍に安定放電手段により高周波電力を印加し、前記第1の混合ガスをグロー放電させて前記第1の混合ガスを活性化し、前記ポリイミド薄膜をプラズマ処理し、前記ポリイミド薄膜表面近傍の窒素濃度を増加させた改質ポリイミド薄膜を形成する窒素プラズマ処理工程と、
    引き続き減圧下でアルゴンを含む第2の混合ガスを導入し、金属を溶融し、前記改質ポリイミド薄膜に安定放電手段により高周波電力を印加し、前記第2の混合ガスをグロー放電させて前記第2の混合ガス及び前記金属を活性化させ、前記改質ポリイミド薄膜に前記金属の薄膜を蒸着する工程と、
    を有することを特徴とする金属被膜ポリイミド基板の製造方法。
  7. 減圧下にアルゴンを含む第1の混合ガスを導入し、ポリイミド薄膜近傍に安定放電手段により高周波電力を印加し、前記第1の混合ガスをグロー放電させて前記第1の混合ガスを活性化し、前記ポリイミド薄膜をプラズマ処理するアルゴンプラズマ処理工程と、
    引き続き減圧下に窒素を含む第2の混合ガスを導入し、前記ポリイミド薄膜近傍に安定放電手段により高周波電力を印加し、前記第2の混合ガスをグロー放電させて前記第2の混合ガスを活性化し、前記ポリイミド薄膜をプラズマ処理し、前記ポリイミド薄膜表面近傍の窒素濃度を増加させた改質ポリイミド薄膜を形成する窒素プラズマ処理工程と、
    引き続き減圧下でアルゴンを含む第3の混合ガスを導入し、金属を溶融し、前記改質ポリイミド薄膜に安定放電手段により高周波電力を印加し、前記第3の混合ガスをグロー放電させて前記第3の混合ガス及び前記金属を活性化させ、前記改質ポリイミド薄膜に前記金属の薄膜を蒸着する工程と、
    を有することを特徴とする金属被膜ポリイミド基板の製造方法。
  8. 前記ポリイミド薄膜は縮合型ポリイミドで形成され、前記窒素プラズマ処理工程は、前記縮合型ポリイミド薄膜表面の窒素/炭素の原子濃度比を0.10から0.30、酸素/炭素の原子濃度比を0.09から0.17とすることを特徴とする請求項6又は請求項7のいずれかの請求項に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法。
  9. 前記ポリイミド薄膜は縮合型ポリイミドで形成され、前記窒素プラズマ処理工程は、前記縮合型ポリイミド薄膜表面の窒素/炭素の原子濃度比をプラズマ処理前に比べて0.04から0.24増加させ、且つ酸素/炭素の原子濃度比を前記プラズマ処理前に比べて0.02から0.10減少させることを特徴とする請求項6又は請求項7のいずれかの請求項に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法。
  10. 前記ポリイミド薄膜は縮合型ポリイミドで形成され、前記窒素プラズマ処理工程は、前記縮合型ポリイミド薄膜表面の窒素原子濃度を8原子%から21原子%、且つ酸素原子濃度を6原子%から13原子%とすることを特徴とする請求項6又は請求項7のいずれかの請求項に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法。
  11. 前記ポリイミド薄膜は縮合型ポリイミドで形成され、前記窒素プラズマ処理工程は、前記縮合型ポリイミド薄膜表面の窒素濃度をプラズマ処理前に比べて3原子%から16原子%増加させ、且つ酸素原子濃度を前記プラズマ処理前に比べて2原子%から9原子%減少させる工程を更に有することを特徴とする請求項6又は請求項7のいずれかの請求項に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法。
  12. 前記金属が、銅、チタン、ニッケル、クロム、パラジウム、タングステン及びこれらの合金からなる群から選択された金属又は合金であることを特徴とする請求項6又は請求項7のいずれかの請求項に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法。
  13. 前記窒素を含む混合ガスは、ガス全体に占める容積比が50%以上100%未満である窒素と不活性ガスとを含むことを特徴とする請求項6又は請求項7のいずれかの請求項に記載の金属被膜ポリイミド基板の製造方法。
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