JP2004307609A - インクの製造方法、インクカートリッジ、及びインクジェット式記録装置 - Google Patents

インクの製造方法、インクカートリッジ、及びインクジェット式記録装置 Download PDF

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Abstract

【課題】水がない状態で縮重合反応する水溶性物質を含有するインクの生産効率を向上させるとともに、そのインクの保存安定性を向上させる。
【解決手段】スルホン基及びカルボキシル基の少なくとも一方の水溶性可溶化基を有する水溶性染料と、水と、上記水溶性物質と、水溶性媒体と、有機酸塩及び無機酸塩の少なくとも一方からなる添加物とを含有させるようにし、その製造方法として、上記インク含有物質のうち上記添加物を除く少なくとも染料と水溶性物質とを混合する第1混合工程と、この第1混合工程で混合した混合物と上記添加物とを混合する第2混合工程と、この第2混合工程の前に、上記混合物を含む溶液、又は添加物を含む溶液を、該溶液のpHが所定範囲内になるようにpH調整剤により調整しながら作製するpH調整工程とを備える。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばインクジェット記録に用いられるインクの製造方法、該インクが充填されたインクカートリッジ、及び該インクが記録用インクとして用いられるインクジェット式記録装置に関する技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、インクジェット記録に用いられるインクとして、色材(染料又は顔料)と、保湿剤と、水とを含有したものがよく知られている。ところが、色材を含有したインクにより記録紙等の記録媒体上に画像を形成すると、その画像の耐水性、すなわち画像が水に濡れると色材が水中に染み出してしまうことが問題となる。特に普通紙(広範な市販の紙で、とりわけ電子写真方式の複写機に用いられる紙であって、インクジェット記録用として最適な構造、組成、特性等を有するように意図して製造されてはいない紙)に記録した場合は、耐水性が非常に悪くなる。
【0003】
そこで、従来、例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献3に示されているように、インクに加水分解性シラン化合物(有機ケイ素化合物)を含有させることにより、記録媒体上の画像の耐水性を向上させることが提案されている。このようにインクにシラン化合物を含有させることによって、インク滴が記録媒体上に付着して水分(溶媒)が蒸発したり記録媒体内に浸透したりしたときには、上記記録媒体上に残ったシラン化合物が縮重合反応し、この縮重合反応したシラン化合物が色材を取り囲むことになる。その結果、記録媒体上の画像が水に濡れても、色材がその水中に染み出すことを防止するようにしている。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−212439号公報
【特許文献2】
特開平11−293167号公報
【特許文献3】
特開平11−315231号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記加水分解性シラン化合物を含有させた耐水インク、特にスルホン基及びカルボキシル基の少なくとも一方の水溶性可溶化基を有する水溶性染料を含有するインクでは、該インクの製造工程中に、上記染料とシラン化合物との相互作用により、水に難溶又は不溶な凝集物が発生することがあり、このため、その凝集物を取り除く作業が必要となって、インクの生産効率が非常に低下してしまう。また、インクの保存中においても、同様に、水に難溶又は不溶な凝集物が発生することがあり、このため、例えば、そのインクが充填されたカートリッジを装着したインクジェットヘッドにおいて、インク吐出用のノズル上で上記凝集物が発生して、インクの吐出不良の要因になることが判明した。
【0006】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上記加水分解性シラン化合物のような、水がない状態で縮重合反応する水溶性物質を含有するインクの生産効率を向上させるとともに、そのインクの保存安定性を向上させようとすることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
まず、本発明者らは、上記の課題に鑑み、添加物として、有機酸塩又は無機酸塩(特にアンモニウム塩)を加えると、耐水性の向上化とインクの低アルカリ領域での保存安定性の向上化とをもたらす効果があることを見い出した。
【0008】
しかしながら、上記添加物をインクに含有させるようにすると、そのインクの製造工程中において、水に難溶又は不溶な凝集物が発生する場合があることが判明した。
【0009】
そこで、本発明者らは、鋭意検討の結果、「染料と水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを混合した混合物と、有機酸塩及び無機酸塩の少なくとも一方からなる添加物とを混合する前に、該混合物を含む溶液、又は添加物を含む溶液のpHを調整することで、水に難溶又は不溶な凝集物の発生を防止できる」との技術的推論を得るに到ったのである。
【0010】
こうして得られた技術的推論に関して具体的に実験確認を行った結果、この技術的推論、すなわち本発明によれば、インクの製造工程中において、染料と水がない状態で縮重合反応する水溶性物質との相互作用を緩和して、水に難溶又は不溶の凝集物の発生を抑制することができる効果があることを確認したのである。
【0011】
具体的に、本発明では、スルホン基及びカルボキシル基の少なくとも一方の水溶性可溶化基を有する水溶性染料と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質と、水溶性媒体と、有機酸塩及び無機酸塩の少なくとも一方からなる添加物とを含有するインクの製造方法を対象として、上記インク含有物質のうち上記添加物を除く少なくとも上記染料と上記水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを混合する第1混合工程と、上記第1混合工程で混合した混合物と上記添加物とを混合する第2混合工程と、上記第2混合工程の前に、上記混合物を含む溶液、又は添加物を含む溶液を、該溶液のpHが所定範囲内になるようにpH調整剤により調整しながら作製するpH調整工程とを備えたことを特徴とする。
【0012】
すなわち、pH調整工程において、第1混合工程で混合した混合物を含む溶液を、該溶液のpHが所定範囲内になるようにpH調整剤により調整しながら作製し、次いで、第2混合工程において、上記混合物を含む溶液と添加物とを混合するか、又は、pH調整工程において、添加物を含む溶液を、該溶液のpHが所定範囲内になるようにpH調整剤により調整しながら作製し、次いで、第2混合工程において、上記添加物を含む溶液と、第1混合工程で混合した混合物とを混合するようにする。
【0013】
このことにより、染料と水がない状態で縮重合反応する水溶性物質との相互作用を緩和して、水に難溶又は不溶の凝集物の発生を抑制することができる。この結果、インクの製造工程中において凝集は発生せず、効率的にインクを製造することが可能となる。
【0014】
上記水がない状態で縮重合反応する水溶性物質は、加水分解性有機ケイ素化合物若しくはその部分加水分解物とするか、又は、アミノ基を有する加水分解性有機ケイ素化合物若しくはその部分加水分解物とするのが好ましい。すなわち、これらのものは、インクの耐水性を向上させる点で非常に好ましい。
【0015】
また、上記添加物は、カチオンがNH であるアンモニウム塩とすることが好ましい。具体的には、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、シュウ酸二アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム等が挙げられる。
【0016】
さらに、上記水溶性媒体は、水と溶解する有機化合物であるアルコール、エステル、ケトン、グリコール類であり、特にグリセリン等の多価アルコール、2−ピロリドンやN−メチル−2−ピロリドンのような水溶性の窒素複素環化合物、ジエチレングリコールモノブチルエーテルのような多価アルコールモノアルキルエーテル、又は、ジエチレングリコールジメチルエーテルのような多価アルコールジアルキルエーテルであることが望ましい。
【0017】
また、pH調整剤は、その水溶液においてアルカリ性を示す物質、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア及び有機アミンの群から選ばれた少なくとも1種であればよく、中でもアンモニア(又はアンモニア水)が好適である。そして、pH調整工程における溶液のpHの所定範囲は、8以上11以下の範囲であることが望ましい。こうすることで、水に難溶又は不溶の凝集物の発生を確実に抑えることができる。
【0018】
上記インクの製造方法により製造してなるインクが充填されたインクカートリッジを、インクジェット式記録装置のインクジェットヘッドに装着して記録を行うと、このインクジェットヘッドのノズルより吐出されたインク滴が記録媒体上に付着する。すると、水分(凝集安定化剤を含む)が蒸発したり記録媒体内に浸透したりして水溶性物質が縮重合反応をし、この縮重合反応物が染料を取り囲む。また、同時に、インク中に含有されている有機酸塩及び/又は無機酸塩からなる添加物、例えばアンモニウム塩から、アンモニアが揮発し、染料と上記縮重合反応物の相互作用が強くなる。こうして、上記インク滴により形成された記録媒体上の画像が水に濡れても染料が水中に染み出すことが回避され、画像の耐水性が確保される。
【0019】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクを備えたインクジェット式記録装置Aの概略を示し、この記録装置Aは、インクをカートリッジ本体に充填したインクカートリッジ35が上面に装着されかつ該インクを後述の如く記録媒体としての記録紙41に吐出するインクジェットヘッド1を備えている。このインクジェットヘッド1はキャリッジ31に支持固定され、このキャリッジ31には、図示を省略するキャリッジモータが設けられ、このキャリッジモータにより上記インクジェットヘッド1及びキャリッジ31が主走査方向(図1及び図2に示すX方向)に延びるキャリッジ軸32にガイドされてその方向に往復動するようになっている。
【0020】
上記記録紙41は、図示を省略する搬送モータによって回転駆動される2つの搬送ローラ42に挟まれていて、この搬送モータ及び各搬送ローラ42により、上記インクジェットヘッド1の下側において上記主走査方向と垂直な副走査方向(図1及び図2に示すY方向)に搬送されるようになっている。このことで、搬送モータ及び搬送ローラ42は、記録紙41を搬送する搬送手段を構成する。
【0021】
このように、上記キャリッジ31、キャリッジ軸32及びキャリッジモータ、並びに各搬送ローラ42及び搬送モータにより、インクジェットヘッド1と記録紙41とを相対移動させるようにしている。
【0022】
上記インクジェットヘッド1は、図2〜図4に示すように、インクを供給するための供給口3a及びインクを吐出するための吐出口3bを有する複数の圧力室用凹部3が形成されたヘッド本体2を備えている。このヘッド本体2の各凹部3は、該ヘッド本体2の上面に上記主走査方向に延びるように開口されていて、互いに上記副走査方向に略等間隔をあけた状態で並設されている。上記各凹部3の開口の全長は約1250μmに、幅は約130μmにそれぞれ設定されている。尚、上記各凹部3の開口の両端部は、略半円形状をなしている。
【0023】
上記ヘッド本体2の各凹部3の側壁部は、約200μm厚の感光性ガラス製の圧力室部品6で構成され、各凹部3の底壁部は、この圧力室部品6の下面に接着固定されかつ6枚のステンレス鋼薄板を積層してなるインク流路部品7で構成されている。このインク流路部品7内には、上記各凹部3の供給口3aとそれぞれ接続された複数のオリフィス71と、この各オリフィス71と接続されかつ上記副走査方向に延びる1つの供給用インク流路11と、上記吐出口3bとそれぞれ接続された複数の吐出用インク流路12とが形成されている。
【0024】
上記各オリフィス71は、インク流路部品7において板厚が他よりも小さい上から2番目のステンレス鋼薄板に形成されており、その径は約38μmに設定されている。また、上記供給用インク流路11は上記インクカートリッジ35と接続されており、このインクカートリッジ35より供給用インク流路11内にインクが供給されるようになっている。
【0025】
上記インク流路部品7の下面には、インク滴を上記記録紙41に向けて吐出するための複数のノズル14が形成されたステンレス鋼からなるノズル板8が接着固定されている。このノズル板8の下面は、撥水膜8aで被覆されている。上記各ノズル14は、上記吐出用インク流路12とそれぞれ接続されていて、この吐出用インク流路12を介して上記各凹部3の吐出口3bにそれぞれ連通されており、インクジェットヘッド1の下面において、上記副走査方向に列状に並ぶように設けられている。尚、上記各ノズル14は、ノズル径がノズル先端側に向かって小さくなるテーパ部と、該テーパ部のノズル先端側に連続して設けられたストレート部とからなり、このストレート部のノズル径は約20μmに設定されている。
【0026】
上記ヘッド本体2の各凹部3の上側には、圧電アクチュエータ21がそれぞれ設けられている。この各圧電アクチュエータ21は、上記ヘッド本体2の上面に接着固定された状態で該ヘッド本体2の各凹部3を塞いで該凹部3と共に圧力室4を構成するCr製振動板22を有している。この振動板22は、全ての圧電アクチュエータ21に共通の1つのものからなっていて、後述の全圧電素子23に共通の共通電極としての役割をも果たしている。
【0027】
また、上記各圧電アクチュエータ21は、上記振動板22の上記圧力室4と反対側面(上面)において圧力室4に対応する部分(凹部3開口に対向する部分)にCu製の中間層25を介してそれぞれ設けられかつチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電素子23と、この各圧電素子23の上記振動板22と反対側面(上面)にそれぞれ接合され、該振動板22と共に各圧電素子23に電圧(駆動電圧)をそれぞれ印加するためのPt製個別電極24とを有している。
【0028】
上記振動板22,各圧電素子23、各個別電極24及び各中間層25は、全て薄膜で形成されてなっており、振動板22の厚みは約6μmに、各圧電素子23の厚みは8μm以下(例えば約3μm)に、各個別電極24の厚みは約0.2μmに、各中間層25の厚みは約3μmにそれぞれ設定されている。
【0029】
上記各圧電アクチュエータ21は、その振動板22と各個別電極24とを介して各圧電素子23に駆動電圧を印加することにより該振動板22の圧力室4に対応する部分(凹部3開口部分)を変形させることで、該圧力室4内のインクを吐出口3bないしノズル14から吐出させるようになっている。すなわち、振動板22と個別電極24との間にパルス状の電圧を印加すると、そのパルス電圧の立ち上がりにより圧電素子23が圧電効果によりその厚み方向と垂直な幅方向に収縮するのに対し、振動板22、個別電極24及び中間層25は収縮しないので、いわゆるバイメタル効果により振動板22の圧力室4に対応する部分が圧力室4側へ凸状に撓んで変形する。この撓み変形により圧力室4内の圧力が高まり、この圧力で圧力室4内のインクが吐出口3b及び吐出用インク流路12を経由してノズル14から押し出される。そして、上記パルス電圧の立ち下がりにより圧電素子23が伸長して振動板22の圧力室4に対応する部分が元の状態に復帰し、このとき、上記ノズル14から押し出されていたインクがインク流路12内のインクから引きちぎられて、インク滴(例えば3pl)として記録紙41へ吐出され、該記録紙41面にドット状に付着することとなる。また、上記振動板22が凸状に撓んで変形した状態から元の状態に復帰する際に、圧力室4内には上記インクカートリッジ35より供給用インク流路11及び供給口3aを介してインクが充填される。尚、各圧電素子23に印加するパルス電圧としては、上記のように押し引きタイプのものでなくても、第1の電圧から該第1の電圧よりも低い第2の電圧まで立ち下がった後に上記第1の電圧まで立ち上がる引き押しタイプのものであってもよい。
【0030】
上記各圧電素子23への駆動電圧の印加は、インクジェットヘッド1及びキャリッジ31を主走査方向において記録紙41の一端から他端まで略一定速度で移動させているときに所定時間(例えば50μs程度:駆動周波数20kHz)毎に行われ(但し、インクジェットヘッド1が記録紙41におけるインク滴を着弾させない箇所に達したときには電圧が印加されない)、このことで、記録紙41の所定位置にインク滴を着弾させる。そして、1走査分の記録が終了すると、搬送モータ及び各搬送ローラ42により記録紙41を副走査方向に所定量搬送し、再度、インクジェットヘッド1及びキャリッジ31を主走査方向に移動させながらインク滴を吐出させて、新たな1走査分の記録を行う。この動作を繰り返すことによって、記録紙41全体に所望の画像が形成される。
【0031】
上記記録装置Aに用いるインクは、スルホン基及びカルボキシル基の少なくとも一方の水溶性可溶化基を有する水溶性染料と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質と、水溶性媒体と、有機酸塩及び無機酸塩の少なくとも一方からなる添加物とを含有している。
【0032】
上記水がない状態で縮重合反応する水溶性物質は、上記インクジェットヘッド1のノズル14から吐出されたインク滴が記録紙41上に付着して、水分(溶媒)が蒸発したり記録紙41内に浸透したりしたときに上記記録紙41上で縮重合反応をし、このときに上記染料を取り囲むことにより、記録紙41上の画像が水に濡れても、染料がその水中に染み出すのを防止して、その画像の耐水性を向上させる働きをするものであって、加水分解性有機ケイ素化合物(加水分解性シラン化合物)若しくはその部分加水分解物とするか、又は、アミノ基を有する加水分解性有機ケイ素化合物(加水分解性アミノシラン化合物)若しくはその部分加水分解物とするのが好ましい。
【0033】
上記有機ケイ素化合物としては、アミノ基を有する有機基を含有するアルコキシシランとアミノ基を含有しないアルコキシシランとの加水分解反応物、又はアミノ基を含有する加水分解性シランに有機モノエポキシ化合物を反応させた加水分解性シランと窒素原子を含有しない加水分解性シランとを加水分解することにより得られる有機ケイ素化合物が好ましい。
【0034】
また、上記水溶性媒体は、水と溶解する有機化合物であるアルコール、エステル、ケトン、グリコール類であり、特にグリセリン等の多価アルコール、2−ピロリドンやN−メチル−2−ピロリドンのような水溶性の窒素複素環化合物、ジエチレングリコールモノブチルエーテルのような多価アルコールモノアルキルエーテル、又は、ジエチレングリコールジメチルエーテルのような多価アルコールジアルキルエーテルであることが望ましい。
【0035】
さらに、上記添加物は、カチオンがNH であるアンモニウム塩が好ましい。具体的には、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、シュウ酸二アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム等が挙げられる。
【0036】
ここで、上記インクの製造方法について2つの方法(第1及び第2製造方法)を説明する。
【0037】
第1製造方法では、最初に、反応容器内で、上記染料と上記水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを混合する(第1混合工程)。尚、水及び水溶性媒体については、この工程で混合しなくてもよく、トータル含有量の一部だけ又は全部を混合してもよい。トータル含有量の一部だけ混合する場合又は全く混合しない場合には、以下の工程で適宜混合して、最終的にトータル含有量となるようにする(後述の第2製造方法においても同様)。
【0038】
その後、上記第1混合工程で混合した混合物を含む溶液を、該溶液のpHが所定範囲内になるようにpH調整剤により調整しながら作製する(pH調整工程)。このpH調整剤は、アルカリ性を示す物質、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア及び有機アミンの群から選ばれた少なくとも1種であればよく、中でもアンモニア(又はアンモニア水)が好適である。そして、このようなpH調整剤により、上記混合物を含む溶液のpHを、8以上11以下の範囲内に調整することが望ましい(より好ましいのは、9以上10以下の範囲内)。
【0039】
次いで、上記混合物を含む溶液にアンモニウム塩等の添加物を加えて、該混合物と添加物とを混合することで(第2混合工程)、インクが完成する。
【0040】
第2製造方法では、最初に、反応容器内に添加物を入れて、該添加物を含む溶液を、該溶液のpHが所定範囲内になるように、上記と同様のpH調整剤により調整しながら作製する(pH調整工程)。このときのpHの所定範囲も、上記第1製造方法と同様に、8以上11以下の範囲であることが好ましい(より好ましいのは、9以上10以下の範囲)。尚、この第2製造方法では、pH調整工程において、トータル含有量の一部の水を添加物と共に反応容器内に入れるのがよい。
【0041】
一方、上記第1製造方法と同様に、別の反応容器内で、染料と水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを混合する(第1混合工程)。尚、この工程は、pH調整工程の前に行ってもよく、後で行ってもよい。
【0042】
次いで、上記添加物を含む溶液と上記第1混合工程で混合した混合物とを混合することで(第2混合工程)、インクが完成する。
【0043】
要するに、第1及び第2製造方法のいずれであっても、第2混合工程の前に、染料と水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを混合した混合物を含む溶液、又は添加物を含む溶液を、該溶液のpHが所定範囲内になるようにpH調整剤により調整しながら作製するpH調整工程を設ける。このようにしてインクを製造すると、染料と水がない状態で縮重合反応する水溶性物質との相互作用を緩和して、各工程において、水に難溶又は不溶な凝集物の発生が抑制される。この結果、フィルターで固形分を濾過する場合でも、その濾過をスムーズに行うことができる。また、pH調整を行うことによって、長期的にも保存安定性を有する耐水インクを製造することができる。
【0044】
一方、上記第1及び第2製造方法以外の方法でインクを製造した場合には、水に難溶又は不溶な凝集物が発生する。例えば、最初に、水がない状態で縮重合反応する物質としての、アミノ基を含有する加水分解性シラン及びその部分加水分解物と、添加物としてのアンモニウム塩とを混合した場合には、アンモニアが急速に揮発してpHが低下する。そこに染料を加えると、染料とアミノシラン化合物の相互作用が強すぎるために凝集が発生してしまう。
【0045】
【実施例】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0046】
以下に詳細に示すように、上記実施形態で説明した第1製造方法と同様にして実施例1に係るインクを製造するとともに、第2製造方法と同様にして実施例2に係るインクを製造した。また、比較のために、これらとは製造方法を異ならせて比較例1,2に係るインクを製造した。
【0047】
上記実施例1,2及び比較例1,2においては、染料として、酸性染料Acid Red 289(ダイワ化成社製)を含有させた。また、水溶性媒体として、グリセリン及びジエチレングリコールモノブチルエーテルを含有させた。さらに、水がない状態で縮重合反応する水溶性物質として、有機ケイ素化合物を含有させた。さらにまた、添加物として、リン酸水素二アンモニウムを含有させた。
【0048】
上記有機ケイ素化合物は、0.2モルのHNCHCHHNCHCHCHSi(OCHと0.1モルのSi(OCHとを、上記特許文献1に記載の方法により合成して得られた化合物である。
【0049】
(実施例1)
最初に、反応容器内に、3重量部の染料と、5重量部の有機ケイ素化合物と、10重量部のグリセリンと、10重量部のジエチレングリコールモノブチルエーテルと、69重量部の水とを入れて攪拌し混合した(第1混合工程)。
【0050】
その後、上記第1混合工程で混合した混合物にアンモニア水(pH調整剤)を加えて、該混合物を含む溶液を作製した。このとき、この溶液のpHが9以上10以下の範囲内になるように上記アンモニア水により調整した(pH調整工程)。
【0051】
次いで、上記混合物を含む溶液に、3重量部の添加物を加えて、該混合物と添加物とを混合して(第2混合工程)、実施例1に係るインクを完成させた。
【0052】
(実施例2)
反応容器内に、3重量部の添加物と、30重量部の水とを入れて攪拌した後、アンモニア水を加えて、該添加物を含む溶液を、該溶液のpHが9以上10以下の範囲内になるように上記アンモニア水により調整しながら作製した(pH調整工程)。
【0053】
一方、別の反応容器内に、3重量部の染料と、5重量部の有機ケイ素化合物と、10重量部のグリセリンと、10重量部のジエチレングリコールモノブチルエーテルと、39重量部の水とを入れて攪拌し混合した(第1混合工程)。
【0054】
次いで、上記添加物を含む溶液と上記第1混合工程で混合した混合物とを混合することで(第2混合工程)、実施例2に係るインクを完成させた。
【0055】
(比較例1)
上記実施例1と同様に、反応容器内に、3重量部の染料と、5重量部の有機ケイ素化合物と、10重量部のグリセリンと、10重量部のジエチレングリコールモノブチルエーテルと、69重量部の水とを入れて攪拌し混合した後、実施例1とは異なり、pH調整工程を経ないで、その混合物に3重量部の添加物を加え、その後、該反応容器内の溶液のpHをアンモニア水により9以上10以下の範囲内に調整することで、比較例1に係るインクを完成させた。
【0056】
(比較例2)
反応容器内に、5重量部の有機ケイ素化合物と、30重量部の水とを入れ、その後、3重量部の添加物を加えて攪拌し混合した。次いで、その反応容器内に、3重量部の染料と、10重量部のグリセリンと、10重量部のジエチレングリコールモノブチルエーテルと、39重量部の水とを入れ、しかる後、該反応容器内の溶液のpHをアンモニア水により9以上10以下の範囲内に調整することで、比較例2に係るインクを完成させた。
【0057】
上記実施例1,2及び比較例1,2の各インクについて、凝集の発生の有無を確認した。この凝集発生の有無の確認方法は、先ず目視によりインク中における凝集発生の有無を確認し、更に詳細な判断を必要とする場合には、上記インクを0.45μmの孔径を有するフィルターに通すことにより、凝集の発生の有無を確認した。この凝集発生の有無の結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
Figure 2004307609
【0059】
この結果から、比較例1,2の各インクでは、いずれも工程途中で(比較例1では添加物の添加後に、比較例2では染料の添加後に)目視により凝集物の発生が確認された。これに対し、実施例1,2の各インクでは、工程途中及び工程終了後も目視による確認及びフィルターでの確認によっても、凝集物の発生が認められなかった。
【0060】
次に、上記実施例1,2及び比較例1,2の各インクについて、保存安定性試験を行った。この保存安定性試験では、各インクをスクリュー管瓶に満たして密閉系とし、70℃で500時間放置した後、先ず目視によりインク中における凝集発生の有無を確認した。更に詳細な判断を必要とする場合には、上記インクを0.45μmの孔径を有するフィルターに通すことにより、凝集の発生の有無を確認した。
【0061】
この保存安定性試験の結果も上記表1に示す。尚、表1中、「−」は実験不可を示している。つまり、比較例1,2のものは、製造時に既に凝集が発生しているので、試験を行うことができない(後述の耐水性試験の結果も同じ)。
【0062】
この結果から、実施例1,2の各インクでは、目視による確認及びフィルターでの確認によっても、凝集物の発生は認められなかった。
【0063】
次に、上記実施例1,2及び比較例1,2の各インクについて、耐水性試験を行った。この耐水性試験は、上記各インクを用いて、市販のプリンター(上記実施形態と同様の圧電アクチュエータによりインクを吐出させるもの。但し、圧電素子の厚みは上記実施形態のものよりもかなり大きい。)で普通紙(商品名「Xerox4024」:ゼロックス社製)に画像を形成し、この画像を形成した直後の用紙を純水に浸漬した後、室温で放置して乾燥させ、画像のにじみが生じるか否かを調べた。
【0064】
この耐水性試験の結果も上記表1に示す、この結果から、実施例1〜2では、画像のにじみが生じておらず、良好な耐水性が得られた。
【0065】
尚、実施例としては示していないが、上記各実施例1,2において、染料(Acid Red 289)を、他の染料(スルホン基及びカルボキシル基の少なくとも一方の水溶性可溶化基を有する水溶性染料(酸性染料又は直接染料))に換えた各インクにおいても、上記各実施例1,2と同様の結果になることが確認できた。
【0066】
したがって、スルホン基及びカルボキシル基の少なくとも一方の水溶性可溶化基を有する水溶性染料と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質と、水溶性媒体と、有機酸塩及び無機酸塩の少なくとも一方からなる添加物とを含有するインクの製造方法として、上記染料と上記水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを混合した混合物と、上記添加物とを混合する前に、該混合物を含む溶液、又は添加物を含む溶液のpHを調整することで、染料と水がない状態で縮重合反応する水溶性物質との相互作用を緩和し、製造工程途中及び工程終了後に、水に難溶又は不溶の凝集物の発生を抑制することができ、インクを効率的に製造できることが判る。また、このような製造方法により製造してなるインクは、耐水性を確保しながら保存安定性をも向上させ得ることが判る。
【0067】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によると、スルホン基及びカルボキシル基の少なくとも一方の水溶性可溶化基を有する水溶性染料と、水と、上記水溶性物質と、水溶性媒体と、有機酸塩及び無機酸塩の少なくとも一方からなる添加物とを含有するインクの製造方法として、上記インク含有物質のうち上記添加物を除く少なくとも上記染料と上記水溶性物質とを混合する第1混合工程と、この第1混合工程で混合した混合物と上記添加物とを混合する第2混合工程と、この第2混合工程の前に、上記混合物を含む溶液、又は添加物を含む溶液を、該溶液のpHが所定範囲内になるようにpH調整剤により調整しながら作製するpH調整工程とを備えたことにより、インクの製造工程中に、水に難溶又は不溶の凝集物の発生を抑制して、耐水インクを効率的に製造することができるとともに、長期に亘っても、そのような凝集物が発生しない良好な保存安定性が得られる。
【0068】
また、本発明のインクカートリッジ及びインクジェット式記録装置によると、上記製造方法により製造してなるインクを用いることにより、記録画像の良好な耐水性が得られるとともに、良好な保存安定性により、長期に亘ってインクの吐出不良の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るインクを用いたインクジェット式記録装置を示す概略斜視図である。
【図2】インクジェット式記録装置のインクジェットヘッドの部分底面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【符号の説明】
A インクジェット式記録装置
1 インクジェットヘッド
14 ノズル
21 圧電アクチュエータ
23 圧電素子
35 インクカートリッジ
41 記録紙(記録媒体)

Claims (11)

  1. スルホン基及びカルボキシル基の少なくとも一方の水溶性可溶化基を有する水溶性染料と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質と、水溶性媒体と、有機酸塩及び無機酸塩の少なくとも一方からなる添加物とを含有するインクの製造方法であって、
    上記インク含有物質のうち上記添加物を除く少なくとも上記染料と上記水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを混合する第1混合工程と、
    上記第1混合工程で混合した混合物と上記添加物とを混合する第2混合工程と、
    上記第2混合工程の前に、上記混合物を含む溶液、又は添加物を含む溶液を、該溶液のpHが所定範囲内になるようにpH調整剤により調整しながら作製するpH調整工程とを備えたことを特徴とするインクの製造方法。
  2. pH調整工程において、第1混合工程で混合した混合物を含む溶液を、該溶液のpHが所定範囲内になるようにpH調整剤により調整しながら作製し、
    次いで、第2混合工程において、上記混合物を含む溶液と添加物とを混合することを特徴とする請求項1記載のインクの製造方法。
  3. pH調整工程において、添加物を含む溶液を、該溶液のpHが所定範囲内になるようにpH調整剤により調整しながら作製し、
    次いで、第2混合工程において、上記添加物を含む溶液と、第1混合工程で混合した混合物とを混合することを特徴とする請求項1記載のインクの製造方法。
  4. 水がない状態で縮重合反応する水溶性物質は、加水分解性有機ケイ素化合物又はその部分加水分解物であることを特徴とする請求項1記載のインクの製造方法。
  5. 水がない状態で縮重合反応する水溶性物質は、アミノ基を有する加水分解性有機ケイ素化合物又はその部分加水分解物であることを特徴とする請求項1記載のインクの製造方法。
  6. 添加物のカチオンがNH であることを特徴とする請求項1記載のインクの製造方法。
  7. pH調整剤は、アルカリ性を示す物質であることを特徴とする請求項1記載のインクの製造方法。
  8. アルカリ性を示す物質は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア及び有機アミンの群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項7記載のインクの製造方法。
  9. pH調整工程における溶液のpHの所定範囲は、8以上11以下の範囲であることを特徴とする請求項1記載のインクの製造方法。
  10. インクジェット式記録装置に用いられるインクカートリッジであって、
    カートリッジ本体と、
    請求項1〜9のいずれか1つに記載のインクの製造方法により製造してなり、上記カートリッジ本体に充填されたインクとを備えていることを特徴とするインクカートリッジ。
  11. 請求項10記載のインクカートリッジと、
    上記インクカートリッジが装着され、該インクカートリッジのカートリッジ本体に充填されたインクを記録媒体に吐出して画像記録を行うインクジェットヘッドと、
    上記記録媒体を搬送する搬送手段とを備えていることを特徴とするインクジェット式記録装置。
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