JP2004175910A - インクジェット記録用インク並びに該インクを備えたカートリッジ及び記録装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】染料を、酸性染料又は直接染料とし、水がない状態で縮重合反応する水溶性物質を、強塩基性基を有する加水分解性シラン化合物(例えば1−アザ−4−トリメトキシシリル−ビシクロ[2,2,2]オクタン)とする。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録に好適なインクジェット記録用インク並びに該インクを備えたカートリッジ及び記録装置に関する技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、インクジェット記録に用いられるインクとしては、染料と、保湿剤と、水とを含有したものはよく知られている。ところが、上記染料を含有したインクにより記録紙等の記録媒体上に画像を形成すると、その画像の耐水性が問題となる。特に普通紙(広範な市販の紙で、とりわけ電子写真方式の複写機に用いられる紙であって、インクジェット記録用として最適な構造、組成、特性等を有するように意図して製造されてはいない紙)に記録した場合には、耐水性が非常に悪くなる。
【0003】
そこで、従来、例えば特許文献1〜4に示されているように、加水分解性シラン化合物(有機ケイ素化合物)を含有させることにより、記録媒体上の画像の耐水性を向上させるようにすることが提案されている。すなわち、インク滴が記録媒体上に付着してそのインク滴中の水が蒸発したり記録媒体内に浸透したりしたときに、上記シラン化合物が縮重合反応し、この縮重合反応したシラン化合物が染料を取り囲むため、記録媒体上の画像が水に濡れても、染料がその水中に染み出すことが抑制されて、その画像の耐水性が向上する。
【0004】
【特許文献1】
特開平10−212439号公報
【特許文献2】
特開平11−293167号公報
【特許文献3】
特開平11−315231号公報
【特許文献4】
特開2000−178494号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記シラン化合物による染料の取り囲みは、常に確実に行われるとは限らず、記録媒体上の画像が水に濡れたときに、その取り囲みが不完全な箇所から染料が抜け出る場合がある。特に、酸性染料や直接染料は水に対する溶解性がかなり高いため、染料の取り囲みが不完全な箇所から水中に染み出し易い(とりわけマジェンタ染料で顕著である)。また、シラン化合物と染料との組み合わせによっては、これら互いの相互作用がかなり弱い場合があり、このような場合に染料が抜け出し易くなると考えられる。
【0006】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、インクジェット記録用インクに、上記加水分解性シラン化合物のような、水がない状態で縮重合反応する水溶性物質を含有させて、そのインクで記録した画像の耐水性を向上させる場合に、その水溶性物質による染料の取り囲みが不完全な箇所から染料が抜け出るのを出来る限り防止して、画像の耐水性を確実に向上させようとすることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明では、酸性染料又は直接染料と、保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するインクジェット記録用インクを対象として、上記水溶性物質を、強塩基性基を有する加水分解性シラン化合物とした。
【0008】
このことにより、染料と水溶性物質とが強いイオン結合により結合されるので、水溶性物質による染料の取り囲みが不完全であっても、染料は水溶性物質との結合によりその不完全な箇所から抜け出ることはなく、よって、画像の耐水性を確実に向上させることができる。尚、強塩基性基は、水に溶かしたときにpHが12以上になるものをいう。
【0009】
請求項2の発明では、染料と、保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するインクジェット記録用インクを対象として、上記染料は、酸アミド化された少なくとも1つの酸性基を有しているものとする。
【0010】
この発明により、染料を水に溶け易くする酸性基が酸アミド化されることで、その溶解性が低下する。この結果、水溶性物質による染料の取り囲みが不完全であっても、その取り囲みが不完全な箇所から染料が水に染み出し難くなり、請求項1の発明と同様に、画像の耐水性を確実に向上させることができる。
【0011】
請求項3の発明では、請求項2の発明において、水溶性物質は、加水分解性シラン化合物であるものとする。
【0012】
こうすることで、画像の耐水性を向上させる点で非常に好ましい水溶性物質が得られる。
【0013】
請求項4の発明では、請求項1〜3のいずれか1つの発明において、インクジェット記録用インクは、さらに浸透剤を含有するものとする。
【0014】
このことで、インク滴が記録媒体上に付着したときに、該記録媒体内への水の浸透がより速やかに行われ、この結果、水溶性物質の縮重合反応がより一層良好に行われる。よって、画像の耐水性をさらに向上させることができる。
【0015】
請求項5の発明は、酸性染料又は直接染料と、保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するインクジェット記録用インクを備えたカートリッジであり、この発明では、上記インクの水溶性物質は、強塩基性基を有する加水分解性シラン化合物であるものとする。この発明により、請求項1の発明と同様の作用効果が得られる。
【0016】
請求項6の発明では、染料と、保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するインクジェット記録用インクを備えたカートリッジを対象として、上記インクの染料は、酸アミド化された少なくとも1つの酸性基を有しているものとする。このことにより、請求項2の発明と同様の作用効果が得られる。
【0017】
請求項7の発明では、請求項5又は6の発明において、インクは、さらに浸透剤を含有するものとする。このことで、請求項4の発明と同様の作用効果を得ることができる。
【0018】
請求項8の発明は、酸性染料又は直接染料と、保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するインクジェット記録用インクを備え、該インクを記録媒体に吐出して記録を行う記録装置の発明であり、この発明では、上記インクの水溶性物質は、強塩基性基を有する加水分解性シラン化合物であるものとする。この発明により、請求項1の発明と同様の作用効果を得ることができる。
【0019】
請求項9の発明では、染料と、保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するインクジェット記録用インクを備え、該インクを記録媒体に吐出して記録を行う記録装置を対象として、上記インクの染料は、酸アミド化された少なくとも1つの酸性基を有しているものとする。このことで、請求項2の発明と同様の作用効果が得られる。
【0020】
請求項10の発明では、請求項8又は9の発明において、インクは、さらに浸透剤を含有するものとする。こうすることで、請求項4の発明と同様の作用効果が得られる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクを備えたインクジェット式記録装置Aを概略的に示し、この記録装置Aは、上面に上記インクを有するインクカートリッジ35が装着されかつ該インクを後述の如く記録媒体としての記録紙41に吐出するインクジェットヘッド1を備えている。このインクジェットヘッド1はキャリッジ31に支持固定され、このキャリッジ31には、図示を省略するキャリッジモータが設けられ、このキャリッジモータにより上記インクジェットヘッド1及びキャリッジ31が主走査方向(図1及び図2に示すX方向)に延びるキャリッジ軸32にガイドされてその方向に往復動するようになっている。このキャリッジ31、キャリッジ軸32及びキャリッジモータにより、インクジェットヘッド1と記録紙41とを主走査方向に相対移動させる相対移動手段が構成されている。
【0022】
上記インクカートリッジ35は、容器内に上記インクが収容されたものであって、インクジェットヘッド1に対して着脱可能に構成されており、容器内のインクがなくなったときに、新しいものと交換することが可能になっている。
【0023】
上記記録紙41は、図示を省略する搬送モータによって回転駆動される2つの搬送ローラ42に挟まれていて、この搬送モータ及び各搬送ローラ42により、上記インクジェットヘッド1の下側において上記主走査方向と垂直な副走査方向(図1及び図2に示すY方向)に搬送されるようになっている。この搬送モータ及び各搬送ローラ42により、インクジェットヘッド1と記録紙41とを副走査方向に相対移動させる相対移動手段が構成されている。
【0024】
上記インクジェットヘッド1は、図2〜図4に示すように、インクを供給するための供給口3a及びインクを吐出するための吐出口3bを有する複数の圧力室用凹部3が形成されたヘッド本体2を備えている。このヘッド本体2の各凹部3は、該ヘッド本体2の上面に上記主走査方向に延びるように開口されていて、互いに上記副走査方向に略等間隔をあけた状態で並設されている。上記各凹部3開口の全長は約1250μmに、幅は約130μmにそれぞれ設定されている。尚、上記各凹部3の開口の両端部は、略半円形状をなしている。
【0025】
上記ヘッド本体2の各凹部3の側壁部は、約200μm厚の感光性ガラス製の圧力室部品6で構成され、各凹部3の底壁部は、この圧力室部品6の下面に接着固定されかつ6枚のステンレス鋼薄板を積層してなるインク流路部品7で構成されている。このインク流路部品7内には、上記各凹部3の供給口3aとそれぞれ接続された複数のオリフィス8と、この各オリフィス8と接続されかつ上記副走査方向に延びる1つの供給用インク流路11と、上記吐出口3bとそれぞれ接続された複数の吐出用インク流路12とが形成されている。
【0026】
上記各オリフィス8は、インク流路部品7において板厚が他よりも小さい上から2番目のステンレス鋼薄板に形成されており、その径は約38μmに設定されている。また、上記供給用インク流路11は上記インクカートリッジ35と接続されており、このインクカートリッジ35より供給用インク流路11内にインクが供給されるようになっている。
【0027】
上記インク流路部品7の下面には、インク滴を上記記録紙41に向けて吐出するための複数のノズル14が形成されたステンレス鋼製のノズル板9が接着固定されている。このノズル板9の下面は、撥水膜9aで被覆されている。上記各ノズル14は、上記吐出用インク流路12とそれぞれ接続されていて、この吐出用インク流路12を介して上記各凹部3の吐出口3bにそれぞれ連通されており、インクジェットヘッド1の下面において、上記副走査方向に列状に並ぶように設けられている。尚、上記各ノズル14は、ノズル径がノズル先端側に向かって小さくなるテーパ部と、該テーパ部のノズル先端側に設けられたストレート部とからなり、このストレート部のノズル径は約20μmに設定されている。
【0028】
上記ヘッド本体2の各凹部3の上側には、圧電アクチュエータ21がそれぞれ設けられている。この各圧電アクチュエータ21は、上記ヘッド本体2の上面に接着固定された状態で該ヘッド本体2の各凹部3を塞いで該凹部3と共に圧力室4を構成するCr製振動板22を有している。この振動板22は、全ての圧電アクチュエータ21に共通の1つのものからなっていて、後述の全圧電素子23に共通の共通電極としての役割をも果たしている。
【0029】
また、上記各圧電アクチュエータ21は、上記振動板22の上記圧力室4と反対側面(上面)において圧力室4に対応する部分(凹部3開口に対向する部分)にCu製の中間層25を介してそれぞれ設けられかつチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電素子23と、この各圧電素子23の上記振動板22と反対側面(上面)にそれぞれ設けられ、該振動板22と共に各圧電素子23に電圧(駆動電圧)をそれぞれ印加するためのPt製個別電極24とを有している。
【0030】
上記振動板22、各圧電素子23、各個別電極24及び各中間層25は、全て薄膜で形成されたものであり、振動板22の厚みは約6μmに、各圧電素子23の厚みは8μm以下(例えば約3μm)に、各個別電極24の厚みは約0.2μmに、各中間層25の厚みは約3μmにそれぞれ設定されている。
【0031】
上記各圧電アクチュエータ21は、その振動板22ないし各中間層25と各個別電極24とを介して各圧電素子23に駆動電圧を印加することにより該振動板22の圧力室4に対応する部分を変形させることで、該圧力室4内のインクを吐出口3bないしノズル14から吐出させるようになっている。すなわち、振動板22と個別電極24との間にパルス状の電圧を印加すると、そのパルス電圧の立ち上がりにより圧電素子23が圧電効果によりその厚み方向と垂直な幅方向に収縮するのに対し、振動板22、個別電極24及び中間層25は収縮しないので、いわゆるバイメタル効果により振動板22の圧力室4に対応する部分が圧力室4側へ凸状に撓んで変形する。この撓み変形により圧力室4内に圧力が生じ、この圧力で圧力室4内のインクが吐出口3b及び吐出用インク流路12を経由してノズル14よりインク滴として記録紙41へ吐出されて、該記録紙41上にドット状に付着することとなる。そして、上記パルス電圧の立ち下がりにより圧電素子23が伸長して振動板22の圧力室4に対応する部分が元の状態に復帰し、このとき、圧力室4内には上記インクカートリッジ35より供給用インク流路11及び供給口3aを介してインクが充填される。尚、各圧電素子23に印加するパルス電圧としては、上記のように押し引きタイプのものでなくても、第1の電圧から該第1の電圧よりも低い第2の電圧まで立ち下がった後に上記第1の電圧まで立ち上がる引き押しタイプのものであってもよい。
【0032】
上記各圧電素子23への駆動電圧の印加は、インクジェットヘッド1及びキャリッジ31を主走査方向において記録紙41の一端から他端まで略一定速度で移動させているときに所定時間(例えば50μs程度:駆動周波数20kHz)毎に行われ(但し、インクジェットヘッド1が記録紙41においてインク滴を着弾させない箇所に達したときには電圧が印加されない)、このことで、記録紙41の所定位置にインク滴を着弾させる。そして、1走査分の記録が終了すると、搬送モータ及び各搬送ローラ42により記録紙41を副走査方向に所定量搬送し、再度、インクジェットヘッド1及びキャリッジ31を主走査方向に移動させながらインク滴を吐出させて、新たな1走査分の記録を行う。この動作を繰り返すことによって、記録紙41全体に所望の画像が形成される。
【0033】
次に、上記記録装置Aに用いるインクについて、以下の実施形態1と実施形態2とにおいて詳細に説明する。
【0034】
(実施形態1)
本実施形態1に係るインクは、染料と、上記インクジェットヘッド1のノズル14等での乾きを抑制する保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有している。上記染料は、この実施形態1では、酸性染料又は直接染料とする。
【0035】
上記水溶性物質は、上記インクジェットヘッド1のノズル14から吐出されたインク滴が記録紙41上に付着してそのインク滴中の水が蒸発したり記録紙41内に浸透したりしたときに縮重合反応し、このときに染料を取り囲むことにより、記録紙41上の画像が水に濡れても、染料がその水中に染み出すのを防止して、その画像の耐水性を向上させる働きをするものであり、この実施形態1では、水溶性物質として、強塩基性基を有する加水分解性シラン化合物を用いる。尚、強塩基性基は、水に溶かしたときにpHが12以上になるものをいう。
【0036】
上記強塩基性基を有する加水分解性シラン化合物の例としては、1−アザ−4−トリメトキシシリル−ビシクロ[2,2,2]オクタン(化学式1参照)、1−アザ−3−トリメトキシシリル−ビシクロ[2,2,2]オクタン(化学式2参照)、1−アザ−2−トリメトキシシリル−ビシクロ[2,2,2]オクタン(化学式3参照)、1,4−ジアザ−2−トリメトキシシリル−ビシクロ[2,2,2]オクタン(化学式4参照)、又はこれら化学式1〜4のアルキル誘導体若しくはフェニル誘導体等が挙げられる。
【0037】
【化1】
【0038】
【化2】
【0039】
【化3】
【0040】
【化4】
【0041】
上記保湿剤は、グリセリン等の多価アルコール又は2−ピロリドンやN−メチル−2−ピロリドンのような水溶性の窒素複素環化合物であることが望ましい。
【0042】
上記インクには、該インク(水等の溶媒)の記録紙41への浸透性を高める浸透剤をさらに含有させることが望ましい。この浸透剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のような、多価アルコールのモノアルキルエーテルであることが好ましく、その含有量は、インク全体に対して、質量百分率で1〜50%であることが好ましい。これは、1%よりも少ないと、後述の如くインクの25℃における表面張力が50mN/m以下にならずにインクを記録紙41へ浸透させる効果が十分に得られない一方、50%よりも多いと、染料及びシラン化合物の水に対する溶解性が悪化するからである。
【0043】
上記のように浸透剤を含有させる場合には、浸透剤の含有量の調整によって、インクの25℃における表面張力を20〜50mN/mに設定することが望ましい。これは、表面張力が20mN/mよりも小さいと、インクをノズル14から吐出する際に液滴状に形成し難くなる一方、50mN/mよりも大きいと、インクが記録紙41へ浸透し難くなるからである。尚、表面張力を20mN/m程度にするには、浸透剤を含有させることだけでは実現できない場合が考えられるが、この場合は、浸透剤の補助剤としてフッ素系界面活性剤を添加してもよい。このフッ素系界面活性剤は、例えばパーフルオロアルキルスルホン酸のアンモニウム塩、パーフルオロアルキルスルホン酸のカリウム塩、又はパーフルオロアルキルカルボン酸のカリウム塩等とするのが好ましい。
【0044】
上記のように、本実施形態1に係るインクは、染料と、保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するので、インク滴が記録紙41上に付着してそのインク滴中の水が蒸発したり記録紙41内に浸透したりしたときに、上記水溶性物質が縮重合反応し、この縮重合反応した水溶性物質が染料を取り囲む。この結果、記録紙41上の画像が水に濡れても、染料がその水中に染み出すことはなく、その画像の耐水性が向上する。一方、上記水溶性物質による染料の取り囲みは、常に確実に行われるとは限らず、その取り囲みが不完全な箇所から染料(特にマジェンタ染料)が抜け出る場合があり、そのままでは耐水性向上効果が十分に得られない。
【0045】
しかし、本実施形態1では、染料を酸性染料又は直接染料とし、水溶性物質を強塩基性基を有する加水分解性シラン化合物としたので、染料と水溶性物質とが強いイオン結合により結合され、このことにより、水溶性物質による染料の取り囲みが不完全であっても、染料は水溶性物質との結合によりその不完全な箇所から抜け出ることができず、水中に染み出すことはない。よって、画像の耐水性を確実に向上させることができる。
【0046】
ここで、上記実施形態1に係るインクとして具体的に実施した実施例について説明する。
【0047】
先ず、以下の組成(各組成物の含有量は質量百分率である)からなる4種類のインクジェット記録用インクを作製した(実施例1〜実施例4)。すなわち、染料として、酸性染料であるC.I.アシッドレッド289(マジェンタ染料)を用い、縮重合反応する水溶性物質として、強塩基性基を有する加水分解性シラン化合物(有機ケイ素化合物(A1)〜(A4))を用いてインクジェット記録用インクを作製した。
【0048】
尚、上記実施例1〜実施例4の全てにおいて、保湿剤としてグリセリンを、浸透剤としてジエチレングリコールモノブチルエーテルをそれぞれ含有させた。
【0049】
(実施例1)
C.I.アシッドレッド289 …5%
グリセリン …7%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル …5%
有機ケイ素化合物(A1) …5%
純水 …78%
上記有機ケイ素化合物(A1)は、以下の製法により作製したものである。すなわち、冷却器を取り付けた反応容器内に、120g(6.67モル)の水を入れ、これを攪拌しながら、50.9g(0.22モル)の1−アザ−4−トリメトキシシリル−ビシクロ[2,2,2]オクタン(化学式1)と、16.7g(0.11モル)のテトラメトキシシランとの混合物を一滴ずつ加えた。その全量滴下後に、反応容器の温度を60℃に高めて1時間攪拌し続け、その後、反応容器の温度を90℃に高めた上で、2時間攪拌しながら反応を継続させた。この反応後に、該反応により生成したメタノールを蒸留により除いた。こうして生成した、アミノ基と4級アンモニウム基とが導入された有機ケイ素化合物が、上記有機ケイ素化合物(A1)である。
【0050】
(実施例2)
C.I.アシッドレッド289 …5%
グリセリン …7%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル …5%
有機ケイ素化合物(A2) …5%
純水 …78%
上記有機ケイ素化合物(A2)は、上記実施例1の有機ケイ素化合物(A1)の作製方法と同様に作製したものであって、その際、50.9g(0.22モル)の1−アザ−4−トリメトキシシリル−ビシクロ[2,2,2]オクタンを、50.9g(0.22モル)の1−アザ−3−トリメトキシシリル−ビシクロ[2,2,2]オクタン(化学式2)に代えて作製したものである。
【0051】
(実施例3)
C.I.アシッドレッド289 …5%
グリセリン …7%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル …5%
有機ケイ素化合物(A3) …5%
純水 …78%
上記有機ケイ素化合物(A3)は、上記実施例1の有機ケイ素化合物(A1)の作製方法と同様に作製したものであって、その際、50.9g(0.22モル)の1−アザ−4−トリメトキシシリル−ビシクロ[2,2,2]オクタンを、50.9g(0.22モル)の1−アザ−2−トリメトキシシリル−ビシクロ[2,2,2]オクタン(化学式3)に代えて作製したものである。
【0052】
(実施例4)
C.I.アシッドレッド289 …5%
グリセリン …7%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル …5%
有機ケイ素化合物(A4) …5%
純水 …78%
上記有機ケイ素化合物(A4)は、上記実施例1の有機ケイ素化合物(A1)の作製方法と同様に作製したものであって、その際、50.9g(0.22モル)の1−アザ−4−トリメトキシシリル−ビシクロ[2,2,2]オクタンを、50.9g(0.22モル)の1,4−ジアザ−2−トリメトキシシリル−ビシクロ[2,2,2]オクタン(化学式4)に代えて作製したものである。
【0053】
続いて、比較のために、以下の組成(各組成物の含有量は質量百分率である)からなるインクを作製した(比較例)。すなわち、水溶性物質として、強塩基性基を有していない加水分解性シラン化合物(有機ケイ素化合物(B))を用いた。
【0054】
(比較例)
C.I.アシッドレッド289 …5%
グリセリン …7%
ジエチレングリコールモノブチルエーテル …5%
有機ケイ素化合物(B) …5%
純水 …78%
上記有機ケイ素化合物(B)は、上記実施例1の有機ケイ素化合物(A1)の作製方法と同様に作製したものであって、その際、50.9g(0.22モル)の1−アザ−4−トリメトキシシリル−ビシクロ[2,2,2]オクタンを、39.4g(0.22モル)のアミノプロピルトリメトキシシランに代えて作製したものである。
【0055】
次に、上記実施例1〜4及び比較例の各インクについて耐水試験を行った。具体的には、上記各インクを用いて、市販のプリンター(上記実施形態と同様の圧電アクチュエータ(但し、圧電素子の厚みは上記実施形態のものよりもかなり大きい)によりインクを吐出させるもの)で普通紙(商品名 Xerox4024、ゼロックス社製)に15mm角のベタ印字を行い、その印字した普通紙を、印字面を下にした状態で蒸留水に5分間浸漬した。この浸漬前後で印字サンプルのOD(Optical Density)値(印字濃度)をマクベス濃度計によりそれぞれ測定して耐水性を評価することにした。すなわち、浸漬後30分間自然乾燥させた後に測定した印字サンプルのOD値の、浸漬前に測定した印字サンプルのOD値に対する比(%)を耐水性とした。この耐水試験の結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
この表1より、比較例のインクでは、耐水性が90%に達しないのに対し、実施例の各インクでは、耐水性が100%に近く、極めて高い値となることが判る。すなわち、縮重合反応する水溶性物質を含有しないインクでは、耐水性が60〜70%であり、これに比べれば、比較例のインクでも、水溶性物質による染料の取り囲みにより耐水性は向上する。しかし、比較例のインクでは、染料の取り囲みが不完全な箇所から染料(特にマジェンタ染料)が水中に染み出し易く、耐水性を100%近くまで高くすることが困難となる。これに対し、実施例の各インクでは、染料が水溶性物質との強い結合により染料の取り囲みが不完全な箇所から抜け出ることができず、特に水中に染み出し易いマジェンタ染料を含有するインクを用いて記録した場合であっても、その記録した画像の耐水性を確実に向上させることができる。
【0058】
次いで、上記実施例1〜4及び比較例の各インクを用いて、上記プリンターで上記普通紙に画像を形成し、この画像を形成した用紙を純水に浸漬した後、室温で放置して乾燥させ、画像のにじみが生じるか否かを調べた。
【0059】
この結果、比較例のインクで形成した画像では、染料が流れ出て画像全体ににじみが観察された。これに対し、実施例の各インクで形成した画像では、染料が流れ出すことがなく、画像のにじみは全く観察されなかった。このことからも、縮重合反応する水溶性物質として、強塩基性基を有する加水分解性シラン化合物を用いることで、画像の耐水性を飛躍的に向上させ得ることが判る。
【0060】
(実施形態2)
本実施形態2に係るインクは、上記実施形態1と同様に、染料と、インクジェットヘッド1のノズル14等での乾きを抑制する保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有してはいるが、この実施形態2では、酸アミド化された少なくとも1つの酸性基を有する染料を用いる。また、水溶性物質は、強塩基性基を有する加水分解性シラン化合物である必要はなく、水がない状態で縮重合反応する水溶性物質であれば、どのようなものであってもよいが、特に、アミノ基を有する有機基を含有するアルコキシシランとアミノ基を含有しないアルコキシシランとの加水分解反応物、又は、アミノ基を含有する加水分解性シランに有機モノエポキシ化合物を反応させた加水分解性シランと窒素原子を含有しない加水分解性シランとを加水分解することにより得られる有機ケイ素化合物とすることが好ましい。
【0061】
上記酸アミド化された少なくとも1つの酸性基を有する染料は、酸性基を有する染料の該酸性基を、五塩化リンのような塩素化剤で塩素化し、その後にアンモニアと反応させて酸アミド化することで作製すればよい。例えば、マジェンタ染料であるC.I.アシッドレッド289(化学式5参照)の場合、五塩化リンと反応させると、染料の酸塩化物(化学式6参照)ができる。この化合物にアンモニアを作用させると、目的の染料の酸アミド化物(化学式7参照)ができる。
【0062】
【化5】
【0063】
【化6】
【0064】
【化7】
【0065】
尚、本実施形態2に係るインクにおいても、上記実施形態1と同様に、該インク(水等の溶媒)の記録紙41への浸透性を高める浸透剤をさらに含有させることが望ましく、その含有量は、インク全体に対して、質量百分率で1〜50%であることが好ましい。また、浸透剤の含有量の調整によって、インクの25℃における表面張力を20〜50mN/mに設定することが望ましい。
【0066】
上記のように、本実施形態2に係るインクにおいては、染料が、該染料を水に溶け易くする酸性基が酸アミド化されているので、染料の水に対する溶解性が低下する。この結果、記録紙41上の画像が水に濡れたときにおいて、水溶性物質による染料の取り囲みが不完全であっても、その取り囲みが不完全な箇所から染料が水に染み出し難くなる。よって、上記実施形態1と同様に、画像の耐水性を確実に向上させることができる。
【0067】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のインクジェット記録用インクでは、酸性染料又は直接染料と、保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するとともに、その水溶性物質を、強塩基性基を有する加水分解性シラン化合物とした。また、本発明の他のインクジェット記録用インクでは、染料と、保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するとともに、その染料を、酸アミド化された少なくとも1つの酸性基を有するものとした。したがって、これらのインクジェット記録用インクによると、水溶性物質による染料の取り囲みが不完全な箇所から染料が抜け出るのを防止して、画像の耐水性を確実に向上させることができる。
【0068】
さらに、本発明のインクカートリッジ及び記録装置によると、上記のようなインクジェット記録用インクを備えたことにより、上記と同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクを備えたインクジェット式記録装置を示す概略斜視図である。
【図2】上記インクジェット式記録装置のインクジェットヘッドの部分底面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【符号の説明】
A インクジェット式記録装置
14 ノズル
21 圧電アクチュエータ
23 圧電素子
35 インクカートリッジ
41 記録紙(記録媒体)
Claims (10)
- 酸性染料又は直接染料と、保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するインクジェット記録用インクであって、
上記水溶性物質は、強塩基性基を有する加水分解性シラン化合物であることを特徴とするインクジェット記録用インク。 - 染料と、保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するインクジェット記録用インクであって、
上記染料は、酸アミド化された少なくとも1つの酸性基を有していることを特徴とするインクジェット記録用インク。 - 水溶性物質は、加水分解性シラン化合物であることを特徴とする請求項2記載のインクジェット記録用インク。
- さらに浸透剤を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載のインクジェット記録用インク。
- 酸性染料又は直接染料と、保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するインクジェット記録用インクを備えたカートリッジであって、
上記インクの水溶性物質は、強塩基性基を有する加水分解性シラン化合物であることを特徴とするカートリッジ。 - 染料と、保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するインクジェット記録用インクを備えたカートリッジであって、
上記インクの染料は、酸アミド化された少なくとも1つの酸性基を有していることを特徴とするカートリッジ。 - インクは、さらに浸透剤を含有することを特徴とする請求項5又は6記載のカートリッジ。
- 酸性染料又は直接染料と、保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するインクジェット記録用インクを備え、該インクを記録媒体に吐出して記録を行う記録装置であって、
上記インクの水溶性物質は、強塩基性基を有する加水分解性シラン化合物であることを特徴とする記録装置。 - 染料と、保湿剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するインクジェット記録用インクを備え、該インクを記録媒体に吐出して記録を行う記録装置であって、
上記インクの染料は、酸アミド化された少なくとも1つの酸性基を有していることを特徴とする記録装置。 - インクは、さらに浸透剤を含有することを特徴とする請求項8又は9記載の記録装置。
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- 2002-11-27 JP JP2002343523A patent/JP2004175910A/ja active Pending
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