JP3974452B2 - インクジェット記録用インク、並びに該インクを備えたインクカートリッジ及び記録装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録に好適なインクジェット記録用インク、インクカートリッジ及び記録装置に関する技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、インクジェット記録に用いられるインクとして、色材(染料又は顔料)と、保湿剤と、水とを含有したものがよく知られている。ところが、色材を含有したインクにより記録紙等の記録媒体上に画像を形成すると、その画像の耐水性、すなわち画像が水に濡れると色材が水中に染み出してしまうことが問題となる。特に普通紙(広範な市販の紙で、とりわけ電子写真方式の複写機に用いられる紙であって、インクジェット記録用として最適な構造、組成、特性等を有するように意図して製造されてはいない紙)に記録した場合は、耐水性が非常に悪くなる。
【0003】
そこで、従来、例えば特開平10−212439号公報、特開平11−293167号公報及び特開平11−315231号公報に示されているように、インクに加水分解性シラン化合物(有機ケイ素化合物)を含有させることにより、記録媒体上の画像の耐水性を向上させるようにすることが提案されている。このようにインクにシラン化合物を含有させることによって、インク滴が記録媒体上に付着して水分(溶媒)が蒸発したり記録媒体内に浸透したりしたときには、上記記録媒体上に残ったシラン化合物が縮重合反応し、この縮重合反応したシラン化合物が色材を取り囲むことになる。その結果、記録媒体上の画像が水に濡れても、色材がその水中に染み出すことを防止するようにしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記従来のインクでは、耐水性の向上という有効な効果が得られるものの、上記インクにより画像を形成した記録媒体を室内で長期保存をしたときには、日光等の光に曝されなくても画像が退色してしまうという不都合があった。これは、熱、湿度、及び/又は化学物質等による熱酸化の課程で発生するペルオキシラジカルやオゾンによって、色材のアゾ基(−N=N−)が攻撃されて、その二重結合が一重結合に変化したり、二重結合が開裂したりして色素構造が分解され、これにより、色相の変化や画質濃度の低下を招いて画像が退色するためと考えられる。
【0005】
例えば特開2001−240778号公報には、耐水性を有しない通常のインク(有機ケイ素化合物が含有されていないインク)に、チオシアン酸塩を添加することにより、インクの耐オゾン性を向上させるようにしたものが記載されている。そこで、上記の耐水性インクの耐候性を向上させるべく、この耐水性インクに上記チオシアン酸塩を添加することが考えられる。
【0006】
ところが、耐水性インクにチオシアン酸塩を添加しただけでは、画像の耐候性はそれ程向上せず、また、上記画像が水に濡れた後には、耐候性が大幅に劣化してしまうことが確認された。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有するインクジェット記録用インクによる記録媒体上の画像の耐水性を維持しつつ、高レベルの耐候性を得ることにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、第1の発明は、色材と、保湿剤と、水と、アミノ基を有する加水分解性シラン化合物とを含有するインクジェット記録用インクに係り、酸性基を有するラジカル捕捉剤をさらに含有するものとする。
【0009】
この構成によると、インクがインク滴として記録媒体(例えば紙)上に付着すると、水分が蒸発したり記録媒体内に浸透したりして水溶性物質(アミノ基を有する加水分解性シラン化合物)が縮重合反応をし、この縮重合反応物が色材を取り囲む。こうして、上記インク滴により形成された記録媒体上の画像が水に濡れても色材が水中に染み出すことが回避され、画像の耐水性が確保される。
【0010】
そして、上記インクにはラジカル捕捉剤が含有されていることで、上記インクにより形成された記録媒体上の画像がペルオキシラジカルやオゾンに曝されても、上記ラジカル捕捉剤が、これらペルオキシラジカルやオゾンを捕捉し、これにより、色材が攻撃されることを防止する。その結果、色材の変質が抑制されて耐候性の劣化が抑制される。
【0011】
特に、上記ラジカル捕捉剤は酸性基を有しているため、このラジカル捕捉剤と水溶性物質(アミノ基を有する加水分解性シラン化合物)とは、相互作用によってインク中において互いに近傍に位置している。尚、色材も、水溶性物質(アミノ基を有する加水分解性シラン化合物)との相互作用によって、インク中において水溶性物質(アミノ基を有する加水分解性シラン化合物)の近傍に位置している。このため、上記水溶性物質(アミノ基を有する加水分解性シラン化合物)が縮重合反応をしたときには、色材と共にラジカル捕捉剤も、その縮重合反応物に取り囲まれる。これにより、記録媒体上では、ラジカル捕捉剤は、色材の近傍に位置するようになるため、色材がペルオキシラジカルやオゾンに攻撃されることを効率よくブロックして、耐候性が大幅に向上する。
【0012】
しかも、ラジカル捕捉剤が水溶性物質(アミノ基を有する加水分解性シラン化合物)に取り囲まれていることで、記録媒体上の画像が水に濡れても、色材と同様に、ラジカル捕捉剤が水に流れ出すことが回避される。これにより、記録媒体上の画像が水に濡れた後においても、耐候性の劣化を継続して抑制することが可能になる。
【0013】
つまり、ラジカル捕捉剤が酸性基を有しないものであれば、このラジカル捕捉剤と水溶性物質との相互作用が弱いため、ラジカル捕捉剤は水溶性物質に取り囲まれず、これにより、記録媒体上の画像が水に濡れるとラジカル捕捉剤が流れ出してしまい、耐候性が劣化してしまうと考えられる。
【0014】
これに対し、本発明では、ラジカル捕捉剤を酸性基を有するものとすることによって、色材及びラジカル捕捉剤が共に水溶性物質(アミノ基を有する加水分解性シラン化合物)に取り囲まれて、色材とラジカル捕捉剤とが互いに近傍に位置するようになり、これにより、画像の耐水性を確保することは勿論のこと、高レベルの耐候性が得られると共に、記録媒体上の画像が水に濡れた後における耐候性の劣化も抑制される。
【0015】
ここで、水溶性物質は、アミノ基を有する加水分解性シラン化合物である。つまり、シラン化合物は耐水性を向上させる点で非常に好ましく、ラジカル捕捉剤が確実に取り込まれて、耐候性の向上も図られる。
【0016】
また、上記ラジカル捕捉剤は、フェノール系化合物、又はイオウ系化合物とすればよい。尚、ラジカル捕捉剤が有する酸性基としては、例えばスルホン酸ナトリウム、又はカルボン酸ナトリウムとすればよく、この内でも、水に対する溶解性からはスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0017】
上記インクには、浸透剤をさらに含有させることが好ましい。こうすることで、保湿剤と浸透剤と水とからなるインクの溶媒は、インクが記録媒体(例えば紙)上に付着した後、速やかに該記録媒体内に浸透するようになる。これにより、水溶性物質(アミノ基を有する加水分解性シラン化合物)の縮重合反応が速やかに行われて色材(及びラジカル捕捉剤)を確実に取り囲む。その結果、画像の耐水性がより一層向上する。
【0018】
第2の発明は、色材と、保湿剤と、水と、アミノ基を有する加水分解性シラン化合物とを含有するインクジェット記録用インクを備えたインクカートリッジに係り、上記インクは、酸性基を有するラジカル捕捉剤をさらに含有したものとする。
【0019】
第3の発明は、色材と、保湿剤と、水と、アミノ基を有する加水分解性シラン化合物とを含有するインクジェット記録用インクを備え、該インクを記録媒体に吐出して記録を行う記録装置に係り、上記インクは、酸性基を有するラジカル捕捉剤をさらに含有したものとする。
【0020】
これら第2又は第3の発明によると、上記第1の発明と同様の作用効果が得られる。
【0021】
また、第2又は第3の発明においても、インクには浸透剤をさらに含有させることによって、保湿剤と浸透剤と水とからなるインクの溶媒を速やかに記録媒体内に浸透させて、耐水性をさらに向上させることが好ましい。
【0022】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明におけるインクジェット記録用インク、並びに該インクを備えたインクカートリッジ及び記録装置によれば、アミノ基を有する加水分解性シラン化合物および酸性基を有するラジカル捕捉剤をインクに含有させることにより、インクが記録媒体上に付着して水溶性物質(アミノ基を有する加水分解性シラン化合物)が縮重合反応をしたときには、色材及びラジカル捕捉剤が共にその縮重合反応物に取り囲まれるため、記録媒体上の画像の耐水性を維持しつつ、高レベルの耐候性が得られ、さらには、記録媒体上の画像が水に濡れた後においても、耐候性の劣化を抑制することができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクを備えたインクジェット式記録装置Aの概略を示し、この記録装置Aは、上面に上記インクを有するインクカートリッジ35が装着されかつ該インクを後述の如く記録媒体としての記録紙41に吐出するインクジェットヘッド1を備えている。このインクジェットヘッド1はキャリッジ31に支持固定され、このキャリッジ31には、図示を省略するキャリッジモータが設けられ、このキャリッジモータにより上記インクジェットヘッド1及びキャリッジ31が主走査方向(図1及び図2に示すX方向)に延びるキャリッジ軸32にガイドされてその方向に往復動するようになっている。
【0024】
上記記録紙41は、図示を省略する搬送モータによって回転駆動される2つの搬送ローラ42に挟まれていて、この搬送モータ及び各搬送ローラ42により、上記インクジェットヘッド1の下側において上記主走査方向と垂直な副走査方向(図1及び図2に示すY方向)に搬送されるようになっている。
【0025】
このように、上記キャリッジ31、キャリッジ軸32及びキャリッジモータ、並びに各搬送ローラ42及び搬送モータにより、インクジェットヘッド1と記録紙41とを相対移動させるようにしている。
【0026】
上記インクジェットヘッド1は、図2〜図4に示すように、インクを供給するための供給口3a及びインクを吐出するための吐出口3bを有する複数の圧力室用凹部3が形成されたヘッド本体2を備えている。このヘッド本体2の各凹部3は、該ヘッド本体2の上面に上記主走査方向に延びるように開口されていて、互いに上記副走査方向に略等間隔をあけた状態で並設されている。上記各凹部3の開口の全長は約1250μmに、幅は約130μmにそれぞれ設定されている。尚、上記各凹部3の開口の両端部は、略半円形状をなしている。
【0027】
上記ヘッド本体2の各凹部3の側壁部は、約200μm厚の感光性ガラス製の圧力室部品6で構成され、各凹部3の底壁部は、この圧力室部品6の下面に接着固定されかつ6枚のステンレス鋼薄板を積層してなるインク流路部品7で構成されている。このインク流路部品7内には、上記各凹部3の供給口3aとそれぞれ接続された複数のオリフィス8と、この各オリフィス8と接続されかつ上記副走査方向に延びる1つの供給用インク流路11と、上記吐出口3bとそれぞれ接続された複数の吐出用インク流路12とが形成されている。
【0028】
上記各オリフィス8は、インク流路部品7において板厚が他よりも小さい上から2番目のステンレス鋼薄板に形成されており、その径は約38μmに設定されている。また、上記供給用インク流路11は上記インクカートリッジ35と接続されており、このインクカートリッジ35より供給用インク流路11内にインクが供給されるようになっている。
【0029】
上記インク流路部品7の下面には、インク滴を上記記録紙41に向けて吐出するための複数のノズル14が形成されたステンレス鋼からなるノズル板9が接着固定されている。このノズル板9の下面は、撥水膜9aで被覆されている。上記各ノズル14は、上記吐出用インク流路12とそれぞれ接続されていて、この吐出用インク流路12を介して上記各凹部3の吐出口3bにそれぞれ連通されており、インクジェットヘッド1の下面において、上記副走査方向に列状に並ぶように設けられている。尚、上記各ノズル14は、ノズル径がノズル先端側に向かって小さくなるテーパ部と、該テーパ部のノズル先端側に連続して設けられたストレート部とからなり、このストレート部のノズル径は約20μmに設定されている。
【0030】
上記ヘッド本体2の各凹部3の上側には、圧電アクチュエータ21がそれぞれ設けられている。この各圧電アクチュエータ21は、上記ヘッド本体2の上面に接着固定された状態で該ヘッド本体2の各凹部3を塞いで該凹部3と共に圧力室4を構成するCr製振動板22を有している。この振動板22は、全ての圧電アクチュエータ21に共通の1つのものからなっていて、後述の全圧電素子23に共通の共通電極としての役割をも果たしている。
【0031】
また、上記各圧電アクチュエータ21は、上記振動板22の上記圧力室4と反対側面(上面)において圧力室4に対応する部分(凹部3開口に対向する部分)にCu製の中間層25を介してそれぞれ設けられかつチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電素子23と、この各圧電素子23の上記振動板22と反対側面(上面)にそれぞれ接合され、該振動板22と共に各圧電素子23に電圧(駆動電圧)をそれぞれ印加するためのPt製個別電極24とを有している。
【0032】
上記振動板22,各圧電素子23、各個別電極24及び各中間層25は、全て薄膜で形成されてなっており、振動板22の厚みは約6μmに、各圧電素子23の厚みは8μm以下(例えば約3μm)に、各個別電極24の厚みは約0.2μmに、各中間層25の厚みは約3μmにそれぞれ設定されている。
【0033】
上記各圧電アクチュエータ21は、その振動板22と各個別電極24とを介して各圧電素子23に駆動電圧を印加することにより該振動板22の圧力室4に対応する部分(凹部3開口部分)を変形させることで、該圧力室4内のインクを吐出口3bないしノズル14から吐出させるようになっている。すなわち、振動板22と個別電極24との間にパルス状の電圧を印加すると、そのパルス電圧の立ち上がりにより圧電素子23が圧電効果によりその厚み方向と垂直な幅方向に収縮するのに対し、振動板22、個別電極24及び中間層25は収縮しないので、いわゆるバイメタル効果により振動板22の圧力室4に対応する部分が圧力室4側へ凸状に撓んで変形する。この撓み変形により圧力室4内の圧力が高まり、この圧力で圧力室4内のインクが吐出口3b及び吐出用インク流路12を経由してノズル14から押し出される。そして、上記パルス電圧の立ち下がりにより圧電素子23が伸長して振動板22の圧力室4に対応する部分が元の状態に復帰し、このとき、上記ノズル14から押し出されていたインクがインク流路12内のインクから引きちぎられて、インク滴(例えば3pl)として記録紙41へ吐出され、該記録紙41面にドット状に付着することとなる。また、上記振動板22が凸状に撓んで変形した状態から元の状態に復帰する際に、圧力室4内には上記インクカートリッジ35より供給用インク流路11及び供給口3aを介してインクが充填される。尚、各圧電素子23に印加するパルス電圧としては、上記のように押し引きタイプのものでなくても、第1の電圧から該第1の電圧よりも低い第2の電圧まで立ち下がった後に上記第1の電圧まで立ち上がる引き押しタイプのものであってもよい。
【0034】
上記各圧電素子23への駆動電圧の印加は、インクジェットヘッド1及びキャリッジ31を主走査方向において記録紙41の一端から他端まで略一定速度で移動させているときに所定時間(例えば50μs程度:駆動周波数20kHz)毎に行われ(但し、インクジェットヘッド1が記録紙41におけるインク滴を着弾させない箇所に達したときには電圧が印加されない)、このことで、記録紙41の所定位置にインク滴を着弾させる。そして、1走査分の記録が終了すると、搬送モータ及び各搬送ローラ42により記録紙41を副走査方向に所定量搬送し、再度、インクジェットヘッド1及びキャリッジ31を主走査方向に移動させながらインク滴を吐出させて、新たな1走査分の記録を行う。この動作を繰り返すことによって、記録紙41全体に所望の画像が形成される。
【0035】
上記記録装置Aに用いるインクは、色材と、上記インクジェットヘッド1のノズル14等での乾きを抑制する保湿剤と、該インク(溶媒)の記録紙41内への浸透性を高める浸透剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質とを含有している。
【0036】
上記色材としての染料は、どのようなものであってもよいが、水溶性の酸性染料又は直接染料であることが好ましい。
【0037】
一方、色材としての顔料は、次のものが好ましい。つまり、黒顔料としては、カーボンブラック表面をジアゾニウム塩で処理したものや、ポリマーをグラフト重合して表面処理したものが好適である。
【0038】
また、カラー顔料としては、顔料を、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、リグニスルホン酸、ジオクチルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、又は脂肪酸エステル等の界面活性剤で処理したものが好ましい。具体的には、シアン顔料では、例えばピグメントブルー15:3、ピグメントブルー15:4、又はアルミニウムフタロシアニン等が挙げられる。また、マジェンタ顔料では、例えばピグメントレッド122、又はピグメントバイオレット19等が挙げられる。さらに、イエロー顔料としては、例えばピグメントイエロー74、ピグメントイエロー109、ピグメントイエロー110、又はピグメントイエロー128等が挙げられる。
【0039】
上記保湿剤は、グリセリン、1,3−ブタンジオール等の多価アルコール、又は2−ピロリドンやN−メチル−2−ピロリドンのような水溶性の窒素複素環化合物であることが望ましい。
【0040】
上記浸透剤は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、2−ブトキシエタノール等のような、多価アルコールのモノアルキルエーテルであることが好ましい。
【0041】
上記水溶性物質は、上記インクジェットヘッド1のノズル14から吐出されたインク滴が記録紙41上に付着して、水分(溶媒)が蒸発したり記録紙41内に浸透したりしたときに上記記録紙41上で縮重合反応をし、このときに色材を取り囲むことにより、記録紙41上の画像が水に濡れても、色材がその水中に染み出すのを防止して、その画像の耐水性を向上させる働きをするものである。具体的には、加水分解性シラン化合物や、加水分解性チタン化合物等が一例として挙げられる。この内でも、安定性の観点から、加水分解性シラン化合物(有機ケイ素化合物)が特に好ましい。
【0042】
また、水溶性物質としてはさらに、アミノ基を有する化合物とした方が、後述する酸性基を有するラジカル捕捉剤との相互作用が強くなるため、より好ましい。
【0043】
こうした水溶性物質(有機ケイ素化合物)としては、アミノ基を有する有機基を含有するアルコキシシランとアミノ基を含有しないアルコキシシランとの加水分解反応物、又はアミノ基を含有する加水分解性シランに有機モノエポキシ化合物を反応させた加水分解性シランと窒素原子を含有しない加水分解性シランとを加水分解することにより得られる有機ケイ素化合物が好ましい。
【0044】
そして、本実施形態に係るインクジェット記録用インクには、酸性基を有するラジカル捕捉剤がさらに含有されている。このラジカル捕捉剤は、熱酸化の過程において発生するペルオキシラジカルやオゾンを捕捉する働きを有する。
【0045】
上記ラジカル捕捉剤としては、具体的には、フェノール系化合物、又はイオウ系化合物等が挙げられる。
【0046】
また、ラジカル捕捉剤が有する酸性基としては、スルホン酸ナトリウム、カルボン酸ナトリウムが一例として挙げられるが、水に対する溶解性からはスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0047】
上記フェノール系化合物としては、具体的に以下の「化1」〜「化6」の化合物が一例として挙げられる。尚、これらの化合物は、酸化防止剤として上市されているフェノール系化合物を、スルホン化又はカルボキシル化することにより、容易に得ることができる。
【0048】
【化1】
【0049】
【化2】
【0050】
【化3】
【0051】
【化4】
【0052】
【化5】
【0053】
【化6】
【0054】
また、イオウ系化合物としては、具体的に以下の「化7」〜「化16」の化合物が一例として挙げられる。尚、これらの化合物は酸化防止剤として上市されているイオウ系化合物を、スルホン化又はカルボキシル化することにより、容易に得ることができる。
【0055】
【化7】
【0056】
【化8】
【0057】
【化9】
【0058】
【化10】
【0059】
【化11】
【0060】
【化12】
【0061】
【化13】
【0062】
【化14】
【0063】
【化15】
【0064】
【化16】
【0065】
このように、上記実施形態においては、インクジェット記録用インクが、色材と、保湿剤と、浸透剤と、水と、この水がない状態で縮重合反応する水溶性物質としての加水分解性シラン化合物とを含有しているため、このインクを用いて記録装置Aにより記録紙41に画像を形成した場合には、インク滴が記録紙41上に付着したときに、保湿剤と浸透剤と水とからなる溶媒がこの記録紙41内に速やかに浸透するようになる。これにより、シラン化合物が縮重合反応してこの縮重合反応したシラン化合物が色材を取り囲むことになり、記録紙41上の画像が水に濡れても、色材がその水中に染み出すことが防止される。
【0066】
そして、本実施形態に係るインクには、酸性基を有するラジカル捕捉剤がさらに含有されている。このラジカル捕捉剤は酸性基を有していることで、アミノ基を有するシラン化合物との相互作用が強く、このため、色材と同様にインク中においてシラン化合物の近傍に位置するようになる。これにより、シラン化合物が縮重合反応したときには、色材のみならず上記ラジカル捕捉剤も縮重合反応したシラン化合物に取り囲まれ、その結果、記録紙41上では、ラジカル捕捉剤が色材の近傍に位置するようになる。このため、記録紙41上の画像が、ペルオキシラジカルやオゾンに曝されても、このペルオキシラジカル及びオゾンは、色材の近傍に位置しているラジカル捕捉剤に捕捉され、これにより、色材が攻撃されることが防止される。こうして、色材の変質が抑制されて、耐候性の劣化を効果的に抑制することができる。
【0067】
また、上記ラジカル捕捉剤が縮重合反応したシラン化合物に取り囲まれていることで、記録紙41上の画像が水に濡れても、ラジカル捕捉剤が水中に流れ出すことが防止される。これにより、画像が水に濡れた後においても、ラジカル捕捉剤によるラジカル捕捉効果が得られ、耐候性の劣化を継続して抑制することができる。
【0068】
こうして、本実施形態に係るインクジェット記録用インクでは、記録媒体上の画像の耐水性を維持しつつ、高レベルの耐候性が得られることになる。
【0069】
尚、上記実施形態では、水がない状態で縮重合反応する水溶性物質として、加水分解性シラン化合物を含有させたが、インクジェットヘッド1のノズル14から吐出されたインク滴が記録紙41上に付着して水分(溶媒)が蒸発したり記録紙41内に浸透したりしたときに縮重合反応して色材を取り囲むものであれば、どのようなものであってもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、インクに浸透剤を含有させたが、浸透剤は本実施形態に係るインクの必須の成分ではない。但し、インクに浸透剤を含有させた方が、インクの溶媒が速やかに記録紙41内に浸透するようになり、これにより、画像の耐水性をより一層向上させることができる。
【0071】
【実施例】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0072】
先ず、以下の組成(各組成物の含有量は質量百分率である)からなる8種類のインクジェット記録用インクを作製した(実施例1〜実施例8)。
【0073】
尚、上記実施例1〜実施例8の全てにおいて、保湿剤としてグリセリンを含有させた。
【0074】
また、色材としては染料を含有させることとし、実施例1〜5においてはJPD Yellow MT−NL(日本化薬社製)を含有させる一方、実施例6〜8においては、異なる色の染料を含有させた。
【0075】
さらに、水がない状態で縮重合反応する水溶性物質として、実施例1〜8の全てにおいて有機ケイ素化合物を含有させた。この有機ケイ素化合物は、以下の方法により作製した。すなわち、冷却器を取り付けた反応容器内に、120g(6.67モル)の水を入れ、これを撹拌しながら、35g(0.2モル)の1−トリメトキシシリル−3−アミノプロパンと、15.2g(0.1モル)のテトラメトキシシランとの混合物を一滴ずつ加えた。その全量滴下後に、反応容器の温度を60℃に高めて1時間撹拌を続け、その後、反応容器の温度を90℃に高めた上で、2時間撹拌しながら反応を継続させた。反応後に、生成したメタノールを蒸留により除いた。こうして生成した有機ケイ素化合物が、各実施例に含有させた有機ケイ素化合物である。
【0076】
(実施例1)
ラジカル捕捉剤として「化1」で示される化合物を含有させた。
JPD Yellow MT−NL(日本化薬社製) …5%
グリセリン …7%
ジエチレングリコール …5%
有機ケイ素化合物 …5%
ラジカル捕捉剤(化1) …5%
純水 …73%。
【0077】
(実施例2)
ラジカル捕捉剤として「化2」で示される化合物を含有させた。
JPD Yellow MT−NL(日本化薬社製) …5%
グリセリン …7%
ジエチレングリコール …5%
有機ケイ素化合物 …5%
ラジカル捕捉剤(化2) …5%
純水 …73%。
【0078】
(実施例3)
ラジカル捕捉剤として「化5」で示される化合物を含有させた。
JPD Yellow MT−NL(日本化薬社製) …5%
グリセリン …7%
ジエチレングリコール …5%
有機ケイ素化合物 …5%
ラジカル捕捉剤(化5) …5%
純水 …73%。
【0079】
(実施例4)
ラジカル捕捉剤として「化9」で示される化合物を含有させた。
JPD Yellow MT−NL(日本化薬社製) …5%
グリセリン …7%
ジエチレングリコール …5%
有機ケイ素化合物 …5%
ラジカル捕捉剤(化9) …5%
純水 …73%。
【0080】
(実施例5)
ラジカル捕捉剤として「化14」で示される化合物を含有させた。
JPD Yellow MT−NL(日本化薬社製) …5%
グリセリン …7%
ジエチレングリコール …5%
有機ケイ素化合物 …5%
ラジカル捕捉剤(化14) …5%
純水 …73%。
【0081】
(実施例6)
実施例1に対して染料を変えた。
C.I.アシッドレッド289 …5%
グリセリン …7%
ジエチレングリコール …5%
有機ケイ素化合物 …5%
ラジカル捕捉剤(化1) …5%
純水 …73%。
【0082】
(実施例7)
実施例1に対して染料を変えた。
C.I.ダイレクトブルー199 …5%
グリセリン …7%
ジエチレングリコール …5%
有機ケイ素化合物 …5%
ラジカル捕捉剤(化1) …5%
純水 …73%。
【0083】
(実施例8)
実施例1に対して染料を変えた。
C.I.ダイレクトブラック154 …5%
グリセリン …7%
ジエチレングリコール …5%
有機ケイ素化合物 …5%
ラジカル捕捉剤(化1) …5%
純水 …73%。
【0084】
続いて、比較のために、以下の組成(各組成物の含有量は質量百分率である)からなるインクを作製した(比較例1,2)。この内、比較例1は、ラジカル捕捉剤を添加しないものである。また、比較例2は、実施例1において、酸性基を有するラジカル捕捉剤に代えて、チオシアン酸ナトリウムを含有させたものである。
【0085】
(比較例1)
JPD Yellow MT−NL(日本化薬社製) …5%
グリセリン …7%
ジエチレングリコール …5%
有機ケイ素化合物 …5%
純水 …78%。
【0086】
(比較例2)
JPD Yellow MT−NL(日本化薬社製) …5%
グリセリン …7%
ジエチレングリコール …5%
有機ケイ素化合物 …5%
チオシアン酸ナトリウム …5%
純水 …73%。
【0087】
次に、上記各実施例1〜8及び比較例1,2のインクによる耐候性試験として、耐オゾン性試験、耐熱性試験及び耐高温高湿性試験を行った。
【0088】
これらの試験に用いた印字サンプルは、上記の各インクを用いて、市販のプリンタ(上記実施形態と同様の圧電アクチュエータ(但し、圧電素子の厚みは上記実施形態のものよりもかなり大きい)によりインクを吐出させるもの)で普通紙(商品名「Xerox4024」:ゼロックス社製)に15mm角のベタ印字を行ったものである。そして、印字から10分経過後の各印字サンプルを、その印字面を下にして蒸留水に5分間浸漬し、その浸漬後30分間自然乾燥させた後の各印字サンプルのOD値を測定した(これを、耐オゾン性、耐熱性、耐高温高湿性試験前のOD値とする)。この耐水試験後の各印字サンプルを初期サンプルとして、以下の各試験を行った。
【0089】
耐オゾン性試験としては、上記各初期サンプルを、25℃、60%RHで、1ppmのオゾン雰囲気環境中に500時間投入し、その後にOD値を測定した。
【0090】
耐熱性試験としては、上記各初期サンプルを、80℃のオーブンに500時間投入し、その後にOD値を測定した。
【0091】
耐高温高湿性試験としては、上記各初期サンプルを、70℃、80%RHの雰囲気環境中に500時間投入し、その後にOD値を測定した。
【0092】
また、耐オゾン性、耐熱性及び耐高温高湿性試験の評価は、試験前後に測定したOD値の比(%)により行った。その結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
表1より、実施例1〜8の各インクは、耐オゾン性、耐熱性及び耐高温高湿性がそれぞれ95%以上であるのに対し、比較例1,2の各インクは、耐オゾン性、耐熱性及び耐高温高湿性がそれぞれ80%以下であった。
【0095】
この結果より、比較例1のインクでは、ラジカル捕捉剤が含有されていないため、耐候性がほとんど無いことが判る。
【0096】
また、比較例2のインクでは、チオシアン酸ナトリウムは水溶性物質(有機ケイ素化合物)との相互作用が弱いことで、水溶性物質が縮重合反応をしたときに、チオシアン酸ナトリウムが縮重合反応物に取り囲まれないと推測される。また、チオシアン酸ナトリウムは水に対する溶解性が高いため、印字サンプルを水に浸漬しているときにこのチオシアン酸ナトリウムが水に溶解してしまい、その結果、浸漬後の耐候性が劣化したものと考えられる。
【0097】
これに対し、各実施例のインクでは、ラジカル捕捉剤が酸性基を有していることで、このラジカル捕捉剤と水溶性物質との間に強い相互作用がある。このため、水溶性物質が縮重合反応をしたときに、ラジカル捕捉剤が、色材と一緒に縮重合反応物に取り囲まれるようになると推測される。これにより、各実施例のインクにより形成した画像が水に濡れたときでも、ラジカル捕捉剤が水に流されず、その結果、耐候性が飛躍的に向上したと考えられる。
【0098】
尚、上記各実施例及び各比較例のインクにより耐水性試験を行ったところ、いずれのインクでも、高い耐水性が得られることが確認された。
【0099】
また、上記「化1」〜「化16」の内、実施例としては示していない、他のラジカル捕捉剤を含有させたインクにおいても、上記各実施例と同様の耐候性が得られることが確認された。さらに、各実施例のインクにおいて、染料の代わりに色材として顔料を含有させたインクにおいても、同様の結果が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット記録用インクを備えたインクジェット式記録装置を示す概略斜視図である。
【図2】インクジェット式記録装置のインクジェットヘッドの部分底面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図2のIV−IV線断面図である。
【符号の説明】
1 インクジェットヘッド
14 ノズル
21 圧電アクチュエータ
23 圧電素子
35 インクカートリッジ
41 記録紙(記録媒体)
A インクジェット式記録装置
Claims (7)
- 色材と、保湿剤と、水と、アミノ基を有する加水分解性シラン化合物とを含有するインクジェット記録用インクであって、
酸性基を有するラジカル捕捉剤をさらに含有している
ことを特徴とするインクジェット記録用インク。 - 請求項1において、
ラジカル捕捉剤は、フェノール系化合物又はイオウ系化合物である
ことを特徴とするインクジェット記録用インク。 - 請求項1において、
浸透剤をさらに含有している
ことを特徴とするインクジェット記録用インク。 - 色材と、保湿剤と、水と、アミノ基を有する加水分解性シラン化合物とを含有するインクジェット記録用インクを備えたインクカートリッジであって、
上記インクは、酸性基を有するラジカル捕捉剤をさらに含有している
ことを特徴とするインクカートリッジ。 - 請求項4において、
インクは、浸透剤をさらに含有している
ことを特徴とするインクカートリッジ。 - 色材と、保湿剤と、水と、アミノ基を有する加水分解性シラン化合物とを含有するインクジェット記録用インクを備え、該インクを記録媒体に吐出して記録を行う記録装置であって、
上記インクは、酸性基を有するラジカル捕捉剤をさらに含有している
ことを特徴とする記録装置。 - 請求項6において、
インクは、浸透剤をさらに含有している
ことを特徴とする記録装置。
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