JP2004286471A - 放射能の化学除染方法および装置 - Google Patents

放射能の化学除染方法および装置 Download PDF

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Abstract

【課題】除染速度が高く除染装置の腐食が少なく二次廃棄物発生量の少ない放射能の化学除染装置を提供する。
【解決手段】放射性物質で汚染された除染対象物をギ酸とシュウ酸からなる除染液に浸漬し前記除染対象物の電位を腐食領域まで下げて前記除染対象物の表面を溶解し、前記除染液中の金属イオンを陽イオン交換樹脂で分離し除去する構成とする。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する分野】
本発明は、原子力発電施設の定期検査で発生する使用済みの機器や廃止措置時に発生する解体金属廃棄物のうち、特にステンレス鋼製の機器および解体廃棄物の母材を溶解して放射性物質を除去するのに適した放射能の化学除染方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
放射性金属廃棄物の化学除染の技術は、例えば下記特許文献1および特許文献2に記載されている。特許文献1に記載されている技術は、硫酸水溶液中で除染対象機器を一時的に電解還元し、ステンレス鋼の腐食領域まで電位を下げて金属母材を溶解し除染する方法である。
【0003】
特許文献2に記載されている技術は、有機酸水溶液中の3価鉄を紫外線により2価鉄に還元し、有機酸水溶液の酸化還元電位をステンレス鋼の腐食領域まで下げて金属母材を溶解し除染する方法である。また、この特許文献2には有機酸水溶液中の鉄イオンを陽イオン交換樹脂で除去する方法についても記載されている。有機酸水溶液中で3価鉄は、有機酸と錯体を形成して錯陰イオンとして存在するため、陽イオン交換樹脂では除去できない。そこで、紫外線を照射して3価鉄を2価鉄に還元する。2価鉄は有機酸と錯体を生成し難いため、陽イオン交換樹脂で容易に除去可能である。
【0004】
さらに本願の発明者らは、本願の発明に先行する発明を下記特許文献3に開示している。それは、シュウ酸またはギ酸などの有機酸水溶液中に除染対象機器を浸漬し、複極式電解により陽極に対面した機器表面を一時的にマイナスに分極して、ステンレス鋼の腐食領域まで電位を下げて金属母材を溶解し除染する方法である。また、有機酸水溶液中に溶解した金属イオンは陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂で除去する。
【0005】
【特許文献1】
特開平2−222597号公報
【特許文献2】
特表2002−513163号公報
【特許文献3】
特開平9−113690号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の従来技術は以下に示す課題を有している。
特許文献1に記載された技術は、除染液に溶解した鉄イオンおよびクロムイオンの濃度が増加すると除染液の酸化還元電位が高くなるため、ステンレス鋼の溶解反応が停止し、除染性能が低下するという問題がある。除染剤に硫酸を使用するため、除染終了後に発生する除染廃液はそのままの状態では原子力施設の既設廃液処理系で受け入れることができない。受け入れ可能にするためには、専用の中和処理装置と水酸化物として析出する沈殿物と上澄み液を分離する凝集・沈降槽が必要となり、このため除染装置の設備費用が増加する。また、中和処理することにより二次廃棄物が大量に発生するため、この廃棄物を処分するための費用が増加するなどの問題がある。
【0007】
特許文献2に記載された技術は、有機酸除染液の2価鉄と3価鉄の濃度制御により電位を下げるため、除染液と接液する除染装置自体が腐食する。特にシュウ酸は有機酸の中でも腐食速度が大きいため、ステンレス鋼製の除染装置は腐食により故障するおそれがある。また、イオン交換樹脂により除去した金属には、除染装置から溶出した金属も含まれるため、使用済みのイオン交換樹脂が増加するなどの問題がある。
【0008】
特許文献3は、本願の発明者らによる特許出願であるが、そこに記載した技術によって実際に放射能で汚染された機器を除染した結果、以下に示す新たな知見が得られた。
【0009】
▲1▼有機酸を除染液に使用する場合、シュウ酸単独では鉄酸化物を還元および溶解するため除染性能は高いが、シュウ酸の分解処理に長時間を要する。ギ酸単独では、シュウ酸と比較して分解が容易なため分解処理時間は短いが、鉄酸化物を溶解し難いため除染性能が低い。
【0010】
▲2▼特許文献1の技術と同様に、一時的な電位制御では除染液に溶解した鉄イオンおよびクロムイオンの濃度が増加すると除染液の酸化還元電位が高くなるため、ステンレス鋼の溶解反応が停止し、除染性能が低下する。
【0011】
▲3▼機器表面にクロム酸化物を含む酸化皮膜が生成または付着している場合は、酸化剤によりクロムを酸化溶解することで除染性能が向上する。
【0012】
以上のような問題点および知見に鑑みて本発明は、除染速度が高く除染装置の腐食が少なく二次廃棄物発生量の少ない放射能の化学除染方法および装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、放射性物質で汚染された除染対象物をギ酸とシュウ酸からなる除染液に浸漬し前記除染対象物の電位を腐食領域まで下げて前記除染対象物の表面を溶解し、前記除染液中の金属イオンを陽イオン交換樹脂で分離し除去する構成とする。
【0014】
請求項2の発明は、前記除染液におけるギ酸のモル分率は0.9以上である構成とする。
請求項3の発明は、前記除染液の廃液中に残留するギ酸は過酸化水素により、シュウ酸はオゾンあるいは過マンガン酸または過マンガン酸塩により、炭酸ガスと水に分解する構成とする。
【0015】
請求項4の発明は、前記除染対象物の表面にクロム酸化物を含む酸化皮膜が生成または付着している場合は、前記除染対象物を酸化処理した後に前記除染液による除染を行う構成とする。
請求項5の発明は、前記酸化処理に使用する酸化剤はオゾンあるいは過マンガン酸または過マンガン酸塩のいずれかである構成とする。
【0016】
請求項6の発明は、前記オゾンで酸化処理した後の廃液は、pH調整剤としてギ酸を、還元剤として過酸化水素を添加して、除染対象物から溶出した6価クロムを3価クロムに還元して処理する構成とする。
請求項7の発明は、前記廃液中に残留する過酸化水素またはオゾンは紫外線によって分解する構成とする。
【0017】
請求項8の発明は、前記廃液中に過酸化水素またはオゾンが残留していない状態にした後に、前記廃液中に溶解している金属イオンを陽イオン交換樹脂で分離し除去する構成とする。
【0018】
請求項9の発明は、放射性物質で汚染された除染対象物を浸漬し化学除染する除染液を収容する除染槽と、前記除染対象物と前記除染液との間に電圧を与える直流電源と、前記除染槽に接続され前記除染液を循環する循環系統とを備え、前記循環系統は、前記除染液にギ酸とシュウ酸を供給する除染剤供給装置と、前記除染液に過酸化水素を供給する過酸化水素供給装置と、前記除染液に残留する過酸化水素およびオゾンを分解する液相分解装置と、前記除染液に含まれる金属イオンを分離し除去するイオン交換装置とを備えている構成とする。
請求項10の発明は、前記除染槽の底部に絶縁性の板が設けられ、この板の上に前記除染対象物を載置する耐食性の金属架台が設けられている構成とする。
【0019】
【発明の実施形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、原子力発電所の定期検査により取り替え部品として発生した使用済み機器の放射能を除染する除染装置の一例である。除染対象物1を除染槽2に設置し、除染槽2に貯留された除染液3は、循環ポンプ4、ヒータ5、除染剤供給装置6、過酸化水素供給装置7、液相分解装置8、カチオン樹脂塔9およびカチオン樹脂とアニオン樹脂が混合された混床樹脂塔10が付設された循環系統12を流れて除染槽2に戻される。また、循環系統12には除染対象物1を酸化処理するために、オゾン発生装置17からのオゾンガスを除染液に効率よく溶解させるためのミキサー11が付設されている。
【0020】
除染槽2の上部には気相分解塔19および排気ブロワー18が接続されている。除染槽2の底部には絶縁板13が設けられ、その上に耐食性金属架台14が設けられ、除染対象物1は耐食性金属架台14の上に設置されている。さらに、直流電源15の陰極が耐食性金属架台14に、陽極が除染液3に浸漬された電極16に接続されている。
【0021】
この装置を用いてステンレス鋼製の除染対象物1を除染する手順を説明する。除染槽2にイオン交換水である除染液3を満たし、この除染液3を循環ポンプ4により循環系統12内を循環し、ヒータ5で所定温度に昇温させる。オゾン水(除染液3)はオゾンガスをオゾン発生装置17からのミキサー11を介して循環系統12に注入して生成する。除染対象物1の酸化皮膜中のクロム酸化物(Cr)はオゾンの酸化力によりクロム酸(HCrO)としてオゾン水である除染液3中に溶解する。溶解反応を下記(1)式に示す。
Cr + 3O + 2HO → 2HCrO + 3O (1)
【0022】
除染槽2から発生するオゾンガスは排気ブロワー18に吸引されて気相分解塔19で分解され、既設の排気系に排出される。
一方除染終了後の除染液3にはクロム酸が溶解しており、6価クロムは有害物質であるため3価クロムに還元して無害化する必要がある。本実施の形態では6価クロムを無害化するため、第1段の処理としてオゾン水である除染液3に除染剤供給装置6からギ酸を添加し、pHを3以下にして酸化力の強いニクロム酸を生成する。反応式を下記(2)式に示す。
2HCrO + 4HCOOH = HCr + 4HCOOH +HO (2)
【0023】
次に第2段の処理として、この除染液3に過酸化水素供給装置7から過酸化水素[H]を添加すると下記(3)式の反応によりニクロム酸の6価クロムは3価クロムに還元される。
Cr + 6HCOOH + H = 2Cr(COOH) + 2O + 5HO (3)
【0024】
次に第3段の処理として除染液3をカチオン樹脂塔9に通水すると、3価クロムは下記(4)式の反応によりカチオン樹脂に吸着され、除染液3からクロムイオンが除去される。
3R−SOH + Cr(COOH) = (R−SOCr + 3HCOOH (4)
ここでRは交換基イオンを含む不溶性母体である。
【0025】
次に除染対象物1の金属母材を溶解する方法について説明する。除染剤供給装置6よりギ酸とシュウ酸を注入し、除染槽2内でギ酸とシュウ酸が混合された除染液3を生成する。この混合除染液3は、循環ポンプ4により循環系統12内を循環し、ヒータ5で所定温度に昇温させる。この状態で、直流電源15の陰極に接続されている耐食性金属架台14と陽極に接続されている電極16との間に所定の電圧を与える。ステンレス鋼製の除染対象物1は、耐食性金属架台14と接触しているため、ステンレス鋼の腐食領域まで電位が下がり、金属母材が溶解して除染される。
【0026】
なお、除染槽2と耐食性金属架台14が接触していると、ステンレス鋼製の除染槽2および除染槽2と接続されている循環系統12も電位が下がり腐食するが、本実施の形態においては除染槽2の底部に絶縁板13を設置してあるので、除染槽2と循環系統12は腐食しない。
【0027】
ステンレス鋼の酸中における分極曲線を図2に示す。この分極曲線は、金属材料の溶液中における腐食特性を表している。縦軸は電流の対数値、横軸は電位を示し、分極曲線はある電位に保持したときに流れる電流を表しており、電流が大きいほど腐食溶出量が大きく、耐食性が劣ることを意味する。ステンレス鋼やニッケル基合金のように耐食性の高い構造材料の場合には、電位によって腐食特性が異なり、電位の低い側から不感域20、活性域21、不動態域22、二次不動態域23、過不動態域24に分けられる。
【0028】
不感域20と不動態域22は、電流値が低いため腐食量が少ない。一方、活性域21と過不動態域24は、電流値が大きいため腐食量が大きい。特に過不動態域24は、酸素発生型の陽極酸化溶解であり、板や配管などの単純形状物を除染する電解除染に利用されている。本発明は、ステンレス鋼の電位を活性域21まで下げて腐食させる水素発生型の溶解を利用する。
【0029】
除染対象物1から溶出する鉄イオンおよびクロムイオンが混合除染液3に蓄積すると、金属母材の溶解反応を阻害する可能性がある。そのため、混合除染液3をカチオン樹脂塔9に常時通水して鉄イオンおよびクロムイオンを除去する。
【0030】
除染終了後の混合除染液3は、過酸化水素供給装置7から過酸化水素を供給し、あるいはミキサー11を介してオゾン発生装置17からのオゾンガスを循環系統12内に注入して、ギ酸を炭酸ガスと水に分解する。なお、除染液3をカチオン樹脂塔9に通水する際に、過酸化水素およびオゾンが残留している場合は、液相分解装置8から紫外線を照射して、オゾンは酸素に過酸化水素は水に分解する。
【0031】
ギ酸とシュウ酸の混合された除染液によりSUS304の母材溶解試験を実施した結果を図3に示す。ギ酸濃度44mmol L−1、シュウ酸濃度3.3 mmol L−1の混合除染液中で、直流電源の陰極にSUS304試験片を接続し、除染液中の陽極と試験片の間に電圧を与えた。
【0032】
試験条件は、混合除染液の温度を95℃一定とし、試験片の電位を−1000〜−500mVの範囲で変化させた(○印)。図の縦軸は試験片の溶解速度、横軸は試験片の電位を示す。図中には混合除染液中で電位制御なしの場合(●印)と、シュウ酸単独溶液中(濃度3.3 mmol L−1)で電位制御した場合(△印)の結果を比較のために併記した。
【0033】
混合除染液で試験片の電位−1000〜−500mV(○印)において、試験片の溶解速度は平均0.6mg cm−2−1であり、シュウ酸単独(△印)と同等の溶解速度が得られた。一方、混合除染液中に単純浸漬(電位制御なし)した場合(●印)は、ほとんど溶解しなかった。
【0034】
以上の試験結果より、除染対象物1を直流電源15の陰極に接続し、SUS304の腐食領域まで電位を下げることによって母材を溶解し、除染対象物1の母材中に入りこんだ放射性物質を除去することができることがわかる。
【0035】
混合除染液中のギ酸のモル分率を変化させて陽イオン交換樹脂により3価鉄の分離試験を実施した結果を図4に示す。図中の縦軸は混合除染液中の3価鉄濃度比(試験後/試験前)、横軸は混合除染液のギ酸のモル分率を示す。ギ酸のモル分率0.93以上において、全量の3価鉄が陽イオン交換樹脂により分離された。一方、モル分率0.91以下では3価鉄が残留し、モル分率の低下にしたがってほぼ直線的に残留3価鉄の濃度が増加した。
【0036】
化学除染剤として使用実績があるシュウ酸単独除染液では、3価鉄はシュウ酸と錯体を形成するため陽イオン交換樹脂で分離できない。鉄イオンを陽イオン交換樹脂で分離するためには紫外線を照射して3価鉄を2価鉄に還元する必要がある。これに対して、本発明におけるギ酸とシュウ酸の混合除染液では3価鉄も分離でき、しかも混合除染液のギ酸のモル分率が0.9以上であればほとんど全量の3価鉄が分離可能である。
【0037】
従って、本発明におけるギ酸とシュウ酸の混合除染液を使用することにより3価鉄の還元装置および還元工程が不要となるため、従来のシュウ酸単独の除染液による場合と比較して、除染工事全体費用の低減が可能となる。
【0038】
次に図5に本発明のギ酸とシュウ酸の混合水溶液と、従来のシュウ酸単独水溶液の分解試験結果を示す。試験条件は、シュウ酸単独水溶液(□印)が22mmol L−1、混合水溶液(△印、▽印)はギ酸が44 mmol L−1とシュウ酸が1.1mmol L−1、温度が90℃である、それぞれの水溶液にFeイオンを0.36 mmol L−1溶解させた。分解方法は、混合水溶液が最初に過酸化水素(添加量:1.5倍当量)によりギ酸を分解し(△印)、次にオゾン(O発生量/液量:75g/h/m)でシュウ酸を分解した(▽印)。シュウ酸単独水溶液は、紫外線(出力/液量:3kw/m)と過酸化水素(添加量:1.5倍当量)との併用で分解した。図5の縦軸は有機炭素濃度の初期値との比を表す。
【0039】
試験結果を従来例から説明すると、シュウ酸単独水溶液は過酸化水素と紫外線の併用により10時間で有機炭素濃度として0.8mmol L−1以下に分解できた。一方、本発明の混合水溶液はギ酸は過酸化水素単独で分解できるが、シュウ酸は過酸化水素単独では分解できない。そこでギ酸分解後に酸化処理に使用されるオゾンにより引き続き分解し、合計4時間弱で有機炭素濃度として0.8mmol L−1以下に分解できた。なお、シュウ酸は他の酸化性水溶液である過マンガン酸および過マンガン酸カリウムでも分解できる。
【0040】
ここで、ギ酸を酸化性水溶液で分解しない理由を以下に示す。
▲1▼オゾン単独でも分解できるが、過酸化水素と紫外線によるシュウ酸の分解と同程度の時間を要するため、分解時間の短縮にならない。
▲2▼過マンガン酸および過マンガン酸カリウムでは分解反応が非常に遅く、▲1▼以上の分解時間を要する。
【0041】
以上のように、混合水溶液は除染液として実績があるシュウ酸水溶液の半分程度の時間で分解できる。また、シュウ酸分解は従来技術で説明したように3価鉄を2価鉄にに還元する工程が必要であるが、混合水溶液の分解は還元工程が不要であるため、除染工事全体費用の低減が可能となる。
【0042】
次に図6に、除染対象物表面に生成している酸化皮膜の除去性能を確認するため、沸騰水型原子力発電所の一次系統の水質条件を模擬した高温水(288℃)に3,000h浸漬して酸化皮膜を付与したSUS304試験片の溶解試験を実施した結果を示す。
【0043】
試験手順は、オゾン水溶液により酸化処理(温度:80℃、O濃度:5ppm、時間:2h)し、次にギ酸とシュウ酸の混合水溶液(濃度:図3と同じ、温度:95℃、時間:1h)中で電位制御(−500mV vs Ag・AgCl)して母材を溶解した。比較のために混合水溶液(濃度:図3と同じ、温度:95℃、時間:1h)のみで電位制御(−500mV vs Ag・AgCl)した結果も併記した。
【0044】
図6からわかる様に、オゾン水による酸化処理を併用することにより(図中では酸化処理あり)、電位制御のみ(図中では酸化処理無し)と比較して重量減少は約3倍大きい結果が得られた。また、電位制御のみでは表層の酸化皮膜はほとんど残留したが、酸化処理を併用した場合はほとんどの酸化皮膜が除去された。
【0045】
除染対象物がステンレス鋼からなる場合、表面の酸化皮膜は鉄酸化物とクロム酸化物が主成分であり、ほとんどの放射性物質は酸化皮膜中に取り込まれている。クロム酸化物はオゾンなどの酸化剤で溶解され、鉄酸化物は次の図7に示すようにギ酸およびシュウ酸などの有機酸で還元溶解される。従って、本試験結果より、除染対象物から放射性物質を除去するためには、オゾン水溶液による酸化処理の併用が有効であることがわかる。なお、酸化処理はオゾン水に限らず過マンガン酸あるいは過マンガン酸塩の水溶液でも同様な効果がある。
【0046】
次に、酸化皮膜中の鉄酸化物の模擬としてヘマタイト(Fe)を選定し、この粉末を95℃の混合除染液に添加して溶解した鉄濃度を測定した結果を図7に示す。図中の縦軸は鉄の溶解速度(mmol L−1−1)、横軸は混合除染液のシュウ酸のモル分率で、モル分率が零の場合はギ酸単独を示す。また、点線は従来のシュウ酸単独除染液(22mmol/L)で試験した結果を示す。、ヘマタイトは、ギ酸単独ではほとんど溶解しないが、ギ酸にシュウ酸を添加することで溶解し、ほぼシュウ酸濃度に比例して溶解速度は向上した。また、シュウ酸のモル分率0.05以上で従来のシュウ酸単独除染液を上回る溶解速度が得られた。
【0047】
本試験結果より、本発明の混合除染液は酸化皮膜の主成分である鉄酸化物を溶解できることがわかった。鉄酸化物の溶解速度は除染性能に大きく影響するため、混合除染液は従来のシュウ酸単独除染液と同等以上の除染性能を有する。
【0048】
次にカチオン樹脂による除染液からの3価クロム分離試験の結果を図8により説明する。
除染対象物を酸化処理した際に除染液中に溶出した6価クロムを3価クロムに還元し、陽イオン交換樹脂で分離した。除染対象物の酸化皮膜中のクロム酸化物は、オゾン水で酸化処理すると前記(1)式に示した様にクロム酸イオン[CrO 2−]として溶解する。これにギ酸を44mmol L−1添加し、(2)式に示した様にクロム酸イオンを酸化力の強いニクロム酸イオンに変換した。次に過酸化水素を添加し、(3)式に示した様に6価クロムを3価クロムに還元した。残留する過酸化水素は紫外線で水に分解し、過酸化水素が残留していないことを確認して陽イオン交換樹脂塔に通水した。
【0049】
図8からわかる様に、3価クロムはギ酸と錯陰イオンを形成しがたいため、容易に陽イオン交換樹脂で分離することができ、本試験ではクロム濃度は7時間で0.01mmol L−1以下に低下した。
【0050】
上記のようにして、酸化処理除染液に溶出した有害な6価クロムは3価クロムに無害化でき、しかも陽イオン交換樹脂により除染液から容易に分離できる。6価クロムの状態でも陰イオン交換樹脂で分離できるが、6価クロムを吸着した陰イオン交換樹脂を処分した際に、6価クロムの溶離による処分施設またはその周辺環境への影響が懸念される。
【0051】
また、従来の6価クロムの還元方法は、還元剤として重亜硫酸ナトリウム(NaHSO)あるいは硫酸第一鉄(FeSO)を添加していた。この還元方法では、硫酸、ナトリウムおよび鉄が廃棄物となるため、還元処理にともなって二次廃棄物が増加する。本発明の還元方法では、ギ酸は炭酸ガスと水に分解できるため、還元処理に伴う二次廃棄物発生量を大幅に低減できる。
【0052】
以上をまとめると以下のようになる。ギ酸またはシュウ酸単独の水溶液でもステンレス鋼の腐食領域まで電位を下げると金属母材は溶解する。ただし、ギ酸単独では母材溶解速度が遅く、また放射性物質を含む酸化皮膜中の鉄酸化物はほとんど溶解しない。しかし、ギ酸水溶液中に溶解する2価鉄および3価鉄イオンはギ酸イオンと錯体を形成し難いため、陽イオン交換樹脂により容易に分離することができる。
【0053】
一方、従来から除染剤として使用実績があるシュウ酸は、母材溶解速度が速く、しかも鉄酸化物を還元し溶解する。しかしながら、3価鉄イオンはシュウ酸イオンと錯体を形成し易いため、陽イオン交換樹脂では分離できない。
【0054】
本発明は両者の長所を活かし、かつそれぞれの問題点を補うためにギ酸とシュウ酸の混合水溶液を適用するものであり、この除染液を使用することによりステンレス鋼の母材溶解速度は向上し、しかも3価鉄は陽イオン交換樹脂により分離できる。特に、混合除染液におけるギ酸のモル分率を0.9以上にすることで3価鉄の分離性能は向上する。これにより、シュウ酸単独使用時に必要であった3価鉄を2価鉄に還元する装置が不要となる。
【0055】
ギ酸は過酸化水素単独で短時間に分解できるが、シュウ酸は過酸化水素のみでは分解し難い。ギ酸分解後に残留するシュウ酸は、酸化処理に使用するオゾン、過マンガン酸および過マンガン酸カリウムにより分解する。ギ酸のモル分率は0.9以上であるため、短時間に分解することができる。
【0056】
除染対象物の表面の酸化皮膜中にクロム酸化物が含まれる場合、クロム酸化物はギ酸とシュウ酸の混合除染液では溶解され難いため、酸化皮膜中の放射性物質は除去され難い。除染性能を向上させるため、オゾン、過マンガン酸あるいは過マンガン酸塩による酸化処理を併用する。
【0057】
酸化処理で酸化皮膜から溶出したクロムは6価クロムとして除染液中に溶解している。6価クロムは有害なため、3価クロムに還元して無害化する必要がある。その手法としてギ酸を添加して除染液のpHを3以下にし、過酸化水素で6価クロムを3価クロムに還元する。ギ酸は過酸化水素により容易に炭酸ガスと水に分解できるため、還元処理にともなう二次廃棄物発生量を大幅に低減することができる。
【0058】
除染液中の3価クロム、2価ニッケル、2価鉄および3価鉄イオンは陽イオン交換樹脂で分離する。その際、除染液中に過酸化水素またはオゾンが残留していると、イオン交換樹脂が酸化劣化し、イオン交換樹脂の交換容量の低下および樹脂成分の除染液中への溶出などが起こる。これを防止するため、除染液に紫外線を照射して過酸化水素およびオゾンを分解する。
【0059】
本実施の形態によれば以下に示す効果がある。すなわち、ギ酸とシュウ酸の混合除染液3中でステンレス鋼製の除染対象物1と直流電源15の陰極を接続し、ステンレス鋼の腐食領域まで電位を下げて金属母材を溶解して除染するため、除染装置の腐食およびそれに伴う装置の故障を防止できる。
また、除染対象物1の表面の酸化皮膜は、酸化処理との組み合わせにより溶解除去できるため、金属母材の溶解が促進され、除染速度が向上する。
【0060】
また、酸化処理によって除染液3中に溶解する有害な6価クロムは、分解が容易なギ酸と過酸化水素で無害な3価クロムに還元できるため、還元処理に伴う二次廃棄物発生量を低減できる。
【0061】
さらに、混合除染液3のギ酸のモル分率を0.9以上にすることにより、3価鉄の還元装置および還元工程が不要となり、しかもこれら有機酸の分解時間が大幅に短縮されるため、除染工事全体費用を大幅に下げることができる。
【0062】
【発明の効果】
本発明によれば、除染速度が高く除染装置の腐食が少なく二次廃棄物発生量の少ない放射能の化学除染方法および装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の放射能の化学除染装置を示す系統図。
【図2】耐食合金における腐食電位の分極特性を示し、本発明が利用する現象を説明する図。
【図3】SUS304母材の溶解曲線を示し、本発明の効果を説明する図。
【図4】カチオン樹脂による3価鉄の分離曲線を示し、本発明の効果を説明する図。
【図5】混合除染液の分解曲線を示し、本発明の効果を説明する図。
【図6】SUS304酸化皮膜の除去量を示し、本発明の効果を説明する図。
【図7】鉄酸化物(ヘマタイト)の溶解曲線を示し、本発明の効果を説明する図。
【図8】カチオン樹脂による3価クロムの分離曲線を示し、本発明の効果を説明する図。
【符号の説明】
1…除染対象物、2…除染槽、3…除染液、4…循環ポンプ、5…ヒータ、6…除染剤供給装置、7…過酸化水素供給装置、8…液相分解装置、9…カチオン樹脂塔、10…混床樹脂塔、11…ミキサー、12…循環系統、13…絶縁板、14…耐食性金属架台、15…直流電源、16…電極、17…オゾン発生装置、18…排気ブロワー、19…気相分解塔、20…不感域、21…活性域、22…不動態域、23…二次不動態域、24…過不動態域。

Claims (10)

  1. 放射性物質で汚染された除染対象物をギ酸とシュウ酸からなる除染液に浸漬し前記除染対象物の電位を腐食領域まで下げて前記除染対象物の表面を溶解し、前記除染液中の金属イオンを陽イオン交換樹脂で分離し除去することを特徴とする放射能の化学除染方法。
  2. 前記除染液におけるギ酸のモル分率は0.9以上であることを特徴とする請求項1記載の放射能の化学除染方法。
  3. 前記除染液の廃液中に残留するギ酸は過酸化水素により、シュウ酸はオゾンあるいは過マンガン酸または過マンガン酸塩により、炭酸ガスと水に分解することを特徴とする請求項1記載の放射能の化学除染方法。
  4. 前記除染対象物の表面にクロム酸化物を含む酸化皮膜が生成または付着している場合は、前記除染対象物を酸化処理した後に前記除染液による除染を行うことを特徴とする請求項1記載の放射能の化学除染方法。
  5. 前記酸化処理に使用する酸化剤はオゾンあるいは過マンガン酸または過マンガン酸塩のいずれかであることを特徴とする請求項4記載の放射能の化学除染方法。
  6. 前記オゾンで酸化処理した後の廃液は、pH調整剤としてギ酸を、還元剤として過酸化水素を添加して、除染対象物から溶出した6価クロムを3価クロムに還元して処理することを特徴とする請求項5記載の放射能の化学除染方法。
  7. 前記廃液中に残留する過酸化水素またはオゾンは紫外線によって分解することを特徴とする請求項3または請求項6記載の放射能の化学除染方法。
  8. 前記廃液中に過酸化水素またはオゾンが残留していない状態にした後に、前記廃液中に溶解している金属イオンを陽イオン交換樹脂で分離し除去することを特徴とする請求項7記載の放射能の化学除染方法。
  9. 放射性物質で汚染された除染対象物を浸漬し化学除染する除染液を収容する除染槽と、前記除染対象物と前記除染液との間に電圧を与える直流電源と、前記除染槽に接続され前記除染液を循環する循環系統とを備え、前記循環系統は、前記除染液にギ酸とシュウ酸を供給する除染剤供給装置と、前記除染液に過酸化水素を供給する過酸化水素供給装置と、前記除染液に残留する過酸化水素およびオゾンを分解する液相分解装置と、前記除染液に含まれる金属イオンを分離し除去するイオン交換装置とを備えていることを特徴とする放射能の化学除染装置。
  10. 前記除染槽の底部に絶縁性の板が設けられ、この板の上に前記除染対象物を載置する耐食性の金属架台が設けられていることを特徴とする請求項9記載の放射能の化学除染装置。
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