JP2004223882A - 高光沢でオフセット印刷性良好な耐水性シート - Google Patents
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Abstract
【課題】インキ乾燥性、耐摩擦性に優れ、一般コート紙用インキを用いてオフセット印刷をすることができ、しかも、高光沢の耐水性シートを提供する。
【解決手段】複合紙の少なくとも一方の熱可塑製樹脂層表面、又は、合成紙の少なくとも一方の熱可塑製樹脂表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックスからなるインキ受理層を設ける。また、この耐水性シートに耐光性が必要とされる場合には、スチレンブタジエン系ラテックスとアクリル系樹脂からなるインキ受理層を、複合紙の少なくとも一方の熱可塑製樹脂層表面、又は、合成紙の少なくとも一方の熱可塑製樹脂表面に設ける。
【選択図】 なし
【解決手段】複合紙の少なくとも一方の熱可塑製樹脂層表面、又は、合成紙の少なくとも一方の熱可塑製樹脂表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックスからなるインキ受理層を設ける。また、この耐水性シートに耐光性が必要とされる場合には、スチレンブタジエン系ラテックスとアクリル系樹脂からなるインキ受理層を、複合紙の少なくとも一方の熱可塑製樹脂層表面、又は、合成紙の少なくとも一方の熱可塑製樹脂表面に設ける。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本願発明は、高光沢でオフセット印刷に適した耐水性シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、耐水性シートとしては、紙基材等に無機充填剤を含有する熱可塑性樹脂をラミネートした複合紙タイプのもの、熱可塑性樹脂に無機充填剤や発泡剤を練り込んで延伸した合成紙タイプのものが知られ、ポスター、ラベル、配送伝票、冷凍・冷蔵食品の包装等、耐水性が要求される各種分野で用いられている。
【0003】
しかし、これらの耐水性シートは、そのままでは表面にインキが殆ど染込まない。従って、これをオフセット印刷に用いた場合、印刷されたインキはシート表面に滞留してそのまま乾燥し、そのため、印刷後のシートを擦ったりすると、乾燥したインキがシート表面から剥がれ落ちたり、シート表面で砕けて印刷面を汚したりすることとなる。
【0004】
かかるトラブルを防止する方法の一つとして、シート表面に、より強固にインキ層を形成することが考えられる。例えば、市販の合成紙専用インキは、不飽和結合を多く含む植物油を主体とした溶剤を用い、酸化重合によってインキを固化させることで、シート表面のインキ層を強固なものとする。この合成紙専用インキは、合成紙のみならず複合紙にも用いることができ、これを用いれば、摩擦によっても消えたり汚れたりしない、優れた印刷面を得ることができる。一方、このインキは完全に固化するまでに非常に長い時間がかかり、印刷後、次工程に送るまでの待機時間を長く取らなければならない。この時間が不十分であると、印刷後のシートを積重ねて保存した場合に、シート表面のインキが、その上に積重ねられたシートの裏面に転移するという問題(裏付き)が発生する。また、このようなインキは、空気中の酸素と反応して固化するため、印刷中に固化が始まって印刷インキの粘度が上昇し、印刷機の安定的な操業を妨げることもある。
【0005】
そこで、耐水性シートのオフセット印刷性改良方法のもう一つとして、シート表面に無機顔料等の塗工層(インキ受理層)を設け、これにインキを吸収させることが考えられる。この方法であれば、一般のコート紙用に従来から汎用されているオフセット印刷用インキを用いて、耐摩擦性に優れた印刷面を得ることができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、無機顔料のインキ受理層を設ける場合は、シート表面を高光沢とすることが難しい。一方、耐水性シートの主要な用途であるポスターにおいては、何よりも美麗性が重要視されため、高光沢な面調が好まれる傾向にある。
【0007】
本願発明はかかる問題点を踏まえ、インキ乾燥性、耐摩擦性に優れ、一般コート紙用インキを用いてオフセット印刷をすることができ、しかも、高光沢の耐水性シートを提供することを目的としてなされたものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本願発明者らは鋭意研究の結果、複合紙や合成紙の表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックスからなるインキ受理層を設けることで、上記課題が解決できることを見出し、本願発明を完成した。
【0009】
即ち、本願発明は、シートの一方又は両方の最外層として熱可塑性樹脂層を有する積層シートの、少なくとも一方の該熱可塑性樹脂層表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックスからなるインキ受理層を設けたことを特徴とする耐水性シート、又は、熱可塑性樹脂からなるシートの、少なくとも一方の表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックスからなるインキ受理層を設けたことを特徴とする耐水性シートに関する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本願発明においてインキ受理層を設ける積層シートは、シートの一方又は両方の最外層として熱可塑性樹脂層を有するものであればどのようなものであってもよい。即ち、シートの一方の最外層が熱可塑性樹脂層であれば、シートの他方は基材が露出していても、熱可塑性樹脂層が積層されていても、どちらでも構わない。シートの両方の最外層として熱可塑性樹脂層を有する場合には、これらの層が、それぞれ異なる種類・組成の熱可塑性樹脂で形成されていても構わない。なお、かかる基材と最外層の熱可塑性樹脂層との間に、他の層が存在していても構わない。
【0011】
例えば、本願発明の積層シートは、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂の単独又は共重合体を用い、これを紙、不織布、布、金属箔、合成樹脂フィルムもしくはシート、又はこれらの複合素材からなる基材に、押出しラミネーション、共押出しラミネーション、ドライラミネーション、ウェットラミネーション等、公知の方法を用いて積層することにより製造できる。
【0012】
また、本願発明においては、上記積層シートの代わりに、熱可塑性樹脂からなるシートを用いることもできる。かかるシートとしては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニルもしくはこれらの混合物等からなる延伸シート、又は、これらの熱可塑性樹脂もしくは混合物に無機充填剤や発泡剤を練り込んで延伸することにより外観を紙様としたシートを用いることができる。
【0013】
本願発明においては、上記積層シートの少なくとも一方の熱可塑性樹脂層表面に、又は、上記熱可塑性樹脂シートの少なくとも一方の表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックスからなるインキ受理層を設けることで、インキ乾燥性、耐摩擦性に優れ、しかも、高光沢の耐水性シートを得る。
【0014】
スチレン−ブタジエン系ラテックスとは、スチレン及びブタジエンを主たる単量体成分とする共重合体のエマルジョンであって、通常は、スチレンとブタジエン以外に他の単量体成分をも含んでいる。本願発明においては、スチレン−ブタジエン系ラテックスであれば、他の単量体成分の如何に関わらず使用することができるが、インキ乾燥性をより万全なものとするためには、ガラス転移点(Tg)10℃以下のものを用いることが好ましい。
【0015】
なお、本願発明の耐水性シートを屋外ポスター等の用途に使用する場合には、印刷面の耐光性も必要とされるが、この場合には、スチレン−ブタジエン系ラテックスと共に、アクリル系樹脂をも用いればよい。即ち、前記積層シートの少なくとも一方の熱可塑性樹脂層表面に、又は、上記熱可塑性樹脂シートの少なくとも一方の表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックス及びアクリル系樹脂からなるインキ受理層を設けることにより、インキ乾燥性、耐摩擦性に優れ、高光沢であるばかりではなく、耐光性にも優れた耐水性シートを得ることができる。
【0016】
このとき、スチレン−ブタジエン系ラテックスとアクリル系樹脂との混合比率は、インキ乾燥性と耐光性のバランスをとる観点から5:95〜40:60が好ましい。スチレン−ブタジエン系ラテックスの混合割合が5:95より少なくなるとインキ乾燥性が劣り、アクリル系樹脂の混合割合が40:60よりも少なくなると、屋外ポスター用途として必要な耐光性が得られ難くなる。特に好ましいスチレン−ブタジエン系ラテックスとアクリル系樹脂との混合比率は、15:85〜25:75である。
【0017】
なお、ここでアクリル系樹脂とは、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体の重合体若しくは共重合体、又はアクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体とスチレン、ウレタン等との共重合体、又は上記重合体若しくは共重合体の変性物をいう。本願発明においては、かかるアクリル系樹脂を、スチレン−ブタジエン系ラテックスとの混和性を勘案して適宜選択すればよい。また、混和性のみならず、前記熱可塑性樹脂層表面又は熱可塑性樹脂シート表面との接着性、オフセットインキとの接着性等においても優れたものを選べば、このアクリル系樹脂は、本願発明のインキ受理層に耐光性を付与すると共に、インキ受理層の良好なバインダーとしても働くこととなる。
【0018】
インキ受理層は、上記スチレン−ブタジエン系ラテックス、又は、上記スチレン−ブタジエン系ラテックスとアクリル系樹脂、そして必要に応じてその他の添加剤を水系で分散させ、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、ダイコーター等を用いて、熱可塑性樹脂層又は熱可塑性樹脂シートの表面に塗工することにより設けることができる。塗工量は、インキ乾燥性と経済性の観点から0.5〜10g/m2(乾燥重量、以下同じ。)が好ましい。
【0019】
本願発明において、耐水性シートの基材や熱可塑性樹脂層、熱可塑性樹脂シート、そしてインキ受理層には、上記した以外にも一般的に使用される種々の添加剤を添加することができる。これらの添加剤としては、例えば、帯電防止剤、顔料(酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ等の無機填料等)、耐ブロッキング剤(アクリルビーズ、ガラスビーズ、シリカ等)などがある。但し、インキ受理層に顔料等を添加すると、シート表面の光沢が低下するため、原則として、本願発明のインキ受理層には顔料を添加しない。添加するとしても、その高光沢性を損ねない程度の量にとどめる必要がある。なお、本願発明において高光沢とは、JIS P−8142に準じた測定法により光沢度75度以上を示すことをいう。
【0020】
【作用】
スチレン−ブタジエン系ラテックスは、通常、塗工紙や、本願発明の対象である複合紙又は合成紙の塗工層(インキ受理層)において、バインダーとして用いられる。この場合において、これらの塗工層には、スチレン−ブタジエン系ラテックスと共に白色顔料、例えば、酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ等の無機填料が混合されており、塗工層のインキ吸収能を担うのは、これらの無機填料であると考えられていた。
【0021】
しかしながら、本願発明者らは、スチレン−ブタジエン系ラテックス自体が優れたインキ吸収能を有することを見出し、複合紙又は合成紙の表面に、このスチレン−ブタジエン系ラテックスからなるインキ受理層を設けることで、インキ吸収性、即ちインキ乾燥性に優れた耐水性シートを得たのである。スチレン−ブタジエン系ラテックスが優れたインキ吸収能を有する理由は明らかではない。しかし、おそらくは、その比較的緩やかな結晶構造に起因するものと考えられる。
【0022】
即ち、本願発明のインキ受理層には、無機填料等を添加してインキ吸収能を付与する必要がない。このため、耐水性シート表面を高光沢とすることができる。また、スチレン−ブタジエン系ラテックスは、そもそもバインダーとして用いられるものであるので、このインキ受理層は十分な耐摩擦性を備えている。
【0023】
更に、本願発明においては、インキ受理層に、スチレン−ブタジエン系ラテックスと共にアクリル系樹脂を配合することで、耐水性シートに耐光性をも付与することができる。スチレン−ブタジエン系ラテックスのインキ吸収能が高いため、ここではアクリル系樹脂をかなり多く配合してもインキ受理層のインキ乾燥性が損なわれることはない。なお、アクリル系樹脂の中にも、ある程度のインキ吸収能を有するものがあるので、スチレン−ブタジエン系ラテックスと共にインキ受理層に配合するアクリル系樹脂として、こうした樹脂を用いてもよい。また、アクリル系樹脂を配合することで、シート間のブロッキングが起こり難くなる。
【0024】
【実施例】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0025】
なお、実施例及び比較例において、インキ乾燥性、光沢度及び耐光性は、以下のようにして評価を行った。
【0026】
インキ乾燥性
得られた耐水性シートについて、コート紙用に汎用されているオフセット印刷用インキ(東洋インキ(株)製『ハイエコー紅』)を用い、RI型印刷機((株)明製作所製RI−3)にてインキ盛り量0.5ccで印刷を行った。15分経過後、その印刷面にコート紙を重ね、重さ6.5kg、巾2.5cmのローラーで荷重を加えた後、コート紙に転写されたインキ濃度をカラー反射濃度計(X−RITE 418 日本平版機材株式会社)にて測定し、このときのインキ転写濃度をインキ乾燥性の指標とした。インキ転写濃度が0.1以下であれば、インキ乾燥性は良好と言える。
【0027】
なお、印刷は、耐水性シートにインキ受理層が設けられている場合には、そのインキ受理層表面に行い、インキ受理層が設けられていない場合には熱可塑性樹脂層又は熱可塑性樹脂シート表面に直接行った。
【0028】
光沢度
JIS P−8142に従い、印刷前の耐水性シートについて測定を行った。
【0029】
耐光性
JIS B−7751に準じ、フェードメーター(スガ試験器製『FAL−AU』)にて、印刷前の耐水性シートに200時間紫外線を照射し、照射後のシート表面の変色を目視にて観察して、以下の基準で評価した。
○:変色が観察されなかった
×:変色が観察された
【0030】
[実施例1]
予め溶融したポリプロピレン(MFR25g/10分、密度0.91g/cm3)90重量部に酸化チタン10重量部を添加混合しておき、この酸化チタン含有ポリプロピレンと酸化チタン不含のポリプロピレン(ポリプロピレンのMFR及び密度は、特に示さない限り、上記に同じ。)とを、坪量81g/m2の上質紙の両面に、酸化チタン不含ポリプロピレンが上質紙側に位置するように、Tダイを用いて押出温度290℃にて共押出しラミネートを行い、鏡面仕上げのクーリングロールで圧着して耐水性積層シートを作成し、次いで、この耐水性積層シートの両面にコロナ放電処理を行った。なお、このとき耐水性積層シートの両面に積層された酸化チタン含有ポリプロピレン層と酸化チタン不含ポリプロピレン層の厚さは、それぞれ15μmであった。
【0031】
一方、アニオン性スチレン−アクリル系共重合体の水系分散液(濃度40%、平均粒径0.19μm)80重量部及びスチレン−ブタジエン系ラテックス(Tg −44℃、日本ゼオン(株)製)の水系分散液(濃度40%、平均粒径0.4μm、)20重量部を混合して塗工液を調製し、この塗工液7g/m2を上記耐水性積層シートの両面にグラビアコーターにて塗工して、インキ受理層を設けた。
【0032】
得られた耐水性積層シートにつき、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した結果を表1に示す。
【0033】
[実施例2]
スチレン−ブタジエン系ラテックスとしてTg0℃のもの(日本ゼオン(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様にして耐水性積層シートを作成し、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した。
結果を表1に示す。
【0034】
[実施例3]
厚さ140μmのポリプロピレンからなる白色シートの両面にインキ受理層を設けた以外は、実施例1と同様にして耐水性シートを作成し、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した。
結果を表1に示す。
【0035】
[実施例4]
塗工液を、スチレン−アクリル系共重合体の水系分散液20重量部とスチレン−ブタジエン系ラテックスの水系分散液80重量部とを混合して調整した以外は、実施例1と同様にして耐水性積層シートを作成し、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した。
結果を表1に示す。
【0036】
[実施例5]
スチレン−ブタジエン系ラテックスの水系分散液のみからなる塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして耐水性積層シートを作成し、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した。
結果を表1に示す。
【0037】
[実施例6]
塗工液を、スチレン−アクリル系共重合体の水系分散液98重量部とスチレン−ブタジエン系ラテックスの水系分散液2重量部とを混合して調整した以外は、実施例1と同様にして耐水性積層シートを作成し、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した。
結果を表1に示す。
【0038】
[比較例1]
インキ受理層を設けていない耐水性積層シートについて、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した。
結果を表1に示す。
【0039】
[比較例2]
実施例3で用いたポリプロピレンからなる白色シートについて、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した。
結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例1〜6より明らかなように、本願発明の耐水性シートは優れたインキ乾燥性と高光沢を示した。また、インキ受理層に配合されたスチレン−アクリル系共重合体の混合割合が、スチレン−ブタジエン系ラテックスに対して60:40以上である耐水性シートは、耐光性も良好であった(実施例1〜3及び6)。一方、本願発明のインキ受理層を設けていない耐水性シートにおいてはインキ乾燥性が悪く、汎用インキでの印刷に適さないものであった(比較例1及び2)。
【0042】
【発明の効果】
本願発明の耐水性シートは、優れたインキ乾燥性を示すインキ受理層が設けられているので、このインキ受理層を印刷面として、汎用インキを用い、オフセット印刷等を行うことができる。
【0043】
しかも、このインキ受理層は十分な耐摩擦性を示し、インキ乾燥性は無機填料等を添加しなくとも発揮される。
【0044】
従って、本願発明によれば、インキ乾燥性、耐摩擦性に優れ、一般コート紙用インキを用いてオフセット印刷をすることができ、しかも、高光沢の耐水性シートが提供される。
【発明の属する技術分野】
本願発明は、高光沢でオフセット印刷に適した耐水性シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、耐水性シートとしては、紙基材等に無機充填剤を含有する熱可塑性樹脂をラミネートした複合紙タイプのもの、熱可塑性樹脂に無機充填剤や発泡剤を練り込んで延伸した合成紙タイプのものが知られ、ポスター、ラベル、配送伝票、冷凍・冷蔵食品の包装等、耐水性が要求される各種分野で用いられている。
【0003】
しかし、これらの耐水性シートは、そのままでは表面にインキが殆ど染込まない。従って、これをオフセット印刷に用いた場合、印刷されたインキはシート表面に滞留してそのまま乾燥し、そのため、印刷後のシートを擦ったりすると、乾燥したインキがシート表面から剥がれ落ちたり、シート表面で砕けて印刷面を汚したりすることとなる。
【0004】
かかるトラブルを防止する方法の一つとして、シート表面に、より強固にインキ層を形成することが考えられる。例えば、市販の合成紙専用インキは、不飽和結合を多く含む植物油を主体とした溶剤を用い、酸化重合によってインキを固化させることで、シート表面のインキ層を強固なものとする。この合成紙専用インキは、合成紙のみならず複合紙にも用いることができ、これを用いれば、摩擦によっても消えたり汚れたりしない、優れた印刷面を得ることができる。一方、このインキは完全に固化するまでに非常に長い時間がかかり、印刷後、次工程に送るまでの待機時間を長く取らなければならない。この時間が不十分であると、印刷後のシートを積重ねて保存した場合に、シート表面のインキが、その上に積重ねられたシートの裏面に転移するという問題(裏付き)が発生する。また、このようなインキは、空気中の酸素と反応して固化するため、印刷中に固化が始まって印刷インキの粘度が上昇し、印刷機の安定的な操業を妨げることもある。
【0005】
そこで、耐水性シートのオフセット印刷性改良方法のもう一つとして、シート表面に無機顔料等の塗工層(インキ受理層)を設け、これにインキを吸収させることが考えられる。この方法であれば、一般のコート紙用に従来から汎用されているオフセット印刷用インキを用いて、耐摩擦性に優れた印刷面を得ることができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、無機顔料のインキ受理層を設ける場合は、シート表面を高光沢とすることが難しい。一方、耐水性シートの主要な用途であるポスターにおいては、何よりも美麗性が重要視されため、高光沢な面調が好まれる傾向にある。
【0007】
本願発明はかかる問題点を踏まえ、インキ乾燥性、耐摩擦性に優れ、一般コート紙用インキを用いてオフセット印刷をすることができ、しかも、高光沢の耐水性シートを提供することを目的としてなされたものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本願発明者らは鋭意研究の結果、複合紙や合成紙の表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックスからなるインキ受理層を設けることで、上記課題が解決できることを見出し、本願発明を完成した。
【0009】
即ち、本願発明は、シートの一方又は両方の最外層として熱可塑性樹脂層を有する積層シートの、少なくとも一方の該熱可塑性樹脂層表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックスからなるインキ受理層を設けたことを特徴とする耐水性シート、又は、熱可塑性樹脂からなるシートの、少なくとも一方の表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックスからなるインキ受理層を設けたことを特徴とする耐水性シートに関する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本願発明においてインキ受理層を設ける積層シートは、シートの一方又は両方の最外層として熱可塑性樹脂層を有するものであればどのようなものであってもよい。即ち、シートの一方の最外層が熱可塑性樹脂層であれば、シートの他方は基材が露出していても、熱可塑性樹脂層が積層されていても、どちらでも構わない。シートの両方の最外層として熱可塑性樹脂層を有する場合には、これらの層が、それぞれ異なる種類・組成の熱可塑性樹脂で形成されていても構わない。なお、かかる基材と最外層の熱可塑性樹脂層との間に、他の層が存在していても構わない。
【0011】
例えば、本願発明の積層シートは、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂の単独又は共重合体を用い、これを紙、不織布、布、金属箔、合成樹脂フィルムもしくはシート、又はこれらの複合素材からなる基材に、押出しラミネーション、共押出しラミネーション、ドライラミネーション、ウェットラミネーション等、公知の方法を用いて積層することにより製造できる。
【0012】
また、本願発明においては、上記積層シートの代わりに、熱可塑性樹脂からなるシートを用いることもできる。かかるシートとしては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、塩化ビニルもしくはこれらの混合物等からなる延伸シート、又は、これらの熱可塑性樹脂もしくは混合物に無機充填剤や発泡剤を練り込んで延伸することにより外観を紙様としたシートを用いることができる。
【0013】
本願発明においては、上記積層シートの少なくとも一方の熱可塑性樹脂層表面に、又は、上記熱可塑性樹脂シートの少なくとも一方の表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックスからなるインキ受理層を設けることで、インキ乾燥性、耐摩擦性に優れ、しかも、高光沢の耐水性シートを得る。
【0014】
スチレン−ブタジエン系ラテックスとは、スチレン及びブタジエンを主たる単量体成分とする共重合体のエマルジョンであって、通常は、スチレンとブタジエン以外に他の単量体成分をも含んでいる。本願発明においては、スチレン−ブタジエン系ラテックスであれば、他の単量体成分の如何に関わらず使用することができるが、インキ乾燥性をより万全なものとするためには、ガラス転移点(Tg)10℃以下のものを用いることが好ましい。
【0015】
なお、本願発明の耐水性シートを屋外ポスター等の用途に使用する場合には、印刷面の耐光性も必要とされるが、この場合には、スチレン−ブタジエン系ラテックスと共に、アクリル系樹脂をも用いればよい。即ち、前記積層シートの少なくとも一方の熱可塑性樹脂層表面に、又は、上記熱可塑性樹脂シートの少なくとも一方の表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックス及びアクリル系樹脂からなるインキ受理層を設けることにより、インキ乾燥性、耐摩擦性に優れ、高光沢であるばかりではなく、耐光性にも優れた耐水性シートを得ることができる。
【0016】
このとき、スチレン−ブタジエン系ラテックスとアクリル系樹脂との混合比率は、インキ乾燥性と耐光性のバランスをとる観点から5:95〜40:60が好ましい。スチレン−ブタジエン系ラテックスの混合割合が5:95より少なくなるとインキ乾燥性が劣り、アクリル系樹脂の混合割合が40:60よりも少なくなると、屋外ポスター用途として必要な耐光性が得られ難くなる。特に好ましいスチレン−ブタジエン系ラテックスとアクリル系樹脂との混合比率は、15:85〜25:75である。
【0017】
なお、ここでアクリル系樹脂とは、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体の重合体若しくは共重合体、又はアクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体とスチレン、ウレタン等との共重合体、又は上記重合体若しくは共重合体の変性物をいう。本願発明においては、かかるアクリル系樹脂を、スチレン−ブタジエン系ラテックスとの混和性を勘案して適宜選択すればよい。また、混和性のみならず、前記熱可塑性樹脂層表面又は熱可塑性樹脂シート表面との接着性、オフセットインキとの接着性等においても優れたものを選べば、このアクリル系樹脂は、本願発明のインキ受理層に耐光性を付与すると共に、インキ受理層の良好なバインダーとしても働くこととなる。
【0018】
インキ受理層は、上記スチレン−ブタジエン系ラテックス、又は、上記スチレン−ブタジエン系ラテックスとアクリル系樹脂、そして必要に応じてその他の添加剤を水系で分散させ、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、カーテンコーター、グラビアコーター、ダイコーター等を用いて、熱可塑性樹脂層又は熱可塑性樹脂シートの表面に塗工することにより設けることができる。塗工量は、インキ乾燥性と経済性の観点から0.5〜10g/m2(乾燥重量、以下同じ。)が好ましい。
【0019】
本願発明において、耐水性シートの基材や熱可塑性樹脂層、熱可塑性樹脂シート、そしてインキ受理層には、上記した以外にも一般的に使用される種々の添加剤を添加することができる。これらの添加剤としては、例えば、帯電防止剤、顔料(酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ等の無機填料等)、耐ブロッキング剤(アクリルビーズ、ガラスビーズ、シリカ等)などがある。但し、インキ受理層に顔料等を添加すると、シート表面の光沢が低下するため、原則として、本願発明のインキ受理層には顔料を添加しない。添加するとしても、その高光沢性を損ねない程度の量にとどめる必要がある。なお、本願発明において高光沢とは、JIS P−8142に準じた測定法により光沢度75度以上を示すことをいう。
【0020】
【作用】
スチレン−ブタジエン系ラテックスは、通常、塗工紙や、本願発明の対象である複合紙又は合成紙の塗工層(インキ受理層)において、バインダーとして用いられる。この場合において、これらの塗工層には、スチレン−ブタジエン系ラテックスと共に白色顔料、例えば、酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、タルク、シリカ等の無機填料が混合されており、塗工層のインキ吸収能を担うのは、これらの無機填料であると考えられていた。
【0021】
しかしながら、本願発明者らは、スチレン−ブタジエン系ラテックス自体が優れたインキ吸収能を有することを見出し、複合紙又は合成紙の表面に、このスチレン−ブタジエン系ラテックスからなるインキ受理層を設けることで、インキ吸収性、即ちインキ乾燥性に優れた耐水性シートを得たのである。スチレン−ブタジエン系ラテックスが優れたインキ吸収能を有する理由は明らかではない。しかし、おそらくは、その比較的緩やかな結晶構造に起因するものと考えられる。
【0022】
即ち、本願発明のインキ受理層には、無機填料等を添加してインキ吸収能を付与する必要がない。このため、耐水性シート表面を高光沢とすることができる。また、スチレン−ブタジエン系ラテックスは、そもそもバインダーとして用いられるものであるので、このインキ受理層は十分な耐摩擦性を備えている。
【0023】
更に、本願発明においては、インキ受理層に、スチレン−ブタジエン系ラテックスと共にアクリル系樹脂を配合することで、耐水性シートに耐光性をも付与することができる。スチレン−ブタジエン系ラテックスのインキ吸収能が高いため、ここではアクリル系樹脂をかなり多く配合してもインキ受理層のインキ乾燥性が損なわれることはない。なお、アクリル系樹脂の中にも、ある程度のインキ吸収能を有するものがあるので、スチレン−ブタジエン系ラテックスと共にインキ受理層に配合するアクリル系樹脂として、こうした樹脂を用いてもよい。また、アクリル系樹脂を配合することで、シート間のブロッキングが起こり難くなる。
【0024】
【実施例】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。
【0025】
なお、実施例及び比較例において、インキ乾燥性、光沢度及び耐光性は、以下のようにして評価を行った。
【0026】
インキ乾燥性
得られた耐水性シートについて、コート紙用に汎用されているオフセット印刷用インキ(東洋インキ(株)製『ハイエコー紅』)を用い、RI型印刷機((株)明製作所製RI−3)にてインキ盛り量0.5ccで印刷を行った。15分経過後、その印刷面にコート紙を重ね、重さ6.5kg、巾2.5cmのローラーで荷重を加えた後、コート紙に転写されたインキ濃度をカラー反射濃度計(X−RITE 418 日本平版機材株式会社)にて測定し、このときのインキ転写濃度をインキ乾燥性の指標とした。インキ転写濃度が0.1以下であれば、インキ乾燥性は良好と言える。
【0027】
なお、印刷は、耐水性シートにインキ受理層が設けられている場合には、そのインキ受理層表面に行い、インキ受理層が設けられていない場合には熱可塑性樹脂層又は熱可塑性樹脂シート表面に直接行った。
【0028】
光沢度
JIS P−8142に従い、印刷前の耐水性シートについて測定を行った。
【0029】
耐光性
JIS B−7751に準じ、フェードメーター(スガ試験器製『FAL−AU』)にて、印刷前の耐水性シートに200時間紫外線を照射し、照射後のシート表面の変色を目視にて観察して、以下の基準で評価した。
○:変色が観察されなかった
×:変色が観察された
【0030】
[実施例1]
予め溶融したポリプロピレン(MFR25g/10分、密度0.91g/cm3)90重量部に酸化チタン10重量部を添加混合しておき、この酸化チタン含有ポリプロピレンと酸化チタン不含のポリプロピレン(ポリプロピレンのMFR及び密度は、特に示さない限り、上記に同じ。)とを、坪量81g/m2の上質紙の両面に、酸化チタン不含ポリプロピレンが上質紙側に位置するように、Tダイを用いて押出温度290℃にて共押出しラミネートを行い、鏡面仕上げのクーリングロールで圧着して耐水性積層シートを作成し、次いで、この耐水性積層シートの両面にコロナ放電処理を行った。なお、このとき耐水性積層シートの両面に積層された酸化チタン含有ポリプロピレン層と酸化チタン不含ポリプロピレン層の厚さは、それぞれ15μmであった。
【0031】
一方、アニオン性スチレン−アクリル系共重合体の水系分散液(濃度40%、平均粒径0.19μm)80重量部及びスチレン−ブタジエン系ラテックス(Tg −44℃、日本ゼオン(株)製)の水系分散液(濃度40%、平均粒径0.4μm、)20重量部を混合して塗工液を調製し、この塗工液7g/m2を上記耐水性積層シートの両面にグラビアコーターにて塗工して、インキ受理層を設けた。
【0032】
得られた耐水性積層シートにつき、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した結果を表1に示す。
【0033】
[実施例2]
スチレン−ブタジエン系ラテックスとしてTg0℃のもの(日本ゼオン(株)製)を用いた以外は、実施例1と同様にして耐水性積層シートを作成し、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した。
結果を表1に示す。
【0034】
[実施例3]
厚さ140μmのポリプロピレンからなる白色シートの両面にインキ受理層を設けた以外は、実施例1と同様にして耐水性シートを作成し、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した。
結果を表1に示す。
【0035】
[実施例4]
塗工液を、スチレン−アクリル系共重合体の水系分散液20重量部とスチレン−ブタジエン系ラテックスの水系分散液80重量部とを混合して調整した以外は、実施例1と同様にして耐水性積層シートを作成し、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した。
結果を表1に示す。
【0036】
[実施例5]
スチレン−ブタジエン系ラテックスの水系分散液のみからなる塗工液を用いた以外は、実施例1と同様にして耐水性積層シートを作成し、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した。
結果を表1に示す。
【0037】
[実施例6]
塗工液を、スチレン−アクリル系共重合体の水系分散液98重量部とスチレン−ブタジエン系ラテックスの水系分散液2重量部とを混合して調整した以外は、実施例1と同様にして耐水性積層シートを作成し、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した。
結果を表1に示す。
【0038】
[比較例1]
インキ受理層を設けていない耐水性積層シートについて、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した。
結果を表1に示す。
【0039】
[比較例2]
実施例3で用いたポリプロピレンからなる白色シートについて、インキ乾燥性、光沢度、耐光性を評価した。
結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例1〜6より明らかなように、本願発明の耐水性シートは優れたインキ乾燥性と高光沢を示した。また、インキ受理層に配合されたスチレン−アクリル系共重合体の混合割合が、スチレン−ブタジエン系ラテックスに対して60:40以上である耐水性シートは、耐光性も良好であった(実施例1〜3及び6)。一方、本願発明のインキ受理層を設けていない耐水性シートにおいてはインキ乾燥性が悪く、汎用インキでの印刷に適さないものであった(比較例1及び2)。
【0042】
【発明の効果】
本願発明の耐水性シートは、優れたインキ乾燥性を示すインキ受理層が設けられているので、このインキ受理層を印刷面として、汎用インキを用い、オフセット印刷等を行うことができる。
【0043】
しかも、このインキ受理層は十分な耐摩擦性を示し、インキ乾燥性は無機填料等を添加しなくとも発揮される。
【0044】
従って、本願発明によれば、インキ乾燥性、耐摩擦性に優れ、一般コート紙用インキを用いてオフセット印刷をすることができ、しかも、高光沢の耐水性シートが提供される。
Claims (6)
- シートの一方又は両方の最外層として熱可塑性樹脂層を有する積層シートの、少なくとも一方の該熱可塑性樹脂層表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックスからなるインキ受理層を設けたことを特徴とする、耐水性シート。
- 熱可塑性樹脂からなるシートの、少なくとも一方の表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックスからなるインキ受理層を設けたことを特徴とする、耐水性シート。
- シートの一方又は両方の最外層として熱可塑性樹脂層を有する積層シートの、少なくとも一方の該熱可塑性樹脂層表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックス及びアクリル系樹脂からなるインキ受理層を設けたことを特徴とする、耐水性シート。
- 熱可塑性樹脂からなるシートの、少なくとも一方の表面に、スチレン−ブタジエン系ラテックス及びアクリル系樹脂からなるインキ受理層を設けたことを特徴とする、耐水性シート。
- スチレン−ブタジエン系ラテックスとアクリル系樹脂との混合比率が5:95〜40:60である、請求項3又は4に記載の耐水性シート。
- スチレン−ブタジエン系ラテックスとしてガラス転移点10℃以下のものを用いる、請求項1、2、3、4又は5に記載の耐水性シート。
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