JP2004152008A - 状態観測器を備えた位置決め装置 - Google Patents

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康治 米田
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Abstract

【課題】プラントの線形状態空間モデルが設定されプラントの状態量を推定する状態観測器を備えた位置決め装置のロバスト性を保ちつつ外乱を抑制できるようにする。
【解決手段】プラントに加えられる外乱トルクを推定し推定外乱トルクに相当するq軸電流を示す出力を生成する外乱オブザーバ(6)と、制御器(4)の出力(Iq_pid)と外乱オブザーバの出力(Iq_do)を加算する加算器(5)とを設ける。加算器の出力(Iq)がプラントへ提供され、制御器の出力と実測位置信号(θ)が状態観測器(23)へ提供され、加算器の出力とフィードバック速度信号が外乱オブザーバへ提供される。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、工作機械のテーブルやヘッド等を駆動するモータを含む位置決め装置に関する。本発明は、特に、モータを含むプラントの入力と出力を用いてプラントのシステムの状態を推定する状態観測器を備えた位置決め装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
状態観測器を備えた位置決め装置が例えば特許文献1に開示されている。制御対象であるプラントの状態空間モデルが状態観測器内に設定されている。プラントの入力と出力が状態観測器へ提供され、状態観測器はプラントの状態量を推定する。特許文献1では、状態観測器は推定速度を示す出力を生成する。モータ駆動用の電流がプラントの入力として検出される。プラントの出力は、エンコーダの出力パルスの計数値である検出位置信号である。位置制御器が指令位置と検出位置との偏差に応答して指令速度を求める。電流制御器が指令速度と推定速度との偏差に応答して指令電流を求める。検出速度の代わりに推定速度が指令速度と比較されるので、電流制御器は低速度領域においても滑らかに電流を制御できる。
【0003】
プラントの一例を示して、状態観測器を以下に説明する。プラントは、運動方程式が数1式のように与えられる回転モータとその負荷を含むものとする。
【数1】
Figure 2004152008
ここで、J、θ、Kt、Dは、モータの慣性モーメント、角度、トルク定数、粘性摩擦係数を表し、Iqはモータに印加されるq軸電流を表す。
【0004】
モータの粘性摩擦係数は非常に小さいと予測できるために、D=0とする。こうして数1式の右辺第2項を無視すると、運動方程式は数2式により与えられる。
【数2】
Figure 2004152008
【0005】
数2式により与えられた運動方程式と、観測方程式とにより、プラントのシステムは、数3式の状態空間モデルによって表される。実際に模擬実験に用いたモータの仕様に基づいて、J=0.74*10−4(kg・m)、Kt=0.53(N・m/A)とした。
【数3】
Figure 2004152008
【0006】
状態量xのすべてを実測することはできないので、プラントの入力と出力に応答し数3式の状態空間モデルに基づいて状態量を推定する状態観測器を設計する。
システムは、数4式により可制御行列の行列式det(V)が0でないので可制御である。
【数4】
Figure 2004152008
また、数5式により可観測行列の行列式det(W)が0でないのでシステムは可観測である。
【数5】
Figure 2004152008
【0007】
状態観測器は数3式により与えられた状態空間モデルから、数6式のように状態量xの推定値x^を求める。
【数6】
Figure 2004152008
数6式中のTは転置行列を示す。状態量xと推定状態量x^との偏差eを次の数7式のようにおくと、数3式と数6式から、数8式が得られる。
【数7】
Figure 2004152008
【数8】
Figure 2004152008
【0008】
(A−HC)を漸近安定とすることができれば、eはゼロに収束し推定状態量x^は時間の経過とともに実際の状態量xに等しくなる。従って、推定状態量x^を真の状態量xとして状態フィードバックに利用することができる。いま、(A、C)が可観測であれば(A−HC)の極を任意に決定できる行列Hが存在することから、数8式を安定化するオブザーバゲインHは必ず存在する。
【0009】
数6式から状態観測器を数9式のように書き直すことができる。
【数9】
Figure 2004152008
【0010】
図5のブロック線図は、回転モータとその負荷とを含むプラント1と、状態量xを推定する状態観測器21と、フィードバックされた状態量に基づいて操作量uを求めるPID制御器とを備えた位置決め装置を示している。数3式の線形状態空間モデルが状態観測器21内に設定されている。状態観測器21は、操作量uと制御量yを入力して推定状態量x^を求める。PID制御器3はプラント1へ操作量u、すなわちモータ駆動用のq軸電流Iqを示す出力を生成する。ロータリエンコーダ等の適当なセンサがプラント1の制御量y、すなわちモータの回転角度位置θを実測して実測位置信号θを生成する。プラント1の入力Iqと実測位置信号θが状態観測器21へ提供され、状態観測器21は推定位置θ^と推定速度θ^を示す出力を生成する。推定位置信号θ^と指令位置信号θrが比較器3へ提供され、比較器3は位置偏差εを示す出力をPID制御器4へ提供する。推定速度信号θ^もPID制御器4へ提供される。PID制御器4は位置偏差εを零に近づけるために比例、積分、微分動作を行うことができる。PID制御器4は位置偏差εに応答して指令速度を算出し、指令速度と推定速度θ^との偏差に応答してq軸電流Iqを示す出力を生成する。
【0011】
図5の位置決め装置は、プラント1を除き、CPUやハードウェア回路により構成されている。連続時間系で設計されている状態観測器21は、離散化することにより位置決め装置に組み込まれる。
図5には、一般的に用いられている同一次元状態観測器(全状態観測器)21が示されているが、図6のブロック線図は、最小次元状態観測器22を備えた位置決め装置を示している。状態観測器22は推定速度θ^を示す出力のみを生成し、比較器3は実測位置θと指令位置θrとの偏差εを示す出力をPID制御器4へ提供する。
【0012】
米国のマスワークス社の製品であるMATLABソフトウェアを使用して図5の位置決め装置を模擬実験した。図7(A)は、プラント1がステップ応答をなした場合の状態観測器21の出力である推定位置θ^を示す。グラフからわかるように、推定位置θ^と実測位置θはほぼ同一である。図7(B)は、プラント1がステップ応答をなした場合の推定速度θ^を示す。推定速度θ^も、推定位置θ^と同様に、実測値とほぼ同じである。したがって、状態観測器21が正確に状態量を推定していることが理解される。
【0013】
【特許文献1】
特開平5−274040号公報(図1、図4)
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
次に、プラント1に何らかの外乱トルクが加わった場合の状態観測器21の出力について考えてみる。図8(A)は、指令位置θrが一定値に維持されステップ状の外乱トルクがプラント1に加わった場合の推定位置θ^を示す。同様に、図8(B)は、推定速度θ^を示す。実測位置θ、実測速度θは安定している。状態観測器21が出力する推定値θ^、θ^は、実測値θ、θとの間にオフセットと呼ばれる定常的な偏差を生じており実測値に収束する気配はまったくない。
【0015】
状態観測器21は、外乱の項を含まない線形状態方程式によってプラント1をモデル化し状態量を推定している。従って、状態観測器21は外乱がプラント1に発生しない理想的な状態で正確に状態量を推測できるが、プラント1に与えられる外乱は状態観測器21の推定に悪影響を及ぼしてしまう。
本発明の目的は、状態観測器のロバスト性を維持しつつ外乱を抑制できる位置決め装置を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
モータとその負荷を含みq軸電流を入力としモータの位置を出力とするプラント(1)と、モータの位置を実測し実測位置信号(θ)を生成するセンサと、プラントの線形状態空間モデルが設定されプラントの状態量を推定する状態観測器(23)と、フィードバック位置信号と指令位置信号(θr)とに応答して位置偏差(ε)を示す出力を生成する比較器(3)と、比較器の出力に応答してq軸電流を示す出力を生成する制御器(4)とを備えた、本発明の位置決め装置は、プラントに加えられる外乱トルクを推定し推定外乱トルクに相当するq軸電流を示す出力を生成する外乱オブザーバ(6)と、制御器の出力(Iq_pid)と外乱オブザーバの出力(Iq_do)を加算する加算器(5)とを設け、加算器の出力(Iq)がプラントへ提供され、制御器の出力と実測位置信号が状態観測器へ提供され、加算器の出力とフィードバック速度信号が外乱オブザーバへ提供されることを特徴とする。
【0017】
好ましくは、状態観測器はモータの位置を推定して推定位置信号(θ^)を生成しフィードバック位置信号は推定位置信号である。
好ましくは、状態観測器はモータの速度を推定して推定速度信号(θ^)を生成しフィードバック速度信号は推定速度信号である。
より好ましくは、推定速度信号が制御器へ提供され、制御器は位置偏差に応じて指令速度を求め指令速度と推定速度との偏差に応じてq軸電流を求める。
なお、上記発明を図面中の参照符号を付して記載したが、発明は開示された実施例に限定されるものではない。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の位置決め装置について詳しく説明する。図1は、本発明の位置決め装置を示し、図2は図1の外乱オブザーバを示している。図5及び図6中に示された装置に同一の符号が与えられ、それらの詳細な説明が省略される。
【0019】
図1中に示されるように、プラント1に加えられた外乱トルクを推定する外乱オブザーバ6が設けられる。外乱オブザーバ6は、プラント1の入力Iqと推定速度信号θ^とに応答して、推定外乱トルク^に相当するq軸電流を示す出力Iq_doを生成する。PID制御器4は、位置偏差εに応答してq軸電流を示す出力Iq_pidを生成する。加算器5は、PID制御器4の出力Iq_pidに外乱オブザーバ6の出力Iq_doを加え、q軸電流を示す出力Iqをプラント1へ提供する。状態観測器23は、PID制御器4の出力と実測位置信号θとに応答して推定位置信号θ^と推定速度信号θ^とを生成する点で、図5中の同一次元状態観測器21と同一である。
【0020】
図2は、運動方程式が数2式により表されるプラント1と、プラント1に加えられる外乱トルクτRを推定する外乱オブザーバ6とを示すブロック線図である。11はモータのトルク定数、12はプラント1の伝達関数である。J、s、Ktは、モータ1の慣性モーメント、ラプラス演算子、モータのトルク定数を表す。なお、Tはローパスフィルタの時定数を表す。プラント1の入力Iqが検出され乗算器61でトルク定数Ktを掛けられる。角速度θは乗算器62、64でJ/Tを掛けられる。図2中にイラストされた実施例では、推定速度信号θ^の代わりに、検出速度信号θが外乱オブザーバ6へ提供されている。乗算器61、62の出力の和が、1次遅れ要素であるローパスフィルタ63へ送られる。推定外乱トルクτR^はローパスフィルタ63の出力から乗算器64の出力を減算することにより求められる。乗算器65は推定外乱トルクτR^にトルク定数の逆数1/Ktを掛け、推定外乱トルクτR^に相当するq軸電流Iq_doを求める。乗算器65の出力Iq_doとPID制御器4の出力Iq_pidの和Iqがモータへ提供される。
【0021】
外乱オブザーバ6は外乱トルクτRを相殺してPID制御器4の出力Iq_pidを補正する。PID制御器4は、外乱トルクτRを考慮することなく指令位置θrに追従する出力を生成するだけである。従って、PID制御器4はノミナル(公称)値に近いq軸電流を示す出力を生成することが期待できる。このように、PID制御器4の出力Iq_pidが外乱トルクの考慮を含んでいないので、状態観測器23のロバスト性が外乱問トルクによって損なわれることがない。
【0022】
MATLABソフトウェアを使用して図1の位置決め装置の模擬実験を行った。図3(A)は、指令位置θrが一定値に維持されステップ状の外乱トルクがプラント1に加わった場合の推定位置θ^を示す。同様に、図3(B)は、推定速度θ^を示す。図8(A)、8(B)の結果とは異なり、図3(A)、3(B)にオフセットは見られない。状態観測器23が、外乱トルクにかかわらず、正確に状態量を推定していることが認められる。
【0023】
モータが停止中のプラント1に外乱トルクを与え状態観測器23の出力を観察してみた。図4(A)中に示されるように、推定速度θ^は実測速度θに一致しており、ロバストな状態観測器が実現されている。
次に、PID制御器4の出力Iq_pidの代わりに加算器5の出力Iqが状態観測器23へ提供された位置決め装置の模擬実験を行った。図4(B)中に示されるように、推定速度θ^は実測速度θに一致しておらず、状態観測器のロバスト性が低下している。
【0024】
【発明の効果】
本発明では、プラントに加えられる外乱トルクを推定し推定外乱トルクに相当するq軸電流を示す出力を生成する外乱オブザーバと、制御器の出力と外乱オブザーバの出力を加算する加算器とを設け、加算器の出力がプラントへ提供され、制御器の出力と実測位置信号が状態観測器へ提供され、加算器の出力とフィードバック速度信号が外乱オブザーバへ提供されるので、プラントの状態量を推定する状態観測器のロバスト性が損なわれることなく外乱トルクが抑制される。
【0025】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の、状態観測器を備えた位置決め装置のブロック線図である。
【図2】図1の外乱オブザーバのブロック線図である。
【図3】(A)は、プラントに外乱が与えられた場合に図1の推定位置信号をプロットしたグラフである。(B)は、同様の場合に、図1の推定速度信号をプロットしたグラフである。
【図4】(A)は、モータが停止しているプラントに外乱が与えられた場合に図1の状態観測器の出力をプロットしたグラフである。(B)は、同様の場合に、外乱オブザーバの出力が提供される状態観測器の出力をプロットしたグラフである。
【図5】従来の、状態観測器を備えた位置決め装置のブロック線図である。
【図6】従来の、別の状態観測器を備えた位置決め装置のブロック線図である。
【図7】(A)は、図5の推定位置信号をプロットしたグラフである。(B)は、図5の推定速度信号をプロットしたグラフである。
【図8】(A)は、プラントに外乱が与えられた場合に図5の推定位置信号をプロットしたグラフである。(B)は、同様の場合に、図5の推定速度信号をプロットしたグラフである。
【符号の説明】
1 プラント
21、22、23 状態観測器
3 比較器
4 PID制御器
5 加算器
61、62、64、65 乗算器
63 ローパスフィルタ

Claims (4)

  1. モータとその負荷を含みq軸電流を入力としモータの位置を出力とするプラントと、モータの位置を実測し実測位置信号を生成するセンサと、プラントの線形状態空間モデルが設定されプラントの状態量を推定する状態観測器と、フィードバック位置信号と指令位置信号とに応答して位置偏差を示す出力を生成する比較器と、比較器の出力に応答してq軸電流を示す出力を生成する制御器とを備えた位置決め装置において、
    プラントに加えられる外乱トルクを推定し推定外乱トルクに相当するq軸電流を示す出力を生成する外乱オブザーバと、制御器の出力と外乱オブザーバの出力を加算する加算器とを設け、加算器の出力がプラントへ提供され、制御器の出力と実測位置信号が状態観測器へ提供され、加算器の出力とフィードバック速度信号が外乱オブザーバへ提供されることを特徴とする位置決め装置。
  2. 状態観測器はモータの位置を推定して推定位置信号を生成しフィードバック位置信号は推定位置信号である請求項1の位置決め装置。
  3. 状態観測器はモータの速度を推定して推定速度信号を生成しフィードバック速度信号は推定速度信号である請求項1の位置決め装置。
  4. 推定速度信号が制御器へ提供され、制御器は位置偏差に応じて指令速度を求め指令速度と推定速度との偏差に応じてq軸電流を求める請求項3の位置決め装置。
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