JP4078396B2 - 位置決め制御装置 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、モータなどを使用する位置決め制御装置に係り、特に前記制御装置にスライディングモード制御器を用いた場合に、振動を生じさせることなくて、移動中の指令値に対する位置偏差量が小さい、高い追従性の、または高応答性の制御装置を構成せんとするものである。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
特開平11−194801号公報
【0003】
特許文献1に記載の技術内容は、本発明の技術に特に関連あるものであるが、以下従来の技術及びその状況等につき順を追って説明する。
スライディングモード制御とは、離散的なデータを出力するエンコーダを位置検出器として用い、システムの状態から実測により得られる位置、速度、偏差量などの離散的な状態量から状態観測器により当該各状態量の推定値を得てフィードバックし、この状態量の推定値を変数とする操作量の演算を、予めの設計により設定してある超平面を利用して行い、その超平面上にシステムを常に拘束して作動させることにより、応答性が高く、しかも外乱に強いロバストな制御を可能とするものである。
【0004】
一般にスライディングモード制御方式は、制御対象のシステムの運動方程式(数1式)、
【数1】
但し、 J:モータの慣性モーメント、 θ:モーター角度、 Iq:q軸の電流、 Kt:トルク定数、d:外乱
から、状態方程式(数2式)を求めることから始まる。
【数2】
但し、
【0005】
さらに、求められた状態方程式をサーボ系に拡張したものに対し、超平面Sを設計して、数3式の切換関数σを製作することによりシステムの状態を超平面に拘束する。
【数3】
但し、
【0006】
システム状態をこの平面に拘束するためには、線形項ulと非線形項unlに分けられる操作量u=ul+unl(Iq)、数4式が必要となる。
【数4】
一般的に、システムに与えられた外乱を相殺をする働きをするのは非線形項unlであり、外乱入力が零の場合は非線形項はunl=0になっている。
【0007】
図8は、スライディングモード制御器1を備えた位置決め制御装置のブロック線図を示すもので、2は被制御対象の交流サーボモータや各種の同期型リニアモータ等の駆動装置、3は制御装置のフィードバック系に設けられらた状態観測器で、フィードバック信号を前記スライディングモード制御器1に帰還入力させる。
【0008】
前記状態観測器3がスライディングモード制御器1にフィードバックする信号とは、図示しない位置指令発生器から次々と離散的に出力してスライディングモード制御器1に入力する位置指令信号rと、後述する前記スライディングモード制御器1から被制御対象のモータ等2へ生成出力する操作量Iqとしての電流指令信号Iq=ul+unlと、前記被制御対象2の作動による現在位置を検出し、離散的なデータとして出力するエンコーダの状態量としての実位置信号θとを入力して出力する推定位置と推定速度及び位置偏差量または溜まりパルス数の推定信号Ζ∧である。
【0009】
そして、前記スライディングモード制御器1は、前記位置指令の信号と、前記状態観測器3より生成帰還する推定位置、推定速度、及び位置偏差量または溜まりパルス数の信号とから、設計設定されている超平面と演算式により該超平面上に被制御対象を拘束するように操作量の電流指令Iqを演算して出力し、被制御対象2を作動させる作動を設定されたサンプリングタイムで繰り返すものである。
【0010】
前述スライディングモード制御は、従来慣用のPID制御に対してロバスト性が高く、PID制御の、各種走行モード毎に、制御ゲインを調整あるいは目標値の補正を行うことによる制御ソフトウェアの複雑化の問題、及び各種走行モード毎に、最適な制御ゲインや目標値の補正量を設定する必要があることによる制御ソフトウェア開発に時間が掛かる問題が少なく有望視されている。
【0011】
そして、特に、非線形性の制御に有効な制御方法であると考えられ、高速な入力切換えによる外乱等に対するロバスト性、適切な切換関数の設定による高速応答性が期待できるとされているものの基本的には振動を励起し易く、桟構特性を十分発揮させる切換関数をどのように決定すべきか明確でなく、精密位置決めへの適用には未だ解決すべき問題があった。
【0012】
ところで、スライディングモード制御を設計する上で最も重要な要素が超平面の設計であることは良く知られているところであり、その超平面の設計には既に色々な手法が確立されている。而してこれらの確立された色々な設計手法の何れにおいても、超平面の極が、虚軸の左半面にあれば安定であり、さらにその値が小さくなればなるほど高い応答性が得られることが知られている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、実際に被制御対象のシステムにスライディングモード制御器を組み込む際には、サンプリング周波数、検出器の分解能、むだ時間などの色々な振動要素が入って来るために、超平面の設計においてもその追求できる応答性に限界があった。この場合、コンピュータによる解析を連続時間系で行えば、前述のような振動要素は全くないのでゲインを上げて行くことができ、そのため速度及び加速度のフィードフォワード制御が付加されていなくても、移動中の偏差はほぼ零に等しいものである。しかしながら、本発明の制御装置が存在して稼動する離散時間系では、ゲインを上げすぎると振動してしまうために低く設定する必要がある一方で、ゲインを低く設定したことから、図9に位置偏差特性図、図10に速度偏差特性図として示すように、移動中に位置と速度の偏差量がかなり大きく出てしまい、移動中の追従性乃至は応答性が良くないという問題があった。
【0014】
そして、この振動を生じさせずに特性を改善させる手法として、スライディングモード制御器に並列にフィードフォワード制御器を設けて、両者の演算出力の操作量を加算する方式が前掲の特許文献1に記載、提案されているものである。しかし、この方式では、2つの制御器は各々独立した特性のまま独立に操作量を演算出力して加算するので、各々の制御器の特性を相殺する恐れがある。
【0015】
そして、本発明者らが先にテストしたところによれば、スライディングモード制御器に並列に(つまり、線形項のみに)、フィードフォワード項を追加した場合、非線形項は超平面にシステムを収束させようとするために、フィードフォワード項により与えられた操作量を相殺するように作用して、線形項に追加したフィードフォワード項の作用が効いてこないことが確かめられている。
【0016】
【課題を解決する手段】
前述の本発明の目的は、
(1)モータを含む被制御対象を超平面に拘束するように操作量の電流指令Iqを演算して出力するスライディングモード制御器と、前記電流指令Iqと位置指令rと被制御対象の実位置θを入力し被制御対象の状態量zを推定して推定位置と推定速度と偏差量を前記スライディングモード制御器へ出力する状態観測器を備えた位置決め制御装置において、前記スライディングモード制御器に速度指令を入力させるとともに、該入力速度指令に0でないフィードフォワード制御ゲインを掛けて得たフィードフォワード項を前記電流指令Iqの演算に加算したことにより達成される。
【0017】
Sを行列、Cffをフィードフォワード制御ゲイン、r dot を速度指令として、超平面の切換関数δを次の式の通り表わすようにしてもよい。δ dot =S・z dot +Cff・ rdot (但し、 dot は1回微分を表す)
【0018】
また、前述の本発明の目的は、
(3)前記偏差量が溜まりパルスの数である前記(1)に記載の位置決め制御装置とすることにより達成される。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下図面に基づき本発明の位置決め制御装置の実施の形態を説明する。図1に於て10は、本発明の位置決め制御装置において使用されるスライディングモード制御器で、位置指令rと共にフィードフォワード制御の速度指令r・が入力される構成となって居り、この入力速度指令r・は、後述するように入力位置指令rと共にスライディングモード制御器10内で演算処理され、速度補償された操作量の電流指令I〜qを出力し、モータ等の被制御対象を駆動し作動させるものである。
【0020】
従来型のスライディングモード制御器1は、前述及び図8〜図10で詳しく説明したように、制御作動に振動を生ぜしめない限度においてゲインを大きく設定した限りにおいては、移動中の位置及び速度の追従特性に問題があり、可成りの追従偏差のため高応答での高精度位置決め制御には適用し難いものであった。しかるところ、斯種の位置決め制御において、ランプ型の位置指令のように高い追従性が要求される動作では、フィードフォワード制御が有効なことが知られている。
【0021】
そこで、本発明は、スライディングモード制御器1を追従性の高い制御器10とするために、操作量の電流指令(Iq=ul+unl)を得る制御器1の改良、即ち前述式(4)で示した操作量に、指令状態量(速度指令)の項を追加したものである。
即ち、一般的に超平面Sは数3式に示したように、
【数5】
のように表すことができるが、この数5式に位置指令値rを含む数6式のように変更する。
【数6】
但し、Cffはゲイン
前記数6式から
【数7】
超平面上では、切換関数σ〜=σ〜・=0だから,線形項u〜lは数8式のようになる。また、非線形項u〜nlは、数6式で求めたσ〜 から数9式のように求められる。
【数8】
【数9】
【0022】
即ち、前記図1において、スライディングモード制御器10に、フィードフォワード制御の速度指令r・(通常位置指令rの時間微分値)を入力させると共に、該入力指令信号に所望のゲイン(Cff)を掛けて得た信号を、操作量の演算に加算して演算させ、速度補償された電流指令I〜qを生成出力させ、被制御対象のモータ20等を駆動するものである。以上の結果状態観測器30には、位置指令rと速度補償した操作量の電流指令I〜qと状態検出量の実位置θ〜信号とが入力して、推定位置と推定速度及び偏差量または溜まりパルスの信号をスライディングモード制御器10にフィードバックし、前記速度補償された操作量の電流指令I〜qによる被制御対象システム20の位置及び速度について追従性の高い移動を実現し、高応答で、高精度の位置決め制御が行えるようになるものである。
【0023】
図2及び図3は、前述図1の本発明の速度補償されたスライディングモード制御器10を有する位置決め制御装置の位置偏差の特性図(図2)と、速度偏差の特性図(図3)であって、前述従来例の図9、及び図10に夫々対応するものである。図から明らかなように、本発明によれば位置及び速度とも指令値に近い値で追従しつつ移動して居り、溜まりパルスが図2のものは図9のものに対し5分の1程度にまで減少している。
【0024】
図4、図5、図6及び図7に前記速度指令のゲインをCff=−0.25に設定した本発明のスライディングモード制御器10を使用した場合、図11、図12、図13及び図14に前記ゲインをCff=0に設定した場合の指令速度と実速度の偏差量とを示したもので、図4→図7、同様に図11→図14の順に速度が大きくなって居り、さらに図4と図11、図5と図12のように順次に対応しているものである。図4〜図7のものと図11〜図14のものとでは上述以外の実験条件は全く同一で、フィードフォワード制御による速度補償が有効なことが判る。そして、何れの場合も、速度が大きくなるとともに偏差量が大きくなっていることが判る。
【0025】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、移動中の指令値に対する位置及び速度の偏差量が小さい高い追従性の位置決め制御をすることができるので、高応答で高精度の位置決めをすることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】スライディングモード制御器を有する本発明の一実施例の位置決め制御装置のブロック線図。
【図2】一実施例の位置決め制御装置の位置偏差の特性図。
【図3】同じく速度偏差の特性図。
【図4】同じく速度指令に対する速度偏差量の低速時の特性図。
【図5】同じく図4より高速度時の偏差量の特性図。
【図6】同じく図5より更に高速度時の偏差量の特性図。
【図7】同じく図6より更に高速度時の偏差量の特性図。
【図8】従来のスライディングモード制御器を備えた位置決め制御装置のブロック線図。
【図9】図2に対応する従来例の位置偏差の特性図。
【図10】図3に対応する従来例の速度偏差の特性図。
【図11】図4に対応する従来例の速度偏差量の低速時の特性図。
【図12】図5に対応する従来例の図11より高速時の特性図。
【図13】図6に対応する従来例の図12より更に高速時の特性図。
【図14】図7に対応する従来例の図13より更に高速時の特性図。
【符号の説明】
1 従来例のスライディングモード制御器
2 従来例の被制御対象のシステム
3 従来例の状態観測器
10 本発明により速度補償されたスライディングモード制御器
20 本発明により速度補償された被制御対象のシステム
30 本発明により速度補償された状態観測器
Claims (3)
- モータを含む被制御対象を超平面に拘束するように操作量の電流指令Iqを演算して出力するスライディングモード制御器と、前記電流指令Iqと位置指令rと被制御対象の実位置θを入力し被制御対象の状態量zを推定して推定位置と推定速度と偏差量を前記スライディングモード制御器へ出力する状態観測器を備えた位置決め制御装置において、前記スライディングモード制御器に速度指令を入力させるとともに、該入力速度指令に0でないフィードフォワード制御ゲインを掛けて得たフィードフォワード項を前記電流指令Iqの演算に加算したことを特徴とする位置決め制御装置。
- 前記偏差量が溜まりパルスの数であることを特徴とする請求項1に記載の位置決め制御装置。
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