JP2004124316A - 着用快適性に優れた布帛 - Google Patents

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Abstract

【課題】各種堅牢度や耐磨耗性能など消費性能を満足し、尚且つ適度な吸湿性を有する着用快適性に優れた新規な布帛を提供すること。
【解決手段】セルロース系繊維マルチフィラメント糸と自発伸長性ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸を組み合わせてなる混繊交絡複合糸条を用いて得られた布帛であって疎水性繊維の表面被覆率が70%以上であり、含湿量が3g/m以上、発汗時の衣服内湿度が75%以下、吸水性が1秒以下であることを同時に満足する着用快適性に優れた布帛。
【選択図】図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、着用快適性に優れた布帛に関するものであり、より詳しくには親水性繊維と疎水性繊維の多層構造糸を用いた吸湿性に優れた布帛であって、布帛表層を疎水性繊維(ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸など)で覆うことによって内層の親水性繊維のフィブリル化、断糸・毛羽立ちを抑制し、着用時の風合いや外観品位劣化を抑えた新規風合いを有する着用快適性に優れた布帛に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から綿、レーヨン、キュプラ、セルロースアセテートなど親水性繊維とポリエステル、ポリアミドなど疎水性合成繊維を組み合わせ撚糸、若しくは交編織して得られた布帛が多数提案されている(例えば特許文献1及び特許文献2参照。)。これらは親水性繊維の有する吸湿吸汗特性を活かした商品であり、強度的に優れた疎水性合成繊維と組み合わせることによって布帛強度を向上させ、W&W性や耐久性など一般消費性能を向上させた商品で広く消費者にも認識されている。
【0003】
しかしながら上記布帛は吸湿吸汗特性を向上させる為に布帛表層部が親水性繊維で主に覆われており、フィブリル化による白茶け感、質感低下、磨耗減量による生地の薄化が生じ易い他、親水性繊維自体が優れた保水機能を有する為、換言すれば乾き難い為、特に発汗時は肌表面がべとつき、不快感を長時間伴うという欠点を持ち合わせている。
【0004】
またレーヨン、キュプラ、セルロースアセテートなど親水性繊維とポリエステル、ポリアミド等の疎水性合成繊維を合撚、混繊など公知の手法を用いて複合糸を作成した場合、染色工程の湿熱処理によって熱収縮率の低い親水性繊維側が布帛表層部、熱収縮率の高い疎水性合成繊維側が布帛内層部を主体に形成し、摩擦堅牢性の悪化や磨耗減量等の諸問題を誘発し易く、カジュアル・スポーツ用途の生地展開がしにくい。
【0005】
【特許文献1】
特開平11−61595号公報(第2−6頁)
【特許文献2】
特開2000−129533号公報(第2−7頁)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の如き従来の欠点を解消し、各種堅牢度や耐磨耗性能など消費性能を満足し、尚且つ適度な吸湿性を有する着用快適性に優れた新規な布帛の提供を課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
即ち、本発明は以下の構成からなる。
1.親水性繊維と疎水性繊維を組み合わせてなる繊維束を用いて得られた布帛であって疎水性繊維の表面被覆率が70%以上であり、下記(1)〜(3)を同時に満足する着用快適性に優れた布帛。
(1)含湿量;3g/m以上
(2)発汗時の衣服内湿度;75%以下
(3)吸水性;1秒以下
2.親水性繊維がセルロース系繊維マルチフィラメント糸、疎水性繊維がポリエステル系繊維マルチフィラメント糸である上記第1記載の着用快適性に優れた布帛。
3.布帛がポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A)とセルロース系繊維マルチフィラメント糸(B)を混繊交絡した複合糸条を少なくとも一部に使用した織編物であって、ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A)、セルロース系繊維マルチフィラメント糸(B)の各特性値が下記(4)〜(6)を満足する上記第1又は第2記載の着用快適性に優れた布帛。
(4)ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A)、セルロース系繊維マルチフィラメント糸(B)の160℃乾熱収縮率差
(SHD(B)−SHD(A));5%以上
(5)ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A)の沸水収縮率
(SHW(A));−2%以上1%以下
(6)ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A)の残留伸度
(DE(A));60%以上120%以下
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の着用快適性に優れた布帛は親水性繊維と疎水性繊維を組み合わせてなる複合糸条を用いて構成されるものであるが、該複合糸条の表面は疎水性繊維主体に覆われ、疎水性繊維の表面被覆率は70%以上であることが好ましい。
該表面被覆率が70%未満の範囲では親水性繊維が表面に30%以上露出することとなりフィブリル化による白茶けや磨耗減量、染色堅牢度・耐光堅牢度の悪化等の問題が生じ易く、外観品位や消費性能的に好ましくない。疎水性繊維の表面被覆率を70%以上、より好ましくは75%以上とすることによって、親水性繊維が糸条表層に露出せず内部に留まり、上記諸問題を軽減することが可能となる。
【0009】
また、本発明の布帛の含湿量は3g/m以上、より好ましくは5g/m以上、更に好ましくは7g/m以上である。該含湿量は布帛の水分率と生地目付との掛算で求められるものであり、生地の単位面積当りの水分量を示すものであり値が大きいほど好ましく、織編組織や糸条撚数、織編密度等によっても変化する。含湿量が3g/m未満の範囲では生地自体の吸湿性が少なく留まり、蒸れ感を感じるものとなり好ましくない。含湿量を3g/m以上とすることによって蒸れ感が軽減され着用快適性を伴う布帛とすることが可能となる。
【0010】
発汗時の衣服内湿度は75%以下であることが好ましく、75%を超過する範囲では蒸れ感が大きく、煙突効果等の換気作用がない場合は肌から発する熱量や湿気が衣服と肌の間の空間に蓄積され時間経過と共に不快感が増大してしまう。発汗時の衣服内湿度を75%以下に留めることによって蒸れ等の不快感を伴わない着用感を得ることが出来る。
【0011】
また、本発明の布帛の吸水性は滴下法による測定方法で1秒以下が好ましく、更に好ましくは0.5秒以下の瞬時に水滴が消失することである。布帛の内部及び表面への水分拡散、吸収が大きいほど肌面がべとつかず着用時のまとわりつきも少ないものとなるが吸水性が1秒を越えると、布帛が水分拡散、吸収し難く、べとつき感を感じるものとなり好ましくない。
【0012】
本発明の着用快適性に優れた布帛は親水性繊維と疎水性繊維を組み合わせてなる繊維束を用いてなるものであるが、親水性繊維はビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジック、セルロースアセテート等のセルロース系繊維マルチフィラメント糸であることが取扱性や布帛の審美性の観点から望ましい。親水性繊維としては綿や麻、レーヨンステープル等の短繊維も例示されるが、短繊維即ち紡績糸の場合は布帛表面に単糸毛羽が露出している為、繰り返し着用によりピリングを誘発し、更に程度が悪い場合には、疎水性繊維の単繊維も表面に引き出してしまい、ピリングを悪化させてしまうため好ましくない。
【0013】
また疎水性繊維はポリエステル系繊維マルチフィラメント糸であることがW&W性や染色堅牢度、耐黄変性、力学的性能、価格面で有利である。ポリエステル繊維を得るための原料レジンについては何ら限定されるものでなく、用途に応じて二酸化チタンや硫酸バリウム、カーボンブラック、顔料、平滑剤、抗酸化剤、その他無機物、有機物を適量混合させたものであってもよい。組成についてもポリエチレンテレフタレート単独成分のみならずイソフタル酸、5ナトリウムスルフォイソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等のジカルボン酸類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジオール類を共重合させた共重合ポリエステルであってもよい。
【0014】
またポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A)とセルロース系繊維マルチフィラメント糸(B)はそれぞれ下記を満足し、これらを組み合わせてなる複合糸条を少なくとも一部に使用し布帛となすことが好ましい。
イ.ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A)、セルロース系繊維マルチフィラメント糸(B)の160℃乾熱収縮率差(SHD(B)−SHD(A));5%以上
ロ.ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A)の沸水収縮率(SHW(A));−2%以上1%以下
ハ.ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A)の残留伸度(DE(A));60%以上120%以下
【0015】
前記マルチフィラメント糸(A)、(B)の160℃乾熱収縮率差は5%以上有することが望ましく、マルチフィラメント(B)の方がマルチフィラメント(A)より160℃に於ける乾熱収縮が大きいことが好ましい。特にマルチフィラメント(A)はマイナスの収縮、即ち熱による繊維軸方向への結晶成長により伸長する自発伸長糸であることが更に望ましい。両マルチフィラメント糸の160℃乾熱収縮率差が5%未満の範囲であれば、疎水性繊維が親水性繊維を十分に被覆するには糸長差が少な過ぎ、繰り返し着用による布帛の白茶けや磨耗減量による薄化、染色堅牢度低下等の諸問題を誘発し易く好ましくない。
【0016】
また更にマルチフィラメント糸(A)の沸水収縮率は−2%以上1%以下であることが望ましい。マルチフィラメント(A)の沸水収縮率が−2%未満の範囲では撚糸時の撚止めセットにても伸長し、ループとなり糸条表面に突出してしまい、製織編工程通過性を阻害してしまい好ましくない。また1%を超過する収縮範囲となれば染色に於ける湿熱処理にてもマルチフィラメント(A)が自発伸長性を示すものにはならず親水性繊維を効果的に被覆しにくくなるため、好ましくない。
【0017】
本発明の布帛は染色加工時の湿熱処理によって疎水性繊維であるポリエステル系繊維マルチフィラメント糸が自発伸長して親水性繊維マルチフィラメント糸を被覆し芯鞘構造を成すものが好ましく、ポリエステル繊維マルチフィラメント糸に自発伸長特性を付与する方法としては、特公平8−1014号公報、特許登録第2700022号公報、同第2970431号公報等に記載の方法が例示出来る。自発伸長性を付与するには繊維の結晶化度を極力増加させず効果的に収縮成分を取り除くことが必要であり、繊維を過供給下で熱処理する方法が好ましい。過度に供給率を増加させすぎてしまうと操業性の悪化や分子配向度の低下による自発伸長率低下を引き起こしてしまう為、供給原糸の性状に応じた熱処理条件を採用することが必要である。
【0018】
マルチフィラメント(A)の残留伸度は60%以上120%以下であることが好ましい。マルチフィラメント(A)に自発伸長性能を付与するには過供給下でマルチフィラメント糸に熱処理を施すことを例示できるが、残留伸度が120%を超過する範囲では繊維軸方向への分子配向が乱れている為、自発伸長率が小さいものに留まってしまい好ましくない。また、残留伸度が60%未満の範囲では繊維軸方向への分子配向は乱れていないが、糸条の熱収縮成分が十分に除去されておらず自発伸長率は小さいものに留まり、何れも親水性繊維を効果的に被覆することが出来にくく、好ましくない。
【0019】
本発明の布帛は多繊維複合体でありそれぞれの繊維の染色域(温度領域、水素イオン濃度など)及び染着機構が異なるため同色、異色染の何れであっても一浴染色は色の再現性の観点から好ましいものとはならず、複数浴での染色を組み合わせることが好ましい。また官能基を有する繊維を染色する場合には官能基末端封鎖を実施することが染色堅牢度を保つ上で好ましいといえる。また必要に応じて紫外線吸収剤、蛍光増白剤等を染色同時吸尽法等で処方することが可能である。
【0020】
本発明の着用快適性に優れた布帛は織物、編物、不織布の何れの形態であってもよいが、織物及び編物が好ましい態様と言える。製織編方法も公知の技術を用いて実施することが出来るが、特に製織の場合は本発明の布帛が親水性繊維を使用している為にウォータージェットルームによる製織は親水性繊維の膨潤や乾燥不良を引き起こし適当ではなく、フライシャトルルーム、レピアルーム、エアージェットルーム、プロジェクタイルルームの使用が好ましい。
【0021】
染色については浸染、捺染、サーモゾル染色等公知の技術を用いて染色することが出来、加工装置も液流ジェット染色機、ウインス染色機、ジッカ−染色機、ビーム染色機、ロータリースクリーン捺染機、フラットスクリーン捺染機、インクジェット捺染機など公知の機種を用いて実施することが出来る。染色後は染色堅牢度を考慮し余分な染料、助剤成分を洗浄除去することが望ましい。
【0022】
本発明の布帛を構成する親水性繊維及び疎水性繊維の単繊維繊度、糸条の総繊度については特に限定されるものではなく、風合いやアイテムに応じて適宜選定することが出来るが、単繊維繊度としては0.1〜10デシテックス、より好ましくは0.2〜5デシテックス程度、糸条の総繊度としては30〜500デシテックス、より好ましくは50〜400デシテックスの範囲が例示される。勿論、異繊度混繊糸や異繊度糸の交織、交編で布帛を形成させることも可能である。
【0023】
疎水性繊維及び親水性繊維の単糸断面形状についても特に限定を加えるものではなく丸断面の他、多葉断面、扁平断面など異型断面を用いることも可能であるし、中実断面のみならず中空断面繊維であってもよい。また断面形状は単一である必要はなく複数種の断面をミックスしていてもよい。また繊維長手方向にランダムな染着差、太細斑を有するシックアンドシン糸を組み合わせ、ドライ感を向上させてもよい。また、用途・機能に応じて減量加工やエアータンブラー等を用いた各種風合い加工、各種樹脂加工を併用させることも出来る。
【0024】
親水性繊維マルチフィラメント糸と疎水性繊維マルチフィラメント糸の複合方法としては同率供給による合撚、常温高圧空気流による絡合処理(インターレース)等公知の方法で実施することが出来る。インターレース混繊の場合の交絡個数については大略30〜100個/m程度、より好ましくは40〜70個/m程度が糸条の取扱性能を考慮すると好ましいが、勿論これに限定されるものではなく、風合いや後工程通過性等に応じて適宜選定することが出来る。
【0025】
複合糸条は公知の撚糸機を使用して撚糸することが出来る。撚糸することによって施撚方向とは逆方向にトルクが働くため、キュア釜やライドンボックスを使用し湿熱撚止セットを行うが、熱処理温度及び処理時間を過剰にするとポリエステル繊維側の結晶化が促進される他、撚糸パッケージ内外層収縮差、染着差を生じさせる要因となり好ましくない。好適な処理温度としては自発伸長能を有するポリエステル繊維のガラス転移温度をTg(℃)とするとTg−10℃〜Tg+15℃の範囲が好ましい。処理時間としては処理温度や作業性にもよるが大略20〜45分の範囲で実施することが出来る。
【0026】
本発明の布帛は製織編された生機を精練、リラックス処理した後、必要に応じて熱セット、減量加工を施し染色に供されるが、勿論糸処理による糸染によって布帛の意匠性を付与することも可能である。糸処理の場合はかせ或いはダイチューブへ巻き返した後、オーバーマイヤー染色機等公知の染色装置を使用して実施することが出来る。染色された布帛は帯電防止剤、柔軟仕上剤等を付与し乾燥させた後、仕上セットを施されるが該セット条件は染色堅牢度の低下を抑制するため大略乾熱120〜170℃条件下で20〜60秒程度実施し、繊維混率や目付、用途等に応じて適宜選択すればよい。また言うまでもないが用途や風合いに応じて起毛加工その他物理的、化学的処理を布帛に施すことも出来る。
【0027】
本発明の布帛の仕上生地目付についても特に限定されるものでなく、用途や目的に応じて適宜選定が可能である。例えばブラウスやシャツ地などには100〜150g/m程度、パンツやスカート、ジャケット地などには150〜300g/m程度が好適であるが、勿論この範囲に限定されるものではない。
【0028】
【実施例】
以下、実施例に従い本発明を更に詳細に説明する。尚、本文中及び実施例中の物性値、特性値は下記方法に従い求めたものである。また本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0029】
(含湿量)
下記関係式により吸湿率Hを算出し、精密上皿天秤にて小数点第3位まで秤量した生地目付W(g/m)で乗じて含湿量M(g/m)を求めた。
H=[(H1−H0)/H0]
M=H×W
ここでH0は絶乾重量であり、サンプルを120℃で3時間乾燥した後の重量である。またH1は吸湿重量であり、上記乾燥後に所定の温湿度雰囲気下に6時間放置して調湿した後の重量である。温湿度雰囲気としては衣服内気候に相当する30℃、90%RHと外気に相当する20℃、65%RHとの2種類に設定した。
【0030】
(水分率)
1999年度版 JIS L1096 8.9に準拠した方法で測定した。
(吸水性)
1994年度版JIS L1907 5.1.1(滴下法)により評価した。実験回数5回の平均値を以ってその測定値とした。
【0031】
(衣服内温湿度)
特開平10−332683号公報に記載された衣服内気候シミュレーション装置により計測した。尚、衣服内気候シミュレーション装置の概要及び計測条件は以下の通りである。
【0032】
発汗孔を有する基体及び産熱体からなる産熱発汗機構、発汗孔に水を供給するための送水機構、産熱体の温度を制御する産熱制御機構、温湿度センサーから構成される。基体は黄銅製で面積120cm、発汗孔が6個付与されており、面状ヒーターからなる産熱体によって一定温度に制御される。送水機構にはチューブポンプを用いて一定水量を基体の発汗孔に送り出す。基体表面に厚み0.1mm〜0.6mmのポリエステルフィラメント織物からなる模擬皮膚を張り付けることによって発汗孔から吐出された水が基体表面全体に広がり、発汗状態を作り出す。
【0033】
本基体の周囲には高さ1cmの外枠が設けられており、試料(布帛)を基体から1cm離れた高さにセットすることができる。温湿度センサーは基体と試料(布帛)の間の空間に設置され、基体が発汗状態の時の「基体と試料と外枠で囲まれた空間」の温湿度を測定し、衣服内温湿度とした。測定条件は20℃、環境湿度65%RH、基体温度37℃、発汗量245g/m/hrで発汗時間3分とした。実験回数5回の平均値を以ってその測定値とした。尚、測定用試料は20℃、65%RH環境下で24時間以上の調湿を実施した後、測定に供した。
【0034】
(通気度)
1999年度版JIS L1096 8.27.1 A法(フラジ−ル法)に基づき試験片を通過する空気量(cc/cm・秒)を求めた。(数値は少数点以下1桁まで)
実験回数5回の平均値を以ってその測定値とした。尚、測定は20±2℃、65±2%RHの恒温恒湿度環境下で実施した。
【0035】
(沸水収縮率)
試料(糸条)を枠周1.125mの検尺機を使用し0.088cN/dtexの初荷重をかけ120回/分の速度で巻返し、巻き回数が20回の小かせを作成し、初荷重の40倍の荷重をかけてかせ長L1(mm)を測定する。続いて荷重を外し収縮が妨げられないような方法で沸騰水(100℃)中に30分浸漬した後、取り出して吸取紙又は綿布で水を拭き取り、水平状態で風乾する。風乾後に再度荷重をかけてかせ長L2(mm)を測定する。上記L1、L2を下記式に代入し沸水収縮率(SHW)を算出する。尚、実験回数5回の平均値を以ってその測定値とする。
SHW=[(L1−L2)/L1]×100(%)
【0036】
(乾熱160℃収縮率)
試料(糸条)に0.03cN/dtexの荷重をかけ、その長さL3(mm)を測定する。次いでその荷重を取り除き、試料を乾燥機(ベーキングマシン)に入れ収縮が妨げられないような条件で、乾熱160℃で30分処理する。乾燥後冷却し、再度0.03cN/dtexの荷重をかけてその長さL4(mm)を測定する。上記L3、L4を下記式に代入し乾熱160℃収縮率(SHD)を算出する。尚、実験回数5回の平均値を以ってその測定値とする。
SHD=[(L3−L4)/L3]×100(%)
【0037】
(残留伸度)
オリエンテック社製テンシロンUTM−III−100型を使用し、試料(糸条)長200mm、引張速度200mm/分で引張試験を実施、試料切断に至る迄の伸度を求め、実験回数5回の平均値を以ってその測定値とした。
【0038】
(疎水性繊維の表面被覆率)
染色加工後の布帛より複合糸条を取出し、光学顕微鏡による断面観察(倍率×200)を実施し糸条表層を構成する単糸本数と糸条表面に露出する疎水性繊維本数の割合から疎水性繊維の表面被覆率を求めた。断面観察は50箇所の部位について実施し、該表面被覆率の平均値を以って測定値とした。光学顕微鏡観察の際の試料(糸条)前処理としては撚糸条をエポキシ樹脂で包埋した後、ミクロトームを用いて薄切片を切りだし断面観察用試料とした。
【0039】
(摩擦による染色堅牢度並びに変退色評価)
1996年度版JIS L0849 6.1(1)、6.1(2)に準じ、摩擦試験機II形(学振形)を用い乾燥時及び湿潤時の白綿布に対する汚染をJIS L0805に規定の汚染用グレースケールを用いて目視評価した。また変退色についてもJIS L0804に規定の変退色用グレースケールを用いて目視評価した。尚、湿潤時の評価については汚染、変退色評価とも試料片が十分乾燥した後に目視評価を行った。
【0040】
(交絡個数)
適当な長さの糸をとり出し、下端に1/10(cN/dtex)の荷重をかけて垂直につり下げる。ついで適当な針を糸中につき出し、ゆっくり持ち上げ荷重が持ち上がるまでに移動する距離L5(mm)を20回測定し、これより平均値L6(mm)を求め、次式により算出する。
交絡個数=1000/(2×L6) (個/m)
【0041】
(実施例1)
ポリエステルセミダルレジン(極限粘度数[η]=0.63)を公知の溶融紡糸方法により溶融紡糸して部分配向未延伸糸(POY)を得た後、引き続き糸条温度が85℃の条件で延伸し44デシテックス36フィラメントの延伸糸を得た。次いで得られたポリエステル延伸糸を弛緩率45%、弛緩雰囲気温度(スリット型ヒータ設定温度)200℃の条件下で弛緩熱処理を施し64デシテックス36フィラメントのポリエステルマルチフィラメント糸(A1)を得た。
得られたポリエステルマルチフィラメント糸(A1)の糸物性は以下の通りであった。
マルチフィラメント糸(A1)の160℃乾熱収縮率(SHD(A1)=−4.20%
マルチフィラメント糸(A1)の沸水収縮率(SHW(A1))=−0.75%
マルチフィラメント糸(A1)の残留伸度(DE(A1))=81.8%
【0042】
ポリエステルマルチフィラメント糸(A1)と110デシテックス70フィラメントの銅アンモニアレーヨンフィラメント糸(B1)(商品名 旭化成工業株式会社製 キュプラ・ベンベルグ)を引き揃え、常温高圧空気流を用いてインターレース交絡処理し175デシテックス106フィラメント混繊糸として巻き取った。マルチフィラメント糸(A1)、マルチフィラメント糸(B1)の160℃乾熱収縮率差(SHD(B1)−SHD(A1))は5.65%、交絡個数は58個/mであり取扱性の良好な糸条に仕上った。
【0043】
該異繊維混繊糸にダブルツイスターを使用しS撚及びZ撚方向に1600回/mの実撚を挿入した後、キュアセット釜で70℃湿熱雰囲気下で40分間の撚止めセットを施した。該異繊維混繊糸の撚糸条を織物の経糸、緯糸に使用しレピア織機を用いてダブルクロス組織(平二重)に製織した。得られた生機について拡布型湿熱処理及び液流精練リラックスを実施した後、雰囲気温度190℃のピンテンターで50秒処理した。
【0044】
次いで炭酸ナトリウムを適当量溶解した水溶液を用いてポリエステル側のアルカリ減量を実施した後、分散染料及び反応染料による2浴染色を実施した。染色後、脱水洗浄を繰り返しセルロース系繊維のフィックス処理及び帯電防止加工を実施して仕上げた。得られた織物より混繊糸条を取出しポリエステルマルチフィラメント糸(A1)の表面被覆率を測定したところ84.2%であった。得られた織物の物性値を表1に、衣服内気候的評価結果(チャート)を図1としてまとめた。得られた織物を用いて婦人用ジャケットを仕上げたところ、発汗時にても蒸れ感がなく着用快適性に優れ、尚且つ適度なドレープ性、膨らみ感を有するものであった。
【0045】
(実施例2)
ポリエステルセミダルレジン(極限粘度数[η]=0.63)を公知の溶融紡糸方法により溶融紡糸して50デシテックス18フィラメントの丸断面部分配向未延伸糸(POY)を得た後、該部分配向未延伸糸を弛緩率20%、弛緩雰囲気温度195℃の条件下で弛緩熱処理を施し60デシテックス18フィラメントのポリエステルマルチフィラメント糸(A2)を得た。
得られたポリエステルマルチフィラメント糸(A2)の糸物性は以下の通りであった。
マルチフィラメント糸(A2)の160℃乾熱収縮率(SHD(A2)=−4.04%
マルチフィラメント糸(A2)の沸水収縮率(SHW(A2))=−0.84%
マルチフィラメント糸(A2)の残留伸度(DE(A2))=108.3%
【0046】
ポリエステルマルチフィラメント糸(A2)と110デシテックス70フィラメントの銅アンモニアレーヨンフィラメント糸(B2)(商品名 旭化成工業株式会社製 キュプラ・ベンベルグ)を引き揃え、常温高圧空気流を用いてインターレース交絡処理し170デシテックス88フィラメント混繊糸として巻き取った。マルチフィラメント糸(A2)、マルチフィラメント糸(B2)の160℃乾熱収縮率差(SHD(B2)−SHD(A2))は5.49%、交絡個数は55個/mであり取扱性の良好な糸条に仕上った。
【0047】
該異繊維混繊糸にダブルツイスターを使用しS撚及びZ撚方向に1800回/mの実撚を挿入した後、キュアセット釜で70℃湿熱雰囲気下で40分間の撚止めセットを施した。該異繊維混繊糸の撚糸条を織物の経糸、緯糸に使用しレピアルームを用いて変形ツイル組織に製織した。得られた生機について拡布型湿熱処理及び液流精練リラックスを実施した後、雰囲気温度190℃のピンテンターで50秒処理した。
【0048】
次いで炭酸ナトリウムを適当量溶解した水溶液を用いてポリエステル側のアルカリ減量を実施した後、分散染料及び反応染料による2浴染色を実施した。染色後、脱水洗浄を繰り返しセルロース系繊維のフィックス処理及び帯電防止加工を実施して仕上げた。該異繊維混繊糸にダブルツイスターを使用しS撚及びZ撚方向に1600回/mの実撚を挿入した後、キュアセット釜で70℃湿熱雰囲気下で40分間の撚止めセットを施した。該異繊維混繊糸の撚糸条を織物の経糸、緯糸に使用しレピアルームを用いてダブルクロス組織(平二重)に製織した。得られた生機について拡布型湿熱処理及び液流精練リラックスを実施した後、雰囲気温度190℃のピンテンターで50秒処理した。
【0049】
次いで炭酸ナトリウムを適当量溶解した水溶液を用いてポリエステル側のアルカリ減量を実施した後、分散染料及び反応染料による2浴染色を実施した。染色後、脱水洗浄を繰り返しセルロース系繊維のフィックス処理及び帯電防止加工を実施して仕上げた。得られた織物から混繊糸条を取出しポリエステルマルチフィラメント糸(A2)の表面被覆率を評価したところ85.2%であった。得られた織物の物性値を表1に、衣服内気候的評価結果(チャート)を図1としてまとめた。得られた織物を用いて婦人用ジャケットを仕上げたが、発汗時にても蒸れ感がなく着用快適性に優れ、尚且つ適度なドレープ性、膨らみ感を有するものであった。
【0050】
(比較例1)
ポリエステルセミダルレジン(極限粘度数[η]=0.63)を公知の溶融紡糸方法により溶融紡糸して部分配向延伸糸(POY)を得た後、延伸撚糸機を使用し糸条温度80℃の条件で延伸した後、表面温度90℃の熱セットローラーで熱セットし64デシテックス36フィラメントのポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A3)を得た。得られたポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A3)の糸物性は以下の通りであった。
マルチフィラメント糸(A3)の160℃乾熱収縮率(SHD(A3)=5.50%
マルチフィラメント糸(A3)の沸水収縮率(SHW(A3))=3.55%
マルチフィラメント糸(A3)の残留伸度(DE(A3))=28.8%
【0051】
ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A3)と110デシテックス70フィラメントの銅アンモニアレーヨンフィラメント(B3)(商品名 旭化成工業株式会社製 キュプラ・ベンベルグ)を引き揃え、常温高圧空気流を用いてインターレース交絡処理し175デシテックス106フィラメント混繊糸として巻き取った。マルチフィラメント(A3)、マルチフィラメント(B3)の160℃乾熱収縮率差(SHD(B3)−SHD(A3))は−4.05%、該異繊維混繊糸の交絡個数は62個/mであり取扱性の良好な糸条に仕上った
【0052】
得られた混繊糸条を使用し実施例1同様の方法にて染色加工布を得た。得られた織物から混繊糸条を取出しポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A3)の表面被覆率を求めたところ29.5%であった。得られた織物の物性値を表1に、衣服内気候的評価結果(チャート)を図1として纏めた。該織物を用いて婦人用ジャケットを仕上げたが、発汗時の蒸れ感はなく、着用快適性に優れ、尚且つ適度なドレープ性を示すものとなったが、実施例対比で膨らみ感、エアリー感の乏しいものとなった。また布帛表面がセルロース系繊維主体で覆われているため、摩擦堅牢度及び変退色について懸念が残る結果となった。
【0053】
(比較例2)
実施例2で用いた60デシテックス18フィラメントのポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A2)と110デシテックス48フィラメントのポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(B4)(商品名 東洋紡エステル) とを引き揃え、常温高圧空気流を用いてインターレース交絡処理し170デシテックス66フィラメント混繊糸として巻き取った。ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A2)、ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(B4)の160℃乾熱収縮率差(SHD(B4)−SHD(A2))は12.45%、該異繊維混繊糸の交絡個数は55個/mであり取扱性の良好な糸条に仕上った。
【0054】
該異繊維混繊糸にダブルツイスターを使用しS撚及びZ撚方向に1800回/mの実撚を挿入した後、キャーセット釜で70℃湿熱雰囲気下で40分間の撚止めセットを施した。該異繊維混繊糸の撚糸条を織物の経糸、緯糸に使用しレピア織機を用いてダブルクロス組織(平二重)に製織した。得られた生機について拡布型湿熱処理及び液流精練リラックスを実施した後、雰囲気温度190℃のピンテンターで50秒処理した。
【0055】
次いで水酸化ナトリウムを適当量溶解した水溶液を用いてポリエステルのアルカリ減量を実施した後、分散染料による染色を実施した。染色後、脱水洗浄を繰り返し帯電防止加工を実施して仕上げた。得られた織物から混繊糸条を取出しポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A2)の表面被覆率を確認したところ83.5%であった。得られた織物の物性値を表1に、衣服内気候的評価結果(チャート)を図1として纏めた。該織物を用いて婦人用ジャケットを仕上げた。適度なドレープ性、膨らみ感を有するものとなったが実施例と比較し発汗時の蒸れ感を伴うものとなった。
【0056】
【表1】
Figure 2004124316
【0057】
【発明の効果】
従来から提案、上市されている親水性繊維と疎水性繊維を組み合わせてなる織編物は着用快適性、W&W性等取扱性能に優れたものであったが、繰返し着用により表面が擦過され白茶け感による外観品位の悪化、及び親水性繊維が布帛表面を覆うことによる染色堅牢性悪化、磨耗減量による生地の薄化等がの問題があった。本発明によって、疎水性繊維からなる自発伸長糸を組み合わせて親水性繊維を効果的に被覆し、各種堅牢度や耐磨耗性能など消費性能を満足し、尚且つ適度な吸湿性を有する着用快適性に優れた新規布帛を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例、比較例により得られた布帛の衣服内湿度変化を示すチャートである。

Claims (3)

  1. 親水性繊維と疎水性繊維を組み合わせてなる繊維束を用いて得られた布帛であって疎水性繊維の表面被覆率が70%以上であり、下記(1)〜(3)を同時に満足する着用快適性に優れた布帛。
    (1)含湿量;3g/m以上
    (2)発汗時の衣服内湿度;75%以下
    (3)吸水性;1秒以下
  2. 親水性繊維がセルロース系繊維マルチフィラメント糸、疎水性繊維がポリエステル系繊維マルチフィラメント糸である請求項1記載の着用快適性に優れた布帛。
  3. 布帛がポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A)とセルロース系繊維マルチフィラメント糸(B)を混繊交絡した複合糸条を少なくとも一部に使用した織編物であって、ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A)、セルロース系繊維マルチフィラメント糸(B)の各特性値が下記(4)〜(6)を満足する請求項1又は2記載の着用快適性に優れた布帛。
    (4)ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A)、セルロース系繊維マルチフィラメント糸(B)の160℃乾熱収縮率差
    (SHD(B)−SHD(A));5%以上
    (5)ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A)の沸水収縮率
    (SHW(A));−2%以上1%以下
    (6)ポリエステル系繊維マルチフィラメント糸(A)の残留伸度
    (DE(A));60%以上120%以下
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