JP2004034393A - 水圧転写用フィルム及びそれを用いた水圧転写体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】水溶性支持体フィルムと該支持体フィルム上に活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも一種で硬化可能な硬化性樹脂層を設けた疎水性転写層を有し該転写層上に剥離性フィルムを有する水圧転写用フィルム;支持体フィルム上に硬化性樹脂層を設けたフィルムと、剥離性フィルム上に装飾層を設けたフィルムとをドライラミネーションにより貼り合わせる水圧転写用フィルムの製造方法;および前記水圧転写用フィルムを用いる水圧転写体の製造方法。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、硬化性樹脂層を有する水圧転写用フィルム及び該水圧転写用フィルムの製造方法、並びに該水圧転写用フィルムを用いた硬化樹脂層または硬化樹脂層と装飾層を有する水圧転写体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
水圧転写法は意匠性に富む装飾層を複雑な三次元形状の成形品に付与できる方法であるが、水圧転写後にさらに水圧転写した装飾層に硬化性樹脂を保護層としてスプレー塗装する必要がある。このため、水圧転写法による成形品の製造は、製造工程が煩雑であると共に水圧転写設備の他に塗装設備も必要であることからコスト高であり、水圧転写法で製造される成形品は高級品に限られていた。
【0003】
この煩雑さとコスト高を解消するために、水圧転写法によって、硬化性樹脂層を被転写体に転写する試みがなされており、例えば、特開昭64−22378号公報(特公平7−29084号公報)には、電離放射線の照射または熱で硬化する樹脂塗工層を有する水圧転写用シートと該水圧転写用シートを用いて被転写体に塗工層を転写した後、電離放射線または熱で該塗工層を硬化させる、硬化樹脂層を有する成形品の製造方法が開示されている。
【0004】
しかし、該公報に記載の水圧転写用フィルムは、硬化性樹脂層に用いる樹脂が制限されることに加え、その硬化性樹脂層が室温で粘着性がないものであっても、製造された水圧転写用フィルムをロール状に巻き取って長期間保存すると硬化性樹脂層と支持体フィルム間、もしくは装飾層と支持体フィルム間でブロッキングが発生する問題点があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、水圧転写体に優れた表面特性の硬化樹脂層を形成しうる転写層を有し、かつブロッキングを起こしにくい水圧転写用フィルムを提供することにある。
本発明のもう1つの課題は、被転写体に硬化樹脂層と鮮明な装飾層とを転写し得る水圧転写用フィルムの製造方法を提供することにある。
本発明のもう1つの課題は、転写層の転写不良による表面欠陥のない硬化樹脂層を有する水圧転写体の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、以下の知見を見出した。
(1)硬化性樹脂層を有する水圧転写用フィルムの硬化性樹脂層の上に剥離性フィルムを設けることにより、保存時のブロッキングの発生を防止することができる。
(2)硬化性樹脂層と装飾層とをそれぞれ支持体フィルムと剥離性フィルムの上に形成し両フィルムをドライラミネーションにより貼り合わせることにより、硬化性樹脂層上に鮮明な絵柄模様を形成することができる。
(3)前記水圧転写用フィルムは、ロール状に巻き取られた状態で長期間保存された後であっても、フィルム繰り出し性が良好で転写不良の発生が少ないため、優れた表面特性を有する硬化樹脂層と鮮明な絵柄模様を有する水圧転写体を製造できる。
本発明は上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明は水溶性もしくは水膨潤性の樹脂から成る支持体フィルムと前記支持体フィルム上に設けた有機溶剤に溶解可能な疎水性の転写層を有し、前記転写層が活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも一種で硬化可能な硬化性樹脂層を有する水圧転写用フィルムであって、
前記転写層上に前記転写層との界面で剥離可能な剥離性フィルムを有することを特徴とする水圧転写用フィルムを提供する。
【0008】
また本発明は、水溶性もしくは水膨潤性の樹脂から成る支持体フィルム上に活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも一種で硬化可能な有機溶剤に溶解可能な疎水性の硬化性樹脂層を設けたフィルム(I)と、
剥離性フィルム上に印刷インキ皮膜または塗料皮膜からなる有機溶剤に溶解可能な疎水性の装飾層を設けたフィルム(II)とを、
前記フィルム(I)の硬化性樹脂層と前記フィルム(II)の装飾層とが相対するように重ねてドライラミネーションにより貼り合わせることを特徴とする水圧転写用フィルムの製造方法を提供する。
【0009】
また本発明は、前記水圧転写用フィルムを、該フィルムから剥離性フィルムを剥離した後に、前記支持体フィルムを下にして水に浮かべ、有機溶剤により前記転写層を活性化し、前記転写層を被転写体に転写し、支持体フィルムを除去し、次いで前記転写層を活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも一種で硬化させることを特徴とする水圧転写体の製造方法を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の水圧転写用フィルムに用いる水溶性もしくは水膨潤性の樹脂から成る支持体フィルムは、水で溶解もしくは膨潤可能な樹脂からなるフィルムである。水溶性もしくは水膨潤性の樹脂から成る支持体フィルム(以下、支持体フィルムと略す)としては、例えば、PVA(ポリビニルアルコール)、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース、ポリアクリルアミド、アセチルブチルセルロース、ゼラチン、にかわ、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のフィルムが使用できる。なかでも一般に水圧転写用フィルムとして用いられているPVAフィルムが水に溶解し易く、入手が容易で、硬化性樹脂層の印刷にも適しており、特に好ましい。また、用いる支持体フィルムの厚みは10〜200μm程度が好ましい。
【0011】
次に、本発明の水圧転写用フィルムの支持体フィルム上に設けられる転写層について説明する。
転写層は透明で活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも1種で硬化可能な硬化性樹脂層(以下、硬化性樹脂層と略す)を有する。転写層は該硬化性樹脂層と共に該硬化性樹脂層上に設けた印刷インキ皮膜または塗料皮膜から成る装飾層(以下、装飾層と略す)を有していても良い。
得られる水圧転写体の装飾層の意匠性が良く発現できることから、硬化性樹脂層は透明であることが好ましい。但し、水圧転写体の要求特性によるが、基本的に得られる水圧転写体の装飾層の色や柄が透けて見えれば良く、硬化性樹脂層は完全に透明であることを要せず、透明から半透明なものまでを含む。また、着色されていてもよい。
【0012】
硬化性樹脂層は、活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも1種で硬化可能な樹脂を含有するものであり、具体的には下記の(1)〜(6)が挙げられる。
(1)活性エネルギー線硬化性樹脂を含む硬化性樹脂層。
(2)活性エネルギー線硬化性樹脂と非重合性の熱可塑性樹脂を含む硬化性樹脂層。
(3)熱硬化性樹脂を含む硬化性樹脂層。
(4)熱硬化性樹脂と非重合性の熱可塑性樹脂を含む硬化性樹脂層。
(5)活性エネルギー線硬化性樹脂と熱硬化性樹脂を含む硬化性樹脂層。
(6)活性エネルギー線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂および非重合性の熱可塑性樹脂を含む硬化性樹脂層。
【0013】
本発明の水圧転写用フィルムは、硬化性樹脂層をその上に塗工または印刷した支持体フィルムと剥離性フィルム、もしくは硬化性樹脂層をその上に塗工または印刷した支持体フィルムと装飾層をその上に塗工または印刷した剥離性フィルムとをドライラミネーション(乾式積層法)により貼り合わせて製造されるため、硬化性樹脂層はドライラミネーション時のロールからの繰り出し性等の作業性やフィルム保存時のブロッキングの発生しにくさから、室温で粘着性がないものが好ましい。
【0014】
一方、PVAフィルムをはじめとする支持体フィルムは一般に耐熱性が低く、120℃を超える温度で貼り合わせると、フィルムの収縮やラミじわが生じ易いことから、硬化性樹脂層の粘着開始温度は40℃以上120℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは、40℃〜100℃である。
【0015】
なお、本発明で言う粘着開始温度とは、樹脂を厚さ100μmのPETフィルム上にバーコーターにて固形分膜厚10μmになるように塗工したフィルムを70℃、10分間乾燥して溶剤を揮発させた後、室温に冷却してから、熱風乾燥機に入れ、室温から5℃ずつ温度を上げて、各温度毎に指触により確認し、指紋跡が残る最低の温度を言う。
【0016】
次に、硬化性樹脂層の上記具体的構成(1)〜(6)について説明する。
(1)活性エネルギー線硬化性樹脂を含む硬化性樹脂層
活性エネルギー線硬化性樹脂は、1分子中に活性エネルギー線によって硬化可能な重合性基や構造単位を有するオリゴマーとポリマーである。ここでいう活性エネルギー線とは紫外線と電子線であり、これらにより硬化するオリゴマーとポリマーはいずれも使用可能であるが、特に紫外線硬化性樹脂が好適である。
紫外線源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等が用いられる。
【0017】
活性エネルギー線によって硬化可能な重合性基や構造単位は、例えば、(メタ)アクリロイル基、スチリル基、ビニルエステル、ビニルエーテル、マレイミド基などの重合性不飽和二重結合を有する基や構造単位が挙げられ、なかでも、(メタ)アクリロイル基が好ましい。なかでも、1分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化性のオリゴマーまたはポリマーが好ましい。より具体的には、1分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する質量平均分子量が300〜1万、より好ましくは300〜5000の活性エネルギー線硬化性のオリゴマーまたはポリマーが好ましく用いられる。
【0018】
(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーまたはポリマーは、塗料用樹脂として使用されるものであれば問題なく使用することができ、具体例を挙げれば、ポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリアクリル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等が挙げられ、中でもポリウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートおよびエポキシ(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
特に、ポリオール、水酸基含有(メタ)アクリレートおよびポリイソシアネートの反応生成物として得られるポリウレタン(メタ)アクリレートが表面特性に優れることから好ましい。
【0019】
ポリオールの具体例としては、エチレンジグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,3−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。
【0020】
水酸基含有(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシブチル等のアクリル酸またはメタクリル酸の炭素数2〜8のヒドロキシアルキルエステル;
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルポリオールとアクリル酸またはメタクリル酸等の不飽和カルボン酸とのモノエステル;
ポリエチレングリコール等のポリエーテルポリオールとアクリル酸2−ヒドロキシエチル等の水酸基含有不飽和モノマーとのモノエーテル;
無水マレイン酸や無水イタコン酸のような酸無水基含有不飽和化合物とエチレングリコール等のグリコール類とのモノエステル化物またはジエステル化合物;
ヒドロキシエチルビニルエーテルの如きヒドロキシアルキルビニルエーテル類;
α,β−不飽和カルボン酸とα−オレフィンエポキシドのようなモノエポキシ化合物との付加物;
アクリル酸グリシジルまたはメタクリル酸グリシジルと酢酸、プロピオン酸、p−tert−ブチル安息香酸、脂肪酸のような一塩基酸との付加物;
上記の水酸基含有モノマーとラクトン類(例えばε−カプロラクトン、γ−バレロラクトン等)との付加物等が挙げられる。
【0021】
ポリイソシアネートとしては、1分子中にイソシアネート基を2つ(2価)以上有する化合物であればよく、ジイソシアネートや1分子中にイソシアネート基を3つ(3価)以上有する化合物を用いることができる。
ジイソシアネートの具体例としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類;
水素添加キシリレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の環状脂肪族ジイソシアネート類;
トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類が挙げられる。
【0022】
3価以上のポリイソシアネートの具体例としては、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトカプロエート、1,3,5−トリイソシアナトシクロヘキサンなどの脂肪族トリイソシアネート;
1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトナフタレンなどの芳香族トリイソシアネート;
ジイソシアネート類を環化三量化せしめて得られる、いわゆるイソシアヌレート環構造を有するポリイソシアネート類が挙げられる。
【0023】
さらに3価以上のポリイソシアネートの具体例は、2価以上のポリイソシアネートの2量体もしくは3量体;
これらの2価または3価以上のポリイソシアネートと多価アルコール、低分子量ポリエステル樹脂もしくは水等とをイソシアネート基過剰の条件で反応させて得られる付加物;
ポリイソシアネート類と水とを反応せしめて得られるビウレット構造を有するポリイソシアネート類などが挙げられる。
【0024】
また、2−イソシアナートエチル(メタ)アクリレート、3−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネートもしくは(メタ)アクリロイルイソシアネートの如きイソシアネート基を有するビニルモノマーの単独重合体、またはこれらのイソシアネート基含有ビニルモノマーをこれらと共重合可能な(メタ)アクリル系、ビニルエステル系、ビニルエーテル系、芳香族ビニル系もしくはフルオロオレフィン系ビニルモノマー類などと共重合せしめて得られる、イソシアネート基含有ビニル系共重合体と前記水酸基含有(メタ)アクリレートとを反応させて得られるポリウレタン(メタ)アクリレートも用いることができる。
【0025】
上述のようにして得られる1分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する質量平均分子量が300〜1万、より好ましくは300〜5000の紫外線硬化型のポリウレタン(メタ)アクリレートが活性エネルギー線硬化性樹脂として特に好ましく用いられる。
【0026】
これらの活性エネルギー線硬化性樹脂を含む硬化性樹脂層には、必要に応じて慣用の光重合開始剤や光増感剤が含まれて良い。光重合開始剤の代表的なものとしては、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトンの如きアセトフェノン系化合物;ベンゾイン、ベンゾインイソプロピルエーテルの如きベンゾイン系化合物;2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシドの如きアシルホスフィンオキシド系化合物;ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル−4−フェニルベンゾフェノンの如きベンゾフェノン系化合物;2,4−ジメチルチオキサントンの如きチオキサントン系化合物;4,4′−ジエチルアミノベンゾフェノンの如きアミノベンゾフェノン系化合物;ポリエーテル系マレイミドカルボン酸エステル化合物などが挙げられ、これらは併用して使用することもできる。
【0027】
光重合開始剤の使用量は用いる活性エネルギー線硬化性樹脂に対して、通常、0.1〜15質量%、好ましくは0.5〜8質量%である。光増感剤としては、例えば、トリエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチルの如きアミン類が挙げられる。さらに、ベンジルスルホニウム塩やベンジルピリジニウム塩、アリールスルホニウム塩などのオニウム塩は、光カチオン開始剤として知られており、これらの開始剤を用いることも可能であり、上記の光重合開始剤と併用することもできる。
【0028】
(2)活性エネルギー線硬化性樹脂と非重合性の熱可塑性樹脂を含む硬化性樹脂層
活性エネルギー線硬化性樹脂と非重合性の熱可塑性樹脂を含む硬化性樹脂層は上述した活性エネルギー線硬化性樹脂と非重合性の熱可塑性樹脂を含む。非重合性の熱可塑性樹脂を活性エネルギー線硬化性樹脂と併せて用いることは硬化性樹脂層の粘着性低減とガラス転移温度(Tg)の向上および硬化性樹脂層の凝集破壊強度の向上に極めて効果的である。但し、硬化性樹脂層に含ませる熱可塑性樹脂の量が多いと硬化性樹脂の硬化反応を阻害するので、硬化性樹脂層の全樹脂量100質量部に対して熱可塑性樹脂は70質量部を超えない範囲で添加することが好ましい。
【0029】
非重合性の熱可塑性樹脂は用いる活性エネルギー線硬化性樹脂に相溶できるものであり、具体例としては、ポリメタアクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリエステルなどが挙げられる。これらはホモポリマーまたは複数のモノマーが共重合したものであって良い。
なかでも、ポリスチレンおよびポリメタアクリレートは、Tgが高く硬化性樹脂層の粘着性低減に適しているために好ましく、特にポリメチルメタアクリレートを主成分としたポリメタアクリレートが透明性、耐溶剤性および耐擦傷性に優れる点で好ましい。
【0030】
また、熱可塑性樹脂の分子量とTgは塗膜形成能に大きな影響を与える。硬化性樹脂の流動性を抑制し、かつ硬化性樹脂層の有機溶剤による活性化を容易にするために、熱可塑性樹脂の質量平均分子量は好ましくは3,000〜40万、より好ましくは1万〜20万であり、Tgは好ましくは35℃〜200℃、より好ましくは35℃〜150℃である。Tgが35℃付近の比較的低いTgを有する熱可塑性樹脂を用いる場合は、熱可塑性樹脂の質量平均分子量は10万以上であることが好ましい。
【0031】
活性エネルギー線硬化性樹脂と非重合性の熱可塑性樹脂を含む硬化性樹脂層としては、これらのなかでも、1分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する質量平均分子量300〜1万、より好ましくは300〜5000である活性エネルギー線硬化性樹脂と、この活性エネルギー線硬化性樹脂に相溶するTgが35℃〜200℃、好ましくは35℃〜150℃で、質量平均分子量が3000〜40万、好ましくは1万〜20万である非重合性の熱可塑性樹脂を含有する硬化性樹脂層が好ましい。さらに、前記活性エネルギー線硬化性樹脂が、1分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリウレタン(メタ)アクリレートであり、非重合性の熱可塑性樹脂がポリメタアクリレート、特にポリメチルメタアクリレートである硬化性樹脂層がとりわけ好ましい。
【0032】
(3)熱硬化性樹脂を含む硬化性樹脂層
熱硬化性樹脂は、熱または触媒の作用により重合する官能基を分子中に有する化合物であるか、または主剤となる熱硬化性化合物に硬化剤となる熱反応性化合物を配合したものである。熱または触媒の作用により重合する官能基としては、例えば、N−メチロール基、N−アルコキシメチル基、エポキシ基、メチロール基、酸無水物、炭素−炭素二重結合などが挙げられる。
【0033】
炭素−炭素二重結合を分子内に有し重合による架橋反応が可能なものは、活性エネルギー線硬化性樹脂と同種の硬化性樹脂が使用可能であり、これらの硬化性樹脂と加熱によってラジカルソースを発生する熱重合開始剤とを組み合わせることにより熱硬化性樹脂として用いることができる。この際の熱重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリルなどの通常の熱重合開始剤が用いられる。
【0034】
主剤と硬化剤の具体例的な組み合わせとしては、例えば、水酸基やアミノ基を有する主剤樹脂と硬化剤としてイソシアネート;水酸基やカルボキシル基を有する主剤樹脂と硬化剤としてN−メチロール化またはN−アルコキシメチル化メラミン、ベンゾグアナミン等のアミノ樹脂;エポキシ基や水酸基を有する主剤樹脂と硬化剤として無水フタル酸の如き酸無水物;カルボキシル基や炭素−炭素二重結合、ニトリル基、エポキシ基を有する主剤樹脂と硬化剤としてフェノール樹脂;カルボキシル基やアミノ基を有する主剤樹脂と硬化剤としてエポキシ基含有化合物などを用いることができる。
【0035】
これらの熱硬化性樹脂は常温でも保存中に徐々に硬化反応が進行するものが多い。保存期間中に硬化反応が進むと、有機溶剤による転写層の活性化が十分行われず転写不良を起こす原因となる。このため、熱硬化性樹脂の中でも主剤としてポリオール、硬化剤としてブロックイソシアネートを用いる系が好ましい。
ブロックイソシアネートはイソシアネート基を慣用のブロック剤で保護したものを用いることができ、これら慣用のブロック剤は、フェノール、クレゾール、芳香族第2アミン、第3級アルコール、ラクタム、オキシムなどが挙げられる。
ブロックイソシアネートは装飾層の耐熱性や被転写体の耐熱性に合わせてブロック基の脱離温度が好適なものを選べば良い。
【0036】
ポリオールとしては、アクリルポリオール、ポリ−p−ヒドロキシスチレン、ポリエステルポリオール、ポリエチレンビニルアルコール共重合体などが挙げられるが、特にアクリルポリオールが好ましく、なかでも、質量平均分子量が3,000〜10万のアクリルポリオール、より好ましくは1万〜7万のアクリルポリオールが好適である。
【0037】
熱硬化性樹脂も印刷性または塗工性が必要であることから、硬化前の樹脂の分子量は高いほうが好ましく、質量平均分子量1000〜10万が好ましく、さらに好ましくは3,000〜3万である。より具体的には、質量平均分子量が3,000〜10万、より好ましくは1万〜7万のポリオール(特に好ましくはアクリルポリオール)を主剤とし、ブロックイソシアネートを硬化剤として含むものが好ましく用いられる。
【0038】
(4)熱硬化性樹脂と非重合性の熱可塑性樹脂を含む硬化性樹脂層
熱硬化性樹脂と非重合性の熱可塑性樹脂を含む硬化性樹脂層としては、(3)に記載した熱硬化性樹脂と、(2)に記載した非重合性の熱可塑性樹脂を含むものである。
用いる熱硬化性樹脂は(3)で記載した熱硬化性樹脂と同様であり、好ましい熱硬化性樹脂も(3)と同様にブロックイソシアネートとポリオールであり、特にポリオールはアクリルポリオールであり、なかでも質量平均分子量が3,000〜10万、より好ましくは1万〜7万のものである。
【0039】
熱硬化性樹脂としてブロックイソシアネートとポリオールを用いる場合は、一般にポリオールが塗膜形成能を有するので、併用する非重合性の熱可塑性樹脂の量は少なくてよい。用いる非重合性の熱可塑性樹脂は用いる熱硬化性樹脂と相溶する必要があり、熱硬化性樹脂としてブロックイソシアネートとポリオールを用いる場合は、ポリオールに溶解する非重合性の熱可塑性樹脂が好ましい。また、非重合性の熱可塑性樹脂は、Tgが35℃〜200℃、より好ましくはTgが35℃〜150℃、質量平均分子量が3000〜40万の非重合性の熱可塑性樹脂が好ましく用いられ、中でもポリメタアクリレートとりわけポリメチルメタアクリレートが好ましい。
【0040】
(5)活性エネルギー線硬化性樹脂と熱硬化性樹脂を含む硬化性樹脂層
活性エネルギー線硬化性樹脂と熱硬化性樹脂を含む硬化性樹脂層としては、それぞれ(1)に記載した活性エネルギー線硬化性樹脂と、(3)に記載した熱硬化性樹脂を用いることが出来る。例えば、1分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレートと、ブロックイソシアネートとポリオールとを含むものである。
【0041】
なかでも、(1)に記載した活性エネルギー線硬化性樹脂の好ましい樹脂と、(3)に記載した熱硬化性樹脂の各々の好ましい樹脂をそれぞれ含むものが好ましく、例えば、質量平均分子量300〜1万、より好ましくは300〜5000の1分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマーまたはポリマー、なかでも好ましくはポリウレタン(メタ)アクリレート、またはブロックイソシアネートと質量平均分子量が3,000〜10万、より好ましくは1万〜7万のアクリルポリオールを含むものである。
【0042】
(6)活性エネルギー線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂および非重合性の熱可塑性樹脂を含む硬化性樹脂層
活性エネルギー線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂および非重合性の熱可塑性樹脂を含む硬化性樹脂層は、(1)に記載した活性エネルギー線硬化性樹脂と、(3)に記載した熱硬化性樹脂、および(2)に記載した活性エネルギー線硬化性樹脂と併用する非重合性の熱可塑性樹脂を含む硬化性樹脂層である。
【0043】
上述した硬化性樹脂層は、その乾燥膜厚が厚いほど、得られる水圧転写体の表面保護効果は大きく、また装飾層の凹凸を吸収する効果が大きいために成形品に優れた光沢を持たせることができて好ましい。しかし、乾燥膜厚が厚過ぎると有機溶剤による硬化性樹脂層の活性化(可溶化)が不十分になり易い。従って、有機溶剤による硬化性樹脂層の活性化が十分なされ、かつ保護層としての機能や装飾層の凹凸を吸収する効果を満足させるためには、硬化性樹脂層の乾燥膜厚は3〜200μmであることが好ましく、より好ましくは、10〜70μmである。
【0044】
次に、装飾層について説明する。
本発明の装飾層の形成に用いる印刷インキまたは塗料は、剥離性フィルムに印刷または塗工が可能な印刷インキまたは塗料であり、剥離性フィルムとの剥離力が低く、さらに、有機溶剤によって活性化されることにより、被転写体に転写層を転写する際に十分な柔軟性が得られることが好ましく、特にグラビア印刷インキが好ましい。また絵柄のない着色層を塗工によって形成することもできる。
【0045】
印刷インキまたは塗料に用いるワニス用樹脂は、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ウレア樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂(塩ビ、酢ビ共重合樹脂)、ビニリデン樹脂(ビニリデンクロライド、ビニリデンフルオネート)、エチレン−ビニルアセテート樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩素化オレフィン樹脂、エチレン−アクリル樹脂、石油系樹脂、セルロース誘導体樹脂などの熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
【0046】
装飾層中の着色剤は、顔料が好ましく、無機系顔料、有機系顔料のいずれも使用が可能である。また、金属切削粒子のペーストや蒸着金属膜から得られる金属細片を顔料として含んだ金属光沢インキの使用も可能である。これらの金属としては、アルミニウム、金、銀、真鍮、チタン、クロム、ニッケル、ニッケルクロームおよびステンレス等が好ましく用いられる。これらの金属細片は、分散性、酸化防止やインキ層の強度向上のためにエポキシ樹脂、ポリウレタン、アクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース誘導体で表面処理されていても良い。
【0047】
装飾層の形成方法は、グラビア印刷のほかにオフセット印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、熱転写印刷などを用いることができる。装飾層の乾燥膜、インクジェット印刷、熱転写印刷などを用いることができる。装飾層の乾燥膜厚は0.5〜15μmであることが好ましく、更に好ましくは、1〜7μmである。
【0048】
なお、意匠性、展延性を阻害しない限り、硬化性樹脂層および装飾層中に消泡剤、沈降防止剤、顔料分散剤、流動性改質剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、酸化防止剤、光安定化剤、紫外線吸収剤などの慣用の各種添加剤を加えても構わない。
【0049】
次に、剥離性フィルムについて説明する。
本発明の水圧転写用フィルムは、水圧転写に際して、剥離性フィルムを硬化性樹脂層または硬化性樹脂層と装飾層からなる転写層から剥離する必要があり、その際に剥離性フィルムが転写層界面で剥離可能であることが必要である。従って、水圧転写用フィルムに用いる剥離性フィルムは転写層界面での剥離力が弱いものが好ましい。
【0050】
一方、前述したように、本発明の水圧転写用フィルムは、硬化性樹脂層をその上に塗工または印刷した支持体フィルムと剥離性フィルムとを、もしくは、硬化性樹脂層をその上に塗工または印刷した支持体フィルムと装飾層をその上に塗工または印刷した剥離性フィルムとを、ドライラミネーション(乾式積層法)により貼り合わせて製造されるため、装飾層をその上に塗工または印刷した剥離性フィルムも、フィルム繰り出し等の作業や取扱で装飾層が剥がれ落ちない剥離力で剥離性フィルム上に固着されている必要がある。このため、転写層との界面における剥離性フィルムの剥離力を測定し、好ましい剥離性フィルムと転写層の組み合わせを選定する。
【0051】
すなわち、フィルム繰り出し等の作業や取扱において装飾層が剥がれない剥離力以上である必要性から、剥離性フィルムと転写層との剥離力(F1)は、具体的には、JIS K6854の剥離試験で測定される剥離力が0.7g/cm以上であることが好ましい。また、この剥離力(F1)が大きすぎると、剥離性フィルムを転写層から剥離する際に転写層面に筋模様が入るジッピングが生じるため、剥離力(F1)は60g/cm未満であることが好ましい。従って、剥離性フィルムと転写層との剥離力(F1)は、0.7g/cm〜60g/cmであることが好ましく、さらに好ましくは3g/cm〜40g/cmである。
【0052】
剥離性フィルムとして、具体的には、ポリプロピレンやポリエチレン、ポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニルなどの素材からなるフィルムを用いることができ、その厚みは20μm〜250μmであるものが好ましい。
これらの剥離性フィルムと使用する転写層との界面における剥離性フィルムの剥離力を測定し、好ましい剥離性フィルムと転写層の組み合わせを選定すれば良い。また、必要に応じて、剥離性フィルムにさらに表面処理を行うことにより、剥離力(F1)をさらに小さくすることも可能である。
【0053】
次に、本発明の水圧転写用フィルムの製造方法について述べる。
本発明の水圧転写用フィルムの製造方法は、水溶性もしくは水膨潤性の樹脂から成る支持体フィルム上に活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも一種で硬化可能な有機溶剤に溶解可能な疎水性の硬化性樹脂層を設けたフィルム(I)と、剥離性フィルム上に印刷インキ皮膜または塗料皮膜からなる有機溶剤に溶解可能な疎水性の装飾層を設けたフィルム(II)とを、前記フィルム(I)の硬化性樹脂層と前記フィルム(II)の装飾層とが相対するように重ねてドライラミネーション(乾式積層法)により貼り合わせることを特徴とする。
【0054】
本発明の水圧転写用フィルムの製造はドライラミネーターを用いて行うことが好ましい。すなわち、ドライラミネーターの一方の繰り出しロール(第1の繰り出しロール)に支持体フィルムを装着し、もう一方の繰り出しロール(第2の繰り出しロール)に予め剥離性フィルムに絵柄模様の装飾層を印刷したフィルム(II)を装着する。第1の繰り出しロールから繰り出された支持体フィルムに前記硬化性樹脂の有機溶剤溶液が塗布され、さらにドライヤーにて乾燥されて支持体フィルム上に硬化性樹脂層が形成されたフィルム(I)が得られる。次いで、このフィルム(I)の硬化性樹脂層と第2の繰り出しロールから繰り出されるフィルム(II)の装飾層とが相対するように重ね合わされ、加熱圧着ロールで貼り合わされて巻き取りロールに巻き取られることにより、本発明の水圧転写用フィルムが製造される。
【0055】
支持体フィルムに前記硬化性樹脂の有機溶剤溶液を塗布するには、スリットリバースコーター、ダイコーター、コンマコーター、バーコーター、ナイフコーター、グラビアコーター、グラビアリバースコーター、マイクログラビアコーター、フレキソコーター、ブランケットコーター、ロールコーター、エアナイフコーター等を用いることが出来る。
【0056】
剥離性フィルム上に装飾層を有するフィルム(II)の製造は、塗布でも良いが印刷により行うことが好ましく、特に柄模様を印刷する場合は、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷またはシルク印刷が好ましい。剥離性フィルム上に装飾層を塗布または印刷後、乾燥してフィルム(II)を得る。
【0057】
支持体フィルム上に硬化性樹脂層を設けたフィルム(I)と、剥離性フィルム上に装飾層を設けたフィルム(II)とを貼り合わせる工程では、一般に、PVAフィルムをはじめとする支持体フィルムの耐熱性が低く、130℃を超える温度で貼り合わせると、フィルムの収縮やラミじわが入りやすくなる問題が生じ易いことから、フィルム(I)の乾燥、加熱加圧による貼り合わせは、40〜120℃、より好ましくは、40〜100℃の温度範囲で行う。
【0058】
ドライラミネーターを用いて、硬化性樹脂層のみを有する水圧転写用フィルムを製造するには、支持体フィルム上に硬化性樹脂層が形成されたフィルム(I)の製造までは、上述の硬化性樹脂層と装飾層を有する水圧転写用フィルムの製造と同様である。次いで、製造されたフィルム(I)の硬化性樹脂層と第2の繰り出しロールから繰り出される剥離性フィルムが重ね合わされ、加熱圧着ロールで貼り合わされて巻き取りロールに巻き取られることにより、硬化性樹脂層のみを有する水圧転写用フィルムが製造される。
【0059】
得られた本発明の水圧転写用フィルムは、ロールに巻き取って遮光紙で覆い、倉庫などの暗所に保管すれば硬化反応が不必要に進行することはなく、保存中にフィルムのブロッキングが発生せず、水圧転写の際にロールからの繰り出しが良好で、鮮明な装飾層の水圧転写が可能なものであり、積極的に紫外線や太陽光に曝さない限り十分な市場流通性を有するものである。
【0060】
次に、本発明の水圧転写用フィルムを用いた、硬化樹脂層もしくは装飾層と硬化樹脂層を有する成形品の製造方法について述べる。
本発明の水圧転写体の製造方法は、本発明の水圧転写用フィルムを、剥離性フィルムを剥離した後に、支持体フィルムを下にして水に浮かべ、有機溶剤により硬化性樹脂層もしくは装飾層と硬化性樹脂層からなる転写層を活性化し、転写層を被転写体に転写し、支持体フィルムを除去し、次いで転写層の硬化性樹脂層を活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも一種で硬化させる方法である。
【0061】
本発明の水圧転写用フィルムから剥離性フィルムを剥離した後は、従来の水圧転写用フィルムの水圧転写と同様な方法で水圧転写を行うことができる。これらの水圧転写用フィルムを用いた水圧転写体の製造方法の概略は、以下に示す通りである。
【0062】
(1)剥離性フィルムを剥離した水圧転写用フィルムを支持体フィルムを下にして水槽中の水に浮かべ、支持体フィルムを水で溶解もしくは膨潤させる。
(2)転写層に有機溶剤を塗布または噴霧することにより硬化性樹脂層もしくは硬化性樹脂層と装飾層とから成る転写層を活性化させる。なお、転写層の有機溶剤による活性化は、フィルムを水に浮かべる前に行っても良い。
(3)転写層に被転写体を押しつけながら、被転写体と水圧転写用フィルムを水中に沈めて行き、水圧によって転写層を被転写体に密着させて転写する。
(4)水から出した被転写体から支持体フィルムを除去し、被転写体に転写された転写層の硬化性樹脂層を活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも一種により硬化させて、硬化した樹脂層もしくは硬化した樹脂層と装飾層とを有する水圧転写体を得る。
【0063】
硬化性樹脂層または硬化性樹脂層と装飾層とから成る転写層は、水圧転写される前に散布される有機溶剤で活性化され、十分に可溶化もしくは柔軟化されることが必要である。ここで言う活性化とは、転写層に有機溶剤を塗布または散布することにより、転写層を構成する樹脂を完全には溶解せずに可溶化させ、水圧転写に際して親水性の支持体フィルムから疎水性の転写層の剥離を容易にすると共に、転写層に柔軟性を付与することにより転写層の被転写体の三次元曲面への追従性と密着性を向上させることを意味する。この活性化は、転写層を水圧転写用フィルムから被転写体へ転写する際に、これらの転写層が柔軟化され、被転写体の三次元曲面へ十分に追従できる程度に行われれば良い。
【0064】
水圧転写における水槽の水は、転写層を転写する際に水圧転写用フィルムの硬化性樹脂層もしくは硬化性樹脂層と装飾層とを被転写体の三次元曲面に密着させる水圧媒体として働く他、支持体フィルムを膨潤または溶解させるものであり、具体的には、水道水、蒸留水、イオン交換水などの水で良く、また用いる支持体フィルムによっては、水にホウ酸等の無機塩類を10%以下、またはアルコール類を50%以下溶解させてもよい。
【0065】
本発明に用いる活性化剤は、硬化性樹脂層もしくは硬化性樹脂層と装飾層とを可溶化させる有機溶剤である。本発明に用いる活性化剤は、一般の水圧転写に用いる活性化剤と同様なものを用いることができ、具体的には、トルエン、キシレン、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトールアセテート、カルビトール、カルビトールアセテート、セロソルブアセテート、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸イソブチル、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、ソルフィットアセテートなど及びそれらの混合物が挙げられる。
【0066】
この活性化剤中に印刷インキ又は塗料と成形品との密着性を高めるために、若干の樹脂成分を含ませてもよい。例えば、ポリウレタン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂といった、インキのバインダーに類似の構造のものを1〜10%含ませることによって密着性が高まることがある。
【0067】
被転写体に転写層を水圧転写した後、支持体フィルムを水で溶解もしくは剥離して除去した後、乾燥させる。被転写体からの支持体フィルムの除去は、従来の水圧転写方法と同様に水流で支持体フィルムを溶解もしくは剥離して除去する。
【0068】
活性エネルギー線硬化性樹脂からなる硬化性樹脂層については、水圧転写体を乾燥させた後に活性エネルギー線照射を行い、硬化性樹脂層の硬化を行う。熱硬化性樹脂からなる硬化性樹脂層であれば、乾燥とともに硬化性樹脂層の硬化を行うことができる。
【0069】
本発明では、硬化性樹脂層が転写の段階では未硬化であるために、水圧転写用フィルムの硬化性樹脂層の活性化が容易であり、更には転写後に活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも1種によって硬化し、十分な表面保護性能、光沢を発現するものである。
【0070】
被転写体は、その表面に硬化性樹脂層や装飾層が十分密着することが好ましく必要に応じて被転写体表面にプライマー層を設ける。プライマー層を形成する樹脂は、プライマー層として慣用の樹脂を特に制限なく用いることができ、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などが挙げられる。また、密着性の良好なABS樹脂やSBSゴムなどの溶剤吸収性の高い樹脂成分からなる被転写体にはプライマー処理は不要である。被転写体の材質は、必要に応じて防水加工を施すことにより水中に沈めても形状が崩れない防水性があれば、金属、プラスチック、木材、パルプモールド、ガラス等のいずれであっても良く特に限定されない。
【0071】
本発明が適用できる水圧転写体の具体例としては、テレビ、ビデオ、エアコン、ラジオカセット、携帯電話、冷蔵庫等の家庭電化製品;パーソナルコンピューター、ファックスやプリンター等のOA機器;ファンヒーターやカメラなどの家庭製品のハウジング部分;テーブル、タンス、柱などの家具部材;バスタブ、システムキッチン、扉、窓枠などの建築部材;電卓、電子手帳などの雑貨;自動車内装パネル、自動車やオートバイの外板、ホイールキャップ、スキーキャリヤ、自動車用キャリアバッグなどの車内外装品;ゴルフクラブ、スキー板、スノーボード、ヘルメット、ゴーグルなどのスポーツ用品;広告用立体像、看板、モニュメントなどが挙げられ、曲面を有しかつ意匠性を必要とする成形品に特に有用に用いられ、極めて広い分野で使用可能である。
【0072】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明する。特に断わりのない限り「部」、「%」は質量基準である。用いた測定方法と判定方法を下に記載する。
【0073】
(粘着開始温度の測定方法)
100μm厚のPETフィルムにバーコーターにて樹脂を固形分膜厚10μmで塗工した。塗装したフィルムを70℃、10分間乾燥して溶剤を揮発させた後、室温に冷却してから、熱風乾燥機に入れ、室温から5℃ずつ上昇させて各温度での指触により確認し、指紋跡が残る最低温度を粘着開始温度とした。
【0074】
(水圧転写用フィルムの巻き取り性判定)
製造後の水圧転写用フィルムを巻き取り機にかけた際に、しわの発生とブロッキングが起こらなかったものを○、わずかにしわかブロッキングが生じたものを△、しわかブロッキングまたは両方が発生したものを×とした。
【0075】
(水圧転写用フィルムの寸法安定性)
PVAフィルムに硬化性樹脂を塗工後、60℃で乾燥し、フィルム(II)とラミネートした後、印刷、塗工前に比べてフィルムの幅が95%以上の幅を保っている場合を○、95%未満のものを×とした。
【0076】
(水圧転写用フィルムの剥離力の測定方法)
JIS K6854に準じて、丸菱化学機械製作所製精密力量測定器、PP−650−Dデジタルゲージ、PGDIIを用いて、10mm/分の速度で、水圧転写用フィルム(200mm×25mm)の剥離力を測定した。
【0077】
(保存後の水圧転写用フィルムのブロッキング発生評価)
10mの水圧転写用フィルムをロール巻き状態で、20℃、60%RHの恒温室で保管した。3ヵ月後、フィルムを引き出し、フィルムのブロッキングについて評価した。ブロッキングがないものは○、ブロッキングによってフィルムの引き出し力が著しく増加したものは×とした。
【0078】
(水圧転写体の密着性測定方法)
プライマー処理済亜鉛メッキ鋼板(平板:100mm×100mm×0.5mm)またはABS樹脂板(平板:100mm×100mm×3mm)に水圧転写した水圧転写体のインキ密着性を碁盤目テープ法(JIS K5400) に準じて10点満点で評価した。
【0079】
(水圧転写体の耐引掻き傷性測定方法)
JIS K5401「塗膜用鉛筆引き掻き試験機」に従って、水圧転写体の耐引掻き傷性を測定した。用いた芯の長さは3mm、塗膜面との角度45度、荷重1Kg、引き掻き速度0.5mm/分、引き掻き長さ3mm、使用鉛筆は三菱ユニとした。
【0080】
(水圧転写体の表面光沢測定方法)
水圧転写体の60度鏡面光沢度(JIS K5400)を測定した。
【0081】
(水圧転写体の耐擦傷性測定方法)
プライマー処理済亜鉛メッキ鋼板(平板:100mm×100mm×0.5mm)またはABS樹脂板(平板:100mm×100mm×3mm)に水圧転写した水圧転写体をラビング試験機(荷重800g)により、乾拭き100回後の表面光沢保持率を評価した。
【0082】
(水圧転写体の熱水処理後の密着性測定方法)
水圧転写体を熱水(水温98℃)中で30分間加熱保持し、次いで碁盤目テープ法(JIS K5400) に準じて、転写層にカッターで1×1mmの碁盤目を100個作り、その部分に粘着テープを貼った後、この粘着テープを急速に剥離し、塗膜の剥離状態を目視により観察して、インキ密着性を10点満点で評価した。
【0083】
(水圧転写体の熱水処理後の光沢保持率の測定方法)
水圧転写体を98℃の熱水中で30分間加熱保持した後、光沢計で60度グロスを測定して熱水処理前後での光沢保持率を算出した。
【0084】
(製造例1)硬化性樹脂A1の製造
ペンタエリスリトール2モル当量とヘキサメチレンジイソシアネート7モル当量とヒドロキシエチルメタクリレート6モル当量を60℃で反応して得られる平均6官能ウレタンアクリレート(UA1)60部(質量平均分子量890)とロームアンドハース社製アクリル樹脂パラロイドA−11(Tg100℃、質量平均分子量125,000)40部と、酢酸エチルとメチルエチルケトンの混合溶剤(混合比1/1)とで固形分42%の硬化性樹脂A1を製造した。樹脂分の粘着開始温度は50℃であった。
【0085】
(製造例2)硬化性樹脂A2の製造
荒川化学社製ビームセット575(6官能ポリウレタンアクリレート、質量平均分子量1000)60部と、大日本インキ化学工業社製DPA−720(エステルアクリレート、分子量410)10部とロームアンドハース社製アクリル樹脂パラロイドB−72(Tg40℃、質量平均分子量105,000)40部と、酢酸エチルとトルエンの混合溶剤(混合比1/1)とで固形分45%の硬化性樹脂A2を製造した。樹脂分の粘着開始温度は40℃であった。
【0086】
(製造例3)硬化性樹脂A3の製造
製造例1の平均6官能ウレタンアクリレート(UA1)40部と、荒川化学社製ビームセット575(6官能ポリウレタンアクリレート)30部と東洋紡社製バイロン500(ポリエステル、Tg40℃、質量平均分子量25,000)30部と、酢酸エチルとトルエンの混合溶剤(混合比1:1)とで固形分50%の硬化性樹脂A3を製造した。樹脂分の粘着開始温度は40℃であった。
【0087】
(製造例4)硬化性樹脂A4の製造
製造例1の平均6官能ウレタンアクリレート(UA1)80部と、ポリエチレングリコールジアクリレート(質量平均分子量1,000)10部と三菱レイヨン社製アクリペットVH(アクリル樹脂、Tg90℃、質量平均分子量205,000)10部と、酢酸エチルとトルエンの混合溶剤(混合比1:1)とで固形分40%の硬化性樹脂A4を製造した。樹脂分の粘着開始温度は45℃であった。
【0088】
(製造例5)硬化性樹脂A5の合成
メチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートをモル比5:2:3でラジカル共重合したポリマー(質量平均分子量25,000)100部をトルエンに溶解して30%溶液にした後、昭和電工株式会社製アクリルイソシアネートモノマーMOIを10部添加し、50℃で1時間攪拌し、メタクリル基を側鎖に有するTg55℃、粘着開始温度50℃の硬化性樹脂を製造した。この溶液にチバガイギー製イルガキュア184を固形分に対して1%添加して固形分30%の硬化性樹脂A5を製造した。
【0089】
(製造例6)硬化性樹脂A6の製造
ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート及びスチレンをモル比20:30:15:15:20で共重合させたアクリルポリオール(a)(質量平均分子量25,000)81部に対して、アクリルポリオールの水酸基価に対して1.1倍当量のイソシアネート価のヘキサメチレンジイソシアネートフェノール付加物とヘキサメチレンジイソシアネートの3量体のフェノール付加物との混合物19部をトルエンと酢酸エチル(1/1)の混合溶媒に溶解して固形分率35%の硬化性樹脂A6を製造した。樹脂固形分の粘着開始温度は40℃であった。
【0090】
(製造例7)硬化性樹脂A7の製造
ヒドロキシエチルメタクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ブチルフマレート及びスチレンをモル比20:30:20:10:10:10で共重合させたアクリルポリオール(b)(質量平均分子量20,000)50部に対して、アクリルポリオールの水酸基価に対して1.1倍当量のイソシアネート価のヘキサメチレンジイソシアネートフェノール付加物とヘキサメチレンジイソシアネートの3量体のフェノール付加物との混合物10部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート40部をトルエンと酢酸エチル(1/1)の混合溶媒に溶解して固形分率35%の硬化性樹脂A7を製造した。樹脂固形分の粘着開始温度は40℃であった。これら硬化性樹脂A1〜A7を含む硬化性樹脂層の組成を表1および表2に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
【表2】
【0093】
(製造例8)
(装飾フィルム(II)B1の製造)
剥離性フィルムとして、東洋紡社製の厚さ50μmの無延伸ポリプロピレンフィルム(以下、PPフィルムと略す)を用い、該フィルムにウレタンインキ(商品名:ユニビアA)をグラビア4色印刷機にて厚さ3μmの木目柄を印刷して、装飾フィルム(II)B1を製造した。
【0094】
(製造例9)
(装飾フィルム(II)B2の製造)
剥離性フィルムとして、東洋紡社製の厚さ50μmの延伸ポリプロピレンフィルム(以下、OPPと略す)を用い、該フィルムに下記組成のウレタンインキをグラビア7色印刷機にて厚さ4μmの抽象柄を印刷して、装飾フィルム(II)B2を製造した。
【0095】
(インキ組成、黒、茶、白)
ポリウレタン(荒川化学社製ポリウレタン2569):20部
顔料(黒、茶、白):10部
酢酸エチル・トルエン(1/1):60部
ワックス等添加剤:10部
【0096】
(実施例1)
アイセロ化学社製の厚さ30μmのPVAフィルムに製造例1の硬化性樹脂A1をリップコーターで固形分膜厚20μmになるように塗工し、次いで60℃で2分間乾燥して、フィルム(I)を製造した。このフィルム(I)の硬化性樹脂層と東洋紡製OPPフィルムとを60℃でラミネートし、ラミネートしたフィルムをそのまま巻き取って水圧転写用フィルムC1を製造した。
この水圧転写用フィルムC1からOPPフィルムを剥離した。硬化性樹脂層とOPPフィルムの剥離力は25g/cmと十分に低く、硬化性樹脂層にしわや筋などは残らなかった。
【0097】
(実施例2)
アイセロ化学社製の厚さ30μmのPVAフィルムに製造例1の硬化性樹脂A1をリップコーターで固形分膜厚20μmになるように塗工し、次いで60℃で2分間乾燥してフィルム(I)を製造した。このフィルム(I)の硬化性樹脂層と装飾フィルム(II)B1のインキ層を向き合わせて60℃でラミネートした。ラミネートしたフィルムをそのまま巻き取り水圧転写用フィルムC2を製造した。この水圧転写用フィルムC2からPPフィルムを剥離すると、インキ層がPVAフィルム側に欠陥なく転移した。PPフィルムと装飾層との剥離力は5g/cmと十分に低く、装飾層にしわや筋などは残らなかった。
【0098】
実施例3〜7では実施例2とほぼ同様に装飾層を有する水圧転写用フィルムを製造した。これらを表3と4に示す。いずれの例においても、装飾層と硬化性樹脂層を具備した水圧転写用フィルムが得られ、PPまたはOPPフィルムを剥離することにより装飾層がPVAフィルム側にきれいに転移した。
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
(実施例8)水圧転写
水槽に30℃の温水を入れ、水圧転写用フィルムC1のOPPフィルムを剥離後、インキ層側を上にして水圧転写用フィルムC1を水面に浮かべた。活性剤(キシレン:MIBK:酢酸ブチル:イソプロパノール、5:2:2:1)を40g/m2噴霧し、A4サイズのプライマー付鋼板をインキ面から水面に向かって挿入し水圧転写した。120℃で30分間乾燥し、200mJ/cm2の照射量でUV照射を2回行い、硬化性樹脂相を完全に硬化させた。その結果、表面光沢に優れた硬化樹脂層を具備した装飾水圧転写体が得られた。以下、実施例8と同様に実施例9〜12の水圧転写を行った結果を表5と6に示した。
【0102】
(実施例13)水圧転写
水槽に30℃の温水を入れ、PPフィルムを剥離した水圧転写用フィルムC6のインキ層側を上にして水面に浮かべた。活性剤(キシレン:MIBK:酢酸ブチル:イソプロパノール、5:2:2:1)を40g/m2噴霧し、プライマー付鋼板製冷蔵庫扉をインキ面から水面に向かって挿入し水圧転写した。120℃で30分加熱し活性剤の乾燥と熱硬化性樹脂層の硬化を行った。その結果、表面光沢に優れた硬化樹脂層と、印刷層を具備した装飾水圧転写体が得られた。
【0103】
(実施例14)水圧転写
水槽に30℃の温水を入れ、PPフィルムを剥離した水圧転写用フィルムC7のインキ層側を上にして水面に浮かべた。活性剤(キシレン:MIBK:酢酸ブチル:イソプロパノール、5:2:2:1)を40g/m2噴霧し、プライマー付鋼板製石油ファンヒータハウジングをインキ面から水面に向かって挿入し水圧転写した。120℃で30分加熱し、活性剤の乾燥と熱硬化性樹脂層の硬化を行った。その後、200mJ/cm2の照射量でUV照射を2回行い、紫外線硬化性樹脂を完全硬化させた。その結果、表面光沢に優れた硬化樹脂層と、印刷層を具備した装飾水圧転写体が得られた。
【0104】
本実施例で示されるように、120℃以下の粘着開始温度を有する硬化性樹脂を用いることにより、PVAフィルムへの塗工と印刷フィルムのラミネートが容易に行え、かつ得られた水圧転写用フィルムから光沢の優れた装飾水圧転写体が得られることがわかる。
【0105】
【表5】
【0106】
【表6】
【0107】
(比較例1)剥離フィルムのない水圧転写用フィルムの製造
アイセロ化学社製の厚さ30μmのPVAフィルムに硬化性樹脂A2をリップコーターで固形分量20μmになるように塗工した。これを60℃で2分間乾燥した後、剥離フィルムを積層することなく巻き取ったが、フィルムがブロッキングして水圧転写を行うことができなかった。
【0108】
(比較例2)剥離フィルムのない水圧転写用フィルムの製造
アイセロ化学社製の厚さ30μmのPVAフィルムに硬化性樹脂A6をリップコーターで固形分膜厚20μmになるように塗工した。60℃で2分間乾燥し、フィルム(I)を製造し巻き取った。剥離フィルムをラミネートせずに、このフィルムを温度20℃、湿度60%で1ヶ月保存したところ、硬化樹脂層とPVAフィルムがブロッキングし、フィルムを引き出す際に硬化樹脂層がPVAフィルムから剥離した。
【0109】
(比較例3)紫外線硬化性樹脂層付き水圧転写用フィルムの製造
アイセロ化学社製の厚さ30μmのPVAフィルムに硬化性樹脂A2をリップコーターで固形分量20μmになるように塗工した。60℃で2分間乾燥し、フィルム(I)を製造した。次に、このフィルム(I)の硬化性樹脂層上に印刷層をグラビア印刷で印刷しようと試みたが、巻き取ったフィルムがブロッキングして印刷できなかった。
【0110】
比較例に示すように、剥離性フィルムのない硬化性樹脂層を有する水圧転写用フィルムは、製造後のフィルムの巻き取り性が不良であったり、装飾層の印刷が困難であったり、または巻き取ったフィルムが1ヶ月間の保存でブロッキングを生じた。これに対し、実施例に示すように、本発明の水圧転写用フィルムは、フィルムの巻き取り性や繰り出し性が良好で、ロール状に巻き取って3ヶ月間以上保存してもフィルムのブロッキングが生ぜず、剥離フィルムの剥離も容易であった。また、本発明の水圧転写用フィルムを用いて硬化性樹脂層または硬化性樹脂層と装飾層を転写して得られた水圧転写体は、表面光沢、耐擦傷性、熱水処理後の密着性および光沢性が共に優れるものであった。
【0111】
【発明の効果】
本発明の水圧転写用フィルムは、硬化性樹脂層または装飾層の上に剥離性フィルムを設けることにより、硬化性樹脂層または装飾層と支持体フィルムの間でブロッキングを防止することができるので、優れたロール巻き取り性や保存安定性を有する。
また、本発明の水圧転写用フィルムの製造方法は、支持体フィルム上に形成した硬化性樹脂層と剥離性フィルム上に形成した装飾層をドライラミネーションにより貼り合わせるので、硬化性樹脂層の上に鮮明な装飾層を形成することができる。
さらに、本発明の水圧転写体の製造方法は、フィルム繰り出し性が良好で転写不良発生のない水圧転写用フィルムを使用するので、優れた表面特性を有する硬化樹脂層と鮮明な絵柄模様を有する水圧転写体を製造することができる。
本発明の水圧転写用フィルムは、耐溶剤性、耐薬品性、および表面硬度などの優れた表面特性と意匠性を有する水圧転写体の製造を可能とし、意匠性と表面強度を要求される家庭電化製品、建築部材、自動車部材などの装飾された水圧転写体の製造に特に有用である。
Claims (7)
- 水溶性もしくは水膨潤性の樹脂から成る支持体フィルムと前記支持体フィルム上に設けた有機溶剤に溶解可能な疎水性の転写層を有し、前記転写層が活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも一種で硬化可能な硬化性樹脂層を有する水圧転写用フィルムであって、
前記転写層上に前記転写層との界面で剥離可能な剥離性フィルムを有することを特徴とする水圧転写用フィルム。 - 前記転写層が、前記支持体フィルム上に設けた硬化性樹脂層と前記硬化性樹脂層上に設けた印刷インキ皮膜または塗料皮膜から成る装飾層とからなる請求項1に記載の水圧転写用フィルム。
- 前記硬化性樹脂層が、1分子中に3つ以上の(メタ)アクリロイル基を有する活性エネルギー線硬化性樹脂と、前記活性エネルギー線硬化性樹脂に相溶するガラス転移温度が35℃〜200℃の非重合性の熱可塑性樹脂を含有する請求項1または2に記載の水圧転写用フィルム。
- 前記活性エネルギー線硬化性樹脂がポリウレタン(メタ)アクリレートであり、前記非重合性の熱可塑性樹脂がポリメタアクリレートである請求項3に記載の水圧転写用フィルム。
- 前記硬化性樹脂層が、ブロックイソシアネートとポリオールを含有する請求項1または2に記載の水圧転写用フィルム。
- 水溶性もしくは水膨潤性の樹脂から成る支持体フィルム上に活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも一種で硬化可能な有機溶剤に溶解可能な疎水性の硬化性樹脂層を設けたフィルム(I)と、
剥離性フィルム上に印刷インキ皮膜または塗料皮膜からなる有機溶剤に溶解可能な疎水性の装飾層を設けたフィルム(II)とを、
前記フィルム(I)の硬化性樹脂層と前記フィルム(II)の装飾層とが相対するように重ねてドライラミネーションにより貼り合わせることを特徴とする水圧転写用フィルムの製造方法。 - 請求項1または2に記載の水圧転写用フィルムを、該フィルムから剥離性フィルムを剥離した後に、前記支持体フィルムを下にして水に浮かべ、有機溶剤により前記転写層を活性化し、前記転写層を被転写体に転写し、前記支持体フィルムを除去し、次いで前記転写層を活性エネルギー線照射と加熱の少なくとも一種で硬化させることを特徴とする水圧転写体の製造方法。
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