本願発明者は、高圧放電ランプの一種である高圧水銀ランプ(特に、超高圧水銀ランプ)の特性を向上させるべく、多面的な検討を行っている際、Pt元素を発光管内に入れると、発光管内に生じる黒化を効果的に防止できるという知見を実験により見出した。この知見について更に説明する。
この種のランプを動作させると、発光管内壁の最低温度は、一般に、約900℃になり、このような高温では、どの物質もゲッターとして機能し得ないと考えられていた。しかし、Ptを発光管に封入した超高圧水銀ランプの寿命試験を本願発明者が行ったところ、Ptが酸素ゲッターとして機能し、黒化を抑制できることが見出された。ランプ動作時の高温下での酸素ゲッターの機能は、Ptの他、Ir、Rh、Ru、Reのような白金族元素でも発揮し得ることもわかった。なお、Auは、酸素ゲッターとしての機能は無かったが、黒化を進行させることもないことも確認された。また、酸素ゲッターとしての機能を持つことがわかったPtを、封止部に埋まっている部分の電極棒の表面に被覆し、そのランプの特性を本願発明者が調べたところ、そのランプの耐圧強度を著しく向上させることができるという別の知見も見出された。本発明は、これらの新たな知見に基づいてなされたものである。
以下、図面を参照しながら、本発明による実施形態を説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。なお、本発明は、以下の実施形態により、限定的に解釈されるべきものではない。
(実施形態1)
図1(a)および(b)は、本実施形態にかかる高圧放電ランプの断面構成を模式的に示している。図1(a)は、平面図であり、一方、図1(b)はその側面図である。
ランプ100は、管内に一対の電極(12,12’)が対向して配置された発光管(バルブ)10と、発光管10に連結された一対の封止部20および20’とを有している。発光管10は、石英ガラスから構成されており、封止部(20,20’)のガラス部分は、発光管10から延在している。電極(12,12’)の一部(根本部分)は、封止部(20,20’)の内部に埋め込まれており、そして、封止部(20,20’)内に位置する部分の電極(12,12’)の少なくとも一部の表面には、Pt、Ir、Rh、Ru、Reからなる群から選択される少なくとも1種の金属から構成された金属膜30が形成されている。本実施形態では、Ptを含む金属膜30がメッキにより電極(12,12’)の一部に形成されており、金属膜30中のPtの一部は、発光管10内に存在している。
電極(12,12’)は、0.2〜5mm程度(例えば、0.6〜1.0mm)の間隔(アーク長)Dで、発光管10内に配置されており、電極(12,12’)のそれぞれは、タングステン(W)の電極棒16から構成されている。電極棒16の一端は、封止部(20,20’)内に設けられた金属箔(24,24’)に溶接により接続されている。Ptを含む金属膜30は、電極棒16と金属箔24との溶接箇所(接続箇所)32には形成されておらず、封止部(20,20’)内に埋め込まれている電極棒16の表面に形成されている。なお、電極棒16の他端(先端)には、ランプ動作時における電極先端温度を低下させることを目的として、コイル14が巻かれている。
本実施形態では、電極棒16を構成するタングステンとの密着性を向上させるために、金属膜30は、下層がAu層で、上層がPt層からなる多層構造を有している。Au層およびPt層は、メッキにより形成されており、Au層の厚さは、例えば0.01〜0.1μmであり、Au層の長手方向の長さ(メッキ長)は、約2mmである。そして、Au層の上に形成されるPt層の厚さは、約0.01〜約10μm(好ましくは、0.1μm程度)で、Pt層の長手方向の長さ(メッキ長)は、Au層のメッキ長と同じく、約2mmである。メッキ量は、電極棒16の一本あたり、例えば、Auが約1〜4マイクログラムであり、Ptが約4マイクログラムである。
また、金属膜30は、Au層とPt層との多層膜でなくても、Ptからなる膜であってもよい。Ptのみから構成した金属膜30の場合、Au層とPt層との多層膜のときよりも、密着性は若干落ちるものの、現実の使用では問題が生じないレベルの密着性は十分確保できることが本願発明者の実験により確認されたからである。Ptのみからなる金属膜30は、Au層とPt層との多層膜のものと比べて、形成が容易というメリットが得られる。ここで、Ptから構成した金属膜30の厚さは、例えば、約0.01μm〜約1.0μmである。
封止部(20,20’)内に設けられた金属箔(24,24’)は、例えば、矩形のモリブデン箔(Mo箔)であり、電極(12,12’)が位置する側と反対側には、リード線(外部リード)26が溶接により設けられている。この一対のリード線26は、点灯回路(不図示)に電気的に接続されることになる。封止部(20,20’)は、封止部のガラス部と金属箔(24,24’)とを圧着させて、発光管10内の放電空間の気密を保持する役割を果たしている。封止部(20,20’)によるシール機構を簡単に説明すると、次のようである。
封止部(20,20’)のガラス部を構成する石英ガラスと、金属箔(24,24’)を構成するモリブデンとは互いに熱膨張係数が異なるので、熱膨張係数の観点からみると、両者は、一体化された状態にはならない。ただし、本構成の場合、封止部のガラス部からの圧力により、金属箔(24,24’)が塑性変形を起こして、両者の間に生じる隙間を埋めることができる。それによって、金属箔(24,24’)とガラス部とを互いに圧着させた状態にすることができ、封止部(20,20’)で発光管10内のシールを行うことができる。すなわち、金属箔(24,24’)とガラス部との圧着による箔封止によって、封止部(20,20’)のシールは行われている。
封止部(20,20’)の金属箔(24,24’)が位置している部分と異なり、電極棒16が埋め込まれている部分においては、封止部のガラス部と電極棒16とは互いに密着しておらず、両者の間には目に見えない程度の隙間が存在している。この隙間は、タングステンと石英ガラスとの熱膨張係数の差違によって生じるものである。すなわち、冷却時において、金属であるタングステンの方が、石英ガラスよりも多く収縮することに生じるものである。なお、タングステンは、モリブデンと異なり、ガラス部と電極棒16との間の隙間を埋めるような塑性変形を起こさない。
本実施形態のランプ100は、発光管10内に、少量のPtおよびAuが存在している。これは、ランプの製造工程中の加熱時において、電極棒16の根本の表面に形成された金属膜30を構成するPtおよびAuの一部が蒸発して、封止部のガラス部と電極棒16との間の隙間を通じて、発光管10内へと飛散したものである。従来、Ptなどの金属が発光管10内に存在すると、発光管10内の封入物と反応し、それにより、黒化が促進されて、ランプ寿命が短くなると考えられていた。しかしながら、本願発明者がランプ100の特性を調べたところ、Ptは、発光管10の黒化を促進するどころか、黒化を効果的に防止できることを確認した。Ptによって黒化を防止できる機構は、現時点では明確ではないが、ランプ動作時において、Ptが酸素ゲッターとして機能し、その結果、黒化を抑制できるのではないかと思われる。なお、この種のランプを動作させると、発光管10の内壁の最低温度は、一般に、約900℃になり、このような高温では、どの物質もゲッターとして機能し得ないと、従来、考えられていた。
一方、Auは、Ptと異なり、酸素ゲッターとしての機能は無かったが、黒化を進行させることもないことを確認した。また、ランプ動作時の高温下での酸素ゲッターの機能は、Ptの他、Ir、Rh、Ru、Reのような白金族元素でも発揮し得る。ランプ100において、金属膜30からPtを飛散させて発光管10へ導入させた理由は、適量のPtを発光管10内に容易に封入できるからである。つまり、この手法によれば、ゲッターとして作用させることができる程度の量のPtを、発光管10を曇らせない程度だけ発光管10内に入れることを容易に行うことが可能となる。発光管10を曇らせないようにすることは、発光管10から出射する光の量が低下することを防止できるので好適である。
なお、適量のPtを発光管10内に導入する手法は、上述した手法に限定されず、発光管10内にPtを直接導入してもよいし、Ptを含む金属膜や金属塊を発光管10内に設けるようにしてもよい。また、金属膜30の形成方法は、メッキに限定されず、スパッタ、蒸着でもよく、そして、金属溶液を塗布して焼き付ける手法を採用しても良い。
電極棒16の根本に金属膜30が形成された本実施形態のランプ100は、Ptのゲッター作用による黒化防止効果とは別に、従来の約20MPa(約200気圧)を超える高耐圧(例えば、23MPaまたは25MPaまたはそれ以上、あるいは、30〜40MPaまたはそれ以上、言い換えると、動作圧約230気圧または250気圧またはそれ以上、あるいは、約300〜400気圧またはそれ以上)の特性を示すものである。ランプ100では、封止部(20,20’)に埋め込まれている部分の電極棒16の表面に金属膜30が形成されているため、電極棒16の周囲に位置するガラスに、微小なクラックが発生することを防止することができる。以下、このことをさらに詳述する。
封止部内に位置する電極棒16に金属膜30の無いランプの場合、ランプ製造工程における封止部形成の際に、封止部のガラスと電極棒16とが一度密着した後、冷却時において、両者の熱膨張係数の差違により、両者は離されることになる。この時に、電極棒16の周囲の石英ガラスにクラックが生じる。このクラックの存在により、従来では、動作圧力が200気圧程度を超えるような耐圧強度を持ったランプを実現することは非常に困難であった。つまり、200気圧を超えるような動作圧力でランプを使用すると、発光管10のリークが生じ、つまり、封止部(20,20’)のシール構造の破壊が起こる。このため、耐圧強度の観点から、従来においては、20MPa程度を超えるような超高圧水銀ランプは、実現されていなかった。
本実施形態のランプ100の場合、表面にPt層を有する金属膜30が電極棒16の表面に形成されているので、封止部(20,20’)の石英ガラスと、電極棒16の表面(Pt層)との間の濡れ性が悪くなっている。つまり、タングステンと石英ガラスとの組み合わせの場合よりも、白金と石英ガラスとの組み合わせの場合の方が、金属と石英ガラスとの濡れ性が悪くなるため、両者は引っ付かずに、離れやすくなるのである。その結果、電極棒16と石英ガラスとの濡れ性の悪さにより、加熱後の冷却時における両者の離れがよくなり、微細なクラックの発生を防止することが可能となる。このような濡れ性の悪さを利用してクラックの発生を防止するという技術的思想に基づいて作製されたランプ100は、従来では実現困難ないし実現不可能であった20MPaを超える、30〜40MPaの動作圧力を実現できる画期的なランプである。
そのような高い耐圧強度を実現できるランプ100によると、次のような利点が得られる。近年、より高出力・高電力の高圧水銀ランプを得るために、アーク長(電極間距離D)が短いショートアーク型の水銀ランプ(例えば、Dが2mm以下)の開発が進んでいるところ、ショートアーク型の場合、電流の増大に伴って電極の蒸発が早くなることを抑制するために、通常よりも多くの水銀量を封入する必要がある。上述したように、従来の構成においては、耐圧強度に上限があったため、封入水銀量にも上限(例えば、200mg/cc程度以下)があり、さらなる優れた特性を示すようなランプの実現化に制限が加えられていた。本実施形態のランプ100は、そのような従来における制限を取り除け得るものであり、従来では実現できなかった優れた特性を示すランプの開発を促進させることができるものである。本実施形態のランプ100においては、封入水銀量が200mg/cc程度を超える、300mg/cc程度またはそれ以上のランプを実現することが可能となる。
なお、封入水銀量が300〜400mg/cc程度またはそれ以上(点灯動作圧30〜40MPa)を実現できる技術というのは、特に点灯動作圧20MPaを超えるレベルのランプ(すなわち、今日の15MPa〜20MPaのランプを超える点灯動作圧を有するランプ。例えば、23MPa以上または25MPa以上のランプ)について、その安全性および信頼性を確保できる意義も有している。つまり、ランプを大量生産する場合には、ランプの特性にどうしてもばらつきが生じ得るため、点灯動作圧が23MPa程度のランプであっても、マージンを考えた上で耐圧を確保する必要があるので、30MPa以上の耐圧を達成できる技術は、30MPa未満のランプについても、実際に製品を供給できるという観点からの利点は大きい。もちろん、30MPa以上の耐圧を達成できる技術を用いて、23MPaあるいはそれ以下の耐圧でもよいランプを作製すれば、安全性および信頼性の向上を図ることができる。
本願発明者は、電極棒16の根本に金属膜30をメッキした本実施形態のランプ100と、ランプ100と同様の構成において金属膜30のメッキのない比較例のランプとのライフ試験を行った。ライフ試験は、点灯60分、消灯15分を繰り返すことにより実行した。ランプ100を30MPaまたはそれ以上で点灯させたところ、点灯1500時間中にリーク、破損に至ることはないことを確認した。比較例のランプでは、電極棒16の周囲にクラックがあるため、30MPaで点灯させることは無理であることを確認した。
図2は、本実施形態のランプ100と、比較例のランプとのライフ試験時における光束維持率の変化を示している。比較例のランプは、30MPaで点灯させることができないので、水銀量を20MPaに相当する分(約200mg/cc)にし、そして、電極間距離Dを調整して、ランプの電気特性をランプ100のものと同じにしている。図2からわかるように、ランプ100の光束維持率は、1500時間の時点でも、約95%を維持した。一方、比較例の光束維持率は、比較的早い時期から低下し始め、1500時間の時点は、90%を下回る、約85%になった。この結果より、ランプ100が優れた特性を示すことが理解できる。
本実施形態のランプ100の条件を例示的に示すと、次のようである。発光管10は、アルカリ金属不純物レベルの低い(例えば、1ppm以下)高純度の石英ガラスから構成されており、略球形をしている。発光管10の外径は例えば5mm〜20mm程度であり、発光管10のガラス厚は例えば1mm〜5mm程度である。発光管10内の放電空間の容積は、例えば0.01〜1cc程度(0.01〜1cm3)である。本実施形態では、外径9mm程度、内径4mm程度、放電空間の容量0.06cc程度の発光管10が用いられる。発光物質18として水銀を使用し、300mg/cc程度またはそれ以上(例えば、300mg〜400mg)の水銀と、5〜30kPaの希ガス(例えば、アルゴン)と、少量のハロゲンとが発光管10内に封入されている。
封入されるハロゲンは、ランプ動作中に電極(12、12’)から蒸発したW(タングステン)を再び電極(12、12’)に戻すハロゲンサイクルの役割を担っており、例えば、臭素である。封入するハロゲンは、単体の形態だけでなく、ハロゲン前駆体の形態のものでもよく、本実施形態では、ハロゲンをCH2Br2の形態で発光管10内に導入している。また、本実施形態におけるCH2Br2の封入量は、0.0017〜0.17mg/cc程度であり、これは、ランプ動作時のハロゲン原子密度に換算すると、0.01〜1μmol/cc程度に相当する。なお、ランプ100の耐圧強度(動作圧力)は、20MPa以上(例えば、30〜40MPa程度、またはそれ以上)にすることができる。また、管壁負荷は、例えば、60W/cm2程度から、200W/cm2程度の範囲(好ましくは、80〜150W/cm2程度)のランプを実現することができる。なお、定格電力は、例えば、150W(その場合の管壁負荷は、約130W/cm2に相当)である。
さらに、本実施形態のランプ100では、電極棒16の根本部分の表面が金属膜30で保護されているため、通常の量よりも多くのハロゲンを封入させることが可能となる。その理由を次に述べる。多量のハロゲンを発光管10内に存在させると、ハロゲンサイクルに寄与する分以外の過剰分のハロゲンが、電極棒16の根本をアタックし、根本を細らせてしまうという弊害が生じる。ハロゲンサイクルを良好に継続させて、効果的に黒化を防止するには、少し過剰な程度くらいのハロゲン量が好ましい場合が多いのであるが、上述したように過剰なハロゲンの存在は、電極棒16の根本を細らせてしまい、短寿命化の原因となる。ところが、本実施形態のランプ100では、その根本部分を金属膜30で保護しているため、当該電極棒16の根本細りの問題を回避することが可能となり、それゆえ、通常よりの量も多くのハロゲンを発光管10内に封入させることができる。したがって、本実施形態のランプ100では、金属膜30を、ハロゲンアタック防止膜として機能させることができ、ハロゲン量を従来の100倍程度まで(例えば、0.17〜17mg/cc程度まで)入れることも可能である。なお、必要以上にハロゲンを入れることは、ランプ100においても要求されておらず、具体的なハロゲン量は、所望のランプの特性が得られるように適宜決定すればよい。
なお、ランプ試験で使用したランプ100の条件を示すと、次のようである。発光管10の外径および内径は、それぞれ、9mmおよび4mmである。発光管10の容積は約0.06ccである。電極棒16は、棒径0.3mmのタングステン電極棒である。金属箔(24,24’)は、幅1.5mmのモリブデン箔であり、リード線26は、モリブデン製リード線である。金属膜30は、Pt/Auの2層構造からなるメッキ膜(Au膜厚;0.01〜0.1μm、Pt膜厚;約0.1μm)で、メッキ長は約2mmである。メッキ量は、電極一本あたり、Auが約1〜4μgで、Ptが約4μgである。なお、水銀量は、18〜24mg(発光管内容積当たりの水銀量は、300〜400mg/cc)で、ハロゲンを含んだ希ガス(Ar)の封入圧力は、200torrである。そして、CH2Br2の封入量は、約0.017mg/ccであり、動作時のハロゲン原子密度は、約0.1μmol/ccである。
図1に示したランプ100において、電極棒16と金属箔(24,24’)の溶接部分32に金属膜30を形成していないのは、金属箔(24,24’)の箔浮きを防止するためである。さらに具体的に説明する。
本願発明者は、溶接部分32まで金属膜30を形成したランプを作製し、そのランプを観察したところ、水銀を300mg/cc以上封入したランプでは、いわゆる「箔浮き」現象が生じることがわかった。すなわち、ランプ製造段階の封止時の熱によって、メッキした金属膜30の一部(Pt、Au)が蒸発して、封止部(20,20’)のガラス部と金属箔(24,24’)との間に入り込み、その結果、金属箔の一部に付着する。すると、互いに密着していたガラス部と金属箔の間に、ごく僅かの隙間が形成され、それによって、箔浮きが生じる。この箔浮きは、リークや破損の原因となるために好ましくないが、溶接部分32には金属膜30を形成しないランプ100の構成の場合には、効果的に箔浮きを防止することができた。水銀量が300mg/cc以上の場合に、この箔浮きに起因するリークが顕著に生じるため、そのような場合、溶接部分32には金属膜30を形成しないことが好ましい。なお、水銀量が300mg/cc未満の場合には、箔浮きの現象はあまり顕著にはみられないので、溶接部分32まで金属膜30を形成することも可能である。
また、溶接部分32には金属膜30を全く形成しない構成に限らず、溶接箇所32の金属膜30の厚さを他の部分よりも薄くした構成にしても、箔浮き防止の効果を得ることが可能である。つまり、溶接箇所32における金属膜30の厚さをAとし、溶接箇所32以外の金属膜30の厚さをBとしたとき、A<Bであるような構成にしてもよく、例えば、Aを、B/2以下、またはB/4以下などにすることができる。本願発明者の実験によると、Bが1μmのときの構成で、箔浮きを抑制することができた。それゆえ、Bは1μmとすることが好ましく、より効果的に箔浮きを抑制する上では、Bは0.1μm以下にすることがより好ましい。
本実施形態では、金属膜30をPt/Auの2層構造としているので、金属膜30(Pt層)と石英ガラスとの濡れ性を悪くして、石英ガラスに引っ付き難くすることができるとともに、金属膜30(Au層)と電極棒(W棒)16との密着性を向上させることができる。金属膜30と電極棒16との密着性が向上すると、加熱時における金属膜30の蒸発量を効果的に抑えることができるため、箔浮きをより確実に抑制することができる。加えて、膜強度が上がるため、保管中や製造中の電極同士の接触などによる膜剥がれも防止することができる。本実施形態では、金属膜30を2層構造にしたが、1層構造にしても、3層構造にしてもよい。また、Pt/Auの2層構造を繰り返した構造(4層、6層など)にしてもよい。ランプ100の構成では、Ptを含む金属膜30を用いたが、Ptに代えて、またはPtとともに、Ir、Rh、Ru、Reを含む金属膜30を用いても良い。
さらに、金属膜30は、封止部(20,20’)内に埋め込まれて部分の電極棒16の表面の全部に形成しなくても、一部に形成してもよい。例えば、図1に示した金属膜30の1/3程度の面積のものでも、黒化防止およびクラック防止の効果を発揮できることを実験により確認した。なお、クラック防止効果には寄与しないが、金属膜30を発光管10内に露出している電極棒16の表面に形成してもよい。ただし、その場合には、Pt等を必要以上に発光管10内に導入することにならないように、すなわち、発光管10内が曇ったりしないように設計することが望ましい。本願発明者の実験によれば、金属膜30の厚さを0.01μm以上にすると、金属膜30による効果が顕著に現れた。0.01μm未満では、加熱時の蒸発により金属膜30が飛散し、その結果、クラック防止の効果が薄れてしまった。一方、10μmを超える膜厚にすると、発光管10内に飛ぶ金属の量が多くなってしまい、発光管10内の曇り現象が生じることとなった。したがって、金属膜30の厚さは、0.01μm〜10μm程度にすることが好ましいと言える。
箔浮きの問題をより積極的に回避しようとする場合には、図3に示すような構成にしてもよい。図3に示したランプ200は、溶接箇所32における金属箔24の幅を狭めて、加熱により金属膜30から蒸発飛散する金属がなるべく金属箔(24,24’)に付着しないようにしたものである。具体的には、溶接箇所32における金属箔24の幅をCとし、溶接箇所32における電極の外径をDとしたとき、C<2Dとなるように構成されている。電極棒16の末端付近に位置する金属膜30からの蒸発飛散による影響が比較的大きいため、本実施形態では、溶接箇所32のうち、電極棒16末端の位置を基準にして、幅Cと、外径Dとを決定した。なお、図3に示した構成の場合でも、溶接箇所32の金属膜30の厚さは、上述したように、A<B(A;溶接箇所32の膜厚、B;溶接箇所32以外の膜厚)にすることが好ましく、さらに、溶接箇所32には金属膜30を形成しないことがより望ましい。
次に、図4を参照しながら、本実施形態にかかるランプ100の製造方法を説明する。図4は、放電ランプ用ガラスパイプ50内に、電極12を含む電極構造体55を挿入した段階における工程断面図である。
まず、発光管10となる部分(発光管部)と、封止部(20,20’)のガラス部となる一対の側管部22とを有する放電ランプ用ガラスパイプ50を用意する。側管部22は、発光管部10から延在しており、両者(10,22)は、石英ガラスから構成されている。本実施形態では、石英ガラスとして、アルカリ金属不純物レベルの低い(例えば、1ppm以下)高純度の石英ガラスを使用している。ただし、そのようなものに限定されず、アルカリ不純物レベルがそれほど低くない石英ガラスから構成された放電ランプ用ガラスパイプを用意して、それを使用してもよい。用意したガラスパイプ50の発光管部10の外径および内径は、それぞれ、10mmおよび5mmであり、そして、側管部22の外径および内径は、それぞれ、6mmおよび2mmである。
また別途、金属膜30が形成された電極棒16の一端が金属箔24に接続された電極構造体55を用意する。電極構造体55は、金属箔24(Mo箔)に、電極棒16(電極12)と、リード線26とが溶接されたものであり、リード線26の一端には、側管部22の内面に電極構造体55を固定するための支持部材28が設けられている。図4に示した支持部材28は、モリブデンからなるモリブデンテープ(Moテープ)であるが、これに代えて、モリブデン製のリング状のバネを用いてもよい。
電極棒16のうち、側管部22内に位置づけられる部分には金属膜30が形成されている。また、箔浮き防止のため、Mo箔24との溶接シロとなる部分32には、金属膜30は形成されていない。ここで、A<B(A;溶接箇所32の膜厚、B;溶接箇所32以外の膜厚)の条件を満たす電極構造体55を用いることもできる。また、ランプ200を作製する場合には、C<2D(C;溶接箇所32における金属箔24の幅、D;溶接箇所32における電極棒16の外径)の条件を満たす電極構造体55を用いればよい。なお、この例においては、発光管10内に露出する部分は、金属膜30は形成されていない。金属棒16は、例えば直径φ0.3mmのタングステン棒であり、Mo箔24の幅は、1.5mmであり、リード線26は、直径φ0.5mmのモリブデン製リード線である。
次に、電極棒16の先端が発光管部10内に位置するように、ガラスパイプ50の側管部22に電極構造体55を挿入する(電極挿入工程)。この工程を経ると、図4に示した状態となる。なお、電極棒16の先端に巻かれるコイルは、図4では省略している。
この後、側管部22とMo箔24とが密着するように、側管部22を加熱して封止する(封止部形成工程)。より具体的に述べると、ガラスパイプ50内を減圧状態(例えば、1気圧未満)にした上で、例えばバーナーで、側管部22を加熱し軟化させると、側管部22とMo箔24との両者が密着し、それによって封止部20が得られる。この工程の際に、側管部22内に位置していた電極棒16は、封止部20内に埋もれることになる。本実施形態では、封止部20内の電極棒16の表面に、石英ガラスとの濡れ性を悪くする金属膜30が形成されているので、加熱後の冷却時に、電極棒16の周囲に位置するガラスにおけるクラックの発生を抑制することができる。また、封止部形成工程の時に、金属膜30を有する電極棒16も加熱され、金属膜30の一部は蒸発飛散する。
次に、まだ封止していない方の側管部22から、水銀18等の封入物を導入し、次いで、当該側管部22についても、電極挿入工程および封止部形成工程を行って、封止部20’を得る。最後に、封止部(20,20’)を適切な長さで切断して、リード線26を露出させると、本実施形態のランプ100が得られる。このランプ100の発光管10内には、封止部形成工程の加熱時に、金属膜30から蒸発飛散したPtが存在している。なお、封止部形成工程時の加熱によって、Ptを発光管10内へと導入する場合に限らず、レーザ等によって金属膜30を加熱して、Ptの発光管10への導入を行っても良い。
次に、図5(a)〜(d)を参照しながら、本実施形態の製造方法をさらに詳細に説明する。
まず、発光管部10と側管部22とを有するガラスパイプ50を用意した後、図5(a)に示すように、一方の側管部22に電極構造体55を挿入する。電極構造体55の電極12の一部には、金属膜30が形成されている。ガラスパイプ50は、回転可能なようにチャック52によって支持されている。なお、図5においては、Moテープ28は省略している。
次に、電極構造体55を所定位置に固定した後、ガラスパイプ50を減圧可能な状態にして、発光管10内を真空排気し、次いで、200torr程度のArを導入する。
次に、図5(b)に示すように、ガラスパイプ50を回転させながら、酸素水素バーナー54で側管部22を加熱し、シュリンク封止を実行する。一方の側管部22のシュリンク封止が終わった後、発光管部10内に、水銀を18〜24mg(発光管内容積当たりの水銀量は、300〜400mg/cc)導入する。
その後、封止されてない方の側管部22に、Mo箔24’を含む電極構造体55を挿入し、所定位置に固定する。次いで、発光管部10内を真空排気した後、臭素を含んだArガスを200torr封入する。
次に、発光管部10内の水銀を液体窒素で冷却しながら、図5(b)の工程のように、残りの側管部22を加熱して、シュリンク封止を実行する。それにより、図5(c)に示すように、一対の封止部(20,20’)が形成されて、放電空間15を有する発光管10が得られる。
最後に、側管部22の不要部分を切断して、リード線26を露出させると、図5(d)に示すように、ランプ100が完成する。
本実施形態のランプ100では、Pt、Ir、Rh、Ru、Reからなる群から選択される少なくとも1種の金属が発光管10内に存在するので、黒化の発生を効果的に防止した長寿命化を図った高圧放電ランプを実現することが可能になる。
また、封止部(20,20’)内に位置する部分の電極(12,12’)の少なくとも一部の表面に、Pt、Ir、Rh、Ru、Reからなる群から選択される少なくとも1種の金属から構成された金属膜30が形成されているので、電極根本周囲に位置するガラスに生じるクラックの発生を防止することができ、その結果、従来到達できなかった極めて高い耐圧強度を有する高圧放電ランプを実現することが可能となる。
さらに、溶接箇所32には金属膜30を形成しないことにより、箔浮き防止の効果も得られる。そして、A<B(A;溶接箇所32の膜厚、B;溶接箇所32以外の膜厚)としたり、C<2D(C;溶接箇所32における金属箔24の幅、D;溶接箇所32における電極棒16の外径)とすることによっても、箔浮き防止の効果を得ることができる。
なお、本実施形態のランプ100および200では、一対の電極(12,12’)および一対の封止部(20,20’)の構成が左右対称となるようにしたが、この構成に限定されない。少なくとも一方の電極に金属膜30が形成されていれば、従来のランプと比較して、上述したような効果を得ることが可能だからである。また、一方をランプ100のような封止部とし、他方をランプ200のような封止部にすることも勿論可能である。加えて、ランプ100および200は、交流点灯型の構成をしているため、一対の電極(12,12’)の構成を左右対称としているが、直流点灯型の構成にする場合には、陰極および陽極に応じて電極形状を変えることも可能である。
(実施形態2)
図6を参照しながら、本発明による実施形態2にかかる高圧放電ランプ300を説明する。図6は、ランプ300の構成を模式的に示している。
本実施形態のランプ300は、封止部(20,20’)内に位置する部分の電極棒16に、Ptで表面を被覆したコイル40が巻き付けられている点において、封止部(20,20’)内に位置する部分の電極棒16の表面をPtで被覆していた上記実施形態1のランプ100と異なる。なお、他の点は、基本的にランプ100の構成と同様である。本実施形態および後述の実施形態の説明を簡潔にするために、以下では、実施形態1と異なる点を主に説明し、実施形態1と同様の点の説明は省略または簡略化する。
ランプ300におけるコイル40は、例えばタングステンコイルの表面に、Pt(上層)/Au(下層)のメッキを施したものである。つまり、コイル40の表面に、上記実施形態1における金属膜30を形成したものである。なお、下層にAu層を形成した2層構造にしたのは、密着性向上のためである。ここで、Pt(上層)/Au(下層)メッキの2層構造にせずに、Ptメッキだけを施したコイル40でも、実用上の十分な密着性を確保できることは、上記実施形態1で説明した通りである。また、金属層(30)の形成方法は、メッキに限らず、スパッタ、蒸着でもよく、そして、金属溶液を塗布して焼き付ける手法を採用しても良い。また、コイル表面にメッキを施すのではなく、材料としてPtを含むコイル(Ptコイルを包含する。)を用いても良い。さらに、上記実施形態1と同様に、Ptに代えて、またはPtとともに、Ir、Rh、Ru、Reの白金属の元素を用いてもよい。
コイル40の径は、金属箔24の剥がれや割れを考慮すると、電極棒16の径の1/2以下にすることが好ましい。本実施形態では、直径φ0.3mmのタングステン棒16に、コイル径0.06mmのタングステンコイルを巻いている。図6に示したランプ300では、コイル間に隙間がないように、20〜50回程度巻いた構成にしているが、これに限らず、図7に示すように、コイル間に隙間があくようにして巻いた構成にしてもよい。
本実施形態のランプ300のように、電極棒16が封止部(20,20’)内に埋まった部分(電極の根本部分)に、表面にPtメッキを施したコイル40を巻くことによっても、上記実施形態1と同様の効果を得ることができる。すなわち、コイル40の表面のPtメッキ(金属膜30)からPtを蒸発飛散することにより、発光管10内に導入させることができる。加えて、Ptと石英ガラスとの濡れ性の悪さを利用して、電極棒16の周囲のガラスにクラックが生じないようにすることができる。
上記実施形態1のランプ100に比べて、本実施形態のランプ300は、製造工程上の利点が大きい。すなわち、ランプ300の場合、予めメッキしたコイル40を大量に準備しておくことが可能であるからである。そして、そのコイル40を、通常使用される電極構造体(図4の電極構造体55において金属膜30が設けられていないもの)の電極棒16の根本に巻き付ければ良いからである。
なお、ランプ300を製造するには、コイル40を巻き付けた電極構造体(55)を用いて、図5(a)から(d)の工程を実行すればよい。ここで、「電極棒にコイルを巻き付ける」とは、コイル用の金属線を巻いて完成したコイルを電極棒に挿入して、筒状のコイルの内面が電極棒に接触または近接するように配置するものの他、コイル用の金属線を電極棒に巻いて、電極棒の外周に配置されたコイルを直接作製するものも含む。大量生産を行う場合には、もちろん、予め、完成したコイルを用意した上で、そのコイルを電極棒に挿入して、電極棒の周囲にコイルを配置させる方が好ましい。
コイル40を準備しておく場合(特に、予めメッキしたコイル40を大量に準備しておく場合)、図8(a)に示すように、金属線41を用意した後、図8(b)に示すように、金属線41から第1段階のコイル42を作製し、次いで、
図8(c)に示すように、このコイル42にメッキを施して、少なくとも表面にPtを有する金属膜30を付与したコイル43を得る。なお、メッキに限らず、蒸着等によって金属膜30を形成してもよい。最後に、コイル43を所定の長さに切断すると、金属膜30が形成されたコイル40を得ることができる。もちろん、図8(a)および(b)に示した工程の後、図9(a)に示すように、第1段階のコイル42を所定の長さに切断してコイル44にし、次いで、図9(b)に示すように、コイル44にメッキを施して、金属膜30を有するコイル40を作製してもよい。
このようにして作製されたコイル40は、電極棒16に挿入されて、その後、ランプの製造工程に供される。例えば、図10(a)に示すように、電極棒16および金属箔24等を有する電極構造体55を用意した後、図10(b)に示すように、電極構造体55の電極棒16にコイル40を挿入する。その後、必要に応じて、図10(c)に示すように、コイル40の所定の箇所(例えば、真ん中の一箇所など)を溶接し、その溶接部34によってコイル40を電極棒16に固定する。
図10(c)に示すようにして、コイル40を電極棒16に固定した場合には、溶接部34以外は、コイル40を電極棒16から浮かす(離す)ことができるため、コイル40と電極棒16との間に隙間を作ることができ、コイル40が電極棒16へ与える圧力負荷を軽減させることが可能になる。特に、光出力で長寿命の放電ランプを実現する場合、電極棒16として、極めて高純度のタングステンからなる電極棒を用いることが多く、この高純度のタングステン棒は、それほど純度の高くないものと比べると、強度が落ちるので、高純度のタングステン棒を用いる場合には、当該隙間による圧力負荷の軽減手段を採用する意義が大きくなる。
ここで、好適な高純度の電極棒を例示すると、電極棒に含まれるナトリウム(Na)、カリウム(K)、およびリチウム(Li)の含有量がそれぞれ1ppm以下であるものである。なお、このような高純度の電極棒を用いたランプは、アルカリ金属の存在に起因して生じ得る黒化を効果的に抑制できるとともに、光色の黄ばみを抑制することができるという効果を得ることができる。この高純度の電極棒は、国際公開WO 01/29862号パンフレット(対応米国出願;10/111,067号)に開示されており、ここで、これらの明細書を、本願明細書に参考のため援用する。
また、コイル40の典型的な寸法等の条件を示すと、次の通りである。コイル線径は約0.06mm(約60μm)であり、ピッチ中心間隔(ある線の中心から隣接する線の中心までの間隔)は約0.1mm(約100μm)である。そして、互いに隣接する線のあいだの間隔は、0.04mm(約40μm)である。間隔をあけてコイルを巻くのは、間隔をあけずにコイルをきっちりと巻くことは、間隔をかけて巻く場合と比べて難しいからである。
なお、上記実施形態1および2における金属膜30をPtのみから構成すると次のような効果も得られる。Ptのみから金属膜30の場合、Pt(上層)/Au(下層)の2層構造の場合よりも、密着性は低下するものの、実用上の十分な密着性を確保できるともに、Ptだけを発光管10内に存在させるようにすることができ、Auを用いてないことから、Auの発光管10内への混入を防ぐことができる。上述したように、Auは黒化を進行させる元素ではないが、Auが発光管10内に存在すると、発光管10内の水銀18の粘度が上がり、場合によっては、水銀18が電極12、12’間を連結する現象(いわゆる水銀ブリッジ)が生じ易くなることが本願発明者の実験によりわかった。Ptのみからなる金属膜30の場合には、このような水銀ブリッジの発生を緩和することができる。なお、水銀ブリッジの発生の防止策としては、電極棒と電極棒とを互いにずらすようにすればよい。具体的には、一対の電極のうちの一方の電極と他方の電極との配置間隔Dが2mm以下で、水銀の封入総質量が150mg/cm3以上である場合の高圧水銀ランプ(ショートアーク型水銀ランプ)において、一方の電極の先端と他方の電極の先端との最短距離d(cm)を、水銀の封入総質量がM(g)のときに、(6M/13.6π)1/3の数値よりも大きいようにすればよい。この水銀ブリッジの発生の防止策は、特願2001−149500号明細書(対応米国出願;09/865,964号)に開示されており、ここで、これらの明細書を、本願明細書に参考のため援用する。
(実施形態3)
図11を参照しながら、本発明による実施形態3にかかる高圧放電ランプ400を説明する。図11は、ランプ400の構成を模式的に示している。
本実施形態のランプ400は、電極棒16と金属箔(24,24’)とが位置する部分にわたって、バイコールガラスを含む領域21が封止部(20,20’)内に形成されている点において、上記実施形態1のランプ100と異なる。つまり、本実施形態のランプ400は、表面に金属膜30を有する電極棒16の一部と、金属箔(24,24’)の一部とにかかるように、バイコールガラスを含む領域21が封止部(20,20’)内に設けられた構成を有するものである。この構成においては、溶接部位32の周囲も領域21によって覆われている。
バイコールガラス(Vycor glass;商品名)とは、石英ガラスに添加物を混入させて軟化点を下げて、石英ガラスよりも加工性を向上させたガラスであり、その組成は、例えば、シリカ(SiO2)96.5重量%、アルミナ(Al2O3)0.5重量%、ホウ素(B)3重量%である。ランプ製造段階の封止工程中において、領域21中の組成は、バイコールガラスと石英ガラスとが混じり合ったものになるのであるが、本実施形態における領域21中の半分以上(または、大半)は、バイコールガラスが占めている。図11に示した構成において、さらに詳述すると、領域21中に含まれるバイコールガラスは、電極棒16および金属箔(24,24’)から封止部(20,20’)の外壁に向かって(つまり、中心から外壁へと)分布し、電極棒および金属箔近傍の方に(つまり、中心側に)バイコールガラスは多く含まれている。
ランプ100の構成に領域21を設けた本実施形態のランプ400の耐圧強度を本願発明者が実験により調べた結果、驚くべきことに、耐圧強度を、ランプ100のものよりも、さらに向上できることがわかった。ランプ100は、高くても20MPa程度の従来の耐圧強度を、30MPa以上まで引き上げることができる構造であったが、本実施形態のランプ400は、それよりもさらに上の、40MPa程度またはそれ以上まで耐圧強度を高めることができるものであった。30MPa程度の耐圧強度を有するランプが実現されていない中、40MPaまたはそれ以上の耐圧強度というのは、まさに、驚異的な耐圧強度であるといえる。
本願発明者が実験したところ、封入水銀量が200mg/cm3(動作圧20MPaに相当)の場合には、演色評価数Raが60だったものが、封入水銀量が400mg/cm3(動作圧40MPaに相当)の場合には、演色評価数Raは70にまで向上した。そして、アーク輝度は、200mg/cm3のときを1.00とすると、400mg/cm3のときは1.20にまで向上した。
ランプ400の製造方法を、図12を参照しながら説明する。図12は、図4で示した構成において、バイコールガラスからなるガラススリーブ21’を、電極棒16の根本、溶接箇所32、そして金属箔24の一部の周囲を覆うように、かぶせたものである。本実施形態で用意したバイコールガラス製のガラススリーブ21’は、円筒形状を有し、その外径は1.9mm、内径は1.7mm、長さは5mmである。ガラススリーブ21’を固定しやすいように、ガラスパイプ50の発光管10と側管部22との境界付近の側管部22の内径を狭くしたガラスパイプを用いることもできる。なお、石英ガラス製のガラススリーブを用意し、その内面に、バイコールガラス粉末を付着させ、そのバイコールガラス粉末から、領域21を形成することも可能である。
図12に示したようにして、電極挿入工程を行った後は、図5(a)から(d)に示したようにして、各工程を実行すれば、ランプ400が得られる。
領域21を設けた構成は、ランプ100の構成だけでなく、ランプ200および300に対しても適用できる。図6および図7に示したランプ300に適用する場合には、電極棒16に巻かれたコイル40と、金属箔(24,24’)とが位置する部分にわたって、領域21を設ければよい。
バイコールガラスを含む領域21によって、耐圧強度が向上する理由は、現時点において明確にはわからない。おそらく、バイコールガラスによって、封止部(20,20’)内の密着性が高まったのではないかと推測される。領域21には、酸化銅または銅の粒子を分散させた構成にしてもよい。酸化銅または銅の粒子を領域21に分散させるには、図12に示したガラススリーブの内面に酸化銅または銅の粉末を付着させた上で、封止部形成工程を実行すればよい。バイコールガラス中に酸化銅または銅を含ませることは、耐圧強度上昇の効果に有利に働き得るものである。領域21中に酸化銅または銅を混入させると、黒色、あるいは赤色または茶色の粒子状の部分またはガラス状の部分が、ガラス中に点々と分散した感じとなる。
(実施形態4)
上記実施形態1〜3の高圧放電ランプは、反射鏡と組み合わせて、ミラー付きランプないしランプユニットにすることができる。図13は、上記実施形態1のランプ100を備えたミラー付きランプ900の断面を模式的に示している。
ミラー付ランプ900は、略球形の発光管10と一対の封止部(20,20’)とを有するランプ100と、ランプ100から発せられた光を反射する反射鏡60とを備えている。なお、ランプ100は例示であり、上記実施形態のランプ200〜400のいずれであってもよい。また、ミラー付ランプ900は、反射鏡60を保持するランプハウスをさらに備えていてもよい。ここで、ランプハウスを備えた構成のものは、ランプユニットに包含されるものである。
反射鏡60は、例えば、平行光束、所定の微小領域に収束する集光光束、または、所定の微小領域から発散したのと同等の発散光束になるようにランプ100からの放射光を反射するように構成されている。反射鏡60としては、例えば、放物面鏡や楕円面鏡を用いることができる。
本実施形態では、ランプ100の一方の封止部20’に口金56が取り付けられており、封止部20’から延びたリード線26と口金56とは電気的に接続されている。封止部20’と反射鏡60とは、例えば無機系接着剤(例えばセメントなど)で固着されて一体化されている。反射鏡60の前面開口部側に位置する封止部20のリード線26には、引き出しリード線65が電気的に接続されており、引き出しリード線65は、リード線26から、反射鏡60のリード線用開口部62を通して反射鏡60の外にまで延ばされている。反射鏡60の前面開口部には、例えば前面ガラスを取り付けることができる。
このようなミラー付ランプないしランプユニットは、例えば、液晶やDMDを用いたプロジェクタ等のような画像投影装置に取り付けることができ、画像投影装置用光源として使用される。上記実施形態の高圧放電ランプ、およびミラー付ランプないしランプユニットは、画像投影装置用光源の他に、紫外線ステッパ用光源、または競技スタジアム用光源や自動車のヘッドライト用光源、道路標識を照らす投光器用光源などとしても使用することができる。
(他の実施形態)
上記実施形態では、発光物質として水銀を使用する水銀ランプを高圧放電ランプの一例として説明したが、本発明は、封止部(シール部)によって発光管の気密を保持する構成を有するいずれの高圧放電ランプにも適用可能である。例えば、金属ハロゲン化物を封入したメタルハライドランプなどの高圧放電ランプにも適用することができる。メタルハライドランプにおいても、リーク防止やクラック防止を図ることは好適だからである。また、近年、水銀を封入しない無水銀メタルハライドランプの開発も進んでいるが、そのような無水銀メタルハライドランプに本発明を適用することも可能である。
さらに、上記実施形態では、水銀蒸気圧が20MPa程度以上の場合(いわゆる超高圧水銀ランプの場合)について説明したが、水銀蒸気圧が1MPa程度の高圧水銀ランプに適用することを排除するものではない。つまり、超高圧水銀ランプおよび高圧水銀ランプを含む高圧放電ランプ全般に適用できるものである。さらに付け加えて説明すると、動作圧力が極めて高くても安定して動作できるということは、ランプの信頼性が高いことを意味する。すなわち、本実施形態の構成を、動作圧力のそれほど高くないランプ(ランプの動作圧力が30MPa程度未満、例えば、20MPa程度〜1MPa程度)に適用した場合、当該動作圧力で動作するランプの信頼性を向上させ得ることを意味する。したがって、本実施形態の構成は、信頼性の面からも、ランプ特性を向上させることができるものである。また、上記実施形態のランプでは、封止部(20,20’)をシュリンク手法によって作製したが、ピンチング手法によって作製されたものを排除するものではない。
加えて、一対の電極12および12’間の間隔(アーク長)は、ショートアーク型であってもよいし、それより長い間隔であってもよい。上記実施形態のランプは、交流点灯型および直流点灯型のいずれの点灯方式でも使用可能である。また、上記実施形態の構成は相互に採用することが可能であり、つまり、実施形態1から3のいずれかの構成を組み合わせた構成にすることもできる。
以上、本発明の好ましい例について説明したが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の変形が可能である。
なお、比較的水銀蒸気圧の高い水銀ランプにおいて、封止部の構造に工夫をこらした公知の技術としては、次のものを挙げることができる。
特開2001−23570号公報には、190気圧(19MPa)程度の超高圧水銀ランプについて耐圧性能を向上させるための封止部構造が開示されている。その封止部構造の要部拡大図を図15(a)および(b)に示す。図15(a)は、電極112が封止部120に埋め込まれている部分(電極根本部分)の平面図であり、図15(b)は、B−B線に沿った断面図である。同図に示されるように、封止部120のガラス部と電極112との間には、間隙132があり、間隙132側のガラス部の表面には、剥離層134が形成されている。剥離層134は、ランプ製造段階における封止後の冷却時に電極112表面から剥離して、封止部120のガラス部と電極112との間に間隙132をつくるものである。当該公報によれば、間隙132によって封止部120の内面での微細クラックの発生を防止できることが述べられている。
図15から容易に理解できるように、この封止部構造は、ガラス部の表面に剥離層134を密着させるものであり、封止部120内に埋め込まれた電極112の表面に金属膜が形成された構造のものではない。また、ガラス部の表面に剥離層134を密着させる構成にする必要上、ガラス部と濡れ性の悪いような金属膜を用いることは、同公報の技術とは相容れないものである。
特開平11−260315号公報には、150Wの超高圧水銀ランプにおいて、箔の無い閉塞部構造体が開示されている。この閉塞構造体の断面構成図を図16に示す。閉塞構造体121は、発光管110を閉塞するものであり、導電性成分含有領域(モリブデン含有領域)と、導電性成分非含有領域(モリブデン非含有領域)とを有している。電極心棒112は、閉塞部構造体121の中心孔内に隙間なく焼き締められて配置されている。導電性成分非含有領域の中心孔に位置する電極心棒112の表面は、高融点金属薄膜135で被覆されており、そして、導電性成分含有領域の中心孔に位置する電極心棒112の表面は、高融点金属粉末136が塗布されている。なお、導電性成分含有領域には、陰極端子127が埋設されて固定されている。当該公報によると、電極芯棒112を閉塞部構造体121の中心孔内に隙間なく焼き締める際に、強く焼き締めても、高融点金属薄膜135および高融点金属粉末136により、クラックが発生しないようにできることが述べられている。
図16から容易に理解できるように、この閉塞部構造体121は、箔のないものであり、焼き締め工程により作製されるものである。したがって、本実施形態のものとは、基本的な構成を異にするものである。