まず、本発明の実施の形態を説明する前に、点灯動作圧が約30〜40MPaまたはそれ以上(約300〜400気圧またはそれ以上)である極めて高耐圧を示す高圧水銀ランプについて説明する。なお、これらの高圧水銀ランプの詳細は、特願2001−371365号に開示されている。また、特願2001−371365号で開示した高圧放電ランプの封止部に歪みが生じる機構について、特願2002−351524号明細書に開示した。ここでは、これらの特許出願を本願明細書に参考のため援用することとする。
動作圧が約30MPa以上であるにもかかわらず、実用的に耐えることができる高圧水銀ランプの開発は困難を極めたが、例えば、図1に示すような構成にすることによって、極めて高耐圧のランプを完成することに成功した。なお、図1(b)は、図1(a)中のb−b線に沿った断面図である。
図1に示した高圧放電ランプ(例えば、高圧水銀ランプまたは超高圧水銀ランプ)100は、特願2001−371365号に開示したものであり、発光管1と、発光管1の気密性を保持する封止部2を一対備えており、封止部2の少なくとも一方は、発光管1から延在した第1のガラス部8と、第1のガラス部8の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部7とを有しており、かつ、当該一方の封止部2は、圧縮応力が印加されている部位(20)を有している。
封止部2の一部に印加されている圧縮応力は、実質的にゼロ(すなわち、0kgf/cm2)を超えたものであればよい。この圧縮応力の存在により、従来の構造よりも耐圧強度を向上させることができる。この圧縮応力は、約10kgf/cm2以上(約9.8×105N/m2以上)であることが好ましく、そして、約50kgf/cm2以下(約4.9×106N/m2以下)であることが好ましい。10kgf/cm2未満であると、圧縮歪みが弱く、ランプの耐圧強度を十分に上げられない場合が生じ得るからである。そして、50kgf/cm2を超えるような構成にするには、それを実現させるのに、実用的なガラス材料が存在しないからである。ただし、10kgf/cm2未満であっても、実質的に0の値を超えれば、従来の構造よりも耐圧を上げることができ、また、50kgf/cm2を超えるような構成を実現できる実用的な材料が開発されたならば、50kgf/cm2を超える圧縮応力を第2のガラス部7が有していてもよい。
封止部2における第1のガラス部8は、SiO2を99重量%以上含むものであり、例えば、石英ガラスから構成されている。一方、第2のガラス部7は、15重量%以下のAl2O3および4重量%以下のBのうちの少なくとも一方と、SiO2とを含むものであり、例えば、バイコールガラスから構成されている。SiO2にAl2O3やBを添加すると、ガラスの軟化点は下げるため、第2のガラス部7の軟化点は、第1のガラス部8の軟化点温度よりも低い。このように第2のガラス部7の軟化点を下げるために、第2のガラス部7に含有されるAl2O3とBの合計量は1重量%よりも多いことが好ましい。なお、バイコールガラス(Vycor glass;商品名)とは、石英ガラスに添加物を混入させて軟化点を下げて、石英ガラスよりも加工性を向上させたガラスであり、例えば、ホウケイ酸ガラスを熱・化学処理して、石英の特性に近づけることによって作製することができる。バイコールガラスの組成は、例えば、シリカ(SiO2)96.5重量%、アルミナ(Al2O3)0.5重量%、ホウ素(B)3重量%である。本実施形態では、バイコールガラス製のガラス管から、第2のガラス部7は形成されている。なお、バイコール製のガラス管の代わりに、SiO2:62重量%、Al2O3:13.8重量%、CuO:23.7重量%を成分とするガラス管を用いても良い。
放電空間内に一端が位置する電極棒3は、封止部2内に設けられた金属箔4に溶接により接続されており、金属箔4の少なくとも一部は、第2のガラス部7内に位置している。図1に示した構成では、電極棒3と金属箔4との接続部を含む箇所を、第2のガラス部7が覆うような構成にしている。図1(b)に示すように、封止部2の横断面(封止部2の長手方向に直交する断面)において、金属箔4の周囲全てが第2のガラス部7により覆われている。このように少なくとも金属箔4の一部は、その幅方向の周囲全てを第2のガラス部7により覆われており、この部分では金属箔4のエッジ部が第2のガラス部7に囲まれている。図1に示した構成における第2のガラス部7の寸法を例示すると、封止部2の長手方向の長さで、約2〜20mm(例えば、3mm、5mm、7mm)であり、第1のガラス部8と金属箔4との間に挟まっている第2のガラス部7の厚さは、約0.01〜2mm(例えば、0.1mm)である。第2のガラス部7の発光管1側の端面から、発光管1の放電空間10までの距離Hは、約0mm〜約6mm(例えば、0mm〜約3mm、または、1mm〜6mm)である。第2のガラス部7を放電空間10内に露出させたくない場合には、距離Hは0mmよりも大きくなり、例えば、1mm以上となる。そして、金属箔4の発光管1側の端面から、発光管1の放電空間10までの距離B(言い換えると、電極棒3だけで封止部2内に埋まっている長さ)は、例えば、約3mmである。
次に、封止部2における圧縮歪みについて説明する。図2(a)および(b)は、封止部2の長手方向(電極軸方向)に沿った圧縮歪みの分布を模式的に示しており、図2(a)は、第2のガラス部7が設けられたランプ100の構成の場合、一方、図2(b)は、第2のガラス部7の無いランプ100’の構成(比較例)の場合を示している。
図2(a)に示した封止部2のうち、第2のガラス部7に相当する領域(網掛け領域)に圧縮応力(圧縮歪み)が存在し、第1のガラス部8の箇所(斜線領域)における圧縮応力の大きさは、実質的にゼロである。一方、図2(b)に示すように、第2のガラス部7の無い封止部2の場合、局所的に圧縮歪みが存在している箇所はなく、第1のガラス部8の圧縮応力の大きさは、実質的にゼロである。
本願発明者は、実際にランプ100の歪みを定量的に測定し、封止部2のうち第2のガラス部7に圧縮応力が存在することを観測した。この歪みの定量化は、光弾性効果を利用した鋭敏色板法を用いて行った。歪みの定量化のために使用した測定器は、歪検査器(東芝製:SVP−200)であり、この歪検査器を用いると、封止部2の圧縮歪みの大きさを、封止部2に印加されている応力の平均値として求めることができる。
図15を参照しながら、光弾性効果を利用した鋭敏色板法による歪み測定の原理を簡単に説明する。図15(a)および(b)は、偏光板を透過させてなる直線偏光をガラスに入射させた状態を模式的に示している。ここで、直線偏光の振動方向をuとすると、uは、u1とu2とが合成してできたものとみなすことができる。
図15(a)に示すように、ガラスに歪みがないときは、その中をu1とu2とは同じ速さで通過するので、透過光のu1とu2との間にずれは生じない。一方、図15(b)に示すように、ガラスに歪みがあり、応力Fが働いているときは、その中をu1とu2とは同じ速さで通過しないので、透過光のu1とu2との間にずれが生じる。つまり、u1とu2のうち一方が他方より遅れることになる。この遅れた距離を光路差という。光路差Rは、応力Fと、ガラスの通過距離Lとに比例するため、比例定数をCとすると、
R = C・F・L
で表すことができる。ここで、各記号の単位は、それぞれ、R(nm)、F(kgf/cm2)、L(cm)、C({nm/cm}/{kgf/cm2})である。Cは、ガラス等の材質によるもので、光弾性常数と呼ばれる。上記式からわかるように、Cが知られていれば、LおよびRを測定すると、Fを求めることができる。
本願発明者は、封止部2における光の透過距離L、すなわち、封止部2の外径Lを測定し、そして、歪み標準器を用いて、測定時の封止部2の色から光路差Rを読みとった。また、光弾性常数Cは、石英ガラスの光弾性常数3.5を使用した。これらを上記式に代入し、算出された応力値の結果から金属箔4の長手方向の圧縮歪みを定量化した。
なお、本測定では、封止部2の長手方向(電極軸3が延びる方向)についての応力を観察したが、このことは、他の方向において圧縮応力が存在していないことを意味するものではない。封止部2の径方向(中心軸から外周へ向かう方向、またはその逆方向)、または、封止部2の周方向(例えば、時計周り方向)について圧縮応力が存在しているかどうかを測定するには、発光管1や封止部2を切断する必要があるのであるが、そのような切断を行ったとたん、第2のガラス部7の圧縮応力が緩和されてしまう。したがって、ランプ100に対して切断を行わない状態で測定できるのは、封止部2の長手方向についての圧縮応力であるため、本願発明者は、少なくとも、その方向での圧縮応力を定量化したのである。
本実施形態のランプ100では、第1のガラス部8の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部7に圧縮歪み(少なくとも長手方向への圧縮歪み)が存在しているので、高圧放電ランプの耐圧強度を向上させることができる。言い換えると、図1および図2(a)に示した本実施形態のランプ100の方が、図2(b)に示した比較例のランプ100’よりも、耐圧強度を高くすることができる。図1に示した本実施形態のランプ100は、従来の最高レベルの動作圧である20MPa程度を超える、30MPa以上の動作圧で動作させることが可能である。
次に、図16を参照しながら、第2のガラス部7に圧縮歪みが入っていることにより、ランプ100の耐圧強度が上がる理由を説明する。図16(a)は、ランプ100の封止部2の要部拡大図であり、一方、図16(b)は、比較例のランプ100’の封止部2の要部拡大図である。
ランプ100の耐圧強度が上がる機構については、実際のところ明確にわからない部分もあるが、本願発明者は、それについて次のように推論した。
まず前提として、封止部2内の金属箔4は、ランプ動作中に加熱・膨張するため、封止部2のガラス部には、金属箔4からの応力が加わる。より具体的に説明すると、ガラスよりも金属の方が熱膨張率が大きいことに加えて、電極棒3に熱的に接続されており、かつ、電流が通過する金属箔4の方が、封止部2のガラス部よりも加熱されやすいため、金属箔4から(特に、面積の小さい箔側面から)ガラス部へと応力が加わり易い。
ここで、図16(a)に示すように、第2のガラス部7の長手方向に圧縮応力が加わっていると、金属箔4からの応力16の発生を抑制することができると考えられる。言い換えると、第2のガラス部7の圧縮応力15によって、大きな応力16が生じるのを抑制することができると考えられる。その結果、例えば、封止部2のガラス部にクラックが生じたり、封止部2のガラス部と金属箔4との間でのリークの発生が低減して、封止部2の強度が向上することになる。
一方、図16(b)に示すように、第2のガラス部7の無い構造の場合には、金属箔4からの応力17は、図16(a)に示した構成の場合よりも、大きくなると考えらる。すなわち、金属箔4の周囲に、圧縮応力の加わっている領域が存在しないので、金属箔4からの応力17は、図16(a)に示した応力16よりも大きくなると思われる。それゆえ、図16(a)に示した構成の方が、図16(b)に示した構成よりも、耐圧強度を向上させることができると推論される。この考えは、ガラスに引っ張り歪み(引っ張り応力)が入っていると割れやすく、圧縮歪み(圧縮応力)が入っていると割れにくくなるというガラスの一般的な性質と相容れるものと思われる。
ただし、ガラスに圧縮応力が入っていると割れにくくなるというガラスの一般的な性質から、ランプ100の封止部2が高い耐圧強度を持つということまで推論することはできない。なぜならば、仮に、圧縮歪みが入っている領域のガラスの強度が増したとしても、封止部2全体として見たら、歪みがない場合と比較して、負荷が生じていることになるため、封止部2全体としての強度はかえって低下するという考えも成り立ち得るからである。ランプ100の耐圧強度が向上したという結果は、本願発明者がランプ100を試作し実験して初めてわかったことであり、まさに理論だけからは導き出せなかったものである。必要以上の大きな圧縮応力が第2のガラス部7(またはその外周周辺領域)に存在したままになれば、実際には、ランプ点灯時に封止部2の破損をもたらし、かえって、ランプの寿命を短くしてしまうことになるかもしれない。そのようなことを考えると、第2のガラス部7を有するランプ100の構造は、絶妙なバランスの下で、その高い耐圧強度を示しているものと考えられる。発光管1の部分を切断すると、第2のガラス部7の応力歪みが緩和されることから推測すると、第2のガラス部7の応力歪みによる負荷は、発光管1全体で上手く受け止めているのかもしれない。
なお、その高い耐圧強度を示す構造は、第1のガラス部8と第2のガラス部7との圧縮応力の差によって生じた圧縮応力が印加されている部位20によってもたらされているとも考えられる。つまり、第1のガラス部8には、実質的に圧縮応力が加わってなく、圧縮応力が印加されている部位20よりも中心側に位置する第2のガラス部7(または、その外周周辺)だけの領域に上手く圧縮歪みが閉じ込めることができたことにより、優れた耐圧特性を発揮させることに成功しているという推論も成立し得る。鋭敏色板法による歪み測定の原理に起因して、応力値が離散的に示されてしまう結果、図16等においては、圧縮応力が印加されている部位20が明確に示されているのであるが、仮に、現実の応力値を連続的に示せるとしても、圧縮応力が印加されている部位20においては応力値が急峻に変化していると考えられ、その急峻に変化する領域にて、逆に圧縮応力が印加されている部位20を規定することができると思われる。
ランプ100を製造する場合、図3(a)に示すように、側管部2’内にガラス管70および電極構造体80を挿入し、その後、側管部2’を加熱・収縮することによって、封止部を形成する。なお、紙面の左側は、側管部2’を加熱・収縮することによって形成された封止部2の構造を示しており、一方、紙面右側は、側管部2’内にガラス管70および電極構造体80が挿入された構造を示している。また、図3(b)は、図3(a)中のb−b線に沿った断面図を参考として示している。
ここで、ガラス管70がバイコールガラスから構成されている場合、バイコールガラスは多孔質のガラスであるため、多くの不純物(主に、水)を吸着している。その不純物は、封止部を形成した後、気泡となって封止部のガラス中に残ってしまい、その結果、ガラス強度(耐圧強度)の低下をもたらす。これは、高耐圧(または、極めて高い耐圧)を示す高圧放電ランプを実現する上において、好ましくない。
また、仮に、バイコールガラス製のガラス管を乾燥させたとしても、バイコールガラスは吸湿性を有しているので、厳しく管理して保管する必要がある。また、吸湿を避けるために、例えば、当該ガラス管を一個一個フィルムで包装することは、非常に手間がかかるとともに、コスト高にもなるため現実的ではない。
さらに、バイコールガラス製のガラス管は、ハロゲンとの反応においても問題が生じる。以下、この点、説明を続ける。
高圧放電ランプの長寿命化を図るには、ハロゲンサイクルを利用する必要があり、それゆえ、長寿命のランプを実現するには、分解してハロゲンを生じるハロゲン前駆体(例えば、CH2Br2)を、矢印60のように導入する工程が必須となり、その工程は重要なものとなる。または、CH2Br2に代えて、HBrを導入してもよい。ハロゲンサイクルを良好に維持するために必要なハロゲンの量については、国際出願番号PCT/JP00/04561号明細書(国際出願日;2000年7月6日、出願人;松下電器産業株式会社)に詳述されている。ここで、国際出願番号PCT/JP00/04561号明細書を、本願明細書に参考のため援用する。なお、臭素自身(Br2)をハロゲン種として用いることも可能であるが、臭素は反応性が強い物質であり、取り扱いのことを考慮すると、分解してハロゲンを生じるハロゲン前駆体(例えば、CH2Br2、HBr)にて、ハロゲンの導入を行うことが好ましい。
図3に示した状態において、もし、第2のガラス部7となるガラス管70がなければ、CH2Br2やHBrを導入することに特段の問題は生じない。本願発明者は、ガラス管70を挿入していない場合と同じように、ハロゲン前駆体(例えば、CH2Br2)をハロゲン種として導入していたが、次のような問題が生じることに気づいた。
ガラス管70は、側管部2’を構成する石英ガラスよりも融点の低いガラス(例えば、バイコールガラス)から構成されており、上述したように、このガラスは、石英ガラスに添加物が混入された形態を有している。ハロゲン前駆体(CH2Br2やHBr)は、石英ガラス(側管部2’)とは実質的に反応しないのであるが、ガラス管70を構成するガラス(バイコールガラス)には影響を及ぼし、その組成を変化させてしまう。特に、ハロゲン前駆体の導入が完了した図3(a)に示した状態の後、封止部を形成するために、側管部2’の周囲をバーナー等で熱する際、ガラス管70に付着して存在していたり、発光管部1’内に存在するハロゲン前駆体からなるガスが、ガラス管70に対する腐食性ガスとして働くので、ガラス管70は高温の腐食性ガスの中に曝されてしまう。そうすると、ガラス管70の例えばNa成分が消失することによってガラス管70の組成が変化してしまう。その結果、その組成変化に伴って、ガラスの熱的物性が変化し、例えば歪点が高くなってしまう。ガラス管70を構成するガラスの歪点が高くなって、石英ガラスの歪点に近づき過ぎてしまうと、第2のガラス部7に歪み(圧縮歪み)が入り難くなったり、入らなくなってしまう。あるいは、第1のガラス部8と第2のガラス部7との間にクラックが入ってしまうおそれがある。また、当該組成変化によって、金属箔とバイコールガラスとの密着性が低下して、耐圧が低下するおそれもある。
さらに、ガラス管70を構成するガラス中の不純物が、ハロゲンまたはハロゲン前駆体に影響を受けて、その不純物が発光管1内に侵入して(染み出して)しまうと、その不純物によってハロゲンサイクルが阻害されてしまうことにもなりかねない。ハロゲンサイクルを良好に動作させないと、長寿命のランプを実現することは困難となる。
このような問題は、図4に示すように、金属箔4の全体を覆うような長いガラス管70を用いた場合にも同様に生じ、さらには、長いガラス管70の方がより多くの不純物を含むので、この問題はより顕在化するおそれがある。
本願発明者は、上記問題を解決すべく鋭意研究した結果、図5(a)に示すように、表面層(外表面)172を石英ガラスとし、内面層174をバイコールガラスとした複合ガラス管170を用い、そして、図5(b)に示すように、この複合ガラス管170に電極構造体50を挿入し、それによって、バイコールガラス(174)と金属箔4との接触を確保しながら、バイコールガラス(174)からの不純物の染み出しを抑制することに成功し、本発明に至った。
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態を説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
(実施形態1)
ここから、本発明の実施形態1に係る高圧放電ランプについて説明する。本実施形態の高圧放電ランプでは、複合ガラス管(図5(a)の符号170)を用いて封止部2を形成している点が、バイコールガラス製のガラス管70を用いて封止部2を形成している点が上述した構成と異なる。本実施形態の製造方法に使用する複合ガラス管は、側管部を構成する第1のガラスよりも軟化点の低い第2のガラスから構成された内管と、第1のガラスから構成された外管とから構成されており、外管は、内管の外周に密着して位置している。
本実施形態の高圧放電ランプでは、複合ガラス管(170)を用いて封止部2を形成しているものの、完成した高圧放電ランプ同士を比べると、側管部2’を構成する第1のガラス(例えば、石英ガラス)と、複合ガラス管の外管を構成する第1のガラス(例えば、石英ガラス)とは加熱・溶融によって一体化するため、図1における封止部2よりも第1のガラスの部分の厚さが厚くなる点以外は実質的に、図1に示した構成と同様の構成になる。したがって、説明の簡潔化のため、本実施形態の高圧放電ランプの符号も「100」とし、図1を参照しながら、本実施形態の高圧放電ランプを説明し、そして、図1に示した構成と重複する点は省略または簡略化するものとする。
本実施形態のランプ100は、封止部2を2つ備えたダブルエンド型のランプである。図1に示すように、第2のガラス部7が、電極棒3と金属箔4との溶接部を少なくとも覆うように配置すると、例えば35MPaのような超高耐圧の条件下でも破損確率を低下することができるので好ましい。電極棒3と金属箔4との溶接部を覆う構成例としては、図5に示すように、封止部2内に埋め込まれている部分の金属箔4の全部と、電極棒3の一部を覆うように配置する構成もある。図5に示した第2のガラス部7の寸法を例示すると、封止部2の長手方向の長さで、約10〜30mm(例えば、約20mm)である。
本実施形態のランプ100では、複合ガラス管(170)を用いて封止部2を形成しているので、外側に位置する外管(第1のガラスから構成された層、例えば、石英ガラス層)172が、内管(第2のガラスから構成された層、例えば、バイコールガラス層)174からの不純物の染み出しを抑制することができる。このため、封止部2に気泡が入ったりすることを防止することが可能となる。なお、内管の内面は、外気に接触することになるが、第2のガラス(例えば、バイコールガラス)の吸湿性によって内管172の表面(内面)に水分が含まれることになったとしても、これは大きな問題とはならない。なぜならば、金属箔4(モリブデン箔)が内管174の表面(内面)と接触することにより、金属箔4の表面に薄い酸化領域ができたとしても、金属酸化物(例えば、モリブデン酸化物)とガラス(つまり、酸化物(例えば、SiO2))とは、密着性に関しては、相性が良くなるので、密着性を強固にすることができ、したがって、内管174の表面(内面)に水分があっても構わないからである。また、内管174と外管172との間は、隙間なく密着しているので、第1のガラス部8と第2のガラス部7との間の接合関係も良好となる。したがって、本実施形態の構成によれば、より高耐圧またはより高信頼性を示す高圧放電ランプを実現することができる。
本実施形態のランプ100の耐圧強度(動作圧力)は、20MPa以上(例えば、30〜50MPa程度、またはそれ以上)にすることができる。また、管壁負荷は、例えば、60W/cm2程度以上であり、特に上限は設定されない。例示的に示すと、管壁負荷は、例えば、60W/cm2程度以上から、300W/cm2程度の範囲(好ましくは、80〜200W/cm2程度)のランプを実現することができる。冷却手段を設ければ、300W/cm2程度以上の管壁負荷を達成することも可能である。なお、定格電力は、例えば、150W(その場合の管壁負荷は、約130W/cm2に相当)である。
本実施形態の構成をさらに詳述すると、次の通りである。
ランプ100の発光管1は、略球形をしており、第1のガラス部8と同様に、石英ガラスから構成されている。なお、図1および図5に示すように、発光管1はチップレスとなっている。したがって、発光物質6は、発光管1に開口部を設けて導入するのではなく、側管部から導入する必要がある。
長寿命等の優れた特性を発揮する高圧水銀ランプ(特に、超高圧水銀ランプ)を実現する上では、発光管1を構成する石英ガラスとして、アルカリ金属不純物レベルの低い(例えば、Na、K、Liのそれぞれの量が1ppm以下)高純度の石英ガラスを用いることが好ましい。なお、勿論、通常のアルカリ金属不純物レベルの石英ガラスを用いることも可能である。発光管1の外径は例えば5mm〜20mm程度であり、発光管1のガラス厚は例えば1mm〜5mm程度である。発光管1内の放電空間(10)の容積は、例えば0.01〜1cc程度(0.01〜1cm3)である。本実施形態では、外径9mm程度、内径4mm程度、放電空間の容量0.06cc程度の発光管1が用いられる。
発光管1内には、一対の電極棒(電極)3が互いに対向して配置されている。電極棒3の先端は、0.2〜5mm程度(例えば、0.6〜1.0mm)の間隔(アーク長)で、発光管1内に配置されており、電極棒3のそれぞれは、タングステン(W)から構成されている。タングステン製の電極棒3も、アルカリ金属不純物レベルの低い(例えば、Na、K、Liのそれぞれの量が1ppm以下)ものを使用することが好ましいが、通常のアルカリ金属不純物レベルの電極棒3を用いることも可能である。電極棒3の先端には、ランプ動作時における電極先端温度を低下させることを目的として、コイル12が巻かれている。本実施形態では、コイル12として、タングステン製のコイルを用いているが、トリウム−タングステン製のコイルを用いてもよい。また、電極棒3も、タングステン棒だけでなく、トリウム−タングステンから構成された棒を使用してもよい。
発光管1内には、発光物質として、水銀6が封入されている。超高圧水銀ランプとしてランプ100を動作させる場合、例えば、200mg/cc程度またはそれ以上(220mg/cc以上または230mg/cc以上、あるいは250mg/cc以上)、好ましくは、300mg/cc程度またはそれ以上(例えば、300mg/cc〜500mg/cc)の水銀6と、5〜30kPaの希ガス(例えば、アルゴン)が発光管1内に封入されている。
また、発光管1内には、分解してハロゲンを生じるハロゲン前駆体が封入されている。ハロゲン前駆体は、例えば、CH2Br2、HBr、HgBr2などである。本実施形態では、ハロゲン前駆体として、臭化水銀(HgBr2)が封入されている。ハロゲン前駆体から分解して生じるハロゲン(すなわち、Br)は、ランプ動作中に電極棒3から蒸発したW(タングステン)を再び電極棒3に戻すハロゲンサイクルの役割を担っている。HgBr2の封入量は、例えば、0.002〜0.2mg/cc程度であり、これは、ランプ動作時のハロゲン原子密度に換算すると、例えば、0.01〜1μmol/cc程度に相当する。
HgBr2を用いた場合の利点の一つを述べると、HgBr2が分解した後に生じるものが、BrとHgである点である。つまり、ハロゲン以外の成分が既に封入されている元素と同じ水銀という点である。この点、水素(H)が生じ得るCH2Br2やHBrと異なる。水素は、再びハロゲンと結びつく可能性があるので、遊離ハロゲンの量が遊離水素の量に依存して、定まらないおそれがある。上述の国際出願番号PCT/JP00/04561号明細書で開示されているように、発光管1内にハロゲンサイクルに寄与するハロゲンを常に確保して、ハロゲンサイクルを確実に実行させることにより、発光管1に生じる黒化を積極的に防止することができる。しかしながら、分解して生じる水素(遊離水素)が生じる場合を想定すると、その遊離水素と結びついたハロゲンは、必ずしも、ハロゲンサイクルに寄与するハロゲンであるとは言えないので、ハロゲンサイクルに確実に寄与できる遊離ハロゲンの量が定まらず、積極的に黒化を防止できない可能性が出てくる。すると、そのような可能性を排除できるHgBr2の方がハロゲン導入量を算定しやすく、利点が大きいことがわかる。
なお、本実施形態において、発光管1内に封入されるハロゲン前駆体から生じるハロゲンのモル数は、ハロゲンと結合する性質を有する金属元素(ただし、タングステン元素および水銀元素を除く)であって発光管1内に存在する金属元素の合計モル数と、ランプ動作中において電極3から蒸発して発光管1内に存在するタングステンのモル数との和よりも多いようにすることが好ましい。このようにすれば、発光管1内にハロゲンサイクルに寄与するハロゲンを常に確保して、ハロゲンサイクルを確実に実行させることができるからである。ハロゲンと結合する性質を有する金属元素の代表例は、タングステン元素および水銀元素を除くと、アルカリ金属元素(Na、K、Liなど)である。
上述したように、封止部2の断面形状は、略円形であり、そのほぼ中央部に金属箔4が設けられている。金属箔4は、例えば、矩形のモリブデン箔(Mo箔)であり、金属箔4の幅(短辺側の長さ)は、例えば、1.0mm〜2.5mm程度(好ましくは、1.0mm〜1.5mm程度)である。金属箔4の厚さは、例えば、15μm〜30μm程度(好ましくは、15μm〜20μm程度)である。厚さと幅との比は、だいたい1:100程度になっている。また、金属箔4の長さ(長辺側の長さ)は、例えば、5mm〜50mm程度である。
電極棒3が位置する側と反対側には、外部リード5が溶接により設けられている。金属箔4のうち、電極棒3が接続された側と反対側には、外部リード5が接続されており、外部リード5の一端は、封止部2の外まで延びている。外部リード5を点灯回路(不図示)に電気的に接続することにより、点灯回路と、一対の電極棒3とが電気的に接続されることになる。封止部2は、封止部のガラス部(7、8)と金属箔4とを圧着させて、発光管1内の放電空間10の気密を保持する役割を果たしている。封止部2によるシール機構を以下に簡単に説明する。
封止部2のガラス部を構成する材料と、金属箔4を構成するモリブデンとは互いに熱膨張係数が異なるので、熱膨張係数の観点からみると、両者は、一体化された状態にはならない。ただし、本構成(箔封止)の場合、封止部のガラス部からの圧力により、金属箔4が塑性変形を起こして、両者の間に生じる隙間を埋めることができる。それによって、封止部2のガラス部と金属箔4とを互いに圧着させた状態にすることができ、封止部2で発光管1内のシールを行うことができる。すなわち、封止部2のガラス部と金属箔4との圧着による箔封止によって、封止部2のシールは行われている。本実施形態では、圧縮歪みのある第2のガラス部7が設けられているので、このシール構造の信頼性が向上されている。
本実施形態のランプ100では、第1のガラス部8の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部7に圧縮歪み(少なくとも長手方向への圧縮歪み)が存在しているので、高圧放電ランプの耐圧強度を向上させることができる。そして、複合ガラス管170を用いて封止部2を形成するので、封止部のガラス中に気泡等が発生するのを抑制することができる。また、第2のガラス7の変質を抑制することができるので、封止部2内へ圧縮歪みをより確実に入れて、高耐圧の高圧放電ランプを実現することができる。
上記説明では、第1のガラスを石英ガラスとし、第2のガラスをバイコールガラスの例を説明したが、第2のガラスを、SiO2:62重量%、Al2O3:13.8重量%、CuO:23.7重量%を成分とするガラスとしてもよい。複合ガラス管170を、外側から、石英ガラス、バイコールガラス、SiO2:62重量%、Al2O3:13.8重量%、CuO:23.7重量%を成分とするガラスとの三層構造にしてもよい。つまり、軟化点の低いガラスの順に内側から配置することができる。なお、二層または三層(またはそれ以上)といっても、実際には、成分濃度が傾斜して、その境界ははっきりしない場合もあり得る。
なお、図4に示した構成では、一対の封止部2のいずれにも、第2のガラス部7を設けたが、これに限らず、一方の封止部2だけに、第2のガラス部7を設けても、図2(b)に示した比較例のランプ100’よりも耐圧強度を向上させることができる。ただし、両方の封止部2に第2のガラス部7を設けた構成で、かつ、両方の封止部2が圧縮応力が印加されている部位を有する構成にした方が好ましい。これは、一方の封止部よりも、両方の封止部2が圧縮応力が印加されている部位を有している方がより高い耐圧を達成することができるからであり、単純に考えて、圧縮応力が印加されている部位を有する封止部を一つ備えているときよりも、2つ備えているときの方が、封止部でリークが生じる確率(すなわち、あるレベルの高耐圧を保持できない確率)を1/2にすることが可能となるからである。
また、本実施形態では、水銀6の封入量の多い高圧水銀ランプ(例えば、水銀封入量150mg/cm3以上の超高圧水銀ランプ)について説明したが、水銀蒸気圧がそれほど高くない1MPa程度の高圧水銀ランプにも好適に適用することができる。なぜならば、動作圧力が極めて高くても安定して動作できるということは、ランプの信頼性が高いことを意味するからである。すなわち、本実施形態の構成を、動作圧力のそれほど高くないランプ(ランプの動作圧力が30MPa程度未満、例えば、20MPa程度〜1MPa程度)に適用した場合、当該動作圧力で動作するランプの信頼性を向上させ得ることになるからである。本実施形態の構成は、封止部2に、新たな部材として第2のガラス部7の部材を導入するだけでよいので、少ない改良で耐圧向上の効果を得ることができる。したがって、非常に工業的な用途に適しているものである。また、第2のガラス部7の組成変形を防止する手法として、その組成変形の機構を考慮した上でハロゲン前駆体としてHgBr2を用いたことも、少ない改良で耐圧向上の効果を確実に維持することができるので、工業的な用途に適しているものである。
次に、図7から図9を参照しながら、本実施形態に係るランプ100の製造方法を説明する。
まず、ランプ100の発光管(1)となる発光管部1’と、発光管部1’から延在した側管部2’とを有する放電ランプ用ガラスパイプ80を用意する。本実施形態のガラスパイプ80は、外径6mm、内径2mmの筒状石英ガラスの所定位置を加熱し膨張させて、略球形の発光管部1’を形成したものである。また、別途、第2のガラス部7となる複合ガラス管170を用意する。本実施形態の複合ガラス管170は、外径1.9mm、内径1.6mm、長さ(長手方向長さ)7mmのガラス管である。複合ガラス管170の外管172は、石英ガラス管(肉厚:例えば、0.05〜0.1mm)であり、内管174は、バイコールガラス管(肉厚:例えば、0.05〜0.1mm)である。複合ガラス管170の外径は、ガラスパイプ80の側管部2’に挿入できるように、側管部2’の内径よりも小さくしてある。
複合ガラス管170を作製するには、図8に示すように、石英ガラス製の外管172内に、バイコールガラス製の内管174を挿入した後、外管172と内管174との隙間を減圧状態(矢印182参照)にするとともに、外管172を加熱する。これにより、外管172が収縮して(矢印184参照)、内管174と密着する。このようにして、複合ガラス管170が得られる。複合ガラス管170の形態になれば、一日以上の空気中に放置しても、外管172と内管174との間に不純物(主に、水分)が吸着することはない。ガラス管170を長時間放置できることは、製造工程の作業の自由度をあげ、それにより、スループットを向上することも可能になる。側管部2’に挿入する形態の複合ガラス管170を用意する場合、比較的長い(例えば、30〜100cm)ものを作製した後、それを所定長さにカットする方が好ましい。これは、個別に作製するよりも、大量に且つ効率良く作製できるからである。
なお、図4に示した長いガラス管(ロングガラス管)70を、複合ガラス管170にして用いても良い。このロングガラス管の場合、一端(すなわち、発光管部1’と反対側の端部)の径が小さくされており、これにより、固定が行われている。固定方法としては、径が小さくなった箇所で外部リード5を押さえるようにしてもよいし、パイプ80を実質的に鉛直にした上で、ガラス管70の径が小さくなった箇所を金属箔(モリブデン箔)4の角に引っかけるようにしてもよい。
次に、ガラスパイプ80の側管部2’に、複合ガラス管170を固定した後、別途作製した電極構造体50を、ガラス管70が固定された側管部2’に挿入し、次いで、電極構造体50挿入後のガラスパイプ80の両端を、気密性を保ちながら、回転可能なチャック(不図示)に取り付ける。チャックは、真空系(不図示)に接続されており、ガラスパイプ80内を減圧することができる。ガラスパイプ80内を真空排気した後、200torr程度(約20kPa)の希ガス(Ar)を導入する。その後、電極棒3を回転中心軸として、矢印81の方向に、ガラスパイプ80を回転させる。
なお、電極構造体50は、電極棒3と、電極棒3に接続された金属箔4と、金属箔4に接続された外部リード5とから構成されている。電極棒3は、タングステン製電極棒であり、その先端にはタングステン製コイル12が巻きつけられている。外部リード5の一端には、側管部2’の内面に電極構造体50を固定するための支持部材(金属製の留め金)11が設けられている。図4に示した支持部材11は、モリブデンからなるモリブデンテープ(Moテープ)であるが、これに代えて、モリブデン製のリング状のバネを用いてもよい。
次に、側管部2’およびガラス管170を加熱・収縮させて、電極構造体50を封止する。この封止部2の形成工程では、発光管部1’と側管部2’との間の境目部分から、外部リード5の方へ、例えばバーナー(または、CO2レーザ)を用いて加熱していく。なお、外部リード5の方から、発光管部1’の方へ、加熱・収縮を行ってもよい。この加熱・収縮によって、複合ガラス管170の外管(石英ガラス層)172と、側管部2’(石英ガラス)とが密着し、図9に示すように、第2のガラス部7を有する封止部2が得られる。
ここで、図10に示すような、複合ガラス管(172,174)が一体形成された電極構造体50を用いることも可能である。この場合、側管部2’に複合ガラス管170を設けなくても、図10に示したガラス部材(172,174)が電極構造体50に密着して形成された高圧放電ランプ用ランプ部材(バイコールガラス層・石英ガラス層付き電極構造体50)を、側管部2’に挿入して、封止部2を形成することができる。
一方の封止部2が形成された後は、開放している側管部2’側の端部から、所定量の水銀6(例えば、200mg/cc程度、または、300mg/cc程度、あるいはそれ以上)を導入する。そして、このとき、ハロゲン前駆体も導入する。水銀6とハロゲン前駆体との導入の順番は特に問わない。両者を同時でもよいし、いずれかを先に導入してもよい。
水銀6およびハロゲン前駆体の導入後、他方の側管部2’についても上記と同様の工程を実行する。すなわち、まだ封止されていない側管部2’に、複合ガラス管170および電極構造体50を挿入した後、ガラスパイプ80内を真空引きして(好ましくは、10-4Pa程度まで減圧して)、希ガスを封入し、次いで、加熱封止する。本実施形態では、封止部形成工程の前に、気体のハロゲン前駆体(例えば、CH2Br2)を導入した場合でも、バイコールガラス層(174)は石英ガラス層(172)によって覆われているので、バイコールガラス層(174)と石英ガラス層(172)との界面(境界)がハロゲンによって変質することを防止することができる。なお、加熱封止の際は、水銀が蒸発するのを防ぐため、発光管部1’を冷却しながら行うことが好ましい。
このようにして、両方の側管部2’を封止すると、第2のガラス部7を封止部2内に有するランプが完成する。上述したように、封止部形成工程が完了した後は、石英ガラス層(172)は、側管部2’の石英ガラスと一体になる。
次に、図17(a)および(b)を参照しながら、封止部形成工程により、第2のガラス部7(または、その外周周辺部)に圧縮応力が加わる機構を説明する。なお、この機構は、本願発明者が推考したものであり、必ずこの通りになっているとは言い切れない。しかし、例えば図3(a)に示したとおり、第2のガラス部7(またはその外周周辺部分)に圧縮応力(圧縮歪み)が存在するのは事実であるし、そして、その圧縮応力が加わった部位を含む封止部2によって耐圧が向上することも事実である。
図17(a)は、側管部2’状態の第1のガラス部8内に、ガラス管70状態の第2のガラス部7aを挿入した時点の断面構成を模式的に示し、一方、図17(b)は、図17(a)の構成において第2のガラス部7aが軟化して溶融状態7bになった時点の断面構成を模式的に示している。本実施形態において、第1のガラス部8は、SiO2を99wt%以上含む石英ガラスから構成され、そして、第2のガラス部7aは、バイコールガラスから構成されている。
まず前提として、圧縮応力(圧縮歪み)が存在するということは、互いに接触する材料同士の熱膨張係数に差があることが多い。すなわち、封止部2内に設けられた状態の第2のガラス部7に圧縮応力が加わっている理由としては、両者の熱膨張係数に差があると考えるのが一般的である。しかし、この場合、実際には、両者の熱膨張係数に大きな差はなく、ほぼ等しいと言える。より具体的に説明すると、金属であるタングステンおよびモリブデンの熱膨張係数が、それぞれ、約46×10-7 /℃および約37〜53×10-7 /℃であるところ、第1のガラス部8を構成する石英ガラスの熱膨張係数は、約5.5×10-7 /℃であり、そして、バイコールガラスの熱膨張係数は、石英ガラスの熱膨張係数と同レベルとみなせる約7×10-7 /℃である。僅かこれくらいの熱膨張係数の差で、両者の間に、約10kgf/cm2以上の圧縮応力が発生するとは思えない。両者の性質の違いは、熱膨張係数よりも、むしろ軟化点または歪点にあり、この点に着目すると、次のような機構により、圧縮応力が加わることが説明できると思われる。なお、石英ガラスの軟化点および歪点は、それぞれ、1650℃および1070℃(徐冷点は、1150℃)であり、一方、バイコールガラスの軟化点および歪点は、それぞれ、1530℃および890℃(徐冷点は、1020℃)である。
図17(a)に示した状態から、第1のガラス部8(側管部2’)を外側から加熱してシュリンクさせると、最初、両者の間にあった隙間7cが埋まり、両者は接する。シュリンク後においては、図17(b)に示すように、軟化点が高く、外気に触れる面積の多い第1のガラス部8の方が先に軟化状態から解放された時点(つまり、固まった時点)でも、それよりも内側に位置し、かつ、軟化点の低い第2のガラス部7bは、依然として、軟化したまま(溶融状態のまま)の時点が存在する。このときの第2のガラス部7bは、第1のガラス部8と比較して、流動性を持っており、仮に通常時(軟化状態でない時点)の両者の熱膨張係数がほぼ同じであったとしても、この時点の両者の性質(例えば、弾性率、粘度、密度など)は大きく異なっていると考えられる。そして、さらに時間が経過し、流動性を持っていた第2のガラス部7bが冷えて、第2のガラス部7bの温度が軟化点も下回ると、第2のガラス部7も、第1のガラス部8と同様に固まることになる。ここで、第1のガラス部8と第2のガラス部7との軟化点が同じであれば、外側から徐々に冷えて圧縮歪みが残らないように、両方のガラス部が固まるのであろうが、本実施形態の構成の場合、外側のガラス部(8)が早めに固まって、しばらくしてから、内側のガラス部(7)が固まるため、当該内側の第2のガラス部7に圧縮歪みが残ることになると思われる。このようなことを考えると、第2のガラス部7は、一種のピンチングが間接的に行われた状態になったと言えるかもしれない。
なお、このような圧縮歪みが残っていると、通常、両者の熱膨張率の差によって、ある温度で両者(7、8)の密着状態が終わってしまうことになるのであろうが、本実施形態の構成の場合、両者の熱膨張率がほぼ等しいので、圧縮歪みが存在していても、両者(7、8)の密着状態が保持できると推測される。
さらに、第2のガラス部7に約10kgf/cm2以上の圧縮応力を与えるためには、上述した作製方法で完成させたランプ(ランプ完成体)に対して、第2のガラス部の歪点温度よりも高い温度で加熱することが必要なことがわかった。そして、1030℃で2時間以上、加熱することが好ましいこともわかった。具体的には、完成したランプ100を1030℃の炉に入れて、アニール(例えば、真空ベークまたは減圧ベーク)すればよい。なお、1030℃の温度は例示であり、第2のガラス部(バイコールガラス)7の歪点温度よりも高い温度であればよい。すなわち、バイコールの歪点温度890℃よりも大きければよい。好適な範囲は、バイコールの歪点温度890℃より大きく、第1のガラス部(石英ガラス)の歪点温度(SiO2の歪点温度1070℃)よりも低い温度であるが、1080℃や1200℃程度の温度で本願発明者が実験した場合において効果がある場合もあった。
なお、比較参考のために、アニールを行っていない高圧放電ランプについて、鋭敏色板法による測定を行ったところ、高圧放電ランプの封止部に第2のガラス部7を設けた構成であるにもかかわらず、封止部に約10kgf/cm2以上の圧縮応力は観測されなかった。
アニール(または真空ベーク)の時間については、2時間以上であれば、経済的な観点からみた上限を除けば、特に上限はない。2時間以上の範囲で、好適な時間を適宜設定すればよい。また、2時間未満でも、効果がみられる場合には、2時間未満での熱処理(アニール)を行ってもよい。このアニール工程により、ランプの高純度化、言い換えると、不純物の低減が達成されているかもしれない。なぜならば、ランプ完成体をアニールすることにより、ランプに悪影響を及ぼすと考えられる水分(例えば、バイコール中の水分)をランプから飛ばすことができると思われるからである。アニールを100時間以上すれば、ほぼ完全にバイコール中の水分をランプ内から除去することが可能である。
上述の説明では、第2のガラス部7をバイコールガラスから構成した例で説明したが、SiO2:62重量%、Al2O3:13.8重量%、CuO:23.7重量%を成分とするガラス(商品名;SCY2、SEMCOM社製。歪点;520℃)から第2のガラス部7を構成した場合でも、少なくとも長手方向に圧縮応力が印加された状態になることもわかった。
次に、本願発明者が推論した、ランプ完成体に対して所定の温度で所定時間以上のアニールを施すと、ランプの第2のガラス部7に圧縮応力が加わる機構について図18を参照しながら説明する。
まず、図18(a)に示すように、ランプ完成体を用意する。なお、ランプ完成体の作製方法は上述した通りである。
次に、そのランプ完成体を加熱すると、図18(b)に示すように、水銀(Hg)6が蒸発を始め、その結果、発光管1内および第2のガラス部7にも圧力が加わる。図中の矢印は、水銀6の蒸気による圧力(例えば、100気圧以上)を表している。発光管1内だけでなく、第2のガラス部7にも水銀6の蒸気圧が加わる理由は、目には見えない程度の隙間13が電極棒3の封止部分にあるからである。
さらに加熱の温度を上げて、第2のガラス部7の歪点を越える温度(例えば、1030℃)で加熱を続けると、第2のガラス部7が軟らかい状態で、水銀の蒸気圧が第2のガラス部7に加わるため、第2のガラス部7において圧縮応力が発生する。圧縮応力が発生する時間は、例えば歪点で加熱したときに約4時間、徐冷点で加熱したときに約15分であると推測される。この時間は、歪点および徐冷点の定義から導き出したものである。すなわち、歪点とは、この温度で4時間保つと内部歪が実質的に除去できる温度を意味し、徐冷点とは、この温度で15分保つと内部応力が実質的に除去できる温度を意味するところから、上記時間は推測されている。
次に、加熱をやめて、ランプ完成体を冷却させる。加熱をやめた後も、図18(c)に示すように、水銀は蒸発したままであるので、水銀蒸気による圧力を受け続けながら第2のガラス部7は歪点より温度が低くなり、その結果、図21に示すように金属箔4の長手方向だけではなく径方向等にも、第2のガラス部7に圧縮応力が残留することになる(但し、歪検査器では、長手方向の圧縮応力しか確認できない)。
最後に、室温程度まで冷却が進むと、図18(d)に示すように、第2のガラス部7に圧縮応力が約10kgf/cm2以上存在するランプ100が得られる。図18(b)および(c)に示したように、水銀の蒸気圧は、両方の第2のガラス部7に圧力を加えるため、この手法によれば、両方の封止部2に約10kgf/cm2以上の圧縮応力を確実に加えることができる。
この加熱プロファイルを模式的に図19に示す。まず、加熱を始めると(時間O)、その後、第2のガラス部7の歪点(T2)の温度に達する(時間A)。次に、第2のガラス部7の歪点(T2)と第1のガラス部8の歪点(T1)との間の温度で、ランプを所定時間保持する。この温度領域は、基本的に、第2のガラス部7だけが変形可能な範囲とみなすことができる。この保持の間に、図20の概略図に示すように、水銀蒸気圧(例えば、100気圧以上)によって第2のガラス部7に圧縮応力が入る。
なお、水銀蒸気圧によって第2のガラス部7へ圧力を加えることが、アニール処理を最も効果的に利用する手法と思えるが、図19におけるT2以上T1以下の温度範囲でランプを保持している時であれば、第2のガラス部7へ何らかの力を加えることができれば、水銀蒸気圧だけでなく、その力によって(例えば外部リード5を押すことによって)、第2のガラス部7に圧縮応力を加えることも可能であると推測する。
次に、加熱をやめると、ランプが冷却していき、時間B以降、第2のガラス部7の温度は歪点(T2)を下回る。歪点(T2)を下回ると、第2のガラス部7の圧縮応力は残留することになる。本実施形態では、1030℃で150時間保持した後、冷却(自然冷却)することによって、第2のガラス部7の圧縮応力を印加して残留させる。
上記のようなメカニズムで、水銀蒸気圧によって圧縮応力が発生するので、圧縮応力の大きさは、水銀蒸気圧(言い換えると、封入水銀量)に依存することになる。
一般的に、水銀量が多くなるほどランプは破裂しやすくなるところ、本実施形態の封止構造を用いると、水銀量を多くするほど圧縮応力が大きくなり、耐圧が向上する。つまり、本実施形態の構成によれば、水銀量を多くするほど高い耐圧構造を実現することができるため、現在の技術では実現できなかったような、極めて高耐圧での安定点灯を可能にする。
本実施形態の製造方法によれば、軟化点の低い第2のガラス製の内管174と、軟化点の高い第1のガラス製の外管172とから構成された複合ガラス管170を、側管部2’内に挿入して、封止部2を形成するので、第2のガラス部7と第1のガラス部8との間に不純物(主に、水)が混入することを防止することができ、その結果、封止部2に気泡が生じることを防止することができる。また、第2のガラス部7の組成変形を抑制することができ、より確実に、第2のガラス部7に圧縮歪みを入れることができるようになる。
(実施形態2)
図11を参照しながら、本発明の実施形態2に係る高圧放電ランプについて説明する。図11は、本実施形態の高圧放電ランプ200の構成を模式的に示している。ランプ200の封止部2に電極構造体が封入されている点は、上記実施形態1の高圧放電ランプ100と同様である。
上記実施形態1のランプ100の耐圧強度を更に向上させるには、図11に示したランプ200のように、封止部2内に埋め込まれた部分における電極棒3の少なくとも一部の表面に、金属膜(例えば、Pt膜)30を形成することが好ましい。金属膜30は、Pt、Ir、Rh、Ru、Reからなる群から選択される少なくとも1種の金属から構成されていればよい。金属膜30は、例えば、Pt層からなる単層でもよいし、密着性の観点から、下層がAu層で、上層が例えばPt層のようにしてもよい。
ランプ200では、封止部2に埋め込まれている部分の電極棒3の表面に金属膜30が形成されているため、電極棒3の周囲に位置するガラスに、微小なクラックが発生することを防止することができる。すなわち、ランプ200では、ランプ100で得られる効果に加えて、クラック発生防止という効果も得られ、それにより、さらに耐圧強度を向上させることができる。以下、クラック発生防止効果について説明を続ける。
封止部2内に位置する電極棒3に金属膜30の無いランプの場合、ランプ製造工程における封止部形成の際に、封止部2のガラスと電極棒3とが一度密着した後、冷却時において、両者の熱膨張係数の差違により、両者は離されることになる。この時に、電極棒3の周囲の石英ガラスにクラックが生じる。このクラックの存在により、クラックの無い理想的なランプよりも、耐圧強度が低下することになる。
図11に示したランプ200の場合、表面にPt層を有する金属膜30が電極棒3の表面に形成されているので、封止部2の石英ガラスと、電極棒3の表面(Pt層)との間の濡れ性が悪くなっている。つまり、タングステンと石英ガラスとの組み合わせの場合よりも、白金と石英ガラスとの組み合わせの場合の方が、金属と石英ガラスとの濡れ性が悪くなるため、両者は引っ付かずに、離れやすくなるのである。その結果、電極棒3と石英ガラスとの濡れ性の悪さにより、加熱後の冷却時における両者の離れがよくなり、微細なクラックの発生を防止することが可能となる。このような濡れ性の悪さを利用してクラックの発生を防止するという技術的思想に基づいて作製されたランプ200は、ランプ100よりも更に高い耐圧強度を示す。
なお、図11に示したランプ200の構成に代えて、図12に示すランプ300の構成にしても良い。ランプ300は、図1に示したランプ100の構成において、表面を金属膜30で被覆したコイル40を、封止部2に埋め込まれている部分の電極棒3の表面に巻き付けたものである。言い換えると、ランプ300は、Pt、Ir、Rh、Ru、Reからなる群から選択される少なくとも1種の金属を少なくとも表面に有するコイル40が電極棒3の根本に巻き付けられた構成を有している。なお、図12に示した構成では、コイル40は、発光管1の放電空間10内に位置する電極棒3の部分にまで巻かれている。図12に示したランプ300の構成でも、コイル40表面の金属膜30によって、電極棒3と石英ガラスとの濡れ性を悪くすることができ、その結果、微細なクラックの発生を防止することができる。
コイル40の表面の金属は、例えば、メッキにより形成すればよい。図11に示した構成と同じように、ここでも、金属膜30は、例えば、Pt層からなる単層でもよいし、密着性の観点から、下層がAu層で、上層が例えばPt層のようにしてもよい。なお、密着性の観点からは、コイル40上に、まず下層となるAu層を形成し、次いで、上層となる例えばPt層を形成することが好ましいが、Pt(上層)/Au(下層)メッキの2層構造にせずに、Ptメッキだけを施したコイル40でも、実用上の十分な密着性を確保することができる。
Pt、Ir、Rh、Ru、Reからなる群から選択される少なくとも一種の金属(「Pt等」とも称する。)を、電極棒3の表面またはコイル40の表面に設けた構成の場合において、本発明の実施形態の構成のように、金属箔4の周囲に第2のガラス部7が存在する意義は非常に大きい。これについて、さらに説明を続ける。Pt等の金属は、ランプ製造工程(封止工程)において、加工中の加熱によっていくらか蒸発する可能性があるため、それが金属箔4のところに拡散すると、金属箔とガラスとの密着を弱める結果を招き、耐圧を低下させてしまうことがある。しかし、本実施形態の構成のように、金属箔4の周囲に第2のガラス部7を設け、そこに圧縮歪みを存在させると、もはや、Pt等とガラスとの間の濡れ性の悪さは無関係となり、その結果、Pt等の拡散が招く耐圧低下を防止することができる。なお、コイル40表面に金属膜30がない場合であっても、コイル40を使用しない場合と比べて、電極棒3と第1のガラス部8との熱膨張係数の違いによるクラックの発生を防止する効果はある。
なお、図11および図12に示した構成においては、ハロゲン(より詳細にはハロゲン前駆体)の封入形態として、CH2Br2のようなガスを用いるよりも、HgBr2のような(室温で)固体をなしている形態のものを採用することが好ましいことを付言しておく。その理由は、バイコールガラスが、封止された時にガス状ハロゲンと反応して変質するのと同様に、Pt等の金属がガス状ハロゲンによってエッチングされるおそれがあるからである。
さらに、本発明の実施形態のランプ100、200、300は、反射鏡と組み合わせて、ミラー付きランプないしランプユニットにすることができる。
図13は、本実施形態のランプ100を備えたミラー付きランプ900の断面を模式的に示している。
ミラー付ランプ900は、略球形の発光管1と一対の封止部2とを有するランプ100と、ランプ100から発せられた光を反射する反射鏡60とを備えている。なお、ランプ100は例示であり、勿論、ランプ200または300であってもよい。また、ミラー付ランプ900は、反射鏡60を保持するランプハウスをさらに備えていてもよい。ここで、ランプハウスを備えた構成のものは、ランプユニットに包含されるものである。
反射鏡60は、例えば、平行光束、所定の微小領域に収束する集光光束、または、所定の微小領域から発散したのと同等の発散光束になるようにランプ100からの放射光を反射するように構成されている。反射鏡60としては、例えば、放物面鏡や楕円面鏡を用いることができる。
本実施形態では、ランプ100の一方の封止部2に口金56が取り付けられており、当該封止部2から延びた外部リード(5)と口金56とは電気的に接続されている。封止部2と反射鏡60とは、例えば無機系接着剤(例えばセメントなど)で固着されて一体化されている。反射鏡60の前面開口部側に位置する封止部2の外部リード5には、引き出しリード線65が電気的に接続されており、引き出しリード線65は、リード線5から、反射鏡60のリード線用開口部62を通して反射鏡60の外にまで延ばされている。反射鏡60の前面開口部には、例えば前面ガラスを取り付けることができる。
このようなミラー付ランプないしランプユニットは、例えば、液晶やDMDを用いたプロジェクタ等のような画像投影装置に取り付けることができ、画像投影装置用光源として使用される。また、このようなミラー付ランプないしランプユニットと、画像素子(DMD(Digital Micromirror Device)パネルや液晶パネルなど)を含む光学系とを組み合わせることにより、画像投影装置を構成することができる。例えば、DMDを用いたプロジェクタ(デジタルライトプロセッシング(DLP)プロジェクタ)や、液晶プロジェクタ(LCOS(Liquid Crystal on Silicon)構造を採用した反射型のプロジェクタも含む。)を提供することができる。さらに、本実施形態のランプ、およびミラー付ランプないしランプユニットは、画像投影装置用光源の他に、紫外線ステッパ用光源、または競技スタジアム用光源や自動車のヘッドライト用光源、道路標識を照らす投光器用光源などとしても使用することができる。
(他の実施形態)
上記実施形態では、発光物質として水銀を使用する水銀ランプを高圧放電ランプの一例として説明したが、本発明は、封止部(シール部)によって発光管の気密を保持する構成を有するいずれの高圧放電ランプにも適用可能である。例えば、金属ハロゲン化物を封入したメタルハライドランプやキセノンなどの高圧放電ランプにも適用することができる。メタルハライドランプ等においても、耐圧が向上すればするほど好ましいからである。つまり、リーク防止やクラック防止を図ることにより、高信頼性で長寿命のランプを実現することができるからである。 また、水銀だけでなく金属ハロゲン化物も封入されているメタルハライドランプに、上記実施形態の構成を適用する場合には、次のような効果も得られる。すなわち、第2のガラス部7を設けることにより、封止部2内における金属箔4の密着性を向上させることができ、金属箔4と金属ハロゲン化物(または、ハロゲンおよびアルカリ金属)との反応を抑制することが可能となり、その結果、封止部の構造の信頼性を向上させることができる。特に、図1、図6、図11または図12に示した構成のように、金属棒3の部分に第2のガラス部7が位置している場合には、金属棒3と封止部2のガラスの間にある僅かな隙間から侵入して金属箔4に反応して箔の脆化をもたらす金属ハロゲン化物のその侵入を第2のガラス部7により効果的に軽減させることが可能となる。このように、上記実施形態の構成は、メタルハライドランプに好適に適用可能である。
近年、水銀を封入しない無水銀メタルハライドランプの開発も進んでいるが、そのような無水銀メタルハライドランプに、上記実施形態の技術を適用することも可能である。以下、さらに詳述する。
上記実施形態の技術が適用された無水銀メタルハライドランプとしては、図1、図6、図8または図9に示した構成において、発光管1内に、水銀が実質的に封入されてなく、かつ、少なくとも、第1のハロゲン化物と、第2のハロゲン化物と、希ガスとが封入されているものが挙げられる。このとき、第1のハロゲン化物の金属は、発光物質であり、第2のハロゲン化物は、第1のハロゲン化物と比較して、蒸気圧が大きく、かつ、前記第1のハロゲン化物の金属と比較して、可視域において発光しにくい金属の1種または複数種のハロゲン化物である。例えば、第1のハロゲン化物は、ナトリウム、スカンジウム、および希土類金属からなる群から選択された1種または複数種のハロゲン化物である。そして、第2のハロゲン化物は、相対的に蒸気圧が大きく、かつ、第1のハロゲン化物の金属と比較して、可視域に発光しにくい金属の1種または複数種のハロゲン化物である。具体的な第2のハロゲン化物としては、Mg、Fe、Co、Cr、Zn、Ni、Mn、Al、Sb、Be、Re、Ga、Ti、ZrおよびHfからなる群から選択された少なくとも一種の金属のハロゲン化物である。そして、少なくともZnのハロゲン化物を含むような第2のハロゲン化物がより好適である。
また、他の組み合わせ例を挙げると、透光性の発光管(気密容器)1と、発光管1内に設けられた一対の電極3と、発光管1に連結された一対の封止部2とを備えた無水銀メタルハライドランプにおける発光管1内に、発光物質であるScI3(ヨウ化スカンジウム)およびNaI(ヨウ化ナトリウム)と、水銀代替物質であるInI3(ヨウ化インジウム)およびTlI(ヨウ化タリウム)と、始動補助ガスとしての希ガス(例えば1.4MPaのXeガス)が封入されているものである。この場合、第1のハロゲン化物は、ScI3(ヨウ化スカンジウム)、NaI(ヨウ化ナトリウム)となり、第2のハロゲン化物は、InI3(ヨウ化インジウム)、TlI(ヨウ化タリウム)となる。なお、第2のハロゲン化物は、比較的蒸気圧が高く、水銀の役割の代わりを担うものであればよいので、InI3(ヨウ化インジウム)等に代えて、例えば、Znのヨウ化物を用いても良い。
このような無水銀メタルハライドランプにおいて、上記実施形態1の技術が好適に適用可能な理由を次に説明する。
まず、Hgの代替物質(Znのハロゲン化物など)を用いた無水銀メタルハライドランプの場合、有水銀のランプと比べて、効率が低下する。効率を上げるためには、点灯動作圧を上げることが非常に有利に働く。上記実施形態のランプの場合、耐圧を向上させた構造であるので、希ガスを高圧封入できるので、簡便に効率を向上させることができるので、実用化可能な無水銀メタルハライドランプを容易に実現することができる。この場合、希ガスとしては、熱伝導率の低いXeが好ましい。
そして、無水銀メタルハライドランプの場合、水銀を封入しない関係上、有水銀のメタルハライドランプよりも、ハロゲンを多く封入する必要がある。したがって、電極棒3付近の隙間を通って金属箔4まで達するハロゲンの量も多くなり、ハロゲンが金属箔4(場合によっては、電極棒3の根本部分)と反応する結果、封止部構造が弱くなり、リークが生じやすくなる。図11および図12に示した構成では、電極棒3の表面を金属膜30(またはコイル40)で被覆しているので、電極棒3とハロゲンとの反応を効果的に防止することができる。また、図1等のように、電極棒3の周辺に第2のガラス部7が位置している構成の場合、その第2のガラス部7によって、ハロゲン化物(例えば、Scのハロゲン化物)の侵入を防ぐことができ、それによって、リークの発生を防止することが可能となる。それゆえ、上記実施形態の構造を備えた無水銀メタルハライドランプの場合、従来の無水銀メタルハライドランプよりも、高効率化および長寿命化を図ることができる。このことは、一般照明用のランプに広く言えることである。車の前照灯用のランプについていえば、さらに次のような利点がある。
車の前照灯に使用する場合、スイッチをONした次の瞬間に、100%に近い光を得たいという要求がある。この要求に応えるには、希ガス(具体的には、Xe)を高圧で封入することが効果的である。しかしながら、通常のメタルハライドランプでXeを高圧で封入すれば、破裂の可能性が高まる。これは、より高度の安全性が求められる前照灯用のランプとしては好ましくない。つまり、夜間における前照灯の故障は、車の事故につながるからである。上記実施形態の構造を備えた無水銀メタルハライドランプの場合には、耐圧が向上させた構造となっているので、そのような高圧のXeの封入でも、安全性を確保しながら、点灯の始動性を向上させることができる。また、長寿命化も図られているので、前照灯用としてより好適に適用可能となっている。
さらに、上記実施形態では、水銀蒸気圧が20MPa程度または30MPa程度以上の場合(いわゆる超高圧水銀ランプの場合)について説明したが、上述したように、水銀蒸気圧が1MPa程度の高圧水銀ランプに適用することを排除するものではない。つまり、超高圧水銀ランプおよび高圧水銀ランプを含む高圧放電ランプ全般に適用できるものである。なお、今日の超高圧水銀ランプと呼ばれるものの水銀蒸気圧は、15MPaまたはそれ以上(封入水銀量150mg/ccまたはそれ以上)である。
動作圧力が極めて高くても安定して動作できるということは、ランプの信頼性が高いことを意味するので、本実施形態の構成を、動作圧力のそれほど高くないランプ(ランプの動作圧力が30MPa程度未満、例えば、20MPa程度〜1MPa程度)に適用した場合、当該動作圧力で動作するランプの信頼性を向上させることができる。
高い耐圧強度を実現できるランプの技術的意義をさらに説明すると、次の通りである。近年、より高出力・高電力の高圧水銀ランプを得るために、アーク長(電極間距離)が短いショートアーク型の水銀ランプ(例えば、電極間距離が2mm以下)の開発が進んでいるところ、ショートアーク型の場合、電流の増大に伴って電極の蒸発が早くなることを抑制するために、通常よりも多くの水銀量を封入する必要がある。上述したように、従来の構成においては、耐圧強度に上限があったため、封入水銀量にも上限(例えば、200mg/cc程度以下)があり、さらなる優れた特性を示すようなランプの実現化に制限が加えられていた。本実施形態のランプは、そのような従来における制限を取り除け得るものであり、従来では実現できなかった優れた特性を示すランプの開発を促進させることができるものである。本実施形態のランプにおいては、封入水銀量が200mg/cc程度を超える、300mg/cc程度またはそれ以上のランプを実現することが可能となる。
なお、上述したように、封入水銀量が300〜400mg/cc程度またはそれ以上(点灯動作圧30〜40MPa)を実現できる技術というのは、特に点灯動作圧20MPaを超えるレベルのランプ(すなわち、今日の15MPa〜20MPaのランプを超える点灯動作圧を有するランプ。例えば、23MPa以上または25MPa以上のランプ)について、その安全性および信頼性を確保できる意義も有している。つまり、ランプを大量生産する場合には、ランプの特性にどうしてもばらつきが生じ得るため、点灯動作圧が23MPa程度のランプであっても、マージンを考えた上で耐圧を確保する必要があるので、30MPa以上の耐圧を達成できる技術は、30MPa未満のランプについても、実際に製品を供給できるという観点からの利点は大きい。もちろん、30MPa以上の耐圧を達成できる技術を用いて、23MPaあるいはそれ以下の耐圧でもよいランプを作製すれば、安全性および信頼性の向上を図ることができる。
したがって、本実施形態の構成は、信頼性等の面からも、ランプ特性を向上させることができるものである。また、上記実施形態のランプでは、封止部2をシュリンク手法によって作製したが、ピンチング手法で作製してもよい。また、ダブルエンド型の高圧放電ランプについて説明したが、シングルエンド型の放電ランプに上記実施形態の技術を適用することも可能である。なお、上記実施形態では、例えばバイコール製のガラス管(70)から、第2のガラス部7を形成したが、必ずしもガラス管から形成しなくてもよい。金属箔4の全周囲を覆うような構成に限らず、金属箔4に接触して、封止部2の一部に圧縮応力が存在させ得るガラス構造体であれば、ガラス管に限定されない。例えば、ガラス管70の一部にスリットが入って「C字」状となったガラス構造体も用いられるし、金属箔4の片側または両側に接触するように例えばバイコール製のカラット(ガラス片またはガラス板)を配置させてもよいし、金属箔4の周囲を覆うように、例えばバイコール製のガラスファイバーを配置させてもよい。ただし、ガラス構造体ではなく、ガラス粉体、例えば、ガラス粉末を圧縮形成して焼結してなる焼結ガラス体を用いても、封止部2の一部に圧縮応力を存在させることができないので、ガラス粉体は使用しない方がよい。
加えて、一対の電極3間の間隔(アーク長)は、ショートアーク型であってもよいし、それより長い間隔であってもよい。上記実施形態のランプは、交流点灯型および直流点灯型のいずれの点灯方式でも使用可能である。また、上記実施形態で示した構成および改変例は相互に採用することが可能である。なお、金属箔4を含む封止部構造について説明したが、箔無し封止部構造について上記実施形態の構成を適用することも可能である。箔無しの封止部構造の場合においても、耐圧を高めること、および、信頼性を高めることは重要なことだからである。より具体的に述べると、電極構造体50として、モリブデン箔4を用いずに、一本の電極棒(タングステン棒)3を電極構造体とする。その電極棒3の少なくとも一部に第2のガラス部7を配置し、その第2のガラス部7および電極棒3を覆うように第1のガラス部8を形成して、封止部構造を構築することも可能である。この構成の場合、外部リード5も電極棒3によって構成することが可能となる。
上述した実施形態では、放電ランプについて説明したが、上記実施形態1の技術は、放電ランプに限らず、封止部(シール部)によって発光管の気密を保持する構成のランプであれば、放電ランプ以外のランプ(例えば、電球)にも適用可能である。
そのような電球の例を挙げると、例えば図1に示した構成において、発光管1内の電極棒3をインナーリード(内部導入線)として、その先端間にフィラメントを設けたダブルエンド型の電球(例えば、ハロゲン電球)である。なお、発光管1内にアンカーを設けても良い。また、シングルエンド型の電球に適用してもよい。このようなハロゲン電球でも破裂の問題は重要な課題であり、上述の本発明の実施形態の技術により、破裂を防止できるようになることの技術的意義は大きい。
以上、本発明の好ましい例について説明したが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の変形が可能である。