まず、本発明の実施の形態を説明する前に、点灯動作圧が約30〜40MPaまたはそれ以上(約300〜400気圧またはそれ以上)である極めて高耐圧を示す高圧水銀ランプについて説明する。なお、これらの高圧水銀ランプの詳細は、特願2001−371365号に開示されている。また、特願2001−371365号で開示した高圧放電ランプの封止部に歪みが生じる機構について、特願2002−351524号明細書に開示した。ここでは、これらの特許出願を本願明細書に参考のため援用することとする。
動作圧が約30MPa以上であるにもかかわらず、実用的に耐えることができる高圧水銀ランプの開発は困難を極めたが、例えば、図1に示すような構成にすることによって、極めて高耐圧のランプを完成することに成功した。なお、図1(b)は、図1(a)中のb−b線に沿った断面図である。
図1に示した高圧放電ランプ(例えば、高圧水銀ランプまたは超高圧水銀ランプ)100は、特願2001−371365号に開示したものであり、発光管1と、発光管1の気密性を保持する封止部2を一対備えており、封止部2の少なくとも一方は、発光管1から延在した第1のガラス部8と、第1のガラス部8の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部7とを有しており、かつ、当該一方の封止部8は、圧縮応力が印加されている部位(20)を有している。
封止部2の一部に印加されている圧縮応力は、実質的にゼロ(すなわち、0kgf/cm2)を超えたものであればよい。この圧縮応力の存在により、従来の構造よりも耐圧強度を向上させることができる。この圧縮応力は、約10kgf/cm2以上(約9.8×105N/m2以上)であることが好ましく、そして、約50kgf/cm2以下(約4.9×106N/m2以下)であることが好ましい。10kgf/cm2未満であると、圧縮歪みが弱く、ランプの耐圧強度を十分に上げられない場合が生じ得るからである。そして、50kgf/cm2を超えるような構成にするには、それを実現させるのに、実用的なガラス材料が存在しないからである。ただし、10kgf/cm2未満であっても、実質的に0の値を超えれば、従来の構造よりも耐圧を上げることができ、また、50kgf/cm2を超えるような構成を実現できる実用的な材料が開発されたならば、50kgf/cm2を超える圧縮応力を第2のガラス部7が有していてもよい。
封止部2における第1のガラス部8は、SiO2を99重量%以上含むものであり、例えば、石英ガラスから構成されている。一方、第2のガラス部7は、15重量%以下のAl2O3および4重量%以下のBのうちの少なくとも一方と、SiO2とを含むものであり、例えば、バイコールガラスから構成されている。SiO2にAl2O3やBを添加すると、ガラスの軟化点は下がるため、第2のガラス部7の軟化点は、第1のガラス部8の軟化点温度よりも低い。このように第2のガラス部7の軟化点を下げるために、第2のガラス部7に含有されるAl2O3とBの合計量は1重量%よりも多いことが好ましい。なお、バイコールガラス(Vycor glass;商品名)とは、石英ガラスに添加物を混入させて軟化点を下げて、石英ガラスよりも加工性を向上させたガラスであり、例えば、ホウケイ酸ガラスを熱・化学処理して、石英の特性に近づけることによって作製することができる。バイコールガラスの組成は、例えば、シリカ(SiO2)96.5重量%、アルミナ(Al2O3)0.5重量%、ホウ素(B)3重量%である。本実施形態では、バイコールガラス製のガラス管から、第2のガラス部7は形成されている。なお、バイコール製のガラス管の代わりに、SiO2:62重量%、Al2O3:13.8重量%、CuO:23.7重量%を成分とするガラス管を用いても良い。
放電空間内に一端が位置する電極棒3は、封止部2内に設けられた金属箔4に溶接により接続されており、金属箔4の少なくとも一部は、第2のガラス部7内に位置している。図1に示した構成では、電極棒3と金属箔4との接続部を含む箇所を、第2のガラス部7が覆うような構成にしている。図1(b)に示すように、封止部2の横断面(封止部2の長手方向に直交する断面)において、金属箔4の周囲全てが第2のガラス部7により覆われている。このように少なくとも金属箔4の一部は、その幅方向の周囲全てを第2のガラス部7により覆われており、この部分では金属箔4のエッジ部が第2のガラス部7に囲まれている。図1に示した構成における第2のガラス部7の寸法を例示すると、封止部2の長手方向の長さで、約2〜20mm(例えば、3mm、5mm、7mm)であり、第1のガラス部8と金属箔4との間に挟まっている第2のガラス部7の厚さは、約0.01〜2mm(例えば、0.1mm)である。第2のガラス部7の発光管1側の端面から、発光管1の放電空間10までの距離Hは、約0mm〜約6mm(例えば、0mm〜約3mm、または、1mm〜6mm)である。第2のガラス部7を放電空間10内に露出させたくない場合には、距離Hは0mmよりも大きくなり、例えば、1mm以上となる。そして、金属箔4の発光管1側の端面から、発光管1の放電空間10までの距離B(言い換えると、電極棒3だけで封止部2内に埋まっている長さ)は、例えば、約3mmである。
次に、封止部2における圧縮歪みについて説明する。図2(a)および(b)は、封止部2の長手方向(電極軸方向)に沿った圧縮歪みの分布を模式的に示しており、図2(a)は、第2のガラス部7が設けられたランプ100の構成の場合、一方、図2(b)は、第2のガラス部7の無いランプ100’の構成(比較例)の場合を示している。
図2(a)に示した封止部2のうち、第2のガラス部7に相当する領域(網掛け領域)に圧縮応力(圧縮歪み)が存在し、第1のガラス部8の箇所(斜線領域)における圧縮応力の大きさは、実質的にゼロである。一方、図2(b)に示すように、第2のガラス部7の無い封止部2の場合、局所的に圧縮歪みが存在している箇所はなく、第1のガラス部8の圧縮応力の大きさは、実質的にゼロである。
本願発明者は、実際にランプ100の歪みを定量的に測定し、封止部2のうち第2のガラス部7に圧縮応力が存在することを観測した。この歪みの定量化は、光弾性効果を利用した鋭敏色板法を用いて行った。歪みの定量化のために使用した測定器は、歪検査器(東芝製:SVP−200)であり、この歪検査器を用いると、封止部2の圧縮歪みの大きさを、封止部2に印加されている応力の平均値として求めることができる。
図18を参照しながら、光弾性効果を利用した鋭敏色板法による歪み測定の原理を簡単に説明する。図18(a)および(b)は、偏光板を透過させてなる直線偏光をガラスに入射させた状態を模式的に示している。ここで、直線偏光の振動方向をuとすると、uは、u1とu2とが合成してできたものとみなすことができる。
図18(a)に示すように、ガラスに歪みがないときは、その中をu1とu2とは同じ速さで通過するので、透過光のu1とu2との間にずれは生じない。一方、図18(b)に示すように、ガラスに歪みがあり、応力Fが働いているときは、その中をu1とu2とは同じ速さで通過しないので、透過光のu1とu2との間にずれが生じる。つまり、u1とu2のうち一方が他方より遅れることになる。この遅れた距離を光路差という。光路差Rは、応力Fと、ガラスの通過距離Lとに比例するため、比例定数をCとすると、
R = C・F・L
で表すことができる。ここで、各記号の単位は、それぞれ、R(nm)、F(kgf/cm2)、L(cm)、C({nm/cm}/{kgf/cm2})である。Cは、ガラス等の材質によるもので、光弾性常数と呼ばれる。上記式からわかるように、Cが知られていれば、LおよびRを測定すると、Fを求めることができる。
本願発明者は、封止部2における光の透過距離L、すなわち、封止部2の外径Lを測定し、そして、歪み標準器を用いて、測定時の封止部2の色から光路差Rを読みとった。また、光弾性常数Cは、石英ガラスの光弾性常数3.5を使用した。これらを上記式に代入し、算出された応力値の結果から金属箔4の長手方向の圧縮歪みを定量化した。
なお、本測定では、封止部2の長手方向(電極軸3が延びる方向)についての応力を観察したが、このことは、他の方向において圧縮応力が存在していないことを意味するものではない。封止部2の径方向(中心軸から外周へ向かう方向、またはその逆方向)、または、封止部2の周方向(例えば、時計周り方向)について圧縮応力が存在しているかどうかを測定するには、発光管1や封止部2を切断する必要があるのであるが、そのような切断を行ったとたん、第2のガラス部7の圧縮応力が緩和されてしまう。したがって、ランプ100に対して切断を行わない状態で測定できるのは、封止部2の長手方向についての圧縮応力であるため、本願発明者は、少なくとも、その方向での圧縮応力を定量化したのである。
本実施形態のランプ100では、第1のガラス部8の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部7に圧縮歪み(少なくとも長手方向への圧縮歪み)が存在しているので、高圧放電ランプの耐圧強度を向上させることができる。言い換えると、図1および図2(a)に示した本実施形態のランプ100の方が、図2(b)に示した比較例のランプ100’よりも、耐圧強度を高くすることができる。図1に示した本実施形態のランプ100は、従来の最高レベルの動作圧である20MPa程度を超える、30MPa以上の動作圧で動作させることが可能である。
次に、図19を参照しながら、第2のガラス部7に圧縮歪みが入っていることにより、ランプ100の耐圧強度が上がる理由を説明する。図19(a)は、ランプ100の封止部2の要部拡大図であり、一方、図19(b)は、比較例のランプ100’の封止部2の要部拡大図である。
ランプ100の耐圧強度が上がる機構については、実際のところ明確にわからない部分もあるが、本願発明者は、それについて次のように推論した。
まず前提として、封止部2内の金属箔4は、ランプ動作中に加熱・膨張するため、封止部2のガラス部には、金属箔4からの応力が加わる。より具体的に説明すると、ガラスよりも金属の方が熱膨張率が大きいことに加えて、電極棒3に熱的に接続されており、かつ、電流が通過する金属箔4の方が、封止部2のガラス部よりも加熱されやすいため、金属箔4から(特に、面積の小さい箔側面から)ガラス部へと応力が加わり易い。
ここで、図19(a)に示すように、第2のガラス部7の長手方向に圧縮応力が加わっていると、金属箔4からの応力16の発生を抑制することができると考えられる。言い換えると、第2のガラス部7の圧縮応力15によって、大きな応力16が生じるのを抑制することができると考えられる。その結果、例えば、封止部2のガラス部にクラックが生じたり、封止部2のガラス部と金属箔4との間でのリークの発生が低減して、封止部2の強度が向上することになる。
一方、図19(b)に示すように、第2のガラス部7の無い構造の場合には、金属箔4からの応力17は、図19(a)に示した構成の場合よりも、大きくなると考えらる。すなわち、金属箔4の周囲に、圧縮応力の加わっている領域が存在しないので、金属箔4からの応力17は、図19(a)に示した応力16よりも大きくなると思われる。それゆえ、図19(a)に示した構成の方が、図19(b)に示した構成よりも、耐圧強度を向上させることができると推論される。この考えは、ガラスに引っ張り歪み(引っ張り応力)が入っていると割れやすく、圧縮歪み(圧縮応力)が入っていると割れにくくなるというガラスの一般的な性質と相容れるものと思われる。
ただし、ガラスに圧縮応力が入っていると割れにくくなるというガラスの一般的な性質から、ランプ100の封止部2が高い耐圧強度を持つということまで推論することはできない。なぜならば、仮に、圧縮歪みが入っている領域のガラスの強度が増したとしても、封止部2全体として見たら、歪みがない場合と比較して、負荷が生じていることになるため、封止部2全体としての強度はかえって低下するという考えも成り立ち得るからである。ランプ100の耐圧強度が向上したという結果は、本願発明者がランプ100を試作し実験して初めてわかったことであり、まさに理論だけからは導き出せなかったものである。必要以上の大きな圧縮応力が第2のガラス部7(またはその外周周辺領域)に存在したままになれば、実際には、ランプ点灯時に封止部2の破損をもたらし、かえって、ランプの寿命を短くしてしまうことになるかもしれない。そのようなことを考えると、第2のガラス部7を有するランプ100の構造は、絶妙なバランスの下で、その高い耐圧強度を示しているものと考えられる。発光管1の部分を切断すると、第2のガラス部7の応力歪みが緩和されることから推測すると、第2のガラス部7の応力歪みによる負荷は、発光管1全体で上手く受け止めているのかもしれない。
なお、その高い耐圧強度を示す構造は、第1のガラス部8と第2のガラス部7との圧縮応力の差によって生じた圧縮応力が印加されている部位20によってもたらされているとも考えられる。つまり、第1のガラス部8には、実質的に圧縮応力が加わってなく、圧縮応力が印加されている部位20よりも中心側に位置する第2のガラス部7(または、その外周周辺)だけの領域に上手く圧縮歪みが閉じ込めることができたことにより、優れた耐圧特性を発揮させることに成功しているという推論も成立し得る。鋭敏色板法による歪み測定の原理に起因して、応力値が離散的に示されてしまう結果、図19等においては、圧縮応力が印加されている部位20が明確に示されているのであるが、仮に、現実の応力値を連続的に示せるとしても、圧縮応力が印加されている部位20においては応力値が急峻に変化していると考えられ、その急峻に変化する領域にて、逆に圧縮応力が印加されている部位20を規定することができると思われる。
ランプ100を作製する場合、まず、放電ランプ用ガラスパイプの一方の側管部から第1の封止部を形成した後、図3(a)に示すように、ガラスパイプ80の側管部2’にガラス管70および電極構造体50を挿入する。なお、電極構造体50は、電極棒3と、電極棒3に接続された金属箔4と、金属箔4に接続された外部リード5とから構成されており、外部リード5の一端には、側管部2’の内面に電極構造体50を固定するための支持部材(金属製の留め金)11が設けられている。その後、第2の封止部を形成する前(第2の封止工程の前)に、ガラスパイプ80内の気体は、真空ポンプ(不図示)によって、矢印60で示すように真空排気される。なお、本実施形態では、発光物質(例えば、水銀)6を導入した後に真空排気を行ったが、真空排気した後に発光物質(例えば、水銀)6を導入することも可能である。
図3に示した構成では、側管部2’内にガラス管70が位置しているので、ガラス管70が存在しない構成と比較して、排気管(つまり、側管部の内部)が細くなるため、排気抵抗が大きくなる(言い換えると、コンダクタンスが低下する)。その結果、真空排気の工程において、十分に排気ができないという問題が生じる。
また、ガラス管70がバイコールガラスから構成されている場合には、バイコールガラスは多孔質のため、このガラス管70は、多くの不純物(主に、水)を吸着する。ここで、真空ポンプのみによる排気では、その吸着不純物を取り除くことが困難であるか、あるいは、取り除けたとしても、バイコールガラス製のガラス管70を用いないときと比べて、非常に時間がかかってしまい、工業的な生産には非常に不利に働く。もし、吸着物がガラス管70に存在していると、その吸着物は、封止部形成の後に、気泡となって封止部のガラス中に存在し、その結果、ガラス強度の低下(すなわち、耐圧の低下)を引き起こしてしまう。
本願発明者は、このような問題を解決するために、鋭意研究したところ、真空ポンプに加えて、ゲッターを用いることによって、上記問題を解決できることを見出し、本発明に至った。
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態を説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
(実施形態1)
本発明の実施形態に係る高圧放電ランプの製造方法は、ガラスパイプの側管部内にゲッターを配置し、そして、そのゲッターを利用しながら、ガラスパイプ内を減圧状態にする点に特徴がある。図4は、図3(a)に示したガラスパイプ80を鉛直方向に配置した構成を示しており、ここでは、側管部2’の上部にゲッター75が配置されている。なお、図4に示した構造体を、高圧放電ランプ用ランプ部材と呼んでもよい。
本実施形態の製造方法では、放電ランプ用ガラスパイプ80を用意した後、側管部2’を構成する第1のガラスよりも軟化点の低い第2のガラスから構成されたガラス部材(例えば、ガラス管)70を側管部2’内に挿入し、そして、側管部2’にゲッター75を配置する。その後、ガラスパイプ80内を減圧状態にするとともに、側管部2’を加熱してガラス部材(例えば、ガラス管)70と側管部2’とを密着させ、それによって封止部を形成する。
ゲッター75は、例えば、側管部2’内のうちの金属箔4よりも上方(後方)に配置される。好ましくは、支持部材(モリブデンテープ)11よりも上方(後方)に配置される。支持部材11よりも上方(後方)に配置すれば、封止工程の後、不要部分を削除する際に、同時にゲッター75を除去することができるからである。ゲッター(getter)とは、表面に気体を吸着させる物質であり、本実施形態では、ゲッター75として、ZrVFeを用いている。また、本実施形態のゲッター75は、PDP用ゲッターであり、例えば円筒形状をしている。ゲッター75の直径は、側管部2’の内径よりも小さいことが好ましい。ゲッター75は加熱すると活性化するので、図4に示した構成において、側管部2’の外から、加熱手段(例えば、バーナーまたはレーザー)でゲッター75を加熱することにより、ガラスパイプ80内の残留ガスをゲッターに吸収させ、その結果、ガラスパイプ80内の真空度を高めることができる。なお、ゲッター75は、鉛直方向に位置づけたパイプ80内の支持部材11上に接するように配置しても良いし、あるいは、ゲッター75を加熱して活性化させる際に、ゲッター75が位置する箇所の側管部2’を加熱・収縮して、ゲッター75を側管部2’内に仮封止(仮どめ)して固定することもできる。
減圧排気工程(真空排気工程)の後、ガラスパイプ80内を減圧状態にするとともに、側管部2’を加熱・収縮すると、図5に示すように、他方の封止部(第2の封止部)が形成される。ここで、例えば図5中の線5aに沿って、不要部分の側管部を除去し、そして、所定長さの外部リード5にするために、不要部分の外部リード5を除去すれば、完成体の高圧放電ランプが得られる。ここで、完成体(または、ランプ完成体)とは、両方の封止部2および発光管1を備えた高圧放電ランプのことをいう。
そして、このランプ完成体における第2のガラス部7に、約10kgf/cm2以上の圧縮応力を与えるには、例えば1030℃で2時間以上、加熱する。加熱条件等は後述するが、ここでの1030℃は、第2のガラス(例えば、バイコールガラス)の歪点温度よりも高い温度であり、そして、第1のガラス(例えば、石英ガラス)の歪点温度よりも低い温度である。
上記製造工程において、一方の封止部(第1の封止部)2を形成した後で、他方の封止部(第2の封止部)2を形成する前に、分解してハロゲンを生成するハロゲン前駆体を導入する。このときに導入するハロゲン前駆体としては、気体のハロゲン前駆体(例えば、CH2Br2、HBr)よりも、固体で安定なハロゲン前駆体である臭化水銀(HgBr2)を用いることが好ましい。その理由を述べると、例えばCH2Br2は比較的重いガスであるため、拡散しにくく、ゲッター75に吸収されにくいものの、固体であるHgBr2の方は、気体であるCH2Br2よりも大幅に吸収されにくく、それゆえ、CH2Br2よりもHgBr2の方が、ゲッター75を用いる製造工程との相性が良いからである。また、固体のHgBr2には不純物が吸着していることがあるため、その不純物を除去する上でも、ゲッター75とHgBr2との組み合わせは好ましい。なお、気体のハロゲン前駆体(例えば、CH2Br2、HBr)の吸収量を予め計算しておいて、余分に導入しておく手法を採用してもよい。
ここで、ハロゲン前駆体を導入する技術的意義を説明すると、それは、ランプ点灯中においてハロゲンサイクルを利用するためであり、そのハロゲンサイクルによって、高圧放電ランプの長寿命化を図るためである。長寿命のランプを実現するには、分解してハロゲンを生じるハロゲン前駆体を導入する工程は重要な工程であり、ハロゲンサイクルを良好に維持するために必要なハロゲンの量については、国際出願番号PCT/JP00/04561号明細書(国際出願日;2000年7月6日、出願人;松下電器産業株式会社)に詳述されている。ここで、国際出願番号PCT/JP00/04561号明細書を、本願明細書に参考のため援用する。なお、臭素自身(Br2)をハロゲン種として用いることも可能であるが、臭素は反応性が強い物質であり、取り扱いのことを考慮すると、分解してハロゲンを生じるハロゲン前駆体(例えば、HgBr2、CH2Br2、HBr)にて、ハロゲンの導入を行うことが好ましい。なお、ランプの長寿命の特性を求めないのであれば、ハロゲン前駆体またはハロゲンを導入する工程を省略することも可能である。
本実施形態の製造方法では、ゲッター75は、封止工程が完了するまで、パイプ80内の不純ガス(残留ガス)を吸収し続けるので、ゲッター75を排気の補助手段として使用することができ、その結果、側管部2’内にガラス管70が挿入されている場合であっても、良好に排気することができる。また、ガラス管(例えば、バイコールガラス製ガラス管)70に吸着されている不純物(例えば、水)を取り除くことができ、その結果、封止部2のガラス中に気泡が発生することを防止することができ、そして、気泡によるガラス強度の低下(すなわち、耐圧の低下)を防止することが可能となる。
本願発明者が実験したところ、ゲッター75を用いない場合の真空度は0.002kPaであったのに対し、ゲッター75を用いた場合の真空度は0.0001kPaとなり、実に、20倍以上も真空度を向上できることがわかった。そして、ゲッター75を用いる本実施形態の製造方法によって作製された高圧放電ランプは、黒化が生じにくいこともわかった。初期黒化歩留まりを調べると、ランプ完成後に実行される2時間点灯テストにおいて、黒化するランプの割合は半減した。本実施形態の製造方法で作製された高圧放電ランプの発光管1内のH2、H2Oの残留ガス量を調べてみると、次の通りであった。ゲッター75無しの製造方法で得られたランプのH2、H2Oの残留ガス量がそれぞれ0.2kPa、0.015kPaであったのに対し、ゲッター75有りの本実施形態の製造方法で得られたランプのH2、H2Oの残留ガス量は、それぞれ、0.009kPaおよび0.001kPa以下(または、0.001kPa未満)であった。すなわち、本実施形態の製造方法を使用すれば、高圧放電ランプの発光管1内におけるH2、H2Oのガス量を、大幅に低下させることができ、例えば、それぞれのガス量を、0.009kPa以下、および、0.001kPa以下にすることができる。H2、H2Oは、ランプの寿命を悪くするので少なければ少ないほどよい。このように残留ガスを低下できたのは、製造工程中においてゲッター75が残留ガスを吸着したという効果によるものと思われる。
本実施形態の製造方法において、ゲッター75を併用してガラスパイプ80内を真空ポンプで引く場合、例えば、図6に示した構成のようにすればよい。ガラスパイプ80の側管部2’の開放端は、締め具(例えば、Oリング)220を用いて、真空ポンプ210に連結される。真空ポンプ210には、複数のガラスパイプ80を連結することができる。ここでの真空ポンプ210は、10-8Torr程度の真空度を持つターボポンプ(より詳細には、ターボ分子ポンプ)である。この状態で、例えば、5分以上、好ましくは、10分以上、真空引きを行う。製造工程のスケジュール的な観点からは、一晩(約10時間またはそれ以上)引くように、一昼夜(約20時間またはそれ以上)引くようにしてもよい。
図6に示した構成をさらに詳細に示したものを図7に表す。図7に示した真空ライン又は真空系において、符号80および符号220は、それぞれ、ガラスパイプおよびOリングを表している。また、符号230、231、232は、それぞれ、カプセル真空計、ピラニー真空計、電離真空計を表している。符号240は、Arボンベ、符号241、242、243、244、245は、それぞれ、排気バルブ、レギュレーター、ニードルバルブ、ガス導入バルブ、カットバルブを表しており、そして、符号246、247、248は、それぞれ、ポンプリークバルブ、三方バルブ、メインバルブを表している。符号251、252は、それぞれ、フォアライントラップ、液体窒素トラップ(LN2トラップ)であり、そして、符号260、261は、それぞれ、ターボ分子ポンプ、ロータリーポンプである。
なお、本実施形態では、真空ポンプとして、ターボ分子ポンプを用いたが、ターボ分子ポンプを用いずに、ガラスパイプの真空引きにおいて一般的に使用される油拡散ポンプ(言い換えると、ロータリーポンプ;真空度10-3Torr程度)と、ゲッター75とを併用しても、油拡散ポンプだけのときよりも効果があり、真空引き工程を容易にし、そして、発光管1内の不純物ガス(H2やH2O)を軽減することができる。もちろん、真空ポンプとして油拡散ポンプだけを用いれば、設備コストを減らすことができる。
次に、本実施形態の製造方法によって得られる高圧放電ランプ(特に、高圧水銀ランプ)の構成について説明する。本実施形態の高圧放電ランプの構成は、基本的に図1に示した構成と同様であるので、図1を参照しながら説明することとする。また、説明の容易さのため、本実施形態の実施形態によって製造される高圧放電ランプの符号も「100」とし、図1に示した構成と重複する点は省略または簡略化するものとする。
本実施形態のランプ100は、封止部2を2つ備えたダブルエンド型のランプである。図1に示すように、発光管1はチップレスとなっている。したがって、発光物質およびハロゲン前駆体は、発光管1に開口部を設けて導入するのではなく、側管部から導入する必要がある。また、第2のガラス部7は、電極棒3と金属箔4との溶接部を少なくとも覆うように配置すると、例えば35MPaのような超高耐圧の条件下でも破損確率を低下することができるので好ましい。電極棒3と金属箔4との溶接部を覆う構成例としては、封止部2内に埋め込まれている部分の金属箔4の全部と、電極棒3の一部を覆うように配置する構成もある。
本実施形態では、発光管1内には、分解してハロゲンを生じるハロゲン前駆体として、臭化水銀(HgBr2)が封入されている。HgBr2から分解して生じるハロゲン(すなわち、Br)は、ランプ動作中に電極棒3から蒸発したW(タングステン)を再び電極棒3に戻すハロゲンサイクルの役割を担っている。HgBr2の封入量は、例えば、0.002〜0.2mg/cc程度であり、これは、ランプ動作時のハロゲン原子密度に換算すると、例えば、0.01〜1μmol/cc程度に相当する。
ハロゲン前駆体として、HgBr2を用いた場合のさらなる利点を説明すると、HgBr2を用いた場合、HgBr2が分解した後に生じるものが、BrとHgである点である。つまり、ハロゲン以外の成分が既に封入されている元素と同じ水銀という点である。この点、水素(H)が生じ得るCH2Br2やHBrと異なる。水素は、再びハロゲンと結びつく可能性があるので、遊離ハロゲンの量が遊離水素の量に依存して、定まらないおそれがある。国際出願番号PCT/JP00/04561号明細書で開示されているように、発光管1内にハロゲンサイクルに寄与するハロゲンを常に確保して、ハロゲンサイクルを確実に実行させることにより、発光管1に生じる黒化を積極的に防止することができる。しかしながら、分解して生じる水素(遊離水素)が生じる場合を想定すると、その遊離水素と結びついたハロゲンは、必ずしも、ハロゲンサイクルに寄与するハロゲンであるとは言えないので、ハロゲンサイクルに確実に寄与できる遊離ハロゲンの量が定まらず、積極的に黒化を防止できない可能性が出てくる。
すると、そのような可能性を排除できるHgBr2の方がハロゲン導入量を算定しやすく、利点が大きいことがわかる。なお、HgBr2は固体であるため、HgBr2に不純物が付着している可能性もあるが、その場合には、上述したように、ゲッター75の効果がさらに発揮される。
なお、本実施形態において、発光管1内に封入されるHgBr2から生じるハロゲンのモル数は、ハロゲンと結合する性質を有する金属元素(ただし、タングステン元素および水銀元素を除く)であって発光管1内に存在する金属元素の合計モル数と、ランプ動作中において電極3から蒸発して発光管1内に存在するタングステンのモル数との和よりも多いようにすることが好ましい。このようにすれば、発光管1内にハロゲンサイクルに寄与するハロゲンを常に確保して、ハロゲンサイクルを確実に実行させることができるからである。ハロゲンと結合する性質を有する金属元素の代表例は、タングステン元素および水銀元素を除くと、アルカリ金属元素(Na、K、Liなど)である。
本実施形態のランプ100の耐圧強度(動作圧力)は、20MPa以上(例えば、30〜50MPa程度、またはそれ以上)にすることができる。また、管壁負荷は、例えば、60W/cm2程度以上であり、特に上限は設定されない。例示的に示すと、管壁負荷は、例えば、60W/cm2程度以上から、300W/cm2程度の範囲(好ましくは、80〜200W/cm2程度)のランプを実現することができる。冷却手段を設ければ、300W/cm2程度以上の管壁負荷を達成することも可能である。なお、定格電力は、例えば、150W(その場合の管壁負荷は、約130W/cm2に相当)である。
本実施形態のランプの構成をさらに詳述すると、次の通りである。
ランプ100の発光管1は、略球形をしており、第1のガラス部8と同様に、石英ガラスから構成されている。なお、長寿命等の優れた特性を発揮する高圧水銀ランプ(特に、超高圧水銀ランプ)を実現する上では、発光管1を構成する石英ガラスとして、アルカリ金属不純物レベルの低い(例えば、Na、K、Liのそれぞれの量が1ppm以下)高純度の石英ガラスを用いることが好ましい。なお、勿論、通常のアルカリ金属不純物レベルの石英ガラスを用いることも可能である。発光管1の外径は例えば5mm〜20mm程度であり、発光管1のガラス厚は例えば1mm〜5mm程度である。発光管1内の放電空間(10)の容積は、例えば0.01〜1cc程度(0.01〜1cm3)である。本実施形態では、外径9mm程度、内径4mm程度、放電空間の容量0.06cc程度の発光管1が用いられる。
発光管1内には、一対の電極棒(電極)3が互いに対向して配置されている。電極棒3の先端は、0.2〜5mm程度(例えば、0.6〜1.0mm)の間隔(アーク長)で、発光管1内に配置されており、電極棒3のそれぞれは、タングステン(W)から構成されている。タングステン製の電極棒3も、アルカリ金属不純物レベルの低い(例えば、Na、K、Liのそれぞれの量が1ppm以下)ものを使用することが好ましいが、通常のアルカリ金属不純物レベルの電極棒3を用いることも可能である。電極棒3の先端には、ランプ動作時における電極先端温度を低下させることを目的として、コイル12が巻かれている。本実施形態では、コイル12として、タングステン製のコイルを用いているが、トリウム−タングステン製のコイルを用いてもよい。また、電極棒3も、タングステン棒だけでなく、トリウム−タングステンから構成された棒を使用してもよい。
発光管1内には、発光物質として、水銀6が封入されている。超高圧水銀ランプとしてランプ100を動作させる場合、発光管1の内容積を基準にして、例えば、200mg/cc程度またはそれ以上(220mg/cc以上または230mg/cc以上、あるいは250mg/cc以上)、好ましくは、300mg/cc程度またはそれ以上(例えば、300mg/cc〜500mg/cc)の水銀6と、5〜30kPaの希ガス(例えば、アルゴン)と、ハロゲン前駆体としてHgBr2とが発光管1内に封入されている。
上述したように、封止部2の断面形状は、略円形であり、そのほぼ中央部に金属箔4が設けられている。金属箔4は、例えば、矩形のモリブデン箔(Mo箔)であり、金属箔4の幅(短辺側の長さ)は、例えば、1.0mm〜2.5mm程度(好ましくは、1.0mm〜1.5mm程度)である。金属箔4の厚さは、例えば、15μm〜30μm程度(好ましくは、15μm〜20μm程度)である。厚さと幅との比は、だいたい1:100程度になっている。また、金属箔4の長さ(長辺側の長さ)は、例えば、5mm〜50mm程度である。
電極棒3が位置する側と反対側には、外部リード5が溶接により設けられている。金属箔4のうち、電極棒3が接続された側と反対側には、外部リード5が接続されており、外部リード5の一端は、封止部2の外まで延びている。外部リード5を点灯回路(不図示)に電気的に接続することにより、点灯回路と、一対の電極棒3とが電気的に接続されることになる。封止部2は、封止部のガラス部(7、8)と金属箔4とを圧着させて、発光管1内の放電空間10の気密を保持する役割を果たしている。封止部2によるシール機構を以下に簡単に説明する。
封止部2のガラス部を構成する材料と、金属箔4を構成するモリブデンとは互いに熱膨張係数が異なるので、熱膨張係数の観点からみると、両者は、一体化された状態にはならない。ただし、本構成(箔封止)の場合、封止部のガラス部からの圧力により、金属箔4が塑性変形を起こして、両者の間に生じる隙間を埋めることができる。それによって、封止部2のガラス部と金属箔4とを互いに圧着させた状態にすることができ、封止部2で発光管1内のシールを行うことができる。すなわち、封止部2のガラス部と金属箔4との圧着による箔封止によって、封止部2のシールは行われている。本実施形態では、圧縮歪みのある第2のガラス部7が設けられているので、このシール構造の信頼性が向上されている。
本実施形態のランプ100では、第1のガラス部8の内側の少なくとも一部に設けられた第2のガラス部7に圧縮歪み(少なくとも長手方向への圧縮歪み)が存在しているので、高圧放電ランプの耐圧強度を向上させることができる。また、製造段階におけるゲッター75の働きによって、発光管1内の残留ガス(例えば、H2、H2O)を低下させることができ、黒化を抑制することができる。
なお、図1に示した構成では、一対の封止部2のいずれにも、第2のガラス部7を設けたが、これに限らず、一方の封止部2だけに、第2のガラス部7を設けても、図2(b)に示した比較例のランプ100’よりも耐圧強度を向上させることができる。ただし、両方の封止部2に第2のガラス部7を設けた構成で、かつ、両方の封止部2が圧縮応力が印加されている部位を有する構成にした方が好ましい。これは、一方の封止部よりも、両方の封止部2が圧縮応力が印加されている部位を有している方がより高い耐圧を達成することができるからであり、単純に考えて、圧縮応力が印加されている部位を有する封止部を一つ備えているときよりも、2つ備えているときの方が、封止部でリークが生じる確率(すなわち、あるレベルの高耐圧を保持できない確率)を1/2にすることが可能となるからである。
また、本実施形態では、水銀6の封入量の多い高圧水銀ランプ(例えば、水銀封入量150mg/cm3以上の超高圧水銀ランプ)について説明したが、水銀蒸気圧がそれほど高くない1MPa程度の高圧水銀ランプにも好適に適用することができる。なぜならば、動作圧力が極めて高くても安定して動作できるということは、ランプの信頼性が高いことを意味するからである。すなわち、本実施形態の構成を、動作圧力のそれほど高くないランプ(ランプの動作圧力が30MPa程度未満、例えば、20MPa程度〜1MPa程度)に適用した場合、当該動作圧力で動作するランプの信頼性を向上させ得ることになるからである。本実施形態の構成は、封止部2に、新たな部材として第2のガラス部7の部材を導入するだけでよいので、少ない改良で耐圧向上の効果を得ることができる。したがって、非常に工業的な用途に適しているものである。また、第2のガラス部7の組成変形を防止する手法として、その組成変形の機構を考慮した上でハロゲン前駆体としてHgBr2を用いたことも、少ない改良で耐圧向上の効果を確実に維持することができるので、工業的な用途に適しているものである。
次に、図8および図9も加えて、本実施形態に係る高圧放電ランプの製造方法をさらに詳細に説明する。
まず、図8に示すように、ランプ100の発光管(1)となる発光管部1’と、発光管部1’から延在した側管部2’とを有する放電ランプ用ガラスパイプ80を用意する。本実施形態のガラスパイプ80は、外径6mm、内径2mmの筒状石英ガラスの所定位置を加熱し膨張させて、略球形の発光管部1’を形成したものである。また、別途、第2のガラス部7となるガラス管70を用意する。本実施形態のガラス管70は、外径1.9mm、内径1.7mm、長さ(長手方向長さ)7mmのバイコール製ガラス管である。ガラス管70の外径は、ガラスパイプ80の側管部2’に挿入できるように、側管部2’の内径よりも小さくしてある。
次に、同図に示すように、ガラスパイプ80の側管部2’にガラス管70を固定した後、別途作製した電極構造体50を、ガラス管70が固定された側管部2’に挿入し、次いで、電極構造体50挿入後のガラスパイプ80の両端を、気密性を保ちながら、回転可能なチャック82に取り付ける。チャック82は、真空系(不図示)に接続されており、ガラスパイプ80内を減圧することができる。ガラスパイプ80内を真空排気した後、200torr程度(約20kPa)の希ガス(Ar)を導入する。その後、電極棒3を回転中心軸として、矢印81の方向に、ガラスパイプ80を回転させる。この段階の真空排気においても、ゲッター75を用いることも可能である。それは、ゲッター75によって、不純ガスを除去すれば、第1の封止工程において良好な封止部を形成することが容易になるからである。具体的には、側管部2’内のうち、支持部材11の後方(電極棒12の方向と反対方向)にゲッター75を配置すればよい。
なお、電極構造体50は、電極棒3と、電極棒3に接続された金属箔4と、金属箔4に接続された外部リード5とから構成されている。電極棒3は、タングステン製電極棒であり、その先端にはタングステン製コイル12が巻きつけられている。外部リード5の一端には、側管部2’の内面に電極構造体50を固定するための支持部材(金属製の留め金)11が設けられている。図8に示した支持部材11は、モリブデンからなるモリブデンテープ(Moテープ)であるが、これに代えて、モリブデン製のリング状のバネを用いてもよい。
次に、側管部2’およびガラス管70を加熱・収縮させて、電極構造体50を封止することにより、図9に示すように、側管部2’であった第1のガラス部8の内側に、ガラス管70であった第2のガラス部7が設けられた封止部2を形成する。この封止部2の形成は、発光管部1’と側管部2’との間の境目部分から、外部リード5の中間付近まで、順々に、側管部2’およびガラス管70を加熱して、シュリンクさせていくことにより行う。この封止部形成工程により、側管部2’およびガラス管70から、少なくとも長手方向(電極棒3の軸方向)に圧縮応力が印加された状態の部位を含む封止部2が得られる。なお、外部リード5の方から、発光管部1’の方へ、加熱・収縮を行ってもよい。
この後、開放している側管部2’側の端部から、所定量の水銀6(例えば、200mg/cc程度、または、300mg/cc程度、あるいはそれ以上)を導入する。そして、このとき、ハロゲン前駆体(例えば、固体のHgBr2)も導入する。水銀6とハロゲン前駆体との導入の順番は特に問わない。両者を同時でもよいし、いずれかを先に導入してもよい。
水銀6およびハロゲン前駆体(例えば、HgBr2)の導入後、図4(または、図6、図7)に示すように、減圧除去工程を行う。残留ガスが充分に除去された後、他方の側管部2’についても、同様に、封止部形成工程(第2の封止工程)を実行する。つまり、ガラスパイプ80内の残留ガスを除去した後、希ガスを封入し、次いで、加熱封止する。この時の加熱封止の際は、水銀が蒸発するのを防ぐため、発光管部1’を冷却しながら行うことが好ましい。このようにして、両方の側管部2’を封止すると、第2のガラス部7を封止部2内に有するランプが完成する。
次に、図20(a)および(b)を参照しながら、封止部形成工程により、第2のガラス部7(または、その外周周辺部)に圧縮応力が加わる機構を説明する。なお、この機構は、本願発明者が推考したものであり、必ずこの通りになっているとは言い切れない。しかし、例えば図3(a)に示したとおり、第2のガラス部7(またはその外周周辺部分)に圧縮応力(圧縮歪み)が存在するのは事実であるし、そして、その圧縮応力が加わった部位を含む封止部2によって耐圧が向上することも事実である。
図20(a)は、側管部2’状態の第1のガラス部8内に、ガラス管70状態の第2のガラス部7aを挿入した時点の断面構成を模式的に示し、一方、図20(b)は、図20(a)の構成において第2のガラス部7aが軟化して溶融状態7bになった時点の断面構成を模式的に示している。本実施形態において、第1のガラス部8は、SiO2を99wt%以上含む石英ガラスから構成され、そして、第2のガラス部7aは、バイコールガラスから構成されている。
まず前提として、圧縮応力(圧縮歪み)が存在するということは、互いに接触する材料同士の熱膨張係数に差があることが多い。すなわち、封止部2内に設けられた状態の第2のガラス部7に圧縮応力が加わっている理由としては、両者の熱膨張係数に差があると考えるのが一般的である。しかし、この場合、実際には、両者の熱膨張係数に大きな差はなく、ほぼ等しいと言える。より具体的に説明すると、金属であるタングステンおよびモリブデンの熱膨張係数が、それぞれ、約46×10-7 /℃および約37〜53×10-7 /℃であるところ、第1のガラス部8を構成する石英ガラスの熱膨張係数は、約5.5×10-7 /℃であり、そして、バイコールガラスの熱膨張係数は、石英ガラスの熱膨張係数と同レベルとみなせる約7×10-7 /℃である。僅かこれくらいの熱膨張係数の差で、両者の間に、約10kgf/cm2以上の圧縮応力が発生するとは思えない。両者の性質の違いは、熱膨張係数よりも、むしろ軟化点または歪点にあり、この点に着目すると、次のような機構により、圧縮応力が加わることが説明できると思われる。なお、石英ガラスの軟化点および歪点は、それぞれ、1650℃および1070℃(徐冷点は、1150℃)であり、一方、バイコールガラスの軟化点および歪点は、それぞれ、1530℃および890℃(徐冷点は、1020℃)である。
図20(a)に示した状態から、第1のガラス部8(側管部2’)を外側から加熱してシュリンクさせると、最初、両者の間にあった隙間7cが埋まり、両者は接する。シュリンク後においては、図20(b)に示すように、軟化点が高く、外気に触れる面積の多い第1のガラス部8の方が先に軟化状態から解放された時点(つまり、固まった時点)でも、それよりも内側に位置し、かつ、軟化点の低い第2のガラス部7bは、依然として、軟化したまま(溶融状態のまま)の時点が存在する。このときの第2のガラス部7bは、第1のガラス部8と比較して、流動性を持っており、仮に通常時(軟化状態でない時点)の両者の熱膨張係数がほぼ同じであったとしても、この時点の両者の性質(例えば、弾性率、粘度、密度など)は大きく異なっていると考えられる。そして、さらに時間が経過し、流動性を持っていた第2のガラス部7bが冷えて、第2のガラス部7bの温度が軟化点も下回ると、第2のガラス部7も、第1のガラス部8と同様に固まることになる。ここで、第1のガラス部8と第2のガラス部7との軟化点が同じであれば、外側から徐々に冷えて圧縮歪みが残らないように、両方のガラス部が固まるのであろうが、本実施形態の構成の場合、外側のガラス部(8)が早めに固まって、しばらくしてから、内側のガラス部(7)が固まるため、当該内側の第2のガラス部7に圧縮歪みが残ることになると思われる。このようなことを考えると、第2のガラス部7は、一種のピンチングが間接的に行われた状態になったと言えるかもしれない。
なお、このような圧縮歪みが残っていると、通常、両者の熱膨張率の差によって、ある温度で両者(7、8)の密着状態が終わってしまうことになるのであろうが、本実施形態の構成の場合、両者の熱膨張率がほぼ等しいので、圧縮歪みが存在していても、両者(7、8)の密着状態が保持できると推測される。
さらに、第2のガラス部7に約10kgf/cm2以上の圧縮応力を与えるためには、上述した作製方法で完成させたランプ(ランプ完成体)に対して、第2のガラス部の歪点温度よりも高い温度で加熱することが必要なことがわかった。そして、1030℃で2時間以上、加熱することが好ましいこともわかった。具体的には、完成したランプ100を1030℃の炉に入れて、アニール(例えば、真空ベークまたは減圧ベーク)すればよい。なお、1030℃の温度は例示であり、第2のガラス部(バイコールガラス)7の歪点温度よりも高い温度であればよい。すなわち、バイコールの歪点温度890℃よりも大きければよい。好適な範囲は、バイコールの歪点温度890℃より大きく、第1のガラス部(石英ガラス)の歪点温度(SiO2の歪点温度1070℃)よりも低い温度であるが、1080℃や1200℃程度の温度で本願発明者が実験した場合において効果がある場合もあった。
なお、比較参考のために、アニールを行っていない高圧放電ランプについて、鋭敏色板法による測定を行ったところ、高圧放電ランプの封止部に第2のガラス部7を設けた構成であるにもかかわらず、封止部に約10kgf/cm2以上の圧縮応力は観測されなかった。
アニール(または真空ベーク)の時間については、2時間以上であれば、経済的な観点からみた上限を除けば、特に上限はない。2時間以上の範囲で、好適な時間を適宜設定すればよい。また、2時間未満でも、効果がみられる場合には、2時間未満での熱処理(アニール)を行ってもよい。このアニール工程により、ランプの高純度化、言い換えると、不純物の低減が達成されているかもしれない。なぜならば、ランプ完成体をアニールすることにより、ランプに悪影響を及ぼすと考えられる水分(例えば、バイコール中の水分)をランプから飛ばすことができると思われるからである。アニールを100時間以上すれば、ほぼ完全にバイコール中の水分をランプ内から除去することが可能である。
上述の説明では、第2のガラス部7をバイコールガラスから構成した例で説明したが、SiO2:62重量%、Al2O3:13.8重量%、CuO:23.7重量%を成分とするガラス(商品名;SCY2、SEMCOM社製。歪点;520℃)から第2のガラス部7を構成した場合でも、少なくとも長手方向に圧縮応力が印加された状態になることもわかった。
次に、本願発明者が推論した、ランプ完成体に対して所定の温度で所定時間以上のアニールを施すと、ランプの第2のガラス部7に圧縮応力が加わる機構について図21を参照しながら説明する。
まず、図21(a)に示すように、ランプ完成体を用意する。なお、ランプ完成体の作製方法は上述した通りである。
次に、そのランプ完成体を加熱すると、図21(b)に示すように、水銀(Hg)6が蒸発を始め、その結果、発光管1内および第2のガラス部7にも圧力が加わる。図中の矢印は、水銀6の蒸気による圧力(例えば、100気圧以上)を表している。発光管1内だけでなく、第2のガラス部7にも水銀6の蒸気圧が加わる理由は、目には見えない程度の隙間13が電極棒3の封止部分にあるからである。
さらに加熱の温度を上げて、第2のガラス部7の歪点を越える温度(例えば、1030℃)で加熱を続けると、第2のガラス部7が軟らかい状態で、水銀の蒸気圧が第2のガラス部7に加わるため、第2のガラス部7において圧縮応力が発生する。圧縮応力が発生する時間は、例えば歪点で加熱したときに約4時間、徐冷点で加熱したときに約15分であると推測される。この時間は、歪点および徐冷点の定義から導き出したものである。すなわち、歪点とは、この温度で4時間保つと内部歪が実質的に除去できる温度を意味し、徐冷点とは、この温度で15分保つと内部応力が実質的に除去できる温度を意味するところから、上記時間は推測されている。
次に、加熱をやめて、ランプ完成体を冷却させる。加熱をやめた後も、図21(c)に示すように、水銀は蒸発したままであるので、水銀蒸気による圧力を受け続けながら第2のガラス部7は歪点より温度が低くなり、その結果、図24に示すように、第2のガラス部7に圧縮応力が、金属箔4の長手方向だけではなく径方向などにも残留することになる(但し、歪検査器では長手方向の圧縮応力しか確認できない)。
最後に、室温程度まで冷却が進むと、図21(d)に示すように、第2のガラス部7に圧縮応力が約10kgf/cm2以上存在するランプ100が得られる。図21(b)および(c)に示したように、水銀の蒸気圧は、両方の第2のガラス部7に圧力を加えるため、この手法によれば、両方の封止部2に約10kgf/cm2以上の圧縮応力を確実に加えることができる。
この加熱プロファイルを模式的に図22に示す。まず、加熱を始めると(時間O)、その後、第2のガラス部7の歪点(T2)の温度に達する(時間A)。次に、第2のガラス部7の歪点(T2)と第1のガラス部8の歪点(T1)との間の温度で、ランプを所定時間保持する。この温度領域は、基本的に、第2のガラス部7だけが変形可能な範囲とみなすことができる。この保持の間に、図23の概略図に示すように、水銀蒸気圧(例えば、100気圧以上)によって第2のガラス部7に圧縮応力が入る。
なお、水銀蒸気圧によって第2のガラス部7へ圧力を加えることが、アニール処理を最も効果的に利用する手法と思えるが、図22におけるT2以上T1以下の温度範囲でランプを保持している時であれば、第2のガラス部7へ何らかの力を加えることができれば、水銀蒸気圧だけでなく、その力によって(例えば外部リード5を押すことによって)、第2のガラス部7に圧縮応力を加えることも可能であると推測する。
次に、加熱をやめると、ランプが冷却していき、時間B以降、第2のガラス部7の温度は歪点(T2)を下回る。歪点(T2)を下回ると、第2のガラス部7の圧縮応力は残留することになる。本実施形態では、1030℃で150時間保持した後、冷却(自然冷却)することによって、第2のガラス部7の圧縮応力を印加して残留させる。
上記のようなメカニズムで、水銀蒸気圧によって圧縮応力が発生するので、圧縮応力の大きさは、水銀蒸気圧(言い換えると、封入水銀量)に依存することになる。
一般的に、水銀量が多くなるほどランプは破裂しやすくなるところ、本実施形態の封止構造を用いると、水銀量を多くするほど圧縮応力が大きくなり、耐圧が向上する。つまり、本実施形態の構成によれば、水銀量を多くするほど高い耐圧構造を実現することができるため、現在の技術では実現できなかったような、極めて高耐圧での安定点灯を可能にする。
また、図8に示した状態において、図9に示したような長いガラス管(ロングバイコール管)70を用いることも可能である。長いガラス管70の方が、側管部2’のコンダクタンスは悪くなるため、ゲッター75を使用するメリットは大きくなる。また、長いガラス管70の方が、短いガラス管70よりも多くの不純物が付着している可能性が高く、それゆえ、多くの不純ガスが発生すると思われるので、その意味でも、ゲッター75を使用するメリットは大きい。図9に示したガラス管70は、一端(すなわち、発光管部1’と反対側の端部)の径が小さくされており、これによりガラス管70は固定されている。固定方法としては、径が小さくなった箇所で外部リード5を押さえるようにしてもよいし、パイプ80を実質的に鉛直にした上で、ガラス管70の径が小さくなった箇所を金属箔(モリブデン箔)4の角に引っかけるようにしてもよい。
なお、本願発明者は、ガラスパイプ80の真空引きとゲッター75との作用を検討して、次のようなことを考察した。図11を参照しながら、それを説明する。図11は、発光管部1’と、端部が開放している側管部2a’と、端部が塞がった側管部2b’とからなるガラスパイプ80を示している。径が小さい管、すなわち細管のものを真空引きするというのは、抵抗が非常に大きくなることが多く(つまり、コンダクタンスが悪く)、たとえ真空系の方で高い真空度を達成していても、細管(ガラス管)内は、あまり真空引きができていない場合もある。特に、ガラスパイプ80は、円筒状の側管部2’だけでなく、略球形状の発光管部1’も有しているので、ガスの流れによどみがでて、その意味でも残留ガスが残りやすい。おそらく、図11に示した例において、真空ポンプのスイッチを押した瞬間に、矢印60の方向にガス(例えば、空気)は抜けて、紙面右側の側管部2a’内のガスの大半は除去されるものの、紙面左側の側管部2b’内の領域83に位置するガスは、良好に抜けないものもあると推測され、それゆえ、真空系で計測器が示している真空度と、パイプ80内との真空度との間には、通常気づかないが、ある程度の差が存在していると推測される。
今日では、高出力でありながら、長寿命という相反する特性を満たすランプが求められており、それゆえ、従来では無視できた(または、考慮すらされていなかった)不純物にも注意を払う必要ができてきており、この領域83にある残留ガスはできるだけ取り除くことが好ましい。素直に考えれば、真空系をより高い真空度のものにかえればよいと思うところであるが、そのようにしても、実際には、単に真空系の計測器の真空度が上がるだけで、思っているほどパイプ80内の真空度は上がっていないと推測される。一方、ゲッター75を用いれば、ゲッター75の物理的および化学的作用によって残留ガスを吸収するので、真空系のみの真空引きよりもより効果がある。上述したように、本実施形態の製造方法においては、側管部2’に、さらにガラス管(バイコール製ガラス管)70が挿入されるので、真空系のみの真空引きと比べて、ゲッター75を併用する利点は非常に大きい。
また、ゲッター75は、吸着したガスを放出させれば、何度でも繰り返し使用できるので、図5に示した段階において、使用済みのゲッター75を取り出し、そして、そのゲッター75を再生して利用することができる。再利用できるということは、コスト的にも有利に働くとともに、廃棄物がでないので環境的にも有利に働く。
なお、ゲッター75は、発光管部1’内または発光管1内に存在させるべきでない。その理由は、不純物を吸着したゲッター75が、完成ランプの発光管1に存在してしまうと、そのゲッター75中の不純物により、ランプの寿命が短くなってしまうからである。完成ランプ(完成品)にゲッター75が含まれていない点は、完成品の電子管内にゲッターを存在させておく、PDPの画像表示装置と本質的に異なる。
(実施形態2)
図12を参照しながら、本発明の実施形態の製造方法によって製造される高圧放電ランプの他の構成について説明する。図12は、本実施形態の高圧放電ランプ200の構成を模式的に示している。
上記実施形態1のランプ100の耐圧強度を更に向上させるには、図12に示したランプ200のように、封止部2内に埋め込まれた部分における電極棒3の少なくとも一部の表面に、金属膜(例えば、Pt膜)30を形成することが好ましい。金属膜30は、Pt、Ir、Rh、Ru、Reからなる群から選択される少なくとも1種の金属から構成されていればよい。金属膜30は、例えば、Pt層からなる単層でもよいし、密着性の観点から、下層がAu層で、上層が例えばPt層のようにしてもよい。
ランプ200では、封止部2に埋め込まれている部分の電極棒3の表面に金属膜30が形成されているため、電極棒3の周囲に位置するガラスに、微小なクラックが発生することを防止することができる。すなわち、ランプ200では、ランプ100で得られる効果に加えて、クラック発生防止という効果も得られ、それにより、さらに耐圧強度を向上させることができる。以下、クラック発生防止効果について説明を続ける。
封止部2内に位置する電極棒3に金属膜30の無いランプの場合、ランプ製造工程における封止部形成の際に、封止部2のガラスと電極棒3とが一度密着した後、冷却時において、両者の熱膨張係数の差違により、両者は離されることになる。この時に、電極棒3の周囲の石英ガラスにクラックが生じる。このクラックの存在により、クラックの無い理想的なランプよりも、耐圧強度が低下することになる。
図12に示したランプ200の場合、表面にPt層を有する金属膜30が電極棒3の表面に形成されているので、封止部2の石英ガラスと、電極棒3の表面(Pt層)との間の濡れ性が悪くなっている。つまり、タングステンと石英ガラスとの組み合わせの場合よりも、白金と石英ガラスとの組み合わせの場合の方が、金属と石英ガラスとの濡れ性が悪くなるため、両者は引っ付かずに、離れやすくなるのである。その結果、電極棒3と石英ガラスとの濡れ性の悪さにより、加熱後の冷却時における両者の離れがよくなり、微細なクラックの発生を防止することが可能となる。このような濡れ性の悪さを利用してクラックの発生を防止するという技術的思想に基づいて作製されたランプ200は、ランプ100よりも更に高い耐圧強度を示す。
なお、図12に示したランプ200の構成に代えて、図13に示すランプ300の構成にしても良い。ランプ300は、図1に示したランプ100の構成において、表面を金属膜30で被覆したコイル40を、封止部2に埋め込まれている部分の電極棒3の表面に巻き付けたものである。言い換えると、ランプ300は、Pt、Ir、Rh、Ru、Reからなる群から選択される少なくとも1種の金属を少なくとも表面に有するコイル40が電極棒3の根本に巻き付けられた構成を有している。なお、図13に示した構成では、コイル40は、発光管1の放電空間10内に位置する電極棒3の部分にまで巻かれている。図13に示したランプ300の構成でも、コイル40表面の金属膜30によって、電極棒3と石英ガラスとの濡れ性を悪くすることができ、その結果、微細なクラックの発生を防止することができる。
コイル40の表面の金属は、例えば、メッキにより形成すればよい。図12に示した構成と同じように、ここでも、金属膜30は、例えば、Pt層からなる単層でもよいし、密着性の観点から、下層がAu層で、上層が例えばPt層のようにしてもよい。なお、密着性の観点からは、コイル40上に、まず下層となるAu層を形成し、次いで、上層となる例えばPt層を形成することが好ましいが、Pt(上層)/Au(下層)メッキの2層構造にせずに、Ptメッキだけを施したコイル40でも、実用上の十分な密着性を確保することができる。
Pt、Ir、Rh、Ru、Reからなる群から選択される少なくとも一種の金属(「Pt等」とも称する。)を、電極棒3の表面またはコイル40の表面に設けた構成の場合において、本発明の実施形態の構成のように、金属箔4の周囲に第2のガラス部7が存在する意義は非常に大きい。これについて、さらに説明を続ける。Pt等の金属は、ランプ製造工程(封止工程)において、加工中の加熱によっていくらか蒸発する可能性があるため、それが金属箔4のところに拡散すると、金属箔とガラスとの密着を弱める結果を招き、耐圧を低下させてしまうことがある。しかし、本実施形態の構成のように、金属箔4の周囲に第2のガラス部7を設け、そこに圧縮歪みを存在させると、もはや、Pt等とガラスとの間の濡れ性の悪さは無関係となり、その結果、Pt等の拡散が招く耐圧低下を防止することができる。
なお、図12および図13に示した構成においては、ハロゲン(より詳細にはハロゲン前駆体)の封入形態として、CH2Br2のようなガスを用いるよりも、HgBr2のような(室温で)固体をなしている形態のものを採用することが好ましいことを付言しておく。その理由は、Pt等の金属がガス状ハロゲンによってエッチングされるおそれがあるからである。
本実施形態のランプ200および300においても、図10に示したように、金属箔4の全体を覆うようなガラス管70を用いて、金属箔4の全体を覆う第2のガラス部7を形成してもよい。
さらに、本発明の実施形態のランプ100、200、300は、反射鏡と組み合わせて、ミラー付きランプないしランプユニットにすることができる。
図14は、本実施形態のランプ100を備えたミラー付きランプ900の断面を模式的に示している。
ミラー付ランプ900は、略球形の発光管1と一対の封止部2とを有するランプ100と、ランプ100から発せられた光を反射する反射鏡60とを備えている。なお、ランプ100は例示であり、勿論、ランプ200または300であってもよい。また、ミラー付ランプ900は、反射鏡60を保持するランプハウスをさらに備えていてもよい。ここで、ランプハウスを備えた構成のものは、ランプユニットに包含されるものである。
反射鏡60は、例えば、平行光束、所定の微小領域に収束する集光光束、または、所定の微小領域から発散したのと同等の発散光束になるようにランプ100からの放射光を反射するように構成されている。反射鏡60としては、例えば、放物面鏡や楕円面鏡を用いることができる。
本実施形態では、ランプ100の一方の封止部2に口金56が取り付けられており、当該封止部2から延びた外部リード(5)と口金56とは電気的に接続されている。封止部2と反射鏡60とは、例えば無機系接着剤(例えばセメントなど)で固着されて一体化されている。反射鏡60の前面開口部側に位置する封止部2の外部リード5には、引き出しリード線65が電気的に接続されており、引き出しリード線65は、リード線5から、反射鏡60のリード線用開口部62を通して反射鏡60の外にまで延ばされている。反射鏡60の前面開口部には、例えば前面ガラスを取り付けることができる。
このようなミラー付ランプないしランプユニットは、例えば、液晶やDMDを用いたプロジェクタ等のような画像投影装置に取り付けることができ、画像投影装置用光源として使用される。また、このようなミラー付ランプないしランプユニットと、画像素子(DMD(Digital Micromirror Device)パネルや液晶パネルなど)を含む光学系とを組み合わせることにより、画像投影装置を構成することができる。例えば、DMDを用いたプロジェクタ(デジタルライトプロセッシング(DLP)プロジェクタ)や、液晶プロジェクタ(LCOS(Liquid Crystal on Silicon)構造を採用した反射型のプロジェクタも含む。)を提供することができる。さらに、本実施形態のランプ、およびミラー付ランプないしランプユニットは、画像投影装置用光源の他に、紫外線ステッパ用光源、または競技スタジアム用光源や自動車のヘッドライト用光源、道路標識を照らす投光器用光源などとしても使用することができる。
(他の実施形態)
上記実施形態では、発光物質として水銀を使用する水銀ランプを高圧放電ランプの一例として説明したが、本発明は、封止部(シール部)によって発光管の気密を保持する構成を有するいずれの高圧放電ランプにも適用可能である。例えば、金属ハロゲン化物を封入したメタルハライドランプやキセノンなどの高圧放電ランプにも適用することができる。メタルハライドランプ等においても、耐圧が向上すればするほど好ましいからである。つまり、リーク防止やクラック防止を図ることにより、高信頼性で長寿命のランプを実現することができるからである。 また、水銀だけでなく金属ハロゲン化物も封入されているメタルハライドランプに、上記実施形態の構成を適用する場合には、次のような効果も得られる。すなわち、第2のガラス部7を設けることにより、封止部2内における金属箔4の密着性を向上させることができ、金属箔4と金属ハロゲン化物(または、ハロゲンおよびアルカリ金属)との反応を抑制することが可能となり、その結果、封止部の構造の信頼性を向上させることができる。特に、図1、図12や図13に示した構成のように、金属棒3の部分に第2のガラス部7が位置している場合には、金属棒3と封止部2のガラスの間にある僅かな隙間から侵入して金属箔4に反応して箔の脆化をもたらす金属ハロゲン化物のその侵入を第2のガラス部7により効果的に軽減させることが可能となる。このように、上記実施形態の構成は、メタルハライドランプに好適に適用可能である。
近年、水銀を封入しない無水銀メタルハライドランプの開発も進んでいるが、そのような無水銀メタルハライドランプに、上記実施形態の技術を適用することも可能である。以下、さらに詳述する。
上記実施形態の技術が適用された無水銀メタルハライドランプとしては、図1図12または図13に示した構成において、発光管1内に、水銀が実質的に封入されてなく、かつ、少なくとも、第1のハロゲン化物と、第2のハロゲン化物と、希ガスとが封入されているものが挙げられる。このとき、第1のハロゲン化物の金属は、発光物質であり、第2のハロゲン化物は、第1のハロゲン化物と比較して、蒸気圧が大きく、かつ、前記第1のハロゲン化物の金属と比較して、可視域において発光しにくい金属の1種または複数種のハロゲン化物である。例えば、第1のハロゲン化物は、ナトリウム、スカンジウム、および希土類金属からなる群から選択された1種または複数種のハロゲン化物である。そして、第2のハロゲン化物は、相対的に蒸気圧が大きく、かつ、第1のハロゲン化物の金属と比較して、可視域に発光しにくい金属の1種または複数種のハロゲン化物である。具体的な第2のハロゲン化物としては、Mg、Fe、Co、Cr、Zn、Ni、Mn、Al、Sb、Be、Re、Ga、Ti、ZrおよびHfからなる群から選択された少なくとも一種の金属のハロゲン化物である。そして、少なくともZnのハロゲン化物を含むような第2のハロゲン化物がより好適である。
また、他の組み合わせ例を挙げると、透光性の発光管(気密容器)1と、発光管1内に設けられた一対の電極3と、発光管1に連結された一対の封止部2とを備えた無水銀メタルハライドランプにおける発光管1内に、発光物質であるScI3(ヨウ化スカンジウム)およびNaI(ヨウ化ナトリウム)と、水銀代替物質であるInI3(ヨウ化インジウム)およびTlI(ヨウ化タリウム)と、始動補助ガスとしての希ガス(例えば1.4MPaのXeガス)が封入されているものである。この場合、第1のハロゲン化物は、ScI3(ヨウ化スカンジウム)、NaI(ヨウ化ナトリウム)となり、第2のハロゲン化物は、InI3(ヨウ化インジウム)、TlI(ヨウ化タリウム)となる。なお、第2のハロゲン化物は、比較的蒸気圧が高く、水銀の役割の代わりを担うものであればよいので、InI3(ヨウ化インジウム)等に代えて、例えば、Znのヨウ化物を用いても良い。
このような無水銀メタルハライドランプにおいて、上記実施形態1の技術が好適に適用可能な理由を次に説明する。
まず、Hgの代替物質(Znのハロゲン化物など)を用いた無水銀メタルハライドランプの場合、有水銀のランプと比べて、効率が低下する。効率を上げるためには、点灯動作圧を上げることが非常に有利に働く。上記実施形態のランプの場合、耐圧を向上させた構造であるので、希ガスを高圧封入できるので、簡便に効率を向上させることができるので、実用化可能な無水銀メタルハライドランプを容易に実現することができる。この場合、希ガスとしては、熱伝導率の低いXeが好ましい。
そして、無水銀メタルハライドランプの場合、水銀を封入しない関係上、有水銀のメタルハライドランプよりも、ハロゲンを多く封入する必要がある。したがって、電極棒3付近の隙間を通って金属箔4まで達するハロゲンの量も多くなり、ハロゲンが金属箔4(場合によっては、電極棒3の根本部分)と反応する結果、封止部構造が弱くなり、リークが生じやすくなる。図12および図13に示した構成では、電極棒3の表面を金属膜30(またはコイル40)で被覆しているので、電極棒3とハロゲンとの反応を効果的に防止することができる。また、図1のように、電極棒3の周辺に第2のガラス部7が位置している構成の場合、その第2のガラス部7によって、ハロゲン化物(例えば、Scのハロゲン化物)の侵入を防ぐことができ、それによって、リークの発生を防止することが可能となる。それゆえ、上記実施形態の構造を備えた無水銀メタルハライドランプの場合、従来の無水銀メタルハライドランプよりも、高効率化および長寿命化を図ることができる。このことは、一般照明用のランプに広く言えることである。車の前照灯用のランプについていえば、さらに次のような利点がある。
車の前照灯に使用する場合、スイッチをONした次の瞬間に、100%の光を得たいという要求がある。この要求に応えるには、希ガス(具体的には、Xe)を高圧で封入することが効果的である。しかしながら、通常のメタルハライドランプでXeを高圧で封入すれば、破裂の可能性が高まる。これは、より高度の安全性が求められる前照灯用のランプとしては好ましくない。つまり、夜間における前照灯の故障は、車の事故につながるからである。上記実施形態の構造を備えた無水銀メタルハライドランプの場合には、耐圧を向上させた構造となっているので、そのような高圧のXeの封入でも、安全性を確保しながら、点灯の始動性を向上させることができる。また、長寿命化も図られているので、前照灯用としてより好適に適用可能となっている。
さらに、上記実施形態では、水銀蒸気圧が20MPa程度または30MPa程度以上の場合(いわゆる超高圧水銀ランプの場合)について説明したが、上述したように、水銀蒸気圧が1MPa程度の高圧水銀ランプに適用することを排除するものではない。つまり、超高圧水銀ランプおよび高圧水銀ランプを含む高圧放電ランプ全般に適用できるものである。なお、今日の超高圧水銀ランプと呼ばれるものの水銀蒸気圧は、15MPaまたはそれ以上(封入水銀量150mg/ccまたはそれ以上)である。
動作圧力が極めて高くても安定して動作できるということは、ランプの信頼性が高いことを意味するので、本実施形態の構成を、動作圧力のそれほど高くないランプ(ランプの動作圧力が30MPa程度未満、例えば、20MPa程度〜1MPa程度)に適用した場合、当該動作圧力で動作するランプの信頼性を向上させることができる。
高い耐圧強度を実現できるランプの技術的意義をさらに説明すると、次の通りである。近年、より高出力・高電力の高圧水銀ランプを得るために、アーク長(電極間距離)が短いショートアーク型の水銀ランプ(例えば、電極間距離が2mm以下)の開発が進んでいるところ、ショートアーク型の場合、電流の増大に伴って電極の蒸発が早くなることを抑制するために、通常よりも多くの水銀量を封入する必要がある。上述したように、従来の構成においては、耐圧強度に上限があったため、封入水銀量にも上限(例えば、200mg/cc程度以下)があり、さらなる優れた特性を示すようなランプの実現化に制限が加えられていた。本実施形態のランプは、そのような従来における制限を取り除け得るものであり、従来では実現できなかった優れた特性を示すランプの開発を促進させることができるものである。本実施形態のランプにおいては、封入水銀量が200mg/cc程度を超える、300mg/cc程度またはそれ以上のランプを実現することが可能となる。
なお、上述したように、封入水銀量が300〜400mg/cc程度またはそれ以上(点灯動作圧30〜40MPa)を実現できる技術というのは、特に点灯動作圧20MPaを超えるレベルのランプ(すなわち、今日の15MPa〜20MPaのランプを超える点灯動作圧を有するランプ。例えば、23MPa以上または25MPa以上のランプ)について、その安全性および信頼性を確保できる意義も有している。つまり、ランプを大量生産する場合には、ランプの特性にどうしてもばらつきが生じ得るため、点灯動作圧が23MPa程度のランプであっても、マージンを考えた上で耐圧を確保する必要があるので、30MPa以上の耐圧を達成できる技術は、30MPa未満のランプについても、実際に製品を供給できるという観点からの利点は大きい。もちろん、30MPa以上の耐圧を達成できる技術を用いて、23MPaあるいはそれ以下の耐圧でもよいランプを作製すれば、安全性および信頼性の向上を図ることができる。
したがって、本実施形態の構成は、信頼性等の面からも、ランプ特性を向上させることができるものである。また、上記実施形態のランプでは、封止部2をシュリンク手法によって作製したが、ピンチング手法で作製してもよい。また、ダブルエンド型の高圧放電ランプについて説明したが、シングルエンド型の放電ランプに上記実施形態の技術を適用することも可能である。なお、上記実施形態では、例えばバイコール製のガラス管(70)から、第2のガラス部7を形成したが、必ずしもガラス管から形成しなくてもよい。金属箔4の全周囲を覆うような構成に限らず、金属箔4に接触して、封止部2の一部に圧縮応力が存在させ得るガラス構造体であれば、ガラス管に限定されない。例えば、ガラス管70の一部にスリットが入って「C字」状となったガラス構造体も用いられるし、金属箔4の片側または両側に接触するように例えばバイコール製のカラット(ガラス片またはガラス板)を配置させてもよいし、金属箔4の周囲を覆うように、例えばバイコール製のガラスファイバーを配置させてもよい。ただし、ガラス構造体ではなく、ガラス粉体、例えば、ガラス粉末を圧縮形成して焼結してなる焼結ガラス体を用いても、封止部2の一部に圧縮応力を存在させることができないので、ガラス粉体は使用しない方がよい。
加えて、一対の電極3間の間隔(アーク長)は、ショートアーク型であってもよいし、それより長い間隔であってもよい。上記実施形態のランプは、交流点灯型および直流点灯型のいずれの点灯方式でも使用可能である。また、上記実施形態で示した構成および改変例は相互に採用することが可能である。なお、金属箔4を含む封止部構造について説明したが、箔無し封止部構造について上記実施形態の構成を適用することも可能である。箔無しの封止部構造の場合においても、耐圧を高めること、および、信頼性を高めることは重要なことだからである。より具体的に述べると、電極構造体50として、モリブデン箔4を用いずに、一本の電極棒(タングステン棒)3を電極構造体とする。その電極棒3の少なくとも一部に第2のガラス部7を配置し、その第2のガラス部7および電極棒3を覆うように第1のガラス部8を形成して、封止部構造を構築することも可能である。この構成の場合、外部リード5も電極棒3によって構成することが可能となる。
上述した実施形態では、放電ランプについて説明したが、上記実施形態1の技術は、放電ランプに限らず、封止部(シール部)によって発光管の気密を保持する構成のランプであれば、放電ランプ以外のランプ(例えば、電球)にも適用可能である。上記実施形態1の技術を適用した電球を図15および図16に示す。
図15に示した電球500は、図1に示した構成において、発光管1内にフィラメント9が設けられたダブルエンド型の電球(例えば、ハロゲン電球)である。フィラメント9は、インナーリード(内部導入線)3aに接続されている。発光管1内にアンカーを設けても良い。
図16に示した電球600は、同図からわかるように、シングルエンド型の電球である。この例では、シングルエンド型のハロゲン電球を示している。電球600は、例えば、石英製のガラス球1、封止部2(第1のガラス部8、第2のガラス部7、モリブデン箔4)、フィラメント9、インナーリード31、アンカー32、アウターリード(外部導入線)5、インシュレーター51、口金52から構成されている。このようなハロゲン電球でも破裂の問題は重要な課題であり、上述の本発明の実施形態の技術により、破裂を防止できるようになることの技術的意義は大きい。
以上、本発明の好ましい例について説明したが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の変形が可能である。