JP2003071589A - 油井用高強度鋼管継手の製造方法 - Google Patents

油井用高強度鋼管継手の製造方法

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秀明 石井
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 溶接接合による高強度油井管の製造方法を提
供する。 【解決手段】 鋼管を、C:0.03%以下、Si:0.70%以
下、Mn:0.30〜2.00%、Cr:10.5〜15.0%、Ni:7.0 %
以下、N:0.03%以下、O:0.01%以下を含み、かつN
b:0.20%以下、V:0.20%以下のうちの1種または2
種を含有する母材組成を有する高強度鋼管の端部同士を
円周溶接するにあたり、溶接材料が、C+N:0.3 %以
下、Si:1.0 %以下、Mn:2.5 %以下、Cr:10.5〜24.0
%、Ni:8.0%以下を含み、あるいはさらに、Mo、Cuの
うちの1種または2種、および/またはNb、V、Ti、Z
r、B、Wのうちから選ばれた1種または2種以上、お
よび/またはCa、REM を含有する溶接材料とし、GTA
W法あるいはGMAW法を用いて溶接接合する。100 %
不活性ガス中でGMAW法を用いて溶接する場合には、
溶接材料にはREM は必須含有とすることが好ましい。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、原油あるいは天
然ガスの油井、ガス井に使用される油井管に係り、とく
に、特に炭酸ガス(CO2 )、塩素イオン(Clー )などを
含む極めて厳しい腐食環境下でも好適な、優れた耐食性
を有する油井用高強度マルテンサイト系ステンレス鋼管
継手の製造方法に関する。なお、本発明でいう、高強度
とは降伏強さ:654MPa以上をいうものとする。
【0002】
【従来の技術】近年、原油価格の高騰や、近い将来に予
想される石油資源の枯渇化を目前にして、従来は省りみ
られなかったような深層油田や、開発が一旦は放棄され
ていた腐食性の強い油田等に対する開発が、世界的規模
で盛んになっている。このような油田、ガス田は一般に
深度が極めて深く、またその雰囲気は高温でかつ、炭酸
ガス(CO2 )、塩素イオン(Clー )等を含む厳しい腐食
環境となっている。したがって、このような油田、ガス
田の採掘に使用される油井管は、高強度で、しかも耐食
性に優れた特性が要求される。そのため、一般に、この
ようなCO2 、Cl- 等を含む腐食環境下では、油井管とし
て、耐CO2 腐食性、耐孔食性に優れた13%Cr系マルテン
サイト系ステンレス鋼管が多く使用されている。
【0003】これら13%Cr系マルテンサイト系ステンレ
ス鋼管は、従来からネジ継手により接続され、油井管と
されていた。しかし、最近では、油田の掘削環境が厳し
くなり、それに対応してネジ継手においても、種々のPr
emium Joint が開発されている。しかしながら、ネジ継
手に対する要求も年々厳しくなり、曲げ等の条件が厳し
いPremium Joint によっても必要な特性が得られないよ
うな掘削条件も出現している。
【0004】このようなことから、油井管として、ライ
ンパイプ等で一般的な、溶接接合により鋼管を接続して
使用することが要望されるようになってきている。しか
しながら、従来の油井用鋼管は、強度が高く溶接性が劣
ることから、今まで油井管の接続に溶接を使用した例は
ない。さらに、溶接接合した場合には、溶接金属の強
度、靱性あるいはさらに母材 (鋼管)と溶接金属間の電
位差に起因するガルバニック腐食が問題となる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、上記した
従来技術の問題に鑑みなされたものであり、耐食性に優
れた高強度鋼管を溶接接合して、CO2 、Cl- 等を含む苛
酷な腐食環境下においても使用可能な優れた耐食性を示
す油井管とする、油井用高強度鋼管継手の製造方法を提
供することを目的とする。本発明では、代表的な油井用
鋼管である、13%Cr系マルテンサイト系ステンレス鋼継
目無管に着目し、これら鋼管の強度、靭性、耐食性等の
母材特性および溶接性を向上させるとともに、これら鋼
管を溶接接合した鋼管継手部の溶接性、耐食性が向上す
る鋼管継手の製造方法を提供するものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記した
課題を達成するために、まず代表的なマルテンサイト系
ステンレス鋼である13%Cr鋼をベースとし、C、Nを従
来より著しく低減し、さらに合金元素の含有量を調整
し、耐食性に優れ、かつ溶接可能なマルテンサイト系ス
テンレス鋼管としたうえで、これら鋼管の端部同士を溶
接接合するに際し、鋼管継手部の強度、 靭性および耐食
性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。その結果、
本発明者らは、溶接方法と溶接材料組成を適正に組み合
わせることにより、鋼管継手部の強度、 靭性が向上し、
さらに耐食性、とくにCO2 、Cl- 等を含む苛酷な腐食環
境下においても耐食性が顕著に向上することを見いだ
し、この発明を成すに至ったのである。
【0007】すなわち、この発明は、鋼管の端部同士を
溶接により接合し油井管とするに当り、前記鋼管を、ma
ss%で、C:0.03%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.30〜
2.00%、P:0.03%以下、S:0.005 %以下、Cr:10.5
〜15.0%、Ni:7.0 %以下、Al:0.05%以下、N:0.03
%以下、O:0.01%以下を含有し、さらにNb:0.20%以
下、V:0.20%以下のうちから選ばれた1種または2種
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物よりなる母材組
成を有する高強度マルテンサイト系ステンレス鋼管と
し、前記溶接をガスタングステンアーク溶接法による溶
接とし、さらに前記溶接時に使用する溶接材料を、mass
%で、C+N:0.3 %以下、Si:1.0 %以下、Mn:2.5
%以下、Cr:10.5〜21.5%、Ni:8.0 %以下を含有し、
残部Feおよび不可避的不純物よりなる溶材組成を有する
溶接材料とすることを特徴とする耐食性に優れた油井用
高強度鋼管継手の製造方法であり、また、この発明で
は、前記鋼管が、前記母材組成に加えてさらに、mass%
で、次a群〜c群 a群:Mo:0.1 〜3.0 %、Cu:3.5 %以下のうちから選
ばれた1種または2種 b群:Ti:0.3 %以下、Zr:0.2 %以下、B:0.0005〜
0.01%、W:3.0 %以下のうちから選ばれた1種または
2種以上 c群:Ca:0.0005〜0.01% のうちから選ばれた1群または2群以上を含有する鋼管
であることが好ましく、また、この発明では、前記溶接
材料が、前記溶材組成に加えてさらに、mass%で、次A
群〜D群 A群:Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、Ti:0.3 %以
下、Zr:0.2 %以下、B:0.01%以下、W:3.5 %以下
のうちから選ばれた1種または2種以上 B群:Mo:3.5 %以下、Cu:3.5 %以下のうちから選ば
れた1種または2種 C群:Ca:0.01%以下 D群:REM :0.1 %以下 のうちから選ばれた1群または2群以上を含有する溶接
材料であることが好ましい。
【0008】また、この発明では、前記溶接を、ガスメ
タルアーク溶接法による溶接とすることが好ましい。ま
た、この発明では、鋼管の端部同士を溶接により接合し
油井管とするに当り、前記鋼管を、mass%で、C:0.03
%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.30〜2.00%、P:0.03
%以下、S:0.005 %以下、Cr:10.5〜15.0%、Ni:7.
0 %以下、Al:0.05%以下、N:0.03%以下、O:0.01
%以下を含有し、さらにNb:0.20%以下、V:0.20%以
下のうちから選ばれた1種または2種を含有し、残部Fe
および不可避的不純物よりなる鋼管組成を有する高強度
マルテンサイト系ステンレス鋼管とし、前記溶接を100
%不活性ガス雰囲気中でのガスメタルアーク溶接法によ
る溶接とし、さらに前記溶接時に使用する溶接材料を、
mass%で、C+N:0.3%以下、Si:1.0 %以下、Mn:
2.5 %以下、Cr:10.5〜21.5%、Ni:8.0 %以下、REM
:0.1 %以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物
よりなる溶接材料組成を有する溶接材料とすることを特
徴とする耐食性に優れた油井用高強度鋼管継手の製造方
法であり、また、この発明では、前記鋼管が、前記母材
組成に加えてさらに、mass%で、前記a群〜c群のうち
から選ばれた1群または2群以上を含有する鋼管である
ことが好ましく、またこの発明では、前記溶接材料が、
前記溶材組成に加えてさらに、mass%で、次A群〜C群 A群:Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、Ti:0.3 %以
下、Zr:0.2 %以下、B:0.01%以下、W:3.5 %以下
のうちから選ばれた1種または2種以上 B群:Mo:3.5 %以下、Cu:3.5 %以下のうちから選ば
れた1種または2種 C群:Ca:0.01%以下 のうちから選ばれた1群または2群以上を含有する溶接
材料であることが好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】まず、本発明の高強度油井鋼管継
手の製造方法に使用する油井管用鋼管について説明す
る。本発明で使用する油井管用鋼管は、高強度マルテン
サイト系ステンレス鋼管であり、降伏強さYSが654MPa以
上の高強度と高靭性を有し、CO2 、Cl- 等を含む腐食環
境においても優れた耐食性を示す鋼管である。本発明で
使用する鋼管の鋼管組成の限定理由について説明する。
【0010】C:0.03%以下 Cは、マルテンサイト系ステンレス鋼管の強度を確保す
るために必要な元素であるが、溶接熱影響部の硬さを増
加し溶接割れ感受性を高め、溶接割れを引き起こす危険
性を高める。このため、この発明ではCは0.03%以下に
限定した。また、耐食性の観点からはCはできるだけ低
減するのが好ましく、0.02%以下とするのがより好まし
い。なおこの発明では、Cの低減による強度低下をNi、
Nb、Vの含有で補うこととした。
【0011】Si:0.70%以下 Siは、通常の製鋼過程において脱酸剤として必要な元素
であるが、0.70%を超えると耐CO2 腐食性等の耐食性を
低下させ、さらに熱間加工性をも低下させる。このた
め、Siは0.70%以下に限定した。なお、好ましくは、0.
10〜0.40%である。
【0012】Mn:0.30〜2.00% Mnは、マルテンサイト系ステンレス鋼管の強度を確保す
るために必要な元素であり、この発明では0.30%以上の
含有を必要とするが、2.00%を超えて含有すると靭性に
悪影響を及ぼす。このため、Mnは0.30〜2.00%の範囲に
限定した。なお、好ましくは、0.35〜1.50%である。
【0013】P:0.03%以下 Pは、耐CO2 腐食性、耐CO2 応力腐食割れ性、耐孔食性
および耐硫化物応力腐食割れ性をともに劣化させる元素
であり、できるだけ低減するのが望ましいが、極端な低
減は製造コストの高騰を招く。このため、Pは、工業的
に比較的安価に実施可能でかつ耐CO2 腐食性、耐CO2
力腐食割れ性、耐孔食性および耐硫化物応力腐食割れ性
を劣化させない範囲である0.03%以下とした。
【0014】S:0.005 %以下 Sは、パイプ製造過程においてその熱間加工性を著しく
劣化させる元素であり、鋼管製造過程における生産性向
上のためにも、できるだけ低減するのが望ましいが、極
端な低減は製造コストの高騰を招く。0.005 %以下に低
減すれば、通常の工程での鋼管製造が可能となることか
ら、この発明では、Sの上限を0.005 %とした。なお、
好ましくは0.003 %以下である。
【0015】Cr:10.5〜15.0% Crは、耐CO2 腐食性、耐CO2 応力腐食割れ性を保持する
ために主要な元素であり、耐食性の観点からは10.5%以
上の含有を必要とするが、15.0%を超えて含有すると熱
間加工性が劣化する。このことから、Crは10.5〜15.0%
の範囲に限定した。
【0016】Ni:7.0 %以下 Niは、保護皮膜を強固にする作用を有し、それにより耐
CO2 腐食性、耐CO2 応力腐食割れ性、耐孔食性を高める
元素である。また、Niは、固溶強化により鋼管の強度を
増加させる元素でもあり、Cを低減するこの発明では、
Niを強度増加のために添加されるが、強度増加の観点か
らは 1.0%以上含有するのが望ましい。一方、7.0 %を
超える含有はマルテンサイト組織の安定性を損なう。こ
のため、Niは7.0 %以下に限定した。なお、好ましくは
1.0 〜6.5 %である。
【0017】Al:0.05%以下 Alは、強力な脱酸作用を有する元素であるが、0.05%を
超える含有は靭性に悪影響を及ぼす。このため、Alは0.
05%以下に限定した。 N:0.03%以下 Nは、耐孔食性を著しく向上させる元素であるが、0.03
%を超える含有は、Cと同様に溶接熱影響部の硬さを増
加させ、溶接割れを引き起こす危険性が増大する。この
ため、Nは0.03%以下に限定した。なお、好ましくは
0.015%以下である。
【0018】O:0.01%以下 Oは、本発明鋼管の性能を十分発揮させるために、極め
て重要な元素である。すなわち、O含有量が多いと各種
の酸化物を形成して熱間加工性、耐CO2 応力腐食割れ
性、耐孔食性および靭性を著しく劣化させる。このた
め、Oは0.01%以下に限定した。なお、好ましくは0.00
6 %以下である。
【0019】Nb:0.20%以下、V:0.20%以下のうちの
1種または2種 Nb、Vは、いずれも靱性を劣化させずに常温、および高
温における強度を上昇させる作用を有する元素であり、
この発明ではNb、Vのうちから選ばれた1種または2種
を含有する。Nb、Vの含有量が、0.20%を超えると、靭
性を低下させる。このため、Nb:0.20%以下、V:0.20
%以下に限定した。なお、好ましくはNb:0.015 〜0.06
%、V:0.03〜0.10%である。
【0020】この発明では、鋼管は上記した組成に加え
てさらに、次a群〜c群 a群:Mo:0.1 〜3.0 %、Cu:3.5 %以下のうちから選
ばれた1種または2種 b群:Ti:0.3 %以下、Zr:0.2 %以下、B:0.0005〜
0.01%、W:3.0 %以下のうちから選ばれた1種または
2種以上 c群:Ca:0.0005〜0.01% のうちから選ばれた1群または2群以上を必要に応じ選
択して含有することができる。
【0021】a群:Mo:0.1 〜3.0 %、Cu:3.5 %以下
のうちから選ばれた1種または2種 a群:Mo、Cuは、いずれも耐食性を向上させる元素であ
り、必要に応じ選択して含有できる。 Moは、Cl- による孔食に対する抵抗性を増加させ、耐食
性を改善する元素である。このような効果は、0.1 %以
上の含有で認められるが、一方、3.0 %を超える含有は
δフェライトの発生を招き、耐CO2 腐食性、耐CO2 応力
腐食割れ性および熱間加工性を低下させる。このような
ことから、Moは0.1 〜3.0 %の範囲に限定するのが好ま
しい。なお、より好ましくは0.50〜2.50%である。
【0022】Cuは、保護皮膜を強固にして、鋼管中への
水素の侵入を抑制し、耐硫化物応力腐食割れ性等の耐食
性を高める元素であるが、3.5 %を超えて含有すると、
高温でCuS が粒界析出し、熱間加工性が低下する。この
ことから、Cuは3.5 %以下に限定するのが好ましい。な
お、より好ましくは0.2 〜2.5 %である。 b群:Ti:0.3 %以下、Zr:0.2 %以下、B:0.0005〜
0.01%、W:3.0 %以下のうちから選ばれた1種または
2種以上 b群:Ti、Zr、B、Wは、いずれも強度を上昇させ、耐
応力腐食割れ性を改善する作用を有し、この発明では必
要に応じ選択して含有できる。
【0023】Tiは0.3 %を、Zrは0.2 %を、Bは0.01%
を、Wは3.0 %を、それぞれ超えて含有すると靭性を劣
化させるため、Tiは0.3 %、Zrは0.2 %、Bは0.01%、
Wは3.0 %を、それぞれ上限とするのが好ましい。ま
た、Bは0.0005%未満では上記した効果が認められない
ため、0.0005%を下限とするのが好ましい。なお、より
好ましくは、Ti:0.03〜0.20%、Zr:0.02〜0.15%、
B:0.0003〜 0.005%、W:0.1 〜 2.0%である。
【0024】c群:Ca:0.0005〜0.01% c群:Caは、SをCaS として固定しS系介在物を球状化
し、介在物の周囲のマトリックスの格子歪を小さくし
て、水素のトラップ能を下げ、耐硫化物応力腐食割れ性
を向上させる元素であり、必要に応じ含有できる。この
ような効果は0.0005%以上の含有で顕著となるが、0.01
%を超える含有は、CaO の増加を招き、耐CO2 腐食性、
耐孔食性を低下させる。このため、Caは0.0005〜0.01%
に限定するのが好ましい。なお、より好ましくは0.001
〜0.005 %である。
【0025】上記した成分以外の残部は、Feおよび不可
避的不純物である。つぎに、この発明に使用する鋼管の
好ましい製造方法について、説明する。上記した組成の
鋼素材を熱間加工により鋼管とする。本発明では鋼素材
の製造方法についてはとくに限定する必要はない。転
炉、電気炉等の通常公知の溶製方法で上記した組成の溶
鋼を溶製し、あるいはさらに2次精錬等を付加したの
ち、連続鋳造法等の通常公知の鋳造方法で鋼素材(ビレ
ット)とするのが好ましい。
【0026】これら鋼素材を、通常の継目無鋼管の製造
工程を用いて継目無鋼管とすればよい。継目無鋼管の製
造工程としては、マンネスマン−プラグミル方式の熱間
加工による製造工程が好ましい。なお、継目無鋼管以外
の電縫鋼管、UOE鋼管の製造工程を用いて鋼管として
もよい。本発明では、上記した組成の鋼管の端部同士を
当接し、円周溶接して接合し、鋼管継手を作製する。こ
のような端部同士の溶接接合による鋼管継手の作製を、
必要な長さとなるまで繰り返し行い、油井管とする。
【0027】この発明では、上記した組成の鋼管の端部
同士を溶接接合するが、溶接接合は、ガスタングステン
アーク溶接法(GTAW)またはガスメタルアーク溶接
法(GMAW)によるものとする。なお、鋼管継手部
が、とくに高靭性を有することが要求される場合には、
溶接雰囲気は100 %不活性ガス雰囲気とすることが好ま
しい。
【0028】次に、鋼管継手の製造にあたり、用いる溶
接材料の溶材組成限定理由について説明する。この発明
で用いる溶接材料は、C+N:0.3 %以下、Si:1.0 %
以下、Mn:2.5 %以下、Cr:10.5〜21.5%、Ni:8.0 %
以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物よりなる溶
材組成を基本組成とする。
【0029】C+N:0.3 %以下 C、Nは、溶接金属の強度を確保するために必要な元素
であるが、C+Nが0.3 %を超えると溶接割れ発生の危
険性が増大するとともに、鋼管継手(溶接継手)部の耐
食性が低下する。このため、C+Nを0.3 %以下に限定
した。 Si:1.0 %以下 Siは、脱酸剤として必要な元素であるが、1.0 %を超え
ると溶接金属の靱性を低下させるとともに、高温割れ発
生の危険性が増大する。このため、Siは1.0 %以下に限
定した。なお、好ましくは、0.15〜0.50%である。
【0030】Mn:2.5 %以下 Mnは、溶接金属の耐溶接割れ性を向上させる作用を有す
る元素であり、0.1 %以上含有することが好ましいが、
2.5 %を超えて含有すると靭性に悪影響を及ぼす。この
ため、Mnは2.5 %以下に限定した。なお、好ましくは、
0.30〜1.50%である。
【0031】Cr:10.5〜21.5% Crは、耐CO2 腐食性、耐CO2 応力腐食割れ性等の耐食性
を保持するために主要な元素であり、耐食性の観点から
は10.5%以上の含有を必要とするが、24.5%を超えて含
有すると溶接熱影響部の靱性が劣化する。このことか
ら、Crは10.5〜24.5%の範囲に限定した。なお、好まし
くは10.5〜16.5%である。
【0032】Ni:8.0 %以下 Niは、保護皮膜を強固にする作用を有し、それにより耐
CO2 腐食性、耐CO2 応力腐食割れ性、耐孔食性等の耐食
性を高める元素であり、また、固溶強化により溶接金属
の強度を増加させる元素でもある。溶接金属の強度保持
の観点からは%以上含有するのが望ましいが、8.0 %を
超える含有は溶接金属におけるマルテンサイト組織の安
定性を損なうとともに、溶接金属の強度低下を生じ、継
手のアンダーマッチングを生じる危険性がある。また、
高温割れの発生傾向が増大するしやすくなる。このこと
から、Niは8.0 %以下に限定した。なお、好ましくは1.
5 〜 7.0%である。
【0033】この発明では、溶接材料は上記した溶材の
基本組成に加えて、さらにmass%で、次A群〜D群 A群:Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、Ti:0.3 %以
下、Zr:0.2 %以下、B:0.01%以下、W:3.5 %以下
のうちから選ばれた1種または2種以上 B群:Mo:3.5 %以下、Cu:3.5 %以下のうちから選ば
れた1種または2種 C群:Ca:0.01%以下 D群:REM :0.1 %以下 のうちから選ばれた1群または2群以上を必要に応じ選
択して含有することが好ましい。
【0034】A群:Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、
Ti:0.3 %以下、Zr:0.2 %以下、B:0.01%以下、
W:3.5 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上 A群:Nb、V、Ti、Zr、B、Wは、いずれも、溶接金属
の強度を上昇させるとともに、溶接金属の耐応力腐食割
れ性を改善する作用を有し、この発明では、必要に応じ
選択して含有できる。Nbは0.20%を、Vは0.20%を、Ti
は0.3 %を、Zrは0.2 %を、Bは0.01%を、Wは3.0 %
を、それぞれ超えて含有すると靭性を劣化させるため、
Nbは0.20%、Vは0.20%、Tiは0.3 %、Zrは0.2 %、B
は0.01%、Wは3.5 %を、それぞれ上限とするのが好ま
しい。なお、より好ましくは、Nb:0.015 〜0.15、V:
0.02〜0.15%、Ti:0.01〜0.20%、Zr:0.01〜0.15%、
B:0.0001〜0.0050%、W:0.1 〜 2.5%である。
【0035】B群:Mo:3.5 %以下、Cu:3.5 %以下の
うちから選ばれた1種または2種 B群:Mo、Cuはいずれも、溶接金属の耐食性を向上させ
る元素であり、 必要に応じ含有することが好ましい。 Moは、Cl- による孔食に対する抵抗性を増加させ、耐食
性を改善する元素である。このような効果を得るために
は、0.1 %以上含有するのが望ましい。一方、3.5 %を
超える含有は溶接金属の靱性を低下させる。このため、
Moは3.5 %以下に限定するのが好ましい。なお、より好
ましくは0.50〜 2.0%である。
【0036】Cuは、保護皮膜を強固にして、溶接金属中
への水素の侵入を抑制し、耐硫化物応力腐食割れ性等の
耐食性を高める元素であり、0.2 %以上含有するのが望
ましい。しかし、3.5 %を超えて含有すると、高温割れ
感受性が高くなる。このことから、Cuは3.5 %以下に限
定するのが好ましい。なお、より好ましくは 0.2〜2.5
%である。
【0037】C群:Ca:0.0005〜0.01% C群:Caは、溶接金属においても、S、Oを固定し水素
のトラップ能を下げる作用があり、必要に応じ含有でき
る。しかし、0.01%を超える含有は、CaO の増加を招
き、靱性が低下する。このことから、Caは0.01%以下と
することが好ましい。
【0038】D群:REM :0.1 %以下 D群:REM は、アーク溶接時のアークを安定化させ、溶
接継手部の品質を改善する作用を有しており、必要に応
じ含有できる。しかし、0.1 %を超えて含有すると、溶
接金属の靱性を低下させる危険性が増大する。このこと
から、REM は0.1 %以下とすることが好ましい。なお、
溶接を、100 %不活性ガス雰囲気中でGMAW法を用い
て行う場合には、この発明ではREM は必須含有とする。
【0039】この発明によれば、母材鋼管自体の強度靭
性および耐食性はもちろん、鋼管継手部でも、強度靭性
に優れ、炭酸ガス、塩素イオンを含む厳しい腐食環境下
における全面腐食、孔食等の発生を防止でき、耐食性に
優れた溶接継手部を有する油井管となる。また、鋼管継
手部におけるガルバニック腐食を防止できる。
【0040】
【実施例】次にこの発明の実施例について説明する。表
1に示す組成の鋼を転炉で溶製し、真空脱ガス処理を施
して精錬したのち、連続鋳造法により鋼管素材(ビレッ
ト)とした。これらの鋼管素材を加熱して、マンネスマ
ン−マンドレル方式のミルで造管し外径 101.6mm×肉厚
12.7mmの継目無鋼管とした。ついで、これら鋼管に、表
2に示す条件の熱処理(焼入れ−焼戻し)を施し、95ks
i グレードのマルテンサイト系ステンレス鋼管とした。
得られた鋼管の引張特性(降伏強さYS, 引張強さTS, 伸
びEl)および靭性(vE-40 )を表2に示す。
【0041】ついで、これら鋼管の端部同士を当接し、
表3に示す化学組成を有する溶接材料を用いて、表4に
示す溶接条件でガスタングステンアーク溶接(GTA
W)法またはガスメタルアーク溶接(GMAW)法を用
いて、円周溶接し鋼管継手(油井管)を作製した。開先
形状は60°のV開先とした。また、円周溶接前後の熱処
理は行わなかった。溶接終了後、 溶接ビードを目視で観
察し、溶接割れの有無で、溶接性を評価した。溶接割れ
有りを×、 無を○として表示した。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】ついで、これら鋼管継手の円周溶接部から
採取した試験片を用いて、溶接部の引張試験、靭性試
験、腐食試験を実施した。引張試験は、鋼管継手の溶接
部から管長手方向に引っ張り試験を採取して、引張強さ
を測定した。また、靭性試験は、溶接部中央にノッチを
導入したシャルピー衝撃試験片を採取し、ー20℃で衝撃
試験を行い、吸収エネルギーvE-20 を求めた。
【0047】また、腐食試験方法はつぎの通りとした。 炭酸ガス腐食試験 これら鋼管継手の円周溶接部から採取した試験片(大き
さ:3.0 ×25×50mm)を、オートクレーブで3.0 MPa の
炭酸ガスを飽和した20%NaCl水溶液(液温:100 ℃)中
に7日間浸漬したのち引き上げた。引上げた試験片につ
いて、腐食生成物を除去したのち、孔食の有無を目視に
より調査した。また、腐食試験後の試験片重量を測定し
板厚減少量に換算し、腐食速度(mm/y)を求めた。
【0048】ガルバニック腐食試験 これら鋼管継手の円周溶接部から採取した試験片(大き
さ:3.0 ×25×50mm)を、10%NaCl水溶液にHCl を添加
してpHを1.0 に調整した液(液温:65℃)中に2日間浸
漬したのち、引き上げた。引上げた試験片について、腐
食生成物を除去したのち、ガルバニック腐食の有無を目
視により調査した。
【0049】これらの試験結果から、孔食の発生したも
のは○、孔食の発生しなかったものは×として、耐孔食
性を評価した。また、ガルバニック腐食の発生したもの
は○、ガルバニック腐食の発生しなかったものは×とし
て、耐ガルバニック腐食性を評価した。また、実用的に
使用可能な腐食速度:0.100mm/y を限界値とし、この限
界値以上の腐食速度を示すものは×、限界値未満の腐食
速度を示すものは○として、耐全面腐食性を評価した。
【0050】それらの結果を表5に示す。
【0051】
【表5】
【0052】本発明例は、いずれも、溶接継手部の強
度、 靭性は優れるとともに、鋼管継手部には孔食および
ガルバニック腐食の発生は認められず、優れた耐孔食
性、耐ガルバニック腐食性を示している。また、本発明
例では、鋼管継手部の腐食速度は0.1mm/y 以下と小さ
く、実用的に使用可能なレベル以上の優れた耐全面腐食
性を有している。また、溶接割れの発生も認められず、
優れた溶接性を示している。
【0053】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、溶接接
合により高強度油井管を能率よく製造でき、炭酸ガス
(CO2 )、塩素イオン(Cl- )を含む高温で過酷な腐食
環境下においても十分な耐食性を示す油井管を安価に提
供でき、産業上格段の効果を奏する。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) // C22C 38/00 302 C22C 38/00 302Z 38/58 38/58 B23K 101:06 B23K 101:06 (72)発明者 豊岡 高明 愛知県半田市川崎町1丁目1番地 川崎製 鉄株式会社知多製造所内 (72)発明者 石井 秀明 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 (72)発明者 安田 功一 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 Fターム(参考) 4E001 AA03 BB07 BB08 CA03 CC03 DD01 EA05 4E081 AA08 BA03 BA27 BB04 CA08 CA11 DA05

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 鋼管の端部同士を溶接により接合し油井
    管とするに当り、前記鋼管を、mass%で、 C:0.03%以下、 Si:0.70%以下、 Mn:0.30〜2.00%、 P:0.03%以下、 S:0.005 %以下、 Cr:10.5〜15.0%、 Ni:7.0 %以下、 Al:0.05%以下、 N:0.03%以下、 O:0.01%以下 を含有し、さらにNb:0.20%以下、V:0.20%以下のう
    ちから選ばれた1種または2種を含有し、残部Feおよび
    不可避的不純物よりなる母材組成を有する高強度マルテ
    ンサイト系ステンレス鋼管とし、前記溶接をガスタング
    ステンアーク溶接法による溶接とし、前記溶接時に使用
    する溶接材料を、mass%で、 C+N:0.3 %以下、 Si:1.0 %以下、 Mn:2.5 %以下、 Cr:10.5〜21.5%、 Ni:8.0 %以下 を含有し、残部Feおよび不可避的不純物よりなる溶材組
    成を有する溶接材料とすることを特徴とする耐食性に優
    れた油井用高強度鋼管継手の製造方法。
  2. 【請求項2】 前記鋼管が、前記母材組成に加えてさら
    に、mass%で、下記a群〜c群のうちから選ばれた1群
    または2群以上を含有する鋼管であることを特徴とする
    請求項1に記載の油井用高強度鋼管継手の製造方法。 記 a群:Mo:0.1 〜3.0 %、Cu:3.5 %以下のうちから選
    ばれた1種または2種 b群:Ti:0.3 %以下、Zr:0.2 %以下、B:0.0005〜
    0.01%、W:3.0 %以下のうちから選ばれた1種または
    2種以上 c群:Ca:0.0005〜0.01%
  3. 【請求項3】 前記溶接材料が、前記溶材組成に加えて
    さらに、mass%で、下記A群〜D群のうちから選ばれた
    1群または2群以上を含有する溶接材料であることを特
    徴とする請求項1または2のいずれかに記載の油井用高
    強度鋼管継手の製造方法。 記 A群:Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、Ti:0.3 %以
    下、Zr:0.2 %以下、B:0.01%以下、W:3.5 %以下
    のうちから選ばれた1種または2種以上 B群:Mo:3.5 %以下、Cu:3.5 %以下のうちから選ば
    れた1種または2種 C群:Ca:0.01%以下 D群:REM :0.1 %以下
  4. 【請求項4】 前記溶接を、ガスメタルアーク溶接法に
    よる溶接とすることを特徴とする請求項1ないし3のい
    ずれかに記載の油井用高強度鋼管継手の製造方法。
  5. 【請求項5】 鋼管の端部同士を溶接により接合し油井
    管とするに当り、前記鋼管を、mass%で、 C:0.03%以下、 Si:0.70%以下、 Mn:0.30〜2.00%、 P:0.03%以下、 S:0.005 %以下、 Cr:10.5〜15.0%、 Ni:7.0 %以下、 Al:0.05%以下、 N:0.03%以下、 O:0.01%以下 を含有し、さらにNb:0.20%以下、V:0.20%以下のう
    ちから選ばれた1種または2種を含有し、残部Feおよび
    不可避的不純物よりなる鋼管組成を有する高強度マルテ
    ンサイト系ステンレス鋼管とし、 前記溶接を100 %不活性ガス雰囲気中でのガスメタルア
    ーク溶接法による溶接とし、 前記溶接時に使用する溶接材料を、mass%で、 C+N:0.3 %以下、 Si:1.0 %以下、 Mn:2.5 %以下、 Cr:10.5〜21.5%、 Ni:8.0 %以下 REM :0.1 %以下 を含有し、残部Feおよび不可避的不純物よりなる溶接材
    料組成を有する溶接材料とすることを特徴とする耐食性
    に優れた油井用高強度鋼管継手の製造方法。
  6. 【請求項6】 前記鋼管が、前記母材組成に加えてさら
    に、mass%で、下記a群〜c群のうちから選ばれた1群
    または2群以上を含有する鋼管であることを特徴とする
    請求項5に記載の油井用高強度鋼管継手の製造方法。 記 a群:Mo:0.1 〜3.0 %、Cu:3.5 %以下のうちから選
    ばれた1種または2種 b群:Ti:0.3 %以下、Zr:0.2 %以下、B:0.0005〜
    0.01%、W:3.0 %以下のうちから選ばれた1種または
    2種以上 c群:Ca:0.0005〜0.01%
  7. 【請求項7】 前記溶接材料が、前記溶材組成に加えて
    さらに、mass%で、下記A群〜C群のうちから選ばれた
    1群または2群以上を含有する溶接材料であることを特
    徴とする請求項5または6に記載の油井用高強度鋼管継
    手の製造方法。 記 A群:Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、Ti:0.3 %以
    下、Zr:0.2 %以下、B:0.01%以下、W:3.5 %以下
    のうちから選ばれた1種または2種以上 B群:Mo:3.5 %以下、Cu:3.5 %以下のうちから選ば
    れた1種または2種 C群:Ca:0.01%以下
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