JP3941298B2 - 油井用高強度マルテンサイト系ステンレス鋼管 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、油井用マルテンサイト系ステンレス鋼管に係り、とくに高強度マルテンサイト系ステンレス鋼管の溶接性改善に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、原油価格の高騰や、近い将来に予想される石油資源の枯渇という観点から、従来省みられなかったような深層油田や、腐食性の強い油田、ガス田等の開発が盛んになっている。このような油田、ガス田は、概して高深度で、かつ高温で、しかも炭酸ガスCO2 、塩素イオンCl- 等を含む厳しい腐食環境となっており、このような環境下で使用される油井用鋼管は高い高温強度と耐食性を兼ね備えた材質を有することが要求される。
【0003】
従来から、CO2 、Cl- 等を含む環境の油田、ガス田では、採掘に使用する油井管として、耐炭酸ガス腐食性、耐孔食性に優れた13%Crマルテンサイト系ステンレス鋼管が多く使用されている。
近年、油井、ガス井等の深さは、資源の枯渇や掘削技術の進歩に伴い、数千mから1万mという深さに達しようとしている。油井、ガス井内に建て込む油井管は、膨大な本数の鋼管をカップリングにて直列に接続して組み立てられるの一般的である。鋼管の端部およびカップリングにはそれぞれ接続用のネジが刻設される。
【0004】
しかし、最近では、油田の掘削環境が厳しくなり、油井管の接続手段である、ネジに対する要求も厳しくなり、種々のPremium Joint が開発されている。しかし、そのPremium Joint によっても対処できないような厳しい掘削条件の油井等も出現しており、ネジ接続に代わる、信頼性の高い油井管の接続方法が熱望されている。
【0005】
鋼管の接続方法としては、ラインパイプの接続のように溶接が考えられるが、油井用鋼管は強度が高く溶接性が劣ることから、現在まで油井管の接続に溶接を利用した例はない。
最近、接合部の品質に優れる拡散接合が油井管の接合手段として注目されている。例えば、特開平10-6038 号公報には、油井管の接合に利用できる拡散接合装置が、また、特開平10-85955号公報には、拡散接合におけるインサートメタルの固定方法が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平10-6038 号公報、特開平10-85955号公報に記載された技術では、接合時間がそれほど短縮できるわけではないうえ、さらに拡散接合のために大型で複雑な装置の設置が必要となるなど、作業性、コスト面でまだ多くの問題が残されており、実用の段階に至っていないというのが現状である。
【0007】
本発明者らは、上記した従来技術の問題に鑑み、作業性に優れ、接合能率の高い溶接接合に着目し、油井管の溶接接合を可能とするために、溶接性が従来に比べ格段に向上した油井用高強度鋼管の開発を目標した。
本発明は、CO2 、Cl- 等を含む過酷な環境下においても優れた耐食性と、高強度を有し、溶接接続が可能な溶接性に優れた高強度油井用高強度マルテンサイト系ステンレス鋼管を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するため、13%Cr鋼を基本組成とし、耐食性、高強度および溶接性を兼備させるための合金元素の含有量について検討した。その結果、C+N含有量を著しく低減し、さらにNb、Vを適正範囲で含有させ、Si、Mn、Mo、Ni、Cu含有量をCr、C、N含有量との関係で調整し、さらにS、Si、Al、Oを低減することにより良好な熱間加工性が確保されるとともに、溶接性が著しく改善され、さらに過酷な環境下での耐食性、とくに耐孔食性、耐硫化物応力腐食割れ性が顕著に改善されることを見いだした。
【0009】
本発明は、このような知見に基づき、さらに検討を加え完成されたものである。
すなわち、本発明は、mass%で、C:0.03%以下、N:0.03%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.30〜2.00%、P:0.03%以下、S:0.005 %以下、Cr:10.5〜15.0%、Ni:7.0 %以下、Al:0.05%以下、Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、O:0.01%以下を、次(1)〜(4)式
C+N≦0.04 ………(1)
0.01≦0.8Nb +0.5 V≦0.20 ………(2)
Cr+Mo+16N+0.5Ni −5 C≧11.5 ………(3)
1.1 (Cr +1.5Si +Mo) −Ni−0.5(Mn+Cu) −30( C+N) ≦11 …(4)
(ここに、C、N、Nb、V、Cr、Ni、Si、Mo、Mn、Cu:各元素の含有量(mass%))
を満足する条件下で含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする靱性、耐食性および溶接性に優れた油井用高強度マルテンサイト系ステンレス鋼管である。
【0010】
また、本発明では、前記組成を、mass%で、C:0.03%以下、N:0.03%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.30〜2.00%、P:0.03%以下、S:0.005 %以下、Cr:10.5〜15.0%、Ni:7.0 %以下、Al:0.05%以下、Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、O:0.01%以下、さらにMo:0.1 〜3.0 %、Cu:3.5 %以下のうちから選ばれた1種または2種を、前記(1)〜(4)式を満足する条件下で含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とするのが好ましい。
【0011】
また、本発明では、前記組成を、mass%で、C:0.03%以下、N:0.03%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.30〜2.00%、P:0.03%以下、S:0.005 %以下、Cr:10.5〜15.0%、Ni:7.0 %以下、Al:0.05%以下、Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、O:0.01%以下、さらにTi:0.3 %以下、B:0.0005〜0.01%、W:3.0 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記(1)〜(4)式を満足する条件下で含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とするのが好ましい。
【0012】
また、本発明では、前記組成を、mass%で、C:0.03%以下、N:0.03%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.30〜2.00%、P:0.03%以下、S:0.005 %以下、Cr:10.5〜15.0%、Ni:7.0 %以下、Al:0.05%以下、Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、O:0.01%以下、さらにCa:0.0005〜0.01%を、前記(1)〜(4)式を満足する条件下で含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とするのが好ましい。
【0013】
また、本発明では、前記組成を、mass%で、C:0.03%以下、N:0.03%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.30〜2.00%、P:0.03%以下、S:0.005 %以下、Cr:10.5〜15.0%、Ni:7.0 %以下、Al:0.05%以下、Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、O:0.01%以下、さらにMo:0.1 〜3.0 %、Cu:3.5 %以下のうちから選ばれた1種または2種、およびTi:0.3 %以下、B:0.0005〜0.01%、W:3.0 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上を、前記(1)〜(4)式を満足する条件下で含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とするのが好ましい。
【0014】
また、本発明では、前記組成を、mass%で、C:0.03%以下、N:0.03%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.30〜2.00%、P:0.03%以下、S:0.005 %以下、Cr:10.5〜15.0%、Ni:7.0 %以下、Al:0.05%以下、Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、O:0.01%以下、さらにMo:0.1 〜3.0 %、Cu:3.5 %以下のうちから選ばれた1種または2種、およびCa:0.0005〜0.01%を、前記(1)〜(4)式を満足する条件下で含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とするのが好ましい。
【0015】
また、本発明では、前記組成を、mass%で、C:0.03%以下、N:0.03%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.30〜2.00%、P:0.03%以下、S:0.005 %以下、Cr:10.5〜15.0%、Ni:7.0 %以下、Al:0.05%以下、Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、O:0.01%以下、さらにTi:0.3 %以下、B:0.0005〜0.01%、W:3.0 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上、およびCa:0.0005〜0.01%を、前記(1)〜(4)式を満足する条件下で含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とするのが好ましい。
【0016】
また、本発明では、前記組成を、mass%で、C:0.03%以下、N:0.03%以下、Si:0.70%以下、Mn:0.30〜2.00%、P:0.03%以下、S:0.005 %以下、Cr:10.5〜15.0%、Ni:7.0 %以下、Al:0.05%以下、Nb:0.20%以下、V:0.20%以下、O:0.01%以下、さらにMo:0.1 〜0.3 %、Cu:3.5 %以下のうちから選ばれた1種または2種、およびTi:0.3 %以下、B:0.0005〜0.01%、W:3.0 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上、およびCa:0.0005〜0.01%を、前記(1)〜(4)式を満足する条件下で含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とするのが好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明の油井用高強度マルテンサイト系ステンレス鋼管は、95ksi 以上の降伏強さYSを有し、−20℃における吸収エネルギーvE-20 が50J以上の高強度高靱性の母材特性を有し、入熱15kJ/cm の溶接熱影響部(ボンド部から1mmのHAZ )における−20℃における吸収エネルギーvE-20 が50J以上と溶接性にすぐれ、かつ耐食性に優れた油井用高強度鋼管である。本発明の高強度鋼管は、継目無鋼管( シームレス鋼管)、または溶接鋼管である。
【0018】
次に、本発明の油井用高強度鋼管の化学成分限定の理由について説明する。
C:0.03mass%以下(以下、mass%は単に%と記す)
Cは、マルテンサイト系ステンレス鋼においては強度を確保するために重要な元素であるが、多量の含有は溶接熱影響部の硬さを増加させ溶接割れを発生させる危険性を増大させるため、溶接性の観点から、所望の強度を確保できる範囲でできるだけ低減するのが好ましく、本発明では0.03%以下に限定した。また、Cは耐食性の観点からも低減するのが望ましく、0.02%以下とするのが好ましい。
【0019】
N:0.03%以下
Nは、耐孔食性を著しく増加させる元素であるが、0.03%を超えて含有すると、Cと同様に溶接熱影響部の硬さを増加させ、溶接割れを発生させる危険性が増大する。このようなことから、Nは0.03%以下に限定した。なお、好ましくは0.02%以下である。
【0020】
C+N≦0.04 ………(1)
本発明では、鋼管の溶接性を向上させるために、C、N含有量を上記した範囲内でさらに(1)式を満足するように限定する。C+Nが0.04%を超えると、溶接性、とくに溶接割れ性が顕著に増大する。このため、C+Nを0.04%以下に限定した。なお、より好ましくはC+Nは0.025 %以下である。
【0021】
Si:0.70%以下
Siは、脱酸剤として作用するとともに、強度を増加させる元素であるが、0.70%を超えて含有すると、熱間加工性が低下し、さらに耐炭酸ガス腐食性が低下する。このため、本発明では0.70%以下に限定した。なお、好ましくは0.1 〜0.5 %である。
【0022】
Mn:0.30〜2.00%
Mnは、強度を増加させる元素であり、本発明では所望の鋼管強度を確保するために0.30%以上の含有を必要とするが、2.00%を超える含有は靱性を劣化させる。このため、Mnは0.30〜2.00%の範囲に限定した。
P:0.03%以下
Pは、強度を増加させるが、延性、靱性を低下させ、さらに、耐CO2 腐食性、耐CO2 応力腐食割れ性、耐孔食性および耐硫化物応力腐食割れ性をともに劣化させる元素であり、できるだけ低減するのが望ましい。しかし、極端な低減は製造コストの高騰を招き好ましくない。本発明では、工業的に比較的安価に実施可能でかつ耐CO2 腐食性、耐CO2 応力腐食割れ性、耐孔食性および耐硫化物応力腐食割れ性を劣化させない範囲の0.03%を上限とした。
【0023】
S:0.005 %以下
Sは、パイプ製造過程で熱間加工性を著しく劣化させる元素であり、できるだけ低減するのが望ましいが、0.005 %以下であれば、通常の工程でパイプ製造が可能である。このことから、本発明ではSは0.005 %以下に限定した。なお、好ましくは0.003 %以下である。
【0024】
Cr:10.5〜15.0%
Crは、保護被膜を形成し耐CO2 腐食性、耐CO2 応力腐食割れ性等の耐食性を増加させる元素であり、耐食性の観点からは10.5%以上の含有を必要とするが、15.0%を超えて含有するとパイプ製造工程での熱間加工性が低下する。このため、本発明ではCrは10.5〜15.0%の範囲に限定した。
【0025】
Ni:7.0 %以下
Niは、保護被膜を強化し耐食性を増加させる元素であり、また、鋼管強度を増加させる元素でもあり、好ましくは0.1 %以上含有するのが好ましい。一方、7.0 %を超える含有はマルテンサイト組織の安定性を低下させる。このため、本発明では7.0 %以下に限定した。なお、好ましくは1.0 〜6.0 %である。
【0026】
Al:0.05%以下
Alは、脱酸剤として作用するが、0.05%を超える含有は靱性を劣化させるため、本発明では、0.05%以下に限定した。
Nb:0.20%以下
Nbは、靱性を劣化させずに常温、高温における強度を増加させる効果を有している。本発明では、C低減による強度低下を補償する目的でNbを添加するが、0.01%以上の含有で強度増加の効果が顕著に認められるため、0.01%以上含有するのが好ましい。しかし、0.20%を超えて含有すると靱性が劣化する。このため、Nbは0.20%以下に限定した。なお、好ましくは、0.01〜0.07%である。
【0027】
V:0.20%以下
Vも、Nbと同様に靱性を劣化させずに常温、高温における強度を増加させる効果を有し、C低減による強度低下を補償する目的でNbとともに添加する。0.02%以上の含有で、強度増加の効果が顕著に認められ、0.02%以上含有するのが好ましい。しかし、0.20%を超えて含有すると靱性が劣化する。このため、Vは0.20%以下に限定した。なお、好ましくは、0.03〜0.10%である。
【0028】
0.01≦0.8Nb +0.5 V≦0.20 ………(2)
Nb、Vはともに所望の鋼管強度を確保する目的で添加するが、強度、靱性のバランスを考慮して、Nb、V含有量を上記したそれぞれの範囲内で、かつ(2)式を満足させるように調整する。(0.8Nb +0.5 V)が0.01未満、好ましくは0.010 未満では強度増加が少なく、一方、0.20を超えると靱性劣化が著しくなる。
【0029】
O:0.01%以下
Oは他の元素と結合し各種の酸化物を形成し、熱間加工性、靱性および耐食性を著しく低下させる。とくに耐CO2 腐食性、耐CO2 応力腐食割れ性、耐孔食性を劣化させる。このため、Oは0.01%以下、好ましくは0.006 %以下とする。
Mo:0.1 〜3.0 %、Cu:3.5 %以下のうちから選ばれた1種または2種
Mo、Cuはいずれも耐食性を高める元素であり、必要に応じ選択して含有できる。
【0030】
Moは、耐食性、とくに塩素イオンCl- による孔食に対する抵抗を増加させる効果を有する。このような効果は0.1 %以上の含有で認められるが、3.0 %を超えて含有するとδフェライトの生成を招き、熱間加工性が低下するとともに耐CO2 腐食性、耐CO2 応力腐食割れ性が低下する。このため、Moは0.1 〜3.0 %の範囲に限定するのが好ましい。なお、より好ましくは、0.5 〜2.0 %である。
【0031】
Cuは、とくに、保護被膜を強固にし、鋼中への水素の侵入を抑制して耐硫化物応力腐食割れ性を高める。しかし、3.5 %を超えて含有すると、高温でCuS が結晶粒界に析出し熱間加工性を低下させる。このため、Cuは3.5 %以下とするのが好ましい。なお、より好ましくは0.2 〜2.5 %である。
Ti:0.3 %以下、B:0.0005〜0.01%、W:3.0 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Ti、B、Wは、いずれも強度を増加させ、かつ耐硫化物応力腐食割れ性を改善する効果を有しており、必要に応じ、Ti、B、Wのうちの1種または2種以上を選択して含有できる。しかし、Tiは0.3 %、Bは0.01%、Wは3.0 %、をそれぞれ超えて含有すると靱性が劣化する。また、Bは0.0005%以上の含有で上記した効果が認められる。このため、本発明では、Tiは0.3 %以下、Bは0.0005〜0.01%、Wは3.0 %以下に限定するのが好ましい。
【0032】
Ca:0.0005〜0.01%
Caは、Sと結合し硫化物を球状化し、介在物周囲のマトリックスの格子歪を低減し、介在物の水素トラップ能を低下させる作用を有しており、必要に応じ含有できる。この効果は0.0005%以上のCa含有で認められるが、0.01%を超えて含有すると、CaO の増加を招き、耐CO2 腐食性、耐孔食性が劣化する。このため、Caは0.0005〜0.01%の範囲に限定するのが好ましい。なお、より好ましくは0.001 〜0.005 %である。
【0033】
本発明の鋼管は、上記した成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。
さらに、本発明では、耐食性改善のために、合金元素量を(3)式、(4)式の範囲に調整する。
Cr+Mo+16N+0.5Ni −5 C≧11.5 ………(3)
1.1 (Cr +1.5Si +Mo) −Ni−0.5(Mn+Cu) −30( C+N) ≦11 …(4)
(3)式は、孔食状の不均一腐食の発生を防止するための限定条件であり、(3)式が満足されない場合には孔食状の不均一腐食が発生しやすくする。
【0034】
また、(4)式は、組織の不均一をなくし、孔食状の不均一腐食の発生を抑制し、さらに応力腐食割れの発生を防止するための限定条件であり、(4)式が満足されない場合には孔食状の不均一腐食が発生しやすくなるとともに、応力割れが発生しやすくなり、耐応力腐食割れ性が劣化する。
なお、本発明においては、前記(1)〜(4)式の値を計算するに際しては、含有しない合金元素については、当該合金元素の含有量を0として計算するものとする。
【0035】
つぎに、本発明鋼管の製造方法について説明する。
上記した組成の鋼を、転炉、電気炉等の通常公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法あるいは鋼塊−分塊圧延により鋼管素材とするのが好ましい。
これら鋼管素材を、通常の継目無鋼管製造工程、すなわち加熱し、マンネスマン穿孔機で穿孔し、プラグミル方式、マンドレル方式等の傾斜圧延方式ミルを用いて熱間圧延し、所定寸法の継目無鋼管とするのが好ましい。この継目無鋼管は圧延のままで、マルテンサイト組織となるが、所望の強度靱性を付与するために、継目無鋼管はその後焼戻し処理、あるいは焼入れ焼戻し処理を施されて所定の強度、靱性を付与されるのが好ましい。焼戻し処理は、Ac3変態点以下の温度、好ましくは500 〜650 ℃で行うのが好ましい。また、焼入れ焼戻し処理は、Ac3変態点以上、好ましくは900 〜1000℃に加熱し焼入れを行ったのち、Ac3変態点以下、好ましくは500 〜650 ℃の温度で焼戻しするのが良い。
【0036】
また、これら鋼管素材を熱間圧延により鋼帯とし、該鋼帯に、焼戻し処理、あるいは焼入れ焼戻し処理を施し所定の強度としたのち、通常の電縫管製造工程、すなわち、成形−溶接−矯正にしたがって、所定寸法の電縫鋼管としてもよい。また鋼帯の状態では、圧延のままとして、通常の電縫管製造工程を経て電縫鋼管としたのち、電縫鋼管全体もしくはシーム溶接部に焼戻し処理、あるいは焼入れ焼戻し処理を施して所定の強度、靱性を付与してもよい。なお、焼戻し処理は、Ac3変態点以下の温度でおこなうのが好ましい。また、焼入れ焼戻し処理は、Ac3変態点以上1000℃以下に加熱し水冷または空冷する焼入れを行ったのち、Ac3変態点以下、好ましくは500 〜650 ℃の温度で焼戻しするが好ましい。また、電縫溶接の代わりにレーザ溶接を使用してもよい。
【0037】
【実施例】
表1に示す組成の鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法によりビレットとした。これらのビレットを1200℃に加熱して、マンネスマンマンドレル方式のミルで造管し、圧延後空冷し継目無鋼管とした。ついで、これら鋼管に表2に示す条件の焼入れ焼戻し処理を施し、降伏強さ95ksi 級の強度を有する鋼管とした。
【0038】
これら鋼管について、引張試験、シャルピー衝撃試験、溶接継手試験および腐食試験を実施し、引張特性、衝撃特性、溶接継手部特性および耐食性を調査した。
引張試験は、これら鋼管の長手方向からAPI 丸棒試験片を採取し、降伏強さYS、引張強さTS、伸びElを測定した。
【0039】
衝撃試験は、これら鋼管の長手方向からJIS 4 号試験片を採取し、−20℃における吸収エネルギーvE-20 を測定した。
溶接継手試験は、同一鋼種の鋼管の端部同士を突き合わせて、25Cr系溶接ワイヤを用いてTIG溶接法(入熱15kJ/cm )で、予熱および後熱なしの条件で円周溶接し鋼管溶接継手を作製した。開先形状はV型とした。これら溶接継手部の溶接熱影響部(bondから1mmのHAZ)からシャルピー衝撃試験片(JIS 4 号試験片)を採取し、−20℃における吸収エネルギーvE-20 を測定した。
【0040】
なお、溶接継手試験は、予め行った溶接割れ試験により割れの発生が認められなかった鋼管について実施した。溶接割れ試験はJIS Z 3158「y型溶接割れ試験」に準拠して、鋼管と同一組成の15mm厚鋼板で実施した。なお、予熱は30℃一定とした。
腐食試験は、これら鋼管から3.0 ×25×50mmの腐食試験片を採取し、炭酸ガス腐食試験を実施し、耐孔食性を評価した。炭酸ガス腐食試験は、オートクレーブで3.0MPaの圧力で炭酸ガスを飽和させた20%NaCl水溶液(液温:80℃)中に腐食試験片を7日間浸漬し、孔食の発生状況を調査した。孔食の発生状況は、孔食の発生したものを○、孔食の発生しなかったものを×で評価した。
【0041】
これらの結果を表2に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
本発明例は、降伏強さ95ksi 級の高強度しているにもかかわらず、−20℃における吸収エネルギー( vE-20 )も50J以上と高く優れた靱性を示し、しかも予熱30℃という厳しい溶接条件においても、溶接割れの発生もなく優れた溶接性を示している。また、本発明例は、炭酸ガス環境下の腐食試験においても孔食の発生もなく優れた耐孔食性を有している。また、溶接熱影響部も、−20℃における吸収エネルギー( vE-20 )が50J以上と高く、優れた靱性を有している。
【0045】
一方、本発明の範囲を外れる比較例は、溶接性(溶接割れ、熱影響部靱性)、耐食性のうちいずれかが劣化していた。
このように、本発明の鋼管は、高強度高靱性で、かつ優れた溶接性、優れた耐孔食性を有しており、油井用鋼管として優れた特性を有していることがわかる。
【0046】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、炭酸ガス環境下で優れた耐孔食性を示し、さらに、耐溶接割れ性に優れ、溶接部の低温靱性も高く、予熱、後熱なしで円周溶接が可能であり、CO2 、Cl- 、H2S を含む過酷な環境下の油井で使用可能な、油井用マルテンサイト系ステンレス鋼管を提供でき、産業上格段の効果を奏する。
Claims (4)
- mass%で、
C:0.03%以下、 N:0.03%以下、
Si:0.70%以下、 Mn:0.30〜2.00%、
P:0.03%以下、 S:0.005 %以下、
Cr:10.5〜15.0%、 Ni:7.0 %以下、
Al:0.05%以下、 Nb:0.20%以下、
V:0.20%以下、 O:0.01%以下
を、下記(1)〜(4)式を満足する条件下で含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする靱性、耐食性および溶接性に優れた油井用高強度マルテンサイト系ステンレス鋼管。
記
C+N≦0.04 ………(1)
0.01≦0.8Nb +0.5 V≦0.20 ………(2)
Cr+Mo+16N+0.5Ni −5 C≧11.5 ………(3)
1.1 (Cr +1.5Si +Mo) −Ni−0.5(Mn+Cu) −30( C+N) ≦11 …(4)
ここに、C、N、Nb、V、Cr、Ni、Si、Mo、Mn、Cu:各元素の含有量(mass%) - 前記組成が、さらにmass%で、Mo:0.1 〜3.0 %、Cu:3.5 %以下のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載の油井用高強度マルテンサイト系ステンレス鋼管。
- 前記組成が、さらにmass%で、Ti:0.3 %以下、B:0.0005〜0.01%、W:3.0 %以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の油井用高強度マルテンサイト系ステンレス鋼管。
- 前記組成が、さらにmass%で、Ca:0.0005〜0.01%を含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の油井用高強度マルテンサイト系ステンレス鋼管。
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