JP2002178077A - コイルばねの製造方法 - Google Patents

コイルばねの製造方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 ピアノ線材(JIS G3502)を使用し、しかも
オイルテンパー処理を行うことなく、それを施したもの
と同等程度の耐久性、耐へたり性等ばねとしての基本的
性能及び信頼性を確保することのできる方法を提供す
る。 【解決手段】 ピアノ線材を、所定の径となるように所
定の加工度で伸線加工し、コイリング成形した後、25
0〜450℃で焼鈍を行い、それ以下の温度(ただし2
00℃以上)で温間セッチングを行う。なお、より強度
を高め、特に高温特性(比較的高温環境下で使用される
エンジン用弁ばねの耐へたり性等)を向上させるため
に、素材鋼のシリコン量を0.80〜1.50%に高め
てもよい。温間セッチングは、焼鈍工程中(特に最後の
段階)及び/又は焼鈍工程後の冷却過程で行うことが望
ましい。これにより、熱エネルギーを節約することがで
きる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車等に用いら
れる、耐久性・耐へたり性に優れた小型のコイルばね及
びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車には、エンジンやトランスミッシ
ョン等に多数の小型のコイルばねが用いられている。特
にエンジンの弁ばねは、比較的高温の中で常時高速振動
下で用いられ、しかもその破損はエンジンの損傷にもつ
ながるため、非常に高い信頼性が要求される。
【0003】このような小型コイルばね(特に弁ばね)
の材料として、従来より各種オイルテンパー線が広く用
いられてきた。オイルテンパー線として、日本工業規格
(JIS)にはばね用炭素鋼オイルテンパー線(SWO:G356
0)、弁ばね用炭素鋼オイルテンパー線(SWO-V:G356
1)、弁ばね用クロムバナジウム鋼オイルテンパー線(S
WOCV-V:G3565)、弁ばね用シリコンクロム鋼オイルテ
ンパー線(SWOSC-V:G3566)、及びばね用シリコンマン
ガン鋼オイルテンパー線(SWOSM:G1239)が規定されて
いる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】これらのオイルテンパ
ー線は高性能ではあるものの、オーステナイト化温度以
上への加熱・冷却及び再加熱というオイルテンパー処理
工程を経なければならないため、製造工程が複雑であ
り、高価なものとなっている。また、弁ばね用クロムバ
ナジウム鋼オイルテンパー線(SWOCV-V)や弁ばね用シ
リコンクロム鋼オイルテンパー線(SWOSC-V)は更に、
クロムやバナジウム等の高価な合金元素を含んでいる。
地球的規模の資源保存の観点から、必要な性能が得られ
るのであれば、不要なエネルギーを消費したり貴重な資
源を使用することは避けなければならない。
【0005】弁ばね用炭素鋼オイルテンパー線(SWO-
V)の材料として、JIS G3561ではピアノ線材(JIS G350
2)のSWRS62B、SWRS67B、SWRS72Bを用いることと定めて
いる。従って、素材としては弁ばね用炭素鋼オイルテン
パー線(SWO-V)はピアノ線(JIS G3522)と同じもので
あるが、オイルテンパー処理を施すことにより、耐久
性、耐へたり性等の高度な性能を付与され、高信頼性が
要求される部分のばねとして使用可能となっている。
【0006】本発明は、ピアノ線材を使用し、しかもオ
イルテンパー処理を施すことなく、それを施したものと
同等程度の耐久性、耐へたり性等ばねとしての基本的性
能及び信頼性を確保することのできる方法を提供するも
のである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明に係るコイルばね
の製造方法は、ばね用硬引線材をコイリング成形後、2
50〜450℃で焼鈍を行い、200℃以上であり且つ
該焼鈍温度以下の温度で温間セッチングを行うことを特
徴とする。なお、ばね用硬引線材としては、重量比で
C:0.60〜0.95%、Si:0.10〜0.80
%、Mn:0.30〜0.90%、P:0.025%以
下、S:0.025%以下、Cu:0.20%以下を含
有し、残部Fe及び不可避的不純物から成る鋼を素材と
する線材とすることが望ましい。
【0008】この素材鋼の化学成分範囲は、JIS G3502
「ピアノ線材」のSWRS62A〜SWRS92Bとして規定される各
化学成分範囲の包括範囲である。すなわち本発明は、ピ
アノ線材を、所定の径となるように所定の加工度で伸線
加工し、コイリング成形した後、250〜450℃で焼
鈍を行い、それ以下の温度(ただし200℃以上)で温
間セッチングを行うというものである。
【0009】なお、より強度を高め、特に高温特性(比
較的高温環境下で使用されるエンジン用弁ばねの耐へた
り性等)を向上させるために、素材鋼のシリコン量を
0.80〜1.50%に高めてもよい。
【0010】温間セッチングは、焼鈍工程中(特に最後
の段階)及び/又は焼鈍工程後の冷却過程で行うことが
望ましい。これにより、熱エネルギーを節約することが
できる。
【0011】焼鈍は、ピアノ線材製造時及びコイリング
時の加工歪を緩和して、コイルばねの耐へたり性、耐久
性を高めるための処理である。250℃以下では加工歪
の緩和が十分に行われず、一方450℃以上に加熱する
と材料が軟化してしまい、いずれも耐久性及び耐へたり
性が低下するため、上記温度範囲に定めた。
【0012】温間セッチングは、耐へたり性を高めるた
めの処理である。これを行うことにより、移動可能な転
移はほぼ移動して永久歪となり、コイルばね使用時の転
移の移動すなわち「へたり」を防止する効果を奏する。
その温度を200℃以上としたのは、それ以下では転移
の一掃すなわち永久歪の生成が不十分であるためであ
り、焼鈍温度以下としたのはもちろん上記焼鈍の効果を
損なわないためである。
【0013】弁ばね等の耐へたり性に対する要求性能が
高いコイルばねの場合、温間セッチングの強さ(度合
い)については、温間セッチング後の残留剪断歪が15
×10 -4以上となるような程度で行うことが望ましい。
現在、弁ばねにはシリコンクロムオイルテンパー線(SWO
SC-V)が最も多く用いられているが、エンジン内の使用
環境(〜200℃)でこれと同程度の耐へたり性を付与
するには、シリコン含有量が0.80〜1.50%の高
シリコン素材を使用し、温間セッチングをこのような程
度まで行う必要がある。なお、高温環境下での使用でな
い場合には、シリコン含有量が0.10〜0.80%の
低シリコン素材を用いても構わない。
【0014】コイルばねを弁ばね等に使用する場合、両
端部(又は一方の端部)がコイルばねの中心軸に対して
垂直面となるように端面(座面)加工を行う必要があ
る。このような座面形成工程を行う場合、焼鈍工程の前
に行うことが望ましい。座面形成は多数のコイルばねを
立てて揃えた状態で行われるが、そのような作業を焼鈍
工程のように多数のコイルばねがバラバラの姿勢で処理
された後に行おうとすると、互いにからみあっているコ
イルばねの山からコイルばねを1個づつ取り出し、立て
て揃える工程が必要となる。それよりも、コイリング工
程によりコイルばねが1個づつラインに排出される工程
の直後の方が、作業効率が遙かによくなるからである。
【0015】コイルばねの耐久性を高めるため、温間セ
ッチング後はショットピーニング処理を行うことが望ま
しい。これにより、表面に大きな圧縮残留応力が付与さ
れ、コイルばねの耐久性(疲労寿命)が大幅に向上す
る。ショットピーニングを施した後は、再度セッチング
を行うことが望ましい。これにより、耐へたり性が更に
向上する。このショットピーニング後のセッチングは、
先の(焼鈍後の)セッチングよりも低い温度で行うこと
が望ましい。これは、先のセッチングの効果及びショッ
トピーニングの効果が損なわれないようにするためであ
る。
【0016】
【発明の実施の形態】本発明に係る方法で製造したコイ
ルばねの耐へたり性を次に説明する。試験に供したコイ
ルばねは図1に示す工程により製造した。すなわち、JI
S G3502に規定する径6.7mmのピアノ線材SWRS62Bを素材
とし(ステップS1)、それをφ3.0mmに伸線した(ス
テップS2。加工率80%)。これを図2に示す諸元を有
するコイルばねにコイリングし(ステップS3)、研削
により座面を形成した(ステップS4)。これを350
℃×30分加熱してコイリングの歪を除去し(焼鈍。ス
テップS5)、その冷却過程で温間セッチングを行った
(ステップS6)。温間セッチングは2グループに分
け、第1のグループはコイルばねが350℃となったと
ころでセッチングを行ない、第2のグループはコイルば
ねが210℃となったところでセッチングを行った。ま
た比較のために、第3のグループは常温まで冷却した状
態でセッチングを行った。セッチングの強さは、温間
(350℃、210℃)でセッチングしたもの(第1お
よび第2グループ)はセッチング後の残留剪断歪が20
×10-4〜50×10-4となる程度まで、常温でセッチ
ングを行ったもの(第3グループ)はセッチング後の残
留剪断歪が2×10-4〜20×10-4となるように行っ
た。その後ショットピーニングを施して(ステップS
7)、供試コイルばね(A群)を完成した。
【0017】温間セッチング(ステップS6)の温度を
変化させたA群の3つのグループのへたり試験結果を図
3に示す。へたり試験条件は、τ=882MPaの締め付け応
力で、温度条件は120℃×48hrである。図3に示される
ように、温間セッチングを行った2つのグループのへた
り試験後の残留剪断歪は、常温でセッチングを行ったも
ののそれと比較すると1/2以下に減少していることが
わかる。シリコンクロム鋼オイルテンパー線(SWOSC-V)
の残留剪断歪は、締め付け応力τ=900MPa、温度条件を
同じく120℃×48hrとしたときに5×10-4程度であるた
め、温間セッチングを行った第1および第2グループの
耐へたり性能は、ほぼシリコンクロム鋼オイルテンパー
線(SWOSC-V)のそれと同等程度である。
【0018】また、350℃で温間セッチング(100
0MPa)を行った第1グループの試料について、ショ
ットピーニング(ステップS7)の後に更に210℃で
セッチングを行ない(ステップS8)、その2回目のセ
ッチングの強さを変えた場合の耐へたり性に及ぼす影響
を調べた(B群)。比較のために、焼鈍後・ショットピ
ーニング前の温間セッチングを行わない試料についても
同様の試験を行った。その結果、図4に示すように、焼
鈍後・ショットピーニング前の温間セッチング(HS)
を行わない試料は、ショットピーニング(SP)後のセ
ッチング(WS)の強さにより耐へたり性が大きく変化
する。それに対し、温間セッチング(HS)を行った試
料では、そのような大きな変化は現れず、安定した耐へ
たり性を示している。しかし、ショットピーニング後の
セッチングの強さを増すことにより耐へたり性が向上す
ることは明らかとなっている。
【0019】更に、供試材として、上記素材であるピア
ノ線材SWRS62B(これを素材(a)と呼ぶ)のシリコン含有
量を0.93%とした素材(これを素材(b)と呼ぶ)を使用
し、同様の工程(図1)で同様の諸元(図2)のコイル
ばねを作製した(ただし、素材(b)はシリコン含有量が
高いことを考慮して、温間セッチング(HS)の温度は40
0℃とした)。これを素材(a)から作製したコイルばね
と同じ条件で耐へたり性試験を行ったところ、図5に示
すように高シリコン鋼素材(素材(b))を使用したコイ
ルばねは、明らかに耐へたり性が向上していることが分
かった。この素材(b)については、最後のセッチング(W
S)を行わないコイルばねの耐へたり性が、それを行った
素材(a)の耐へたり性と同等程度となっている。このこ
とより、素材として高シリコン鋼を用いることにより、
同じ性能を得る場合に、工程を1つ省略することができ
ることがわかる。
【0020】
【発明の効果】本発明に係る方法によると、安価なピア
ノ線材を用いることにより、オイルテンパー処理を施し
たものと同等程度の耐へたり性が得られる。このため、
弁ばね等のコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による供試ばね製造工程のフローチャ
ート。
【図2】 供試ばねの諸元表。
【図3】 焼鈍後の温間セッチングの効果を示すグラ
フ。
【図4】 焼鈍後の温間セッチングの効果を示す別のグ
ラフ。
【図5】 素材のシリコン含有量の効果を示すグラフ。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) C22C 38/00 301 C22C 38/00 301Z 38/16 38/16 (72)発明者 榊原 隆之 名古屋市緑区鳴海町字上汐田68番地 中央 発條株式会社内 (72)発明者 脇田 将見 名古屋市緑区鳴海町字上汐田68番地 中央 発條株式会社内 Fターム(参考) 3J059 AB11 BA01 BC02 EA08 EA09 GA08 GA12 4E070 AA03 AB09 AC07 AD03 BC23 EA00 EA02 FA01 4K042 AA02 BA04 BA14 CA05 DA03 DC02

Claims (14)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ばね用硬引線材をコイリング成形後、2
    50〜450℃で焼鈍を行い、200℃以上であり且つ
    該焼鈍温度以下の温度で温間セッチングを行うことを特
    徴とするコイルばねの製造方法。
  2. 【請求項2】 重量比でC:0.60〜0.95%、S
    i:0.10〜0.80%、Mn:0.30〜0.90
    %、P:0.025%以下、S:0.025%以下、C
    u:0.20%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不
    純物から成る鋼を素材とする線材をコイリング成形後、
    250〜450℃で焼鈍を行い、200℃以上であり且
    つ該焼鈍温度以下の温度で温間セッチングを行うことを
    特徴とするコイルばねの製造方法。
  3. 【請求項3】 重量比でC:0.60〜0.95%、S
    i:0.80〜1.50%、Mn:0.30〜0.90
    %、P:0.025%以下、S:0.025%以下、C
    u:0.20%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不
    純物から成る鋼を素材とする線材をコイリング成形後、
    250〜450℃で焼鈍を行い、200℃以上であり且
    つ該焼鈍温度以下の温度で温間セッチングを行うことを
    特徴とするコイルばねの製造方法。
  4. 【請求項4】 焼鈍工程中、及び/又は、焼鈍工程後そ
    の冷却過程で、温間セッチングを行う請求項1〜3のい
    ずれかに記載のコイルばねの製造方法。
  5. 【請求項5】 温間セッチングによる残留剪断歪を15
    ×10-4以上とする請求項1〜4のいずれかに記載のコ
    イルばねの製造方法。
  6. 【請求項6】 コイリング成形後、焼鈍工程の前に座面
    形成工程を含む請求項1〜5のいずれかに記載のコイル
    ばねの製造方法。
  7. 【請求項7】 温間セッチング後ショットピーニングを
    施す請求項1〜6のいずれかに記載の記載のコイルばね
    の製造方法。
  8. 【請求項8】 温間セッチング後ショットピーニングを
    施し、その後更に前記温間セッチングよりも低温でセッ
    チングを行う請求項1〜6のいずれかに記載のコイルば
    ねの製造方法。
  9. 【請求項9】 ばね用硬引線材をコイリング成形後、座
    面形成を行い、250〜450℃で焼鈍を行い、200
    ℃以上であり且つ該焼鈍温度以下の温度で温間セッチン
    グを行い、ショットピーニングを施すことを特徴とする
    コイルばねの製造方法。
  10. 【請求項10】 ばね用硬引線材をコイリング成形後、
    座面形成を行い、250〜450℃で焼鈍を行い、20
    0℃以上であり且つ該焼鈍温度以下の温度で温間セッチ
    ングを行い、ショットピーニングを施し、最後に前記温
    間セッチングよりも低温でセッチングを行うことを特徴
    とするコイルばねの製造方法。
  11. 【請求項11】 重量比でC:0.60〜0.95%、
    Si:0.10〜0.80%、Mn:0.30〜0.9
    0%、P:0.025%以下、S:0.025%以下、
    Cu:0.20%以下を含有し、残部Fe及び不可避的
    不純物から成る鋼を素材とする線材をコイリング成形
    後、座面形成を行い、250〜450℃で焼鈍を行い、
    200℃以上であり且つ該焼鈍温度以下の温度で温間セ
    ッチングを行い、ショットピーニングを施すことを特徴
    とするコイルばねの製造方法。
  12. 【請求項12】 重量比でC:0.60〜0.95%、
    Si:0.10〜0.80%、Mn:0.30〜0.9
    0%、P:0.025%以下、S:0.025%以下、
    Cu:0.20%以下を含有し、残部Fe及び不可避的
    不純物から成る鋼を素材とする線材をコイリング成形
    後、座面形成を行い、250〜450℃で焼鈍を行い、
    200℃以上であり且つ該焼鈍温度以下の温度で温間セ
    ッチングを行い、ショットピーニングを施し、最後に前
    記温間セッチングよりも低温でセッチングを行うことを
    特徴とするコイルばねの製造方法。
  13. 【請求項13】 重量比でC:0.60〜0.95%、
    Si:0.80〜1.50%、Mn:0.30〜0.9
    0%、P:0.025%以下、S:0.025%以下、
    Cu:0.20%以下を含有し、残部Fe及び不可避的
    不純物から成る鋼を素材とする線材をコイリング成形
    後、座面形成を行い、250〜450℃で焼鈍を行い、
    200℃以上であり且つ該焼鈍温度以下の温度で温間セ
    ッチングを行い、ショットピーニングを施すことを特徴
    とするコイルばねの製造方法。
  14. 【請求項14】 重量比でC:0.60〜0.95%、
    Si:0.80〜1.50%、Mn:0.30〜0.9
    0%、P:0.025%以下、S:0.025%以下、
    Cu:0.20%以下を含有し、残部Fe及び不可避的
    不純物から成る鋼を素材とする線材をコイリング成形
    後、座面形成を行い、250〜450℃で焼鈍を行い、
    200℃以上であり且つ該焼鈍温度以下の温度で温間セ
    ッチングを行い、ショットピーニングを施し、最後に前
    記温間セッチングよりも低温でセッチングを行うことを
    特徴とするコイルばねの製造方法。
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