JP5400536B2 - 硬引き線 - Google Patents

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本発明は、硬引き線、その硬引き線を利用したばね、及び硬引き線の製造方法に関するものである。特に、ばね用鋼線に好適で、耐へたり性に優れた硬引き線に関するものである。
近年、自動車の低燃費化に対応して、自動車のエンジンやトランスミッションの小型・軽量化が進められている。それに伴って、エンジンの弁ばねやトランスミッション用のばねに負荷される応力は年々厳しくなっており、用いられるばね材料にも一層の耐久性・耐へたり性の向上が求められている。これらのばねには、代表的にはシリコンクロム系のオイルテンパー線(例えば、特許文献1)が用いられている。
一方、このようなオイルテンパー線は、焼入れ・焼き戻し処理を必要とするため、線材の製造過程が煩雑な上、得られた線材がコスト高になる。そのため、オイルテンパー処理をせずに、オイルテンパー線と同等な疲労強度や耐へたり性を得るための技術として硬引き線(例えば、特許文献2)も知られている。
特開2008-266725号公報 特開2004-2994号公報
しかし、上記の特許文献2に係る技術であっても、パテンティング処理を必要としており、この熱処理の必要上、製造過程が煩雑な上、得られた線材がコスト高になる。
また、ばね用鋼線は、通常、ばね加工後に歪取り焼鈍が行われるが、その焼鈍後に、耐へたり性に影響のある引張強さが低下することが多く、焼鈍後に引張強さが増加する場合であっても、その増加程度は比較的わずかであった(特許文献2の表2)。
本発明は、上記の事情にかんがみてなされたもので、その目的の一つは、パテンティング処理もオイルテンパー処理も行うことなく、オイルテンパー線と遜色ない耐へたり性を有する硬引き線及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、前記硬引き線を利用したばねを提供することにある。
本発明者らは、オイルテンパー線と同等以上の耐へたり性を有する硬引き線を得るべく種々の検討を行った。特に、ばね加工後に行われる歪取り焼鈍の前後において、引張強さの増加割合を大きくすることを目標として試行錯誤を行った結果、本発明を完成するに至った。
本発明の硬引き線は、伸線加工された硬引き線であって、質量%で、C:0.60〜0.70%、Si:1.00〜2.50%、Mn:0.20〜1.00%、Cr:0.50〜2.50%、V:0.05〜0.50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる。そして、400℃で20分の低温焼鈍後の引張強さが同焼鈍前の引張強さよりも50MPa以上高いことを特徴とする。
この構成によれば、硬引き線をばね加工した後に歪取り焼鈍を行った場合でも、引張強さが向上するため、高い耐へたり性を備えるばねを得ることができる。
本発明の硬引き線の一形態として、400℃で20分の低温焼鈍後の降伏応力が同焼鈍前の降伏応力よりも200MPa以上高いことが挙げられる。
この構成によれば、硬引き線をばね加工した後に歪取り焼鈍を行った場合でも、降伏応力が向上するため、高い耐へたり性を備えるばねとすることができる。
本発明の硬引き線の一形態として、さらに、質量%で、Co:0.02〜1.00%を含有してもよい。
この構成によれば、Coの含有により、硬引き線の耐熱性を向上させることができ、ばね加工後の歪取り焼鈍に伴う軟化防止に有効である。
本発明の硬引き線の一形態として、さらに、質量%で、Ni:0.10〜1.00%又はMo:0.05〜0.50%を含有してもよい。
この構成によれば、Niを含有した場合、硬引き線の耐食性及び靭性を向上させることができる。また、Moを含有した場合、炭化物を形成して、ばね加工後の歪取り焼鈍に伴う軟化防止に有効である。
一方、本発明のばねは、上記本発明の硬引き線からなることを特徴とする。
この構成によれば、耐へたり性に優れたばねとすることができる。
さらに、本発明の硬引き線の製造方法は、質量%で、C:0.60〜0.70%、Si:1.00〜2.50%、Mn:0.20〜1.00%、Cr:0.50〜2.50%、V:0.05〜0.50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる圧延材を準備する工程と、この圧延材をオーステナイト化することなく伸線する工程とを含む。そして、前記伸線加工は85%以上の加工度にて行うことを特徴とする。
この構成によれば、パテンティング処理やオイルテンパー処理といった煩雑な工程を経ることなく、オイルテンパー線と同等の耐へたり性を有する硬引き線を得ることができる。
本発明の硬引き線の製造方法において、前記伸線加工前の圧延材に対して、その圧延材の表面を除去する皮剥ぎ工程と、皮剥ぎ材を550〜650℃にて焼鈍する焼鈍工程とを備えることが挙げられる。
この構成によれば、皮剥ぎにより圧延時に圧延材の表層部に生じる脱炭層を除去すると共に、その皮剥ぎで生じた硬化層を焼鈍によりなますことができ、強度と靭性に優れた硬引き線を得ることができる。
本発明の硬引き線又はばねは、オイルテンパー線と遜色ない耐へたり性を有する線材又はばねとすることができる。
また、本発明の硬引き線の製造方法は、パテンティング処理もオイルテンパー処理も行うことなく、オイルテンパー線と遜色ない耐へたり性を有する硬引き線を得ることができる。
本発明の硬引き線の一製造工程を示すフロー図である。 残留せん断歪の評価試験方法の説明図である。
[硬引き線]
本発明の硬引き線の構成をより詳しく以下に説明する。以下の「組成」における含有量は全て「質量%」である。
<組成>
《C:0.60〜0.70%》
Cは鋼の引張強さを決定する重要な元素である。Cを0.6%以上とすることで、硬引き線の十分な強度を確保している。また、Cを0.70%以下とすることで、硬引き線を伸線する際の加工性が低下したり、硬引き線の疵感受性が高くなり、疲労限が低下するなどして靭性を損なうことを抑制している。
《Si:1.00〜2.50%》
Siは溶解精錬時の脱酸剤として使用される。また、フェライト中に固溶して耐熱性を向上させ、硬引き線をばね加工した後の歪取り焼鈍や窒化処理などの熱処理による線内部の硬度低下を防ぐ効果がある。耐熱性を保持するためには1.00%以上必要であり、靭性を低下させないために2.50%以下とする必要がある。より好ましいSiの含有量は、下限が1.3%、上限が2.3%である。
《Mn:0.20〜1.00%》
MnはSiと同様に溶解精錬時の脱酸剤として使用される。そのため、脱酸剤に必要な添加量として下限を0.20%とする。また、上限を1.00%とすることで、熱間圧延時に過冷組織が生成して伸線性が低下しないようにしている。より好ましいMnの含有量は、下限が0.3%、上限が0.8%である。
《Cr:0.50〜2.50%》
Crは炭化物の生成による析出強化により、伸線加工後の強度向上に寄与する元素である。また、軟化抵抗を増加させるため、ばね加工後の歪取り焼鈍や窒化処理などの熱処理時の軟化防止に有効である。これらの効果が十分に得られるように、Crの含有量の下限を0.50%としている。熱間圧延時に過冷組織が生成して伸線性が低下しないよう、Crの含有量の上限を2.50%としている。より好ましいCrの含有量は、下限が0.7%、上限が1.5%である。
《V:0.05〜0.50%》
Vは炭化物を生成し、軟化抵抗を増加させる効果がある。そのため、ばね加工後の歪取り焼鈍や窒化処理などの熱処理時の軟化防止に有効である。この効果が十分に得られるように、Vの含有量の下限を0.05%としている。また、適正な靭性を確保する必要上、Vの含有量の上限を0.50%としている。より好ましいVの含有量は、下限が0.05%、上限が0.20%である。
《Co:0.02〜1.00%》
Coは鋼に少量含有させることにより耐熱性を向上させる効果があり、ばね加工後の歪取り焼鈍や窒化処理などの熱処理時の軟化防止に有効である。この効果を十分得るためにCoの含有量の下限を0.02%としている。また、1.00%を超えて含有しても、1.00%以下の場合と比べて前記効果に大差がないため、上限を1.00%としている。より好ましいCoの含有量は、下限が0.05%、上限が0.5%である。
《Ni:0.10〜1.00%》
Niは耐食性及び靭性を向上させる効果がある。この効果を十分得るためにNiの含有量の下限を0.10%としている。また、1.00%を超えて含有しても、コスト高となるだけで前記効果に大差がないため、上限を1.00%以下としている。より好ましいNiの含有量は、下限が0.10%、上限が0.50%である。
《Mo:0.05〜0.50%》
Moは炭化物を形成して軟化抵抗を増加させる効果がある。そのため、ばね加工後の歪取り焼鈍や窒化処理などの熱処理時の軟化防止に有効である。この効果が十分に得られるように、Moの含有量の下限を0.05%としている。また、適正な靭性を確保する必要上、Moの含有量の上限を0.50%としている。より好ましいMoの含有量は、下限が0.05%、上限が0.25%である。
<引張強さ・降伏応力>
硬引き線の耐へたり性を向上させるためには、降伏応力を向上させることが有効である。ばねとして使用する場合、通常、ばね成形後に歪取りのための低温焼鈍が実施される。そのため、低温焼鈍後の降伏応力を向上させることが重要である。降伏応力は降伏比(降伏応力/引張強さ)が一定であれば、引張強さが高いほど高い。従って、低温焼鈍によって引張強さが低下しないことが重要であり、さらには低温焼鈍によって引張強さを向上させることができれば一層好ましいといえる。このような観点から、本発明では、低温焼鈍後の引張強さが低温焼鈍前のそれに比べて50MPa以上高いことを規定している。より好ましくは、この引張強さの向上分は100MPa以上、さらに好ましくは150 MPa以上、特に好ましくは200 MPa以上とする。また、降伏応力についても、上記の観点から、低温焼鈍後の降伏応力が低温焼鈍前のそれに比べて200MPa以上高いことを規定している。より好ましくは、この降伏応力の向上分は300MPa以上、さらに好ましくは400MPa以上とする。
なお、硬引き線の引張強さは、伸線加工後(低温焼鈍前)において2000MPa以上、より好ましくは2100 MPa以上、さらに好ましくは2200 MPa以上とする。そして、低温焼鈍後の引張強さは、2050MPa以上、より好ましくは2300 MPa以上、さらに好ましくは2400 MPa以上とする。
<線径>
本発明の硬引き線は、線径が2.0mm以下のばね用鋼線として好適に利用できる。特に、1.5mm未満、さらには1.2mm以下のばね用鋼線として好適である。
[硬引き線の製造方法]
本発明の硬引き線は、上述した所定の組成を有する圧延線材に対して伸線加工を施して得られる。さらに伸線加工前に、皮剥ぎ処理と焼鈍を行っても良い。
<圧延材の準備>
本発明の硬引き線は、後工程でオイルテンパー処理を施さないのみならず、圧延材にパテンティング処理も施さない。つまり、圧延材がオーステナイト化されるような熱処理は施さない。圧延材は、後の伸線加工で強加工ができるように、ある程度線径を細くしておくことが好ましい。例えば、圧延材の線径を7.0mm以下とすることが好適である。
<皮剥ぎ>
皮剥ぎは、圧延時に圧延材の表面に生じた脱炭層を除去する。この皮剥ぎは、例えば皮剥ぎダイスを用いて行えばよい。皮剥ぎする深さは、200〜500μm程度が好適である。下限を下回ると十分に脱炭層を除去できず、上限を超えると線材の無駄が増加する。
<焼鈍>
この焼鈍は、皮剥ぎによって線材の表層に生成したマルテンサイトをなます。焼鈍の好ましい温度は550〜650℃である。また、好ましい焼鈍時間は120〜240分である。
<伸線加工>
伸線加工は、低温焼鈍前に比べて低温焼鈍後の引張強さや降伏応力を高くできるように、85%以上の加工度とする。この加工度は、好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは92%以上である。この伸線加工は、冷間にて行うことができる。特に、常温にて伸線を行えば、伸線対象の線材を加熱する必要がなく好適である。
[ばね]
一方、本発明のばねは、本発明の硬引き線をばね加工することで得られる。ばね加工後に、公知の条件にて歪取り焼鈍を行ったり、窒化処理を行って表層に窒化層を生成しても良い。
表1に示す鋼を真空溶解炉で溶製し、熱間鍛造、熱間圧延によりφ6.5mmの圧延材とした。その圧延材に、図1に示すように、皮剥ぎ、焼鈍、伸線加工を行うことによってφ1.2mmの硬引き線を得た。皮剥ぎは皮剥ぎダイスにより圧延材の表面を厚さ300μm分除去した。皮剥ぎ材に対する焼鈍は600℃×120分とした。焼鈍材に対する伸線加工は、冷間にて加工度を95%とした。
Figure 0005400536
次に、得られた硬引き線に対し、400℃×20分の低温焼鈍を施した。この低温焼鈍条件は、ばね加工後に行われる一般的な歪取り焼鈍条件を模擬したものである。硬引き線の組織は、低温焼鈍前後のいずれもパーライトである。
そして、この低温焼鈍後の硬引き線を試料として、引張強さと降伏応力を測定した。さらに、試料の残留せん断歪γ(%)を測定して、耐へたり性を評価した。耐へたり性の試験は、次のように行う。まず、図2に示すように、]型に屈曲した試料の一端側(図の左側)を固定し、他端側(図の右側)をねじって試料に一定のひねりを与える。そして、その状態を一定の試験条件で保持して、次式により残留せん断歪を求めた。
残留せん断歪γ(%)=(θ×D/2L)×100
但し、θは撓み角(°)、Dは線径(mm)、Lは固定端と捻回端との距離(mm)
具体的な試験条件は、次の通りである。
《試験条件》
温度:120℃
保持時間:24時間
付加応力τ:900MPa
表2に試験結果をまとめて示す。この表2において、「TS変化量」は、「低温焼鈍後のTS−伸線加工後(低温焼鈍前)のTS」であり、「YP変化量」は、「低温焼鈍後のYP−伸線加工後(低温焼鈍前)のYP」である。また、TS、YP、TS変化量、YP変化量の各単位はMPaである。
Figure 0005400536
鋼種A〜Fの低温焼鈍後の引張強さ(TS)は、焼鈍前のそれに比べていずれも50MPa以上高くなっている。特に、鋼種C〜Fは低温焼鈍前後における引張強さの向上幅が200MPa以上であった。また、鋼種A〜Fの低温焼鈍後の降伏応力(YP)は、焼鈍前のそれに比べていずれも400MPa以上高くなっている。これに対して、低温焼鈍により、鋼種G〜Iはいずれも引張強さが全て低下し、降伏応力は鋼種Hで低下し、鋼種GとIでは向上しているが、その向上幅はいずれも200MPa未満であった。さらに、残留せん断歪は、鋼種A〜Fではいずれも0.05以下であったのに対し、鋼種G〜Iではいずれも0.05を超えていた。
ちなみに、φ1.2mmのシリコンクロム鋼オイルテンパー(OT)線の機械的特性は、表3に示す通りである。表3における低温焼鈍条件、残留せん断歪の試験条件は、上述した硬引き線の場合と同様である。この表3と表2の対比から、本発明の硬引き線がOT線と同等以上の機械的特性を備えていることがわかる。
Figure 0005400536
次に、実施例1における鋼種B(φ6.5mm圧延材)を用いて、伸線加工度を80、92、95%と変化させた場合の同様の評価結果を表4に示す。さらに、φ9.0mmの圧延材に実施例1と同様の皮剥ぎ、焼鈍、伸線加工を施して得られた線材についても、同様の評価を行った。その結果も併せて表4に示す。表4の結果から明らかなように、圧延材径がφ6.5mmの場合、加工度が大きくなると、引張強さ、降伏応力共に低温焼鈍後に向上する幅が大きくなる。但し、加工度を80%とした場合は、引張強さの向上幅が50MPa未満、降伏応力の向上幅が200MPa未満であり、残留せん断歪が0.05を超える結果となった。一方、圧延材径がφ9.0mmの場合も、加工度が80%では低温焼鈍後の引張強さ、降伏応力の向上幅が小さく、残留せん断歪が大きい値であった。さらに、加工度が92%、95%では、伸線加工中に焼付が発生し、硬引き線を得ることができなかった。
Figure 0005400536
本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、適宜変更を加えることができる。
本発明の硬引き線は、自動車用の各種ばね、より具体的には、エンジンの弁ばね、クラッチ用のばねなどに好適に利用することができる。

Claims (7)

  1. 伸線加工された硬引き線であって、
    質量%で、C:0.60〜0.70%、Si:1.00〜2.50%、Mn:0.20〜1.00%、Cr:0.50〜2.50%、V:0.05〜0.50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
    400℃で20分の低温焼鈍後の引張強さが同焼鈍前の引張強さよりも50MPa以上高いことを特徴とする硬引き線。
  2. 400℃で20分の低温焼鈍後の降伏応力が同焼鈍前の降伏応力よりも200MPa以上高いことを特徴とする請求項1に記載の硬引き線。
  3. さらに、質量%で、Co:0.02〜1.00%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の硬引き線。
  4. さらに、質量%で、Ni:0.10〜1.00%又はMo:0.05〜0.50%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬引き線。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬引き線からなることを特徴とするばね。
  6. 質量%で、C:0.60〜0.70%、Si:1.00〜2.50%、Mn:0.20〜1.00%、Cr:0.50〜2.50%、V:0.05〜0.50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる圧延材を準備する工程と、
    この圧延材をオーステナイト化することなく伸線する工程とを含み、
    前記伸線加工は85%以上の加工度にて行うことを特徴とする硬引き線の製造方法。
  7. 前記伸線加工前の圧延材に対して、その圧延材の表面を除去する皮剥ぎ工程と、皮剥ぎ材を550〜650℃にて焼鈍する焼鈍工程とを備えることを特徴とする請求項6に記載の硬引き線の製造方法。
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