JP5400536B2 - 硬引き線 - Google Patents
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Description
本発明の硬引き線の構成をより詳しく以下に説明する。以下の「組成」における含有量は全て「質量%」である。
《C:0.60〜0.70%》
Cは鋼の引張強さを決定する重要な元素である。Cを0.6%以上とすることで、硬引き線の十分な強度を確保している。また、Cを0.70%以下とすることで、硬引き線を伸線する際の加工性が低下したり、硬引き線の疵感受性が高くなり、疲労限が低下するなどして靭性を損なうことを抑制している。
Siは溶解精錬時の脱酸剤として使用される。また、フェライト中に固溶して耐熱性を向上させ、硬引き線をばね加工した後の歪取り焼鈍や窒化処理などの熱処理による線内部の硬度低下を防ぐ効果がある。耐熱性を保持するためには1.00%以上必要であり、靭性を低下させないために2.50%以下とする必要がある。より好ましいSiの含有量は、下限が1.3%、上限が2.3%である。
MnはSiと同様に溶解精錬時の脱酸剤として使用される。そのため、脱酸剤に必要な添加量として下限を0.20%とする。また、上限を1.00%とすることで、熱間圧延時に過冷組織が生成して伸線性が低下しないようにしている。より好ましいMnの含有量は、下限が0.3%、上限が0.8%である。
Crは炭化物の生成による析出強化により、伸線加工後の強度向上に寄与する元素である。また、軟化抵抗を増加させるため、ばね加工後の歪取り焼鈍や窒化処理などの熱処理時の軟化防止に有効である。これらの効果が十分に得られるように、Crの含有量の下限を0.50%としている。熱間圧延時に過冷組織が生成して伸線性が低下しないよう、Crの含有量の上限を2.50%としている。より好ましいCrの含有量は、下限が0.7%、上限が1.5%である。
Vは炭化物を生成し、軟化抵抗を増加させる効果がある。そのため、ばね加工後の歪取り焼鈍や窒化処理などの熱処理時の軟化防止に有効である。この効果が十分に得られるように、Vの含有量の下限を0.05%としている。また、適正な靭性を確保する必要上、Vの含有量の上限を0.50%としている。より好ましいVの含有量は、下限が0.05%、上限が0.20%である。
Coは鋼に少量含有させることにより耐熱性を向上させる効果があり、ばね加工後の歪取り焼鈍や窒化処理などの熱処理時の軟化防止に有効である。この効果を十分得るためにCoの含有量の下限を0.02%としている。また、1.00%を超えて含有しても、1.00%以下の場合と比べて前記効果に大差がないため、上限を1.00%としている。より好ましいCoの含有量は、下限が0.05%、上限が0.5%である。
Niは耐食性及び靭性を向上させる効果がある。この効果を十分得るためにNiの含有量の下限を0.10%としている。また、1.00%を超えて含有しても、コスト高となるだけで前記効果に大差がないため、上限を1.00%以下としている。より好ましいNiの含有量は、下限が0.10%、上限が0.50%である。
Moは炭化物を形成して軟化抵抗を増加させる効果がある。そのため、ばね加工後の歪取り焼鈍や窒化処理などの熱処理時の軟化防止に有効である。この効果が十分に得られるように、Moの含有量の下限を0.05%としている。また、適正な靭性を確保する必要上、Moの含有量の上限を0.50%としている。より好ましいMoの含有量は、下限が0.05%、上限が0.25%である。
硬引き線の耐へたり性を向上させるためには、降伏応力を向上させることが有効である。ばねとして使用する場合、通常、ばね成形後に歪取りのための低温焼鈍が実施される。そのため、低温焼鈍後の降伏応力を向上させることが重要である。降伏応力は降伏比(降伏応力/引張強さ)が一定であれば、引張強さが高いほど高い。従って、低温焼鈍によって引張強さが低下しないことが重要であり、さらには低温焼鈍によって引張強さを向上させることができれば一層好ましいといえる。このような観点から、本発明では、低温焼鈍後の引張強さが低温焼鈍前のそれに比べて50MPa以上高いことを規定している。より好ましくは、この引張強さの向上分は100MPa以上、さらに好ましくは150 MPa以上、特に好ましくは200 MPa以上とする。また、降伏応力についても、上記の観点から、低温焼鈍後の降伏応力が低温焼鈍前のそれに比べて200MPa以上高いことを規定している。より好ましくは、この降伏応力の向上分は300MPa以上、さらに好ましくは400MPa以上とする。
本発明の硬引き線は、線径が2.0mm以下のばね用鋼線として好適に利用できる。特に、1.5mm未満、さらには1.2mm以下のばね用鋼線として好適である。
本発明の硬引き線は、上述した所定の組成を有する圧延線材に対して伸線加工を施して得られる。さらに伸線加工前に、皮剥ぎ処理と焼鈍を行っても良い。
本発明の硬引き線は、後工程でオイルテンパー処理を施さないのみならず、圧延材にパテンティング処理も施さない。つまり、圧延材がオーステナイト化されるような熱処理は施さない。圧延材は、後の伸線加工で強加工ができるように、ある程度線径を細くしておくことが好ましい。例えば、圧延材の線径を7.0mm以下とすることが好適である。
皮剥ぎは、圧延時に圧延材の表面に生じた脱炭層を除去する。この皮剥ぎは、例えば皮剥ぎダイスを用いて行えばよい。皮剥ぎする深さは、200〜500μm程度が好適である。下限を下回ると十分に脱炭層を除去できず、上限を超えると線材の無駄が増加する。
この焼鈍は、皮剥ぎによって線材の表層に生成したマルテンサイトをなます。焼鈍の好ましい温度は550〜650℃である。また、好ましい焼鈍時間は120〜240分である。
伸線加工は、低温焼鈍前に比べて低温焼鈍後の引張強さや降伏応力を高くできるように、85%以上の加工度とする。この加工度は、好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは92%以上である。この伸線加工は、冷間にて行うことができる。特に、常温にて伸線を行えば、伸線対象の線材を加熱する必要がなく好適である。
一方、本発明のばねは、本発明の硬引き線をばね加工することで得られる。ばね加工後に、公知の条件にて歪取り焼鈍を行ったり、窒化処理を行って表層に窒化層を生成しても良い。
残留せん断歪γ(%)=(θ×D/2L)×100
但し、θは撓み角(°)、Dは線径(mm)、Lは固定端と捻回端との距離(mm)
具体的な試験条件は、次の通りである。
温度:120℃
保持時間:24時間
付加応力τ:900MPa
Claims (7)
- 伸線加工された硬引き線であって、
質量%で、C:0.60〜0.70%、Si:1.00〜2.50%、Mn:0.20〜1.00%、Cr:0.50〜2.50%、V:0.05〜0.50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
400℃で20分の低温焼鈍後の引張強さが同焼鈍前の引張強さよりも50MPa以上高いことを特徴とする硬引き線。 - 400℃で20分の低温焼鈍後の降伏応力が同焼鈍前の降伏応力よりも200MPa以上高いことを特徴とする請求項1に記載の硬引き線。
- さらに、質量%で、Co:0.02〜1.00%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の硬引き線。
- さらに、質量%で、Ni:0.10〜1.00%又はMo:0.05〜0.50%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の硬引き線。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の硬引き線からなることを特徴とするばね。
- 質量%で、C:0.60〜0.70%、Si:1.00〜2.50%、Mn:0.20〜1.00%、Cr:0.50〜2.50%、V:0.05〜0.50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる圧延材を準備する工程と、
この圧延材をオーステナイト化することなく伸線する工程とを含み、
前記伸線加工は85%以上の加工度にて行うことを特徴とする硬引き線の製造方法。 - 前記伸線加工前の圧延材に対して、その圧延材の表面を除去する皮剥ぎ工程と、皮剥ぎ材を550〜650℃にて焼鈍する焼鈍工程とを備えることを特徴とする請求項6に記載の硬引き線の製造方法。
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