JP2003003241A - 高強度ばね用鋼線 - Google Patents

高強度ばね用鋼線

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JP2003003241A
JP2003003241A JP2001192350A JP2001192350A JP2003003241A JP 2003003241 A JP2003003241 A JP 2003003241A JP 2001192350 A JP2001192350 A JP 2001192350A JP 2001192350 A JP2001192350 A JP 2001192350A JP 2003003241 A JP2003003241 A JP 2003003241A
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Masayuki Hashimura
雅之 橋村
Hiroshi Hagiwara
博 萩原
Takanari Miyaki
隆成 宮木
Hiroaki Hayashi
博昭 林
Shoichi Suzuki
章一 鈴木
Yuji Ishikawa
裕二 石川
Satoru Kondo
覚 近藤
Takeshi Kawamoto
剛 河本
Motohide Mori
元秀 森
Masami Wakita
将見 脇田
Toshinori Aoki
利憲 青木
Shingo Mimura
真吾 三村
Takayuki Sakakibara
隆之 榊原
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Chuo Hatsujo KK
Togo Seisakusho Corp
Nippon Steel Corp
Suzuki Metal Industry Co Ltd
Toyota Motor Corp
Chuo Spring Co Ltd
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Chuo Hatsujo KK
Togo Seisakusho Corp
Nippon Steel Corp
Suzuki Metal Industry Co Ltd
Toyota Motor Corp
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 高強度と冷間での良好なばね成形性を両立で
きる高強度ばね用鋼線を提供する。 【解決手段】 質量%で、C:0.55〜0.65%、
Si:1.2〜2.5%、Mn:0.3〜0.6%、C
r:0.4〜2.0%を含み、P:0.015%以下、
S:0.015%以下に制限するとともに、必要に応じ
てMo:0.05〜2.0%、V:0.05〜0.3%
(ただしMn+Vが0.6%以下)の1種または2種を
含有し、残部鉄および不可避的不純物を含み、非金属介
在物の大きさが15μm以下、引張強度が1960MP
a以上を有し、降伏比(σ0.2/σB)が0.8以上0.
9以下、または降伏比0.9超かつ残留オーステナイト
量6%以下であり、更に旧オーステナイト粒度番号が1
1番以上であることを特徴とする高強度ばね用鋼線であ
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はばね用鋼線にかかわ
り、特に自動車、一般機械向けの高強度を有するコイル
ばねに適するばね用鋼線に関するものである。
【0002】
【従来の技術】自動車や機械の小型化、高性能化に伴
い、搭載されているばねには更に高強度化が求められて
いる。特にばねの性能としての疲労強度とへたり特性が
特に重要である。コイルばねは熱間または冷間にてコイ
リングされてきた。しかし自動車エンジンの弁ばねのよ
うに、高強度にも拘らず、線径が細いものに関しては冷
間コイリングが一般的で、最近では懸架ばねのような太
い線径のものに対しても冷間コイリングが増加してきて
いる。これまで冷間コイルばねにはJIS G 480
1に示されるような、Si−Mn系やSi−Cr系ばね
鋼を用いたオイルテンパー線が用いられていた。またさ
らなる高強度化を図るため、特開平1−83644号公
報や特開平2−57637号公報のように上述のベース
となるばね鋼にMo、Vなどの合金元素を添加してオイ
ルテンパー処理した鋼線が開発されてきた。
【0003】一般にばね素材の引張強さまたは硬度を高
くすれば耐疲労性および耐へたり特性は向上することが
知られている。しかし、引張強さが1960MPaを超
える高強度ばねでは非金属介在物を起点とした疲労破壊
や粒界破壊など従来用いられていた低強度の材料では見
られない破壊の出現頻度が高くなる。更に冷間成形を行
うばねでは素材となるオイルテンパー線の加工性(ばね
成形性)が重要な因子となる。すなわち、オイルテンパ
ー線を用いて冷間成形によりコイルばねとする場合、オ
イルテンパー線の引張強さが高くなると破壊ひずみが小
さいため、コイリング中に折損する。
【0004】高強度と良好なコイリング性を両立させる
ため、特開平4−247824号公報では温間における
コイリングが有効とされている。しかし、一般に用いら
れている冷間コイリング法と比較して生産性、作業性の
面で難があった。また、特開平3−162550号公報
では残留オーステナイトを利用し、コイリングによる加
工誘起変態によってひずみを開放し、折損を防止できる
と主張している。しかし、残留オーステナイト量の増加
に対して引張試験での伸び値は増加するが、ノッチ付き
試験片での曲げ試験における曲げ角度測定結果において
は残留オーステナイト量には影響しないか、むしろ低下
するなどの結果が示されており、その残留オーステナイ
ト量の影響は明確ではなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明では高強度と冷
間での良好なばね成形性を両立できる高強度ばね用の鋼
線の提供を課題としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】ばねの疲労強度、耐へた
り性を向上させるためには1960MPa以上の高強度
であることが必要不可欠である。特に最近高強度のばね
を得る手法としてばねの窒化処理がしばしば適用されて
いる。この場合の窒化温度は380〜580℃という高
温が適用される。このような場合、オイルテンパー処理
時を含めて焼戻し軟化抵抗を高める手段として従来の
C、Siに加え、V、Mo、Ti、Nbなどが添加され
ることが多い。本発明においてもこのような元素が添加
されている。
【0007】このように引張強さが1960MPaを超
えるような高強度化された材料で製造されたばねは、単
純な疲労試験でも従来鋼とは異なる破壊機構で破壊す
る。特徴的な破壊は従来よりも小さな介在物を起点とす
るものや粒界破壊を呈することが多い。そこで破壊起点
となる介在物の大きさを小さくするとともに、粒界を清
浄化して粒界強度を向上させ、特に粒界に偏析して粒界
強度を下げるP、Sを低減することが重要である。
【0008】更にばねに要求される疲労特性は鋼線の強
度だけでなく、ミクロ組織の影響も受ける。高強度ばね
用鋼線は基本的には焼戻しマルテンサイト組織を有する
が、その機械的性質は旧オーステナイト粒径の影響を大
きく受ける。転位の動きなどは旧オーステナイト粒径を
基本として制限されるため、旧オーステナイト粒径が微
細な方が優れた性能を示す。
【0009】しかし上述したような合金元素を添加して
高強度を得ると、ばねの成形性に問題を生じることが多
い。高強度な冷間成形ばねの素材としてはオイルテンパ
ー線が広く用いられているが、このオイルテンパー線は
伸線加工した材料を連続的に焼入れ、焼戻しをするスト
ランド処理という方式により製造される。この方式は極
めて短時間の熱処理時間で効率よく焼入れ、焼戻しを行
うことに特徴がある。しかし、合金元素を固溶させるた
めの加熱時間が熱間成形ばねの熱処理よりも短時間であ
るため、未固溶の炭窒化物が基質中に残留し易い。この
炭窒化物は再結晶に際し、結晶粒生成の核となり結晶粒
界を微細化させ、降伏強度を上昇させるので降伏点上昇
に伴う破壊ひずみの減少および切り欠き感受性の増大を
もたらす。従って、未固溶の炭窒化物を少なくすること
が、冷間でのばね成形性向上につながることを見出し
た。そのため、実際上の熱処理において炭窒化物を制御
しつつ降伏点を下げることが効果的である。
【0010】更に上述の合金元素を添加した場合、残留
オーステナイトが偏析部や旧オーステナイト粒界付近に
残留することが多い。残留オーステナイトは加工誘起変
態によってひずみエネルギーを解放するため、延性を高
める場合もあるが、実際の冷間コイリングにおいては加
工性を損なうことが多い。すなわち、残留オーステナイ
トは加工誘起変態によってマルテンサイトとなるが、ば
ね成形時に誘起変態を生じると材料に局部的な高硬度部
が生成される。打ちきずや取り扱い上のきずなど不可避
的な微細なきずが生じた場合にはそのきず近傍にはマル
テンサイト化した高硬度部となり、局部的に極めてもろ
くなる。従って、ばねコイリング時にはこの局部的な高
硬度部が欠陥となり折損に至り、コイリング特性を低下
させることを見出した。従って、高強度材の冷間コイリ
ングにおいては、残留オーステナイトを極力低減し、加
工誘起マルテンサイトの生成を抑制することで加工性を
向上させることが効果的である。
【0011】本発明は、上記の知見により完成したもの
であり、要旨は次のとおりである。
【0012】(1) 質量%で、C:0.55〜0.6
5%、Si:1.2〜2.5%、Mn:0.3〜0.6
%、Cr:0.4〜2.0%を含み、P:0.015%
以下、S:0.015%以下に制限するとともに、残部
鉄および不可避的不純物を含み、非金属介在物の大きさ
が15μm以下、引張強度が1960MPa以上を有
し、降伏比(σ0.2/σB)が0.8以上0.9以下、ま
たは降伏比0.9超かつ残留オーステナイト量6%以下
であり、更に旧オーステナイト粒度番号が11番以上で
あることを特徴とする高強度ばね用鋼線。
【0013】(2) 更に、質量%で、Mo:0.05
〜2.0%、V:0.05〜0.3%、かつMn+Vが
0.6%以下の1種または2種を含むことを特徴とする
上記(1)記載の高強度ばね用鋼線。
【0014】
【発明の実施の形態】発明者は焼入れ焼戻し後に高強度
と加工性を両立する鋼線とその製造方法を発明するに至
った。その詳細を以下に示す。
【0015】Cは鋼材の基本強度に大きな影響を及ぼす
元素であり、十分な強度を得るために0.55〜0.6
5%とした。0.55%未満では焼戻し温度が低くなる
ため、工業的大量生産の手法で1960MPa以上の引
張強度を得るのが困難になり、0.65%を超えると過
共析に近くなり、V、Mo等と結びついて炭化物を生成
し易いので上限を0.65%とした。
【0016】Siはばねの強度、硬度と耐へたり性を確
保するために必要な元素であり、少ない場合は必要な強
度、耐へたり性が不足するため、1.2%を下限とし
た。また多量に添加しすぎると、材料を硬化させるだけ
でなく、脆化する。特にオイルテンパー後のコイリング
において折損を生じ易くなる。そこで焼入れ焼戻し後の
脆化を防ぐために2.5%を上限とした。
【0017】Mnは硬度を十分に得るため、また鋼中に
存在するSをMnSとして固定し、強度低下を抑制する
ために0.3%を下限とする。Mnの上限値を0.6%
とした理由は以下に述べる。Mn量が多いと、伸線前の
圧延時にも局部的な過冷組織を生じ易くなる。通常、圧
延はこのような過冷組織を生じないよう注意深く行われ
るが、Mnが多量に含まれるとミクロ偏析の影響で突発
的に生じる可能性が高い。このような過冷組織は引き続
き行われる伸線工程において断線の原因になる。またM
nは伸線前の皮むき工程(シェービングあるいはピーリ
ング工程)において加工熱による表層マルテンサイト生
成を促進する。更にMnは残留オーステナイトの残留量
に大きな影響を与える元素で、後述する製造方法で製造
した場合、オイルテンパー後に残留オーステナイトを6
%以下に抑制するために多くを添加できない。本発明に
おいてはSを制限するため、Mn添加量を機械的性質を
確保できる最低限に制限した。
【0018】Crは焼入れ性を向上させるとともに焼戻
し軟化抵抗を付与する。また窒化を行う鋼の場合、Nと
結びついて窒化物を生成し、鋼を硬化させる。0.4%
未満ではその効果は顕著ではなく、2.0%を超えると
Cr系炭化物を生成し、破壊特性を低下させる。従って
0.4%を下限、2.0%を上限と規定した。
【0019】Pは鋼を硬化させるが、更に偏析を生じ、
材料を脆化させる。特に粒界強度を低下させ、衝撃値の
低下や水素の侵入により遅れ破壊などを引き起こす。そ
のため少ない方が良い。そこで脆化傾向が顕著となる
0.015%以下と制限した。
【0020】SもPと同様に鋼中に存在すると鋼を脆化
させる。Mnによって極力その影響を小さくできるが、
MnSも介在物の形態をとるため、破壊特性は低下す
る。またMn添加の弊害を極力小さくするためにもSの
含有量を制限し、Mn添加量を最低限に抑制することが
必要である。従って、Sも極力少なくすることが望まし
く、その悪影響が顕著となる0.015%を上限とし
た。
【0021】Vを添加すれば、軟化抵抗を高めることが
できる。特に最近高強度のばねを得る手法としてばねの
窒化処理がしばしば適用され、この場合の窒化温度は3
80〜580℃という高温が適用される。このような高
温熱処理を受けた際の硬さ低下を防ぐ元素としてVは有
効な元素である。しかしその効果はVについては0.0
5%未満では効果がほとんど認められず、0.3%超で
は粗大な未固溶介在物を生成し、靭性を低下させる。ま
たVもMnと同様に残留オーステナイト生成に影響する
元素である。従ってMnとVとの合計添加量が0.6%
を超えると、残留オーステナイト量を6%以下にできな
い。そこでMn+Vを0.6%以下に制限した。
【0022】Moは焼入れ焼戻し後の軟化抵抗を与える
元素であり、窒化のような高温で処理された鋼の軟化を
抑制し、必要強度を与えることができる。Moが0.0
5%未満であればその効果が小さく、また2.0%超で
は鋼中で炭化物を生成し、逆に破壊特性を低下させるこ
とがある。そのため、Mo含有量の下限を0.05%、
上限を2.0%とした。
【0023】非金属介在物すなわち硬質な酸化物、窒化
物、硫化物については、その大きさが大きくなると疲労
強度に悪影響を及ぼす。本発明で対象とする1960M
Paの高強度では小さな介在物でも破壊起点となる。そ
のため、本発明の強度レベルで悪影響を及ぼさない非金
属介在物寸法の上限は15μmであるので、これを上限
値として規定した。この場合の測定方法は無作為の位置
から採取した鋼線の長手方向断面を光学顕微鏡に取り付
けた画像処理装置を用いて2000mm2にわたって介
在物を観察し、認められた最大の非金属介在物の円相当
径を本発明で規定する非金属介在物寸法とする。
【0024】鋼線の強度であるが、高強度ばねに供する
には鋼線の引張強さを1960MPa以上としなければ
ならない。これ以下ではコイリング後のばねの性能が従
来の鋼線を用いたものと何ら変わりない性能となる。た
だし前述したとおり、コイリングにおけるばね成形性の
点からは降伏点に留意する必要がある。すなわち冷間成
形では室温付近での塑性変形によってばねを成形するの
で、塑性変形の開始応力と破断応力が接近した材料では
破断寸前の応力負荷状態で成形していることになる。こ
のような状況では製造上のわずかな変動や、打ちきずな
どの要因により、破断する確率が非常に高くなり、コイ
リング特性が悪くなる。
【0025】従って、塑性変形開始応力と破断応力の差
が大きい材料の方がコイリング特性が良いと考えられ
る。このような観点から、塑性変形開始応力と破断応力
の差を示す指標として降伏比を用い、引張強さが196
0MPaの場合、降伏比を0.9以下にすれば良いこと
を見出した。ここで降伏比とは鋼線のオフセット法によ
り測定した0.2%耐力(σ0.2)と引張試験における
破断応力(σB)の比(σ 0.2/σB)である。逆にこの
降伏比が0.8未満になると十分なへたり特性を発揮で
きない。そこでへたりの観点から降伏比を0.8以上と
した。ただしこの規定は残留オーステナイト量によって
も変動するため残留オーステナイト量が6%以下では降
伏比0.9超でも冷間コイリング可能である。
【0026】残留オーステナイト量6%以下とした理由
を述べる。残留オーステナイトは偏析部や旧オーステナ
イト粒界付近に残留することが多い。残留オーステナイ
トは加工誘起変態によってマルテンサイトとなるが、ば
ね成形時に誘起変態すると材料に局部的な高硬度部が生
成され、むしろばねとしてのコイリング特性を低下させ
ることを見出した。また最近のばねはショットピーニン
グやセッチングなど塑性変形による表面強化を行うが、
このように塑性変形を加える工程を複数含む製造工程を
有する場合、早い段階で生じた加工誘起マルテンサイト
が破壊ひずみを低下させ、加工性や使用中のばねの破壊
特性を低下させる。また打ちきず等の工業的に不可避の
変形が導入された場合にもコイリング中に容易に折損す
る。従って、残留オーステナイトを極力低減し、加工誘
起マルテンサイトの生成を抑制することで、加工性を向
上させる。
【0027】残留オーステナイト量を6%以下とするに
は焼入れ時の冷却媒体の温度が60℃以上に上昇しない
ように制御して、焼入れを徹底させることが必要である
が、化学成分の点でも注意する必要がある。
【0028】オイルテンパー線は伸線材からオーステナ
イト化までの加熱、焼入れ、焼戻しという三つの工程を
連続的に行うことによって製造されるが、残留オーステ
ナイトの発生は合金元素の固容量、焼入れ時の線の温
度、焼戻しの3条件によって左右される。すなわち、合
金元素のうちオーステナイト安定化元素である炭素、M
n、Ni、Moといった元素がオーステナイト中に固溶
すると残留オーステナイトが発生し易くなる。また、合
金元素が添加されるとマルテンサイト変態開始温度(M
s点)、マルテンサイト変態終了温度(Mf点)が低下
し、一般の焼入れ剤による焼入れ温度ではMf点以下に
ならなくなって完全にマルテンサイト化できず、残留オ
ーステナイトが発生し易くなる。
【0029】発生した残留オーステナイトはその後の焼
戻し工程で分解するが、高強度を得るために焼戻し温度
が低い場合や焼戻し時間が短い場合には分解が完了せ
ず、鋼線内に残留することになる。合金元素の添加が少
なければ残留オーステナイトの発生量を容易に減少でき
るが、請求項1または2に規定した添加元素は鋼の軟化
抵抗を高め、高強度を得る観点から必要不可欠である。
請求項1または2の化学成分の鋼をオイルテンパー処理
において残留オーステナイトを6%以下とするには焼入
れ温度をなるべく低くし、十分冷却することが重要であ
り、焼入れ時の線の温度を45℃以下とすることにより
良好な結果が得られる。
【0030】降伏比を適切にすれば残留オーステナイト
量が6%を超えてもコイリング可能であるが、残留オー
ステナイトはばねとして使用中に徐々に加工誘起マルテ
ンサイトとして分解が進行し、その全長を変化させるの
で、ばねのへたりの観点からは極力低い方が好ましい。
【0031】すでに述べたとおり、旧オーステナイト粒
径が小さいほどばねとしての加工性とばね疲労強度の点
で優れる。本発明の対象とする高強度ばねにおいては旧
オーステナイト粒径の粒度番号が11番に達しないと疲
労強度の点で劣る。従って旧オーステナイト粒度番号1
1番以上の細粒であることを規定に加えた。
【0032】
【実施例】表1に本発明例の化学成分とともに比較例の
化学成分を示す。本発明例および比較例は表1に示す化
学成分に溶製され、熱間圧延によりφ8mmの線材とし
た後、パテンチング−皮剥き−伸線−焼鈍−オイルテン
パーの各処理を施してφ3.2mmのオイルテンパー線
を作成した。発明例を含めて伸線過程で断線等の不具合
は発生していない。
【0033】表2に発明例および比較例のオイルテンパ
ー線の熱処理条件および機械的性質等を示す。発明例は
オイルテンパー線の強度は耐疲労特性および耐へたり特
性の観点から引張り強さを1960MPa以上とした。
比較例も一部を除き、基本的には同一強度としたが、化
学成分等が本発明の規定範囲外であったり、旧オーステ
ナイト粒径などを規定外とした。化学成分が規定範囲内
のものであっても熱処理条件の変更により旧オーステナ
イト粒度番号を変化させた。
【0034】本発明例はV、Mo等の未固溶炭化物を避
けるため、従来より加熱温度を高めた。通常未固溶炭化
物は加熱温度を高めると減少するが、そのことは同時に
オーステナイト粒径を粗大化させることにもなる。そこ
でオーステナイト粒径を微細にするためにその加熱時間
は短いレベルとし、未溶解炭化物を避けつつ、旧オース
テナイト粒径を微細に維持するという、高度な制御を行
った。更に残留オーステナイト量を抑制するために焼入
れ温度を45℃以下とした。更に、焼戻し温度を高める
ことにより、発生した残留オーステナイトの分解を促進
し、その量を6%以下に制御した。また、ばね成形にあ
たって折損を避けるため、降伏比も0.8〜0.9程度
に調整した。一方、比較例は化学成分が規定外の鋼線に
加え、化学成分が本発明の規定範囲内であっても残留オ
ーステナイト量や旧オーステナイト粒径番号など鋼線の
ミクロ組織や強度の点で規定範囲外の例である。
【0035】オイルテンパー線は高強度になると、切り
欠き感受性が高まり、ばね成形加工時に微細なきずを起
点として折損を生じ易くなる。このばね成形性を評価す
る手法として、ばね成形前に先立ち、高合金製チップを
オイルテンパー線に押し付けて深さ25μmのノッチを
つけ、次にノッチに引張応力が負荷されるようにノッチ
の反対側に半径6.5mmのポンチで3点曲げ加工を与
え、折損までの曲げ角度を測定するノッチ曲げ試験を行
った。その概略は図1に示すとおりで、折損までの曲げ
角度θを測定した。
【0036】残留オーステナイト量はX線回折装置を利
用し、そのピークの積分強度大きさから定量した質量%
で示す。この方法では質量%で残留オーステナイト量2
%以上あれば精度良く測定できるとされている。
【0037】旧オーステナイト粒度番号はJISに準拠
し、鏡面研磨した鋼線断面を7視野において測定し、そ
の平均を各実施例の旧オーステナイト粒度番号とした。
【0038】表2にはこれらの関係から各成分系におけ
るオイルテンパー処理条件、降伏比、残留オーステナイ
ト量、旧オーステナイト粒度番号、ばね成形性、疲労特
性および耐へたり性を示す。表2において成形性はばね
成形時の折損確率を表したもので、○:0.001%以
下、×:0.001%を超える場合である。更に疲労特
性は5×107回の時間強さを示し、平均負荷応力68
6MPaからの応力振幅を示し、振幅450MPaを以
上の場合、その評価を○:良、450MPa以下の場合
×:不良で示した。
【0039】本発明鋼によるオイルテンパー線は196
0MPa以上の引張強さにもかかわらず、前述のような
ノッチ曲げ試験により優れた加工性を有することがわか
る。
【0040】また表3に評価に用いたばねの諸元を示
す。2種類のばねにより、ばね成形性の評価と耐疲労特
性および耐へたり特性を評価した。ばね仕様1は耐疲労
特性および耐へたり性の評価用であり、ばね仕様2は冷
間でのばね成形性評価用である。表2にその評価結果を
示す。ばね仕様1のばねは窒化処理とショットピーニン
グを施して試験に供した。従来鋼によるオイルテンパー
線はばね成形性に優れるものは疲労強度および耐へたり
性に劣るのに対し、本発明鋼によるオイルテンパー線は
ばね成形時の折損がなく、耐疲労特性、耐へたり特性の
点においても比較鋼と同等以上であった。特にオーステ
ナイト粒径が微細なばねは容易にコイルばねに加工でき
ただけでなく、ばねとしての疲労強度に優れていた。
【0041】焼入れ温度を低くしてかなり工業的に無理
な方法で作成した鋼線や化学成分が本発明の規定内であ
っても規定を超える寸法の非金属介在物を含む鋼線や旧
オーステナイト粒度番号が規定より小さく粒径が大きな
鋼線を用いた場合、ばね加工は可能であってもばねとし
ての疲労特性が劣った。
【0042】図2に旧オーステナイト粒度番号と疲労特
性評価試験において5×107回の時間強さにおける応
力振幅の関係を示した。実施例1〜6(発明例)と本発
明での規定された化学成分で旧オーステナイト粒度を故
意に大きくした実施例13〜15(比較例)の疲労強度
評価結果を示した。疲労強度に関して旧オーステナイト
粒度番号は影響することがわかる。その粒度番号が11
番を超えるとほぼ同等の疲労強度となり、その効果が飽
和することがわかる。
【0043】また降伏比や残留オーステナイト量が規定
外の場合にはコイリング時の折損確率が高く、工業的製
造が不可能と判定された。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【発明の効果】本発明によれば1960MPa以上の高
強度オイルテンパー線を得ることができ、かつ冷間のば
ね成形に際し、折損を発生させずにばね加工を行うこと
ができる。この結果、成形したばねにひずみ取り焼鈍、
窒化処理、ショットピーニング処理を行うことにより、
従来によるばねより優れた耐疲労性と耐へたり性を備え
たばねの製造が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ノッチ曲げ試験方法を示す図である。
【図2】疲労強度と旧オーステナイト粒度番号の関係を
示す図である。
フロントページの続き (71)出願人 000151597 株式会社東郷製作所 愛知県愛知郡東郷町大字春木字蛭池1番地 (71)出願人 000210986 中央発條株式会社 愛知県名古屋市緑区鳴海町字上汐田68番地 (72)発明者 橋村 雅之 室蘭市仲町12番地 新日本製鐵株式会社室 蘭製鐵所内 (72)発明者 萩原 博 東京都千代田区大手町2−6−3 新日本 製鐵株式会社内 (72)発明者 宮木 隆成 室蘭市仲町12番地 新日本製鐵株式会社室 蘭製鐵所内 (72)発明者 林 博昭 東京都千代田区丸の内1−8−2 鈴木金 属工業株式会社内 (72)発明者 鈴木 章一 東京都千代田区丸の内1−8−2 鈴木金 属工業株式会社内 (72)発明者 石川 裕二 愛知県愛知郡東郷町大字春木字蛭池1番地 株式会社東郷製作所内 (72)発明者 近藤 覚 愛知県愛知郡東郷町大字春木字蛭池1番地 株式会社東郷製作所内 (72)発明者 河本 剛 愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自動 車株式会社内 (72)発明者 森 元秀 愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自動 車株式会社内 (72)発明者 脇田 将見 愛知県名古屋市緑区鳴海町字上汐田68番地 中央発條株式会社内 (72)発明者 青木 利憲 愛知県名古屋市緑区鳴海町字上汐田68番地 中央発條株式会社内 (72)発明者 三村 真吾 愛知県名古屋市緑区鳴海町字上汐田68番地 中央発條株式会社内 (72)発明者 榊原 隆之 愛知県名古屋市緑区鳴海町字上汐田68番地 中央発條株式会社内

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%で、C:0.55〜0.65%、
    Si:1.2〜2.5%、Mn:0.3〜0.6%、C
    r:0.4〜2.0%を含み、P:0.015%以下、
    S:0.015%以下に制限するとともに、残部鉄およ
    び不可避的不純物を含み、非金属介在物の大きさが15
    μm以下、引張強度が1960MPa以上を有し、降伏
    比(σ0.2/σB)が0.8以上0.9以下、または降伏
    比0.9超かつ残留オーステナイト量6%以下であり、
    更に旧オーステナイト粒度番号が11番以上であること
    を特徴とする高強度ばね用鋼線。
  2. 【請求項2】 更に、質量%で、Mo:0.05〜2.
    0%、V:0.05〜0.3%、かつMn+Vが0.6
    %以下、の内の1種または2種を含むことを特徴とする
    請求項1記載の高強度ばね用鋼線。
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