JP2708279B2 - 高強度ばねの製造方法 - Google Patents

高強度ばねの製造方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車のエンジンの弁
ばね、あるいは自動車の懸架ばね用等に用いられる疲労
強度の優れた高強度ばねの製造方法に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】従来自動車のエンジン等に使用されてい
る弁ばね、あるいは自動車の懸架ばね用鋼線の一部は、
JISG3561、JISG3565、JISG356
6、JISG3567、JISG3568等で規定され
ているいわゆるオイルテンパー線を冷間でばねに成型加
工して使用される。ところで近年自動車エンジンの高出
力化、車体の軽量化の要望が極めて高く、これに対応す
るため高疲労強度のばねが強く求められているが、これ
らはJISで規定されている既存の材料では、この要求
を満たすことが難しくなってきている。この疲労強度向
上の要望に応えるため、材料的には、合金元素量を増し
たばね鋼が提案されている(例えば、特開昭59−17
7351、特開昭62−107044、特開昭62−1
77152、特開平2−107746号公報)。また、
ばね製造上からは、窒化処理、ショットピーニング等に
より表面を硬化させ適当な圧縮の残留応力を付与するの
が一般的になってきている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上述したばねの疲労強
度を向上させるためには、ばねを構成する鋼材の強度す
なわち硬さを上げることが一つの有効な手段であるが、
既に提案されている高強度用のばね鋼で、高い引張り強
さを有する焼入・焼戻鋼線(オイルテンパー線)を製造
しても、その鋼線の冷間加工性が低いため、冷間成形で
実際のばねに加工することができず、弁ばね、懸架ばね
等の高寿命化には限界があった。本発明は高強度の焼入
・焼戻鋼線から高強度のばねを製造する方法を得ること
を目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記の問題
点を解決するため、種々の実験を重ねた結果、高強度の
焼入・焼戻鋼線の加工性が100℃〜550℃の温度範
囲で極めて向上することを見出し発明を完成したもので
ある。すなわち本発明は、 (1)重量% C :0.55〜0.75%、 Si:1.00〜2.50%、 Mn:0.30〜1.50% と、 Ni:1.00〜4.00%、 Cr:0.50〜2.50%、 Mo:0.10〜1.00% のうち2種ないし3種と V :0.05〜0.60%、 Nb:0.05〜0.60% のうち1種ないし2種を含有し、残部は不可避不純物お
よびFeからなる引張強さ200Kgf/mm2 以上を有する
焼入・焼戻鋼線を、100℃以上550℃以下の温度に
加熱し、ばねに成形加工することを特徴とする高強度ば
ねの製造方法、および(2)上記(1)項に記載の方法
でばねに成形加工した後、低温焼鈍を施すことなく「ば
ね」とする高強度ばねの製造方法、を要旨とするもので
ある。
【0005】以下に本発明者らが行った実験結果を示
し、本発明の内容を詳説する。表1に示す化学成分を有
する直径4.0mm、引張強さ220Kgf/mm2 のオイルテ
ンパー線を製造し、種々の温度で引張試験を行った。
【0006】
【表1】
【0007】その時の試験片の絞り、および引張強さを
図3に示す。図4は図3に示した種々の温度で引っ張っ
た後の試験片の硬さを測定した結果である。図3から引
張り加工の温度が高くなるとともに延性が改善され、絞
りが増加し100℃を越すと40%以上の絞りを有する
ようになり、材料の加工性が極めて良く改善されている
ことがわかる。またその時の加工に要する動力を表わす
尺度と考えられる引張強さも、加工温度が300℃以上
で低下していることがわかる。さらに図4によると、こ
のような温度を上げて加工した後の材料の強度(硬さ)
は、加工温度が550℃位までは初期の硬さを維持し、
更に中間の温度域ではむしろ硬くなっていることがわか
る。
【0008】図3には、引張試験の際の破断状況を観察
し、微細な表面疵等を起点にした異常破断現象の有無
(○は異常破断無し、●は異常破断有り)を記入してあ
り、この実験では150℃以上でこの異常破断は生じて
いなかった。なお、図3中のデータは、この異常破断が
生じた場合の値は除いてある。この結果によれば温度を
上げて加工することにより、微細な疵の破断に対する影
響を軽減できることがわかる。また、通常の冷間成形法
で製造したばねの内側には、引張残留応力が存在し、疲
労特性に悪影響を及ぼす低温焼鈍を行なうのが常である
が、本発明法で成形したばねに存在する残留応力は極め
て低い値であり、低温焼鈍を行う必要がないことも特徴
である。
【0009】以上のことから室温の引張強さが200Kg
f/mm2 を越すような高強度の鋼線を加工する場合、その
加工温度を高めることにより、微細なきずに対する割れ
感受性の低減、材料延性の向上および加工動力の低減を
もたらし、かつ、加工した後の強度は最初有していた以
上の強度を確保できること等が明らかになり、ひいて
は、通常行われている成形後の低温焼鈍をも省略できる
ことも明らかとなった。
【0010】
【作用】以下に本発明の各構成要件の範囲の限定理由お
よび作用について説明する。Cは焼入・焼戻鋼線の強度
(硬さ)を左右する元素で、0.55%未満では必要な
強度が得られないので避けなければならず、また、0.
75%を越えて添加してもそれ以上強度上の利点が無い
ので、上限を0.75%とした。Siは、ばねの特性上
重要な「へたり」を低減するために必要なが元素で、
1.00%未満では「へたり」が大き過ぎて、高強度の
弁ばね、懸架ばねとして使用できないので避ける必要が
ある。一方、2.50%を越えて添加しても、それ以上
の効果が得られないばかりか、製造上の困難さ、例えば
脱炭の抑制が増すので避けなければならない。Mnは脱
酸および鋼材の焼入性を与える元素で、0.30%未満
ではその効果が不十分であり、また、1.50%を越え
て添加してもそれ以上の効果が得られないので、上限を
1.50%とした。Ni、Cr、Moは、焼入性を上
げ、あるいは焼き戻し軟化抵抗を高め、あるいは微細な
炭化物を析出することにより、ばねの強度と靭性を向上
せしめる元素であり、その2種ないし3種を複合して添
加することが必要である。そのため、Niは、1.00
〜4.00%添加することが必要であるが、1.00%
未満ではその効果が現れず、また、4.00%を越えて
添加してもそれ以上の効果が得られない。Crは、0.
50%以上の添加が必要であり、2.50%を越すと
「へたり」性が劣化するので避けなければならない。M
oは焼き戻し軟化抵抗を高め、また微細な炭化物を析出
することにより、ばねに強度と靭性を付与する効果もあ
るため、0.10〜1.00%の添加するが、0.10
%未満ではその効果が認められずまた1.00%を越え
ても効果が飽和してしまうので除外する。V、Nbは結
晶粒の微細化、析出硬化により、強度の向上、へたり性
の改善を行うために添加する元素であり、0.05%以
上0.60%以下の範囲で1種または2種を複合して添
加するが、それぞれの成分が0.05%未満では効果が
なく、0.60%を越えて添加しても効果は飽和する。
【0011】更に、本発明は、高疲労強度を有するばね
の製造方法を目的としたものであるので、引張強さ20
0Kgf/mm2 以上の強さを有する焼入・焼戻鋼線が対象と
なり、引張強さが200Kgf/mm2 未満の場合は除外され
る。なお、対象とする焼入・焼戻鋼線とは、必ずしも高
い温度(オーステナイト域)から油等に焼入して製造さ
れるいわゆるオイルテンパー線に限らず、空気焼入等に
よって得られた高強度の鋼線、あるいは高周波加熱によ
って得られる焼入焼戻鋼線も含まれる。この焼入・焼戻
鋼線をばねに成形する際、いわゆる温間で加工すること
が本発明の特徴である。加工温度が、100℃未満では
鋼線の延性が低く、また疵感受性が高いのでばねに成形
加工することができない。一方、550℃を越えた温度
条件の場合、得られたばねの強度が低下してしまい、高
強度ばねが製造できないし、また酸化が激しくなり表面
状態が悪化するのでその対策も施す必要がでるので除外
する。
【0012】
【実施例】以下に本発明の実施例を示す。 (実施例1)表2に示す化学成分を有する鋼線から、引
張強さで220Kgf/mm2 の強度を有する直径4.0mmの
オイルテンパー線を製造し、表3に示す諸元を有する自
動車用弁ばねに種々の温度で成形加工した。
【0013】
【表2】
【0014】
【表3】
【0015】その時の加工温度と折損率の関係を図1に
示す。その結果、室温では折損が高い比率で生じている
ので、コイリングの温度を上げることにより折損率が低
下し150℃以上ではゼロとなっていることが明らかで
ある。
【0016】(実施例2)表4に示す化学成分を有する
鋼線から引張強さ220Kgf/mm2 の強度を有する直径
3.2mmの焼入・焼戻鋼線を製造し、表5に示す諸元を
有する自動車用弁ばねに種々の温度で成形加工した。
【0017】
【表4】
【0018】
【表5】
【0019】その時のばねの加工温度と折損率の関係を
図2に示した。その結果、室温では折損が高い比率で生
じたが、コイリングの温度を上げることにより加工性が
向上し、150℃以上では折損率がゼロとなっているこ
とが明らかである。
【0020】(実施例3および比較例)前述の表4に示
す化学成分を有する鋼線から引張強さ210Kgf/mm2
強度を有する直径3.2mmの焼入・焼戻鋼線を製造し、
表5に示す諸元を有する自動車エンジンの弁ばねにばね
の成形温度を400℃とした本発明の実施例と、常温
(25℃)で成形加工した比較例により製造した。それ
らの弁ばねについて、最大応力τmax =115Kgf/mm2
で5×107 回の疲労試験を行った。その結果を表6に
示す。
【0021】
【表6】
【0022】表6に示すように本発明による場合、ばね
に成形後の低温焼鈍を省略しても良好な疲労特性を有し
ていることがわかる。
【0023】(実施例4)表7に示す組成の鋼線から引
張強さ225Kgf/mm2 の強度を有する直径3.2mmの焼
入・焼戻鋼線を製造し、直径3.2mmの芯金に巻付ける
試験(自径巻試験)を行なった。
【0024】
【表7】
【0025】その結果、巻付ける温度が150℃以上の
場合、折損は皆無であり充分ばねに加工出来る延性を有
していることが確かめられた。
【0026】(実施例5)表8に示す組成の鋼線から引
張強さ215Kgf/mm2 の強度を有する直径3.4mmの焼
入・焼戻鋼線を製造し、直径3.4mmの芯金に巻付け
た。
【0027】
【表8】
【0028】その結果巻付ける温度が、150℃以上の
場合は、折損が皆無であり充分なばねに加工できる延性
を有していることが確かめられた。また、上記の実施例
は、いずれも弁ばねについて記述したが、懸架ばねにつ
いても同様の効果を有することを確認した。
【0029】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、引張強さ
200Kgf/mm2 以上の高強度を有する焼入・焼戻鋼線か
ら安定して「ばね」に成形加工でき、従来得られなかっ
た高疲労強度、高寿命を有する高強度ばねを製造するこ
とができ、工業的な効果は多大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のばね成形温度と折損率との関係を示
す図表である。
【図2】実施例2のばね成形温度と折損率との関係を示
す図表である。
【図3】引張強さ220Kgf/mm2 の焼入・焼戻鋼線の各
温度における引張試験の結果を示す図表である。
【図4】図3に示す引張試験後の試験片の硬さを示した
図表である。
フロントページの続き (73)特許権者 999999999 鈴木金属工業 株式会社 東京都千代田区丸の内1丁目8番2号 (72)発明者 子安 善郎 北海道室蘭市仲町12番地 新日本製鐵株 式会社 室蘭製鐵所内 (72)発明者 中野 修 愛知県豊田市トヨタ町1番地 トヨタ自 動車株式会社内 (72)発明者 石川 裕二 愛知県愛知郡東郷町大字春木字蛭池1番 地 株式会社東郷製作所内 (72)発明者 小野田 光芳 千葉県習志野市東習志野7−5−1 鈴 木金属工業株式会社内 (56)参考文献 特開 昭63−176430(JP,A)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%で C :0.55〜0.75%、 Si:1.00〜2.50%、 Mn:0.30〜1.50% と、 Ni:1.00〜4.00%、 Cr:0.50〜2.50%、 Mo:0.10〜1.00% のうち2種ないし3種と、 V :0.05〜0.60%、 Nb:0.05〜0.60% のうち1種ないし2種を含有し、残部は不可避不純物お
    よびFeからなる引張強さ200Kgf/mm2 以上を有する
    焼入・焼戻し鋼線を、100℃以上550℃以下の温度
    に加熱し、ばねに成形加工することを特徴とする高強度
    ばねの製造方法。
  2. 【請求項2】 請求項1記載の方法でばね形状に成形加
    工した後、低温焼鈍を施すことなく「ばね」とする高強
    度ばねの製造方法。
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