JP2000158209A - 炭窒酸化チタン膜被覆工具 - Google Patents

炭窒酸化チタン膜被覆工具

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JP2000158209A JP10350700A JP35070098A JP2000158209A JP 2000158209 A JP2000158209 A JP 2000158209A JP 10350700 A JP10350700 A JP 10350700A JP 35070098 A JP35070098 A JP 35070098A JP 2000158209 A JP2000158209 A JP 2000158209A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 膜厚増加とともに膜表面の結晶粒幅が粗大化
せず、局所的な突起の形成を抑えた炭窒酸化チタン膜を
実現し、従来に比して格段に切削耐久特性の優れる炭窒
酸化チタン被覆工具を提供する。 【解決手段】 基体表面に周期律表のIVa、Va、VIa
族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化
物、炭窒酸化物、並びに酸化アルミニウムのいずれか一
種の単層皮膜または二種以上の多層皮膜を有し、その少
なくとも一層が炭窒酸化チタンからなる炭窒酸化チタン
被覆工具において、前記炭窒酸化チタン膜のX線回折ピ
ーク最強度面が、(422)面または(311)面であ
ることを特徴とする炭窒酸化チタン被覆工具。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は炭窒酸化チタン被覆
工具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、硬質皮膜被覆工具は超硬合金、
高速度鋼、特殊鋼のうちの一種または二種以上からなる
基体表面に硬質皮膜を化学蒸着法や、物理蒸着法により
成膜して作製される。このような被覆工具は皮膜の耐摩
耗性と基体の強靭性とを兼ね備えており、広く実用に供
されている。特に、高速で切削する場合や切削液を用い
ずに旋削加工する場合には、切削工具の刃先温度は10
00℃前後まで上がり、被削材との接触による摩耗や断
続切削等の機械的衝撃に耐える必要があり、耐摩耗性と
強靭性とを兼ね備えた被覆工具が重宝されている。
【0003】上記の硬質皮膜には、耐摩耗性と靭性とに
優れる、周期律表IVa、Va、VIa族金属の炭化物、窒
化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化物、炭窒酸化物から
なる膜と、耐酸化性に優れる酸化アルミニウム膜のうち
のいずれか一種の単層皮膜あるいは二種以上の多層皮膜
が用いられている。
【0004】周期律表IVa、Va、VIa族金属の炭窒化
物からなる膜として炭窒化チタン膜が主に用いられてい
る。炭窒化チタン膜は靭性と耐摩耗性とをバランス良く
有することから工具用被覆膜として多用されており、本
発明者等は特許第2660180や特開平10−157
11、特願平10−76561により柱状晶の形態を持
つ炭窒化膜を提案してきた。この柱状晶形態の炭窒化膜
の特長は、粒状の炭窒化膜に比べて、各結晶粒が膜厚方
向に細長いため、膜厚に比べて横方向の結晶粒幅が小さ
く、クラックが発生し難いことである。また、他にも、
(220)面にX線回折最強ピークが現れるチタンの炭
窒化膜(特開昭56−156767)、(422)面の
X線回折ピーク強度が最強である炭窒化膜(特開平6−
158325や特開平7−62542)、あるいは(3
11)面のX線回折ピーク強度が最強である炭窒化膜
(特開平5−269606)が提案されている。更に、
テーパー形状の柱状結晶粒を持つ炭窒化膜の平均結晶粒
幅と膜厚との関係を規定した特開平8−71814等が
提案されている。
【0005】しかし、これらは柱状晶形態の炭窒化膜の
みを検討しており、炭窒酸化膜に関しては検討していな
い。例えば、特開平6−158325では(422)面
においてX線回折最強ピーク強度を示す炭窒化チタン膜
を提案しているが、同時に成膜されている炭窒酸化膜は
炭窒化チタン膜とは別個の膜として扱っており、炭窒酸
化膜のX線回折最強ピーク強度は検討していない。
【0006】炭窒酸化チタン膜に関しては、特開平8−
257808では(111)面、(220)面、(20
0)面からのX線回折ピーク強度IがI(111)>I
(220)>I(200)であるチタンの炭窒酸化物層
が被覆された切削工具が提案され、特開平8−2697
19ではI(220)>I(111)>I(200)であ
るチタンの炭窒酸化物層が被覆された切削工具が提案さ
れている。また、X線回折で(220)面に最強ピーク
が現れるTiの炭窒化膜を提案した先述の特開昭56−
156767に対して、特許第2535866では、X
線回折で(220)面に最強ピークが現れるTiの炭窒
酸化物の単層、また、Tiの炭窒酸化物とTiの炭化物
および炭窒化物のうちの一種もしくは二種を複層被覆し
た切削工具が開示されている。また、特開平8−479
99では、TiCxyz(但し0.7≦x+y+z≦
1.3、0.2<y<0.8)からなる第2層上に、T
iCx1-x(但し0≦x≦1)からなる第3層を被覆し
た被覆超硬質焼結合金物品が提案されている。
【0007】しかし、前記従来の炭窒酸化物膜は、(1
11)面または(220)面のX線回折ピーク強度が最
強であり、(311)面や(422)面のX線回折ピー
ク強度が最強である炭窒酸化物膜については言及してい
ない。
【0008】炭窒酸化物膜は750〜950℃と比較的
低温で成膜でき、膜硬度が高く、耐腐食性が優れ、摩擦
係数が低い利点を有しており、上記のように種々の検討
がなされているが、膜厚増加とともに膜表面の結晶粒幅
が大きくなる欠点と、膜表面に粗大結晶粒からなる局所
的な突起が形成される欠点があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の炭窒酸化チ
タン膜の欠点を踏まえて、本発明が解決しようとする課
題は、膜厚増加とともに膜表面の結晶粒幅が粗大化せ
ず、局所的な突起の形成を抑えた炭窒酸化チタン膜を実
現し、従来に比して格段に切削耐久特性の優れる炭窒酸
化チタン被覆工具を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を
解決するために鋭意研究してきた結果、(311)面ま
たは(422)面のX線回折ピーク強度が最強であり、
酸素原子を0.05〜3質量%含有する周期律表IVa、
Va、VIa族金属の炭窒酸化物からなる柱状晶形態の強
い膜を被覆することにより切削耐久特性の優れる工具を
実現できることを見出し、本発明に想到した。
【0011】すなわち本発明は、基体表面に周期律表の
IVa、Va、VIa族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、
炭酸化物、窒酸化物、炭窒酸化物、並びに酸化アルミニ
ウムのいずれか一種の単膜皮膜または二種以上の多膜皮
膜を有しその少なくとも一膜が炭窒酸化チタンからなる
炭窒酸化チタン被覆工具において、前記炭窒酸化チタン
膜のX線回折ピーク最強度面が、(422)面または
(311)面である炭窒酸化チタン被覆工具である。後
に詳説するように、X線回折ピーク最強度面が(42
2)面または(311)面であることにより、炭窒酸化
チタン膜は、膜厚増加によっても膜表面の結晶粒幅が粗
大化せず、局所的な突起が形成されない。また、前記炭
窒酸化チタン膜の結晶性が高く粒界の強度が上がるとと
もに、膜表面の起伏が大きくなり上層膜との密着性が高
まり、良好な切削耐久特性が実現されていると判断され
る。スローアウェイインサート型の切削工具の場合、X
線回折強度は工具側面等の平坦部で測定する。
【0012】本発明において、前記炭窒酸化チタン膜の
結晶構造が立方晶であり、格子定数が0.428〜0.
431nmであることを特徴とする。前記炭窒酸化チタ
ン膜の結晶構造が立方晶であり、格子定数が0.428
〜0.431nmであることにより、特願平10−76
561で規定したように、結晶構造が面心立方晶であ
り、格子定数が0.428〜0.431nmである炭窒
化チタン膜の炭素と窒素の原子位置に酸素原子が入るこ
とになり、緻密で結晶性の高い炭窒酸化チタン膜が実現
でき、優れた切削耐久特性が実現されていると判断され
る。
【0013】また、本発明において、前記炭窒酸化チタ
ン膜表面またはその近傍の平均結晶粒幅が、前記炭窒酸
化チタン膜の膜厚が5μm未満の時は0.3μm以下、
より好ましくは0.2μm以下であり、膜厚が5μm以
上10μm未満の時は0.6μm以下、より好ましく
は、0.4μm以下であり、膜厚が10μm以上の時は
1μm以下、より好ましくは、0.6μm以下であるこ
とがよい。ここで、炭窒酸化チタン膜の膜厚と膜表面ま
たはその近傍の平均結晶粒幅とは、膜破断面を用い、後
述の方法で測定されるものである。特に、スローアウェ
イインサート型の切削工具の場合、炭窒酸化チタンの膜
厚と表面またはその近傍の平均結晶粒径は、切削時に最
も重要である工具刃先のホーニング部で測定する。これ
は、ホーニング部は基体表面の面粗さが小さく、炭窒酸
化チタン膜本来の特性が現われ易いためでもある。前記
炭窒酸化チタン膜表面またはその近傍の平均結晶粒幅が
上記特定範囲を超えると、炭窒酸化チタン膜が粗大結晶
粒化するため、クラックが入り易くなり、本発明の効果
が現れなくなる。また、膜厚が5μm未満の時は0.2
μm以下、膜厚が5μm以上10μm未満の時は0.4
μm以下、膜厚が15μmを超える時は0.6μm以下
に前記平均結晶粒幅を制御することにより、炭窒酸化チ
タン膜の靭性を良好に維持しつつより膜を厚くでき、更
に良好な切削耐久特性が実現されていると判断される。
【0014】また、本発明において、前記炭窒酸化チタ
ン膜中の酸素量が0.05〜3質量%、より好ましくは
0.1〜2質量%、更に好ましくは0.3〜1質量%で
あることがよい。酸素量が0.05〜3質量%であるこ
とにより、炭窒酸化チタン膜の(422)面または(3
11)面配向が強くなり、かつ膜の柱状晶形態が強くな
るとともに膜表面の平均結晶粒幅が小さくなり、優れた
切削耐久特性が実現される。酸素量が0.05質量%未
満では酸素元素の効果が現れず、3質量%を超えると炭
窒酸化チタン膜自体の機械強度が低下し脆くなる欠点が
生じる。酸素量が0.1〜2質量%の時に上記酸素元素
の効果がより顕著であり、酸素量が0.3〜1質量%の
時に酸素元素の効果が特に顕著に現れる。
【0015】また、本発明において、前記炭窒酸化チタ
ン膜中の塩素量が0.01〜2質量%、より好ましくは
0.1〜1質量%であることがよい。塩素量が0.01
〜2質量%であることにより、炭窒酸化チタン膜の(4
22)面または(311)面配向が強くなり、かつ膜の
柱状晶形態が強くなるとともに膜表面の平均結晶粒幅が
小さくなり、優れた切削耐久特性が実現される。塩素量
が0.01質量%未満では塩素元素の効果が現れず、塩
素量が2質量%を超えると炭窒酸化チタン膜の硬度が低
下し、工具耐摩耗性が低下する。塩素量が0.1〜1質
量%の時に塩素元素の効果がより顕著であり、炭窒酸化
チタン膜の(422)面または(311)面の配向が更
に強くなると同時に耐摩耗性がより向上し、更に優れた
切削耐久特性が実現される。
【0016】
【発明の実施の形態】以下に本発明を詳説する。本発明
の被覆工具において、炭窒酸化チタン(TiCNO)膜
のX線回折ピークの同定は、JCPDSファイル(Po
wder Diffraction File Pub
lished by JCPDS Internati
onalCenter for Diffractio
n Data)に記載がないため、TiCとTiNのX
線回折データ(ASTMファイルNo.29−1361
とNo.38−1420)および本発明品を実測して得
たX線回折パターンから求めた表1の数値を用いて行っ
た。また、炭窒酸化チタンのX線回折強度I0は表2に
示したTiCのX線回折強度I0と同一と仮定した。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】本発明の被覆工具を製作するために既知の
成膜方法を採用できる。例えば、通常の化学蒸着法(熱
CVD)、プラズマを付加した化学蒸着法(PACV
D)、イオンプレーティング法等を用いることができ
る。用途は切削工具に限るものではなく、炭窒酸化チタ
ン膜を含む単層あるいは多層の硬質皮膜を被覆した耐摩
耗材や金型、溶湯部品等でもよい。
【0020】本発明の被覆工具において、炭窒酸化チタ
ン膜はTiCNOに限るものではない。例えばTiCN
OにCr、Zr、Ta、Mg、Y、Si、Bのうちの一
種または二種以上を0.3〜10重量%添加した膜でも
よい。0.3重量%未満ではこれらを添加する効果が現
れず、10重量%を超えるとTiCNO膜の耐摩耗、高
靭性の効果が低くなる欠点が現れる。また、炭窒酸化チ
タン膜はCH3CNとTiCl4とCO2、COの混合ガ
スを反応させて成膜する膜に限るものではなく、C
4、N2、TiCl4とCO2、COの混合ガスとを反応
させて成膜するTiCNO膜でもよい。また、本発明の
被覆工具において、炭窒酸化チタン膜の上膜はTiC
膜、TiCO膜あるいはTiCNO膜に限るものではな
い。例えばTiN膜、TiCN膜、あるいは原料ガスに
CH3CNガスを用いずにN2ガスを用いて成膜した他の
TiCNO膜等の膜でもよい。更には、例えばTiCに
Cr、Zr、Ta、Mg、Y、Si、Bのうちの一種ま
たは二種以上を0.3〜10重量%添加した膜でもよ
い。0.3重量%未満ではこれらを添加する効果が現れ
ず、10重量%を超えるとTiC膜の耐摩耗の効果が低
くなる欠点が現れる。また、炭窒酸化チタン膜の上に直
接酸化アルミニウムを主とする下記の酸化膜を成膜する
のも有効である。また、上記膜には本発明の効果を消失
しない範囲で不可避の不純物を例えば数質量%程度まで
含むことが許容される。また、下地膜はTiNに限るも
のではなく、例えば下地膜としてTiC膜および/また
はTiCN膜を成膜した場合も本発明に含まれることは
勿論である。
【0021】本発明の被覆工具に被覆する酸化アルミニ
ウム膜としてκ型酸化アルミニウム単相またはα型酸化
アルミニウム単相の膜を用いることができる。また、κ
型酸化アルミニウムとα型酸化アルミニウムとの混合膜
でもよい。また、κ型酸化アルミニウムおよび/または
α型酸化アルミニウムと、γ型酸化アルミニウム、θ型
酸化アルミニウム、δ型酸化アルミニウム、χ型酸化ア
ルミニウムの少なくとも一種以上とからなる混合膜でも
よい。また、酸化アルミニウムと酸化ジルコニウム等に
代表される他の酸化物との混合膜でもよい。
【0022】本発明の被覆工具において、炭窒酸化チタ
ン膜、炭窒化チタン膜、炭化チタン膜、炭酸化チタン
膜、炭窒酸化チタン膜、酸化アルミニウム膜は必ずしも
最外膜である必要はなく、例えばさらにその上に少なく
とも一膜のチタン化合物(例えばTiN膜、TiCN膜
または前記膜を組み合わせた多層膜等)を被覆してもよ
い。
【0023】次に本発明の被覆工具を実施例によって具
体的に説明するが、これら実施例により本発明が限定さ
れるものでない。
【0024】(実施例1)質量%で、WC72%,Ti
C8%,(Ta,Nb)C11%,Co9%の組成より
なるスローアウェイインサート型の切削工具用超硬合金
基板をCVD炉内にセットし、その表面に、化学蒸着法
によりH2キャリヤーガスとTiCl4ガスとN2ガスと
を原料ガスに用い0.3μm厚さのTiN膜を900℃
でまず形成した。続いて、750〜980℃でTiCl
4ガスを0.5〜2.5vol%、CH3CNガスを0.
5〜2.5vol%、N2ガスを25〜45vol%、
CO2とCOの混合ガスを0.5〜10vol%、残H
2キャリヤーガスで構成された原料ガスを毎分5500
mlだけCVD炉内に流し、成膜圧力を20〜100T
oorの条件で反応させることにより6μm厚さのTi
CNO膜を成膜した。その後、950〜1020℃でT
iCl4ガスとCH4ガスとH2キャリヤーガスとをトー
タル2,200ml/分で60分間流して成膜し、その
まま連続して本構成ガスにさらに2.2〜550ml/
分のCO2とCOの混合ガスを追加して5〜30分間成
膜することによりチタンの炭化物および炭酸化物からな
る膜を作製した。続いてAl金属小片を詰め350℃に
保温した小筒中にH2ガス310ml/分とHClガス
130ml/分とを流すことにより発生させたAlCl
3ガスおよびH2ガス2l/分とCO2とCOの混合ガス
500ml/分とをCVD炉内に流し、1010〜10
20℃で2時間反応させることにより所定の厚さの酸化
アルミニウム膜を成膜した。
【0025】図1は実施例1の条件で作製した本発明品
の代表的な工具側面平坦部の皮膜部分を試料面にして、
理学電気(株)製のX線回折装置(RU−200BH)を
用いて2θ−θ走査法により2θ=10〜145度の範
囲で測定したX線回折パターンである。X線源にはCu
Kα1線(λ=0.15405nm)を用い、ノイズ
(バックグランド)は装置に内蔵されたソフトにより除
去した。図1のX線回折パターンから求めた、本発明品
の炭窒酸化チタン(TiCNO)膜の各ピークの2θ値
とX線回折強度および各2θ値から求めた格子定数とを
表3にまとめて示した。炭窒酸化チタンのX線回折ピー
クの同定は、特願平10−76561で求めた炭窒化チ
タン膜のX線回折ピーク位置と、その前後のWCのX線
回折ピーク(ASTMファイルNo.25−104
7)、TiCのX線回折ピーク(同No.32−138
3)、TiNのX線回折ピーク(同No.38−142
0)、κ型酸化アルミニウムのX線回折ピーク(同N
o.4−878)、α型酸化アルミニウム(同No.1
0−173)のX線回折ピーク等との位置関係も考慮し
て決定した。表3より、炭窒酸化チタン膜の結晶構造が
立方晶であり格子定数が0.429nmであるとして計
算した各X線回折ピーク位置と本発明品の実測値とが良
く一致することがわかる。各X線回折ピークにおいて決
定した立方晶の面指数を表3の右欄に記した。なお、
(111)面のX線回折ピーク位置は2θが低角度のた
め測定誤差が大きく、上記の格子定数の計算からは除外
した。(400)面はX線回折ピークが弱く読み取りが
困難だった。また、(511)面はX線回折ピーク強度
が低く、かつピーク幅も広いため、2θ値の読み取りが
困難だった。同様にして、他の本発明品の炭窒化チタン
膜の格子定数を測定した結果、本発明品の格子定数は
0.428〜0.431nmの範囲にあった。
【0026】
【表3】
【0027】図1と表3から、本発明品の、炭窒酸化チ
タン膜のX線回折強度I(hkl)は(422)面が最
も強く、次に(311)面、その次に(111)面が強
いことがわかる。
【0028】図2は、本発明の代表的な被覆工具の皮膜
部の破断面を走査型電子顕微鏡装置(SEM)により撮
影した写真、図3は炭窒酸化チタン膜表面部の平均結晶
粒幅の測定方法を図示したものであり、図2に対応す
る。本発明品はスローアウェイインサート型切削工具で
あるため、炭窒酸化チタンの膜厚と表面の平均結晶粒幅
は、切削時に最も重要である工具刃先のホーニング部で
測定した。炭窒酸化チタン膜表面の平均結晶粒幅は、図
3に示す通り、炭窒酸化チタン膜表面部近傍に、基体
(基板)表面と平行に横線を引き、横線内に含まれる結
晶粒数から(1)式を用いて求めた。 平均結晶粒幅=測定長さ 17μm/測定長内の結晶粒数 …(1) 本測定方法により、図2に示す本発明品の炭窒酸化チタ
ン膜は、膜厚13μm、平均結晶粒幅が0.4μmであ
ることが確認された。
【0029】本発明品の膜断面を研摩し、炭窒酸化チタ
ン膜断面の研摩面中の5点に含まれる酸素量と塩素量と
を電子プローブマイクロアナライザー(EPMA、日本
電子(株)製JXA−8900R)を用い、加速電圧1
5KV、試料電流0.2μAで分析した結果、5点平均
の酸素量は0.62質量%、塩素量は0.58質量%で
あった。
【0030】表4は、同様にして測定した、実施例1で
作製した代表的な本発明品の炭窒酸化チタン膜のX線回
折強度最強面、膜厚と平均結晶粒幅、膜中酸素量(質量
%)、膜中塩素量(質量%)と、後述の連続切削時の工
具寿命と断続切削可能回数とをまとめて示したものであ
る。膜厚は小数点以下第一位を四捨五入し、平均結晶粒
幅は小数点以下第二位を四捨五入した。表4より、本発
明品の炭窒酸化チタン膜のX線回折強度最強面は(31
1)面または(422)面であること、また、平均結晶
粒幅は、膜厚が5μm未満の時は0.3μm以下、膜厚
が5μm以上10μm未満の時は0.6μm以下、膜厚
が10μm以上の時は1μm以下であることがわかる。
また、本発明品の炭窒酸化チタン膜中の酸素量は0.0
5〜3質量%であり、塩素量は0.01〜2質量%であ
ることがわかる。
【0031】
【表4】
【0032】表4において、連続切削寿命は、実施例1
の条件で製作した切削工具5個を用いて、以下の条件で
連続切削し、平均逃げ面摩耗量が0.4mm、クレータ
ー摩耗が0.1mmのどちらかに達した時間を連続切削
寿命と判断し求めた。 被削材 S53C(HS35) 切削速度 200m/分 送り 0.3mm/rev 切り込み 2.0mm 水溶性切削油使用 表4より、上記本発明品は、炭窒酸化チタンの膜厚が2
μmの時、連続切削寿命が20分と長く、膜厚増加に比
例して工具寿命も伸びており、切削工具として連続切削
時の耐久性に優れていることがわかる。なお、表4の場
合、炭窒酸化チタンの膜厚T(μm)と工具寿命L(分)
とは、L=3.58T+19.35、R2=0.91で
表せる。
【0033】また、表4に示した断続切削回数は、実施
例1の条件で製作した切削工具5個を用いて、以下の条
件で断続切削し、欠損に至るまでの断続切削回数を評価
した。刃先先端の欠け状況は倍率50倍の実体顕微鏡で
観察した。 被削材 S53C 溝入材(HS38) 切削条件 220 m/分 送り 0. 2 mm/rev 切り込み 2.0 mm 切削液 使用せず(乾式切削) 本発明品は、炭窒酸化チタンの膜厚が2μmの時、50
00回迄断続切削後も刃先が健全で欠損不良は認められ
ず、切削工具として断続切削時の耐久性に優れているこ
とがわかる。
【0034】次に、表4より、本発明品はいずれも連続
切削寿命が20分以上であり、かつ断続切削も1000
回以上可能であり、切削耐久特性が優れていることがわ
かる。また、膜厚がともに4μmであるNo.2、3の
本発明品や、膜厚が9μmのNo.7〜14の本発明品
および膜厚が15μmであるNo.18〜20の本発明
品の切削試験結果、特に断続切削試験結果から、膜厚が
5μm未満の時は平均結晶粒幅が0.2μm以下、膜厚
が5μm以上10μm未満の時は0.4μm以下、膜厚
が10μm以上の時は0.6μm以下で特に切削耐久特
性が優れていることがわかる。また、例えば、膜厚9μ
mのNo.8〜10の断続切削回数をNo.7およびN
o.11〜14の断続切削回数と比較することにより、
炭窒酸化チタン膜中の酸素含有量が0.1〜2質量%の
時、切削耐久特性が特に優れており、0.3〜1質量%
の時には更に切削耐久特性が優れていることがわかる。
また、例えば、膜厚9μmのNo.8〜11の断続切削
回数をNo.7およびNo.12〜14の断続切削回数
と比較することにより、炭窒酸化チタン膜中の塩素量が
0.1〜1質量%の時、切削耐久特性が特に優れている
ことがわかる。
【0035】(従来例1)炭窒酸化チタン膜の配向、平
均結晶粒幅、酸素元素含有量の差違による切削耐久特性
への影響を明らかにするために、本発明品と同様に、質
量%でWC72%,TiC8%,(Ta,Nb)C11
%,Co9%の組成よりなるスローアウェイインサート
型の切削工具用超硬合金基板をCVD炉内にセットし、
その表面に、化学蒸着法によりH2キャリヤーガスとT
iCl4ガスとN2ガスとを原料ガスに用い0.3μm厚
さのTiN膜を900℃でまず形成した。続いて、Ti
Cl4ガスを0.5〜2.5vol%、CH3CNガスを
0.5〜2.5vol%、N2ガスを25〜45vol
%、残H2キャリヤーガスで構成された原料ガスを毎分
5500mlだけCVD炉内に流し、成膜温度750〜
980℃、成膜圧力20〜100Toorで反応させる
ことにより6μm厚さのTiCN膜を、あるいは、同範
囲量のTiCl4ガス、CH3CNガス、N2ガスと、C
O2とCOの混合ガス0.5〜10vol%、残H2キ
ャリヤーガスで構成された原料ガスを毎分5500ml
だけCVD炉内に流し、成膜温度980〜1020℃、
成膜圧力20〜100Toorで反応させることにより
6μm厚さのTiCNO膜を成膜した。その後、950
〜1020℃でTiCl4ガスとCH4ガスとH2キャリ
ヤーガスとをトータル2,200ml/分で60分間流
して成膜し、そのまま連続して本構成ガスにさらに2.
2〜110ml/分のCO2ガスを追加して5〜30分
間成膜することによりチタンの炭化物および炭酸化物か
らなる膜を作製した。続いてAl金属小片を詰め350
℃に保温した小筒中にH2ガス310ml/分とHCl
ガス130ml/分とを流すことにより発生させたAl
Cl3ガスとH2ガス2l/分とCO2とCOの混合ガス
500ml/分とをCVD炉内に流し、1010〜10
20℃で2時間反応させることにより所定の厚さの酸化
アルミニウム膜を成膜し、従来例品を作製した。
【0036】作製した従来例品のX線回折最強度面は
(422)面や(311)面ではなく、(220)面や
(111)面等であった。
【0037】図4(a)、(b)は、従来例で作製した
被覆工具と同一条件で、切削工具用超硬合金基板表面に
窒化チタン膜、炭窒酸化チタン膜迄を成膜した後、皮膜
の破断面と膜表面部分とを走査型電子顕微鏡装置(SE
M)により撮影した写真である。この場合、炭窒酸化チ
タン膜の表面には炭化チタン膜、炭酸化チタン膜、酸化
アルミニウム膜は成膜されていない。図4(a)、
(b)から、従来例品の炭窒酸化チタン膜には粗大な結
晶粒が発生しており、炭窒酸化チタン膜表面に局所的に
粗大な突起ができていることや、その結晶粒表面の凹凸
が少なく平滑であり、上層膜の密着性が劣る可能性が高
いことがわかる。図4(b)の膜破断面から測定した炭
窒酸化チタン膜の膜厚は9μm、膜表面の平均結晶粒幅
は0.7μmである。なお、図4(a)の膜表面のSE
M写真から測定される平均結晶粒径は1.4μmであ
り、膜破断面から測定される平均結晶粒幅は、膜表面か
ら測定される平均結晶粒径の約半分であることがわか
る。
【0038】表5は、本発明品と同様にして測定した、
従来の炭窒化チタン膜または炭窒酸化チタン膜のX線回
折最強度面、膜厚と平均結晶粒幅、第二層を構成する膜
の炭窒化チタン膜または炭窒酸化チタン膜の区別、およ
び連続切削時の工具寿命と断続切削可能回数とをまとめ
て示したものである。表5より、従来の炭窒化チタン膜
または炭窒酸化チタン膜の平均結晶粒幅は、膜厚が5μ
m未満の時は0.3μm超、膜厚が5μm以上10μm
未満の時は0.6μm超、膜厚が10μm以上の時は1
μm超であることがわかる。また、炭窒酸化チタン膜の
X線回折最強度面は(220)面または(111)面で
あることがわかる。
【0039】
【表5】
【0040】表5には、従来例1の条件で作製した切削
工具各5個を用いて実施例1と同一の条件で切削試験し
た結果もまとめて示した。いずれの従来例品も、各膜厚
において、表4に示した本発明品の連続切削寿命時間よ
りも大幅に短く、本発明品に比べて劣ることがわかる。
特に、断続切削回数はいずれも1000回未満と短く、
従来例品の切削耐久特性が本発明品より劣ることがわか
る。
【0041】
【発明の効果】上述のように、本発明によれば、炭窒酸
化チタン膜が(422)面または(311)面に配向し
ており結晶性が高く、かつ膜表面が起伏に富んでおり、
しかも炭窒酸化チタン膜の平均結晶粒幅が小さいため、
炭窒酸化チタン膜自体の機械強度と上層膜との密着性が
良く、切削耐久特性に優れた有用な炭窒酸化チタン被覆
工具を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる炭窒酸化チタン被覆工具のX線
回折パターンの一例を示す図である。
【図2】本発明に係わる炭窒酸化チタン被覆工具のセラ
ミック材料の組織写真の一例を示す図である。
【図3】本発明に係わる炭窒酸化チタン被覆工具の平均
結晶粒幅の測定方法を示す模式図である。
【図4】従来例に係わる炭窒酸化チタン被覆工具のセラ
ミック材料の組織写真である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 植田 広志 千葉県成田市新泉13番地の2日立ツール株 式会社成田工場内 (72)発明者 岡山 史郎 千葉県成田市新泉13番地の2日立ツール株 式会社成田工場内 (72)発明者 島 順彦 千葉県成田市新泉13番地の2日立ツール株 式会社成田工場内 Fターム(参考) 3C046 FF02 FF10 FF11 FF16 FF25 FF40 FF42 FF43 FF55 4K030 AA03 AA14 AA17 AA18 AA24 BA18 BA24 BA27 BA35 BA36 BA38 BA41 BA42 BA43 BA53 BA56 BA57 BB01 BB12 BB13 FA10 JA01 JA03 JA06 LA22

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 基体表面に周期律表のIVa、Va、VIa
    族金属の炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物、窒酸化
    物、炭窒酸化物、並びに酸化アルミニウムのいずれか一
    種の単層皮膜または二種以上の多層皮膜を有し、その少
    なくとも一層が炭窒酸化チタンからなる炭窒酸化チタン
    被覆工具において、 前記炭窒酸化チタン膜のX線回折ピーク最強度面が、
    (422)面または(311)面であることを特徴とす
    る炭窒酸化チタン被覆工具。
  2. 【請求項2】 前記炭窒酸化チタン膜の結晶構造が立方
    晶であり、格子定数が0.428〜0.431nmであ
    る請求項1に記載の炭窒酸化チタン被覆工具。
  3. 【請求項3】 前記炭窒酸化チタン膜表面近傍の平均結
    晶粒幅が、前記炭窒酸化チタン膜の膜厚が5μm未満の
    時は0.3μm以下、膜厚が5μm以上10μm未満の
    時は0.6μm以下、膜厚が10μm以上の時は1μm
    以下である請求項1または2に記載の炭窒酸化チタン被
    覆工具。
  4. 【請求項4】 前記炭窒酸化チタン膜中の酸素量が0.
    05〜3質量%である請求項1乃至3のいずれかに記載
    の炭窒酸化チタン被覆工具。
  5. 【請求項5】 前記炭窒酸化チタン膜中の塩素量が0.
    01〜2質量%である請求項1乃至4のいずれかに記載
    の炭窒酸化チタン被覆工具。
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