明 細 書
鉄筋の接合具
技術分野
[0001 ] 本発明は、 鉄筋同士を接合するために用いられる鉄筋の接合具に関する。
背景技術
[0002] 鉄筋は、 鉄筋コンクリ一卜構造 ( R C造) や鉄骨鉄筋コンクリ一卜構造 ( S R C造) の主たる構成要素であり、 配筋する際の作業性を考慮して所定長 さに加工される。 そのため、 鉄筋同士を接合する作業が現場では不可欠とな る。
[0003] 鉄筋同士を接合するための方法としては、 重ね継手、 機械式継手、 ガス圧 接継手等のさまざまな種類があり、 それらの継手は、 構造体に求められる品 質、 作業条件、 使用される鉄筋径等に応じて適宜使い分けられる。
[0004] ここで、 上述した接合方法にはそれぞれ一長一短がある。 例えば、 重ね継 手は、 コンクリートとの付着を利用することによつて鉄筋同士を簡易に接合 することができるが、 その一方、 2本の鉄筋を重ね合わせなければならない ため、 鉄筋径が太くなればなるほど、 配筋が難しくなつたり、 重ね長さの確 保が難しくなつたりする。 また、 機械継手は、 カプラーへの鉄筋の挿入長さ や締付けトルクといった項目を管理しなければならず、 ガス圧接継手は、 作 業にあたつて資格が必要となる。
[0005] そのため、 鉄筋を簡易に接合可能でかつ重ね長さを確保する必要がない鉄 筋の接合方法も別途開発されている。
[0006] しかしながら、 それらのうち、 互いに平行な 2本の鉄筋をまとめて接合す る方法では、 決まった間隔の鉄筋にしか適用することができず、 鉄筋のピッ チに関して汎用性に欠ける (特許文献 1参照) 。 また、 U字形の筒体を用い た接合方法では、 十分な継手強度を確保することができない (特許文献 2, 3参照) 。
[0007] かかる状況下、 断面が長円状をなす鋼製の筒体と楔部材とからなる接合具
が開発されており、 かかる接合具によれば、 筒体内に 2本の鉄筋端部をそれ ぞれ逆方向から挿入し、 次いで筒体に設けられた楔揷通孔から 2本の鉄筋の 間に楔部材を打込むことにより、 鉄筋を相互に接合することができる (特許 文献 4及び非特許文献 1参照) 。
[0008] しかしながら、 断面が長円状をなす鋼製の筒体と楔部材とからなる接合具 の場合、 長円状の筒体に互い違いに端部が挿入された 2本の鉄筋の間には、 鉄筋の材軸直交方向に沿ったずれが生じる。
[0009] そのため、 2本の鉄筋を同一直線上に沿って接合することができなくなり 、 耐震基準等の関係で多くの鉄筋量が必要な場合には、 鉄筋同士の間に十分 なあきを確保することが困難になるという問題を生じていた。
[0010] また、 2本の鉄筋に引張力が作用した場合、 上述した材軸直交方向のずれ に起因して筒体が回転し、 鉄筋と楔部材との係合が緩んでしまうとともに、 筒体の回転に伴って鉄筋に曲げモーメン卜が発生し、 引張破断荷重よリも小 さい引張荷重で接合箇所が破断するという問題を生じていた。
[0011] さらに、 鋼製の筒体に鉄筋を挿入し、 かかる状態で楔部材を圧入すると、 楔部材を圧入する前においては筒体からまっすぐに延びていた鉄筋であって も、 楔部材を打ち込んだ箇所で屈曲して筒体から斜めに延びることになリ、 設計通リの配筋が困難になつて鉄筋同士が干渉したリ間隔が狭くなつたりす るという問題も生じていた。
[0012] 特許文献 1 :特許第 31 97079号公報
特許文献 2:特開平 5 _ 1 56721号公報
特許文献 3:実公平 3 _ 047052号公報
特許文献 4:実公昭 58— 32498号公報
非特許文献 1 : ERICO International Corporation. [平成 1 8年 8月 2日検索 ]、 インターネットく URL : http://www.erico.com/products/QuickWedge.asp >
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0013] 本発明は、 上述した事情を考慮してなされたもので、 筒体の回転を防止し て鉄筋同士の接合力を高めることが可能な鉄筋の接合具を提供することを目 的とする。
[0014] また、 本発明は、 楔部材の打込み箇所における鉄筋の屈曲を抑制可能な鉄 筋の接合具を提供することを目的とする。
[0015] 本発明に係る鉄筋の接合具においては、 2本の鉄筋が同一の直線上に直列 に配置されるように該各鉄筋の端部を筒体の両端開口からそれぞれ挿入する とともに、 各鉄筋の端部と並列になるように荷重伝達ロッドを筒体内に揷通 する。
[0016] 次に、 2本の鉄筋のうち、 一方の鉄筋と荷重伝達ロッドとの間に第 1の楔 部材を圧入し、 他方の鉄筋と荷重伝達ロッドとの間に第 2の楔部材を圧入す る。
[0017] このようにすると、 2本の鉄筋に引張荷重が作用したとき、 該引張荷重は 、 第 1の楔部材を介して一方の鉄筋から荷重伝達ロッドへと伝達され、 さら に第 2の楔部材を介して荷重伝達ロッドから他方の鉄筋へと伝達される。
[0018] また、 2本の鉄筋が同一の直線上に直列に配置されているため、 各鉄筋か らの引張荷重は、 同一の作用線上で筒体に作用し、 したがって、 従来のよう に筒体が回転するおそれはない。
[0019] 筒体は、 湾曲内面が対向するように配置された一対の半円筒状壁部と該ー 対の半円筒状壁部の対応縁部をつなぐ一対の平板状壁部とからなリ、 その内 部空間のうち、 一方の半円筒状壁部の側が鉄筋挿入空間となって、 2本の鉄 筋の端部が筒体の両開口から挿入され、 他方の半円筒状壁部の側がロッド揷 通空間となって、 荷重伝達ロッドが筒体の一方の開口から他方の開口へと揷 通される。 そして、 2本の鉄筋端部を筒体に挿入するとともに、 荷重伝達口 ッドを筒体に揷通したとき、 2本の鉄筋端部と荷重伝達ロッドとは、 筒体内 で並列に配置される。
[0020] 楔揷通孔は、 一方の鉄筋と荷重伝達ロッドとの間、 及び他方の鉄筋と荷重 伝達ロッドとの間に位置するように、 平板状壁部にそれぞれ形成してある。
[0021 ] 第 1の楔部材は、 一方の鉄筋と荷重伝達ロッドとの間に打ち込まれたとき 、 筒体の半円筒状壁部から反力をとる形で一方の鉄筋と荷重伝達ロッドにく い込んでそれぞれと係合される。 同様に、 第 2の楔部材は、 他方の鉄筋と荷 重伝達ロッドとの間に打ち込まれたとき、 他方の鉄筋と荷重伝達ロッドにく い込んでそれぞれと係合される。
[0022] 楔部材は、 上述したように鉄筋と荷重伝達ロッドの両方にそのテーパー部 をくい込ませるが、 いずれのくい込み量が大きくなるかは、 主として両者の 硬さの違いに依存する。 そして、 鉄筋へのくい込みが不足した場合、 鉄筋と 楔部材との係合力が不十分になる。
[0023] したがって、 荷重伝達ロッドの硬さを鉄筋と同等かそれ以上とすることに より、 設計上問題とはならない範囲で楔部材を鉄筋にくい込ませるのが望ま しい。
[0024] 荷重伝達口ッドは、 例えば断面が円形の真直な鋼棒で構成することが可能 である。
[0025] ここで、 荷重伝達ロッドは、 直列配置された 2本の鉄筋の側方 (片側) に 配置すれば足りるが、 場合によっては、 荷重伝達ロッドを 2本の鉄筋の両側 方 (両側) に配置してもかまわない。 この場合には、 楔部材がもう一組必要 になるとともに、 楔部材を圧入するにあたっては、 2本の鉄筋の両側方に揷 入された楔部材をできるだけ同時に圧入する。
[0026] かかる変形例においても、 筒体が回転するおそれはないし、 鉄筋がいずれ かの方向に屈曲するおそれもない。
[0027] また、 楔部材を鉄筋と荷重伝達ロッドとの間に打ち込んだとき、 楔部材を 圧入する前においては筒体からまっすぐに延びていた鉄筋であっても、 楔部 材を打ち込んだ箇所で屈曲して筒体から斜めに延びてしまうことがある。
[0028] かかる場合においては、 鉄筋の周面に向かって突出した突設部を荷重伝達 ロッドに形成するのが望ましい。 このようにすれば、 楔部材の打込みに伴つ て鉄筋が屈曲しょうとしたとき、 荷重伝達ロッドに形成した突設部に鉄筋の 周面が当接するため、 鉄筋の屈曲が抑制される。
[0029] 突設部をどのように構成するかは任意であり、 例えば、 荷重伝達ロッドを
、 真直部と該真直部の両端に設けられた曲折部とで構成し、 該曲折部を突設 部とすることができる。 また、 荷重伝達ロッドを、 ロッド本体と該ロッド本 体の両端に着脱自在に取り付けられ口ッド本体よリも外径が大きな太径部と で構成し、 該太径部を突設部とすることができる。
図面の簡単な説明
[0030] [図 1 ]図 1は、 第 1実施形態に係る鉄筋の接合具 1の図であり、 (a)は正面図 、 (b)は A _ A線に沿う断面図。
[図 2]図 2は、 接合具 1による鉄筋 5 a, 5 bの接合が完了した様子を示した 図。
[図 3]図 3は、 第 2実施形態に係る鉄筋の接合具 4 1の図であり、 (a)は正面 図、 (b)は B— B線に沿う断面図。
[図 4]図 4は、 ロッド本体 4 5の両端に太径部 4 4 a, 4 4 bを取り付けてい る様子を示した図。
[図 5]図 5は、 突設部を設けない場合に鉄筋 5 a, 5 bが屈曲する様子を示し た図。
[図 6]図 6は、 変形例に係る鉄筋の接合具の正面図。
[図 7]図 7は、 同じく変形例に係る鉄筋の接合具の図であり、 (a)は正面図、 ( b)は C _ C線に沿う断面図。
符号の説明
[0031 ] 1, 4 1 鉄筋の接合具
2、 7 2 筒体
3 , 4 3, 5 3, 7 3 荷重伝達ロッド
4 楔部材
4 a 第 1の楔部材
4 b 第 2の楔部材
5 a , 5 b 鉄筋
9 a , 9 b 楔揷通孔
4 4 a , 4 4 b 太径部 (突設部)
4 5 ロッド本体
5 2 曲折部 (突設部)
5 4 真直部
発明を実施するための最良の形態
[0032] 以下、 本発明に係る鉄筋の接合具の実施の形態について、 添付図面を参照 して説明する。 なお、 従来技術と実質的に同一の部品等については同一の符 号を付してその説明を省略する。
[0033] (第 1実施形態)
[0034] 図 1は、 本実施形態に係る鉄筋の接合具を示した図である。 同図に示すよ うに、 本実施形態に係る鉄筋の接合具 1は、 断面形状が長円状の筒体 2と、 該筒体内に揷通される荷重伝達ロッド 3と、 楔部材 4とからなる。
[0035] 筒体 2は、 鉄筋 5 a, 5 bが同一の直線上に直列に配置されるように、 該 鉄筋の端部を筒体 2の両端に形成された開口 6 a, 6 bから挿入することが できるようになっているとともに、 鉄筋 5 a, 5 bの端部が筒体 2内に揷入 された状態でそれらと並列になるように荷重伝達口ッド 3を揷通することが できるようになつている。
[0036] 筒体 2は、 湾曲内面が対向するように配置された一対の半円筒状壁部 7, 7と該一対の半円筒状壁部の対応縁部をつなぐ一対の平板状壁部 8, 8とか らなリ、 一対の平板状壁部 8, 8には、 楔揷通孔 9 a, 9 aを互いに対向す るように形成してある。 同様に、 楔揷通孔 9 b, 9 bを互いに対向するよう に平板状壁部 8, 8に形成してある。
[0037] 荷重伝達ロッド 3は、 断面が円形の真直な鋼棒で構成してある。
[0038] ここで、 楔部材 4は、 2本の鉄筋 5 a, 5 bのうち、 一方の鉄筋である鉄 筋 5 aと荷重伝達ロッド 3との間に打ち込まれる第 1の楔部材としての楔部 材 4 aと、 他方の鉄筋である鉄筋 5 bと荷重伝達ロッド 3との間に打ち込ま れる第 2の楔部材としての楔部材 4 bとからなり、 楔部材 4 aは、 鉄筋 5 a と荷重伝達ロッド 3との間に形成された楔揷通孔 9 a, 9 aに揷通され、 楔
部材 4 bは、 鉄筋 5 bと荷重伝達ロッド 3との間に形成された楔揷通孔 9 b , 9 bに揷通されるようになつている。
[0039] 楔部材 4 aは、 鉄筋 5 aと荷重伝達ロッド 3との間に打ち込まれたとき、 筒体 2の半円筒状壁部 7, 7から反力をとる形で鉄筋 5 aと荷重伝達ロッド 3にくい込んでそれぞれと係合される。 同様に、 楔部材 4 bは、 鉄筋 5 bと 荷重伝達ロッド 3との間に打ち込まれたとき、 鉄筋 5 bと荷重伝達ロッド 3 にくい込んでそれぞれと係合される。
[0040] 楔部材 4 a, 4 bは、 上述したように鉄筋 5 a, 5 bと荷重伝達ロッド 3 の両方にそのテーパー部をくい込ませるが、 いずれのくい込み量が大きくな るかは、 主として両者の硬さの違いに依存する。 そして、 鉄筋 5 a, 5 bへ のくい込みが不足した場合、 鉄筋 5 a, 5 bと楔部材 4 a, 4 bとの係合力 が不十分になる。
[0041 ] したがって、 荷重伝達ロッド 3の硬さを鉄筋 5 a, 5 bと同等か、 それ以 上とすることにより、 設計上問題とならない範囲で楔部材 4 a, 4 bを鉄筋
5 a , 5 bにくい込ませるのが望ましい。
[0042] 具体的には、 例えば鉄筋 5 a, 5 bを S D 3 4 5 (鉄筋コンクリート用棒 鋼、 日本工業規格) とした場合、 荷重伝達ロッド 3を S 4 5 C (機械構造用 炭素鋼鋼材、 日本工業規格) で構成することができる。
[0043] 本実施形態に係る鉄筋の接合具 1を用いて鉄筋 5 a, 5 bを接合するには
、 まず、 筒体 2の一方の開口 6 aから鉄筋 5 aの端部を挿入するとともに、 筒体 2の他方の開口 6 bから鉄筋 5 bの端部を挿入する。
[0044] また、 かかる鉄筋挿入作業と並行して又は相前後して、 荷重伝達ロッド 3 を筒体 2内に揷通するが、 該揷通作業にあたっては、 鉄筋 5 a及び 5 bの端 部と並列になるように筒体 2の内部に揷通する。
[0045] 次に、 楔部材 4 aを楔揷通孔 9 aに通してこれを圧入するとともに、 楔部 材 4 bを楔揷通孔 9 bに通してこれを圧入する。 圧入にあたっては、 従来公 知の楔打込み機を適宜選択して用いればよい。
[0046] 図 2は、 楔打込み作業を終えて鉄筋 5 a, 5 bの接合が完了した様子を示
した図である。
[0047] 本実施形態に係る鉄筋の接合具 1においては、 2本の鉄筋 5 a, 5 bが同 一の直線上に直列に配置されるように該各鉄筋の端部を筒体 2の両端開口 6 a , 6 bからそれぞれ挿入するとともに、 各鉄筋の端部と並列になるように 荷重伝達ロッド 3を筒体 2内に揷通し、 かかる状態で 2つの楔部材 4 a, 4 bを圧入するが、 楔部材 4 aについては、 鉄筋 5 aと荷重伝達ロッド 3との 間に圧入し、 楔部材 4 bについては、 鉄筋 5 bと荷重伝達ロッド 3との間に 圧入する。
[0048] このようにすると、 2本の鉄筋 5 a, 5 bに引張荷重が作用したとき、 該 引張荷重は、 楔部材 4 aを介して鉄筋 5 aから荷重伝達ロッド 3へと伝達さ れ、 さらに楔部材 4 bを介して荷重伝達ロッド 3から鉄筋 5 bへと伝達され る。
[0049] また、 2本の鉄筋 5 a, 5 bが同一の直線上に直列に配置されているため 、 各鉄筋 5 a, 5 bからの引張荷重は、 同一の作用線上で筒体 2に作用する
[0050] 以上説明したように、 本実施形態に係る鉄筋の接合具 1によれば、 荷重伝 達ロッド 3をあらたに導入することにより、 2本の鉄筋 5 a, 5 bを同一の 直線上に直列に配置した状態で引張荷重を伝達させることが可能になる。
[0051 ] そのため、 各鉄筋 5 a, 5 bからの引張荷重は、 同一の作用線上で筒体 2 に作用することとなり、 筒体 2が回転するおそれがなくなるとともに、 筒体 2の回転に伴う曲げが鉄筋 5 a, 5 bに加わることもないため、 鉄筋 5 a, 5 bの引張強さが発揮されない状態で該鉄筋が引張及び曲げで破断するおそ れがなくなり、 鉄筋 5 a, 5 bの引張強さを十分に発揮させることが可能と なる。
[0052] なお、 2本の鉄筋 5 a, 5 bに引張荷重が作用したとき、 該引張荷重は、 楔部材 4 aを介して鉄筋 5 aから荷重伝達ロッド 3へと伝達され、 さらに楔 部材 4 bを介して荷重伝達ロッド 3から鉄筋 5 bへと伝達される。
[0053] したがって、 鉄筋 5 a, 5 bの接合強度を十分に確保することが可能であ
る。
実施例 1
[0054] 鉄筋と荷重伝達口ッドとの相対的な硬さの違いが本発明に係る接合具の引 張特性にどのような影響を与えるのかを調べるため、 以下のような引張試験 を行った。
[0055] 引張試験では、 ゥエッジ長さが 48 mm、 ゥエッジ径が 1 6mm、 先端部 の長さが 1 Ommの楔部材を用いた。 筒体については、 その諸元を表 1に示 す。
[0056]
[I肇]
l79S000/.00Zdf/X3d 0 V Ϊ9Ϊ8難 OOZ OAV
〔表 1〕
[0057] 表 1でわかるように、 筒体の鋼種は、 STKM 1 3A (機械構造用炭素鋼 鋼管、 日本工業規格) 、 545〇及び545〇 (焼鈍し処理) の 3種類とし 、 楔部材の鋼種は、 S45C (熱処理) の 1種類とした。
[0058] 次に、 引張試験の結果を表 2にそれぞれ示す。
[0059]
2]
ケース 1 2は、 鉄筋と荷重伝達ロッドとの相対的な硬さの違いによる引
張特性への影響を調べる前に、 形状によるばらつきの影響を事前に調べたも のであり、 いずれのケースも、 接合対象である鉄筋 (SD345) と硬さが 同じ鋼種 (SD345) の異形鉄筋を荷重伝達ロッドとして採用したが、 鉄 筋メーカーは異なるものを採用した。
[0061] ケース 3は、 接合対象である鉄筋と引張強さの規格値 (下限値) が同じ鋼 種の荷重伝達ロッドを用いた場合について調べたものであり、 荷重伝達ロッ ドの鋼種を S N R490B (建築構造用圧延棒鋼 (丸鋼) 、 日本工業規格) とした。
[0062] ケース 4, 5は、 接合対象である鉄筋よりも硬い鋼種であって形状による 引張特性のばらつきの影響を受けない丸鋼を荷重伝達ロッドとして用いた場 合について調べたものであり、 荷重伝達ロッドの鋼種を S 45 C (ミガキ鋼 ) 又は S CM 435とした。
[0063] ケース 7, 9もケース 4, 5と概ね同様であり、 接合対象である鉄筋より も硬い鋼種であって形状による引張特性のばらつきの影響を受けない丸鋼を 荷重伝達ロッドとして用いた場合について調べたものであり、 荷重伝達ロッ ドの鋼種を S45C (熱処理) とした。
[0064] 引張試験の結果、 ケース 1では、 接合対象である鉄筋が母材破断した。 こ の結果から、 荷重伝達ロッドの硬さを接合対象である鉄筋の硬さと同程度に したならば、 異形鉄筋を本発明に係る接合具の荷重伝達ロッドとして用いる ことが可能であることがわかつた。
[0065] ケース 2では、 接合対象である鉄筋がせん断破壊した。 この結果から、 異 形鉄筋の場合、 鉄筋メ一力一によつてリブ径ゃフシ径といった形状や実際の 材料自体の機械的性質が異なるため、 引張特性にばらつきが生じることがわ かった。
ケース 3では、 接合対象である鉄筋が母材破断する前にせん断破壊した。 この結果は、 引張強さの規格値 (下限値) が接合対象鉄筋 (SD345) と 同一の荷重伝達ロッドを用いた場合、 実際の材料における引張強さのばらつ きが S NR490Bよりも SD345の方が大きいため、 場合によっては S
D 3 4 5の方が硬くなつてしまう懸念があることを示すものである。
[0067] ケース 4, 5, 7 , 9では、 接合対象である鉄筋が母材破断した。
[0068] これらの結果から、 接合対象鉄筋 (S D 3 4 5 ) よりも硬い鋼種 (S 4 5 C (ミガキ鋼) 、 S C M 4 3 5、 S 4 5 C (熱処理) ) を荷重伝達ロッドと した場合、 接合対象鉄筋が確実に母材破断することがわかった。
[0069] ケース 1〜3、 4, 5, 7 , 9の試験結果から、 異形鉄筋や、 接合対象鉄 筋と硬さが同等の鋼種の丸鋼を荷重伝達ロッドとして採用することは可能で あるが、 形状のばらつき又は製造時に生じる品質のばらつきに起因して、 接 合対象となる鉄筋よリも荷重伝達口ッドの方が柔らかくなることがあるため 、 荷重伝達ロッドは、 接合対象鉄筋よりも十分硬い鋼種から選択するのが望
^しし、と曰 る。
[0070] 一方、 荷重伝達ロッドが硬すぎると、 その分、 楔部材の鉄筋へのくいこみ 量が大きくなって鉄筋の屈曲度が大きくなるとともに、 楔部材が変形してし まう懸念もあるため、 荷重伝達ロッドは、 鉄筋へのくいこみ量が過大になら ず、 かつ楔部材が変形しない程度の硬さであることが必要となる。
[0071 ] また、 筒体を硬い材料で形成したケース 6, 8の場合には、 接合対象鉄筋 は、 母材破断する前にせん断破壊した。 これは、 筒体が接合対象鉄筋よりも 硬いために、 楔部材の圧入に伴って、 筒体内壁面に鉄筋が十分に圧着されな いからであると考えられる。 ケース 8の場合、 楔部材のくいこみ位置から破 断したが、 これは、 鉄筋のくいこみ位置に応力集中が起きたためと推察され る。 加えて、 荷重伝達ロッドが接合対象の鉄筋より硬い場合であっても、 筒 体が鉄筋よリも硬い場合、 鉄筋への楔部材のくいこみ量が過大になる懸念が あることを示すものである。
[0072] 以上の試験結果から、 本発明に係る接合具においては、 楔部材を最も硬く し、 以下、 荷重伝達ロッド、 接合対象鉄筋、 筒体の順に柔らかくしていくの が望ましい。
[0073] なお、 上述した試験においては、 硬さを示す規格の違いによって比較が困 難になるのを避けるため、 引張強さの度合いをもって硬さの度合いとした。
[0074] (第 2実施形態)
[0075] 次に、 第 2実施形態について説明する。 なお、 上述の実施形態と実質的に 同一の部品等については同一の符号を付してその説明を省略する。
[0076] 図 3は、 第 2実施形態に係る鉄筋の接合具を示した図である。 同図に示す ように、 本実施形態に係る鉄筋の接合具 4 1は、 断面形状が長円状の筒体 2 と、 該筒体内に揷通される荷重伝達ロッド 4 3と、 楔部材 4とからなる。
[0077] 荷重伝達ロッド 4 3は、 口ッド本体 4 5と該ロッド本体の両端に取リ付け られる突設部としての太径部 4 4 a, 4 4 bとで構成してあり、 太径部 4 4 a , 4 4 bは、 ロッド本体 4 5よりも外径が大きくなるように形成してある とともにその内部空間に雌ネジを切ってある。
[0078] 一方、 ロッド本体 4 5は、 断面が円形の真直な鋼棒で構成してあるととも に、 両端に雄ネジを切ってあり、 該雄ネジに上述した太径部 4 4 a, 4 4 b の雌ネジを螺合することで、 太径部 4 4 a, 4 4 bをロッド本体 4 5の各端 に着脱自在に取り付けることができるようになつている。
[0079] ここで、 太径部 4 4 a, 4 4 bは、 ロッド本体 4 5を筒体 2に揷通した状 態でその各端に螺着したとき、 その周面が鉄筋 5 a, 5 bに当接するように その外径を定める。 なお、 太径部 4 4 a, 4 4 bをロッド本体 4 5に螺着す る際、 作業の支障とならないよう、 必要に応じて太径部 4 4 a, 4 4 bの半 径を、 ロッド本体 4 5の材軸から鉄筋 5 a, 5 bの周面までの距離より適宜 小さくしておく。
[0080] 楔部材 4 a, 4 bは、 鉄筋 5 a, 5 bと荷重伝達ロッド 4 3の両方にその テーパー部をくい込ませるが、 いずれのくい込み量が大きくなるかは、 主と して両者の硬さの違いに依存する。 そして、 鉄筋 5 a, 5 bへのくい込みが 不足した場合、 鉄筋 5 a, 5 bと楔部材 4 a, 4 bとの係合力が不十分にな る。
[0081 ] したがって、 荷重伝達ロッド 4 3の硬さを鉄筋 5 a, 5 bと同等か、 それ 以上とすることにより、 設計上問題とならない範囲で楔部材 4 a, 4 bを鉄 筋 5 a, 5 bにくい込ませるのが望ましい。
[0082] 具体的には、 例えば鉄筋 5 a, 5 bを S D 3 4 5 (鉄筋コンクリート用棒 鋼、 日本工業規格) とした場合、 荷重伝達ロッド 4 3を S 4 5 C (機械構造 用炭素鋼鋼材、 日本工業規格) で構成することができる。
[0083] 筒体 2及び楔部材 4については、 第 1実施形態と同じであるので、 ここで はその説明を省略する。
[0084] 本実施形態に係る鉄筋の接合具 4 1を用いて鉄筋 5 a, 5 bを接合するに は、 まず、 筒体 2の一方の開口 6 aから鉄筋 5 aの端部を挿入するとともに 、 筒体 2の他方の開口 6 bから鉄筋 5 bの端部を挿入する。
[0085] また、 かかる鉄筋挿入作業と並行して又は相前後して、 荷重伝達ロッド 4 3のロッド本体 4 5を筒体 2内に揷通するが、 該揷通作業にあたっては、 鉄 筋 5 a及び 5 bの端部と並列になるように筒体 2の内部に揷通する。
[0086] 次に、 口ッド本体 4 5の両端に切った雄ネジに太径部 4 4 a , 4 4 bの雌 ネジを図 4に示すように螺合し、 太径部 4 4 a, 4 4 bの周面を鉄筋 5 a,
5 bに当接させる。 なお、 螺着作業の関係上、 太径部 4 4 a, 4 4 bの半径 を、 ロッド本体 4 5の材軸から鉄筋 5 a, 5 bの周面までの距離より小さく した場合には、 その分だけクリアランスが生じ、 厳密には両者は当接しない
[0087] 次に、 楔部材 4 aを楔揷通孔 9 aに通してこれを圧入するとともに、 楔部 材 4 bを楔揷通孔 9 bに通してこれを圧入する。 圧入にあたっては、 従来公 知の楔打込み機を適宜選択して用いればよい。
[0088] 本実施形態に係る鉄筋の接合具 4 1においては、 2本の鉄筋 5 a, 5 bが 同一の直線上に直列に配置されるように該各鉄筋の端部を筒体 2の両端開口
6 a , 6 bからそれぞれ挿入するとともに、 各鉄筋の端部と並列になるよう に荷重伝達ロッド 4 3を筒体 2内に揷通し、 かかる状態で 2つの楔部材 4 a , 4 bを圧入するが、 楔部材 4 aについては、 鉄筋 5 aと荷重伝達ロッド 4 3との間に圧入し、 楔部材 4 bについては、 鉄筋 5 bと荷重伝達ロッド 4 3 との間に圧入する。
[0089] このようにすると、 2本の鉄筋 5 a, 5 bに引張荷重が作用したとき、 該
引張荷重は、 楔部材 4 aを介して鉄筋 5 aから荷重伝達ロッド 4 3へと伝達 され、 さらに楔部材 4 bを介して荷重伝達ロッド 4 3から鉄筋 5 bへと伝達 される。
[0090] また、 2本の鉄筋 5 a, 5 bが同一の直線上に直列に配置されているため 、 各鉄筋 5 a, 5 bからの引張荷重は、 同一の作用線上で筒体 2に作用する
[0091 ] ここで、 楔部材 4 a, 4 bの打込みに伴って鉄筋 5 a, 5 bが屈曲しょう としたとき、 荷重伝達ロッド 4 3に設けた太径部 4 4 a, 4 4 bに鉄筋 5 a , 5 bの周面が当接するため、 鉄筋の屈曲が抑制される。
[0092] 以上説明したように、 本実施形態に係る鉄筋の接合具 4 1によれば、 荷重 伝達ロッド 4 3をあらたに導入することにより、 2本の鉄筋 5 a, 5 bを同 一の直線上に直列に配置した状態で引張荷重を伝達させることが可能になる
[0093] そのため、 各鉄筋 5 a, 5 bからの引張荷重は、 同一の作用線上で筒体 2 に作用することとなり、 筒体 2が回転するおそれがなくなるとともに、 筒体 2の回転に伴う曲げが鉄筋 5 a, 5 bに加わることもないため、 鉄筋 5 a, 5 bの引張強さが発揮されない状態で該鉄筋が引張及び曲げで破断するおそ れがなくなり、 鉄筋 5 a, 5 bの引張強さを十分に発揮させることが可能と なる。
[0094] なお、 2本の鉄筋 5 a, 5 bに引張荷重が作用したとき、 該引張荷重は、 楔部材 4 aを介して鉄筋 5 aから荷重伝達ロッド 4 3へと伝達され、 さらに 楔部材 4 bを介して荷重伝達ロッド 4 3から鉄筋 5 bへと伝達される。
[0095] したがって、 鉄筋 5 a, 5 bの接合強度を十分に確保することが可能であ る。
[0096] また、 本実施形態に係る鉄筋の接合具 4 1によれば、 荷重伝達口ッド 4 3 の各端に着脱自在な太径部 4 4 a, 4 4 bを備えるとともに該太径部を荷重 伝達ロッド 4 3の各端にそれぞれ取り付けたときに鉄筋 5 a, 5 bの周面に 向かって突出するように太径部 4 4 a, 4 4 bを形成したので、 楔部材 4 a
, 4 bの打込みに伴って鉄筋 5 a 5 bが屈曲しょうとしたとき、 荷重伝達 ロッド 4 3に設けた太径部 4 4 a 4 4 bに鉄筋 5 a, 5 bの周面が当接す ることとなり、 かくして鉄筋 5 a 5 bの屈曲を抑制することが可能となる
[0097] そのため、 従来のように、 設計通りの配筋が困難になって鉄筋同士が干渉 したリ間隔が狭くなつたりするといつた懸念がなくなる。
[0098] 図 5は、 鉄筋 5 a, 5 bが屈曲した場合の様子を模式的に描いたものであ リ、 太径部 4 4 a, 4 4 bがない状態では、 楔部材 4 a, 4 bの圧入に伴い 、 打込み箇所で鉄筋 5 a, 5 bが同図のように屈曲する場合があるが、 太径 部 4 4 a, 4 4 bを設けた場合、 鉄筋 5 a, 5 bが屈曲しょうとしても、 太 径部 4 4 a, 4 4 bと当接して抑えられるため、 結果として鉄筋 5 a, 5 b は、 その屈曲が抑制される。
[0099] 本実施形態では、 鉄筋の周面に向かって突出してなる本発明の突設部を太 径部 4 4 a, 4 4 bで構成したが、 本発明に係る突設部はかかる構成に限定 されるものではない。
[0100] 例えば、 図 6に示したように、 真直部 5 4と該真直部の両端に設けられた 曲折部 5 2, 5 2とで構成してなる荷重伝達ロッド 5 3を採用し、 曲折部 5 2, 5 2を突設部としてもよい。
[0101 ] かかる構成においても、 楔部材 4 a, 4 bの打込み箇所で鉄筋 5 a, 5 b が屈曲しょうとしても、 曲折部 5 2, 5 2の先端に鉄筋 5 a, 5 bの周面が 当接するため、 鉄筋 5 a, 5 bはその屈曲が抑制される。
[0102] また、 上述した実施形態では、 鉄筋 5 a, 5 bの端部が筒体 2内に挿入さ れた状態でそれらと並列になるように荷重伝達ロッド 3を一本だけ筒体 2内 に揷通するようにしたが、 これに代えて、 図 7に示すように、 鉄筋 5 a, 5 bの端部が筒体 2内に挿入された状態で鉄筋 5 a, 5 bの両側方に並列に位 置するように、 2本の荷重伝達ロッド 7 3, 7 3をそれぞれ筒体 7 2内に揷 通するようにしてもよい。
[0103] かかる構成においては、 楔部材 4は、 鉄筋 5 aと荷重伝達ロッド 7 3, 7
3との間に打ち込まれる第 1の楔部材としての楔部材 4 a, 4 aと、 鉄筋 5 bと荷重伝達ロッド 7 3, 7 3との間に打ち込まれる第 2の楔部材としての 楔部材 4 b, 4 bとからなり、 楔部材 4 aは、 鉄筋 5 aと荷重伝達ロッド 7 3との間に位置する筒体 7 2の平板状壁部に形成された楔揷通孔 9 a, 9 a に揷通され、 楔部材 4 bは、 鉄筋 5 bと荷重伝達ロッド 7 3との間に位置す る筒体 7 2の平板状壁部に形成された楔揷通孔 9 b , 9 bに揷通されるよう になっている。
[0104] 以下、 楔部材 4 a, 4 bについては、 第 1実施形態と同様であるので、 こ こではその説明を省略する。
[0105] また、 上述した実施形態及び変形例では、 荷重伝達ロッド 3, 5 3 , 7 3 やロッド本体 4 5を現場で取り付けるようにしたが、 これに代えて、 工場等 で筒体 2や筒体 7 2に先付けしておくようにしてもかまわない。
[0106] また、 上述した実施形態及び変形例では、 鉄筋 5 a又は鉄筋 5 bと荷重伝 達ロッド 3との間に圧入する楔部材 4 a, 4 bの個数、 あるいは鉄筋 5 a又 は鉄筋 5 bと荷重伝達ロッド 5 3, 7 3との間に圧入する楔部材 4 a, 4 b の個数をそれぞれ一つずっとしたが、 これに代えて個数を複数とし、 鉄筋 5 a , 5 bの材軸に沿って複数の楔部材 4 a, 4 bを圧入するようにしてもか まわない。
[0107] これに関連して、 圧入すべき楔部材の最低個数は、 2つの鉄筋に対してそ れぞれ 1つであり、 余った楔揷通孔についてはこれを放置してもかまわない
[0108] かかる構成においては、 放置された楔揷通孔は、 コンクリート打設の際、 コンクリート充填孔となって筒体内にコンクリートが流入する。
[0109] そのため、 鉄筋の接合強度が増加する。