明 細 書
油脂組成物
技術分野
[0001] 本発明は炒め調理用油脂組成物に関する。さらに詳しくはショ糖脂肪酸エステルを 含有し、調理対象物の吸油量を抑える特徴をもつ炒め調理用油脂組成物に関する。 背景技術
[0002] 炒め調理などに用いられる加熱調理用油脂として、従来から大豆油、大豆白絞油、 ナタネ油、コーン油、綿実油、米油、サフラワー油、ヒマヮリ油、ゴマ油、ォリーブ油、 ヤシ油、パーム油、ラード、およびそれらの改質油(エステル交換油、水素添加油)等 が単独ある ヽは混合されて用いられて 、る。
炒め調理用油脂としての油脂の使用は、主に調理対象物の焦げつき防止を目的と している。し力し油脂の多量使用は、調理対象物への滲み込みが多くなり、調理対象 物を油っぽくさせ、調理対象物自体の風味を低下させる。また近年カロリーの過剰摂 取が問題となっており、健康上の理由からも油脂の使用量は少ないことが望ましい。 従って、少ない使用量で焦げつくことなぐ快適に調理でき、風味、健康面を意識し た油脂が望まれている。
吸油量を抑えた油として、全ショ糖脂肪酸エステルのうちモノエステルが 50質量% 未満、トリエステルが 15質量%以上(ジエステル、トリエステル、テトラエステルの合計 がショ糖脂肪酸エステル混合物を構成する各エステルの合計の 50質量%より多い) であることを特徴とする油が報告されているが (例えば、特許文献 1参照)、吸油量の 抑制としては充分ではない。
[0003] 特許文献 1:特開平 7— 147902号公報
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0004] 本発明の目的は、炒め調理における調理対象物の吸油量を抑え、風味良好な炒 め調理用油脂組成物を提供することである。
課題を解決するための手段
[0005] 本発明者らは、上記課題を達成するために、鋭意検討を重ねた結果、炒め調理用 油脂組成物にショ糖脂肪酸エステルを含有させることで炒め調理などの加熱調理用 油脂の吸油量が改善されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、トリグリセリドを主成分とし、平均置換度が 5— 7であり、全ショ 糖脂肪酸エステルに占めるトリエステル以上のポリエステルの合計が 85質量%以上 、モノエステルが 5質量%以下、ジエステルが 10質量%以下の組成となるショ糖脂肪 酸エステルを 0. 1-9. 5質量%含有することを特徴とする炒め調理用油脂組成物で ある。
発明の効果
[0006] 本発明は調理対象物への油脂の吸収が抑制され、その結果、少量の油脂の使用 で調理が可能である。また油脂の使用量の減少に拘らず調理機能はほとんど低下し ない。その結果、風味良好で、油脂の使用量を減少させ、かつ油脂の体内への摂取 量が抑えられる。
発明を実施するための最良の形態
[0007] 本発明の油脂組成物はトリグリセリドを主成分とする。「主成分とする」は、トリグリセリ ドが 50質量%以上、好ましくは 60質量%以上、更に好ましくは 70質量%以上存在し 、トリグリセリド以外の成分としてジグリセリド、モノグリセリド成分が合計 50質量%未満 、好ましくは 40質量%未満、更に好ましくは 30質量%未満であることを意味する。ま た、夾雑物としての非グリセリド成分として、油脂中に一般的に含まれる不けん化物、 例えばグリセリン、ステロール類、トコフエロール類等や、食品添加物、例えば乳化剤 、抗酸化剤等が 10質量%以下、好ましくは 7質量%以下、更に好ましくは 5質量%以 下しか含まれて 、な 、ことを意味するものとする。
トリグリセリドを主成分とするグリセリドとしては、通常の食用油、エステル交換油、グ リセリンのエステルイ匕物、およびそれらの加水分解物等の油脂原料が挙げられる。油 脂原料としては大豆油、大豆白絞油、ナタネ油、コーン油、ゴマ油、ゴマサラダ油、シ ソ油、アマ二油、落花生油、サフラワー油、高ォレイン酸紅花油、ヒマヮリ油、高ォレイ ン酸ヒマヮリ油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボ チヤ種子油、タルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、ォリーブ油、米油、小
麦胚芽油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、ラード、鶏脂、乳脂、魚 油、ァザラシ油、藻類油、中鎖脂肪酸トリグリセリド、品種改良によって低飽和化され たこれらの油脂およびこれらの水素添加油脂、分別油脂等が挙げられるがこれに限 定するものではない。好ましくは、大豆油、大豆白絞油、ナタネ油、ヒマヮリ油、サフラ ヮー油、アマ-油、パーム油、米油、コーン油等の植物油、中鎖脂肪酸トリグリセリド( 炭素数 6— 12、好ましくは 8— 10)、或いはそれらの混合油、水素添加油、分別油、 エステル交換油である。
本発明の油脂組成物には主成分のトリグリセリドの他、ショ糖脂肪酸エステルが含ま れる。本発明に用いるショ糖脂肪酸エステルは、油脂組成物中に 0. 1— 9.5質量% 存在する。好ましくはショ糖脂肪酸エステルが 0. 5— 2質量%含まれる油脂組成物が 調理特性がよい。更に好ましくは 0.6— 1.5質量%含まれる油脂組成物がよい。また、 ショ糖脂肪酸エステルは、平均置換度が 5— 7であるものが好ましい。平均置換度は ショ糖脂肪酸エステルのエステルィヒ度の平均値であり、 1分子あたりの平均エステル 結合数を算出したものである。さらに、全ショ糖脂肪酸エステルに占めるトリエステル 以上のポリエステルの合計が 85質量%以上、好ましくは 90質量%以上、更に好まし くは 93質量%以上、最も好ましくは 94質量%以上である。モノエステル、ジエステル の比率は低いことが好ましぐトリエステル、テトラエステル、ペンタエステル、へキサ エステル、ヘプタエステルの合計量の比率は高いことが、吸油阻害能力の点で好ま しい。特に、モノエステルが 5質量%以下、好ましくは 3質量%以下、更に好ましくは 2 質量%以下、最も好ましくは 1質量%以下であり、ジエステルが 10質量%以下、好ま しくは 7質量%以下、更に好ましくは 5質量%以下のショ糖脂肪酸エステルを添加し た炒め調理用油脂組成物は優れた吸油抑制効果を示す。また、さらに優れた吸油 抑制効果を得るためには、上記モノエステル及びジエステルの規定量を満たすと共 にテトラエステル、ペンタエステル、へキサエステル、ヘプタエステルの合計が 60質 量%以上、好ましくは 70質量%以上、更に好ましくは 75質量%以上の条件を満たす とよい。なお、吸油阻害の点で全ショ糖脂肪酸エステルの HLB値は 0以上 3未満が 好ましい。 HLBは、界面活性剤の疎水性と親水性のバランスを表す数値であり、例 えば「食品用乳化剤一基礎と応用一」(戸田義郎ら、(株)光琳) p.13に記載の方法から
求めることができる。
ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪族カルボン酸としては、炭素数が 2— 22、好 ましくは 8— 22、更に好ましくは 14一 22の脂肪族カルボン酸の直鎖飽和脂肪族カル ボン酸、直鎖不飽和脂肪族カルボン酸、分岐鎖飽和脂肪族カルボン酸を用いること ができる。例としては、カプロン酸、力プリル酸、力プリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、 パルミチン酸、ステアリン酸、ァラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、パ ルミトォレイン酸、ォレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサペンタエ ン酸、ドコサへキサェン酸、ァラキドン酸、エル力酸、酢酸、イソ酪酸等が挙げられる 力 れに限定するものではない。好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸、ォレイン酸 、リノール酸、リノレン酸、エル力酸である。油脂組成物が液状油である場合は、低温 での沈澱、曇りを保っために脂肪族カルボン酸が炭素数 16— 22の不飽和脂肪族力 ルボン酸であることが好ましい。具体的には、ォレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ェ ルカ酸である。
また、ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪族カルボン酸力 0. 1一 50質量%の 炭素数 16— 18の飽和脂肪族カルボン酸及び 50— 99. 9質量%の炭素数 18— 22 の不飽和脂肪族カルボン酸を含むのが好ましい。なお、前記不飽和脂肪族カルボン 酸は二重結合を 1一 3個有するものが好ましい。
さらに、本発明の油脂組成物においては、ショ糖脂肪酸エステルが、ショ糖脂肪酸 エステルを構成する脂肪族カルボン酸の 70質量%以上、好ましくは 80質量%以上、 さらに好ましくは 85質量%が不飽和脂肪族カルボン酸であるショ糖脂肪酸エステル 及びショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪族カルボン酸の 40— 80質量%、好ましく は 40— 60質量%、さらに好ましくは 45— 55質量%が飽和脂肪族カルボン酸である ショ糖脂肪酸エステルを含む場合、低温において油脂の結晶化を抑制するため、耐 冷性の観点カゝら好ましい。更に好ましくは、ショ糖脂肪酸エステルを構成する脂肪族 カルボン酸の 40— 80質量0 /0、好ましくは 40— 60質量0 /0、さらに好ましくは 45— 55 質量%が飽和脂肪族カルボン酸であるショ糖脂肪酸エステルが、全ショ糖脂肪酸ェ ステル中 1一 20質量%、好ましくは 5— 20質量%、さらに好ましくは 5— 10質量%を 占める場合である。なお、前記不飽和脂肪族カルボン酸は二重結合を 1一 3個有す
るものが好ましい。
[0010] 上記のようにして得られる本発明の油脂組成物は、そのままでも使用でき、調理用 油脂に通常用いられる添加剤を配合して使用することができる。例えば、トコフェロー ル、ァスコルビン酸エステル、 TBHQ、 BHTなどの抗酸化剤、リン酸、クェン酸など の安定化剤、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸 エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ソル ビトール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステ ル、ポリソルベートなどの乳化剤、カロチン類、フィトステロールおよびフィトステロ一 ルエステルなどの油溶性成分を含有させることができる力 種類および量は特に限 定されない。
本発明の油脂糸且成物は、ナタネ油、コーン油、サフラワー油、大豆油、大豆白絞油 t 、つた一般に市販されて 、る通常の植物油と同等ある 、はそれ以上の風味をもつ 以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらによって限 定されるものではない。
実施例
[0011] <ショ糖脂肪酸エステル >
三菱化学フーズ (株)製のリヨ一トーシュガーエステル(0—170、 ER— 190、 S— 370 、 POS— 135)を試験に用いた。ショ糖脂肪酸エステルの組成 (加水分解により得られ る脂肪族カルボン酸をガスクロマトグラフィーにより分析した値)、 HLB、平均置換度 を表 1に示した。
[0012] [表 1]
表 1 ) 用いたショ糖脂肪酸エステル
[0013] <サンプル組成 >
吸油試験に用いた油脂の組成は以下の通りである。
[0014] [表 2]
表 2 ) 油脂の組成
0-170 ER- 190 S-370 大豆白絞油 サンプル A 0. 1 0 0 99. 9 サンプノレ B 0. 5 0 0 99. 5 サンプル C 1 0 0 99 サンプノレ D 2 0 0 98 サンプノレ E 4 0 0 96 サンプノレ F 10 0 0 90 サンプル G 0 0. 1 0 99. 9 サンプル H 0 0. 5 0 99. 5 サンプル I 0 1 0 99 サンプル J 0 2 0 98 サンプノレ K 0 4 0 96 サンプル L 0 10 0 90 サンプノレ M 0 0 0. 1 99. 9 サンプル N 0 0 0. 5 99. 5 サンプル O 0 0 1 99 サンプノレ P 0 0 2 98 サンプル Q 0 0 4 96 サンプノレ R 0 0 10 90 サンプル S 0 0 0 100
[0015] [表 3]
表 2 ) 油脂の組成
※MLCT:ナタネ油 86質量%と中鎖脂肪酸トリグリセリド 14質量%のエステル交換油 本実施例記載の中鎖脂肪酸トリグリセリドとは、オクタン酸、デカン酸 (質量比 75 : 2 5)を構成脂肪酸とするものを言う。
[0016] <吸油実験 >
輪切りにしたナスの片面を油に 10分間浸し、吸油量を調べた。吸油量はナスの輪 切りを 10分間静置し、質量変化を調べ吸油率を算出した。
[0017] [表 4]
表 4 ) ナスの吸油率とサンプル間の比較
<炒め調理試験 1 >
家庭用のフライパンに油脂を 30gを入れ、ナスと卵を炒め、風味、発煙を評価した。
評価は 10名のパネラーで行った。吸油率は下記式により求めた。
吸油率 (%) = (実験に使用した油量-残った油量) Z (実験に使用した油量)
(風味評価)
◎:さっぱりしている
〇:ややさっぱりしている
△:こってりしている
(発煙評価)
〇:発煙しない
X:若干発煙
[0019] [表 5]
表 5 ) 組成と風味評価
[0020] ショ糖脂肪酸エステル 0—170、 ER— 190を使用したほうが S— 370を使用したもの より調理対象物への油の染み込みが少なぐさっぱりして風味が良好であった。また 、乳化剤に関わらずショ糖脂肪酸エステルの使用が 10質量%以上の場合には、発 煙が見られ調理適性上好ましくな力つた。
[0021] <炒め調理試験 2 >
家庭用のフライパンに油脂を 30gを入れ、ナスと卵を炒め、風味、発煙を評価した。 評価は 10名のパネラーで行った。吸油率は下記式により求めた。
吸油率 (%) = (実験に使用した油量-残った油量) Z (実験に使用した油量) また、耐冷性は、油脂をビンに密封して 0°Cで 2週間保存した後の観察により評価し
た。
(風味評価)
◎:さっぱりしている
〇:ややさっぱりしている
△:こってりしている
(発煙評価)
〇:発煙しない
X:若干発煙
(耐冷性評価)
◎:透明
〇:ややぼけがみられる(許容)
X:白濁
[0022] [表 6]
表 6 ) 組成と風味評価
[0023] ショ糖脂肪酸エステルを含有しない油脂組成物と比較して、ショ糖脂肪酸エステル を含有する油脂組成物は、調理対象物への油の染み込みが少なぐさっぱりして風 味が良好であった。また、ショ糖脂肪酸エステルの使用が 10質量%以上の場合には 、発煙が見られ調理適性上好ましくな力つた。さらに、 POS— 135をショ糖脂肪酸エス テノレとして用 ヽた本発明の実施例は耐冷性が良好であつた。