本発明は、モータ駆動制御装置に関する。
電動自転車や電気自動車等のモータを、加速時等における力行駆動に加えて、減速時には発電を行ってその電力を充電可能な電池に戻すという回生制動に用いる場合がある。
しかし、次のような場合には、回生制動時の充電電流(以下、回生電流とも呼ぶ)が制限されたり、全く流せなかったりするため、回生制動がかけられなかったり、充分な制動トルクが出せなかったりする。
電池が満充電の場合
電池が低温の場合
その他の電池異常などにより回生電流が流せない場合
例えば、坂の上に住んでいる人が、自宅で電池を満充電にして、いきなり坂を下るような場合、これ以上充電できないため最初は回生制動を用いることができない。よって、坂を下りきって平地や登り坂などで電力を消費して電池容量に空きができて初めて回生制動を用いることができるようになる。
また、気温が氷点下で電解液が凍るような温度の場合等でも、電池に充電してはいけないため、やはり回生制動を用いることができない。さらに、電池がその他の異常を検出して充電不可を表す信号を出力する場合もある。
これら以外の場合には回生制動を用いることができるため、同じようなモータ制動をかけたい時であっても、電池の状況によっては、回生制動が全くかけられなかったり、弱い回生制動しかかけられなかったりする場合が生ずる。
そのため、電池の状況次第で、必要となる制動トルクから回生制動トルクが不足する分だけ、機械制動を用いることになる。しかし、不足する分だけ機械制動をかけるように運転者が対応しなければならず、ブレーキ操作をしてから初めて効きの差に気付き、咄嗟の判断と応答が求められるなど大きな違和感を感じることとなる。
よって、運転者の操作が同じなら、電池の状況に依らず、常に同じようなモータ制動が生ずることが望ましい。
また、充電できない一次電池を使用する場合や回生できない外部電源を使用する場合などでも、特に回生制動にこだわることなく、任意の制動トルクによるモータ制動を掛けた方が良い場面も有る。
すなわち、例えば自転車や自動車の例では急な下り坂などで、速度や加速度が過大となった場合も、その傾斜に応じて自動で軽く制動をかけ、速度や加速度を緩和するといったことは有用である。また、なんらかの異常時に自動で制動をかけたい場合も有る。
このように、機械式ブレーキサーボを装備していなくても制御部からの指示だけで制動がかけられ、また摩擦係数に大きなバラツキがある機械式ブレーキに比べて極めて安定したトルクで制動がかけられるので、回生制動を使用できないシステムにおいても、自動モータ制動が求められる場面はある。
このような問題に対して、電気自動車やハイブリッド自動車では、回生制動が足りない分だけ自動的に機械制動をかけるという技術が存在する(例えば特許文献1)。しかし、これを実現するためには電動ブレーキサーボ機構を備えることになる。自動車の場合、元々ブレーキサーボ機構を備えているので、重量増やコスト増があまり問題とならないが、軽くて安価な自転車等の場合では、重量増とコスト増は大きな問題となる。
また、回生電流を流さないモータ制動(電磁制動)としては、短絡制動が知られている。しかし、短絡制動は最大回生制動力のさらに2倍の制動トルクがあり、その加減ができないため、回生制動と同等に使用することはできない。
このような欠点を無くす方法として、3相全短絡状態と全開放状態を交互に切り替え、その切替PWM(Pulse Width Modulation)デューティ比でトルクを制御する方法が提案されている(例えば特許文献2)。しかしながら、この方法で実際には制御することはできない。具体的に、モータコイルに流れていた電流は全開放期間にも直ぐに止めることはできず、開放する度にFET(Field Effect Transistor)の寄生ダイオード経由でグランドから電池側に電流が流れ、電池に回生電流が流れてしまうため、結局は回生制動となってしまう。
仮に寄生ダイオードの無いスイッチング素子を使ったり、寄生ダイオードの影響を無くすような回路上の工夫(例えばFETを2個ずつ逆直列にしたものを使用する)によって、電池側へ回生電流が流れないようにしようとすると、全開放した瞬間にスイッチング素子に限りなく巨大なサージ電圧がかかって破損してしまう。
また、他の方法として、回生制動によって得られた電力を、別途設けた抵抗等で消費させることで、電池に対して回生電流を流すことなく制動トルクを生じさせるロス制動をトータルで実現する方法もある。しかし、その抵抗等の発熱量は大きいため、高価な高耐電力抵抗や大きなヒートシンク等を設けることになり、コスト増や重量増となる。
さらに、電池に回生電流を流さずに任意のトルクの電磁制動をかける方法として、ベクトル制御法により、トルクを生じさせるためのトルク電流を回生制動時と同じに保ちつつトルクに寄与しない界磁電流を流すことで、モータ内で電力を消費させ、制動トルクを変えずに電池への回生電流を自在に制御する方法がある(例えば特許文献3)。すなわち、駆動電圧や駆動進角を適切に制御することにより、希望する制動トルクを生じさせ、電池への回生電流を低減又はゼロにできるものである。
しかしながら、高度な制御によってトルクと電池への回生電流を制御することになるため、モータその他の各種諸定数や環境状態のバラツキにより、電池への回生電流をゼロにするためには多くの困難がある。すなわち、高速且つ高精度の電流フィードバック制御が必要であり、制動開始時から制動力変化、モータ回転数変化、その他の変動に追従して、常に電池への回生電流を確実にゼロに維持するのは困難である。従って、少量の回生電流が電池に流れるという状況が頻発する恐れがあり、その分電池への悪影響がある。
特開2015−186382号公報
特開2012−196104号公報
特開平10−150702号公報
従って、本発明の目的は、一側面において、電源へ電流を流さずに制動トルクを生じさせるためのモータ駆動制御技術を提供することである。
本発明に係るモータ駆動制御装置は、(A)モータを駆動するインバータ部と、(B)電源をインバータ部から電気的に分離するための分離スイッチと、(C)インバータ部から電源に回生電流を流さずに制動を実施すべき事象を検出した場合、電源をインバータ部から分離するように分離スイッチに指示し、速度及び制動目標トルクに応じたスイッチングを行うようにインバータ部を制御する制御部とを有する。
図1は、ベクトル制御によるロス制動の実装例を示す図である。
図2Aは、ベクトル制御における平均デューティ比と進角との組み合わせに対するトルクの関係を表す図である。
図2Bは、ベクトル制御における平均デューティ比と進角との組み合わせに対する電源(電池)電流の関係を表す図である。
図3Aは、モータ回転数及び制動トルクと進角との関係を表す図である。
図3Bは、モータ回転数及び制動トルクと既定平均デューティ比との関係を表す図である。
図4は、電動アシスト自転車の外観を示す図である。
図5は、モータ駆動制御装置の機能ブロック図である。
図6Aは、演算部で実現される分離制御部を示す図である。
図6Bは、分離スイッチの第1の例を示す図である。
図6Cは、分離スイッチの第2の例を示す図である。
図6Dは、分離スイッチの第3の例を示す図である。
図6Eは、分離スイッチの第4の例を示す図である。
図7Aは、電源接続方法の第1の例を示す図である。
図7Bは、電源接続方法の第2の例を示す図である。
図7Cは、電源接続方法の第3の例を示す図である。
図8は、第1の実施の形態に係る機能構成例を示す図である。
図9Aは、平均デューティ比及び進角の組み合わせと、制動トルクの関係を表す図である。
図9Bは、平均デューティ比及び進角の組み合わせと、インバータ電源電圧の関係を表す図である。
図10は、電圧FB制御部の機能構成例を示す図である。
図11は、ΔVの生成について説明するための図である。
図12(a)乃至(c)は、第2の実施の形態における追加的な機能を説明するための図である。
図13は、第4の実施の形態に係る機能構成例を示す図である。
図14Aは、60°オフ期間を含む120°矩形波の例を示す図である。
図14Bは、連続する120°矩形波の例を示す図である。
図14Cは、連続する180°矩形波の例を示す図である。
図14Dは、連続する240°矩形波の例を示す図である。
図15(a)乃至(i)は、回生制動中にロス制動モードに遷移する場合の信号変化を表す図である。
図16(a)乃至(i)は、ロス制動モードから回生制動に遷移する場合の信号変化を表す図である。
図17(a)乃至(d)は、駆動波形のバリエーションを示す図である。
図18は、図17(d)に示す駆動波形を生成するための構成例を示す図である。
[本発明の実施の形態に係る基礎的な技術]
最初に、本発明の実施の形態に係る基礎的な技術であるベクトル制御に基づくロス制動について説明する。
ベクトル制御によるロス制動では、制動トルクを発生させる電流、すなわち回生制動のための電流と同じ第1の電流(トルク電流とも呼ぶ)と、モータコイル内の抵抗成分により電力消費させるための第2の電流、すなわち第1の電流から90°ずれた位相の電流(界磁電流とも呼ぶ)とを同時に流す。
このような第1の電流により所望の制動トルクを得ることができる。そして第2の電流は90°位相がずれているので、第2の電流によるトルクは、電流周波数の2倍の周波数で正負交互に発生し、平均トルクはゼロとなる。また、3相モータであれば、それぞれ120°位相差を有する3相電流のそれぞれによるトルクも120°位相差を有するため、第2の電流による3相トルクの合計は、時間平均を取らずとも、どの瞬間もゼロトルクとなる。
ゼロトルクであっても、電流が流れる限り、当該電流の2乗×コイル抵抗分の電力を消費している。従って、第2の電流を制御すればそれによる消費電力を自在に制御できるため、全体として、回生制動時と同じトルクの制動をかけつつ、最終的な回生電力を自在に制御することができる。すなわち、第2の電流による消費電力を、第1の電流による回生電力と等しくすれば、電池への回生電流はゼロとなる。
この時、第2の電流の制御法として、第2の電流を第1の電流に対して進み方向すなわち+90°位相差で流す弱め界磁電流法と、第2の電流を第1の電流に対して遅れ方向すなわち−90°位相差で流す強め界磁電流法とがある。
+90°位相差で流す弱め界磁電流法の場合、モータコイル自身の自己インダクタンス及びコイル間の相互インダクタンスの影響により、モータコイル端子に与えられる合計電圧駆動波形は、低電圧となる特徴がある。また、電源用の平滑コンデンサに流れるACリップル電流が小さめになるため、平滑コンデンサの許容リップル電流が小さめのもので済み、また耐圧も低めのもので済むという利点もある。
しかし、速度の急変化に対して+90°の位相差制御が遅れて位相がずれると、本来ゼロトルクであるべきところにトルクが発生するといった現象が生じる。すなわち、速度の変化がより増幅される方向でトルクに反映される傾向があり、トルクと速度が不安定になり易く、振動が発生し易いため、高速且つ高精度な制御が求められる。
一方、−90°位相差で流す強め界磁電流法の場合、逆に合計電圧駆動波形は、高電圧となる特徴がある。このため、電圧が電池電圧より高くなってしまい適切に制御できない場合が発生したり、電源用の平滑コンデンサに流れるACリップル電流が大きめとなり、電源用の平滑コンデンサの許容リップル電流が大きいものを採用することになるといった問題がある。
しかし、速度の急変化に対して−90°の位相差制御が遅れることで発生するトルクは、より速度の変化が緩和される方向でトルクに反映される傾向があり、トルクと速度が安定するという利点がある。
実際には製品構成上の諸事情に鑑みて、これら2つの方法のいずれかを選択することになる。
また、第1の電流の駆動波形も、第2の電流の駆動波形もどちらも正弦波の場合、その合計電圧駆動波形も、やはりその振幅や位相が異なるだけの正弦波となる。すなわち、単一の正弦波の振幅(すなわち平均デューティ比)及び進角を制御することにより、第1及び第2の電流を制御できることになる。
そのため、目標回生制動トルクと同じロス制動トルクを発生させる平均デューティ比と進角とを速度毎に予め求めておき、当該平均デューティ比及び進角を有する合計電圧駆動波形の信号に基づき、モータを駆動するインバータにスイッチングさせることにより、回生制動トルクと同じトルクが生ずるロス制動が実現される。
このようなベクトル制御に基づくロス制動を実現する実装例を図1に示す。
この実装例に係るモータ駆動制御装置は、制動目標トルク生成部9001と、駆動パラメータ生成部9002と、駆動波形生成部9003と、変調部9004と、加算器9005と、電池平均電流検出部9006と、電流オフセットレジスタ9007と、加算器9008とを有する。
制動目標トルク生成部9001は、ブレーキ操作などによって制動要求がなされると、車速などの速度に応じて、予め設定されている制動目標トルクを、駆動パラメータ生成部9002に出力する。なお、出力すべき制動目標トルクについては、例えば国際公開公報2012/086459A1等を参照のこと。この国際公開公報及び対応米国特許出願を本願に取り込む。
駆動パラメータ生成部9002は、速度及び制動目標トルクに応じて、予め設定されている進角及び既定平均デューティ比を出力する。
駆動パラメータ生成部9002が出力すべき進角及び既定平均デューティ比については、図2A乃至図3Bを用いて説明する。
図2Aにおいて、横軸は平均デューティ比を表し、縦軸は進角を表し、あるモータ回転数(例えば2400rpm)において、同じトルクが生ずる平均デューティ比及び進角の組み合わせを等トルク線として示したものである。具体的には、0Nmから18Nmまで2Nm毎に等トルク線を示している。なお、電池と、モータを駆動するインバータ部とは接続されたままであり、界磁電流を、トルク電流に対して−90°位相差で流す強め界磁電流法を採用できる範囲を測定している。
一方、図2Bにおいて、横軸は平均デューティ比を表し、縦軸は進角を表し、あるモータ回転数(例えば2400rpm)において、電池に同じ電流が流れる平均デューティ比及び進角の組み合わせを等電流線として示したものである。具体的には、電流が流れない0A(点線)から、電池から放電方向に電流が流れる4Aまでの等電流線と、電池への充電方向(回生方向とも呼ぶ)に電流が流れる−4Aまでの等電流線とが、1A毎に示されている。ここでも、電池とインバータ部とは接続されたままであり、図2Aと同じ範囲を測定している。
図2Bにおける点線ラインは電流が流れない平均デューティ比及び進角の組み合わせを表しており、図2Aにおいても同様に示されている。ロス制動は、電池から放電もしておらず電池へ充電もしていない0Aの状態であるから、図2Aにおいて、0Aを表す点線と等トルク線とが交差する点から、ロス制動を可能にする平均デューティ比及び進角と、その場合の制動トルクとが特定される。
これを各速度について行うことによって、図3A及び図3Bに示すような関係が得られるようになる。
図3Aは、モータ回転数及び制動トルクと進角との関係を表しており、図3Bは、モータ回転数及び制動トルクと既定平均デューティ比との関係を表している。
駆動パラメータ生成部9002は、図3A及び図3Bに基づき、入力された速度(モータ回転数と等価)及び制動目標トルクに対応する進角及び既定平均デューティ比を出力する。
駆動パラメータ生成部9002が出力した進角及び既定平均デューティ比に応じてインバータを駆動すると、基本的にはロス制動が実現されるが、各要素の定数のバラツキや変動により、正確に回生電流がゼロとならない。そのため、回生電流がゼロになるように、フィードバック制御を行う。
電池平均電流検出部9006は、電池に流れる電流の平均値を検出して、当該平均値に応じた値を出力する。加算器9008は、電池平均電流検出部9006の出力と、電流オフセットレジスタ9007の出力(1単位時間前の値。但し初期値は例えばゼロ)とを加算して、加算結果を電流オフセットレジスタ9007に出力する。電流オフセットレジスタ9007は、加算器9008の出力を格納する。このようにすれば、電池平均電流検出部9006で検出された電流の平均値に応じた値が、電流オフセットレジスタ9007に蓄積される。
そして、加算器9005は、電流オフセットレジスタ9007に蓄積された値を、駆動パラメータ生成部9002からの既定平均デューティ比から差し引く。これにより、電池に流れる電流の平均値が負帰還される。加算器9005で生成された補正後平均デューティ比は、駆動波形生成部9003に出力される。
駆動波形生成部9003は、駆動パラメータ生成部9002からの進角と、加算器9005からの補正後平均デューティ比とに基づき、この進角及び補正後平均デューティ比に対応する振幅を有する例えば正弦波の信号を生成して、変調部9004に出力する。駆動波形生成部9003によって生成される信号は、3相モータの場合には3相駆動波形瞬時デューティ比Du、Dv及びDwを表している。
変調部9004は、駆動波形生成部9003の出力に応じて例えばPWM変調を行って、インバータ部に含まれるスイッチへのスイッチング信号を出力する。
上で述べたように電池に流れる電流を負帰還することで電池に流れる電流をゼロにするように制御するが、どの瞬間もゼロということにはならず、ゼロ前後で多少変動するようになる。
[実施の形態]
本発明の実施の形態では、電池へ回生電流を確実に流さずにロス制動を実現する。
以下、本発明の実施の形態について、電動アシスト自転車の例をもって説明する。しかしながら、本発明の実施の形態の適用対象は、電動アシスト自転車だけに限定されない。
図4は、本実施の形態における電動アシスト車である電動アシスト自転車の一例を示す外観図である。この電動アシスト自転車1は、モータ駆動装置を搭載している。モータ駆動装置は、二次電池101(元電源)と、モータ駆動制御装置102と、ペダルトルクセンサ103と、ペダル回転センサ107と、ブレーキセンサ104と、モータ105とを有する。なお、電動アシスト自転車1は、操作パネル、フリーホイール及び変速機も有している。
二次電池101は、リチウムイオン二次電池であるが、他種の電池、例えばリチウムイオンポリマー二次電池、ニッケル水素蓄電池などであっても良い。
ペダルトルクセンサ103は、クランク軸に取付けられたホイールに設けられており、運転者によるペダルの踏力を検出し、この検出結果をモータ駆動制御装置102に出力する。また、ペダル回転センサ107は、ペダルトルクセンサ103と同様に、クランク軸に取付けられたホイールに設けられており、回転に応じたパルス信号をモータ駆動制御装置102に出力する。
モータ105は、例えば周知の三相ブラシレスモータであり、例えば電動アシスト自転車1の前輪に装着されている。モータ105は、前輪を回転させるとともに、前輪の回転に応じてローターが回転するように、ローターが前輪に直接又は減速器などを介して連結されている。さらに、モータ105はホール素子等の回転センサを備えてローターの回転情報(すなわちホール信号)をモータ駆動制御装置102に出力する。
ブレーキセンサ104は、運転者のブレーキ操作を検出して、ブレーキ操作に関する信号をモータ駆動制御装置102に出力する。
このような電動アシスト自転車1のモータ駆動制御装置102に関連する構成を図5に示す。モータ駆動制御装置102は、制御部1020と、インバータ部1030と、分離スイッチ1040と、平滑コンデンサ1050とを有する。インバータ部1030には、モータ105のU相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Suh)及びローサイドFET(Sul)と、モータ105のV相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Svh)及びローサイドFET(Svl)と、モータ105のW相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Swh)及びローサイドFET(Swl)とを含む。ハイサイドは上側、ローサイドは下側と呼ぶこともある。インバータ部1030には、第2温度センサ1031が設けられており、モータ105には、第1温度センサ1051が設けられており、それぞれ制御部1020に接続されている。
また、インバータ部1030は、平滑コンデンサ1050の一端に接続されており、平滑コンデンサ1050の他端は接地されている。平滑コンデンサ1050の容量は、比較的大きなものであり、図5には示されていないが、分離スイッチ1040より二次電池101側に設けられることがあるコンデンサよりも大きなものである。
分離スイッチ1040は、インバータ部1030と二次電池101との間に設けられており、制御部1020からの指示(分離制御信号)に応じて、二次電池101をインバータ部1030から分離するように作動する。なお、二次電池101には、第3温度センサ1010が設けられており、制御部1020に接続されている。
また、制御部1020は、演算部1021と、車速入力部1024と、ブレーキ入力部1025と、ペダル回転入力部1022と、ペダルトルク入力部1023と、温度入力部1026と、第1AD(Analog/Digital)入力部1027と、第2AD入力部1028と、PWM変調部1029とを有する。なお、制御部1020には、PWM変調部1029にキャリア信号を出力するキャリア生成部も含まれるが、ここでは図示を省略している。
演算部1021は、ペダル回転入力部1022からの入力、ペダルトルク入力部1023からの入力、車速入力部1024からの入力、ブレーキ入力部1025からの入力、第1AD入力部1027からの入力、第2AD入力部1028からの入力、温度入力部1026からの入力を用いて以下で述べる演算を行って、PWM変調部1029に対して信号を出力する。
なお、演算部1021は、メモリ10211を有しており、メモリ10211は、演算に用いる各種データ及び処理途中のデータ等を格納する。さらに、演算部1021は、プログラムをプロセッサが実行することによって実現される場合もあり、この場合には当該プログラムがメモリ10211に記録されている場合もある。また、メモリ10211は、演算部1021とは別に設けられる場合もある。
ペダル回転入力部1022は、ペダル回転センサ107からの、ペダル回転位相角及び回転方向を表す信号を、ディジタル化して演算部1021に出力する。車速入力部1024は、モータ105が出力するホール信号から現在車速を算出して、演算部1021に出力する。ペダルトルク入力部1023は、ペダルトルクセンサ103からの踏力に相当する信号をディジタル化して演算部1021に出力する。ブレーキ入力部1025は、ブレーキセンサ104からの信号に応じて、ブレーキセンサ104からブレーキ有りを表す信号を受信しないブレーキなし状態、及びブレーキセンサ104からブレーキ有りを表す信号を受信しているブレーキ状態のいずれかを表す信号を演算部1021に出力する。温度入力部1026は、第1温度センサ1051、第2温度センサ1031及び第3温度センサ1010からの温度情報をディジタル化して演算部1021に出力する。第1AD入力部1027は、分離スイッチ1040の二次電池101側の電圧、すなわち二次電池101の出力電圧をディジタル化して演算部1021に出力する。第2AD入力部1028は、分離スイッチ1040の、インバータ部1030側の電圧をディジタル化して演算部1021に出力する。
なお、以下の説明をし易くするために、分離スイッチ1040のインバータ部1030側の端子をインバータ電源端子と呼ぶことにし、このインバータ電源端子における電圧をインバータ電源電圧と呼ぶことにする。
また、二次電池101からは、第3温度センサ1010からの温度情報だけではなく、満充電状態を含む充電レベルの情報、他の理由から充電不可を表す信号を制御部1020に伝達する場合もある。
本実施の形態では、二次電池101などの元電源に対して回生電流を流すことなく制動トルクを生じさせるロス制動モードにおいて、分離スイッチ1040をオフにして二次電池101などの元電源をインバータ部1030から分離した上で、以下で述べる駆動制御法にて制動トルクを生じさせる。これによって確実に二次電池101などの元電源への回生電流がゼロとなることを保証した上で、適切な波形(基本波の波形、進角、振幅で特定される波形)の信号(第1の信号)を生成し、当該信号に基づきインバータ部1030に対するスイッチング駆動信号(第2の信号)を生成及び出力して、インバータ部1030にスイッチングさせることで、任意の制動トルクを得ることができるようになる。
ここでロス制動モードにおいて主要な機能となる分離スイッチ1040のバリエーションについて図6A乃至図6Eを用いて述べておく。まず、分離スイッチ1040に対して分離制御信号を出力し、演算部1021において実現される分離制御部2100について、図6Aを用いて説明しておく。
演算部1021において実現される分離制御部2100は、二次電池101の温度、二次電池101が満充電である状態、その他充電不可状態であることの通知などの各種入力に基づき、ロス制動モード(ロス制動を実施すべき事象)を検出して、分離スイッチ1040をオフにするような分離制御信号を出力する。
なお、分離制御部2100は、例えば演算部1021内部(例えば、図8で示すような力行目標トルク生成部2207又は2314等)で計算された力行目標トルクが入力される場合があり、後に詳細に述べるように、力行目標トルクが閾値以下になると、分離スイッチ1040をオフにするような分離制御信号を出力する。その他の要因で電池や回路などを保護すべき際にも、分離スイッチ1040をオフするような分離制御信号を出力する場合もある。
また、分離制御部2100は、ロス制動モードを検出すると、制動モードフラグでもロス制動モードを示す。一方、分離制御部2100は、各種入力からロス制動モードではなく回生制動モードであると判断すると、回生制動モードを表すように信号を出力する。同様に、分離制御部2100は、回生制動モードを検出すると、制動モードフラグでも回生制動モードを示す。制動モードフラグにより、PWMキャリア周波数、PWM変調の変調形式、モード切り替え時における平均デューティ比及び進角の計算切り替えなどが行われる。
以下で説明する図6B乃至図6Eは、図5の左側における二次電池101と分離スイッチ1040とインバータ部1030とそれに関連する構成要素のみを示している。
図6Bは、分離スイッチ1040aが、NチャンネルのMOSFET1041aとダイオード1042aとを含む例を示している。すなわち、二次電池101などの元電源には、MOSFET1041aのソースが接続され、平滑コンデンサ1050及びインバータ部1030にはドレインが接続されている。また、ダイオード1042aのアノードは、二次電池101などの元電源に接続されており、カソードは、平滑コンデンサ1050及びインバータ部1030に接続されている。ダイオード1042aは、寄生ダイオードの場合もあれば、ダイオードそのものが接続されている場合もある。MOSFET1041aのゲートは、演算部1021に接続されている。
分離制御信号に応じてMOSFET1041aがオフになると、インバータ部1030から二次電池101などの元電源への電流は遮断される。但し、その間でも二次電池101等の元電源からインバータ部1030への電流は、二次電池101などの元電源の電圧がインバータ電源電圧より高ければ、ダイオード1042aを介して流れる。
このような分離スイッチ1040aは、他の目的で設けられる場合もある。すなわち、モータ105が過回転して逆起電力が二次電池101の出力電圧を超える場合、分離スイッチ1040aをオフすることにより、回生制動の意図の無い時に不必要に回生制動がかかってしまうのを防止し、電池を保護するために用いられる。また、電池や回路、その他の異常時にも強制的にオフして当該電池や回路を保護するものである。
図6Cは、分離スイッチ1040bが、NチャンネルのMOSFET1041bとダイオード1042bとを含む例を示している。すなわち、二次電池101などの元電源には、MOSFET1041bのドレインが接続され、平滑コンデンサ1050及びインバータ部1030にはソースが接続されている。また、ダイオード1042bのカソードは、二次電池101などの元電源に接続されており、アノードは、平滑コンデンサ1050及びインバータ部1030に接続されている。ダイオード1042bは、寄生ダイオードの場合もあれば、ダイオードそのものが接続されている場合もある。MOSFET1041bのゲートは、演算部1021に接続されている。
分離制御信号に応じてMOSFET1041bがオフになると、インバータ部1030から二次電池101などの元電源への電流は遮断される。但し、分離制御信号に応じてMOSFET1041bがオフになっても、インバータ電源電圧が二次電池101などの元電源の電圧より高ければ、ダイオード1042b経由でインバータ部1030から二次電池101などの元電源への電流は流れる。
このような分離スイッチ1040bも、他の目的で設けられる場合もある。すなわち、二次電池101を取り付けた後、徐々に分離スイッチ1040bをオンする期間を延ばすことにより、インバータ電源電圧が充分上がるまでの間、インバータ部1030側に巨大なラッシュ電流が流れてインバータ部1030を破壊するのを防止するものである。
図6Dは、分離スイッチ1040cが、寄生ダイオードが無く、双方向の電流をオフすることができるスイッチの例を示している。すなわち、二次電池101からインバータ部1030への電流とインバータ部1030から二次電池101への電流とを同時に遮断するスイッチが用いられる。このようなスイッチを単独のスイッチにより実現しても良いが、図6Eに示すように、MOSFET1041a及び1041bを併用して実現しても良い。すなわち、分離スイッチ1040dは、ダイオード1042a及び1042bと、MOSFET1041a及びMOSFET1041bとを含む。そして、MOSFET1041a及びMOSFET1041bを直列に接続して同時にこれらをオフにすれば、双方向の電流をオフすることができる。但し、MOSFET1041aとMOSFET1041bの接続順は逆でも良い。
図6Eの場合には、MOSFET1041bをオンにしたままMOSFET1041aをオフにすれば、図6Bと同じように作用する。また、MOSFET1041aをオンにしたままMOSFET1041bをオフにすれば、図6Cと同じように作用する。
なお、分離スイッチ1040にNチャンネルのMOSFETを用いる例で説明したが、PチャンネルのMOSFET、ジャンクションのFET、バイポーラトランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、リレーなどのスイッチング素子を用いるようにしても良い。
なお、図5では、制御部1020などの電源をどのように得るのかについては説明を省略していた。図7A乃至図7Cを用いて、制御部1020などの電源を得る方法のバリエーションについて説明する。なお、制御部1020だけではなく、電動アシスト自転車1等のモータが設置される装置に接続され且つ電力を消費する構成要素であるランプなどを含む場合もある。また、ランプなどについて、図7A乃至図7Cのような接続を行う場合もある。
図7Aの例では、制御部1020等は、分離スイッチ1040より二次電池101側から電源を得るようになっている。二次電池101が放電可能な状態であれば、比較的安定的な電圧が得られる。
図7Bの例では、制御部1020等は、分離スイッチ1040よりインバータ部1030側から電源を得るようになっている。二次電池101が放電しきっていても、外れていても走行すれば、モータ105による発電とインバータ部1030による逆昇圧効果により、電源が得られる。また、それによりインバータ部1030を正しく回生制御して二次電池101を充電することもできる。しかし、安定性の問題などがあり、高電圧対策を行う必要がある場合もある。
図7Cの例では、分離スイッチ1040の両側にダイオードのアノード(図7Cではダイオード1045又は1046)を接続し、ダイオード1045及び1046のカソードを制御部1020等に接続することでダイオードORを構成すれば、制御部1020等に、二次電池101の出力電圧とインバータ電源電圧とのうち高い方の電圧で電力が供給される。二次電池101が接続されており且つ放電可能であるか、走行しているかのいずれかであれば電源が得られ、電池残量がない場合でも回生により充電を行うことができる。但し、高電圧対策を行う必要がある場合もある。
[実施の形態1]
ここでは、分離スイッチ1040に図6D又は図6Eに示したスイッチを採用することを前提に、より適切なロス制動を行うための構成について図8乃至図11を用いて説明する。
図8に、本実施の形態において演算部1021にて実現される機能ブロック構成例を示す。
演算部1021によって実現されるロス制動制御機能は、回生制動目標トルク生成部2201と、駆動パラメータ生成部2202と、電圧FB制御部2203(FB:Feedback)と、駆動波形生成部2204とを有し、PWM変調部1029とキャリア生成部2206とを制御する。なお、演算部1021は、力行目標トルク生成部2207を有しており、駆動パラメータ生成部2202と連携して、力行駆動をも実施する。力行目標トルク生成部2207は、ペダルトルク入力及び車速などに応じて力行目標トルクを生成し、生成した力行目標トルクを駆動パラメータ生成部2202に出力する。駆動パラメータ生成部2202は、以下で述べる制動要求がない場合には、力行目標トルク及び車速を用いて力行用パラメータを生成して出力する。力行目標トルクの生成については、例えば、ペダルトルク入力×アシスト比(但し、アシスト比は法律などに従って車速に応じた制限がある場合もある)によって算出される。より具体的には、例えば国際公開公報2012/086459A1等を参照こと。この国際公開公報及び対応米国特許出願を本願に取り込む。また、駆動パラメータ生成部2202は、制動要求がある場合には、以下に述べる処理を行う。
回生制動目標トルク生成部2201は、制動要求が入力されると、車速入力部1024からの車速に応じて、制動目標トルクを駆動パラメータ生成部2202に出力する。制動要求は、例えばブレーキセンサ104からブレーキ有りを表す信号を受信することによってブレーキ入力部1025から出力される。また、例えば車速に対応して制動目標トルクは予め設定されている。車速以外の条件に対応付けて制動目標トルクを設定しておいても良い。なお、制動目標トルクについては、例えば国際公開公報2012/086459A1等を参照のこと。また、人為的にブレーキ操作などにより制動指示を与えない場合にも、急な下り坂や過大速度が出た場合などに自動回生制動を行う場合の制動目標トルクは、国際公開公報2014/200081A1等を参照のこと。この国際公開公報及び対応米国特許出願を本願に取り込む。
回生制動時と同じ制動目標トルクをロス制動移行時にも採用すれば、運転者は違和感なく且つ同じ制動感の下運転を続けることができる。なお、回生制動時と同じ制動目標トルクを継続して回生制動目標トルク生成部2201が出力するようにしても良いが、第1温度センサ1051によって検出されたモータ105の温度や、第2温度センサ1031によって検出されたインバータ部1030の温度が上昇しすぎた場合には、制動目標トルクを回生時よりも下げるようにしてもよい。また、何らかの事情でロス制動移行時の制動目標トルクが低く抑えられている状態であれば、ロス制動モードへの移行後に徐々に制動目標トルクを上昇させるようにしても良い場合もある。
駆動パラメータ生成部2202は、制動モードフラグによってロス制動モードであることを検出すると、車速及び制動目標トルクに応じて、ロス制動のための進角及び既定平均デューティ比を出力する。一方、制動モードフラグによって回生モードであることを検出すると、駆動パラメータ生成部2202は、車速及び制動目標トルクに応じて、回生制動のための進角及び既定平均デューティ比を出力する。上でも述べたように、ロス制動モードは、二次電池101が満充電状態であったり、二次電池101の温度が低温であったり、その他の異常発生により回生電流を二次電池101に対して流すことができない事象を検出した場合に分離制御部2100により判定され、制動モードフラグで示される。ロス制動のための進角及び既定平均デューティ比については、後に詳しく述べるが、基本的にはロス制動モードにおいて制動目標トルクが得られるように設定される。
電圧FB制御部2203は、制動モードフラグによってロス制動モードであることを検出すると、第2AD入力部1028から入力されたインバータ電源電圧を所定の目標電圧にするためのフィードバック制御を行う。但し、電圧FB制御部2203については、インバータ部1030や平滑コンデンサ1050等の駆動回路の耐圧からして問題がなければ設けなくても良い。電圧FB制御部2203の詳細については後に述べる。
電圧FB制御部2203の出力である補正後平均デューティ比は、駆動波形生成部2204に出力され、駆動波形生成部2204は、駆動パラメータ生成部2202からの進角と共に用いて、当該平均デューティ比に対応する振幅及び進角を有する例えば正弦波(一般的に正弦波に限定されない)の信号を生成して、変調部2205に出力する。駆動波形生成部2204によって生成される信号は、3相モータの場合には3相駆動波形瞬時デューティ比Du、Dv及びDwを表している。
PWM変調部2205は、駆動波形生成部2204の出力に対して、キャリア生成部2206から出力される信号に基づきPWM変調を行って、インバータ部1030に含まれるスイッチング素子へのスイッチング駆動信号を出力する。但し、変調は、PWMではなく、PNM(Pulse Number Modulation)、PDM(Pulse Density Modulation)、PFM(Pulse Frequency Modulation)等である場合もある。
本実施の形態では、分離スイッチ1040は、オフさせるための分離制御信号に応じてオフされて、インバータ部1030と二次電池101などの元電源とは分離された状態になる。そうなった場合に、平均デューティ比及び進角の組み合わせと、制動トルク及びインバータ電源電圧との関係は、図9A及び図9Bに示されるようになる。
図9Aにおいて、縦軸は進角を表し、横軸は平均デューティ比を表しており、ある車速において、同じ制動トルクが生ずる平均デューティ比及び進角の組み合わせを等トルク線として示したものである。具体的には、0.5Nmから4Nmまで、0.5Nm刻みの等トルク線が示されている。図9Aから分かるように、平均デューティ比が変化しても、制動トルクは変化せず、進角が減少すれば制動トルクが増加することが分かる。
一方、図9Bにおいて、縦軸は進角を表し、横軸は平均デューティ比を表しており、ある車速において、同じインバータ電源電圧が生ずる平均デューティ比及び進角の組み合わせを、等電圧線として表したものである。具体的には、10Vから100Vまで10V刻みで等電圧線が示されている。図9Bから分かるように、おおよそ平均デューティ比に反比例してインバータ電源電圧が変化する。
本実施の形態では分離スイッチ1040によってインバータ部1030と二次電池101等の元電源とを分離したため、回生電流が強制的にゼロにさせられており、インバータ部1030は、回生時には1/平均デューティ比の昇圧インバータとして作用する。回生電流が流れていないので、平均デューティー比が変わればインバータ電源電圧が変わり、進角に応じた制動トルクが生じるだけである。
なお、図9A及び図9Bは、ある車速での関係を表しており、他の車速では、上記のような特徴を有する他の関係が得られる。
このように分離スイッチ1040によってインバータ部1030と二次電池101などの元電源とを分離したため、車速が与えられれば、制動目標トルクを得るための進角が特定される。また、回路その他の諸事情(強め界磁電流法と弱め界磁電流法とのいずれを採用するかということを含む)に応じて、インバータ電源電圧の目標電圧を任意で設定してもよい。よって、そのインバータ電源電圧の目標電圧に応じた平均デューティ比を、車速及び進角から特定すればよい。
図9A及び図9Bからすれば、インバータ電源電圧の目標電圧を厳密に設定しなくても良い。その場合には、上でも述べたように電圧FB制御部2203を用いずに、インバータ電源電圧がある程度の幅に入るように平均デューティ比を選択すればよい。
このように、ベクトル制御において電流フィードバック制御を行って回生電流をゼロにするような場合に比して、ロス制動モードにおいてオフされる分離スイッチ1040を採用することで、ロス制動のための制御の自由度が非常に高くなる。
例えば時定数一定でリニア制御を行うことが好ましいケースにおける電圧FB制御部2203の構成例を、図10及び図11を用いて説明する。
電圧FB制御部2203は、補正量生成部301と、加算器302と、乗算器303と、除算器304と、下限制限部305と、遅延器306と、マルチプレクサ307とを含む。
補正量生成部301は、インバータ電源電圧Voから、1処理単位時間(フレーム)あたりの補正量ΔVを算出する。補正量ΔVは、例えば図11に従って決定される。図11において、横軸はインバータ電源電圧Voを表し、縦軸はΔVを表す。図11から分かるように、インバータ電源電圧が、インバータ電源電圧の目標電圧からプラスマイナスdVの幅の中にあれば、小さい傾きでΔVが変化し、インバータ電源電圧が、この幅を逸脱すると急激にΔVがΔV上限又はΔV下限まで変化する。すなわち、インバータ電源電圧が目標電圧からあまり乖離していない場合には小さいゲインで負帰還し、大きく乖離している場合には大きいゲインで負帰還する。但し、このようなカーブは一例であって、単純な直線を採用するようにしても良い。
加算器302は、インバータ電源電圧Vo+ΔV=Vnを算出して除算器304に出力する。一方、乗算器303は、遅延器306から出力される前回出力平均デューティ比Doとインバータ電源電圧Voとの積である推定平均モータ駆動電圧Vmを算出して、除算器304に出力する。
除算器304は、Vm/Vn(=Vo*Do/(Vo+ΔV))により目標平均デューティ比Dnxを算出する。下限制限部305は、目標平均デューティ比Dnxが下限値以下であれば、下限値を出力し、下限値以上であれば、目標平均デューティ比Dnxを出力する。平均デューティ比が下がりすぎてインバータ部1030の出力電圧が想定より上昇するのを防ぐため、デューティ比に下限値が設定される。下限値は、例えば以下の2つの値のうち大きい方を用いる。
(1)スルーレート制限前の速度における起電力相当のデューティ比の75%
(2)固定デューティ比である20%
下限制限部305の出力Dnは、遅延器306に出力され、遅延器306は、1処理単位時間後に、その出力Dnを前回平均デューティ比Doとして出力する。なお、遅延器306には、初期値として、既定平均デューティ比が設定される。
また、下限制限部305の出力Dnは、マルチプレクサ307にも出力されており、マルチプレクサ307は、制動モードフラグによってロス制動モードを検出すると、下限制限部305からの出力Dnを補正後平均デューティ比として出力する。一方、制動モードフラグによって回生モードを検出した場合には、マルチプレクサ307は、既定平均デューティ比を、補正後平均デューティ比として出力する。
このような構成ではなく、簡単に、インバータ電源電圧の目標電圧からの乖離分を負帰還するような電圧FB制御部2203を採用しても良い。
[実施の形態2]
ここでは分離スイッチ1040に図6Bの構成を採用する場合について述べる。
本実施の形態においても、ロス制動モードにおいては分離スイッチ1040aのMOSFET1041aをオフにして、二次電池101などの元電源をインバータ部1030から分離する。
その上で第1の実施の形態と同様の制御を行なうが、本実施の形態では、意図的に第1の実施の形態における平均デューティ比より低い平均デューティ比で制御を行い、意図的に常にインバータ電源電圧を、二次電池101の電池電圧より高くする。
このようにすれば、二次電池101の電池電圧とインバータ電源電圧との電位差により、ロス制動モード中は分離スイッチ1040aのダイオード1042aに電流が流れることなく、実質的に図6D及び図6Eで示すような双方向の電流を遮断する分離スイッチ1040c又は1040dと同じ働きをさせることができる。
平均デューティ比が異なっていても、電流自身がゼロのため、モータ105に流れる電流波形は変わらず、インバータ電源電圧が異なるだけで、制動トルクは第1の実施の形態における制動トルクと変わらない。
二次電池101の電池電圧の変動やその他の諸定数のバラツキなどが有る場合でも、インバータ電源電圧が、少なくとも電池電圧より高く且つ回路耐圧以下であることが保証されていれば良いため、第1の実施の形態と同様に、インバータ電源電圧の制御を行わないようにしても良いし、大まかに目標電圧にフィードバック制御しても良い。
但し、本実施の形態では、使用可能な平均デューティ比の範囲でインバータ電源電圧を二次電池101の電池電圧より高く維持するため、ベクトル制御法における強め界磁電流法を採用することが好ましい。
本実施の形態では、高価な分離スイッチを採用しなくても良く、他の目的で同じ位置に同じスイッチが設置されている場合には、それをそのまま使用することもできるため、ハードウエアのコストは安くて済む。
また、図6Bの構成を採用した場合や図6Eの構成においてMOSFET1041aのみをオフして実質的に図6Bと同じ状態で使用する場合には、ロス制動モードではなく力行状態においても、不慮の回生電流を阻止できるようになる。
具体的には、図12を用いて説明する。図12(a)乃至(c)の縦軸は電池電流を表し、横軸は時間を表す。
力行状態では、図12(a)において点線にて示すように、平均的には、正方向すなわち放電方向に電流が流れている。但し、例えば速度や電流などの検出誤差、電動アシスト自転車1においてはペダルトルクセンサ103の検出誤差、また路面状況によって生ずる振動やノイズによる検出誤差、それらを用いた駆動定数(進角、平均デューティ比)の計算時の丸め誤差等の影響により、ランダムなACリップル電流が同時に流れている。
加速時や登坂時などのように力行目標トルクが大きい場合は、図12(a)のように、ACリップルがあっても、常に放電方向の電流となっていて特に問題は生じない。
しかし、巡航時など低トルクで走行中は、図12(b)のように、瞬間的に負方向すなわち充電方向に電流が頻繁に流れてしまう。このように二次電池101に対して放電と充電の頻繁な切り替えが繰り返されると、電池寿命に悪影響がある。そのため、典型的には、低トルク力行時における最低アシストトルクを制限するようにしている。すなわち、ある値以上の力行目標トルクの場合には、少し多めにアシストして、力行目標トルクが当該ある値を下回る場合は、一気にアシストをオフして、可能な限り不慮の瞬時回生電流が流れないようにしている。しかしながら、このような対策を行うと、アシストトルクのリニアリティは損なわれ、低トルク巡航時にギクシャクしたアシスト感を運転者に与えたり、多めのアシストを行っているので電池消費が多くなったりする。
このため、本実施の形態では、所定の閾値未満の低トルク力行で巡航時には、ロス制動モードと同じように、分離スイッチ1040aのMOSFET1041aをオフにすることで回生電流を阻止する。そうすれば、図12(c)に示すように、確実に放電方向のみ電池電流が流れるようになる。
なお、この場合、通常の力行時に比べて、分離スイッチ1040aのダイオード1042aの順方向ドロップ電圧分だけ高い電圧を出すように、力行駆動のための平均デューティ比にオフセットを加えることが好ましい。ダイオード1042aの順方向ドロップ電圧は、巡航時で低電流時には電池電圧に比べて非常に小さいため、ドロップロスは殆ど問題にならない。そして、上で述べたような多めのアシストが不要になるため、かえって電力ロスが減り、アシストトルクのリニアリティも確保され、自然なアシスト感覚が得られるようになる。
[実施の形態3]
本実施の形態では、図6Cに示した分離スイッチ1040bを採用する場合について述べる。
この場合であっても、ロス制動モードにおいては分離スイッチ1040bのMOSFET1041bをオフにして、二次電池101などの元電源をインバータ部1030から分離する。その上で第1の実施の形態と同様の制御を行う。
但し、意図的に第1の実施の形態における平均デューティ比より高い平均デューティ比で制御し、意図的に常に二次電池101の電池電圧より低いインバータ電源電圧を維持する。
二次電池101の電池電圧とインバータ電源電圧との電位差により、ロス制動モード中は分離スイッチ1040bのダイオード1042bに電流が流れることなく、実質的に図6C又は図6Dの分離スイッチ1040を用いた第1の実施の形態におけるロス制動モードと同じ作用を実現できる。
インバータ部1030の平均デューティ比が異なっていても、電流自身がゼロのため、モータ105に流れる電流波形は変わらず、インバータ電源電圧が異なるだけで、制動トルクは第1の実施の形態と同じになる。
二次電池101の電池電圧の変動やその他の諸定数のバラツキなどがある場合でも、インバータ電源電圧が最低限二次電池101の電池電圧より低く維持されていれば良いため、第1の実施の形態と同様に、インバータ電源電圧の制御を行わないようにしても良いし、大まかに目標電圧にフィードバック制御しても良い。
但し、第3の実施の形態では、使用可能な平均デューティ比の範囲でインバータ電源電圧を二次電池101の電池電圧より低く維持するため、ベクトル制御法における弱め界磁電流側を使用する方が好ましい。
本実施の形態でも、高価な分離スイッチを採用しなくても良く、他の目的で同じ位置に同じスイッチが設置されている場合には、それをそのまま使用することもできるため、ハードウエアのコストは安くて済む。
[実施の形態4]
ベクトル制御によるロス制動では、制動トルクを発生させ、制動による機械エネルギーを回収するための第1の電流(トルク電流)と、モータコイル内の抵抗成分により当該機械エネルギーを消費させるための第2の電流(第1の電流とは90°位相差で同一周波数の電流(界磁電流))とを使用している。
これに対して、第1乃至第3の実施の形態と同様に分離スイッチ1040を採用して、第2の電流に、第1の電流とは異なる周波数の電流を用いるようにしても良い。
基本波とは異なる周波数の成分(以下、異周波成分と呼ぶ)によるトルクは、逆起電力の基本波と異周波成分との積となるため、基本波と異周波成分の和周波数と差周波数のトルク成分が出る。よって、基本波とは異なる周波数を用いる限り、DCトルク成分は発生せず、ACリップルトルクしか発生しない。さらに、3相モータであり且つそのACトルク成分が+/−120°ずつの位相差を有する場合は3相の合計トルクはゼロとなるため、モータとしてのAC振動トルクは発生しない。
このため基本波とは異なる周波数としては、基本波より高い周波数(例えば高調波)であっても良いし、基本波よりも低い周波数であっても良い。
このような考え方に基づき演算部1021にて実現される機能構成例を図13に示す。
演算部1021によって実現されるロス制動制御機能は、回生制動目標トルク生成部2301と、駆動パラメータ生成部2302と、電圧FB制御部2303と、異周波生成部2304と、基本波生成部2305と、加算器2306乃至2308と、乗算器2309乃至2311とを有し、PWM変調部1029とキャリア生成部2313とを制御する。なお、演算部1021は、力行目標トルク生成部2314を有しており、駆動パラメータ生成部2302と連携して、力行駆動をも実施する。駆動パラメータ生成部2314は、図8における力行目標トルク生成部2207と同様である。駆動パラメータ生成部2302は、制動要求がない場合には、力行目標トルク及び車速を用いて力行用パラメータを生成して出力する。力行目標トルクの生成については、駆動パラメータ生成部2202の処理と同様である。また、駆動パラメータ生成部2302は、制動要求がある場合には、以下に述べる処理を行う。
回生制動目標トルク生成部2301は、制動要求が入力されると、車速入力部1024からの車速に応じて、制動目標トルクを駆動パラメータ生成部2302に出力する。回生制動目標トルク生成部2301は、第1の実施の形態における回生制動目標トルク生成部2201と同様である。
駆動パラメータ生成部2302は、車速及び制動目標トルクに応じて、回生制動のための進角及び既定平均デューティ比と、回生電力と同じ電力を消費させる異周波成分を発生させるための異周波含有率を特定して出力する。本実施の形態では、制動モードフラグに拘わらず、ベクトル制御と同様に回生制動のための進角及び既定平均デューティ比を出力する。一方、制動モードフラグが回生モードを表している場合には、異周波含有率はゼロとなる。
ここで、コイル抵抗R、コイルインダクタンスL、異周波成分の角周波数ωrf、異周波成分の実効電流Irf、実効電圧Erfとすると、異周波成分による消費電力Pは以下のようになる。
P=Irf 2×R
=[Erf/{R2+(Lωrf)2}1/2]2×R
=Erf 2×R/{R2+(Lωrf)2}
このように、異周波成分による消費電力Pは、実効電圧Erfの二乗に比例して増加するので、基本波の実効電圧に対する異周波成分の実効電圧の比率である異周波含有率の二乗に比例して増加するとも言える。
よって、異周波成分による消費電力Pが回生制動によって得られる電力と一致するような実効電圧Erfそして異周波含有率を予め特定しておき、設定しておく。基本波とは異なる周波数の波形は、その周波数が基本波の周波数と一致しなければ任意である。
電圧FB制御部2303は、制動モードフラグによりロス制動モードであることを検出すると、既定平均デューティ比に対してインバータ電源電圧に応じたフィードバックを行って補正後平均デューティ比を生成し、出力する。電圧FB制御部2303による処理は、電圧FB制御部2203による処理と同じでよい。
基本波生成部2305は、駆動パラメータ生成部2302が出力した回生用の進角を有する振幅1の基本波(一般的に正弦波に限定されない)を3相の各々について生成して出力する。
また、異周波生成部2304は、駆動パラメータ生成部2302が出力した異周波含有率に応じた振幅を有する異周波成分の波形を3相の各々について生成して出力する。
そして、加算器2306乃至2308は、基本波生成部2305からの出力と異周波生成部2304からの対応する出力とを加算して出力する。乗算器2309乃至2311は、加算器2306乃至2308の出力と補正後平均デューティ比との乗算を行って、3相駆動波形瞬時デューティ比Du、Dv及びDwを生成する。
PWM変調部1029は、乗算器2309乃至2311の出力に対して、キャリア生成部2313から出力される信号に基づきPWM変調を行って、インバータ部1030に含まれるスイッチング素子へのスイッチング駆動信号を出力する。PWM変調部1029及びキャリア生成部2313は、第1の実施の形態におけるPWM変調部1029及びキャリア生成部2206と同様である。
このような処理を行うことで、ロス制動が可能になる。
なお、このように異周波成分(及び以下で述べる高調波の場合を含む)を用いて回生制動により回収される電力を消費するという技術的要素を、分離スイッチの導入とは無関係に実装しても良い。すなわち、二次電池101などの元電源に対する回生電流が常にゼロになるように制御できれば、分離スイッチを設けずとも上記技術的要素を実装可能である。
[実施の形態5]
第4の実施の形態では異周波含有率に応じた異周波成分の波形を生成する異周波生成部2304を導入していたが、これを用いずに、基本波生成部2305において高調波を多く含む非正弦波を生成するようにしても良い。
この場合、異調波含有率は固定となるので、第4の実施の形態のような制御を行うことができない。そこで、駆動波形として十分に高調波成分を含む波形を採用した上で、第1の実施の形態のような進角及び平均デューティ比による制動トルク及びインバータ電源電圧制御を併用する。
具体的には、図8における駆動波形生成部2204において生成する信号の波形を、図14A乃至図14Dに示すような非正弦波に変更する。図14A乃至図14Dにおいて、縦軸は電圧を表し、横軸は時間を表す。
図14A乃至図14Dの(a)乃至(c)は、U相、V相及びW相の信号波形例を示している。図14Aの例では、基本的には120°の矩形波であるが、立ち上がり前及び立ち下がり後に、60°オフ期間(ハイインピーダンス)を設ける間欠駆動の例である。このような波形の信号を生成しているモータ駆動制御装置であれば変更無しで容易に実装できる。
さらに、図14Bの例では、図14Aで設けられている60°オフ期間をもグランドにして連続して通電駆動するものである。図14Aのような波形を生成できる場合には、図14Bのような波形の信号を生成するのは難しくない。
また、図14Cは、180°矩形波で180°グランドの例を示しており、図14Dは、240°矩形波で120°グランドで連続的に通電駆動する例を示している。
このような波形を採用することで、高調波成分に応じて流れた高調波電流分だけ、第1乃至第3の実施の形態よりも、基本波と同一周波数で90°位相差の電力消費用電流が少なくなるので、進角誤差によるトルク変動が少なくなる。すなわち安定的な制御がし易くなる。但し、高調波電流成分によるコイル鳴き、すなわち騒音が聞こえやすくなる面はあるが、防音措置により緩和することは可能である。
本実施の形態のように、高調波を含む歪んだ波形を採用すれば、より電力消費を行わせることができるようになる。
[その他の技術的要素Aについて]
ロス制動モードにおける分離制御部2100等の詳細な制御タイミング及び信号変化について図15及び図16を用いて説明しておく。図15及び図16において、縦軸は電圧を表し、横軸は時間を表す。
まず、図15を用いてロス制動モードへの遷移時における動作を説明する。
分離制御部2100は、二次電池101の満充電状態などの理由で二次電池101に回生電流を流すことができない事象を検出すると、図15(a)に示すように内部の充電制限フラグをオフ(許可)からオン(禁止)にする(タイミング(1))。
その後、分離制御部2100は、回生制動中に充電制限フラグがオンになると、図15(c)に示すように内部のインバータオフ指示フラグをハイ(オフ)にして、インバータ部1030をハイインピーダンス状態にする(タイミング(2))。これは、回生制動における駆動パラメータとロス制動モードにおける駆動パラメータとは異なっているので、過渡状態をモータ105に出力させないためである。
その後、分離制御部2100は、図15(d)に示すように、分離制御信号をオフ(分離)にして、分離スイッチ1040に対して二次電池101などの元電源を分離するように指示する(タイミング(3))。例えば、図6DであればMOSFET1041cをオフにする。このように、タイミング(2)の後に二次電池101などの元電源の分離を行うのは、インバータ部1030がオフになった後でないとハードウエアの破損の可能性があるためである。本実施の形態では、タイミング(3)において、分離制御部2100は、図15(j)に示すように、制動モードフラグを回生モードからロス制動モードを表すように変更する。
そうすると、図15(h)に示すようにロス制動モードにおけるインバータ電源電圧の目標電圧が設定され、図15(f)に示すように車速及び制動目標トルクに応じたロス制動のための進角が設定され、図15(g)に示すように補正後平均デューティ比が変化する(タイミング(4))。なお、図15(b)に示すように、二次電池101の電池電圧は不変であり、本実施の形態では、図15(e)に示すように回生制動中とロス制動モード中とでは制動目標トルクは不変である。
その後、分離制御部2100は、図15(c)に示すように、インバータオフ指示フラグをロー(オン)に設定して、ロス制動モードにおけるインバータ部1030の制御が行われるようになる(タイミング(5))。そうすると、図15(i)に示すように、インバータ電源電圧は、目標電圧に近づくように変化する。
このようにすれば、安全に回生制動からロス制動にモード遷移が行われるようになる。
次に、図16を用いて回生制動への遷移時における動作を説明する。
分離制御部2100は、二次電池101の充電状態などの理由で二次電池101に回生電流を流すことができるという事象を検出すると、図16(a)に示すように内部の充電制限フラグをオン(禁止)からオフ(許可)にする(タイミング(1))。
その後、分離制御部2100は、充電制限フラグがオフになると、図16(h)に示すように、インバータ電源電圧の目標電圧を、二次電池101の電池電圧(図16(b))に設定する(タイミング(2))。これは、分離スイッチ1040の例えばMOSFET1041cをオンにした場合にラッシュ電流が流れないようにするためである。
このようにすると、図16(g)に示すように、補正後平均デューティ比が例えば上昇し、図16(i)に示すように、インバータ電源電圧は徐々に二次電池101の電池電圧と同電位へと変化する。
その後、分離制御部2100は、インバータ電源電圧と二次電池101の電池電圧とが同電位になったことを検出すると、図16(c)に示すように、インバータオフ指示フラグをロー(オン)からハイ(オフ)にセットし、インバータ部1030をハイインピーダンス状態にする(タイミング(3))。モード遷移時における過渡状態をモータ105に出力しないためである。
その後、分離制御部2100は、分離制御信号をオン(接続)にし、分離スイッチ1040に対して二次電池101等の元電源を接続するように指示する(タイミング(4))。例えば、図6DであればMOSFET1041cをオンにする。このように、タイミング(3)の後に二次電池101の接続を行うのは、インバータ部1030がオフになった後でないとハードウエアの破損の可能性があるためである。本実施の形態では、タイミング(4)において、分離制御部2100は、図16(j)に示すように、制動モードフラグをロス制動モードから回生モードを表すように変更する。
その後、回生制動のための進角及び平均デューティ比がセットされて、図16(g)及(f)に示すように、進角及び補正後デューティー比が変化する(タイミング(5))。
これで準備が完了するので、分離制御部2100は、図16(c)に示すように、インバータオフ指示フラグをハイ(オフ)からロー(オン)に設定して、回生制動におけるインバータ部1030の制御が行われるようになる(タイミング(6))。
このような動作を行うことで、安全にロス制動から回生制動にモード遷移が行われるようになる。
力行と回生は目標トルクが異なるため進角及び平均デューティが異なるだけで、制御モードとしては同じ扱いとなる。
なお、分離制御信号と制動モードフラグは、図15及び図16では同じ形をしているが、実際には同じではなく、制動モードフラグは論理信号レベル、分離制御信号は分離スイッチのタイプにより制御する極性や出力電位や振幅が異なる。この例ではNチャンネルのMOSFET用に統一して示されている。
図15及び図16において、インバータ電源電圧の目標電圧とそれに応じて変化するインバータ電源電圧は、この例では図6B又は図6D、もしくは図6Eを図6B又は図6Dと等価な使い方をした場合の例である。そのため、分離スイッチがオフ(分離)状態の時にインバータ電源電圧が電池電圧より高電圧となるようにしている。
これに対して図6Cの接続、もしくは図6Eを図6Cと等価な使い方をした場合、図15及び図16と同様な動作させるならば、分離スイッチがオフ(分離)状態の時に、インバータ電源電圧が逆に電池電圧より低電圧となるようにする。
これにより、分離スイッチに並列のダイオードも分離状態となり、実質的に双方向オフのスイッチと等価な動作とできる。
[その他の技術的要素Bについて]
ロス制動モードではモータコイルで電力消費させるための第2の電流(界磁電流)や異周波成分を含む電流等が、通常の力行時や回生制動時よりも非常に大きくなり、その非常に大きな電流がインバータ部1030内の複数のスイッチング素子に流れるため、それらの発熱量が、電流の二乗に比例して飛躍的に増加する。
そこで、インバータ部1030におけるスイッチング周波数は、キャリア生成部2206又は2313によって設定されるので、この周波数をモードに応じて変更する。具体的には、ロス制動モードになると、例えば分離制御部2100が、通常の力行時や回生制動時のスイッチング周波数より低い周波数を使用するように、キャリア生成部2206又は2313に指示するようにする。このようにすれば、スイッチング素子によるスイッチングロスによる発熱を減少させることができる。
低いスイッチング周波数を採用すると、モータコイルの誘導性リアクタンス成分の増加により電流減衰量が減り、スイッチング周波数のリップル電流成分が増えるため、通常の力行時や回生制動時には駆動効率が落ちるため好ましくない。しかし、ロス制動モードでは、そもそもモータコイルなどで電力消費させるのが目的であるので、問題は生じない。
[その他の技術的要素Cについて]
3相モータを用いる場合、一般的に、駆動波形生成部2204による波形生成方法には、図17(a)に示すようにグランド電位(Gnd0%)と電源電圧(電源100%)との中点を中心(50%)とした3相交流電圧を生成する3線変調3相駆動法と、図17(b)に示すように各瞬間においてその3線の最低電圧となっている線の電位を常にグランド電位にシフト固定して他の2線も同じ電圧だけシフトして駆動する2線変調3相駆動法がある。なお、図17では、正弦波駆動の例を示すが、考え方は非正弦波駆動であっても同様である。なお、図17では、縦軸は電圧を表し、横軸は時間を表す。
3線間の相対電位差の自由度は元々2しかなく、どちらの駆動でも相対電位差波形は同じとなるため、いずれの駆動方法を採用しても支障ない。典型的には変調スイッチング回数が2/3と少なく、不要輻射やスイッチングロスが減る点で有利であり、3線間の最大電位差が電源電圧と同じになるので電圧レンジが広くとれる2線変調3相駆動法が使用される場合が多い。
しかし、ロス制動モードではインバータ部1030に含まれるスイッチング素子に流れる電流が非常に大きく、そのオン抵抗ロスによる発熱が、電流の2乗に比例して増加するため、非常に大きくなる。
この時、2線変調3相駆動法では、グランド電位と電源電圧との中点を中心とするのではなく、グランド電位を基準に駆動するため、3相駆動波形瞬時デューティ比の平均が非常に低くなる場合が多い。そのためインバータ部1030の下側スイッチング素子(図5におけるSul、Svl及びSwl)に電流が流れる時間比が非常に大きく、下側スイッチング素子と上側スイッチング素子(図5におけるSuh、Svh及びSwh)の発熱バランスが大きく崩れ、下側スイッチング素子の発熱が問題となる。
そこで、第1の方法として、回生制動時や力行時には2線変調3相駆動法(図17(b))を用いることにより最大効率化しておき、ロス制動モード時のみ、中点中心の3線変調3相駆動法(図17(a))を用いることで、上側及び下側スイッチング素子の発熱についてバランスを取り、下側スイッチング素子の発熱を最小化する方法が考えられる。
また、第2の方法として、図17(b)とは逆に電源電圧を基準にした2線変調3相駆動法(図17(c))のような波形を生成できるのであれば、インバータ部1030におけるスイッチング周期より十分長く且つ熱時定数より十分短い周期(例えば1乃至十数秒程度)で、グランド基準の2線変調3相駆動法と電源電圧基準の2線変調3相駆動法を切り替えることで、2線変調3相駆動法の長所を生かしたまま上側及び下側スイッチング素子の発熱バランスをとることもできる。なお、グランド基準の2線変調3相駆動法の実施期間と電源電圧基準の2線変調3相駆動法の実施期間とは、同じでなくても良く、動的に変更するようにしても良い。
さらに、第3の方法として、3相駆動波形瞬時デューティ比を、平均デューティ比入力に応じてオフセットすることで、図17(d)に示すように、3相駆動波形瞬時デューティ比の平均を常に50%程度に維持するようにしても良い。この場合、駆動波形は2線変調3相駆動の波形と同じであるが、電位がグランド電位に保持される時間が無くなるため、実質的には3線変調3相駆動法と同様になる。
第3の方法を採用する場合には、例えば図18に示すような構成に変更すればよい。具体的には、加算器2210乃至2213を追加する。
そして、加算器2213において、50%−平均デューティ比を演算してオフセットを生成して、駆動波形生成部2204が生成した2線変調3相駆動波形瞬時デューティ比に対して加算器2210乃至2212によってオフセットを加算することで、図17(d)で示すような波形が生成されるようになる。
これらの方法により、上側及び下側スイッチング素子の発熱をバランスして最小化することにより、特定のスイッチング素子の温度上昇を抑え、ロス制動を継続させることができる時間を最大限に長く確保することができる。
以上本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、各実施の形態で説明した技術的要素を、部分的に除外する又は任意の技術的要素を選択的に使用したり、複数の実施の形態を組み合わせたりしても良い。さらに、上で述べた実施の形態に対して、他の技術的要素を加えて実施する場合もある。
制御部1020の具体的構成は一例であって、演算部1021その他の構成に応じて同様の機能を実現できる様々な構成を採用しても良い。演算部1021については、上で述べた機能を専用の回路、特定のプログラムを実行するマイクロプロセッサと専用の回路との組み合わせなどによって実現するようにしても良い。なお、図8及び図13では電動アシスト自転車に適応する例として、力行目標トルク生成部2202及び2314で人力によるペダルトルク入力及び車速などに応じたアシスト目標トルクを、力行目標トルクとして生成する説明をしたが、本実施の形態の適用対象はこのような電動アシスト車に限らない。すなわち、ペダルトルク入力の代りにアクセルペダルやアクセルグリップやアクセルレバーなどの作動量に応じた力行目標トルクを生成、もしくは自動的に速度や加速度を制御するように力行目標トルクを生成するように構成された力行目標トルク生成部を有する一般の電動車両その他電動装置にも適用できる。
なお、上で述べた実施の形態では電動アシスト自転車に適用した例を説明したが、本発明は電動アシスト自転車など(人力に応じた、モータ等の電動機(動力装置とも呼ぶ)による補助を利用して移動する移動体(例えば、台車、車いす、昇降機など。電動アシスト装置とも呼ぶ。))に限られるものではなく、電動オートバイ、電動車椅子、電気自動車、ハイブリッド自動車、電車、ケーブルカー、エレベータ、その他の機械類などモータを使用した機器全般において、自在にモータ制動をかけたい場合に適用可能である。
また、上で述べた実施の形態では元電源として電池を使用した例で説明したが、元電源としては、電池だけでなく、一次電池や、電線でつながれたもの、架線で移動体に供給する外部の直流電源装置、直流電源ラインの場合などの場合にも適用可能である。
さらに、二次電池やラインにも回生可能な直流電源のように普段回生可能なものが、一時的に回生不可となった場合だけでなく、元々充電不可能な一次電池を使用した場合や、ダイオード整流を用いた変電所などの都合により、電車やトロリーバスなどで電力供給架線に回生不可能な直流ラインとして供給されている場合など、常時回生不可能な場合にも、適用可能である。
これらに適用した場合も、他の電力消費デバイスを用いることなく、一次電池や電源装置を破壊したり、悪影響を与えることなく、また同じ電源に接続された他の機器に悪影響を与えることもなく、自在にトルクを制御してモータ制動をかけることができる。
以上述べた実施の形態をまとめると、以下のようになる。
本実施の形態に係るモータ駆動制御装置は、(A)モータを駆動するインバータ部と、(B)電源をインバータ部から電気的に分離するための分離スイッチと、(C)インバータ部から電源に回生電流を流さずに制動を実施すべき事象を検出した場合、電源をインバータ部から分離するように分離スイッチに指示し、速度及び制動目標トルクに応じたスイッチングを行うようにインバータ部を制御する制御部とを有する。
上で述べたように動作する分離スイッチを導入することで、電池等の電源への回生電流を流すことなく、モータ自身に電力消費させるような制御を行うことができるようになる。
なお、上で述べた分離スイッチが、(b1)電源からインバータ部への電流とインバータ部からの電流とを遮断するためのスイッチである場合もあれば、(b2)電源からインバータ部への電流とインバータ部から電源への電流とを選択的に又は同時に遮断するためのスイッチである場合もあれば、(b3)インバータ部から電源への電流を遮断するためのスイッチである場合もあれば、(b4)電源からインバータ部への電流を遮断するためのスイッチである場合もある。
(b1)であれば、回生電流及び放電電流をゼロにすることができ、一次電池についても安全に使用できる。さらに、インバータ部側の電圧が高電圧でも低電圧でも対応可能となる。(b2)において選択的に一方の電流を遮断できれば、他の用途(例えば力行時や回生制動時)にも活用できる。(b3)及び(b4)についてはそれぞれの制約条件の下使用可能になる。
さらに、充電方向の電流を遮断できる場合には、上で述べた制御部は、所定の閾値未満の力行目標トルクによる力行時に、インバータ部から電源への電流を遮断するように分離スイッチに指示するようにしても良い。このようにすれば、力行時でも生じ得る瞬時回生電流による電池の劣化を防止できるようになる。
なお、本モータ駆動制御装置は、分離スイッチよりインバータ部側に平滑コンデンサをさらに有するようにしても良い。このような平滑コンデンサの容量は、電源側に設けられる他のコンデンサの容量よりも大きくなる。
また、本モータ駆動制御装置においては、制御部、又は、モータが設置される装置に接続され且つ電力を消費する構成要素に、分離スイッチよりインバータ部側から電力を供給するように接続がなされる場合もある。さらに、制御部、又は、モータが設置される装置に接続され且つ電力を消費する構成要素に、分離スイッチより電源側から電力を供給するように接続がなされる場合もある。さらに、制御部、又は、モータが設置される装置に接続され且つ電力を消費する構成要素に、分離スイッチのインバータ部側と分離スイッチの電源側とのうち電圧が大きい方から、電力を供給するように接続がなされる場合もある。
さらに、上で述べた制御部は、(d1)速度及び制動目標トルクに応じた第1の信号を生成する第1生成部と、(d2)第1生成部により生成された第1の信号に基づきインバータ部にスイッチングを行わせるための第2の信号を生成する第2生成部とを有するようにしても良い。この場合、上で述べた第1生成部は、速度及び制動目標トルクに応じて、第1の信号の波形の進角と、平均デューティ比に対応する振幅とのうち少なくともいずれかを設定するようにしても良い。本実施の形態によれば、分離スイッチを採用することで、進角及び平均デューティ比に対する制御において自由度が高まっている。
なお、上で述べた第1生成部は、速度及び制動目標トルクに応じて、第1の信号の波形の進角のみを設定するようにしても良い。分離スイッチのインバータ部側の電圧を制御しなくても良い場合もあるためである。
また、上で述べた第1生成部は、分離スイッチのインバータ部側における目標電圧に基づき、平均デューティ比を設定するようにしても良い。さらに、上で述べた第1生成部は、分離スイッチのインバータ部側における現在の電圧及び目標電圧に基づき、平均デューティ比を調整又は制御するようにしても良い。このようにすれば、適切にインバータ電源電圧を制御できるようになる。
さらに、上で述べた制御部は、(d3)速度及び制動目標トルクに応じた第1の信号を生成する第1生成部と、(d4)第1生成部により生成された第1の信号に基づきインバータ部にスイッチングを行わせるための第2の信号を生成する第2生成部とを有するようにしてもよい。この場合、上記第1の信号が、回生制動用の所定の基本波とは異なる周波数の成分を含むようにしても良い。このようにすれば、基本波とは異なる周波数の成分にて、回収した機械エネルギーをモータコイルなどで消費できる。
また、上で述べた第1生成部が、上記異なる周波数の成分を、速度及び制動目標トルクに応じた異周波含有率に基づき設定するようにしても良い。これにより消費電力を調整できる。
さらに、上記(d3)における第1生成部が、分離スイッチのインバータ部側における目標電圧に基づき、第1の信号の平均デューティ比を設定する、又は、分離スイッチのインバータ部側における現在の電圧及び目標電圧に基づき、第1の信号の平均デューティ比を調整するようにしても良い。このようにすれば、適切にインバータ電源電圧を制御できるようになる。
さらに、上で述べた第1の信号が、回生制動用の所定の基本波の高調波の成分を含むようにしても良い。制御する上で高調波が好ましい場合があるためである。また、上で述べた第1の信号が、非正弦波波形(例えば矩形波)の信号である場合もある。ロスが多くなって電力を消費できるので好ましい。
第1の信号が基本波とは異なる周波数の成分を含む場合等には、上で述べた第1生成部は、速度及び制動目標トルクに応じて、第1の信号の波形の進角と、平均デューティ比に対応する振幅とのうち少なくともいずれかを設定するようにしても良い。これによって適切に制動トルク又は消費電力を制御できるようになる。
なお、上で述べたモータが、3相モータ(例えば3相コイル駆動モータ)である場合もある。この場合、上で述べた制御部は、(d1)速度及び制動目標トルクに応じた第1の信号を生成する第1生成部と、(d2)第1生成部により生成された第1の信号に基づきインバータ部にスイッチングを行わせるための第2の信号を生成する第2生成部とを有するようにしても良い。そして、上で述べた第1の信号が、2線変調3相駆動に基づく信号に所定のオフセット値を加えた信号である場合もある。これによって、インバータ部におけるスイッチング素子の発熱をバランスさせやすくなる。
また、上で述べた第1生成部が、上で述べた事象を検出している間、3線変調3相駆動に基づく信号を上記第1の信号として生成するようにしても良い。このような方法を用いても、インバータ部におけるスイッチング素子の発熱をバランスさせやすくなる。
さらに、上で述べた第1生成部が、グランドを基準とした2線変調3相駆動に基づく信号と、電源電圧を基準とした2線変調3相駆動に基づく信号とを、繰り返し切り替えることで第1の信号を生成するようにしても良い。このような方法を用いても、インバータ部におけるスイッチング素子の発熱をバランスさせやすくなる。
なお、上で述べた制御部は、インバータ部によるスイッチング周波数を、上記事象を検出する前のスイッチング周波数に比して下げるようにしても良い。これによってインバータ部の発熱量を削減できる。
さらに、上で述べた制動目標トルクが、回生制動を行う場合における制動目標トルクと同一であるようにしても良い。このようにすれば、運転者が違和感を感じずに済む。ここでいう同一は、運転者が実質同一と感じる範囲を含むものとする。
さらに、回生制動中に上記事象を検出した場合には、回生制動中における制動目標トルクを上記事象を検出した直後の制動目標トルクとして用い、後の制動目標トルクが滑らかに変化するようにしても良い。滑らかにロス制動モードに遷移した後は、発熱量を削減するため制動目標トルクを徐々に低下させるようにしても良いし、制動トルクが小さい状態でロス制動モードに遷移した場合には制動目標トルクを徐々に増加させても良い。
このような構成は、実施の形態に述べられた事項に限定されるものではなく、実質的に同一の効果を奏する他の構成にて実施される場合もある。
また、モータ駆動制御装置の一部又は全部については専用の回路で実現される場合もあれば、マイクロプロセッサがプログラムを実行することで上記のような機能が実現される場合もある。
本発明は、モータ駆動制御装置に関する。
電動自転車や電気自動車等のモータを、加速時等における力行駆動に加えて、減速時には発電を行ってその電力を充電可能な電池に戻すという回生制動に用いる場合がある。
しかし、次のような場合には、回生制動時の充電電流(以下、回生電流とも呼ぶ)が制限されたり、全く流せなかったりするため、回生制動がかけられなかったり、充分な制動トルクが出せなかったりする。
電池が満充電の場合
電池が低温の場合
その他の電池異常などにより回生電流が流せない場合
例えば、坂の上に住んでいる人が、自宅で電池を満充電にして、いきなり坂を下るような場合、これ以上充電できないため最初は回生制動を用いることができない。よって、坂を下りきって平地や登り坂などで電力を消費して電池容量に空きができて初めて回生制動を用いることができるようになる。
また、気温が氷点下で電解液が凍るような温度の場合等でも、電池に充電してはいけないため、やはり回生制動を用いることができない。さらに、電池がその他の異常を検出して充電不可を表す信号を出力する場合もある。
これら以外の場合には回生制動を用いることができるため、同じようなモータ制動をかけたい時であっても、電池の状況によっては、回生制動が全くかけられなかったり、弱い回生制動しかかけられなかったりする場合が生ずる。
そのため、電池の状況次第で、必要となる制動トルクから回生制動トルクが不足する分だけ、機械制動を用いることになる。しかし、不足する分だけ機械制動をかけるように運転者が対応しなければならず、ブレーキ操作をしてから初めて効きの差に気付き、咄嗟の判断と応答が求められるなど大きな違和感を感じることとなる。
よって、運転者の操作が同じなら、電池の状況に依らず、常に同じようなモータ制動が生ずることが望ましい。
また、充電できない一次電池を使用する場合や回生できない外部電源を使用する場合などでも、特に回生制動にこだわることなく、任意の制動トルクによるモータ制動を掛けた方が良い場面も有る。
すなわち、例えば自転車や自動車の例では急な下り坂などで、速度や加速度が過大となった場合も、その傾斜に応じて自動で軽く制動をかけ、速度や加速度を緩和するといったことは有用である。また、なんらかの異常時に自動で制動をかけたい場合も有る。
このように、機械式ブレーキサーボを装備していなくても制御部からの指示だけで制動がかけられ、また摩擦係数に大きなバラツキがある機械式ブレーキに比べて極めて安定したトルクで制動がかけられるので、回生制動を使用できないシステムにおいても、自動モータ制動が求められる場面はある。
このような問題に対して、電気自動車やハイブリッド自動車では、回生制動が足りない分だけ自動的に機械制動をかけるという技術が存在する(例えば特許文献1)。しかし、これを実現するためには電動ブレーキサーボ機構を備えることになる。自動車の場合、元々ブレーキサーボ機構を備えているので、重量増やコスト増があまり問題とならないが、軽くて安価な自転車等の場合では、重量増とコスト増は大きな問題となる。
また、回生電流を流さないモータ制動(電磁制動)としては、短絡制動が知られている。しかし、短絡制動は最大回生制動力のさらに2倍の制動トルクがあり、その加減ができないため、回生制動と同等に使用することはできない。
このような欠点を無くす方法として、3相全短絡状態と全開放状態を交互に切り替え、その切替PWM(Pulse Width Modulation)デューティ比でトルクを制御する方法が提案されている(例えば特許文献2)。しかしながら、この方法で実際には制御することはできない。具体的に、モータコイルに流れていた電流は全開放期間にも直ぐに止めることはできず、開放する度にFET(Field Effect Transistor)の寄生ダイオード経由でグランドから電池側に電流が流れ、電池に回生電流が流れてしまうため、結局は回生制動となってしまう。
仮に寄生ダイオードの無いスイッチング素子を使ったり、寄生ダイオードの影響を無くすような回路上の工夫(例えばFETを2個ずつ逆直列にしたものを使用する)によって、電池側へ回生電流が流れないようにしようとすると、全開放した瞬間にスイッチング素子に限りなく巨大なサージ電圧がかかって破損してしまう。
また、他の方法として、回生制動によって得られた電力を、別途設けた抵抗等で消費させることで、電池に対して回生電流を流すことなく制動トルクを生じさせるロス制動をトータルで実現する方法もある。しかし、その抵抗等の発熱量は大きいため、高価な高耐電力抵抗や大きなヒートシンク等を設けることになり、コスト増や重量増となる。
さらに、電池に回生電流を流さずに任意のトルクの電磁制動をかける方法として、ベクトル制御法により、トルクを生じさせるためのトルク電流を回生制動時と同じに保ちつつトルクに寄与しない界磁電流を流すことで、モータ内で電力を消費させ、制動トルクを変えずに電池への回生電流を自在に制御する方法がある(例えば特許文献3)。すなわち、駆動電圧や駆動進角を適切に制御することにより、希望する制動トルクを生じさせ、電池への回生電流を低減又はゼロにできるものである。
しかしながら、高度な制御によってトルクと電池への回生電流を制御することになるため、モータその他の各種諸定数や環境状態のバラツキにより、電池への回生電流をゼロにするためには多くの困難がある。すなわち、高速且つ高精度の電流フィードバック制御が必要であり、制動開始時から制動力変化、モータ回転数変化、その他の変動に追従して、常に電池への回生電流を確実にゼロに維持するのは困難である。従って、少量の回生電流が電池に流れるという状況が頻発する恐れがあり、その分電池への悪影響がある。
特開2015−186382号公報
特開2012−196104号公報
特開平10−150702号公報
従って、本発明の目的は、一側面において、電源へ電流を流さずに制動トルクを生じさせるためのモータ駆動制御技術を提供することである。
本発明に係るモータ駆動制御装置は、(A)モータを駆動するインバータ部と、(B)電源をインバータ部から電気的に分離するための分離スイッチと、(C)インバータ部から電源に回生電流を流さずに制動を実施すべき事象を検出した場合、電源をインバータ部から分離するように分離スイッチに指示し、速度及び制動目標トルクに応じたスイッチングを行うようにインバータ部を制御する制御部とを有する。
図1は、ベクトル制御によるロス制動の実装例を示す図である。
図2Aは、ベクトル制御における平均デューティ比と進角との組み合わせに対するトルクの関係を表す図である。
図2Bは、ベクトル制御における平均デューティ比と進角との組み合わせに対する電源(電池)電流の関係を表す図である。
図3Aは、モータ回転数及び制動トルクと進角との関係を表す図である。
図3Bは、モータ回転数及び制動トルクと既定平均デューティ比との関係を表す図である。
図4は、電動アシスト自転車の外観を示す図である。
図5は、モータ駆動制御装置の機能ブロック図である。
図6Aは、演算部で実現される分離制御部を示す図である。
図6Bは、分離スイッチの第1の例を示す図である。
図6Cは、分離スイッチの第2の例を示す図である。
図6Dは、分離スイッチの第3の例を示す図である。
図6Eは、分離スイッチの第4の例を示す図である。
図7Aは、電源接続方法の第1の例を示す図である。
図7Bは、電源接続方法の第2の例を示す図である。
図7Cは、電源接続方法の第3の例を示す図である。
図8は、第1の実施の形態に係る機能構成例を示す図である。
図9Aは、平均デューティ比及び進角の組み合わせと、制動トルクの関係を表す図である。
図9Bは、平均デューティ比及び進角の組み合わせと、インバータ電源電圧の関係を表す図である。
図10は、電圧FB制御部の機能構成例を示す図である。
図11は、ΔVの生成について説明するための図である。
図12(a)乃至(c)は、第2の実施の形態における追加的な機能を説明するための図である。
図13は、第4の実施の形態に係る機能構成例を示す図である。
図14Aは、60°オフ期間を含む120°矩形波の例を示す図である。
図14Bは、連続する120°矩形波の例を示す図である。
図14Cは、連続する180°矩形波の例を示す図である。
図14Dは、連続する240°矩形波の例を示す図である。
図15(a)乃至(j)は、回生制動中にロス制動モードに遷移する場合の信号変化を表す図である。
図16(a)乃至(j)は、ロス制動モードから回生制動に遷移する場合の信号変化を表す図である。
図17(a)乃至(d)は、駆動波形のバリエーションを示す図である。
図18は、図17(d)に示す駆動波形を生成するための構成例を示す図である。
[本発明の実施の形態に係る基礎的な技術]
最初に、本発明の実施の形態に係る基礎的な技術であるベクトル制御に基づくロス制動について説明する。
ベクトル制御によるロス制動では、制動トルクを発生させる電流、すなわち回生制動のための電流と同じ第1の電流(トルク電流とも呼ぶ)と、モータコイル内の抵抗成分により電力消費させるための第2の電流、すなわち第1の電流から90°ずれた位相の電流(界磁電流とも呼ぶ)とを同時に流す。
このような第1の電流により所望の制動トルクを得ることができる。そして第2の電流は90°位相がずれているので、第2の電流によるトルクは、電流周波数の2倍の周波数で正負交互に発生し、平均トルクはゼロとなる。また、3相モータであれば、それぞれ120°位相差を有する3相電流のそれぞれによるトルクも120°位相差を有するため、第2の電流による3相トルクの合計は、時間平均を取らずとも、どの瞬間もゼロトルクとなる。
ゼロトルクであっても、電流が流れる限り、当該電流の2乗×コイル抵抗分の電力を消費している。従って、第2の電流を制御すればそれによる消費電力を自在に制御できるため、全体として、回生制動時と同じトルクの制動をかけつつ、最終的な回生電力を自在に制御することができる。すなわち、第2の電流による消費電力を、第1の電流による回生電力と等しくすれば、電池への回生電流はゼロとなる。
この時、第2の電流の制御法として、第2の電流を第1の電流に対して進み方向すなわち+90°位相差で流す弱め界磁電流法と、第2の電流を第1の電流に対して遅れ方向すなわち−90°位相差で流す強め界磁電流法とがある。
+90°位相差で流す弱め界磁電流法の場合、モータコイル自身の自己インダクタンス及びコイル間の相互インダクタンスの影響により、モータコイル端子に与えられる合計電圧駆動波形は、低電圧となる特徴がある。また、電源用の平滑コンデンサに流れるACリップル電流が小さめになるため、平滑コンデンサの許容リップル電流が小さめのもので済み、また耐圧も低めのもので済むという利点もある。
しかし、速度の急変化に対して+90°の位相差制御が遅れて位相がずれると、本来ゼロトルクであるべきところにトルクが発生するといった現象が生じる。すなわち、速度の変化がより増幅される方向でトルクに反映される傾向があり、トルクと速度が不安定になり易く、振動が発生し易いため、高速且つ高精度な制御が求められる。
一方、−90°位相差で流す強め界磁電流法の場合、逆に合計電圧駆動波形は、高電圧となる特徴がある。このため、電圧が電池電圧より高くなってしまい適切に制御できない場合が発生したり、電源用の平滑コンデンサに流れるACリップル電流が大きめとなり、電源用の平滑コンデンサの許容リップル電流が大きいものを採用することになるといった問題がある。
しかし、速度の急変化に対して−90°の位相差制御が遅れることで発生するトルクは、より速度の変化が緩和される方向でトルクに反映される傾向があり、トルクと速度が安定するという利点がある。
実際には製品構成上の諸事情に鑑みて、これら2つの方法のいずれかを選択することになる。
また、第1の電流の駆動波形も、第2の電流の駆動波形もどちらも正弦波の場合、その合計電圧駆動波形も、やはりその振幅や位相が異なるだけの正弦波となる。すなわち、単一の正弦波の振幅(すなわち平均デューティ比)及び進角を制御することにより、第1及び第2の電流を制御できることになる。
そのため、目標回生制動トルクと同じロス制動トルクを発生させる平均デューティ比と進角とを速度毎に予め求めておき、当該平均デューティ比及び進角を有する合計電圧駆動波形の信号に基づき、モータを駆動するインバータにスイッチングさせることにより、回生制動トルクと同じトルクが生ずるロス制動が実現される。
このようなベクトル制御に基づくロス制動を実現する実装例を図1に示す。
この実装例に係るモータ駆動制御装置は、制動目標トルク生成部9001と、駆動パラメータ生成部9002と、駆動波形生成部9003と、変調部9004と、加算器9005と、電池平均電流検出部9006と、電流オフセットレジスタ9007と、加算器9008とを有する。
制動目標トルク生成部9001は、ブレーキ操作などによって制動要求がなされると、車速などの速度に応じて、予め設定されている制動目標トルクを、駆動パラメータ生成部9002に出力する。なお、出力すべき制動目標トルクについては、例えば国際公開公報2012/086459A1等を参照のこと。この国際公開公報及び対応米国特許出願を本願に取り込む。
駆動パラメータ生成部9002は、速度及び制動目標トルクに応じて、予め設定されている進角及び既定平均デューティ比を出力する。
駆動パラメータ生成部9002が出力すべき進角及び既定平均デューティ比については、図2A乃至図3Bを用いて説明する。
図2Aにおいて、横軸は平均デューティ比を表し、縦軸は進角を表し、あるモータ回転数(例えば2400rpm)において、同じトルクが生ずる平均デューティ比及び進角の組み合わせを等トルク線として示したものである。具体的には、0Nmから18Nmまで2Nm毎に等トルク線を示している。なお、電池と、モータを駆動するインバータ部とは接続されたままであり、界磁電流を、トルク電流に対して−90°位相差で流す強め界磁電流法を採用できる範囲を測定している。
一方、図2Bにおいて、横軸は平均デューティ比を表し、縦軸は進角を表し、あるモータ回転数(例えば2400rpm)において、電池に同じ電流が流れる平均デューティ比及び進角の組み合わせを等電流線として示したものである。具体的には、電流が流れない0A(点線)から、電池から放電方向に電流が流れる4Aまでの等電流線と、電池への充電方向(回生方向とも呼ぶ)に電流が流れる−4Aまでの等電流線とが、1A毎に示されている。ここでも、電池とインバータ部とは接続されたままであり、図2Aと同じ範囲を測定している。
図2Bにおける点線ラインは電流が流れない平均デューティ比及び進角の組み合わせを表しており、図2Aにおいても同様に示されている。ロス制動は、電池から放電もしておらず電池へ充電もしていない0Aの状態であるから、図2Aにおいて、0Aを表す点線と等トルク線とが交差する点から、ロス制動を可能にする平均デューティ比及び進角と、その場合の制動トルクとが特定される。
これを各速度について行うことによって、図3A及び図3Bに示すような関係が得られるようになる。
図3Aは、モータ回転数及び制動トルクと進角との関係を表しており、図3Bは、モータ回転数及び制動トルクと既定平均デューティ比との関係を表している。
駆動パラメータ生成部9002は、図3A及び図3Bに基づき、入力された速度(モータ回転数と等価)及び制動目標トルクに対応する進角及び既定平均デューティ比を出力する。
駆動パラメータ生成部9002が出力した進角及び既定平均デューティ比に応じてインバータを駆動すると、基本的にはロス制動が実現されるが、各要素の定数のバラツキや変動により、正確に回生電流がゼロとならない。そのため、回生電流がゼロになるように、フィードバック制御を行う。
電池平均電流検出部9006は、電池に流れる電流の平均値を検出して、当該平均値に応じた値を出力する。加算器9008は、電池平均電流検出部9006の出力と、電流オフセットレジスタ9007の出力(1単位時間前の値。但し初期値は例えばゼロ)とを加算して、加算結果を電流オフセットレジスタ9007に出力する。電流オフセットレジスタ9007は、加算器9008の出力を格納する。このようにすれば、電池平均電流検出部9006で検出された電流の平均値に応じた値が、電流オフセットレジスタ9007に蓄積される。
そして、加算器9005は、電流オフセットレジスタ9007に蓄積された値を、駆動パラメータ生成部9002からの既定平均デューティ比から差し引く。これにより、電池に流れる電流の平均値が負帰還される。加算器9005で生成された補正後平均デューティ比は、駆動波形生成部9003に出力される。
駆動波形生成部9003は、駆動パラメータ生成部9002からの進角と、加算器9005からの補正後平均デューティ比とに基づき、この進角及び補正後平均デューティ比に対応する振幅を有する例えば正弦波の信号を生成して、変調部9004に出力する。駆動波形生成部9003によって生成される信号は、3相モータの場合には3相駆動波形瞬時デューティ比Du、Dv及びDwを表している。
変調部9004は、駆動波形生成部9003の出力に応じて例えばPWM変調を行って、インバータ部に含まれるスイッチへのスイッチング信号を出力する。
上で述べたように電池に流れる電流を負帰還することで電池に流れる電流をゼロにするように制御するが、どの瞬間もゼロということにはならず、ゼロ前後で多少変動するようになる。
[実施の形態]
本発明の実施の形態では、電池へ回生電流を確実に流さずにロス制動を実現する。
以下、本発明の実施の形態について、電動アシスト自転車の例をもって説明する。しかしながら、本発明の実施の形態の適用対象は、電動アシスト自転車だけに限定されない。
図4は、本実施の形態における電動アシスト車である電動アシスト自転車の一例を示す外観図である。この電動アシスト自転車1は、モータ駆動装置を搭載している。モータ駆動装置は、二次電池101(元電源)と、モータ駆動制御装置102と、ペダルトルクセンサ103と、ペダル回転センサ107と、ブレーキセンサ104と、モータ105とを有する。なお、電動アシスト自転車1は、操作パネル、フリーホイール及び変速機も有している。
二次電池101は、リチウムイオン二次電池であるが、他種の電池、例えばリチウムイオンポリマー二次電池、ニッケル水素蓄電池などであっても良い。
ペダルトルクセンサ103は、クランク軸に取付けられたホイールに設けられており、運転者によるペダルの踏力を検出し、この検出結果をモータ駆動制御装置102に出力する。また、ペダル回転センサ107は、ペダルトルクセンサ103と同様に、クランク軸に取付けられたホイールに設けられており、回転に応じたパルス信号をモータ駆動制御装置102に出力する。
モータ105は、例えば周知の三相ブラシレスモータであり、例えば電動アシスト自転車1の前輪に装着されている。モータ105は、前輪を回転させるとともに、前輪の回転に応じてローターが回転するように、ローターが前輪に直接又は減速器などを介して連結されている。さらに、モータ105はホール素子等の回転センサを備えてローターの回転情報(すなわちホール信号)をモータ駆動制御装置102に出力する。
ブレーキセンサ104は、運転者のブレーキ操作を検出して、ブレーキ操作に関する信号をモータ駆動制御装置102に出力する。
このような電動アシスト自転車1のモータ駆動制御装置102に関連する構成を図5に示す。モータ駆動制御装置102は、制御部1020と、インバータ部1030と、分離スイッチ1040と、平滑コンデンサ1050とを有する。インバータ部1030には、モータ105のU相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Suh)及びローサイドFET(Sul)と、モータ105のV相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Svh)及びローサイドFET(Svl)と、モータ105のW相についてのスイッチングを行うハイサイドFET(Swh)及びローサイドFET(Swl)とを含む。ハイサイドは上側、ローサイドは下側と呼ぶこともある。インバータ部1030には、第2温度センサ1031が設けられており、モータ105には、第1温度センサ1051が設けられており、それぞれ制御部1020に接続されている。
また、インバータ部1030は、平滑コンデンサ1050の一端に接続されており、平滑コンデンサ1050の他端は接地されている。平滑コンデンサ1050の容量は、比較的大きなものであり、図5には示されていないが、分離スイッチ1040より二次電池101側に設けられることがあるコンデンサよりも大きなものである。
分離スイッチ1040は、インバータ部1030と二次電池101との間に設けられており、制御部1020からの指示(分離制御信号)に応じて、二次電池101をインバータ部1030から分離するように作動する。なお、二次電池101には、第3温度センサ1010が設けられており、制御部1020に接続されている。
また、制御部1020は、演算部1021と、車速入力部1024と、ブレーキ入力部1025と、ペダル回転入力部1022と、ペダルトルク入力部1023と、温度入力部1026と、第1AD(Analog/Digital)入力部1027と、第2AD入力部1028と、PWM変調部1029とを有する。なお、制御部1020には、PWM変調部1029にキャリア信号を出力するキャリア生成部も含まれるが、ここでは図示を省略している。
演算部1021は、ペダル回転入力部1022からの入力、ペダルトルク入力部1023からの入力、車速入力部1024からの入力、ブレーキ入力部1025からの入力、第1AD入力部1027からの入力、第2AD入力部1028からの入力、温度入力部1026からの入力を用いて以下で述べる演算を行って、PWM変調部1029に対して信号を出力する。
なお、演算部1021は、メモリ10211を有しており、メモリ10211は、演算に用いる各種データ及び処理途中のデータ等を格納する。さらに、演算部1021は、プログラムをプロセッサが実行することによって実現される場合もあり、この場合には当該プログラムがメモリ10211に記録されている場合もある。また、メモリ10211は、演算部1021とは別に設けられる場合もある。
ペダル回転入力部1022は、ペダル回転センサ107からの、ペダル回転位相角及び回転方向を表す信号を、ディジタル化して演算部1021に出力する。車速入力部1024は、モータ105が出力するホール信号から現在車速を算出して、演算部1021に出力する。ペダルトルク入力部1023は、ペダルトルクセンサ103からの踏力に相当する信号をディジタル化して演算部1021に出力する。ブレーキ入力部1025は、ブレーキセンサ104からの信号に応じて、ブレーキセンサ104からブレーキ有りを表す信号を受信しないブレーキなし状態、及びブレーキセンサ104からブレーキ有りを表す信号を受信しているブレーキ状態のいずれかを表す信号を演算部1021に出力する。温度入力部1026は、第1温度センサ1051、第2温度センサ1031及び第3温度センサ1010からの温度情報をディジタル化して演算部1021に出力する。第1AD入力部1027は、分離スイッチ1040の二次電池101側の電圧、すなわち二次電池101の出力電圧をディジタル化して演算部1021に出力する。第2AD入力部1028は、分離スイッチ1040の、インバータ部1030側の電圧をディジタル化して演算部1021に出力する。
なお、以下の説明をし易くするために、分離スイッチ1040のインバータ部1030側の端子をインバータ電源端子と呼ぶことにし、このインバータ電源端子における電圧をインバータ電源電圧と呼ぶことにする。
また、二次電池101からは、第3温度センサ1010からの温度情報だけではなく、満充電状態を含む充電レベルの情報、他の理由から充電不可を表す信号を制御部1020に伝達する場合もある。
本実施の形態では、二次電池101などの元電源に対して回生電流を流すことなく制動トルクを生じさせるロス制動モードにおいて、分離スイッチ1040をオフにして二次電池101などの元電源をインバータ部1030から分離した上で、以下で述べる駆動制御法にて制動トルクを生じさせる。これによって確実に二次電池101などの元電源への回生電流がゼロとなることを保証した上で、適切な波形(基本波の波形、進角、振幅で特定される波形)の信号(第1の信号)を生成し、当該信号に基づきインバータ部1030に対するスイッチング駆動信号(第2の信号)を生成及び出力して、インバータ部1030にスイッチングさせることで、任意の制動トルクを得ることができるようになる。
ここでロス制動モードにおいて主要な機能となる分離スイッチ1040のバリエーションについて図6A乃至図6Eを用いて述べておく。まず、分離スイッチ1040に対して分離制御信号を出力し、演算部1021において実現される分離制御部2100について、図6Aを用いて説明しておく。
演算部1021において実現される分離制御部2100は、二次電池101の温度、二次電池101が満充電である状態、その他充電不可状態であることの通知などの各種入力に基づき、ロス制動モード(ロス制動を実施すべき事象)を検出して、分離スイッチ1040をオフにするような分離制御信号を出力する。
なお、分離制御部2100は、例えば演算部1021内部(例えば、図8で示すような力行目標トルク生成部2207又は2314等)で計算された力行目標トルクが入力される場合があり、後に詳細に述べるように、力行目標トルクが閾値以下になると、分離スイッチ1040をオフにするような分離制御信号を出力する。その他の要因で電池や回路などを保護すべき際にも、分離スイッチ1040をオフするような分離制御信号を出力する場合もある。
また、分離制御部2100は、ロス制動モードを検出すると、制動モードフラグでもロス制動モードを示す。一方、分離制御部2100は、各種入力からロス制動モードではなく回生制動モードであると判断すると、回生制動モードを表すように信号を出力する。同様に、分離制御部2100は、回生制動モードを検出すると、制動モードフラグでも回生制動モードを示す。制動モードフラグにより、PWMキャリア周波数、PWM変調の変調形式、モード切り替え時における平均デューティ比及び進角の計算切り替えなどが行われる。
以下で説明する図6B乃至図6Eは、図5の左側における二次電池101と分離スイッチ1040とインバータ部1030とそれに関連する構成要素のみを示している。
図6Bは、分離スイッチ1040aが、NチャンネルのMOSFET1041aとダイオード1042aとを含む例を示している。すなわち、二次電池101などの元電源には、MOSFET1041aのソースが接続され、平滑コンデンサ1050及びインバータ部1030にはドレインが接続されている。また、ダイオード1042aのアノードは、二次電池101などの元電源に接続されており、カソードは、平滑コンデンサ1050及びインバータ部1030に接続されている。ダイオード1042aは、寄生ダイオードの場合もあれば、ダイオードそのものが接続されている場合もある。MOSFET1041aのゲートは、演算部1021に接続されている。
分離制御信号に応じてMOSFET1041aがオフになると、インバータ部1030から二次電池101などの元電源への電流は遮断される。但し、その間でも二次電池101等の元電源からインバータ部1030への電流は、二次電池101などの元電源の電圧がインバータ電源電圧より高ければ、ダイオード1042aを介して流れる。
このような分離スイッチ1040aは、他の目的で設けられる場合もある。すなわち、モータ105が過回転して逆起電力が二次電池101の出力電圧を超える場合、分離スイッチ1040aをオフすることにより、回生制動の意図の無い時に不必要に回生制動がかかってしまうのを防止し、電池を保護するために用いられる。また、電池や回路、その他の異常時にも強制的にオフして当該電池や回路を保護するものである。
図6Cは、分離スイッチ1040bが、NチャンネルのMOSFET1041bとダイオード1042bとを含む例を示している。すなわち、二次電池101などの元電源には、MOSFET1041bのドレインが接続され、平滑コンデンサ1050及びインバータ部1030にはソースが接続されている。また、ダイオード1042bのカソードは、二次電池101などの元電源に接続されており、アノードは、平滑コンデンサ1050及びインバータ部1030に接続されている。ダイオード1042bは、寄生ダイオードの場合もあれば、ダイオードそのものが接続されている場合もある。MOSFET1041bのゲートは、演算部1021に接続されている。
分離制御信号に応じてMOSFET1041bがオフになると、インバータ部1030から二次電池101などの元電源への電流は遮断される。但し、分離制御信号に応じてMOSFET1041bがオフになっても、インバータ電源電圧が二次電池101などの元電源の電圧より高ければ、ダイオード1042b経由でインバータ部1030から二次電池101などの元電源への電流は流れる。
このような分離スイッチ1040bも、他の目的で設けられる場合もある。すなわち、二次電池101を取り付けた後、徐々に分離スイッチ1040bをオンする期間を延ばすことにより、インバータ電源電圧が充分上がるまでの間、インバータ部1030側に巨大なラッシュ電流が流れてインバータ部1030を破壊するのを防止するものである。
図6Dは、分離スイッチ1040cが、寄生ダイオードが無く、双方向の電流をオフすることができるスイッチの例を示している。すなわち、二次電池101からインバータ部1030への電流とインバータ部1030から二次電池101への電流とを同時に遮断するスイッチが用いられる。このようなスイッチを単独のスイッチにより実現しても良いが、図6Eに示すように、MOSFET1041a及び1041bを併用して実現しても良い。すなわち、分離スイッチ1040dは、ダイオード1042a及び1042bと、MOSFET1041a及びMOSFET1041bとを含む。そして、MOSFET1041a及びMOSFET1041bを直列に接続して同時にこれらをオフにすれば、双方向の電流をオフすることができる。但し、MOSFET1041aとMOSFET1041bの接続順は逆でも良い。
図6Eの場合には、MOSFET1041bをオンにしたままMOSFET1041aをオフにすれば、図6Bと同じように作用する。また、MOSFET1041aをオンにしたままMOSFET1041bをオフにすれば、図6Cと同じように作用する。
なお、分離スイッチ1040にNチャンネルのMOSFETを用いる例で説明したが、PチャンネルのMOSFET、ジャンクションのFET、バイポーラトランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、リレーなどのスイッチング素子を用いるようにしても良い。
なお、図5では、制御部1020などの電源をどのように得るのかについては説明を省略していた。図7A乃至図7Cを用いて、制御部1020などの電源を得る方法のバリエーションについて説明する。なお、制御部1020だけではなく、電動アシスト自転車1等のモータが設置される装置に接続され且つ電力を消費する構成要素であるランプなどを含む場合もある。また、ランプなどについて、図7A乃至図7Cのような接続を行う場合もある。
図7Aの例では、制御部1020等は、分離スイッチ1040より二次電池101側から電源を得るようになっている。二次電池101が放電可能な状態であれば、比較的安定的な電圧が得られる。
図7Bの例では、制御部1020等は、分離スイッチ1040よりインバータ部1030側から電源を得るようになっている。二次電池101が放電しきっていても、外れていても走行すれば、モータ105による発電とインバータ部1030による逆昇圧効果により、電源が得られる。また、それによりインバータ部1030を正しく回生制御して二次電池101を充電することもできる。しかし、安定性の問題などがあり、高電圧対策を行う必要がある場合もある。
図7Cの例では、分離スイッチ1040の両側にダイオードのアノード(図7Cではダイオード1045又は1046)を接続し、ダイオード1045及び1046のカソードを制御部1020等に接続することでダイオードORを構成すれば、制御部1020等に、二次電池101の出力電圧とインバータ電源電圧とのうち高い方の電圧で電力が供給される。二次電池101が接続されており且つ放電可能であるか、走行しているかのいずれかであれば電源が得られ、電池残量がない場合でも回生により充電を行うことができる。但し、高電圧対策を行う必要がある場合もある。
[実施の形態1]
ここでは、分離スイッチ1040に図6D又は図6Eに示したスイッチを採用することを前提に、より適切なロス制動を行うための構成について図8乃至図11を用いて説明する。
図8に、本実施の形態において演算部1021にて実現される機能ブロック構成例を示す。
演算部1021によって実現されるロス制動制御機能は、回生制動目標トルク生成部2201と、駆動パラメータ生成部2202と、電圧FB制御部2203(FB:Feedback)と、駆動波形生成部2204とを有し、PWM変調部1029とキャリア生成部2206とを制御する。なお、演算部1021は、力行目標トルク生成部2207を有しており、駆動パラメータ生成部2202と連携して、力行駆動をも実施する。力行目標トルク生成部2207は、ペダルトルク入力及び車速などに応じて力行目標トルクを生成し、生成した力行目標トルクを駆動パラメータ生成部2202に出力する。駆動パラメータ生成部2202は、以下で述べる制動要求がない場合には、力行目標トルク及び車速を用いて力行用パラメータを生成して出力する。力行目標トルクの生成については、例えば、ペダルトルク入力×アシスト比(但し、アシスト比は法律などに従って車速に応じた制限がある場合もある)によって算出される。より具体的には、例えば国際公開公報2012/086459A1等を参照こと。この国際公開公報及び対応米国特許出願を本願に取り込む。また、駆動パラメータ生成部2202は、制動要求がある場合には、以下に述べる処理を行う。
回生制動目標トルク生成部2201は、制動要求が入力されると、車速入力部1024からの車速に応じて、制動目標トルクを駆動パラメータ生成部2202に出力する。制動要求は、例えばブレーキセンサ104からブレーキ有りを表す信号を受信することによってブレーキ入力部1025から出力される。また、例えば車速に対応して制動目標トルクは予め設定されている。車速以外の条件に対応付けて制動目標トルクを設定しておいても良い。なお、制動目標トルクについては、例えば国際公開公報2012/086459A1等を参照のこと。また、人為的にブレーキ操作などにより制動指示を与えない場合にも、急な下り坂や過大速度が出た場合などに自動回生制動を行う場合の制動目標トルクは、国際公開公報2014/200081A1等を参照のこと。この国際公開公報及び対応米国特許出願を本願に取り込む。
回生制動時と同じ制動目標トルクをロス制動移行時にも採用すれば、運転者は違和感なく且つ同じ制動感の下運転を続けることができる。なお、回生制動時と同じ制動目標トルクを継続して回生制動目標トルク生成部2201が出力するようにしても良いが、第1温度センサ1051によって検出されたモータ105の温度や、第2温度センサ1031によって検出されたインバータ部1030の温度が上昇しすぎた場合には、制動目標トルクを回生時よりも下げるようにしてもよい。また、何らかの事情でロス制動移行時の制動目標トルクが低く抑えられている状態であれば、ロス制動モードへの移行後に徐々に制動目標トルクを上昇させるようにしても良い場合もある。
駆動パラメータ生成部2202は、制動モードフラグによってロス制動モードであることを検出すると、車速及び制動目標トルクに応じて、ロス制動のための進角及び既定平均デューティ比を出力する。一方、制動モードフラグによって回生モードであることを検出すると、駆動パラメータ生成部2202は、車速及び制動目標トルクに応じて、回生制動のための進角及び既定平均デューティ比を出力する。上でも述べたように、ロス制動モードは、二次電池101が満充電状態であったり、二次電池101の温度が低温であったり、その他の異常発生により回生電流を二次電池101に対して流すことができない事象を検出した場合に分離制御部2100により判定され、制動モードフラグで示される。ロス制動のための進角及び既定平均デューティ比については、後に詳しく述べるが、基本的にはロス制動モードにおいて制動目標トルクが得られるように設定される。
電圧FB制御部2203は、制動モードフラグによってロス制動モードであることを検出すると、第2AD入力部1028から入力されたインバータ電源電圧を所定の目標電圧にするためのフィードバック制御を行う。但し、電圧FB制御部2203については、インバータ部1030や平滑コンデンサ1050等の駆動回路の耐圧からして問題がなければ設けなくても良い。電圧FB制御部2203の詳細については後に述べる。
電圧FB制御部2203の出力である補正後平均デューティ比は、駆動波形生成部2204に出力され、駆動波形生成部2204は、駆動パラメータ生成部2202からの進角と共に用いて、当該平均デューティ比に対応する振幅及び進角を有する例えば正弦波(一般的に正弦波に限定されない)の信号を生成して、PWM変調部1029に出力する。駆動波形生成部2204によって生成される信号は、3相モータの場合には3相駆動波形瞬時デューティ比Du、Dv及びDwを表している。
PWM変調部1029は、駆動波形生成部2204の出力に対して、キャリア生成部2206から出力される信号に基づきPWM変調を行って、インバータ部1030に含まれるスイッチング素子へのスイッチング駆動信号を出力する。但し、変調は、PWMではなく、PNM(Pulse Number Modulation)、PDM(Pulse Density Modulation)、PFM(Pulse Frequency Modulation)等である場合もある。
本実施の形態では、分離スイッチ1040は、オフさせるための分離制御信号に応じてオフされて、インバータ部1030と二次電池101などの元電源とは分離された状態になる。そうなった場合に、平均デューティ比及び進角の組み合わせと、制動トルク及びインバータ電源電圧との関係は、図9A及び図9Bに示されるようになる。
図9Aにおいて、縦軸は進角を表し、横軸は平均デューティ比を表しており、ある車速において、同じ制動トルクが生ずる平均デューティ比及び進角の組み合わせを等トルク線として示したものである。具体的には、0.5Nmから4Nmまで、0.5Nm刻みの等トルク線が示されている。図9Aから分かるように、平均デューティ比が変化しても、制動トルクは変化せず、進角が減少すれば制動トルクが増加することが分かる。
一方、図9Bにおいて、縦軸は進角を表し、横軸は平均デューティ比を表しており、ある車速において、同じインバータ電源電圧が生ずる平均デューティ比及び進角の組み合わせを、等電圧線として表したものである。具体的には、10Vから100Vまで10V刻みで等電圧線が示されている。図9Bから分かるように、おおよそ平均デューティ比に反比例してインバータ電源電圧が変化する。
本実施の形態では分離スイッチ1040によってインバータ部1030と二次電池101等の元電源とを分離したため、回生電流が強制的にゼロにさせられており、インバータ部1030は、回生時には1/平均デューティ比の昇圧インバータとして作用する。回生電流が流れていないので、平均デューティー比が変わればインバータ電源電圧が変わり、進角に応じた制動トルクが生じるだけである。
なお、図9A及び図9Bは、ある車速での関係を表しており、他の車速では、上記のような特徴を有する他の関係が得られる。
このように分離スイッチ1040によってインバータ部1030と二次電池101などの元電源とを分離したため、車速が与えられれば、制動目標トルクを得るための進角が特定される。また、回路その他の諸事情(強め界磁電流法と弱め界磁電流法とのいずれを採用するかということを含む)に応じて、インバータ電源電圧の目標電圧を任意で設定してもよい。よって、そのインバータ電源電圧の目標電圧に応じた平均デューティ比を、車速及び進角から特定すればよい。
図9A及び図9Bからすれば、インバータ電源電圧の目標電圧を厳密に設定しなくても良い。その場合には、上でも述べたように電圧FB制御部2203を用いずに、インバータ電源電圧がある程度の幅に入るように平均デューティ比を選択すればよい。
このように、ベクトル制御において電流フィードバック制御を行って回生電流をゼロにするような場合に比して、ロス制動モードにおいてオフされる分離スイッチ1040を採用することで、ロス制動のための制御の自由度が非常に高くなる。
例えば時定数一定でリニア制御を行うことが好ましいケースにおける電圧FB制御部2203の構成例を、図10及び図11を用いて説明する。
電圧FB制御部2203は、補正量生成部301と、加算器302と、乗算器303と、除算器304と、下限制限部305と、遅延器306と、マルチプレクサ307とを含む。
補正量生成部301は、インバータ電源電圧Voから、1処理単位時間(フレーム)あたりの補正量ΔVを算出する。補正量ΔVは、例えば図11に従って決定される。図11において、横軸はインバータ電源電圧Voを表し、縦軸はΔVを表す。図11から分かるように、インバータ電源電圧が、インバータ電源電圧の目標電圧からプラスマイナスdVの幅の中にあれば、小さい傾きでΔVが変化し、インバータ電源電圧が、この幅を逸脱すると急激にΔVがΔV上限又はΔV下限まで変化する。すなわち、インバータ電源電圧が目標電圧からあまり乖離していない場合には小さいゲインで負帰還し、大きく乖離している場合には大きいゲインで負帰還する。但し、このようなカーブは一例であって、単純な直線を採用するようにしても良い。
加算器302は、インバータ電源電圧Vo+ΔV=Vnを算出して除算器304に出力する。一方、乗算器303は、遅延器306から出力される前回出力平均デューティ比Doとインバータ電源電圧Voとの積である推定平均モータ駆動電圧Vmを算出して、除算器304に出力する。
除算器304は、Vm/Vn(=Vo*Do/(Vo+ΔV))により目標平均デューティ比Dnxを算出する。下限制限部305は、目標平均デューティ比Dnxが下限値以下であれば、下限値を出力し、下限値以上であれば、目標平均デューティ比Dnxを出力する。平均デューティ比が下がりすぎてインバータ部1030の出力電圧が想定より上昇するのを防ぐため、デューティ比に下限値が設定される。下限値は、例えば以下の2つの値のうち大きい方を用いる。
(1)スルーレート制限前の速度における起電力相当のデューティ比の75%
(2)固定デューティ比である20%
下限制限部305の出力Dnは、遅延器306に出力され、遅延器306は、1処理単位時間後に、その出力Dnを前回平均デューティ比Doとして出力する。なお、遅延器306には、初期値として、既定平均デューティ比が設定される。
また、下限制限部305の出力Dnは、マルチプレクサ307にも出力されており、マルチプレクサ307は、制動モードフラグによってロス制動モードを検出すると、下限制限部305からの出力Dnを補正後平均デューティ比として出力する。一方、制動モードフラグによって回生モードを検出した場合には、マルチプレクサ307は、既定平均デューティ比を、補正後平均デューティ比として出力する。
このような構成ではなく、簡単に、インバータ電源電圧の目標電圧からの乖離分を負帰還するような電圧FB制御部2203を採用しても良い。
[実施の形態2]
ここでは分離スイッチ1040に図6Bの構成を採用する場合について述べる。
本実施の形態においても、ロス制動モードにおいては分離スイッチ1040aのMOSFET1041aをオフにして、二次電池101などの元電源をインバータ部1030から分離する。
その上で第1の実施の形態と同様の制御を行なうが、本実施の形態では、意図的に第1の実施の形態における平均デューティ比より低い平均デューティ比で制御を行い、意図的に常にインバータ電源電圧を、二次電池101の電池電圧より高くする。
このようにすれば、二次電池101の電池電圧とインバータ電源電圧との電位差により、ロス制動モード中は分離スイッチ1040aのダイオード1042aに電流が流れることなく、実質的に図6D及び図6Eで示すような双方向の電流を遮断する分離スイッチ1040c又は1040dと同じ働きをさせることができる。
平均デューティ比が異なっていても、電流自身がゼロのため、モータ105に流れる電流波形は変わらず、インバータ電源電圧が異なるだけで、制動トルクは第1の実施の形態における制動トルクと変わらない。
二次電池101の電池電圧の変動やその他の諸定数のバラツキなどが有る場合でも、インバータ電源電圧が、少なくとも電池電圧より高く且つ回路耐圧以下であることが保証されていれば良いため、第1の実施の形態と同様に、インバータ電源電圧の制御を行わないようにしても良いし、大まかに目標電圧にフィードバック制御しても良い。
但し、本実施の形態では、使用可能な平均デューティ比の範囲でインバータ電源電圧を二次電池101の電池電圧より高く維持するため、ベクトル制御法における強め界磁電流法を採用することが好ましい。
本実施の形態では、高価な分離スイッチを採用しなくても良く、他の目的で同じ位置に同じスイッチが設置されている場合には、それをそのまま使用することもできるため、ハードウエアのコストは安くて済む。
また、図6Bの構成を採用した場合や図6Eの構成においてMOSFET1041aのみをオフして実質的に図6Bと同じ状態で使用する場合には、ロス制動モードではなく力行状態においても、不慮の回生電流を阻止できるようになる。
具体的には、図12を用いて説明する。図12(a)乃至(c)の縦軸は電池電流を表し、横軸は時間を表す。
力行状態では、図12(a)において点線にて示すように、平均的には、正方向すなわち放電方向に電流が流れている。但し、例えば速度や電流などの検出誤差、電動アシスト自転車1においてはペダルトルクセンサ103の検出誤差、また路面状況によって生ずる振動やノイズによる検出誤差、それらを用いた駆動パラメータ(進角、平均デューティ比)の計算時の丸め誤差等の影響により、ランダムなACリップル電流が同時に流れている。
加速時や登坂時などのように力行目標トルクが大きい場合は、図12(a)のように、ACリップルがあっても、常に放電方向の電流となっていて特に問題は生じない。
しかし、巡航時など低トルクで走行中は、図12(b)のように、瞬間的に負方向すなわち充電方向に電流が頻繁に流れてしまう。このように二次電池101に対して放電と充電の頻繁な切り替えが繰り返されると、電池寿命に悪影響がある。そのため、典型的には、低トルク力行時における最低アシストトルクを制限するようにしている。すなわち、ある値以上の力行目標トルクの場合には、少し多めにアシストして、力行目標トルクが当該ある値を下回る場合は、一気にアシストをオフして、可能な限り不慮の瞬時回生電流が流れないようにしている。しかしながら、このような対策を行うと、アシストトルクのリニアリティは損なわれ、低トルク巡航時にギクシャクしたアシスト感を運転者に与えたり、多めのアシストを行っているので電池消費が多くなったりする。
このため、本実施の形態では、所定の閾値未満の低トルク力行で巡航時には、ロス制動モードと同じように、分離スイッチ1040aのMOSFET1041aをオフにすることで回生電流を阻止する。そうすれば、図12(c)に示すように、確実に放電方向のみ電池電流が流れるようになる。
なお、この場合、通常の力行時に比べて、分離スイッチ1040aのダイオード1042aの順方向ドロップ電圧分だけ高い電圧を出すように、力行駆動のための平均デューティ比にオフセットを加えることが好ましい。ダイオード1042aの順方向ドロップ電圧は、巡航時で低電流時には電池電圧に比べて非常に小さいため、ドロップロスは殆ど問題にならない。そして、上で述べたような多めのアシストが不要になるため、かえって電力ロスが減り、アシストトルクのリニアリティも確保され、自然なアシスト感覚が得られるようになる。
[実施の形態3]
本実施の形態では、図6Cに示した分離スイッチ1040bを採用する場合について述べる。
この場合であっても、ロス制動モードにおいては分離スイッチ1040bのMOSFET1041bをオフにして、二次電池101などの元電源をインバータ部1030から分離する。その上で第1の実施の形態と同様の制御を行う。
但し、意図的に第1の実施の形態における平均デューティ比より高い平均デューティ比で制御し、意図的に常に二次電池101の電池電圧より低いインバータ電源電圧を維持する。
二次電池101の電池電圧とインバータ電源電圧との電位差により、ロス制動モード中は分離スイッチ1040bのダイオード1042bに電流が流れることなく、実質的に図6C又は図6Dの分離スイッチ1040を用いた第1の実施の形態におけるロス制動モードと同じ作用を実現できる。
インバータ部1030の平均デューティ比が異なっていても、電流自身がゼロのため、モータ105に流れる電流波形は変わらず、インバータ電源電圧が異なるだけで、制動トルクは第1の実施の形態と同じになる。
二次電池101の電池電圧の変動やその他の諸定数のバラツキなどがある場合でも、インバータ電源電圧が最低限二次電池101の電池電圧より低く維持されていれば良いため、第1の実施の形態と同様に、インバータ電源電圧の制御を行わないようにしても良いし、大まかに目標電圧にフィードバック制御しても良い。
但し、第3の実施の形態では、使用可能な平均デューティ比の範囲でインバータ電源電圧を二次電池101の電池電圧より低く維持するため、ベクトル制御法における弱め界磁電流側を使用する方が好ましい。
本実施の形態でも、高価な分離スイッチを採用しなくても良く、他の目的で同じ位置に同じスイッチが設置されている場合には、それをそのまま使用することもできるため、ハードウエアのコストは安くて済む。
[実施の形態4]
ベクトル制御によるロス制動では、制動トルクを発生させ、制動による機械エネルギーを回収するための第1の電流(トルク電流)と、モータコイル内の抵抗成分により当該機械エネルギーを消費させるための第2の電流(第1の電流とは90°位相差で同一周波数の電流(界磁電流))とを使用している。
これに対して、第1乃至第3の実施の形態と同様に分離スイッチ1040を採用して、第2の電流に、第1の電流とは異なる周波数の電流を用いるようにしても良い。
基本波とは異なる周波数の成分(以下、異周波成分と呼ぶ)によるトルクは、逆起電力の基本波と異周波成分との積となるため、基本波と異周波成分の和周波数と差周波数のトルク成分が出る。よって、基本波とは異なる周波数を用いる限り、DCトルク成分は発生せず、ACリップルトルクしか発生しない。さらに、3相モータであり且つそのACトルク成分が+/−120°ずつの位相差を有する場合は3相の合計トルクはゼロとなるため、モータとしてのAC振動トルクは発生しない。
このため基本波とは異なる周波数としては、基本波より高い周波数(例えば高調波)であっても良いし、基本波よりも低い周波数であっても良い。
このような考え方に基づき演算部1021にて実現される機能構成例を図13に示す。
演算部1021によって実現されるロス制動制御機能は、回生制動目標トルク生成部2301と、駆動パラメータ生成部2302と、電圧FB制御部2303と、異周波生成部2304と、基本波生成部2305と、加算器2306乃至2308と、乗算器2309乃至2311とを有し、PWM変調部1029とキャリア生成部2313とを制御する。なお、演算部1021は、力行目標トルク生成部2314を有しており、駆動パラメータ生成部2302と連携して、力行駆動をも実施する。力行目標トルク生成部2314は、図8における力行目標トルク生成部2207と同様である。駆動パラメータ生成部2302は、制動要求がない場合には、力行目標トルク及び車速を用いて力行用パラメータを生成して出力する。力行用パラメータの生成については、駆動パラメータ生成部2202の処理と同様である。また、駆動パラメータ生成部2302は、制動要求がある場合には、以下に述べる処理を行う。
回生制動目標トルク生成部2301は、制動要求が入力されると、車速入力部1024からの車速に応じて、制動目標トルクを駆動パラメータ生成部2302に出力する。回生制動目標トルク生成部2301は、第1の実施の形態における回生制動目標トルク生成部2201と同様である。
駆動パラメータ生成部2302は、車速及び制動目標トルクに応じて、回生制動のための進角及び既定平均デューティ比と、回生電力と同じ電力を消費させる異周波成分を発生させるための異周波含有率を特定して出力する。本実施の形態では、制動モードフラグに拘わらず、ベクトル制御と同様に回生制動のための進角及び既定平均デューティ比を出力する。一方、制動モードフラグが回生モードを表している場合には、異周波含有率はゼロとなる。
ここで、コイル抵抗R、コイルインダクタンスL、異周波成分の角周波数ωrf、異周波成分の実効電流Irf、実効電圧Erfとすると、異周波成分による消費電力Pは以下のようになる。
P=Irf 2×R
=[Erf/{R2+(Lωrf)2}1/2]2×R
=Erf 2×R/{R2+(Lωrf)2}
このように、異周波成分による消費電力Pは、実効電圧Erfの二乗に比例して増加するので、基本波の実効電圧に対する異周波成分の実効電圧の比率である異周波含有率の二乗に比例して増加するとも言える。
よって、異周波成分による消費電力Pが回生制動によって得られる電力と一致するような実効電圧Erfそして異周波含有率を予め特定しておき、設定しておく。基本波とは異なる周波数の波形は、その周波数が基本波の周波数と一致しなければ任意である。
電圧FB制御部2303は、制動モードフラグによりロス制動モードであることを検出すると、既定平均デューティ比に対してインバータ電源電圧に応じたフィードバックを行って補正後平均デューティ比を生成し、出力する。電圧FB制御部2303による処理は、電圧FB制御部2203による処理と同じでよい。
基本波生成部2305は、駆動パラメータ生成部2302が出力した回生用の進角を有する振幅1の基本波(一般的に正弦波に限定されない)を3相の各々について生成して出力する。
また、異周波生成部2304は、駆動パラメータ生成部2302が出力した異周波含有率に応じた振幅を有する異周波成分の波形を3相の各々について生成して出力する。
そして、加算器2306乃至2308は、基本波生成部2305からの出力と異周波生成部2304からの対応する出力とを加算して出力する。乗算器2309乃至2311は、加算器2306乃至2308の出力と補正後平均デューティ比との乗算を行って、3相駆動波形瞬時デューティ比Du、Dv及びDwを生成する。
PWM変調部1029は、乗算器2309乃至2311の出力に対して、キャリア生成部2313から出力される信号に基づきPWM変調を行って、インバータ部1030に含まれるスイッチング素子へのスイッチング駆動信号を出力する。PWM変調部1029及びキャリア生成部2313は、第1の実施の形態におけるPWM変調部1029及びキャリア生成部2206と同様である。
このような処理を行うことで、ロス制動が可能になる。
なお、このように異周波成分(及び以下で述べる高調波の場合を含む)を用いて回生制動により回収される電力を消費するという技術的要素を、分離スイッチの導入とは無関係に実装しても良い。すなわち、二次電池101などの元電源に対する回生電流が常にゼロになるように制御できれば、分離スイッチを設けずとも上記技術的要素を実装可能である。
[実施の形態5]
第4の実施の形態では異周波含有率に応じた異周波成分の波形を生成する異周波生成部2304を導入していたが、これを用いずに、基本波生成部2305において高調波を多く含む非正弦波を生成するようにしても良い。
この場合、異周波含有率は固定となるので、第4の実施の形態のような制御を行うことができない。そこで、駆動波形として十分に高調波成分を含む波形を採用した上で、第1の実施の形態のような進角及び平均デューティ比による制動トルク及びインバータ電源電圧制御を併用する。
具体的には、図8における駆動波形生成部2204において生成する信号の波形を、図14A乃至図14Dに示すような非正弦波に変更する。図14A乃至図14Dにおいて、縦軸は電圧を表し、横軸は時間を表す。
図14A乃至図14Dの(a)乃至(c)は、U相、V相及びW相の信号波形例を示している。図14Aの例では、基本的には120°の矩形波であるが、立ち上がり前及び立ち下がり後に、60°オフ期間(ハイインピーダンス)を設ける間欠駆動の例である。このような波形の信号を生成しているモータ駆動制御装置であれば変更無しで容易に実装できる。
さらに、図14Bの例では、図14Aで設けられている60°オフ期間をもグランドにして連続して通電駆動するものである。図14Aのような波形を生成できる場合には、図14Bのような波形の信号を生成するのは難しくない。
また、図14Cは、180°矩形波で180°グランドの例を示しており、図14Dは、240°矩形波で120°グランドで連続的に通電駆動する例を示している。
このような波形を採用することで、高調波成分に応じて流れた高調波電流分だけ、第1乃至第3の実施の形態よりも、基本波と同一周波数で90°位相差の電力消費用電流が少なくなるので、進角誤差によるトルク変動が少なくなる。すなわち安定的な制御がし易くなる。但し、高調波電流成分によるコイル鳴き、すなわち騒音が聞こえやすくなる面はあるが、防音措置により緩和することは可能である。
本実施の形態のように、高調波を含む歪んだ波形を採用すれば、より電力消費を行わせることができるようになる。
[その他の技術的要素Aについて]
ロス制動モードにおける分離制御部2100等の詳細な制御タイミング及び信号変化について図15及び図16を用いて説明しておく。図15及び図16において、縦軸は電圧を表し、横軸は時間を表す。
まず、図15を用いてロス制動モードへの遷移時における動作を説明する。
分離制御部2100は、二次電池101の満充電状態などの理由で二次電池101に回生電流を流すことができない事象を検出すると、図15(a)に示すように内部の充電制限フラグをオフ(許可)からオン(禁止)にする(タイミング(1))。
その後、分離制御部2100は、回生制動中に充電制限フラグがオンになると、図15(c)に示すように内部のインバータオフ指示フラグをハイ(オフ)にして、インバータ部1030をハイインピーダンス状態にする(タイミング(2))。これは、回生制動における駆動パラメータとロス制動モードにおける駆動パラメータとは異なっているので、過渡状態をモータ105に出力させないためである。
その後、分離制御部2100は、図15(d)に示すように、分離制御信号をオフ(分離)にして、分離スイッチ1040に対して二次電池101などの元電源を分離するように指示する(タイミング(3))。例えば、図6DであればMOSFET1041cをオフにする。このように、タイミング(2)の後に二次電池101などの元電源の分離を行うのは、インバータ部1030がオフになった後でないとハードウエアの破損の可能性があるためである。本実施の形態では、タイミング(3)において、分離制御部2100は、図15(j)に示すように、制動モードフラグを回生モードからロス制動モードを表すように変更する。
そうすると、図15(h)に示すようにロス制動モードにおけるインバータ電源電圧の目標電圧が設定され、図15(f)に示すように車速及び制動目標トルクに応じたロス制動のための進角が設定され、図15(g)に示すように補正後平均デューティ比が変化する(タイミング(4))。なお、図15(b)に示すように、二次電池101の電池電圧は不変であり、本実施の形態では、図15(e)に示すように回生制動中とロス制動モード中とでは制動目標トルクは不変である。
その後、分離制御部2100は、図15(c)に示すように、インバータオフ指示フラグをロー(オン)に設定して、ロス制動モードにおけるインバータ部1030の制御が行われるようになる(タイミング(5))。そうすると、図15(i)に示すように、インバータ電源電圧は、目標電圧に近づくように変化する。
このようにすれば、安全に回生制動からロス制動にモード遷移が行われるようになる。
次に、図16を用いて回生制動への遷移時における動作を説明する。
分離制御部2100は、二次電池101の充電状態などの理由で二次電池101に回生電流を流すことができるという事象を検出すると、図16(a)に示すように内部の充電制限フラグをオン(禁止)からオフ(許可)にする(タイミング(1))。
その後、分離制御部2100は、充電制限フラグがオフになると、図16(h)に示すように、インバータ電源電圧の目標電圧を、二次電池101の電池電圧(図16(b))に設定する(タイミング(2))。これは、分離スイッチ1040の例えばMOSFET1041cをオンにした場合にラッシュ電流が流れないようにするためである。
このようにすると、図16(g)に示すように、補正後平均デューティ比が例えば上昇し、図16(i)に示すように、インバータ電源電圧は徐々に二次電池101の電池電圧と同電位へと変化する。
その後、分離制御部2100は、インバータ電源電圧と二次電池101の電池電圧とが同電位になったことを検出すると、図16(c)に示すように、インバータオフ指示フラグをロー(オン)からハイ(オフ)にセットし、インバータ部1030をハイインピーダンス状態にする(タイミング(3))。モード遷移時における過渡状態をモータ105に出力しないためである。
その後、分離制御部2100は、分離制御信号をオン(接続)にし、分離スイッチ1040に対して二次電池101等の元電源を接続するように指示する(タイミング(4))。例えば、図6DであればMOSFET1041cをオンにする。このように、タイミング(3)の後に二次電池101の接続を行うのは、インバータ部1030がオフになった後でないとハードウエアの破損の可能性があるためである。本実施の形態では、タイミング(4)において、分離制御部2100は、図16(j)に示すように、制動モードフラグをロス制動モードから回生モードを表すように変更する。
その後、回生制動のための進角及び平均デューティ比がセットされて、図16(g)及(f)に示すように、進角及び補正後デューティー比が変化する(タイミング(5))。
これで準備が完了するので、分離制御部2100は、図16(c)に示すように、インバータオフ指示フラグをハイ(オフ)からロー(オン)に設定して、回生制動におけるインバータ部1030の制御が行われるようになる(タイミング(6))。
このような動作を行うことで、安全にロス制動から回生制動にモード遷移が行われるようになる。
力行と回生は目標トルクが異なるため進角及び平均デューティ比が異なるだけで、制御モードとしては同じ扱いとなる。
なお、分離制御信号と制動モードフラグは、図15及び図16では同じ形をしているが、実際には同じではなく、制動モードフラグは論理信号レベル、分離制御信号は分離スイッチのタイプにより制御する極性や出力電位や振幅が異なる。この例ではNチャンネルのMOSFET用に統一して示されている。
図15及び図16において、インバータ電源電圧の目標電圧とそれに応じて変化するインバータ電源電圧は、この例では図6B又は図6D、もしくは図6Eを図6B又は図6Dと等価な使い方をした場合の例である。そのため、分離スイッチがオフ(分離)状態の時にインバータ電源電圧が電池電圧より高電圧となるようにしている。
これに対して図6Cの接続、もしくは図6Eを図6Cと等価な使い方をした場合、図15及び図16と同様に動作させるならば、分離スイッチがオフ(分離)状態の時に、インバータ電源電圧が逆に電池電圧より低電圧となるようにする。
これにより、分離スイッチに並列のダイオードも分離状態となり、実質的に双方向オフのスイッチと等価な動作とできる。
[その他の技術的要素Bについて]
ロス制動モードではモータコイルで電力消費させるための第2の電流(界磁電流)や異周波成分を含む電流等が、通常の力行時や回生制動時よりも非常に大きくなり、その非常に大きな電流がインバータ部1030内の複数のスイッチング素子に流れるため、それらの発熱量が、電流の二乗に比例して飛躍的に増加する。
そこで、インバータ部1030におけるスイッチング周波数は、キャリア生成部2206又は2313によって設定されるので、この周波数をモードに応じて変更する。具体的には、ロス制動モードになると、例えば分離制御部2100が、通常の力行時や回生制動時のスイッチング周波数より低い周波数を使用するように、キャリア生成部2206又は2313に指示するようにする。このようにすれば、スイッチング素子によるスイッチングロスによる発熱を減少させることができる。
低いスイッチング周波数を採用すると、モータコイルの誘導性リアクタンス成分の増加により電流減衰量が減り、スイッチング周波数のリップル電流成分が増えるため、通常の力行時や回生制動時には駆動効率が落ちるため好ましくない。しかし、ロス制動モードでは、そもそもモータコイルなどで電力消費させるのが目的であるので、問題は生じない。
[その他の技術的要素Cについて]
3相モータを用いる場合、一般的に、駆動波形生成部2204による波形生成方法には、図17(a)に示すようにグランド電位(Gnd0%)と電源電圧(電源100%)との中点を中心(50%)とした3相交流電圧を生成する3線変調3相駆動法と、図17(b)に示すように各瞬間においてその3線の最低電圧となっている線の電位を常にグランド電位にシフト固定して他の2線も同じ電圧だけシフトして駆動する2線変調3相駆動法がある。なお、図17では、正弦波駆動の例を示すが、考え方は非正弦波駆動であっても同様である。なお、図17では、縦軸は電圧を表し、横軸は時間を表す。
3線間の相対電位差の自由度は元々2しかなく、どちらの駆動でも相対電位差波形は同じとなるため、いずれの駆動方法を採用しても支障ない。典型的には変調スイッチング回数が2/3と少なく、不要輻射やスイッチングロスが減る点で有利であり、3線間の最大電位差が電源電圧と同じになるので電圧レンジが広くとれる2線変調3相駆動法が使用される場合が多い。
しかし、ロス制動モードではインバータ部1030に含まれるスイッチング素子に流れる電流が非常に大きく、そのオン抵抗ロスによる発熱が、電流の2乗に比例して増加するため、非常に大きくなる。
この時、2線変調3相駆動法では、グランド電位と電源電圧との中点を中心とするのではなく、グランド電位を基準に駆動するため、3相駆動波形瞬時デューティ比の平均が非常に低くなる場合が多い。そのためインバータ部1030の下側スイッチング素子(図5におけるSul、Svl及びSwl)に電流が流れる時間比が非常に大きく、下側スイッチング素子と上側スイッチング素子(図5におけるSuh、Svh及びSwh)の発熱バランスが大きく崩れ、下側スイッチング素子の発熱が問題となる。
そこで、第1の方法として、回生制動時や力行時には2線変調3相駆動法(図17(b))を用いることにより最大効率化しておき、ロス制動モード時のみ、中点中心の3線変調3相駆動法(図17(a))を用いることで、上側及び下側スイッチング素子の発熱についてバランスを取り、下側スイッチング素子の発熱を最小化する方法が考えられる。
また、第2の方法として、図17(b)とは逆に電源電圧を基準にした2線変調3相駆動法(図17(c))のような波形を生成できるのであれば、インバータ部1030におけるスイッチング周期より十分長く且つ熱時定数より十分短い周期(例えば1乃至十数秒程度)で、グランド基準の2線変調3相駆動法と電源電圧基準の2線変調3相駆動法を切り替えることで、2線変調3相駆動法の長所を生かしたまま上側及び下側スイッチング素子の発熱バランスをとることもできる。なお、グランド基準の2線変調3相駆動法の実施期間と電源電圧基準の2線変調3相駆動法の実施期間とは、同じでなくても良く、動的に変更するようにしても良い。
さらに、第3の方法として、3相駆動波形瞬時デューティ比を、平均デューティ比入力に応じてオフセットすることで、図17(d)に示すように、3相駆動波形瞬時デューティ比の平均を常に50%程度に維持するようにしても良い。この場合、駆動波形は2線変調3相駆動の波形と同じであるが、電位がグランド電位に保持される時間が無くなるため、実質的には3線変調3相駆動法と同様になる。
第3の方法を採用する場合には、例えば図18に示すような構成に変更すればよい。具体的には、加算器2210乃至2213を追加する。
そして、加算器2213において、50%−平均デューティ比を演算してオフセットを生成して、駆動波形生成部2204が生成した2線変調3相駆動波形瞬時デューティ比に対して加算器2210乃至2212によってオフセットを加算することで、図17(d)で示すような波形が生成されるようになる。
これらの方法により、上側及び下側スイッチング素子の発熱をバランスして最小化することにより、特定のスイッチング素子の温度上昇を抑え、ロス制動を継続させることができる時間を最大限に長く確保することができる。
以上本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、各実施の形態で説明した技術的要素を、部分的に除外する又は任意の技術的要素を選択的に使用したり、複数の実施の形態を組み合わせたりしても良い。さらに、上で述べた実施の形態に対して、他の技術的要素を加えて実施する場合もある。
制御部1020の具体的構成は一例であって、演算部1021その他の構成に応じて同様の機能を実現できる様々な構成を採用しても良い。演算部1021については、上で述べた機能を専用の回路、特定のプログラムを実行するマイクロプロセッサと専用の回路との組み合わせなどによって実現するようにしても良い。なお、図8及び図13では電動アシスト自転車に適応する例として、力行目標トルク生成部2207及び2314で人力によるペダルトルク入力及び車速などに応じたアシスト目標トルクを、力行目標トルクとして生成する説明をしたが、本実施の形態の適用対象はこのような電動アシスト車に限らない。すなわち、ペダルトルク入力の代りにアクセルペダルやアクセルグリップやアクセルレバーなどの作動量に応じた力行目標トルクを生成、もしくは自動的に速度や加速度を制御するように力行目標トルクを生成するように構成された力行目標トルク生成部を有する一般の電動車両その他電動装置にも適用できる。
なお、上で述べた実施の形態では電動アシスト自転車に適用した例を説明したが、本発明は電動アシスト自転車など(人力に応じた、モータ等の電動機(動力装置とも呼ぶ)による補助を利用して移動する移動体(例えば、台車、車いす、昇降機など。電動アシスト装置とも呼ぶ。))に限られるものではなく、電動オートバイ、電動車椅子、電気自動車、ハイブリッド自動車、電車、ケーブルカー、エレベータ、その他の機械類などモータを使用した機器全般において、自在にモータ制動をかけたい場合に適用可能である。
また、上で述べた実施の形態では元電源として電池を使用した例で説明したが、元電源としては、電池だけでなく、一次電池や、電線でつながれたもの、架線で移動体に供給する外部の直流電源装置、直流電源ラインの場合などの場合にも適用可能である。
さらに、二次電池やラインにも回生可能な直流電源のように普段回生可能なものが、一時的に回生不可となった場合だけでなく、元々充電不可能な一次電池を使用した場合や、ダイオード整流を用いた変電所などの都合により、電車やトロリーバスなどで電力供給架線に回生不可能な直流ラインとして供給されている場合など、常時回生不可能な場合にも、適用可能である。
これらに適用した場合も、他の電力消費デバイスを用いることなく、一次電池や電源装置を破壊したり、悪影響を与えることなく、また同じ電源に接続された他の機器に悪影響を与えることもなく、自在にトルクを制御してモータ制動をかけることができる。
以上述べた実施の形態をまとめると、以下のようになる。
本実施の形態に係るモータ駆動制御装置は、(A)モータを駆動するインバータ部と、(B)電源をインバータ部から電気的に分離するための分離スイッチと、(C)インバータ部から電源に回生電流を流さずに制動を実施すべき事象を検出した場合、電源をインバータ部から分離するように分離スイッチに指示し、速度及び制動目標トルクに応じたスイッチングを行うようにインバータ部を制御する制御部とを有する。
上で述べたように動作する分離スイッチを導入することで、電池等の電源への回生電流を流すことなく、モータ自身に電力消費させるような制御を行うことができるようになる。
なお、上で述べた分離スイッチが、(b1)電源からインバータ部への電流とインバータ部からの電流とを遮断するためのスイッチである場合もあれば、(b2)電源からインバータ部への電流とインバータ部から電源への電流とを選択的に又は同時に遮断するためのスイッチである場合もあれば、(b3)インバータ部から電源への電流を遮断するためのスイッチである場合もあれば、(b4)電源からインバータ部への電流を遮断するためのスイッチである場合もある。
(b1)であれば、回生電流及び放電電流をゼロにすることができ、一次電池についても安全に使用できる。さらに、インバータ部側の電圧が高電圧でも低電圧でも対応可能となる。(b2)において選択的に一方の電流を遮断できれば、他の用途(例えば力行時や回生制動時)にも活用できる。(b3)及び(b4)についてはそれぞれの制約条件の下使用可能になる。
さらに、充電方向の電流を遮断できる場合には、上で述べた制御部は、所定の閾値未満の力行目標トルクによる力行時に、インバータ部から電源への電流を遮断するように分離スイッチに指示するようにしても良い。このようにすれば、力行時でも生じ得る瞬時回生電流による電池の劣化を防止できるようになる。
なお、本モータ駆動制御装置は、分離スイッチよりインバータ部側に平滑コンデンサをさらに有するようにしても良い。このような平滑コンデンサの容量は、電源側に設けられる他のコンデンサの容量よりも大きくなる。
また、本モータ駆動制御装置においては、制御部、又は、モータが設置される装置に接続され且つ電力を消費する構成要素に、分離スイッチよりインバータ部側から電力を供給するように接続がなされる場合もある。さらに、制御部、又は、モータが設置される装置に接続され且つ電力を消費する構成要素に、分離スイッチより電源側から電力を供給するように接続がなされる場合もある。さらに、制御部、又は、モータが設置される装置に接続され且つ電力を消費する構成要素に、分離スイッチのインバータ部側と分離スイッチの電源側とのうち電圧が大きい方から、電力を供給するように接続がなされる場合もある。
さらに、上で述べた制御部は、(d1)速度及び制動目標トルクに応じた第1の信号を生成する第1生成部と、(d2)第1生成部により生成された第1の信号に基づきインバータ部にスイッチングを行わせるための第2の信号を生成する第2生成部とを有するようにしても良い。この場合、上で述べた第1生成部は、速度及び制動目標トルクに応じて、第1の信号の波形の進角と、平均デューティ比に対応する振幅とのうち少なくともいずれかを設定するようにしても良い。本実施の形態によれば、分離スイッチを採用することで、進角及び平均デューティ比に対する制御において自由度が高まっている。
なお、上で述べた第1生成部は、速度及び制動目標トルクに応じて、第1の信号の波形の進角のみを設定するようにしても良い。分離スイッチのインバータ部側の電圧を制御しなくても良い場合もあるためである。
また、上で述べた第1生成部は、分離スイッチのインバータ部側における目標電圧に基づき、平均デューティ比を設定するようにしても良い。さらに、上で述べた第1生成部は、分離スイッチのインバータ部側における現在の電圧及び目標電圧に基づき、平均デューティ比を調整又は制御するようにしても良い。このようにすれば、適切にインバータ電源電圧を制御できるようになる。
さらに、上で述べた制御部は、(d3)速度及び制動目標トルクに応じた第1の信号を生成する第1生成部と、(d4)第1生成部により生成された第1の信号に基づきインバータ部にスイッチングを行わせるための第2の信号を生成する第2生成部とを有するようにしてもよい。この場合、上記第1の信号が、回生制動用の所定の基本波とは異なる周波数の成分を含むようにしても良い。このようにすれば、基本波とは異なる周波数の成分にて、回収した機械エネルギーをモータコイルなどで消費できる。
また、上で述べた第1生成部が、上記異なる周波数の成分を、速度及び制動目標トルクに応じた異周波含有率に基づき設定するようにしても良い。これにより消費電力を調整できる。
さらに、上記(d3)における第1生成部が、分離スイッチのインバータ部側における目標電圧に基づき、第1の信号の平均デューティ比を設定する、又は、分離スイッチのインバータ部側における現在の電圧及び目標電圧に基づき、第1の信号の平均デューティ比を調整するようにしても良い。このようにすれば、適切にインバータ電源電圧を制御できるようになる。
さらに、上で述べた第1の信号が、回生制動用の所定の基本波の高調波の成分を含むようにしても良い。制御する上で高調波が好ましい場合があるためである。また、上で述べた第1の信号が、非正弦波波形(例えば矩形波)の信号である場合もある。ロスが多くなって電力を消費できるので好ましい。
第1の信号が基本波とは異なる周波数の成分を含む場合等には、上で述べた第1生成部は、速度及び制動目標トルクに応じて、第1の信号の波形の進角と、平均デューティ比に対応する振幅とのうち少なくともいずれかを設定するようにしても良い。これによって適切に制動トルク又は消費電力を制御できるようになる。
なお、上で述べたモータが、3相モータ(例えば3相コイル駆動モータ)である場合もある。この場合、上で述べた制御部は、(d1)速度及び制動目標トルクに応じた第1の信号を生成する第1生成部と、(d2)第1生成部により生成された第1の信号に基づきインバータ部にスイッチングを行わせるための第2の信号を生成する第2生成部とを有するようにしても良い。そして、上で述べた第1の信号が、2線変調3相駆動に基づく信号に所定のオフセット値を加えた信号である場合もある。これによって、インバータ部におけるスイッチング素子の発熱をバランスさせやすくなる。
また、上で述べた第1生成部が、上で述べた事象を検出している間、3線変調3相駆動に基づく信号を上記第1の信号として生成するようにしても良い。このような方法を用いても、インバータ部におけるスイッチング素子の発熱をバランスさせやすくなる。
さらに、上で述べた第1生成部が、グランドを基準とした2線変調3相駆動に基づく信号と、電源電圧を基準とした2線変調3相駆動に基づく信号とを、繰り返し切り替えることで第1の信号を生成するようにしても良い。このような方法を用いても、インバータ部におけるスイッチング素子の発熱をバランスさせやすくなる。
なお、上で述べた制御部は、インバータ部によるスイッチング周波数を、上記事象を検出する前のスイッチング周波数に比して下げるようにしても良い。これによってインバータ部の発熱量を削減できる。
さらに、上で述べた制動目標トルクが、回生制動を行う場合における制動目標トルクと同一であるようにしても良い。このようにすれば、運転者が違和感を感じずに済む。ここでいう同一は、運転者が実質同一と感じる範囲を含むものとする。
さらに、回生制動中に上記事象を検出した場合には、回生制動中における制動目標トルクを上記事象を検出した直後の制動目標トルクとして用い、後の制動目標トルクが滑らかに変化するようにしても良い。滑らかにロス制動モードに遷移した後は、発熱量を削減するため制動目標トルクを徐々に低下させるようにしても良いし、制動トルクが小さい状態でロス制動モードに遷移した場合には制動目標トルクを徐々に増加させても良い。
このような構成は、実施の形態に述べられた事項に限定されるものではなく、実質的に同一の効果を奏する他の構成にて実施される場合もある。
また、モータ駆動制御装置の一部又は全部については専用の回路で実現される場合もあれば、マイクロプロセッサがプログラムを実行することで上記のような機能が実現される場合もある。