JPWO2016143138A1 - 金属製ファスナー部材及びそれを備えたファスナー - Google Patents

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Abstract

亜鉛を含有する銅合金を母材とした金属製ファスナー部材における耐時期割れ性を向上する。亜鉛を含有する銅合金を母材とし、表面に防錆処理が施されている金属製ファスナー部材であって、走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、表面から深さ100nm以内のところにMnの原子濃度の最大値が検出される金属製ファスナー部材。

Description

本発明は銅合金を母材とする金属製ファスナー部材に関する。また、本発明は銅合金を母材とする金属製ファスナー部材を備えたファスナーに関する。
ファスナー製品の中には、部品(例えば、噛合部分であるエレメントの列、エレメント列の噛合分離を制御してファスナーの開閉を行うためのスライダーなど)に黄銅、丹銅、洋白など亜鉛を含有する銅合金(以下、「Cu−Zn系合金」ともいう。)が使用される銅合金ファスナーがある。亜鉛は固溶により合金の強度、硬度、均一変形量を増大させる効果があり、また、亜鉛は銅に比べ低価格であるために経済性にも優れていることから銅合金ファスナーに慣用的に添加されている合金元素である。
しかし亜鉛元素は銅中に存在することにより、耐食性を著しく劣化させる問題があり、亜鉛の多い銅合金を用い、特にプレス成形などの冷間加工を経て製造されるファスナー部品においては、残留した加工歪による時期割れの問題が発生していた。銅合金中にZnが10質量%より多く含まれると耐時期割れ特性が急激に悪化する。
Cu−Zn系合金の耐時期割れ性を向上させるには亜鉛の割合を10%未満にすることが考えられるが、そのような合金は材料価格が高くなるばかりか、強度も十分ではなくなるためファスナー用銅合金としては望ましくない。このため、特開2004−332014号公報(特許文献1)においては、冷間加工を施した、少なくともZnを10%より多く含むCu−Zn系合金に対して、該合金表面の引張残留応力を低減するかまたは圧縮残留応力の状態とする処理を施すことを特徴とする耐時期割れ性に優れたCu−Zn系合金の製造方法を提案している。前記処理の具体的な方法としてはショットピーニング、ショットブラスト、サンドブラスト及び鋼球ショットブラスト等の表面硬化方法が挙げられている。
また、Cu−Zn系合金の結晶構造を、面心立方構造を有するα相と体心立方構造を有するβ相との混相として、その比率を制御することでCu−Zn系合金の耐時期割れ性を向上させることを開示した以下の文献も存在する。
国際公開2014/004841(特許文献2)においては、耐時期割れ性及び耐応力腐食割れ性に優れ、更に冷間加工性と適切な強度とを備えた銅亜鉛合金製品を提供することを目的として、亜鉛を35wt%より大きく43wt%以下で含有し、α相とβ相の2相組織を有する銅亜鉛合金からなる銅亜鉛合金製品において、前記銅亜鉛合金のβ相の比率が10%より大きく40%未満に制御され、前記α相及びβ相の結晶粒が、冷間加工により扁平状に押し潰されて層状に配することを特徴とする技術が開示されている。当該文献には扁平状の前記β相の結晶粒は、残留応力による時期割れ又は応力腐食割れによる亀裂が進展する方向に対して交差する方向に層状に形成されていることが好ましいことも開示されている。
国際公開2014/024293(特許文献3)では、製造容易性に優れ、耐時期割れ性及び冷間加工性に優れたファスニング用銅合金を提供することを目的として、組織構造がα相とβ相との混相からなり、一般式:Cubal.ZnaMnb(bal.、a、bは質量%、bal.は残部、34≦a≦40.5、0.1≦b≦6、不可避的不純物を含み得る)で表され、且つ下記(1)及び(2)式:
b≧(−8a+300)/7(但し34≦a<37.5) ・・・(1)
b≦(−5.5a+225.25)/5(但し35.5≦a≦40.5) ・・・(2)
を満たす組成を有するファスニング用銅合金が開示されている。そして、耐時期割れ性を向上させるためには、結晶構造中のβ相の比率(%)が0.1≦β≦22であるのが好ましいことも記載されている。
一方で、銅合金製ファスナー部材に対しては、変色防止の観点で、ベンゾトリアゾール系に代表される防錆剤でエレメント表面を処理することが行われてきた。例えば、特開平8−24012号公報(特許文献4)には、銅又は銅系合金製のエレメントが、ファスナーチェーン上に取着されてなるスライドファスナーチェーンを脱脂し中和した後、化学研磨処理液中に浸漬させ化学研磨処理し、そして酸洗し、さらに防錆液中に浸漬させ防錆処理した後、水洗、乾燥させクリア塗装及び乾燥させる一連の工程からなる光沢研磨及び防錆処理されたスライドファスナーチェーンの製造方法が開示されている。
特開2004−332014号公報 国際公開2014/004841 国際公開2014/024293 特開平8−24012号公報
特許文献1に記載の銅合金は、ショットブラストなどの表面処理を行う必要があるため、製造工程数が多くなり、製造コストを押し上げる原因となる。特許文献2及び3においてはα相とβ相との混相を形成することを前提とする技術であるが、β相が存在すると冷間加工性はα相の単独相の場合よりも低下することは避けられない。また、α相とβ相の混相を形成するにあたっては、所望のβ相比率を達成するために、組成範囲及び熱処理条件の制御を厳密に行う必要があり、製造上の制約が生じる。
本発明は上記事情を背景に創作されたものであり、亜鉛を含有する銅合金を母材とした金属製ファスナー部材における耐時期割れ性を従来とは異なるアプローチにより向上する課題の一つとする。また、本発明はそのような金属製ファスナー部材を備えたファスナーを提供することを別の課題とする。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、Cu−Zn系合金製ファスナー部材において、表面近傍にMnの濃化層を形成しつつ、表面を防錆処理することで、耐時期割れ性が顕著に向上することを見出した。Mn濃化層の形成及び防錆処理の何れか一方のみではこのような顕著な効果は得られないことから、両者の相乗効果によって耐時期割れ性の顕著な向上が得られたのだと推察される。従来、ベンゾトリアゾ−ルに代表される変色防止剤(防錆剤)が二元系のCu−Zn系合金に対して使用されることはあったが、耐時期割れ性を十分に向上させることはできなかったのであり、防錆処理に加えて表面近傍にMnの濃化層を形成することで顕著に耐時期割れ性が向上するという点を見出したことは誠に驚くべきことであった。
本発明は当該知見を基礎として完成したものである。
本発明は第一の側面において、亜鉛を含有する銅合金を母材とし、表面に防錆処理が施されている金属製ファスナー部材であって、走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、表面から深さ100nm以内のところにMnの原子濃度の最大値が検出される金属製ファスナー部材である。
本発明に係る金属製ファスナー部材の一実施形態においては、表面から深さ方向にMnの原子濃度を走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、Mnの原子濃度の最大値が10at.%以上であり、Mnの原子濃度が5at.%以上である表面からの深さ範囲が10nm以上である。
本発明に係る金属製ファスナー部材の別の一実施形態においては、表面から深さ方向にOの原子濃度を走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、表面から深さ100nm以内のところにOの原子濃度の最大値が検出され、Oの原子濃度の最大値が20at.%以上である。
本発明に係る金属製ファスナー部材の更に別の一実施形態においては、表面から深さ方向にOの原子濃度を走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、Oの原子濃度が5at.%以上である表面からの深さ範囲が300nm以内である。
本発明に係る金属製ファスナー部材の更に別の一実施形態においては、防錆処理が含窒素化合物を含有する防錆剤によってなされている。
本発明に係る金属製ファスナー部材の更に別の一実施形態においては、含窒素化合物が1,2,3−ベンゾトリアゾール及びその誘導体よりなる群から選択される一種以上である。
本発明に係る金属製ファスナー部材の更に別の一実施形態においては、表面から深さ方向にNの原子濃度を走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、表面から深さ5nm以内のところにNの原子濃度の最大値が検出される。
本発明に係る金属製ファスナー部材の更に別の一実施形態においては、表面から深さ方向にZnの原子濃度を走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、表面から深さ50nmまでのZnの原子濃度の最大値は表面から深さ300nmにおけるZnの原子濃度よりも低い。
本発明に係る金属製ファスナー部材の更に別の一実施形態においては、表面から深さ方向にZnの原子濃度を走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、表面から深さ50nmまでのZnの原子濃度の最大値は表面から深さ300nmにおけるZnの原子濃度に対して90%以下である。
本発明に係る金属製ファスナー部材の更に別の一実施形態においては、金属製ファスナー部材はスライドファスナー用のエレメントである。
本発明に係る金属製ファスナー部材の更に別の一実施形態においては、一般式:CubalZnaMnb(式中、a、bは質量%、balは残部、34≦a≦40、0<b≦6、不可避的不純物を含み得る)からなる組成の銅合金を母材とする。
本発明に係る金属製ファスナー部材の更に別の一実施形態においては、母材の結晶構造がα相とβ相の混相である。
本発明に係る金属製ファスナー部材の更に別の一実施形態においては、母材の結晶構造がα相の単独相である。
本発明は別の一側面において、本発明に係る金属製ファスナー部材を備えるファスナーである。
本発明に係るファスナーの一実施形態においては、ファスナーがスライドファスナーであり、金属製ファスナー部材がエレメントであり、JIS H3250(2012)に規定するアンモニア試験法によるアンモニア暴露試験前後での、エレメントの引抜強度の保持率の平均が70%以上である。
本発明に係る銅合金製ファスナー部材は、ショットブラストなどによる表面硬化処理やβ相の比率制御とは異なるアプローチで耐時期割れ性の改善を図ることができる。そのため、本発明に係る銅合金製ファスナー部材は、特許文献1に記載されるような加工処理は不要であり、特許文献2及び特許文献3で規定されるような厳密な組成制御及び熱処理条件も不要である。また、本発明に係る銅合金製ファスナー部材は従来行っていた防錆処理前の酸洗処理を省略できるので、製造コストの低減にも寄与する。このように、本発明によれば、耐時期割れ特性に優れた銅合金製ファスナー部材の製造性及び経済性を向上することができる。
スライドファスナーの模式図である。 ファスナーテープに下止具、上止具及びエレメントを取り付ける仕方を説明する図である。 XPSにより分析した実施例1のエレメント表面のN、O、Mn、Zn及びCuの原子濃度の深さプロファイルである。 XPSにより分析した実施例2のエレメント表面のN、O、Mn、Zn及びCuの原子濃度の深さプロファイルである。 XPSにより分析した実施例3のエレメント表面のN、O、Mn、Zn及びCuの原子濃度の深さプロファイルである。 XPSにより分析した実施例4のエレメント表面のN、O、Mn、Zn及びCuの原子濃度の深さプロファイルである。 XPSにより分析した比較例1のエレメント表面のN、O、Mn、Zn及びCuの原子濃度の深さプロファイルである。 XPSにより分析した比較例2のエレメント表面のN、O、Mn、Zn及びCuの原子濃度の深さプロファイルである。 XPSにより分析した比較例3のエレメント表面のN、O、Mn、Zn及びCuの原子濃度の深さプロファイルである。
(1.表面近傍のMn原子濃度プロファイル)
本発明に係る金属製ファスナー部材の一実施形態においては、走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、表面から深さ100nm以内のところ、典型的には50nm以内のところにMnの原子濃度の最大値が検出される。つまり、本発明に係る金属製ファスナー部材においては、表面近傍にMnの濃化層が存在している点が特徴の一つといえる。このようなMnの濃化層が表面近傍に存在すると一種のバリアとしての役目を果たし、防錆被膜との相乗効果によって、耐時期割れ性が大幅に向上する。理論によって本発明が制限されることを意図するものではないが、これはMnが酸化物として表層に濃化することにより、Cu及びZnを主成分とする母相の時期割れの進展が抑制されることに起因すると考えられる。
Mn原子濃度の最大値は、耐時期割れ性を向上させる観点からは、10at.%以上であることが好ましく、15at.%以上であることがより好ましく、20at.%以上であることが更により好ましく、25at.%以上であることが更により好ましい。Mn原子濃度の最大値が高くなることは特に問題はないが、表面近傍のMnは酸化物の形態で存在している場合が多いと考えられることから自ずと限界がある。典型的な実施形態においてはMn原子濃度の最大値は50at.%以下であり、より典型的な実施形態においてはMn原子濃度の最大値は40at.%以下である。
耐時期割れ性を向上させる観点からは、Mnの濃化層は厚いほうが好ましい。具体的には、表面から深さ方向にMnの原子濃度を走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、Mnの原子濃度が5at.%以上である表面からの深さ範囲が10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることが更により好ましく、150nm以上であることが更により好ましく、200nm以上であることが更により好ましい。Mnの濃化層の厚みの上限は特に設定されないが、典型的な実施形態においては、Mnの原子濃度が5at.%以上である表面からの深さ範囲は1000nm以下であり、より典型的な実施形態においては、Mnの原子濃度が5at.%以上である表面からの深さ範囲は800nm以下であり、更により典型的な実施形態においては、Mnの原子濃度が5at.%以上である表面からの深さ範囲は600nm以下であり、更により典型的な実施形態においては、Mnの原子濃度が5at.%以上である表面からの深さ範囲は500nm以下である。
Mnの濃化層を表面近傍に形成する方法としては、Mnを含有する母材を使用して表面近傍を酸化する方法や、母材表面にMn又はMn酸化物の薄膜を形成する方法が例示的に挙げられる。Mnを含有する母材を使用する場合、極めて低濃度(例えば5〜50質量ppm程度)の酸素を含有する不活性雰囲気又は還元性雰囲気下で焼鈍するとよい。これにより、表面近傍のみが酸化されるのでMnが表面近傍に濃化しやすくなる。一方、焼鈍時の酸素濃度が高くなると母材の酸化が奥深くまで進行するため表面近傍にMnが濃化しにくい。母材表面にMnの薄膜を形成する方法としては、PVDやCVDなどが挙げられる。
(2.表面近傍のO原子濃度プロファイル)
本発明に係る金属製ファスナー部材の一実施形態においては、走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、表面から深さ50nm以内のところにOの原子濃度の最大値が検出される。Oが表面近傍に存在することで、Mnが酸化物の形態で存在することができる。
酸化によりMnが濃化する観点から、Oの原子濃度の最大値は20at.%以上であることが好ましく、30at.%以上であることが好ましく、40at.%以上であることがより好ましく、50at.%以上であることが更により好ましく、60at.%以上であることが更により好ましく、70at.%以上であることが更により好ましい。
一方、ファスナー部材の金属光沢を維持して美観を保持するためには、O原子濃度が高い状態が表層深くまで入り込まない方が好ましい。具体的には、表面から深さ方向にOの原子濃度を走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、Oの原子濃度が5at.%以上である表面からの深さ範囲が300nm以内であることが好ましく、250nm以内であることがより好ましく、200nm以内であることがより好ましく、150nm以内であることが更により好ましく、100nm以内であることが更により好ましくい。「Oの原子濃度が5at.%以上である表面からの深さ範囲」というのは、Oの原子濃度が5at.%以上である状態が維持される表面からの深さ範囲を意味し、換言すればOの原子濃度が最初に5at.%未満となるまでの表面からの深さ範囲のことである。
(3.表面近傍のZn原子濃度プロファイル)
本発明に係る金属製ファスナー部材の好ましい一実施形態においては、走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、表面から深さ50nmまでのZnの原子濃度の最大値は表面から深さ300nmにおけるZnの原子濃度よりも低い。つまり、表面近傍にZnが濃化されていないことが好ましい。これは、Znが表面近傍に濃化されても耐時期割れ性を有意に改善する効果は少ないためである。表面から深さ50nmまでのZnの原子濃度の最大値は表面から深さ300nmにおけるZnの原子濃度の90%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましく、70%以下であることが更により好ましい。金属製ファスナー部材の製造工程において、大気雰囲気等の高い酸化性雰囲気下で焼鈍すると、Znが優先的に酸化して表面近傍に濃化してしまうので焼鈍雰囲気には留意する必要がある。
表面から深さ50nmまでのZnの原子濃度の最大値は25at.%以下であることが好ましく、20at.%以下であることがより好ましい。表面から深さ50nmまでのZnの原子濃度の最大値の下限は特に設定されないが、母材中のZnの影響を受けるため、一般的には、表面から深さ50nmまでのZnの原子濃度の最大値は表面から深さ300nmにおけるZnの原子濃度の40%以上であり、典型的には50%以上であり、より典型的には60%以上である。
(4.母材の組成)
本発明に係る金属製ファスナー部材は亜鉛を含有する銅合金を母材とする。Znは固溶強化により合金の機械的性質及び加工硬化特性を向上させるという効果、溶解鋳造における脱酸効果及びファスナー部材の価格を低下させるという効果がある。Znの含有量を増やすことで、コストダウンを図ることができ、高い強度を得ることができるようになる。また、溶湯の耐酸化性及び鋳造性も向上するという利点も得られる。一方で、銅合金中にZnが含まれると耐時期割れ特性が悪化する。特に、Zn濃度が10質量%以上になると耐時期割れ特性が急激に悪化する。
このため、亜鉛による上記特性を活かしつつ、耐時期割れ性を向上するという観点からみると、本発明に係る金属製ファスナー部材はZnを10質量%以上含有する銅合金を母材とすることが好ましく、Znを15質量%以上含有する銅合金を母材とすることがより好ましく、Znを20質量%以上含有する銅合金を母材とすることが更により好ましく、Znを25質量%以上含有する銅合金を母材とすることが更により好ましく、Znを30質量%以上含有する銅合金を母材とすることが更により好ましく、Znを35質量%以上含有する銅合金を母材とすることが更により好ましい。但し、Znの含有量は、過剰になると冷間加工性を損なうことから、本発明に係る金属製ファスナー部材はZnを50質量%以下含有する銅合金を母材とすることが好ましく、Znを45質量%以下含有する銅合金を母材とすることがより好ましく、Znを40質量%以下含有する銅合金を母材とすることが更により好ましい。
また、母材中に含まれるMnを利用して表面近傍にMnを濃化させる場合、母材となる銅亜鉛合金の組成に占めるMn濃度は0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることが更により好ましい。ただし、母材となる銅亜鉛合金の組成に占めるMn濃度が高すぎるとCu濃度及びZn濃度が低下して、銅亜鉛合金が本来持つ特性から離れてしまうことから、母材となる銅亜鉛合金中のMn濃度はZn濃度よりも小さいことが好ましく、Zn濃度の1/5以下であることがより好ましく、Zn濃度の1/10以下であることが更により好ましい。母材となる銅亜鉛合金中のMn濃度は具体的には6質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることが更により好ましく、2質量%以下であることが更により好ましい。
本発明に係る金属製ファスナー部材の好ましい一実施形態において、一般式:CubalZnaMnb(式中、a、bは質量%、balは残部、34≦a≦40、0<b≦6、不可避的不純物を含み得る)からなる組成の銅合金を母材とすることができる。aは典型的には36≦a≦39であり、より典型的には37≦a≦39である。bは典型的には0.1≦b≦4であり、より典型的には0.5≦b≦2である。不可避的不純物というのは原料中に存在したり、製造工程において不可避的に混入したりするもので、本来は不要なものであるが、微量であり、特性に影響を及ぼさないため許容されている不純物のことである。本発明において、不可避的不純物として許容される各不純物元素の含有量は一般に0.1質量%以下であり、好ましくは0.05質量%以下である。
(5.結晶構造)
本発明に係る金属製ファスナー部材においては、母材の結晶構造に関わらず、優れた耐時期割れ性を示すことができるため、β相の比率に特段の制限はない。このため、母材はα相とβ相の混相であってもよいし、α相の単独相であってもよい。ただし、α相とβ相の混相のほうが耐時期割れ性は優れている傾向にあることから、β比率は0.1%以上であることが好ましく、0.5%以上であることがより好ましく、1%以上であることが更により好ましく、5%以上であることが更により好ましい。ただし、β相の比率が高すぎると、冷間加工性が確保できなくなるため、β比率は22%以下であるのが好ましく、20.5%以下であるのがより好ましく、15%以下であるのが更により好ましく、10%以下であるのが更により好ましい。
結晶構造中のβ相の比率は、SiC耐水研磨紙で研磨し、ダイヤモンドで鏡面仕上げすることにより、圧延面に垂直な断面を露出させ、この断面をX線回折(θ−2θ法)によりα相とβ相のピーク強度の積分値を算出し、β相の比率(%)=(β相ピーク強度積分値)/(α相ピーク強度積分値+β相ピーク強度積分値)×100として算出される。
母材の結晶構造は亜鉛当量により概ね定まる。亜鉛当量は次式で表すことができる。
亜鉛当量=(Zn濃度+0.5×Mn濃度)/(Cu濃度+Zn濃度+0.5×Mn濃度)×100(式中、Zn濃度、Mn濃度及びCu濃度は質量基準である。)
α相とβ相の混相は亜鉛当量が38.7以上であるときに生成しやすい。α相とβ相の混相の比率を高めるために、亜鉛当量を38.8以上とすることもでき、更には39.0以上とすることもでき、例えば38.7〜41の範囲とすることができる。
(6.金属製ファスナー部材の製造方法)
本発明に係る金属製ファスナー部材の好適な製造方法について説明する。金属製ファスナー部材の形状には特段の制限はないが、代表的な用途であるスライドファスナー用のエレメントを例にして説明する。まず、母材を構成する合金成分を配合して溶解し、次いで連続鋳造によりワイヤを作製する。得られたワイヤ表面の凹凸を皮剥きなどの方法によって除去した後、伸線処理する。次いで、焼鈍して加工性を回復する。Mnを含有する母材を使用する場合、このときの焼鈍を極めて低濃度(例えば5〜50質量ppm程度)の酸素を含有する不活性雰囲気又は還元性雰囲気下で行うことにより、Mnを表面近傍に濃化するのが、製造効率上、好都合である。その後、冷間圧延により加工歪を付与しつつ断面略Y字状の連続異形線を製造する。この過程で合金組成に応じて加工硬化が進展し、材料強度が上昇する。その後、切断、プレス、曲げ、かしめ等の各種冷間加工を施してファスナーエレメントをファスナーテープに植え付ける。ファスナーテープへの植え付け前及び/又は後にファスナーエレメントに防錆処理等の表面処理を施すことができる。なお、母材表面にMn又はMn酸化物の薄膜をPVDやCVDなどによって形成する場合は、当該薄膜形成はワイヤ、異形線及びチェーン等の何れの段階で行ってもよい。
本発明に係る金属製ファスナー部材には必要に応じて、各種の表面処理を行うことができる。例えば、防錆処理、化成処理、クリア塗装処理、及び鍍金処理などを行うことができる。これらの中でも防錆処理は本発明が課題とする耐時期割れ性の向上のために不可欠な処理である。防錆処理は従来、金属製ファスナー部材表面の酸化物生成を防ぎ、その後にクリア塗装や鍍金処理を行う場合の塗膜の密着性を良くするために施されてきたのであるが、満足な耐時期割れ性は得られるものではなかった。本発明においては、Mnの濃化層が表面近傍に形成されているため、防錆処理との併用により耐時期割れ性の向上効果が顕著である。
防錆処理は、防錆工程、水洗工程及び乾燥工程が含まれる。防錆工程は、公知のベンゾトリアゾール系、リン酸エステル系、又はその他の防錆液を用いて浸漬又は噴霧により行うことができる。金属製ファスナー部材の濡れ性を良くするために、界面活性剤を添加してもよい。防錆工程後の水洗工程は、防錆剤がファスナーテープに悪影響を及ぼさない場合、省くことができる。乾燥工程は、熱風又はその他の熱源により、ファスナーテープの染色堅牢度に影響を与えない150℃以下の温度で行うことが好ましい。従来、防錆処理前には表面の酸化膜を除去して防錆被膜の密着性を高めるための酸洗することが通常であったが、酸洗を行うことでMnの濃化層が除去されるおそれがある。このため、防錆処理前の酸洗は行わない方が好ましい。
本発明に係る金属製ファスナー部材の典型的な実施形態においては、防錆処理は含窒素化合物を含有する防錆剤によって行われる。含窒素化合物としては1,2,3−ベンゾトリアゾール及びその誘導体が挙げられる。1,2,3−ベンゾトリアゾールは以下の化学式で表される分子中に窒素原子を3個含む複素環状化合物の一種である。
Figure 2016143138
1,2,3−ベンゾトリアゾールの誘導体とは次式で表されるベンゾトリアゾール基を有する化合物である。ベンゼン環上の水素原子はメチル基及びエチル基に代表されるアルキル基やカルボキシル基等の置換基で適宜置換されていてもよい。
Figure 2016143138
1,2,3−ベンゾトリアゾール及びその誘導体は防錆剤として慣用されている。防錆剤としてよく用いられる1,2,3−ベンゾトリアゾールの誘導体としては、例えば1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、1−[N,N−ビス(2−エチルヘキシル)アミノメチル]メチルベンゾトリアゾール、2,2’−[[(メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)メチル]イミノ]ビスエタノール等が挙げられる。これらの含窒素化合物は単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
このように、含窒素化合物を用いて防錆処理を行った場合、本発明に係る金属製ファスナー部材の防錆処理後の表面状態を、表面から深さ方向にNの原子濃度を走査型X線光電子分光分析装置によって分析すると、極表面近傍にNの原子濃度の最大値が検出され得る。典型的には表面から深さ5nm以内のところにNの原子濃度の最大値が検出され、より典型的には表面から深さ1nm以内のところにNの原子濃度の最大値が検出得る。耐時期割れ性の向上効果を高める上では、Nの原子濃度の最大値は1at.%以上であることが好ましく、3at.%以上であることがより好ましく、5at.%以上であることがより好ましく、7at.%以上であることが更により好ましい。Nの原子濃度の最大値には特段の上限はないが、一般的には50at.%以下であり、25at.%以下としてもよく、15at.%以下としてもよい。
防錆処理後には、更にクリア塗装処理(塗装工程+乾燥工程)や鍍金処理を行い、耐食性、耐候性等を向上させてもよい。クリア塗装処理により、金属製ファスナー部材の耐食性を高めることができる。クリア塗装処理は、例えば、金属製ファスナー部材表面にロールコーター又はその他の方法でクリア塗料を塗布した後、塗膜を乾燥することにより実施できる。鍍金処理は、耐食性向上や加飾の目的で鍍金処理を電気鍍金法(電気鍍金の前に無電解鍍金を行うことが好ましい。)の他、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の乾式鍍金等、種々の方法で行ってもよい。
また、最終工程として、摺動抵抗を軽くするためにワックス掛けをしても良い。この工程は、摺動抵抗が充分に軽い場合は、省いてもよい。
(7.スライドファスナー)
本発明に係る金属製ファスナー部材(エレメント、上止具及び下止具)を備えたスライドファスナーの例を図面に基づき具体的に説明する。図1は、スライドファスナーの模式図であり、図1に示すようにスライドファスナーは、一側端側に芯部2が形成された一対のファスナーテープ1とファスナーテープ1の芯部2に所定の間隔をおいてかしめ固定(装着)されたエレメント3と、エレメント3の上端及び下端でファスナーテープ1の芯部2にかしめ固定された上止具4及び下止具5と、対向する一対のエレメント3間に配され、エレメント3の噛合及び開離を行うための上下方向に摺動自在なスライダー6を備える。なお、一本のファスナーテープ1の芯部2にエレメント3が装着された状態のものをスライドファスナーストリンガーといい、一対のファスナーテープ1の芯部2に装着されたエレメント3が噛合状態となっているものをスライドファスナーチェーン7という。
また、図1に示すスライダー6は、図示されていないが断面矩形状の板状体からなる長尺体を多段階にてプレス加工を施し、所定間隔ごとに切断し、スライダー胴体を作製し、さらに必要に応じてスプリング及び引手を装着したものである。さらに、引手も断面矩形状の板状体から、所定形状ごとに打ち抜き、これをスライダー胴体にかしめ固定したものである。なお、下止具5は、蝶棒、箱棒、箱体からなる開離嵌挿具とし、スライダーの開離操作にて一対のスライドファスナーチェーンを分離できるようにしたものであっても構わない。
図2は、図1に示されるスライドファスナーのエレメント3、上止具4及び下止具5の製造方法及びファスナーテープ1の芯部2への取付けの仕方を示す図面である。図に示すようにエレメント3は、断面略Y字状からなる異形線8を所定寸法ごとに切断し、これをプレス成形することにより、係合頭部9を形成し、その後、ファスナーテープ1の芯部2へ両脚部10をかしめることにより、装着される。
上止具4は、断面矩形状の矩形線11(平角線)を所定寸法ごとに切断し、曲げ加工により略断面コ字状に成形し、その後、ファスナーテープ1の芯部2へかしめることにより、装着される。下止具5は、断面略X字状からなる異形線12を所定寸法ごとに切断し、その後、ファスナーテープ1の芯部2へかしめることにより、装着される。
なお、図においては、エレメント3、上下止具4、5が、同時にファスナーテープ1に装着されるようになっているが、実際は、ファスナーテープ1に連続的にエレメント3を取付け、まずファスナーチェーンを作製し、ファスナーチェーンの止具取付け領域のエレメント3を取り外し、この領域のエレメント3に近接して所定の上下止具4又は5を装着するものである。以上のようにして製造及び取付けを行うため、スライドファスナーの構成部材となるエレメント及び止具は、冷間加工性に優れた材料とする必要性がある。この点、本発明に係る金属製ファスナー部材は冷間加工性に優れており、例えば圧下率70%以上の加工が可能であるため、エレメントや上下止具の材料として好適である。
スライドファスナーは各種の物品に取着することができ、特に開閉具として機能する。スライドファスナーが取着される物品としては、特に制限はないが、例えば衣料品、鞄類、靴類及び雑貨品といった日用品の他、貯水タンク、漁網及び宇宙服といった産業用品が挙げられる。
本発明に係る耐時期割れ性に優れたエレメントを備えたスライドファスナーは一実施形態において、JIS H3250(2012)に規定するアンモニア試験法によるアンモニア暴露試験前後での、エレメントの引抜強度の保持率の平均を70%以上とすることができる。エレメントの引抜強度の保持率の平均は好ましくは75%以上であり、より好ましくは80%以上であり、更により好ましくは85%以上であり、更により好ましくは90%以上であり、例えば70〜95%とすることができる。
以上、本発明に係る金属製ファスナー部材をスライドファスナー用のエレメントに適用した場合の実施形態について主に述べたが、本発明に係る金属製ファスナー部材はスライドファスナーに用途限定されるわけではない。スナップファスナーその他の金属製ファスナー用の部材としても適用可能である。
以下、本発明の実施例を示すが、これらは本発明及びその利点をより良く理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図しない。
<ファスナーチェーンの作製>
原材料として、Cu(純度99.99質量%以上)、Zn(純度99.9質量%以上)、Mn(純度99.9質量%以上)を使用して、表1に記載の試験番号に応じた各合金組成をもつようにこれら原材料を配合して連続鋳造装置内で溶解し、次いで連続鋳造により連続ワイヤを作製した。得られた連続ワイヤを伸線処理した。次いで、酸素を10質量ppm程度含有する還元雰囲気下で500℃×1時間の焼鈍を行って冷間加工性を回復した後、冷間圧延により断面略Y字状の連続異形線を製造した。その後、切断、プレス、曲げ、かしめの各種冷間加工を施してYKK株式会社カタログ「FASTENING専科(2009年2月発行)」で規定する「5R」の大きさのエレメント形状とした後、これをポリエステル製ファスナーテープに装着してファスナーストリンガーを作成し、更に一対のファスナーストリンガーの対向するエレメント同士を噛み合わせてファスナーチェーンを作製した。
<防錆処理>
表1中、防錆処理「有り」と表示されている試験番号のファスナーチェーンに対しては、1,2,3−ベンゾトリアゾール(BTA)を含有する防錆剤水溶液中に浸漬して、その後、水洗及び乾燥することにより防錆処理を行った。この際、実施例1〜4及び比較例1については防錆処理前に酸洗を実施せず、比較例3については酸洗を実施した。なお、比較例2は酸洗も防錆処理も実施することなく、そのまま各種評価を行った。
<表層分析>
各ファスナーチェーンのエレメントの任意の一つの表面におけるMn原子、O原子、N原子及びZn原子の深さ方向の原子濃度プロファイルを走査型X線光電子分光分析装置(Scanning X-ray Photoelectron Spectroscopy:XPS)により測定した。原子濃度はCu、N、O、Mn及びZnの合計を100%として計算した。測定条件は以下である。
・X線:単色化Al線源(1486.6eV)、25W
・X線径:100μm
・取り出し角(Take Off Angle):45°
・中和:なし
・イオン種:Ar+
・スパッタリングレート:4.3nm/min(SiO2スパッタ速度換算)
・バックグラウンド:直線法
測定結果を表1及び図3〜9に示す。検出深さの定義は、ISO/TR15969(ISO技術報告書)及びTS K0012(日本規格協会標準仕様書)に準拠した。Wagnerによる相対感度係数を軽元素は1sピーク、金属元素は3pピークに適用し、原子濃度を算出した。Mn3p:45.5-54eV、O1s:527-539eV、N1s:397-404eV、Zn3p:85-96eV、Cu3p:69-81eV
<β相の比率の評価>
得られた各ファスナーチェーンのエレメントの任意の一つについて、圧延面に垂直な断面組織を、断面写真により観察した。SiC耐水研磨紙(#180〜#2000まで)を用いて研磨することにより圧延面に垂直な断面を露出させ、この断面に対して更に平均粒度が3μm及び1μmのダイヤモンドペーストで順に鏡面仕上げを施し、これを試験片としてX線回折による測定を行った。測定機種としては、ブルッカーAXS社製、GADDS−Discover8を使用し、測定時間は低角度側90s、高角度側120sとして、α相及びβ相のピーク強度積分値をそれぞれ算出した。β相の比率(%)=(β相ピーク強度積分値)/(α相ピーク強度積分値+β相ピーク強度積分値)×100として算出した。
<耐時期割れ性評価>
JIS H3250(2012)に規定するアンモニア試験法に準じてアンモニアに暴露した。試験は、アンモニア水の濃度を15%とし、アンモニア水を入れたデシケータに液面から50mm離れた位置にファスナーチェーンを設置して常温で50分行った。その後、ファスナーチェーンに対してエレメントの引抜強度を測定した。引き抜き試験はインストロン型引張試験機を用いて、エレメント1個の噛合頭部をジグでつかみ、クランプに固定されたファスナーテープからエレメントが引き抜かれるまで引張速度300mm/minで引っ張り、そのときの最大強度を測定することで行った。エレメントの引張方向はファスナーテープの長手方向に直角で且つファスナーテープの面に平行な方向とした。測定結果は6回測定後の平均値とした。
Figure 2016143138
Figure 2016143138
Figure 2016143138
Figure 2016143138
Figure 2016143138
<考察>
比較例1(母材中にMn不含有)及び比較例3(防錆処理前に酸洗有り)の結果から、防錆処理を施してもエレメントの表面近傍にMnの濃化層を形成していないと十分な耐時期割れ性が得られないことが分かる。比較例2(防錆処理なし)の結果から、Mnの濃化層を形成しても防錆処理を施さないと十分な耐時期割れ性が得られないことが分かる。これに対し、防錆処理を施し、エレメントの表面近傍にMnの濃化層を形成した実施例1〜4においては、アンモニア暴露試験前後のエレメントの平均引抜強度の低下が顕著に抑制されており、優れた耐時期割れ性を示すことが分かる。また、β相の比率が高いほうが耐時期割れ性が向上する傾向にあるが、Mn酸化物層を厚くすることで、β相の比率が低くても、更には0%であっても、優れた耐時期割れ性が得られることが理解できる。
なお、ファスナーチェーンの製造時に行う焼鈍を大気雰囲気として450℃×1時間の条件で実施した場合、Znが優先的に酸化し、表面近傍へZnが濃化したことを確認した。この場合、Mnの原子濃度の深さプロファイルはMnの濃度分布がブロードとなって有意なピークが見られず、表面から深さ100nm以内のところにMnの原子濃度の最大値は存在しなかった。
1 ファスナーテープ
2 芯部
3 エレメント
4 上止具
5 下止具
6 スライダー
7 スライドファスナーチェーン
8 断面略Y字状の異形線
9 係合頭部
10 脚部
11 矩形線
12 断面略X字状の異形線

Claims (15)

  1. 亜鉛を含有する銅合金を母材とし、表面に防錆処理が施されている金属製ファスナー部材であって、走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、表面から深さ100nm以内のところにMnの原子濃度の最大値が検出される金属製ファスナー部材。
  2. 表面から深さ方向にMnの原子濃度を走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、Mnの原子濃度の最大値が10at.%以上であり、Mnの原子濃度が5at.%以上である表面からの深さ範囲が10nm以上である請求項1に記載の金属製ファスナー部材。
  3. 表面から深さ方向にOの原子濃度を走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、表面から深さ100nm以内のところにOの原子濃度の最大値が検出され、Oの原子濃度の最大値が20at.%以上である請求項1又は2に記載の金属製ファスナー部材。
  4. 表面から深さ方向にOの原子濃度を走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、Oの原子濃度が5at.%以上である表面からの深さ範囲が300nm以内である請求項1〜3の何れか一項に記載の金属製ファスナー部材。
  5. 防錆処理が含窒素化合物を含有する防錆剤によってなされている請求項1〜4の何れか一項に記載の金属製ファスナー部材。
  6. 含窒素化合物が1,2,3−ベンゾトリアゾール及びその誘導体よりなる群から選択される一種以上である請求項5に記載の金属製ファスナー部材。
  7. 表面から深さ方向にNの原子濃度を走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、表面から深さ5nm以内のところにNの原子濃度の最大値が検出される請求項5又は6に記載の金属製ファスナー部材。
  8. 表面から深さ方向にZnの原子濃度を走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、表面から深さ50nmまでのZnの原子濃度の最大値は表面から深さ300nmにおけるZnの原子濃度よりも低い請求項1〜7の何れか一項に記載の金属製ファスナー部材。
  9. 表面から深さ方向にZnの原子濃度を走査型X線光電子分光分析装置によって分析したときに、表面から深さ50nmまでのZnの原子濃度の最大値は表面から深さ300nmにおけるZnの原子濃度に対して90%以下である請求項8に記載の金属製ファスナー部材。
  10. スライドファスナー用のエレメントである請求項1〜9の何れか一項に記載の金属製ファスナー部材。
  11. 一般式:CubalZnaMnb(式中、a、bは質量%、balは残部、34≦a≦40、0<b≦6、不可避的不純物を含み得る)からなる組成の銅合金を母材とする請求項1〜10の何れか一項に記載の金属製ファスナー部材。
  12. 母材の結晶構造がα相とβ相の混相である請求項1〜11の何れか一項に記載の金属製ファスナー部材。
  13. 母材の結晶構造がα相の単独相である請求項1〜11の何れか一項に記載の金属製ファスナー部材。
  14. 請求項1〜13の何れか一項に記載の金属製ファスナー部材を備えるファスナー。
  15. ファスナーがスライドファスナーであり、金属製ファスナー部材がエレメントであり、JIS H3250(2012)に規定するアンモニア試験法によるアンモニア暴露試験前後での、エレメントの引抜強度の保持率の平均が70%以上である請求項14に記載のファスナー。
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