JP4834922B2 - 溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は自動車、家電、建材等の素材として好適な溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、耐食性、意匠性および加工性に優れためっき皮膜を有し、さらに経済性にも優れた溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
溶融亜鉛めっき鋼板は耐食性が良好なうえ安価で経済性にも優れるので、屋根・壁材等の建材製品、ガードレール、配線配管や防音壁等の土木製品などに加えて、自動車や家電製品など種々の用途に使用されている。溶融亜鉛めっき鋼板は平板状態での使用に加えて曲げ加工やプレス加工を施して使用する場合も多い。
【0003】
加工に際してめっき皮膜に剥離や亀裂が生じると、成形品の外観を損なううえその部分での耐食性も低下する。従ってそのめっき皮膜には耐食性が優れていることに加えて、加工性がよいことも重要とされている。
【0004】
溶融亜鉛めっき鋼板の耐食性は、亜鉛めっき皮膜にMg を含有させることにより改善できることが知られている。例えば特開昭56-152955 号公報には、質量%で(以下、特に断らない限り化学組成を表す%表示は質量%を意味し、 ppm表示は質量ppm を意味する)Mg を 0.1〜 2.0%、Al を 0.1〜 1.0%、Si を0.01〜 0.5%含有する溶融亜鉛合金めっき鋼板のめっき組成物が提案されている。また、特開昭56-41359号公報には、Mg を 0.1%超、 1.5%以下、Al をMg の 0.2倍以上 1.5%未満含有する溶融亜鉛めっき浴を用いて溶融めっきを施す耐食性溶融亜鉛めっき鋼材の製造方法が提案されている。
【0005】
しかしながらこれらの提案においては、得られるめっき皮膜の加工性がいかなるものであるか明らかではない。
溶融めっき皮膜の加工性改善方法として、例えば特開昭58-84963号公報には、亜鉛めっき鋼板に圧下率が10〜60%の範囲の圧延を施してη亜鉛層を粉砕した後、再結晶させてめっき皮膜に延性を付与する方法が、特公平6-10332 号公報には、Pb を0.05%以下、Al を 0.1〜 0.3%含有する溶融亜鉛めっき浴でめっきをおこない、その後、 420〜 300℃の温度領域を20℃/s以上の冷却速度で冷却する方法が、特開平6-256924号公報には、溶融亜鉛めっき後、めっき皮膜表層を研磨、研削あるいは切削してめっき皮膜の平均粒径を 6μm 以下とすることにより加工時にクラックが生じにくいめっき皮膜を有する溶融亜鉛めっき鋼板とその製造方法が提案されている。
【0006】
また特開平9-143657号公報には、Mg を0.05〜 3%、Al を 0.1〜 1%、Ti 、BまたはSi を1種以上 0.1%以上含有するめっき皮膜を備えた、加工部のめっき皮膜にミクロクラックが生じにくい溶融Zn-Mg-Al 系合金めっき鋼板が提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来の溶融亜鉛めっき鋼板はめっき皮膜のスパングルが大きく、金属光沢に富むのが特長とされてきたが、最近では用途によってはスパングルが小さく金属光沢が少ない、いわゆるつや消し外観を有する鋼板、すなわち意匠性に富む鋼板も求められている。その対応としてめっき付着量を調整した後に、溶融めっき層にミストスプレーやZn 粉末を吹き付けるハーティ処理などを施してめっき層を凝固させ、これによりスパングルを微細にしたりゼロスパングルとするスパングル調整がおこなわれるようになっている。
【0008】
溶融亜鉛めっき皮膜にMg を含有させるとめっき皮膜が硬化し、その加工性が損なわれる。さらに、スパングルを小さく調整するために溶融めっき層を急速凝固させると、Mg を含有しない製品や溶融めっき後に徐冷して製造された製品に比較するとめっき皮膜の加工性はさらに低下する。
【0009】
特開昭58-84963号公報で提案された加工性改善方法では、材質により圧下率が大きく変動するため、圧延前のめっき厚さを材質ごとに調整する必要があり、量産での対応が煩雑となるうえ、めっき後に大圧下圧延と焼鈍が必要であるのでコストが高く生産性がよくないという問題がある。
【0010】
特開昭61-256756 号公報で提案された方法では、鋼板の厚さが厚くなるにつれて強力な冷却能力を有する設備が必要となり、特開平6-256924号公報で提案された方法では研磨工程を追加する必要があるうえ、研磨等によりめっき皮膜のロスが生じる。特開平9-143657号公報で提案されたAl 、Mg に加えてTi などの第4元素を大量にめっき皮膜に含有させるには、めっき浴組成の管理が容易でなくなるうえ、ドロスが発生してめっき作業性が悪くなる。
【0011】
以上述べたように、めっき皮膜の加工性改善に対する従来の方法は、容易におこなえる方法ではなかった。さらにその加工性改善効果も、特に耐食性を向上させるためにMg を含有させてゼロスパングル処理を施した溶融亜鉛めっき鋼板においては十分ではなかった。
【0012】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、優れた耐食性と加工性を備えた溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、Al とMg を微量に含有する溶融亜鉛めっきを施し、めっき付着量を調整した後にミストスプレーを施してめっき層を凝固させてゼロスパングルとした亜鉛めっき鋼板のめっき皮膜の加工性改善方法について種々研究を重ねた結果、以下の知見を得た。
【0014】
溶融めっき後にミストスプレーを施して急速冷却してスパングルを微細化しためっき鋼板に曲げ加工を施した場合、めっき皮膜がMg を含有しないものである場合には亀裂が発生しないが、めっき皮膜がMg を含有するものである場合には、曲げ加工部のめっき皮膜に多数のクラックが発生する。
【0015】
溶融めっき後のミストスプレーに際し、めっき皮膜が凝固するまでの雰囲気を酸化性雰囲気とし、次いで、めっき皮膜凝固後の冷却に際し、特定温度領域で短時間保持するか、もしくは一旦冷却した後に上記特定温度領域に再加熱して短時間保持する(以下、これらを合わせて単に「後熱処理」とも記す)により、めっき皮膜の加工性を大幅に改善することができる。
【0016】
上記方法で加工性が改善されためっき皮膜を子細に調査した結果、優れた加工性が発揮されるのは、めっき皮膜表面に平行なZn(00・2)面 の配向性が特定範囲以下に低い場合であった。これはZn(00・2) 面の配向性が小さくなることにより、めっき皮膜内での双晶スベリ変形の発生が容易になることによるものと推察された。
【0017】
一般的に溶融状態のZn めっき層を冷却した場合、得られるめっき皮膜の結晶方位は、冷却速度の増加に伴ってめっき面に平行なZn(00・2)面 への配向性が増すことが知られている(例えば、Zinc-Based Steel coating Systems、The Minerals、Metals Society、1998、p261.)。
【0018】
Zn(00・2)面 の配向性は、めっき皮膜凝固時の雰囲気を酸化性に保つことにより低減することができる。この理由は定かではないが、溶融めっき層表面に存在する酸化物がZn の凝固状態に影響し、Zn(00・2)面 の配向性を小さくする作用があるものと推測される。
【0019】
また、溶融状態から急冷して凝固させためっき皮膜にはAl やMg が過飽和に固溶され、特にMg の場合、大きい内部応力が発生している。これに低温短時間の後熱処理を施すことにより、固溶原子の拡散促進と内部応力の解放が促進され、これらを駆動源としてめっき皮膜の再結晶が容易に生じるようになり、これにより結晶の配向性がランダム化することでもZn(00・2)面 の配向性が小さくなるものと推測される。
【0020】
また、上記過飽和状態の解消と内部応力除去によるめっき皮膜の延性向上効果も加工性向上に寄与するものと推察された。
本発明はこれらの知見を基にして完成されたものであり、その要旨は下記(1)、(2)に記載の溶融亜鉛めっき鋼板、および、(3)〜(5)に記載のその製造方法にある。
【0021】
(1)母材鋼板の少なくとも片面に、化学組成が質量%でAl を 0.1%以上、 1.0%以下、Mg を0.02%以上、 1.5%以下含有し、Pb 、Sn 、Cd およびBi の含有量が合計で 200質量 ppm以下、Fe 含有量が0.50g/m2以下、残部が実質的にZn からなり、めっき面に平行なZn(00・2) 面の配向指数が 3.5以下である溶融亜鉛めっき皮膜を備えた溶融亜鉛めっき鋼板。
【0022】
(2)母材鋼板の少なくとも片面に、化学組成が質量%でAl を 0.1%以上、 1.0%以下、Mg を0.02%以上、1.5%以下、Si を 0.001%以上、0.05%以下 含有し、Pb 、Sn 、CdおよびBi の含有量が合計で 200質量 ppm以下、Fe 含有量が0.50g/m2以下、残部が実質的にZn からなり、めっき面に平行なZn(00・2) 面の配向指数が 3.5以下である溶融亜鉛めっき皮膜を備えた溶融亜鉛めっき鋼板。
【0023】
(3)母材鋼板を、質量%でAl を0.08%以上、 1.0%以下、Mg を0.02%以上、 1.5%以下含有し、Pb 、Sn 、Cd およびBi の含有量が合計で 200 ppm以下、残部が実質的にZn からなる溶融めっき浴に浸漬し、引き上げて付着量を調整し、次いで酸化性雰囲気中でスパングル調整処理を施して溶融めっき層を凝固させ、その後 400℃以下、 120℃以上の領域に冷却して当該温度領域で10秒以上保持した後、常温まで冷却することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0024】
(4)母材鋼板を、質量%でAl を0.08%以上、 1.0%以下、Mg を0.02%以上、 1.5%以下、Si を 0.001%以上、0.05%以下含有し、Pb 、Sn 、Cd およびBi の含有量が合計で 200 ppm以下、残部が実質的にZn からなる溶融めっき浴に浸漬し、引き上げて付着量を調整し、次いで酸化性雰囲気中でスパングル調整処理を施して溶融めっき層を凝固させ、その後 400℃以下、 120℃以上の領域に冷却して当該温度領域で10秒以上保持した後、常温まで冷却することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0025】
(5)母材鋼板を溶融めっき浴に浸漬し、引き上げて付着量を調整し、次いで酸化性雰囲気中でスパングル調整処理を施して溶融めっき層を凝固させた後、一旦 120℃以下に冷却し、次いで 120℃以上、 400℃以下の温度領域に加熱して、該温度領域で10秒間以上保持した後、常温まで冷却することを特徴とする上記(3)または(4)に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を詳細に述べる。
めっき皮膜は、Al を 0.1%以上、 1.0%以下、Mg を0.02%以上、1.5%以下、Pb 、Sn 、CdおよびBi の含有量が合計で 200質量 ppm以下、Fe 含有量が0.50g/m2以下、残部が実質的にZn からなる化学組成を有する。さらに、Si を 0.001%以上、0.05%以下含有しても構わない。
【0027】
Al は母材鋼板がめっき浴中に浸漬されている間に鋼板との界面にFe-Zn 合金層の形成を抑制する作用があり、これを利用してめっき皮膜の密着性を向上させることができる。この効果を得るためにめっき皮膜のAl 含有量を 0.1%以上とする。望ましくは0.15%以上である。上記Fe-Zn 合金層の形成を抑制する作用はAl 含有量が 1.0%を超えると飽和するため、めっき皮膜のAl 含有量は 1.0%以下とする。望ましくは0.50%以下である。
【0028】
Mg は亜鉛めっき皮膜の耐食性を向上させる作用がある。この効果を得るために、めっき皮膜にはMg を0.02%以上含有させる。望ましくは0.05%以上である。他方、めっき浴のMg 濃度を過度に高めるとドロスが大量に発生し、めっき作業性を阻害する。これを避けるためにめっき皮膜のMg 含有量は 1.5%以下とする。望ましくは 1.0%以下である。
【0029】
めっき皮膜の加工性を改善するために溶融めっき後の冷却速度を遅く(緩冷却)したり、後熱処理を施す場合に、母材とめっき皮膜との界面にFe-Zn 合金層が過度に成長するとめっき皮膜の加工性が損なわれる。Si はこの合金層の発達を抑制する作用があり、適量のSi を含有させることにより、上記緩冷却や後熱処理時の合金層発達によるめっき皮膜の加工性低下を防ぐことができる。従ってさらに加工性を向上させる必要がある場合には、Si を 0.001%以上含有させるのが望ましい。より望ましくは 0.005%以上である。
【0030】
他方、溶融めっき浴へのSi の溶解は0.05%程度が上限であり、これを超えてSi を含有させようとしてもドロスが増すので好ましくない。従ってめっき皮膜のSi 含有量は0.05%以下とするのが望ましい。より望ましくは0.02%以下である。
【0031】
めっき皮膜のFe 含有量は、母材とめっき皮膜との界面に形成されるFe-Zn 合金層の成長に伴って増加する。この合金層が厚く発達するとめっき皮膜の加工性が損なわれるので、これを避けるために、めっき皮膜のFe 含有量は0.50g/m2以下とする。望ましくは0.20g/m2以下である。
【0032】
Pb 、Sn 、Bi およびCd はゼロスパングル処理のように溶融めっき皮膜を急速凝固させる際にめっき皮膜と鋼板との界面に偏析しやすい。このため鋼板界面で局部腐食が発生しやすくなり、耐食性あるいは時日を経た後のめっき皮膜の密着性(耐経時剥離性)が損なわれる。これらの元素は不可避的不純物であるが、上記耐経時剥離性を損なわないために、その含有量は合計で200ppm以下とする。望ましくは100ppm以下である。
【0033】
上記以外は実質的にZn である。実質的にとの意味は、Ni 、Cr 、Ti 、Be 、Mo 、W、B等の元素は、それぞれの含有量が 0.1%以下であれば本発明の目的達成の障害にはならないので、これらの元素は 0.1%以下であれば含有されていても構わないことを意味する。
【0034】
めっき皮膜表面に平行なZn(00・2) 面の配向性(以下、単に「Zn(00・2) 配向性」と記す)が高くなると亜鉛めっき皮膜の変形能が低下し、曲げ加工などに際してめっき皮膜に亀裂が生じやすくなる。また上記亀裂が生じた部分が腐食の起点となり、めっき皮膜の耐食性が損なわれる。
【0035】
これを避けるためにめっき皮膜のZn(00・2) 配向性は、下記式で計算される配向指数(以下、「Ia 」と記す)で 3.5以下とする。望ましくは 3.0以下である。Ia は、めっき皮膜の(hk・l)結晶面のX線回折強度をCo 管球を用い加速電圧30kV、電流 100mAの条件で測定し、その結果から下記式により算出した値を用いる。
【0036】
【数1】
【0037】
ここで、I(hk・l):X線回折における(hk・l)面の積分強度、
IF(hk・l):X線回折における(hk・l)面の積分強度比率、
IFR(hk・l):ASTMカード記載の(hk・l)面のX線回折における強度比率を表す。
【0038】
本発明の鋼板の好適な製造方法を以下に説明する。ただし本発明の鋼板の製造方法はこれに限定されるものではない。
母材鋼板を所望の化学組成を有する溶融めっき浴に浸漬し、引き上げて付着量を調整し、次いで酸化性雰囲気中でスパングルを調整して溶融めっき層を凝固させ、その後、 400℃以下、 120℃以上の領域に冷却して当該温度領域で10秒以上保持するか、または一旦 120℃以下に冷却し、次いで 120℃以上、 400℃以下の温度領域に加熱し、該温度領域で10秒間以上保持する後熱処理を施した後、常温まで冷却する。
【0039】
母材鋼板は、熱間圧延板、冷間圧延板のいずれを用いてもよい。母材鋼板として冷間圧延板を用いる場合には焼鈍済みのものでも構わないが、焼鈍していないものを用いるのが経済的で好ましい。
【0040】
めっき皮膜と母材鋼板との界面にはAl が析出する。従ってめっき皮膜のAl 含有量を 0.1%以上とするには、めっき浴のAl 濃度は0.08%以上とすればよい。Mg 、Si などの元素はめっき皮膜とめっき浴とでほぼ同一であるので、これらの元素のめっき浴での濃度はめっき皮膜として所望の値と同一にすればよい。
【0041】
めっき浴温度は、めっき皮膜組成の合金の融点よりも30〜60℃高くするのが好ましい。60℃を超えて高めると、めっき浴に浸漬したときの合金層の発達が著しくなる。また、めっき皮膜の付着量は任意であるが、適正な操業効率を確保するには、片面当たり40〜 150g/m2の範囲が好適である。溶融めっきは母材の両面に施してもよいし、片面のみでも構わない。付着量の調整はガスワイピング法など公知の方法でおこなえばよい。
【0042】
めっき付着量を調整した後、少なくとも溶融めっき層の凝固が完了するまでの間は酸化性雰囲気とする。これにより凝固開始前の溶融状態のめっき表面に酸化物を形成させ、Zn(00・2)面 の配向指数を低くすることができる。
【0043】
上記酸化性雰囲気としては、酸素濃度が 2体積%以上のものが望ましい。より望ましくは 6体積%以上のものである。雰囲気ガスの組成は酸素以外は特に限定するものではなく、窒素などとの混合ガスとすればよい。
【0044】
上記酸化性雰囲気の酸素濃度の上限は特に限定するものではないが、過度に高くするとめっき浴面での溶融金属の酸化が激しくなり、ドロスが増加してめっき皮膜の外観を損なう。これを避けるために酸素濃度は30体積%以下とするのが望ましい。より望ましくは経済的な理由から20体積%以下である。
【0045】
スパングル調整処理は、めっき皮膜のスパングルを小さくするか、またはゼロスパングルとするためにおこなうものであり、めっき層が溶融状態にある間に水もしくは薬剤を該めっき層表面に噴霧するスパングル調整処理を施す。
【0046】
スパングル調整方法は公知の方法でよく、例えばめっき層が溶融状態にある温度域で、水および昇華性の薬剤、例えばリン酸アンモニウムなどを含有した水溶液を噴霧してめっき層を凝固させる方法や、溶融めっき層の凝固核となる金属粉末を吹き付けるいわゆるハーティー法などで調整すればよい。
【0047】
スパングル調整処理を施した後の冷却過程において、 400℃以下、 120℃以上の領域で10秒以上保持するか、一旦 120℃以下まで冷却した後、 120℃以上、 400℃以下の温度領域で10秒以上加熱する後熱処理を施す。このめっき後の後熱処理は、急冷によってめっき皮膜中のZn 相に過飽和に固溶したMg を拡散消失させ、本来のZn 固有の硬さに回復させるために行うものである。
【0048】
後熱処理の温度領域が 400℃を超えるとめっき皮膜の融点近傍となり、スパングル調整処理で得た意匠性のよい表面外観が失われる場合があるのでよくない。望ましくは 350℃以下である。
【0049】
後熱処理温度が 120℃に満たない場合や上記温度領域での処理時間が10秒に満たない場合には、Al やMg の過飽和の解消が十分ではなく、めっき皮膜の軟質化が不足し、めっき皮膜の加工性は改善効果は十分ではない。後熱処理温度の下限は、皮膜の軟質化を短時間でおこなわせるために 130℃以上とするのが望ましい。処理時間の上限は特に限定するものではないが、インラインでの後熱処理が可能となる 300秒以下とするのが望ましい。
【0050】
後熱処理時に鋼板を加熱する場合の加熱方法は特に限定するものではなく、高周波加熱、ガス燃焼加熱、通電加熱など公知の加熱手段を単独で、または組み合わせて用いればよい。一旦 120℃以下に冷却した後に再加熱して後熱処理する場合の加熱手段も上記と同様の方法でよい。
【0051】
上記以外の製造方法は任意であり、公知の方法によればよい。例えば、母材鋼板には、アルカリ水溶液等での洗浄、ナイロンブラシ等での表面研削などの前処理を施した後、還元性雰囲気中で 600℃以上、あるいは再結晶温度以上に加熱して焼鈍する。次いでめっき浴温度近傍まで冷却し、溶融めっき浴に浸漬し、めっき付着量を所望の量に調整する。めっき浴温度は、めっき皮膜組成の合金の融点よりも30〜60℃高くするのが好ましい。60℃を超えて高めると、めっき浴に浸漬したときの合金層の発達が著しくなる。めっき皮膜の付着量は任意であるが、適正な操業効率を確保するには、片面当たり40〜 150g/m2の範囲が好適である。
【0052】
後熱処理後は冷却してそのまま本発明の溶融亜鉛めっき鋼板としてもよいが、防錆油、潤滑防錆油、クロメート、樹脂塗膜、クロメート/樹脂塗膜等、通常施される後処理を施しても構わない。
【0053】
【実施例】
C:0.04%、Mn :0.25%を含有する厚さが 0.7mmの冷間圧延鋼板を母材鋼板とし、これを75℃のNaOH 水溶液で脱脂、洗浄した後、水素:20体積%、残部が窒素で、露点が−40℃の雰囲気中で 800℃に加熱し、60秒間保持する再結晶焼鈍を施した。
【0054】
種々の化学組成を含有し、 460℃に調整した溶融亜鉛めっき浴を準備し、上記再結晶焼鈍した母材を溶融めっき浴温度近傍まで冷却し、溶融めっき浴に浸漬し、引き上げてガスワイピングして母材の両面に、片面当たりの付着量を 100g/m2とする溶融めっきを施した。次いでミストを吹き付けてスパングル粒径が 0.5mm以下になるように調整した後、種々の条件で後熱処理を施して常温まで冷却した。この際、めっき浴面およびめっき皮膜が凝固するまでの間を種々の酸素濃度を有する酸素−窒素混合雰囲気とした。得られためっき鋼板に金属クロム量で20mg/m2 の塗布型クロメート処理を施した。
【0055】
得られた鋼板のめっき皮膜の化学組成を分析し、Zn(00・2)面 の配向性、加工性、耐食性などを以下の方法で評価した。
Zn(00・2)面 の配向性:めっき皮膜のX線回折強度をCo 管球を用い加速電圧30kV、電流 100mAの条件で測定し、その結果から前記式で計算される配向指数(Ia )を算出した。
【0056】
曲げ加工性:幅が70mm、長さが 150mmで長さ方向が圧延方向になるように採取した曲げ試験片に内側半径を0.35mmとする折り曲げ加工( 1t折り曲げ加工、tは板厚)を施し、曲げ部の外観を顕微鏡観察し、めっき皮膜での亀裂の発生状況を下記の5段階で評価した。
◎:亀裂が全く認められない。
○:小さな亀裂が一部に認められる。
△:小さな亀裂が全面に認められる。
×:大小の亀裂が混在し、全面に認められる。
XX:大きな亀裂が全面に認められる。
【0057】
耐食性:幅が70mm、長さが 150mmの寸法に切断した試験片の端面を粘着テープでシールした試験片と、上記寸法に切断した試験片に内側曲げ半径を 0.7mmとする折り曲げ加工を施した試験片( 2t折り曲げ試験片)とを準備し、これらにサイクル腐食試験を施し、平板部と曲げ加工部について赤錆が発生するまでの日数を求めた。
【0058】
腐食試験サイクルは、 1サイクルが、塩水噴霧(35℃× 6時間)→乾燥(60℃×12時間)→湿潤(50℃× 6時間)である。耐食性の評価は、平板部については20日以上、曲げ加工部については10日以上、赤錆が発生しなかった場合を良好と判断した。
【0059】
経時剥離性:幅が25mm、長さが 100mmの寸法に切断した試験片を80℃、相対湿度95%の高温高湿状態で 240時間保管した後、 2t折り曲げ加工を施し、曲げ部に粘着テープを貼り付けて引き剥がし、粘着テープによるめっき皮膜の剥離状況を目視観察し、その結果を下記の基準で評価した。
◎:全く剥離が認められない。
○:エッジ部にわずかに剥離が認められる
△:曲げ部幅方向線状に剥離が認められる
×:曲げ部全面に剥離が認められる
表1にめっき条件、めっき皮膜の化学組成および性能評価結果を示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すように、本発明の規定する条件を満足する試験番号 1〜20はいずれも優れた曲げ加工性、耐食性および耐経時剥離性を示していた。これに対しめっき皮膜のAl 含有量が少なすぎた試験番号22はFe 含有量が多く加工性と加工部の耐食性がよくなかった。Mg 含有量が少なかった試験番号23および24では平板部の耐食性がよくなかった。Mg 含有量が多すぎた試験番号25、Si 含有量が多すぎた試験番号21および26はいずれもドロスが多発し表面外観がよくなかった。Pb 含有量が多すぎた試験番号27では平板部の耐食性と耐経時剥離性がよくなかった。後熱処理温度が低すぎた試験番号28、後熱処理時間が短すぎた試験番号29および後熱処理を施さなかった試験番号30はいずれもめっき皮膜の加工性がよくなく、加工部の耐食性もよくなかった。めっき皮膜凝固時の雰囲気中の酸素濃度が低すぎた試験番号31はドロスがなく美麗な表面外観を呈していたがZn(00・2)面 の配向性が強く、めっき皮膜の加工性および加工部の耐食性がよくなかった。
【0062】
【発明の効果】
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は微量のAl とMg を含有し、安価で耐食性に優れ、かつ、そのめっき皮膜は加工性に富むので、加工部のめっき皮膜に亀裂が生じない。このため、加工部の耐食性にも優れるという特徴を備えている。従って屋根・壁材等の建材製品、ガードレール、配線配管や防音壁等の土木製品、自動車や家電製品など種々の加工部品の耐食性を大幅に改善できるので、工業的価値が大きい。
Claims (3)
- 母材鋼板を、質量%でAlを0.08%以上、1.0%以下、Mgを0.02%以上、1.5%以下含有し、Pb、Sn、CdおよびBiの含有量が合計で200 ppm以下、残部が実質的にZnからなる溶融めっき浴に浸漬し、引き上げて付着量を調整し、次いで酸化性雰囲気中でスパングル調整処理を施して溶融めっき層を凝固させ、その後400℃以下、120℃以上の領域に冷却して当該温度領域で10秒以上保持した後、常温まで冷却することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 母材鋼板を、質量%でAlを0.08%以上、1.0%以下、Mgを0.02%以上、1.5%以下、Siを0.001%以上、0.05%以下含有し、Pb、Sn、CdおよびBiの含有量が合計で200 ppm以下、残部が実質的にZnからなる溶融めっき浴に浸漬し、引き上げて付着量を調整し、次いで酸化性雰囲気中でスパングル調整処理を施して溶融めっき層を凝固させ、その後400℃以下、120℃以上の領域に冷却して当該温度領域で10秒以上保持した後、常温まで冷却することを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 母材鋼板を前記溶融めっき浴に浸漬し、引き上げて付着量を調整し、次いで酸化性雰囲気中でスパングル調整処理を施して溶融めっき層を凝固させた後、一旦120℃以下に冷却し、次いで120℃以上、400℃以下の温度領域に加熱して、該温度領域で10秒間以上保持した後、常温まで冷却することを特徴とする請求項1または2に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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